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特許7093975両性イオンポリマー、その製造方法、及び両性イオンポリマーを含むタンパク質安定化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】両性イオンポリマー、その製造方法、及び両性イオンポリマーを含むタンパク質安定化剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/58 20060101AFI20220624BHJP
   C07C 381/12 20060101ALI20220624BHJP
   C08F 8/02 20060101ALI20220624BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
C08F20/58
C07C381/12 CSP
C08F8/02
A61K47/32
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019562105
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2018047836
(87)【国際公開番号】W WO2019131757
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2017250636
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】森 秀晴
(72)【発明者】
【氏名】今村 龍太郎
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特表平8-506030(JP,A)
【文献】特表平9-510963(JP,A)
【文献】特表2009-528440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/58
C07C 381/12
A61K 47/32
C08F 8/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位を含み、数平均分子量が1,000~1,000,000である両性イオンポリマー。
【化1】
(式(1)中、R、Rは、それぞれ独立に水素原子、炭素数が1~6の直鎖、分岐、もしくは環状アルキル基、炭素数が6~20の芳香族基、あるいは、RとRとが互いに連結された炭素数1~6のアルキレン基から選択される。Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。)
【請求項2】
前記式(1)中、R、Rがともに水素原子である、請求項1に記載の両性イオンポリマー。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸エステルに由来の構成単位をさらに有し、前記式(1)で表される繰り返し単位のモル数xと、(メタ)アクリル酸エステルに由来の構成単位のモル数yとの比が、x:y=10:90~95:5の範囲内である、請求項1に記載の両性イオンポリマー。
【請求項4】
下記〔工程A〕、及び〔工程B〕をこの順で行うことを特徴とする、請求項1に記載の両性イオンポリマーの製造方法。
〔工程A〕
下記式(2)で表されるスルフィドアクリルアミドモノマーをラジカル重合する工程。
【化2】
(式中、Rは、水素原子、炭素数が1~6の直鎖、分岐、もしくは環状アルキル基、あるいは、炭素数が6~20の芳香族基を表す。Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。)
〔工程B〕
前記〔工程A〕で得られたポリマーと、下記式(3)で表されるスルフィド反応性化合物とを反応させる工程。
【化3】
(式中、Xは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メシル基(メタンスルフォニル基)、トシル基(p-トルエンスルホニル基)、あるいは、トリフルオロメタンスルホニル基を表す。Rは、水素原子、炭素数が1~6の直鎖、分岐、もしくは環状アルキル基、あるいは、炭素数が6~20の芳香族基を表す。)
【請求項5】
下記式(4)で表される両性イオンモノマーを水系溶媒中、60℃以下でラジカル重合する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の両性イオンポリマーの製造方法。
【化4】
(式中、R、Rは、それぞれ独立に水素原子、炭素数が1~6の直鎖、分岐、もしくは環状アルキル基、炭素数が6~20の芳香族基、あるいは、RとRとが互いに連結された炭素数1~6のアルキレン基を表す。式中、Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。)
【請求項6】
下記式(4)で表される両性イオンモノマー。
【化5】
(式中、R、Rは、それぞれ独立に水素原子、炭素数が1~6の直鎖、分岐、もしくは環状アルキル基、炭素数が6~20の芳香族基、あるいは、RとRとが互いに連結された炭素数1~6のアルキレン基を表す。式中、Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。)
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載の両性イオンポリマーを含む、タンパク質安定化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両性イオンポリマー、特に、タンパク質の安定性を向上させる両性イオンポリマーと、その製造方法、及び、タンパク質安定化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品、臨床検査、診断薬の分野において、抗体、酵素、サイトカイン等の生理活性を有するタンパク質が広く利用されている。医薬品としてタンパク質・抗体を投与する場合や、抗体を用いた高感度なタンパク検出を行うためには、タンパク質の構造または酵素活性を長期間保持することが必要となる。しかしながら、ほとんどのタンパク質は温度、凍結、pH、振動、塩濃度といったストレスやヒドロキシルラジカル、一重項酸素、一酸化窒素などによる酸化ストレスによって容易に変性、失活する。そのためタンパク質を保存する場合には、各種タンパク質安定化剤と、抗酸化剤を添加する必要がある。
【0003】
タンパク質安定化剤としては、低分子から高分子まで幅広い種類の化合物が使用されている。タンパク質安定化剤には親水性の化合物が用いられ、タンパク質表面を親水化することで安定性を向上させる。低分子タンパク質安定化剤としてはグリシンやアルギニンといったアミノ酸、ショ糖やトレハロースといった糖類、non-detergent sulphobetaine(NDSB)といった両性イオン化合物が用いられる。しかし、一般的に低分子安定化剤を用いてタンパク質の安定化を行う場合、数十重量%といった高濃度での添加が必要であり、添加したことにより生化学的な測定の正確性に問題が生じる恐れがある。さらにこれらの低分子タンパク質安定化剤には抗酸化剤としての機能はないため、別途、抗酸化剤を添加する必要がある。
【0004】
一方で高分子タンパク安定化剤としてウシ血清アルブミン(BSA)やポリエチレングリコール(PEG)などを用いることが一般に知られている。これらの高分子タンパク質安定化剤は、0.01~数重量%の低濃度でタンパク質を安定化することが可能であるものの、BSAはウシ由来の原料であり、医薬品に添加する場合、牛海綿状脳症(BSE)への感染が懸念されている。さらにこれら高分子タンパク安定化剤には抗酸化剤としての機能はないため、別途抗酸化剤を添加する必要がある。
【0005】
タンパク質安定化剤と抗酸化剤の機能を併せ持つ低分子化合物としてはジメチルスルホニオプロピオネート(DMSP)が知られている。DMSPは海洋藻類から放出される化合物であり、カチオン部に三級スルホニウム基を、アニオン部にカルボキシル基を有する両性イオン化合物である。しかしながら、低分子化合物であるためタンパク質の安定化には高濃度での添加が必要であり、添加したことにより生化学的な測定の正確性に問題が生じる恐れがある。
【0006】
このDMSPに類似の構造を持つ両性イオンポリマーとして、非特許文献(Todd Emrick, J.polym.Sci.,Part A,2017,55,p83-92)には式(5)に示すように、カチオン部に三級スルホニウム基を、アニオン部にスルホン酸を有する両性イオンポリマーが開示されている。このポリマーは上限臨界溶解温度(UCST)を有しており、一般的にタンパク質を扱う温度(4-25℃)において、水に溶解しないことが記載されている。よって、上記ポリマーは、タンパク質安定化剤として使用することはできない。
【化1】
【0007】
また特許文献(WO2013-148727A1)には式(6)に示すようなカチオン部に三級スルホニウム基を、アニオン部にカルボキシル基を持つ両性イオンポリマーが開示されている。しかし、特許文献に記載のポリマーを医薬品、診断薬用のタンパク質安定化剤として用いた場合、ポリマー側鎖が分解し、タンパク質表面の置換基と反応性のあるクロロ酢酸等が遊離する恐れがある。
さらに主鎖にペプチド結合が含まれるため、プロテアーゼ等の分解酵素の安定化に用いたとしても分解し、タンパク質安定化効果を発揮できない恐れがあるほか、抗体の安定化を行う場合にも、抗体に誤認識され、抗体自体の活性を低下させる恐れがある。
【化2】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上示したように、タンパク質の安定性を向上させる効果のある両性イオンを有しており、少量の添加でタンパク質を安定化する効果のある高分子タンパク質安定化剤であり、同時に抗酸化性を有するタンパク質安定化剤はこれまで知られていない。
【0009】
本発明の課題は、タンパク質の安定性を向上させる効果のある両性イオンを有しており、少量の添加でもタンパク質を安定化する効果があり、同時に抗酸化性を有する両性イオンポリマー、そのような両性ポリマーを含む高分子タンパク質安定化剤、および、その両性イオンポリマーの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意研究を重ねた結果、タンパク質の安定性を向上させる効果のある両性イオンを有しており、少量の添加でタンパク質安定化効果のある両性イオンポリマーであり、同時に抗酸化性を有する両性イオンポリマー、およびそのような両性イオンポリマーを含む高分子タンパク質安定化剤が、前記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は下記の[1]~[6]を提供する。
【0011】
[1]下記式(1)で表される繰り返し単位を含み、数平均分子量は1,000~1,000,000である、両性イオンポリマー。
【化3】
(式(1)中R、Rは、それぞれ独立に水素原子、炭素数が1~6の直鎖、分岐、もしくは環状アルキル基、炭素数が6~20の芳香族基、あるいは、RとRとが互いに連結された炭素数1~6のアルキレン基を表す。Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。)
【0012】
[2]前記式(1)中、R、Rがともに水素原子である、上記[1]の両性イオンポリマー。
【0013】
[3](メタ)アクリル酸エステルに由来の構成単位をさらに有し、前記式(1)で表される繰り返し単位のモル数xと、(メタ)アクリル酸エステルに由来の構成単位のモル数yとの比が、x:y=10:90~95:5の範囲内である、上記[1]に記載の両性イオンポリマー。
【0014】
[4]下記〔工程A〕、及び、〔工程B〕をこの順で行う、前記式(1)で表される両性イオンポリマーの製造方法。
〔工程A〕
下記式(2)で表されるスルフィドアクリルアミドモノマーをラジカル重合する工程。
【化4】
(式中、Rは水素原子、炭素数が1~6の直鎖、分岐、もしくは環状アルキル基、あるいは、炭素数が6~20の芳香族基を表す。Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。)
〔工程B〕
前記〔工程A〕で得られたポリマーと、下記式(3)で表されるスルフィド反応性化合物とを反応させる工程。
【化5】
(式中、Xは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メシル基(メタンスルフォニル基)、トシル基(p-トルエンスルホニル基)、あるいは、トリフルオロメタンスルホニル基を表す。Rは、水素原子、炭素数が1~6の直鎖、分岐、もしくは環状アルキル基、あるいは、炭素数が6~20の芳香族基を表す。)
【0015】
[5]下記式(4)で表される両性イオンモノマーを水系溶媒中、60℃以下でラジカル重合する工程を有することを特徴とする、前記式(1)で表される両性イオンポリマーの製造方法。
【化6】
(式中、R、Rは、それぞれ独立に水素原子、炭素数が1~6の直鎖、分岐、もしくは環状アルキル基、炭素数が6~20の芳香族基、あるいは、RとRとが互いに連結された炭素数1~6のアルキレン基を表す。式中、Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。)
【0016】
[6]前記式(1)で表される両性イオンポリマーの中間体である、前記式(4)で表される両性イオンモノマー。
【0017】
[7]前記式(1)で表される両性イオンポリマーを含む、タンパク質安定化剤。
【発明の効果】
【0018】
タンパク質の安定性を向上させる効果のある両性イオンを有しており、少量の添加でタンパク質安定化効果のある高分子タンパク質安定化剤であり、同時に抗酸化性を有する両性イオンポリマーおよび、その製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
<両性イオンポリマー>
本発明における両性イオンポリマーとは、式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーのことであり、側鎖に三級スルホニウム基とカルボキシル基を有する両性イオンポリマーのことである。前記三級スルホニウム基とは、硫黄原子に3つ炭素原子がそれぞれ単結合により結合している置換基であり、カチオン性を示す置換基である。
【化7】
式(1)中、R、Rはそれぞれ独立した置換基であり、特に限定されないが、水素原子、炭素数が1~6の直鎖、分岐、あるいは環状のアルキル基、炭素数6~20の芳香族基、あるいはRとRが互いに連結された炭素数1~6のアルキレン基から選択される。
直鎖アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基であり、分岐アルキル基とは例えば、イソプロピル基、2-ブチル基であり、環状アルキル基とは、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基である。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~3である。
炭素数6~20の芳香族基とは、例えば、フェニル基、p-ニトロフェニル基、ブロモフェニル基、フェニルボロン酸、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、トリヒドロキシフェニル基である。芳香族基の炭素数は、好ましくは6~12であり、より好ましくは6~10である。
とRが互いに連結された炭素数1~6のアルキレン基とは例えば、下記式(7)に示す置換基のアルキレン基である。式(1)のポリマーをタンパク質安定化剤として用いるためにポリマーの水への親和性を向上させるという観点から、R、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基であることが好ましい。
【化8】
(式(7)中、mは、1から6の整数を表し、好ましくは2~6、より好ましくは2~4の整数である。)
【0020】
前記式(1)中、Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。
【0021】
前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーとしては、例えば、R、Rが共に水素原子であり、Rが水素原子である両性イオンポリマー、Rがプロピル基、Rが水素原子であり、Rが水素原子である両性イオンポリマー、Rがベンジル基、Rが水素原子であり、Rが水素原子である両性イオンポリマーが挙げられるが、合成の容易さから、R、Rが共に水素原子であり、Rが水素原子である両性イオンポリマーが好ましい。
【0022】
前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーとしては、単一のモノマーから構成されるだけでなく、他のモノマーとの共重合体であってもよい。すなわち、前記式(1)で表される複数の種類のモノマーから構成されていても良く、また、前記式(1)で表されるモノマーとは異なる他のモノマー(コモノマー)を含んでいても良い。また、両性イオンポリマーは、例えば、2種類以上のモノマーのランダム共重合体である。
前記他のモノマーとしては用途によって適宜選択可能であり、例えば、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、N-メチルカルボキシベタイン(メタ)アクリレート、N-メチルスルホベタイン(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリル酸エステル;メチルビニルエーテル等の各種ビニルエーテル;その他、アクリルアミド、N,N’-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、アリルアルコール、アクリロニトリル、アクロレイン、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸ナトリウム、スチレン、クロロスチレン、ビニルフェノール、ビニルシンナメート、塩化ビニル、ビニルブロミド、ブタジエン、ビニレンカーボネート、イタコン酸、イタコン酸エステル、フマル酸、フマル酸エステル、マレイン酸、マレイン酸エステル等の各種ラジカル重合性モノマーが挙げられるが、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーをタンパク質安定化剤として用いる場合、溶媒への溶解性の観点からのバランスから他のモノマーとしては、N,N’-ジメチルアクリルアミド、あるいは、ブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。また、他のモノマーの配合量は任意であり、適宜選択できるが、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーの性能を引き出すためには、配合される前記他のモノマーの含有量が90モル%以下であることが好ましく、より好ましくは70モル%以下である。
【0023】
また、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーは、他のモノマーとのブロック共重合体であってもよい。他のモノマーの種類としてはランダム共重合の場合と同様であり、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーをタンパク質安定化剤として用いる場合、他のモノマーとしては、溶媒への溶解性の観点からブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。また、他のモノマーの配合量は任意であり、適宜選択できるが、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーの性能を引き出すためには、配合される前記他のモノマーが90モル%以下であることが好ましく、より好ましくは70モル%以下である。
両性イオンポリマーにおける前記式(1)で表される繰り返し単位(両性繰り返し単位)のモル数xと、他のモノマーに由来する繰り返し単位のモル数yとの比率x:yの範囲は、例えば、x:y=10:90~95:5であり、好ましくは20:80~92:8であり、より好ましくは30:70~90:10であり、さらに好ましくは、32:68~82:14である。
【0024】
前記式(1)で表される両性繰り返し単位を含む両性イオンポリマーの分子量としては、要求される性能が発揮しうるように重合条件等を調製して適宜決定できるが、通常、数平均分子量で1000~1000000程度であり、前記ポリマーをタンパク質安定化剤として用いる場合には、水への溶解性の観点から、数平均分子量が2000~100000であることが好ましく、より好ましくは3000~50000、さらに好ましくは4000~40000である。
【0025】
<両性イオンポリマーの製造方法>
本発明の側鎖に三級スルホニウム基とカルボキシル基を有する両性イオンポリマーは、少なくとも下記の〔工程A〕、及び〔工程B〕をこの順で行う製造方法により製造する事ができる。
【0026】
〔工程A〕
下記式(2)で表されるスルフィド(メタ)アクリルアミドモノマーのラジカル重合を行い、中間体であるスルフィドポリマーを得る工程。
【化9】
【0027】
前記式(2)中、Rは、特に限定されないが、式(1)におけるRと同様に定義され得る。
すなわち、式(2)中、Rは、水素原子、炭素数が1~6の直鎖、分岐、もしくは環状のアルキル基、あるいは炭素数が6~20の芳香族基から選択される。直鎖アルキル基とは例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基であり、分岐アルキル基とは例えば、イソプロピル基、2-ブチル基であり、環状アルキル基とは例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基である。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~3である。
芳香族基は、例えば、フェニル基、p-ニトロフェニル基、ブロモフェニル基、フェニルボロン酸、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、トリヒドロキシフェニル基である。芳香族基の炭素数は、好ましくは6~12であり、より好ましくは6~10である。
タンパク質安定化剤として用いるにはポリマーの水への親和性を向上させるという観点から、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基であることが好ましい。
【0028】
前記式(2)中、Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。
【0029】
前記式(2)で表されるスルフィドモノマーとしては、例えば、Rが共に水素原子であり、Rが水素原子であるスルフィドモノマー、Rがプロピル基、Rが水素原子であるスルフィドモノマー、Rがベンジル基、Rが水素原子であるスルフィドモノマーが挙げられるが、合成の容易さからRが水素原子であり、Rが水素原子であるスルフィドモノマーが好ましい。
【0030】
前記式(2)で表されるスルフィドモノマーのうち、Rが水素原子であるスルフィドモノマーについては、合成の容易さの観点から、非特許文献J. Morcellet.,Makromol. Chem.,1981, 182,949に記載の(メタ)アクリル酸クロライドを用いて、メチオニンの(メタ)アクリル化を行うのが好ましい。またRが、炭素数が1~6の直鎖、分岐、もしくは環状のアルキル基、あるいは芳香族基であるスルフィドモノマーは、それぞれに対応するアルキルハライド、芳香族ハライドとシステインの反応を行った後に(メタ)アクリル化に供することで得られる。
【0031】
前記式(2)で表されるスルフィドモノマーをラジカル重合することにより得られる前記スルフィドポリマーの分子量は、特に限定されず、後続の[工程B]後、両性イオンポリマーとして要求される性能が発揮しうるように重合条件等を調製して適宜決定できるが、通常、数平均分子量で1000~1000000程度であり、前記スルフィドポリマーをタンパク質安定化剤として用いる場合には、数平均分子量が2000~100000であることが好ましい。数平均分子量は、より好ましくは3000~50000であり、さらに好ましくは4000~40000である。
【0032】
前記式(2)で表されるスルフィドモノマーは、単独で、すなわち、1種類または2種類以上の式(2)のスルフィドモノマーのみを重合しても良く、または、前記式(2)で表されるスルフィドモノマーと共重合が可能な他のモノマー(コモノマー)との混合物を重合することもできる。 前記他のモノマーとしては用途によって適宜選択可能であり、例えば、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、N-メチルカルボキシベタイン(メタ)アクリレート、N-メチルスルホベタイン(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリル酸エステル;メチルビニルエーテル等の各種ビニルエーテル;その他、アクリルアミド、N,N’-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、アリルアルコール、アクリロニトリル、アクロレイン、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸ナトリウム、スチレン、クロロスチレン、ビニルフェノール、ビニルシンナメート、塩化ビニル、ビニルブロミド、ブタジエン、ビニレンカーボネート、イタコン酸、イタコン酸エステル、フマル酸、フマル酸エステル、マレイン酸、マレイン酸エステル等の各種ラジカル重合性モノマーが挙げられるが、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーをタンパク質安定化剤として用いる場合、溶媒への溶解性の観点からのバランスから他のモノマーとしてはN,N’-ジメチルアクリルアミド、ブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。また、他のモノマーの配合量は任意であり、適宜選択できるが、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーの性能を引き出すためには、配合される前記他のモノマーが90モル%以下で含まれていることが好ましく、より好ましくは70モル%以下である。
【0033】
前記式(2)で表されるスルフィドモノマーは、そのままバルク状態で重合に用いてよく、また溶媒を加えた溶液重合や懸濁重合、乳化重合に供することもできる。また溶媒としては前記式(2)で表されるスルフィドモノマーが溶解するものであれば特に限定されず、一般的な溶媒が使用可能である。たとえば、アセトン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)などの極性非プロトン性溶媒、メタノール、水などの極性プロトン溶媒性溶媒から選択される。
【0034】
前記式(2)で表されるスルフィドモノマーのラジカル重合は、熱重合または光重合により行うことができる。前記熱重合は、熱重合開始剤を用いて行うことができる。熱重合開始剤としては、たとえば、過酸化物系ラジカル開始剤(過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム等)または、アゾ系ラジカル開始剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス-ジメチルバレロニトリル(ADVN)等)、2,2’-アゾビスシアノ吉草酸(ACVA)、アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(VA-044)、水溶性あるいは油溶性のレドックス系ラジカル開始剤(ジメチルアニリンと過酸化ベンゾイルからなる)が使用できる。
ラジカル開始剤の使用量は、前記式(2)で表されるスルフィドモノマー100質量部に対して通常0.01から10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.01から5質量部である。重合温度および重合時間はラジカル開始剤の種類や他のモノマーの有無や種類などによって適宜選択して決定することができる。例えば、前記式(2)で表されるスルフィドモノマー単独での重合を、AIBNを重合開始剤として用いて行う場合、重合温度は40~90℃、好ましくは50~80℃、より好ましくは60~70℃である。重合時間は1~48時間、好ましくは1~24時間、より好ましくは2~24時間である。
【0035】
前記光重合は、例えば、波長254nmの紫外線(UV)または加速電圧150~300kVの電子線(EB)照射等により実施することができる。この際、光重合開始剤の使用は任意であるが、反応時間の点からは使用することが好ましい。光重合開始剤としては、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトンなどが挙げられるが、溶解性等の点から2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノンが好ましい具体例として挙げられる。
【0036】
前記式(2)で表されるスルフィドモノマーのラジカル重合においては、連鎖移動剤を用いることもできる。前記連鎖移動剤としては、2-メルカプトエタノール、1-メルカプト-2-プロパノール、3-メルカプト-1-プロパノール、p-メルカプトフエノール、メルカプト酢酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトニコチン酸などが挙げられる。例えば、Rが水酸基である前記式(2)で表されるスルフィドモノマーを用いる場合、重合溶媒への溶解性の観点から、2-メルカプトエタノールが好ましい。
【0037】
前記式(2)で表されるスルフィドモノマーのラジカル重合は、リビングラジカル重合法により行うことも可能であり、具体的には原子移動ラジカル重合法(ATRP法)、可逆的付加開裂連鎖移動重合法(RAFT重合法)、及びニトロキシドを介した重合法(NMP法)などが利用可能である。特にタンパク質安定化剤の用途では金属を使用せず、酵素活性を低下させないといった理由で、可逆的付加開裂連鎖移動重合法(RAFT重合法)が好ましい。前記RAFT重合の方法としては公知の方法が利用可能であり、例えばWO99/31144、WO98/01478及び米国特許第6,153,705号、H. Mori, Macromolecular Rapid Communications, 2012, 33, 1090‐1107 に記載されている方法が有効である。
RAFT重合を用いて、前記式(2)で表されるスルフィドモノマーの重合を行う場合、通常のラジカル重合にRAFT剤を添加することができる。前記RAFT剤としては、4-シアノペンタン酸ジチオベンゾエート、2-シアノ-2-プロピルベンゾジチオエート、ベンジルベンゾジチオエート、2-フェニル-2-プロピルベンゾジチオエート、メチル2-フェニル-2-(フェニル-カーボノチオイルチオ)アセテート、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸N-スクシンイミジルエステル、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニル-チオカルボニル)スルファニルペンタン酸、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニル-チオカルボニル)スルファニルペンタノール、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカーボネート、2-(ドデシルチオカルボニルチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニル-チオカルボニル)スルファニルペンタン酸ポリエチレングリコールメチルエーテルエステル、2-(ドデシルチオカルボニルチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸3-アジド-1-プロパノールエステル、ベンジル1H-ピロール-1-カルボジチオエート、2-シアノプロパン-2-イル-N-メチル-N-ピリジン4-イルカルボジチオエート、プロピオン酸エチル-2-エチルザンテートから選択され、例えばRが水酸基である前記式(2)で表されるスルフィドモノマーを用いる場合には、重合制御可能なモノマーとRAFT剤の組み合わせの観点から、4-シアノペンタン酸ジチオベンゾエート、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニル-チオカルボニル)スルファニルペンタン酸、ベンジル1H-ピロール-1-カルボジチオエートが好ましい。
RAFT剤の使用量としては、前記式(2)で表されるスルフィドモノマー100質量部に対して通常0.01から20質量部が好ましく、より好ましくは0.01から5質量部である。
【0038】
前記式(2)で表されるモノマーから、特に限定されないが前記リビングラジカル重合法を用いることで、ブロック共重合体を得ることができる。例えば、前記式(2)で表されるモノマーもしくは前記他のモノマーをリビングラジカル重合法によりブロックAを製造し、得られたブロックAをマクロ重合開始剤として、前記式(2)で表されるスルフィドモノマーもしくは前記他のモノマーをリビングラジカル重合法により重合することにより、ブロックAに繋がるブロックBを製造することができる。前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーをタンパク質安定化剤として用いる場合、他のモノマーとしては、溶媒への溶解性の観点から、ブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。また、他のモノマーの配合量は任意であり、適宜選択できるが、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーの性能を引き出すためには、配合される前記他のモノマーが90モル%以下であることが好ましく、より好ましくは70モル%以下である。
【0039】
前記式(2)で表されるスルフィドモノマーを重合して得られる、前記スルフィドポリマーはそのまま未精製で用いられるほか、好ましくは、過剰な溶媒の減圧留去、再沈殿、カゲルろ過クロマトグラフィーや透析などの処理により単離、精製を行うこともできる。
【0040】
〔工程B〕
〔工程B〕は、上記〔工程A〕で得られたスルフィドポリマーと、式(3)で表されるスルフィド反応性化合物とを反応させる工程である。
【化10】
【0041】
前記式(3)中、Xはスルフィドポリマーと反応できるものなら、特に限定されず、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メシル基(メタンスルフォニル基)、トシル基(p-トルエンスルホニル基)、及び、トリフルオロメタンスルホニル基から選択され、好ましくは、臭素原子、あるいはヨウ素原子であり、さらに好ましくはヨウ素原子である。
前記式(3)中、Rは特に限定されないが、式(1)におけるRと同様に定義され得る。式(3)中、Rは、水素原子、炭素数が1~6の直鎖、分岐、もしくは環状のアルキル基、あるいは炭素数が6~20の芳香族基から選択される。
直鎖アルキル基とは例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基であり、分岐アルキル基とは例えば、イソプロピル基、2-ブチル基であり、環状アルキル基とは例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基である。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~3である。
また、芳香族置換基とは例えば、フェニル基、p-ニトロフェニル基、ブロモフェニル基、フェニルボロン酸、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、トリヒドロキシフェニル基である。芳香族基の炭素数は、好ましくは6~12であり、より好ましくは6~10である。
タンパク質安定化剤として用いるにはポリマーの水への親和性を向上させるという観点から、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基であることが好ましい。
【0042】
前記式(3)で表されるスルフィド反応性化合物としては、例えば、両性イオンポリマーの水への親水性を維持する観点から、ヨードメタン、ヨードエタン、ヨードプロパン、ヨードブタンが好ましい。
【0043】
前記スルフィドポリマーと前記式(3)で表されるスルフィド反応性化合物との反応に用いられる溶媒としては、前記スルフィドポリマーと前記スルフィド反応性化合物が溶解するものであれば特に限定されず、一般的な溶媒が使用可能である。たとえばアセトン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)などの極性非プロトン性溶媒、メタノールなどの極性プロトン溶媒性溶媒から選択される。溶媒の使用量は、前記スルフィドポリマーに対して質量比で1~100倍量、好ましくは1~50倍量、もっとも好ましくは1~30倍量である。
【0044】
前記式(3)で表されるスルフィド反応性化合物の使用量は、前記スルフィドポリマーに対して質量比で0.1~100倍量、好ましくは0.1~50倍量、もっとも好ましくは0.1~30倍量である。
【0045】
前記スルフィドポリマーと前記式(3)で表されるスルフィド反応性化合物との反応温度は、使用する溶媒にもよるものの、通常-20~100℃、好ましくは0~70℃、もっとも好ましくは20~50℃の範囲である。反応時間は、反応温度、用いる前記スルフィドポリマーの分子量、前記スルフィド反応性化合物の種類により異なるが、通常1~72時間程度が好ましく、より好ましくは1~24時間である。
【0046】
以上のように、前記スルフィドポリマーと、前記式(3)で表されるスルフィド反応性化合物とを反応させて、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーを得ることができる。得られた両性イオンポリマーはそのまま未精製で用いられるほか、好ましくは過剰な前記スルフィド反応性化合物の減圧留去、再沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィーや透析などの処理により単離、精製を行うこともできる。
【0047】
<両性イオンモノマーの重合>
本発明の両性イオンポリマーは、下記式(4)で表される両性イオンモノマーをラジカル重合することによっても得ることが出来る。
【化11】
【0048】
式(4)中、R、Rはそれぞれ独立した置換基であり、特に限定されないが、水素原子、炭素数が1~6の直鎖、分岐、あるいは環状のアルキル基、炭素数6~20の芳香族基、あるいはRとRが互いに連結された炭素数1~6のアルキレン基から選択される。
直鎖アルキル基とは例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基であり、分岐アルキル基とは例えば、イソプロピル基、2-ブチル基であり、環状アルキル基とは例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基である。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~3である。
また、芳香族基とは例えば、フェニル基、p-ニトロフェニル基、ブロモフェニル基、フェニルボロン酸、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、トリヒドロキシフェニル基である。芳香族基の炭素数は、好ましくは6~12であり、より好ましくは6~10である。
とRが互いに連結された炭素数1~6のアルキレン基とは例えば、下記式(7)に示す置換基である。
タンパク質安定化剤として用いるにはポリマーの水への親和性を向上させるという観点から、R、及びRは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基のいずれかであることが好ましい。
【化12】
(式(7)中、mは1から6の整数を表し、好ましくは2~6、より好ましくは2~4の整数である。)
【0049】
前記式(4)中、Rは水素原子もしくはメチル基を表す。
【0050】
前記式(4)で表される両性イオンモノマーとしては、例えば、R、Rが共に水素原子であり、Rが水素原子である両性イオンモノマー、Rがプロピル基、Rが水素原子であり、Rが水素原子である両性イオンモノマー、Rがベンジル基、Rが水素原子であり、Rが水素原子である両性イオンモノマーが挙げられるが、合成の容易さから、R、Rが共に水素原子であり、Rが水素原子である両性イオンモノマーが好ましい。
【0051】
前記式(4)で表される両性イオンモノマーは、前記式(2)で表されるスルフィドモノマーと前記式(3)で表されるスルフィド反応性化合物とを反応させることで製造できる。
【0052】
前記式(2)で表されるスルフィドモノマーと前記式(3)で表されるスルフィド反応性化合物との反応に用いられる溶媒としては、前記スルフィドモノマーと前記スルフィド反応性化合物が溶解するものであれば特に限定されず、一般的な溶媒が使用可能である。たとえばアセトン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)などの極性非プロトン性溶媒、メタノールなどの極性プロトン溶媒性溶媒から選択される。溶媒の使用量は、前記スルフィドポリマーに対して質量比で1~100倍量、好ましくは1~50倍量、もっとも好ましくは1~30倍量である。
【0053】
前記式(3)で表されるスルフィド反応性化合物の使用量は、前記式(2)で表されるスルフィドモノマーに対して質量比で0.1~100倍量、好ましくは0.1~50倍量、もっとも好ましくは0.1~30倍量である。
【0054】
前記式(2)で表されるスルフィドモノマーと、前記式(3)で表されるスルフィド反応性化合物との反応温度は、使用する溶媒にもよるものの通常-20~100℃、好ましくは0~70℃、もっとも好ましくは20~50℃の範囲である。反応時間は反応温度、用いる前記スルフィドモノマーの分子量、前記スルフィド反応性化合物の種類により異なるが、通常1~72時間程度が好ましく、より好ましくは1~24時間である。
【0055】
以上のように、前記式(2)で表されるスルフィドモノマーと前記式(3)で表されるスルフィド反応性化合物とを反応させて、前記式(4)で表される両性イオンモノマーを得ることができる。得られた両性イオンモノマーは、そのまま未精製で用いられるほか、好ましくは過剰な前記スルフィド反応性化合物の減圧留去、再沈殿、カラムクロマトグラフィーなどの処理により単離、精製を行うこともできる。
【0056】
前記式(4)で表される両性イオンモノマーは、前記式(2)で表されるモノマーと同様に単独で、すなわち、1種類または2種類以上の式(2)のモノマーのみを重合しても良く、または前記式(4)で表される両性イオンモノマーと共重合が可能な他のモノマーとの混合物を重合することもできる。
前記他のモノマーとしては用途によって適宜選択可能であり、例えば、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、N-メチルカルボキシベタイン(メタ)アクリレート、N-メチルスルホベタイン(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリル酸エステル;メチルビニルエーテル等の各種ビニルエーテル;その他、アクリルアミド、N,N’-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、アリルアルコール、アクリロニトリル、アクロレイン、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸ナトリウム、スチレン、クロロスチレン、ビニルフェノール、ビニルシンナメート、塩化ビニル、ビニルブロミド、イタコン酸、イタコン酸エステル、フマル酸、マレイン酸、等の各種ラジカル重合性モノマーが挙げられるが、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーをタンパク質安定化剤として用いる場合、溶媒への溶解性の観点からのバランスから他のモノマーとしてはN,N’-ジメチルアクリルアミド、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。また、他のモノマーの配合量は任意であり、適宜選択できるが、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーの性能を引き出すためには、配合される前記他のモノマーが90モル%以下であることが好ましく、より好ましくは70モル%以下である。
【0057】
前記式(4)で表される両性イオンモノマーは、溶媒を加えた溶液重合や懸濁重合、乳化重合に供することもできる。溶媒は、前記式(4)で表される両性イオンモノマーを溶解、重合が進行すれば特に制限はなく、例えば、メタノールなどのアルコール系溶媒と水の混媒を使用することが出来る。アルコールと水との混媒の比率は、アルコール系溶媒が体積%で50%以下が好ましく、更に好ましくは10%以下である。
【0058】
前記式(4)で表される両性イオンモノマーの重合は、熱重合または光重合により行うことができる。前記熱重合は、熱重合開始剤を用いて行うことができる。熱重合開始剤としては、たとえば過酸化物系ラジカル開始剤(過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム等)または、アゾ系ラジカル開始剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス-ジメチルバレロニトリル(ADVN)等)、2,2’-アゾビスシアノ吉草酸(ACVA)、アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(VA-044)から選択されるが、好ましくは水系溶媒への溶解性の観点からACVA、VA-044であり、更に好ましくはVA-044である。ラジカル開始剤の使用量は前記式(4)で表される両性イオンモノマー100質量部に対して通常0.01から10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.01から5質量部である。重合温度および重合時間は、ラジカル開始剤の種類や他のモノマーの有無や種類などによって適宜選択して決定することができる。例えば、前記式(4)で表される両性イオンモノマー単独での重合を、VA-044を用いて行う場合、重合温度は30~70℃、好ましくは35~65℃、より好ましくは35~50℃である。重合時間は1~48時間、好ましくは1~24時間、より好ましくは2~24時間である。
【0059】
前記光重合は、例えば、波長254nmの紫外線(UV)または加速電圧150~300kVの電子線(EB)照射等により実施することができる。この際、光重合開始剤の使用は任意であるが、反応時間の点からは使用することが好ましい。光重合開始剤としては、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトン、フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウムなどが挙げられるが、水系溶媒への溶解性等の点からフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウムが好ましい具体例として挙げられる。
【0060】
前記式(4)で表される両性イオンモノマーのラジカル重合は、連鎖移動剤を用いることもできる。前記連鎖移動剤としては、2-メルカプトエタノール、1-メルカプト-2-プロパノール、3-メルカプト-1-プロパノール、p-メルカプトフエノール、メルカプト酢酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトニコチン酸などが挙げられる。例えば、Rが水酸基である前記式(4)で表される両性イオンモノマーを用いる場合、重合溶媒への溶解性の観点から、メルカプト酢酸、又は2-メルカプトプロピオン酸が好ましい。
【0061】
前記式(4)で表される両性イオンモノマーのラジカル重合は、リビングラジカル重合法により行うことも可能である。具体的には、原子移動ラジカル重合法(ATRP法)、可逆的付加開裂連鎖移動重合法(RAFT重合法)、及びニトロキシドを介した重合法(NMP法)などが利用可能である。特にタンパク質安定化剤の用途では金属を使用せず、酵素活性を低下させないといった理由で、可逆的付加開裂連鎖移動重合法(RAFT重合法)が好ましい。前記RAFT重合の方法としては公知の方法が利用可能であり、例えばWO99/31144、WO98/01478及び米国特許第6,153,705号に記載されている方法が有効である。
【0062】
RAFT重合を用いて、前記式(4)で表される両性イオンモノマーの重合を行う場合、通常のラジカル重合にRAFT剤を添加することができる。前記RAFT剤としては4-シアノペンタン酸ジチオベンゾエート、2-シアノ-2-プロピルベンゾジチオエート、ベンジルベンゾジチオエート、2-フェニル-2-プロピルベンゾジチオエート、メチル2-フェニル-2-(フェニル-カーボノチオイルチオ)アセテート、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸N-スクシンイミジルエステル、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニル-チオカルボニル)スルファニルペンタン酸、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニル-チオカルボニル)スルファニルペンタノール、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカーボネート、2-(ドデシルチオカルボニルチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニル-チオカルボニル)スルファニルペンタン酸ポリエチレングリコールメチルエーテルエステル、2-(ドデシルチオカルボニルチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸3-アジド-1-プロパノールエステル、ベンジル1H-ピロール-1-カルボジチオエート、2-シアノプロパン-2-イル-N-メチル-N-ピリジン4-イルカルボジチオエート、プロピオン酸エチル-2-エチルザンテートから選択され、例えばRが水酸基である前記式(4)で表される両性イオンモノマーを用いる場合にはRAFT剤の溶解性の観点から、4-シアノペンタン酸ジチオベンゾエート、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニル-チオカルボニル)スルファニルペンタン酸、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニル-チオカルボニル)スルファニルペンタン酸ポリエチレングリコールメチルエーテルエステルが好ましい。
RAFT剤の使用量としては、前記式(4)で表される両性イオンモノマー100質量部に対して通常0.01から20質量部が好ましく、より好ましくは、0.01から10質量部である。
【0063】
前記式(4)で表される両性イオンモノマーから、特に限定されないが前記リビングラジカル重合法を用いることで、ブロック共重合体を得ることができる。例えば、前記式(4)で表される両性イオンモノマーもしくは前記他のモノマーをリビングラジカル重合法によりブロックAを製造し、得られたブロックAをマクロ重合開始剤として、前記式(4)で表される両性イオンモノマーもしくは前記他のモノマーをリビングラジカル重合法により重合することにより、ブロックAに繋がるブロックBを製造することができる。前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーをタンパク質安定化剤として用いる場合、他のモノマーとしては、溶媒への溶解性の観点から、N,N’-ジメチルアクリルアミド、ブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。また、他のモノマーの配合量は任意であり、適宜選択できるが、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーの性能を引き出すためには、配合される前記他のモノマーが90モル%以下であることが好ましく、より好ましくは70モル%以下である。
【0064】
前記式(4)で表される両性イオンモノマーを重合して得られる、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性ポリマーは、そのまま未精製で用いられるほか、好ましくは過剰な溶媒の減圧留去、再沈殿、カゲルろ過クロマトグラフィーや透析などの処理により単離、精製を行うこともできる。
【0065】
<タンパク質安定化剤>
本発明のタンパク質安定化剤は、前記式(1)で表される繰り返し単位を有する両性イオンポリマーを含む。タンパク質安定化剤は、好ましくは両性イオンポリマーの水溶液であり、水としては、精製水、純水、イオン交換水等が好ましく、水を含有する各種緩衝液がより好ましい。各種緩衝液としては、タンパク質の酵素活性、抗原性等の生理活性を失わせるようなものでなければ、通常この分野で用いられる緩衝液を用いることができる。例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液、グリシン緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液等が挙げられ、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液が特に好ましい。
【0066】
タンパク質安定化剤溶液中に含有される、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む両性イオンポリマーは、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。上限値としては、主溶媒である水に溶解する限り特に制限はないが、例えば、20質量%以下、好ましくは10質量%以下である。これらの範囲であれば、タンパク質安定化剤溶液は有効なタンパク質安定化効果を示し、かつ、タンパク質の溶解、又はタンパク質溶液との混合を良好に実施できる。
【0067】
本発明のタンパク質安定化剤が、安定化させるタンパク質としては、特に限定されないが、アセチルコリンエステラーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β-D-ガラクトシターゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、ヘキソキナーゼ、ペニシリナーゼ、ペルオキシダーゼ、リゾチーム等が挙げられ、好ましくは、酵素免疫測定法にて汎用されるペルオキシダーゼやアルカリ性ホスファダーゼ等が挙げられる。
【0068】
本発明のタンパク質安定化剤は、タンパク質溶液に添加して用いることができる。あるいは、本発明のタンパク質安定化剤は、タンパク質安定化剤溶液として、対象のタンパク質を溶解させてもよい。またさらに、タンパク質溶液とタンパク質安定化剤溶液とを調製し、両溶液を混合してもよい。
本発明のタンパク質安定化剤によってタンパク質を安定化させるにあたって、タンパク質安定化溶液を保持する温度は、2℃~40℃が好ましい。2℃以下であるとタンパク質安定化溶液が凍結する可能性があり、40℃以上になると、タンパク質を安定化できる期間が短くなり得るからである。
【実施例
【0069】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお各合成例において、核磁気共鳴(H-NMR)には日本電子社製JMTC-400を用いた。
【0070】
<実施例1:ポリマーAの合成>
(合成例1-1:モノマー2の合成)
【化13】
四つ口フラスコにL-メチオニン(1)(15.0g,74.0mmol)を入れ、5質量%水酸化カリウム水溶液200mlに溶解させた。反応溶液を0℃まで冷却し、アクリル酸クロライド(15.0ml, 141mmol)を15分かけて滴下した。その後、反応系を室温まで昇温し、2時間攪拌した。反応溶液に4N塩酸50mlを加え、pH2.0に調整し、酢酸エチル100mlで三回、有機相を抽出した。有機相を飽和食塩水100mlで二回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた混合物をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール=1/1 v/v)により精製し、モノマー2を得た。
収量 9.9g
H-NMR(CDOD、400MHz)
6.2-6.4ppm(C =CH,m,2H),5.65ppm(CH=C,t,1H), 4.63ppm(NH-C-COOH,t,1H),2.4-2.6ppm(CH-C -S,m,2H),2.0-2.2ppm(C -CH-S,m,2H),1.92ppm(S-C ,s,3H)
【0071】
(合成例1-2:ポリマー3の合成)
【化14】
二口フラスコにモノマー2(1.50g,7.50mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(12 mg,0.08mmol)をDMF(4ml)に溶解させた。15分窒素バブリング後、反応系を65℃まで昇温し、重合を開始させた。20時間後の反応溶液をMTBE200mlで再沈殿させ、ポリマー3を得た。
収量 1.4g
H-NMR(CDOD、400MHz)
4.3-4.6ppm(NH-C-COOH),2.6-2.8ppm(CH-C -S),2.0-2.6ppm(C -CH-S,S-C ),1.6-2.6ppm(ポリマー主鎖)
【0072】
(合成例1-3:ポリマーAの合成)
【化15】
ナスフラスコにポリマー3(1.0g)をいれ、DMF3mlに溶解した。反応溶液にヨードメタン1 mlを加え、室温で20時間攪拌した。反応溶液をアセトン50mlで再沈殿させ、ポリマーAを得た。
収量1.1g
H-NMR(DO、400MHz)
4.3-4.6ppm(NH-C-COOH),3.2-3.4ppm(CH-C -S(CH),2.8-3.0ppm(CH-S(C ),1.4-2.4ppm(C -CH-S、ポリマー主鎖)
得られたポリマーAの数平均分子量および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、検出器に示差屈折率計を用いたゲル浸透クロマトグラフィー測定によりもとめた。ポンプに島津製作所(株)社製 LC-720ADを、検出器(示差屈折率計)に島津製作所(株)社製 RID10Aを、検出器(UV)にSPD-20Aを用いた。カラムには、東ソー(株)社製TSKGel G3000PWXLとTSKGel G5000PWXL(カラムサイズ 4.6mm×25cm)とを二本連結したものを用いた。展開溶媒は、pH9.0に調製した50mMリン酸バッファー/アセトニトリル(9/1 v/v)を用いた。測定条件は、流速 0.6ml/min、カラム温度 40℃、サンプル濃度 0.2mg/ml、注入量 70μLであった。スタンダートとしてポリエチレングリコールを用いた。ゲル浸透クロマトグラフィー測定の結果、ポリマーAの数平均分子量は19000、分子量分布は1.95であった。
【0073】
<実施例2:ポリマーBの合成>
(合成例2-1:ポリマー4の合成)
【化16】
二口フラスコにモノマー2(1.50g,7.50mmol)、ベンジル1H-ピロール-1-カルボジチオエート(34.5mg,0.15mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(12mg,0.08mmol)を入れ、DMF(4ml)に溶解させた。15分窒素バブリング後、反応系を65℃まで昇温し、重合を開始させた。20時間後の反応溶液をMTBE200mlで再沈殿させ、ポリマー4を得た。
収量 1.4g
H-NMR(CDOD、400MHz)
4.3-4.6ppm(NH-C-COOH),2.6-2.8ppm(CH-C -S),2.0-2.6ppm(C -CH-S,S-C ),1.6-2.6ppm(ポリマー主鎖)
【0074】
(合成例2-2:ポリマーBの合成)
【化17】
ナスフラスコにポリマー4(1.0g)をいれ、DMF3mlに溶解した。反応溶液にヨードメタン1mlを加え、室温で20時間攪拌した。反応溶液をアセトン50mlで再沈殿させ、ポリマーBを得た。
収量 1.1g
H-NMR(DO、400MHz)
4.3-4.6ppm(NH-C-COOH),3.2-3.4ppm(CH-C -S(CH),2.8-3.0ppm(CH-S(C ),1.4-2.4ppm(C -CH-S、ポリマー主鎖)
得られたポリマーBの数平均分子量および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、合成例3と同様にして求めた。ゲル浸透クロマトグラフィー測定の結果、ポリマーAの数平均分子量は7900、分子量分布は1.25であった。
【0075】
<実施例3:ポリマーCの合成>
【化18】
ナスフラスコにポリマー5(1.0g)をいれ、DMF3mlに溶解した。反応溶液にヨードブタン1mlを加え、室温で20時間攪拌した。反応溶液をアセトン50mlで再沈殿させ、ポリマーCを得た。
収量 1.1g
H-NMR(DO、400MHz)
4.3-4.6ppm(NH-C-COOH),3.2-3.4ppm(CH-C -S(CH),2.8-3.0ppm(CH-S(C ),0.8-2.4ppm(ブチル基、C -CH-S、ポリマー主鎖)
得られたポリマーCの数平均分子量および分子量分布は前記実施例1と同様にして求めた。ポリマーCの数平均分子量は8100、分子量分布は1.23であった。
【0076】
<実施例4:ポリマーDの合成>
(合成例4-1:ポリマー5の合成)
【化19】
二口フラスコにモノマー2(60mg,0.30mmol)、ブチルアクリレート(90mg, 0.70mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(0.1mg,0.01mmol)をエタノール(1ml)に溶解させた。15分窒素バブリング後、反応系を65℃まで昇温し、重合を開始させた。20時間後の反応溶液をMTBE20mlで再沈殿させ、ポリマー5を得た。
組成比(モル比) x:y=32:68
収量 140mg
H-NMR(CDCl、400MHz)
4.1-4.6ppm(NH-C-COOH),3.9-4.1(COO-C -CH(BA)),2.6-2.8ppm(CH-C -S),2.0-2.6ppm(C -CH-S,S-C ),1.6-2.6ppm(C -C -CH(BA)、ポリマー主鎖),0.8-1.0ppm(CH-C (BA))
【0077】
(合成例4-2:ポリマーDの合成)
【化20】
ナスフラスコにポリマー5(100mg)をいれ、エタノール1mlに溶解した。反応溶液にヨードメタン100μlを加え、室温で20時間攪拌した。溶媒を減圧留去し、ポリマーDを得た。
収量 100mg
H-NMR(CDOD、400MHz)
4.1-4.6ppm(NH-C-COOH、COO-C -CH(BA)),3.2-3.4ppm(CH-C -S(CH),2.8-3.0ppm(CH-S(C ),1.0-2.4ppm(C -C -CH(BA)、C -CH-S、ポリマー主鎖),0.8-1.0ppm(CH-C (BA)) 得られたポリマーDの数平均分子量および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、検出器に示差屈折率計を用いたゲル浸透クロマトグラフィー測定によりもとめた。
使用した機器は、前記実施例1と同様であった。カラムとしては、Agilent社製 Mixed-D(粒子径 5μm、カラムサイズ 4.6mm×25cm)を二本連結したものを用いた。展開溶媒には、0.5質量% 臭化リチウム含有クロロホルム/メタノール=6/4 (v/v)を用いた。測定条件は、流速 0.6ml/min、カラム温度 40℃、サンプル濃度 0.2mg/ml、注入量 70μlであった。スタンダートとしてポリエチレングリコールを用いた。ゲル浸透クロマトグラフィー測定の結果、ポリマーDの数平均分子量は21000、分子量分布は2.06であった。
【0078】
<実施例5:ポリマーEの合成>
(合成例5-1:ポリマー6の合成)
【化21】
二口フラスコにモノマー2(200mg,1.00mmol)、ポリエチレングリコールモノアクリレート(480mg, 1.00mmol)、ベンジル1H-ピロール-1-カルボジチオエート(9.3mg,0.04mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(3.3mg,0.02mmol)をDMF(1ml)に溶解させた。15分窒素バブリング後、反応系を65℃まで昇温し、重合を開始させた。20時間後の反応溶液をMTBE20mlで再沈殿させ、ポリマー6を得た。
収量 640mg
組成比(モル比) x:y=44:56
H-NMR(CDCl、400MHz)
4.1-4.6ppm(NH-C-COOH,COO-C -CH(PEGA)),3.8-3.9ppm(C -C -O-(PEGA)),3.4ppm(O-C (PEGA)),2.6-2.8ppm(CH-C -S),2.0-2.6ppm(C -CH-S,S-C ),1.6-2.6ppm(ポリマー主鎖)
【0079】
(合成例5-2:ポリマーEの合成)
【化22】
ナスフラスコにポリマー6(100mg)をいれ、エタノール1mlに溶解した。反応溶液にヨードメタン100μlを加え、室温で20時間攪拌した。溶媒を減圧留去し、ポリマーEを得た。
収量 100mg
H-NMR(DO、400MHz)
4.1-4.6ppm(NH-C-COOH,COO-C -CH(PEGA)),,3.8-3.9ppm(C -C -O-(PEGA)),3.2-3.4ppm(O-C (PEGA),CH-C -S(CH),2.8-3.0ppm(CH-S(C ),1.6-2.4ppm(ポリマー主鎖)
得られたポリマーEの数平均分子量および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、検出器に示差屈折率計を用いたゲル浸透クロマトグラフィー測定によりもとめた。
使用した機器は前記実施例1と同様に行った。カラムとしては、Agilent社製 Mixed-D(粒子径 5μm、カラムサイズ 4.6mm×25cm)を二本連結したものを用いた。展開溶媒には、11.5mM 臭化リチウム含有ジメチルホルムアミドを用いた。測定条件は、流速 0.6ml/min、カラム温度 40℃、サンプル濃度 0.2mg/ml、注入量 70μLであった。スタンダートとしてポリエチレングリコールを用いた。ゲル浸透クロマトグラフィー測定の結果、ポリマーEの数平均分子量は15000、分子量分布は1.30であった。
【0080】
<実施例6:ポリマーFの合成>
(合成例6-1:モノマー7の合成)
【化23】
ナスフラスコにモノマー2(609mg,3.00mmol)をいれ、DMF6mlに溶解した。反応溶液にヨードメタン(210μl,3.30mmol)を加え、室温で20時間攪拌した。MTBE100mlに反応溶液を加え、結晶化させた。得られた化合物をメタノール4mlに溶解し、再度MTBE100mlで結晶化し、モノマー7を得た。
収量 600mg
H-NMR(DO、400MHz)
6.2-6.4ppm(C =CH,m,2H),5.65ppm(CH=C,t,1H), 4.63ppm(NH-C-COOH,t,1H),3.48ppm(CH-C -S,t,2H),3.05ppm(CH-S(C ,s,6H), 2.2-2.5ppm(C -CH-S,m,2H)
【0081】
(合成例6-2:ポリマーFの合成)
【化24】
二口フラスコにモノマー12(100mg,0.50mmol)、アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(VA-044)(1.6mg,5.0μmol)をHO(0.5ml)に溶解させた。15分窒素バブリング後、反応系を45℃まで昇温し、重合を開始させた。20時間後の反応溶液をアセトン10mlで再沈殿させ、ポリマーFを得た。
収量 100mg
H-NMR(DO、400MHz)
4.3-4.6ppm(NH-C-COOH),3.2-3.4ppm(CH-C -S(CH),2.8-3.0ppm(CH-S(C ),1.4-2.4ppm(C -CH-S、ポリマー主鎖)
得られたポリマーFの数平均分子量および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、検出器に前記実施例1と同様に、示差屈折率計を用いたゲル浸透クロマトグラフィー測定によりもとめた。ポリマーFの数平均分子量は4900、分子量分布は2.53であった。
【0082】
<実施例7:ポリマーGの合成>
(合成例7-1:ポリマー8の合成)
【化25】
二口フラスコにN,N-ジメチルアクリルアミド(2.52g,25.4mmol)、ベンジル1H-ピロール-1-カルボジチオエート(93.0mg,0.40mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(32.8mg,0.20mmol)をDMF(12ml)に溶解させた。15分窒素バブリング後、反応系を65℃まで昇温し重合を開始させた。1.5時間後の反応溶液をMTBE200mlで再沈殿させ、ポリマー8を得た。
収量 1.4g
H-NMR(CDCN、400MHz)
7.2-7.4ppm(フェニル基, 5H),6.4ppm(ピロール基, 2H),2.3-3.0ppm(CONH(C ),1.1-1.9ppm(ポリマー主鎖)
得られたポリマー8の数平均分子量および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、検出器に示差屈折率計を用いたゲル浸透クロマトグラフィー測定によりもとめた。
使用した機器は、前記実施例1と同様であった。カラムとしては、Agilent社製 Mixed-D(粒子径 5μm、カラムサイズ 4.6mm×25cm)を二本連結したものを用いた。展開溶媒には、11.5mM 臭化リチウム含有ジメチルホルムアミドを用いた。測定条件は、流速 0.6ml/min、カラム温度 40℃、サンプル濃度 0.2mg/ml、注入量 70μLであった。スタンダートとしてポリエチレングリコールを用いた。ゲル浸透クロマトグラフィー測定の結果、ポリマー8の数平均分子量は5300、分子量分布は1.11であった。
【0083】
(合成例7-2:ポリマーGの合成)
【化26】
二口フラスコにモノマー12(100mg,0.50mmol)、ポリマー16(53mg,10.0μmol)、アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(VA-044)(1.6mg,5.0μmol)をHO(0.5ml)に溶解させた。15分窒素バブリング後、反応系を45℃まで昇温し、重合を開始させた。20時間後の反応溶液をアセトン10mlで再沈殿させ、ポリマーGを得た。
収量 120mg
H-NMR(DO、400MHz)
4.3-4.6ppm(NH-C-COOH),3.2-3.4ppm(CH-C -S(CH),2.8-3.0ppm(CONH(C (DMAAm),CH-S(C ),1.4-2.4ppm(C -CH-S、ポリマー主鎖)
得られたポリマーGの数平均分子量および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、実施例1と同様にして求めた。ゲル浸透クロマトグラフィー測定の結果、ポリマーGの数平均分子量は8300、分子量分布は1.20であった。
【0084】
<実施例8-1>
(タンパク質安定化剤の調製)
実施例1で合成したポリマーAを濃度が1質量%となるようにリン酸バッファー(pH=7.4)に溶解させ、2種類の濃度のタンパク質安定化剤溶液を調製した。
【0085】
(タンパク質溶液の調製)
西洋わさび由来のペルオキシダーゼを、濃度が2ug/mlとなるようにリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解させ、タンパク質溶液を調製した。
【0086】
(タンパク質安定化効果の評価)
前記タンパク質安定化剤溶液1mlに前記タンパク質溶液50μlを加え、評価用溶液を調整した。前記評価用溶液を4℃で保存し,2.5日後、96ウェルプレートに10μlずつ加え、そこにABTS(2,2‘-アゾビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)アンモニウム塩)溶液(SeraCare Lifescience社)100μlを加え、室温で30分振とうした。振とう後、1質量%のドデシル硫酸ナトリウム溶液100μlを加え、反応を停止した。410nmにおける吸光度を測定し、タンパク質安定化効果の評価を行った。
すなわち評価用溶液調製直後の吸光度と前記保存による2.5日後の吸光度を測定し、下記数式(数式1)により、酵素活性残存率(%)を算出した。タンパク質安定化効果は、酵素活性残存率により評価し、酵素活性残存率が高いほどタンパク質安定化効果が高いことを表す。評価結果を表1に示す。
測定機器:DSファーマバイオメディカル社製プレートリーダー
測定条件:室温 410nm
【0087】
【数1】
【0088】
<実施例8-2>
タンパク質安定化剤としてポリマーBを使用し、濃度が1質量%および0.1質量%となるようにリン酸バッファー(pH=7.4)に溶解させてタンパク質安定化剤溶液を調製したこと以外は、実施例8-1と同様にしてタンパク質安定化効果の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0089】
<実施例9>
(凍結融解安定化効果の評価)
実施例8-2に記載のタンパク質安定化剤溶液1mlに前記タンパク質溶液50μlを加え、凍結融解安定性評価用溶液を調整した。凍結融解安定性評価用溶液を-78℃で凍結、4℃で融解を3回~10回繰り返した後、96ウェルプレートに10μlずつ加え、そこにABTS(2,2’-アゾビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)アンモニウム塩)溶液(SeraCare Lifescience社)100μlを加え、室温で30分振とうした。振とう後、1質量%のドデシル硫酸ナトリウム溶液100μlを加え、反応を停止した。410nmにおける吸光度を測定し、凍結融解安定化効果の評価を行った。
すなわち、凍結融解安定性評価用の溶液を調製した直後の吸光度と、前記凍結融解を3~10回繰り返した後の吸光度を測定し、下記数式(数式2)により、酵素活性残存率(%)を算出した。凍結融解安定化効果は酵素活性残存率により評価し、酵素活性残存率が高いほど凍結融解安定化効果が高いことを表す。評価結果を表2に示す。
測定機器:DSファーマバイオメディカル社製プレートリーダー
測定条件:室温 410nm
【0090】
【数2】
【0091】
<実施例10>
(タンパク質安定化剤溶液の調製)
実施例2で合成したポリマーBを、濃度が0.2、0.1、0.05質量%となるように50体積%エタノール水溶液に溶解させたタンパク質安定化剤溶液を調製した。
【0092】
(DPPH溶液の調製)
DPPH(1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル)を濃度が0.25 mMとなるようにエタノールに溶解させ、DPPH溶液を調製した。
【0093】
(抗酸化性の評価)
96ウェルプレートに上記各濃度の前記タンパク質安定化剤溶液50μlずつ加え、そこに0.25M酢酸緩衝液(pH5.5)100μlと前記DPPH溶液100μlを加え、抗酸化性評価溶液を調製した。抗酸化性評価溶液を調製後、30分間、暗所で静置し、540nmにおける吸光度を測定した。 前記抗酸化性評価溶液の調製と同様に、ただし前記タンパク質安定化剤溶液の代わりに50%エタノール水溶液50μlを加え、ブランク溶液1とした。
前記抗酸化性評価溶液の調製と同様に、ただし前記DPPH溶液の代わりにエタノール100μlを加え、ブランク溶液2とした。
前記抗酸化性評価溶液の調製と同様に、ただし前記タンパク質安定化剤溶液の代わりに50%エタノール水溶液50μlを加え、前記DPPH溶液の代わりにエタノール100μlを加え、ブランク溶液3とした。
そして、タンパク質安定化剤溶液の吸光度と前記ブランク溶液1、2、3の吸光度を測定し、下記数式(数式3)により、DPPHラジカル消去率(%)を算出した。抗酸化性はDPPHラジカル消去率により評価し、DPPHラジカル消去率が高いほど抗酸化性が高いことを表す。評価結果を表3に示す。
測定機器:DSファーマバイオメディカル社製プレートリーダー
測定条件:室温 540nm
【0094】
【数3】
【0095】
<比較例1-1>
(合成例6-2の重合溶媒をDMF中重合温度70℃で行った場合)
二口フラスコにモノマー7(100mg,0.50mmol)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(1.6mg,5.0μmol)をDMF(0.5ml)に溶解させた。15分窒素バブリング後、反応系を70℃まで昇温し重合を開始させた。20時間後の反応溶液をアセトン10 mlで再沈殿させたが、ポリマーを得ることができなかった。
【0096】
<比較例1-2>
(合成例6-2の重合温度70℃で行った場合)
二口フラスコにモノマー7(100mg,0.50mmol)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(1.6mg,5.0μmol)をHO(0.5ml)に溶解させた。15分窒素バブリング後、反応系を70℃まで昇温し重合を開始させた。20時間後の反応溶液をアセトン10 mlで再沈殿させたが、ポリマーを得ることができなかった。
【0097】
<比較例2-1>
タンパク質安定化剤を用いずにリン酸緩衝液(pH7.4)のみを使用したこと以外は、実施例8-1と同様にしてタンパク質安定化効果の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0098】
<比較例2-2>
タンパク質安定化剤としてDMSPを使用し、濃度が0.1質量%となるようにリン酸バッファー(pH=7.4)に溶解させてタンパク質安定化剤溶液を調製したこと以外は、実施例8-1と同様にしてタンパク質安定化効果の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0099】
<比較例2-3>
タンパク質安定化剤としてポリエチレングリコール(PEG)を使用し、濃度が0.1質量%および0.1質量%となるようにリン酸バッファー(pH=7.4)に溶解させてタンパク質安定化剤溶液を調製したこと以外は、実施例8-1と同様にしてタンパク質安定化効果の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0100】
<比較例2-4>
タンパク質安定化剤としてBSA(牛血清アルブミン)を使用し、濃度が1質量%となるようにリン酸バッファー(pH=7.4)に溶解させてタンパク質安定化剤溶液を調製したこと以外は、実施例8-1と同様にしてタンパク質安定化効果の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0101】
表1に示すとおり、実施例8-1のポリマーAおよび実施例8-2のポリマーBをタンパク質安定化剤として用いた場合、比較例と比較して顕著なタンパク質安定化効果を示していることがわかる。
【0102】
<比較例3-1>
タンパク質安定化剤を用いずにリン酸緩衝液(pH7.4)のみを使用したこと以外は、実施例9と同様にして凍結融解安定化効果の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0103】
<比較例3-2>
タンパク質安定化剤としてDMSPを使用し、濃度が0.1質量%となるようにリン酸バッファー(pH=7.4)に溶解させてタンパク質安定化剤溶液を調製したこと以外は、実施例9と同様にして凍結融解安定化効果の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0104】
<比較例3-3>
タンパク質安定化剤としてBSA(牛血清アルブミン)を使用し、濃度が1質量%となるようにリン酸バッファー(pH=7.4)に溶解させてタンパク質安定化剤溶液を調製したこと以外は、実施例9と同様にして凍結融解安定化効果の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0105】
表2に示すとおり、ポリマーBをタンパク質安定化剤として用いた場合、比較例と比較して顕著な凍結融解安定化効果を示していることがわかる。
【0106】
<比較例4-1>
抗酸化剤としてDMSPを使用し、濃度が0.2、0.1、0.05質量%となるように50%エタノール水溶液に溶解させて抗酸化剤溶液を調製したこと以外は、実施例10と同様にして抗酸化性の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0107】
<比較例4-2>
抗酸化剤としてPEG(分子量:4000)を使用し、濃度が0.2、0.1、0.05質量%となるように50%エタノール水溶液に溶解させて抗酸化剤溶液を調製したこと以外は、実施例10と同様にして抗酸化性の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0108】
表3に示すとおり、ポリマーBをタンパク質安定化剤として用いた場合、比較例と比較して顕著な抗酸化性を示していることがわかる。
【0109】
以上のことから、タンパク質の安定性を向上させる効果のある両性イオンを有しているポリマーBは、少量の添加でタンパク質安定化効果のある高分子タンパク質安定化剤として機能しており、同時に、抗酸化性を有する両性イオンポリマーであることが確認された。
【0110】
<実施例11:ポリマーHの合成>
(合成例8-1:ポリマー9の合成)
【化27】
二口フラスコにモノマー2(1.8g,9.0mmol)、ブチルアクリレート(128mg,1.0mmol)、ベンジル1H-ピロール-1-カルボジチオエート(46.6mg,0.20mmol)、アゾビスイソブチロ二トリル(16.4mg,0.10mmol)をエタノール(1ml)に溶解させた。15分窒素バブリング後、反応系を65℃まで昇温し、重合を開始させた。20時間後の反応溶液をMTBE/Hexane混合溶媒200mlで再沈殿させ、ポリマー9を得た。
組成比(モル比) x:y=86:14
収量 1.8g
【0111】
(合成例8-2:ポリマーHの合成)
ナスフラスコにポリマー9(1.00g)をいれ、エタノール10mlに溶解した。反応溶液にヨードメタン2mLを加え、室温で20時間攪拌した。溶媒を減圧留去し、ポリマーHを得た。
収量 1.8g
得られたポリマーHの数平均分子量および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、前記実施例1と同様にしてもとめた。
ポリマーHの数平均分子量は8300、分子量分布は1.31であった。
【0112】
<実施例12:ポリマーIの合成>
(合成例9-1:ポリマー10の合成)
モノマー2(1.4g,7.0mmol)、ブチルアクリレート(384mg,3.0mmol)を用いたこと以外は合成例8-1と同様にしてポリマー10を得た。
組成比(モル比) x:y=68:32
収量 1.7g
【0113】
(合成例9-2:ポリマーIの合成)
合成例8-2と同様にしてポリマー10からポリマーIを得た。
収量 1.8g
得られたポリマーIの数平均分子量および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、前記実施例4と同様にしてもとめた。
ポリマーIの数平均分子量は13200、分子量分布は1.08であった。
【0114】
<実施例13:ポリマーJの合成>
(合成例10-1:ポリマー11の合成)
モノマー2(1.0g,5.0mmol)、ブチルアクリレート(640mg,5.0mmol)を用いたこと以外は合成例8-1と同様にしてポリマー11を得た。
組成比(モル比) x:y=50:50
収量 1.6g
【0115】
(合成例10-2:ポリマーJの合成)
合成例8-2と同様にしてポリマー11からポリマーJを得た。
収量 1.7g
得られたポリマーJの数平均分子量および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、前記実施例4と同様にしてもとめた。
ポリマーJの数平均分子量は14000、分子量分布は1.10であった。
【0116】
<実施例14:ポリマーKの合成>
(合成例11-1:ポリマー12の合成)
モノマー2(0.6g,3.0mmol)、ブチルアクリレート(896mg,7.0mmol)を用いたこと以外は合成例8-1と同様にしてポリマー12を得た。
組成比(モル比) x:y=32:68
収量 1.4g
【0117】
(合成例11-2:ポリマーKの合成)
合成例8-2と同様にしてポリマー12からポリマーKを得た。
収量 1.5g
得られたポリマーKの数平均分子量および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、前記実施例4と同様にしてもとめた。
ポリマーJの数平均分子量は13000、分子量分布は1.16であった。
なお、実施例11~14にて、得られたポリマー9~12、及び、ポリマーH,I,J,及びKにおける、両性xとyの構成単位のモル比は、以下の表5に示す通りである。
【0118】
<実施例15>
<実施例15-1>
ポリマーBのタンパク質安定化効果は4℃での保存期間を13日、28日、62日間とした以外は実施例8-2と同様して評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0119】
<実施例15-2>
タンパク質安定化剤としてポリマーBの代わりにポリマーHを用いたこと以外は前記実施例15-1と同様にしてタンパク質安定化剤溶液を調製した。評価結果を表4に示す。
【0120】
<実施例15-3>
タンパク質安定化剤としてポリマーBの代わりにポリマーIを用いたこと以外は前記実施例15-1と同様にしてタンパク質安定化剤溶液を調製した。評価結果を表4に示す。
【0121】
<実施例15-4>
タンパク質安定化剤としてポリマーBの代わりにポリマーJを用いたこと以外は前記実施例15-1と同様にしてタンパク質安定化剤溶液を調製した。評価結果を表4に示す。
【0122】
<実施例15-5>
タンパク質安定化剤としてポリマーBの代わりにポリマーKを用いたこと以外は前記実施例15-1と同様にしてタンパク質安定化剤溶液を調製した。評価結果を表4に示す。
【0123】
<比較例5>
タンパク質安定化剤を用いずにリン酸緩衝液(pH7.4)のみを使用したこと以外は前記実施例15-1と同様にしてタンパク質安定化剤溶液を調製した。評価結果を表4に示す。
【0124】
表4に示すとおり、ブチルアクリレートと共重合することで、長期間のタンパク質安定化効果を示すことがわかる。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
【0128】
【表4】
【0129】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0130】
以上説明したように、本発明によれば、タンパク質の安定性を向上させる効果のある両性イオンを有しており、少量の添加でタンパク質安定化効果のある高分子タンパク質安定化剤を提供できる。そして、本発明の両性イオンポリマーは上記安定化効果と同時に抗酸化性を有するものあるため、高分子タンパク質安定化剤の抗酸化性を向上させることもできる。本発明の両性イオンポリマーを含むタンパク質安定化剤は、タンパク質の低温下、例えば4℃での長期保存に対する安定性や、凍結融解操作に対する安定性を特に向上することができる。