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特許7093984磁気式クランプ装置及び磁気式クランプ装置用磁力発生機構
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】磁気式クランプ装置及び磁気式クランプ装置用磁力発生機構
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/154 20060101AFI20220624BHJP
   B29C 33/32 20060101ALI20220624BHJP
   H01F 7/04 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
B23Q3/154 B
B29C33/32
H01F7/04 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017204819
(22)【出願日】2017-10-23
(65)【公開番号】P2019076981
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】596037194
【氏名又は名称】パスカルエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100092738
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】北浦 一郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 博夫
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-221238(JP,A)
【文献】特表2005-515080(JP,A)
【文献】特開2007-331101(JP,A)
【文献】特表2011-519733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/154
B29C 33/32
H01F 7/04
B25B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースプレート内に複数の磁力発生機構を配した磁力式クランプ装置には、
クランプ対象物を保持するための固定面を表面に設けたベースプレートがあり、
ベースプレートには、その固定面から裏面まで貫通する円筒状の収容空洞部が複数備わっており、
それぞれの収容空洞部には、磁力発生機構が収納されており、
この磁力発生機構には、
収容空洞部の固定面中央に軟質磁性材料からなる円形蓋体が配され、
この円形蓋体の外周面外縁部とベースプレートの収容空洞部内壁外縁部との固定面近傍離間部には非磁性体からなる環状体が嵌合されており、
この環状体の裏面側の、円形蓋体と収容空洞部内壁との離間空間である環状の磁石収納空間内には、複数の円弧状の非可逆永久磁石が環状に配され、
円形蓋体の裏面及び非可逆永久磁石と対向するように位置する、可逆永久磁石と、この可逆永久磁石の周囲に配された磁極切換用コイルが備わっており、
また、収容空洞部の裏面開口を塞ぐ底面蓋体がベースプレート裏面に備わっており、底面蓋体と前記円形蓋体とはボルトで締結されているものであって、
さらに、前記環状体は、環状体の内周面にねじ溝を備え、ベースプレートに配されている円形蓋体の外周面外縁部のねじ溝と螺合されながら前記固定面近傍離間部に嵌合されていること、を特徴とする磁気式クランプ装置。
【請求項2】
環状体の外径がベースプレートの磁石収納空間部の内径よりも大きく、環状体の内径が円形蓋体の磁石収納空間部の外径よりも小さいこと、を特徴とする請求項1に記載の磁気式クランプ装置。
【請求項3】
環状体と円形蓋体とのねじによる螺合は、ねじの嵌め合い部に樹脂あるいはゴムを封止材として充填したものであること、を特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の磁気式クランプ装置。
【請求項4】
非磁性体からなる環状体がオーステナイトステンレス鋼からなる環状体であって、さらに、環状体の外周面はベースプレートの収容空洞部内壁外縁部と接着剤で封止されていること、を特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の磁気式クランプ装置。
【請求項5】
環状体の裏面には非可逆永久磁石の厚みよりも狭い溝幅の環状凹溝が形成されており、この環状凹溝内に誘導起電力を測定する検出コイルが配されていること、を特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の磁気式クランプ装置。
【請求項6】
環状体は、固定面の高さよりも若干裏面側に奥まった位置に環状体の表面を配することで表面に浅溝を形成していること、を特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の磁気式クランプ装置。
【請求項7】
ベースプレートの各収容空洞部同士は、ベースプレート内に設けた配線用経路によって隣接の収容空洞部と連絡されていること、を特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の磁気式クランプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は磁気式クランプ装置に関し、特にベースプレート内に防水性を備えた磁力発生機構を複数並列配置した磁気式クランプ装置と、その磁力発生機構の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、クランプ対象物(たとえば、射出成形機の金型、機械加工に供するワークピース等)を固定する固定面を有するベース部材と、このベース部材に組み込まれ、かつ磁力によリクランプ対象物を固定面に吸着して固定可能な複数の磁力発生機構とを備えた磁力式クランプ装置がある。この磁力式クランプ装置はたとえば射出成形機に実装され、金型をプラテン(射出成形機の可動盤、固定盤といった金型の取り付け面)に固定する際に用いられている。
【0003】
磁気式クランプ装置の各磁力発生機構は、たとえば、ベース部材の固定面と面一な外表面を有する磁性体製の円形蓋板と、この円形蓋板の裏面側に配設されたアルニコ磁石(AlNiCo磁石)と、このアルニコ磁石の外周側に巻装された磁極切換用コイルと、円形蓋板の外周側に配設された永久磁石等を備えているものである。そして、これらの磁力発生機構は、ベース部材に形成された複数の凹状の収容孔にそれぞれ組み込まれている。さて、アルニコ磁石の磁極は磁極切換用コイルに通電することで逆転させることができる。通電で磁極が切り替わると、磁束線が固定面の外に発せられず固定する力が付与されない打ち消し状態と、磁束線が固定面から金型等のワークに到達してワークを磁力でクランプしうるクランプ状態の双方を選択的に迅速に切り換えることができる。さらに、永久磁石が組み合わさっているので、通電を終了した後もそれらの状態をそのまま保持することが可能となっている。
【0004】
例えば、特許文献1の磁気締付け装置においては、ベース部材のプレートの締付け面であるワークの固定面側に、複数の円筒状ハウジングが開口しており、各円筒状ハウジング内にはそれぞれ磁力発生機構が組み込まれている。特許文献1の発明自体は、その複数の磁力発生機構のソレノイドコイルの端子の接続コネクタに関する発明であるが、この円筒状のハウジング内の磁力発生機構自体には、締付け面側から順に、中心に配した鋼極と、その外周表面に嵌まる黄銅のような非磁気材料からなる円筒状のリング体と、この円筒状リングの下に鋼極の外周を囲む複数の永久磁石が配されて磁気パッドとなっており、それらの磁気パッドの下方には、円筒状のアルニコ磁石とその外周に配されたソレノイドコイルとからなる磁力切り換え部が備わっている。
【0005】
そして、特許文献1では、鋼極の外周表面部には、黄銅製の非磁性体のリングが配されており、このリングの外周面には外部周辺溝が穿設されていて、溝のなかにOリングが配されている。
【0006】
また、ベース部材と円形蓋板とが表面からみて一枚板のように一体に形成された一体型磁気装置も提案されている(たとえば特許文献2参照。)。特許文献2の一体型磁気装置では、ベース部材となる支持構造部材と円形蓋板に相当する第1のポールピースコアとが1つの部材で形成されており、支持構造部材の裏面側には複数の凹状の収容孔が開口し、これらの複数の収容孔内には、円形蓋板の周囲に配される非可逆永久磁石と、円形蓋板の下に可逆永久磁石コアのアルニコ磁石と、その周囲に磁化状態を変化させるための環状の電気コイルと、が配された磁気発生機構が備わっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-331101号公報
【文献】特表2011-519733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、磁気式クランプ装置は、磁極切換用コイルへの通電の切換えによって、固定面上にクランプ対象物を固定保持する保持状態を維持したり、あるいはアルニコ磁石の極性を反転させて打ち消し状態とすることでクランプしない状態とすることのできる装置である。コイルへの通電終了後も磁力が持続するので、射出成形機におけるプラテンのように金型を長期にクランプしたまま固定保持しつづけることができ、可動部分がないので長期にメンテナンスフリーとしたい場面への適用にも向きやすいといえる。
【0009】
ところで、射出成形では溶解した樹脂を金型のキャビティに射出したのち、成形品が冷却・硬化して取り出せるまでには時間を要することから、冷却工程が大きな割合を占めている。そして、こうした金型は一般的にクーラント(冷却水)によって冷却されている。すると、金型の周囲がクーラント等で濡れることがあり、磁気式クランプ装置の周囲に水分が入り込むことがある。また、射出成形などの金型は、その金型表面に樹脂などの汚れが付着することから金型使用後に洗浄されることも多く、金型の周囲に洗浄液が付着したり、洗浄液が流れ落ちることもあるので、プラテン上にクランプした状態で洗浄するとなれば、洗浄液などの溶液が磁気式クランプ装置の固定部に付着することが起こりうる。
【0010】
そして、磁気式クランプ装置は可動部分がなく長期のクランプ状態保持に向いているとはいっても、磁力発生機構の内部に水等の溶液が侵入してしまうと、内部のコイルなどの短絡にもつながるので、クランプ状態と打ち消し状態の切り換えがスムーズに行えなくなるトラブル等を招来させかねない。
もちろん、クランプ状態からの脱落事故に備えてセンサーを配置するなどの安全対策がなされていることから、直ちに重大事故になることは起こりにくいものの、磁気式クランプ装置のメンテナンスが必要となることにもなりうる。また、金型洗浄液等の溶液は界面活性剤を含む場合もあるので界面に侵入しやすい。そこで、磁気式クランプ装置の固定面から溶液等が侵入しにくい防水性に優れた、簡易な構造でかつ安定的なシールド構造が求められている。
【0011】
そして、磁気式クランプ装置は、多数の磁力発生機構を配列していることから、それぞれの磁力発生機構の配線を結線することとなるが、配線が裏面から露出する構造だと裏面から磁力発生機構内への液体の侵入もしやすくなったり、配線を痛めることも起きやすい。
【0012】
さらに、磁力によってクランプする構造であるところ、金型側に飛びだす磁力線による磁力の影響範囲は、数十mmの深さであって、固定面のプレート間に余計な隙間があったり、ソリや変形が生じていると、隙間によってクランプ力が極端に落ちる。たとえば隙間が0.5mm生じると磁気式クランプ装置のクランプ力は本来の60%以下に、1mmの隙間ともなると本来の15%程度まで吸着力が落ちてしまう。
すると、十数個の磁力発生機構を備えているとはいえ、その一部が浮いてしまうこととなれば、所期の能力を十分に発揮できないこととなる。すると、金型との隙間を低減させるために、固定面を平滑に形成できることは、磁力によって密着固定させることが望まれる。
【0013】
そこで、多数の磁力発生機構を内部に備えた磁気式クランプ装置の製造組み立て時に平滑性を確保しやすく、さらに装置のメンテナンス時に平滑面を調整もしやすい構造であることも求められているまた、こうした平滑面であることは、洗浄液等の溶液が界面に侵入しやすい。このように固定面と裏面双方に液蜜性を備えることが要請されている。
【0014】
しかし、特許文献1の磁気締付け装置では、ベース部材のプレートの締付け面であるワークの固定面側に、複数の円筒状ハウジングが開口しており、各円筒状ハウジング内にはそれぞれ磁力発生機構が組み込まれており、複数の円筒状ハウジングの外端面とベース部材の固定面との平坦性を確保する必要が生じており、円筒状ハウジングの底面の機械加工において高い加工精度が要求されることとなる。また、円筒状ハウジングは貫通していないので、機械加工をひとつひとつしなければならず、効率的とはいえなかった。
【0015】
クランプする対象には射出成形に用いる金型が含まれるところ、金型が100℃を超える温度をもつことがあるので、固定面にも熱が伝わり熱膨張することとなる。さて、特許文献1の磁力発生機構は、ワークと当接する鋼極の外周表面に設けられた黄銅製のリングに外周面に外部周辺溝を備え、Oリングがこの溝に嵌まることで、リングが外表面に抜け出すことを抑止する構造である。ところが、鋼極やベースプレートの鋼材と比して、黄銅の熱膨張率は大きいので、金型の熱が伝わると、リングが膨張してベースプレートの開口とせってしまい、Oリングの周囲に負荷がかかりやすくなる。さらにOリングが熱硬化により弾性力の低下を招くことがあり、Oリング周辺のシールド性が低下しやすい。すると、このリングの周囲のシールド性(水密性)が下がることとなっていた。
【0016】
そこで、出願人は水密性の対策として、磁性材料からなる円形蓋体の外表面外周に、リングを設けるのではなく、外周をフランジ状に鍔部を設ける構造を発明している(特願2016-245111,非公開)。たしかに同一素材の鍔部を設けることで水密性は向上するが、同一素材であることから、磁束の制御を厳密にする必要が生じる。また、鍔部はフランジ状に、片持ちで張り出したような構造であることから、ワーク面側から力が加わると、曲がりやすく、鍔の外縁が内部に押し込まれてしまうことが起こりうるので、ワークの脱着時に鍔部を損傷しないように留意することが必要となるなど、使用に際し従前よりも配慮が必要となるところがある。
【0017】
また、特許文献2の一体型磁気装置においては、「支持構造」と「第1のボールピースコア」がワンピースに成形されているので、ワークを固定する固定面側には開口がなく、ベース部材の固定面の平坦性を確保しやすい。もっとも、ベース部材と円形蓋板が固定面側で一体になっている構造に加工すること自体は容易とはいえない。裏面側から収容孔を開口することとなるが、裏面側のアルニコ磁石の電気コイルを収容するスペースを削り出すのみならず、さらに、中央に円形蓋板を残したまま、この円形蓋板に振動が伝わるのを抑えつつ、その周囲を非可逆永久磁石を入れるために溝を形成しなければならないので、ひとつひとつの収容孔の開口作業が難しい。
【0018】
さらに、特許文献2は、一体型であることから、複数の収容孔を裏面側から開口しなければならず、また、全体のなかで適切な位置となるようそれぞれ加工としなければならないところ、一体的ゆえにひとつずつ加工せざるを得ないので時間を要するほか、全体のなかでの配置まで考慮して収容孔を加工しなければならず、全体を加工する制御をしなければならないなど、作業者側での負担も大きいものであった。
【0019】
すなわち、前記のような凹状の収容孔を機械加工で形成する場合、大径のドリルで凹穴を形成してから小径のエンドミルを周回的に移動させることで、凹穴の奥端面を平坦面に仕上げ加工することなどが考えられるところ、それでは全体の加工に多くの時間と労力がかかるので、こうした一体的な収容孔の構造は製作するうえで非常に不利なものといえる。
【0020】
このように、たしかに特許文献2の一体型磁気装置では、ベース部材と円形蓋板を環状磁路部によって一体に繋ぐことから、固定面の平坦性と液密性を確保しうるものとはなっているが、こうした加工自体は複雑で難しく、また裏面側の液密性については配慮されていない。のみならず、さらに、環状磁路部も含め、すべて平面上で面一に一体になっているので、クランプ状態のときには、10~20%の磁束が環状磁路部にも流れてしまうこととなる。すると、その分だけクランプ時のクランプ対象物を吸着する力が低下してしまうこととなるので、クランプ力が低下してしまっていた。
【0021】
また、磁極切換用のコイルによって、打ち消し状態としたときと、クランプ状態が切り替わるが、クランプ力が適切に発生していなければ、クランプ対象物を固定できず危険であることから、クランプ状態が良好かを確認することは重要である。そこで、非可逆永久磁石とクランプ対象物との間にセンサーとなるセンサーコイル等を設置すると、クランプ状態での磁束を確認することが容易にできる。クランプ状態を確認することから、固定面近くに配されることとなるところ、永久磁石とクランプ対象物に挟まれる位置に設けられることとなるので、挟まれたセンサーコイルが破損しないよう考慮する必要がある。そこで、センサーコイルを破損せず簡易に安定設置できる構造が求められている。
【0022】
そこで、本発明の解決しようとする課題は、複数の磁力発生機構をベース部材に簡易迅速に組み込むことができる簡単な構造の磁気式クランプ装置であって、クランプ対象物の固定面を液密性としやすく、固定面を密着性の高い平坦面が確保しやすい磁気式クランプ装置を提供することである。また、クランプ状態時も磁束の漏洩によるクランプ力低下が抑制された、とりわけ環状体の周辺が破損しにくい構造の磁力式クランプ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の課題を解決するための本発明の第1の手段は、ベースプレート内に複数の磁力発生機構を配した磁力式クランプ装置であって、クランプ対象物を保持するための固定面を表面に設けたベースプレートがあり、ベースプレートには、その固定面から裏面まで貫通する円筒状の収容空洞部が複数備わっており、それぞれの収容空洞部には、磁力発生機構が収納されており、
この磁力発生機構には、収容空洞部の固定面中央に軟質磁性材料からなる円形蓋体が配され、この円形蓋体の外周面外縁部とベースプレートの収容空洞部内壁外縁部との固定面近傍離間部には非磁性体からなる環状体が嵌合されており、この環状体の裏面側の、円形蓋体と収容空洞部内壁との離間空間である環状の磁石収納空間内には、複数の円弧状の非可逆永久磁石が環状に配され、円形蓋体の裏面及び非可逆永久磁石と対向するように位置する、可逆永久磁石と、この可逆永久磁石の周囲に配された磁極切換用コイルが備わっており、また、収容空洞部の裏面開口を塞ぐ底面蓋体がベースプレート裏面に備わっており、底面蓋体と前記円形蓋体とはボルトで締結されているものであって、
さらに、前記環状体は、環状体の内周面にねじ溝を備え、ベースプレートの円形蓋体の外周面外縁部のねじ溝と螺合されながら前記固定面近傍離間部に嵌合されていること、を特徴とする磁気式クランプ装置である。
【0024】
本発明の第2の手段は、環状体の外径がベースプレートの磁石収納空間部の内径よりも大きく、環状体の内径が円形蓋体の磁石収納空間部の外径よりも小さいこと、を特徴とする第1の手段に記載の磁気式クランプ装置である。
【0025】
すなわち、環状体のリング幅は、非可逆永久磁石が収納されている円形蓋体と収容空洞部内壁との離間空間である環状の磁石収納空間よりも幅が広いものである。そこで、環状体の外周部と内周部は、それぞれベースプレートの収容空洞部内壁外縁部と円形蓋体の外周外縁部を跨ぐように配置されることとなる。
【0026】
本発明の第3の手段は、環状体とベースプレートの収容空洞部内壁とのねじによる螺合は、ねじの嵌め合い部に樹脂あるいはゴムを封止材として充填したものであること、を特徴とする第1又は第2のいずれかの手段に記載の磁気式クランプ装置である。
【0027】
本発明の第4の手段は、非磁性体からなる環状体がオーステナイトステンレス鋼からなる環状体であって、さらに、環状体の外周面はベースプレートの収容空洞部内壁外縁部と接着剤で封止されていること、を特徴とする、第1から第3のいずれかの手段に記載の磁気式クランプ装置。
【0028】
本発明の第5の手段は、環状体の裏面には非可逆永久磁石の厚みよりも狭い溝幅の環状凹溝が形成されており、この環状凹溝内に誘導起電力を測定する検出コイルが配されていること、を特徴とする、第1から第4のいずれかの手段に記載の磁気式クランプ装置である。
【0029】
本発明の第6の手段は、環状体は、固定面の高さよりも若干裏面側に奥まった位置に環状体の表面を配することで表面に浅溝を形成していること、を特徴とする、第1から第5のいずれかの手段に記載の磁気式クランプ装置である。
【0030】
本発明の第7の手段は、ベースプレートの各収容空洞部同士は、ベースプレート内に設けた配線用経路によって隣接の収容空洞部と連絡されていること、を特徴とする第1から第6のいずれかの手段に記載の磁気式クランプ装置である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の第1の手段によれば、固定面からみると、ベースプレートの収容空洞部の中央に鉄芯となる円形蓋体が配され、円形蓋体の周囲には環状体が環状体外周をベースプレートにねじで嵌め合うようにして螺合されており、また中央の円形蓋体は底面蓋体とボルトで締結されている。そこで、固定面から前方に環状体や円形蓋体が抜け落ちることがないので、ベースプレートと円形蓋体による固定面は面一な状態を保つことが容易となる。
【0032】
たとえば、固定面に隙間が0.5mm生じると磁気式クランプ装置のクランプ対象物に対するクランプ力は本来の60%以下に低下し、1mmの隙間ともなると本来の15%程度まで吸着力が落ちることとなる。非磁性体の環状体は、金型からの熱が伝わると熱膨張しやすいものであるところ、外周部がねじで螺合されていることから、嵌め合わされたひっかかりによって、環状体が固定面へと浮き上がることがなく、無用な隙間を生じさせる原因とならないので、クランプ力を妨げることがない。
【0033】
また、環状体は非磁性体なので、クランプ対象物に着磁しても、磁束を打ち消している場合も非磁性体には影響がないので、クランプ対象物に引き寄せられて浮き上がることがなく、環状体は外れにくいものとなっている。また、環状体が非磁性体であることから、クランプ時には磁束がクランプ対象物を通る一方で、環状体へと磁束が漏れていかないので、磁性体である場合のようにクランプ力が低下することもない。そこで、クランプ状態を適切に形成しやすく、扱いが容易となる。
【0034】
また、従来のようにベースプレートに凹状の非貫通な収容孔を形成する代わりに、第1の手段によればベースプレートに固定面から裏面までの貫通させた開口を形成すればよいこととなる。そこで、ガス溶断や機械加工により簡易かつ効率的に精度高く作業を進めることができる。すると、貫通された収容空洞部であれば加工難度が下げられるので、ベースプレートの機械加エコストが大幅に改善されることとなる。
【0035】
そして、環状体の固定のねじは、ねじが螺旋に周方向に巡っていることから、嵌め合い部の距離が長くなっている。そこで、ねじの嵌め合い部のクリアランスはねじ溝を細かくきることで非常に小さくすることができるので、ねじ精度を高めれば、ねじの締結だけでもシールド性を得ることができる。
【0036】
また、第2の手段によれば、環状体のリング幅は、非可逆永久磁石が収納されている円形蓋体と収容空洞部内壁との離間空間である環状の磁石収納空間よりも幅が広いので、環状体は、その外周と内周がベースプレートの収容空洞部内壁外縁部と円形蓋体の外周外縁部の双方を跨ぐようにして接触していることから、いわば両持ち状に支持される状態と同じ配置となっている。そこで、外部からの接触による不意の衝撃などに強く、円形蓋体から同一素材をフランジのように片持ちに突き出した鍔とする場合に比しても、より破損しにくいものとなっている。
【0037】
さらに、第3の手段のように環状体外周部のねじの嵌め合い部に封止剤を用いたときには、封止剤が流れにくく十分に保持された状態で締結できることとなる。そこで水密なシールドを維持しやすく、長期に保持できる。また、シールド性があがるのみならず、封止剤によって収納蓋体が回転しにくくなるので、繰り返しの使用によって回転して浮き上がることも抑制できる。
【0038】
さらに、第4の手段のように環状体の内周はねじで嵌め合いシールドし、外周面には接着剤を配することで、シールド性を得ることによって、水密性を得ることが容易にできる。環状体の外周と内周の径は、外縁部の離間空間にぴったり圧入されるように嵌合されることとなっているので、内周面の封止剤を用いたねじの嵌め合いと外周の接着剤によって、環状体がきっちりと嵌め合わされ容易には外れ抜けることもないことから、より安定的に水密性が保持されることとなる。
【0039】
また、ステンレス鋼は非磁性体であるが熱膨張率は黄銅よりも小さいので熱が伝わってくる環境にも強く、また腐食しにくいので、安定的に保持される。また、クランプ対象物によって環状体が外方から押されれば、へこんだり、傷つくことがありえるところ、ステンレス鋼は硬度が高く丈夫であることから衝撃に強く、とりわけ、またフランジのように片持ちに張り出す場合に比して曲がったり破損しやすくなることもない。
【0040】
また、第5の手段のように、環状体の裏面に環状凹溝が設けられている場合に、その溝幅が非可逆永久磁石の厚みより狭ければ、非可逆永久磁石は環状凹溝に入り込まず、空間を維持することができる。そこで、環状凹部内に配置された検出コイルは、非可逆永久磁石によってつぶされることがないので、磁極切換えにより適切にクランプ状態が形成されているかを、的確に把握することができる。
【0041】
また、第6の手段のように環状体の表面高さをクランプ面である固定面の高さよりもわずかに低くして環状体の上方を浅い溝状とすることで、クランプ対象物と環状体が接触して環状体が破損することを避けやすくなる。環状体が破損するとメンテナンスの手間があがってしまうことから、僅かでも環状体が奥に入っていることはメンテナンス負担を軽くすることとなり、管理コストを低減することになる。また、この浅溝による隙間があると、その隙間の空間には磁束が漏洩しにくい。すると、クランプ状態のときには、クランプ対象物に磁束が集中することから、クランプ対象物内の磁束密度が下がることがない。浅溝による隙間と環状体が非磁性体であることとが相俟って、クランプ力を低下させることなく、クランプ対象物をしっかり固定させることができる。
【0042】
ところで、本発明では、アルニコ磁石等の可逆永久磁石の磁極を反転させるために、磁極切換用コイルを備えているので、収容空洞部内に電気配線が必要となるところ、複数の磁力発生機構が並列に配されていることから、打ち消し状態、クランプ状態を、一斉に通電で切り換えることとなる。それには、隣接する磁力発生機構と連動させていくことが有用であるも、ベースプレートの固定面と裏面の双方とも、収容空洞部をシールドしておくことが望まれている。この点本発明の第6の手段によると、ベースプレート内の隣接する収容空洞部同士の間を一部切り欠いたり内部に連絡孔を開口するなどして連絡して配線用経路が形成されているので、固定面、裏面の双方の外部に配線が露出せず、短絡等の危険性が低減されつつ、シールドも保持されることとなるほか、装置全体の安定性も確保しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の実施例に係る磁力式クランプ装置の磁力発生機構の分解斜視図である。
図2図1の磁気式クランプ装置のベースプレートの一部を拡大して、固定面側から俯瞰した平面模式図である。
図3図1の磁力発生機構の横断面図である。
図4図3の磁力発生機構の環状体の周辺Cの箇所を3倍に拡大した部分拡大図である。
図5】磁力式クランプ装置のクランプ状態のときの磁路を模式的に説明する説明図である。
図6】磁力式クランプ装置の打ち消し状態のときの磁路を模式的に説明する説明図である。
図7】(a)は本発明の実施例に係る磁力発生機構6基をマトリックス状に配した磁力式クランプ装置の平面図であり、(b)は(a)のA-A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しつつ以下に説明する。
まず、磁力式クランプ装置(1)は、表面側の固定面(10)をクランプ面としてクランプ対象物(射出成形機の金型、機械加工に供せられるワークピース等)が固定されるベースプレート(2)と、このベースプレート(2)にたとえば6~35個程度開口する円筒状の各収納空洞部(4)に収納される磁力発生機構(3)によリ、クランプ対象物(30)を脱着自在に磁力で固定することのできる磁力式クランプ装置(1)である。図7には、ベースプレート(2)に3個×2列の6個の収容空洞部(4)を備え、磁力発生機構が6基連携して作動する磁力式クランプ装置(1)を例示している。
【0045】
なお、本願の磁気式クランプ装置(1)は、クランプ面を上面、下面、垂直面に向けて位置させることができるものである。以下の説明に際しては、クランプ面、すなわちクランプ対象物の固定面(10)を上に、底面蓋体(12)の配される磁気式クランプ装置取付部(31)を下とした位置関係で説明することとするが、あくまでクランプする固定面(10)の向きは説明のためのものであってこれに限られることはない。また、以下では具体的な数値を摘示して示すが、あくまで一例であってこれに限られるものではない。
【0046】
まず、ざっと磁力発生機構(3)の構成を説明する。固定面(10)を上にすると、収容空洞部(4)内には、磁力発生機構(3)として、上から順に、中央に円形蓋体(6)、その周囲に環状体(23)、環状体(23)の下の磁石収納空間(14)の円形蓋体(6)の外周に非可逆永久磁石(7)を多数環状に配し(磁極は外周と内周に位置する。)、円形蓋体(6)の下に可逆永久磁石(8)のアルニコ磁石を磁極が上下方向となるように配し、アルニコ磁石の外周に、アルニコ磁石の磁極切換用コイル(9)を通電可能に巡らせている。そして、ベースプレートの裏面側には底面蓋体(12)が配されて、可逆永久磁石(8)を貫く固定用ボルト(13)で円形蓋体(6)の裏面と締結されている。
【0047】
さて、ベースプレート(2)は、たとえば軟質磁性材料の低炭素鋼を用いたもので、設計上のクランプ可能重量にもよるが、その板材の厚みはたとえば30mm~60mm程度である。以下では、ベースプレート(2)の厚みが38mmの場合を例に説明する。なお、ベースプレート(2)の形状は長方形か正方形などの矩形が通常であるが、固定面が平坦であれば、これらに限られるものではない。そして、ベースプレート(2)には、クランプ面となる固定面(10)からベースプレート(2)の裏面(11)へと厚み方向に貫通する断面円形の収容空洞部(4)がベースプレート(2)に多数備わっている。たとえば、収容空洞部(4)の直径は非可逆永久磁石の収納部が78mmである。そして、収容空洞部(4)の径は深さ方向で異なっている場所を設けることができ、たとえば、固定面近傍の収容空洞部内壁外縁部(4a)が直径80mm、非可逆永久磁石収納部が直径78mm、裏面開口部(5)での直径が86mmと、多段的な形状になっていてもよい。そして、隣接する収容空洞部とは、たとえば15~20mm程度離れている(収容空洞部の中心同士の離間距離だと95~100mm程度である。)。収容空洞部とはベースプレート内に配線用経路(15)が開口している。
【0048】
なお、ベースプレート(2)の構造に関しては、(内径を中央部でやや小径とすることがあるものの)収容空洞部(4)の開口は円筒状に貫通させるものであるから、複雑な機械加工は必要がなく、小径のエンドミルによる機械加工を行う必要がないので、簡単に安価に収容空洞部(4)を形成することができる。ベースプレートの固定面表面は平滑面であるから、クランプ力が無駄なく発揮しやすいものとなっている。
【0049】
収容空洞部(4)の表面寄り、すなわちベースプレート(2)の固定面近傍の収容空洞部内壁外縁部(4a)は、深さ4.7mmにわたって、1mm幅に溝が切削されており、固定面近傍のみ開口の外径は80mmである。この1mm幅の溝に、環状体(23)の外周部が嵌まることとなっている。なお、環状体(23)の厚みはたとえば4.2mmとしておくと、環状体(23)は固定面(10)から0.5mm奥まった位置に配することができる。
【0050】
そして、収容空洞部(4)の固定面寄り中心部には、厚み20mm外径70mmの円形蓋体(6)が配されている。なお、円形蓋体の固定面寄りの外周外縁部(6a)には深さ4.7mmにわたって外径が66mmとなっており、2mm幅で細くなった周壁には、0.5mm幅の雄ねじ(6b)のねじ溝が設けられている。環状体(23)の内周部(24)には、この雄ねじと螺合されるように雌ねじ(24a)が設けられており、円形蓋体(6)の外周外縁部(6a)とベースプレートの収容空洞部内壁外縁部(4a)との間に環状体(23)が嵌まり込んで固定される際には、環状体の内周部(24)の部分で、雌ねじ(24a)と雄ねじ(6b)とが螺合されて嵌まり合うこととなる。
【0051】
なお、各磁力発生機構(3)の表面側は、クランプ力を十分に得るために、軟質磁性材料からなる円柱状の円形蓋体(6)の表面高さは、ベースプレート(2)の固定面(10)の高さと揃えられている。具体的には、磁力発生機構を収納した後、クランプ面の表面を研磨するなどして面一になるよう揃えておく。その際、環状体(23)は、0.5mm深い位置にあるので、研磨の際にも環状体(23)がひっかかって邪魔になることはなく、使用中もクランプ対象物と直接接することがないので、環状体(23)は、0.5mmの深さの浅溝(16)とすることで、破損しにくくなっている。
【0052】
さらに、ベースプレート(2)の裏面に配した底面蓋体(12)は、円形蓋体(6)の裏面と固定用ボルト(13)で締結することで円形蓋体(6)を裏面側から係止している。そこで、クランプ状態でも、円形蓋体(6)はクランプ面から浮き上がることがなく固定面(10)より上方に抜けないようになっている。すなわち、クランプ状態、打ち消し状態を繰り返しても、固定面(10)の高さを面一な状態が正しく保持されるものとなっており、使用に応じて隙間を生じるなどしてクランプ力が低下するといったことも生じにくくなっている。
【0053】
すなわち、ベースプレート(2)の収容空洞部(4)の裏面部開口(5)を塞ぐように底面蓋体(12)がベースプレート(2)の裏面から収容空洞部(4)を覆っている。また、底面蓋体(12)は軟質磁性材料であることから、底面蓋体と対向する位置に配された可逆永久磁石(8)、すなわちアルニコ磁石に引き寄せられることで保持されてもいる。底面蓋体(12)は、裏面から磁気式クランプ装置取付部(31)への漏洩磁束を防ぐ役割もあることから、ある程度の厚みを持たせた軟質磁性材料となっており、底面蓋体(12)の厚みは、たとえば15mmである。アルニコ磁石は円形蓋体(6)と底面蓋体(12)に接する部位をN極もしくはS極としており、クランプ状態と打ち消し状態とで可逆的に磁極を逆転させることとなるが、いずれの極性であっても、両端で対向する円形蓋体(6)や底面蓋体(12)をそれぞれ引き寄せることとなる。
【0054】
次に、円柱状の円形蓋体(6)は、収容空洞部(4)の中心に配されるので、収容空洞部内壁面(4b)とは約4mm離間しており、固定面近傍に配される環状体(23)の直下がドーナツ状に離間した空間となっており、この環状の離間空間を磁石収納空間(14)としている。この環状の磁石収納空間(14)には、全体があわさると外径78mm内径70mm高さ15mmの環状となる、放射状に分割された厚み4mmの円弧状切片(たとえば放射状に8分割されている。)からなる非可逆永久磁石(たとえばネオジム磁石)(7)が収納されている。
【0055】
本発明の非可逆永久磁石(7)とは、保磁力の高いフェライト磁石やネオジム磁石などのいわゆる永久磁石のことであり、磁化の強いネオジム磁石(Nd-Fe-B系磁石)が好適である。なぜなら強力なネオジム磁石を用いることで厚みを薄くすることができるので、所望のクランプ力を得るための磁気式クランプ装置全体の厚みを薄くすることができるからである。装置の厚みが薄くなれば、クランプ対象物のワークの可動スペースが確保しやすくなるので、この磁気式クランプ装置を金型反転装置などに応用する場合には、周囲の空間が広くなることともなる。なお、このネオジム磁石は、外周あるいは内周をN極やS極といった磁極の向きとした磁石である。
【0056】
次に、環状体(12)の裏面側に形成されている環状凹溝(18)について説明する。図3に示す環状体の周囲Cの拡大図を図4に示す。図4では環状体(23)の左が内周であり、円形蓋体(6)である。環状体(12)は、磁石収納空間(14)よりも幅が太く、磁石収納空間(14)の直上となる環状体(12)の裏面に検出コイル(17)を収納するための環状凹溝(18)が設けられている。この環状体(12)は、非磁性体であり、たとえば、オーステナイトステンレス鋼からなる。
【0057】
たとえば、約4~4.5mm幅の環状の磁石収納空間(14)に対して、環状体(12)は、7mm弱の幅とし、円形蓋体外周外縁部(6a)に環状体の内周部(24)をねじ(6b,24a)で螺合し、収容空洞部内壁外縁部(4a)に環状体(12)の外周部(25)を嵌めあわせてシールドされているので、環状体(12)は、幅の狭い磁石収納空間(14)に落ち込むことがなく、クランプ対象物が意図せずぶつかった場合でも、環状体(12)は、深さ方向に曲がったり破損したりしないので、シールド性が失われにくくなっている。そして、ねじ部はねじ封止剤を、外周部(25)には接着剤を配することで、さらにシールド性を持たせている。そして、この封止のためのねじ用のシール剤としては、ナイロン樹脂、シリコーン樹脂、アルキッド樹脂、フッ素系樹脂、ブチルゴムなどのプレコート系のシール剤をねじ山にあらかじめ塗布しておき、ねじを螺合するものが種々に適用できる。また、シールド用の接着剤としては、金属同士を接着するのに適した接着剤であれば広く適用しうるが、シールド性を保持するには、熱膨張に追従しうる弾性力を持ち合わせている接着剤が好適である。
【0058】
また、ねじの溝にからみあうように硬化触媒を含んだガム性状のメタクリル酸エステルと、ねじの嵌め合いで放出される硬化剤のマイクロカプセルを配合した、ガム状シール剤を用いると、ねじ溝に数周巻き付けるようにして塗布すれば流れずにねじ溝に留まることができるので、締めつけ時に締めつけられた箇所でマイクロカプセルから開放された硬化剤によって適切に硬化することとなり、適切なシール性が得られる。
【0059】
そして、ねじ溝の嵌め合い誤差は小さいほうがシール性が高いので、できるだけ精度よく加工しておくことが好ましいが、シール剤を用いれば、たとえばガム状シール剤などを組み合わせると、ねじのクリアランス精度に左右されずに一定のシール性が確保しうるものとなる。
【0060】
さらに、環状体(12)は4.2mmの厚みであるところ、その裏面には、幅3mm深さ2mm弱の環状凹溝(18)が設けられている。この環状凹溝は、環状に配される非可逆永久磁石(7)の4mm程度の厚みよりも幅が狭いので、非可逆永久磁石によってその空間が押し潰されることがない。そして、この環状凹溝内に、0.8mm程度の直径の検出コイル(17)を配する。
【0061】
そして、環状凹溝(18)に配された検出コイル(17)は、クランプ状態の着磁状態のときには、誘導起電力を計測して、磁束の強さを検出することで、クランプ力が所期のとおり得られているかを確認することができ、これによりクランプ状態に問題がないかを確認して安全にクランプすることができるようになっている。
【0062】
そして、非可逆永久磁石(7)(ネオジム磁石)は環状の磁石収容空間(14)の形状に沿うように円弧状に3~8個程度に等分割されており、軟質磁性材料の円形蓋体(6)を囲むように環状に配されて用いられる。実施例の図面上は8分割されたものを示すが、これに限られない。これらの磁石の磁極の向きは、外周がS極であれば内周がN極、外周がN極であれば内周はS極となるように、1つの磁力発生機構内では磁極の向きを揃えて配置している。さらに、隣接する磁力発生機構同士では、磁極を反転させた配置としておき、隣接する磁力発生機構(3,3)同士で互い違いの磁極にしておくこともできる。
【0063】
本発明にいう軟質磁性材料とは、軟鉄、低炭素鋼、ケイ素鋼、パーマロイなどの磁化され易く保磁力の小さい高透磁率磁性材料である。本発明の実施例では、たとえば、ベースプレート(2)、円形蓋体(6)、底面蓋体(12)のいずれも、同質の低炭素鋼を用いたもので説明することとしている。もちろん、必ずしもすべてが同じ素材である必要はない。また、ケイ素鋼のいわゆる電磁鋼板を用いることもできる。
【0064】
さて、軟質磁性材料からなる円形蓋体(6)を鉄芯として、その外周部の磁石収容空間(14)にネオジム磁石が磁極を揃えて環状に配され、円形蓋体(6)の裏面には、上底・下底をそれぞれ磁極とする直径約66mm厚さ18mmの円柱状のアルニコ磁石が可逆永久磁石として配されている。なお、磁石中央には、固定用ボルト(13)が挿通される貫通孔が上下に開口している。そして、アルニコ磁石の外周には、磁極切換コイル(9)が配置され、アルニコ磁石の下底には底面蓋体(12)が位置している。
【0065】
本発明の可逆永久磁石(8)とは、可逆永久磁石の周囲に配した磁極切換コイル(9)に通電することで、その磁極を反転させることができる特性の磁石のことであり、たとえばアルニコ磁石が好適である。
【0066】
さて、ベースプレート(2)内において、複数の磁力発生機構(3)は、複数行複数列(例えば、3行2列)のマトリックス状に並列に配列することができる。もちろん、これに限らず複数行複数列のマトリックス状で6組以下、6組以上の磁力発生機構(3)を組み込んでもよい。さらに、複数の磁力発生機構(3)は、必ずしもマトリックス状に配置する必要はない。
【0067】
隣接する磁力発生機構(3)は近接して配置され、列方向に隣接する収容空洞部(4)の中央部には、アルニコ磁石の周囲に配される磁極切換用コイル(9)の配線を互いに連結するための配線用経路(15)が形成され連通されている。磁極切換用コイル(9)の外周側に、その配線を配設するための円筒状スペースが形成されており、この円筒状スペースが配線用経路(15)で連通されている。これにより、底面蓋体の外に配線を露出させずとも配線が連絡できることとなる。配設後、余分の隙間に合成樹脂製の封止材が充填される。但し、前記封止材は必須のものではないので省略することも可能である。これらの複数の磁力発生機構(3)は互いに協同連携して動作しているので、クランプ状態、打ち消し状態の双方を磁極切換用コイル(9)に通電させることで一斉に連動して行っている。
【0068】
アルニコ磁石の磁極は、磁極切換用コイル(9)に所定短時間通電することで切換えて逆転させることができる。磁極切換用コイル(9)は、縦断面溝形の合成樹脂性のケース部材に多重に巻装したものであり、磁極切換用コイル(9)は、アルニコ磁石に対して鉛直方向の磁界を付加することができるように構成されている。
【0069】
各収容空洞部(4)と、円形蓋体(6)とは、固定面と面一な高さになるまで嵌め込んでいく。このとき、ベースプレート(2)の固定面(10)と円形蓋体(6)の表面の高さは一致するものとしておく。隙間が空くと、クランプ対象物へのクランプ力が十分に伝わらなくなるからである。たとえば、0.5mm生じると磁気式クランプ装置のクランプ力は本来の60%以下に、1mmの隙間ともなると本来の15%程度まで吸着力が落ちる。そこで、円形蓋体(6)は、ベースプレート(2)に組み付け時に、ほぼ固定面と面一な高さとなるものの、さらに表面を平滑にするべく、固定面表面を研磨してより平滑化、面一化することが望ましい。
【0070】
なお、磁気式クランプ装置(1)は、ベースプレート(2)の収容空洞部(4)内に磁力発生機構(3)の各構成部材を順次重ねた後に底面蓋体(12)を固定用ボルトで円形蓋体(6)と締結することによって固定するようにする。以下の組立手順に限られるものではないが、たとえば、面蓋体(12)の上にベースプレート(2)を載せ、収容空洞部(4)の中央裏面から固定用ボルト(13)を突き出し、アルニコ磁石(8)の中央貫通孔(19)を固定用ボルト(13)に通す。次いで、アルニコ磁石(8)の周囲に磁極切換用コイル(9)を配し、隣接する磁極切換用コイル(9)へと配線用経路(15)を介して配線する。そして、円形蓋体(6)を可逆永久磁石(アルニコ磁石)(8)の上に重ね置き、周囲の環状の磁石首脳空間(14)に8片の非可逆永久磁石(ネオジム磁石)(7)を順次奥まで挿し入れた後、検出コイル(17)を載せ、上から環状体(23)を回転させながらねじを螺合する。なお、検出コイル(17)の結線は、8片の磁石の隙間を通して、磁極切換用コイル(9)の周囲に設けた配線と接続されている。
【0071】
次に、以上の磁力式クランプ装置(1)の作用、効果について説明する。
まず、本発明の磁気式クランプ装置(1)は、打ち消し状態からクランプ状態に切り換えることで、クランプ対象物(30)を固定面(10)上に磁力で保持する装置であり、切り換え動作は、磁極切換用コイル(9)で発生させる磁束によって、アルニコ磁石(8)の磁極の向きを変えることで行う。すなわち、所定方向の電流を磁極切換用コイル(9)に短時間通電すると、アルニコ磁石(8)の磁界の方向が反転し、図6の打ち消し状態の磁束(21)の状態から図5の磁束(20,22)の状態へと切換えられる。その結果、永久磁石(7)による磁束(20)と、アルニコ磁石(8)による磁束(22)が相俟って、図5に示すような磁路となり、磁性体からなるクランプ対象物(30)を介して閉ループ状の磁路が形成され、クランプ状態となる。
【0072】
これにより、クランプ対象物(30)が磁力によリベースプレート(2)と磁力発生機構(3)の固定面(10)に吸着されるようにして磁力で固定される。
また、非可逆永久磁石(7)の上方には、非磁性体のステンレス鋼からなる環状体(23)が配されているので、クランプ状態のときに、クランプ対象物(30)に磁束が流れる際に、非磁性体の環状体(23)やその上の隙間である浅溝(16)には磁束が漏洩しにくく、クランプ力が落ちることがない。
【0073】
図5のクランプ状態から図6の打ち消し状態に切換える際には、磁極切換用コイル(9)に、上記と逆向きの電流を短時間所定長さ通電する(たとえば、0.5~3秒程度。)。すると、アルニコ磁石(8)の磁極の方向が反転して図6のように磁界が切り替わる。非可逆永久磁石(7)による磁束(20)と、可逆永久磁石(8)による磁束(21)が図6に示すようになり打ち消される。すると、クランプ対象物(30)への磁束の漏洩は殆ど生じなくなるので、クランプが解除され、固定面(10)から容易に取り外すことができる。
【0074】
以上の構造の磁気式クランプ装置(1)は、ベースプレート(2)を水平姿勢にして上下面の一方を固定面(10)として用いたり、これを水平状態からクランプしたままさらに上下に回転させて反転させる金型反転装置のようなものに適用することができる。また、ベースプレート(2)を垂直に立てた状態で、クランプ面を垂直面として用いることとし、射出成形機の可動盤や固定盤において金型を固定するクランプ装置のクランプ部分に採用することもできる。本発明の固定面(10)は、液蜜性があるので、冷却クーラントなどが装置内部に侵入しにくくなっていることから、射出成形の金型などにも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 磁力式クランプ装置
2 ベースプレート
3 磁力発生機構
4 収容空洞部
4a 収容空洞部内壁外縁部
4b 収容空洞部内壁面
5 裏面開口部
6 円形蓋体
6a 外周外縁部
6b 雄ねじ
7 非可逆永久磁石(ネオジム磁石)
8 可逆永久磁石(アルニコ磁石)
9 磁極切換用コイル
10 (ベースプレートの)固定面
11 (ベースプレートの)裏面
12 底面蓋体
13 固定用ボルト
14 磁石収納空間
15 配線用経路
16 浅溝
17 検出コイル
18 環状凹溝
19 貫通孔
20 磁束
21 磁束
22 磁束
23 環状体
24 内周部
24a 雌ねじ
25 外周部
30 クランプ対象物
31 磁気式クランプ装置取付部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7