(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】マメ類の生産方法
(51)【国際特許分類】
A01G 22/40 20180101AFI20220624BHJP
A01G 24/25 20180101ALI20220624BHJP
A01G 24/18 20180101ALI20220624BHJP
A01G 24/30 20180101ALI20220624BHJP
A01G 24/48 20180101ALI20220624BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20220624BHJP
A01G 2/10 20180101ALI20220624BHJP
A01G 31/00 20180101ALI20220624BHJP
【FI】
A01G22/40
A01G24/25
A01G24/18
A01G24/30
A01G24/48
A01G7/00 601A
A01G7/00 601Z
A01G2/10
A01G31/00 601D
A01G31/00 612
A01G31/00 615
(21)【出願番号】P 2019082740
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000201641
【氏名又は名称】全国農業協同組合連合会
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】緒方 翔
(72)【発明者】
【氏名】川城 英夫
(72)【発明者】
【氏名】粉川 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】森永 靖武
(72)【発明者】
【氏名】東野 裕広
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-116628(JP,A)
【文献】特開2017-163968(JP,A)
【文献】特開平8-172914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 22/40
A01G 24/00
A01G 7/00
A01G 2/10
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養土にマメ類を播種し、該種子が子葉を展開した後、地際から切断して育苗用の培地に挿し穂し、温度及び日長処理が可能な育苗装置内で育苗した後、養液栽培を行う本圃に定植することを特徴とするマメ類の生産方法。
【請求項2】
前記育苗用の培地は、ウレタン又はロックウール又はヤシガラなどの固形培地であることを特徴とする請求項1記載のマメ類の生産方法。
【請求項3】
前記養液栽培は、薄膜水耕(NFT)栽培であることを特徴とする請求項1又は2記載のマメ類の生産方法。
【請求項4】
前記マメ類は、エダマメまたはインゲンであることを特徴とする請求項1
乃至3のいずれか1項記載のマメ類の生産方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の方法によるマメ類の生産を、1年の間に気温に応じて異なるマメ類を組み合わせて行い、マメ類を周年で生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エダマメやインゲン等のマメ類の生産方法に関し、詳しくは、品質の良いマメ類を周年に亘って多収穫することができるマメ類の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マメ類は、タンパク質や食物繊維、ビタミン等の栄養素を豊富に含んでいることから、従来から健康食品として注目されており、特に、エダマメやインゲンは手軽に調理できることから、家庭や、居酒屋等の外食産業の業務店で多く供されている。しかし、エダマメやインゲンは周年に亘って収穫することが難しく、エダマメでは、収穫時期が5月から10月ぐらいまでと限られており、冬場の需要には応えられなかった。このため、冷凍保存したエダマメを冬場に提供できるように、エダマメの冷凍方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1に示されるように冷凍保存したエダマメでは、収穫したものをすぐに調理したものに比べて品質・食味が低下する問題があった。
【0005】
そこで本発明は、周年に亘って、高品質なマメ類を多収穫できるとともに、新鮮で食味の良いマメ類の生産方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のマメ類の生産方法は、培養土にマメ類を播種し、該種子が子葉を展開した後、地際から切断して育苗用の培地に挿し穂し、温度及び日長処理が可能な育苗装置内で育苗した後、養液栽培を行う本圃に定植することを特徴としている。
【0007】
また、前記育苗用の培地は、ウレタン又はロックウール又はヤシガラなどの固形培地であると好適である。さらに、前記養液栽培は、薄膜水耕(NFT)栽培であると好ましい。また、前記マメ類は、エダマメまたはインゲンであると好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のマメ類の生産方法によれば、培養土にマメ類を播種することで、種子を安定して発芽させることができる。さらに、前記種子が子葉を展開した後、地際から切断して養液栽培用の培地に挿し穂して栽培することにより、徒長を抑制することができ、草丈の短い苗を育成することができる。さらに、徒長が抑制された苗を温度及び日長を制御した育苗装置内で栽培することにより花芽分化を促進し、短期間で良好に開花させることができる。また、育苗装置内で育苗した苗を、養液栽培を行う本圃に定植することにより、品質の良いマメ類を周年に亘って多収穫することができる。
【0009】
また、育苗用の培地として、ウレタン又はロックウール又はヤシガラなどの固形培地を用いることにより、通常の培養土と略同一の挿し穂成苗率を達成することができる。
【0010】
さらに、育苗装置内で育苗した苗を定植して薄膜水耕(NFT)栽培を行うことにより、小型の育苗装置内で曝気装置を設けることなく苗を良好に育てることができることから、コストの削減を図りながら、品質の良いマメ類を周年に亘って多収穫することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】エダマメを播種した状態を示す説明図である。
【
図2】播種後、子葉が展開した状態を示す説明図である。
【
図3】苗をウレタンマットに挿し穂した状態の説明図である。
【
図4】苗を養液栽培用装置の栽培槽に定植した状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をエダマメの生産方法に適用した一形態例について
図1乃至
図4に基づいて説明する。
【0013】
まず、
図1に示されるように、培養土にエダマメを播種する。
図2に示されるように播種した種子が子葉を展開したら、
図3に示されるように地際から切断して、育苗用のウレタンマットに挿し穂し、挿し穂された苗は、育苗装置内(三菱ケミカルアグリドーム株式会社製造「苗テラス」)で栽培される。次いで、
図4に示されるように、育苗装置内で十分に育った苗は、養液栽培用装置の栽培槽に定植され、養液栽培される。
【0014】
表1はエダマメの品種として、茶豆中生品種を用いて、セルトレイで育苗した培養土苗と、挿し穂した挿し穂苗とを比較したものである。挿し穂苗は短節間となり、培養土苗よりも草丈が短くなった。
【0015】
【0016】
挿し穂された苗は、挿し穂していない苗と比較し短節間となり、育苗装置における長期間の育苗が可能となる。育苗装置内にて15℃以上の室温で、12時間の日長下で育苗されることにより、花芽分化が促進される。
【0017】
表2は、茶豆中生品種を用いて、土耕栽培と挿し穂を用いた場合を比較したものである。挿し穂して、12時間の日長処理をした日長処理苗は、直播して、日長処理をせずに育成した日長無処理苗よりも開花までの日数が9日早いことが分かった。
【0018】
【0019】
表3は、茶豆中生品種と、茶豆と普通種とを交配して育成された極早生品種を、上記日長処理苗の条件(培養土に播種後、挿し穂、12時間日長処理)で育苗し、開花までの日数を比較したものである。表3に示されるように、食味の良い茶豆中生品種の開花までの日数を、極早生品種の開花までの日数と同様の日数にすることができた。
【0020】
【0021】
表4は、挿し穂する育苗用の各種培地の挿し穂成苗率を比較したもので、表4に示されるように、ウレタン,ロックウール,ヤシガラは、何れも通常の培養土と略同一の挿し穂成苗率が達成され、どの培地を使用しても挿し穂が可能であると考えられる。
【0022】
【0023】
本形態例の養液栽培は、
図4に示されるような、養液栽培用装置1内(三菱ケミカルアグリドーム株式会社製造「ナッパーランド」)で、周知の薄膜水耕(NFT)栽培で行われる。養液栽培用装置1は、複数の樋状部材2と、これら複数の樋状部材2を傾斜するように支持して固定した栽培棚3と、複数の樋状部材2上に載置され、挿し穂した複数のウレタンキューブ4を配置する栽培トレイ5と、各樋状部材2に、配管6を介して養分を溶かした養液を供給するための循環ポンプ7と、養液を貯留する貯留タンク8とを備えている。薄膜水耕(NFT)方式では、ウレタンキューブ4から突出する根の大半部分が養液から露出し、酸素が根に供給されることから、曝気装置を設ける必要がなく、また、使用される培養液も他の水耕栽培に比べて少なく、さらに、培養液は循環して使用されることから、コストの削減を図ることができる。
【0024】
表5は、土耕栽培と薄膜水耕(NFT)栽培とで茶豆中生品種を育成した際の栽培日数を比較したものである。尚、表5の慣行(土耕)のB1は、直播して定植することなく収穫されるものである。また、在圃期間は、A1~A4では、定植から収穫までの合計期間、B1では、播種から収穫までの合計期間とした。表5に示されるように、薄膜水耕(NFT)栽培では、土耕栽培に比べて、収穫までに掛かる合計日数が10日近く短くなり、在圃期間は30日から40日程度短くなることが分かる。
【0025】
【0026】
表6及び表7は、土耕と薄膜水耕(NFT)で栽培したエダマメの収量を比較したものである。表6は平成30年に上述の形態例に基づいて茶豆中生品種を作付した結果を、表7は平成30年に上述の形態例に基づいて極早生品種を作付した結果をそれぞれ示す。なお、2粒莢以上のものを可販収量とした。また、平成29年の全国平均のエダマメ可販収量は、402kg/10aであった。上述の形態例に基づいて栽培したエダマメについては、土耕と比べて栽植密度を高めることができ、その結果、表6及び7からも分かるように、可販収量は全国平均の可販収量の3.8倍~4.2倍となっている。また、在圃期間が49日~52日となったことから、5作/9ヵ月(4月~12月)の作付が可能となり、慣行の約20倍の可販収量となる7,650kg/10a~8,450kg/10a程度を見込むことができる。
【0027】
【0028】
【0029】
本形態例は、上述のように、培養土にエダマメを播種することにより、安定して発芽させることができる。さらに、種子が子葉を展開したら、地際から切断してウレタンに挿し穂して、育苗装置内で生育させることにより、苗の徒長を抑制し、草丈を短くすることができ、光を苗に有効に当てることができる。これにより、良好な苗を育成できるとともに、育苗装置内で12時間の日長処理を行うことにより、開花の促進を図ることができ、定植後、開花するまでの日数を短くすることができる。
【0030】
さらに、育苗装置内で十分に育った苗を、養液栽培用装置内で、薄膜水耕(NFT)栽培されることにより、短期間で良好な作物を収穫できるとともに、従来の収穫量の3.8倍~4.2倍の可販収量を見込むことができる。また、温度管理や日長管理が可能な育苗装置や養液栽培用装置でエダマメを栽培することから、長期に亘って、高品質なエダマメを多収穫でき、価格の安定化を図ることができる。
【0031】
なお、本発明は上述の形態例のようにエダマメの生産に限るものはなく、インゲン,エンドウ,ダイズ,アズキ等、各種マメ類の生産に適用することができる。また、育苗装置内での日長処理は12時間に限るものではなく、育てる苗の種類に応じて適宜決定すればよい。さらに、エダマメは15℃以上で栽培されることが必要であることから、4月~12月はエダマメを作付けし、1月~3月は、8℃以上で栽培することができるインゲンを作付けすることで、暖房費の低減を図ることができ、作付けするマメ類を適宜組み合わせることにより、マメ類の周年栽培が可能になるとともに、高収益を見込むことができる。
【符号の説明】
【0032】
1…養液栽培用装置、2…樋状部材、3…栽培棚、4…ウレタンキューブ、5…栽培トレイ、6…配管、7…循環ポンプ、8…貯留タンク