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特許7094047地熱タービン翼のスケール除去方法および地熱発電方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】地熱タービン翼のスケール除去方法および地熱発電方法
(51)【国際特許分類】
   F03G 4/00 20060101AFI20220624BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20220624BHJP
   F01K 9/00 20060101ALI20220624BHJP
   F01K 25/00 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
F03G4/00 551
F01D25/00 R
F01K9/00 Z
F01K25/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021027987
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2021-03-04
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231372
【氏名又は名称】日本重化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【弁理士】
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】菱 靖之
(72)【発明者】
【氏名】川上 則明
(72)【発明者】
【氏名】伊計 杏
(72)【発明者】
【氏名】平山 駿一
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-85371(JP,A)
【文献】特表2013-518179(JP,A)
【文献】国際公開第2012/144277(WO,A1)
【文献】特開2013-43145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03G 4/00
F01D 25/00
F01K 9/00
F01K 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電中のタービンへ流入する地熱蒸気に、水酸化ナトリウム及び/または水酸化カリウムを含むアルカリ性溶液とキレート溶液を注入する工程と
該注入した溶液によりタービン翼に付着形成された地熱スケールを除去する工程を含むことを特徴とするタービン翼の地熱スケール除去方法。
【請求項2】
前記注入する溶液の量はタービン入口蒸気圧力に基づき決定することを特徴とする請求項1記載のタービン翼の地熱スケール除去方法。
【請求項3】
前記注入する溶液は、復水器からの復水、河川水または地下水により希釈後、前記地熱蒸気に注入されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタービン翼の地熱スケール除去方法。
【請求項4】
前記注入される溶液はpH10以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のタービン翼の地熱スケール除去方法。
【請求項5】
前記キレートはアミノカルボン酸系キレートであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のタービン翼の地熱スケール除去方法。
【請求項6】
タービンへ流入する地熱蒸気に、水酸化ナトリウム及び/または水酸化カリウムを含むアルカリ性溶液とキレート溶液を注入することを特徴とする地熱発電方法。
【請求項7】
地熱蒸気をタービンに送流する配管と、前記配管に接続されたタービンと、前記タービンに連結された発電機と、を備えた地熱発電システムにおいて、
前記地熱発電システムには、さらに、水酸化ナトリウム及び/または水酸化カリウムを含むアルカリ性溶液とキレート溶液が貯留されるタンクが備えられるとともに、
前記タンクはアルカリ性溶液とキレート溶液を地熱蒸気に注入できるように前記配管と接続されることを特徴とする地熱発電システム。
【請求項8】
前記タービンに流入する地熱蒸気は、SiOを0.1ppm超える量および/またはClを0.1ppm超える量含むことを特徴とする請求項7記載の地熱発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地熱タービン翼に付着したスケールの除去方法、および付着を防止した地熱発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地熱発電は二酸化炭素排出量が少ない自然エネルギーとして、よく知られた発電方法である。特に、同じ自然エネルギーである太陽光発電や風力発電は、様々な気象条件により発電量が変化するのに対し、地熱発電は安定的に発電できるため、ベースロード電源として活用できる点などにおいて、優位性を持つ。
【0003】
地熱発電と火力発電との違いは、火力発電においては燃料を燃やして蒸気を発生させ、その蒸気の力でタービンを回転させて発電するのに対し、地熱発電では地下から採取した蒸気を利用する点にある。このため、火力発電に比べ、二酸化炭素排出量を大幅に削減できる。しかし、その一方で地下から採取した蒸気は様々な化学成分を含有しているため、通常の火力発電ではみられない問題が生じる。
【0004】
その一つとしてスケールの付着問題が挙げられる。これは、地熱蒸気が発電に伴い状態変化することにより、蒸気中から様々な化学成分が析出する問題である。特にタービン翼にスケールが析出すると、発電効率に大きく影響を及ぼし、従来から問題となっていた。
【0005】
このため、地熱発電所においては、定期的にタービンを停止させ、サンドブラスト等によりタービン翼に付着したスケールを除去する方法等が採られている。
【0006】
サンドブラスト等でスケールを直接的に除去する方法以外としては、例えば、タービン入口部で地熱蒸気に水を注入することにより、タービン翼に析出したスケールを除去する方法が開示されている(特許文献1)。
また、特許文献2には、タービン入口部でアルカリ溶液を注入することにより、タービン翼に析出したシリカと食塩を主成分とするスケールを除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平2-197693号公報
【文献】特開昭58-85371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、地熱発電のニーズが急速に高まる中、発電コストを如何に抑えられるかが、普及拡大において重要な課題となっている。特に、地熱発電に特有なスケールが与える発電コストへの影響は無視できないものがあり、スケールの影響を抑える技術が望まれていた。
【0009】
しかし、従来から行われているタービン翼に析出したスケールをサンドブラスト等で直接除去する方法は、タービン翼を痛める可能性があるばかりでなく、スケール除去のためにタービンを停止する必要があるため発電を行うことができず、費用の面でも大きな負担となっていた。
【0010】
また、特許文献1や特許文献2に記載された方法は、タービンを停止することなくスケールを除去できるものの、スケールを充分に除去できるとはいえないものであった。また、スケール除去に要する時間も長いため、その分、タービンに与える損傷が高いものであった。
【0011】
タービン前で蒸気に注水をすると、注水した水は飽和熱水となりタービンに流入する。飽和熱水はタービンを通り復水器へ流れる過程で減圧沸騰する。減圧沸騰時にタービン翼表面ではキャビテーションが発生し、タービン翼にエロージョンが発生する。通常運転時には蒸気に飽和熱水はほとんど含まれておらず、キャビテーションの発生は少ないが、注水によりキャビテーションは大幅に増大することから、タービンへの注水は可能な限り短時間とすることが望まれていた。
【0012】
また、SiO2および/またはClが0.1ppm以上含まれる地熱蒸気をタービンに導入し発電に利用すること自体が避けられており、このため、高額なセパレータ等により、地熱蒸気性状の改善を図る必要があった。
【0013】
本発明はかかる課題を解決するものであり、その目的とするところは、従来よりもスケール除去効果を向上させ、短時間で地熱タービン翼に付着したスケールを除去できる技術を提供すること、タービン翼へのスケール付着を防止した地熱発電方法を提供すること、SiO2および/またはClが0.1ppm以上含まれる地熱蒸気をタービンに導入しても、タービンの開放清掃を行うことなく連続運転を可能とする地熱発電システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するためのタービン翼のスケール除去方法は、タービンへ流入する蒸気に、少なくともアルカリ性溶液とキレート溶液を注入することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るタービン翼のスケール除去方法は、
(a)前記注入する溶液の量は、タービン入口蒸気圧力に基づき決定すること、
(b)前記注入する溶液は、復水器からの復水により希釈後、蒸気に注入されること、
(c)前記注入される溶液は、pH10以上であること、
(d)前記キレートは、アミノカルボン酸系キレートであること、
を特徴とする。
【0016】
また、上記目的を達成するための地熱発電方法は、タービンへ流入する蒸気に、少なくともアルカリ性溶液とキレート溶液を注入することを特徴とする。
【0017】
また、上記目的を達成するための地熱発電システムは、蒸気をタービンに送流する配管と、前記配管に接続されたタービンと、前記タービンに連結された発電機と、を備えた地熱発電システムにおいて、さらに、少なくともアルカリ性溶液とキレート溶液が貯留されるタンクが備えられるとともに、前記タンクが前記配管と接続されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、タービン翼に付着しているスケールを従来よりも高い除去率で、また短時間で溶解することができる。また、タービンメーカーの推奨値を逸脱した性状の劣る蒸気も発電に利用することが可能となる。蒸気性状に関わるタービンメーカー推奨値とは、推奨範囲の蒸気性状であればタービンスケールが発生する可能性は低く、長期連続運転するために問題のない蒸気性状とされている。例えば、タービン流入蒸気中のSiO2、Clがともに0.1ppm以下とすることが多くのタービンメーカーに推奨され、これを超えるSiO2、Clを含む蒸気を定常的に用いた場合、タービンスケールが付着することが経験的に知られている。
【0019】
なお、本発明により上記効果が得られる理由は、以下の作用に基づくものと推察される。
【0020】
タービンに付着したスケールは主成分を非晶質シリカ、塩化ナトリウムとするが、その中にはわずかに(例えば5%程度)カルシウム、鉄、マグネシウム等で構成されるスケールが含まれている。例えば特許文献2に開示された方法は、シリカ成分を溶解させるためにタービン翼にアルカリ溶液を注入している。
【0021】
しかし、岩塩や非晶質シリカが溶解しても、カルシウムなどその他のスケールは骨粗鬆症のような状態(粗いスポンジ状)でタービン翼表面に残留し、蒸気通路を閉塞したままとなる。スケール中に含まれるカルシウム等は非晶質シリカとは別の鉱物を構成する元素として存在するため、スケールを完全に溶解するには至らなかったと推測される。
【0022】
これに対し、キレートを混合したことによりカルシウム等の元素が溶解され、タービン翼に残留するスケールが減少すると共にタービンスケール全体の溶解が促進されたと推察される。
よって、アルカリ溶液とキレート溶液との混合溶液をスケール溶解剤として用いることにより、アルカリ溶液を単独で用いた場合以上の効果を得ることが可能となったと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明における地熱発電設備の構成図である。
図2】実施例1における減量率(%)を表す図である。
図3】実施例1における各成分の溶解率(%)を表す図である。
図4】実施例2におけるタービン管理値を表す図である。
図5】従来の地熱発電設備の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施の形態1)
以下に、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明の形態はこれらに限られるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
【0025】
図5に地熱発電の設備に係る従来の構成を示す。地下から採取された蒸気は生産井1を介し地上に送られ、汽水分離器3に供給される。汽水分離器3では蒸気とともに地下から取り出された熱水が分離される。この分離された熱水は還元井2を介し地下に戻される。一方、分離された蒸気は配管41を介しタービン5に供給され、この蒸気の力で回転されたタービン5の回転力を利用し、発電機6により電気が生成される。生成された電気は図示しない送電線により送電される。
【0026】
蒸気はタービン5を経た後、復水器7にて冷却され凝縮し復水される。このように蒸気の凝縮により復水器内の圧力が低圧状態となるため、タービンの回転効率を向上させることができる。
復水は配管42を介し冷却塔8に供給、冷却され、配管43により再び復水器7へ還流され、復水器7における蒸気の冷却に供される。なお、地熱蒸気に含まれている非凝縮性ガスは、復水器7から配管44を介し大気放出される。
【0027】
次に、本発明の実施形態1を、図1を用いて説明する。図1においては、薬液タンク10、注入量調整器21、配管45、46が新たに備えられた点以外は、図5に示した従来例と同様である。
【0028】
薬液タンク10には、スケールを溶解除去するためのアルカリ溶液とキレート溶液の混合薬液(以下、「混合薬液」という。)が貯留される。アルカリ溶液としてはシリカスケールを溶解するものであればいずれのものでもよく、例えば、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液などが挙げられる。また、キレート溶液としては、カルシウム、鉄などの金属を溶解するものであればいずれのものでもよく、例えば、アミノカルボン酸系キレート剤、ホスホン酸系キレート剤、有機酸キレート剤が挙げられる。
【0029】
薬液タンク10内の混合薬液は、配管45を介し配管46を流れる復水に供給される。混合薬液の供給量は、タービンへ注入される注入水(以下、「タービン注入水」という。)のpHが所望の値になるように調整される。タービン注入水のpHとしては、アルカリ性を示すものであれば良いが、pH10以上の場合、高い除去効果を示すので好ましく、pH11.5以上の場合、より高い除去効果を示すので特に好ましい。
【0030】
混合薬液の供給量の調整は、配管45と配管46の合流部に設置される注入量調整器21において行われる。また、復水の注入量調整も注入量調整器21にて併せて行う。
【0031】
その後、タービン注入水は配管41を流れる地下からの蒸気と合流され、タービン5へ供給される。
【0032】
なお、混合薬液の供給相手として、復水に代え河川水や地下水等を用いることもできるが、溶存酸素による蒸気配管やタービン等への腐食を回避する上で、注入水は溶存酸素が少ないことが好ましい。復水器7における復水は真空脱気状態にあることから、溶存酸素が少ないため注入水として好ましい。
【0033】
混合薬液におけるキレート溶液の混合比率は、0.1wt%~1.0wt%とすることが好ましい。混合薬液中のキレート溶液の比率は、タービンスケールの構成鉱物により異なることから各発電所にて最適化が可能である。混合薬液中のキレート溶液の比率が0.1wt%より低いと、充分にスケールを除去できない。一方、キレート溶液の比率が1.0wt%より高いと、使用するキレート量の割にスケールを除去する効果が上がらない。また、混合薬液におけるアルカリ溶液の混合比率は、10wt%~25wt%とすることが好ましい。
【0034】
タービン注入水の注入量は、100t/hの蒸気量に対し、0.5~3t/hとすることが望ましい。これは、注入量が蒸気流量の0.5%より少ないと、充分にスケールを除去できなく溶解に時間を要する。溶解時間を短縮させるためには単位時間当たりの注入量が多いほど良いが、注入量が3%より多い場合、タービンのエロージョンのリスクが高まる。
注入量調整器21には、混合薬液と注入水の注入量を別々に調整する機能を備えている。
【0035】
薬液タンク10をアルカリ溶液とキレート溶液の混合薬液貯留用とすることに代え、アルカリ溶液用タンクとキレート溶液用タンクをそれぞれ個別に設けるとともに、各タンクからの溶液注入量制御部を設ける形態としても良い。薬液タンクを薬液ごとに分けることにより、両薬液を混合する工程を省略できるばかりでなく、スケールの除去状況に応じ、各薬液の混合比率を任意に設定することができるメリットが生じる。例えば、スケール除去作業開始当初は水またはアルカリ溶液を注入し、スケールの溶解速度が低下した場合、キレートの混合を開始する等の調節が可能となる。
【0036】
混合薬液は、配管45、46、41を経てタービン5へ至る構成となる。そして、配管46から配管41への混合薬液の合流場所は、汽水分離器3とタービン5の間であればどこでも良いが、タービン5に近い場所とすることが好ましい。この理由は、あまりタービン5から離れた場所とすると、合流場所とタービン5との間にドレインが設置されている場合があり、ドレインから混合溶液が漏出してしまうおそれがあるためである。すなわち、合流場所は、タービン5の上流側であってタービン5に最も近いドレインと、タービン5との間に位置することが好ましい。
【0037】
(実施の形態2)
地熱発電の技術分野においては、タービンにスケールが付着すると、タービンの開放清掃によるスケール除去が一般的に行われている。このためには、タービンの停止、すなわち発電の停止が余儀なくされる。そこで、こうした事態を避けるため、通常タービンメーカーによりタービンに導入する蒸気性状には、一定の品質が求められている。これは長期連続運転するために問題のない推奨値であり、これから外れる性状の蒸気を定常的に使用することで発生するトラブルは、タービンメーカーの補償範囲外とされる。
【0038】
例えば、タービン流入蒸気中のSiO2、Clがともに0.1ppm以下とすることが多くのタービンメーカーに推奨され、これを超えるSiO2、Clを含む蒸気を用いた場合、タービンスケールが付着することが経験的に知られている。
【0039】
これに対し、実施の形態1に記載された装置を用い、定期的に混合薬液の注入を行えば、常にスケール付着量を発電に支障のない一定量以下に抑制することができる。よって、性状が悪い蒸気を用いても、長期連続運転が可能となる。すなわち、従来蒸気性状が劣ることを理由に発電に利用することができなかった蒸気をも、発電に利用することが可能となる。
【0040】
なお、混合薬液の注入は、定期的に限らず、スケール付着量が一定量に達した場合にのみ行う不定期的な方法であってもよく、また、連続的に行うものであっても良い。
【0041】
特に、スケール付着量が一定量に達した場合にのみ混合薬液を注入する方法は、タービンへのダメージを最も少なくすることができ、より好ましい形態である。
【0042】
なお、スケール付着量が一定量に達したか否かの判断は、後述するタービン管理値あるいはタービン入口蒸気圧力が所定の値を超えたか否かによって行うことができる。
また、本実施の形態は、定常的に蒸気性状が劣る場合のみならず、非定常的に蒸気性状の品質が確保されない場合や、SiO2またはClの少なくとも一つが0.1ppmを超える場合についても適用し得る。
【0043】
(実施例1)
実際の地熱タービンから採取したスケール試料を用いて、本発明を実施した。
使用した溶液とpHを表1に纏めた。実施例の混合薬液は、まずEDTAを用いて0.1wt%の溶液を作成し、次いでNaOH溶液を少量加えてそれぞれのpHを約10、11、12に調整した。比較例のアルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム溶液を用いた。
【0044】
【表1】
【0045】
実際の地熱タービンから採取したスケール試料を粉末状にしたもの0.5gを表1に示した各溶液20mLとともにテフロン(登録商標)容器に入れ、更にテフロン(登録商標)容器全体を金属製の圧力容器に封入した。その後、反応温度130℃、反応時間24時間の条件で水熱合成反応装置(株式会社ヒロ社製、型式KH-01)を用いて反応させた。その際、反応容器を毎分6回転させ、スケール試料及び溶液の連続撹拌を図った。
【0046】
水熱合成反応後は、すべての試料において残渣が確認された。なお、反応前後でスケール試料の形態や色調に明瞭な変化は観察されなかった。確認された残渣の量に基づき数1に従い減量率(%)を算出した。算出した結果を図2に示す。
【0047】
【数1】
【0048】
図2から同等のpHの場合、キレートを混合させた混合溶液の方が常に高い減量率を示すことが認められた。特に、pH12においてこの差は顕著となった。このことから混合溶液の効果は、pH11.5以上において特に好ましいと認められる。
【0049】
次に、水熱合成反応後の試料に対し、ICP発光分析法にて各溶液の成分濃度分析を行い(株式会社島津製作所、型式ICPE-9000)、その濃度から数2に従い、各成分の溶解率を求めた。求めた各成分の溶解率を図3に示す。
【0050】
【数2】
【0051】
図3より、Ca、Fe、Mgはアルカリ溶液のみの場合、ほとんど溶解されないことが認められる。これに対し、混合溶液を用いれば、各成分とも一定程度溶解することが認められる。例えば、Caについては溶解率が約10倍向上する。
【0052】
SiO2は、pH同一の条件のもと実施例と比較例を比べると、すべてのケースにおいて、混合溶液の方がアルカリ溶液単独の場合よりも溶解率が向上している。特に、pH12においては、溶解率が最大となるとともに、溶解率の差が大きくなっている。これらのことから、スケールに含まれるCa、Fe、Mgが溶解されることにより、非晶質シリカと溶液の接触が増え、SiO2溶解率も上昇したと考えられる。
なお、その他の特徴として、SiO2の溶解率はアルカリ溶液下、混合溶液下のいずれの場合においても、溶液のpHに対し正の相関を示した。
【0053】
(実施例2)
次に、実際の地熱プラントにて本発明を実施した。
実施したプラントにおけるタービンは7MWの電力を発電するものである。
【0054】
本実施例では、アルカリ溶液としてNaOH25wt%とキレートとしてEDTA0.1wt%を混合した混合薬液を用いた。そして、復水に合流後の注入水のpHが11.0から12.0になるように、混合薬液の注入量を調整した。
【0055】
また、本実施例では、注入水の成分の違いによる洗浄効果を確認する目的で、上記の他に、復水のみ(pH4.5)、アルカリ溶液(NaOH)のみを復水に混合させpHを11.0から12.0に調整した洗浄液も、注入水として用いた。
【0056】
そして、まず第1段階として洗浄試験開始から約1時間は復水のみを1.2t/hの割合で注入し、その後、第2段階としてアルカリ溶液を用いた注入水を2.5時間(注入量1.2t/h)注入後、最後に第3段階として混合薬液を用いた注入水を19時間(注入量1.2t/h)注入した。
【0057】
また、洗浄効果の確認指標としては、タービン管理値を用いた。ここにタービン管理値とは、数3により定められる値であり、タービン翼のスケール析出が多いほど大きな値を示す。
【0058】
【数3】
【0059】
この結果を図4に示す。なお、図4において横軸の単位は時間(注入水注入開始時を0時0分とした。)、縦軸はタービン管理値を表す。各段階とも洗浄液を切替えてから10分~20分で洗浄効果が現れた。また、復水のみの場合、注入後1時間経過すると、ある程度スケール除去効果が収束したが、その後、第2段階としてアルカリ溶液を注入したところ、さらに除去効果が顕出され、2.5時間経過すると、除去効果が徐々に弱まった。第3段階として混合薬液を注入したところ、再びスケール除去効果が顕著に現れた。各段階ともにタービン管理値の低下率が一定になった時点で洗浄の停止判断が可能である。同様に、通常運転時(注水を行わずに発電を行っているとき)には、タービン管理値の上昇からタービン洗浄の実施時期を判断することができる。
【0060】
なお、各段階でのタービン管理値の減少は、全減少量に対し、第1段階(注入水のみ)で29.4%、第2段階(アルカリ溶液のみ)で48.1%、第3段階(混合薬液)では22.5%であった。
【0061】
実施例2により、スケール洗浄効果は、混合薬液が最も高く、次いでアルカリ溶液、復水が続くことが認められる。なお、洗浄効果の判断指標としてタービン管理値に代えタービン入口蒸気圧力の値を用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、地熱発電において、タービン翼のスケール除去、付着防止を、発電をしながら実用的に行うことが可能となるので、スケールによる発電量減少を招くことなく、安定的に発電を継続することができる。また、本発明により蒸気性状としてSiO2および/またはClを0.1ppm以上含む地熱蒸気を用いてもタービン翼の開放清掃等を実施することなく連続発電が可能となる。
【0063】
また、本手法は地熱発電に限定されることなく、シリカ成分やカルシウム成分等が溶存する蒸気を用いた火力式発電(温泉発電を含む)においても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 生産井
2 還元井
3 汽水分離器
41~46 配管
5 タービン
6 発電機
7 復水器
8 冷却塔
10 薬液タンク
21 注入量調整器
【要約】
【課題】従来よりもスケール除去効果を向上させ、短時間で地熱タービン翼に付着したスケールを除去できる技術を提供すること、タービン翼へのスケール付着を防止した地熱発電方法を提供すること、SiO2および/またはClが0.1ppm以上含まれる地熱蒸気をタービンに導入しても、タービンの開放清掃を行うことなく連続運転を可能とする地熱発電システムを提供する。
【解決手段】上記目的を達成するためのタービン翼のスケール除去方法は、タービンへ流入する蒸気に、少なくともアルカリ性溶液とキレート溶液を注入することを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5