(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 13/00 20060101AFI20220624BHJP
B60C 17/00 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
B60C13/00 D
B60C17/00 B
(21)【出願番号】P 2016026213
(22)【出願日】2016-02-15
【審査請求日】2018-12-18
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】名塩 博史
(72)【発明者】
【氏名】宮本 健史
【合議体】
【審判長】藤井 昇
【審判官】出口 昌哉
【審判官】筑波 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-279900(JP,A)
【文献】特開2008-302740(JP,A)
【文献】特開2010-168001(JP,A)
【文献】国際公開第2007/032405(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/114668(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 13/00 - 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤサイド部の表面に設けられた突起を備え、
前記突起は、頂面と、タイヤ回転方向前側の側面である前側面と、前記頂面と前記前側面とが交わる前辺部とを備え、
前記突起の前記前辺部は、タイヤ幅方向から見て、前記前辺部を通るタイヤ径方向に延びる直線に対して傾斜を有し、
前記突起の前記前辺部において前記頂面と前記前側面とがなす角度である先端角度は、90°未満であり、
前記タイヤサイド部の前記表面から突起の頂面までの距離である前記突起の厚さは、タイヤ径方向及びタイヤ周方向で一定であり、
前記突起の厚さは、前記突起の前記タイヤ径方向の任意の位置に
おける、タイヤ幅方向から見たときのタイヤ径方向に直交する方向の寸法である前記突起の幅よりも小さく、
前
記幅は10mm以上であり、
前
記幅は、以下を満たす、空気入りタイヤ。
R:タイヤ半径R
Rp:突起上の任意の位置のタイヤ回転中心からの距離
hRp:タイヤ回転中心からの距離Rpにおける
、タイヤ幅方向から見たときのタイヤ径方向に直交する方向の寸法である突起の幅
【請求項2】
前記タイヤ幅方向から見た、前記突起の前記前辺部の傾斜角度は、以下を満たす、請求項
1に記載の空気入りタイヤ。
a1:傾斜角度
【請求項3】
前記先端角度は45°以上65°以下である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記突起の前記頂面には、前記タイヤ周方向に沿って延びる突条と、前記タイヤ周方向に沿って延びる溝とが交互に設けられている、請求項1から3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、空冷のための複数の突起がタイヤサイド部に形成されたランフラットタイヤが開示されている。これらの突起は、タイヤの回転に伴うタイヤサイド部表面の空気流の乱流化を意図している。乱流化によって、タイヤサイド部表面近傍における空気流の速度勾配が大きくなり、放熱性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第WO2007/032405号
【文献】国際公開第WO2008/114668号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2には、タイヤサイド部表面近傍の空気流の乱流化以外の手法による放熱性向上は、教示されていない。
【0005】
本発明は、空冷による放熱を効果的に促進することで、空気入りタイヤの耐久性を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、タイヤサイド部表面近傍の空気流の速度勾配の最大化について、種々検討した。物体(例えば平板)が流体の流れの中に配置された場合、流体の粘性によって物体表面近傍では流体の速度が急激に低下することが知られている。流体の速度が急変する領域(境界層)の外側に、流体の速度が粘性の影響を受けない領域が形成される。境界層の厚さは物体の前縁から下流側に向けて増大する。物体の前縁付近の境界層は層流であるが(層流境界層)、下流側に向け、遷移領域を経て、乱流となる(乱流境界層)。本発明者は、層流境界層では流体の速度勾配が大きいため物体から流体への放熱効率が高いことに着目し、本発明を完成した。つまり、本発明者は、層流境界層における高い放熱性を、空気入りタイヤの空冷に適用することを着想した。本発明は、かかる新たな着想に基づく。
【0007】
本発明は、タイヤサイド部の表面に設けられた突起を備え、前記突起は、頂面と、タイヤ回転方向前側の側面である前側面と、前記頂面と前記前側面とが交わる前辺部とを備え、前記突起の前記前辺部は、タイヤ幅方向から見て、前記前辺部を通るタイヤ径方向に延びる直線に対して傾斜を有し、前記突起の前記前辺部において前記頂面と前記前側面とがなす角度である先端角度は、90°未満であり、前記タイヤサイド部の前記表面から突起の頂面までの距離である前記突起の厚さは、タイヤ径方向及びタイヤ周方向で一定であり、前記突起の厚さは、前記突起の前記タイヤ径方向の任意の位置に
おける、タイヤ幅方向から見たときのタイヤ径方向に直交する方向の寸法である前記突起の幅よりも小さく、前
記幅は10mm以上であり、前
記幅は、以下を満たす、空気入りタイヤを提供する。
R:タイヤ半径R
Rp:突起上の任意の位置のタイヤ回転中心からの距離
hRp:タイヤ回転中心からの距離Rpにおける
、タイヤ幅方向から見たときのタイヤ径方向に直交する方向の寸法である突起の幅
【0008】
突起は厚さが幅よりも小さい形状を有し、空気入りタイヤの回転時に、突起の頂面近傍の空気流は層流となる。層流(層流境界)の空気流は速度勾配が大きいため、突起の頂面の空冷による放熱が効果的に促進される。また、突起の幅は10mm以上に設定しているので、層流が形成することによる突起の放熱面積が十分に確保される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の空気入りタイヤによれば、回転時に、タイヤサイド部の表面に形成された突起の頂面の空気流が層流となるで、空冷による放熱が効果的に促進され、耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る空気入りタイヤの子午線断面図。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る空気入りタイヤの部分側面図。
【
図6】先端角度を説明するための突起の部分端面図。
【
図7】空気流の経路を説明するための突起の平面図。
【
図8】空気流の経路を説明するための突起の端面図。
【
図9】突起及び突起間の空気流の経路を説明するための模式図。
【
図12】第1実施形態と異なる前辺部の傾斜角度を有する突起を備える空気入りタイヤの部分側面図。
【
図19】本発明の第2実施形態に係る突起の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るゴム製の空気入りタイヤ(以下、タイヤという)1を示す。本実施形態のタイヤ1はサイズ245/40R18のランフラットタイヤである。本発明は、異なるサイズのタイヤにも適用できる。また、本発明は、ランフラットタイヤの範疇に含まれないタイヤにも適用できる。タイヤ1は、回転方向が指定されている。指定された回転方向を
図3に矢印RDで示す。
【0012】
タイヤ1は、トレッド部2、一対のタイヤサイド部3、及び一対のビード部4を備える。個々のビード部4は、タイヤサイド部3のタイヤ径方向の内側端部(トレッド部2とは反対側の端部)に設けられている。一対のビード部4間には、カーカス5が設けられている。カーカス5と、タイヤ1の最内周面のインナーライナー6との間には、補強ゴム7が配置されている。カーカス5とトレッド部2の踏面との間には、ベルト層8が設けられている。言い換えれば、トレッド部2では、カーカス5のタイヤ径方向外側にベルト層8が設けられている。
【0013】
図2及び
図3を参照すると、タイヤサイド部3の表面には、複数の突起11がタイヤ周方向に間隔をあけて設けられている。本実施形態では、これらの突起11の形状、寸法、及び姿勢は同じである。
図1では、リム(図示せず)の最外周位置P1からトレッド部
2のタイヤ径方向の最も外側の位置までの距離(タイヤ高さ)が符号THで示されている。突起11は、リムの最外周位置P1からタイヤ高さTHの0.05倍以上0.7倍以下の範囲に設けることができる。
【0014】
本明細書では、タイヤ幅方向から見た突起11の形状に関して「平面視」又はそれに類する用語を使用する場合があり、後述する内端面15側から見た突起11の形状に関して「端面視」又はそれに類する用語を使用する場合がある。
【0015】
図4及び
図5を参照すると、突起11は、本実施形態ではタイヤサイド部3の表面に沿って拡がる平坦面である頂面12を備える。また、突起11は、タイヤ周方向に対向する一対の側面、すなわち前側面13と後側面14とを備える。前側面13はタイヤ回転方向RDの前方側に位置し、後側面14はタイヤ回転方向RDの後方側に位置する。さらに、突起11は、タイヤ径方向に対向する一対の端面、すなわちタイヤ径方向内側の内端面15と、タイヤ径方向外側の外端面16とを有する。後に詳述するように、本実施形態における前側面13は、タイヤサイド部3の表面及び頂面12に対して傾斜した平坦面である。本実施形態における後側面14、内端面15、及び外端面16は、タイヤサイド部3の表面に対して概ね垂直に延びる平坦面である。
【0016】
前辺部17は頂面12と前側面13とが互いに交わる部分であり、後辺部18は頂面12と後側面14とが互いに交わる部分である。内辺部19は頂面12と内端面15とが互いに交わる部分であり、外辺部20は頂面12と外端面16とが互いに交わる部分である。前辺部17、後辺部18、内辺部19、及び外辺部20は、本実施形態のように鋭いないしは明瞭なエッジであってもよいが、端面視である程度湾曲した形状を有していてもよい。本実施形態では、前辺部17、後辺部18、内辺部19、及び外辺部20の平面視での形状は、いずれも直線状である。しかし、これらの平面視での形状は、円弧及び楕円弧を含む曲線状であってもよく、複数の直線から構成された折れ線であってもよく、直線と曲線の組み合わせであってもよい。
【0017】
図3を参照すると、前辺部17は、平面視において、前辺部17を通るタイヤ径方向に延びる直線に対して傾斜している。言い換えれば、前辺部17はタイヤ径方向に対して傾斜している。前辺部17のタイヤ径方向に対する傾斜角度a1は、前辺部17のタイヤ回転方向RDで最前方側の位置を通り、かつタイヤ径方向に延びる基準直線Lsと、前辺部17が延びる方向(本実施形態では直線である前辺部17自体)とがなす角度(平面視で時計回りを正とする)として定義される。
【0018】
本実施形態における前辺部17は、平面視で右上がりに延びている。
図12及び
図13に示すように、突起11は前辺部17が平面視で右下がりに延びる形状であってもよい。本実施形態の後辺部18は、平面視で前辺部17と概ね平行に延びている。また、本実施形態の内辺部19と外辺部20は、平面視で互いに平行に延びている。
【0019】
図3を参照すると、符号Rはタイヤ半径を示し、符号Rpは突起11のタイヤ径方向の任意の位置のタイヤ回転中心からの距離を示す。また、
図3の符号Rpcは突起11の中心pc(例えば平面視での頂面12の図心)のタイヤ回転中心からの距離を示す。さらに、
図3の符号hRpは、タイヤ径方向の任意の位置における、突起11のタイヤ周方向の寸法、すなわち突起11の幅を示す。また、
図3の符号hRpcは突起の中心pcにおける、突起11の幅を示している。
【0020】
図5を併せて参照すると、本実施形態では、突起11のタイヤ径方向の任意の位置における突起11の厚みtRpは一定である。つまり、突起11の厚みtRpは、突起11のタイヤ径方向で一様である。また、本実施形態では、突起11の厚みtRpは前側面13(前辺部17)から後側面14(後辺部18)まで一定である。つまり、突起11の厚みtRpは突起11のタイヤ周方向でも一様である。
【0021】
図5及び
図6を参照すると、端面視では、前辺部17において突起11の頂面12と前側面13とがある角度(先端角度a2)をなしている。本実施形態における前側面13は、頂面12と前側面13とが前辺部17に向けて間隔が狭まるテーパ形状となるような傾斜を有している。言い換えれば、前側面13の傾斜は、端面視において、前側面13の下端が前辺部17よりもタイヤ回転方向RDの後方側に位置するように設定されている。前側面13がこのような傾斜を有することで、本実施形態の突起11の先端角度a2は鋭角(45°)である。先端角度a2の具体的な定義は後述する。
【0022】
図7から
図9を参照すると、タイヤ1を装着した車両の走行時には、矢印AF0で概念的に示すように、前辺部17側から突起11に流入する空気流がタイヤサイド部3の表面近傍に生じる。
図7を参照すると、タイヤサイド部3の表面の特定の位置P2における空気流AF0は、位置P2を通るタイヤ径方向に延びる直線に対して引いた垂線(水平線Lh)に対する角度(流入角度afl)を有する。本発明者が行った解析によると、タイヤサイ
ズ245/40R18、突起11の中心Pcのタイヤ回転中心からの距離Rpcが550mm、車両の走行速度80km/hという条件下では、流入角度aflは12°である。また、走行速度が40~120km/hの範囲で変化すると、流入角度aflには±1°程度の変化がある。実際の使用時には、走行速度に加え、向かい風、車両の構造等を含む種々の要因による影響があるので、前述の条件下における流入角度aflは12±10°程度とみなせる。
【0023】
引き続き
図7から
図9を参照すると、空気流AF
0は前辺部17から突起11に流入し、この流入時に2つの空気流に分断される。
図7に最も明瞭に示すように、一方の空気流AF1は、前側面13から頂面12に乗り上がり、前辺部17から後辺部18に向けて頂面12に沿って流れる(主たる空気流)。他方の空気流AF2は、前側面13に沿ってタイヤ径方向外側へ流れる(従たる空気流)。
図12及び
図13に示すように前辺部17が平面視で右下がりの場合、空気流AF2は前側面13に沿ってタイヤ径方向内側へ流れる。
【0024】
図10を併せて参照すると、突起11の頂面12に沿って流れる空気流AF1は層流となっている。つまり、突起11の頂面12近傍には層流境界層LBが形成される。
図10において、符号Vaは空気流AF0,空気流AF1のタイヤサイド部3の表面近傍と突起11の頂面12近傍での速度勾配を概念的に示している。層流である空気流AF1は速度勾配が大きいので、突起11の頂面12から空気流AF1へ高効率で放熱がなされる。言い換えれば、突起11の頂面12の空気流AF
1が層流となることで、空冷による放熱が効果的に促進される。効果的に空冷することで、タイヤ1の耐久性が向上する。
【0025】
図9において矢印AF3で示すように、頂面12を通過して後辺部18から下流側へ流れる空気流は、頂面12からタイヤサイド部3の表面に向かって落下する。空気流AF3はタイヤサイド部3の表面に衝突する。その結果、隣接する突起11,11間では、タイヤサイド部3の表面近傍の領域TAの空気流は乱流となる。この領域TAでは、空気流の乱流化による速度勾配の増大によって、タイヤサイド部3の表面からの放熱が促進される。
【0026】
以上のように、本実施形態のタイヤ1では、突起11の頂面12の空気流AF1の層流化と、突起11,11間の空気流AF3の乱流化の両方によってタイヤ1の放熱性を向上している。
【0027】
後に詳述するように、タイヤ回転中心からの距離Rpにおける突起11の幅hRp(
図3参照)は、突起11の頂面12の後辺部18まで層流境界層LBとなるように設定することが好ましい。しかし、
図11に概念的に示すように、突起11の幅hRpは、突起11の頂面12の後辺部18側で、速度境界層が遷移領域TRや乱流境界層TBとなるような比較的長い寸法にすることも許容される。このような場合でも、突起11の頂面12のうち層流境界層LBが形成される領域では、大きな速度勾配により放熱性向上の利点が得られる。
【0028】
前述した突起11への流入時の空気流AF0の空気流AF1,AF2への分断を生じさせるためには、突起11の厚さtRp、特に前辺部17の部分における厚さtRpが突起11の幅hp(幅hpが一定でない場合は最小幅)よりも小さいことが好ましい。
【0029】
前述のように突起11へ流入する空気流AF0は流入角度aflを有する。空気流AF0の空気流AF1,AF2への分断を生じさせるためには、平面視での突起11の前辺部17の傾斜角度a1を、前辺部17に対する空気流AF0の進入角度が90°とならないように設定する必要がある。言い換えれば、平面視において、空気流AF0に対して突起11の前辺部17を傾ける必要がある。
【0030】
図3を参照すると、本実施形態のように、前辺部17が平面視で右上がりである場合、前辺部17は、前辺部17に流入する空気流AF0に対して45°で交差するように設定するのがより好ましい。この場合、上述したように、空気流AF0の流入角度aflは12±10°程度とみなせるので、前辺部17の傾斜角度a1は、以下の式(1)で規定される範囲内に設定することが好ましい。
【0031】
【0032】
図13を参照すると、前辺部17が右下がりである場合、前辺部17の傾斜角度a1は、前辺部17に流入する空気流AF0に対して45°で交差するように設定するのが好ましく、以下の式(2)で規定される範囲内に設定することが好ましい。
【0033】
【0034】
要するに、前辺部17の傾斜角度は、式(1)又は(2)を満たすように設定することが好ましい。
【0035】
図5及び
図6を参照すると、突起11への流入時の空気流AF0の空気流AF1,AF2への分断を生じさせるためには、突起11の先端角度a2は過度に大きく設定しない必要がある。具体的には、先端角度a2は100°以下に設定することが好ましい。より好ましくは、先端角度a2は、鋭角、つまり90°未満に設定される。先端角度a2が過度に小さいことは、前辺部17付近における突起11の強度低下の原因となるので好ましくない。そのため、先端角度a2は、特に45°以上65°以下の範囲に設定することが好ましい。
【0036】
図3を参照すると、タイヤ径方向の任意の位置における突起11の幅hRpが過度に狭いと、頂面12近傍の層流境界層LBによる突起11からの放熱面積が不足し、層流による放熱促進効果が十分に得られない。そのため、突起11の幅hRpは10mm以上に設定することが好ましい。
【0037】
引き続き
図3を参照すると、タイヤ径方向の任意の位置における突起11の幅hRpは、以下の式(3)を満たすように設定することが好ましい。以下の説明における数式はすべてSI単位系を使用している。
【0038】
【数3】
R:タイヤ半径R
Rp:突起上の任意の位置のタイヤ回転中心からの距離
hRp:タイヤ回転中心からの距離Rpにおける突起の幅
【0039】
幅hRpが小さすぎると速度勾配が増大する領域を十分に確保できず十分な冷却効果が得られない。式(3)における下限値10は、層流による放熱促進効果を確保するための必要最小限の放熱面積に対応している。
【0040】
幅hRpが大きすぎると突起11上で速度境界層が過度に成長してしまい速度勾配が小さくなり放熱性が悪化する。式(3)における上限値50は、かかる観点から規定されている。以下、上限値を50に設定した理由を説明する。
【0041】
平板上における速度境界層の発達、すなわち層流境界層LBから乱流境界層TBへの遷移は以下の式(4)で表されることが知られている。
【0042】
【数4】
x:層流境界層から乱流境界層への遷移が生じる平板先端からの距離
U:流入速度
ν:流体の動粘性係数
【0043】
主流の乱れの影響や、遷移領域付近では境界層がある程度成長することで速度勾配が低下することを考えると、十分な冷却効果が得られるために必要な突起11の幅hRpの最大値hRp_maxは、式(4)の距離xの1/2程度と考えられる。従って、突起11の最大幅hRp_maxは、以下の式(5)で表される。
【0044】
【0045】
突起11への流体の流入速度Uは、突起11のタイヤ径方向の任意の位置のタイヤ回転中心からの距離Rpとタイヤ角速度の積として表される(U=Rpω)。また、車両速度Vはタイヤ半径Rとタイヤ角速度の積として表される(V=Rω)。従って、以下の式(6)の関係が成立する。
【0046】
【0047】
空気の動粘性係数νについて、以下の式(7)が成立する。
【0048】
【0049】
式(6),(7)を式(5)に代入することで、以下の式(8)が得られる。
【0050】
【0051】
車両速度Vとして80km/hを想定すると、式(8)よりhRp_maxは以下となる。
【0052】
【0053】
タイヤ1の発熱がより顕著となる高速走行時、具体的には車両速度Vとして160km/hまでを考慮すると、式(8)よりhRp_maxは以下となる。
【0054】
【0055】
このように、高速走行時(車両速度Vとして160km/h以下)であっても、突起11の頂面12の幅方向全体で層流境界層LBが形成されるためには、式(3)の上限値は50となる。
【0056】
【0057】
図12及び
図13の突起11は、前述のように平面視で右
下がりに延びる前辺部17を有する。
【0058】
図14Aの突起11の後辺部18は、傾斜角度の異なる2本の直線により構成された平面視での形状を有する。
【0059】
図14B,14Cの突起11は、前辺部17が右上がりに延びるのに対し、後辺部18が右下がりに延びる平面視での形状を有する。特に、
図14Cの突起11は、等脚台形状の平面視での形状を有する。
【0060】
図15Aでは、タイヤサイド部3の表面に、幅hRpが異なる2種類の突起11が交互に配置されている。
【0061】
図15B,
図15Cでは、タイヤサイド部3の表面に、前辺部17の傾斜角度a1が異なる2種類の突起11が交互に配置されている。
図15Bでは、2種類の突起11はいずれも右上がりの前辺部17を有する。
図15Cでは、2種類の突起11のうちの一方は右上がりの前辺部17を有し、他方の突起11は右下がりの前辺部17を有する。
【0062】
図15Dでは、タイヤサイド部3の表面に、タイヤ径方向の位置が異なる2種類の突起11が交互に配置されている。
【0063】
図16Aから
図16Cは、突起11の頂面12の端面視での形状の種々の代案を示す。
図16Aの突起11は、端面視において翼断面形状の頂面12を有する。
図16Bの突起11は、端面視において円弧状の頂面12を有する。
図16Cの突起11は、端面視において翼断面形状でも円弧状でもない曲線状の頂面12を有する。
【0064】
図17Aから
図18Bは、突起11の前側面13の端面視での形状に関する種々の代案を示す。
【0065】
図17Aから
図17Dに示す突起11の前側面13は、端面視で、1個の窪み23を構成している。
【0066】
図17Aの突起11の前側面13は、2個の平坦面24a,24bによって構成されている。端面視では、平坦面24aは右下がりで、平坦面24bは右上がりである。これらの平坦面24a,24bによって、端面視で三角形の窪み23が形成されている。
【0067】
図17Bの突起11の前側面13は、半円状の断面形状を有する曲面により構成されている。この曲面によって、端面視で半円状の窪み23が形成されている。
【0068】
図17Cの突起11の前側面13は、端面視で右下がりの平坦面25aと、円弧状の断面形状を有する曲面25bにより構成されている。平坦面25aが突起11の頂面12側に位置し、曲面25bがタイヤサイド部3の表面側に位置している。平坦面25aと曲面25bとによって、窪み23が形成されている。
【0069】
図17Dの突起11の前側面13は、3個の平坦面26a,26b,26cによって構成されている。端面視では、突起11の頂面12側の平坦面26aは右下がりで、タイヤサイド部3の表面側の平坦面26cは右上がりで、中央の平坦面26bはタイヤ径方向に延びている。これらの平坦面26a~26cによって多角形状の窪み23が形成されている。
【0070】
図18A及び
図18Bに示す突起11の前側面13は、端面視で、タイヤ径方向に隣接した配置された2個の窪み23A,23Bを構成している。
【0071】
図18Aの突起11の前側面13は、4個の平坦面27a~27dによって構成されている。端面視では、突起11の頂面12側の平坦面27aは右下がりであり、タイヤサイド部3の表面に向けて、右上がりの平坦面27b、右下がりの平坦面27c、及び右上がりの平坦面27dが順に配置されている。平坦面27a,27bによって突起11の頂面12側に三角形状の断面形状を有する1個の窪み23Aが形成され、この窪み23Aのタイヤサイド部3の表面側に隣接して、同様に三角形状の断面形状を有する1個の窪み23Bが平坦面27c,27dによって形成されている。
【0072】
図18Bの突起11の前側面13は、半円状の断面形状を有する2個の曲面28a,28bによって構成されている。突起11の頂面12側の曲面28aによって、半円状の断面形状を有する1個の窪み23Aが形成され、この窪み23Aのタイヤサイド部3の表面側に隣接して、同様に半円状の断面形状を有する1個の窪み23Bが曲面28bによって形成されている。
【0073】
突起11の前側面13は、端面視で、タイヤ径方向に隣接した配置された3個以上の窪みを構成してもよい。
【0074】
図17Aから
図18Bに示すような前側面13の窪みの形状、寸法、個数を適切に設定することで、突起11の頂面12に沿って流れる空気流AF1と、突起11の前側面13に沿って流れる空気流AF2の流量比率を調節することができる。
【0075】
【0076】
図5、
図16Aから
図18Bを参照すると、前辺部17において突起11の頂面12と前側面13とがなす角度、すなわち突起11の先端角度a2は、端面視において、頂面12に対応する直線Ltと、前側面13の前辺部17近傍の部分に対応する直線Lfsとがなす角度として定義される。
【0077】
直線Ltは、頂面12のうち厚みtRpが最も大きい部分を通り、かつタイヤサイド部3の表面に沿って延びる直線として定義される。
図5、
図17Aから
図18Bを参照すると、頂面12がタイヤサイド部3の表面に沿って延びる平坦面である場合、端面視において頂面12自体を延長して得られる直線が直線Ltである。
図16Aから
図16Cを参照すると、頂面12が曲面である場合、端面視で頂面12のうち厚みtRpが最も大きい位置P3を通り、かつタイヤサイド部3の表面に沿って延びる直線が直線Ltである。
【0078】
図5、
図16Aから
図16Cを参照すると、前側面13が単一の平坦面から構成されている場合、端面視で前側面13自体を延長して得られる直線が直線Lfsである。
図17Aから
図17Dを参照すると、前側面13が単一の窪み23を構成している場合、端面視において前辺部17と窪み23の最も窪んだ位置とを接続する直線が、直線Lfsである。
図18A及び
図18Bを参照すると、複数(これらの例では2個)の窪み23A,23Bを構成している場合、端面視において、前辺部17と最も頂面12側に位置する窪み23Aの最も窪んだ位置とを接続する直線が、直線Lfsである。
【0079】
(第2実施形態)
図19及び
図20は、本発明の第2実施形態を示す。本実施形態のタイヤは、突起11自体の形状が異なる点を除いて第1実施形態と同様である。
【0080】
本実施形態の突起11の頂面12は、タイヤ周方向に沿って延び、三角形状の断面形状を有する複数の直線状の突条31と、隣接する2本の突条31,31間に形成された逆三角形状の断面形状を有するタイヤ周方向に沿って延びる複数の直線状の溝32とを備える。言い換えれば、突起11の頂面12には、突条31と溝32がタイヤ径方向に交互に繰り返して配置されている。頂面12が平坦面である場合と比較すると、これらの突条31と溝32とが設けられていることで、頂面12の面積、つまり層流による放熱面積が大きくなる。その結果、突起11の放熱性がさらに向上する。
【0081】
図21Aに示すように、突条31が半円条の断面形状を有し、溝32が突条31に対して相補的な断面形状を有していてもよい。また、
図21Bに示すように、突条31と溝32の断面形状が四角形状であってもよい。
【0082】
(その他の実施形態)
図22を参照すると、頂面12における層流の形成を顕著に阻害しないのであれば、タイヤ径方向に延びる1本の縦スリット33よって、1個の突起11をタイヤ周方向に並べられた2個の互いに独立した部分に分割してもよい。2本以上縦スリット33によって、1個の突起11を3個以上の互いに独立した部分に分割してもよい。
【0083】
図23を参照すると、頂面12における層流の形成を顕著に阻害しないのであれば、タイヤ周方向に延びる1本の横スリット34によって、1個の突起11をタイヤ径方向に並べられた2個の互いに独立した部分に分割してもよい。2本以上の
横スリット34によって、1個の突起11を3個以上の互いに部分に分割してもよい。
【0084】
1本以上の縦スリット33と1本以上の横スリット34とを設けることで、1個の突起11を4個以上の複数の部分に分割してもよい。
【0085】
縦スリット33及び横スリット34の深さは、
図22及び
図23に示すように、これらのスリット33,34が頂面12からタイヤサイド部3の表面まで達するように設定してもよいし、これらのスリット33,34がタイヤサイド部3の表面まで達しないように設定してもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 タイヤ
2 トレッド部
3 タイヤサイド部
4 ビード部
5 カーカス
6 インナーライナー
7 補強ゴム
8 ベルト層
11 突起
12 頂面
13 前側面
14 後側面
15 内端面
16 外端面
17 前辺部
18 後辺部
19 内辺部
20 外辺部
23,23A,23B 窪み
24a,24b,25a,26a~26c,27a~27d 平坦面
25b,28a,28b 曲面
31 突条
32 溝
33 縦スリット
34 横スリット
RD 回転方向
P1 リムの最外周位置
P2 タイヤサイド部の表面の特定の点
P3 頂面の厚みが最も大きい位置
Ls 基準直線
Lt,Lfs 直線
Lh 水平線
AF0,AF1,AF2 空気流
Va 空気流の速度
LB 層流境界層
TR 遷移領域
TB 乱流境界層
TA 乱流の領域