(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】光半導体素子、光サブアセンブリ、及び光モジュール
(51)【国際特許分類】
H01S 5/343 20060101AFI20220624BHJP
H01L 31/10 20060101ALI20220624BHJP
G02F 1/025 20060101ALI20220624BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
H01S5/343
H01L31/10 A
G02F1/025
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2017117176
(22)【出願日】2017-06-14
【審査請求日】2020-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】301005371
【氏名又は名称】日本ルメンタム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北谷 健
(72)【発明者】
【氏名】岡本 薫
(72)【発明者】
【氏名】中原 宏治
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-153973(JP,A)
【文献】特開平07-263804(JP,A)
【文献】特開2004-146408(JP,A)
【文献】特開平10-284799(JP,A)
【文献】特開2014-229742(JP,A)
【文献】特開2005-051039(JP,A)
【文献】特開2008-235329(JP,A)
【文献】特開2016-152347(JP,A)
【文献】米国特許第05624529(US,A)
【文献】MATTHEWS J.W. et al.,DEFECTS IN EPITAXIAL MULTILAERS,Journal of Crystal Growth,1974年,Vol.27,p.118-125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
H01L 31/10 - 31/02
H01L 31/08 - 31/10
H01L 31/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
InP基板と、
前記InP基板の上方に配置される活性層と、
前記活性層の下方に配置される第1導電型半導体層と、
前記活性層の上方に配置される第2導電型クラッド層と、
を備え、
前記第2導電型クラッド層は1又は複数の第2導電型In
1-xAl
xP層と、1又は複数の第2導電型InP層とを含み、
前記1又は複数の第2導電型In
1-xAl
xP層それぞれの厚さは、前記1又は複数の第2導電型InP層それぞれの厚さよりも厚く、
前記1又は複数の第2導電型In
1-xAl
xP層それぞれにおいて、Al組成xは第2導電型ドーパントのドーピング濃度に相当する値以上であり、
前記第2導電型クラッド層全体の平均歪量の絶対値が、前記第2導電型クラッド層全体の総層厚を臨界層厚として、Matthewsの関係式より求まる臨界歪量の絶対値以下となり、
Matthewsの関係式は下記の式で表される、
ことを特徴とする光半導体素子。
ε
c:臨界歪量
t
c:臨界層厚
b:バーガーズべクトル
ψ:転位線とバーガーズベクトルとのなす角
φ:すべり方向と膜面とのなす角
ν:ポアソン比
【請求項2】
請求項1に記載の光半導体素子であって、
前記第2導電型クラッド層は
、1層のみの前記第2導電型In
1-xAl
xP層と、
前記1又は複数の第2導電型InP層と、含み、
前記1層の第2導電型In
1-xAl
xP層のAl組成xは、前記1層の第2導電型In
1-xAl
xP層における第2導電型ドーパントのドーピング濃度に相当する値以上であり、
前記1層の第2導電型In
1-xAl
xP層の歪量の絶対値は、前記1層の第2導電型In
1-xAl
xP層の層厚を臨界層厚として、Matthewsの関係式より求まる臨界歪量の絶対値以下である、
ことを特徴とする光半導体素子。
【請求項3】
請求項1に記載の光半導体素子であって、
前記第2導電型クラッド層は1層の第2導電型InP層及び1層のみの第2導電型In
1-xAl
xP層からなり、
前記1層の第2導電型In
1-xAl
xP層のAl組成xは、前記1層の第2導電型In
1-xAl
xP層における第2導電型ドーパントのドーピング濃度に相当する値以上であり、
前記1層の第2導電型In
1-xAl
xP層の歪量の絶対値は、前記第2導電型クラッド層全体の総層厚を臨界層厚として、Matthewsの関係式より求まる臨界歪量を、前記第2導電型クラッド層全体の平均歪量とし、該平均歪量より求まる前記1層の第2導電型In
1-xAl
xP層の歪量以下である、
ことを特徴とする光半導体素子。
【請求項4】
請求項1に記載の光半導体素子であって、
前記1又は複数の第2導電型In
1-xAl
xP層は、n層(nは2以上の整数)の第2導電型In
1-xAl
xP層を含み、
前記1又は複数の第2導電型InP層は、前記n層の第2導電型In
1-xAl
xP層のうち隣り合う第2導電型In
1-xAl
xP層の間にそれぞれ配置される、(n-1)層の第2導電型InP層を含む、
ことを特徴とする光半導体素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光半導体素子であって、
前記光半導体素子は半導体発光素子であり、
前記InP基板は第1導電型InP基板であり、
前記第2導電型クラッド層全体の層厚は、0.5μm以上2μm以下である、
ことを特徴とする光半導体素子。
【請求項6】
請求項5に記載の光半導体素子であって、
前記活性層と前記第2導電型クラッド層との間に配置される回折格子層を、
さらに含む、光半導体素子。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光半導体素子であって、
前記光半導体素子は半導体光変調器であり、
前記InP基板は第1導電型InP基板であり、
前記第2導電型クラッド層全体の層厚は、0.5μm以上2μm以下である、
ことを特徴とする光半導体素子。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光半導体素子であって、
前記光半導体素子は半導体受光素子であり、
前記InP基板は半絶縁性InP基板であり、
前記第2導電型クラッド層全体の層厚は、0.5μm以上2μm以下である、
ことを特徴とする光半導体素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の光半導体素子であって、
前記第1導電型はn型であり、
前記第2導電型はp型であり、
前記第2導電型ドーパントは、Zn、Mg、Beの群から選択される1又は複数の原子である、
ことを特徴とする光半導体素子。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の光半導体素子、
を備える、光サブアセンブリ。
【請求項11】
請求項10に記載の光サブアセンブリ、
を備える、光モジュール。
【請求項12】
InP基板と、
前記InP基板の上方に配置される活性層と、
前記活性層の下方に配置される第1導電型半導体層と、
前記活性層の上方に配置される第2導電型クラッド層と、
を備え、
前記第2導電型クラッド層は、1層の第2導電型In
1-xAl
xP層のみからなり、
前記第2導電型In
1-x
Al
x
P層において、Al組成xは第2導電型ドーパントのドーピング濃度に相当する値以上であり、
前記第2導電型クラッド層全体の平均歪量の絶対値が、前記第2導電型クラッド層全体の総層厚を臨界層厚として、Matthewsの関係式より求まる臨界歪量の絶対値以下となり、
Matthewsの関係式は下記の式で表される、
ことを特徴とする光半導体素子。
ε
c:臨界歪量
t
c:臨界層厚
b:バーガーズべクトル
ψ:転位線とバーガーズベクトルとのなす角
φ:すべり方向と膜面とのなす角
ν:ポアソン比
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体素子、光サブアセンブリ、及び光モジュールに関し、特に、光半導体素子のクラッド層におけるドーパントのドーピング濃度のばらつきを抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光半導体素子に、アンドープ(intrinsic)の多重量子井戸層を、p型半導体層とn型半導体層とで挟む、いわゆるpin構造が用いられる場合がある。ここで、p型半導体層及びn型半導体層が、それぞれp型及びn型の導電性を実現するよう、p型及びn型のドーパント(添加物)が添加される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-263804号公報
【文献】Journal of Crystal Growth、27巻、118-125頁、1974年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光半導体素子を低コストで製造するために、素子作製歩留りが向上するのが望ましい。以下、n型半導体基板上に、活性層とp型半導体層(p型導電層)とが、順に積層される従来の半導体レーザ素子を例に説明する。p型半導体層などからp型ドーパントが活性層への拡散のばらつきが、半導体レーザ素子の素子特性や信頼性などに影響し、作製歩留りを低下させていた。
【0005】
発明者らは、p型ドーパントの拡散のばらつきの原因について、詳細に検討したところ、以下の知見を得ている。ドーパント原子の拡散長は、原子特有の値である拡散定数と、拡散時間により決定される。実際の生産工程では、同一仕様での作製を繰り返すため、拡散時間は同一である。このことから、拡散ばらつきの主原因は、拡散定数自体がばらついていることにあると考えられる。さらに、拡散定数は、拡散温度とドーピング濃度に依存するパラメータである。拡散時間同様、拡散温度についても、実際の生産工程では同一とみなすことができる。よって、拡散ばらつきの原因は、ドーピング濃度ばらつきの影響が大きいと考えられる。そこで、ドーピング濃度のばらつきの原因を詳細に検討したところ、ドーパント原料の供給安定性に課題があることを発明者らは発見している。
【0006】
ドーパントの原料の供給量は微量であり、配管や装置内部等の供給経路での影響(吸着等)を受けやすく、原料供給工程に特に注意が必要である。しかしながら、近年、光半導体素子のさらなる高性能化に向けて微細なレベルで拡散長を制御させることが必要となってきており、そのような状況においては、従来と同じ工程での対応が困難になってきている。また、活性層の近傍に位置するクラッド層からの拡散の影響が大きいことが考えられる。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、ドーパント原料の供給のばらつきを低減させることにより、低コストで製造される光半導体素子、光サブアセンブリ、及び光モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係る光半導体素子は、InP基板と、前記InP基板の上方に配置される活性層と、前記活性層の下方に配置される第1導電型半導体層と、前記活性層の上方に配置される第2導電型クラッド層と、を備え、前記第2導電型クラッド層は1又は複数の第2導電型In1-xAlxP層を含み、前記1又は複数の第2導電型In1-xAlxP層それぞれにおいて、Al組成xは第2導電型ドーパントのドーピング濃度に相当する値以上であり、前記第2導電型クラッド層全体の平均歪量の絶対値が、前記第2導電型クラッド層全体の総層厚を臨界層厚として、Matthewsの関係式より求まる臨界歪量の絶対値以下となる、ことを特徴とする。
【0009】
(2)上記(1)に記載の光半導体素子であって、前記第2導電型クラッド層は1層の第2導電型In1-xAlxP層からなり、前記1層の第2導電型In1-xAlxP層のAl組成xは、前記1層の第2導電型In1-xAlxP層における第2導電型ドーパントのドーピング濃度に相当する値以上であり、前記1層の第2導電型In1-xAlxP層の歪量の絶対値は、前記1層の第2導電型In1-xAlxP層の層厚を臨界層厚として、Matthewsの関係式より求まる臨界歪量の絶対値以下であってもよい。
【0010】
(3)上記(1)に記載の光半導体素子であって、前記第2導電型クラッド層は1層の第2導電型InP層及び1層の第2導電型In1-xAlxP層からなり、前記1層の第2導電型In1-xAlxP層のAl組成xは、前記1層の第2導電型In1-xAlxP層における第2導電型ドーパントのドーピング濃度に相当する値以上であり、前記1層の第2導電型In1-xAlxP層の歪量の絶対値は、前記第2導電型クラッド層全体の総層厚を臨界層厚として、Matthewsの関係式より求まる臨界歪量を、前記第2導電型クラッド層全体の平均歪量とし、該平均歪量より求まる前記1層の第2導電型In1-xAlxP層の歪量以下であってもよい。
【0011】
(4)上記(1)に記載の光半導体素子であって、前記第2導電型クラッド層は、n層(nは2以上の整数)の第2導電型In1-xAlxP層に加えて、前記n層の第2導電型In1-xAlxP層のうち隣り合う第2導電型In1-xAlxP層の間にそれぞれ配置される、(n-1)層の第2導電型InP層をさらに含んでいてもよい。
【0012】
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光半導体素子であって、前記光半導体素子は半導体発光素子であり、前記InP基板は第1導電型InP基板であり、前記第2導電型クラッド層全体の層厚は、0.5μm以上2μm以下であってもよい。
【0013】
(6)上記(5)に記載の光半導体素子であって、前記活性層と前記第2導電型クラッド層との間に配置される回折格子層を、さらに含んでいてもよい。
【0014】
(7)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光半導体素子であって、前記光半導体素子は半導体光変調器であり、前記InP基板は第1導電型InP基板であり、前記第2導電型クラッド層全体の層厚は、0.5μm以上2μm以下であってもよい。
【0015】
(8)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光半導体素子であって、前記光半導体素子は半導体受光素子であり、前記InP基板は半絶縁性InP基板であり、前記第2導電型クラッド層全体の層厚は、0.5μm以上2μm以下であってもよい。
【0016】
(9)上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の光半導体素子であって、前記第1導電型はn型であり、前記第2導電型はp型であり、前記第2導電型ドーパントは、Zn、Mg、Beの群から選択される1又は複数の原子であってもよい。
【0017】
(10)本発明に係る光サブアセンブリは、上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の光半導体素子、を備えていてもよい。
【0018】
(11)発明に係る光モジュールは、上記(10)に記載の光サブアセンブリ、を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、ドーパント原料の供給のばらつきを低減させることにより、低コストで製造される光半導体素子、光サブアセンブリ、及び光モジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る光伝送装置及び光モジュールの構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ素子の俯瞰図である。
【
図3】結晶成長回数とp型ドーパントの濃度の実験結果を示す図である。
【
図4】InP層上にInAlP層が結晶成長する状態を示す模式図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係るp型クラッド層が積層構造を有する場合を示す概略図である。
【
図6】
図4に示すp型クラッド層におけるp型InAlP層のAl組成xの範囲を示す図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係るEA変調器集積半導体レーザ素子の俯瞰図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態に係るPIN型ダイオードの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面に基づき、本発明の実施形態を具体的かつ詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、以下に示す図は、あくまで、実施形態の実施例を説明するものであって、図の大きさと本実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0022】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光伝送装置1及び光モジュール2の構成を示す模式図である。光伝送装置1は、プリント回路基板11(PCB)とIC12を備えている。光伝送装置1は、例えば、大容量のルータやスイッチである。光伝送装置1は、例えば交換機の機能を有しており、基地局などに配置される。光伝送装置1に、複数の光モジュール2が搭載されており、光モジュール2より受信用のデータ(受信用の電気信号)を取得し、IC12などを用いて、どこへ何のデータを送信するかを判断し、送信用のデータ(送信用の電気信号)を生成し、プリント回路基板11を介して、該当する光モジュール2へそのデータを伝達する。
【0023】
光モジュール2は、送信機能及び受信機能を有するトランシーバである。光モジュール2は、プリント回路基板21と、光ファイバ3Aを介して受信する光信号を電気信号に変換する光受信モジュール23Aと、電気信号を光信号に変換して光ファイバ3Bへ送信する光送信モジュール23Bと、を含んでいる。プリント回路基板21と、光受信モジュール23A及び光送信モジュール23Bとは、それぞれフレキシブル基板22A,22B(FPC)を介して接続されている。光受信モジュール23Aより電気信号がフレキシブル基板22Aを介してプリント回路基板21へ伝送され、プリント回路基板21より電気信号がフレキシブル基板22Bを介して光送信モジュール23Bへ伝送される。光モジュール2と光伝送装置1とは電気コネクタ5を介して接続される。光受信モジュール23Aや光送信モジュール23Bは、プリント回路基板21に電気的に接続され、光信号/電気信号を電気信号/光信号にそれぞれ変換する。ここで、光受信モジュール23Aは、1又は複数の光サブアセンブリを含み、光送信モジュール23Bは、1又は複数の光サブアセンブリを含む。
【0024】
当該実施形態に係る伝送システムは、2個以上の光伝送装置1と2個以上の光モジュール2と、1個以上の光ファイバ3(例えば
図1の3A、3B)を含む。各光伝送装置1に、1個以上の光モジュール2が接続される。2個の光伝送装置1にそれぞれ接続される光モジュール2の間を、光ファイバ3が接続している。一方の光伝送装置1が生成した送信用のデータが接続される光モジュール2によって光信号に変換され、かかる光信号を光ファイバ3へ送信される。光ファイバ3上を伝送する光信号は、他方の光伝送装置1に接続される光モジュール2によって受信され、光モジュール2が光信号を電気信号へ変換し、受信用のデータとして当該他方の光伝送装置1へ伝送する。
【0025】
図2は、当該実施形態に係る半導体レーザ素子100の俯瞰図である。当該実施形態に係る半導体レーザ素子100は、分布帰還型(DFB:Distributed FeedBack)半導体レーザ素子となる光半導体素子であり、直接変調型となっている。
図2は、半導体レーザ素子100の構造を理解するために、光導波路の中心を含み積層方向を貫く断面と、該断面と垂直であって積層方向を貫く断面と、をそれぞれ示している。半導体レーザ素子100は、光送信モジュール23Bの光サブアセンブリに搭載される光半導体素子である。ここで、半導体レーザ素子100はリッジ導波路(RWG:Ridge wave-guide)構造を有しているが、これに限定されることはなく、埋め込み(BH:Buried-hetero)構造など他の構造を有していてもよい。
【0026】
図2に示す通り、n型InP基板101の上に、n型InPバッファ層102、多重量子井戸(MQW:Multi-quantum-well)層103、p型InPスペーサ層104、回折格子層105、p型InAlPクラッド層106、及びp
+型InGaAsコンタクト層107からなる半導体多層が積層され、かかる半導体多層がメサ構造となっている。多重井戸層103は、ともにInGaAlAsからなる井戸層と障壁層とが複数回繰り返し積層されたものである。メサ構造の両側(及び上面の一部)とメサ構造の底部から両側に広がる領域に、パッシベーション膜109が配置されている。そして、メサ構造の両側が、ポリイミド108により平坦化されている。p
+型InGaAsコンタクト層107の上面(の少なくとも一部)に物理的に接するとともに半導体多層の両側に広がるよう、上部電極110が配置される。また、n型InP基板101の裏面に物理的に接して、下部電極111が配置される。なお、発振スペクトルの単一モード化のために、p型InPスペーサ層104とp型InAlPクラッド層106との間に、回折格子層105が配置される。
【0027】
当該実施形態に係る半導体レーザ素子100は、n型InP基板101の上方に配置される活性層と、活性層の上方に配置されるp型クラッド層と、を備えている。活性層は多重量子井戸層103を含んでおり、ここでは、活性層は多重量子井戸層103からなる。しかしながら、これに限定されることはなく、例えば、活性層は多重量子井戸層に加えて、光閉じ込め層(SCH層)をさらに含んでいてもよい。半導体レーザ素子100は、活性層の下方に配置されるn型半導体層をさらに備えており、ここでは、n型半導体層は、n型InPバッファ層102である。しかしながら、n型半導体層は、n型InP基板101そのものを含んでいてもよく、また、n型InPバッファ層102は必ずしも必要ではない。その場合は、n型半導体層はn型InP基板101となる。
【0028】
活性層は、n型InP基板101の上方に、半導体層(n型InPバッファ層102)を介して配置されている。また、p型クラッド層は1又は複数のp型InAlP層を含んでいるが、ここでは、p型クラッド層はp型InAlPクラッド層106からなる。p型InAlPクラッド層106(p型クラッド層)は、活性層(多重量子井戸層103)の上方に、半導体層(p型InPスペーサ層104及び回折格子層105)を介して配置されている。本明細書において「A層の上方にB層が配置される」とは、A層とは物理的に接触せずに他の層を介してB層がA層の上方に配置される場合と、A層と物理的に接触してA層の上にB層が直接配置される場合との両方を含むものとする。「A層の下方にB層が配置される」についても同様である。
【0029】
なお、本明細書において、半導体多層が回折格子層を含む場合、p型クラッド層は、回折格子層の上面からp型コンタクト層の下面までの間に配置される半導体層を指すものとする。また、半導体多層が活性層の上方に回折格子層を含まない場合、活性層の上面からp型コンタクト層の下面までの間に配置される半導体層を指すものとする。
【0030】
近年のインターネット人口の爆発的増大により、情報伝送の急速な高速化および大容量化が求められており、今後も光通信が重要な役割を果たすと考えられている。従来、光通信の光源に用いられる光半導体素子として、主として半導体レーザ素子が用いられる。伝送距離10km程度までの短距離用途向けには、半導体レーザ素子を直接電気信号で駆動する直接変調方式が主として用いられる。一方、伝送距離10kmを超えるような長距離の光通信向けには、半導体レーザを直接変調することのみでは対応できないため、光変調器を集積した電界吸収(EA:Electro-absorption)変調器集積半導体レーザ素子が用いられる。光通信のさらなる普及のために、これら半導体レーザ素子の高性能化のみならず、低コストで素子を供給することもますます重要となっており、本発明はかかる半導体レーザ素子に最適である。
【0031】
以下に、当該実施形態に係る半導体レーザ素子100の製造方法を説明する。n型InP基板101上に、有機金属気相成長(MOVPE:Metal-organic vapor phase epitaxy)法を用いて、半導体多層に含まれる各半導体層を順に積層し、メサ構造を形成する(半導体多層積層工程)。ここで、キャリアガスとしては水素を用いる。III族元素の原料は、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリエチルガリウム(TEG)、リメチルインジウム(TMI)の群より必要な原料を選択して用いる。V族元素の原料には、アルシン(AsH3)、フォスフィン(PH3)の群より必要な原料を選択して用いる。n型ドーパントはSiであり、原料はジシラン(Si2H6)を用いる。p型ドーパントはZnであり、原料はジメチル亜鉛(DMZn)を用いる。p型ドーパントをZnとしているが、これに限定されることはなく、Mg又はBeであってもよく、Zn、Mg、Beの群から選択される複数の原子であってもよい。その場合、選択される1又は複数の原子をそれぞれ含む原料を用いればよい。なお、結晶成長法は、MOVPE法に限定されることはなく、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、化学ビーム成長(CBE:Chemical Beam Epitaxy)法、又は有機金属分子線エピタキシー(MOMBE:Metal-organic Molecular Beam Epitaxy)法などのいずれかの結晶成長法を用いてもよい。
【0032】
半導体多層積層工程は、具体的には以下の通りである。第1に、n型InP基板101上に、n型InPバッファ層102を結晶成長させる。第2に、n型InPバッファ層102の上に、InGaAlAsからなる多重量子井戸層103と、p型InPスペーサ層104と、回折格子を形成するための半導体層と、p型InPキャップ層と、を順に結晶成長させる。p型InPキャップ層を保護のために上部に配置するのが一般的である。第3に、公知のプロセスにより、回折格子を形成する。第4に、回折格子をp型InAlPにより埋め込み、回折格子層105を形成するとともに、回折格子層105の上にp型InAlPクラッド層106を結晶成長させ、さらに、p+型InGaAsコンタクト層107を結晶成長させる。ここで、p型InAlPクラッド層106の層厚は1μmであり、Al組成xは0.001であり、歪は-0.007%である。第5に、平面視してかかる半導体多層のうち光導波路となる領域にメサストライプマスクを形成し、エッチングによりメサ構造を形成する。
【0033】
p+型InGaAsコンタクト層107の上面(の少なくとも一部)を除いて、半導体多層及びポリイミド108の上表面にパッシベーション膜109を形成する(パッシベーション膜形成工程)。メサ構造となる半導体多層の両側を、ポリイミド108により埋め込み、平坦化する(埋め込み工程)。p+型InGaAsコンタクト層の上面(の少なくとも一部)に物理的に接するとともに半導体多層の両側に広がるよう、上部電極110を形成し、n型InP基板101の裏面に物理的に接するよう、下部電極111を形成する(電極形成工程)。以上でウエハ工程が終了する。その後は、劈開によりバー化、光の出射面及び反対側の面にそれぞれ絶縁膜を形成し、さらにチップ化され、半導体レーザ素子100が作製される(光半導体素子形成工程)。以上、当該実施形態にかかる半導体レーザ素子100の製造方法を説明した。
【0034】
かかる製造方法において、p型クラッド層をp型InAlPクラッド層106で形成したことにより、作製時の原料利用効率が上昇し、同じ製造装置を用いて半導体多層を複数回の結晶成長により形成してもp型ドーパントの原子濃度のばらつきは非常に低減されており、半導体レーザ素子100の作製歩留りが向上されている。
【0035】
当該実施形態に係る半導体レーザ素子100の第1の特徴は、p型クラッド層は1層のp型In1-xAlxP層からなることであり、第2の特徴は、当該1層のp型In1-xAlxP層のAl組成x(歪量ε)が、以下に説明する範囲にあることである。当該1層のp型In1-xAlxP層のAl組成xは、当該1層のp型In1-xAlxP層におけるp型ドーパントのドーピング濃度に相当する値以上である。すなわち、Al組成xの下限x1は、当該値となる。また、当該1層のp型In1-xAlxP層の歪量εの絶対値は、当該1層のp型In1-xAlxP層の層厚を臨界層厚tcとして、Matthewsの関係式より求まる臨界歪量εcの絶対値以下である。すなわち、Al組成xの上限x2は、臨界歪量εcに相当するAl組成xの値である。なお、x1の値及びx2の値の詳細については後述する。
【0036】
従来、p型クラッド層の母体(ベース)は主にInPとされているのに対して、当該実施形態に係る半導体レーザ素子100のp型クラッド層の母体をIn1-xAlxP(xは1に対して小さい:微量のx)とすることにより、p型ドーパントのドーピング濃度の安定性を向上させることが出来ている。当該実施形態に係る半導体レーザ素子100のp型InAlPクラッド層106のAl組成xは0.001であり、歪量は-0.007%であり、p型InAlPクラッド層106の層厚は1μmである。なお、半導体レーザ素子100において、p型クラッド層(p型InAlPクラッド層106)の層厚は0.5μm以上2μmが望ましい。以下に、第1の特徴について考察する。
【0037】
図3は、結晶成長回数とp型ドーパントのドーピング濃度の関係を示す図である。
図3はかかる関係を実験的に示したものである。
図3には、p型ドーパントが導入されるクラッド層が1層のp型InAlP(In
1-xAl
xP:微量のx)層である場合と1層のp型InP層である場合とが、示されている。ここで、結晶成長回数とは、同じ製造装置を用いて、(例えば製造装置を清掃した直後などの)初期状態から半導体レーザ素子100を順に作成していく際に、半導体レーザ素子100を作製する(半導体基板上に結晶成長させる)回数である。すなわち、結晶成長回数k(図にはkは1~5の場合が示されている)のドーピング濃度とは、k番目に作製される半導体レーザ素子100のp型クラッド層のp型ドーパントのドーピング濃度を示している。
【0038】
クラッド層がp型InAlP層、及びp型InP層である場合、ともにp型ドーパントのドーピング濃度の設計値は1×1018cm-3であり、導入するp型ドーパントの流量はそれぞれ同量であるものとする。クラッド層がp型InP層である場合は、結晶成長回数1回目を除き、設計値である1×1018cm-3に達しておらず、結晶成長回数によってp型ドーパントのドーピング濃度が最大で20%程度ばらつき安定性がない。そのばらつきの方向は低濃度側であり、設計値のドーピング濃度に達していない。つまり、意図した通りの原料の供給がなされていないことを示している。それに対して、クラッド層がp型InAlP層である場合は、結晶成長回数によらず、p型ドーパントのドーピング濃度の狙い値1×1018cm-3付近で推移しており、非常に安定性が高いことが分かる。
【0039】
発明者らは、これらの結果に基づいて、当該効果のメカニズムを以下のように考察している。クラッド層(半導体層)がInP層である場合(Alを含まない場合)、p型ドーパント原料は、原料供給工程において、配管や装置内部等の供給経路での影響を強く受けており、ウエハ上に到達するときの供給量が複数の結晶成長の間でばらつきが発生する。これに対して、クラッド層がInAlP層である場合、これらの影響を大きく低減できているものと考えられる。なお、かかる影響は、p型ドーパントの方がn型ドーパントよりも大きく、本発明は、活性層の上方にp型クラッド層が配置される場合に格別の効果を奏する。
【0040】
当該効果の詳細についてはまだ不明であるものの、Al原料を含めて供給することにより、p型ドーパントの原料ガスが途中の配管や反応管に付着しやすくなる要因(不純物等)が低減されているものと考えられる。その結果、p型ドーパントの供給量にばらつきが低減されることで、p型ドーパントのドーピング濃度のばらつきが低減し、p型InAlPクラッド層106が安定的に作製される。当該実施形態に係る半導体レーザ素子100は、p型ドーパントのドーピング濃度の安定性が向上されており、従来の半導体レーザ素子に比べて、素子作製歩留りが改善されており、半導体レーザ素子100の製造コストが低減される。
【0041】
以上、第1の特徴について説明した。次に、第2の特徴について、以下に説明する。
【0042】
InPにAlを加えることにより、InAlPの格子定数は、InPの格子定数より小さくなる。InAlPはInPに対して引張り歪を受ける。歪量の(絶対値の)増大は、p型クラッド層への結晶欠陥発生の原因となり、半導体レーザ素子100の素子特性や信頼性を低下させる恐れがある。そこで、引張り歪が結晶へ及ぼす影響を考察する。
【0043】
p型In1-xAlxP層におけるAl組成xの最適範囲について考察を説明する。第1に、Al組成xの下限x1について説明する。Al原料を供給し、半導体層(p型クラッド層)にAl原子を加えることにより、p型クラッド層におけるp型ドーパントのドーピング濃度を安定化するとの効果を奏するのであるから、少なくともp型InAlP層に、ドーピングするp型ドーパントのドーピング濃度(p型原子の濃度)と同等以上のAl原子を加えることが望ましい。
【0044】
p型クラッド層が1層のp型InAlP層からなる場合、Al組成のxは、p型ドーパントのドーピング濃度に相当する値以上となるのが望ましい。当該値が、Al組成xの下限x1である。下限x1におけるAlの原子濃度yは、p型ドーパントの原子濃度yに等しく、かかる原子濃度に相当するAl組成xは、次に示す数式(1)を用いて求めることができる。
【0045】
【0046】
第2に、Al組成xの上限x2(歪量εの絶対値の上限)について説明する。
図4は、InP層上にInAlP層が結晶成長する状態を示す模式図である。
図4(a)は、Al組成xが小さい場合を示しており、
図4(b)は、Al組成xが大きい場合を示している。
図4(a)に示す通り、Al組成xが小さい場合、引張り歪の影響は小さく、InAlP層の水平方向(図の横方向)の格子定数は、InPに格子整合するよう広げられる。同時に、InAlP層の垂直方向(図の縦方向)の格子定数が小さくなることにより、格子変形をしながら、格子不整合転位を発生させることなく結晶成長する。この状態は疑似格子整合状態と称され、結晶品質への影響はほとんどない。これに対して、
図4(b)に示す通り、Al組成xの値がおおきくなると、格子変形ではもはや耐えられず、成長界面には格子不整合転位が発生し、InAlP層はほぼ本来の格子定数に戻って結晶成長が継続する。格子不整合転位は、キャリアの捕獲中心や光の損失成分になるので、半導体レーザ素子100の素子特性を低下させる。実質的にこのような状態になると、半導体レーザ素子(光半導体素子)の性能は大きく低下する。よって、当該実施形態に係る半導体レーザ素子100のp型クラッド層に含まれるp型InAlP層のAl組成xは、
図4(a)に示す状態を維持し、格子不整合転位を発生させない範囲内に設定することが望ましく、これがAl組成xの上限x2を決定する。
【0047】
格子不整合転位を発生させない臨界層厚とそのときに許容される臨界歪の関係式は、MatthewsとBlakesleeにより非特許文献1(の式5)に示されており、次に示す数式(2)で与えられる。
【0048】
【0049】
ここで、εcは臨界歪量、tcは臨界層厚、bはバーガーズべクトル、ψは転位線とバーガーズベクトルとのなす角、φはすべり方向と膜面とのなす角、及びνはポアソン比である。本明細書において、数式(2)を便宜的にMatthewsの関係式と称する。
【0050】
p型クラッド層が1層のp型InAlP層からなる場合、当該1層のp型InAlP層の歪量εの絶対値は、Matthewsの関係式、すなわち数式(2)に、当該1層のp型InAlP層(p型クラッド層)の層厚を臨界層厚tcとして代入することにより求まる臨界歪量εcの絶対値以下であるのが望ましい。かかる臨界歪量εcが、疑似格子整合状態が維持される歪量の(絶対値)の上限であり、該歪量に相当するAl組成xの値がp型クラッド層のAl組成xの上限x2である。p型クラッド層の歪量εに相当するAl組成xの値は、次に示す数式(3)で与えられる。
【0051】
【0052】
ここで、aはInAlPの格子定数で5.463Å、a0はInPの格子定数で5.869Åである。数式(3)を用いることにより、臨界歪量εcに相当するAl組成xが得られる。
【0053】
当該実施形態に係るp型クラッド層は、1層のp型InAlPクラッド層106からなるがこれに限定されることはない。当該実施形態に係る半導体レーザ素子100では、
図2に示す通り、p型InPスペーサ層104とp型InAlPクラッド層106との間に、回折格子層105が配置されている。回折格子に直接p型InAlP層を結晶再成長させると、回折格子の状態によっては、表面モホロジーが劣化する場合がありうる。Al原子はIn原子に比べて結晶成長表面でマイグレーションしにくいと考えられる。それゆえ、回折格子が形成された凹凸形状を平坦に埋め込みにくい場合がありうる。
【0054】
よって、当該実施形態の他の例に係る半導体レーザ素子100は、以下の構造を有していてもよい。回折格子の凹凸の高さの差が大きくなる場合に、平坦に埋め込むことがより困難となる。そこで、他の例に係る半導体レーザ素子100は、回折格子に薄い層厚のp型InPクラッド層を配置させ、回折格子の間をp型InPで埋め込んで回折格子層105を形成するとともに、回折格子層105の上に配置されるp型InP層を平坦化できる。かかるp型InP層の上に、p型InAlP層を配置させればよい。すなわち、p型クラッド層は1対のp型InP層及びp型InAlP層(1層のp型InP層及び1層のp型InAlP層)からなるとしてもよい。ここでは、p型InP層及びp型InAlP層が順に積層される。これにより、良好な品質のp型クラッド層を形成することができ、本発明の格別な効果を奏する。なお、p型クラッド層の最下層はp型InP層となっており、p型ドーパントのドーピング濃度の変動が懸念されるが、その層厚は100nm以下と、p型InAlP層と比べて比較的薄く、下層がInPからなることの影響はほとんど無視できる程度である。p型クラッド層の構造は、回折格子層105が活性層とp型クラッド層との間に配置される場合に格別の効果を奏する。
【0055】
なお、回折格子の上に原子層レベル(1nm前後)の非常に薄いp型InAlP層を配置させ、さらにp型InP層を配置させることにより、回折格子の凹凸を平坦化してもよい。最下層のp型InAlP層がp型ドーパントのドーピング濃度の低下を抑制することができる。平坦化されるp型InP層の上にさらにp型InAlP層を配置すればよい。
【0056】
p型クラッド層が1層のp型InP層及び1層p型InAlP層からなる場合について説明する。当該1層のp型InAlP層のAl組成xは、当該1層のp型InAlP層におけるp型ドーパントのドーピング濃度に相当する値以上であるのが望ましい。すなわち、かかる値が、Al組成xの下限x1である。前述の通り、数式(1)を用いて、Al組成xの下限x1は得られる。また、当該1層のp型InAlP層の歪量εの絶対値は、p型クラッド層全体の総層厚を臨界層厚tcとして、Matthewsの関係式、すなわち数式(2)より求まる臨界歪量εcを、p型クラッド層全体の平均歪量εavとし、該平均歪量εavより求まる当該1層のp型InAlP層の歪量εの絶対値以下であるのが望ましい。すなわち、p型クラッド層全体の平均歪量εavの絶対値が、p型クラッド層全体の総層厚を臨界層厚tcとして、Matthewsの関係式、すなわち数式(2)より求まる臨界歪量εc以下であるのが望ましく、p型クラッド層全体の平均歪量εavとして与えるp型InAlP層の歪量εは、次に示す数式(4)を用いて得られる。
【0057】
【0058】
ここで、t0はp型InP層の層厚であり、t1はp型InAlP層の層厚であり、εはp型InAlP層の歪量である。なお、p型InP層はp型InAlP層と比べて十分に薄いのが望ましい。すなわち、p型InP層の層厚t0はp型InAlP層の層厚t1と比べて十分に小さく、Matthewsの関係式により求まる臨界歪量εcは、p型InAlP層の歪量εの上限の値に実質的には等しくなる。p型InP層の層厚t0はp型InAlP層の層厚t1の25%以下が望ましく、10%以下がさらに望ましい。
【0059】
さらに、p型クラッド層は複数のp型InAlP層を含んでいてもよい。この場合、隣り合うp型InAlP層の間にはp型InP層が配置されるのが望ましい。例えば、p型クラッド層がn層(nは2以上の整数)のp型InAlP層を含む場合、(n-1)層のp型InP層が、n層のp型InAlP層のうち隣り合うp型InAlP層の間にそれぞれ配置される。さらに、最下層のp型InAlP層と回折格子層105(又は活性層)との間にp型InP層が配置されるのがさらに望ましく、この場合、p型クラッド層はn層のp型InP層及びn層のp型InAlP層からなる。すなわち、p型クラッド層は、p型InP層とp型InAlP層を1単位としてn回繰り返す積層構造を有している。
【0060】
図5は、当該実施形態に係るp型クラッド層が積層構造を有する場合を示す概略図である。
図5に示す通り、引張り歪の影響を低減させるために、p型クラッド層がn層のp型InP層とn層のp型InAlP層とが、交互に繰り返し積層される積層構造を有している。n層のp型InAlP層のうち、下からi番目(iは1≦i≦nを満たす任意の整数)のp型InAlP層のAl組成をx
iとし、歪量をε
iとし、層厚t
iとする。p型クラッド層全体の平均歪量ε
avは、次に示す数式(5)で与えられる。
【0061】
【0062】
ここで、t
0は、n層のp型InP層の層厚の合計(すなわち、1又は複数のp型InP層の総層厚)を示している。数式(5)が示す通り、p型クラッド層がn層のp型InP層を含むことにより、全体に対する平均歪量ε
avを低減させることができている。n層のp型InAlP層それぞれのAl組成x
i、歪量ε
i、及び層厚t
iは、互いに異なっていてもよい。
図5に示す積層構造において、隣り合うp型InAlP層の間に配置されるp型InP層におけるp型ドーパントのドーピング濃度の振る舞いが懸念される。しかしながら、発明者らの実験により、p型InAlP層を結晶成長させた後にAl原料の供給を停止しても、停止時間が10分程度であれば、その影響は小さいとの知見を得ており、積層構造を有するp型クラッド層においても十分な効果が奏することを発明者らは確認している。
【0063】
p型クラッド層が、
図5に示す積層構造を有するなど、n層のp型InAlP層を含み、隣り合うp型InAlP層それぞれの間にp型InP層が配置される場合、n層のp型InAlP層それぞれのAl組成xの下限x1は、n層のp型InAlP層のうち、p型ドーパントのドーピング濃度が最低値をとるp型InAlP層が律速する。すなわち、n層のp型InAlP層すべてのAl組成xは、p型ドーパントのドーピング濃度が最低値となるp型InAlP層のp型ドーパントのドーピング濃度に相当する値以上となるのが望ましい。すなわち、かかる値が、n層のp型InAlP層すべてのAl組成xの下限x1である。下限x1におけるp型クラッド層のAlの原子濃度yは、かかるp型InAlP層のp型ドーパントのドーピング濃度y(原子濃度)に等しく、かかるドーピング濃度に相当するAl組成xは、数式(1)を用いて求めることができる。n層のInAlP層すべてのAl組成xがかかる下限x1以上となることにより、少なくともp型ドーパントのドーピング濃度が最低値となるp型InAlP層において、p型ドーパントのドーピング濃度が安定化するとの効果を奏する。
【0064】
i番目のp型InAlP層(n層のp型InAlP層)それぞれにおいて、Al組成xiは、当該p型InAlP層のp型ドーパントのドーピング濃度に相当する値以上となっているのがさらに望ましい。すなわち、n層のp型InAlP層それぞれにおいて、かかる値がAl組成xの下限x1である。各p型InAlP層において、Al組成xが当該p型InAlP層のp型ドーパントのドーピング濃度に相当する値以上となっていることにより、n層のp型InAlP層それぞれにおいて、p型クラッド層におけるp型ドーパントのドーピング濃度がより安定化するとの格別の効果を奏する。
【0065】
また、n層のp型InAlP層すべてのAl組成xの下限x1は、p型ドーパントのドーピング濃度が最高値をとるp型InAlP層のp型ドーパントのドーピング濃度に相当する値となっているのがさらに望ましい。n層のp型InAlP層それぞれにおいて、p型クラッド層におけるp型ドーパントのドーピング濃度がさらにより安定化するとの格別の効果を奏する。
【0066】
次に、i番目のp型InAlP層(n層のp型InAlP層)それぞれにおけるAl組成xiの上限x2は互いに異なる値を取りうるが、以下の条件を満たしているのが望ましい。p型クラッド層がn層のp型InAlP層を含む場合に、p型クラッド層全体の平均歪量εavの絶対値が、p型クラッド層全体の総層厚を臨界層厚tcとしてMatthewsの関係式、すなわち数式(2)より求まる臨界歪量εcの絶対値以下となる。
【0067】
例えば、半導体レーザ素子100が
図5に示す1対のp型InP層とp型InAlP層とが交互にn回積層される積層構造を有する場合、異なるi番目のp型InAlP層のAl組成x
i、歪量ε
i、及び層厚t
iが互いに異なっていてもよい。p型クラッド層全体の平均歪量ε
avの絶対値が、p型クラッド層全体の総層厚を臨界層厚t
cとして、Matthewsの関係式、すなわち数式(2)より求まる臨界歪量ε
cの絶対値以下であればよい。かかる条件を満たすp型クラッド層全体の平均歪量ε
avを与えるよう、各p型InAlP層のAl組成x
iの上限x2が定められていればよい。n層のp型InAlP層それぞれにおいて疑似格子整合状態が維持され、歪量の増大によるp型クラッド層への結晶欠陥発生や、素子特性や信頼性の低下といった影響が低減しつつ、p型ドーパントのドーピング濃度が安定化するとの効果を奏する。
【0068】
n層のp型InAlP層のうち、少なくとも1層のp型InAlP層において、当該p型InAlP層の歪量εの絶対値が、当該p型InAlP層の層厚を臨界層厚tcとして、Matthewsの関係式、すなわち数式(2)より求まる臨界歪量εcの絶対値以下であるのがさらに望ましい。すなわち、当該p型InAlP層のAl組成xの上限x2は、臨界歪量εcに相当するAl組成xの値となる。少なくとも当該p型InAlP層において疑似格子整合状態がより安定的に維持されるため、歪量の増大によるp型クラッド層への結晶欠陥発生や、素子特性や信頼性の低下といった影響が低減しつつ、p型ドーパントのドーピング濃度がさらに安定化するとの格別の効果を奏する。
【0069】
i番目のp型InAlP層(n層のp型InAlP層)それぞれにおける歪量εiの絶対値が、層厚tiを臨界層厚tcとして、Matthewsの関係式、すなわち数式(2)より求まる臨界歪量εcの絶対値以下であるのがさらに望ましい。すなわち、各p型InAlP層のAl組成xiの上限x2は、i番目のp型InAlP層における臨界歪量εcに相当するAl組成xの値となる。n層のp型InAlP層それぞれにおいて疑似格子整合状態がより維持されるため、歪量の増大によるp型クラッド層への結晶欠陥発生や、素子特性や信頼性の低下といった影響が低減しつつ、p型ドーパントのドーピング濃度がさらに安定化するとの格別の効果を奏する。
【0070】
なお、ここでは、p型クラッド層が、1対のp型InP層とp型InAlP層とが交互にn回積層される積層構造(
図5参照)を有する場合を例に説明したがこれに限定されることはない。p型クラッド層がn層のp型InAlP層を含んでいれば、隣り合うp型InAlP層の間すべてにおいてp型InP層が配置されていなくてよく、他の半導体層が配置されていてもよいし、p型InP層及び他の半導体層が配置されていてもよい。いずれの場合であっても、p型クラッド層全体の平均歪量ε
avの絶対値が、p型クラッド層全体の総層厚を臨界層厚t
cとしてMatthewsの関係式、すなわち数式(2)より求まる臨界歪量εcの絶対値以下となっていればよい。n層のp型InAlP層それぞれのAl組成xの上限x2は、かかる条件より求まる。各p型InAlP層におけるAl組成x
iの上限x2より、数式(3)を用いて、各p型InAlP層における歪量ε
iの絶対値の上限が求まる。そして、数式(5)を用いて、p型クラッド層全体の平均歪量ε
avの絶対値の上限が求まる。かかる平均歪量ε
avの絶対値の上限が、p型クラッド層全体の総層厚を臨界層厚t
cとしてMatthewsの関係式、すなわち数式(2)より求まる臨界歪量ε
cの絶対値以下となるよう、n層のp型InAlP層それぞれのAl組成x
iの上限x2を決定すればよい。また、n層のp型InAlP層のうち、少なくとも1層のp型InAlP層において、当該p型InAlP層の歪量εの絶対値が、当該p型InAlP層の層厚を臨界層厚t
cとして、Matthewsの関係式、すなわち数式(2)より求まる臨界歪量ε
cの絶対値以下であるのがさらに望ましい。i番目のp型InAlP層(n層のp型InAlP層)それぞれにおける歪量ε
iの絶対値が、層厚t
iを臨界層厚t
cとして、Matthewsの関係式、すなわち数式(2)より求まる臨界歪量ε
cの絶対値以下であるのがさらに望ましい。
【0071】
ここで、実際に用いられるAl組成xの範囲の一例を示す。p型クラッド層が
図5に示す積層構造を有する場合を考える。p型クラッド層に含まれる複数のp型InAlP層それぞれのp型ドーパントのドーピング濃度が1×10
17cm
-3以上であって、p型クラッド層の層厚が0.5μm以上であるのが、一般的である。よって、p型InAlP層のp型ドーパントのドーピング濃度が1×10
17cm
-3であって、層厚が0.5μmである場合のAl組成xの下限x1と上限x2を示す。Al組成xの下限x1は、p型ドーパントのドーピング濃度と同じ原子濃度1×10
17cm
-3に相当する値であり、数式(1)を用いて、かかる値は5×10
-6となる。次に、Al組成xの上限x2は、臨界膜厚t
cを0.5μmとして数式(2)より求まる臨界歪量ε
cは0.0014(0.14%)であり、かかる値が平均歪量ε
avの上限である。このときのp型クラッド層の平均Al組成x
avの上限は0.02(=2x10
-2)である。以上から、i番目のp型InAlP層(n層のp型InAlP層)それぞれのAl組成x
iの範囲は、5x10
-6≦x
i≦0.02となる。
【0072】
図6は、
図4に示すp型クラッド層におけるp型InAlP層のAl組成xの範囲を示す図である。図の縦軸は、p型クラッド層全体の総層厚であり、Matthewsの関係式、すなわち数式(2)における臨界層厚t
cである。図の横軸のうち下側は、平均Al組成x
avであり、図の横軸のうち上側は、Al組成xに対応するp型ドーパントのドーピング濃度(原子濃度)である。実際には、p型クラッド層の平均歪量ε
av(の絶対値)が0.0014になるように、数式(5)において、n層のp型InP層の層厚の合計である総層厚t
0、i番目のP型InAlP層(n層のp型InAlP層)それぞれの歪量ε
i及び層厚t
iを決定することとなる。数式(5)の右辺の分母は、p型クラッド層全体の層厚であり0.5μmである。
【0073】
半導体レーザ素子は結晶欠陥に対して敏感であり、素子構造によっては、上限をさらに0.7倍程度にして余裕を持たせるのが望ましい。この場合は、Al組成xの範囲は5x10-6≦x≦0.014となる。一方、Matthewsの関係式は、最も厳密な臨界膜厚と歪を与えるため、素子構造によっては、逆に若干、臨界膜厚を超えても許容される場合が考えられる。ある。臨界歪量の1.3倍くらいが許容されるとすると、その場合の組成範囲は5x10-6≦x≦0.026となる。
【0074】
当該実施形態に係るp型ドーパントは、Be、Mg、Znの群から選択される1又は複数の原子であるのが望ましい。これらはInP層に対して一般的に用いられるp型ドーパントであり、本発明はかかるp型ドーパントに対して最適である。
【0075】
なお、特許文献1に記載の半導体レーザは、特許文献1の
図1に示す通り、膜厚約2.5μmのn型InAlP膜からなるクラッド層12を有しており、クラッド層12はn-InP基板11の格子定数に対して約0.9%小さい格子定数を有する。クラッド層12を構成するInAlP膜の歪は約-0.9%であり、当該実施形態に係る半導体レーザ素子100のp型クラッド層の歪と比べて、絶対値が非常に大きな値となっている。
【0076】
特許文献1に記載の半導体レーザでは、発光効率を改善するために、Al組成xの値が大きなInAlP膜をクラッド層12に採用することにより、バンドギャップのワイド化(特許文献1の
図2参照)を図っている。特許文献1に記載のInAlP膜の歪の絶対値は、当該実施形態に係るp型クラッド層の歪の絶対値の範囲と比べて、非常に大きな値となっている。バンドギャップのワイド化のためには、InAlP膜におけるAl組成xを大きくする必要があり、クラッド層12において、必然的に格子不整合転位が発生しているものと考えられる。
【0077】
本発明に係る発明の主な特徴が、p型クラッド層がp型InAlP層を含むことにより、p型ドーパントのばらつきを抑制しつつ、格子不整合転位を発生させない疑似格子整合状態を維持できるよう、p型InAlP層のAl組成xの範囲を低い値に留めることとしている。これは、光半導体素子(特に、半導体レーザ素子)に対して要求される性能が近年より高くなっており、素子特性向上のために、格子不整合転位の発生がより低減される高品質な素子構造を実現するためである。
【0078】
当該実施形態に係るp型クラッド層に含まれるp型InAlP層のAl組成xは、擬似格子整合状態が維持される最適な範囲に限定されている。当該実施形態では、p型InAlP層のバンドギャップの増大量はわずか40mV程度であり、室温のエネルギーと比べて増大量は非常に小さく、バンドギャップのワイド化の効果はほとんど得られない。
【0079】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係るEA変調器集積半導体レーザ素子200は、レーザ部200Aと変調器部200Bと導波路部200Cとが半導体基板上にモノリシックに集積される光半導体素子である。ここで、レーザ部200Aは分布帰還型半導体レーザ素子であり、変調器部200BはEA変調器である。当該実施形態に係るEA変調器集積半導体レーザ素子200は埋め込み構造型である。
【0080】
図7は、当該実施形態に係るEA変調器集積半導体レーザ素子200の俯瞰図である。当該実施形態に係るEA変調器集積半導体レーザ素子200の主な特徴は、第1の実施形態と同様に、p型クラッド層の構造にあり、p型クラッド層は1対のp型InP層及びp型InAlP層からなる。
【0081】
レーザ部200Aにおいて、n型InP基板201上に、n型InPバッファ層202、第1多重量子井戸層203A、p型InPスペーサ層204、回折格子層205、p型InPクラッド層206a、p型InAlPクラッド層206b、及び第1p+型InGaAsコンタクト層207Aからなる第1半導体多層が積層される。ここで、第1多重井戸層203Aは、ともにInGaAsPからなる井戸層と障壁層とが複数回繰り返し積層されたものである。また、p型InPクラッド層206aの層厚は50nmであり、p型InAlPクラッド層206bの層厚は950nmである。当該実施形態にかかるレーザ部200Aにおけるp型クラッド層206は、p型InPクラッド層206a及びp型InAlPクラッド層206bからなる。p型クラッド層206全体の総層厚は1μmである。p型InAlPクラッド層206bのAl組成xは0.003、歪量は-0.0002(-0.02%)である。p型クラッド層全体の歪量は、-0.00019(-0.019%)である。
【0082】
変調器部200Bにおいて、n型InP基板201上に、n型InPバッファ層202、第2多重量子井戸層203B、p型InPクラッド層206a、p型InAlPクラッド層206b、及び第2p+型InGaAsコンタクト層207Bからなる第2半導体多層が積層される。ここで、第2多重井戸層203Bは、ともにInGaAsPからなる井戸層と障壁層とが複数回繰り返し積層されたものである。ここで、当該実施形態にかかる変調器部200Bにおけるp型クラッド層206は、p型InPクラッド層206a及びp型InAlPクラッド層206bからなり、p型クラッド層は、活性層である第2多重量子井戸層203Bの上に直接配置される。p型InPクラッド層206aの層厚は50nmであり、p型InAlPクラッド層206bは950nmであり、p型クラッド層206全体の総層厚は1μmである。
【0083】
また、導波路部200Cにおいて、n型InP基板201上に、n型InPバッファ層202、InGaAsPからなる導波路層220、p型InPクラッド層206a、及びp型InAlPクラッド層206bからなる第3半導体多層が積層される。
【0084】
なお、レーザ部200Aにおいても変調器部200Bにおいても、p型クラッド層206全体の総層厚は0.5μm以上2μmが望ましい。p型クラッド層206全体の総層厚は1μm以上がさらに望ましい。
【0085】
第1半導体多層、第3半導体多層、第2半導体多層は順に接続されて、1つの半導体多層を形成しており、半導体多層は全体としてメサ構造を有している。メサ構造となる半導体多層の両側が、RuドープInP埋め込み層208により埋め込まれている。第1p+型InGaAsコンタクト層207Aの上面(の少なくとも一部)及び第2p+型InGaAsコンタクト層207B(の少なくとも一部)を除いて、半導体多層及びRuドープInP埋め込み層208の上表面にパッシベーション膜209が配置されている。第1p+型InGaAsコンタクト層207Aの上面(の少なくとも一部)に物理的に接するとともに第1半導体多層の両側に広がるよう、第1上部電極210Aが配置される。同様に、第2p+型InGaAsコンタクト層207Bの上面(の少なくとも一部)に物理的に接するとともに、第2半導体多層の一方の側方に広がるパッド部を有する第2上部電極210Bが配置される。また、n型InP基板201の裏面に物理的に接して、下部電極211が配置される。
【0086】
以下、当該実施形態に係るEA変調器集積半導体レーザ素子200の製造方法を説明する。第1の実施形態と同様に、結晶成長方法として、MOVPE法を用いているが、これに限定されることがない。用いる原料は、第1の実施形態と共通している。Ruドープ埋め込み層208において、添加するハロゲン原子の原料は、塩化メチル(CH3Cl)を用いる。ドープするRuの有機金属原料は、ビスエチルシクロペンタジエニルルテニウムを用いる。
【0087】
第1に、n型InP基板201上に、MOVPE法を用いて、n型InPバッファ層202を結晶成長させ、続いて、第2多重量子井戸層203Bと、p型InPキャップ層と、を順に結晶成長させる。第2に、ウエハ上に、変調器部200Bが形成される領域にマスクパターンを形成し、これをエッチングマスクとして、p型InPキャップ層と、第2多重量子井戸層203Bと、を除去する。第3に、ウエハを成長炉内に導入し、第1多重量子井戸層203Aと、p型InPスペーサ層204と、回折格子を形成するための半導体層と、p型InPキャップ層と、をバットジョイント(BJ:Butt-joint)による結晶再成長させる。第4に、先のマスクパターンを除去し、その後、ウエハ上に、レーザ部200A及び変調器部200Bが形成される領域にマスクパターンを形成し、これをエッチングマスクとして、p型InPキャップ層から第1多重量子井戸層203Aまでの半導体層を除去する。第5に、導波路層220と、p型InPキャップ層と、をBJによる結晶再結晶をさせる。ここでは、レーザ部200A及び変調器部200Bとの2つの接続箇所を同時にBJ接続している。第6に、ウエハを成長炉から取り出し、マスクパターンを除去し、公知のプロセスにより、回折格子を形成する。第7に、ウエハを成長炉内に導入し、回折格子をp型InPにより埋め込み回折格子層205を形成するとともに、回折格子層205の上にp型InPクラッド層206aとp型InAlPクラッド層206bとp+型InGaAsコンタクト層とを順に結晶成長させる。第8に、平面視してかかる半導体多層のうち光導波路となる領域にメサストライプマスクを形成し、エッチングによりメサ構造を形成する。なお、第2半導体多層のうち、出射端面から所定の距離までの領域にはメサストライプマスクが形成されておらず、エッチングにより除去されている。
【0088】
第9に、適切な前処理を行い、メサ構造となる半導体多層の両側を、RuドープInP埋め込み層208により埋め込み成長を行う。その際、CH3Clガスを同時に添加している。なお、出射端面から所定の距離までの領域は、RuドープInP埋め込み層208により埋め込まれており、いわゆる窓構造となっている。出射光の反射による戻り光を低減させるためである。第10に、半導体多層の最上層であるp+型InGaAsコンタクト層のうち、導波路部200Cにある部分を除去し、第1p+型InGaAsコンタクト層207A及び第2p+型InGaAsコンタクト層207Bに分離する。第11に、第1p+型InGaAsコンタクト層207Aの上面(の少なくとも一部)及び第2p+型InGaAsコンタクト層207Bの上面(の少なくとも一部)を除いて、半導体多層及びRuドープInP埋め込み層208の上表面にパッシベーション膜209を形成する。第12に、第1p+型InGaAsコンタクト層207Aの上面(の少なくとも一部)に物理的に接するよう第1上部電極210Aを、第2p+型InGaAsコンタクト層207Bの上面(の少なくとも一部)に物理的に接するよう第2上部電極210Bをそれぞれ形成し、n型InP基板201の裏面に物理的に接するよう、下部電極211を形成する。以上でウエハ工程が終了し、その後の工程は第1の実施形態と同じである。以上、当該実施形態にかかるEA変調器集積半導体レーザ素子200の製造方法を説明した。
【0089】
かかる製造方法において、回折格子に接する部分にはp型InPを配置させ、回折格子層205が形成されるとともに、p型InPクラッド層206aが形成される。p型InPクラッド層206aの上にp型InAlPクラッド層206bが形成されることにより、高品質なp型クラッド層が形成される。第1の実施形態と同様に、作製時における原料利用効率が上昇し、同じ製造装置を用いて半導体多層を複数回の結晶成長により形成してもp型ドーパントの原子濃度のばらつきは非常に低減されており、EA変調器集積半導体レーザ素子200の作製歩留りが向上されている。なお、当該実施形態では、第1多重量子井戸層203A及び第2多重量子井戸層203Bに、InGaAsP系材料が用いられているが、これに限定されることはなく、InGaAlAs系材料を用いてもよく、それにSb又は/及びNを添加する材料を用いてもよい。
【0090】
[第3の実施形態]
図8は、本発明の第3の実施形態に係るPIN型ダイオード300の断面図である。当該実施形態に係るPIN型ダイオードは、第1及び第2の実施形態に係る光半導体素子が半導体発光素子であったのに対して、半導体受光素子となる光半導体素子である。当該実施形態に係るPIN型ダイオード300の主な特徴は、第1及び第2の実施形態とどうように、p型クラッド層の構造にあり、p型クラッド層は、3対のp型InP層及びP型InAlP層からなる。
【0091】
半絶縁性InP基板301上に、n型InGaAsコンタクト層302、n型InPクラッド層303、n型InGaAsP光閉じ込め層304、アンドープInGaAs光吸収層305、p型InGaAsP光吸収層306、p型クラッド層307、及びp+型InGaAsコンタクト層308からなる半導体多層が積層される。ここで、n型InGaAsコンタクト層302及びn型InPクラッド層303が活性層の下方に配置されるn型半導体層である。n型InGaAsP光閉じ込め層304、アンドープInGaAs光吸収層305、及びp型InGaAsP光吸収層306が活性層である。そして、p型クラッド層307が活性層の上方に配置されるp型クラッド層である。p型クラッド層307は、下方から上方にかけて積層方向に沿って、p型InPクラッド層307a及びp型InAlPクラッド層307bが3回繰り返す積層構造(n=3)となっている。3層のp型InPクラッド層307aの層厚はそれぞれ100nmであり、3層のp型InAlPクラッド層307bの層厚はそれぞれ400nmである。3層のp型InAlPクラッド層307bそれぞれのAl組成xはそれぞれ0.004であり、歪量はそれぞれ-0.028%である。p型クラッド層307全体では、平均歪量の絶対値は低減し、-0.022%となっている。ここで、p型クラッド層307全体の総層厚は1.5μmである。
【0092】
なお、p型クラッド層307全体の総層厚は0.5μm以上2μmが望ましい。しかしながら、p型クラッド層307全体の総層厚は0.5μmより小さい0.3μm以上0.5μ以下(未満)であってもよい。
【0093】
半導体多層は円錐台形状を有しており、n型InGaAsコンタクト層302は円錐台形状からさらに広がって配置されている。p+型InGaAsコンタクト層308の上面(の少なくとも一部)とn型InGaAsコンタクト層302の上面の一部とを除いて、半導体多層を覆うようパッシベーション膜309が配置されている。p+型InGaAsコンタクト層308の上面(の少なくとも一部)に物理的に接触するとともに円錐台形状の外方に延びるp側電極310と、n型InGaAsコンタクト層302の上面の一部に物理的に接触するとともに円錐台形状の外方に延びるn側電極311と、がそれぞれ配置されている。
【0094】
以下、当該実施形態に係るPIN型ダイオード300の製造方法を説明する。第1及び第2の実施形態と同様に、結晶成長方法として、MOVPE法を用いているが、これに限定されることがない。
【0095】
第1に、半絶縁性InP基板301上に、n型InGaAsコンタクト層302と、n型InPクラッド層303と、n型InGaAsP光閉じ込め層304と、アンドープInGaAs光吸収層305と、p型InGaAsP光吸収層306と、を順に結晶成長させる。第2に、p型クラッド層307として、層厚100nmのp型InPクラッド層307a及び層厚400nmのp型InAlPクラッド層307bを順に3回繰り返し結晶成長させ、3対のp型InPクラッド層307a及びp型InAlPクラッド層307bからなる積層構造としている。第3に、p+型InGaAsコンタクト層308を結晶成長させ、半導体多層の結晶成長を終了する。
【0096】
第4に、半導体多層が円錐台形状となるよう、半導体多層の外側を除去する。第5に、半絶縁性InP基板301の半導体多層の全面にパッシベーション膜309を形成する。続いて、平面視してp+型InGaAsコンタクト層308の上面(の少なくとも一部)となる領域と、n型InGaAsコンタクト層302の上面の一部となる領域と、にスルーホールを形成する。第5に、スルーホールを介してp+型InGaAsコンタクト層308の上面(の少なくとも一部)に物理的に接触させて所定の形状にp側電極310と、n型InGaAsコンタクト層302の上面の一部に物理的に接触させて所定の形状にn側電極311と、をそれぞれ形成する。以上でウエハ工程が終了し、各素子に分離してPIN型ダイオード300が作製される。以上、当該実施形態にかかるPIN型ダイオード300の製造方法を説明した。
【0097】
かかる製造方法において、p型クラッド層307に3対のp型InPクラッド層307a及びp型InAlPクラッド層307bによる積層構造により、高品質なp型クラッド層307が形成される。第1及び第2の実施形態と同様に、作製時における原料利用効率が上昇し、同じ製造装置を用いて半導体多層を複数回の結晶成長により形成してもp型ドーパントの原子濃度のばらつきは非常に低減されており、PIN型ダイオード300の作製歩留りが向上されている。
【0098】
以上、本発明の実施形態に係る光半導体素子、光サブアセンブリ、及び光モジュールについて説明した。上記実施形態では、第1導電型がn型であり、第2導電型がp型である場合について示したが、導電型が反対の場合であってもよい。すなわち、例えば、半導体レーザ素子において、p型InP基板の上方に配置されるp型クラッド層が、1又は複数のn型In1-xAlxP層を含み、n型ドーパントがSiであるとしてもよい。
【0099】
第1及び第2の実施形態に係る光半導体素子は半導体レーザ素子としたが、これに限定されることはなく、LEDなど他の半導体発光素子であってもよい。また、第2の実施形態に係る光半導体素子はEA変調器を含んでいるが、これに限定されることはなく、他の半導体変調器であってもよい。第3の実施形態に係る光半導体素子はPIN型ダイオードとしてが、他の型のフォトダイオードであってもよく、また、アバランシェダイオードなど他の半導体受光素子であってもよい。
【0100】
また、上記実施形態に係る半導体発光素子において、第3の実施形態と同様に、半絶縁性InP基板上に半導体多層が積層され、n型半導体層に接続されるn側電極と、p型半導体層に接続されるp側電極とが、半絶縁性基板の一方側にともに配置されるものであってもよい。一方、上記実施形態に係る半導体受光素子において、第1及び第2の実施形態と同様に、n型(p型)InP基板上に半導体多層が積層され、活性層の上方にp型(n型)クラッド層が配置されるものであってもよい。本発明は、半導体発光素子、半導体受光素子、又は半導体変調器に広く適用される。
【符号の説明】
【0101】
1 光伝送装置、2 光モジュール、3,3A,3B 光ファイバ、11,21、103 プリント回路基板、12 IC,22A,22B、102 フレキシブル基板、23A 光受信モジュール、23B,光送信モジュール、100 半導体レーザ素子、101,201 n型InP基板、102,202 n型InPバッファ層、103 多重量子井戸層、104,204 p型InPスペーサ層、105,205 回折格子層、106 p型InAlPクラッド層、107,308 p+型InGaAsコンタクト層、108 ポリイミド、109,209,309 パッシベーション膜、110 上部電極、111,211 下部電極、200 EA変調器集積半導体レーザ素子、200A レーザ部、200B 変調器部、200C 導波路部、203A 第1多重量子井戸層、203B 第2多重量子井戸層、206,307 p型クラッド層、206a,307a p型InPクラッド層、206b,307b p型InAlPクラッド層、207A 第1p+型InGaAsコンタクト層、207B 第2p+型InGaAsコンタクト層、208 RuドープInP埋め込み層、210A 第1上部電極、210B 第2上部電極、220 導波路層、300 PIN型ダイオード、301 半絶縁性InP基板、302 n型InGaAsコンタクト層、303 n型InPクラッド層、304 n型InGaAsP光閉じ込め層、305 アンドープInGaAs光吸収層、306 p型InGaAsP光吸収層、310 p型電極、311 n側電極。