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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】コーティングされた保護ウインドウ
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/34 20060101AFI20220624BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20220624BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20220624BHJP
   F24C 15/04 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
C03C17/34 Z
C03C23/00 D
C23C14/06 P
F24C15/04 A
F24C15/04 Z
【請求項の数】 22
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018019237
(22)【出願日】2018-02-06
(65)【公開番号】P2018135260
(43)【公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】10 2017 102 377.1
(32)【優先日】2017-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ヘン
(72)【発明者】
【氏名】エヴリーヌ ルディジエ-フォイクト
(72)【発明者】
【氏名】ルッツ クリッペ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ケーラー
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/190111(WO,A1)
【文献】特表2015-512854(JP,A)
【文献】国際公開第03/093185(WO,A1)
【文献】特開2000-229378(JP,A)
【文献】特開2002-308650(JP,A)
【文献】特表2016-517381(JP,A)
【文献】特開2010-013345(JP,A)
【文献】特開2015-229614(JP,A)
【文献】特開平01-252766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/34
C23C 14/00 -14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーブンチャンバー(151)のための保護ウインドウ(1)であって、
- 2つの対向する側面(30,32)を有する、可視スペクトル領域で透明なガラスプレートまたはガラスセラミックプレート(3)と、
- 前記側面(30,32)の少なくとも一方の面に、赤外線放射を反射するコーティング(5)と
を含み、ここで、前記コーティング(5)は、前記側面(30,32)に、第1の層(7)と、前記第1の層(7)に適用されている第2の層(9)とを含み、ここで、前記第1の層(7)は、ドープされた導電性酸化亜鉛層であり、前記第2の層は、アルミニウム含有酸化物層またはアルミニウム含有窒化物層であるオーブンチャンバー(151)のための保護ウインドウ(1)。
【請求項2】
前記第1の層(7)が、アルミニウム、ガリウムまたはモリブデンでドープされた酸化亜鉛層であることを特徴とする、請求項記載の保護ウインドウ(1)。
【請求項3】
前記第2の層(9)が、酸化アルミニウム層またはケイ酸アルミニウム層またはケイ素-アルミニウム-窒化物層であることを特徴とする、請求項1または2記載の保護ウインドウ(1)。
【請求項4】
前記ガラスプレートまたはガラスセラミックプレート(3)の前記側面(30,32)の少なくとも一方の面に、前記コーティング前に、追加のバリアコーティングとして中間層(8)が適用されていることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の保護ウインドウ(1)。
【請求項5】
前記中間層(8)が、アルミニウム含有層および/またはケイ素含有層であることを特徴とする、請求項記載の保護ウインドウ(1)。
【請求項6】
前記第1の層(7)が、200~600ナノメートルの範囲の層厚を有することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の保護ウインドウ(1)。
【請求項7】
前記第2の層(9)が、10~300ナノメートルの範囲の層厚を有することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の保護ウインドウ(1)。
【請求項8】
前記プレート(3)が、熱的または化学的に強化されたガラスプレートを含むことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の保護ウインドウ(1)
【請求項9】
前記保護ウインドウ(1)が、第2の透明なプレート(4)を含み、ここで、前記ガラスプレートまたはガラスセラミックプレート(3)は、第2の透明なプレート(4)と離間して配置されており、そのため、前記ガラスプレートまたはガラスセラミックプレート(3)と前記第2の透明なプレート(4)との間にスペース(6)が形成されることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の保護ウインドウ(1)。
【請求項10】
前記赤外線反射コーティング(5)も配置されている前記側面(30,32)に、セラミック系装飾塗料(10)よりなる装飾が適用されていることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の保護ウインドウ(1)。
【請求項11】
前記第1の層(7)におけるドーパントの含有率が、0.5%~6%であることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の保護ウインドウ(1)。
【請求項12】
前記第1の層(7)の表面抵抗率が、10~20Ωの範囲にあることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の保護ウインドウ(1)。
【請求項13】
前記第2の層(9)の屈折率が、前記第1の層(7)の屈折率よりも小さいことを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の保護ウインドウ(1)。
【請求項14】
前記第1の層(7)が、結晶質柱状構造を有し、ここで、柱の長手方向は、前記ガラスプレートまたはガラスセラミックプレート(3)の表面に対して実質的に垂直であることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項記載の保護ウインドウ(1)。
【請求項15】
前記コーティング(5)の色が、ニュートラルな色の範囲にあり、ここで、Lab表色系でのa,bの値の少なくとも1つは、-5~+5の範囲にあり、色差は、ΔE≦3の差によって特徴付けられていることを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項記載の保護ウインドウ(1)。
【請求項16】
請求項1から15までのいずれか1項記載のオーブンチャンバー(151)のための保護ウインドウ(1)を含む、熱処理ユニット(15)。
【請求項17】
ベーキングオーブンの形態における、ここで、前記ベーキングオーブンが、請求項1から15までのいずれか1項記載のオーブンチャンバー(151)のための保護ウインドウ(1)を有するドア(17)を含む、請求項16記載の熱処理ユニット(15)。
【請求項18】
ファイアプレースの形態における、請求項17記載の熱処理ユニット(15)
【請求項19】
前記処理ユニットが、オーブンチャンバー(151)を有し、ここで、前記保護ウインドウ(1)は、少なくとも1つの第2の透明なプレート(4)を含み、ここで、前記ガラスプレートまたはガラスセラミックプレート(3)は、前記第2の透明なプレート(4)と離間して配置されており、かつ前記オーブンチャンバー(151)の方を向いた前記ガラスプレートまたはガラスセラミックプレート(3)は、赤外線放射を反射するコーティング(5)を有する、請求項16から18までのいずれか1項記載の熱処理ユニット(15)。
【請求項20】
2つの対向する側面(30,32)を有するガラスプレートまたはガラスセラミックプレート(3)を準備し、前記側面(30,32)の少なくとも一方の面に、赤外線反射コーティング(5)を適用し、前記適用は、第1の層(7)を、真空コーティングによって堆積させ、前記第1の層(7)の上に第2の層(9)を、真空コーティングによって堆積させることによって行い、ここで、第1の層(7)として、ドーピングによって導電性の透明酸化物層を適用し、第2の層として、非晶質の酸化物層または窒化物層を適用する、請求項1から15までのいずれか1項記載のオーブンチャンバー(151)のための保護ウインドウ(1)を製造する方法。
【請求項21】
オーブン貯蔵による後処理、キセノンランプによるフラッシュランプアニーリングを、短波長の赤外線放射またはレーザ処理を用いて実施する、請求項20記載のオーブンチャンバー(151)のための保護ウインドウ(1)を製造する方法。
【請求項22】
耐火性ウインドウとしての、請求項1から15までのいずれか1項記載のオーブンチャンバー(151)のための保護ウインドウ(1)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、保護ウインドウ(Schutzverglasungen)に関する。特に、本発明は、赤外線反射コーティングを有する保護ウインドウに関する。
【0002】
熱保護ウインドウは、一般的に、温められた空間を周囲から断熱し、それと同時に、この温められた空間に覗き窓を形成するために用いられる。典型的な用途は、建築分野の耐火性グレージングに加えて、ベーキングオーブン窓(Backofenscheiben)および暖炉覗き窓(Kaminsichtscheiben)の領域におけるウインドウ、ならびに一般的なオーブン覗き窓(Ofensichtscheiben)もそうである。
【0003】
欧州特許出願公開第2236473A1号明細書(EP2236473A1)からは、赤外線反射コーティングとしてアンチモンを含有する酸化スズ層を有する、赤外線放射反射ガラスプレートまたはガラスセラミックプレート(Scheibe)が知られている。そのようなコーティングは、特に、高温安定性であることを特徴とする。
【0004】
欧州特許第2243750号明細書(EP2243750)は、4.2・10-6/K未満の熱膨張係数を有するガラス基材またはガラスセラミック基材と、2.2より高い屈折率を有する高屈折率の単層反射層とを有する透明なガラスプレートまたはガラスセラミックプレートに関する。単層反射層は、TiO、NbまたはTaを含む。
【0005】
国際公開第2012/041499号(WO2012/041499A2)には、4.2・10-6/K未満の線形熱膨張係数を有するガラスプレートまたはガラスセラミックプレートの上に高温安定性-赤外線反射フィルター-コーティングを含む熱保護ウインドウが記載されている。ガラスプレートまたはガラスセラミックプレートの少なくとも一方の面には、遷移金属酸化物がドープされている二酸化チタン層が堆積させられており、そのため、二酸化チタン層は、最大でも2MΩの表面抵抗率を有する。この二酸化チタン層は、その光学的厚さが400℃~3000℃の温度を有する黒体放射体の最大波長の1/4に相当する層厚を有する。それにより、コーティングはまた、熱放射に対して光学干渉効果を示す。
【0006】
さらに、IR反射システムが知られており、これは、(i)例えば、銀または金などの非常に薄い(<100nmの層厚)金属コーティング、(ii)金属格子(いわゆる「金属メッシュ」)または(iii)炭素ベースのシステムに基づいている。一般に、そのようなシステムは、高温に耐えられず、特に、例えばベーキングオーブンまたは暖炉の継続運転に対して十分に温度安定性ではないことから、追加的な複合多層コーティングシステムによって保護されなければならない。
【0007】
本発明の課題は、非常に高いIR反射率(>0.8)を特徴とするが、高温での劣化(Degradation)に対して長期安定性(500℃で100時間)であり、可能な限り単純な層構造を実現することができる保護ウインドウを提供することである。したがって、本発明の用途は、好ましくは熱分解機能を有するベーキングオーブンのウインドウ、または暖炉覗き窓のほかに耐火性ウインドウとしてである。熱分解洗浄時には、450℃以上の温度が、より長い時間(少なくとも100時間)にわたって生じ、1回の洗浄サイクルにつき数分間のあいだで500℃より高い温度が生じる。それに、コーティングの色は、なるべくニュートラルであるべきであり、表面全体にわたる層の色座標の変動は、なるべく小さくあるべきである(Lab表色系における色座標の差ΔEは、なるべく3以下であることが望ましい)。
【0008】
本発明の課題は、驚くべきことに、本発明によれば、それ自体は高温安定性でない透明導電性コーティング材料を用いて解決される。この課題の解決手段は、独立請求項に詳細に記載されている。本発明の有利な実施形態および発展形態は、それぞれの従属請求項に記載されている。
【0009】
それに従って、本発明は、2つの対向する側面を有する、可視スペクトル領域で透明なガラスプレートまたはガラスセラミックプレートと、側面の少なくとも一方の面に、赤外線放射を反射するコーティングとを含む、保護ウインドウ、特に熱保護ウインドウを提供し、ここで、コーティングは、側面に第1の層と、第1の層に適用されている第2の層とを含み、ここで、第1の層は、透明導電性酸化物(略してTCO)、好ましくはドープされたTCO、特に好ましくはドープされた酸化亜鉛から形成されており、第2の層は、酸化物層、好ましくは、ドープされた酸化物層、特に好ましくはアルミニウム含有酸化物層であるか、または第2の層は、窒化物層、好ましくはアルミニウム含有窒化物層、特に好ましくはケイ素-アルミニウム-窒化物層である。
【0010】
本発明によれば、第2の層は、非晶質、特にX線非晶質の酸化物層または窒化物層として形成されている。X線非晶質層の場合、X線回折スペクトルにおいて、特に、平均バックグラウンドシグナルの10%より高いと明らかに目立つ鋭い干渉が生じない。その代わりに、小さな回折角では拡散干渉が存在していることがある。
【0011】
本発明による保護ウインドウを製造するために、2つの対向する側面を有するガラスプレートまたはガラスセラミックプレートを準備し、側面の少なくとも一方の面に、赤外線反射コーティングを適用し、これは、第1の層を、真空コーティング、好ましくは物理気相成長、特に好ましくはスパッタリングによって堆積させ、第1の層の上に第2の層を、真空コーティング、好ましくは物理気相成長、特に好ましくはスパッタリングによって堆積させることによって行い、ここで、第1の層として、透明導電性層、好ましくはドープされた透明導電性酸化物層、特に好ましくはドープされた透明導電性酸化亜鉛層を適用し、第2の層として、X線非晶質酸化物層、好ましくはドープされた酸化物層、特に好ましくはアルミニウム含有酸化物層を適用するか、または第2の層として、窒化物層を適用する方法が提供される。スパッタリングのために、有利にはマグネトロンスパッタリングが用いられる。それに、第2の層としての窒化物層は、良好なバリア効果を達成するために、特にX線非晶質で形成されている。
【0012】
第1の層として特に好ましいのは、アルミニウム、ガリウムまたはモリブデンがドープされた酸化亜鉛層である。特に、アルミニウムが、同様にアルミニウムを含有する第2の被覆層に鑑みて好ましい。当然のことながら、前述のドーパントの2つまたは3つすべてを組み合わせて用いて、層内に存在させてもよい。
【0013】
第2の層として、酸化物層、特に酸化アルミニウム層、特に好ましくはケイ酸アルミニウム層であって、特に、アルミニウムとケイ素の総質量分に対して0~95重量%のケイ素の範囲のケイ酸アルミニウム層が、特に好ましくは、60:40重量%~40:60重量%のAl:Siの比を有するAlSiOとして適している。
【0014】
特定の実施形態では、第1の層の適用前に、基材の前処理を行うことができる。この前処理は、湿式化学的にまたは気相を介して、例えば、プラズマ処理もしくはコロナ処理などによって行うことができる。前処理によって、(i)場合によっては存在する汚染物質、特に有機汚染物質を表面から取り除き、(ii)表面を活性化させ、これにより付着性の改善をもたらし、かつ/または(iii)表面を適切にアルカリ浸出し、これにより付着性の改善もしくは第一の層内での不純物の拡散の防止をもたらすように、被コーティング基材の表面が変性される。
【0015】
透明導電性層としてのドープされた酸化亜鉛層は、薄膜モジュール内のnドープ半導体層として知られており、例えば、太陽電池またはLEDなどにおけるpn接合によって特徴付けられる。特に光起電力システムでは、これらの層は、高い透明性を有している必要がある。そのような用途は、国際公開第2014/058726号(WO2014/058726A1)により詳細に記載されている。しかしながら、この材料は、温度安定性ではなく、導電性に関して早くも250℃を超える温度から層が変質し、特に450℃を上回る温度では急速に変質する。しかしながら、ベーキングオーブンなどで熱分解洗浄を開始できるようにするためには、まさに400℃を超える温度が必要である。透明導電性酸化物、特にドープされた導電性酸化物、特にドープされた酸化亜鉛層の場合、自由電荷キャリアが300℃の温度でこの層内に吸収される。これは、導電性の大幅な低下、ひいてはIR反射率の低下に直接つながる。この観察の仮説は、電荷キャリアが再結合する層の粒界での欠陥中心の熱誘起形成である。非晶質ケイ素層により、そのような層の温度安定性が増加され得ることが分かっているが、かかるa-Si層は、著しい吸収を示す。
【0016】
驚くべきことに、本発明によるシステムにより判明したことは、第2の被覆酸化物層、特にアルミニウム含有酸化物層により、TCO層が、これが非常に温度安定性になるように安定化され得ることである。したがって、この第2の層は、保護層として働く。いくつかの仮説が、この効果を説明している。酸化物層は、一方では酸化バリアとして作用し、他方では、ドープされた層では、被覆層の金属元素が第1の層(TCO)に拡散し、ひいては一種のポストドーピングを引き起こすことが推測される。このポストドーピングによって、一方では、追加の電荷キャリアがTOC層に導入され、他方では、粒界での欠陥が修復され、これにより後者では電荷キャリアのより弱い再結合がもたらされる。これは、「クロス」ドーピングの場合、すなわち、酸化亜鉛層がガリウムおよび/またはモリブデンでドープされており、アルミニウムが酸化物層からこの層に拡散する場合にも当てはまる。この場合、更なるドーパントとしてのアルミニウムによってこれらのドーパントの濃度の減少を補償することができる。
【0017】
有利にはX線非晶質窒化物層を第2の層として有する保護ウインドウの実施形態は、窒化物バリアによって、特に、酸化物バリアと比べて改善された耐薬品性によって特徴付けられる。この場合、第2の層は、好ましくはアルミニウム含有窒化物層、特に好ましくはケイ素-アルミニウム窒化物層であって、アルミニウムとケイ素の総質量分に対して0~95重量%のケイ素、極めて好ましくは90重量%のケイ素と10重量%のアルミニウムを有する。
【0018】
本発明による層デザインは、上述の劣化メカニズムを抑制し、自由電荷キャリアの吸収増大、ひいてはこれらの電荷キャリアの再結合の増加がもはや観察されないことが分かる。
【0019】
第1の層は、有利には、200nm~2μm、好ましくは200~600nm、特に好ましくは300~500nmの範囲の層厚を有する。それにより、熱放射または長波赤外線放射に対する十分な反射率が達成される。第2の被覆層は、比較的薄くてもよい。好ましいのは、10~300nm、さらに好ましくは20~150nm、特に好ましくは40~100nmの範囲の層厚である。第2の酸化物層または窒化物層では、関与する相応の金属元素によって、バリア効果を改善する層の自己パッシベーション(不動態化)が行われ、これは、特に、酸化アルミニウム層またはアルミニウム含有窒化物層、特にケイ素-アルミニウム-窒化物層に当てはまる。自己パッシベーションは、約10nmの深さまで生じる。したがって、第2の層は、有利には、少なくとも1つの層厚が10nmであるべきである。さらに、第1の層は、本発明の1つの実施形態によれば、好ましくは結晶構造、特に好ましくは、10~200nm、好ましくは20~150nm、特に好ましくは30~120nmの粒度分布を有する柱状結晶構造を有することを特徴とする。第2の層は、X線非晶質構造を有する。
【0020】
保護ウインドウの有利な実施形態では、プレートの成分、例えばアルカリ金属イオンが導電性コーティングに拡散すること、またはその逆を防止するために、導電性コーティングの前に、追加のバリアコーティングとして、ガラスプレートまたはガラスセラミックプレートの側面の少なくとも一方の面に、好ましくは中間層が適用され、そのため、中間層は、導電性コーティングとプレートの側面との間に配置されることになる。
【0021】
この中間層は、有利には、アルミニウム含有層および/またはケイ素含有層であって、特に、アルミニウムとケイ素の総質量分に対して0~95重量%のケイ素を有する層、好ましくは酸化物層、特に好ましくは窒化物層、特にケイ素-アルミニウム-窒化物層である。
【0022】
ガラスプレートまたはガラスセラミックプレートとして、例えば、アルミノケイ酸塩ガラスまたはソーダ石灰ガラスの群からのガラスが適している。特に、ソーダ石灰ガラス(ソーダライム)を使用する場合、中間層として、好ましくは、組成範囲Si70~95Al30~5Nを有するケイ素-アルミニウム-窒化物層が考慮される。アルミノケイ酸塩ガラス(例えばRobaxなど)では、組成範囲Al60~90Si40~10Nが特に適していることが判明している。
【0023】
本発明によるコーティングの高い温度安定性は、赤外線反射コーティングの適用後のウインドウの製造において、続く処理工程を高温で実施することを可能にする。したがって、本発明の1つの実施形態によれば、熱的または化学的に強化(vorspannen)されたガラスプレートを使用することが意図されている。ここで、熱強化は、コーティングを変質させることなく、赤外線反射コーティングの堆積後に行うこともできる。
【0024】
熱強化プロセスなしで最後のプロセス工程としてコーティングする場合、窒化物バリアは、酸化物バリアよりも良好な耐薬品性を示す。
【0025】
さらに、特定の実施形態では、IR反射コーティングの前と後の両方で、セラミック系塗料(Farben)の印刷もまた一緒に適用することができる。次いで、セラミック系塗料を、熱アニーリングプロセスにおいて一緒に焼き付けすることができる。
【0026】
特に、第1の層が結晶質で形成されている場合、高い温度安定性が達成される。それに対して、第2の層の保護効果はまた、これがX線非晶質で形成されている場合に特に良好である。結晶質の第1の層とX線非晶質の第2の層との組合せが特に好ましい。
【0027】
断熱を引き起こすために、赤外線反射コーティングに加えて、更なる措置をとることもできる。これには、特に、複数のプレートを有するウインドウが含まれる。IR反射コーティングの有無にかかわらず、そのようなマルチプレートシステムは、今日、市場において既に確立されたものである。本発明によるシステムの利点は、そのようなマルチプレートシステムにおけるプレートの数を減らし、それにより、最も外側の(見る人の方を向いた)プレートの加熱を同じまたは低下させたままで構造的な深さを明らかに縮小させることである。それに従って、本発明の発展形態では、第2の透明なプレートを含む保護ウインドウが提供され、ここで、ガラスプレートまたはガラスセラミックプレートは、第2の透明なプレートと離間して配置されており、そのため、ガラスプレートまたはガラスセラミックプレートと第2の透明なプレートとの間にスペースが形成される。
【0028】
本発明の更なる利点は、赤外線反射コーティングが、セラミック系装飾塗料と良好な適合性を示すことである。セラミック系装飾塗料とコーティングとは、互いにしっかりと付着する。したがって、1つの実施形態によれば、赤外線反射コーティングも配置されているガラスプレートまたはガラスセラミックプレートの側面に、セラミック系装飾塗料よりなる装飾が適用されている。特に、赤外線反射コーティングの適用後の段階で装飾塗料の焼付けを実施することも可能である。なぜなら、本発明によるコーティングは、焼付け時に、実質的に変質することなく高温に耐えるからである。しかしながら、特定の実施形態では、セラミック系装飾塗料は、コーティングから離れた面にも適用されていてよい。
【0029】
本発明によるコーティング用の基材として、またはガラスプレートもしくはガラスセラミックプレートとして適しているのは、特に、ホウケイ酸塩ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、ソーダ石灰ガラス、例えばリチウム-アルミノケイ酸塩-ガラスセラミックなどのガラスセラミック、ケイ酸鉛ガラス、リン酸塩ガラス、あるいは例えば石英ガラスもしくはサファイアなどの結晶質ガラスの群からのガラスである。
【0030】
本発明を、以下で図面を使って、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】赤外線反射コーティングを有する保護ウインドウの断面を示す。
図2】コーティング上に装飾を有する変形例を示す。
図3】コーティングが装飾上に堆積させられている更なる変形例を示す。
図4】保護ウインドウを有する熱処理ユニットを示す。
図5】加熱時間の関数としての様々な赤外線波長に対する反射率のグラフを示す。
図6】赤外線反射コーティングを備えたガラスプレートの縁部の電子顕微鏡写真を示す。
図7】コーティングの平面図における電子顕微鏡写真を示す。
図8】赤外線スペクトル領域におけるコーティングの分光反射率および500℃の温度における黒体の分光放射強度のグラフを示す。
図9図8に対応するグラフであって、温度連続負荷後の反射率を測定したものを示す。
図10】ガラスプレートまたはガラスセラミックプレートと赤外線反射コーティングとの間に中間層を有する変形例を示す。
【0032】
図1は、本発明による保護ウインドウ1の基本形態を示す。保護ウインドウ1は、2つの対向する側面30,32を有する、可視スペクトル領域で透明なガラスプレートまたはガラスセラミックプレート3を含む。側面30には、第1の層7と、第1の層7を覆うことで外側に向いている第2の層9とを有する赤外線反射コーティング5が堆積させられている。第1の層7として用いられるのは、ドーピングによって導電性が高められている透明導電性酸化物であり、特に好ましくは酸化亜鉛である。ドーパントとして使用されるのは、金属、好ましくはガリウムまたはモリブデンであるが、特に好ましくはアルミニウムである。
【0033】
特定の実施例に限定されるものではないが、赤外線スペクトル領域において十分な反射率20を作り出すためのTCO層中のドーパントの含有率は、好ましくは0.2%~10%、好ましくは0.5%~6%、特に好ましくは0.5%~3%である。ここで、アルミニウムの含有率は、好ましくは1%超、特に好ましくは1%~2%の含有率である。ここで、ガリウムおよびモリブデンの含有率は、好ましくは1.5%超、特に好ましくは2%~6%の含有率である。いずれにしても、本発明の別の実施形態によるドーパントの量は、第1の層の表面抵抗率が、5Ω/sq~50Ω/sq、好ましくは10Ω/sq~20Ω/sq、特に好ましくは最大でも17Ω/sqとなるように選択される。それにより、高い赤外線反射率20と同時に、可視スペクトル領域での良好な透明性が達成される。
【0034】
コーティング複合材の第2の層9は、酸化物層、特に好ましくは酸化アルミニウム層であってもよい。酸化物層は、必ずしも純粋なものである必要はなく、すなわち、もっぱら酸素と相応の金属または半金属とからなる。酸化物に加えて、より少量で1種以上の他の酸化物を含有する混合酸化物層も考えられる。特に、ケイ酸塩性成分またはケイ素含有酸化物層もまた想定される。ここでは、ケイ酸アルミニウム層またはケイ素含有酸化物層が特に好ましい。驚くべきことに、アルミニウム含有層が非常に良好なパッシベーション効果を有していることが分かった。これは、短時間の温度処理後に、第2の層を有さないTCO層の既存の導電性が有利に増大することで分かる。パッシベーション効果に加えて、第2の層は、酸化保護層の機能も有する。そのような層がないと、TCO層または第1の層は、高温でさらに酸化する可能性があり、これは、特に、湿気の存在と、そのときに起こる加水分解とにおいて非常に迅速に進む。この酸化は、導電性、ひいては赤外光に対する反射率20の急速な低下をもたらす。なぜなら、酸化によって、導電性を担う自由電荷キャリアが再結合し得る更なる欠陥中心が生成されるからである。パッシベーションは、特に、20~150nmの範囲の第2の層の好ましい層厚では、必ず起こるというわけではなく、実際には酸化物層の反応相手の金属部分の存在、特に好ましくは、酸化アルミニウムの場合には金属アルミニウムに起因している。例えば、半導体工業からは、パッシベーション層としてSiOを使用することが知られている。しかしながら、第2の層としてのSiO層は、持続的なパッシベーションを引き起こさず、被覆されていないTCO層と同様に、そのように被覆されたTCO層は、急速に劣化することが分かっている。
【0035】
代替的に、赤外線反射コーティング5の第2の層9は、X線非晶質窒化物層、好ましくはアルミニウム含有窒化物層、特に好ましくはケイ素-アルミニウム-窒化物層である。
【0036】
さらに、コーティング5の光学特性については、第2の層9の屈折率が第1の層7の屈折率よりも小さい場合に一般的に好適である。上側の低屈折率層との屈折率の差によって、反射防止効果をさらに達成することができる。第1と第2の層の屈折率の差が少なくとも0.1であることが好ましく、特に好ましくは少なくとも0.13の差である。好ましい実施形態では、酸化アルミニウムは、第2の層9として約1.7の屈折率を有し、第1の層7のTCO層、特に好ましくは、酸化亜鉛は、約1.9の屈折率を有する。
【0037】
しかしながら、第2の層として窒化物層が用いられる場合、第2の層の屈折率は、第1の層の屈折率よりも高くてもよい。
【0038】
図10には、図1に示される本発明の基本形態の好ましい発展形態を示す。ここで、少なくともガラスプレートまたはガラスセラミックプレート3の側面30には、中間層8が、第1の層7と、第1の層7を覆うことで外側に向いている第2の層9とを有する、その上にある赤外線反射コーティング5に対する追加的なバリアコーティングとして適用されている。
【0039】
中間層8は、好ましくはアルミニウム含有および/またはケイ素含有層、さらに好ましくは酸化物層、または特に好ましくは窒化物層、特にケイ素-アルミニウム-窒化物層である。中間層8は、好ましくは、ガラス3と、透明導電性酸化物(略してTCO)、好ましくはドープされたTCO、特に好ましくはドープされた酸化亜鉛よりなる第1の層7との間の拡散バリアとして作用する。まさに最後のプロセス工程として熱強化プロセスを伴わずにコーティングされる場合、窒化物バリアは、酸化物バリアよりも良好な耐薬品性を示す。
【0040】
図2は、図1に示される基本形態の発展形態である。この発展形態では、コーティング5の第2の層9に、セラミック系装飾塗料10が適用および焼き付けされる。例えば、パターン化されて塗布された装飾塗料10は、装飾フレームデザイン、装飾模様、ロゴ、または機能性セクションの境界部分などの他の識別マークを表すかまたは強調表示することができる。
【0041】
これに関して、本発明は、セラミック系装飾塗料10が第2の層9に非常に良好に付着するという利点を提供する。装飾塗料10は、通常、ペーストの形態で適用され、乾燥され、引き続き焼き付けされ、ここで、塗料は、まとめて焼き付けられることでセラミック構造またはセラミック様構造となる。その際、セラミック系塗料は、場合により、その下にあるガラスまたはガラスセラミック基材の初めの100nmの層と共に複合体を形成し、ひいては高い機械的安定性を有する。
【0042】
それに従って、本発明による保護ウインドウ1を製造する方法の1つの実施形態によれば、コーティング5の堆積後、つまり、第1の層7と第2の層9の両方の適用後に、セラミック系装飾塗料10が塗布され、乾燥され、焼き付けられることが意図される。ここで、コーティング5は、実質的に変質することなく、少なくとも一時的に550℃~700℃の焼付け温度に耐える。乾燥は、焼付け工程の一部であってもよい。1つの実施形態によれば、装飾塗料10は、120℃~180℃で3分間乾燥される。次いで、焼付けが、700℃超の温度で続けて行われ、特定の実施形態では、730℃~740℃で、2~7分間にわたり行われる。この焼付け工程は、熱アニーリングまたは熱強化工程と組み合わせることができる。一般的に、図2の実施例または図に限定されることなく、セラミック系装飾塗料10は、1種以上の無機顔料およびガラスフリットを含有するペースト状配合物中で使用される。ガラスフリットは、焼き付けされた装飾塗料10において顔料粒子用のマトリックスとして用いられ、さらに、ペースト状の前駆体は、有機成分も含有する。
【0043】
図3に示される別の変形例によれば、セラミック系装飾塗料10は、コーティング5の堆積前に適用してもよく、ここで、コーティング5は、装飾塗料10が備わったガラス基材またはガラスセラミック基材の側面30に堆積させられ、そのため、コーティング5は、セラミック系装飾塗料10を遮蔽することになる。有利には、装飾塗料10は、層5の堆積前に焼き付けされるが、ここでは、堆積後の段階で焼き付けすることも可能である。
【0044】
最後に、更なる変形例として、同様に図3に示されるように、コーティングされた側面30に向かい合う側面32にセラミック系装飾塗料10を適用することも可能である。この実施形態は、両側面が装飾され、側面30の上のコーティング5に装飾が適用されるように、図2に示される実施形態と組み合わせることもできる。上記のとおり、この場合も、コーティングの堆積前または堆積後に焼き付けることができる。
【0045】
図4には、本発明の好ましい用途を示す。熱処理ユニット15用の本発明による保護ウインドウ1が特に適している。この処理ユニット15は、ベーキングオーブンなどの家庭用機器であってもよい。熱処理ユニット15は、オーブンチャンバー151を取り囲む壁、特にベーキングオーブンマッフル150を含む。オーブンチャンバー151は、1つ以上の加熱要素152によって加熱される。
【0046】
保護ウインドウ1は、熱処理ユニット15のドア17を形成する。先行する図1図3の基本的な例とは異なり、ここでは、保護ウインドウ1は、更なる透明なガラスプレートまたはガラスセラミックプレート4を含む。両方のプレート3,4は、有利には、スペース6によって互いに隔てられている。それに従って、本発明の1つの実施形態によれば、一般的に、保護ウインドウ1は、少なくとも2つの互いに離間したプレート3,4を有するマルチウインドウを含むことが意図される。
【0047】
これに関して、オーブンチャンバーの方を向いたガラスプレートまたはガラスセラミックプレート3が、本発明によるコーティング5を有する図示された配置が有用である。それにより、ユーザー側の第2のプレート4の加熱が低減される。さらに、特に有利なのが、別の特徴である。既述のとおり、好ましい用途は、熱分解洗浄機能を有するベーキングオーブンであり、これは、ベーキングオーブンマッフルが450℃を超えて加熱されることを特徴とする。そのとき、コーティング5は、有利には、オーブンチャンバー151から離れた側面30に配置されている。それにより、オーブンチャンバー151の方を向いたガラスプレートまたはガラスセラミックプレート3は、コーティングがあるにもかかわらず強く加熱されることができ、そのため、熱分解によるプレート汚れの洗浄除去が起こり得る。更なる実施形態では、コーティングは、オーブンチャンバーの方を向いた面にある。この場合、オーブンチャンバーへの熱放射は、損失せずに、すなわち、それはプレートを突き抜けることなく、反射し戻り、これにより、熱分解効果がさらに一層高められる。
【0048】
本発明によるウインドウの更なる好ましい用途は、ファイアプレースのウインドウである。
【0049】
本発明によるコーティング5の特に高い温度安定性は、図5を使って明確に示される。図5は、赤外、可視および紫外スペクトル領域における6つの異なる波長、すなわち、2380nm、1800nm、1380nm、1080nm、780nmおよび320nmの光透過率の測定値を示す。この透過率は、本発明によりコーティングされたガラスプレートの形態のサンプルの加熱中に連続的に測定した。そのために、サンプルを、温度T=740℃の高温オーブン中で処理した。初めの測定サイクルまでのハンドリングは、約30秒である。測定サイクルは、約65秒間継続される。波長λが320nmより大きい場合、経時的な透過率の変化はないことが分かる。320nmの波長、つまり、紫外スペクトル領域においてのみ、透過率は短時間で減少し、5回目の測定サイクルから再び一定になる。これは、コーティングの劣化に起因するものではなく、UV範囲の透過率が温度に依存するという物理的作用に基づいている。結論として、層システム内の何らかの反応によって引き起こされる透過率の変化は観察されないということである。したがって、ドープされた導電性の第1の層(TCO層)と、酸化物層の形態の第2の被覆層とからなる層システムは、非常に長期間安定性である。図5を使って同様に実証されるように、層システムは、可視スペクトル領域において少なくとも75%の透過率を有する。図5では、ドープされた酸化亜鉛層とアルミニウム含有酸化物層からなる層システムが試験されている。
【0050】
図6には、本発明による赤外線反射コーティング5でコーティングされたガラスプレート3の破断エッジの電子顕微鏡写真を示す。コーティング5の第1の層7と第2の層9とは、写真では互いに良好に区別可能である。第1の層7、ここでは、ドープされた酸化亜鉛層は、結晶質組織を有する。エッジの破断構造は、側面30に対して主として垂直に延びているか、または表面法線の方向に向かう。これは、柱状結晶構造のことを指す。本発明の1つの実施形態によれば、柱の長手方向がガラスプレートまたはガラスセラミックプレート3の表面に対して実質的に垂直である特定の図示された例に限定されることなく、柱状構造を有する第1の層7が提供される。第2の層9、この場合、アルミニウム含有酸化物層は、識別可能な構造を有さない。実際には、第2の層は、X線非晶質または少なくとも主としてX線非晶質であることが判明する。酸化アルミニウム層の非晶質組織は、良好なパッシベーションを引き起こすために好適であることが明らかであり、第1の層の結晶質構造を均一に覆う。パッシベーション層の無構造形態に基づき、TCOコーティングによって予め決定された構造に対する良好な付加および適合が行われる。図6に示されるスケールを使って、この実施形態では、第1の層7が、約350~450nmの層厚を有することが読み取られる。酸化アルミニウム層の層厚は、明らかに小さく、約50~80nmである。それにより、コーティング5の全層厚は、400~530nmの好ましい範囲にある。
【0051】
図7は、同様の尺度で、コーティング5の平面図における電子顕微鏡写真を示す。第1の層7の柱状構造の柱は、層厚全体にわたって伸びており、平面図では10~100nmの幅広い粒度分布を有する。しかしながら、第2のX線非晶質層9は、単に結晶構造の被覆をもたらすだけで、構造的変化を伴わないことも十分に認めることができる。
【0052】
図5を使って、可視スペクトル領域における高い透過率を示した。しかしながら、ここでのコーティング5は、その機能に応じて、熱放射のために重要な赤外線領域に対して高い反射率20を有するべきである。この特性を、図8および図9を使って以下に示す。
【0053】
図8は、層7,9の堆積直後の状態における1μm~25μmのスペクトル領域におけるコーティング5の分光反射率20を示す。同様に、プランクの放射式に従って500℃の温度を有する黒体の分光放射強度19も示している。この曲線には、グラフの右の縦座標に入力された関数値が当てはめられる。この曲線は、熱処理ユニットの高温空間、つまり、例えば図4の例のオーブンチャンバー151が相応の運転温度で放出する熱放射スペクトルを概略的に表している。
【0054】
中赤外線領域(2.5~25μm)、つまり、放射強度19が500℃のオーブン温度で最大である領域では、少なくとも80%の反射率20が達成される。
【0055】
層システムは、反射率20の劣化が認められることなく、少なくとも740℃の温度まで負荷可能である。500℃の典型的な使用温度では、同様にIR反射率を劣化させずに、1000時間にわたる継続負荷を示すことができた。図9は、そのために、この継続負荷後のコーティング5の反射率20を示す。さらに、熱負荷試験後、コーティング5は、光学的に目立つ色差を示さない。色値は、ニュートラルな色の範囲における継続的な熱負荷の前と後の両方で、本発明の実施形態に従って変動する。いわゆるLab表色系では、この範囲は、a,bそれぞれ、-5~5、有利には-2~+2の範囲の値と、色値ΔE≦3の差による色差とによって特徴付けられる。有利には、2つの値a,bの少なくとも1つが、-5~5の範囲にとどまる。場合により、他の色値も、より大きい値またはより小さい値を有することができる。
【0056】
コーティング5を最適化するために、特に表面抵抗率を低下させ、ひいてはIR範囲の反射率を増大させるために、有利には、後処理、例えば、オーブン貯蔵による熱後処理、キセノンランプによるフラッシュランプアニーリング、特に、コーティング5に限った表面近接処理が、短波長の赤外線放射またはレーザ処理を用いて実施される。
【0057】
驚くべきことに、既知の赤外線反射層とは対照的に、熱処理によって、ドープされた第1の層7、つまり、TCO層の表面抵抗率は、さらに一層低減し、その結果、IR範囲の反射率20が顕著に増加する。つまり、コーティングは劣化せず、それどころか逆に改善された特性を示す。一般に、第2の層9によるパッシベーションが大いに長期安定性なのは驚くべきことである。これは、層7,9の温度膨張係数が非常に異なるためでもある。第2の層9としてのアルミニウム含有酸化物層の場合、これは8.1×10-6-1の線膨張係数を有し、その一方で、第1の層7、この場合、ドープされた酸化亜鉛の線膨張係数は、約3×10-6-1である。これらの相違にもかかわらず、層7,9には、劣化を助長することになる亀裂が生じない。これに関して、被覆酸化物層が第1の層7よりも高い膨張係数を有することが好適である。それゆえ、本発明の1つの実施形態によれば、一般的に、第2の層9が第1の層7よりも高い線熱膨張係数を有することが意図される。
【0058】
本発明は、図面を使って説明される実施例に限定されず、特許請求の範囲内で多岐にわたって変更され得ることは、当業者に明らかである。特に、様々な実施例も互いに組み合わせることができる。したがって、図1~4および図10の実施例は、それぞれ片面コーティング5のみを示す。しかしながら、場合により、両面コーティング5も有用であり得る。図4の例が示すようなマルチウインドウの場合、2枚のプレートに、それぞれ本発明によるコーティング5を設けることも考えられる。
【符号の説明】
【0059】
1 保護ウインドウ、 3,4 プレート、 5 コーティング、 6 スペース、 7 第1の層、 8 中間層、 9 第2の層、 10 セラミック系装飾塗料、 15 熱処理ユニット、 17 ドア、 19 分光放射強度、 20 反射率、 30,32 3の側面、 150 ベーキングオーブンマッフル、 151 オーブンチャンバー、 152 加熱要素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10