(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】無酸素銅板およびセラミックス配線基板
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20220624BHJP
C22C 9/02 20060101ALI20220624BHJP
B21B 3/00 20060101ALI20220624BHJP
B21B 1/22 20060101ALI20220624BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20220624BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220624BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20220624BHJP
【FI】
C22C9/00
C22C9/02
B21B3/00 L
B21B1/22 K
B32B15/04 B
C22F1/00 606
C22F1/00 623
C22F1/00 630M
C22F1/00 650A
C22F1/00 661A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694Z
C22F1/08 B
(21)【出願番号】P 2018105816
(22)【出願日】2018-06-01
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2017112346
(32)【優先日】2017-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513097296
【氏名又は名称】株式会社SHカッパープロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】外木 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】児玉 健二
(72)【発明者】
【氏名】加藤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】高野 徹
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-238952(JP,A)
【文献】特開2017-075382(JP,A)
【文献】特開2013-119631(JP,A)
【文献】特開2014-019893(JP,A)
【文献】特開2014-098179(JP,A)
【文献】特開2004-256879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00
C22C 9/02
B21B 3/00
B21B 1/22
B32B 15/04
C22F 1/00
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn、Zr、Mg、TiおよびCaからなる群より選択した1種以上を総濃度で2ppm以上170ppm以下含有し、残部が銅および不可避不純物からなり、純度が99.96%以上である無酸素銅が圧延されることで平板状に形成されてなり、
圧延面に対して平行な結晶面が{022}面、{002}面、{113}面、{111}面および{133}面である結晶を有し、
前記圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定で得られる前記各結晶面の回折ピーク強度をそれぞれI
{022}、I
{002}、I
{113}、I
{111}、I
{133}としたとき、
0.1≦I
{022}/(I
{022}+I
{002}+I
{113}+I
{111}+I
{133})≦0.3であり、
(I
{002}+I
{113})/(I
{111}+I
{133})≧1.0であり、
I
{002}/I
{022}≧1.0であり、
I
{113}/I
{022}≧0.5であり、
I
{111}/I
{022}≧0.15であり、
I
{133}/I
{022}≧0.02であり、
0.5≦I
{002}/I
{113}≦5.0であり、
0.2≦I
{133}/I
{111}≦0.5であり、
1.0≦I
{113}/I
{111}≦10であり、
1.0≦I
{002}/I
{111}≦20であり、
1.0≦I
{002}/I
{133}≦75であり、
1.0≦I
{113}/I
{133}≦30であり、
900℃の条件下で10分間加熱する熱処理を行った後の平均結晶粒径が0.4mm以下である無酸素銅板。
【請求項2】
Sn、Zr、Mg、TiおよびCaからなる群より選択した1種以上を総濃度が150ppm以下となるように含んでなる
請求項1に記載の無酸素銅板。
【請求項3】
Sn、Zr、Mg、TiおよびCaからなる群より選択した1種以上を総濃度が50ppm以上150ppm以下となるように含んでなる
請求項1に記載の無酸素銅板。
【請求項4】
セラミックス基板と、
Sn、Zr、Mg、TiおよびCaからなる群より選択した1種以上を総濃度で2ppm以上170ppm以下含有し、残部が銅および不可避不純物からなり、純度が99.96%以上である無酸素銅に対して圧延加工を行うことで平板状に形成され、前記セラミックス基板上に設けられた配線材としての無酸素銅板と、を備え、
前記無酸素銅板は、
圧延面に対して平行な結晶面が{022}面、{002}面、{113}面、{111}面および{133}面である結晶を有し、
前記圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定で得られる前記各結晶面の回折ピーク強度をそれぞれI
{022}、I
{002}、I
{113}、I
{111}、I
{133}としたとき、
0.1≦I
{022}/(I
{022}+I
{002}+I
{113}+I
{111}+I
{133})≦0.3であり、
(I
{002}+I
{113})/(I
{111}+I
{133})≧1.0であり、
I
{002}/I
{022}≧1.0であり、
I
{113}/I
{022}≧0.5であり、
I
{111}/I
{022}≧0.15であり、
I
{133}/I
{022}≧0.02であり、
0.5≦I
{002}/I
{113}≦5.0であり、
0.2≦I
{133}/I
{111}≦0.5であり、
1.0≦I
{113}/I
{111}≦10であり、
1.0≦I
{002}/I
{111}≦20であり、
1.0≦I
{002}/I
{133}≦75であり、
1.0≦I
{113}/I
{133}≦30であり、
平均結晶粒径が0.4mm以下であるセラミックス配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無酸素銅板およびセラミックス配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子を実装する基板として、セラミックス配線基板が用いられることがある(例えば特許文献1,2参照)。セラミックス配線基板は、セラミックス基板と、セラミックス基板のいずれかの主面上に設けられ、例えばエッチングにより所定箇所が除去されて配線パターン(銅配線)になる無酸素銅板と、が接合されて形成されている。セラミックス基板と無酸素銅板との接合方法として、無酸素銅板におけるセラミックス基板との接合面上に形成した銅酸化物層を溶融させて両者を接合するダイレクトボンディング法や、チタン(Ti)等の活性金属が添加されたロウ材を用いて両者を接合する活性金属ロウ付け法等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭61-296788号公報
【文献】特開平9-36540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の接合方法では、銅(Cu)やTi等の金属を溶融させることから、接合プロセスにおいて高温の温度帯(例えば800~1080℃)での加熱が伴う。しかしながら、無酸素銅板は、高温で加熱されると、無酸素銅板を構成する銅結晶(銅の結晶粒)が成長し粗大化する場合がある。
【0005】
本発明は、高温加熱された場合であっても、結晶の粗大化を抑制できる無酸素銅板およびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
圧延されることで平板状に形成されてなり、
圧延面に対して平行な結晶面が{022}面、{002}面、{113}面、{111}面および{133}面である結晶を有し、
前記圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定で得られる前記各結晶面の回折ピーク強度をそれぞれI{022}、I{002}、I{113}、I{111}、I{133}としたとき、
I{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133})≦0.3であり、
(I{002}+I{113})/(I{111}+I{133})≧1.0であり、
I{002}/I{022}≧1.0であり、
I{113}/I{022}≧0.5であり、
I{111}/I{022}≧0.15であり、
I{133}/I{022}≧0.02であり、
0.5≦I{002}/I{113}≦5.0であり、
0.2≦I{133}/I{111}≦0.5であり、
1.0≦I{113}/I{111}≦10であり、
1.0≦I{002}/I{111}≦20であり、
1.0≦I{002}/I{133}≦75であり、
1.0≦I{113}/I{133}≦30であり、
900℃の条件下で10分間加熱する熱処理を行った後の平均結晶粒径が0.4mm以下である無酸素銅板およびその関連技術が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、無酸素銅板がセラミックス基板等との接合のため高温加熱された場合であっても、無酸素銅板を構成する結晶の粗大化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例にかかる中立点の位置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<発明者等の得た知見>
本発明の実施形態の説明に先立ち、本発明者が得た知見について説明する。
【0010】
無酸素銅板は、鋳塊に対して冷間圧延、最終の冷間圧延等を行うことで作製される。冷間圧延を行うと、被圧延材中の銅結晶は{022}面の方へと回転することから、被圧延材には、圧延面と平行な結晶面が{022}面である結晶が発達しやすい。このため、最終の冷間圧延後の無酸素銅板中には、{022}面の結晶が多くなり、他の結晶面の結晶が少なくなる。
【0011】
無酸素銅板が高温加熱されると、無酸素銅板中の結晶が再結晶することで、新たな結晶(再結晶粒)が生じる。この再結晶粒は、再結晶前の結晶の結晶方位に関連する特定の方位を有する。例えば、無酸素銅板中の{022}面の結晶は、高温加熱により再結晶することで圧延面と平行な結晶面が{002}面である結晶へと変化する。
【0012】
無酸素銅板中の結晶が再結晶する際、同一の結晶方位を有する結晶同士は合体集合しやすく、その結果、無酸素銅板中の結晶が粗大化しやすい。例えば上述のような{022}面の結晶が多い無酸素銅板が高温加熱されると、再結晶で{022}面の結晶が{002}面の結晶へと変化し、この結晶同士が合体集合して粗大化する。このように、高温加熱による無酸素銅板中の結晶の粗大化は、最終の冷間圧延後の無酸素銅板中に存在する結晶の結晶方位に大きく依存する。
【0013】
そこで、最終の冷間圧延における{022}面の結晶の発達を抑制するため、最終の冷間圧延の総加工度を低く抑えることが考えられる。しかしながら、最終の冷間圧延の総加工度を低くすると、被圧延材(最終的に得られる無酸素銅板)の内部に蓄積される歪みエネルギが低下するため、高温加熱による再結晶の際、再結晶核の発生頻度の低下に繋がる。その結果、高温加熱後の無酸素銅板中の結晶数の低下、すなわち結晶の粗大化に繋がってしまう。
【0014】
そこで、本発明者等は、無酸素銅板において、最終の冷間圧延の総加工度を低くすることなく高温加熱による結晶粗大化を抑制すべく鋭意研究を行った。その結果、高温加熱前の無酸素銅板中の{022}面の結晶を少なくするとともに、圧延面と平行な結晶面が{022}面以外の面である結晶を無酸素銅板中に一定量(一定数)存在させることで、上記問題を解決することができることを見出した。本発明は、発明者等が見出した上記知見に基づくものである。
【0015】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0016】
(1)無酸素銅板の構成
まず、無酸素銅板の構成について説明する。
【0017】
本実施形態にかかる無酸素銅板は例えば圧延加工を行うことで所定方向に圧延されて平板状(板状)に形成されてなる。なお、無酸素銅板の圧延面が主面(主表面)となる。無酸素銅板の厚さは例えば100μm以上である。
【0018】
圧延されてなる無酸素銅板は、複数の結晶により構成されている、すなわち多結晶である。無酸素銅板は、圧延面に対して平行な結晶面が{022}面、{002}面、{113}面、{111}面および{133}面である結晶を有している。無酸素銅板の圧延面には複数の結晶が露出しており、上述のように無酸素銅板は多結晶であることから、圧延面が一つの結晶面のみで構成されることはない。
【0019】
本明細書中では、圧延面に対して平行な結晶面が{022}面である結晶を{022}面の結晶とも称する。圧延面に対して平行な結晶面が{002}面、{113}面、{111}面および{133}面である結晶も同様とする。圧延面に対して平行な結晶面が{002}面、{113}面、{111}面および{133}面である結晶をまとめて「副方位の各結晶面の結晶」とも称する。なお、圧延されてなる無酸素銅板における銅結晶の主方位面は{022}面である。
【0020】
上述のように、無酸素銅板が高温加熱されると、再結晶により無酸素銅板中の{022}面の結晶が{002}面の結晶へと変化する際に、この結晶同士が合体集合して、無酸素銅板中の結晶を粗大化させる。このことから、高温加熱により無酸素銅板中の結晶が粗大になること(以下、「高温加熱による結晶粗大化」とも称する)を抑制するためには、無酸素銅板中に存在する{022}面の結晶を少なくする必要がある。例えば、無酸素銅板の圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定で得られる{022}面の回折ピーク強度を充分に低くする必要がある。
【0021】
副方位の各結晶面の結晶は、無酸素銅板を高温加熱した場合であっても、圧延面と平行な面が他の結晶面である結晶へと変化することは殆どない。このことから、高温加熱による結晶粗大化を抑制するためには、副方位の各結晶面の結晶を、無酸素銅板中に一定量存在させる必要がある。例えば、圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定で得られる副方位の各結晶面の回折ピーク強度をそれぞれ所定の範囲内にする必要がある。
【0022】
上述のように、高温加熱による結晶粗大化と、無酸素銅板における{022}面の結晶および副方位の各結晶面の結晶と、の間には密接な関係が認められる。高温加熱による結晶粗大化を抑制するためには、{022}面および副方位の各結晶面の上述の回折ピーク強度のバランスを調整する必要がある。
【0023】
無酸素銅板は、圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定で得られる{022}面、{002}面、{113}面、{111}面および{133}面の回折ピーク強度をそれぞれI{022}、I{002}、I{113}、I{111}、I{133}としたとき、下記式(1)~式(12)を全て満たしている。
【0024】
式(1):I{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133})≦0.3
式(2):(I{002}+I{113})/(I{111}+I{133})≧1.0
式(3):I{002}/I{022}≧1.0
式(4):I{113}/I{022}≧0.5
式(5):I{111}/I{022}≧0.15
式(6):I{133}/I{022}≧0.02
式(7):0.5≦I{002}/I{113}≦5.0
式(8):0.2≦I{133}/I{111}≦0.5
式(9):1.0≦I{113}/I{111}≦10
式(10):1.0≦I{002}/I{111}≦20
式(11):1.0≦I{002}/I{133}≦75
式(12):1.0≦I{113}/I{133}≦30
【0025】
上記式(1)は、{022}面の回折ピーク強度が、副方位の各結晶面({022}面以外の結晶面)の回折ピーク強度の3割以下と充分に低いことを示している。これは、無酸素銅板中の{022}面の結晶が充分に少ないことを意味する。
【0026】
上記式(2)は、{002}面の回折ピーク強度と{113}面の回折ピーク強度との合計(I{002}+I{113})の比率が、{111}面の回折ピーク強度と{133}面の回折ピーク強度との合計(I{111}+I{133})の比率よりも高いことを示している。これは、後述の最終の冷間圧延で被圧延材に加わる圧縮成分が引張成分よりも高いこと、すなわち最終の冷間圧延では引張応力よりも圧縮応力が優勢であることを示している。
【0027】
上記式(3)~(6)は、後述の最終の冷間圧延により、{022}面まで回転(変化)した銅結晶に対する{022}面まで回転しなかった銅結晶の比率をそれぞれ示している。
【0028】
上記式(7),(8)は、後述の最終の冷間圧延により銅結晶が{022}面へと回転する際、後述の経路1,2でそれぞれみられる結晶面同士の回折ピーク強度の比率をそれぞれ示している。
【0029】
上記式(9)~(12)は、後述の最終の冷間圧延により銅結晶が{022}面へと回転する際、後述の経路1,2以外の経路でみられる結晶面同士の回折ピーク強度の比率をそれぞれ示している。
【0030】
式(9)~(12)と式(7),(8)とを併せて考慮することで、後述の最終の冷間圧延により{022}面まで回転しなかった結晶面同士の回折ピーク強度の比率を全て示していることになる。
【0031】
上記式(1)~(12)に示す各結晶面の回折ピーク強度の関係は、一つ又は複数の式の範囲が変われば他の式の範囲も連動して変わってしまう点に留意が必要である。例えば、式(3)の下限の範囲を大きくするには、I{002}の値を大きくすればよいが、この場合、式(7)の分子も大きくなり、式(7)の値が上限値の5.0を上回ることとなりかねない。このような関係は、上記の式(1)~(12)までの全てに当てはまる。
【0032】
無酸素銅板の原材料(母材)として、熱伝導性や耐水素脆性に優れた無酸素銅(Oxygen Free Copper:OFC)を用いることが好ましい。この無酸素銅として、導電率(導電性)の低下を抑制する観点から、JIS C1020,H3100等に規定される純度が99.96%以上の無酸素銅を用いることが好ましい。
【0033】
無酸素銅板は、導電率の低下を抑制する観点から、その酸素(O)濃度が0ppmであること、すなわち酸素含有量がゼロであることが好ましい。しかしながら、無酸素銅板の作製過程において無酸素銅板中に不可避的に不純物が混入することから、無酸素銅板中のO濃度をゼロにすることは困難であり、数~数十ppm程度の酸素が含まれることが一般的である。本実施形態では、無酸素銅板中のO濃度が10ppm以下であればよく、これにより、後述のセラミックス配線基板に好適に用いることができる。
【0034】
無酸素銅板には、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)およびカルシウム(Ca)からなる群より選択した1種以上の元素(以下、これらをまとめて「Sn等の元素」とも称する)が含有されてなることが好ましい。
【0035】
上述の元素の原子半径はそれぞれSn:158pm、Zr:160pm、Mg:160pm、Ti:147pm、Ca:197pmであり、銅(Cu)の原子半径の128pmに比べると非常に大きい。このため、Sn等の元素を銅の母相中に固溶させることで結晶格子(原子格子)を大きく歪ませることができる。無酸素銅板が高温加熱された際、この歪みが粒界移動の障害となり、その結果、高温加熱による結晶粗大化を抑制できる。
【0036】
Sn等の元素の濃度(含有量)は、例えば150ppm以下であることが好ましく、50ppm以上150ppm以下であることがより好ましい。なお、Sn等からなる群より選択した2種以上の元素を無酸素銅板中に含有させる場合は、2種以上の元素の総濃度(合計濃度)が150ppm以下であることが好ましい。
【0037】
Sn等の元素の濃度(総濃度)が150ppmを超えると、無酸素銅板の導電率の低下が大きくなる。例えば、Sn等の元素を含有した無酸素銅板の導電率が、Sn等の元素を含有(添加)しない無酸素銅板の導電率よりも3%IACSを超えて低くなる。Sn等の元素の濃度を150ppm以下とすることで、上述のSn等の元素による結晶粗大化抑制効果を得つつ、導電率の低下を抑制できる。無酸素銅板の導電率を例えば100%IACS以上にすることができる。
【0038】
Sn等の元素の濃度が50ppm未満であると、結晶格子を充分に歪ませることができず、上述のSn等の元素による結晶粗大化抑制効果を充分に得ることができないことがある。Sn等の元素の濃度を50ppm以上にすることで、上述のSn等の元素による結晶粗大化抑制効果を充分に得ることができる。
【0039】
(2)無酸素銅板の製造方法
次に、以下に示すステップ1~5を順次実施することで、本実施形態にかかる無酸素銅板を製造する方法について説明する。
【0040】
(ステップ1:鋳造)
高周波溶解炉等を用いて原料としての無酸素銅を溶解して無酸素銅の溶解液を生成する。この無酸素銅の溶解液中に、所定量のSn、Zr、Mg、Ti、Ca等の元素を添加してもよい。この場合、最終的に形成される無酸素銅板中のSn等の元素の濃度(総濃度)が例えば150ppm以下、好ましくは50ppm以上150ppm以下となるように、Sn等の元素の添加量を調整する。溶製した無酸素銅(無酸素銅の溶解液)を鋳型に注いで冷却し、所定厚さ、所定幅を有する鋳塊(インゴット)を鋳造する。
【0041】
(ステップ2:熱間圧延)
鋳塊を所定温度(例えば900℃以上1000℃以下)に加熱し、所定温度の鋳塊に対して所定加工度の熱間圧延を行い、所定厚さ(例えば10~15mm)の熱間圧延材を得る。本明細書における熱間圧延材とは、熱間圧延を行うことで形成された無酸素銅の板材をいう。
【0042】
(ステップ3:冷間圧延)
熱間圧延材に対し、所定加工度の冷間圧延と、被処理材を所定温度の条件下で所定時間加熱する焼鈍(中間焼鈍)と、をそれぞれ交互に所定回数繰り返して行う。この中間焼鈍は、冷間圧延により加工硬化した被処理材を焼き鈍すことにより加工硬化を緩和する処理である。ステップ3は、冷間圧延と中間焼鈍とを交互に所定回数ずつ行った後、冷間圧延で終了するとよい。ステップ3を行うことで、所定厚さの冷間圧延材が得られる。冷間圧延材の厚さは、後述のステップ5(最終の冷間圧延)を行った後の無酸素銅板が所定厚さとなる厚さに調整する。なお、本明細書における冷間圧延材とは、本ステップが終了した後(所定回数の冷間圧延と焼鈍処理とを行った後)の無酸素銅の板材を言い、これは、いわゆる生地とも称される銅条である。
【0043】
(ステップ4:生地焼鈍)
冷間圧延材、すなわち生地を、所定温度で所定時間加熱する焼鈍(生地焼鈍)を行い、焼鈍生地を得る。生地焼鈍は、例えば、上述の熱間圧延や冷間圧延により冷間圧延材に蓄積した加工歪みを充分に緩和することができる条件(温度、時間)で実施する。
【0044】
(ステップ5:最終の冷間圧延)
生地焼鈍を行った冷間圧延材(すなわち焼鈍生地)に対し、上述のステップ3における冷間圧延とは異なる冷間圧延を所定回数(好ましくは複数回)行い(最終の冷間圧延、仕上げ冷間圧延)、所定厚さ(例えば100μm以上)の平板状の無酸素銅板を形成する。本ステップでは、焼鈍(熱処理)を挟まずに、冷間圧延を複数回連続して行うことが好ましい。
【0045】
圧延加工時、焼鈍生地等の被圧延材(加工対象物、被処理材)は、互いに対向する1対の圧延ロール(以下、ロールとも称する)間を通過することで減厚される。ロール間を通過する被圧延材の速度は、ロールに引き込まれる前(ロール入口側)ではロールの回転速度より遅く、ロールから引き出された後(ロール出口側)ではロールの回転速度より速い。このため、圧延加工時、被圧延材には、ロール入口側では圧縮応力が加わりやすく、ロール出口側では引張応力が加わりやすい。被圧延材を減厚するためには、被圧延材に加わる引張応力よりも圧縮応力を高くする(圧縮応力>引張応力)必要がある。
【0046】
ステップ5では、1回(1パス)の加工度が所定加工度である冷間圧延(圧延パス)を、総加工度が例えば40%以上、好ましくは80%以下、より好ましくは50%以上75%以下となるように複数回行う。
【0047】
総加工度は、下記の(数1)から求められる。なお、(数1)中、TBは、最終の冷間圧延前の被処理材(焼鈍生地)の厚さであり、TAは、最終の冷間圧延後の被処理材(すなわち無酸素銅板)の厚さである。
(数1)
総加工度(%)=[(TB-TA)/TB]×100
【0048】
総加工度が40%未満であると、最終的に得られる無酸素銅板の内部に蓄積される歪みエネルギが不充分となる。このため、無酸素銅板が上記式(1)~(12)の全てを満たす場合であっても、高温加熱による結晶粗大化を抑制できないことがある。総加工度を40%以上とすることで、無酸素銅板の内部に充分な歪みエネルギを蓄積させることができ、総加工度を50%以上とすることで、無酸素銅板の内部により多くの歪みエネルギを蓄積させることができ、上述の問題を解決することができる。
【0049】
被圧延材中の銅結晶は、圧延時に被圧延材に加わった応力により回転現象を起こし、結晶面が変化する。例えば、本ステップでは、被圧延材中の銅結晶は、冷間圧延により、{002}面や{113}面、{111}面、{133}面等の結晶面を経由して、例えば下記の経路1,2を通って{022}面へと回転(変化)する。被圧延材に加わる応力が大きくなるほど、すなわち総加工度が高くなるほど、{022}面まで回転する結晶が多くなる。
経路1:{113}面→{002}面→{022}面
経路2:{111}面→{133}面→{022}面
【0050】
このため、ステップ5における冷間圧延の総加工度が80%を超えると、{022}面まで回転する結晶が多くなることから、無酸素銅板中には{022}面の結晶が多く存在する。このため、例えば、後述のように1パスあたりの加工度や中立点の位置を制御した場合であっても、無酸素銅板が上記式(1)~(12)の少なくともいずれかを満たさないことがある。総加工度を80%以下とすることで上述の問題を解決でき、総加工度を75%以下とすることで上述の問題を確実に解決できる。
【0051】
また、本ステップでは、総加工度に加えて1パスあたりの加工度を調整することが好ましい。なお、1パスあたりの加工度は例えば20%以上で所定の加工度とすることが好ましい。これにより、各パスで被圧延材に加わる圧縮応力の強度(大きさ)および引張応力の強度(大きさ)を調整して圧縮応力>引張応力としつつ、応力成分(圧縮成分および引張成分)の比率を調整することができる。
【0052】
各パスで被圧延材に加わる応力成分の比率を調整することで、冷間圧延により被圧延材中の銅結晶が{022}面へ変化する際の経路を変えることができる。被圧延材に加わる圧縮成分の比率(以下、「圧縮成分比率」とも称する)が高くなると上記経路1を通りやすくなり、被圧延材に加わる引張成分の比率(以下、「引張成分比率」とも称する)が高くなると上記経路2を通りやすくなる。
【0053】
上記経路1を通りやすい条件とすることで、例えば圧縮成分>引張成分としつつ、圧縮成分比率が高くなるように1パスあたりの加工度を制御することで、無酸素銅板中に存在する{002}面、{113}面の結晶の量(数)を増やすことができる。上記経路1を通りやすい条件下において、圧縮成分比率が高くなる条件とすることで無酸素銅板中に存在する{002}面の結晶の量を増やすことができ、引張成分比率が高くなる(圧縮成分比率が低くなる)条件とすることで無酸素銅板中に存在する{113}面の結晶の量を増やすことができる。
【0054】
上記経路2を通りやすい条件とすることで、例えば圧縮成分>引張成分としつつ、引張成分比率が高くなるように1パスあたりの加工度を制御することで、無酸素銅板中に存在する{111}面、{133}面の結晶の量(数)を増やすことができる。上記経路2を通りやすい条件下において、引張成分比率が高くなる条件とすることで無酸素銅板中に存在する{111}面の結晶の量を増やすことができ、圧縮成分比率が高くなる(引張成分比率が低くなる)条件とすることで無酸素銅板中に存在する{133}面の結晶の量を増やすことができる。
【0055】
変化の方向については、例えば下記(a)の文献を参考とした。
(a)編著者 長嶋晋一、“集合組織”、丸善株式会社、昭和59年1月20日、p96の
図2.52
【0056】
また、ステップ5では、各パスにおける中立点の位置を制御することが好ましい。例えば、被圧延材の厚さが薄くなるほど、すなわち後段(下段)のパスほど、中立点の位置をロール出口側に設定することが好ましい。中立点とは、ロール間を通過する被圧延材の速度がロールの回転速度と等しくなる位置である。なお、上述のように、ロール間を通過する被圧延材の速度は、ロール入口側ではロールの回転速度より遅く、ロール出口側ではロールの回転速度より速い。中立点では、被圧延材にかかる圧力が最大となる。
【0057】
中立点の位置を制御することにより、圧縮応力の強度、引張応力の強度、応力成分の比率を調整することができる。被圧延材に加わる圧縮応力の強度を高くするほど、被圧延材中の銅結晶が{022}面まで回転しやすくなる。また、被圧延材に加わる圧縮成分比率を高くすると、無酸素銅板中に存在する{002}面、{113}面の結晶の量を増やすことができ、圧縮成分比率を低くすると、無酸素銅板中に存在する{111}面、{133}面の結晶の量を増やすことができることは、上述の通りである。
【0058】
中立点の位置をロール出口側に設定することで、被圧延材に加わる圧縮応力の強度をより高くしたり、圧縮成分比率を高めたりすることができる。中立点の位置をロール入口側に設定することで、被圧延材に加わる圧縮応力の強度をより低くしたり、圧縮成分比率を低くしたりすることができる。
【0059】
中立点の位置は、例えば圧延速度(ロールの回転速度)を調整することで制御することができる。例えば1パスあたりの加工度等の他の条件を一定としたとき、圧延速度を高くすれば中立点の位置を進行方向に対して後方側(入口側)に移動させることができ、圧延速度を低くすれば中立点の位置を進行方向に対して前方側(出口側)に移動させることができる。
【0060】
中立点の位置の制御は、圧延速度の他、前方張力、後方張力、ロール径、加工度、ロールの表面粗さ、圧延荷重等を制御因子として行うこともできる。これらの制御因子のうち一つの因子のみを可変としてもよく、複数の因子を可変としてもよい。すなわち、中立点の位置の制御は、複数通りの方法が考えられる。
【0061】
また、上述の制御因子は圧延機の構成に関わる。例えば、ロールの段数、ロールの総数、ロールの組み合わせ配置、各ロールの径や材質や表面状態(表面粗さ)等のロールの構成等の違いにより、被圧延材への圧縮応力のかかり方や摩擦係数等に違いが生じる。このため、圧延機ごとに、上述の制御因子の絶対値が異なる。このように、中立点の位置の制御は、圧延機の仕様に依存するところが大きいため、圧延機ごとに適宜調整することが好ましい。
【0062】
中立点の位置は、例えば参考文献(b)を参照して計算して求めることができる。
(b)日本塑性加工学会編、“塑性加工技術シリーズ7 板圧延”、コロナ社、p14,p27 式(3.3),p28
【0063】
また、ステップ5では、各ロールにおいて、冷間圧延を行っている最中に中立点の位置が移動しないように、例えば中立点の位置がロールの出口側へと移動していかないように制御することが好ましい。
【0064】
(3)セラミックス配線基板の構成およびその製造方法
上述の本実施形態にかかる無酸素銅板を用いたセラミックス配線基板の構成およびその製造方法について説明する。
【0065】
本実施形態にかかるセラミックス配線基板は、所定厚さ(例えば0.5mm)のセラミックス基板と、セラミックス基板上に設けられた上述の無酸素銅板からなる配線材と、を備えている。セラミックス基板と配線材とは、例えばロウ材を介して貼り合わされ(接合され)ている。無酸素銅板の所定箇所が例えばエッチングにより除去されて配線パターン(銅配線)が形成されている。セラミックス基板として、例えば窒化アルミニウム(AlN)や窒化ケイ素(SiN)等を主成分とするセラミック焼結体を用いることができる。ロウ材として、例えば、銀(Ag)、Cu、Sn、インジウム(In)、Ti、モリブデン(Mo)、炭素(C)等の金属、またはこれらの金属のうち少なくとも1つを含む金属合金を用いることができる。
【0066】
上述のセラミックス配線基板は、例えば以下の手順により作製することができる。まず、セラミックス基板の表面の清浄化処理を行う。例えば、セラミックス基板を所定温度(例えば800℃~1080℃)に加熱して、セラミックス基板の表面に付着している有機物や残留炭素を除去する。そして、例えばスクリーン印刷法により、セラミックス基板のいずれかの主面上にペースト状のロウ材を塗布する。続いて、ロウ材上に無酸素銅板を配置し、無酸素銅板とセラミックス基板とロウ材との積層体を、所定温度(例えば800℃以上1080℃以下)で所定時間(例えば5分以上)加熱し、無酸素銅板とセラミックス基板とをロウ材を介して貼り合わせる。この加熱は、真空中または還元ガス雰囲気中または不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0067】
(4)本実施形態にかかる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0068】
(a)本実施形態にかかる無酸素銅板、すなわちステップ5を経た後であって高温加熱される前の無酸素銅板は、上記式(1)~(12)を全て満たしている。すなわち、本実施形態にかかる無酸素銅板は、{022}面の結晶が少なく、副方位の各結晶面の結晶がそれぞれ一定量存在している無酸素銅板である。これにより、無酸素銅板が高温加熱された場合であっても、無酸素銅板中の結晶粒(再結晶粒)同士の合体集合を抑制でき、結晶の粗大化を抑制することができる。本実施形態にかかる無酸素銅板は、例えばセラミックス基板との接合時に高温加熱された場合であっても、結晶の粗大化を抑制できる。例えば、本実施形態にかかる無酸素銅板は、900℃の条件下で10分間加熱する熱処理を行った後であっても、その平均結晶粒径が0.4mm以下である。
【0069】
(b)不純物が少ない銅板、すなわち無酸素銅板であっても、上記式(1)~(12)の全てを満たすことで、高温加熱による結晶粗大化を抑制できる。
【0070】
(c)無酸素銅板中に、Sn等の元素を含ませることで、高温加熱による結晶粗大化を確実に抑制できる。
【0071】
(d)高温加熱による結晶粗大化を抑制することで、無酸素銅板は、セラミックス配線基板の配線材の用途に特に好適に適用できる。
【0072】
高温加熱による結晶粗大化が抑制されていることで、CCDカメラ等を用いて本実施形態にかかる無酸素銅板を有するセラミックス配線基板を検査する際、結晶粒界とセラミックス配線基板の検査面にある異物やキズ等との判別が容易になる。このため、検査精度を高めることができる。
【0073】
また、高温加熱による結晶粗大化が抑制されていることで、粗大化した再結晶粒に起因して無酸素銅板の表面に凹凸が増えること、すなわち無酸素銅板の表面粗さの数値が大きくなることを抑制できる。このため、セラミックス配線基板上に半導体素子を実装する際に用いられるワイヤとセラミックス配線基板とのボンディング強度の低下を抑制することができる。
【0074】
(e)無酸素銅板の厚さが例えば100μm以上であることで、無酸素銅板をセラミックス配線基板の配線材として好適に適用できる。
【0075】
(f)無酸素銅板の銅の純度を99.96%以上としたり、無酸素銅板のO濃度を10ppm以下としたり、Sn等の元素の濃度を150ppm以下としたりすることで、無酸素銅板の導電率を例えば100%IACS以上とすることができる。これにより、無酸素銅板をセラミックス配線基板の配線材として好適に適用できる。無酸素銅板の導電率の低下を確実に防止する観点から、上述の銅の純度、O濃度およびSn等の元素の濃度の全てが上記範囲を満たしていることが好ましい。
【0076】
(g)無酸素銅板が上記式(1)~(12)を全て満たすようにステップ5(最終の冷間圧延)の処理条件(加工条件)を制御することで、ステップ5の冷間圧延の総加工度を40%以上にした場合であっても、すなわち総加工度を下げることなく、高温加熱による結晶粗大化が抑制された無酸素銅板を得ることができる。
【0077】
(h)ステップ5の冷間圧延の総加工度を40%以上とすることで、無酸素銅板の内部に充分な歪みエネルギを蓄積させることができ、その結果、無酸素銅板が高温加熱されて再結晶が生じた際、再結晶核の発生頻度を高める(再結晶核の発生数増やす)ことができる。これにより、無酸素銅板が高温加熱された場合であっても、無酸素銅板中に所望数の結晶を存在させることができ、結晶の粗大化を確実に抑制することができる。
【0078】
(i)ステップ5の冷間圧延の総加工度を80%以下とすることで、{022}面まで回転する結晶を低減することができ、その結果、無酸素銅板中に、所望量(所望数)の副方位の各結晶面の結晶を存在させる(残す)ことができる。このため、無酸素銅板中の副方位の各結晶面の結晶の比率制御を行うことが容易になり、上記式(1)~(12)を満たす無酸素銅板を容易に得ることができる。
【0079】
(j)ステップ5で1パスあたりの加工度を制御することで、冷間圧延により被圧延材中の銅結晶が{022}面へ変化する際の経路を調整することができる。その結果、無酸素銅板中の副方位の各結晶面の結晶の比率制御が可能となる。すなわち、無酸素銅板中の{022}面の結晶を少なくしつつ、無酸素銅板中の副方位の結晶面の結晶を最適値となるように容易に調整することができる。
【0080】
(k)ステップ5で各パスの中立点の位置を制御することで、{022}面まで回転する結晶を低減するとともに、副方位の各結晶面の結晶の比率制御を行うことができる。すなわち、無酸素銅板中の{022}面および副方位の結晶面の結晶の比率が最適値となるように容易に調整できる。その結果、上記式(1)~(12)の全てを満たす無酸素銅板をより容易に得ることが可能となる。
【0081】
(l)ステップ5において、1パスあたりの加工度および各パスの中立点の位置の制御を行うことで、無酸素銅板中の{022}面および副方位の各結晶面の結晶の比率を精密に制御することができる。
【0082】
(m)ステップ5において、各ロールにおいて、冷間圧延を行っている最中に中立点の位置が移動しないように制御することで、被圧延材に加わる圧縮応力の強度、引張応力の強度、応力成分の比率の制御を確実に行うことができる。
【0083】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0084】
上述の実施形態では、ステップ1~5を実施して無酸素銅板を作製する場合を例に説明したが、これに限定されない。例えばステップ1~4は用途に応じて適宜省略してもよい。
【0085】
また例えば、ステップ5の後に、ステップ6としてステップ5で得られた無酸素銅板を所定温度で所定時間加熱する熱処理(再結晶熱処理)を行ってもよい。本発明にかかる無酸素銅板は、このような再結晶熱処理を行った場合であっても、無酸素銅板中の結晶が粗大になることを抑制できる。また、ステップ6を行った後の無酸素銅板であっても、セラミックス基板との接合時に高温加熱された場合であっても、結晶の粗大化を抑制できる。
【0086】
上述の実施形態では、セラミックス配線基板の作製時、活性金属ロウ付け法により、無酸素銅板とセラミックス基板との接合を行う場合を例に説明したが、これに限定されず、これらの接合を例えばダイレクトボンディング法により行ってもよい。
【0087】
また、本発明にかかる無酸素銅板は、上述のようにセラミックス配線基板の配線材として用いられる場合に限定されない。この他、本発明にかかる無酸素銅板は、800℃以上の加熱において結晶粗大化を抑制が要求される用途に好適に適用できる。
【実施例】
【0088】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0089】
<試料の作製>
(試料1)
まず、連続鋳造法により所定形状のビレットを鋳造した。具体的には、溶解炉を用いて原料としての無酸素銅を溶解して無酸素銅の溶解液を生成した。この溶解液中に、最終的に形成される無酸素銅板中のSnの濃度が80ppmとなるように、所定量のSnを添加して溶湯を溶製した。この溶湯を所定形状の鋳型に注いで厚さが150mm、幅が500mmの鋳塊を鋳造した。得られた鋳塊に対して熱間圧延を行い、厚さが8mmの板材(熱間圧延材)を得た。得られた熱間圧延材に対し、所定の冷間圧延と、被処理材を650~750℃の温度下で2分間保持して加熱する中間焼鈍と、を交互に所定回数ずつ行い、冷間圧延材(生地)を得た。生地の厚さは、後に実施する最終の冷間圧延終了時の無酸素銅板が所望厚さとなる厚さとした。生地の厚さの調整は、冷間圧延の加工度の調整により行った。その後、得られた生地を700℃の温度下で1分間保持して加熱する焼鈍(生地焼鈍)を行い、焼鈍生地を得た。
【0090】
焼鈍生地に対し、焼鈍を挟むことなく冷間圧延を複数回(複数パス)連続して実施する最終の冷間圧延を行った。最終の冷間圧延の各パスの条件を下記の表1に示す。表1に示す「中立点の位置(mm)」とは、
図1に示すように、一対のロール間を通過する被圧延材(加工対象物)のロールとの接触面における出口側端部から中立点までの長さLである。すなわち、表1に示す中立点の位置の値が小さいほど、中立点はロール出口側に位置する。
【0091】
【0092】
圧延パスを経る毎に、被圧延材は減厚される。このため、最終の冷間圧延では、表1に示すように、厚さが1mm以下の被圧延材の厚さに応じて、1パスあたりの加工度と、中立点の位置と、をパス毎に調整した。このとき、上段(前段)から下段(後段)にいくほど中立点の位置がロール出口側に位置するように、中立点の位置を制御した。このような最終の冷間圧延を行うことで、厚さが0.3mmの無酸素銅板を得た。これを試料1とした。
【0093】
(試料2~20)
試料2~20では、無酸素銅板中のSn、Zr、Mg、TiおよびCaからなる群より選択される元素の濃度が表2に示す通りとなるように、溶湯中に添加するSn等の元素の添加量を調整した。また、最終の冷間圧延の各パスの条件を表1に示す通りにし、最終の冷間圧延の総加工度を表2に示す通りにした。また、試料2~20はそれぞれ、表1および表2に示す範囲内で、1パスあたりの加工度と中立点の位置とを変化させ、最終の冷間圧延時に被圧延材に加わる圧縮応力の強度、引張応力の強度、応力成分(すなわち圧縮成分と引張成分との比率)を変化させている。その他は、上述の試料1と同様の製法、条件で無酸素銅板を作製した。これらをそれぞれ試料2~20とした。
【0094】
試料1~20の無酸素銅板の組成、最終の冷間圧延の総加工度を、下記の表2にまとめて示す。表2に示す添加元素濃度は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法による添加元素の濃度分析結果である。
【0095】
【0096】
<評価>
試料1~20についてそれぞれ、2θ/θ法によるX線回折測定、高温加熱後の結晶粗大化の評価、高温加熱後の導電性の評価を行った。
【0097】
(2θ/θ法によるX線回折測定)
試料1~20の各試料において、各試料の圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定を行った。係る測定は、株式会社リガク製のX線回折装置(型式:Ultima IV)を用い、以下の表3に示す条件で行った。
【0098】
【0099】
表4に、各試料の2θ/θ法によるX線回折測定で測定した{022}面、{002}面、{113}面、{111}面および{133}面の回折ピーク強度(I{022}、I{002}、I{113}、I{111}、I{133})を示す。また、これらの回折ピーク強度の値を用い、上記式(1)~(12)の各式の値を算出した。これらの算出結果を表4に示す。
【0100】
【0101】
表4に示すように、試料1~20では、各結晶面の回折ピーク強度がそれぞれ異なっていることが確認できる。このことから、1パスあたりの加工度と中立点の位置とを変化させ、最終の冷間圧延時に被圧延材に加わる圧縮応力の強度、引張応力の強度、応力成分を変化させることで、無酸素銅板中の{022}面および副方位の各結晶面の結晶の割合を変えることができることが分かる。
【0102】
(高温加熱後の結晶粗大化の評価)
高温加熱後の結晶粗大化の評価は、以下の手順で行った。まず、試料1~20からそれぞれ20mm角の試験片を切出し、これらの試験片を窒素ガス雰囲気中で900℃の温度条件下で10分間加熱した。加熱後の各試料の圧延面が鏡面になるまで、研磨紙およびアルミナ砥粒を用いて研磨した後、過酸化水素を加えたアンモニア水で各試料の表面をエッチングして各試料の圧延面に結晶粒界を出現させた。結晶粒界が出現した各試料について、JIS H0501に規定された切断法を用いて結晶粒径(平均結晶粒径)を測定した。結晶粒径の測定結果を下記の表5に示す。また、結晶粒径が0.4mm以下の試料を合格(○)と判定し、結晶粒径が0.4mmを超える試料を不合格(×)と判定し、この判定結果も下記の表5に示す。
【0103】
【0104】
試料1~12,16~20から、式(1)~(12)の全てを満たすことで、高温加熱による結晶粗大化を抑制できることが確認できる。
【0105】
Sn等の元素の濃度が低い(Sn等の元素を殆ど添加していない)試料2では、Sn等の元素の濃度が50ppm以上である試料1,3~12,16~20に比べて高温加熱後の結晶粒径が大きくなっていることが確認できる。このことから、Sn等の元素を添加した方が、高温加熱による結晶粗大化を確実に抑制できることが確認できる。
【0106】
試料13では、式(1)~(12)の全てを満たしていないことから、高温加熱により結晶が粗大化していることが確認できる。試料13では、I{022}、I{002}、I{113}の値が高くなっていることから、最終の冷間圧延時に被圧延材に加わった圧縮応力の強度、圧縮成分比率が高いことが分かる。すなわち、最終の冷間圧延の総加工度が80%以下であっても、最終の冷間圧延の1パスあたりの加工度および中立点の位置の条件により、被圧延材に加わる圧縮応力の強度、引張応力の強度、応力成分の比率が変わり、その結果、式(1)~(12)を満たさないことがあることが確認できる。
【0107】
試料14から、最終の冷間圧延の総加工度が40%未満であると、上記式(1)~(12)を全て満たす場合であっても、高温加熱による結晶粗大化を抑制できないことがあることが確認できる。これは、無酸素銅板が高温加熱されて再結晶が生じた際に発生する再結晶核の発生頻度が低いためと考えられる。
【0108】
試料15から、最終の冷間圧延の総加工度が80%を超えると、上記式(1)~(12)の全てを満たさないことがあり、高温加熱による結晶粗大化を抑制できないことがあることが確認できる。この場合、I{022}の値が高いことから、最終の冷間圧延により多くの結晶が{022}面まで回転したことが分かる。
【0109】
(高温加熱後の導電性の評価)
高温加熱後の導電性の評価は、以下の手順で行った。まず、試料1~20からそれぞれ50mm角の試験片を切り出し、これらの試験片を窒素ガス雰囲気中で、900℃の温度条件下で10分間加熱した。そして、フェルスター社製の過流式導電率計シグマテストを用い、加熱後の各試験片の導電率を測定した。導電率の測定結果を上記表5に示す。また、導電率が100%IACS以上である試料を優(◎)と判定し、導電率が95%IACS以上100%IACS未満である試料を良(○)と判定し、この判定結果も上記表5に示す。
【0110】
表5から、試料1~15では、無酸素銅板中のSn等の元素の濃度が150ppm以下であると、無酸素銅板の導電性の低下を抑制できることが確認できる。例えば、無酸素銅板の導電率が100%IACS以上になることが確認できる。このような無酸素銅板は、セラミックス配線基板の導体としてより好ましい。
【0111】
表5から、試料16~20では、無酸素銅板中のSn等の元素の濃度が150ppmを超えると、無酸素銅板の導電率が100%IACS未満となり、無酸素銅板の導電性が低下することが確認できる。
【0112】
<好ましい態様>
以下に、本発明の好ましい態様について付記する。
【0113】
[付記1]
本発明の一態様によれば、
圧延されることで平板状に形成されてなり、
圧延面に対して平行な結晶面が{022}面、{002}面、{113}面、{111}面および{133}面である結晶を有し、
前記圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定で得られる前記各結晶面の回折ピーク強度をそれぞれI{022}、I{002}、I{113}、I{111}、I{133}としたとき、
I{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133})≦0.3であり、
(I{002}+I{113})/(I{111}+I{133})≧1.0であり、
I{002}/I{022}≧1.0であり、
I{113}/I{022}≧0.5であり、
I{111}/I{022}≧0.15であり、
I{133}/I{022}≧0.02であり、
0.5≦I{002}/I{113}≦5.0であり、
0.2≦I{133}/I{111}≦0.5であり、
1.0≦I{113}/I{111}≦10であり、
1.0≦I{002}/I{111}≦20であり、
1.0≦I{002}/I{133}≦75であり、
1.0≦I{113}/I{133}≦30であり、
900℃の条件下で10分間加熱する熱処理を行った後の平均結晶粒径が0.4mm以下である無酸素銅板が提供される。
【0114】
[付記2]
付記1の無酸素銅板であって、好ましくは、
Sn、Zr、Mg、TiおよびCaからなる群より選択した1種以上を含み、残部が銅
および不可避不純物からなる。
【0115】
[付記3]
付記1または2の無酸素銅板であって、好ましくは、
Sn、Zr、Mg、TiおよびCaからなる群より選択した1種以上を総濃度が150ppm以下、好ましくは50ppm以上150ppm以下となるように含んでなる。
【0116】
[付記4]
付記1~3のいずれかの無酸素銅板であって、好ましくは、
導電率が100%IACS以上である。
【0117】
[付記5]
本発明の他の態様によれば、
被処理材に対して冷間圧延と焼鈍とを所定回数繰り返して冷間圧延材を形成する冷間圧延工程と、
前記冷間圧延材に対して、総加工度が40%以上の冷間圧延を行い、平板状の無酸素銅板を形成する最終の冷間圧延工程と、を有する無酸素銅板の製造方法が提供される。
【0118】
[付記6]
付記5の方法であって、好ましくは、
前記最終の冷間圧延工程では、総加工度が40%以上80%以下の冷間圧延を行う。
【0119】
[付記7]
付記5または6の方法であって、好ましくは、
前記最終の冷間圧延工程では、各パスの加工度を調整することで、各パスにより被圧延材に加わる圧縮応力の強度、引張応力の強度、応力成分の比率を調整する。
【0120】
[付記8]
付記7の方法であって、好ましくは、
前記最終の冷間圧延工程では、各パスの加工度を20%以上とする。
【0121】
[付記9]
付記5~8のいずれかの方法であって、好ましくは、
前記最終の冷間圧延工程では、中立点の位置の少なくともいずれかを調整することで、各パスにより被圧延材に加わる圧縮応力の強度、引張応力の強度、応力成分の比率を調整する。
【0122】
[付記10]
付記9の方法であって、好ましくは、
前記最終の冷間圧延工程では、被圧延材の厚さが薄くなるほど、中立点が一対の圧延ロールの出口側に位置するように制御する。
【0123】
[付記11]
付記5~10のいずれかの方法であって、好ましくは、
前記最終の冷間圧延工程では、
圧延面に対して平行な結晶面が{022}面、{002}面、{113}面、{111}面および{133}面である結晶を有し、
前記圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定で得られる前記各結晶面の回折ピーク強度をそれぞれI{022}、I{002}、I{113}、I{111}およびI{133}としたとき、
I{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133})≦0.3であり、
(I{002}+I{113})/(I{111}+I{133})≧1.0であり、
I{002}/I{022}≧1.0であり、
I{113}/I{022}≧0.5であり、
I{111}/I{022}≧0.15であり、
I{133}/I{022}≧0.02であり、
0.5≦I{002}/I{113}≦5.0であり、
0.2≦I{133}/I{111}≦0.5であり、
1.0≦I{113}/I{111}≦10であり、
1.0≦I{002}/I{111}≦20であり、
1.0≦I{002}/I{133}≦75であり、
1.0≦I{113}/I{133}≦30であり、
900℃の条件下で10分間加熱する熱処理を行った後の平均結晶粒径が0.4mm以下である無酸素銅板を形成する。
【0124】
[付記12]
付記5~11のいずれかの方法であって、好ましくは、
Sn、Zr、Mg、TiおよびCaからなる群より選択した1種以上を含んでなる鋳塊を鋳造する工程をさらに有する。
【0125】
[付記13]
付記12の方法であって、好ましくは、
前記鋳塊を鋳造する工程では、Sn、Zr、Mg、TiおよびCaからなる群より選択した1種以上を、その濃度が150ppm以下、好ましくは50ppm以上150ppm以下となるように添加する。
【0126】
[付記14]
本発明のさらに他の態様によれば、
セラミックス基板と、
無酸素銅に対して圧延加工を行うことで平板状に形成され、前記セラミックス基板上に設けられた配線材としての無酸素銅板と、を備え、
前記無酸素銅板は、
圧延面に対して平行な結晶面が{022}面、{002}面、{113}面、{111}面および{133}面である結晶を有し、
前記圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定で得られる前記各結晶面の回折ピーク強度をそれぞれI{022}、I{002}、I{113}、I{111}、I{133}としたとき、
I{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133})≦0.3であり、
(I{002}+I{113})/(I{111}+I{133})≧1.0であり、
I{002}/I{022}≧1.0であり、
I{113}/I{022}≧0.5であり、
I{111}/I{022}≧0.15であり、
I{133}/I{022}≧0.02であり、
0.5≦I{002}/I{113}≦5.0であり、
0.2≦I{133}/I{111}≦0.5であり、
1.0≦I{113}/I{111}≦10であり、
1.0≦I{002}/I{111}≦20であり、
1.0≦I{002}/I{133}≦75であり、
1.0≦I{113}/I{133}≦30であり、
平均結晶粒径が0.4mm以下であるセラミックス配線基板が提供される。