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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】監視装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20220624BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20220624BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20220624BHJP
   G01S 17/89 20200101ALI20220624BHJP
【FI】
A61B5/00 102C
A61B5/11 110
A61B5/113
G01S17/89
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018164531
(22)【出願日】2018-09-03
(65)【公開番号】P2020036705
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000115854
【氏名又は名称】リンナイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秦 紳一朗
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-290154(JP,A)
【文献】特開2017-55949(JP,A)
【文献】国際公開第2017/060342(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
A61B 5/06-5/22
G01S 17/89
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象物が存在する領域に測定信号を送信する送信部と、該送信部から送信した測定信号の反射信号を受信する受信部と、当該送信された測定信号と当該受信された反射信号とに基づいて、前記領域内に設定された測定点までの距離を計測する距離計測部とを備える監視装置であって、
前記測定点は、前記距離計測部による該測定点での距離の計測値が、前記領域での監視対象物の所定の動きに応じて変化すると共に、当該変化の過程で、該距離の計測値が実際の距離よりも所定量以上、大きな値にまで変化するか、又は、当該変化の過程での該距離の計測値の変化量が、前記監視対象物の所定の動きに応じた実際の距離の変化量よりも所定量以上、大きな変化量になるように設定された測定点であり、
該測定点での距離の計測値の変化に基づいて、前記監視対象物の所定の動きの発生を検知する動き検知部とを備えることを特徴とする監視装置。
【請求項2】
請求項1記載の監視装置において、
前記監視対象物は、人の胸部であり、前記所定の動きは前記人の呼吸に伴う該人の胸部の振動であることを特徴とする監視装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の監視装置において、
前記領域のうち、前記測定点を含む局所領域における前記監視対象物の表面部又は該表面部に接する物体に、前記監視対象物の前記所定の動きに伴い前記送信部に対する姿勢が変化するように取付けられた前記測定信号の反射物体であって、該局所領域の周囲での前記監視対象物の表面部又は該表面部に接する物体よりも前記測定信号の乱反射が生じ難い反射物体をさらに備えることを特徴とする監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人等の監視対象物の動きを監視する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置としては、例えば特許文献1,2に見られるものが知られている。これらの特許文献1,2に見られる装置は、赤外線等の測定信号の送受信を行う非接触方式の測距装置を用いて、ベッド上の監視対象物としての人までの距離を計測し、その距離の計測値に基づいて、ベッド上での人の動きを検知するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-290154号公報
【文献】特開2012-30042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に記載されている装置では、人の呼吸に伴う胸部の変位を検知し得るようにしている。しかしながら、人の呼吸に伴う胸部の変位は、一般に微小な変位である。そして、このような微小な変位を上記測距装置を用いて検出し得るようにするためには、距離測定を高分解能で行い得る測距装置が必要となる。その結果、高価な測距装置が必要となって、監視装置が高価なものとなりやすい。また、外乱ノイズの影響によって、微小な変位を高い信頼性で計測することが困難となりやすい。
【0005】
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであり、監視対象物の微小な動きを高い信頼性で容易に検知することができる監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の監視装置は、上記の目的を達成するために、監視対象物が存在する領域に測定信号を送信する送信部と、該送信部から送信した測定信号の反射信号を受信する受信部と、当該送信された測定信号と当該受信された反射信号とに基づいて、前記領域内に設定された測定点までの距離を計測する距離計測部とを備える監視装置であって、
前記測定点は、前記距離計測部による該測定点での距離の計測値が、前記領域での監視対象物の所定の動きに応じて変化すると共に、当該変化の過程で、該距離の計測値が実際の距離よりも所定量以上、大きな値にまで変化するか、又は、当該変化の過程での該距離の計測値の変化量が、前記監視対象物の所定の動きに応じた実際の距離の変化量よりも所定量以上、大きな変化量になるように設定された測定点であり、
該測定点での距離の計測値の変化に基づいて、前記監視対象物の所定の動きの発生を検知する動き検知部とを備えることを特徴とする。
【0007】
ここで、本発明者の種々の実験及び検討によれば、監視対象物のある測定点に対応する部分が、前記測定信号の乱反射が生じ難い態様で該測定信号を反射し得る部分である場合、該部分の測定点での距離計測値が、該部分の動きに伴って、該部分の実際の距離の変化量と乖離した大きな変化量で変化するという現象が生じることが確認された。
【0008】
そこで、本発明を上記の如く構成した。かかる本発明によれば、監視対象物の所定の動きに伴う前記測定点での実際の距離の変化が微小なものであっても、該測定点での距離の計測値は、実際の距離よりも所定量以上、大きな値にまで変化するか、又は、該距離の計測値の変化量が、監視対象部の所定の動きに伴う実際の距離の変化量よりも所定量以上、大きな変化量になる。このため、前記動き検知部は、測定点での距離の計測値の変化に基づいて、監視対象物の所定の動きの発生を容易に検知することが可能となる。よって、本発明によれば、監視対象物の微小な動きを高い信頼性で容易に検知することができる。
【0009】
かかる本発明では、前記監視対象物は、人の胸部であり、前記所定の動きは前記人の呼吸に伴う該人の胸部の振動であるという態様を採用し得る。この場合、人の呼吸に伴う該人の胸部の振動は、比較的小さな振幅の振動であるものの、本発明によれば、測定点での距離の計測値が、人の呼吸時の胸部までの実際の距離よりも所定量以上、大きな値にまで変化するか、又は、該距離の計測値の変化量が、人の呼吸に伴う胸部の実際の距離の変化量よりも所定量以上、大きな変化量で変化する。このため、人の呼吸に伴う該人の胸部の振動を高い信頼性で容易に検知することができる。
【0010】
また、本発明では、前記領域のうち、前記測定点を含む局所領域における前記監視対象物の表面部又は該表面部に接する物体に、前記監視対象物の前記所定の動きに伴い前記送信部に対する姿勢が変化するように取付けられた前記測定信号の反射物体であって、該局所領域の周囲での前記監視対象物の表面部又は該表面部に接する物体よりも前記測定信号の乱反射が生じ難い反射物体をさらに備えることが好ましい。
【0011】
これによれば、距離の計測値が上記のように変化し得る測定点を容易に設定することができる。なお、監視対象物の「表面部に接する物体」というのは、より詳しくは、該表面部の動きが伝達されて動くように該表面部に直接的又は間接的に接する物体を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態の監視装置の全体構成を概略的に示す図。
図2】実施形態の監視装置に備えた測距装置と外部モニタ装置のそれぞれの要部構成を示すブロック図。
図3】実施形態の監視装置に備えた反射部の配置構成を示す図。
図4図4Aは測距装置で距離計測を行う人を例示する図、図4Bは測距装置により計測された距離画像を例示する図、図4Cは距離計測値の変化の波形を例示するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態を図1図4Cを参照して以下に説明する。図1を参照して、本実施形態の監視装置は、例えば病院等の室内でベッドB上に就寝する人Pの所定の動きを監視する装置である。この場合、人Pの監視対象の動きは、例えば人Pの呼吸に伴う胸部Paの動き(胸部Paの表面の変位)である。従って、本実施形態では、人Pの胸部Paが本発明における監視対象物に相当する。なお、胸部Paは、人Pの胴体の正面側の部分だけでなく、該胴体の上部の左右の側面部及び背面部を含む。
【0014】
そして、本実施形態の監視装置は、室内に配置された測距装置1と、外部のナースステーション等に配置され、もしくは、ナース等が携帯する外部モニタ装置10とを有する。測距装置1は、該測距装置1の正面側の所定の計測対象領域内(例えば、図1では2つの一点鎖線の間の領域内)の複数の測定点までの距離をTOF方式(TOF:Time Of Flight)で計測可能な装置である。
【0015】
該測距装置1は、その計測対象領域内に、ベッドB上で就寝する人Pの胸部Paが含まれるように、室内の適所、例えば天井に取付けられている。なお、測距装置1は、天井に限らず、例えば、壁、もしくはベッドB等に取付けられていてもよい。
【0016】
そして、測距装置1は、TOF方式(TOF:Time Of Flight)での距離計測を行うために、図2に示すように、パルス変調された光信号を複数の測定点のそれぞれに向かって出力可能な発光部2と、各測定点で反射された光信号である反射光信号を受光する受光部3と、発光部2の作動制御を行いつつ、該発光部2から各測定点に向かって出力された光信号と該光信号に対応して受光部3で受光された反射光信号との位相差に基づいて、各測定点までの距離の計測データを生成する計測処理部4とを備える。
【0017】
この場合、上記光信号は、例えば赤外域の波長の光信号である。また、発光部2は、例えばLED等により構成され、受光部3は、例えばフォトダイオードアレイ等により構成され、計測処理部4は、例えばプロセッサ等を含む電子回路ユニットにより構成される。また、本実施形態では、計測処理部4は、計測対象領域の複数の測定点のそれぞれの距離の計測データの全体を距離画像データとして出力可能である。
【0018】
なお、本実施形態では、発光部2から出力される光信号と、受光部3で受光される反射光信号とが本発明における測定信号及び反射信号に各々相当し、発光部2及び受光部3が本発明における送信部及び受信部に各々相当する。また、計測処理部4は、本発明における距離計測部に相当する。
【0019】
外部モニタ装置10は、測距装置1と有線もしくは無線により通信を行うことが可能であり、図2に示すように、前記ベッドB上の人Pの胸部Paの動きに関する監視処理を実行する監視処理部11と、液晶ディスプレイ等により構成される表示器12と、スピーカ、ブザー等により構成される発音器13とを備える。なお、外部モニタ装置10は、これら以外にも、キーボード、タッチパネル等の入力操作部や、警報ランプ等を含み得る。
【0020】
監視処理部11は、例えばマイクロコンピュータ、メモリ、インターフェース回路等を含む電子回路ユニットにより構成される。この監視処理部11は、本発明における動き検知部としての機能を有し、ベッドB上での人Pの就寝中において、測距装置1から与えられる距離画像データに基づいて、人Pの呼吸に伴う胸部Paの動き(振動)を監視する処理を実行する。さらに、監視処理部11は、人Pの呼吸に伴う胸部Paの動きを示す波形データを適宜、表示器12に表示したり、該胸部Paの動きの異常発生等に関する報知情報を表示器12及び発音器13の一方もしくは両方に出力させるように該表示器12及び発音器13を制御する機能等を有する。
【0021】
かかる監視処理部11を有する外部モニタ装置10は、監視装置用の専用的な装置として構成されていてもよいが、例えば監視用のアプリケーションをインストールしたパソコン、あるいは、、スマートフォンもしくはタブレット端末等の携帯端末機であってもよい。
【0022】
なお、測距装置1の計測処理部4の一部の処理機能(例えば、距離画像データの生成処理等)を、該計測処理部4の代わりに監視処理部11の処理機能として実現し、あるいは、計測処理部4と監視処理部11との協働による処理機能として実現することも可能である。同様に、監視処理部11の一部の処理機能を、該監視処理部11の代わりに計測処理部4の処理機能として実現し、あるいは、計測処理部4と監視処理部11との協働による処理機能として実現することも可能である。
【0023】
本実施形態の監視装置は、さらに図3に示すように、ベッドB上で就寝する人Pが使用する掛布団Cに取付けられた複数の薄膜状の反射部21を有する。各反射部21は、本発明における反射物体に相当するものであり、その表面に、測距装置1の発光部2から出力される光信号が入射したときに、乱反射をさほど発生させることなく該光信号を反射し得るように(換言すれば、入射した光信号を、主に、その入射角に応じた方向に反射し得るように)を構成されている。例えば、反射部21は、その表面が滑らかな光沢面になっている薄膜状の樹脂部材や、スクリーン生地等にり構成され得る。
【0024】
そして、複数の反射部21は、掛布団Cの頭部側の表面部に、縫合等より装着された可撓性のシート部材20の表面に、縦横に並ぶように配置され、接着剤等によりシート部材20に固着されている。この場合、掛布団Cに対するシート部材20の装着位置(ひいては、掛布団Cに対する各反射部21に位置)は、ベッドB上で就寝する人Pが掛布団Cを掛けた状態で、1つ以上の反射部21が人Pの胸部Paの直上付近に位置するように設定されている。
【0025】
なお、各反射部21は、掛布団Cの頭部側の表面部に直接的に装着されていてもよい。あるいは、各反射部21は、掛布団Cのカバーの一部として該カバーに組み込まれていてもよい。
【0026】
補足すると、人Pの就寝中に、掛布団Cに対する人Pの相対的な移動や、人Pが掛布団を動かすこと等によって、複数の反射部21の全てが、胸部Paの上方位置からずれてしまう場合もあり得る。そこで、掛布団Cだけでなく、人Pがその上体に着る衣装の、胸部Paの周囲箇所にも、複数の反射部21を装着しておいてもよい。
【0027】
次に、本実施形態の監視装置の作動を説明する。ここで、まず、本実施形態において、人Pの呼吸に伴う胸部Paの動きを検知する手法の原理について、図4A図4Cを参照して説明しておく。
【0028】
図4Aは、人PPがテーブルTBに向かい合うようにして、椅子に着座した状況を示している。この場合、人PPの首には、プレートPLを吊り下げた紐が掛けられており、該プレートPLが人PPの胸部の正面側に位置している。該プレートPLの表面は、前記反射部21と同様に前記光信号を反射し得る滑らかな反射面である。
【0029】
そして、図4Bは、図4Aに示した人PPを、その正面側から測距装置1により実験的に測距した場合に得られた距離画像(瞬時的な距離画像)を示している。この図4Bでは、距離計測値が大きいほど、画像の明度が黒寄りの暗い明度となり、距離計測値が小さいほど、画像の明度が白寄りの明るい明度となる。また、図4Cは、人PPの距離画像のうち、プレートPLの箇所の1つの測定点Xでの距離計測値の経時変化の波形を示している。
【0030】
ここで、人PPの呼吸に伴い、人PPの胸部の表面(人PPの正面側の表面)が、前後方向に振動するように変位し、これに追従して、人PPの前後方向でのプレートPLの位置(ひいては、測距装置1からの距離)が振動するように変位する。このため、プレートPLの箇所の測定点Xの距離計測値の経時変化の波形は、図4Cに示す如く、振動する波形となっている。そして、この場合、距離計測値の振動の振幅量(peak to peakの振幅量)が、実際の振幅量よりも大幅に大きな値に乖離するという現象が生じることが確認された。
【0031】
具体的には、上記実験では、測定点Xでの距離計測値は、人PPが息を吸った状態で極小値となり、その極小値は、1700mm程度であった。この距離計測値は、プレートPLの箇所以外での人PPの測定点までの距離計測値と同程度である。
【0032】
なお、プレートPLの箇所以外での人PPの測定点では、一般に入射する光信号の乱反射が生じるため、該測定点での反射面の向きによらずに、該測定点から測距装置1の受光部3に反射光信号が直接的に入射し得る。このため、プレートPLの箇所以外での人PPの測定点での距離計測値は、測距装置1から人PPまでの実際の距離に概ね一致するものとなる。実際、プレートPLの箇所以外での人PPの測定点での距離計測値は、図4Bに示す如く、ほぼ一定値に維持されることが確認された。
【0033】
一方、測定点Xでの距離計測値は、人PPが息を吐いた状態で極大値となり、その極大値は、3120mm程度の大きな値であった。従って、測定点Xでの距離計測値の振動の振幅は、1420mm(=3120-1700mm)という、実際の振幅よりもはるかに大きな振幅となった。そして、図4Bは、測定点Xでの距離計測値が極大値となる時刻近辺での距離画像である。このため、図4Bでは、プレートPLの箇所での距離計測値に対応する明度が、人PPの背景部分と同程度の明度になっている。
【0034】
なお、図4Cでは、2000mm以上の距離計測値のデータの記載を省略しているため、同図の波形上の距極計測値の極大値(最大値)が2000mmになっているが、実際には、該極大値は、上記の如く3120mm程度の大きな値となった。
【0035】
上記のように、プレートPLの箇所の測定点Xでの距離計測値の振幅が実際の振幅よりも大幅に大きな値になる理由としては、次のような理由が考えられる。すなわち、上記実験では、距離計測値が極小値となる時刻近辺(人PPが息を吸った時刻近辺)では、プレートPLで反射した光信号(反射光信号)の多くが、測距装置1の受光部3に直接的に入射していると考えられる。このため、該距離計測値の極小値は、人PPまでの実際の距離(≒プレートPLの箇所以外での人PPの測定点での距離計測値)と同程度の値になったものと考えられる。
【0036】
一方、測定点Xでの距離計測値が極大値となる時刻近辺(人PPが息を吐いた時刻近辺)では、プレートPLが、距離計測値が極小値となる時刻近辺よりも若干、後方側に変位することに加えて、該プレートPLの測距装置1(発光部2及び受光部3)に対する姿勢(向き)が変化したものと考えられる。このため、距離計測値が極大値となる時刻近辺では、プレートPLで反射した光信号(反射光信号)の多くが、測距装置1の受光部3に直接的に入射せず、他の箇所での反射を経て、測距装置1の受光部3に入射したものと考えられる。このため、該距離計測値の極大値は、人PPまでの実際の距離よりも大幅に大きな値となり、ひいては、該距離計測値の振幅が、実際の振幅よりも大幅に大きな振幅になったものと考えられる。
【0037】
また、人PPの呼吸に伴うプレートPLの姿勢の変化は、該呼吸と同期して生じるので、測定点Xでの距離計測値は、人の呼吸と同期して振動するものと考えられる。実際、図4Cの期間T1は、人PPがゆっくり呼吸をした期間であり、当該期間T1では、距離計測値の振動周期が長くなっている。また、図4Cの期間T2は、人PPが素早く呼吸した期間であり、当該期間T2では、距離計測値の振動周期が短くなっている。
【0038】
補足すると、上記実験では、人PPが息を吐いた状態で、測定点Xでの距離計測値が、実際の距離と乖離した大きな値の極大値となったが、人PPの呼吸に伴うプレートPLの姿勢の変化の仕方によっては、人PPが息を吸った状態で、測定点Xでの距離計測値が、実際の距離と乖離した大きな値の極大値となる場合もあると考えられる。
【0039】
上記のことから、人PPの胸部の表面部に、光信号の乱反射が生じ難い態様で該光信号を反射し得る上記プレートPLの如き反射物が配置されていると、人PPの呼吸に伴う該反射物の姿勢の変化によって、該反射物の箇所での距離計測値が振動すると共に、該距離計測値の振動の振幅が実際の振幅から大幅に乖離した大きな振幅となり、あるいは、該距離計測値の極大値が、実際の距離から大幅に乖離した大きな値になると考えられる。
【0040】
従って、このような距離計測値の振動を観測することによって、人PPの呼吸に伴う胸部の表面部の小さな変位の有無、該変位の振動周期等を把握することが可能であると考えられる。これが、本実施形態において、人Pの呼吸に伴う胸部Paの動きを検知する手法の原理である。
【0041】
以上を前提として、本実施形態の監視装置の作動を以下に説明する。ベッドB上での人Pの就寝中に、測距装置1は、所定の処理周期で計測対象領域の各測定点に対する光信号の出力と反射光信号の受光とを行いつつ、各測定点での距離計測をTOF方式で実行する。そして、測距装置1の計測処理部4は、当該距離計測により得られた距離画像データを外部モニタ装置10に逐次送信する。
【0042】
一方、外部モニタ装置10の監視処理部11は、測距装置1から受信した距離画像データのうちのベッドB上の領域から、距離計測値が振動しており、且つ、該距離計測値の極大値(又は、所定の時間幅内での最大値)が、測距装置1から人Pまでの実際の距離の標準的な範囲としてあらかじめ定められた標準距離範囲内の基準値(例えば、該標準距離範囲の最大値もしくは中央値)から、所定量以上、大きな値で、該標準距離範囲から逸脱したものとなる測定点を注目測定点として抽出する。
【0043】
あるいは、外部モニタ装置10の監視処理部11は、測距装置1から受信した距離画像データのうちのベッドB上の領域から、距離計測値が振動しており、且つ、該距離計測値の振動の振幅が、所定量以上の大きな振幅(人Pの呼吸に伴う胸部Paの表面部の変位の通常的な振幅よりも十分に大きな振幅)となる測定点を注目測定点として抽出する。
【0044】
ここで、ベッドB上で就寝中の人Pに掛布団Cが掛けられた状態では、通常、該掛布団Cに前記した如く取付けられている複数の反射部21のうちの1つ以上の反射部21が人Pの胸部Paの上側に位置すると共に、該反射部21の表面の姿勢(測距装置1に対する相対的な姿勢)が人Pの呼吸に伴い変化する。
【0045】
このため、通常は、1つ以上の反射部21の箇所の1つ以上の測定点が、監視処理部11により注目測定点として抽出される。
【0046】
そして、監視処理部11は、例えば、抽出した各注目測定点での距離計測値の時系列に基づいて、該距離計測値の増加時からその次の減少時までの期間の時間幅(以降、増加・減少時間幅という)と、該距離計測値の減少時からその次の増加時までの期間の時間幅(以降、減少・増加時間幅という)とを推定し、該増加・減少時間幅及び減少・増加時間幅のそれぞれの推定値が、人Pの通常の呼吸時の正常範囲としてあらかじめ定められた基準範囲からから逸脱しているか否かを判断する。
【0047】
そして、監視処理部11は、増加・減少時間幅及び減少・増加時間幅のいずれかが、基準範囲から逸脱した場合には、その逸脱が発生した時刻近辺での注目測定点(当該逸脱が検出された注目測定点)での距離計測値の波形を表示器12に表示すると共に、人Pの呼吸の異常が発生している可能性がある旨を示す報知情報を、表示器12及び発音器13の一方又は両方を介して出力する。
【0048】
なお、監視処理部11は、各注目測定点において、増加・減少時間幅及び減少・増加時間幅の両方が基準範囲に収まっている場合には、人Pの呼吸が正常になされているものと判断して、その旨を示す報知情報を表示器12の表示させる。
【0049】
また、監視処理部11は、ベッドB上の領域内から、注目測定点を抽出することができない場合には、例えば、人Pの呼吸が停止していたり、あるいは、人PがベッドB上から離脱していたり、あるいは、掛布団Cの反射部21が人Pの胸部Paの上側位置から大きくずれてしまっている可能性があることから、その旨を示す報知情報を、表示器12及び発音器13の一方又は両方を介して出力する。
【0050】
本実施形態の監視装置は、以上説明した如く、人Pの呼吸に伴う胸部Paの表面の動き(振動)を検知することができる。この場合、胸部Paの表面の変位量自体は微小なものであるものの、前記反射部21を胸部Paの上側に配置しておくことによって、胸部Paの箇所の測定点での距離計測値の振幅が胸部Paの実際の変位量に比して大幅に大きなものになるようにすることができる。ひいては、人Pの呼吸に伴う胸部Paの表面の動き(振動)の有無を、外乱ノイズ等の影響を受けにくい態様で(ひいては高い信頼性で)検知することができる。
【0051】
なお、前記実施形態では、反射部21を掛布団Cに(又は掛布団Cと、人Pがその上体に着用する衣類とに)、取付けた場合の実施形態について説明したが、掛布団C、又は人Pがその上体に着用する衣類に、反射部21と同様の機能を有する生地部があらかじめ組み込まれている場合には、該掛布団や衣類とは別の反射部を備えることを省略することも可能である。
【0052】
また、前記実施形態では、就寝中の人Pの呼吸に伴う胸部Paの動きを検知する場合の実施形態について説明したが、例えば、人が座っていたり、あるいは、立っている状態でも、呼吸に伴う胸部Paの動きを検知することも可能である。
【0053】
さらに、本発明の監視装置は、人Pの呼吸に伴う胸部Paの動きに限らず、他の動物の呼吸に伴う体表部の動きを検知することも可能であり、あるいは、任意の装置の表面部の微小な動きを検知することも可能である。
【符号の説明】
【0054】
2…発光部(送信部)、3…受光部(受信部)、4…計測処理部(距離計測部)、11…監視処理部(動き検知部)、21…反射部(反射物体)。
図1
図2
図3
図4