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  • 特許-積層シートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】積層シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/90 20190101AFI20220624BHJP
   B29C 48/154 20190101ALI20220624BHJP
   B29C 48/92 20190101ALI20220624BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20220624BHJP
   B29K 75/00 20060101ALN20220624BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20220624BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20220624BHJP
【FI】
B29C48/90
B29C48/154
B29C48/92
B29C48/08
B29K75:00
B29L7:00
B29L9:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018208594
(22)【出願日】2018-11-06
(65)【公開番号】P2020075375
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松山 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 聡
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-037105(JP,A)
【文献】特開2014-213490(JP,A)
【文献】特表2017-511267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/15
B29C 48/88
B29C 48/92
B32B 25/08
B32B 27/00
B32B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態の熱可塑性エラストマーをセパレータフィルムAとセパレータフィルムBとの間に押出する工程と、
前記セパレータフィルムAと前記溶融状態の熱可塑性エラストマーと前記セパレータフィルムBとがこの順に積層された積層体を、前記セパレータフィルムAをゴム冷却ロール面に接触させ、前記セパレータフィルムBを金属冷却ロール面に接触させて、前記ゴム冷却ロールと前記金属冷却ロールとの間に挟圧して冷却する工程とを有する、
セパレータフィルムAと熱可塑性エラストマーフィルムとセパレータフィルムBとを備える積層シートの製造方法において、
前記ゴム冷却ロールの表面温度は、前記金属冷却ロールの表面温度よりも高く、
前記セパレータフィルムAの厚みは、前記セパレータフィルムBの厚みよりも大きいことを特徴とする積層シートの製造方法。
【請求項2】
前記セパレータフィルムBと前記セパレータフィルムAとの厚み比(B/A)は、0.30~0.80の範囲であることを特徴とする請求項1記載の積層シートの製造方法。
【請求項3】
下記する方法で測定したカール値4点の平均値が20mm未満であることを特徴とする請求項1または2記載の積層シートの製造方法。
(カール値の測定)
巻き取られた積層シートを繰り出し、A4サイズ(29.7×21.0cm)の長方形上に切断したカットサンプルを用意し、水平な台の上にカットサンプル(金属冷却ロールに供給するセパレータBを台側に配置)を静置し、カットサンプルの角4ヶ所において、台からの浮き上がり高さ(mm)を測定する。なお、カットサンプルが丸まってしまう場合は、「測定不可」とする。
【請求項4】
前記金属冷却ロール及び前記ゴム冷却ロールは、ともに同一の冷媒を使用して冷却することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の積層シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融押出成形法による熱可塑性エラストマーフィルムを含む積層シートの製造方法に関する。詳しくは、熱可塑性エラストマーフィルムの両面に離型性を有するセパレータフィルムを備える積層シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーは、フラットダイを装着した溶融押出成形機を用いてフィルム状に成形しようとすると、フィルムをロール状に巻き取った後、フィルム間同士でブロッキングを起こし、フィルムを使用する際に巻き戻しにくいという問題がある。
【0003】
これを解決するために、例えば、特許文献1には、フラットダイより押出された溶融状態の熱可塑性ポリウレタンエラストマーが冷却ロールに接する位置で剥離性(離型性)を有する離型紙、オレフィン系樹脂をコーティングした紙又はオレフィン系樹脂フィルムを添わせて冷却ロールを通過させることにより、巻き取り後のフィルム間のブロッキングを解消した熱可塑性エラストマーフィルムの製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、厚膜の熱可塑性エラストマー層を含む積層シートの製造方法として、フラットダイから押出された溶融状態の熱可塑性エラストマーの片面もしくは両面に離型性を有するセパレータ(ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等の樹脂フィルム、紙など)を添わせて冷却ロールを通過させ、該熱可塑性エラストマー層とセパレータより第1積層シートを得て、その該熱可塑性エラストマー層の表面へ再度熱可塑性エラストマーを押出ラミネートすることにより、厚膜の熱可塑性エラストマー層を得ることができる方法が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、薄膜の熱可塑性ポリウレタンフィルムを得るために、第1のポリエチレン樹脂層、熱可塑性ポリウレタン樹脂層、第2のポリエチレン樹脂層からなる積層シートにおいて、第1のポリエチレン樹脂の結晶化熱量が第2のポリエチレン樹脂層の結晶化熱量よりも大きいものを選定することにより、両外層のポリエチレン樹脂層と熱可塑性ポリウレタン樹脂層を剥離させる際、所望の界面とは異なる界面での剥離の発生や、所望の界面での剥離に追従した異なる界面での部分剥離の発生を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭57-116627号公報
【文献】特開2014-37105号公報
【文献】特開2013-91223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した積層シートの製造方法では、搬送工程あるいは巻取工程にて、熱可塑性エラストマーフィルムとセパレータフィルムとの間に浮きが発生するため、浮きの部分にシワ(搬送方向と直交する方向に発生する)が入り、さらに巻取ロールにて巻き取りできないという問題が発生した。この浮きの発生の原因について検討すると、ゴム冷却ロールと金属冷却ロールとの温度差により、ゴム冷却ロールに搬送するセパレータフィルムと金属冷却ロールに搬送するセパレータフィルムの収縮応力が異なるためであることが分かった。
【0008】
そこで、本発明者らは、冷却ロール温度をコントロールすることを検討した。しかしながら、冷却ロール温度を上げると冷却効率が悪くなる。また、冷却ロール温度を下げすぎると冷却ロールが結露しロール表面が濡れだすため、冷却ロール温度の下限にも限界がある。したがって、本発明者らは、冷却ロールの表面温度を出来るだけ下げ、かつ冷却ロールが結露しない条件で検討したところ、ゴム冷却ロールの表面温度は、金属冷却ロールの表面温度よりも大きいことが判明した。そして、ゴム冷却ロールに搬送するセパレータフィルムAの収縮応力が金属冷却ロールに搬送するセパレータフィルムBの収縮応力よりも大きいことを考慮しながら、鋭意検討することで上記問題を解決した。
【0009】
すなわち、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、熱可塑性エラストマーフィルムの両面にセパレータフィルムを備える積層シートの製造方法において、搬送工程あるいは巻取工程にてシワの発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)溶融状態の熱可塑性エラストマーをセパレータフィルムAとセパレータフィルムBとの間に押出する工程と、
前記セパレータフィルムAと前記溶融状態の熱可塑性エラストマーと前記セパレータフィルムBとがこの順に積層された積層体を、前記セパレータフィルムAをゴム冷却ロール面に接触させ、前記セパレータフィルムBを金属冷却ロール面に接触させて、前記ゴム冷却ロールと前記金属冷却ロールとの間に挟圧して冷却する工程とを有する、
セパレータフィルムAと熱可塑性エラストマーフィルムとセパレータフィルムBとを備える積層シートの製造方法において、
前記ゴム冷却ロールの表面温度は、前記金属冷却ロールの表面温度よりも高く、
前記セパレータフィルムAの厚みは、前記セパレータフィルムBの厚みよりも大きいことを特徴とする積層シートの製造方法。;
(2)前記熱可塑性エラストマーは、熱可塑性ポリウレタンであることを特徴とする(1)記載の積層シートの製造方法;
(3)前記セパレータフィルムA及び/または前記セパレータフィルムBは、ポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする(1)または(2)記載の積層シートの製造方法;
(4)前記金属冷却ロール及び前記ゴム冷却ロールは、ともに同一の冷媒を使用して冷却することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の積層シートの製造方法;
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
金属冷却ロールに供給するセパレータフィルムBの収縮応力よりもゴム冷却ロールに供給するセパレータフィルムAの収縮応力が大きいため、セパレータフィルムAの厚みをセパレータフィルムBの厚みよりも大きくすることにより、セパレータフィルムの収縮応力の差を小さくすることができ、その結果、搬送工程あるいは巻取工程にて熱可塑性エラストマーフィルムとセパレータフィルムとの間で浮きが発生しないため、不具合なく搬送でき良好に巻き取ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の積層シートの製造方法の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明の特徴は、ゴム冷却ロールへ供給するセパレータAの厚みが金属冷却ロールへ供給するセパレータBの厚みよりも大きいことである。積層シートの製造方法において搬送工程あるいは巻き取り工程にてシワが発生する原因は、ゴム冷却ロールと金属冷却ロールのそれぞれの表面温度が大きく相違しているため、セパレータフィルムに伝わる温度も大きく相違し、その結果ロール表面温度が高いゴム冷却ロールへ供給するセパレータフィルムAの収縮応力が大きくなると推定した。ここで、溶融押出された熱可塑性エラストマー(樹脂温度:200℃)を冷却した場合の冷却ロールの表面温度(なお、ゴム冷却ロール及び金属冷却ロールは、同じ冷媒(20℃の冷却水)をその内部へ循環させた)を調べた。その結果、金属冷却ロールの表面温度は、20~30℃、ゴム冷却ロールの表面温度は、30~50℃であり、ゴム冷却ロールの表面温度は、金属冷却ロールの表面温度よりも大きいことが分かった。この温度差は、冷却ロールの材質の熱伝導率の違いによるものである。
そして、セパレータフィルムAとセパレータフィルムBの厚みを同一にすると、積層シートの搬送工程にて、熱可塑性エラストマーフィルムとセパレータフィルムAとの間に浮きが発生し、浮きの部分にシワ(搬送と直交する方向にシワが入る)が入った。また、セパレータフィルムAの厚みをセパレータフィルムBの厚みよりも小さく設定すると、セパレータフィルムAと熱可塑性エラストマーフィルムとの間に浮きが大きくなり、浮きの部分に多数のシワが入り、さらに搬送ロールにて巻き取りできなかった。
したがって、本発明の製造方法は、セパレータフィルムAの厚みがセパレータフィルムBの厚みよりも大きいことが必須である。言い換えると、セパレータフィルムBとセパレータフィルムAとの厚み比(B/A)は1未満である必要がある。更に、セパレータフィルムBとセパレータフィルムAとの厚み比(B/A)は、0.20~0.90の範囲が好ましく、より好ましくは0.30~0.80の範囲である。
【0014】
本発明に用いられるセパレータフィルムは、離型性を有する熱可塑性樹脂からなるフィルムのことである。本発明でいう離型性を有するとは、熱可塑性エラストマーフィルムと容易に剥離できることを意味する。熱可塑性樹脂からなるフィルムとしては、熱可塑性エラストマーの加工温度よりも高い融点を持つもの、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルムなどのポリエステル系フィルムが好ましく、特に汎用性やコスト面からポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましい。また、熱可塑性樹脂の種類によっては、熱可塑性エラストマーとの剥離性が悪く、そのままではセパレータフィルムとして適さないものもある。そのような場合は、熱可塑性樹脂からなるフィルムの表面に離型処理したものを用いて、離型性を有することを担保する必要がある。前記離型処理方法としては、その表面にシリコーン系またはフッ素系材料をコーティングする方法、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のポリオレフィンフィルムをラミネートする方法が挙げられる。
【0015】
熱可塑性エラストマーフィルムとセパレータフィルムとの剥離強度は、0.05N/25mm~5N/25mmの範囲が好ましく、更に好ましいのは0.1N/25mm~3N/25mmの範囲、特に好ましいのは0.2~1N/25mmの範囲である。上記の範囲内であれば、離型性を有する。熱可塑性エラストマーフィルムとセパレータフィルムとの剥離強度がこの範囲より大きい場合は、セパレータフィルム表面を前記方法で離型処理し、その剥離強度がこの範囲となるようにするのが好ましい。剥離強度が0.05N/25mm未満の場合は、本発明で得られる積層シートの取扱い中に熱可塑性エラストマーフィルムとセパレータフィルムとが剥れる恐れがあるので好ましくなく、5N/25mmを超えると、セパレータフィルムを熱可塑性エラストマーフィルムとの界面で剥離する際、セパレータフィルムを剥し難く、熱可塑性エラストマーフィルムが大きく伸びる恐れがあるので好ましくない。
【0016】
セパレータフィルムA及びBの厚さは、30μm~150μmが好ましい。セパレータフィルムの厚さが30μm未満の場合は、溶融状態の熱可塑性エラストマーとセパレータフィルムを積層した際、セパレータフィルムが熱負けにより変形しやすくなるので好ましくなく、150μmを超えるとセパレータフィルムが厚くなりすぎて取り扱い難くなるので好ましくない。
【0017】
さらに、本発明の特徴は、ゴム冷却ロールの表面温度が金属冷却ロールの表面温度よりも高いことが特徴である。ゴム冷却ロール及び金属冷却ロールの表面温度は適宜設定するが、例えば、ゴム冷却ロール及び金属冷却ロールは、15℃以上30℃以下の冷媒(例えば水)を通して冷却する。このような冷却方法の場合、前述したように、ゴム冷却ロールの表面温度は、金属冷却ロールの表面温度よりも大きい。さらに、冷却効率を考えると、15℃以上20℃以下の冷媒を通して冷却することが好ましく、ゴム冷却ロールと金属冷却ロールには、同一の冷媒、好ましくは同一の冷媒装置から同一の冷媒を通した方が設備上簡便で好ましい。また、冷却効率のために15℃未満の冷媒を通して冷却ロールを冷やすと、空気中の水分によって冷却ロール自体が結露してしまうため好ましくない。また、冷却ロールに30℃を超える冷媒を通すと、冷却効率が低下し、十分に冷却しないため好ましくない。
【0018】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリジエン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーなどが挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーは、同一分子中にハードセグメントとソフトセグメントとを有しており、ハードセグメントが室温で物理的な架橋点として作用し、エラストマーとしての特性を示す。また、前記架橋点は加熱によって消失し熱可塑性を示す。
【0019】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマーの具体例は前記の通りであるが、熱可塑性エラストマーの種類は、その用途によって適宜選択することができる。本発明で得られる積層シートから両面の積層されているセパレータフィルムを剥離することにより熱可塑性エラストマーフィルムを得ることができる。特に熱可塑性エラストマーフィルムをアパレル系のワッペン用ケースや電化製品のスイッチカバーとして用いる場合、接着剤を用いることなく他の樹脂へ融着させることができれば、二次加工工程が簡略化できて有利である。前記熱可塑性エラストマーの中で、他の樹脂や金属への熱融着が可能なものとしては、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー及びポリウレタン系エラストマーが挙げられ、その中でもポリウレタン系エラストマーは硬度の低いものから硬度の高いものまで任意に選択することができるため、特に好適に用いることができる。
【0020】
本発明に用いられるポリウレタン系エラストマーは、ジオール成分である短鎖ジオール及び長鎖ジオールと、ジイソシアネートとを主原料とし、必要に応じて鎖延長剤であるジアミンを重付加反応させることにより得られる分子構造中にウレタン結合を有するゴム状弾性高分子のうち熱可塑性を有するもの(以下、熱可塑性ポリウレタンと称することがある)である。
【0021】
短鎖ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。
【0022】
長鎖ジオールとしては、1分子中に2個の水酸基を有する分子量200~10000の化合物で、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。具体的には、ポリエーテルジオールとして、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。ポリエステルジオールとしては、二塩基酸とグリコールとの脱水縮合反応によって製造される縮合系ポリエステルジオール、ε-カプロラクタムの開環重合によって得られるラクトン系ポリエステルジオールなどが挙げられる。
【0023】
ジイソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香環をもつ脂肪族が挙げられ、これらの中で、脂肪族ジイソシアネートは黄変しない熱可塑性ポリウレタンが要望される場合に好適に用いることができる
【0024】
尚、熱可塑性ポリウレタンはその物性を阻害しない範囲で公知の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、フェノール系、リン系、硫黄系等の熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤などを挙げることができる。上記添加剤は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
本発明に用いることができる熱可塑性エラストマーのMFR(JIS K7210に準拠。測定温度は190℃)は、押出適性の観点から0.5g/10min~50g/10minが好ましく、さらには1g/10min~40g/10minが好ましい。MFRが0.5g/10min未満の場合は、押出機に負荷が掛り過ぎるので好ましくなく、50g/10minを超えると粘度が低すぎるためフィルム成形が難しいため好ましくない。
【0026】
また、熱可塑性エラストマーのショア硬度は、ショアA硬度40以上、ショアD硬度65以下が好ましい。熱可塑性エラストマーのショアA硬度が40未満の場合は、熱可塑性エラストマー自身が常温でも粘着性を示すためにセパレータとの剥離力が大きくなるので好ましくなく、一方、ショアD硬度が65を越える熱可塑性エラストマーは、硬すぎるので好ましくない。
【0027】
次に、図1を用いて、本発明の積層シートの製造方法について説明する。
ホッパー(図示せず)に供給された熱可塑性エラストマーが、押出機1からフラットダイ2へ送られ、フラットダイ2から溶融状態で押し出される。一方、セパレータフィルムA12を溶融状態の熱可塑性エラストマー11とゴム冷却ロール3との間に供給し、セパレータフィルムB13は溶融状態の熱可塑性エラストマー11と金属冷却ロール4との間に供給させる。そして、セパレータフィルムA12と溶融状態の熱可塑性エラストマー11とセパレータフィルムB13とをこの順で積層し、ゴム冷却ロール3と金属冷却ロール4との間で挟圧して冷却させ、ガイドロール5で搬送しながらピンチロール6で引き取られ、セパレータフィルムAと熱可塑性エラストマーフィルムとセパレータフィルムBからなる積層シート14を得ることができる。
なお、セパレータフィルムA12と溶融状態の熱可塑性エラストマー11とセパレータフィルムB13とをこの順で積層するとは、セパレータフィルムA12と溶融状態の熱可塑性エラストマー11とセパレータフィルムB13とを同時に積層(図1)してもよいし、溶融状態の熱可塑性エラストマー11とどちらか一方のセパレータフィルムを先に積層して冷却ロールに接触させ、次いでもう一方のセパレータフィルムを積層し、ゴム冷却ロールと金属冷却ロールとの間で挟圧して冷却させてもよい。特に、冷却効率の観点から、図1のようにセパレータフィルムA12、溶融状態の熱可塑性エラストマー11、セパレータフィルムB13を同時に積層する場合(言い換えると、溶融状態の熱可塑性エラストマー11の落下地点がゴム冷却ロール3と金属冷却ロール4とが最も接近する部分における隙間の中点を通る鉛直線状の場合)が好ましい。
【0028】
このようにして熱可塑性エラストマーフィルムの両面にセパレータフィルムを積層した積層シートが得られる。また、本発明の製造方法から得られる積層シートは、両面のセパレータフィルムを剥離することにより熱可塑性エラストマーフィルムとして使用でき、アパレル系のワッペン用ケースや電化製品のスイッチカバーや自動車や航空機用の保護用(傷付防止や汚れ防止)としてペイントプロテクションフィルムに応用可能である。
【実施例
【0029】
以下、本発明について、実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
以下の項目について、評価方法を記載する。
(1)カール値の測定
巻き取られた積層シートを繰り出し、A4サイズ(29.7×21.0cm)の長方形上に切断したカットサンプルを用意し、水平な台の上にカットサンプル(金属冷却ロールに供給するセパレータBを台側に配置)を静置し、カットサンプルの角4ヶ所において、台からの浮き上がり高さ(mm)を測定し、その4ヶ所の値とその平均値を示し、その結果を表2に示す。なお、カットサンプルが丸まってしまう場合は、「測定不可」とした。
【0031】
(2)熱可塑性エラストマーフィルムとセパレータフィルムAとの剥離強度の測定
島津製作所製オートグラフ(AGS-100)を用いて幅25mm×長さ150mmの短冊状試料を速度300mm/min、剥離角度180°で剥離させ、その時の最大荷重を測定し剥離強度とした。尚、その単位を(N/25mm)として表した。
【0032】
実施例、比較例に記載の熱可塑性エラストマー及びセパレータフィルムは次のものを用いた。
<熱可塑性エラストマー>
・熱可塑性ポリウレタン(TPUと略記する):DIC社製、エーテル系熱可塑性ポリウレタン、硬度:ショアA85(厚さ2mmのシートを作成し、3枚重ねて厚み6mmとし、デューロメータ タイプA(上島製作所製)を用いて測定した)
<セパレータフィルム>
・ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETと略記する):帝人株式会社製、離型処理付き2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム
【0033】
[実施例1、2、比較例1、2]
図1に示すフラットダイを装着した押出機及び引取機よりなる製膜装置を用い、ゴム冷却ロールの表面へセパレータフィルムAを供給し、金属冷却ロールの表面へセパレータフィルムBを供給しつつ、熱可塑性ポリウレタンをフラットダイから押出し、熱可塑性ポリウレタンフィルムの設定厚みが150μmを含む積層シートを得た。なお、ゴム冷却ロール及び金属冷却ロールは、内部へ20℃の冷却水を循環させ、ゴム冷却ロールの表面温度は0~0℃、金属冷却ロールの表面温度は0~0℃を示した。また、実施例、比較例で作製した層構成、セパレータフィルムA及びセパレータフィルムBの厚みは、表1に示す。
【0034】
実施例、及び比較例で作製した積層シートの構成を表1に示す。また、得られた積層シートのカール値と剥離強度を表2に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
表2から明らかなように、ゴム冷却ロールに供給するセパレータフィルムAの厚みと、金属冷却ロールに供給するセパレータフィルムBの厚みが同じである比較例1(厚み比(B/A)=1である)は、カール値4点の平均は54.2mmであり、非常に大きいカールが発生した。これにより、比較例1の積層シートは、熱可塑性エラストマーフィルムの表裏面にかかる収縮応力が大きく相違していることが確認できた。そして、比較例1の積層シートは、搬送工程にて、セパレータフィルムAと熱可塑性エラストマーフィルムとの間に浮きが発生したため、浮きの部分にシワが発生し、巻き取りできなかった。
また、ゴム冷却ロールの表面に供給するセパレータフィルムAの厚みが金属冷却ロールの表面に供給するセパレータフィルムBの厚みより小さい比較例2(厚み比(B/A)=1.32である)は、カットサンプルが丸まってしまい非常に強いカールが発生した。これにより、比較例2の積層シートは、熱可塑性エラストマーフィルムの表裏面にかかる応力が大きく相違していることが確認できた。そして、搬送工程にて、セパレータフィルムAと熱可塑性エラストマーフィルムとの間に浮きが発生したため、浮きの部分にシワが発生し、巻き取りできなかった。
【0038】
それに対し、ゴム冷却ロールの表面に供給するセパレータフィルムAの厚みが金属冷却ロールの表面に供給するセパレータフィルムBの厚みが大きい実施例1(厚み比(B/A)=0.76である)及び実施例2(厚み比(B/A)=0.51である)は、角4ヶ所においてカール値が30mm未満、カール値4点の平均値が20mm未満であり、カールはほぼほぼ発生しなかった。これより、実施例1及び実施例2の積層シートは、セパレータフィルムA及びセパレータフィルムBの収縮応力が相違していないことが確認できた。そして、搬送工程や巻取工程にて、セパレータフィルム(AまたはB)と熱可塑性エラストマーフィルムとの間に浮きが発生せず、良好に巻き取りができた。なお、実施例1及び実施例2における積層シートの熱可塑性エラストマーフィルムとセパレータフィルムとの剥離強度は、0.3N/25mmであり、十分人の手で剥離できるほどの剥離力であり、離型性は良好であった。
【符号の説明】
【0039】
1.押出機
2.フラットダイ
3.ゴム冷却ロール
4.金属冷却ロール
5.ガイドロール
6.ピンチロール
11.溶融状態の熱可塑性エラストマー
12.セパレータフィルムA
13.セパレータフィルムB
14.積層シート

図1