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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】銀合金系スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20220624BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20220624BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20220624BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20220624BHJP
   C22F 1/14 20060101ALN20220624BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220624BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C23C14/06 R
C23C14/14 D
C22C5/06 Z
C22F1/14
C22F1/00 604
C22F1/00 612
C22F1/00 613
C22F1/00 671
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 692A
C22F1/00 694Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018543441
(86)(22)【出願日】2016-11-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2016076909
(87)【国際公開番号】W WO2017080968
(87)【国際公開日】2017-05-18
【審査請求日】2019-09-25
(31)【優先権主張番号】15193862.8
(32)【優先日】2015-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517366116
【氏名又は名称】マテリオン アドバンスド マテリアルズ ジャーマニー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュロット,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】シモンズ,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ケストナー,アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ワグナー,イエンス
(72)【発明者】
【氏名】コニエツカ,ウヴェ
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-156753(JP,A)
【文献】特開2004-339585(JP,A)
【文献】特開2004-002929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C23C 14/06
C23C 14/14
C22C 5/06
C22F 1/14
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀合金を含むスパッタリングターゲットであって、銀合金が、
- インジウム、スズ、アンチモン及びビスマスから選択される、銀合金の全重量に対して0.01~2wt%の量の第1の元素、及び
- 銀合金の全重量に対して0.01~2wt%のチタン
を含み、
- 55μm以下の平均粒径を有し、銀合金がTi含有介在物を含み、Ti含有介在物の平均径が5μm未満である、スパッタリングターゲット。
【請求項2】
銀合金が、インジウム、スズ、アンチモン及びビスマスから選択される1種以上の追加の元素を含み、ただし第1の元素と追加の元素とは互いに異なり、追加の元素又は追加の元素の各々が、それぞれ好ましくは銀合金の全重量に対して0.01~2wt%の量で存在する、請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
銀合金が、第1の元素及びチタン、並びに場合により追加の元素のうち少なくとも1つを含み、残りは銀及び不可避な不純物である、請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
銀合金が35%未満の粒径の変動を有し、及び/又は銀合金の粒子が少なくとも40%の平均軸比を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
1μm2あたり0.1~5個のTi含有介在物が存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
Ti含有介在物の平均径が2μm未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
銀合金が、最も強いX線回折反射に対する2番目に強いX線回折反射の強度比が20%未満の変動を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを製造する方法であって、
- 銀と、インジウム、スズ、アンチモン及びビスマスから選択される第1の元素、並びにチタンを含む溶融物を、成形体を得るように固化させ、
- 成形体を、少なくとも200℃の成形温度まで加熱し、次いで少なくとも1つの成形ステップを施し、さらに成形体に少なくとも1つの再結晶ステップを施す、方法。
【請求項9】
成形ステップが圧延、鍛造、圧縮、延伸、押出又は加圧ステップである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
圧延ステップがクロスローリングステップである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
各成形ステップが少なくとも1s-1の成形速度で実施される、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
成形体が少なくとも1つの動的再結晶ステップ及び/又は少なくとも1つの静的再結晶ステップを受ける、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
動的再結晶ステップが成形の間に行われる、及び/又は静的再結晶ステップが最後の成形ステップの後に行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
成形体が第1の成形ステップの前に加熱される成形温度が、少なくとも600℃であり、及び/又は静的再結晶が、最後の成形ステップの後に少なくとも650℃の熱処理温度で熱処理することによって行われる、請求項8~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
成形体が静的再結晶ステップに続いて急冷される、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐凝集性層の堆積のための銀合金を含むスパッタリングターゲット、及び本スパッタリングターゲットを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
良好な反射特性のため、銀は光データ記憶、ディスプレイ用途及び光エレクトロニクスの分野で一般的なコーティング材料である。適用環境及び他の隣接した層に応じて、銀は腐食傾向であり、これは反射特性の損失及び構成要素の破損すらもたらし得る。
【0003】
銀層は使用においてさらなる制限を受けるが、これは堆積の間及び/又はその後のプロセスステップで増大した温度(例えば200℃を超える温度)が凝集によって銀層の光学的及び/又は電気的特性を大幅に損傷し得るためである。凝集はヘイズ値(拡散光散乱)の急激な増大、並びに反射及び電気伝導率の劇的な低下という形で現れる。
【0004】
インジウム、ビスマス、アンチモン又はスズ等の合金元素が銀に添加されるとき、腐食特性が改善され得ることが知られている。特許文献1を参照。例えば特許文献2は、最大1.5wt%のインジウムを含み、150~400μmの範囲内の平均粒径を有する銀合金を記載している。特許文献3はビスマス含有銀合金を記載している。
【0005】
特許文献4は0.5~4.9at%のパラジウムを含有する銀合金を記載している。特許文献5は、サマリウムの添加を通して腐食安定性を改善している。
【0006】
特許文献6は反射コーティングとして使用するための銀合金を記載している。この銀合金は少なくとも2種の合金元素を含み、第1の合金元素がアルミニウム、インジウム又はスズであって、第2の合金元素が複数のさらなる金属元素から選択され得る。
【0007】
耐凝集性の改善は、特許文献7でGa及びレアアース、又はCu、Snの添加を通して解決されている。腐食安定性及び耐凝集性の改善は、好ましい合金組成物をスパッタリングすることによって達成される。
【0008】
印刷された導電性ペーストの抵抗率についての腐食及び温度安定性改善は、特にSn、Pb、Zn、In、Ga及びさらなる元素として例えば、Al、Cu又はチタンを含む銀合金によって達成される。特許文献8を参照。
【0009】
銀層の耐凝集性を改善する解決策としては、CD「記録層」が有名である。特許文献9は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Au、At、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn(0.1~8at%)を含む銀を記載している。特許文献10、特許文献11、特許文献12及び特許文献13は、耐凝集性を改善するための最大20at%の同様の包括的な物質システムを報告している。同様に、特許文献14は銀合金を含む光記録層のための層システムを記載している。特許文献15は銀の耐凝集性を、具体的には合金に耐熱金属を添加することによって改善しているが、これは腐食安定性を意図的に制御しない。特許文献16はMo又はNi及びインジウムの添加を通して銀の耐凝集性を向上させている。
【0010】
要約すると合金への添加について、一方では特定の元素の量の増大に従って腐食安定性及び耐凝集性が向上され得るが、他方では反射特性が悪影響を受けるリスク、及び電気伝導率が低下するリスクも同時に増大することが認められる。多数の物質からなるシステムでは、具体的には固溶体の形成を有さないシステムでは、元素の均一な分布が重要である。
【0011】
原則として、このような反射性層は異なるコーティング方法によって基材に適用され得る。好ましい方法はスパッタリングターゲットが使用されるスパッタリングである。当業者には既知であるが、スパッタリングターゲットはスパッタリングされるカソードスパッタリングシステムの材料を意味するものとして理解される。
【0012】
スパッタリングターゲットの化学組成については、製造されるコーティングの所望の特性が考慮されなければならない。例えば高い腐食及び凝集安定性を有する銀系の反射コーティングがスパッタリングプロセスによって製造される場合、スパッタリングターゲットは腐食阻害性及び凝集阻害性の合金元素を含む銀合金で構成され得る。
【0013】
スパッタリングターゲットが通常満たすべき1つの重要な基準は、好ましく最小化された層厚みの変動を有するコーティングの形成を可能にするための非常に一定なスパッタリング速度である。層厚みの高い変動はまた、特に銀コーティングの反射特性に悪影響を与える。特に透明性を示さなければならない薄層の場合も同様に、層厚みの高度な均一性、及びしたがって均質なスパッタリング挙動が重要である。加えて、均一なスパッタリング挙動はターゲットの高い利用度を促進し、したがってプロセスの効率を向上させる。
【0014】
さらに、好適なスパッタリングターゲットは可能な限り低いアーク放電頻度(arc rate)で堆積を可能にすべきである。「アーク放電」とはスパッタリングターゲット上の局所的スパーク放電を示す。スパーク放電はスパッタリングターゲット材料を局所的に溶融させ、この溶融した材料の小さなしぶきがコーティングされる基材に到達し、そこで欠陥を発生させる可能性がある。
【0015】
したがって、スパッタリングターゲット材料は、材料が適用されるコーティングの所望の最終特性(良好な反射特性又は導電性等、並びに可能な限り高い腐食及び凝集安定性)を提供するだけでなく、一定なスパッタリング速度、均一な層組成物及び可能な限り低いアーク放電頻度も有し、層厚みの変動及びコーティング中の欠陥の数を最小限にするものでなければならない。一態様の改善(例えば計画した適用についての層特性の最適化)は、第2の態様(最大限可能な良好なスパッタリング特性)を犠牲にして得るべきではない。しかし実際には、両方の態様を同時に満足することはしばしば困難であることが明らかになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】欧州特許出願公開第1489193号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2487274号明細書
【文献】米国特許第7,767,041号明細書
【文献】特開2000-109943号公報
【文献】米国特許出願公開第2004/0048193号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1736558号明細書
【文献】米国特許第7,413,618号明細書
【文献】米国特許出願公開第2005/0019203号明細書
【文献】特開2004-0002929号公報
【文献】欧州特許出願公開第1889930号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1889931号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1889932号明細書
【文献】欧州特許第18889933号明細書
【文献】米国特許第6,896,947号明細書
【文献】米国特許第5,853,872号明細書
【文献】米国特許出願公開第2007/0020138号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
スパッタリングターゲットを提供することが本発明の目的であり、このスパッタリングターゲットによって、高温で可能な限り耐エージング性かつ耐凝集性の銀系反射コーティングが、低い層厚みの変動及び低いアーク放電頻度で製造され得る。
このようなスパッタリングターゲットを製造する好適な方法を提供することが本発明のさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的は、
- インジウム、スズ、アンチモン及びビスマスから選択され、銀合金の全重量に対して0.01~2.0wt%の量の第1の元素、及び
- 銀合金の全重量に対して0.01~2.0wt%のチタン
を含有し、
- 55μm以下の平均粒径を有する
銀合金を含むスパッタリングターゲットによって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1ッチング後の銀合金の倍率500倍の光学顕微鏡画像である。
図2a】エッチング後の銀合金のSEM画像である。
図2b】エッチング後の銀合金のSEM画像である。
図3】エッチング後の銀合金の倍率500倍の光学顕微鏡画像である。
図4a】エッチング後の銀合金のSEM画像である。
図4b】エッチング後の銀合金のSEM画像である。
図5】エッチング後の銀合金の倍率500倍の光学顕微鏡画像である。
図6】エージング温度に対するシートの抵抗率変化を示すグラフである。
図7】300℃で熱処理(エージング)を受けたコーティング上の可視光の波長範囲(380~780nm)にわたる反射の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のスパッタリングターゲットは、高い腐食安定性を有する反射コーティングが製造されることを可能にする。驚くべきことに本発明の範囲内で、銀合金が55μm以下の平均粒径を有するとき、スパッタリングターゲット中の銀合金中のチタンの含有量に関わらず、堆積したコーティングについて、非常に低いアーク放電頻度及び非常に一定なスパッタリング速度、したがって非常に低い層厚み変動が達成され得ることが明らかとなった。
【0021】
スパッタリングターゲットの銀合金は、好ましくは1~55μm、より好ましくは3~50μm、さらにより好ましくは5~45μm又は5~30μmの範囲内の平均粒径を有する。
【0022】
銀合金は好ましくは、銀合金の全重量に対して0.1~1.0wt%の量のインジウム、スズ、アンチモン又はビスマス、及び0.1~1.0wt%の量のチタンを含む。場合により、銀合金は1種以上の追加の元素を含んでもよく、追加の元素は、第1の元素と異なることを条件に好ましくはインジウム、スズ、アンチモン又はビスマスから選択される。これらの追加の元素のうち1種が存在する場合、銀合金の全重量に対して0.01~2.0wt%の量で存在することが好ましい。これらの追加の元素のうち2種以上が存在する場合、銀合金の全重量に対してそれらの総重量が0.01~4.0wt%、より好ましくは0.01~2.0wt%の範囲であることが、好ましくなり得る。
【0023】
銀合金は好ましくは上述の合金元素のみを含み、残りは銀及び不可避な不純物である。
【0024】
したがってインジウム含有銀合金の場合、この合金はインジウム及びチタン、並びに場合により、Bi、Sb及びSnの元素のうち1種以上を含み、残りは銀及び不可避な不純物であることが好ましい。
【0025】
したがってアンチモン含有銀合金の場合、この合金はアンチモン及びチタン、並びに場合により、Bi、In及びSnの元素のうち1種以上を含み、残りは銀及び不可避な不純物であることが好ましい。
【0026】
したがってビスマス含有銀合金の場合、この合金はビスマス及びチタン、並びに場合により、Sb、In及びSnの元素のうち1種以上を含み、残りは銀及び不可避な不純物であることが好ましい。
【0027】
したがってスズ含有銀合金の場合、この合金はスズ及びチタン、並びに場合により、Sb、In及びBiの元素のうち1種以上を含み、残りは銀及び不可避な不純物であることが好ましい。
【0028】
これらの不可避な不純物はすべて金属不純物であってよい。
【0029】
好ましくは不可避な不純物は最小限に保たれ、合計で好ましくは0.5wt%未満、より好ましくは0.05wt%未満の量で存在する。これは例えば銀合金を製造するのに使用される出発物質としての金属がすでに十分に高い純度を有するときに保証され得る。詳細な量は銀合金全体の量を参照する。
【0030】
銀合金のスパッタリング特性は、銀合金の粒子が特定の軸比を有するときにさらに最適化され得る。好ましい実施形態では、銀合金の粒子は少なくとも40%~最大100%の好ましい平均軸比を有する。
【0031】
加えて銀合金のスパッタリング特性は、銀合金の粒子が可能な限り低い粒径の変動を有するときにさらに最適化され得る。好ましくはスパッタリングターゲットの銀合金は、33%未満、より好ましくは15%未満、さらにより好ましくは12%未満の粒径の変動を有する。
【0032】
スパッタリングターゲットの銀合金が結晶性材料であるため、X線回折から対応するX線回折反射が見出される。それぞれのX線回折反射の強度は、合金の結晶格子及び組織の好ましい方向を示す。好ましい実施形態では、最も強度の大きいX線回折反射に対する2番目に強度の大きいX線回折反射の強度の強度比の変動が35%未満である。この条件を満足する銀インジウムチタン合金はスパッタリング速度について非常に有利であることが示されている。
【0033】
Ti含有介在物は本発明に記載のスパッタリングターゲットの銀合金中に存在し得る。これらの介在物は分離相の形態で存在する。この場合、銀合金は多相合金である。このような多相合金はマトリックス相によって形成され、このマトリックス相は銀、第1の元素(In、Sb、Sn又はBi)及び場合によりTi、並びに場合により追加の元素のうち1種以上を含み、このマトリックス中に分布するTi含有介在物を形成する。上述のように、スパッタリングターゲットの銀合金は、チタンを0.01~2.0wt%の量で含む。銀合金がTi含有介在物を含む場合、銀合金のチタンはマトリックス相中(すなわちマトリックスを形成するAg及びIn(代替的にはBi、Sb又はSn)と共に)及び介在物中の両方に存在し得る。代替的方法として、銀合金のチタンが介在物中にのみ存在することも可能である。Ti含有介在物は、場合によりAgをさらなる金属元素として含んでもよく、例えばAgTi合金又は金属間化合物(TiAg等)の形態であってよい。Ti含有介在物は純粋な金属介在物であってよい。代替的方法として、介在物はTi含有介在物を、例えば酸化物又は窒化物(すなわち部分的又は完全に酸化もしくは窒化されたTi含有介在物)の形態で含み得る。
【0034】
Ti含有介在物が存在する場合、そのμm2当たりの数は好ましくは0.1~5個である。
【0035】
Ti含有介在物は、好ましくは5μm未満、より好ましくは2μm未満の平均径を有する。
【0036】
本発明の範囲内での代替的方法として、スパッタリングターゲットの銀合金が単相合金であることも可能である。しかし好ましい実施形態では、銀合金は上述のTi含有介在物を含み、したがって好ましくは多相合金(すなわちその中に分散する形でTi含有介在物を含むマトリックス相)として存在する。
【0037】
スパッタリングターゲットは好ましくは上述の銀合金で作製される。
【0038】
用途に応じて、スパッタリングターゲットの形状は変動し得る。例えば、スパッタリングターゲットは平面状(円形のディスクもしくは多角形のプレートの形状等)、円筒状又はチューブ状であってよい。
【0039】
計画された用途に応じて、スパッタリングターゲットの寸法も広範囲にわたり変動し得る。例えば平面状のスパッタリングターゲットは0.5m2~8m2の範囲内の表面積を有し得る。チューブ状のスパッタリングターゲットは、例えば0.5~4mの範囲内の長さを有し得る。
【0040】
必要であれば、スパッタリングターゲットは基材、例えばバックプレートにも適用され得る。基材へのスパッタリングターゲットの接着は、例えばはんだ(インジウム等)によって行い得る。バックプレートへの形状適合適用も可能である。これは当業者には既知である。
【0041】
さらなる実施形態では、本発明は上述のスパッタリングターゲットを製造する方法に関し、銀、チタン、及びインジウム、アンチモン、スズ又はビスマスから選択される第1の元素を含む溶融物を成形体を得るために固化させ、成形体は、少なくとも200℃の成形温度まで加熱し、次いで少なくとも1つの成形ステップを受け、成形体は追加的に少なくとも1つの再結晶ステップを受ける。
【0042】
すでに上記したように、場合によりインジウム、ビスマス、スズ又はアンチモンから選択される少なくとも1種の追加の元素も添加され得る。
【0043】
溶融物は当業者に既知の一般的な方法によって、例えば誘導溶融炉(真空誘導溶融炉等)内で製造され得る。この目的のため、金属は好適な量で溶融炉内に配置され、溶融されてよい。望ましくない不純物の量を可能な範囲で最大限に最小化するために、すでに十分に高純度の、例えば少なくとも99.5%の出発物質としての金属を使用することは有利であり得る。溶融操作は一般に減圧下及び/又は不活性気体(アルゴン等)雰囲気下で実施される。
【0044】
その後、溶融物はモールド又はダイ(グラファイトモールド等)内へ注ぎ込むことができる。このモールド内で溶融物を冷却し、固化させた場合、固体の成形体が得られる。
【0045】
上記したように、成形体は少なくとも200℃の成形温度まで加熱され、次いで少なくとも1つの成形ステップを受ける。さらに、成形体は少なくとも1つの再結晶ステップを受ける。以下により詳細に記載されるように、再結晶ステップは二次成形プロセスの間に行い得る。しかし、再結晶ステップは成形プロセスの後に実施することも可能である。さらに、再結晶ステップは成形プロセスの間だけでなく、成形プロセスの後に実施すること可能である。
【0046】
成形プロセスは例えば圧延、鍛造、圧縮、延伸、押出もしくは加圧、又はこれらの二次成形プロセスのうち2つ以上の組み合わせによって行い得る。これらの成形プロセスはそれ自体当業者に公知である。
【0047】
原則的に、本発明に記載の方法の範囲内で、成形操作は単一の二次成形ステップ(圧延ステップ等)だけで行うことが可能である。代替的方法としては、少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも4つの成形ステップ(好ましくは圧延ステップ)、例えば2~20又は8~15の成形ステップ(好ましくは圧延ステップ)が実施されることが好ましい場合がある。
【0048】
2つ以上の圧延ステップが実施される場合、後続する各圧延ステップの圧延方向は、先行する圧延ステップの圧延方向に対し対応するか又は約180°回転した方向でもよい。代替的には、2つ以上の圧延ステップの場合、クロスローリングを行うことも可能であり、これはすなわち後続する各圧延ステップでそれぞれの圧延方向が先行する圧延ステップに対して約90°回転(時計回り又は反時計回りのいずれかで)する。圧延方向は各圧延ステップで先行する圧延ステップに対して約360°/n回転(時計回り又は反時計回りのいずれかで)することも可能であって、式中、nは、圧延ステップの数である。
【0049】
本発明の範囲内で、各成形ステップが好ましくは少なくとも1s-1の成形速度εで実施される場合は有利であることが明らかになっている。成形速度の上限は重要でない。しかし、プロセス関連の理由により、成形速度が20s-1又は15s-1の値を超過しない場合は有利であり得る。
【0050】
当業者には既知であるが、成形速度は以下の数式に従って算出される。
【0051】
【数1】
【0052】
式中、
nは、圧延の回転速度、
H0は、圧延ステップの前の成形体の厚み、
r'=r/100であって、式中、r=圧延ステップ毎の成形体の厚みの低減、及び
Rは、圧延半径である。
したがって当業者である施術者の専門知識に基づき施術者は、圧延ステップ毎の厚みの低減を予め規定することで予め規定された成形速度を達成するという形で容易に圧延ステップを実施できる。
【0053】
本発明に記載の方法では、成形体は少なくとも1つの再結晶ステップを受ける。これは動的又は静的再結晶ステップでもよい。当業者には公知であるように、動的再結晶は成形の間に行われる。静的再結晶の間に成形は行われない。当業者は、当該技術分野の自らの一般知識に基づいて、所定のプロセス条件下での所与の合金の再結晶温度を容易に決定できるであろう。
【0054】
好ましくは成形体は少なくとも1つの動的再結晶ステップ(すなわち成形の間であって、これは成形体が1つ以上の成形ステップを受けている間のことである)及び少なくとも1つの静的再結晶ステップを受ける。
【0055】
成形体が成形の前に加熱される成形温度は、好ましくは少なくとも600℃、特に好ましくは少なくとも750℃又はさらには少なくとも900℃である。本発明の範囲内で、成形体は成形の間にさらに能動的に加熱(例えば外部熱源によって)することもできる。しかし、成形体が成形の間にさほど冷却しない場合、成形ステップの間に外部熱源によるさらなる能動的加熱は必要でない。
【0056】
原則的に本発明に記載の方法は1つ以上の低温成形ステップも含み得る。代替的方法として、本発明に記載の方法は低温成形を含まないことが可能である。
【0057】
静的再結晶ステップは好ましくは成形済み成形体を熱処理することによって、成形後に行われる。熱処理温度は好ましくは少なくとも600℃、特に好ましくは750℃、又はさらに少なくも900℃である。熱処理ステップの持続時間は広範囲にわたり変動し得る。0.5~5時間の熱処理持続時間が実施例によって記述される。
【0058】
成形、及び成形後に実施される静的再結晶は、減圧下、不活性気体雰囲気(窒素等)中又は空気中で行い得る。
【0059】
静的再結晶(例えば上述の熱処理による)に続き、成形体は冷却させることができる。代替的方法としては、成形体は静的再結晶ステップに続き、例えば水浴又は油中で浸漬することによって急冷させることが好ましい場合がある。
【0060】
さらなる実施形態では、本発明は反射層を製造するための上述のスパッタリングターゲットを使用する方法に関する。
【0061】
例えばこれはディスプレイ又はモニターの反射層であってよい。高い品質及び層厚みの非常に低い変動によって、反射層はフレキシブルディスプレイ又はモニターにも使用され得る。
本発明は例えば以下の態様を含む。
[項1]
銀合金を含むスパッタリングターゲットであって、銀合金が、
- インジウム、スズ、アンチモン及びビスマスから選択される、銀合金の全重量に対して0.01~2wt%の量の第1の元素、及び
- 銀合金の全重量に対して0.01~2wt%のチタン
を含み、
- 55μm以下の平均粒径を有する、スパッタリングターゲット。
[項2]
銀合金が、インジウム、スズ、アンチモン及びビスマスから選択される1種以上の追加の元素を含み、ただし第1の元素と追加の元素とは互いに異なり、追加の元素又は追加の元素の各々が、それぞれ好ましくは銀合金の全重量に対して0.01~2wt%の量で存在する、項1に記載のスパッタリングターゲット。
[項3]
銀合金が、第1の元素及びチタン、並びに場合により追加の元素のうち少なくとも1つを含み、残りは銀及び不可避な不純物である、項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
[項4]
銀合金が35%未満の粒径の変動を有し、及び/又は銀合金の粒子が少なくとも40%の平均軸比を有する、項1~3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
[項5]
銀合金がTi含有介在物を含み、μm 2 毎に0.1~5個のTi含有介在物が存在する、項1~4のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
[項6]
Ti含有介在物の平均径が5μm未満、好ましくは2μm未満である、項1~5のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
[項7]
銀合金が、最も強いX線回折反射に対する2番目に強いX線回折反射の強度比が20%未満の変動を有する、項1~6のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
[項8]
項1~7のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを製造する方法であって、
- 銀と、インジウム、スズ、アンチモン及びビスマスから選択される第1の元素、並びにチタンを含む溶融物を、成形体を得るように固化させ、
- 成形体を、少なくとも200℃の成形温度まで加熱し、次いで少なくとも1つの成形ステップを施し、さらに成形体に少なくとも1つの再結晶ステップを施す、方法。
[項9]
成形ステップが圧延、鍛造、圧縮、延伸、押出又は加圧ステップである、項8に記載の方法。
[項10]
圧延ステップがクロスローリングステップである、項9に記載の方法。
[項11]
各成形ステップが少なくとも1s -1 の成形速度で実施される、項8~10のいずれか一項に記載の方法。
[項12]
成形体が少なくとも1つの動的再結晶ステップ及び/又は少なくとも1つの静的再結晶ステップを受ける、項8~11のいずれか一項に記載の方法。
[項13]
動的再結晶ステップが成形の間に行われる、及び/又は静的再結晶ステップが最後の成形ステップの後に行われる、項12に記載の方法。
[項14]
成形体が第1の成形ステップの前に加熱される成形温度が、少なくとも600℃であり、及び/又は静的再結晶が、最後の成形ステップの後に少なくとも650℃の熱処理温度で熱処理することによって行われる、項8~13のいずれか一項に記載の方法。
[項15]
成形体が静的再結晶ステップに続いて急冷される、項12~14のいずれか一項に記載の方法。
[項16]
項1~7のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを使用して製造される反射層であって、250℃でエージング後に<10μΩcmの抵抗率を有する反射層。
[項17]
項1~7のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを使用して製造される反射層であって、300℃でエージング後に35%以下の反射の低減を受ける反射層。
[項18]
項1~7のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを使用して製造される反射層であって、2未満の表面粗さ比RRを有する反射層。
【実施例
【0062】
本発明は以下の実施例に基づいてさらに詳細に記述される。
【0063】
[実施例]
I: 測定方法
本出願において参照されるパラメーターは、以下の測定方法によって決定される。SEM及び光学顕微鏡による光学的決定のため、サンプルは樹脂中に埋め込まれ、120~4000のより微細な粒径を使用して微切片にされ、最終ステップでダイヤモンドペーストで研磨される。その後、サンプル表面は25℃で60秒間にわたり過酸化水素/アンモニアでエッチングされた。
【0064】
平均粒径及びTi含有介在物の平均径
平均粒径Mは以下の数式に基づいて切断法(DIN EN ISO 643)によって決定された。
M=(L×p)/(N×m)
式中、
L: 測定する直線の長さ
p: 測定する直線の数
N: 切断された物体の数
m: 倍率
値は3×3=9の異なる測定点でそれぞれが3つの深さ、すなわち0mm、3mm及び6mmで決定された(この目的のため、対応する量の材料をターゲットから切り取った)。その後、9つの測定結果から算術平均が見出される。
【0065】
Ti含有介在物の平均径は同様に上述の切断法に従って決定された。
【0066】
粒径の変動
粒径Mから、以下2つの数式に従って変動を(値A1又は代替的には値B1として)決定することが可能である。
A1=(Mmax-Mave)/M ave ×100
B1=(Mave-Mmin)/M ave ×100
式中、
Mmaxは、すべての測定の粒径の最大値
Mminは、すべての測定の粒径の最小値
Maveは、すべての測定の平均粒径
【0067】
本出願の範囲内で、2つの値(A1又はB1)のうちより高い値が粒径の変動の上限を決定するために使用される。
【0068】
粒子の平均軸比(%単位)
粒子の平均軸比の決定のため、粒子の高さ(スパッタリングターゲットの厚み方向(すなわちスパッタリング表面に垂直な方向)の粒子の最大寸法)及び幅(厚み方向に垂直又はスパッタリング表面に平行な粒子の最大寸法)が決定される。粒子について、粒子幅に対する粒子高さの比率のそれぞれの値及び最終的にはこれらの比率の平均値が算出される。
【0069】
粒子の高さ及び幅を決定する手順は以下の通りである。スパッタリングターゲットからスパッタリング表面に垂直な区画が作製される。この区画上に、それぞれが少なくとも40個の粒子を有する少なくとも2つのランダムな表面領域が選択される。これらの粒子それぞれについて、それらの高さ(すなわち最大寸法)及びそれらの幅(すなわち最小寸法)が決定される。これはサイズスケールを有する光学顕微鏡(Olympus PMG3)によって行われた。高さと幅の比率の値は粒子それぞれについて見出される。これらの比率の値から平均値が算出される。
【0070】
Ti含有介在物の分布
Ti含有介在物の数はエッチングした微切片によってターゲットの4つの異なる位置で決定された。この目的のため、いわゆる点算法(DIN EN ISO 643)が用いられた。光学顕微鏡(Olympus PMG3)下の光学顕微鏡画像上で50×50μm2の表面領域中のチタンの塊の数が計数された。選択された倍率は500倍であった。粒子数は画像区画毎にμm2毎として変換され、10個の異なるサンプリング点にわたって標準偏差と共に算術平均として表された。
【0071】
最も強いX線回折反射に対する2番目に強いX線回折反射の強度比の変動
【0072】
Stoe社製複円測角器Stadi Pを使用して、透過モードでCuKα1放射線を用い、2θ10~105°の間で0.03°ずつ増やし、測定される表面領域は約10mm2で、スパッタリングターゲットについて5つの異なる位置でX線回折測定法が実施される。
【0073】
各X線回折測定について、2番目に強い回折反射の強度I2(ピーク高さに従う)及び最も強い回折反射の強度I1(ピーク高さ)が決定され、これらの値に基づいて強度比R=I2/I1が見出される。その後、5つの測定結果から算術平均が見出される。
【0074】
強度比の変動は以下の2つの数式(値A2又は代替的には値B2として)に従って決定され得る。
A2=(Rmax-Rave)/R ave ×100
B2=(Rave-Rmin)/R ave ×100
式中、
Rmaxは、強度比の最大値
Rminは、強度比の最小値
Raveは、強度比Rの平均値
【0075】
本出願の範囲内で、2つの値(A2又はB2)のうちより高い値がX線回折強度比の変動を決定するために使用される。
【0076】
スパッタリングによって堆積した層の光反射
300℃、30分、窒素下(Nabertherm N 150 furnace)にてエージングの前後での直接反射(入射角及び反射角は同じ)の測定をガラス基材上でPerkin Elmer Lambda 35を使用して実施した。
【0077】
スパッタリングによって堆積した層の層厚み
Ambios Technology XP-200等のスタイラス型表面計によって層厚みを測定した。カプトンテープで基材を部分的に被覆することによってサンプル作製が実施され、対応する被覆された領域はスパッタリングされない。被覆が除去された後、コーティングされた領域とコーティングされなかった領域との間に生成された段差の層厚みが確認され得る。測定デバイスのダイヤモンド針は振れによって層厚みを測定する。デバイスは供給された基準を使用して10μmに較正された。測定はサンプルの10箇所の異なる位置で繰り返され、平均値が見出された。
【0078】
シート抵抗の決定のためのエージング
異なる実施例のターゲットでスパッタリングされた層の熱負荷下でのエージング安定性又は耐凝集性を測定するため、35nmでコーティングされたガラス基材をNabertherm N 150炉内にて空気中でエージングした。100と300℃の間の温度で10°ずつ増やしてエージングを実施した。この目的のため、サンプルは温度ステップ毎に10分間にわたり、対応する温度まで予熱された炉内に向かう空気中に置いた。測定ステップは常に同じサンプルについて実施した。温度の一定性を達成するため、炉は最低でも30分間にわたり予熱し、その後にのみサンプルを炉内に配置した。サンプルを炉から除去した後、サンプルをAl2O3プレート上で冷却した。
【0079】
直接反射の決定のためのエージング
異なる実施例のターゲットでスパッタリングされた層のエージング安定性を測定するため、35nmでコーティングされたガラス基材をNabertherm N 150炉内にて窒素下で300°でエージングした。サンプルは予熱された炉内に配置し、30分間にわたりエージングした。サンプルを炉から除去した後、サンプルをAl2O3プレート上で空気中で冷却した。
【0080】
抵抗率
空気中でエージングされたサンプルのシート抵抗をNagy社製SD 510型4点プローブを使用して室温で10個のそれぞれのサンプルについて測定した。算術平均を決定した。層の抵抗率はシート抵抗に層厚みを乗じることによって算出し、単位μΩcmを有する。
【0081】
銀合金中のIn、Bi、Sb、Sn、Tiの量
銀合金中のこれらの元素のそれぞれの量はICP-OESによって決定し得る。
【0082】
II. スパッタリングターゲットの製造
【0083】
実施例1:0.5wt%のインジウム及び0.14wt%のチタンを含む銀合金で構成されるスパッタリングターゲットの製造
【0084】
それぞれが99.9%の純度を有する銀、インジウム及びチタンを所定の最終組成物に対応する量で真空誘導溶融炉内に配置し、1200℃、10-1mbar(初期重量:950kg)で溶融した。溶融物を鋼鉄のキャスティングモールド内に注ぎ込み、溶融物を固化させた。
【0085】
結果として得られた成形体は750℃まで予熱された(1時間)。表1に従って13の圧延ステップ中に成形を行った。圧延前及び各圧延ステップ後の成形体の厚み、並びにそれぞれの厚みの低減及び成形速度を、圧延ステップ1~4及び10~13を例として表1に示す。圧延ステップ1~13それぞれの成形速度は1.3~2.6s-1の範囲であった。成形度の合計は87%であった。
【0086】
【表1】
【0087】
すでに上記したように、成形速度は以下の数式に従って既知のように算出される。
【0088】
【数2】
【0089】
式中、
nは、圧延の回転速度、
H0は、圧延ステップの前の成形体の厚み、
r'=r/100であって、式中、r=圧延ステップ毎の成形体の厚みの低減、及び
Rは、圧延半径である。
【0090】
実施例1では、圧延ステップ1~13それぞれの成形速度については15rpmのローラー速度及び1050mmのローラー半径で1.3~2.6s-1という結果だった。それぞれの圧延ステップの成形度は5~18%の範囲であった。
【0091】
最終圧延ステップの後、約2000×2000×20のプレートが得られた。このプレートは再結晶のため800℃で2時間にわたり熱処理された。
【0092】
図1はエッチング後の銀合金の倍率500倍の光学顕微鏡画像を示す(スパッタリング表面に垂直な区画)。
【0093】
図2a及び2bはエッチング後の銀合金それぞれの異なる倍率のSEM画像を示す。Ti含有介在物は画像中で黒い斑点という形で明らかである。SEM画像が示すように、Ti含有介在物は非常に小さい平均径を有し、銀合金中に非常に均一に分布する。
【0094】
表2は銀合金の異なる格子平面及び標準材料としての銀のX線回折反射の強度を列挙している。
【0095】
【表2】
【0096】
銀合金は以下の特性を有していた。
平均粒径: 8μm
粒子の平均軸比: 41%
粒径の変動: 10.1%
最も強い回折反射に対する2番目に強い回折反射の強度比の変動: 19.5%
チタン介在物の平均値: 0.3+/-0.1介在物/μm2
【0097】
その後、スパッタリング実験のために1枚の圧延されたプレートが機械的に工作され(圧延機にかけられ)、インジウム(488×80×10mm3)で接着された。接着はインジウムで予め濡らされた銅プレート上で実施される。ターゲットの背部は背面Cr/NiV/Ag金属処理を施された。
【0098】
実施例2:0.17wt%のインジウム及び0.32wt%のチタンを含む銀合金で構成されるスパッタリングターゲットの製造
【0099】
実施例2は手順という点では実施例1と全く同じ形で製造したが、合金元素の量だけが異なる。
【0100】
図3はエッチング後の銀合金の倍率500倍の光学顕微鏡画像を示す(スパッタリング表面に垂直な区画)。
【0101】
図4a及び4bはエッチング後の銀合金それぞれの異なる倍率のSEM画像を示す。Ti含有介在物は画像中で明らかである。SEM画像が示すように、Ti含有介在物は非常に小さい平均径を有し、銀合金中のすべての粒子にわたり分布する。
【0102】
表3は銀合金の異なる格子平面及び標準材料としての銀のX線回折反射の強度を列挙している。
【0103】
【表3】
【0104】
銀合金は以下の特性を有していた。
平均粒径:13μm
粒子の平均軸比:51%
粒径の変動:30.5%
最も強い回折反射に対する2番目に強い回折反射の強度比の変動:14.9%
チタン介在物の平均値:0.5+/-0.06介在物/μm2
【0105】
最終ステップとして、実施例1のようにプレートは機械的に工作され、インジウムで結合された。
【0106】
比較例1:0.5wt%のインジウム及び0.14wt%のチタンを含む銀合金で構成されるスパッタリングターゲットの製造
【0107】
比較例1は手順という点では実施例1のように作製したが、以下の変更点がある。
実施例1とは異なり、圧延は室温で21段階を使用して実施した。
【0108】
圧延前及び各圧延ステップ後の成形体の厚み、並びにそれぞれの厚みの低減及び成形速度を、圧延ステップ1~4及び18~21を例として表4に示す。
【0109】
【表4】
【0110】
最終圧延ステップの後、約2000×2000×20のプレートが得られた。このプレートは再結晶のため600℃で2時間にわたり熱処理された。
【0111】
図5はエッチング後の銀合金の倍率500倍の光学顕微鏡画像を示す。
【0112】
銀合金は以下の特性を有していた。
平均粒径:56μm
粒子の平均軸比:<25%
粒径の変動:>35%
【0113】
最終ステップとして、スパッタリングのために実施例1のようにプレートは機械的に工作され、インジウムで結合された。
【0114】
III. 層のスパッタリング、層の特性
上記の実施例及び比較例から488×80×10mm3の寸法の製造されたスパッタリングターゲットを使用して、低ナトリウムガラス基材上に35nmのコーティングをスパッタリングした(直流500V、0.2A、100Wで)。さらに、追加の比較例2及び3を選択した。これらには、純銀(比較例2)及び0.43wt%のインジウム含有量を有する銀インジウム合金(AgIn0.43、比較例3)を選択した。両方の場合で、製造は比較例1と同様にして実施した。比較例2及び3のターゲットの粒径は、ランダムに評価され、5~80μmの間の範囲であった。粒子は等軸であって、69%~88%までの間の軸比を有した。
【0115】
実施例1について、層はガラス基材の10箇所の点で測定され、2%未満の層厚みの差異を示した。ターゲットのアーク放電頻度は、1μarc/hを大幅に下回った。
【0116】
比較例1のスパッタリングターゲットも同様にコーティングをガラス基材上にスパッタリングするために使用した(直流500V、0.2A、100Wで)。層はガラス基材の10箇所の点で測定され、8%を超える層厚みの差異を示した。比較例1のアーク放電頻度は、50μarc/hを超えていた。
【0117】
実施例2(AgIn0.71Ti0.32)並びに比較例2(純銀)及び3(AgIn0.43、チタンを含有しない)のスパッタリングターゲットで得られたコーティングについて、エージング温度に応じたシート抵抗を測定した。結果は表5に示す。
【0118】
温度の関数としての抵抗率を図6にも示す。図6の凡例から導かれるように、この図はAg(比較例2)、AgIn0.43Ma%(比較例3)及びAgIn0.17Ti0.32Ma%(実施例2)のエージング温度に応じた抵抗率を示している。
【0119】
抵抗率は層のエージング(すなわち熱負荷下)後の凝集傾向の尺度である。本発明のスパッタリングターゲットで生成されたコーティングは耐凝集性について非常に顕著な改善を示す。凝集及び/又は10μΩcmを超える値までの抵抗率の増大は、270℃を超える温度でようやく現れた。
【0120】
【表5】
【0121】
実施例1及び2並びに比較例3のスパッタリングターゲットで製造され、上記の記載に従って300℃で熱処理(エージング)を受けたコーティング上の可視光の波長範囲(380~780nm)にわたる反射を決定した。
【0122】
結果を図7に示す。図7の凡例から導かれるように、この図は以下のスパッタリングされたコーティングについての可視光の波長範囲(380~780nm)にわたる反射を示す。
AgIn0.17Ti0.32エージング前(上の点線)
AgIn0.43エージング前(上の破線)
AgIn0.50Ti0.14エージング前(上の実線)
AgIn0.17Ti0.32エージング後(下の点線)
AgIn0.43エージング後(下の破線)
AgIn0.50Ti0.14エージング後(下の実線)
【0123】
表6はそれぞれのコーティングの300℃での熱処理の前後における550nmでの反射値(%単位)を示す。
【0124】
ここでも同様に、熱処理の結果としての反射の低減は凝集の増大を示す。実施例1及び2の本発明のスパッタリングターゲットのコーティングと比較して、熱処理による大幅により劇的な反射の低減が比較例3のスパッタリングターゲットで得られたコーティングについて観察することができる。
【0125】
【表6】
【0126】
実施例1のスパッタリングターゲット及び比較例3のスパッタリングターゲットで堆積したコーティングについて300℃での熱処理前及び熱処理後の表面粗さを決定した。結果を表7に示す。
【0127】
Bruker Dimension 3100を使用して原子間力顕微鏡法(AFM)によって測定された堆積層の表面粗さについて、両方のコーティングについて約1.1nmという同一の初期値で300℃でのエージング後、本発明に記載のスパッタリングターゲットで得られた層は粗さが1.3nmまでわずかに増大しただけだったが、比較例3のスパッタリングターゲットで製造されたコーティングの粗さ値は2倍を超えたことが表7から明らかである。表面粗さ比RR=Ran/Rav(式中、Rav=エージング前のRa、Ran=300℃でのエージング後のRa)もこのことを非常に明確に示す。
【0128】
【表7】
【0129】
表8における個々の実施例並びにそれらのスパッタリング及び層の特性の要約的比較は、非常に一定な層厚みを有する反射コーティング等、本発明のスパッタリングターゲットについて特に有利な特性を示す。均一かつ微粒子状のチタンの分布と併せて、本発明のターゲットのアーク放電頻度を非常に低く保つことも可能である。
【0130】
【表8】
図1
図2a
図2b
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7