(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】病的な筋肉減少および筋力低下の処置のためのNOPE
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20220624BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220624BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
A61K38/17 ZNA
A61P21/00
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2018551865
(86)(22)【出願日】2017-04-24
(86)【国際出願番号】 IB2017052345
(87)【国際公開番号】W WO2017187319
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-04-20
(32)【優先日】2016-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507150079
【氏名又は名称】ファイブ プライム セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】アーロン カーティス ヒンケン
(72)【発明者】
【氏名】エイミー ダブリュー スー
(72)【発明者】
【氏名】ジェニー パワーズ
(72)【発明者】
【氏名】ワーレン ジェームズ ロック
(72)【発明者】
【氏名】アラン ジェームズ ラッセル
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0102551(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0003222(US,A1)
【文献】国際公開第2012/129237(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/17
A61P 21/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチド又はNOPE ECD融合分子を含む、筋変性障害を処置するための医薬
であって、NOPE ECDポリペプチドまたはNOPE ECD融合分子がSEQ ID NO:1のアミノ酸25~620を含む、医薬。
【請求項2】
前記筋変性障害は、筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー、多発性筋炎、および皮膚筋炎から選択される、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
前記筋変性障害は筋ジストロフィーである、請求項2に記載の医薬。
【請求項4】
前記筋ジストロフィーは、デュシエンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー(福山)、エメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、および顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーから選択される、請求項3に記載の医薬。
【請求項5】
前記筋変性障害は筋緊張性ジストロフィーである、請求項2に記載の医薬。
【請求項6】
前記筋緊張性ジストロフィーは、筋緊張性ジストロフィーI型、筋緊張性ジストロフィーII型、および先天性筋緊張症から選択される、請求項5に記載の医薬。
【請求項7】
NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチド又はNOPE ECD融合分子を含む、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するための医薬
であって、NOPE ECDポリペプチドまたはNOPE ECD融合分子がSEQ ID NO:1のアミノ酸25~620を含む、医薬。
【請求項8】
ALSを処置することには、肉体的衰えを低減させること、努力肺活量を改善させること、努力肺活量の低下を緩やかにすること、
対象のALS機能評価スケール(ALSFRS)のスコアの低下を緩やかにすること、前記対象のALSFRSスコアを改善させること、人生を変えるような事象の発生を遅らせること、および前記対象の生存期間を改善させることからなる群から選択される、ALSの進行を遅らせることの少なくとも1つ、および/または胃瘻(PEG)の設置を遅らせることが含まれる、請求項7に記載の医薬。
【請求項9】
NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチド又はNOPE ECD融合分子を含む、I型遅筋量を増加させるまたは
除脂肪量を増加させるための医薬であって、NOPE ECDポリペプチドまたはNOPE ECD融合分子がSEQ ID NO:1のアミノ酸25~620を含む、医薬。
【請求項10】
前記NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドはNOPE ECD融合分子である、請求項1~9の何れか一項に記載の医薬。
【請求項11】
前記NOPE ECDポリペプチドまたは前記NOPE ECD融合分子は、100nM未満のK
Dでミオスタチンと結合することが可能である、および/またはSMAD2/3のミオスタチン媒介性活性を阻害することが可能である、請求項1~10の何れか一項に記載の医薬。
【請求項12】
前記NOPE ECD融合分子は、NOPE ECDポリペプチドとFcを含む、請求項10に記載の医薬。
【請求項13】
前記NOPE ECD融合分子は、SEQ ID NO:17の配列を含む、請求項12に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
筋消耗および他の障害を、Neighbor of PuncE11(NOPE)、例えば、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドおよびNOPE ECD融合分子で処置する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
骨格筋減少および身体虚弱は、床上安静および加齢などの不使用、ALSおよび脊髄損傷などの神経筋損傷、ならびにがん、糖尿病、および心不全を含む慢性疾患という多くの状態に共通の特徴である。筋肉減少は身体機能を低下させるが、患者の予後にも悪い影響を与え、死亡率も上昇させる(Cohen et al.Nature Rev Drug Disc 2015.14,58-74)。そのため、筋肉量、筋力、および筋肉機能の何れか一つまたはそれらの組み合わせの低下と関連する疾患の処置または予防のための有効な治療に対するニーズが存在する。
【0003】
トランスフォーミング増殖因子β(TGF-beta)のスーパーファミリーには、配列エレメントと構造モチーフが共通する種々の分泌増殖因子が含有される。増殖分化因子(GDF-8)としても知られるミオスタチンは、TGF-βスーパーファミリーのメンバーであり、哺乳類に高度に保存されている。ミオスタチンは、骨格筋量の負の制御因子として特徴付けられており(McPherron AC,Lawler AM,Lee SJ.1997.Nature 387(6628):83-90)、ミオスタチンの遺伝子不活性化または中和は、発達時および成人期の筋量の増加に関連する(Schuelke et, N Engl J Med 2004,350:2682-8およびLee SJ Annu Rev Cell Dev Biol.2004;20:61-86)。さらに、ミオスタチンの循環レベルは、筋消耗の多くの状態で増加する(Han HQ,Mitch WE.Curr Opin Support Palliat Care 2011 Dec;5(4):334-41およびElkina et al.J Cachexia Sarcopenia Muscle 2011;2:143-151)。筋消耗および筋力低下という障害において、ミオスタチンを阻害するアプローチが治療的戦略として可能性を示しており、(Curr Opin Drug Discov Devel.2008 Jul;11(4):487-94.およびInt J Biochem Cell Biol.2013 Oct;45(10):2333-47.に概説されるように)薬理学的遮断が癌性悪液質および腎不全を含む疾患の種々の動物モデルにおいて、筋肉減少の予防または反転および寿命の延長を示している。しかしながら、承認された治療は現在なく、そのため、ニーズは残っている。
【0004】
NOPEは、ミオスタチンおよび近縁のファミリーメンバーGDF11に直接結合し中和するタンパク質であり、骨格筋量を増大させる新規のアプローチを提供する。これは、筋消耗と関連する疾患の処置または予防のための有効な治療を提供し得る。
【発明の概要】
【0005】
一部の実施形態では、筋消耗のまたは筋消耗のリスクがある対象において、筋消耗を低減させるかまたは遅らせる方法であって、前記対象に有効量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを投与するステップを含む方法が提供される。一部の実施形態では、対象は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、末期腎不全、慢性心不全、がん、重症疾患ミオパチー、重症疾患多発ニューロパチー、脳卒中、脊髄損傷、脊髄性筋委縮症、多発性硬化症、進行性多発性白質脳症、脳脊髄炎、橋中心髄鞘崩壊症、副腎白質ジストロフィー、ウォラー変性、ハンチントン病、パーキンソン病、外傷性脳損傷、アレキサンダー病、ペリツェウス・メルツバッハー病、グロボイド細胞白質ジストロフィー、およびサルコペニアから選択される少なくとも1つの状態を有する。
【0006】
一部の実施形態では、筋損傷を有する対象に有効量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを投与するステップを含む、筋損傷を処置する方法が提供される。一部の実施形態では、筋損傷は、手術関連の筋損傷、外傷性筋損傷、作業関連の骨格筋損傷、およびオーバートレーニング関連の筋損傷から選択される。
【0007】
一部の実施形態では、筋変性障害のある対象に、有効量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを投与するステップを含む、筋変性障害を処置する方法が提供される。一部の実施形態では、筋変性障害は、筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー、多発性筋炎、および皮膚筋炎から選択される。一部の実施形態では、筋変性障害は、筋ジストロフィーである。一部の実施形態では、筋ジストロフィーは、デュシエンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー(福山)、エメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、および顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーから選択される。一部の実施形態では、筋変性障害は、筋緊張性ジストロフィーである。一部の実施形態では、筋緊張性ジストロフィーは、筋緊張性ジストロフィーI型、筋緊張性ジストロフィーII型、および先天性筋緊張症から選択される。
【0008】
種々の実施形態では、処置には、筋消耗の進行を遅らせること、対象の6分間歩行距離(6MWD)を改善させること、肉体的衰えを低減させること、人生を変えるような事象の発生を遅らせること、非依存性を改善させること、入院を減少させること、および介護付き生活環境の必要性を遅らせることの少なくとも1つが含まれる。一部の実施形態では、対象の6MWDは、12か月間の処置後に、少なくとも10メートル、または少なくとも20メートル、または少なくとも30メートル伸びる。一部の実施形態では、本方法は、車いすの必要性を遅らせることおよび/または人工呼吸器の設置を遅らせることを含む。
【0009】
一部の実施形態では、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の対象に、有効量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを投与するステップを含む、ALSを処置する方法が提供される。一部の実施形態では、ALSを処置することには、ALSの進行を遅らせること、肉体的衰えを低減させること、努力肺活量を改善させること、努力肺活量の低下を緩やかにすること、対象のALS機能評価スケール(ALSFRS)のスコアの低下を緩やかにすること、対象のALSFRSスコアを改善させること、人生を変えるような事象の発生を遅らせること、および対象の生存期間を改善させることの少なくとも1つが含まれる。一部の実施形態では、本方法は、気管開口術を遅らせることおよび/または胃瘻(PEG)の設置を遅らせることを含む。
【0010】
種々の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドの投与が、I型遅筋量を増加させ、および/または体脂肪量を減少させる。
【0011】
一部の実施形態では、対象に有効量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを投与するステップを含む、I型遅筋量を増加させる方法が提供される。
【0012】
一部の実施形態では、対象に有効量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを投与するステップを含む、体脂肪量を減少させる方法が提供される。
【0013】
一部の実施形態では、筋消耗のまたは筋消耗のリスクがある対象において、筋消耗を低減させるかまたは遅らせるための、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドの使用が提供される。一部の実施形態では、対象は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、末期腎不全、慢性心不全、がん、重症疾患ミオパチー、重症疾患多発ニューロパチー、脳卒中、脊髄損傷、脊髄性筋委縮症、多発性硬化症、進行性多発性白質脳症、脳脊髄炎、橋中心髄鞘崩壊症、副腎白質ジストロフィー、ウォラー変性、ハンチントン病、パーキンソン病、外傷性脳損傷、アレキサンダー病、ペリツェウス・メルツバッハー病、グロボイド細胞白質ジストロフィー、およびサルコペニアから選択される少なくとも1つの状態を有する。
【0014】
一部の実施形態では、対象の筋損傷を処置するための、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドの使用が提供される。一部の実施形態では、筋損傷は、手術関連の筋損傷、外傷性筋損傷、作業関連の骨格筋損傷、およびオーバートレーニング関連の筋損傷から選択される。
【0015】
一部の実施形態では、対象の筋変性障害を処置するための、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドの使用が提供される。一部の実施形態では、筋変性障害は、筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー、多発性筋炎、および皮膚筋炎から選択される。一部の実施形態では、処置には、筋ジストロフィーの進行を遅らせること、対象の6分間歩行距離(6MWD)を改善させること、肉体的衰えを低減させること、人生を変えるような事象の発生を遅らせること、非依存性を改善させること、入院を減少させること、および介護付き生活環境の必要性を遅らせることの少なくとも1つが含まれる。
【0016】
一部の実施形態では、対象の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するための、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドの使用が提供される。一部の実施形態では、ALSを処置することには、ALSの進行を遅らせること、肉体的衰えを低減させること、努力肺活量を改善させること、努力肺活量の低下を緩やかにすること、対象のALS機能評価スケール(ALSFRS)のスコアの低下を緩やかにすること、対象のALSFRSスコアを改善させること、人生を変えるような事象の発生を遅らせること、および対象の生存期間を改善させることの少なくとも1つが含まれる。一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドの投与は、I型遅筋量を増大させ、および/または体脂肪量を減少させる。
【0017】
一部の実施形態では、対象のI型遅筋量を増加させるための、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドの使用が提供される。一部の実施形態では、対象の体脂肪量を減少させるための、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドの使用が提供される。一部の実施形態では、対象の貧血および/またはサラセミアを処置するための、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドの使用が提供される。
【0018】
種々の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、NOPE ECD融合分子である。一部の実施形態では、NOPE ECDポリペプチドまたはNOPE ECD融合分子は、100nM未満のKDでミオスタチンと結合することが可能である。一部の実施形態では、NOPE ECDポリペプチドまたはNOPE ECD融合分子は、SMAD2/3のミオスタチン媒介性活性を阻害する。一部の実施形態では、NOPE ECDポリペプチドまたはNOPE ECD融合分子は、SEQ ID NO:1のアミノ酸25~620を含む。一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、NOPE ECD融合分子である。一部の実施形態では、NOPE ECD融合分子は、NOPE ECDポリペプチドと融合パートナーとを含む。一部の実施形態では、融合パートナーはFcである。一部の実施形態では、NOPE ECD融合分子は、SEQ ID NO:19の配列を含む。
【0019】
本明細書に記載の任意の実施形態またはそれらの任意の組み合わせは、本明細書に記載の発明の何れかおよび全ての方法に該当する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】シグナル配列を有するヒトおよびマウスのNOPE細胞外ドメインのアライメントを示す図である。
【
図2】本明細書に記載の実験で用いたNOPE細胞外ドメイン(ECD)-FC構築物の構造を示す図である。
【
図3】
図3A~Dは、実施例2に記載する、(A、B)ハイドロダイナミック尾静脈遺伝子導入によりNOPE ECD-FCを投与したマウスにおける除脂肪量の変化と、(C、D)精製NOPE ECD-FCタンパク質を投与したマウスにおける除脂肪量の変化を示す図である。TA=前脛骨筋;EDL=長指伸筋;gastroc=腓腹筋。
【
図4】
図4A~Eは、マウスNOPE ECD-FCはミオスタチンには結合するが(A)、プロミオスタチンには結合しないこと(B);ヒトNOPE ECD-FCはミオスタチンに結合すること(C);およびActR2b-FC、ミオスタチン阻害剤がミオスタチンに結合すること(D)を示す図である。実施例3に記載する、各タンパク質のミオスタチンに対する会合定数、解離定数、および親和性を(E)に示す。
【
図5】実施例4に記載する、NOPE ECD-FC構築物によるミオスタチンの阻害を示す図である。
【
図6】実施例4に記載する、ハイドロダイナミック尾静脈遺伝子導入によりある特定のNOPE ECD-FC構築物を投与したマウスにおける、除脂肪量の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、NOPEがミオスタチンおよび他のリガンドと相互作用し、NOPE細胞外ドメイン(ECD)-FC構築物が、ハイドロダイナミック尾静脈遺伝子導入によりまたは精製タンパク質として投与された場合に、マウスの除脂肪量を増加させることを見出した。そのため、NOPE ECDまたはその変種などのNOPEの投与は、筋損傷および/または筋消耗を伴う状態に対する有効な処置になり得る。
【0022】
本明細書で使用するセクションの見出しは構成のみを目的としており、記載する主題を限定するものとして解釈すべきではない。
【0023】
定義
別途定義がない限り、本発明に関して使用する科学技術用語は、当業者により一般的に理解される意味を有する。さらに、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単数形の用語は複数を含み、複数形の用語は単数形の語を含む。
【0024】
組換えDNA、オリゴヌクレオチド合成、組織培養、および形質転換(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション)、酵素反応、および精製技法に関して使用する例示的技法は、当技術分野で既知である。多くの斯かる技法および手順は、例えば、とりわけ、Sambrook et al.Molecular Cloning:A Laboratory Manual(3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001))に記載されている。さらに、化学合成、化学解析、医薬的調製、製剤化、および送達、ならびに患者の処置についての例示的技法も、当技術分野で既知である。
【0025】
本出願では、「または(or)」の使用は、特に明記しない限り、「および/または」を意味する。多数の従属請求項の文脈では、「または」の使用は、複数の先行する独立または従属請求項を択一的にのみ言及する。別段の指示がない限り、用語「含む(include)」は、「含むが、限定されるわけではない」と同じ意味であり、用語「含む(includes)」は、「含むが、限定されるわけではない」と同じ意味であり、用語「含み(including)」は、「限定されるわけではないが、~を含み」と同じ意味である。同様に、用語「など」は、用語「限定されるわけではないが、~など」と同じ意味である。また、「エレメント」または「構成要素」などの用語は、特に記載のない限り、1つのユニットを含むエレメントおよび構成要素と、複数のサブユニットを含むエレメントおよび構成要素の両方を包含する。
【0026】
本開示に従って利用する場合、以下の用語は、別段の指示がない限り、以下の意味を有すると理解される:
【0027】
用語「核酸分子」および「ポリヌクレオチド」は区別なく使用され、ヌクレオチドのポリマーを指す。斯かるヌクレオチドポリマーは、天然のおよび/または非天然のヌクレオチドを含有し得、該ヌクレオチドポリマーとしては、限定するわけではないが、DNA、RNA、PNAが挙げられる。「核酸配列」は、核酸分子またはポリヌクレオチドを含むヌクレオチドの線形配列を指す。
【0028】
用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は区別なく使用されて、アミノ酸残基のポリマーを指し、最小長さに限定されるわけではない。斯かるアミノ酸残基のポリマーは、天然または非天然のアミノ酸残基を含有し得、該アミノ酸残基のポリマーとしては、限定するわけではないが、アミノ酸残基のペプチド、オリゴペプチド、二量体、三量体、および多量体が挙げられる。完全長のタンパク質および変異体タンパク質の両方が、その定義に包含される。用語には、また、ポリペプチドの発現後修飾、例えば、グリコシル化、シアリル化、アセチル化、リン酸化、および同類のものが含まれる。さらに、本発明では、「ポリペプチド」は、天然配列に対する欠失、付加、および置換(概して、天然で保存的である)などの修飾を含むタンパク質を指す。ただし、前記タンパク質が所望の活性を維持する場合に限る。これらの修飾は部位特異的変異誘発による場合のように意図的である場合も、タンパク質を生成する宿主の変異またはPCR増幅に起因するエラーによる場合のように偶発的である場合もある。
【0029】
「天然配列」ポリペプチドには、天然で見られるポリペプチドと同じアミン酸配列のポリペプチドが含まれる。したがって、天然配列ポリペプチドは、任意の哺乳類に由来する、天然に生じるポリペプチドのアミノ酸配列を有し得る。斯かる天然配列ポリペプチドは、自然から単離することも、組換えまたは合成手段により生産することも可能である。用語「天然配列」ポリペプチドは、特に、天然に生じる切断型または分泌型のポリペプチド(例えば細胞外ドメイン配列)、天然に生じる変異型(例えば、選択的スプライシング型)ポリペプチド、および天然に生じるポリペプチド対立遺伝子変異体を包含する。
【0030】
ポリペプチド「変異体」は、配列を整列させ、必要であればギャップを導入して最大配列同一性パーセントを達成した後の、任意の保存的置換を配列同一性の一部として考慮しない、SEQ ID NO:17の天然配列ポリペプチドと少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性を有する生物学的に活性なポリペプチドを意味する。斯かる変異体としては、例えば、1つまたは複数のアミノ酸残基がポリペプチドのN末端またはC末端に付加された、または欠失したポリペプチドが挙げられる。一部の実施形態では、変異体は、少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性を有するだろう。一部の実施形態では、変異体は、少なくとも約90%のアミノ酸配列同一性を有するだろう。一部の実施形態では、変異体は、天然配列ポリペプチドと少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性を有するだろう。一部の実施形態では、変異体は、天然配列ポリペプチドと少なくとも約97%のアミノ酸配列同一性を有するだろう。
【0031】
本明細書で使用する場合、ペプチド、ポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」および「相同性」は、配列を整列させ、必要であればギャップを導入して最大配列同一性パーセントを達成した後の、任意の保存的置換を配列同一性の一部として考慮しない、特定のペプチドまたはポリペプチドの配列におけるアミノ酸残基と同一である、候補配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージとして定義する。アミノ酸配列同一性パーセントを求めることを目的とした整列は、当技術分野内の種々の方法で、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMEGALIGNTM(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して、達成することが可能である。当業者は、比較する配列の完全長にわたる最大アライメントを達成するのに必要な任意のアルゴリズムを含む、アライメントを測定するための適切なパラメータを求めることが可能である。
【0032】
用語「neighbor of punc E11」および「NOPE」には、別段の指示がない限り、霊長類(例えば、ヒト)ならびにげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳類を含む、任意の脊椎動物源からの任意の天然NOPEが含まれる。該用語には、完全長の未処理のNOPE、および、細胞でのプロセシングから生じる何れかの形態のNOPEか、または、≦1μM、≦100nM、または10nMの親和性(Kd)でミオスタチンと特異的に結合する機能を維持するその任意の変異体が含まれる。該用語は、また、天然に生じるNOPEの変異体、例えば、スプライスバリアントまたは対立遺伝子変異体を包含する。一部の実施形態では、NOPEは、SEQ ID NO:1(前駆体、シグナルペプチドあり)またはSEQ ID NO:2(成熟、シグナルペプチドなし)のアミノ酸配列を有するヒトNOPEである。非限定的で例示的な非ヒトNOPEは、SEQ ID NO:3(前駆体、シグナルペプチドあり)またはSEQ ID NO:4(成熟、シグナルペプチドなし)のアミノ酸配列を有するマウスNOPEである。
【0033】
用語「NOPE細胞外ドメイン」(「NOPE ECD」)には、完全長NOPE ECDとNOPE ECD変異体が含まれ、シグナルペプチドを有するまたは有さない、細胞内ドメイン及び膜貫通ドメインを欠くNOPEポリペプチドを指す。一部の実施形態では、NOPE ECDは、ミオスタチン媒介性シグナル伝達を阻害する。用語「完全長NOPE ECD」は、本明細書で使用する場合、細胞外ドメインの最後のアミノ酸まで伸長し、N末端シグナルペプチドを含む場合も含まない場合もあるNOPE ECDを指し、細胞外ドメインに天然のスプライスバリアントを含む。一部の実施形態では、完全長ヒトNOPE ECDは、SEQ ID NO:5(シグナルペプチドあり)またはSEQ ID NO:6(シグナルペプチドなし)のアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、完全長マウスNOPE ECDは、SEQ ID NO:11(シグナルペプチドあり)またはSEQ ID NO:12(シグナルペプチドなし)のアミノ酸配列を有する。本明細書で使用する場合、用語「NOPE ECD変異体」は、アミノ酸の付加、欠失、および置換を含有し、ミオスタチンに結合する機能を維持しているNOPE ECDを指す。斯かる変異体は、親NOPE ECDと、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、または99%同一であり得る。2つのポリペプチドの同一性%は、類似性を求めるためのデフォルト設定でBestfitプログラムを使用して、2つのポリペプチドのアミノ酸配列を比較することにより求められる類似性スコアにより測定することが可能である。Bestfitは、2つの配列間で最良の類似セグメントを見つけるために、Smith and Waterman,Advances in Applied Mathematics 2:482-489(1981)の局地的相同性アルゴリズムを使用する。
【0034】
用語「NOPE ECD融合分子」は、NOPE ECDと、1つまたは複数の「融合パートナー」とを含む分子を指す。一部の実施形態では、NOPE ECDと融合パートナーとは共有結合(「融合」)している。融合パートナーもポリペプチドである場合(「融合パートナーポリペプチド」)、NOPE ECDと融合パートナーポリペプチドとは、連続アミノ酸配列の一部であり得、融合パートナーポリペプチドは、NOPE ECDのN末端またはC末端の何れかに連結し得る。斯かる場合、NOPE ECDおよび融合パートナーポリペプチドは、NOPE ECDおよび融合パートナーポリペプチドの両方をコードするコード配列から単一ポリペプチド(「NOPE ECD融合タンパク質」)として翻訳され得る。一部の実施形態では、NOPE ECDと融合パートナーとは、他の手段、例えば、ペプチド結合以外の化学結合などを介して共有結合する。ポリペプチドを他の分子(例えば、融合パートナー)に共有結合させる多くの既知の方法を使用することができる。他の実施形態では、NOPE ECDと融合パートナーとは「リンカー」を介して融合し得、該リンカーは、少なくとも1つのアミノ酸または化学部分を含む。
【0035】
一部の実施形態では、NOPE ECDポリペプチドと融合パートナーとは、非共有結合的に連結している。一部の斯かる実施形態では、それらは、例えば、結合対を使用して連結し得る。例示的な結合対としては、限定するわけではないが、ビオチンとアビジンまたはストレプトアビジン、抗体とその抗原などが挙げられる。
【0036】
例示的な融合パートナーとしては、限定するわけではないが、イムノグロブリンFcドメイン、アルブミン、ポリエチレングリコールが挙げられる。非限定的で例示的なFcドメインのアミノ酸配列を、SEQ ID NO:26~28に示す。
【0037】
一部の実施形態では、NOPE ECDアミノ酸配列は、非ヒト哺乳類のそれに由来する。斯かる実施形態では、NOPE ECDアミノ酸配列は、限定するわけではないが、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスターを含む)、ウサギ、サル、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、哺乳類実験動物、哺乳類家畜、スポーツ用哺乳動物、および哺乳類ペットを含む哺乳類に由来し得る。非ヒトNOPE ECDを組み込んだNOPE ECD融合分子は、「非ヒトNOPE ECD融合分子」という。ヒトNOPE ECD融合分子と同様に、非ヒト融合分子は融合パートナー、任意選択的なリンカー、およびNOPE ECDを含み得る。斯かる非ヒト融合分子は、また、シグナルペプチドを含み得る。「非ヒトNOPE ECD変異体」は、アミノ酸の付加、欠失、および置換を含有し、配列が由来する動物のミオスタチンに結合する能力を維持しているNOPE ECDを指す。
【0038】
用語「ミオスタチン」および「MSTN」は、成熟ミオスタチンを指し、これは、ヒトミオスタチンの一部の実施形態では、SEQ ID NO:20の配列を有する。非限定的で例示的なマウスミオスタチン配列を、SEQ ID NO:23に示す。用語「プロミオスタチン」は、シグナル配列を有するまたは有さないミオスタチンプロペプチドを指し、これは、ヒトプロミオスタチンの一部の実施形態では、SEQ ID NO:21(シグナル配列あり)またはSEQ ID NO:22(シグナル配列なし)の配列を有する。非限定的で例示的なマウスプロミオスタチンは、SEQ ID NO:24(シグナル配列あり)またはSEQ ID NO:25(シグナル配列なし)の配列を有する。
【0039】
用語「ミオスタチン活性」またはミオスタチンの「生物活性」には、本明細書で使用する場合、ミオスタチンの任意の生物学的作用が含まれる。一部の実施形態では、ミオスタチン活性には、SMAD2/3を活性化するミオスタチンの機能が含まれる。SMAD2/3のミオスタチン活性化を求める非限定的で例示的なアッセイについては、実施例4に記載する。
【0040】
例示的な実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)は、NOPEのミオスタチンに対する検出可能な結合量を、少なくとも50%減少させる。一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、NOPEのミオスタチンに対する検出可能な結合量を、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%減少させる。
【0041】
用語「阻害」または「阻害する」は、任意の表現型特徴の減少もしくは停止、または、その特徴の発生率、程度、もしくは可能性の減少もしくは停止を指す。一部の実施形態では、「低減させる」または「阻害する」により、20%以上の減少を引き起こす機能を意味する。別の実施形態では、「低減させる」または「阻害する」は、50%以上の減少を引き起こす機能を意味する。さらに別の実施形態では、「減少させる」または「阻害する」により、75%、85%、90%、95%、またはそれを超える全体的な減少を引き起こす機能を意味する。
【0042】
一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドが、例えば、本明細書の実施例4に記載するアッセイを使用して、10nM未満のIC50でSMAD2/3活性を低減させる場合、該NOPE細胞外ドメインポリペプチドは「ミオスタチン媒介性シグナル伝達を阻害する」と考える。一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、例えば、本明細書の実施例4に記載するアッセイを使用して、5nM未満、または3nM未満、または2nM未満、または1nM未満のIC50でSMAD2/3活性を低減させる。
【0043】
用語「シグナルペプチド」は、哺乳類細胞からのポリペプチドの分泌を促進する、ポリペプチドのN末端に位置するアミノ酸残基の配列を指す。シグナルペプチドは、哺乳類細胞からポリペプチドが輸送される際に切断され、成熟タンパク質を形成し得る。シグナルペプチドは天然でも合成でもよく、シグナルペプチドはそれが付着するタンパク質に対し非相同的でも相同的でもよい。例示的なシグナルペプチドとしては、限定するわけではないが、NOPEおよびミオスタチンのシグナルペプチドが挙げられる。例示的なシグナルペプチドには、また、非相同的タンパク質からのシグナルペプチドも含まれる。「シグナル配列」は、シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を指す。一部の実施形態では、NOPE ECDポリペプチドまたはNOPE ECD融合分子は、シグナルペプチドを欠く。一部の実施形態では、NOPE ECDポリペプチドまたはNOPE ECD融合分子は、少なくとも1つのシグナルペプチドを含み、これは、天然のNOPEシグナルペプチドの場合も非相同的シグナルペプチドの場合もある。
【0044】
用語「ベクター」は、宿主細胞において増殖し得るクローン化ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチド(複数)を含有するように操作することができる、ポリヌクレオチドを説明するために使用する。ベクターは、以下のエレメントのうち1つまたは複数を含み得る:複製の開始点、対象のポリペプチドの発現を制御する1つもしくは複数の制御配列(例えば、プロモーターおよび/もしくはエンハンサーなど)、ならびに/または1つもしくは複数の選択可能なマーカー遺伝子(例えば、抗生物質抵抗性遺伝子およびβ-ガラクトシダーゼなどの比色分析アッセイで使用することができる遺伝子など)。用語「発現ベクター」は、宿主細胞において対象のポリペプチドを発現させるために使用するベクターを指す。
【0045】
「宿主細胞」は、ベクターまたは単離ポリヌクレオチドのレシピエントであり得る、またはレシピエントであった細胞を指す。宿主細胞は、原核細胞または真核細胞であり得る。例示的な真核細胞としては、霊長類または非霊長類動物細胞などの哺乳類細胞;イーストなどの真菌細胞;植物細胞、および昆虫細胞が挙げられる。非限定的で例示的な哺乳類細胞としては、限定するわけではないが、NSO細胞、PER.C6(登録商標)細胞(Crucell)、ならびに293およびCHO細胞、およびそれらの誘導体、例えばそれぞれ293-6E細胞およびDG44細胞が挙げられる。
【0046】
本明細書で使用する場合、用語「単離された」は、天然では、典型的には共に見出される少なくともいくつかの成分から分離された、または、典型的には共に産生される少なくともいくつかの成分から分離された分子を指す。例えば、ポリペプチドが、該ポリペプチドを産生する細胞の少なくともいくつかの成分から分離されている場合、「単離された」という。ポリペプチドが、発現後に細胞により分泌される場合、該ポリペプチドを産生した細胞から、該ポリペプチドを含有する上清を物理的に分離することは、ポリペプチドの「単離」と考える。同様に、ポリヌクレオチドが、より大きなポリヌクレオチドの一部(例えば、DNAポリヌクレオチドの場合には、ゲノムDNAもしくはミトコンドリアDNAなど)ではない場合(天然では、前記ポリヌクレオチドは、典型的には、そのより大きいポリヌクレオチドの中に見出される)、または、例えば、RNAポリヌクレオチドの場合は、そのポリヌクレオチドを産生した細胞の少なくとも一部の成分から分離されている場合に、「単離された」という。したがって、宿主細胞内のベクターに含有されるDNAポリヌクレオチドが、天然ではそのベクター内に見出されない限り、そのDNAポリヌクレオチドは「単離された」ということができる。
【0047】
用語「対象」及び「患者」は、本明細書においては、ヒトを指すために区別なく使用する。一部の実施形態では、限定するわけではないが、げっ歯類、サル、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、哺乳類実験動物、哺乳類家畜、スポーツ用哺乳類動物、および哺乳類ペットを含む、他の哺乳類を治療する方法も提供される。一部の例では、「対象」または「患者」は、疾患または障害の処置を必要とする対象または患者を指す。
【0048】
本明細書で使用する場合、用語「サンプル」または「患者サンプル」は、例えば物理的、生化学的、化学的、および/または生理学的特徴に基づいて特徴付けおよび/または同定される細胞実体および/または他の分子実体を含有する、関心のある対象から得られるかまたは該対象に由来する物質を指す。例えば、句「疾患サンプル」およびその変種は、特徴付けする細胞実体および/または分子実体を含有すると予想されるか、または含有することが知られている、関心のある対象から得られる任意のサンプルを指す。「組織または細胞サンプル」により、対象または患者の組織から得られる類似の細胞の集合を意味する。組織または細胞サンプルの供給源は、新鮮な、冷凍された、および/または保存された、臓器もしくは組織のサンプルまたは生検または吸引物(例えば、気管支肺胞洗浄液および誘発喀痰を含む)からの固体組織;血液または任意の血液成分;痰、脳脊髄液、羊水、腹膜液、または間質液などの体液;対象の妊娠期間または成長時の任意の時期の細胞であり得る。組織サンプルは、また、初代のまたは培養した、細胞または細胞株であってもよい。任意選択的に、組織または細胞のサンプルは、疾患組織/臓器から得られる。組織サンプルは、天然では組織と自然に混在しない化合物、例えば、防腐剤、抗凝血剤、緩衝剤、定着剤、栄養剤、抗生物質、または同類のものを含有してよい。
【0049】
本明細書で使用する場合、「参照サンプル」、「参照細胞」、または「参照組織」は、本発明の方法または組成物を使用して同定される疾患または状態に罹患していないことが分かっているか、またはそう考えられている供給源から得たサンプル、細胞、または組織を指す。一実施形態では、参照サンプル、参照細胞、または参照組織は、本発明の組成物または方法を使用して疾患または状態が同定された同一の対象または患者の身体の健康な部分から得られる。一実施形態では、参照サンプル、参照細胞、または参照組織は、本発明の組成物または方法を使用して疾患または状態が同定された対象または患者ではない、少なくとも1つの個体の身体の健康な部分から得られる。一部の実施形態では、参照サンプル、参照細胞、または参照組織を、疾患もしくは状態を発症する前の、または、疾患もしくは状態の初期段階の患者より事前に得た。
【0050】
状態の特徴が、該状態を有する患者の少なくともサブセットで、または該状態の1つもしくは複数の動物モデルで示された場合、該状態は、斯かる“[特徴]を有すると事前に特徴付けられている”。一部の実施形態では、状態の斯かる特徴が、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドで処置する患者において判定される必要はない。その特徴を持つと事前に特徴付けられた状態を患者が有すると考えるために、本方法および/または組成物を使用して処置する特定の患者において、その特徴の存在が判定されている必要はない。
【0051】
「障害」または「疾患」は、本発明のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを用いた処置から利益を受ける、任意の状態である。これには、哺乳類が問題の障害を起こしやすくする病的状態を含む、慢性および急性の障害または疾患が含まれる。本明細書で処置する障害の非限定的例には、がん、自己免疫性疾患、および神経変性疾患が含まれる。
【0052】
本明細書で使用する場合、「筋消耗」は、筋肉量の減少を指し、一部の実施形態では、これは、筋消耗を直接引き起こす、および/または、筋消耗につながり得る動きの制限を招く状態を伴う。筋消耗を伴い得る非限定的で例示的な状態としては、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、末期腎不全、慢性心不全、がん、重症疾患ミオパチー、重症疾患多発ニューロパチー、脳卒中、脊髄損傷、脊髄性筋委縮症、多発性硬化症、進行性多発性白質脳症、脳脊髄炎、橋中心髄鞘崩壊症、副腎白質ジストロフィー、ウォラー変性、ハンチントン病、パーキンソン病、外傷性脳損傷、アレキサンダー病、ペリツェウス・メルツバッハー病、グロボイド細胞白質ジストロフィー、およびサルコペニアが挙げられる。
【0053】
本明細書で使用する場合、「筋変性障害」は、直接的に(例えば、筋肉に影響を与える病理)または間接的に(例えば、神経もしくは神経筋接合部に影響を与える病理)、筋肉の機能を損なう障害を指す。非限定的で例示的な筋変性障害としては、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症、筋緊張性ジストロフィー、多発性筋炎、および皮膚筋炎が挙げられる。
【0054】
本明細書で使用する場合、「処置」は、ヒトを含む哺乳類の疾患(本明細書では、「障害」または「状態」ともいう)に対する治療の任意の施用または適用を網羅し、疾患もしくは疾患の進行を阻害すること、疾患もしくはその進行を阻害もしくは緩やかにすること、その発症を停止させること、疾患を部分的にもしくは完全に軽減させること、疾患の1つもしくは複数の症状を部分的にもしくは完全に軽減させること、失われた、欠けている、もしくは欠陥がある機能を回復もしくは修復すること;または、非効率なプロセスを刺激することが含まれる。
【0055】
用語「有効量」または「治療的有効量」は、対象の疾患または障害を処置するのに有効な薬物量を指す。一部の実施形態では、有効量は、必要な投薬量および期間で、所望の治療結果または予防結果を達成するのに有効な量を指す。本発明のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドの治療的有効量は、個体の病期、年齢、性別、および体重、ならびに、その個体において所望の応答を引き出す細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドの機能などの要因に応じて変わり得る。治療的有効量は、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドの毒性作用または有害作用を、治療的に有益な効果が上回る量を包含する。
【0056】
「予防的有効量」は、必要な投薬量および期間で、所望の予防結果を達成するのに有効な量を指す。典型的には、必ずというわけではないが、予防投与量は、疾患の初期段階前または初期段階の対象に使用されることから、予防的有効量は、治療的有効量よりも少ない。
【0057】
「薬学的に許容される担体」は、対象に投与する「医薬組成物」を共に含む治療薬と併用される、無毒性の固体、半固体、または液体の、充填剤、希釈剤、カプセル化材料、製剤化助剤、または当技術分野で慣習的な担体を指す。薬学的に許容される担体は、利用する投薬量および濃度でレシピエントに対し無毒であり、製剤の他の成分と適合性がある。薬学的に許容される担体は、利用する製剤に適切である。例えば、治療薬が経口投与される場合、担体はゲルカプセルであり得る。治療薬が皮下投与される場合、担体は、理想的には、皮膚刺激性ではなく、注射部位の反応を引き起こさない。
【0058】
「製品」は、少なくとも1つの試薬、例えば、疾患もしくは障害の処置のための薬物、または、本明細書に記載のバイオマーカーを特異的に検出するプローブを含む、任意の製品(例えば、パッケージもしくは容器)またはキットである。一部の実施形態では、製品またはキットは、本明細書に記載の方法を実行するためのユニットとして宣伝されるか、配布されるか、または販売される。
【0059】
治療用組成物および方法
疾患を処置する方法
NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチド(NOPE ECD融合分子を含む)を、ヒトおよび他の哺乳類を処置する方法で使用するために提供する。NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドをヒトおよび他の哺乳類に投与するステップを含む、疾患を処置する方法を提供する。
【0060】
筋消耗を処置する方法
本発明者らは、NOPE ECDポリペプチドおよびNOPE ECD融合分子が筋肉量を増加させ、in vivoで神経挫滅損傷後の回復を強化することを見出した。さらに、本発明者らは、NOPEがin vitroでミオスタチンに結合することを実証し、NOPE ECDポリペプチドおよびNOPE ECD融合分子が、ミオスタチンリガンドトラップとして作用し、in vivoでミオスタチン媒介性シグナル伝達を阻害し得ることを示唆した。
【0061】
一部の実施形態では、有効量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを、筋消耗のまたは筋消耗のリスクがある対象に投与するステップを含む、筋消耗を処置する方法が提供される。一部の実施形態では、有効量のNOPE ECDポリペプチドまたはNOPE ECD融合分子を、筋消耗のまたは筋消耗のリスクがある対象に投与するステップを含む、筋消耗を処置する方法が提供される。一部の実施形態では、対象は、筋消耗を引き起こす状態を有する。一部の実施形態では、対象は、不活動につながり、筋消耗を招く状態を有する。筋消耗に関する非限定的で例示的な状態としては、限定するわけではないが、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、末期腎不全、慢性心不全、がん、重症疾患ミオパチー、重症疾患多発ニューロパチー、脳卒中、脊髄損傷、脊髄性筋委縮症、多発性硬化症、進行性多発性白質脳症、脳脊髄炎、橋中心髄鞘崩壊症、副腎白質ジストロフィー、ウォラー変性、ハンチントン病、パーキンソン病、外傷性脳損傷、アレキサンダー病、ペリツェウス・メルツバッハー病、グロボイド細胞白質ジストロフィー、およびサルコペニアが挙げられる。
【0062】
一部の実施形態では、有効量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを、筋損傷を有する対象に投与するステップを含む、筋損傷を処置する方法が提供される。一部の実施形態では、有効量のNOPE ECDポリペプチドまたはNOPE ECD融合分子を、筋損傷を有する対象に投与するステップを含む、筋損傷を処置する方法が提供される。多くの環境および事象が、限定するわけではないが、手術関連の筋損傷、外傷性筋損傷、作業関連の骨格筋損傷、およびオーバートレーニング関連の筋損傷を含む筋損傷につながり得る。
【0063】
手術関連の筋損傷の非限定的例としては、膝置換、前十字靭帯(ACL)修復、形成手術、股関節置換術、関節置換術、腱修復手術、回旋筋腱板の疾患および損傷の手術治療、ならびに切断に起因する筋損傷が挙げられる。
【0064】
外傷性筋損傷の非限定的例としては、戦場筋損傷、自動車事故関連の筋損傷、およびスポーツ関連の筋損傷が挙げられる。筋肉に対する外傷性損傷には、断裂、鈍器挫傷、多数の金属片による負傷、肉離れまたは筋断裂、熱傷、急性筋挫傷、慢性筋挫傷、重量または力によるストレス損傷、反復性ストレス損傷、裂離筋障害、およびコンパートメント症候群が含まれ得る。
【0065】
一部の実施形態では、筋損傷は外傷性筋損傷であり、外傷性損傷の直後(例えば、損傷の一日以内)の、本発明の化合物の少なくとも1回の高投与量の投与と、その後の回復期間中の本発明の化合物の低投与量の定期的な投与が提供される。
【0066】
作業関連の筋損傷の非限定的例としては、高反復運動、強い運動、不自然な姿勢、身体と物体の間の長期で強い機械的結合、および振動により引き起こされる損傷が挙げられる。オーバートレーニング関連の筋損傷としては、回復の欠如または身体的作業能力の向上の欠如と同時に起きる、未修復または修復中の筋障害が挙げられる。追加の実施形態では、筋損傷は、運動に誘発される遅発性筋肉痛(DOMS)などを招く、運動またはスポーツ誘発性筋障害である。
【0067】
一部の実施形態では、筋変性障害のある対象に、有効量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを投与するステップを含む、筋変性障害を処置する方法が提供される。一部の実施形態では、筋変性障害のある対象に、有効量のNOPE ECDポリペプチドまたはNOPE ECD融合分子を投与するステップを含む、筋変性障害を処置する方法が提供される。一部の実施形態では、筋変性障害のある対象は、筋消耗を経験したことがある。一部の実施形態では、筋変性障害のある対象は、障害があると診断されてはいるが、著しいまたは検出可能な筋消耗はまだ経験していない。非限定的で例示的な筋変性障害としては、限定するわけではないが、筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー、多発性筋炎、および皮膚筋炎が挙げられる。非限定的で例示的筋ジストロフィーとしては、限定するわけではないが、デュシエンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー(福山)、エメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、および顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーが挙げられる。非限定的で例示的な筋緊張性ジストロフィーとしては、限定するわけではないが、筋緊張性ジストロフィーI型、筋緊張性ジストロフィーII型、および先天性筋緊張症が挙げられる。
【0068】
一部の実施形態では、筋消耗、筋損傷、または筋変性障害の処置には:筋消耗の進行を遅らせること、対象の6分間歩行距離(6MWD)を伸長させること、肉体的衰えを低減させること、人生を変えるような事象の発生を遅らせること、非依存性を改善させること、入院を減少させること、および介護付き生活環境の必要性を遅らせることの少なくとも1つが含まれる。一部の実施形態では、対象の6分間歩行距離(6MWD)を改善させることとは、対象の6MWDが、12か月間の治療後に、少なくとも10メートル、または少なくとも20メートル、または少なくとも30メートル伸びたことを意味する。別の実施形態では、対象の6MWDの保持が、いくつかの障害(例えば、デュシエンヌ型筋ジストロフィー)における良好な有効性を示す。非限定的で例示的な人生を変えるような事象としては、人工呼吸器を設置することおよび/または車いすを必要とすることが挙げられる。
【0069】
一部の実施形態では、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の対象に、有効量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを投与するステップを含む、ALSを処置する方法が提供される。一部の実施形態では、ALSを有する対象に、有効量のNOPE ECDポリペプチドまたはNOPE ECD融合分子を投与するステップを含む、筋変性障害を処置する方法が提供される。一部の実施形態では、ある方法が:ALSの進行を遅らせること、肉体的衰えを低減させること、努力肺活量を改善させること、努力肺活量の低下を緩やかにすること、対象のALS機能評価スケール(ALSFRS)スコアの低下を緩やかにすること、対象のALSFRSスコアを改善させること、人生を変えるような事象の発生を遅らせること、および対象の生存期間を改善させることの少なくとも1つをもたらす場合に、その方法はALSを治療すると考える。一部の実施形態では、ある方法が気管開口術を遅らせるおよび/または胃瘻(PEG)の設置を遅らせる場合に、その方法はALSを処置すると考える。
【0070】
投与経路と担体
種々の実施形態では、NOPEアゴニストは皮下または静脈内に投与され得る。一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、in vivoで、限定するわけではないが、経口、動脈内、非経口、鼻腔、筋肉内、心臓内、心室内、気管内、頬側、直腸、腹腔内、吸入により、皮内、局所的、経皮、および髄腔内、またはその他、例えば移植を含む種々の経路により、投与され得る。対象の組成は、限定するわけではないが、錠剤、カプセル、散剤、顆粒剤、軟膏、溶液、坐薬、浣腸、注射、吸入薬、およびエアロゾルを含む、固形、半固形、液体、またはガス形態の製剤にすることができる。一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、遺伝子療法を使用して送達される。非限定的例としては、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドをコードする核酸分子を金微小粒子にコーティングし、粒子照射装置か、または、例えば、文献(例えば、Tang et al.,Nature 356:152-154(1992)を参照)に記載されているような「遺伝子銃」により、皮内送達され得る。
【0071】
種々の実施形態では、(NOPE ECD融合分子などの)NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを含む組成物は、多種多様の薬学的に許容される担体(例えば、Gennaro,Remington:The Science and Practice of Pharmacy with Facts and Comparisons:Drugfacts Plus, 20th ed.(2003);Ansel et al.,Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,7th ed.,Lippencott Williams and Wilkins(2004);Kibbe et al.,Handbook of Pharmaceutical Excipients,3rd ed.,Pharmaceutical Press(2000)を参照)と共に製剤において提供される。溶媒、アジュバント、および希釈液を含む種々の薬学的に許容される担体が利用可能である。さらに、pH調整剤および緩衝剤、浸透圧調節剤、安定剤、湿潤剤、および同類のものなどの種々の薬学的に許容される補助剤も利用可能である。非限定的で類似的な担体としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0072】
種々の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを含む組成物は、該組成物を、所望であれば、可溶化剤、等張剤、懸濁剤、乳化剤、安定化剤、および保存料などの従来の添加物と共に、植物油、その他油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸エステル、またはプロピレングリコールなどの水性または非水性溶媒に溶解、懸濁、または乳化させることにより、皮下投与を含む注射用に製剤化され得る。種々の実施形態では、組成物は、例えば、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素、および同類のものなどの許容される加圧噴霧剤を使用して、吸入用に製剤化され得る。組成物は、また、種々の実施形態では、生分解性または非生分解性のポリマーなどと共に、徐放性マイクロカプセルに製剤化され得る。非限定的で例示的な生分解性製剤としては、ポリ乳酸-グリコール酸ポリマーが挙げられる。非限定的で例示的な非生分解性製剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。斯かる製剤を作成するある特定の方法は、例えば、欧州特許出願公開第1125584号明細書に記載されている。
【0073】
それぞれが1つまたは複数の投与量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを含有する、1つまたは複数の容器を含む医薬投薬量パックも提供される。一部の実施形態では、1つまたは複数の追加剤ありまたはなしで、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを含む、所定量の組成物を含有する単位投薬量が提供される。一部の実施形態では、斯かる単位投薬量は、注射用の単回使用プレフィルドシリンジで供給される。種々の実施形態では、単位投薬量に含有される組成物は、生理食塩水、スクロース、もしくは同類のもの;ホスフェートなどの緩衝剤、もしくは同類のものを含み;および/または安定的で有効なpH範囲内で製剤化され得る。代わりに、一部の実施形態では、組成物は、適切な液体、例えば無菌水の添加時に再構成することが可能な凍結乾燥粉末として提供され得る。一部の実施形態では、組成物は、限定するわけではないが、スクロースおよびアルギニンを含む、タンパク質凝集を阻害する1つまたは複数の物質を含む。一部の実施形態では、本発明の組成物は、ヘパリンおよび/またはプロテオグリカンを含む。
【0074】
医薬組成物は、特定の兆候の処置または予防に有効な量で投与される。治療的有効量は、典型的には、処置する対象の重さ、その身体状態もしくは健康状態、処置する状態の広範さ、または処置する対象の年齢に左右される。一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、投与量当たり約50μg/kg体重~約50mg/kg体重の範囲の量で投与され得る。一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、投与量当たり約100μg/kg体重~約50mg/kg体重の範囲の量で投与され得る。一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、投与量当たり約100μg/kg体重~約20mg/kg体重の範囲の量で投与され得る。一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、投与量当たり約0.5mg/kg体重~約20mg/kg体重の範囲の量で投与され得る。
【0075】
一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、投与量当たり約10mg~約1,000mgの範囲の量で投与され得る。一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、投与量当たり約20mg~約500mgの範囲の量で投与され得る。一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、投与量当たり約20mg~約300mgの範囲の量で投与され得る。一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、投与量当たり約20mg~約200mgの範囲の量で投与され得る。
【0076】
NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチド組成物は、必要に合わせて対象に投与され得る。一部の実施形態では、有効投与量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、対象に1回または複数回投与される。種々の実施形態では、有効投与量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、対象に、月に1回、月に1回未満、例えば、2カ月ごと、3か月ごと、または6か月ごとなどに投与される。他の実施形態では、有効投与量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、1か月に1回超、例えば、2週間ごと、毎週、1週間に2回、1週間に3回、毎日、または一日に多数回など投与される。有効投与量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、対象に少なくとも1回投与される。一部の実施形態では、有効投与量のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、少なくとも1か月、少なくとも6か月、または少なくとも1年という期間などで、多数回投与され得る。一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、必要に応じて対象に投与されて、状態の1つまたは複数の症状を緩和する。
【0077】
組み合わせ療法
任意の機能的変異体を含む本発明のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、他の生物学的に活性な物質または疾患を処置するための他の処置手順と組み合わせて、該ポリペプチドを必要とする対象に投与され得る。例えば、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、単独でまたは他の処置方法と共に投与され得る。NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、他の処置方法の前に、該処置方法と実質的に同時期に、または該処置方法の後で、提供され得る。
【0078】
一部の実施形態では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドは、対象に、運動および/もしくは理学療法または手術などの別の処置方法の前に、該処置方法の間に、または該処置方法の後で投与される。
【0079】
デュシエンヌ型筋ジストロフィーなどのある特定の筋ジストロフィーの処置では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを用いた処置方法は、さらに、コルチコルステロイドを投与するステップを含み得る。ある特定の筋緊張性ジストロフィーの処置では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを用いた処置方法は、さらに、フェニトイン、プロカインアミド、キニーネから選択される治療薬を投与するステップを含み得る。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置では、NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを用いた処置方法は、さらに、リルゾールを投与するステップを含み得る。
【0080】
NOPE細胞外ドメイン(ECD)
非限定的で例示的なNOPE ECDとしては、完全長NOPE ECDおよびNOPE ECD変異体が挙げられる。NOPE ECDはミオスタチンに結合する。一部の実施形態では、NOPE ECDは、SMAD2/3のミオスタチン媒介性活性を阻害する。NOPE ECDは、シグナルペプチドを含む場合も欠く場合もある。例示的なNOPE ECDとしては、限定するわけではないが、SEQ ID NO:5(シグナルペプチドあり)、SEQ ID NO:6(シグナルペプチドなし)、およびSEQ ID NO:8から選択されるアミノ酸配列を有するヒトNOPE ECDが挙げられる。
【0081】
NOPE ECD変異体には、1つまたは複数のアミノ酸の付加、欠失、および置換を含み、ミオスタチンに結合可能なままの変異体が含まれる。一部の実施形態では、NOPE ECD変異体の配列は、対応する親NOPE ECDの配列と、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、または99%同一である。
【0082】
融合パートナーおよび複合体
一部の実施形態では、本発明のNOPE ECDは、融合パートナーポリペプチドと組み合わさって、融合タンパク質をもたらし得る。これらの融合パートナーポリペプチドは精製を促進し得、in vivoでの半減期の延長を示し得る。IgG部分に起因するジスルフィド結合二量体構造を有する融合パートナーポリペプチドは、また、単量体NOPE ECD融合タンパク質またはNOPE ECDのみよりも、他の分子により効率的に結合し、中和することができる。NOPE ECDに対する他の適切な融合パートナーとしては、例えば、水溶性ポリマーなどのポリマー、イムノグロブリンの定常ドメイン;ヒト血清アルブミン(HSA)の全てまたは一部;フェチュインA;フェチュインB;ロイシンジッパードメイン;テトラネクチン三量化ドメイン;マンノース結合タンパク質(マンノース結合レクチンとしても知られる)、例えばマンノース結合タンパク質1;および本明細書に記載する、さらには米国特許第6686179号明細書に記載されるFc領域が挙げられる。
【0083】
融合分子は、NOPE ECDに、ポリアミノ酸または分岐点アミノ酸を付着させることにより調製され得る。例えば、ポリアミノ酸は、(融合分子により達成される利点に加え)NOPE ECDの循環半減期を延長するように機能する担体タンパク質であり得る。本発明の治療目的のために、斯かるポリアミノ酸は、理想的には、中和抗原応答または他の有害な応答を生じないものであるべきである。斯かるポリアミノ酸は、血清アルブミン(HSAなど)、フェチュインA、フェチュインB,ロイシンジッパー核因子赤血球誘導体2(NFE2)、神経網膜ロイシンジッパー、テトラネクチン、または他のポリアミノ酸、例えばリシンから選択され得る。本明細書に記載するように、ポリアミノ酸の付着位置は、N末端もしくはC末端、またはその間の他の場所であってもよく、また、選択分子に化学リンカー部分を介して接続され得る。
【0084】
ポリマー
本発明では、ポリマー、例えば、水溶性ポリマーが、生理学的環境において典型的に見られるような水性環境において、そのポリマーが付着するNOPE ECDの沈殿を減少させるのに有用であり得る。本発明で利用するポリマーは、治療用の生成物または組成物の調製に対し、薬学的に許容されるだろう。
【0085】
適切な、臨床的に許容される水溶性ポリマーとしては、限定するわけではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒド、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、モノメトキシ-ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレインコポリマー、ポリ(β-アミノ酸)(ホモポリマーまたはランダムコポリマーのいずれか)、ポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー(PPG)および他のポリアルキレンオキシド、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(POG)(例えば、グリセロール)および他のポリオキシエチル化ポリオール、ポリオキシエチル化ソルビトール、またはポリオキシエチル化グルコース、コラン酸または他の炭水化物ポリマー、フィコール、またはデキストラン、ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0086】
本明細書において使用するポリマー、例えば水溶性ポリマーは、任意の分子量とすることができ、分岐していても非分岐であってもよい。一部の実施形態では、ポリマーの平均分子量は、2kDa~100kDa、5kDa~50kDa、または12kDa~25kDaである。概して、分子量が高いほど、または分岐が多いほど、ポリマー:タンパク質の比率が大きい。所望の治療プロファイル;例えば、持続放出期間;もしあれば、生物活性に及ぼす影響;取り扱い易さ;抗原性の程度または欠如;およびポリマーが本発明のNOPE ECDに与える他の既知の影響に因って、他のサイズが用いられてもよい。
【0087】
一部の実施形態において、本発明は、モノ-またはポリ-(例えば、2~4個の)PEG部分を含む、化学的に誘導体化したNOPE ECDを意図する。ペグ化は、利用可能なペグ化反応のいずれかによって実行することができる。当業者に利用可能ないくつかのPEG付着方法がある。例えば、欧州特許第0401384号明細書;Malik et al.,Exp.Hematol.,20:1028-1035(1992);Francis,Focus on Growth Factors,3(2):4-10(1992);欧州特許第0154316号明細書;同第0401384号明細書;国際公開第92/16221号;同第95/34326号;Chamow,Bioconjugate Chem.,5:133-140(1994);米国特許第5252714号明細書;および本明細書に列挙するペグ化に関連する他の刊行物を参照されたい。
【0088】
マーカー
本発明のNOPE ECDは、融合ポリペプチドの精製を促進するペプチドなどのマーカー配列と融合し得る。マーカーアミノ酸配列は、他にもあるが、pQEベクター(Qiagen、Mississauga、カナダオンタリオ州)で提供されるタグなどのヘキサヒスチジンペプチドでよく、これらの多くは商業的に利用可能である。例えば、Gentz et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.86:821-824(1989)に記載されるように、ヘキサヒスチジンは、好都合な融合タンパク質精製を提供する。精製に有用な別のペプチドタグであるヘマグルチニン(HA)タグは、インフルエンザHAタンパク質由来のエピトープに相当する。(Wilson et al.,Cell 37:767 (1984))。これらの上記融合体のいずれも、本明細書のNOPE ECDを使用して操作することができる。
【0089】
オリゴマー化ドメイン融合パートナー
種々の実施形態では、オリゴマー化は、限定するわけではないが、多価性、結合強度の増加、および異なるドメインの機能の組み合わせを含む、いくつかの機能的利点を融合タンパク質に提供する。したがって、一部の実施形態では、融合パートナーは、オリゴマー化ドメイン、例えば、二量体化ドメインを含む。例示的なオリゴマー化ドメインとしては、限定するわけではないが、α-ヘリックスコイルドコイルドメインを含むコイルドコイルドメイン;コラーゲンドメイン;コラーゲン様ドメイン;およびある特定の免疫グロブリンドメインが挙げられる。例示的なコイルドコイルポリペプチド融合パートナーとしては、限定するわけではないが、テトラネクチンコイルドコイルドメイン;軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質のコイルドコイルドメイン;アンジオポエチンコイルドコイルドメイン;およびロイシンジッパードメインが挙げられる。例示的なコラーゲンまたはコラーゲン様オリゴマー化ドメインとしては、限定するわけではないが、コラーゲン中に見出されるもの、マンノース結合レクチン、肺サーファクタントタンパク質AおよびD、アディポネクチン、フィコリン、コングルチニン、マクロファージスカベンジャー受容体、ならびにエミリン(emilin)が挙げられる。
【0090】
抗体Fc免疫グロブリンドメイン融合パートナー
融合パートナーとして使用され得る多くのFcドメインが、当該技術分野で既知である。一部の実施形態では、融合パートナーは、Fc免疫グロブリンドメインである。Fc融合パートナーは、天然に存在する抗体に見出される野生型Fc、またはその変異体でもよい。非限定的で例示的なFc融合パートナーとしては、ヒトIgG、例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4の、ヒンジならびにCH2およびCH3定常ドメインを含むFcが挙げられる。一部の実施形態では、Fc融合パートナーは、例えば、IgG1定常領域において、C237S変異を含む。例えば、SEQ ID NO:17を参照されたい。一部の実施形態では、Fc融合パートナーは、ヒトIgG4定常領域である。一部の斯かる実施形態では、ヒトIgG4定常領域は、S241P変異を含む。例えば、Angal et al.Mol.Immunol.30(1):105-108(1993)を参照されたい。一部の実施形態では、Fc融合パートナーは、米国特許第6900292号明細書に記載されるように、P331S変異を有するヒトIgG2の、ヒンジ、CH2、およびCH3ドメインを含む。追加の例示的なFc融合パートナーとしては、また、限定するわけではないが、ヒトIgAおよびIgMも挙げられる。ある特定の例示的なFcドメイン融合パートナーを、SEQ ID NO:26~28に示す。
【0091】
一部の実施形態では、エフェクター機能は望ましくない。例えば、一部の実施形態では、エフェクター機能は、炎症状態および/または自己免疫障害の処置において望ましくない場合がある。一部の斯かる実施形態では、ヒトIgG4またはIgG2の重鎖定常領域が選択されるか、または操作される。一部の実施形態では、IgG4定常領域は、S241P変異を含む。
【0092】
アルブミン融合パートナーおよびアルブミン結合分子融合パートナー
一部の実施形態では、融合パートナーはアルブミンである。例示的なアルブミンとしては、限定するわけではないが、融合するポリペプチドの血清半減期またはバイオアベイラビリティを増加させることが可能な、ヒト血清アルブミン(HSA)およびHSAの断片が挙げられる。一部の実施形態では、融合パートナーは、アルブミン結合分子、例えば、アルブミンに結合するペプチドまたはアルブミンに結合する脂質もしくは他の分子と結合する分子などである。一部の実施形態では、HSAを含む融合分子は、例えば、米国特許第6686179号明細書に記載されているように調製される。
【0093】
融合パートナーの例示的付着
融合パートナーは、NOPE ECDのN末端またはC末端に共有結合的にまたは非共有結合的に付着し得る。付着は、例えば、アミノ酸側鎖(例えば、システイン、リジン、セリン、またはスレオニンの側鎖など)を介して、N末端またはC末端以外のNOPE ECD内の位置でも起き得る。
【0094】
共有結合的なまたは非共有結合的な付着の実施形態では、融合パートナーとNOPE ECDとの間にリンカーが含まれ得る。斯かるリンカーは、少なくとも1つのアミノ酸または化学部分を含み得る。融合パートナーをNOPE ECDに共有結合的に付着させる例示的な方法としては、限定するわけではないが、融合パートナーとNOPE ECDとを単一のアミノ酸配列として翻訳すること、および融合パートナーをNOPE ECDに化学的に付着させることが挙げられる。融合パートナーとNOPE ECDとが単一のアミノ酸配列として翻訳される場合、追加のアミノ酸が、融合パートナーとNOPE ECDとの間にリンカーとして含まれる場合がある。一部の実施形態では、リンカーは、融合パートナーおよび/またはNOPE ECDの単一発現構築物へのクローニングを容易にするように、該リンカーをコードするポリヌクレオチド配列に基づいて選択される(例えば、特定の制限部位を含有するポリヌクレオチドを、融合パートナーをコードするポリヌクレオチドとNOPE ECDをコードするポリヌクレオチドの間に配置することができ、その制限部位を含有するポリヌクレオチドは、短いアミノ酸リンカー配列をコードする)。融合パートナーとNOPE ECDとを、化学的手段により共有結合させる場合、典型的には、結合反応中に種々のサイズのリンカーを含めることができる。
【0095】
融合パートナーをNOPE ECDに非共有結合的に付着させる例示的な方法としては、限定するわけではないが、結合対を介した付着が挙げられる。例示的な結合対としては、限定するわけではないが、ビオチンとアビジンまたはストレプトアビジン、抗体とその抗原などが挙げられる。
【0096】
NOPE ECDおよびNOPE ECD融合分子の例示的特性
一部の実施形態では、NOPE ECDまたはNOPE ECD融合分子はミオスタチンに結合し、ミオスタチン媒介性SMAD2/3活性を阻害する。一部の実施形態では、NOPE ECD融合分子は、50nM未満、20nM未満、10nM未満、1nM未満、または0.1nM未満の結合親和性(KD)でミオスタチンに結合する。一部の実施形態では、NOPE ECD融合分子は、ミオスタチンの天然NOPEへの結合をブロックする。
【0097】
シグナルペプチド
一部の分泌タンパク質を発現させ、大量に分泌させるためには、非相同的タンパク質からのシグナルペプチドが望ましい場合がある。シグナルペプチドは分泌プロセス中にERにおいて除去されることから、結果として生じる成熟ポリペプチドが不変のままであり得るという点で、非相同的シグナルペプチドを利用することは有利であり得る。いくつかのタンパク質を発現させ、分泌させるために、非相同的シグナルペプチドの付加が必要な場合もある。
【0098】
非限定的で例示的なシグナルペプチド配列は、例えば、Department of Biochemistry,National University of Singaporeによって維持される、オンラインのSignal Peptide Databaseに記載されている。Choo et al.,BMC Bioinformatics,6:249(2005);および国際公開第2006/081430号を参照されたい。
【0099】
共翻訳と翻訳後修飾
一部の実施形態では、NOPE ECDなどのポリペプチドは、翻訳時または翻訳後に、例えばグリコシル化、シアリル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護基/ブロック基による誘導体化、タンパク分解性開裂、または抗体分子もしくは他の細胞性リガンドへの連結によって差別的に修飾される。多数の化学修飾のいずれも、限定するわけではないが、臭化シアン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、V8プロテアーゼによる特異的な化学的開裂;NaBH4;アセチル化;ホルミル化;酸化;還元;および/またはツニカマイシンの存在下での代謝合成を含む、既知の技法によって実行され得る。
【0100】
本発明によって包含される追加の翻訳後修飾としては、例えば、N結合型またはO結合型の炭水化物鎖;N末端またはC末端のプロセシング;アミノ酸骨格への化学部分の結合;N結合型またはO結合型の炭水化物鎖の化学修飾;および、原核宿主細胞発現の結果としてのN末端メチオニン残基の付加または欠失が挙げられる。
【0101】
NOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドをコードする核酸分子
一部の実施形態では、NOPE ECDまたはNOPE ECD融合分子をコードするポリヌクレオチドを含む核酸分子が提供される。NOPE ECDと融合パートナーとが単一ポリペプチドとして翻訳される、NOPE ECD融合分子をコードするポリヌクレオチドを含む核酸分子も提供される。
【0102】
一部の実施形態では、NOPE ECDをコードするポリヌクレオチドは、シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、これは、翻訳時に、NOPE ECDのN末端と融合するだろう。上記で論じたように、シグナルペプチドは、天然NOPEシグナルペプチドであっても、別の非相同的シグナルペプチドであってもよい。一部の実施形態では、対象の遺伝子をコードするポリヌクレオチドを含む核酸分子は、選択した宿主細胞での発現に適切な発現ベクターである。
【0103】
核酸分子は、当技術分野で慣習的な組換えDNA技法を使用して、構築することができる。一部の実施形態では、核酸分子は、選択した宿主細胞における発現に適切な発現ベクターである。
【0104】
ポリペプチド発現および生成ベクター
NOPE ECDをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。NOPE ECD融合分子をコードするポリヌクレオチドを含むベクターも提供する。斯かるベクターとしては、限定するわけではないが、DNAベクター、ファージベクター、ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが挙げられる。
【0105】
一部の実施形態では、CHOもしくはCHO由来の細胞における、またはNSO細胞におけるポリペプチドの発現のために最適化されたベクターが選択される。例示的な斯かるベクターは、例えば、Running Deer et al.,Biotechnol.Prog.20:880-889(2004)に記載されている。
【0106】
一部の実施形態では、ヒトを含む動物におけるNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドのin vivoでの発現用ベクターが選ばれる。一部の斯かる実施形態では、ポリペプチドまたはポリペプチド(複数)の発現は、組織特異的方法において機能するプロモーターまたはプロモーター(複数)の制御下にある。例えば、肝臓特異的プロモーターは、例えば、国際公開第2006/076288号に記載されている。
【0107】
宿主細胞
種々の実施形態では、NOPE ECDおよび/またはNOPE ECDの何れかを含む融合分子が、細菌細胞などの原核細胞;または、真菌細胞、植物細胞、昆虫細胞、および哺乳類細胞などの真核細胞において発現し得る。斯かる発現は、例えば、当技術分野で既知の手順によって実行され得る。ポリペプチドを発現させるために使用することができる例示的な真核細胞としては、限定するわけではないが、COS7細胞を含むCOS細胞;293-6E細胞を含む293細胞;CHO-SおよびDG44細胞を含むCHO細胞;PER.C6(登録商標)細胞(Crucell);ならびにNSO細胞が挙げられる。一部の実施形態では、特定の真核宿主細胞が、NOPE ECDおよび/または融合分子に所望の翻訳後修飾を加える該真核宿主細胞の能力に基づいて、選択される。例えば、一部の実施形態では、CHO細胞が、293細胞で生成される同じポリペプチドより高いレベルのシアリル化を有するポリペプチドを生成する。
【0108】
所望の宿主細胞への1つまたは複数の核酸の導入は、限定するわけではないが、リン酸カルシウム遺伝子導入、DEAE-デキストラン媒介性遺伝子導入、カチオン性脂質媒介性遺伝子導入、エレクトロポレーション、形質導入、感染などを含む、任意の方法によって達成され得る。非限定的で例示的な方法は、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,3rd ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)に記載されている。任意の適切な方法によって、所望の宿主細胞に核酸が一時的に、または安定して遺伝子導入され得る。
【0109】
一部の実施形態では、1つまたは複数のポリペプチドが、任意の適切な方法によって、ポリペプチドをコードする1つまたは複数の核酸分子を用いて操作または遺伝子導入した動物において、in vivoで生成され得る。
【0110】
ポリペプチドの精製
NOPE ECDおよびNOPE ECDの何れかを含む融合分子は、任意の適切な方法によって精製することができる。斯かる方法としては、限定するわけではないが、親和性マトリックスまたは疎水性相互作用クロマトグラフィーの使用が挙げられる。適切な親和性リガンドとしては、NOPEに結合するか(ミオスタチンなど)、または融合パートナーに結合する任意のリガンドが挙げられる。さらに、Fc融合パートナーに結合して融合分子を精製するために、タンパク質A、タンパク質G、タンパク質A/G、または抗体親和性カラムを使用することができる。
【0111】
一部の実施形態では、一部のポリペプチドを精製するために、疎水性相互作用クロマトグラフィー、例えばブチルまたはフェニルカラムも使用される。ポリペプチドを精製する多くの方法が、当該技術分野で既知である。
【0112】
製品
一部の実施形態では、バイオマーカー(例えば、NOPEもしくはミオスタチン)の検出または上記の障害の処置、予防、および/もしくは診断に有用な物質を含有する製品またはキットが提供される。製品は容器と、その容器の上にまたはそれに関連してラベルまたは添付文書を含む。適切な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジなどが挙げられる。容器はガラスまたはプラスチックなどの様々な材料で形成され得る。一部の実施形態では、容器は、組成物自体か、または、状態を処置、予防、および/または診断するのに有効な別の組成物と組み合わさった組成物を保持し、滅菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、皮下注射針で穿刺可能なストッパを有する静脈内溶液バッグまたはバイアルであり得る)。ラベルまたは添付文書は、組成物が選択された状態を処置するために使用されることを示す。一部の実施形態では、製品は、(a)本発明のNOPE細胞外ドメイン(ECD)ポリペプチドを含む組成物をその中に含有する第1の容器と;(b)追加の治療薬を含む組成物をその中に含有する第2の容器とを含み得る。製品は、特定の状態を処置するために組成物を使用することが可能であることを示す添付文書をさらに含み得る。あるいは、または加えて、製品は、静菌性注射用水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、およびデキストロース溶液などの薬学的に許容される緩衝液を含む第2の(または第3の)容器をさらに含み得る。製品は、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、およびシリンジを含む、商業的見地およびユーザーの見地から望ましい他の材料をさらに含み得る。
【0113】
一部の実施形態では、本発明の分子は、単独で、または他の治療化合物と組み合わせてキットとしてパッケージ化され得る。一実施形態では、治療化合物は抗がん剤である。別の実施形態では、治療化合物は免疫抑制剤である。キットは、粉末形態を再構成するためのバイアル、注射用シリンジ、カスタマイズされたIV送達系、吸入器などの、患者への単位投与量の投与を助ける任意選択的な構成要素を含み得る。加えて、単位投与量キットは、組成物の調製および投与のための指示書を含有し得る。キットは、一患者用の単回使用単位投与量として、特定の患者用の多数回の使用として(一定投与量の場合も、治療が進むにつれ個々の化合物の力価が変化する場合もある)製造される場合もあるし;キットは、多数の患者への投与に適した多数の投与量を含有する場合もある(「バルク包装」)。キットの構成要素は、カートン、ブリスター包装、ボトル、チューブ、および同類のもので組み立てられ得る。
【実施例】
【0114】
以下で論じる例は、本発明の単なる例示であることを意図し、本発明を限定すると決して考えてはならない。例は、以下の実験が実施された全てまたは唯一の実験であることを表すことは意図しない。使用する数(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するように努めたが、多少の実験誤差および偏差を考慮するべきである。特に明記しない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、圧は大気圧またはその近辺である。
【0115】
実施例1:ある特定のNOPE-ECD融合タンパク質の構築、発現、および精製
ヒトNOPE(遺伝子ID57722)およびマウスNOPE(遺伝子ID56741)の細胞外ドメイン(ECD)-Fc融合分子をコードする構築物を、ベクターpTT5(Biotechnology Research Institute,カナダ、モントリオール)にクローン化し、そこから発現させた。ヒトまたはマウスのNOPE ECD-Fc融合分子の切断型誘導体を、PCRおよび従来の変異誘発技法を使用して構築した。親構築物におけるヒトおよびマウスのNOPE ECD-Fc部分の一次タンパク質配列およびドメイン構造を
図1に示す。切断型NOPE ECD-Fc誘導体を作成して、NOPEの機能にとって重要なドメインを定義した。
図2は、これらの例で使用する種々のNOPE-Fc融合タンパク質を、名前と簡単な説明と共に列記する。
【0116】
in vivoでの確認実験(例えば、実施例2)のために、ヒトCD33シグナル配列を天然シグナル配列の代わりに含有するmNOPE(23-956)ECD―Fcを、Bacmam技術により、CHOまたはHEK細胞における分泌発現のためにBacmamベクターにクローン化した。分泌タンパク質を、MabSelectSureタンパク質Aアフィニティーに続き、Superdex-200サイズ排除クロマトグラフィーを使用して、精製した。in vitro結合実験(実施例3)では、NOPE-ECD-Fcおよびその誘導体の生成を、CD DG44(Invitrogen、ニューヨーク州グランドアイランド)で増殖させたCHO-3E7細胞のPEI媒介性一過性遺伝子導入により達成した。分泌タンパク質を、HiTrapタンパク質Aカラム(GE Healthcare、ペンシルベニア州ピッツバーグ)で精製した。
【0117】
実施例2:NOPEはin vivoで筋肉量を増加させる
mNOPE(1-955)ECD-FCをコードするDNAベクターのハイドロダイナミック尾静脈注射が、in vivoで筋成長に対し影響があるか否かを調べるために実験を行った。メスBalbCマウス(Charles River Labs、マサチューセッツ州ウィルミントン)を、各10マウスの2処置群にランダムに割り当てた。0日目に、マウスを除脂肪量解析(EchoMRI(登録商標)、テキサス州ヒューストン)にかけて、ベースライン測定値を定めた。ベースライン測定値を記録したら、マウスにmNOPE(1-955)ECD-FCまたは媒体対照をハイドロダイナミックに遺伝子導入した。7日目、21日目、27日目に、除脂肪量を測定した。mNOPE(1-955)ECD-FC曝露は、7日間以内の投与で除脂肪量におけるタンパク同化効果を実証した(
図3A)。除脂肪量の増加は、研究の過程を通して続いた。27日後、除脂肪量臓器を回収し、除脂肪量の増加が筋特異的であることを確認するために重さを量った。除脂肪量同化作用は、mNOPE(1-955)ECD-FCに晒した動物の骨格筋の著しい増加につながったが、肝臓、つまり低脂肪筋肉ではない臓器は影響を受けなかった(
図3B)。
【0118】
本発明者らは、これらの発見を精製タンパク質で確認した。mNOPE(23-956)ECD-FCを実施例1に記載するように構築し、一過性発現させ、精製した。メスBalbCマウス(Charles River Labs、マサチューセッツ州ウィルミントン)を、各10マウスの2処置群にランダムに割り当てた。0日目に、上記で概説したようにマウスを除脂肪量解析にかけて、ベースライン測定値を定めた。ベースライン測定値を記録したら、マウスに1週間に2回、媒体か、または45mg/kgの精製組換えmNOPE(23-956)ECD-FCタンパク質を投与した。6日目、11日目、14日目、および17日目に、除脂肪量を測定した。NOPE曝露は、最初の6日間以内の投与で除脂肪量におけるタンパク同化効果を実証した(
図3C)。除脂肪量の増加は、研究の過程を通して続いた。17日後、臓器を回収し、重さを量った。除脂肪量同化作用は、mNOPE(23-956)ECD-FCに晒した動物の骨格筋および心臓の重量の著しい増加につながったが、肝臓は変わらないままだった(
図3D)。これらの結果は、NOPEに対する全身曝露はマウスにおいて筋同化作用につながるという、ハイドロダイナミック遺伝子導入による本発明者らの知見を確認するものである。
【0119】
実施例3:NOPEはin vitroでミオスタチンに結合する
Biacore(登録商標)T100表面プラズモン共鳴(SPR)技術(GE、アメリカ合衆国ニューヨーク)を使用して、ヒトおよびマウスのNOPE-FCの、ミオスタチンおよびプロミオスタチン(R&D Systems、ミネソタ州ミネアポリス)に対する親和性を求めた。in vivoで筋成長を促進させる1つの機構が、循環においてミオスタチンリガンドトラップとして作用することを介するものであるかを判断するために、ミオスタチンを選択した。hNOPE(1-957)ECD-FCおよびmNOPE(1-955)ECD-FCを、例1に記載するように構築し、一過性発現させ、精製した。
【0120】
簡潔に言うと、抗ヒト抗体(GE Lifesciences、アメリカ合衆国ニューヨーク)を、製造業者のインストラクションに従いアミン結合を介してCM4チップに連結させた。hNOPE(1-957)ECD-FcおよびmNOPE(1-955)ECD-FCの両方を、抗ヒト抗体と相互作用させることによって、チップ上に捕捉した。NOPE ECD-FCなしのフローセルを参照対照として機能させた。ミオスタチンおよびプロミオスタチンはR&D Systems(アメリカ合衆国ミネソタ州)から購入した。用量反応のミオスタチンまたはプロミオスタチンを注射し、次に解離を長い期間監視した。NOPE ECD-FCタンパク質またはアクチビン受容体2B-FC(R&D Systems、アメリカ合衆国ミネソタ州)、つまりミオスタチン結合の陽性対照の会合定数、解離定数、および親和性を、Langmuir1:1結合モデルを使用して、Biacore(登録商標) T100評価ソフトウェアパッケージを使用して計算した。ヒトNOPE(1-957)ECD-FCおよびマウスNOPE(1-955)ECD-FCのMSTNに対する親和性はそれぞれ0.2nMと0.8nMである一方、陽性対照、ActR2b-FCの親和性は2.5nMである。NOPE ECD-FCおよびActR2b-FCは、プロMSTNに結合しない。
図4に示すように、NOPEタンパク質は、ミオスタチンに対し同様の親和性を有し、プロミオスタチンには結合しない。
【0121】
実施例4:構造機能研究によりNOPEの機能性ドメインを同定する
NOPEとミオスタチンとの間の相互作用の機能的意味を理解するため、細胞ベースのレポーターアッセイを利用して、NOPEのミオスタチンシグナル伝達を阻害する能力をテストした。さらに、実施例1に記載するように、NOPEの重要な機能ドメインを決定するために切断化変異体を作成した。Cignal Lenti Smad2/3ルシフェラーゼ(Qiagen)をHEK293細胞に形質転換し、これを使用して、NOPEタンパク質の、ミオスタチン依存性SMAD2/3活性化を阻害する能力をテストした。ミオスタチン用量反応曲線を生成して、SMAD2/3活性のEC80を決定した。0.1nMのミオスタチン、EC80に、用量反応のmNOPE(1-955)ECD-FC、hNOPE(1-957)ECD-FC、hNOPE(1-427)ECD-FC、hNOPE(1-620)ECD-FC、およびhNOPE(427-955)ECD-FCを投与した。
図5で実証されるように、NOPEとの相互作用は、ミオスタチン活性の中和をもたらす。hNOPE(1-957)ECD-FCおよびhNOPE(1-620)ECD-FCのミオスタチン阻害のIC50は、それぞれ、0.5nMおよび0.17nMである。mNOPE(1-955)ECD-FCのIC50は0.068nMで、これは、hNOPE(1-957)ECD-FCの7倍超およびhNOPE(1-620)ECD-FCの2.5倍超である。hNOPE(1-427)ECD-FCおよびhNOPE(427-955)ECD-FCは、ミオスタチン誘導性Smad2/3活性を阻害しなかった(
図5)。
【0122】
NOPEタンパク質のハイドロダイナミック尾静脈注射が、in vivoで筋成長に対し影響があるか否かを調べるために実験を行った。メスBalbCマウス(Charles River Labs、マサチューセッツ州ウィルミントン)を、各10マウスの4処置群にランダムに割り当てた(
図6)。0日目に、マウスを実施例2に記載するように除脂肪量解析にかけて、ベースライン測定値を定めた。ベースライン測定値を記録したら、マウスにmNOPE(1-955)ECD-FC、mNOPE(1-619)ECD-FC、またはmNOPE(623-955)ECD-FC、または媒体対照をハイドロダイナミックに遺伝子導入した。7日目と14日目に、除脂肪量を測定した。mNOPE(1-955)ECD-FC曝露およびmNOPE(1-619)ECD-FC曝露が、暴露して7日内に除脂肪量におけるタンパク同化効果を実証した。除脂肪量の増加は、研究の過程を通して続いた。14日後、除脂肪量臓器を回収し、除脂肪量の増加が筋特異的であるかを確認するために重さを量った。除脂肪量同化作用はmNOPE(1-955)ECD-FCおよびmNOPE(1-619)ECD-FCに晒した動物の骨格筋の著しい増加につながったが、肝臓は影響を受けなかった。mNOPE(623-955)ECD-FCは、除脂肪量にも筋重量にも影響を与えなかった。
【0123】
配列表
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【配列表】