(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】試料を検査する方法および顕微鏡
(51)【国際特許分類】
G02B 21/06 20060101AFI20220624BHJP
G02B 21/00 20060101ALI20220624BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
G02B21/06
G02B21/00
G01N21/64 E
(21)【出願番号】P 2018552762
(86)(22)【出願日】2017-04-07
(86)【国際出願番号】 EP2017058420
(87)【国際公開番号】W WO2017174792
(87)【国際公開日】2017-10-12
【審査請求日】2020-04-06
(32)【優先日】2016-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(73)【特許権者】
【識別番号】511079735
【氏名又は名称】ライカ マイクロシステムズ シーエムエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Leica Microsystems CMS GmbH
【住所又は居所原語表記】Ernst-Leitz-Strasse 17-37, D-35578 Wetzlar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヴェアナー クネーベル
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン ファールバッハ
【審査官】瀬戸 息吹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-043365(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0206798(US,A1)
【文献】国際公開第2014/202704(WO,A1)
【文献】特表2014-507014(JP,A)
【文献】国際公開第2015/184124(WO,A1)
【文献】特表2017-517761(JP,A)
【文献】OBER R J ET AL,Simultaneous Imaging of Different Focal Planes in Fluorescence Microscopy for the Study of Cellular Dynamics in Three Dimensions,IEEE Transactions on NanoBioscience,米国,2004年12月06日,Volume:3, Issue:4,237-242
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00 - 21/36
G01N 21/62 - 21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を検査する方法であって、
前記試料は、同時に、複数の相互に異なる試料面(9,10,14)においてそれぞれ照明線(7,11,13)に沿って、それぞれ照明光束(8,12,15)によって照明され、
前記照明線(7,11,13)に沿って照明された各試料領域は、それぞれ、固有の検出PSFによって走査され、照明された前記試料領域から出た検出光は、ただ1つの検出対物レンズ(1)を用いて、同時にかつ相互に空間的に別個に検出され
、
前記照明光束(8,12,15)の各々は、照明対物レンズ(40)によって焦点合わせされ、前記試料から出た前記検出光が前記検出対物レンズ(1)を通走し、
前記照明対物レンズ(40)の光軸と前記検出対物レンズ(1)の光軸とは、相互に垂直な面に配置されている、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
隣接する2つの照明線(7,11,13)の間隔は、照明光束半径と、前記照明光束の面における、隣接する前記検出PSFの半径と、の総計よりも大きい、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
試料面(9,10,14)は、相互に平行に配向されている、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
a.前記照明線(7,11,13)は、前記試料面(9,10,14)に沿った方向および前記照明光束(8,12,15)の照明光伝搬方向に対して垂直な方向において、相互にずらして配置されている、かつ/または、
b.前記照明線(7,11,13)は、前記試料面(9,10,14)に沿った方向および前記検出対物レンズ(1)の光軸に対して垂直な方向において、相互にずらして配置されている、かつ/または、
c.ある1つの照明線(7,11,13)によって照明された試料領域から出た検出光束内に、別の照明線(7,11,13)は、配置されていない、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
各前記試料面(9,10,14)は、連続的に、各前記照明光束(8,12,15)および各前記検出PSFの同期したシフトまたは平行シフトによって走査される、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
a.共焦点線検出を行う、かつ/または、
b.照明線(7,11,13)に沿って照明された試料領域から出た各前記検出光が、前にスリット絞りが接続されている検出器によって検出される、かつ/または、
c.照明線(7,11,13)に沿って照明された試料領域から出た各前記検出光が、スリット検出器として機能する検出器によって検出され、ここで前記スリット検出器は、面状検出器の、アクティブ状態にされている各部分によって形成されている、
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
照明される各試料領域に固有の検出器が割り当てられている、または、照明される各試料領域に共通の面状検出器上の固有の検出領域が割り当てられている、
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記試料から出た前記検出光は、自身の発生場所に関連して、少なくとも1つのビームスプリッター(20,21)によって、異なる検出ビーム路分岐に分けられる、
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
a.前記試料を同時に、少なくとも、隣接する2つの照明線(7,11,13)に沿って、それぞれ固有の照明光束(8,12,15)で照明する代わりに、1つのライトシート(19)で照明し、かつ/または、
b.前記試料を同時に、少なくとも、隣接する2つの照明線(7,11,13)に沿って、それぞれ固有の照明光束(8,12,15)で照明する代わりに、1つのライトシート(19)で照明し、ここで前記照明線(7,11,13)間の間隔は、検出PSF半径(δ)と、光伝搬方向に対して垂直な前記試料面の方向における前記ライトシートの半分の延在と、の総計よりも大きい、
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項記載の方法を実施する顕微鏡であって、
照明対物レンズ(40)を有しており、試料を同時に、複数の相互に異なる試料面(9,10,14)においてそれぞれ照明線(7,11,13)に沿って、それぞれ照明光束(8,12,15)によって照明するように構成されている照明装置と、
前記検出対物レンズ(1)および少なくとも1つの検出器を有しており、照明線(7,11,13)に沿って照明された各試料領域がそれぞれ、固有の検出PSFによって走査され、照明された前記試料領域から出た検出光が同時にかつ相互に空間的に別個に検出されるように構成されている検出装置と、
を有している、
ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項11】
隣接する2つの照明線(7,11,13)の間隔は、検出PSF半径(δ)と照明光束半径(ρ)との総計よりも大きい、
請求項10記載の顕微鏡。
【請求項12】
試料面(9,10,14)は、相互に平行に配向されている、
請求項10または11記載の顕微鏡。
【請求項13】
a.照明線は、前記試料面(9,10,14)に沿った方向および前記照明光束(8,12,15)の照明光伝搬方向に対して垂直な方向において、相互にずらして配置されている、かつ/または、
b.前記照明線(7,11,13)は、前記試料面(9,10,14)に沿った方向および前記検出対物レンズ(1)の光軸に対して垂直な方向において、相互にずらして配置されている、かつ/または、
c.ある1つの照明線(7,11,13)によって照明された試料領域から出た検出光束内に、別の照明線(7,11,13)は、配置されていない、
請求項10から12までのいずれか1項記載の顕微鏡。
【請求項14】
a.前記照明装置は、偏向角度に関して調整可能なビーム偏向装置(26)を有しており、前記ビーム偏向装置によって前記照明光束(8,12,15)は、平行にシフト可能であり、かつ/または、
b.前記検出装置は、偏向角度に関して調整可能なビーム偏向装置(26)を有しており、前記ビーム偏向装置は、前記検出光のデスキャンを生じさせる、
請求項10から13までのいずれか1項記載の顕微鏡。
【請求項15】
照明される各試料領域に固有の検出器が割り当てられている、または、照明される各試料領域に共通の面状検出器上の固有の検出領域が割り当てられている、
請求項10から14までのいずれか1項記載の顕微鏡。
【請求項16】
a.共焦点線検出を行う、かつ/または、
b.照明線(7,11,13)に沿って照明された試料領域から出た各前記検出光が、前にスリット絞りが接続されている検出器によって検出される、かつ/または、
c.照明線(7,11,13)に沿って照明された試料領域から出た各前記検出光が、スリット検出器として機能する検出器によって検出され、ここで前記スリット検出器は、面状検出器の、アクティブ状態にされている各部分によって形成されている、
請求項10から15までのいずれか1項記載の顕微鏡。
【請求項17】
前記検出装置は、少なくとも1つのビームスプリッター(20,21)を有しており、前記ビームスプリッターは、前記試料から出た前記検出光を、自身の発生場所に関連して、異なる検出ビーム路分岐に分ける、
請求項10から16までのいずれか1項記載の顕微鏡。
【請求項18】
a.前記照明装置は、ライトシート(19)を生成し、前記ライトシートは、それぞれ固有の照明光束(8,12,15)での照明の代わりに、検査されるべき前記試料を同時に、少なくとも2つの隣接する照明線(7,11,13)に沿って照明し、かつ/または、
b.前記照明装置は、ライトシート(19)を生成し、前記ライトシートは、それぞれ固有の照明光束(8,12,15)での照明の代わりに、検査されるべき前記試料を同時に、少なくとも2つの隣接する照明線(7,11,13)に沿って照明し、ここで前記照明線(7,11,13)間の間隔は、検出PSF半径と、光伝搬方向に対して垂直な前記試料面(9,10,14)の方向における前記ライトシートの半分の延在と、の総計よりも大きい、
請求項10から17までのいずれか1項記載の顕微鏡。
【請求項19】
a.前記照明対物レンズ(40)の光軸と前記検出対物レンズ(1)の光軸とは、相互に垂直な面に配置されている、または、
b.前記照明対物レンズ(40)の光軸と前記検出対物レンズ(1)の光軸とは、相互に平行にまたは同軸に配向されている、
請求項10から18までのいずれか1項記載の顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を検査する方法に関する。さらに本発明は、特にこのような方法を実施する顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
しばしば、試料の検査時には、試料体積体全体を迅速に結像することが可能であることが重要である。このためには、特に、SPIM顕微鏡の使用が考えられる。
【0003】
試料の層状の照明が行われるSPIM技術(Single Plane Illumination Microscopy)では、例えば試料を点状に走査するときよりも、より迅速かつより試料に対するダメージの少ない、画像データの捕捉が可能になる。SPIM技術の既知の利用分野は、試料中の蛍光色素分子がレーザー光によって励起される蛍光顕微鏡の領域である。この場合、SPIM技術では、励起は、1つの面においてのみ、照明光シートによって行われる。これにより、他の面での照明光による試料の損傷が回避される。
【0004】
SPIM方法に従って作動する光学デバイスは、独国特許出願公開第10257423号明細書(DE10257423A1)に記載されている。この顕微鏡では、試料は、薄いライトシートによって照明され、他方で観察は、照明を行うライトシートの面に対して垂直に行われる。この場合、照明と検出は、それぞれ別個の光学系、特に互いに垂直の2つの別個の対物レンズを有する別個の2つの光学的なビーム路を介して行われる。
【0005】
独国特許出願公開第102009044983号明細書(DE102009044983A1)から、照明装置を有している顕微鏡が既知である。この照明装置によって、試料領域を照明するためのライトシートが作成される。このライトシートは、照明ビーム路の照明軸の方向において、および照明軸に対して横方向に位置している横方向軸の方向において、ほぼ面状に拡がっている。この顕微鏡はさらに、検出装置を有しており、この検出装置によって、検出ビーム路の検出軸に沿って試料領域から放射される光が検出される。ここで、照明軸と検出軸ならびに横方向軸と検出軸とは、相互に、零とは異なる角度を成している。ここで、検出装置はさらに、検出ビーム路内に、検出対物レンズを含んでいる。このような顕微鏡の場合、検出装置はさらに、検出対物レンズのフロントレンズとは空間的に分離されて配置され、これとは無関係に位置調整可能な光学的な検出要素を含んでおり、この光学的な検出要素によって、検出画像領域の大きさを無段階に変えることができる、かつ/またはこの検出要素によって、試料領域における検出焦点面を無段階にシフトさせることができる。
【0006】
専門書、F.O.,Voigt,F.F.,Schmid,B.,Helmchen,F.&Huisken,J.著「Rapid 3D light-sheet microscopy with a tunable lens(Opt.Express 21, 21010 (2013))」から、体積体の迅速な結像のために、検出軸に沿ってライトシートを迅速にシフトさせ、検出光学系の焦点面(Schaerfenebene)を、調節可能なレンズによって追跡することが公知である。
【0007】
独国特許出願公開第102013205115号明細書(DE102013205115A1)から、試料を照明するライトシートを生成する照明装置と、試料から出た検出光用の、検出器を有する検出装置と、を備えたSPIM装置が公知である。SPIM装置には、効率的かつダメージの少ない試料検査を考慮して、検出装置が、ライトシートの種々の焦点面を検出器の種々の領域に割り当てる装置を有するように、構造的に単純な手段が設けられ、展開されている。この装置は例えば、マルチフォーカス格子または色修正格子を有していてよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の課題は、試料体積体を迅速かつ高い解像度で結像することを可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、試料が同時に、複数の相互に異なる試料面においてそれぞれ線(照明線)に沿って、それぞれ照明光束によって照明され、ここで、照明線に沿って照明された各試料領域がそれぞれ、固有の検出PSFによって走査され、照明された試料領域から出た検出光が同時にかつ相互に空間的に別個に検出される方法によって解決される。
【0010】
したがって、本発明の別の課題は、試料体積体を迅速かつ高い画像コントラストで、かつ高い解像度で結像することを可能にする顕微鏡を提供することである。
【0011】
この別の課題は、照明対物レンズを有しており、かつ試料を同時に、複数の相互に異なる試料面においてそれぞれ照明線に沿って、それぞれ照明光束によって照明するように構成されている照明装置と、検出対物レンズおよび少なくとも1つの検出器を有しており、かつ照明線に沿って照明された各試料領域がそれぞれ、固有の検出PSFによって走査され、照明された試料領域から出た検出光が同時にかつ相互に空間的に別個に検出されるように構成されている検出装置と、を有していることを特徴とする顕微鏡によって解決される。
【0012】
本発明は、高い解像度のもとで同時に、異なる、特に相互に平行な試料面から画像データを生成することを可能にし、これによって、画像データに対する3Dスタックを得ることができる。
【0013】
本発明の特異性は、試料を同時に、複数の試料面において、それぞれ、各試料面に位置する照明線に沿って照明することである。この手法によって、特に有利には、別の試料面の検出チャネルに対する、個々の試料面からの検出光のクロストークが、効果的に回避されるように、照明線を相互に相対的にずらすことができる。
【0014】
図1に示されているように、検出対物レンズ1は、第1の照明線2に沿って照明された試料領域から出た検出光の一部を、ライン検出器3上に結像し、これは、楔形体積体4において、対物レンズ1の開口数に関連する開口角度2αで伝播する。
図1を参照すると、第1の照明線は図平面(z方向)に対して垂直である。検出ビーム路、特に検出対物レンズ1の形成は、検出体積体、すなわち検出PSF5(PSF:Point-Spread-Funktion:点拡がり関数)を規定する。ここで検出PSF5から出た検出光は、楔形体積体4を通って、検出対物レンズ1に達する。
【0015】
別の照明線に沿って照明されている別の試料領域から出た検出光が、検出対物レンズ1によって、第1の試料領域に割り当てられているライン検出器3上に結像されることを回避するために、この別の照明線は有利には、開口角度2αを有する楔形体積体4の外側に、すなわち開口角度2βを有する2つの楔形領域6に配置されている。有利には、この別の照明線は、別の試料領域内に配置されており、これによって、クロストークが生じることなく、同時に、照明線を側方へ動かすことによって、同時に2つの異なる試料面を走査することが可能になる。当然ながら、2つの照明線を用いて説明されたこの原則を、より多くの数の照明線によって実現することも可能である。この場合にはそれぞれ隣接する照明線は、上述したようにずらされている。
【0016】
有利には、クロストークは次のことによって回避される。すなわち、隣接する2つの照明線の間隔が、照明光束半径と、この照明光束の面における、隣接する検出PSFの半径と、の総計よりも大きいことによって回避される。特に有利には、照明線の位置は、照明光束がそれぞれ、別の面における別のラインの(検出PSFの)検出円錐内に位置しないように選択される。
【0017】
上述したように、本発明は、複数の、特に相互に平行な試料面を同時に、それぞれ少なくとも1つの照明線によって走査することを可能にする。ここでこれらの照明線は、有利には同時に、それぞれ試料面に沿って(すなわち試料面に対して平行なベクトルに沿って)シフトされる。ここでは特に、照明線が試料面に沿った方向および照明光伝搬方向に対して垂直な方向において、相互にずらして配置されている。択一的または付加的に、照明線が、試料面に沿った方向と、検出対物レンズの光軸に対して垂直な方向において、相互にずらして配置されていてもよい。上述したように、クロストークを回避するために、特に有利には、試料領域から出た検出光束内に、別の照明線は配置されていない。
【0018】
特に高い画像コントラストは、各照明線に関してそれぞれ、共焦点線検出が行われることによって実現される。これは、照明線に対して共焦点に配置されたスリット検出器(Spaltdetektor)装置を使用することによって実現される。
【0019】
例えば有利には、照明線に沿って照明された試料領域から出た各検出光が、前にスリット絞りが接続されている検出器、特に面状検出器によって検出される。このようなスリット絞りは、例えば、光学的な要素によって形成されていてよく、ここでは、スリットを開放する表面が反射するようにされている。しかし、機械的なスリット絞りの使用は、その限りではコストがかかる。なぜなら、照明線をシフトさせた際に、同時に、スリット検出器装置のシフトまたは択一的に、検出光のデスキャンも、動かされた照明線から出た検出光がそれぞれスリット絞りに入射することを可能にするために、例えば検出ビーム路内に配置されている、偏向角度に関して調整可能なビーム偏向装置によって行われなければならないからである。これに対するさらなる詳細は特に、実施例を参照して、以降に記載される。
【0020】
特に、前置接続されているスリット絞りは、ミラー反射カメラにおいて使用されているような機械的なシャッター幕であり得る。面状検出器はこのような構成では、自身の全体的なセンサ面に関して、特にスリット絞りが照明線に沿って動かされる照明光束に同期して動かされる間も、アクティブであってよい。
【0021】
スリット絞りは特に有利には、非機械的な構成部分として構成されていてもよい。例えばスリット絞りが、部分的に切り替え可能なミラーとして、または部分的に切り替え可能な吸収体として、例えば液晶をベースにして、形成されていてもよい。
【0022】
択一的に、それぞれ、照明線に沿って照明された試料領域から出た各検出光が、スリット検出器として機能する検出器によって検出されてもよい。この場合にはこのスリット検出器は、面状検出器、例えばCMOS検出器、またはsCMOS検出器の、アクティブ状態にされている各部分によって形成されている。例えば有利には、面状検出器の一部だけ、すなわち、ちょうどスリット検出器に相応する部分だけを読み出すことが可能であり(アクティブ状態にされている部分)、他方で、面状検出器の残りの部分、すなわちスリット検出器外にある部分は読み出されない(アクティブ状態にされていない部分)。このようにして、共焦点検出も可能である。
【0023】
このような構成では、例えば付加的な機械的なスリット絞りのような機械的な構成部分が回避される。これは特に、スリット検出器を検出面においてシフトさせることが問題とされている場合には、有利である。すなわちこのような構成では面状検出器は、特に検出対物レンズに対して、かつ/または照明対物レンズに対して、かつ/または試料に対して、かつ/または入射する検出光に対して相対的に、位置が固定されたままであってよい。ここでは、時間的に順々に、それぞれスリット検出器を形成する、面状検出器のセンサ面の異なる部分が、アクティブ状態にされる。すなわち、それぞれ、アクティブ状態にされている部分上に入射する検出光だけが検出されるように、アクティブ状態にされる。他方で、面状検出器の非アクティブ状態にされている各部分に入射する検出光は検出されない。
【0024】
時間的に直接的に連続してアクティブ状態にされる、面状検出器の各部分が、それぞれ空間的に、直接的に隣接して位置している場合には、この結果、スリット検出器の空間的に中断されない運動が生じる。この際に、このために、機械的な構成部分を動かす必要はない。具体的には、例えば、アクティブ状態にされるピクセルの領域は同じ形状で、かつ照明線に沿って照明する照明光束に同期して、面状検出器のセンサ面で、沿うように延在し得る。この限りでは、このような構成は、寿命が長いという特別な利点を有している。なぜなら、例えば機械的な絞り終端部による、運動によって生じる摩擦が回避されているからである。
【0025】
特別な構成では、照明される各試料領域に固有の検出器が割り当てられている。特にこの場合には、異なる試料領域に割り当てられている検出器が、異なる検出面に配置されていてよく、これによって、照明線に沿って照明される各試料領域が異なる試料面に配置されているという状況を考慮することができる。
【0026】
択一的に、照明される各試料領域に、共通の面状検出器上の固有の検出領域が割り当てられていることも可能である。共通の面状検出器の使用時に、全ての試料領域の検出光が同じ検出面において、すなわち面状検出器の検出面において焦点合わせされることを実現するために、異なる検出ビーム路分岐内に、光路の整合のための異なる要素、例えば異なる厚さのガラスブロックおよび/または異なるフォーカシング要素またはデフォーカシング要素、例えば調整可能なレンズが配置されていてよい。
【0027】
特別な構成では、試料から出た検出光は、自身の発生場所に関連して、すなわち、照明線によって照明される各試料領域の場所に関連して、少なくとも1つのビームスプリッターによって、異なる検出ビーム路分岐に分けられる。
【0028】
図1に基づいて上述された原理は、試料を同時に、少なくとも、隣接する2つの照明線に沿って、それぞれ固有の照明光束で照明する代わりに、2つの照明光線を同時に照明する1つのライトシートで照明することによっても実現可能である。この場合には、ライトシート面は有利には傾斜しており、すなわち、零とは異なる角度で、試料面に対して配置されている。ライトシートを傾斜させることによって、有利には、一方の照明線の検出光が、他方の照明線に割り当てられている検出器に対してクロストークすることが低減される。これを実現するために、有利には、隣接する照明線の平行オフセット分Δxは、
図3に示されているように、検出PSF半径と光伝搬方向に対して垂直な試料面の方向におけるライトシートの半分の延在との総計よりも大きい。
【0029】
本発明の方法は例えば、次のように実施可能である。すなわち、照明光が照明対物レンズによって焦点合わせされ、試料から出た検出光が検出対物レンズを通走し、ここで照明対物レンズの光軸と検出対物レンズの光軸とが、相互に垂直な面に配置されているように実現可能である。
【0030】
特に、良好な試料アクセス性を可能にする、特に柔軟に実行可能な実施形態では、照明対物レンズの光軸と検出対物レンズの光軸とは、相互に平行にまたは同軸に配向されている。特に、照明対物レンズの後ろに、偏向手段を配置することができる。この偏向手段は、照明光が照明対物レンズを通過した後に、照明光を例えば、直角に偏向する。このような構造はさらに、直立のまたは倒置の標準的な顕微鏡三脚の使用を可能にする。
【0031】
本発明の顕微鏡は、有利には、走査型顕微鏡、特に共焦点走査型顕微鏡に基づいて構築されていてよい。その点では、本発明の方法を実施するために(いずれにせよ、実験室に存在しているであろう)走査型顕微鏡を使用することが特に有利である。
【0032】
上述したように、有利には、照明光束は照明面において、試料に対して相対的に動かされる。このために例えば、偏向角度に関して調整可能なビーム偏向装置が使用可能である。このようなビーム偏向装置は、例えば、少なくとも1つのガルバノミラーを有することができる。特に、例えば、いずれにせよ設けられている、走査型顕微鏡、特に共焦点走査顕型微鏡のビーム偏向装置も使用可能である;これは特に、本発明の顕微鏡が、走査型顕微鏡の装備を変えることによって製造される場合、または本発明の方法が、走査型顕微鏡によって実施される場合である。
【0033】
照明線に沿って照明する照明光束を生成するために、多くの方法が可能である。例えば、単純な格子または所望の数のビームをちょうど生成し、同時に有利には、全ての照明光束が同じ明るさになることにも寄与する特別な回折要素が、照明対物レンズの瞳に対して共役関係にある面に配置されていてよい。ここで重要なのは、検出軸に沿った所望のビームオフセットが、試料面の方向における充分なオフセットと結び付いている、ということである。これは格子の場合には、格子構造がx-y面において(すなわち照明ビーム路の光軸を中心に)回転されることによって実現される。択一的または付加的に、偏光を介した分解も、複屈折材料によって、または音響光学構成部分を用いて可能である。格子は、例えば、柔軟に、SLM(Spatial Light Modulator:空間光変調器)によっても実現可能である。
【0034】
さらに、異なる試料面において複数の蛍光色素分子を試料内で使用する場合に、異なる蛍光色素分子を、例えば種々のレーザー光で励起することも可能である。この結果、色フィルタ、特に色バンドパスフィルタを用いて、かつ/または色ビームスプリッターを用いて、検出ビーム路における分離を行うことができる。
【0035】
本発明の顕微鏡は有利には、特に電子式の、かつ/またはコンピューターベースの制御装置を有することがある。この制御装置は、照明線に沿って照明する照明光の運動および/またはスリット検出器またはデスキャンするビーム偏向装置の運動を同期して制御する。
【0036】
図では、本発明の対象が、例示的にかつ概略的に示されており、図面に基づいて以降で説明される。ここで、同じまたは同じ作用を有する要素には多くの場合、同じ参照符号が付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】検出時の関係性を説明するための検出ビーム路の概略図
【
図2】本発明の顕微鏡の第1の実施例の検出ビーム路および照明の概略図
【
図3】本発明の顕微鏡の第2の実施例の検出ビーム路および照明の概略図
【
図4】本発明の顕微鏡の第3の実施例の検出ビーム路および照明の概略図
【
図5】本発明の顕微鏡の第4の実施例の検出ビーム路および照明の概略図
【
図6】本発明の顕微鏡の第5の実施例の検出ビーム路および照明の概略図
【
図7】本発明の顕微鏡の第6の実施例の検出ビーム路および照明の概略図
【
図8】複数のオフセットされた照明光線に沿って同時に照明するために複数の照明光束を作成する装置の例の概略図
【発明を実施するための形態】
【0038】
図2は、発明の顕微鏡の第1の実施例の検出ビーム路および照明の概略図を示している。この実施例では、試料は、図平面に対して垂直な第1の照明線7に沿って、第1の照明線7に沿って拡がっている第1の照明光束8によって照明される。第1の照明光束8は、照明光束半径ρを有している。第1の照明線7は、自身の第1の試料面9に存在している。
【0039】
第1の試料面9に対して平行に配置されている第2の試料面10において、試料は、第2の照明線11に沿って、第2の照明線11に沿って拡がっている第2の照明光束12によって照明される。第2の照明線11は、第1の照明線7に対して平行に配置されている。第2の照明線11は、値Δx分、検出対物レンズ1の光軸に対して垂直にずれて配置されている。ここで、第1の試料面9と第2の試料面10とは、間隔Δyを有している。
【0040】
さらに試料は、第3の照明線13に沿って、第3の試料面14において、第3の照明光束15によって照明される。
【0041】
第1の照明光束8によって照明された試料領域から出た検出光は、検出対物レンズ1(もしくは検出光学系)を介して、第1のライン検出器16上に結像される。第2の照明光束12によって照明された試料領域から出た検出光は、第2のライン検出器17上に結像される。第3の照明光束15によって照明された試料領域から出た検出光は、第3のライン検出器18上に結像される。ライン検出器16、17および18は、各照明面に対して共役関係にある、異なる検出面に位置する。図示の実施例では、照明は例示的に、3つの照明光束8、12、15によって行われ、検出は3つのライン検出器16、17、18によって行われる。しかし原則的に、使用可能な照明光束および照明される試料面の数の制限はない。その点では、試料を同時に、さらに多くの数の照明光束によって、さらに多くの数の試料面において照明することも可能である。
【0042】
x方向における、隣接する照明線間のオフセット分Δxは、Δx>δ+ρが有効であるように選択されている。ここで、変数δは、各試料面9、10、14における検出PSFの半径であり(大まかに、δ=Δy・tan(α)であり、ここでαは対物レンズ側の開口角度のarcsin(NA/n)であり、NAは開口数であり、nは屈折率である)、ρは、式ρ=r/cos(α)を介して、各隣接する照明光束の半径rから得られる距離である。3つの照明光束8、12、15によって照明された試料領域は、選択された幾何学的形状に基づいて鮮明に、相応する画像面にある検出器へ結像される。ここで、それぞれ別の検出器に対するクロストークは回避される。
【0043】
y方向における、隣接する照明線間のオフセット分Δyは、例えば、相応する照明光束の半径rの総計が、Δyよりも大きくなるように選択される(これは
図2に示されていない)。
【0044】
図3は、第2の実施例の検出ビーム路および照明の概略図を示しており、ここでは、
図2に示されている例とは異なり、照明線7、11、13の照明は、個々の、空間的に分けられた照明光束8、12、15によって行われるのではなく、傾斜しているライトシート19によって行われる。ライトシート19は、照明線7、11、13の方向において(すなわち図平面に対して垂直に)伝播する。試料面9、10、14に対するライトシート19のライトシート面の傾斜によって、異なる照明面9、10、14に配置されている照明線7、11、13に沿った照明が可能であり、ここで、ライン検出器の使用によって同様に、クロストークが少なくともある程度まで回避される。このような構成は、光学的に、
図2に示されている構成ほど高い価値を有していない。なぜなら、クロストークはより低い程度しか回避されないからである。これは実質的に、必然的に比較的厚いライトシート19に起因するものとみなされるべきである。
【0045】
図4は、本発明の顕微鏡の第3の実施例の検出ビーム路および照明の概略図を示している。試料領域を照明線7に沿って第1の試料面において照明する照明光束8、第2の試料領域を第2の照明線11に沿って第2の試料面10において照明する第2の照明光束12、および第3の試料領域を第3の照明線13に沿って第3の試料面14において照明する第3の照明光束15は、同時に、試料面9、10、14に沿って動かされ、これによって、各試料面9、10、14は連続的にスキャンされ、結果的に、試料のデータの3Dスタックが生成される。
【0046】
検出ビーム路は、偏向ミラー22を有しており、この偏向ミラーによって、第1の照明光束8によって照明された、第1の試料領域から出た検出光が、第1の面状検出器23に偏向される。検出ビーム路はさらに、第1のビームスプリッター21を有しており、この第1のビームスプリッターは、第2の照明光束12によって照明された試料領域から出た検出光を第2の面状検出器24に偏向する。検出ビーム路はさらに第2のビームスプリッター20を含んでおり、この第2のビームスプリッターは、第3の照明光束15によって照明された試料領域から出た検出光を第3の面状検出器25に偏向する。
【0047】
面状検出器23、24、25は、それぞれ、照明された試料領域の鮮明な結像が生じるように配置されている。検出時には、各検出部分光束の焦点が、照明光束8、10、15の運動に相応して、面状検出器23、24、25の表面上で、沿うように移動する。ここでは有利には、それぞれ、各面状検出器23、24、25の幅の狭い条片が1つだけアクティブ状態にされ、また隣接領域はそれぞれ非アクティブ状態にされている。このようにして、共焦点検出を可能にする各スリット検出器が実現されている。
【0048】
面状検出器23、24、25を、照明光束8、12、15の運動と同期して接続することによって、各面状検出器23、24、25の、アクティブ状態にされた各部分の共同運動、ひいては一種の「ローリングシャッター」、すなわち照明光束8、12、15の運動に同期して共に動くスリット検出器装置が実現される。このような方法の特に有利な小区分は、種々の試料面において種々の蛍光色素分子を例えば、異なるレーザー線で励起することである。この結果、色フィルタ、特に色バンドパスフィルタを用いて、かつ/または色ビームスプリッターを用いて、検出ビーム路における分離を行うことができる。
【0049】
図5は、第4の実施例の検出ビーム路および照明の概略図を示している。この実施例では、検出ビーム路内に、偏向角度に関して調整可能なビーム偏向装置26が配置されている。このビーム偏向装置26は、ガルバノ駆動部によって回転可能に支持されているミラー27を含んでいる。ビーム偏向装置26は、照明光束8、10、12の運動に同期して、次のように制御されている。すなわち、検出光の焦点が、
図4に示されている構成とは異なって、ライン検出器16、17、18の表面上を移動するのではなく、位置が固定されたままであるように制御されている。このような構成は、特に、固定された機械的な絞りも使用可能であるという特別な利点を有している。
【0050】
図6は、本発明の顕微鏡の第5の実施例の検出ビーム路および照明の概略図を示している。
図5に示されている構成とは異なり、唯一の面状検出器28が設けられている。ここで照明される各試料領域には、共通の面状検出器28上の唯一の検出領域が割り当てられている。全ての検出光束が鮮明に面状検出器28上に結像されていることを保証するために、各部分検出ビーム路に、光路長に影響を与える手段29が配置されている。これは、第1の比較的薄いガラスブロック30、第2の若干厚いガラスブロック31および第3のさらに厚いガラスブロック32である。これらのガラスブロックは、収差、特に球面収差を回避するために、相応に形成された表面を有することができる。
【0051】
図7は、第6の実施例のビーム路および照明の概略図を示している。この実施例は、検出ビーム路において、別の、偏向角度に関して調整可能なビーム偏向装置を含んでおり、これによって共焦点絞り33によってフィルタリングされた条片画像を、照明光束8、12、15の運動に同期して再びスキャンすることができ、これによって、各面状検出器23、24、25によって、空間的に続くアクティブ状態への切り替えを行う必要なく、直接的に、個々の試料面の共焦点画像データを記録することができる。
【0052】
図8は、ずらされた複数の照明線に沿った同時照明のための複数の照明光束8、12、15を生成する装置の例を示している。この装置は格子34を有しており、この格子34は、特にレーザー光源によって生成され得る一次照明光束35を空間的に分解する。照明光束8、12、15は、次にテレスコープ装置36を通走する。テレスコープ装置36は、付加的にフィルタ41も含むことができる。次に、偏向角度に関して調整可能なビーム偏向装置37が続き、これによって、照明光束8、12、15をそれぞれ、自身の試料面において動かすことができる。ビーム偏向装置37から到来する照明光束8、12、15は、スキャンレンズ38、チューブレンズ39を通過し、最終的に、照明対物レンズ40に達する。照明対物レンズ40を通過した後、照明光束8、12、15は直接的にまたは再度の偏向の後に、(ここに図示されていない)試料に達する。
【符号の説明】
【0053】
1 対物レンズ
2 照明線
3 ライン検出器
4 楔形体積体
5 検出PSF
6 楔形領域
7 第1の照明線
8 第1の照明光束
9 第1の試料面
10 第2の試料面
11 第2の照明線
12 第2の照明光束
13 第3の照明線
14 第3の試料面
15 第3の照明光束
16 第1のライン検出器
17 第2のライン検出器
18 第3のライン検出器
19 ライトシート
20 第2のビームスプリッター
21 第1のビームスプリッター
22 偏向ミラー
23 第1の面状検出器
24 第2の面状検出器
25 第3の面状検出器
26 ビーム偏向装置
27 回転可能に支持されているミラー
28 面状検出器
29 光路長に影響を与える手段
30 第1のガラスブロック
31 第2のガラスブロック
32 第3のガラスブロック
33 共焦点絞り
34 格子
35 一次照明光束
36 テレスコープ装置
37 ビーム偏向装置
38 スキャンレンズ
39 チューブレンズ
40 照明対物レンズ
41 フィルタ