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特許7094236変異AAV、及び、細胞、臓器並びに組織への遺伝子導入のための組成物、方法並びに使用法
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  • 特許-変異AAV、及び、細胞、臓器並びに組織への遺伝子導入のための組成物、方法並びに使用法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】変異AAV、及び、細胞、臓器並びに組織への遺伝子導入のための組成物、方法並びに使用法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20220624BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220624BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20220624BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20220624BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220624BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20220624BHJP
   A61K 35/76 20150101ALN20220624BHJP
   C12N 15/35 20060101ALN20220624BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N7/01 ZNA
C12N15/52 Z
A61K38/43
A61K48/00
A61P7/04
A61K35/76
C12N15/35
【請求項の数】 30
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019041018
(22)【出願日】2019-03-06
(62)【分割の表示】P 2016529835の分割
【原出願日】2014-07-22
(65)【公開番号】P2019116492
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2019-03-10
(31)【優先権主張番号】61/857,161
(32)【優先日】2013-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/985,365
(32)【優先日】2014-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】301040958
【氏名又は名称】ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
【氏名又は名称原語表記】THE CHILDREN’S HOSPITAL OF PHILADELPHIA
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】ハイ,キャサリン エー.
(72)【発明者】
【氏名】ヤジシオグル,ムスタファ,エヌ
(72)【発明者】
【氏名】アンゲラ,ザビエル
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-524386(JP,A)
【文献】特表2008-538286(JP,A)
【文献】国際公開第2013/078316(WO,A1)
【文献】Journal of Virology,2004年,Vol.78, No.12,p.6381-6388
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 7/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列ID番号:5に示すAAVカプシド配列を含む組換えAAV粒子であって、前記組換えAAV粒子のゲノムが、AAV逆方向末端反復(ITR)と、リソソーム蓄積症に関わる酵素をコードする異種ポリヌクレオチド配列とを含み、前記異種ポリヌクレオチド配列は発現制御要素に作動可能に連結されており、前記異種ポリヌクレオチド配列は、5’又は3’のAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接している、組換えAAV粒子。
【請求項2】
前記発現制御要素が構成的または制御可能な制御要素を含む、請求項1に記載の組換えAAV粒子。
【請求項3】
前記発現制御要素が組織特異的発現制御要素またはプロモーターを含む、請求項1に記載の組換えAAV粒子。
【請求項4】
前記組織特異的発現制御要素またはプロモーターが肝臓特異的である、請求項3に記載の組換えAAV粒子。
【請求項5】
前記発現制御要素が肝臓特異的エンハンサー・プロモーターを含む、請求項1に記載の組換えAAV粒子。
【請求項6】
前記発現制御要素がApoE-hAATエンハンサー・プロモーターである、請求項1に記載の組換えAAV粒子。
【請求項7】
前記異種ポリヌクレオチド配列がポリA配列に連結された、請求項1から6のいずれか1項に記載の組換えAAV粒子。
【請求項8】
前記組換えAAV粒子のゲノムが非翻訳領域をさらに含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の組換えAAV粒子。
【請求項9】
前記異種ポリヌクレオチド配列が5’及び3’のAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接している、請求項1から7のいずれか1項に記載の組換えAAV粒子。
【請求項10】
前記AAV逆方向末端反復(ITR)がAAV2に由来する、請求項1から9のいずれか1項に記載の組換えAAV粒子。
【請求項11】
配列ID番号:5のアミノ酸配列を有するVP1カプシドタンパクを含む組換えAAV粒子であって、前記組換えAAV粒子のゲノムが、5’から3’の順で、
(a)第1のAAV逆方向末端反復(ITR)と、
(b)肝臓特異的エンハンサー・プロモーターと、
(c)前記肝臓特異的エンハンサー・プロモーターに作動可能に連結されたリソソーム蓄積症に関わる酵素をコードするポリヌクレオチド配列と、
(d)ポリA配列と、
(e)第2のAAV逆方向末端反復(ITR)と
を含む、組換えAAV粒子。
【請求項12】
前記第1及び第2のAAV逆方向末端反復(ITR)がAAV2に由来する、請求項11に記載の組換えAAV粒子。
【請求項13】
前記肝臓特異的エンハンサー・プロモーターがApoE-hAATエンハンサー・プロモーターである、請求項11又は12に記載の組換えAAV粒子。
【請求項14】
前記組換えAAV粒子のゲノムが非翻訳領域をさらに含む、請求項11から13のいずれか1項に記載の組換えAAV粒子。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の組換えAAV粒子と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項16】
空のカプシドAAVをさらに含む請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
空のカプシドAAV-Rh74、又は配列ID番号:5のAAVカプシド配列を含む空のカプシドをさらに含む、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
請求項1から14のいずれか1項に記載の組換えAAV粒子を製造する方法であって、
請求項1から14のいずれか1項に記載の組換えAAV粒子のゲノムを含む組換えプラスミドを含むヘルパー細胞を培養する工程を備える、方法。
【請求項19】
請求項1から14のいずれか1項に記載の組換えAAV粒子を治療有効量含む、ポンペ病を治療するための医薬組成物。
【請求項20】
ポンペ病に関わる酵素に欠陥のある哺乳動物を治療するための医薬組成物であって、
配列ID番号:5のAAVカプシド配列を含む組換えAAV粒子であって、前記組換えAAV粒子のゲノムは、前記欠陥のある酵素の発現又は機能を修正することができる酵素をコードする異種ポリヌクレオチド配列を含み、前記異種ポリヌクレオチド配列は、当該異種ポリヌクレオチド配列の転写を付与する発現制御要素に作動可能に連結されている、
前記組換えAAV粒子を備える、医薬組成物。
【請求項21】
前記異種ポリヌクレオチド配列は、前記異種ポリヌクレオチド配列の転写を付与する発現制御要素に作動可能に連結されている、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項22】
ポンペ病に関わる前記酵素が、前記哺乳動物に対して治療的効果を有する、請求項19又は20に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記哺乳動物がポンペ病に関わる前記酵素、又はポンペ病に関わる欠陥若しくは異常を有する酵素を不十分な量だけ産生する、請求項20から22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記組換えAAV粒子は、静脈内への投与、動脈内への投与、筋肉内への投与、皮下への投与、挿管による投与、カテーテルを介する投与、又は、体腔内への投与のために配合される、請求項20から23のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記哺乳動物はヒトである、請求項20から24のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記哺乳動物は、AAV-Rh74以外のAAV血清型に対して血清学的に陽性である、請求項20から25のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記哺乳動物は、AAV血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、
AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10又はAAV11に対して血清学的に陽性である、請求項20から26のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記哺乳動物はAAV-Rh74に対して血清学的に陰性又は血清学的に陽性である、
請求項20から25のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項29】
空のカプシドAAVをさらに備える、請求項20から28のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記医薬組成物が、空のカプシドAAV-Rh74、又は配列ID番号:5の配列を含む空のカプシドをさらに備える、請求項20から28のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年4月28日に出願された米国特許仮出願第61/985,365号、及び2013年7月22日に出願された米国特許仮出願第61/857,161号からの優先権を主張するものであり、これらの出願の全内容は参照ににより本明細書に組み入れられる。
序文
【0002】
望ましい遺伝子における欠如若しくは欠陥(機能喪失)、又は、望ましくない若しくは欠陥を有する遺伝子の発現(機能獲得)によって引き起こされる遺伝性疾患は、様々な病気につながる。機能喪失による遺伝性疾患の一例としては、血友病が挙げられ、これは、第VIII凝固因子(FVIII、血友病A)又は第IX凝固因子(FIX、血友病B)の欠乏により引き起こされる遺伝性出血性疾患である。機能獲得による遺伝性疾患の一例としては、ハンチントン病が挙げられ、これは、変異タンパク質をコードする病態“HTT”遺伝子(ハンチンチン(huntingtin)タンパク質をコードする)によって引き起こされる病気であり、変異タンパク質が特に大脳基底核及び大脳皮質に蓄積して、次第に神経細胞破壊につながる。
【0003】
血友病の現在の治療方法では、出血が発生した場合に必要に応じて又は予防的に、組み換え型凝固因子を静脈内投与する。しかしながら、この治療方法には幾つかの欠点があり、例えば、点滴を繰り返し行う必要性、治療費の問題、抗治療因子免疫応答を発現するリスク、及び、命を奪うような出血につながるリスクが存在する。このような制約が存在することから、血友病に対する遺伝子ベースの治療法の開発が進められてきた。上記の観点において、血友病には、遺伝子導入ベースの治療法が適しており、理由として、まず、1)治療可能時間域(therapeutic window)が非常に広いことが挙げられ、通常の1%をわずかに超えるレベルで、すでに、表現型が重症から中程度へと変化し、100%のレベルであらゆる副作用と関係しないこと、更に、2)組織を特定した治療的導入遺伝子の発現を厳密に要求されないこと、および、3)治療効果の終点の測定について相当量の実施実績があること、が挙げられる。更に、凝固因子の肝発現により、凝固因子そのものに対する免疫寛容が誘起されることが分かっており、有害となり得る凝固因子に対する免疫反応の可能性を下げている。
【0004】
現在、アデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターは、遺伝子導入ベクターとして最適であると認識されているが、これは、生体内において優れた遺伝子送達の安全性及び有効性プロファイルを有しているからである。これまでに分離されているAAV血清型のうち、AAV2及びAAV8が、重度の血友病Bの患者の肝臓を標的として使用されてきた。いずれのベクターも有効に働くことが知られており、AAV8の場合、治療的導入遺伝子が長期的に発現することが報告されている。人体での最近のデータによれば、AAVベクターを使用して肝臓を標的とすることにより、治療レベルのFIX導入遺伝子が長期的に発現することが示されている。
【0005】
これらのデータから上記の血清型は将来も有望であると考えられるが、肝臓に対して高い指向性(tropism)を有すると共に人体内で低い血清陽性率(seroprevalence)を有するAAV血清型(野生型AAVの自然宿主)を新たに特定することは、次の2点を達成するために重要である。1)抗AAVカプシド免疫反応を引き起こすリスクを低減させるべく可能な限り低いベクター投与量で、肝臓における治療レベルの導
入遺伝子の発現を達成すること、及び、2)AAVに対する既存の液性免疫を有するためにAAV遺伝子導入ができない患者群に対する治療を、固有の血清陽性率を有する代替AAV血清型により可能とすること。本発明は、上記のような要望に対処し、更なる利点をもたらす。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、アデノ随伴ウィルス(AAV)血清型AAV-Rh74ベクター、及び、関連AAVベクター並びにウイルス粒子を提供する。このようなベクターとして、様々な細胞種のうち、肝臓の肝細胞を標的とするAAV-Rh74を含む。ポリヌクレオチド配列を送達するベクターとして、AAV-Rh74および関連AAVベクターは、細胞中のポリヌクレオチドの発現を活発にする。治療に使用されるタンパク質のようなタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、投与後に、治療レベルで発現させることができる。
【0007】
例示的なAAV-Rh74ベクター及び関連AAVベクターは、AAV-Rh74変異体を含む。特定のカプシド変異体は、RH74 VP1カプシド配列(配列ID番号:1)の第195、199、201、又は202番目のアミノ酸位置のいずれか1つをアミノ酸置換したRh74カプシド配列を含む。特定の態様において、残基は、RH74 VP1カプシド配列(配列ID番号:1)の第195、199、201、又は202番目のアミノ酸位置のいずれか1つにおけるA、V、P、又はNアミノ酸に対応する。さらに特定の態様において、カプシド配列はRH74 VP1カプシド配列(配列ID番号:1)の195番目のアミノ酸位置におけるA残基、199番目のアミノ酸位置におけるV残基、201番目のアミノ酸位置におけるP残基、又は202番目のアミノ酸位置におけるN残基を有する。さらに特定の態様において、カプシド配列は以下のうちの任意の2つ、3つ、又は4つすべてを有する。それらは、RH74 VP1カプシド配列(配列ID番号:1)の195番目のアミノ酸位置におけるA残基、199番目のアミノ酸位置におけるV残基、201番目のアミノ酸位置におけるP残基、又は202番目のアミノ酸位置におけるN残基、である。
【0008】
本発明の組換えAAV粒子は、RHM4-1(配列ID番号:5)、RHM15-1(配列ID番号:6)、RHM15-2(配列ID番号:7)、RHM15-3/RHM15-5(配列ID番号:8)、RHM15-4(配列ID番号:9)、又はRHM15-6(配列ID番号:10)などの任意のカプシド変異体のAAVカプシド配列を含む。特定の実施形態において、組換えAAV粒子はベクターゲノム(例えば、AAVベクターゲノムなどのウイルスベクター)をカプシド化又はパッケージする。このような本発明の組換えAAV粒子は、異種ポリヌクレオチド配列を含むウイルス(例えば、AAV)ベクターゲノムを含む。
【0009】
AAV-Rh74および関連AAVベクターは、前臨床および臨床設定で研究されているその他の幾つかの血清型よりも大幅に高かったポリヌクレオチドの導入で生成されるタンパク質の発現レベルを調整する。特に、AAV-Rh74は、マウス及び血友病Bの犬において、肝臓形質導入(transduction)の代表例であるAAV8に少なくとも劣らない又はそれを超える効率で、肝臓をポリヌクレオチドの標的とする。(図1及び図2を参照。)例えば、カプシド変異体RHM4-1(配列ID番号:5)などのAAV-Rh74変異体は、マウスにおいてAAV8と同等かそれよりも優れた、またRh74-AAVよりも優れた効率で肝臓をポリヌクレオチドの標的とする(例えば、図5参照)。さらに、ヒト以外の霊長目の動物におけるデータによって、AAV-Rh74及びRHM4-1などのAAV-Rh74変異体は、肝臓由来のhFIXの発現を仲介する際にAAV8の約2倍の効力を発揮することが示されている(例えば、図4及び6を参照)。
【0010】
したがって、AAV-Rh74、及びカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などの
AAV-Rh74変異体は、遺伝子コード配列のようなポリヌクレオチドを送達するのに使用することができ、所望の又は治療的な利点を提供できるタンパク質を発現させることができると共に、望ましくない又は欠陥を有する遺伝子の発現を低減する又は抑制する阻害ヌクレオチドについても使用できることから、様々な疾患を治療することができる。例えば、AAV-Rh74、及びAAV-Rh74カプシド変異体(例えば、RHM4-1)は、血友病A、B等を治療するべく治療遺伝子(例えば、FIX、FVIII)を細胞、組織、及び肝臓などの臓器に送達するためのベクターとして使用することができる。また、このようなAAV-Rh74、及びAAV-Rh74カプシド変異体(例えば、RHM4-1)ベクターは、その他の代謝異常又は血漿タンパク質欠乏等の幅広い疾患のために遺伝子を送達するのに使用することができる。又は、その他の治療目的で使用される遺伝子を送達するのに使用することができ、例えば、これに限定されないが、肝臓でゲノム編集を実行するのに使用されるジンクフィンガーヌクレアーゼ(zinc finger
nucleases)をコードする遺伝子、肝炎ウィルス感染を治療するためのアルファインターフェーロンのような免疫調整薬の局所的(肝臓)送達、又は、肝臓形質導入を必要とする若しくは血流に治療的導入遺伝子生成物を存在させること(肝臓で発現させるための導入遺伝子を標的とすることによって達成することができる)を必要とするあらゆる疾患に対する治療に使用することができる。
【0011】
インビトロ、生体内及び生体外でのAAV-Rh74ベクター、及びカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクターによるポリヌクレオチドの細胞への効率的な送達に加えて、ヒトにおける抗AAV-Rh74抗体の有病率(prevalence)は、抗AAV2抗体の有病率よりも低く、抗AAV8抗体の有病率とは異なる(表1)。血清有病率が低いために、AAV-Rh74ベクター、及びAAV-Rh74(カプシド)変異体(例えば、RHM4-1)などの関連AAVベクターを、例えば、その他のAAV血清型(例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11等)に対して血清学的に陽性であるヒトに対する遺伝子導入を含む、多くの人に使用可能である。加えて、AAV-Rh74ベクター、及びカプシド変異体(例えば、RHM4-1)を含むAAV-Rh74変異体などの関連ベクターは、高い力価(titer)で効率的に生成することができる(表2)。したがって、AAV-Rh74ベクター及び関連するAAVベクターを、より広い臨床疾患に対して大量に生成することができる。
【0012】
本発明はまた、AAVベクターゲノムを含む(カプシド化する、またはパッケージする)、組換えAAV-Rh74ベクター、及びカプシド変異体(例えば、RHM4-1)粒子などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクターを提供する。一実施形態では、組換えAAVベクターは、異種ポリヌクレオチド配列を含む。他の実施形態において、組換えAAVベクターゲノムはAAV-Rh74カプシド又は、カプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVによって、カプシド化又はパッケージされる。
【0013】
組換えAAVベクターゲノムを含む(カプシド化する、またはパッケージする)AAV-Rh74ベクター、及びAAV-Rh74(カプシド)変異体(例えば、RHM4-1)粒子などの関連AAVベクターなどの本発明の組換えAAVベクターにおいて、異種ポリヌクレオチド配列は転写されその後タンパク質に変換される。あるいは、異種ポリヌクレオチドは、それ自身が(例えば、阻害性核酸としての)機能又は活性を有する転写物へと転写されてもよい。
【0014】
種々の態様において、異種ポリヌクレオチド配列は治療効果を有するタンパク質をコードする。特定の実施形態では、当該タンパク質は、血液凝固因子(例えば第XIII因子、第IX因子、第X因子、第VIII因子、第VIIa因子またはプロテインC)、嚢胞
性線維性膜貫通調節因子(cystic fibrosis transmembrane regulator protein ; CFTR )、抗体、網膜色素上皮特異的 65 kDaタンパク質( retinal pigment epithelium-specific 65 kDa protein; RPE65)、エリスロポエチン(赤血球生成促進因子)、 LDL 受容体、リポタンパク質リパーゼ、 オルニチン・トランスカルバミラーゼ、βグロビン、αグロビン、スペクトリン、αアンチトリプシン、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、金属輸送体(ATP7AまたはATP7)、スルファミダーゼ(sulfamidase)、リソソーム蓄積症に関わる酵素(ARSA)、 ヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシルトランスフェラーゼ、β-25グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、リソソーム・ヘキソサミニダーゼ、分枝鎖ケト酸脱水素酵素、成長因子(例えば、インスリン様成長因子1および2、血小板由来成長因子、上皮成長因子、神経成長因子、神経栄養因子3および4、脳由来神経栄養因子、グリア細胞由来成長因子、形質転換成長因子α 、β等)、サイトカイン(例えばαインターフェロン、βインターフェロン、インターフェロンγ、インターロイキン2、インターロイキン4、インターロイキン12、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、リンホトキシン等)、自殺遺伝子産物(例えば、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ジフテリア毒素、チトクロームP450、デオキシシチジンキナーゼ、腫瘍壊死因子等)、薬剤耐性タンパク質(例えば癌治療に使われる薬剤に抵抗性を付与するタンパク質)、腫瘍抑制タンパク質(例えばp53、Rb、Wt-1、NF1、フォン・ヒッペル・リンドウ(Von Hippel-Lindau ; VHL)、大腸腺腫様ポリポーシス(APC))、免疫調節機能を有するペプチド、寛容原性もしくは免疫原性のペプチドまたはタンパク質Tregitopes(制御性T細胞エピトープ)、またはhCDR1、インスリン、グルコキナーゼ、グラニル酸シクラーゼ2D(LCA-GUCY2D)、Rabエスコートタンパク質1(先天性脈絡膜欠如)、LCA 5(LCA-レベルシリン)、オルニチンケト酸アミノ基転移酵素(脳回転状網膜脈絡膜萎縮)、レチノスキシン(Retinoschisin)1(X染色体連鎖性の網膜分離症)、USH1C(アッシャー症候群1C)、X染色体連鎖性の網膜色素変性症GTPアーゼ(XLRP)、MERTK(AR型の網膜色素変性症)、DFNB1(コネキシン26難聴)、ACHM 2、3および4(色覚異常)、PKD-1またはPKD-2(多発性嚢胞腎)、TPP1、CLN2、リソソーム蓄積症の原因となる遺伝的欠損(例えば、スルファターゼ、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸トランスフェラーゼ、カテプシンA、GM2-AP、NPC1、VPC2、スフィンゴ脂質活性化タンパク等)、ゲノムエディティングに用いられる一つまたは複数のジンク・フィンガーヌクレアーゼ、またはゲノムエディティングで修復テンプレートとして用いられるドナー配列である。
【0015】
付加的な態様では、異種ポリヌクレオチド配列は、治療用タンパク質をコードし、その結果として、患者に存在する望ましくないまたは異常な(機能不全)タンパク質(内因性タンパク質)の発現または機能を阻害する。さらに他の態様では、異種ポリヌクレオチド配列は、転写されると抑制性核酸(例えば抑制性RNA)に転写されるポリヌクレオチドである。さらに他の態様では、抑制性核酸は一本鎖配列であるか、または二本鎖配列または三本鎖配列を形成する。さらに他の態様では、抑制性核酸はマイクロRNA(miRNA)、siRNA、shRNA、トランススプライシングRNA、アンチセンスRNA、または三重鎖形成RNAである。
【0016】
さらに他の態様では、抑制性核酸は、ハンチンチン(HTT)遺伝子、歯状核赤核淡蒼球ルイ体委縮症に関連する遺伝子(例えばアトロフィン1(ATN1))、球脊髄性筋萎縮症におけるX染色体上のアンドロゲン受容体、ヒトアタキシン(Ataxin)1,2,3および7、CACNA1Aにコードされる電位依存性カルシウムチャンネルCav
.1 P/Q 、TATA結合タンパク質、ATXN8OSとしても知られるアタキシン8逆鎖、脊髄小脳失調におけるセリン・スレオニンタンパク質ホスファターゼ2Aの55
kDa調節サブユニットBベータアイソフォーム(1,2,3,6,7,8,12,17型)、脆弱性X症候群におけるFMR1 (脆弱性X精神遅滞1)、脆弱X関連震戦/運動失調症候群におけるFMR1(脆弱性X精神遅滞1),脆弱性XE精神遅滞におけるFMR1(脆弱性X精神遅滞2)またはAF4/FMR2ファミリーメンバー2(AF4/FMR2 family member 2)、筋強直性ジストロフィー症におけるミオトニンタンパク質キナーゼ(Myotonin-protein kinase)(MT-PK)、フリートライヒ運動失調症におけるフラタキシン(Frataxin)、筋萎縮性側索硬化症における変異型スーパーオキシドディスムターゼ1(SOD1)遺伝子、パーキンソン病および/またはアルツハイマー病の発症機序に関与する遺伝子、アポリポタンパク質B(APOB) および前駆タンパク質変換酵素サブチリシン/ケキシンタイプ9(PCSK9)、高コレステロール血症、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染におけるHIV転写トランス活性化因子遺伝子、HIV Tat、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染におけるHIVトランス活性化因子応答配列遺伝子、HIV TAR、HIV感染におけるC-Cケモカイン受容体(CCR5)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)感染におけるRSVヌクレオカプシドタンパク質、C型肝炎ウイルス感染における肝臓特異的マイクロRNA(miR-122)、p53、急性腎損傷または移植腎機能発現遅延または腎損傷急性腎不全、進行した再発性または転移性の固形悪性腫瘍におけるタンパク質キナーゼN3(PKN3)、転移性黒色腫におけるLMP2、LMP2はプロテアソームサブユニットベータ9型(PSMB 9)としても知られる、転移性黒色腫におけるLMP7、プロテアソームサブユニットベータ8型(PSMB 8)としても知られる、転移性黒色腫におけるプロテアソームサブユニットベータ10型(PSMB 10)としても知られるMECL1、固形腫瘍における血管内皮成長因子(VEGF)、固形腫瘍におけるキネシン紡錘タンパク質、慢性骨髄性白血病におけるアポトーシス抑制B細胞CLL/リンパ腫(BCL-2)、固形腫瘍におけるリボヌクレオチド還元酵素M2(RRM2)、固形腫瘍におけるフーリン(Furin)、肝臓がんにおけるpolo様キナーゼ1(PLK1)、C型肝炎感染におけるジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ1(DGAT1)、家族性大腸腺腫症におけるベータカテニン、緑内障におけるベータアドレナリン受容体、糖尿病性黄斑浮腫(DME)または加齢に伴う黄斑変性症におけるDAN損傷誘導性転写物4タンパク質としても知られるRTP801/Redd1、加齢に伴う黄斑変性症または脈絡膜血管新生における血管内皮成長因子受容体I(VEGFR1)、非動脈炎性虚血性視神経症におけるカスパーゼ2、先天性爪肥厚症におけるケラチン6A N17K 変異型タンパク質、インフルエンザ感染におけるインフルエンザA型ウイルスのゲノム・遺伝子配列、重症急性呼吸器症候群(SARS)感染におけるコロナウイルのゲノム・遺伝子配列、呼吸器合胞体ウイルス感染における呼吸器合胞体ウイルスのゲノム・遺伝子配列、エボラ感染におけるエボラフィロウイルスのゲノム・遺伝子配列、B型およびC型肝炎感染におけるB型およびC型肝炎ウイルスのゲノム・遺伝子配列、単純ヘルペスウイルス(HSV)感染におけるHSVウイルスのゲノム・遺伝子配列、コクサッキーウイルスB3感染におけるコクサッキーウイルスB3のゲノム・遺伝子配列、原発性筋失調症におけるトルシンA(TOR1A)の様な遺伝子の病原性対立遺伝子のサイレンシング(対立遺伝子特異的サイレンシング)、移植における汎クラスIおよびHLA対立遺伝子特異的(サイレンシング)、常染色体優性遺伝性網膜色素変性症(adRP)における変異型ロドプシン遺伝子、または前記の遺伝子または配列のいずれかの転写物に結合する抑制性核酸の発現を阻害する。
【0017】
組換えAAVベクターゲノムを含む(カプシド化する、またはパッケージする)本発明の組換えAAVベクター、及びAAV-Rh74ベクター並びにカプシド変異体(例えば、RHM4-1)粒子などのAAV-Rh74ベクター変異体などの関連AAVベクターは、シスまたはトランスで機能する追加の要素を含む。特定の実施形態において、組換えAAVベクターゲノムを含む(カプシド化する、またはパッケージする)、組換えウイルス(例えば、AAV)ベクター、及び/又はAAV-Rh74ベクターもしくはAAV-
Rh74(カプシド)変異体(例えば、RHM4-1)粒子などの関連AAVは、以下をも有する。それらは、異種ポリヌクレオチド配列の5’末端または3’末端に隣接する一つ以上の逆方向末端反復(ITR)配列、異種ポリヌクレオチド配列の転写を駆動する発現制御配列(例えば、構成型の又は調整可能な制御要素などの、異種ポリヌクレオチド配列の転写に貢献するプロモータ又はエンハンサ、又は組織特異型の発現制御要素)、異種ポリヌクレオチド配列の3’に配置されるポリアデニン配列、選択可能なマーカー(例えば、カナマイシン耐性などの抗生物質に対する耐性を提供するタンパク質)、及び/又は複製基点、である。
【0018】
また、組換えAAVベクターゲノムを含む(カプシド化する、またはパッケージする)本発明の組換えAAVベクター、及びAAV-Rh74ベクター並びにカプシド変異体(例えば、RHM4-1)粒子を含むAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクターは、追加の要素を含み得る。一実施形態では、組換えベクターゲノムは、異種ポリヌクレオチド配列と、フィラー(filler)ポリヌクレオチド配列またはスタッファー(stuffer)ポリヌクレオチド配列を含む。特定の態様では、異種ポリヌクレオチド配列は、約4.7Kb未満の長さを有する。さらに特定の態様では、異種ポリヌクレオチド配列は、長さが約4.7Kb未満で、アデノ随伴ウイルス(AAV)の二か所のITR配列の内側に位置するものとする。さらに特定の態様では、異種ポリヌクレオチド配列とフィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列を合わせた全体の長さは、約3.0~5.5Kb、または約4.0~5.0Kb、または約4.3~4.8Kbとする。
【0019】
フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列は、ベクターの機能または活性を損なわない限り、ベクター配列内の任意の所望の位置に配置することができる。ある態様では、フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列は、異種ポリヌクレオチド配列の5’ 末端および/または3’末端の外側にそれぞれ隣接する5’側および/または3’側ITR配列の間には配置されないものとする。別の態様では、フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列は、異種ポリヌクレオチド配列の5’末端および/または3’末端の外側にそれぞれ隣接する5’側および/または3’側ITR配列の間に配置されるものとする。さらに別の態様では、フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列は、異種ポリヌクレオチド配列の5’末端および/または3’末端の外側にそれぞれ隣接する5’側および/または3’側ITR配列に隣接して配置されるものとする。またさらに別の態様では、フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列は、例えばゲノム核酸中のイントロンのように異種ポリヌクレオチド配列内に配置されるものとする。
【0020】
従って、種々の実施形態では、1つのフィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列は、AAVのITR配列に隣接する、または、1つのフィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列は、アデノ随伴ウイルス(AAV)の2か所のITR配列の内側に位置する、または、1つのフィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列は、アデノ随伴ウイルス(AAV)の2か所のITR配列の外側に位置する、または、2つのフィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列があり、第1のフィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列はアデノ随伴ウイルス(AAV)の2か所のITR配列の内側に位置し、第2のフィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列はアデノ随伴ウイルス(AAV)の2か所のITR配列の外側に位置することになる。
【0021】
さらに特定の態様では、フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列がアデノ随伴ウイルス(AAV)の二か所のITR配列の間に位置する場合には、異種ポリヌクレオチド配列とフィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列を合わせた全体の長さは、約3.0~5.5Kb、または約4.0~5.0Kb、または約4.3~4.8Kbとする。また別の特定の態様では、フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列がアデノ随伴ウイルス(AAV)の二か所のITR配列の外側に位置する場合には、フィラーま
たはスタッファーポリヌクレオチド配列の長さは4.7Kbを超えるものとし、約5.0~10.0Kbまたは約6.0~8.0Kbとする。
【0022】
さらにまた種々の実施形態では、フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列は、その長さが約1~10、10~20、20~30、30~40、40~50、50~60、60~75、75~100、100~150、150~200、200~250、250~300、300~400、400~500、500~750、750~1,000、1,000~1,500、1,500~2,000、2,000~2,500、2,500~3,000、3,000~3,500、3,500~4,000、4,000~4,500、4,500~5,000、5,500~6,000、6,000~7,000、7,000~8,000または8,000~9,000ヌクレオチドの配列とする。
【0023】
通常は、フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列は不活性または無害であり、機能や活性を有しない。種々の特定の実施形態では、フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列は細菌のポリヌクレオチド配列ではなく、フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列はタンパク質やペプチドをコードする配列ではなく、フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列は異種ポリヌクレオチド配列、AAV逆方向末端反復配列(ITR)、発現制御要素、複製起点、選択マーカーまたはポリアデニン(poly-A)配列のいずれとも異なる配列である。
【0024】
また他の種々の実施形態では、フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列は、異種ポリヌクレオチド配列に関連する、または関連しないイントロン配列とする。特定の実施形態では、イントロン配列は異種ポリヌクレオチド配列の内部に位置する。また別の実施形態では、イントロン配列は、イントロンがタンパク質をコードし、そのタンパク質が異種ポリヌクレオチド配列によってもコードされるようなゲノムDNA内にあるため、異種ポリヌクレオチド配列と関連する。
【0025】
また、組換えAAVベクターゲノムを含む(カプシド化する、またはパッケージする)本発明の組換えAAVベクター、及びAAV-Rh74ベクター並びにカプシド変異体(例えば、RHM4-1)粒子を含むAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクターは、細胞内に含まれ得る。そのような実施形態においては、細胞は、溶解されてウイルス(AAV)粒子(例えば、AAV-Rh74ベクター又はAAV-Rh74カプシド変異体(例えば、RHM4-1)などの関連AAVベクター)を産生するヘルパー細胞、または異種ポリヌクレオチド配列がその内部で発現することが望ましい標的細胞を含んでいる。
【0026】
また、組換えAAVベクターゲノムを含む(カプシド化する、またはパッケージする)本発明の組換えAAVベクター、及びAAV-Rh74ベクター並びにAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)粒子などの関連AAVベクターは、医薬組成物内に含まれ得る。このような組成物は、組換えベクター(例えば、AAV)ゲノムを含む(カプシド化する、またはパッケージする)組換えベクター(例えば、AAV)、及びAAV-Rh74ベクター並びにAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAVベクターを患者に投与する際に有用である。
【0027】
また、組換えAAVベクターゲノムを含む(カプシド化する、またはパッケージする)本発明の組換えAAVベクター、及びAAV-Rh74ベクター並びにAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)粒子などの関連AAVベクターは、種々の方法及び使用法に採用することができる。従って、生体又は細胞に、例えば、哺乳動物又は哺乳動物の細胞に、異種ポリヌクレオチド配列を送達する又は導入する方法及び使用法を提供する。
【0028】
一実施形態において、方法又は使用法は、ベクターゲノムを含む(カプシド化する、パッケージする)(例えば、AAV-Rh74ベクター、又はAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAVによる)異種ポリヌクレオチド配列の粒子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを、好適な条件の下で、哺乳動物に又は哺乳動物の細胞に投与し、当該異種ポリヌクレオチド配列を当該哺乳動物に又は哺乳動物の細胞に送達又は導入する段階を含む。一実施態様では、方法又は使用法は、異種ポリヌクレオチドを哺乳動物及び/又は細胞へと導入/送達することを可能にする。別の態様では、方法は、異種ポリヌクレオチドの哺乳動物及び/又は細胞への導入/送達を可能とし、次いで、異種ポリヌクレオチドの転写により、転写物を形成する。更なる態様では、方法は、異種ポリヌクレオチドの細胞への導入/送達を可能とし、次いで、転写により転写物を形成して、次いで、翻訳(translation)を行って遺伝子産物(タンパク質)を形成する。より詳細には、例えば、後述の2つの態様において、異種ポリヌクレオチド配列は、異種ポリヌクレオチド配列の転写を付与する発現制御要素と操作可能に結合され、必要に応じて更に、転写物の翻訳が行われる。
【0029】
付加的な実施形態では、方法又は使用法は、異種ポリヌクレオチド配列を被験体(例えば哺乳類)または被験体(例えば哺乳類)の細胞に送達または輸送するためのものであり、一つのウイルス(例えば、AAV-Rh74、又はAAV-Rh74カプシド変異体(例えば、RHM4-1)などの関連AAV)粒子、複数の該ウイルス(例えばAAV)粒子、または一つの該ウイルス(例えば、AAV-Rh74、又はAAV-Rh74カプシド変異体(例えば、RHM4-1)などの関連AAV)粒子または複数の該ウイルス(例えばAAV)粒子を含む医薬組成物を被験体(例えば哺乳類)または被験体(例えば哺乳類)の細胞に投与することを含む。これによって、異種ポリヌクレオチド配列を被験体(例えば哺乳類)または被験体(例えば哺乳類)の細胞に送達または輸送するものである。別の実施形態では、方法又は使用法は、タンパク質の発現または機能に不足のある、またはタンパク質の発現または機能を必要とする、または内因性タンパク質(例えば望ましくない、異常な、または機能不全のタンパク質)の発現または機能を低下させる必要のある被験体(例えば哺乳類)を治療するためのものであり、一つのウイルス(例えば、AAV-Rh74、及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAV)粒子、複数の該ウイルス(例えばAAV)粒子、または一つのウイルス(例えば、AAV-Rh74、及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAV)粒子または複数の該ウイルス(例えばAAV)粒子を含む医薬組成物を提供すること、および一つのウイルス(例えば、AAV-Rh74、及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAV)粒子、複数の該ウイルス(例えばAAV)粒子、または一つのウイルス(例えば、AAV-Rh74、及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAV)粒子または複数の該ウイルス(例えばAAV)粒子を含む医薬組成物を被験体(例えば哺乳類)に投与することを含む。ここで、異種ポリヌクレオチド配列は哺乳類で発現される。または、ここで、異種ポリヌクレオチド配列は、被験体(例えば哺乳類)において内因性タンパク質(例えば望ましくない、異常な、または機能不全のタンパク質)の発現または機能を低下させるような抑制性配列またはタンパク質をコードするものとする。
【0030】
投与または送達のための方法と使用法は、被験体に適合するいかなる様式であってもよい。特定の実施形態では、一つのウイルス(例えば、AAV-Rh74、又はAAV-Rh74カプシド変異体(例えば、RHM4-1)などの関連AAV)粒子または複数の該ウイルス(例えばAAV)粒子(例えば、AAV-Rh74ベクター、又はAAV-Rh74カプシド変異体(例えば、RHM4-1)などの関連AAVベクター)は、静脈内に、動脈内に、筋肉内に、皮下に、口腔内に、挿管により、カテーテルを経て、皮膚に,頭
蓋内に、吸入により、腔内に、または粘膜に投与または送達される。
【0031】
被験体には、ヒトやヒト以外(例えば霊長目)の哺乳類が含まれる。ある特定の実施形態では、被験体は異種ポリヌクレオチド配列の発現により恩恵を受けるかまたはその発現を必要とする。
【0032】
本発明において、組換えベクター(例えばAAV)プラスミドおよび組換えベクター(例えばAAV)を含む(カプシド化する、またはパッケージする)ウイルス(例えば、AAV-Rh74、及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAV)粒子を生産する方法が提供される。ある実施形態では、組換えウイルスまたはAAV粒子を生産する方法は、組換えベクター(例えばAAV)プラスミドをパッケージングヘルパー細胞に導入してウイルス(例えば、AAV-Rh74、及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAV)を増殖感染させること、および組換えウイルス(例えば、AAV-Rh74、又はAAV-Rh74カプシド変異体(例えば、RHM4-1)などの関連AAV)粒子を産生できるような環境下でヘルパー細胞を培養することを含む。他の実施形態では、夾雑核酸の存在する組換えウイルスベクターを含む組換えウイルス(例えば、AAV-Rh74、及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAV)粒子の量を減少させた組換えウイルスまたはAAV粒子を生産する方法は、組換えベクター(例えばAAV)プラスミドをパッケージングヘルパー細胞に導入してウイルス(例えばAAV)を増殖感染させること、および組換えウイルス(例えば、AAV-Rh74、及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAV)粒子を産生できるような環境下でヘルパー細胞を培養することを含む。ここで、生産された組換えウイルス(例えば、AAV-Rh74、及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAV)粒子は、夾雑核酸の存在する組換えウイルスベクターゲノムを含むウイルス(例えば、AAV-Rh74、及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAV)粒子の数が、組換えウイルスベクター内にフィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列の無い条件で生産された場合の夾雑核酸の存在するウイルス(例えば、AAV-Rh74、及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAV)粒子の数と比べて減少している。ある実施形態では、夾雑核酸は、細菌核酸、または異種ポリヌクレオチド配列、ITR、プロモーター、エンハンサー、複製の起点、ポリA配列または選択マーカー以外の配列とする。
【0033】
ヘルパー細胞は、哺乳類の細胞を含む。ある実施形態では、ヘルパー細胞は、異種ポリヌクレオチド配列をウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74ベクター、及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAVベクターなどのAAV粒子)にパッケージするヘルパー(例えばAAV)機能を提供する。ある実施形態では、ヘルパー細胞はAAVのRepおよび/またはCapタンパク質(例えばRep78および/またはRep68タンパク質)を提供する。ヘルパー細胞は、Repおよび/またはCapタンパク質の配列をコードするポリヌクレオチドによって、安定的にまたは一時的にトランスフェクトされる。ヘルパー細胞は、Rep78および/またはRep68タンパク質の配列をコードするポリヌクレオチドによって、安定的にまたは一時的にトランスフェクトされる。
【0034】
本発明の組換えベクター(例えばAAV)プラスミドは、いかなる株、または異なる血清型からなるハイブリッドまたはキメラを含めいかなる血清型に基づくものであってよい。本発明の組換えウイルス(例えば、AAV)粒子は、通常はAAV-Rh74、又はAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAVに基づくが、異なる血清型を有するハイブリッド又はキメラを含む。代表的なAAVの血
清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびRh10を含むが、これらに限定されるものではない。したがって、ベクターゲノムを含む本発明の組換えウイルス(例えばAAV)粒子は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、またはRh10血清型のVP1、VP2またはVP3カプシドタンパク質のように、異なる血清型、血清型の混合物、または異なる血清型からなるハイブリッドまたはキメラに由来するカプシドタンパク質を含み得る。さらに、本発明の組換えベクター(例えばAAV)、配列、プラスミド、ベクターゲノムは、任意の単一の血清型、血清型の混合物、または異なる血清型からなるハイブリッドまたはキメラに由来する要素を含んでよい。種々の実施形態において、組換えAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、Rh74またはRh10の血清型、または前記のAAV血清型のうち任意のものを含んでなる混合ハイブリッドまたはキメラに由来するCap、Repおよび/またはITRを含む。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】尾静脈からAAVベクターを注入し、肝臓固有のプロモータの制御の下でFIX導入遺伝子を発現したC57BL/6マウス(1グループn=5)におけるヒト第IX因子(FIX)血漿中濃度を示している。ベクター投与量は、マウス1匹あたり2.510ベクターゲノム(vector genomes)である。FIX導入遺伝子産物(FIXタンパク質)血漿中濃度は、遺伝子導入の後、第1週、第2週及び第4週にELISAによって測定された。AAV-Rh74により、高い水準のFIX導入遺伝子の発現が提供された。
【0036】
図2】1キログラム(kg)重量あたり312ベクターゲノムの送達を行った後の、血友病Bの犬におけるイヌFIX血漿中濃度を示している。AAVベクターは、伏在静脈を介して静脈内(IV)注入されて、FIX濃度はELISAによってモニタされた。治療的FIX導入遺伝子の発現は、肝臓固有のプロモータによって活性化された。AAV8ベクター及びAAV-Rh74ベクターは、血友病Bのイヌにおいてほぼ等しく機能して、AAV6を超える成績となった。
【0037】
図3A-3E】AAV-Rh74 VP1、VP2及びVP3アミノ酸配列、及び、VP1については、ポリヌクレオチド(DNA)配列(配列ID番号:1-4)を示す。
【0038】
図4】ヒト第IX因子(FIX)を発現するAAV8及びAAVrh74ベクターのアカゲザル、非ヒト霊長類への投与(肝臓固有のプロモータの制御の下で)、及び、動物におけるFIXの発現を示した図である。同量が投与されたその他のグループの動物と比較して、AAVrh74-FIXベクターを投与された動物(右の余白に向かって少なくとも2つの棒)は、高レベルのFIX導入遺伝子を発現した。
【0039】
図5】指示されたAAV(RHM4-1変異体などのRh74変異体)によってカプシド化されたAAVヒト第IX因子発現ベクターを投与された動物における血漿中ヒト第IX因子の発現レベルを、Rh74及びAAV8によってカプシド化されたAAVヒト第IX因子発現ベクターと比較して示す。
【0040】
図6】ヒト第IX因子を発現するAAV8及びAAV-Rh74変異体RHM4-1ベクターのカニクイザル、非ヒト霊長類への投与(肝臓固有のプロモータの制御の下で)、及び、動物におけるFIXの発現を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、少なくとも部分的に、アデノ随伴ウィルス(AAV)血清型AAV-Rh74及びAAV-Rh74カプシド変異体(例えば、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6)などの関連AAV変異体が、肝臓の細胞である肝細胞(hepatocytes)に対して高い指向性を有することを示すデータに基づく。ポリヌクレオチド(例えば、遺伝子、阻害性核酸など)の細胞への導入/送達のためのベクターとして、AAV-Rh74、及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6などのカプシド変異体)などの関連AAV変異体を用いて、静脈投与後の肝臓における治療レベルの発現を提供することができる。更に、AAV-Rh74ベクター及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6などのカプシド変異体)などの関連AAV変異体は、他の幾つかの血清型よりも大幅に高くなっている遺伝子導入/送達で生成されたタンパク質の発現レベルを調整している(例えば、図1、2、4、5、及び6参照)。特に、AAV-Rh74ベクター及び関連AAV-Rh74カプシド変異体(例えば、RHM4-1)は、血友病Bの犬において、及び/又はマウス及び/又はカニクイザルにおいて、肝臓形質導入の代表例であるAAV8に少なくとも劣らない、及び通常はそれを超える効率で、肝臓に送達される遺伝子を標的とすることができる。したがって、AAV-Rh74ベクター及びAAV-Rh74カプシド変異体(例えば、RHM4-1)などの関連AAV変異体を、所望の又は治療的利点をもたらすタンパク質のコード配列(遺伝子)のような異種ポリヌクレオチド、及び、望ましくない又は欠陥を有する(例えば、病理的)遺伝子の発現を低減する又は抑制する阻害(例えば、アンチセンス)ヌクレオチドを導入/送達するのに使用することができることから、様々な疾患を治療することができる。例えば、異種ポリヌクレオチドを細胞内に導入/送達するために、組換えベクター(例えば、AAV)ゲノムを、AAV-Rh74ベクター又はAAV-Rh74カプシド変異体(例えば、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6)などの関連AAV変異体内でパッケージ又はカプシド化できる。
【0042】
上記したように、アデノ随伴ウィルス(AAV)血清型AAV-Rh74及びAAV-Rh74カプシド変異体(例えば、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6)などの関連AAV変異体は、生体外、インビトロ及び生体内において、ポリヌクレオチド配列の細胞内への送達の手段を提供する。このようなポリヌクレオチド配列は、ポリヌクレオチドが送達される細胞が、コードされたタンパク質を発現するように、タンパク質をコードすることができる。例えば、組換えAAVベクターは、所望のタンパク質若しくはペプチドをコードする異種ポリヌクレオチド、又は、転写された場合に阻害配列(例えば、RNA)、例えば、発現を阻害する遺伝子を標的とする配列、を含む異種ポリヌクレオチド、を含むことができる。したがって、対象(例えば、哺乳動物)へのベクター送達及び投与は、タンパク質及びペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドだけでなく、対象における発現又は機能を阻害するための遺伝子を標的とする阻害性核酸(inhibitory nucleic acids)を対象に提供する。
【0043】
従って、本発明により、ペプチド及びタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列、および直接的にまたは転写されて標的とする遺伝子の発現または機能を阻害する抑制的核酸を含んでなる異種ポリヌクレオチド配列を含む、ベクターゲノムを含む(カプシド化する又はパッケージする)AAV-Rh74ベクター及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6などのカプシド変異体)などの関連AAVベクター
変異体が提供される。
【0044】
組換え「ベクター」又は「AAVベクター」は、AAVなどのウイルスの野生型ゲノムに由来し、分子学的手法を用いてウイルス(例えばAAV)から野生型ゲノムを取り除き、異種ポリヌクレオチド配列(例えば治療的遺伝子発現カセット)の様な外来の核酸で置換している。通常は、AAVの場合には、野生型AAVゲノムの逆方向末端反復(ITR)配列の片方または両方がAAVベクターに残される。異種ヌクレオチド配列などのウイルス(例えば、AAV)ゲノム核酸については、ウイルスゲノムの全体または一部が外来の配列によって置換されているので、組換えウイルスベクター(例えばAAV)はウイルス(例えばAAV)ゲノムとは区別される。従って、異種ポリヌクレオチド配列などの外来の配列が組み入れられている場合に、そのウイルスベクター(例えばAAV)は「組換え」ベクターであると定義され、AAVの場合には該「組換え」ベクターを「rAAVベクター」と称することがある。
【0045】
従って、組換えベクター(例えばAAV)配列は、細胞をex vivo、in vitroまたはin vivoで感染(形質転換)させるためにウイルス(ここでは“粒子”または“ビリオン”とも称される)内にパッケージされ得る。組み替えベクター配列がAAV粒子内にカプシド化またはパッケージされている場合、その粒子を「rAAV」と称することがある。該ウイルス粒子またはビリオンは、通常、ベクターゲノムをカプシド化またはパッケージするタンパク質を含む。例として、エンベロープタンパク質と、AAVの場合にはカプシドタンパク質が挙げられる。
【0046】
特定の実施形態では、組換えベクター(例えばAAV)はパルボウイルス(parvovirus)ベクターである。パルボウイルスは、一本鎖DNAゲノムを有する小型のウイルスである。「アデノ随伴ウイルス(AAV)」はパルボウイルス科に属する。
【0047】
AAVを含むパルボウイルスは、核酸・遺伝物質が細胞内で安定に維持されるよう、細胞内に進入し核酸・遺伝物質を導入できるので、遺伝子治療用ベクターとして有用なウイルスである。さらに、これらのウイルスは、核酸・遺伝物質を特異的な部位、例えば第19染色体上の特定の部位に導入できる。AAVはヒトの病原性疾患に関与しないので、AAVベクターは実質的なAAV関連の病原性または疾患を引き起こすことなく、患者に異種ポリヌクレオチド配列(例えば治療的タンパク質および薬剤)を送達できる。
【0048】
AAV-Rh74及びAAV-Rh74などの関連AAV変異体又はAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1などのカプシド変異体)などの関連AAVの血清型(例えば、VP1、VP2及び/又はVP3配列)は、例えば、AAV1-AAV11又はRh10を含むそのほかのAAV血清型とは異なる又は異ならない(例えば、AAV1-AAV11又はRh10血清型のうちの何れかのVP1、VP2及び/又はVP3配列とは異なる)。本明細書において使用されている“血清型(serotype)”という言葉は、その他のAAV血清型とは、血清学的に異なるカプシドを有するAAVを指すのに使用されている。血清学的な区別は、一のAAVと別のAAVとを比較した場合に、抗体間に交差反応がないことに基づいて決定される。このような交差反応の違いは通常、カプシドタンパク質配列/抗原決定基における違いによるものである(例えば、AAV血清型のVP1、VP2及び/又はVP3配列の違い)。カプシド変異体を含むAAV-Rh74変異体がRh74又は他のAAVと血清学的に異なっていない可能性があるにも関わらず、これらのAAV-Rh74変異体は、Rh74又は他のAAVと比較して少なくとも1つのヌクレオチド又はアミノ酸残基が異なっている。
【0049】
従来の定義では、血清型とは、興味の対象となるウイルスを性質が既知のすべての既存血清型に特異的な血清に対して中和活性試験を行い、対象ウイルスを中和する抗体が存在
しないことを意味する。自然界に存在するウイルスのより多くの単離株が発見され、カプシドの突然変異体が作出されるにつれて、現存する血清型との間の差異は必ずしも存在しない可能性がある。従って、新しいウイルス(例えばAAV)に血清学的な差異が認められない場合、この新しいウイルス(例えばAAV)は、対応する血清型の亜群または変異体となる。多くの場合、カプシド配列が改変された突然変異ウイルスについては、血清型の従来の定義に基づいてそれらが他の血清型に属するか否かを決定するための、中和活性の血清学試験は行われていない。従って、便宜上、また重複を避けるため、「血清型」という用語は、血清学的に異なるウイルス(例えばAAV)および血清学的には差異が無くある血清型の亜群または変異体に属するウイルス(例えばAAV)の両者を幅広く指す。
【0050】
組換えベクター(例えばAAV)プラスミド、ならびにそれらの方法と使用法は、いかなるウイルス株または血清型を含む。非限定的な例としては、組換えベクター(例えばAAV)は、例えば、AAV-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-rh74、-rh10、およびAAV-2i8の様な、いかなるAAVゲノムにも依拠することができる。該ベクターは、同一または互いに異なる株または血清型(または亜群または変異体)に依拠してよい。非限定的な例としては、一つの血清型ゲノムに依拠する組換えベクター(例えばAAV)プラスミドは、該ベクターをパッケージする一つ以上のカプシドタンパク質と同一であってよい。さらに、組換えベクター(例えばAAV)プラスミドは、AAV(例えば、AAV2)血清型ゲノムに依拠することができ、該ゲノムはベクターをパッケージする一つ以上のカプシドタンパク質と異なっている。この場合、三つのカプシドタンパク質のうち少なくとも一つは、例えば、AAV-Rh74又はAAV-Rh74などの関連AAV変異体又はAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6などのカプシド変異体)などの関連AAVであってもよい。
【0051】
AAV-Rh74は、AAV-Rh74の配列特徴と同一の遺伝子/タンパク質配列を有する(例えば、図3Aから図3EのVP1、VP2、VP3参照)。本明細書で使用されている“AAV-Rh74に関連するAAVベクター”という言葉及びその同意語は、AAV-Rh74を含む一の又は複数のポリヌクレオチド又はポリペプチド配列と、大部分が同一の配列を有する一の又は複数のAAVタンパク質(例えば、VP1、VP2及び/又はVP3配列)を指す。したがって、このようなAAV-Rh74関連のAAVベクターは、AAV-Rh74とは異なる一の又は複数の配列を有する場合があるが、AAV-Rh74の一の又は複数の遺伝子と実質的に同一である配列を示す、及び/又は、AAV-Rh74の一の又は複数の機能的特徴を有する(例えば、細胞/組織の指向性)。例えば、AAV-Rh74関連のAAV変異体RHM4-1は、Rh74カプシドとは異なる4つのアミノ酸を持つカプシドを有する。例示的なAAV-Rh74及びAAV-Rh74などの関連AAV変異体又はAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6などのカプシド変異体)などの関連AAVの配列は、本明細書で述べた、例えば図3Aから図3EにおけるVP1、VP2及び/又はVP3を含む。非制限的な実施形態の一例では、AAV-Rh74関連のAAVベクターは、図3Aから図3Eに記載されるAAV-Rh74 VP1、VP2及び/又はVP3配列のうちの一つ又は複数と少なくとも80%又は80%を超える割合で(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%等)同一の配列を含む又は同一の配列で構成されるポリヌクレオチド、ポリペプチド又は部分配列を有する。
【0052】
本発明によれば、方法及び使用法は、AAV-Rh74配列(ポリペプチドおよびヌクレオチド)及びその部分配列を含み、部分配列は、標準AAV-Rh74遺伝子又はタンパク質配列(例えば、図3Aから図3Eに記載のVP1、VP2及び/又はVP3配列)
と100%未満の一致率を呈するが、AAV1-AAV11、AAV-Rh10の遺伝子又はタンパク質のような周知のAAV遺伝子又はタンパク質とは異なる及び同一ではない。一実施形態では、AAV-Rh74ポリペプチド又はその部分配列は、任意の標準AAV-Rh74配列またはその部分配列(例えば、図3Aから図3Eに記載されるVP1、VP2及び/又はVP3配列)と少なくとも80%一致する又は80%を超えて最高で100%まで(例えば、85%, 85%, 87%, 88%, 89%, 90%, 91%, 92%, 93%, 94%, 95%, 96%, 97%, 98%, 99%, 99.5%)の一致する配列を含む又はそのような配列から構成される。特定の態様において、AAV-Rh74関連変異体は、AAV-Rh74(例えば、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6などのカプシド変異体)において述べた4つのアミノ酸置換のうちの1つ、2つ、3つ、又は4つを有する。
【0053】
AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、Rh10、Rh74またはAAV-2i8、および変異体の、関連するハイブリッドおよびキメラ配列を含む組換えベクター(例えばAAV)は、当業者に既知の組換え技術を用いて、一つ以上の機能的なAAVのITR配列が隣接した一つ以上の異種ポリヌクレオチド配列(導入遺伝子)を含むよう構築することができる。このようなベクターは、例えば、rep遺伝子及び/又はcap遺伝子のように、全体が欠損している又は部分的に欠損している野生型AAV遺伝子の一つ又は複数を有することができるが、組換えベクターの回復、複製及びAAVベクター粒子内へのパッケージングに必要な少なくとも一つの機能性隣接ITR配列(functional flanking ITR sequence)を保持する。従って、AAVベクターゲノムは、複製およびパッケージングのために同一分子上(in cis)に必要な配列(例えばITR配列)を含む。
【0054】
本明細書では、“ポリヌクレオチド(polynucleotide)”及び“核酸(nucleic acid)”を交換可能な言葉として使用しており、デオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA)を含む、核酸、オリゴヌクレオチドのすべての形態を指す。ポリヌクレオチドは、ゲノムDNA、cDNA及びアンチセンスDNA、並びに、スプライスされた又はスプライスされていないmRNA、rRNA、tRNA、並びに、抑制(inhibitory)DNA又はRNA(RNAi、例えば、低分子ヘアピン型若しくはショートヘアピン型(sh)RNA、マイクロRNA(miRNA),低分子干渉型若しくは短干渉型(si)RNA、トランススプライシングRNA、又は、アンチセンスRNA)を含む。ポリヌクレオチドは、自然に発生した、合成の及び意図して変更又は修飾されたポリヌクレオチド、並びに、類似体及び派生物を含む。ポリヌクレオチドは、単体、2倍の若しくは3倍で、又は、線形若しくは円形で存在してもよく、任意の長さを有し得る。ポリヌクレオチドを論じる際には、特定のポリヌクレオチドの配列または構造を記載することがあり、ここでは慣例に従い、その配列は5‘から3’の方向に記載される。
【0055】
「異種」ポリヌクレオチドは、ベクターを介して細胞内に導入・送達することを目的として、ベクター(例えばAAV)に挿入されたポリヌクレオチドを指す。異種ポリヌクレオチドは、通常、ベクター(例えばAAV)の核酸とは異なる。すなわち、ウイルス(例えばAAV)の核酸に対して「外来」である。一旦細胞に導入/送達されると、異種ポリヌクレオチドは、ビリオン(virion)に収容され、発現可能(例えば、転写及び適切な場合には翻訳)となる。または、細胞内に導入・送達された、ビリオン(例えばAAV)内に保持された異種ポリヌクレオチドは、発現される必要は無い。「異種」という用語はここではポリヌクレオチドを参照する際に常に使われるわけではないが、ポリヌクレオチドを参照する際は、「異種」という修飾語を欠く場合でも、省略にもかかわらず 異
種ポリヌクレオチドを含むことを意図する。
【0056】
“ポリヌクレオチド配列”によってコードされた“ポリペプチド”、“プロテイン”及び“ペプチド”は、自然発生的なタンパク質と同様に、完全長の天然型配列(native sequences)を含み、また、機能性部分配列、修飾型若しくは変形型配列が完全長の天然型タンパク質の機能をある程度保持している限りにおいて、これら機能性部分配列、改変型若しくは多様型配列も含む。本発明の方法及び使用法において、ポリヌクレオチド配列によってコードされるこのようなポリペプチド、タンパク質及びペプチドは、治療対象の哺乳動物において欠損している、又は、その発現が不十分である又は不完全であるような内在性タンパク質と同一であってもよいが、同一であることを必要条件としているわけではない。
【0057】
本発明のアデノ随伴ウィルス(AAV)血清型AAV-Rh74及びAAV-Rh74変異体(例えば、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6などのカプシド変異体)などの関連AAV変異体は、ポリヌクレオチドを安定して又は一時的に細胞へと及び子孫細胞へと導入/送達するのに使用することができる。本明細書において”導入遺伝子(transgene)”という言葉は、便宜上、このような細胞又は臓器に導入された異種ポリヌクレオチドを指すのに使用される。導入遺伝子とは、ポリペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子、阻害性ポリヌクレオチドへと転写されるポリヌクレオチド、又は、転写されないポリヌクレオチド(例えば、転写を活性化するプロモータのような発現制御要素が存在しない場合)といった、あらゆるポリヌクレオチドを含む。
【0058】
例えば、導入遺伝子を含む細胞には、導入遺伝子は、ベクター(例えばAAV)を介した細胞の「形質転換(transformation)」によって導入・移入される。「形質転換する(transform)」または「トランスフェクトする(transfect)」という用語は、ポリヌクレオチドの様な分子を細胞または宿主生物内に導入することを指す。
【0059】
その内部に導入遺伝子が導入された細胞は、「形質転換された細胞(transformed cell)」または「形質転換体」と称される。したがって、“形質転換された”又は“遺伝子導入された(transfected)”細胞(例えば、哺乳動物では、細胞又は組織又は臓器細胞)とは、外因性分子の組み込み、例えば、ポリヌクレオチド又はタンパク質(例えば、導入遺伝子)を細胞に組み込むことに続いて当該細胞で発生する遺伝子的な変化を意味する。したがって、“遺伝子導入された”又は“形質転換された”細胞は、例えば、外因性分子が導入された細胞又はその子孫細胞である。これら細胞は、増殖されてもよく、導入されたタンパク質が発現する又は核酸が転写される。遺伝子治療のための使用及び方法として、形質転換された細胞は、被験体内に存在し得る。
【0060】
導入されたポリヌクレオチドは、受容細胞または生物の核酸中に組み込まれるかもしれないし、組み込まれないかもしれない。もし導入されたポリヌクレオチドが受容細胞または生物の核酸(ゲノムDNA)中に組み込まれると、該細胞または生物内部で安定に維持され、受容細胞または生物の後代(子孫)に継承される、または遺伝する可能性がある。最後に、導入された核酸は、受容細胞または宿主生物の内部に一時的にのみ存在する可能性がある。
【0061】
形質転換される細胞は、どのような起源(例えば中胚葉、外胚葉または内胚葉)のどのような組織または器官タイプの細胞であってもよい。細胞の非限定的な例としては、肝臓(例えば肝細胞、類洞内皮細胞)、膵臓(例えば膵島β細胞)、肺、脳(例えば神経、グリアまたは上衣細胞)または脊髄の様な中枢または末梢神経系、腎臓、眼(例えば網膜細
胞成分)、脾臓、皮膚、胸腺、睾丸、肺、横隔膜、心臓(心臓細胞)、筋肉または腰筋、または腸(例えば内分泌細胞)、脂肪組織(白色、褐色またはベージュ脂肪細胞)、筋肉(例えば繊維芽細胞)、滑膜細胞、軟骨細胞、破骨細胞、上皮細胞、内皮細胞、唾液腺細胞、内耳の神経細胞、または造血細胞(例えば、血液細胞またはリンパ球)が挙げられる。更なる例としては、肝臓(例えば、肝細胞、類洞内皮細胞)、膵臓(例えば、膵島β細胞)、肺、脳(例えば、神経、グリアまたは上衣細胞)または脊髄の様な中枢または末梢神経系、腎臓、眼(例えば、網膜細胞成分)、脾臓、皮膚、胸腺、睾丸、肺、横隔膜、心臓(心臓細胞)、筋肉または腰筋、または腸(例えば内分泌細胞)、脂肪組織(白色、褐色またはベージュ脂肪細胞)、筋肉(例えば、繊維芽細胞)、滑膜細胞、軟骨細胞、破骨細胞、上皮細胞、内皮細胞、唾液腺細胞、内耳の神経細胞、または造血細胞(例えば血液細胞またはリンパ球)へと発達または分化する万能性または多能性前駆細胞の様な幹細胞が挙げられる。
【0062】
ある実施形態における「治療的分子」は、細胞または被験体内のタンパク質の不在または機能不全の結果生じる症状を緩和または軽減する可能性のあるペプチドまたはタンパク質である。または、導入遺伝子によってコードされる「治療的」ペプチドまたはタンパクは、被験体に恩恵を与えるものであり、例えば遺伝的欠陥を修復したり、遺伝子(発現または機能)の不足を修復したり、抗がん作用を付与するものである。
【0063】
本発明における有用な遺伝子産物(例えば治療的タンパク)をコードする異種ポリヌクレオチドの非限定的な例としては、嚢胞性線維性膜貫通調節因子(cystic fibrosis transmembrane regulator protein、CFTR)、機能性血液凝固因子の獲得を含む血液凝固因子(例えば第XIII因子、第IX因子、第X因子、第VIII因子、第VIIa因子またはプロテインC)、抗体、網膜色素上皮細胞特異的 65 kDaタンパク質(retinal pigment epithelium-specific 65 kDa protein、RPE65)、エリスロポエチン(赤血球生成促進因子)、LDL受容体、リポタンパク質リパーゼ、オルニチン・トランスカルバミラーゼ、βグロビン、αグロビン、スペクトリン、αアンチトリプシン、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、金属輸送体(ATP7AまたはATP7)、スルファミダーゼ(sulfamidase)、リソソーム蓄積症に関わる酵素(ARSA)、ヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシルトランスフェラーゼ、β-25グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、リソソーム・ヘキソサミニダーゼ、分枝鎖ケト酸脱水素酵素、ホルモン、成長因子(例えば インスリン様成長因子1および2、血小板由来成長因子、上皮成長因子、神経成長因子、神経栄養因子3および4、脳由来神経栄養因子、グリア細胞由来成長因子、形質転換成長因子α、β等)、サイトカイン(例えばαインターフェロン、βインターフェロン、インターフェロンγ、インターロイキン2、インターロイキン4、インターロイキン12、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、リンホトキシン等)、自殺遺伝子産物(例えば、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ジフテリア毒素、チトクロームP450、デオキシシチジンキナーゼ、腫瘍壊死因子等)、薬剤耐性タンパク質(例えば癌治療に使われる薬剤に抵抗性を付与するタンパク質)、腫瘍抑制タンパク質(例えばp53、Rb、Wt-1、NF1、フォン・ヒッペル・リンドウ(Von Hippel-Lindau、VHL)、大腸腺腫様ポリポーシス(APC))、免疫調節機能を有するペプチド、寛容原性または免疫原性のペプチドまたはタンパク質Tregitopes(制御性T細胞エピトープ)[de Grootら、 Blood 2008 Oct 15;112(8):3303]、またはhCDR1[Sharabiら、 Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Jun 6;103(23):8810-5]、インスリン、グルコキナーゼ、グラニル酸シクラーゼ2D(LCA-GUCY2D)、Rabエスコートタンパク質1(先天性脈絡膜欠如)、LCA5(LCA-レベルシリン)、オルニチンケト酸アミノ基転移酵素(脳回転状網膜脈絡膜萎縮)、レチノスキシン(Retin
oschisin)1(X染色体連鎖性の網膜分離症)、USH1C(アッシャー症候群1C)、X染色体連鎖性の網膜色素変性症GTPアーゼ(XLRP)、MERTK(AR型の網膜色素変性症)、DFNB1(コネキシン26難聴)、ACHM2、3および4(色覚異常)、PKD-1またはPKD-2(多発性嚢胞腎)、TPP1、CLN2、リソソーム蓄積症の原因となる遺伝的欠損(例えば、スルファターゼ、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸トランスフェラーゼ、カテプシンA、GM2-AP、NPC1、VPC2、スフィンゴ脂質活性化タンパク等)、ゲノムエディティングに用いられる一つまたは複数のジンク・フィンガーヌクレアーゼ、またはゲノムエディティングで修復テンプレートとして用いられるドナー配列を含む、またはコードする遺伝子を含むが、これらに限定されるものではない。
【0064】
本発明における有用な遺伝子産物(例えば治療的タンパク質)をコードする異種ポリヌクレオチドのまた別の非限定的な例としては、嚢胞性線維症(または肺の他の病気)、血友病A、血友病B、地中海貧血、貧血症および他の血液障害、AIDS、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかんおよび他の神経障害、癌、(真性)糖尿病、筋ジストロフィー(例えばデュシェンヌ型(Duchenne)、ベッカー型(Becker))、ゴーシェ病(Gaucher’s di
sease)、ハーラー病(Hurler’s disease)、アデノシ
ン・デアミナーゼ欠損症、グリコーゲン蓄積症および他の代謝障害、網膜変性疾患(眼の他の疾患)、および固形臓器(脳、肝臓、腎臓、心臓)の疾患を含む疾患や障害の治療に用いられる可能性のあるものを含むが、これらに限定されるものではない。
【0065】
明細書に開示される非制限的な遺伝子及びタンパク質を含む、全ての哺乳動物及び非哺乳動物の形態のポリヌクレオチドエンコーディング遺伝子産物が、既知であれ未知であれ、明示的に含まれる。したがって、本発明は、非哺乳動物、ヒト以外の哺乳動物及びヒトからの遺伝子及びタンパク質を含み、その遺伝子及びタンパク質は、以下に記載するヒトの遺伝子及びタンパク質と実質的に同様に機能する。非哺乳動物の遺伝子の非制限的な例としては、細菌由来であるFokヌクレアーゼドメイン(Fok nuclease domain)が挙げられる。ヒト以外の哺乳動物のFIX配列の非制限的な例は、Yoshitake et al.、1985年、前出;Kurachi et al.、1995年、前出;Jallat et al.、1990年、前出;Kurachi et
al.、1982年、Proc. Natl. Acad. Sci.USA 79:6461-6464;Jaye et al.、1983年、Nucl.Acids Res. 11:2325-2335;Anson et al.、1984年、EMBO
J.3:1053-1060;Wu et al.、1990年、Gene 86:275-278;Evans et al.、Proc Natl Acad Sci USA 86:10095(1989年)、Blood 74:207-212;Pendurthi et al.、1992年、Thromb.Res.65:177-186;Sakar et al.、1990年、Genomics 1990年、6:133-143;及び、Katayama et al.、1979年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76:4990-4994に記載されている。
【0066】
本明細書記載の通り、異種ポリヌクレオチド配列(導入遺伝子)は、抑制性およびアンチセンス核酸配列を含む。抑制性、アンチセンス、siRNA(低分子干渉型RNA)、miRNA(マイクロRNA)、shRNA(低分子ヘアピン型RNA)、RNAiおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的遺伝子の発現を調節できる。そのような分子には、疾病経過の媒介に関与する標的遺伝子の発現を阻害し、よって疾病の一つ以上の症状を低減、阻害または緩和する分子が含まれる。
【0067】
アンチセンスは、RNA転写物又はDNA(例えば、ゲノムDNA)を結合する一本鎖
、二本鎖又は三本鎖ポリヌクレオチド及びペプチド核酸(PNA)を含む。標的遺伝子の転写開始部位、例えば、開始部位から-10から+10の間の位置、から得られたオリゴヌクレオチドは、別の具体例である。三重鎖構造(triplex forming)のアンチセンスは、二本鎖構造のDNAと結合して、遺伝子の転写を阻害することができる。“RNAi”は、遺伝子の発現を阻害するための一本鎖又は二本鎖のRNA配列の利用である(例えば、Kennerdell et al.、Cell 95:1017(1998年);及びFire et al.、Nature、391:806(1998年)参照)。したがって、本発明の方法及び利用において、標的遺伝子コード領域からの二本鎖RNA配列を、遺伝子発現/転写を阻害する又は防ぐのに使用してもよい。アンチセンスおよびRNAiは、標的遺伝子配列(例えばハンチンチンまたはHTT)をコードする核酸、例えば哺乳類およびヒトのHTTをコードする核酸に基づいて作成できる。例えば、一本鎖又は二本鎖核酸(例えば、RNA)は、HTT転写(例えば、mRNA)を標的とすることができる。
【0068】
「siRNA」は、配列特異的転写後遺伝子サイレンシングまたは遺伝子ノックダウンのためのRNA干渉過程に関与する治療的分子を指す。siRNAは、標的遺伝子の同源(cognate)mRNAの配列と相同性を有する。低分子干渉RNA(siRNAs)は、in vitroで合成することにより、またはより長鎖のdsRNAをリボヌクレアーゼIIIで切断することにより作成でき、配列特異的mRNA分解の媒介物である。本発明のsiRNAまたは他のそのような核酸は、適切に保護されたリボヌクレオシドホスホラミダイトと従来のDNA/RNA合成装置を用いて化学的に合成することができる。siRNAは、別々の二つの相補的RNA分子として、または二つの相補的領域を有する一つのRNA分子として合成できる。合成RNA分子または合成試薬の販売業者には、Applied Biosystems(Foster City, CA, USA)、Proligo(Hamburg, Germany)、Dharmacon Research(Lafayette, Colo., USA)、Pierce Chemical(part of Perbio Science, Rockford, Ill., USA)、Glen Research(Sterling, Va., USA)、ChemGenes(Ashland, Mass., USA)、 および
Cruachem(Glasgow, UK)がある。標的遺伝子のmRNAを阻害するための特異的siRNA構成物は、15~50ヌクレオチドの長さであってよく、より典型的には約20~30ヌクレオチドの長さであってよい。そのような核酸分子は、当業者に既知の従来法によって、本明細書に開示したウイルスベクター内に容易に組み込むことができる。
【0069】
本発明に係る阻害性核酸配列を使用して標的としてもよい遺伝子(例えば、ゲノムDNA)又は病原性遺伝子(RNA又はmRNA)の転写物の非制限的な例としては、これに限定されないが、次のようなものが挙げられる。ハンチントン(HTT)遺伝子のようなヌクレオチドリピート病と関連する遺伝子、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(dentatorubropallidolusyan atropy)(例えば、アトロフィン(atrophin)1、ATN1);球脊髄性筋萎縮症におけるX染色体上のアンドロゲン受容体、ヒト アタキシン(Ataxin)-1、-2、-3及びー7、(CACNA1A)によりコードされたCav2.1P/Q電位依存性カルシウムチャネル、TATA
結合タンパク質、ATXN8OSとも称されるアタキシン8逆鎖、脊髄小脳失調症(1、2、3、6、7、8、12、17型)におけるセリン/スレオニンタンパク質ホスファターゼ2A 55 kDa調節サブユニットBベータイソ型(isoform)、脆弱X症候群 におけるFMR1(脆弱X精神遅滞1)、脆弱X関連振戦(tremor)/運動失調症におけるFMR1(脆弱X精神遅滞1)、脆弱XE精神遅滞におけるFMR1(脆弱X精神遅滞2)又はAF4/FMR2ファミリーメンバー;筋強直性ジストロフィーにおける筋強直性プロテインキナーゼ(Myotonin-protein kinase
:MT-PK);フリードライヒ失調症におけるフラタキシン(Frataxin)、筋萎縮性側索硬化症におけるスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子の変異体;パーキンソン病及び/又はアルツハイマー病の病因に関与する遺伝子;アポリポタンパクB(APOB)及びプロタンパク質転換酵素サブチリシン(proprotein convertase subtilisin)/ケキシン(kexin)9型(PCSK9)、高コレステロール血症(hypercoloesterolemia);HIV感染症におけるHIV Tat、転写遺伝子のヒト免疫不全ウイルストランス活性化因子(transactivator);HIV感染症におけるHIV TAR,ヒト免疫不全ウイルストランス活性化活性化因子応答エレメント遺伝子;HIV感染症におけるCCケモカイン(chemokine)受容体(CCR5);ラウス肉腫ウイルス(RSV)感染症におけるRSVヌクレオカプシドタンパク質、C型肝炎ウイルス感染症における肝臓固有のマイクロRNA(miR-122);p53の、急性腎障害又は腎臓移植後臓器機能障害又は腎臓障害による急性腎不全;進行性、再発性又は転移性の固形悪性腫瘍におけるプロテインキナーゼN3(PKN3);LMP2、これは、プロテアソーム(proteasome)サブユニットベータ型9(PSMB9)転移性黒色腫としても知られる;LMP7、これは、プロテアソームサブユニットベータ型8(PSMB8)転移性黒色腫としても知られる;MECL1、これは、プロテアソームサブユニットベータ型10(PSMB 10)転移性黒色腫としても知られる;固形腫瘍における血管内皮成長因子(VEGF);固形腫瘍におけるキネシンスピンドル(kinesin spindle)タンパク質、慢性骨髄性白血病におけるアポトーシス抑制B-細胞CLL/リンパ腫(BCL-2);固形腫瘍におけるリボヌクレオチドレダクターゼM2(ribonucleotide reductase M2:RRM2);固形腫瘍におけるフーリン(Furin);肝腫瘍におけるポロ様キナーゼ(polo-like kinase)1(PLK1)、C型肝炎感染におけるジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(diacylglycerol acyltransferase)1(DGAT1),家族性大腸腺腫症におけるベータカテニン;ベータ2アドレナリン受容体、緑内障;糖尿病性黄斑浮腫(DME)や加齢黄斑変性におけるRTP801/Redd1として知られるDAN損傷誘導性転写産物4タンパク質;加齢性黄斑変性症又は脈絡膜血管新生(choroidal neivascularization)における血管内皮増殖因子受容体I(VEGFR1);非動脈炎性虚血性視神経症におけるカスパーゼ2;先天性爪肥厚症におけるケラチン6AN17K変異タンパク質;インフルエンザ感染症におけるインフルエンザAウイルスゲノム/遺伝子配列;重症急性呼吸器症候群(SARS)感染におけるコロナウイルスゲノム/遺伝子配列;呼吸器合胞体ウイルス(RS)感染症におけるRSウイルスゲノム/遺伝子配列;エボラ感染症におけるエボラフィロウイルスゲノム/遺伝子配列;B型肝炎及びC型肝炎感染におけるB型及びC型肝炎ウイルスゲノム/遺伝子配列;単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症における単純ヘルペスウイルス(HSV)ゲノム/遺伝子配列、コクサッキーウイルス(coxsackievirus)B3感染におけるコクサッキーウイルスB3ゲノム/遺伝子配列;原発性ジストニアにおけるトーシン(torsin)A(TOR1A)、pan-classI及び移植において特定のHLA対立遺伝子のような遺伝子の病原性対立遺伝子のサイレンシング(対立遺伝子を狙ったサイレンシング);又は、遺伝子常染色体優性遺伝網膜色素変性(adRP)における変異ロドプシン遺伝子(RHO)。
【0070】
ポリヌクレオチド、ポリペプチドおよびこれらの部分配列は、修飾型や変異型を含む。本明細書で使用されている“改変(modified)”又は“多様型(variant)”という言葉及びこれらの同意語は、ポチヌクレオチド、ポリペプチド又はこれらの部分配列が、標準配列から外れた配列であることを意味する。したがって、改変された及び多様型の配列は、標準配列とほぼ同じ、より多くの又は少ない活性(activity)又は機能を有してもよいが、少なくとも部分的に当該標準配列の活性又は機能を有する。
【0071】
また、本発明は、天然型又は非天然型の多様体を含む。このような多様体としては、AAV-Rh74カプシド変異体などのAAV-Rh74変異体を含む。このようなAAV-Rh74カプシド変異体の具体的な例には、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3、RHM15-4、RHM15-5、RHM15-6、及びRHM4-1(例えば、図5参照)を含む。
【0072】
また、このような多様体としては、機能獲得型及び機能喪失型の多様体を含む。例えば、タンパク質多様体又は変異体が活性を保持する野生種のヒトFIX DNA配列は、本発明の方法及び使用法において、治療上有効である、又は、不変異体であるヒトFIXと同等の若しくはそれを超える治療的活性を有する。具体的な例では、コラーゲンIVは、FIXを捉える役割を果たし、哺乳動物の筋肉組織に取り込まれると、FIXの一部は筋肉組織の間質腔に保持されるために、血液凝固に参加できなくなる。コラーゲンIVへの結合が低減されたタンパク質へと変わるようなFIX配列の変異(例えば、機能喪失)は、例えば、血友病の治療の場合に、発明の方法において有用な変異である。このような変異型ヒトFIX遺伝子の一例は、ヒトFIXタンパク質を、成熟タンパク質の開始から5番目のアミノ酸の位置におけるリシンを、アミノ酸のアラニンへとコードする。
【0073】
非限定的な修飾の例としては、参照配列の一つ以上のヌクレオチドまたはアミノ酸の置換(例えば1~3、3~5、5~10、10~15、15~20、20~25、25~30、30~40、40~50、50~100、またはさらに多くのヌクレオチドまたは残基)、例えばアルギニンでリジン残基を置換(例えば、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6のいずれかにおけるリジンを一又は複数のアルギニンで置換)、付加(例えば挿入または1~3、3~5、5~10、10~15、15~20、20~25、25~30、30~40、40~50、50~100、またはさらに多くのヌクレオチドまたは残基)、および欠失(例えば部分配列または断片)を含む。具体的な実施形態では、改変された配列又は多様型の配列は、改変されていない配列の機能又は活性を少なくとも部分的に保持する。このような改変形及び多様体は、例えば以下に記載するような標準配列の機能又は活性よりも少ない、同じ又は超える機能又は活性を有し得るが、少なくとも標準配列の機能又は活性を部分的に保持する。
【0074】
多様体は、一の又は複数の非保存的又は保存的アミノ酸配列の差異若しくは改変、又は、その両方を有することができる。“保存的置換(conservative substitution)”とは、生物学的に、化学的に又は構造的に同様な残基によって、一つのアミノ酸を置換することである。“生物学的に同様な”とは、置換によって生物学的活性が失われないことを意味する。“構造的に同様な”とは、アミノ酸が同様な長さの側鎖を有することを意味し、例えば、アラニン、グリシン及びセリン又は同様なサイズを有する。化学的に同様であるとは、残基が同じ電荷を有する、又は、共に親水性又は疎水性を有することを意味する。具体的な例としては、例えば、イソロイシン、バリン、ロイシン又はメチオニンのような一の疎水性残基による置換、又は、リシンのアルギニンによる置換(例えば、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6)、アスパラギン酸のグルタミン酸による置換、アスパラギンのグルタミンによる置換のような一の極性残基による置換、又は、スレオニンのセリンによる置換等が含まれる。保存的置換の具体的な例としては、例えば、イソロイシン、バリン、ロイシン又はメチオニンのような一の疎水性残基による置換、又は、リシンのアルギニンによる置換、アスパラギン酸のグルタミン酸による置換、アスパラギンのグルタミンによる置換のような一の極性残基による置換等が含まれる。例えば、保存的アミノ酸置換は、典型的には、次に列挙するようなグループ内での置換を含む:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;リシン、アルギニン;及び、フェニルアラニン、
チロシン。“保存的置換”はまた、非置換型の親アミノ酸に代えて、置換型アミノ酸を使用することを含む。
【0075】
このように、本発明は、一の又は複数の生物学的活性(例えば、血液凝固における機能等)を保持する遺伝子及びタンパク質多様体(例えば、以下に記載するようなポリヌクレオチドエンコーディングタンパク質の多様体)を含む。このようなタンパク質又はポリペプチドの多様体は、タンパク質又はポリペプチドが変更された又は付加された特性を有するようにDNA組み換え技術を使用して改変された又は改変されてもよいタンパク質又はポリペプチドを含み、例えば、血漿中における強化されたタンパク質安定性、又は、強化されたタンパク質活性を付与する多様体が含まれる。多様体は、天然型ポリヌクレオチド、タンパク質又はペプチドのような標準配列とは、異なっていてもよい。
【0076】
ヌクレオチド配列レベルでは、天然型及び非天然型多様体遺伝子は、典型的には、標準配列と、少なくとも約50%、より典型的には約70%、更に典型的には約80%一致(90%又はそれを超える一致)する。アミノ酸配列レベルでは、天然型及び非天然型多様体タンパク質は、典型的には、標準タンパク質と、少なくとも約70%、より典型的には約80%、更に典型的には約90%又はそれを超える一致率を有するが、非保存的領域では、大部分が一致しない領域であっても許容される(例えば、60%、50%又は40%未満といった、70%未満の一致率)。別の実施形態では、標準配列に対して、少なくとも60%、70%、75%又はそれを超える一致率(例えば、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれを超える一致率)を有する。ポリヌクレオチド、タンパク質又はポリペプチド内におけるヌクレオチド及びアミノ酸の変化の導入プロセスは、当業者に周知である(例えば、Sambrook et al,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2007年)参照)。
【0077】
“同一(identity)”、“相同性(homology)”及びその同意語は、”整列された(aligned)”配列の場合に、2つ又は2つを超える対象エンティティ(referenced entities)が同じであることを意味する。一例として、2つのポリペプチドが同一であるという場合、少なくとも標準領域又はタンパク質内において、同じアミノ酸配列を有する。2つのポリヌクレオチドが同一であるという場合、少なくとも標準領域又はタンパク質内において、同じポリヌクレオチド配列を有する。同一性が、配列の規定されたエリア(領域又はドメイン)を超えて存在してもよい。同一な“エリア(area)”又は“領域(region)”とは、同一の2つ又は2つを超える対象エンティティの一部分を指す。したがって、2つのタンパク質配列又は核酸配列が、一の又は複数の配列エリア又は領域に渡って一致する場合、これらの配列は、その領域内において同一性を有する。“整列された(aligned)”配列とは、多くの場合、標準配列と比較して欠けている又は余分な塩基又はアミノ酸(ギャップ)の修正を含む複数のポリヌクレオチド又はタンパク質(アミノ酸)の配列を指す。
【0078】
配列の全長にわたって一致する場合、又は、配列の一部分が一致する場合が存在する。特定の態様では、パーセント一致率を共有する配列の長さは、2、3、4、5つ又はそれを超える連続したポリヌクレオチド又はアミノ酸であり、例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20等の連続したアミノ酸である。別の特定の態様において、一致する配列の長さは、20又は20を超える連続したポリヌクレオチド又はアミノ酸であり、例えば、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35等の連続したアミノ酸である。更なる別の特定の態様において、一致する配列の長さは、35又は35を超える連続したポリヌクレオチド又はアミノ酸であり、例えば、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、45、47、48、49、50等の連続したア
ミノ酸である。更なる別の特定の態様において、一致する配列の長さは、50又は50を超える連続したポリヌクレオチド又はアミノ酸であり、例えば、50-55、55-60、60-65、65-70、75-80、80-85、85-90、90-95、95-100、100-110等の連続したポリヌクレオチド又はアミノ酸である。
【0079】
“相同である(homologous)”及び“相同性(homology)”という言葉は、2つ又は2つを超える対象エンティティが、所定の領域又は部分において少なくとも部分的に一致していることを意味する。相同である又は一致する“エリア、領域又はドメイン”とは、2つの又は2つを超える対象エンティティの一部が相同である又は同一であることを意味する。したがって、2つの配列が、一の又は複数の配列領域に渡って一致する場合、これらの配列は、その領域内において同一性を有する。“実質的な相同性(substantial homology)”とは、標準分子の又は相同性を有する標準分子の関係する/対応する領域若しくは部分の、構造又は機能(例えば、生物学的機能又は活性)の一つ又は複数のうちの少なくとも部分的な構造又は機能を、分子が有する又は有すると予測されるように、当該分子が構造的又は機能的に保存されることを意味する。
【0080】
2つの配列の間の一致(相同性)の範囲は、コンピュータプログラム及び数値計算アルゴリズムを使用して確かめることができる。このような配列パーセント一致率(相同性)を計算するアルゴリズムは、通常、比較領域又はエリアにおける配列ギャップ及び不一致を計算する。例えば、BLAST(例えばBLAST 2.0)の検索アルゴリズム( 例えばAltschulら、 J. Mol. Biol. 215:403 (1990)参照、NCBIにより公的に入手可能)は、以下のような典型的な検索パラメターを有する:ミスマッチ‐2、ギャップ間隔(gap open)5、ギャップ延長(gap
extension)2。ポリペプチド配列の比較には、一般的にBLASTPアルゴリズムを、PAM100、PAM 250、BLOSUM 62 または BLOSUM
50の様なスコアマトリクス(scoring matrix)と組み合わせて用いる。一致の程度を定量化するのに、FASTA(例えば、FASTA2及びFASTA3)及びSSEARCH配列比較プログラムも使用されている(Pearson et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444(1988年);Pearson、Methods Mol Biol.132:185(2000年);及びSmith et al.、J.Mol.Biol.147:195(1981年))。ドロネー(Delaunay)ベースの位相マッピングを使用して、タンパク質構造類似性を定量化するプログラムも開発されている(Bostick et al.、Biochem Biophys Res Commun.304:320(2003年))。
【0081】
ポリヌクレオチドは、例えば、異種ドメインである付加物及び挿入物を含む。付加物(例えば、異種ドメイン)は、任意の種類の分子の化合物に対する共有結合又は非共有結合であってもよい。通常、付加物及び挿入物(例えば、異種ドメイン)は、相補的な又は異なる機能又は活性を付与する。
【0082】
付加物及び挿入物としては、標準天然(野生種)配列に通常存在しない一の又は複数の分子が配列に共有結合しているポリヌクレオチド配列又はタンパク質配列である、キメラ配列及び融合配列を含む。“融合(fusion)”又は“キメラ(chimeric)”という言葉及びその同意語は、分子について使用される場合には、分子の部分又は一部が、当該分子とは区別される(異種の)異なるエンティティを含むことを意味しており、当該部分は通常自然な状態では一緒に存在することがない。すなわち、融合又はキメラの部分は、通常では共存しない部分を含む又は通常では共存しない部分によって構成され、構造的に区別される。
【0083】
「ベクター」という用語は、ポリヌクレオチドの挿入または組み込みによって操作することができるプラスミド、ウイルス(例えばAAVベクター)、コスミドまたは他の輸送媒体(vehicle)を指す。このようなベクターは、ポリヌクレオチドを細胞内に導入/移送する、及び、挿入されたポリヌクレオチドを細胞に転写する又は翻訳する遺伝子操作(すなわち、“クローニングベクター”)のために使用される。ベクター核酸配列は一般に、細胞内で増殖するための複製起点を少なくとも一つ含み、随意に、異種ポリヌクレオチド配列、発現制御要素(例えばプロモーター、エンハンサー)、選択マーカー(例えば抗生物質抵抗性)、ポリアデニン配列のような追加因子を含む。
【0084】
ここで用いられるように、組換えAAVベクターの様なウイルスベクターの修飾語としての、ならびに組換えポリヌクレオチドおよびポリペプチドの様な配列の修飾語としての「組換え」という用語は、組成物(例えば、AAV又は配列)が自然界では通常起らない様式で操作されている(すなわち改変されている)ことを意味する。AAVベクターの様な組換えベクターの一例としては、野性型ウイルス(例えばAAV)のゲノムには通常存在しないポリヌクレオチドが、ウイルスゲノム内に挿入される場合が挙げられる。例えば、組換えポリヌクレオチドの一例としては、タンパク質をコードする異種ポリヌクレオチド(例えば遺伝子)が、ウイルス(例えばAAV)ゲノム内では通常遺伝子に付随する5‘、3’および/またはイントロン領域を伴い、または伴わずにベクター内にクローニングされる場合が挙げられる。ここでは「組換え」という用語はAAVベクターの様なウイルスベクター、ならびにポリヌクレオチドおよびポリペプチドの様な配列を常に指して用いられるものではないが、AAV、ならびにポリヌクレオチドおよびポリペプチドを含む配列の組換え型は、たとえ省略されていても明示的に含まれるものとする。
【0085】
組換えベクター「ゲノム」(例えばAAVベクターゲノム)は、細胞をex vivo、in vitroまたはin vivoで感染(形質導入又は形質転換)させるためにウイルス(ここでは“粒子”または“ビリオン”とも称される)内にカプシド化又はパッケージされ得る。組み替えAAVベクターゲノムがAAV粒子内にカプシド化またはパッケージされている場合、その粒子を「rAAV」と称することがある。該ウイルス粒子またはビリオンは、通常、ベクターゲノムをカプシド化またはパッケージするタンパク質を含む。例として、ウイルスカプシド及びエンベロープタンパク質、またAAVの場合にはAAVカプシドタンパク質が挙げられる。
【0086】
組換えプラスミドについては、ベクター「ゲノム」は、最終的にパッケージ又はカプシド化されてウイルス粒子を形成する組換えプラスミド配列の一部を指す。組換えプラスミドを用いて組換えベクターを構築又は製造した場合、ベクターゲノムは当該組換えプラスミドのベクターゲノム配列に対応しない「プラスミド」の部分を含まない。この組換えプラスミドの非ベクターゲノム部分は「プラスミドバックボーン」と呼ばれ、増殖及び組換えウイルスの生産に必要な、プラスミドのクローニング及び増幅の処理において重要である。ただし、それ自体はウイルス(例えば、AAV)粒子内にパッケージ又はカプシド化されない。
【0087】
よって、ベクター「ゲノム」は、ウイルス(例えばAAV)によってパッケージまたはカプシド化され、異種ポリヌクレオチド配列を含むベクタープラスミドの一部を指す。組換えプラスミドの非ベクターゲノム部分は、プラスミドのクローニング及び増幅に重要なバックボーンを含むが、それ自体はウイルス(例えばAAV)によってパッケージ又はカプシド化されない。
【0088】
ウイルスベクターは、ウイルスゲノムを構成する一つ以上の核酸要素に由来するか、またはそれらに基づいて作成される。特定のウイルスベクターには、アデノ随伴ウイルス(
AAV)ベクターの様なパルボウイルスベクターが含まれる。
【0089】
組換えベクター配列はポリヌクレオチドの挿入又は組み込みによって操作される。ベクタープラスミドは、通常、細胞内で増殖させるための少なくとも一つの複製開始点、及び、一又は複数の発現制御要素を含む。
【0090】
AAVベクターを含むベクター配列は、一つ以上の「発現制御要素」を含むことができる。典型的には、発現制御要素は、操作可能に結合されたポリヌクレオチドの発現に影響を与える核酸配列である。ベクター内に存在する以下に記載するようなプロモーター及びエンハンサーなどの発現制御要素を含めた制御要素は、適切な異種ポリヌクレオチド転写及び可能な場合には翻訳を行うべく含められる(例えば、プロモーター、エンハンサー、イントロンのスプライス信号、mRNAのインフレーム翻訳を可能にする遺伝子の正しいリーディングフレーム(reading frame)の維持、終止コドン等)。このような要素は、通常、シス(cis)型で作用するが、トランス(trans)型で作用してもよい。
【0091】
発現制御は、転写、翻訳、スプライシング、メッセージ安定性等のレベルで有効とすることができる。典型的には、転写を調整する発現制御要素は、転写されたポリヌクレオチド末端である5’付近(すなわち“上流”)に並置される。発現制御要素はまた、転写された配列(すなわち、“下流”)の末端3’に又は転写物(例えば、イントロン内)内に位置させることができる。発現制御要素は、転写された配列から一定距離分、又は、長距離分、(例えば、ポリヌクレオチドから、100~500、500~1000、2000~5000、5000~10、000又はこれより多いヌクレオチド分)離れて位置させることができる。しかしながら、AAVベクターのポリヌクレオチドの長さの制限により、このような発現制御要素は、典型的には、ポリヌクレオチドから、1個から1000個のヌクレオチドの範囲内に位置する。
【0092】
機能的には、作動可能な様に連結された異種ポリヌクレオチドの発現は、調節因子(例えばプロモーター)によって少なくとも部分的には制御が可能であり、その結果調節因子はポリヌクレオチドの転写を調節し、適切な条件下では転写物の翻訳も調節する。発現制御要素の具体的な一例として、典型的には、転写される配列の5’に位置するプロモータが挙げられる。発現制御要素の別の例としては、エンハンサが挙げられ、これは、転写される配列の5’、3’に位置する又は転写される配列内に位置してもよい。
【0093】
ここで用いられる「プロモーター」という用語は、組換え産物をコードするポリヌクレオチド配列の近傍に位置するDNA配列を指す場合がある。プロモーターは、通常、例えば異種ポリヌクレオチドの様な近傍の配列と作動可能な様に連結されている。プロモーターは、通常、異種ポリヌクレオチドから発現される量を、プロモーターが存在しない場合に発現される量と比べて増加させる。
【0094】
ここで用いられる「エンハンサー」という用語は、異種ポリヌクレオチドの近傍に位置する配列を指す場合がある。エンハンサーは、通常、プロモーターの上流に位置するが、DNA配列(例えば異種ポリヌクレオチド)の下流またはその内部にも位置することができ、機能する。従って、エンハンサーは異種ポリヌクレオチドの100塩基対、200塩基対、300塩基対、またはさらに上流または下流に位置し得る。エンハンサーは、通常、異種ポリヌクレオチドの発現を、プロモーター配列によって増加された発現量以上に増加させる。
【0095】
発現制御要素(例えばプロモーター)は、特定のタイプの組織または細胞で活性な因子を含み、ここでは「組織特異的発現制御要素/プロモーター」と称する。組織特異的発現
制御要素は通常、特定の細胞または組織(例えば肝臓、脳、中枢神経系、脊髄、眼、網膜、骨、筋肉、肺、すい臓、心臓、腎臓の細胞等)で活性である。発現制御要素は、特定の種類の細胞、組織又は臓器に固有の転写活性化タンパク質又はその他の転写制御因子によって認識されるので、通常は、このような細胞、組織又は臓器内で活性を有する。
【0096】
例えば、骨格筋内での発現を所望する場合には、筋肉で活性なプロモーターを使用することができる。このようなプロモーターとしては、骨格α‐アクチン、ミオシン軽鎖2A、ジストロフィン、筋クレアチンキナーゼをコードする遺伝子からのプロモーター、及び、天然に存在するプロモーターよりも高い活性を有する合成筋肉プロモーターが含まれる(例えば、Li, et al.,Nat. Biotech. 17:241-245(1999年)を参照)。組織特異的プロモーターの例として、肝臓についてはアルブミン(Miyatakeら、J. Virol., 71:5124-32 (1997))、B型肝炎ウイルスコアプロモーター(Sandigら、Gene Ther. 3:1002-9 (1996))、アルファフェトプロテイン(AFP)(Arbuthnotら、Hum. Gene. Ther., 7:1503-14 (1996))、骨についてはオステオカルシン(Steinら、Mol. Biol. Rep., 24:185-96 (1997))、骨シアロタンパク質(Chenら、J. Bone
Miner. Res. 11 :654-64 (1996))、リンパ球についてはCD2(Hansalら、J. Immunol., 161:1063-8 (1998))、免疫グロブリン重鎖、T細胞受容体a鎖、神経については神経細胞特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(Andersenら、Cell. Mol. Neurobiol., 13:503-15 (1993))、ニューロフィラメント軽鎖遺伝子(Piccioliら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:5611-5 (1991)、神経細胞特異的vgf遺伝子(Piccioli,
et al., Neuron, 15:373-84 (1995))が特に挙げられる。
【0097】
また、発現制御要素として、偏在する又は無差別なプロモータ/エンハンサを含み、これらは、数多くの異なる細胞の種類における発現を駆動することができる。そのような因子は、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター/エンハンサー配列、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター/エンハンサー配列、および種々のタイプの哺乳類細胞で活性な他のウイルスプロモーター/エンハンサー配列、または自然界には存在しない合成因子(例えばBoshartら、Cell, 41:521-530 (1985)参照)、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸還元酵素プロモーター、細胞質性βアクチンプロモーター、およびホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーターを含むが、これらに限定されるものではない。
【0098】
発現制御要素はまた、制御可能、すなわち信号または刺激によって作動可能な様に連結された異種ポリヌクレオチドの発現を増加または低下させるような様式で発現させることもできる。信号又は刺激に応答して、操作可能に結合されたポリヌクレオチドの発現を増加させる調整可能要素は、“誘導性要素(inducible element)”(すなわち、信号によって誘導される)とも称される。具体的な例としては、これに限定されないが、ホルモン(例えば、ステロイド)誘導性プロモータが含まれる。信号又は刺激に応答して、操作可能に結合されたポリヌクレオチドの発現を減少させる調整可能要素は、“抑制要素(repressible element)”とも称される(すなわち、信号が除去される又は存在しない場合に発現が増加するような態様で、信号が発現を減少させる)。典型的には、このような要素によって増加する又は減少する量は、存在する信号又は刺激の量に比例し、信号又は刺激の量が大きくなると、発現の増加量及び減少量も大きくなる。特定の非限定的な例としては、亜鉛誘導性ヒツジ・メタロチオネイン(MT)プロモーター、ステロイドホルモン誘導性マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)プロモー
ター、T7ポリメラーゼプロモーターシステム(WO 98/10088)、テトラサイクリン抑制性システム(Gossenら、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547-5551 (1992))、テトラサイクリン誘導性システム(Gossenら、Science. 268:1766-1769 (1995); Harveyら、Curr. Opin. Chem. Biol. 2:512-518 (1998)も参照のこと)、RU486誘導性システム(Wangら、Nat. Biotech. 15:239-243 (1997) およびWangら、Gene Ther. 4:432-441 (1997))、およびラパマイシン誘導性システム(Magariら、J. Clin. Invest. 100:2865-2872 (1997); Riveraら、Nat. Medicine. 2:1028-1032 (1996))が挙げられる。このような背景において有用な可能性のある他の制御可能な調節因子は、例えば温度や急性期のような特定の生理的状態によって制御を受けるものである。
【0099】
発現制御要素には、異種ポリヌクレオチドに対する天然の因子も含まれる。天然の調節因子(例えばプロモーター)は、異種ポリヌクレオチドの発現が天然の発現を模倣することが望まれる場合に用いることができる。天然の調節因子は、異種ポリヌクレオチドの発現を一時的または発生的に、組織特異的に、または特定の転写刺激に反応させて制御するときに用いられる可能性がある。イントロン、ポリアデニレーション部位またはコザックコンセンサス(共通)配列のような他の天然の調節因子も用いられる可能性がある。
【0100】
本明細書で使用されている“操作可能な結合(operable linkage)”又は“操作可能(operably linked)に結合されている”という言葉は、構成要素が意図された態様で機能可能となるように表記された構成要素の物理的又は機能的な並置(juxtaposition)を指す。ポリヌクレオチドとの操作可能な結合における発現制御の例では、制御要素が、核酸の発現を調整するような関係となっている。具体的には、例えば、操作可能に連結された2つのDNA配列とは、2つのDNAが、2つのDNA配列のうちの少なくとも一方が、他方の配列に生理学的作用を及ぼすことができるような関係に配置されている(シス又はトランス)ことを意味する。
【0101】
AAVベクターを含むベクターは、一の又は複数の“発現制御要素”を含むことができる。以下に限定されないが、これらの要素としては、AAV ITR配列、プロモータ/エンハンサ要素、転写終結信号、ポリヌクレオチド配列に隣接する5’又は3’未翻訳領域(例えば、ポリアデニル化配列)、又は、イントロンIの全体又は一部が、含まれる。このような要素はまた、必要に応じて、転写終結信号を含む。転写終結信号の非制限的な具体例として、SV40転写終結信号が挙げられる。
【0102】
ここで開示されるように、AAVベクターには通常、約4kbから約5.2kbまたはこれより若干大きい、定義されたサイズ範囲のDNAを挿入することが可能である。従って、短い配列に対しては、ウイルス粒子にパッケージされるAAVベクターとして許容される、ウイルスゲノム配列の通常のサイズ又はその近傍の長さに調節するために、スタッファーまたはフィラーを挿入断片に含める。種々の実施形態では、フィラー/スタッファー核酸配列は、核酸の非翻訳(タンパクをコードしない)断片(segment)である。AAVベクターの特定の実施形態では、異種ポリヌクレオチド配列は、その長さが4.7Kb未満であり、フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列は、異種ポリヌクレオチド配列と合わせた(例えばベクター内に挿入された)時の全長が約3.0~5.5Kb、または4.0~5.0kb、または4.3~4.8kbである。
【0103】
イントロンもまたAAVベクターをウイルス粒子にパッケージされる長さに達成させるための、フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列として機能することができる
。フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列として機能するイントロンおよびイントロン断片(例えばFIXのイントロンIの一部)もまた、発現を向上させることができる。例えば、イントロンを含めることで、イントロンが不在の場合に比べて発現を向上させる可能性がある(Kurachiら、1995、上記参照)。
【0104】
イントロンの使用法は、FIXのイントロンI配列の含有に限定されるものではなく、他のイントロンも含み、そのようなイントロンは同じ遺伝子(例えば異種ポリヌクレオチドがFIXをコードする場合にイントロンがFIXのゲノム配列内に存在するイントロンに由来する)、またはまったく異なる遺伝子または別のDNA配列に関連するものであってもよい。従って、本発明においては、同族(関連した)遺伝子(異種ポリヌクレオチド配列がゲノム配列によってコードされるタンパク質と同じタンパク質の全体または一部をコードする)、および非同族(関連しない)遺伝子(異種ポリヌクレオチド配列がゲノム配列によってコードされるタンパク質とは異なるタンパク質をコードする)に由来するゲノム配列内に存在するイントロンの様な、核酸内の他の非翻訳(タンパク質をコードしない)領域も、フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列として機能する。
【0105】
本明細書で使用されている“イントロンIの一部”という言葉は、イントロンIの一部が存在しない場合のFIX発現と比較して、プラスミド又はウィルスベクターテンプレートにおいて、1.5倍又は1.5倍を超えてFIXの発現を強化する領域である、約0.1kbから約1.7kbの長さヌクレオチドを有するイントロンIの領域を意味する。より具体的には、イントロンIの1.3kbの部分である。
【0106】
ここで使われる「オリゴヌクレオチド」という用語は、二以上の、通常は四以上のリボ核酸またはデオキシリボ核酸から構成される核酸分子として定義される配列、プライマーおよびプローブを指す。オリゴヌクレオチドの正確なサイズは、種々の要因、オリゴヌクレオチドの具体的な用途および使用法に依存するが、通常、オリゴヌクレオチドは約5~50ヌクレオチドの長さを有する。
【0107】
ここで使われる「プライマー」という用語は、一本鎖または二本鎖の、生物学的システムに由来するか、制限酵素消化により生成されるか、または合成的に作成され、適切な環境下においてテンプレート(鋳型)依存的核酸合成の開始剤として機能することができるDNAオリゴヌクレオチドを指す。適切な核酸テンプレート、核酸の適切なヌクレオシド三リン酸前駆体、ポリメラーゼ酵素、適切な補因子、および適切な温度およびpHの様な適切な環境条件の下では、ポリメラーゼの作用または類似の活性によってプライマーの3‘にヌクレオチドが添加されてプライマーが伸長され、プライマー伸長産物が得られる可能性がある。プライマーの長さは、特定の環境条件および応用要件に依存して変化してよい。例えば、診断的応用においては、オリゴヌクレオチドプライマーの長さは通常、15~30ヌクレオチドまたはこれを超える。所望の伸長産物の合成を始動する、すなわち、ポリメラーゼまたは類似の酵素による合成の開始に供するために、適切に並置されたプライマーの3’水酸基を与えるに十分な様態で所望のテンプレート鎖とアニールするためには、プライマーは、所望のテンプレートに対して十分な相補性を有しなければならない。プライマー配列が、所望のテンプレ-トと完全な相補性を有する必要はない。例えば、非相補的ヌクレオチド配列が、他の領域は相補的なプライマーの5‘末端に連結されていてよい。または、プライマー配列が所望のテンプレートの配列と、伸長産物の合成のためのテンプレート-プライマー複合体を機能的に提供するに十分な相補性を有する限り、非相補的塩基がオリゴヌクレオチドプライマー配列内に散在してよい。
【0108】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、米国特許第4,683,195号、4,800,195号および4,965,188号に記載されている。
【0109】
「特異的にハイブリッド形成する」という表現は、通常当技術分野で用いられるあらかじめ規定された条件下で、十分な相補性を有する二本の一本鎖核酸分子が会合することを意味する(時には「十分に相補的」とも表現される)。特に、この用語は、十分に相補的な配列を有する二つのポリヌクレオチド配列のハイブリッド形成を意味し、非相補的な一本鎖核酸配列へのハイブリッド形成は実質的に除外される。
【0110】
「選択マーカー遺伝子」は、発現されると、形質転換細胞に抗生物質(例えばカナマイシン)耐性の様な選択可能な表現型を付与する遺伝子を意味する。「レポーター」遺伝子は、検出可能な信号を提供する遺伝子である。レポーター遺伝子の非限定的な例としては、ルシフェラーゼ遺伝子がある。
【0111】
改変された形態を含むポリヌクレオチド及びポリペプチドは、細胞発現又はインビトロ翻訳及び化学合成技術を介した様々な標準的な複製、組み換えDNA技術を使用して生成することができる。ポリヌクレオチドの純度は、シーケンシング、ゲル電気泳動等により決定可能である。例えば、核酸は、ハイブリダイゼーション(hybridization)又はコンピュータベースのデータベーススクリーニング技術を使用して単離することができる。このような技術は、以下に限定されないが、次のようなものが含まれる。(1)プローブを使用して同種のヌクレオチド配列を検出するゲノムDNA又はcDNAライブラリのハイブリダイゼーション;(2)例えば、発現ライブラリを使用して共通の構造的特徴を有するポリヌクレオチドを検出する抗体スクリーニング;(3)対象の核酸配列のアニーリングを行うことが可能なプライマーを使用したゲノムDNA又はcDMAに対するポリメラーゼ連鎖反応(PCR);(4)関連する配列の配列データベースのコンピュータによる検索;及び(5)サブトラクトされた核酸ライブラリの差異スクリーニング。
【0112】
ポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、それらの修飾型を含めて、例えば自動合成装置(例えばApplied Biosystems, Foster City, CAを参照)の様な熟練技術者には既知の方法を用いた化学的合成によって生産することができる。ペプチドは、化学的手法を用いて全体または部分的に合成することができる(例えばCaruthers (1980).Nucleic Acids Res. Symp. Ser.215; Horn (1980); およびBanga, A.K.,Therapeutic Peptides and Proteins, Formulation, Processing and Delivery Systems(1995) Technomic Publishing Co., Lancaster, PAを参照)。ペプチドの合成は、様々な固相法(例えば、Roberge Science 269:202(1995年);Merrifield、Methods Enzymol.289:3(1997年)参照)を用いて行うことができ、また、製造者の指示に従って、例えば、ABI 431A ペプチド合成装置(Perkin Elmer)を使用して、自動化合成を実現してもよい。
【0113】
組成物の修飾語として使用される“単離(isolated)”という言葉は、組成物が人の手によって生成されている、又は、生体内環境で自然に発生するものとは、完全に又は部分的に別のものであることを意味する。一般的に、単離組成物は、自然の状態において、例えば、一の又は複数のタンパク質、核酸、脂質、炭水化物、細胞膜に関連付けられている一の又は複数の材料を実質的に含まない。「単離された」という用語は、人の手によって作出された、例えば組換えベクター(例えばAAV)配列、またはベクターゲノムをパッケージまたはカプシド化するウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74ベクター又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクター)と医薬製剤との混合物を除外するものではない。また、「単離された」という用語は、ハイブリッド/キメラ、マルチマー/オリゴマー、修飾(例えばリン酸化
、糖鎖付加または脂質付加)、または誘導体の様な組成物の別の物理的形態、または人の手によって作出された宿主細胞で発現される形態を除外するものではない。
【0114】
本発明の方法と使用法は、異種ポリヌクレオチド(導入遺伝子)を分裂細胞および非分裂細胞の両者を含む広範囲の宿主細胞に送達する(形質導入する)手段を提供する。本発明の組換えベクター(例えばAAV)配列、プラスミド、ベクターゲノム、組換えウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAV)、方法、使用、医薬製剤は、タンパク質、ペプチドまたは核酸を治療手段としてそれを必要とする被験体に投与する方法としても有用である。その結果として、タンパク質、ペプチドまたは核酸が被験体の体内で生成され得る。被験体は、該タンパク質、ペプチドまたは核酸が欠乏しているか、または被験体内での該タンパク質、ペプチドまたは核酸の生成が治療方法またはその他の方法として治療効果があるため、該タンパク質、ペプチドまたは核酸により恩恵を受けるか、またはこれらを必要としている可能性がある。または、例えば神経変性疾患、癌またはアテローム性動脈硬化症の治療の様に、治療効果を得るためには、疾患経過に関与する標的遺伝子の発現または生成を阻害または低減することが望ましい場合もある。
【0115】
一般に、組換えベクター(例えばAAV)配列、プラスミド、ベクターゲノム、組換えウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAV)、方法および使用法は、不十分なまたは望ましくない遺伝子の発現に関係する任意の疾患に関わる一つ以上の症状を治療または緩和するために、生物学的効果を有する任意の異種ポリヌクレオチドを送達するために使用され得る。組換えベクター(例えばAAV)配列、プラスミド、ベクターゲノム、組換えウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAV)、方法及び使用法は、種々の病態に対する治療法を提供するのに用いてもよい。
【0116】
欠陥遺伝子が既知でクローニングされている遺伝疾患は、多数存在する。一般的には、上記の疾患状態は、二つのクラスに分類される。一つは、通常は酵素の欠乏状態であり、は一般的に劣性遺伝する欠乏状態であり、もう一つは、優性遺伝され、少なくとも一部が調節タンパク質又は構造タンパク質が関係するアンバランス状態である。欠損状態の疾患では、遺伝子導入は、補充療法として罹患組織に正常遺伝子を運ぶため、ならびにアンチセンス突然変異を用いて疾患の動物モデルを作出するために用いることができる。不均衡状態の疾患では、遺伝子導入は、モデルシステムで病態を作出するために用いることができ、該モデルシステムはその病態を解消する取り組みに利用することができる。よって、組換えベクター(例えばAAV)配列、プラスミド、ベクターゲノム、組換えウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74ベクター又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクター)、方法及び使用法は、遺伝的疾患の治療を可能にする。ここで用いられる様に、病態は、その疾患の原因となる、または悪化させる欠損または不均衡を部分的または完全に改善することによって治療される。核酸配列の部位特異的組み込みを、突然変異を起こすため、または欠陥を矯正するために使用することも可能である。
【0117】
病態の実例としては、嚢胞性線維症(および肺の他の病気)、血友病A、血友病B、地中海貧血、貧血症および他の血液障害、AID、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかんおよび他の神経障害、癌、(真性)糖尿病、筋ジストロフィー(例えばデュシェンヌ(Duchenne)型、ベッカー(Becker)型),ゴーシェ病(Gaucher’apos;s disease)、ハーラー病(Hurlerapos’s disease)、アデノシン・デアミナーゼ欠損症
、グリコーゲン蓄積症および他の代謝障害、ポンペ病、鬱血性心不全、網膜変性疾患(先
天性脈絡膜欠如、レーバー先天性黒内障および眼の他の疾患)、および固形臓器(脳、肝臓、腎臓、心臓)の疾患等を含むが、これらに限定されるものではない。
【0118】
本発明において、治療方法と使用法が提供されており、それらには本発明の組換えベクター(例えばAAV)ベクターゲノム、組換えウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74ベクター又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクター)、およびベクターゲノムを含む本発明のウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAV)が含まれる。本発明の方法及び使用法は、例えば、遺伝子付加又は置換による、タンパク質をコードする遺伝子の導入、又は、遺伝子の発現又は機能を増大させる又は刺激することによる治療の影響を受けやすい疾患に広く適用可能である。本発明の方法と使用法はまた、例えば遺伝子ノックアウトまたは遺伝子発現の低減(遺伝子ノックダウン)など、遺伝子の発現または機能を低減または減少させることによって治療可能な疾患に広範に応用可能である。
【0119】
本発明によって治療可能な疾患の非限定的な特定の例としては、ここに示したもの、ならびに肺疾患(例えば嚢胞性線維症)、血液凝固疾患または出血性疾患(例えば阻害剤の有無に関わらず血友病A、血友病B)、地中海貧血、血液障害(例えば貧血症)、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、てんかん、リソソーム蓄積症、銅または鉄の蓄積症(例えばウィルソン病またはメンケス病)、リソソーム酸リパーゼ欠損症、神経障害または神経変性疾患、癌、 1型または2型糖尿病、ゴーシェ病(Gaucher’s disease)、ハーラー病(Hurler’s disease) 、アデノシン・デアミナーゼ欠損症、代謝障害(例えばグリコーゲン蓄積症)、網膜変性疾患(例えばRPE65欠損症または不全、先天性脈絡膜欠如や他の眼の疾患)および固形臓器(脳、肝臓、腎臓、心臓)の疾患等を含むが、これらに限定されるものではない。
【0120】
更に、本発明の組換えベクター(例えばAAV)ベクターゲノム、組換えウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74ベクター又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクター)、方法および使用法は、癌、感染病、および関節リウマチの様な自己免疫疾患に関連する症状を治療または緩和するために有益な生物学的効果を提供するモノクローナル抗体またはその断片をコードする核酸を送達するために利用され得る。
【0121】
一実施形態において、本発明の方法又は使用法は、(a)ベクターゲノムを含むウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74又はAAV-Rh74カプシド変異体(例えば、RHM4-1)などの関連AAV)を提供する段階であって、前記ベクターゲノムは異種ポリヌクレオチド配列(及び任意にフィラー/スタッファーポリヌクレオチド配列)を含み、前記異種ポリヌクレオチドの配列は、当該ポリヌクレオチド配列の転写を付与する発現制御要素に操作可能に結合されている、前記ウイルス粒子を提供する段階と、(b)前記異種ポリペプチドを前記哺乳動物内で発現させるべく、前記哺乳動物に前記ウイルス粒子を所定量投与する段階と、を備える。
【0122】
別の実施形態では、本発明の方法または使用法は、異種ポリヌクレオチド配列を哺乳動物または哺乳動物の細胞内に送達または移入することを含み、これは、異種ポリヌクレオチド配列(及び任意にフィラー/スタッファーポリヌクレオチド配列)を含むベクターゲノムを含んでなるウイルス(例えばAAV)粒子(例えば、AAV-Rh74又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAV)または複数のウイルス(例えばAAV)粒子(例えば、AAV-Rh74又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAV)を哺乳動
物または哺乳動物の細胞に投与し、以て異種ポリヌクレオチド配列を哺乳動物または哺乳動物の細胞内に送達または移入することによる。
【0123】
さらに別の実施形態では、タンパク質の発現または機能を必要とする欠損哺乳動物を治療するための本発明の方法または使用法は、異種ポリヌクレオチド配列(及び任意にフィラー/スタッファーポリヌクレオチド配列)を含むベクターゲノムを含んでなるウイルス(例えばAAV)粒子(例えば、AAV-Rh74又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAV)または複数のウイルス(例えばAAV)粒子(例えば、AAV-Rh74又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAV)を提供する段階と、前記ウイルス粒子又は前記複数のウイルス粒子を哺乳動物または哺乳動物の細胞内に送達または移入する段階を含み、ここで異種ポリヌクレオチド配列は哺乳動物内で発現されるタンパク質をコードするか、または異種ポリヌクレオチド配列は哺乳動物の内因性タンパク質の発現を低下させる抑制性配列またはタンパク質をコードする。
【0124】
本明細書に開示された本発明の方法及び使用法の特定の様態において、異種ポリヌクレオチドの発現は、哺乳動物(例えばヒト)に治療的効果を与えるタンパク質または抑制性核酸をコードする。さらに特定の態様では、フィラー/スタッファーポリヌクレオチド配列はベクター配列に含まれ、異種ポリヌクレオチド配列と合わせた全体の長さは、約3.0~5.5Kb、または約4.0~5.0Kb、または約4.3~4.8Kbである。
【0125】
本発明の方法および使用法は、いかなる治療的または有益な効果を及ぼす治療方法をも含む。種々の本発明の方法および使用法にはさらに、例えば血液凝固時間の短縮、補充血液凝固因子の投与用量の低減等、疾患に起因するかこれに関連する一つ以上の有害な(例えば身体的な)症状、障害、不健康状態、疾病または合併症を阻害、低減または軽減することを含む。
【0126】
したがって、治療の治療学的又は有益な効果は、任意の客観的若しくは主観的測定可能な値である、又は、特定の対象に与えられる検出可能な改善若しくは利益である。治療的又は有益な効果とは、有害な症状、障害、疾患又は病気の合併症の全て又は特定のものを必ずしも完全に取り除くことを意味しないが、完全に取り除くことが可能な場合もある。したがって、満足できる臨床的終点とは、疾患によって又は疾患に関連して引き起こされる一の若しくは複数の有害な症状、障害、病気、疾患若しくは合併症における漸進的な改善若しくは部分的な減少が見られた時、又は、短期間に又は長期間にわたって(数時間、数日、数週間、数か月等)疾患によって又は疾患に関連して引き起こされる一の若しくは複数の有害な症状、障害、病気、疾患若しくは合併症における悪化又は進行が、阻害、低減、減少、抑制、防止、制限又は制御された時に、達成される。
【0127】
本発明のベクターゲノム、ベクターゲノムを含む組換えウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74ベクター又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクター)などの組成物、および方法および使用法は、これらを必要とする被験体に十分量または有効量投与することができる。“有効量(effective amount)”又は“十分な量(sufficient amount)”とは、一回の投与又は複数回の投与において、単独、又は、一の又は複数のその他の組成物(薬物のような治療剤)、処置、プロトコル若しくは治療レジメン(therapeutic regimen)剤と組み合わせて、任意の期間(長期又は短期)検出可能な反応が得られる、又は、期待される若しくは所望の結果若しくは利益が対象物に測定可能な若しくは検出可能な期間(例えば、数分、数時間、数日、数か月、数年又は治癒)与えられる量を指す。
【0128】
治療的効果を発揮するベクターゲノムまたはウイルス粒子(例えばAAV、例えば、AAV-Rh74ベクター又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクター)の用量、例えば体重1キログラム当たりのベクターゲノム量(vg/kg)で表した用量は、投薬経路、治療的効果の発揮に要する異種ポリヌクレオチドの発現レベル、具体的な治療対象の疾患、ウイルスベクターに対する宿主免疫反応、異種ポリヌクレオチドまたは発現産物(タンパク質)に対する宿主免疫反応、および発現されタンパク質の安定等のいくつかの要因に基づき変化するが、要因はこれらに限られるものではない。当業者は、上述の諸要因および他の要因に基づき、特定の疾患または障害を有する患者を治療するためのビリオンの用量範囲を容易に決定できる。一般的に、治療効果を得られる投与量は、少なくとも、1×108ベクターゲノム/対象物
の体重の1kgあたり(vg/kg)又はこれを超える範囲であり、例えば、1×109
、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014又はこれを超える範囲である。
【0129】
一例として血友病を取り上げると、一般的に、治療効果を得るべく、疾患の表現型が重症から中程度へと変化させるのには、血液凝固因子が、健康な人を基準として濃度が1%を超える必要がある。表現型が重症であるとは、関節の損傷及び生命を脅かすような出血を特徴とする。表現型が中程度の疾患を軽度なものへと変えるには、血液凝固因子の濃度が、健康な人を基準として5%を超える必要がある。血友病に罹患している対象の治療に関して、典型的な投与量は、少なくとも、当該対象の体重1キログラム当たりのベクターゲノム(vg)を単位として1×1010(vg/kg)である、又は、所望の治療効果を減るべく、約1×1010から1×1011vg/kgの範囲で対象の体重分、又は、約1×1011から1×1012vg/kgの範囲で対象の体重分、又は、約1×1012から1×1013vg/kgの範囲で対象の体重分である。
【0130】
治療(例えば、回復させる、又は、治療的利益を提供する又は改善を提供する)のための投与の“有効量(effective amount)”又は“十分な量(sufficient amount)”とは、一般的に、疾患の有害な症状、結果又は合併症の一つ、複数若しくは全てに対する、又は、疾患によって引き起こされる若しくは疾患と関連する一の若しくは複数の有害な症状、病気、病態若しくは合併症に対する、測定可能な程度の反応を提供するのに有効な量であり、無論、疾患の進行又は悪化を低減する、減少させる、阻害する、抑制する、制限する又は制御できることが望ましい投与結果であると言える。
【0131】
有効量又は十分な量は、一回の投与で提供されても良いが、必ずしもそうでなく、複数回の投与が必要な場合もあるし、また、単独で又は別の成分(例えば、作用物質)、処置、プロトコル又は治療レジメンと組み合わせて投与が行われても良い。例えば、治療すべき疾患の対象、種類、ステータス及び重症度又は(存在する場合)治療の副作用の必要性に比例させて、有効量を増加させても良い。加えて、第2の組成物(例えば、別の薬物又は作用物質)、処置、プロトコル又は治療レジメンが存在せずに一回の又は複数回の投与で与えられる場合には、有効量又は十分な量が必ずしも有効である又は十分でなくてもよく、これは、所定の対象において有効である及び十分であることを確かめるべく、上記の投与を超える追加的な投与、量若しくは期間、又は、更なる成分(例えば、薬物又は作用物質)、処置、プロトコル又は治療レジメンが含まれ得るからである。有効であると考えられる量としては更に、例えば、凝固障害(例えば、血友病A又はB)の治療のための組換え凝固因子タンパク質の投与などの別の治療、治療レジメン又はプロトコルの使用の減少をもたらす量が含まれる。
【0132】
有効量又は十分な量は、必ずしも、治療対象の全て及び各々において有効である必要なく、また、所定のグループ又は集団における治療対象の大半で有効である必要もない。有
効量又は十分な量とは、グループ又は一般集団における有効性又は十分であることを意味するのではなく、特定の対象(患者)において有効又は十分であることを意味する。このような方法においては典型的であるが、所与の治療方法又は使用法に対して、ある対象は大きな反応を示すが、別の対象は、反応が少ない又は全く反応を示さないといった場合がある。したがって、適切な量というのは、治療すべき状態、望まれる治療効果、及び、個々の対象(例えば、対象の生物学的利用能(bioavailability)、性別、年齢等)に依存する。
【0133】
“回復する(ameliorate)”という言葉は、対象の疾患又はその症状、又は、根底にある細胞反応における検出可能な又は測定可能な改善を意味する。検出可能な又は測定可能な改善とは、疾患の発生、頻度、重症度、進行又若しくは期間、又は、疾患と関連する若しくは疾患によって引き起こされる合併症における主観的又は客観的減少、阻害、抑制、制限又は制御を含む、又は、疾患の症状若しくは根本的な原因若しくは結果における改善、又は、疾患の回復を含む。
【0134】
したがって、成功した治療の結果は、疾患の発生、頻度、重症度、進行若しくは期間、又は、対象における疾患の一の又は複数の有害な症状若しくは根本的な原因若しくは結果、を減少、低下、阻害、抑制、制限、制御又は予防するという“治療効果”又は“利益”につながり得る。上記で述べたように、疾患又は有害な症状の一の又は複数の根本的な原因に影響を与える治療方法及び使用法は、有益であると考えられる。疾患又は疾患の有害な症状が安定することのように、悪化の減少又は低減も、治療成功の結果であると言える。
【0135】
このように、治療的利益又は改善とは、必ずしも、疾患の完全な除去、又は、疾患に関連する有害な症状、合併症、結果又は根本的な原因の一つ、大半又は全てを除去することを必要としない。したがって、満足できる臨床的終点とは、対象の疾患における漸進的な改善、又は、短期間に又は長期間(数時間、数日、数週間、数か月等)にわたる、疾患の発生、頻度、重症度、進行若しくは期間の部分的な減少、低下、阻害、抑制、制限、制御若しくは予防若しくは反転(例えば、一の又は複数の症状又は合併症が安定すること)が見られた時である。潜在的な治療的利益又は疾患の改善をもたらす処置のような、方法又は使用法の有効性は、様々な方法によって確かめることができる。
【0136】
本発明の方法及び使用法は、望ましい治療的有利な、付加的な、相乗的な又は相補的な活性又は効果を有する任意の化合物、作用物質、薬物、処置又はその他の治療レジメン又はプロトコルと組み合わせてもよい。組み合わせされる組成物及び処置の例として、生物製剤(タンパク質)、作用物質及び薬物のような、第2の活性物質が含まれる。このような生物製剤(タンパク質)、作用物質、薬物、処置及び療法は、その他の方法又は使用法、又は、例えば、血液凝固疾患の対象を治療する治療的方法のような、本発明の方法及び使用法の前に、実質的に同時に又は後に、投与することができる又は実行することができる。
【0137】
化合物、作用物質、薬物、治療または他の治療計画またはプロトコールは、複合組成物として、または別々に、例えば本発明のベクターゲノムまたはウイルス(例えば、AAV-Rh74ベクター又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクター)の送達または投与と同時に、連続してまたは順次に(前または後に)投与することができる。したがって、本発明は、本発明の方法及び使用法が、本明細書に記載される又は当業者に周知の任意の化合物、作用物質、薬物、治療レジメン、治療プロトコル、プロセス、治療薬又は組成物と組み合わせられた組み合わせを提供する。化合物、作用物質、薬物、治療計画、治療プロトコール、プロセス、療法、または組成物は、本発明のベクターゲノムまたはウイルス(例えば、AAV-Rh74ベク
ター又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクター)の投与の前に、実質的に同時に、または後に被験体に投与することができる。組み合わせの実施形態の非制限的な具体例としては、上記の又はその他の化合物、作用物質、薬物、治療レジメン、治療プロトコル、プロセス、治療薬又は組成物を含む。
【0138】
本発明の方法及び使用法は、とりわけ、別の化合物、作用物質、薬剤、治療レジメン、治療プロトコル、プロセス又は治療薬の使用又は必要性を低減する結果となる方法及び使用法を含む。例えば、血液凝固疾患の場合、本発明の方法又は使用法は、所定の対象において欠乏している又は欠如している(異常又は変異)内因性凝固因子を補うべく行う組み換え凝固因子タンパク質の投与の回数を減らす又は投与量を減らす又は投与を行わなくて良くなるといった、治療的利点を有する。したがって、本発明によれば、別の治療又は療法の必要性又は使用を低減する方法及び使用法が提供される。
【0139】
本発明は、獣医学的適用を含み動物において有用である。従って適切な被験体としては、ヒトの様な哺乳動物およびヒト以外の哺乳動物が含まれる。“対象(subject)”という言葉は、典型的には、ヒト、非ヒト霊長類(サル、テナガザル、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、マカク)、家畜(イヌ及びネコ)、家畜(例えば、ニワトリやアヒル等の家禽、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ)などの哺乳動物を指し、更に、実験動物(マウス、ラット、ウサギ、モルモット)を含む動物を指す。ヒト被験体としては、胎児、新生児、幼児、年少者、および成人を含む。対象は、動物疾患モデルを含み、例えば、血液凝固疾患のマウス及びその他の動物モデル、及び、当業者に周知のその他の動物疾患モデルを含む。
【0140】
ここに記載の通り、ベクターおよび該ベクターを含んでなるウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAV)は、タンパク質の量が不十分であるか機能的な遺伝子産物(タンパク質)が欠損している被験体にタンパク質を提供する、または疾病の原因となり得る異常な、機能が不完全な、または非機能的な遺伝子産物(タンパク質)を生成する被験体に抑制性核酸またはタンパク質を提供するために用いることができる。従って、治療に適した被験体は、機能的な遺伝子産物(タンパク質)の量が不十分、または欠損している、または疾病の原因となり得る異常な、機能が不完全な、または非機能的な遺伝子産物(タンパク質)を産生するか、その危険性を有する被験体である。本発明に係る治療に適した対象としては、更に、疾患につながる異常な又は欠陥を有する(変異)遺伝子産物(タンパク質)を有する又は生成するリスクを有する対象が含まれ、このような異常な又は欠陥を有する(変異)遺伝子産物(タンパク質)の量、発現又は機能を低減させることにより、当該疾患の治療につながる、又は、当該疾患の一の又は複数の症状を軽減し、疾患から回復させることができる。従って、対象被験体には、疾病のタイプ、発症の時期または程度、進行、重症度、頻度、症状のタイプ、期間に関わらず、そのような欠損を有する被験体が含まれる。
【0141】
“予防(Prophylaxis)”という言葉及びその同意語は、対象への接触、投与又は生体内送達が、疾患より前に行われる方法を意味する。疾患によって又は疾患に関連して引き起こされる有害な症状、状態、合併症等が発症する前に、対象への投与又は生体内送達を行うことができる。例えば、本発明の方法及び使用法を適用する候補としての対象を特定するのに、(例えば、遺伝子の)スクリーニングを行うことができるが、疾患が顕在していない対象も存在する。従って、その様な被験体には、たとえ疾病の症状を示していなくても、機能的な遺伝子産物(タンパク質)が不十分な量であること、または欠損している、疾病の原因となり得る異常な、機能が不完全、または非機能的な遺伝子産物(タンパク質)を産生する、および疾病の原因となり得る異常または欠陥(突然変異)遺
伝子産物(タンパク質)のスクリーニングにより陽性と発見された被験体が含まれる。
【0142】
本発明の方法及び使用法は、全身的に、局部的に若しくは局所的に又は任意の経路により送達及び投与することを含み、例えば、注射、点滴、経口(例えば、経口摂取又は吸入)により、又は、局所的に(例えば、経皮的に)送達及び投与することを含む。このような送達及び投与として、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮内、皮下、腔内、頭蓋内、経皮(局所)投与、及び、例えば、粘膜又は直腸を介した非経口投与、投与が含まれる。典型的な投与及び送達経路としては、静脈内(i.v.)、腹腔内(i.p.)、動脈内、筋肉内、腸管外、皮下、胸膜内、局所、真皮、皮内、経皮、非経口、例えば、経粘膜、頭蓋内、髄腔内、経口(消化)、粘膜、呼吸、鼻腔内、気管内挿管、肺内、肺内点滴、口腔、舌下、血管内、クモ膜下、体腔内、イオン導入、眼内、点眼、光学、腺内、臓器内、リンパ内が含まれる。
【0143】
処置が予防的措置であるか又は治療であるか、治療対象の疾患の種類、発症、進行、重症度、頻度、期間又は確率、望ましい臨床的終点、以前に又は同時に行われた治療、対象の全身の健康状態、年齢、性別、人種又は免疫能力、及び、当業者であれば理解できるその他の因子に、用量は依存する及び変化する。投与の量、回数、頻度又は期間は、あらゆる有害な副作用、合併症、又は、処置若しくは治療のその他のリスク因子及び対象の状態に応じて、比例的に増加させる又は減少させることができる。当業者であれば、治療的又は予防的利益を提供するのに十分な量を供給するのに必要となる用量及びタイミングに影響を与える因子を理解できる。
【0144】
本明細書に開示する本発明の方法及び使用法は、対象が治療対象の疾患を有すると特定されてから、対象が疾患の一の又は複数の症状を有してから、又は、対象が疾患の一の又は複数の症状を有さないが以下に記載するようにスクリーニングによって陽性であると判断されてから1-2、2-4、4-12、12-24又は24-72時間以内に実行することができる。無論、本発明の方法及び使用法は、対象が治療対象の疾患を有すると特定されてから、対象が疾患の一の又は複数の症状を有してから、又は、対象がスクリーニングによって陽性であると判断されてから1-7、7-14、14-21、21-48日又は48日を超えて、数か月又は数年後に実行することもできる。
【0145】
組換えベクター(例えばAAV、例えば、AAV-Rh74ベクター又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクター)、配列、プラスミド、ベクターゲノム、組換えウイルス粒子(例えばAAV、例えば、AAV-Rh74ベクター又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクター)、および他の組成物、作用物質、薬物、生物製剤(タンパク質)は、医薬組成物、例えば医薬品として許容できる担体または賦形剤に組み込むことができる。このような医薬組成物は、とりわけ、生体内又は生体外で対象に投与及び送達するのに有用である。
【0146】
本明細書で使用されている“薬学的に許容される(pharmaceutically
acceptable)”及び“生理学的に許容される(physiologically acceptable)”という言葉は、生体内送達又は接触において、一の又は複数の投与経路に適した、生物学的に許容される製剤、気体、液体又は固体又はこれらの組み合わせを意味する。「医薬品として許容できる」または「生理学的に許容できる」成分は、生物学的または他の側面で有害でない物質で、例えば著しい望ましくない生物学的影響を引き起こすことなく被験体に投与され得る物質である。従って、その様な医薬組成物は、例えばウイルスベクター、ウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAV)または形質転換細胞を被験体に投与する際に用いられ得る。
【0147】
前記組成物は、投薬または生体内での接触または送達に適した溶媒(水性または非水性)、溶液(水性または非水性)、乳剤(例えば油中水型または水中油型)、懸濁液、シロップ、エリキシル剤、分散媒と懸濁媒、コーティング剤、等張剤、吸収促進剤、または吸収遅延剤等を含む。水性及び非水性の溶媒、溶液及び懸濁液は、懸濁化剤及び増粘剤を含んでもよい。このような薬学的に許容されるキャリアとしては、(コーティング又は非コーティング)錠剤、(ハード又はソフト)カプセル、マイクロビーズ、粉末、顆粒及び結晶が含まれる。補助的な活性化合物(例えば、防腐剤、抗菌剤、抗ウイルス剤及び抗真菌剤)も組成物に組み込むことができる。
【0148】
以下に記載するように又は当業者に周知のように、医薬組成物は、投与又は送達の特定の経路に適合するように製剤化することができる。従って、医薬組成物は、種々の経路による投与に適した担体、希釈剤または賦形剤を含む。
【0149】
非経口投与に適した組成物は、活性化合物の水性および非水性の溶液、懸濁液または乳剤を含み、その調製物は通常無菌であり、対象被験体の血液と等張である場合がある。非限定的な具体的な例としては、水、生理食塩水、デキストロース、フルクトース、エタノール、動物油、植物油又は合成油が挙げられる。
【0150】
経粘膜投与又は経皮投与(例えば、局所接触)のために、浸透剤を、医薬組成物中に含めることができる。浸透剤は、当該分野で公知であり、例えば、経粘膜投与の場合、界面活性剤、胆汁酸塩及びフシジン酸誘導体が含まれる。経皮投与の場合、活性成分は、当技術分野において一般に知られているようなエアロゾル、スプレー、軟膏、膏薬、ゲル又はクリームとして処方することができる。皮膚との接触のために、医薬組成物としては、典型的には、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゲル、スプレー、エアロゾル又は油を含む。使用することができるキャリアとしては、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、アルコール、経皮促進剤、及び、これらの組合せが挙げられる。
【0151】
共溶媒(cosolvent)及びアジュバント(adjuvants)を、製剤に加えてもよい。共溶媒の非制限的な例は、ヒドロキシル基又は他の極性基を含有し、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリコールエーテルなどのグリコール類;グリセロール;ポリオキシエチレンアルコール及びポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含有する。アジュバントとしては、例えば、大豆レシチン、オレイン酸などの界面活性剤;トリオレイン酸ソルビタンなどのソルビタンエステル;及びポリビニルピロリドンが含まれる。
【0152】
本発明のベクターゲノム、ウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74ベクター又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクター)、および方法と使用法に適した医薬組成物および送達システムは、当技術分野では既知である(例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy (2003) 第20版, Mack Publishing Co., Easton, PA; Remington’s Pharmaceutical Sciences (1990) 第18版, Mack Publishing Co., Easton, PA; The Merck Index (1996) 第12版, Merck Publishing Group, Whitehouse, NJ; Pharmaceutical Principles
of Solid Dosage Forms (1993), Technonic
Publishing Co., Inc., Lancaster, Pa.; Ansel and Stoklosa, Pharmaceutical Calculations (2001) 第11版, Lippincott Williams
& Wilkins, Baltimore, MD; and Poznanskyら, Drug Delivery Systems (1980), R. L. Juliano編、Oxford, N.Y., pp. 253-315を参照)。
【0153】
本明細書で使用される“単位投与形態(unit dosage form)”という言葉は、治療される対象のための単位投与量として適した物理的に分離される単位を指す。各単位は、必要に応じて医薬キャリア(賦形剤、希釈剤、ビークル又は充填剤)も含めて、一回又は複数回の服用で投与した場合、(例えば、予防効果又は治療効果)所望の効果を生じるように計算された所定量を含む。単位投与形態は、液体組成物又は凍結乾燥又は凍結乾燥状態の組成物を含んでもよいアンプル及びバイアルに封入されてもよく、生体内への投与又は送達の前に、例えば、滅菌液体キャリアを添加することができる。単位投与形態をそれぞれ、複数用量キット又は容器に収容することができる。組換えベクター(例えばAAV)配列、プラスミド、ベクターゲノム、組換えウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74ベクター又はAAV-Rh74カプシド変異体(例えば、RHM4-1)などの関連AAVベクター)、およびこれらの医薬組成物は、投与の簡便性と用量の均一性のために単一または複数の単位投与量形態でパッケージされ得る。
【0154】
本発明は、一の又は複数のコンポーネント及び当該コンポーネントが封入されるパッケージ材を含むキットを提供する。キットは、典型的には、コンポーネントを、インビトロ、生体内又は生体外で使用するための使用説明書又はコンポーネントの説明書を含むラベル又はパッケージ挿入物を含む。キットは、例えばベクター(例えばAAV)ゲノムまたはウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74ベクター又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクター)、および随意で別の化合物、作用物質、薬物または組成物等の第二の活性物の様な一群の構成要素を含む場合がある。
【0155】
キットは、キットの一つ以上の構成要素を収納する物理的構造物を指す。パッケージ材料は、構成要素を無菌状態に保つことができ、その様な目的に一般的に用いられる素材(例えば、紙、段ボール、ガラス、プラスチック、アルミホイル、アンプル、バイアル、チューブ等)から成る。
【0156】
ラベル又は挿入物には、一の又は複数のコンポーネントを識別する情報を含めることができ、例えば、ドーズ量、作用メカニズムを含む有効成分の臨床薬理学、薬物動態及び薬力学の情報を含めることができる。ラベル又は挿入物には、製造業者、ロット番号、製造場所及び日付、有効期限を特定する情報を含めることができる。ラベル又は挿入物には、製造業者情報、ロット番号、製造場所及び日付を特定する情報を含めることができる。ラベル又は挿入物には、キットのコンポーネントを使用することができる疾患に関する情報を含めることができる。ラベル又は挿入物には、方法、使用又は治療プロトコル若しくは治療レジメンにおけるキットのコンポーネントの一つ又は複数を使用する臨床医又は対象のための使用説明書を含めることができる。使用説明書には、投与量、頻度又は期間、及び本明細書に記載の方法、使用、治療プロトコル又は予防的レジメン若しくは治療レジメンのいずれかを実施する際の指示を含めることができる。
【0157】
ラベル又は挿入物には、コンポーネントが、提供し得ることが何らかの利益についての情報、例えば、予防的利益又は治療的利益についての情報を含めることができる。ラベル又は挿入物には、可能性のある副作用、合併症や反応に関する情報を含めることができ、例えば、特定の組成物を使用することが適切ではない状況に関して、対象又は臨床医に警告する情報を含めることができる。対象が、当該組成物と適合しない可能性がある一の又は複数の他の薬を服用している、服用する予定がある又は有している、又は、対象が、現在、当該組成物と適合しない別の治療プロトコル又は治療レジメンを受けている、受ける
予定がある又は有している場合に、有害な副作用や合併症が発生することがあるため、説明書には、このような不適合性に関する情報を含めることができる。
【0158】
ラベル又は挿入物としては、コンポーネント、キット又はパッケージ材(例えば、箱)とは別に又は貼り付けられた、又は、キットのコンポーネントを収容するアンプル、管若しくはバイアルに取り付けらえた、例えば、紙やボール紙である“印刷物”が含まれ得る。ラベル又は挿入物としては更に、バーコード印刷されたラベル、ディスク、CD-ROM又はDVD-ROM/RAM、DVDのような光ディスク、MP3、磁気テープ又は電気記憶媒体のようなコンピュータ可読媒体が含まれてもよく、電気記憶媒体としては、RAM及びROM又はこれらのような混合が存在し、例えば、磁気/光学記憶媒体、FLASH媒体又はメモリタイプのカードが挙げられる。
【0159】
そうでないとの定義がない限り、本明細書で用いる全ての技術用語及び科学用語は、一般的に、本発明が属する技術分野の当業者によって理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されるのと同様な又は等価な方法及び材料を本発明の実施又は試験に使用することができるが、好適な方法及び材料について、以下に記載する。
【0160】
本明細書で引用した全ての出願、刊行物、特許及び他の参考文献、GenBankの引用及びATCCの引用は、その全体が援用される。矛盾する場合、定義を含む本明細書が優先される。
【0161】
本明細書に開示された特徴の全ては、任意の組み合わせで組み合わせることができる。明細書に開示された各特徴は、同一、等価又は類似の目的を果たす代替の特徴によって置き換えることができる。従って、別途明言されない限り、開示された特性(例えば組換えベクター(例えばAAV)配列、プラスミド、ベクターゲノムまたは組換えウイルス粒子(例えば、AAV-Rh74ベクター又はカプシド変異体(例えば、RHM4-1)などのAAV-Rh74変異体などの関連AAVベクター))は、同等または類似の特性の属の例である。
【0162】
本明細書で使用されている単数形であることを示す“一の(a)”、“及び(and)”、“その(the)”との言葉は、そうでないと明示されない限り、複数のものも含む。従って、例えば、「ポリヌクレオチド(a polynucleotide)」を参照する際には、複数のその様なポリヌクレオチドが含まれ、「ベクター(a vector)」を参照する際には、複数のその様なベクターが含まれ、「ウイルス(a virus)」または「粒子(a particle)」を参照する際には、複数のその様なビリオン/粒子が含まれる。
【0163】
本明細書で、文脈がそうでないと明示していない限り、全ての数値又は数値範囲がこのような範囲の整数値及び範囲内の値又は整数値の分数部分を含む。例えば、少なくとも80%の同一性を参照する場合には、81%、 82%、 83%、 84%、 85%、
86%、 87%、 88%、 89%、 90%、 91%等、 および81.1%、 81.2%、 81.3%、 81.4%、 81.5%等、また 82.1%、 82.2%、 82.3%、 82.4%、 82.5%等を含む。
【0164】
ある整数に対してこれよりも多い(大きい)又は少ないとの言及は、言及された数よりも大きい又は小さい任意の数を含む。したがって、例えば、1000よりも小さいとの言及は、999、998、997、…、1までの数字、100よりも小さいとの言及は、99、98、97、…、1までの数字を含む。
【0165】
本明細書で、文脈がそうでないと明示していない限り、全ての数値又は数値範囲が、こ
のような値の分数部分、及び、このような範囲内の整数値、並びに、このような範囲内の整数値の分数部分を含む。従って、例えば、パーセンテージの範囲の様な数的範囲に言及する際、1~10の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、および1.1、1.2、1.3、1.4、1.5等を含む。1~50の範囲に言及する際には、従って、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20等、50を含めて50に至るまで、および1.1、 1.2、 1.3、 1.4、 1.5等、2.1、 2.2、 2.3、 2.4、 2.5等を含む。
【0166】
一連の範囲と言う場合、連続した異なる複数の範囲の境界の値を組み合わせた範囲を含む。従って、例えば1~10、10~20、20~30、30~40、40~50、50~60、60~75、75~100、100~150、150~200、200~250、250~300、300~400、400~500、500~750、750~1,000、1,000~1,500、1,500~2,000、2,000~2,500、2,500~3,000、3,000~3,500、3,500~4,000、4,000~4,500、4,500~5,000、5,500~6,000、6,000~7,000、7,000~8,000または8,000~9,000に言及する際は、10~50、50~100、100~1,000、1,000~3,000、2,000~4,000等を含む。
【0167】
本発明は、多くの実施形態及び態様を記述するために断定的な言語を使用して、本明細書に開示されている。本発明はまた、物質又は材料、方法ステップ及び条件、プロトコル、手順などの特定の主題が完全に又は部分的に除外される実施形態を含む。例えば、本発明の特定の実施形態又は態様において、材料及び/又は方法の段階が除外される。したがって、本発明が、本発明が含まないものとしての観点で明示的に表現されていないが、本発明に明示的に含まれないものの態様は、開示されている。
【0168】
本発明の幾つかの実施形態が記載された。当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明を様々な用途及び条件に適合させるべく、本発明に様々な変更及び修正を行うことができる。したがって、以下に記載する実施例は、本発明を例示するものであって、特許請求される本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例
【0169】
実施例1
以下の実施例は、様々な材料及び方法の説明を含む。
マウス:オスのC57BL / 6J(WT)マウス8~10週齢で、実験群当たりn
= 5。犬は、ノースカロライナ州チャペルヒル大学のFIX遺伝子におけるミスセンス変異を有するコロニーのからのHB犬である(Evans et al., Proc
Natl Acad Sci USA 86:10095 (1989年))。
【0170】
AAVベクター構築:マウスを使用した生体内の研究では、ApoE-hAAT肝臓固有プロモーターの制御下にヒトFIXを発現する構築物を用いて行った。犬についても、ほぼ同一のプロモータ及びイヌFIX導入遺伝子を使用して行った。
【0171】
遺伝子導入方法:全てのベクターは、静脈内に送達された。マウスでは尾静脈を介して送達した(マウス一匹当たり200マイクロリットルの量を投与し、ベクターはPBS中に希釈した)。犬では、ベクターを伏在静脈を介して送達した。
【0172】
FIX発現判断:FIXレベルを測定すのに、ELISAを使用した。マウスでは、ヒトFIX ELISA抗体対(補足抗体及び二次抗体)は、Affinity Biol
ogicalsからのものである。犬においても、Haurigot et al. (Mol Ther 18:1318 (2010年))に記載されるように、Affinity Biologicalsからの抗体対が使用された。
【0173】
統計解析:標本が対になっていない、両側t検定について、統計解析を行った。p値<0.05は、統計的に有意であると考えられた。
【0174】
AAV抗体測定:抗体測定には、Manno et al., (Nat Med 12:342 (2006年)) 及び Mingozzi et al. (Nat Med 13:419 (2007年))に記載されたインビトロでの中和測定を使用した。簡単に説明すると、2つのAAVベクター構築物が測定で使用され、CMVプロモーター(ssAAV-LacZ)による制御の下でベータ-ガラクトシダーゼ発現する一本鎖ベクター、又は、チキンβ-アクチンプロモーター(CBA)による制御の下でウミシイタケ(Renilla)レポーター遺伝子を発現する自己相補ベクター、AAV-Rh74-CBA-Renillaが使用された。インビトロでのAAVベクターの形質導入の効率を高めるために、2V6.11細胞(ATCC)を使用し、誘導性プロモーターの制御下にアデノウイルス遺伝子E4を発現させた。1ウェルあたり1.25x104細胞の
濃度で、細胞を96ウェルプレートに播種し、1:1000希釈のポナステロンA(Invitrogen)を培地に添加して、E4発現を引き起こした。測定の日に、熱不活性化テスト血清の3.2倍希釈列(serial half-log dilutions)を、ウイルスを含む培地と混合した。ssAAV-LacZベクターに対しては、測定で使用されたウイルス濃度は、AAV2の場合には約1x1010vg/ml、及び、AAV5,6又は8の場合には約5.5x1010vg/mlであった。scAAV-Lucベクターの場合、測定におけるウイルス濃度は、約50から約150倍低かった。レポーター導入遺伝子の残存活性は、比色分析法 (ssAAV-LacZ)又はルミノメータ(scAAV-Luc)を使用して測定された。
【0175】
抗AAVカプシド全IgG又はIgサブクラスは、捕獲アッセイ(capture assay)を用いて測定した。ELISAプレートを、AAVの空のカプシドの5×1010カプシド粒子/mlで被覆した。プレートを、室温で2時間、PBS中の2%BSA、0.05%Tween20でブロックして、試料の連続希釈液をウェルに充填し、4℃で一晩インキュベートした。ビオチン結合抗ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4抗体又はIgM抗体(Sigma)を抗体の検出に使用し、ストレプトアビジン-HRPは、基質の検出のために添加した。Igの濃度は、精製ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはIgM抗体(Sigma)での段階希釈で作成した標準曲線に対して判定された。
【0176】
AAV生成:ベクター産生のためのプロセスはAyuso et al. (Gene
Ther 17:503 (2010年))に詳細に記載されている。
実施例2
本例は、ヒトFIX遺伝子導入動物(マウス)の研究及び遺伝子導入の後のFIX発現の説明が含まれている。
【0177】
C57BL/6マウス(1グループ当たりn=5)に、肝臓特異的プロモーターの制御下で(1マウスあたり2.510ベクターゲノムの)第IX因子(FIX)遺伝子を有するAAVベクターを尾静脈から注入した。マウスにおけるヒトFIXの導入遺伝子産物(タンパク質)の血漿中濃度は、遺伝子導入後、第1週、第2週及び第4週目にELISAによって測定され、その結果が図1に示されている。AAV-Rh74は、動物における最高レベルの導入遺伝子発現を示した。
実施例3
本例には、血友病の犬における治療レベルのFIXの効果的なAAV-Rh74の調整による送達を実証する動物実験及びデータの記述が含まれる。
【0178】
概略的には、血友病Bの犬に、伏在静脈を介して、体重1kg当たり3×1012ベクターゲノムを静脈内注入(IV)した。治療的FIX導入遺伝子の発現は、肝臓固有のプロモータによって活性化された。ベクターのレベル及びFIXレベルは、ELISAによってモニタされた。イヌFIXの血漿中濃度が、図2に示されている。AAV-Rh74及びAAV8は血友病Bのイヌにおいて同等に効果を発揮し、共にAAV6よりも優れていた。
実施例4
本例は、ヒトにおける抗AAV中和抗体(NAb)の存在を示す研究の説明を含む。
【0179】
表1のデータは、インビトロ測定でヒトで測定された抗AAV中和抗体(NAb)を示す。1:1以下のNAb力価を有する対象を、実験に使用されていない又は抗AAV抗体の力価が低いと定義され、そのAAV血清型(灰色で強調されている部分)の遺伝子導入の対象であるとする。1:1と1:3の間の力価を有する患者は、空のカプシドがおとりとして用いられる限りAAVを許容すると考えられる。1:3よりも高い力価を有するサンプルは、全身注入後のAAV形質導入を許容しないと考えられ、薄い網掛けがされている。AAV-Rh74は、AAV-2及びAAV-8と比較して、抗AAVのNabの最も低い有病率を示した。

【表1】

【表2】
実施例5
本例では、AAV-Rh74を含む様々なAAV血清型の生成量を示すデータの説明が含まれる。
【0180】
表2のデータは、様々なAAV血清型の生成量が示されている。報告されているデータには、ローラボトルにおけるウイルスバッチサイズ、合計ベクター生成量、及び、ボトル一本あたりの生成量(yield)が示されている。全ての血清型を同じ発現カセットでパッケージ化した。AAV-Rh74は、評価を行った他の血清型、すなわちAAV-8、AAV-djおよびAAV -2に匹敵する又は超える生成量を有する。


【表3】
実施例6
この例では、肝臓特異的プロモーターの制御下で、ヒト第IX因子(FIX)を発現するAAVrh74ベクターをアカゲザルに投与し、同じ量のAAV8ベクター投与した場合よりも高いレベルでの、動物におけるFIXの生産量につながったことを示すデータの詳細が含まれる。
【0181】
簡単に説明すると、動物には、AAV8又はAAVrh74が、体重1kgあたり、2×1012ベクターゲノム(vg)/kgの用量で投与された。ベクターは、生理食塩水中又はベクターと空のAAVカプシド(ECと表記される)の混合物中で製剤化された。
【0182】
図4は、アカゲザル血漿中のヒトFIXを検出ELISAによって測定されたヒトFIXの平均(average)(2~8週)及び標準誤差又は算術平均(mean)のヒストグラムプロットである。AAVrh74-FIXベクターを受けた動物は、右の余白に向かって最後の二つのバーに表示されている。データは、AAVrh74ベクターを受けた動物(右余白に向かって最後の二つのバー)は、同じ用量で注射した動物の他のグループ(黒と灰色のバー)と比較してより高いレベルでFIX導入遺伝子を発現したことを示している。平均レベルは、標本が対になっていない、両側スチューデントt検定を用いて比較した。
【0183】
AAV-RHM4-1-FIXを注入した固体のうちの1体がヒト第IX因子導入遺伝子産物に対する阻害因子を生じさせたが、これは十分に実証された現象であり、ヒトFIXベクターで処理したマカクザルの約20%に発生する。RHM4-1で処理した第2の個体は、AAV8で処理したマカクザルと比較して約2倍のFIX濃度を発現した。
実施例7
以下の実施例は、いくつかのRh74カプシド変異体の説明を含む。
【0184】
要約すると、Rh74カプシド配列に種々の置換を導入し、Rh74カプシド変異体を生成した。異なるRh74カプシド変異体及び各位置における置換後のアミノ酸は以下の通りであった。


【表4】
【0185】
RHM4-1変異体は、アラニン、ロイシン、プロリン、及びアスパラギン置換を、それぞれRh74 VP1カプシドの195、199、201、及び202番目のアミノ酸の位置に有していた。RHM4-1変異体VP1カプシドのアミノ酸配列は以下の通りである(配列ID番号:5)。なお、置換後の残基a、v、p、及びnは下線を付与し太字で示す。

【表5】
【0186】
RHM4-1変異体VP1カプシドの核酸配列は以下の通りである。なお、a、v、p、及びnをコードするコドンは下線を付与し太字で示す(配列ID番号:11)。

【表6】
【0187】
RHM15-1、15-2、15-3、15-4、15-5、及び15-6の各変異体もまた、アラニン、ロイシン、プロリン、及びアスパラギン置換を、それぞれRh74 VP1カプシドの195、199、201、及び202番目のアミノ酸の位置に有してい
た。さらに、これらの変異体は、種々の位置にアルギニンを置換したリジンを複数有していた。
【0188】
RHM15-1変異体VP1カプシドのアミノ酸配列は以下の通りである(配列ID番号:6)。

【表7】
【0189】
RHM15-1変異体VP1カプシドの核酸配列は以下の通りである(配列ID番号:12)。

【表8】
【0190】
RHM15-2変異体VP1カプシドのアミノ酸配列は以下の通りである(配列ID番号:7)。

【表9】
【0191】
RHM15-2変異体VP1カプシドの核酸配列は以下の通りである(配列ID番号:13)。

【表10】
【0192】
RHM15-3/RHM15-5変異体VP1カプシドのアミノ酸配列は以下の通りである(配列ID番号:8)。

【表11】
【0193】
RHM15-3/RHM15-5変異体VP1カプシドの核酸配列は以下の通りである(配列ID番号:14)。

【表12】
【0194】
RHM15-4変異体VP1カプシドのアミノ酸配列は以下の通りである(配列ID番号:9)。

【表13】
【0195】
RHM15-4変異体VP1カプシドの核酸配列は以下の通りである(配列ID番号:15)。

【表14】
【0196】
RHM15-6変異体VP1カプシドのアミノ酸配列は以下の通りである(配列ID番号:10)。

【表15】
【0197】
RHM15-6変異体VP1カプシドの核酸配列は以下の通りである(配列ID番号:16)。

【表16】
実施例8
本例は、Rh74カプシド変異体を用いてRh74及びAAV8と比較したヒト第IX因子発現研究の説明を含む。
【0198】
要約すると、Rh74カプシド変異体を用いてAAVヒト第IX因子発現ベクターをパッケージし、AAV粒子を用いてマウスを感染させ、第IX因子の発現レベルを動物(血漿)内で判定した。カプシド変異体は指示された位置において以下のアミノ酸置換を有し
た。
【表17】
【0199】
図5は治療を行った動物における2週間後の血漿中ヒト第IX因子の発現レベルを示す。図示するように、RHM4-1変異体カプシドによってカプシド化されたAAVヒト第IX因子発現ベクターは最高レベルの発現を提供し、Rh74によってカプシド化されたAAVヒト第IX因子発現ベクター及びAAV8によってカプシド化されたAAVヒト第IX因子発現ベクターによって生成された発現よりも、実質的に大きな発現であった。
実施例9
この例では、肝臓特異的プロモーターの制御下で、ヒト第IX因子(FIX)を発現するAAVrh74変異体RHM4-1ベクターをカニクイザル(マカクザル)に投与し、同じ量のAAV8ベクター投与した場合よりも高い濃度での、動物におけるFIXの生産量につながったことを示すデータの詳細が含まれる。
【0200】
カニクイザルはAAV抗体を中和するために事前に選別され、治療前の力価が1:1未満の個体を選択して形質導入が成功するようにした。これらのサルにはその後、ヒト第IX因子導入遺伝子を発現するAAV8ベクター又はAAV-Rh74変異体RHM4-1ベクターのいずれかを、3x1012vg/kgの投与量で注入した。ヒト以外の霊長目の動物におけるヒトFIXの導入遺伝子産物(タンパク質)の血漿中濃度は、観察期間を通して毎週ELISAによって測定され、その結果が図6に示されている。
【0201】
AAV-RHM4-1-FIXを注入した固体のうちの1体がヒト第IX因子導入遺伝子産物に対する阻害因子を生じさせたが、これは十分に実証された現象であり、ヒトとマカクザルのタンパク質におけるアミノ酸のわずかな相違を原因として、ヒトFIXベクターで処理したマカクザルの約20%に発生する。RHM4-1で処理した1体において発現がなかったのは、ヒト導入遺伝子に対する抗体反応が発生したからであった。RHM4-1で処理した第2の個体は、AAV8で処理したマカクザルと比較して約2倍のFIX濃度を発現した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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