(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】ポーラスプラグ
(51)【国際特許分類】
C21C 7/072 20060101AFI20220624BHJP
C21C 5/48 20060101ALI20220624BHJP
B22D 41/42 20060101ALI20220624BHJP
B22D 1/00 20060101ALI20220624BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20220624BHJP
C04B 35/101 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
C21C7/072 P
C21C5/48 D
B22D41/42
B22D1/00 P
C04B38/00 303Z
C04B35/101
(21)【出願番号】P 2019058010
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143410
【氏名又は名称】牧野 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】松尾 将史
(72)【発明者】
【氏名】今枝 孝文
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 智宏
【審査官】向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-251739(JP,A)
【文献】特開平10-280029(JP,A)
【文献】特開平09-136157(JP,A)
【文献】特開平11-263663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/00
C21C 5/00
B22D 1/00
B22D 41/00
C04B 38/00
C04B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径1-3mmの不規則形状のアルミナからなる中粒を
65-85質量%と、
粒径3-5mmの不規則形状のアルミナからなる粗粒を
5-15質量%と、
粒径1mm未満のアルミナを主成分とする微粉を
前記中粒、前記粗粒及び焼結助剤を除いた残部として含んで構成され、
前記中粒と前記粗粒との合計が75-95質量%であることを特徴とするポーラスプラグ。
【請求項2】
前記中粒、前記粗粒及び前記微粉は、破砕粒であることを請求項
1に記載のポーラスプラグ。
【請求項3】
気孔率が20-35%であることを特徴とする請求項1
または請求項2に記載のポーラスプラグ。
【請求項4】
前記微粉はクロミア、マグネシア、スピネル、ジルコン及びシリカのうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項
3のいずれか1つに記載のポーラスプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを溶鋼中に吹き込むために用いられるポーラスプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
ポーラスプラグは、溶融金属容器の底部に装着され、溶融金属にガスを吹き込むための通気性を有する多孔質耐火物であり、溶鋼の撹拌や溶鋼介在物の浮上等の目的に使用される。
【0003】
ポーラスプラグの損耗形態として、ポーラスプラグに浸潤した鋼による剥離や酸素洗浄による溶損があげられる。
【0004】
溶鋼を受鋼後、ガスの吹き込みを開始するまでの間に、溶鋼がポーラスプラグに浸潤し、凝固して浸透層が形成される。この浸透層により十分なガスの吹き込みが行われなくなるので、ポーラスプラグ表面の浸透層をガス圧で吹き飛ばす(剥離)を行う。
【0005】
ガスの吹き込みが終了した後も同様の浸透層が形成される。この浸透層は、ガスの通気性を著しく低下させるため、酸素洗浄が行われる。酸素洗浄は、溶鋼の排出後のポーラスプラグに容器側からは酸素、反対側からは窒素やArを吹き、浸透した鋼を酸化燃焼させながら浸透し凝固した鋼を除去することにより行う。
【0006】
上述の処理によりポーラスプラグの損耗が進行し耐用寿命が短くなってしまう、または、ポーラスプラグとして十分に機能しなくなるため、ポーラスプラグには溶鋼の浸潤を少なくすることが要求されている。
【0007】
そこで、溶鋼の浸潤を少なくするために粒径が小さな粒子を使用して気孔径を小さくし、球状粒子を骨材として適用することにより連通気孔を形成しやすくし、通気性を向上させ、その結果として、通気性を維持したまま気孔率を下げることができるという手法が採用されてきた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ポーラスプラグには、溶鋼の撹拌効率を向上させるために大流量を求められることが多くある。また、ポーラスプラグは、撹拌目的以外では、冶金反応の促進を目的として使用されることがある。例えば、溶鋼に窒素を吹き込み、吸収、反応させる加窒目的で用いられる場合があるが、加窒には時間がかかるため、大流量が求められる。
【0010】
しかし、従来の球状細粒を骨材として使用したポーラスプラグは、気孔径が小さいため、大流量のガスを吹き込むことができない。大流量のガスを吹き込むためには、気孔径を大きくすることが考えられるが、球状粒子を骨材とすると連通気孔が形成されるため、受鋼後からガスの吹き込みを行うまでのわずかな時間で溶鋼が大きく浸潤し、ガスの吹き込みができなくなってしまうおそれがあった。
【0011】
そこで、本発明では、通気性を向上するとともに、溶鋼の浸潤を低減することができるポーラスプラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明では、 ポーラスプラグが、粒径1-3mmの不規則形状のアルミナからなる中粒を65-85質量%と、粒径3-5mmの不規則形状のアルミナからなる粗粒を5-15質量%と、粒径1mm未満のアルミナを主成分とする微粉を前記中粒、前記粗粒及び焼結助剤を除いた残部として含んで構成され、前記中粒と前記粗粒との合計が75-95質量%である、という技術的手段を用いる。
【0014】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のポーラスプラグにおいて、前記中粒、前記粗粒及び前記微粉は、破砕粒である、という技術的手段を用いる。
【0015】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載のポーラスプラグにおいて、気孔率が20-35%である、という技術的手段を用いる。
【0016】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のポーラスプラグにおいて、前記微粉はクロミア、マグネシア、スピネル、ジルコン及びシリカのうち少なくとも1種以上を含有する、という技術的手段を用いる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポーラスプラグによれば、粒径の大きな骨材を使用することで、通気性を向上させることができ、溶鋼に大容量のガスを導入することができる。また、球形原料を使う場合に比べて、連続気孔ができにくく、溶鋼の浸潤を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ポーラスプラグの断面形状及び気孔径の算出について説明する説明図である。
図1(A)は断面写真、
図1(B)は
図1(A)を2値化した画像、
図1(C)は気孔径を算出するために気孔を分割して示した図である。
【
図2】気孔径と浸透量との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意研究を行い、ポーラスプラグにおいて、通気性の向上と溶鋼の浸潤の低減とを両立させることができるポーラスプラグを見出した。材料設計の技術的思想を以下に示す。
【0020】
ポーラスプラグの通気性を向上させるためには気孔径を大きくする必要があるため、粒径が大きな粒子を使用する。一方、通常気孔径を大きくすると溶鋼の浸潤が増大するため、気孔の連通している長さが短く、複雑な気孔経路を有する構造を形成することができる粒子形状を採用し、溶鋼の浸潤を低減させる構成とした。
【0021】
以下に、本発明のポーラスプラグ(以下、ポーラスプラグ、という)の構成について説明する。
【0022】
ポーラスプラグは、粒径1-3mmの不規則形状のアルミナからなる中粒を40-90質量%と、粒径3-5mmの不規則形状のアルミナからなる粗粒を0-20質量%と、残部を粒径1mm未満のアルミナを主成分とする微粉と、から構成され、中粒と粗粒との合計が75-95質量%である。また、好ましくは、中粒を65-85質量%と、粗粒を5-15質量%と、残部を微粉と、から構成され、中粒と粗粒との合計が75-95質量%である。
【0023】
本発明では、粒度は、粒径3mm以上5mm未満を「粗粒」、1mm以上3mm未満を「中粒」、1mm未満を「微粉」とする。ここで、上記粒度は、日本工業規格JIS Z 8801-1:2006に規定される試験用ふるいを用いて篩い分けたものである。
【0024】
「不規則形状」とは、主に球形以外の形状を示し、例えば、焼結体を破砕して製造した破砕粒などが不規則形状を有する粒子である。本実施形態では、中粒、粗粒及び微粉は、それぞれ破砕粒を用いた。破砕粒は、形状の不規則性が高いため、好適に用いることができる。
【0025】
ポーラスプラグは、気孔径を大きくするために、従来のポーラスプラグを構成する粒子より粒径が大きい中粒及び粗粒を主体に構成されている。ここで、中粒と粗粒との合計が少ないと微粉が多くなり気孔率が低下してしまい、多いと結合力が不足して強度が低下してしまうため、中粒と粗粒との合計は75-95質量%とした。
【0026】
中粒の量は、少ないと微粉が多くなりマトリックスを構成する領域が増大するため、気孔径が小さくなり、通気量が低下してしまい、多いと相対的に微粉量が減少しマトリックスを構成する領域が減少し、強度が低下してしまうため、40-90質量%とし、65-85質量%であると更に好ましい。
【0027】
粗粒を有した構成にすることにより通気性が向上するが、多過ぎると気孔径が大きくなり過ぎて溶鋼の浸潤が増大してしまう。そこで、粗粒の量は、中粒の量が40-90質量%のときは0-20質量%とし、中粒の量が65-85質量%のときは5-15質量%とした。
【0028】
微粉は残部を構成し、中粒及び粗粒を結合してマトリックスを構成する。微粉はアルミナ以外にクロミア、マグネシア、スピネル、ジルコン及びシリカのうち少なくとも1種以上を含有してもよい。クロミアは耐スラグ浸蝕性向上効果を有している。マグネシア及びスピネルは結合助剤であり、耐食性向上効果を有しているとともに、耐熱スポーリング性を低下させるため剥離性(通気復帰性)を向上させる効果を有している。ジルコンは結合助剤であり、耐食性向上効果を有している。シリカは結合助剤である。
【0029】
原料として、不規則形状の粒子を用いたのは以下の理由による。
【0030】
ポーラスプラグの通気性を向上させるためには気孔径を大きくする必要があるが、気孔径を大きくすると溶鋼の浸潤が増大するという相反する性質を示す。
【0031】
従来、主骨材として非球状の粒子用いた場合には、骨材の充填が不均一になり、気孔形状が不整になり、通気性が不十分とされていた(例えば、特許文献1第3段落)。
【0032】
しかし、発明者は、粒径が大きな不規則形状の粒子を用いることで、通気性が担保され、粒子の充填の不均一さや気孔形状の不整により、溶鋼の浸潤を低減できることを見出し、原料の粒径、配合比などを適正化して相反する性質を両立させることができた。
【0033】
ポーラスプラグの気孔率は、高過ぎると溶鋼の浸潤が増大し、強度も低下してしまう。また、低過ぎると通気性が低下するため、20-35%が好ましい。本発明の中粒、粗粒及び微粉の配合割合により、気孔率を好適な範囲であるポーラスプラグとすることができる。
【0034】
本発明のポーラスプラグの製造方法は、以下の通りである。まず、各原料と焼結助剤(数%)を秤量・混合し、混練後に所定の形状に成形する。この成形物を、大気中で、焼成温度1500℃以上で焼成することによりポーラスプラグが得られる。
【0035】
本発明のポーラスプラグは、溶鋼に大流量のガスを吹き込むことが要求される用途に好適に用いることができる。例えば、溶鋼処理量が大きい大量精錬工程ではガスの吹込み量を大きくする必要があるため、好適に用いることができる。また、複数本のポーラスプラグを必要としている場合も同じガス吹込みを得るために、ポーラスプラグの本数を少なくすることができる。
【0036】
また、ガス導入により加窒などの冶金反応を生じさせる場合には、大流量のガスを吹き込むことが要求されるため、本発明のポーラスプラグを好適に用いることができる。
【0037】
(実施形態の効果)
本発明のポーラスプラグによれば、粒径の大きな骨材を使用することで、通気性を向上させることができ、溶鋼に大容量のガスを導入することができる。また、球形原料を使う場合に比べて、連続気孔ができにくく、溶鋼の浸潤を低減することができる。
【実施例】
【0038】
以下に本発明を実施例によって説明する。但し本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。表1に、本発明のポーラスプラグである実施例1-3及び比較例1-4原料の配合割合、気孔率、かさ比重、気孔径、通気量及び浸透層の厚さを示す。
【0039】
ここで、比較例1、2は主に球状粒子を用いている。比較例3、4は破砕粒を用いているが配合割合が本発明の請求項の範囲外となっている。
【0040】
全ての試料は、表1に記載した各種原料を混練し、300tフリクションプレス機で加圧成形してφ80xφ140xh330mmの円錐台形状の成形体を作製し、得られた成形体を150℃で24時間乾燥後、1500℃以上の温度で15時間焼成して作製した。
【0041】
【0042】
気孔率は以下の方法で算出した。寸法かさ比重は、直方体の試料を切り出し、研磨加工後に寸法及び重量を測定して算出した。見掛比重はアルキメデス法(真空)により測定し、真密度はガス法(日本工業規格JIS Z 8807:2012)により測定した。
【0043】
(数1)
・全気孔率:(1-寸法かさ比重/真密度)×100
・密閉気孔率:(1-見掛比重/真密度)×100
・見掛気孔率:全気孔率-密閉気孔率
【0044】
気孔径は、以下のように評価した。
図1は実施例1の気孔径を評価した方法について示した。まず、試料の断面を70倍に拡大して顕微鏡写真を撮影した(
図1(A))。次に、撮影された顕微鏡写真に対して画像処理ソフトウェアImageJ(Wayne Rasband)を用いて白黒の二値化処理を施した(
図1(B))。ここで、黒い部分の占有率が気孔の占める面積比に相当する。そして、気孔径を算出するために気孔を分割し(
図1(C))、その面積から相当直径を算出して気孔径とした。
【0045】
図1(A)に示すように、本発明のポーラスプラグは、原料個々の形状は不規則であるため、気孔形状も複雑になり、連続気孔もできにくいことが確認された。
【0046】
評価項目として、原料充填率、通気量、浸透層厚さを採用した。
【0047】
原料充填率は、以下のように評価した。まず、容量500mlのメスシリンダーを用意し、500mlの目盛まで原料の粒子を充填する。次に、充填された粒子の重量を測定し、次式により原料充填率を算出した。ここで、中粒、粗粒の粒径に該当する球状原料は入手できなかったため、粒径0.5-1mmの球状原料と不規則形状の原料との充填率を比較した。
【0048】
(数2)
充填率(%)=充填重量(g)/(原料かさ密度×500(ml))×100
【0049】
粒径0.5-1mmの不規則形状の原料の充填率は49%、球状原料の充填率は58%であり、不規則形状の原料の充填率は球状原料の充填率より小さかった。中粒、粗粒においても、不規則形状の原料の充填率は球状原料の充填率より小さくなると考えられる。
【0050】
通気量は、以下のように評価した。φ50×50mmの円柱状に成形した試料を気密性のあるホルダーに取り付けて、20℃の空気を圧力0.01MPaでホルダーを吹き込んだときに通過する流量を測定した。
【0051】
浸透層の厚さは、以下のように評価した。50x85x55x115mm(上辺x下辺x高さx台形長さ)のブロック状に切り出した試料について回転浸食試験を実施し、試験後の試料断面を観察し、最大浸透層厚みを測定した。回転浸食試験は、試料を円筒状に配置し、その中に溶鋼、合成スラグ成分を入れ、加熱条件1650℃、2時間で回転保持するサイクルを10サイクル実施した。
【0052】
実施例では、実施例1、2、3の順で粗粒の添加量が少なくなっている。粗粒の添加量が少なくなることに伴い、通気量は少なくなり、浸透量が少なくなる傾向が認められた。
【0053】
原料に球状粒子を用いた比較例1、2では通気量が低く、気孔径の大きな比較例1の方が浸透量が大きかった。また、粗粒が本発明の範囲より多い比較例3では浸透量が大きかった。粒径が小さい破砕粒を用いている比較例4では、通気量が小さかった。
【0054】
実施例の通気量は、比較例に比べて大きく、約70NL/minを越える大きな流量を得ることができた。この通気量により、本発明のポーラスプラグは、大流量が要求される用途にも適用することができることが確認された。
【0055】
図2に気孔径と浸透量との関係を示す。球状粒子を用いた比較例1、2では、気孔径を増大させると、浸透量が急増してしまうのに対し、実施例では気孔径の増加割合に対する浸透量の増加割合は小さくなっている。通気量を増大させるために気孔径を増大させると、球状粒子を用いた場合には浸透量が急増してしまい実機の使用には不適である。一方、実施例では、気孔径を増大させても、浸透量が急増することはないことが確認された。
【0056】
以上より、本発明のポーラスプラグによれば、通気性を向上するとともに、溶鋼の浸潤を低減することができることが確認された。