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特許7094260pH応答型マイクロカプセルおよびその製造方法、並びにpH応答型マイクロカプセルの壁材用樹脂組成物
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  • 特許-pH応答型マイクロカプセルおよびその製造方法、並びにpH応答型マイクロカプセルの壁材用樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】pH応答型マイクロカプセルおよびその製造方法、並びにpH応答型マイクロカプセルの壁材用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   B01J 13/12 20060101AFI20220624BHJP
   C23F 11/00 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
B01J13/12
C23F11/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019213597
(22)【出願日】2019-11-26
(65)【公開番号】P2021084057
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】松田 武士
(72)【発明者】
【氏名】古谷 真一
(72)【発明者】
【氏名】田口 佳成
(72)【発明者】
【氏名】田中 眞人
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 夏風
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-500148(JP,A)
【文献】特開平11-080701(JP,A)
【文献】特開平11-344688(JP,A)
【文献】特開2007-270302(JP,A)
【文献】特開2006-255536(JP,A)
【文献】特開2007-162110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J13/02- 13/22
B01J13/00
C09K23/00- 23/56
C23F11/00- 17/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00- 90/00
A61K 9/00- 47/69
A01N 1/00- 65/48
A01P 1/00- 23/00
C11B 1/00- 15/00
C11C 1/00- 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定のpH領域において壁材が溶解して内包物質を放出するマイクロカプセルにおいて、
N-イソプロピルアクリルアミドと(メタ)アクリル酸のランダム共重合体を主成分とする壁材を備え、
前記ランダム共重合体は、N-イソプロピルアクリルアミドと(メタ)アクリル酸の共重合比(モル比)が1.0:0.5~1.0:2.0であり、
壁材が溶解するpH領域がpH8以上であることを特徴とするpH応答型マイクロカプセル。
【請求項2】
内包物質が金属用防錆添加剤であることを特徴とする請求項に記載のpH応答型マイクロカプセル。
【請求項3】
金属用防錆添加剤が硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項に記載のpH応答型マイクロカプセル。
【請求項4】
特定のpH領域において壁材が溶解して内包物質を放出するマイクロカプセルの製造方法において、
マイクロカプセルの壁材となる壁材物質(a)として、N-イソプロピルアクリルアミドと(メタ)アクリル酸のランダム共重合体を用い、壁材物質(a)および界面活性剤(c)が極性有機溶媒(d)に溶解した溶液(x)を得る工程(A)と、
該工程(A)で得られた溶液(x)にマイクロカプセルの内包物質となる芯材物質(b)が混合された溶液(y)を得る工程(B)と、
該工程(B)で得られた溶液(y)を極性有機溶媒(d)が蒸発する温度に維持することにより極性有機溶媒(d)を蒸発させつつ、溶液(y)を撹拌しながら貧溶媒を添加する工程(C)を有し、
界面活性剤(c)がソルビタンモノオレアートおよびモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンであり、極性有機溶媒(d)がメタノールであり、
工程(A)で用いる前記ランダム共重合体は、N-イソプロピルアクリルアミドと(メタ)アクリル酸の共重合比(モル比)が1.0:0.5~1.0:2.0であり、
工程(C)では、溶液(y)に対する貧溶媒の添加速度を0.25~3.5mL/分とすることを特徴とするpH応答型マイクロカプセルの製造方法。
【請求項5】
工程(C)では、溶液(y)中において、壁材物質(a)が析出するとともに、この析出した壁材物質(a)が界面活性剤(c)を介して芯材物質(b)を被覆することでマイクロカプセルが形成されるようにしたことを特徴とする請求項に記載のpH応答型マイクロカプセルの製造方法。
【請求項6】
工程(C)では、溶液(y)を30~60℃の温度に維持することを特徴とする請求項4または5に記載のpH応答型マイクロカプセルの製造方法。
【請求項7】
芯材物質(b)が金属用防錆添加剤であることを特徴とする請求項4~6のいずれかに記載のpH応答型マイクロカプセルの製造方法。
【請求項8】
金属用防錆添加剤が硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項に記載のpH応答型マイクロカプセルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のpH領域において壁材が溶解して内包物質を放出するマイクロカプセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特定のpH領域で内包物質を放出するマイクロカプセルとして、アニオン性やカチオン性の多糖類からなるハイブリッドゲル、或いはポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)とポリアクリル酸(PAA)の共重合体やヨークシェル構造体、ポリスチレンとポリアミンまたはポリスチレンとポリビニルピリジンの共重合体などのようなpH応答性ポリマーを壁材として用いたマイクロカプセルが知られている。
例えば、非特許文献1には多糖類を用いてマイクロカプセル化する方法が、非特許文献2にはPNIPAMとPAAの共重合体を用いてマイクロカプセル化する方法、非特許文献3にはPNIPAMをシェル、PAAをヨークとしてマイクロカプセル化する方法が、特許文献1にはポリスチレンとポリアミンの共重合体を用いてマイクロカプセル化する方法が、特許文献2にはポリスチレンとポリビニルピリジンの共重合体を用いてマイクロカプセル化する方法が、それぞれ開示されている。
【0003】
また、金属用防錆添加剤を内包するマイクロカプセルとしては、ポリビニルアルコール(PVA)の相分離法による有機シリコーン樹脂内包マイクロカプセルが提案されている。このようなマイクロカプセルに関して、例えば、非特許文献4、5には、銅とマイクロカプセルの複合膜による防錆処理が開示されている。
さらに、金属用防錆添加剤を内包させ、pH応答性を付与したマイクロカプセルとしては、アミン誘導体を用いたものが提案されている。このようなマイクロカプセルに関して、例えば、非特許文献6には、トリエタノールアミンを内包させたマイクロカプセルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-255536号公報
【文献】特開2006-83454号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Ghazi Ben Messaoud and four others, “Alginate/sodium caseinate aqueous-core capsules: A pH-responsive matrix”, Journal of Colloid and Interface Science, USA, Elsevier, 15 February 2015, Volume 440, p.1-8
【文献】Guofeng Zhou and five others, “A new drug-loading technique with high efficaciency and sustained-releasing ability via the Pickering emulsion interfacial assembly of temperature/pH-sensitive nanogels”, Reactive & Functional Polymers, Netherlands, Elsevier, November 2013, Volume 73, Issue 11, p.1537-1543
【文献】Lei Liu and four others, “Independent temperature and pH dual-stimuli responsive yolk/shell polymer microspheres for controlled release: Structural effect”, European Polymer Journal, UK, Elsevier, August 2015, Volume 69, p.540-551
【文献】XU Xiu-qing and three others, “Microstructure and deposition mechanism of electrodeposited Cu/liquid microcapsule composite”, Transactions of Nonferrous Metals Society of China, China, Elsevier, October 2011, Volume 21, Issue 10, p.2210-2215
【文献】ZHU LIQUN and two others, “Electrodeposition of composite copper/liquid-containing microcapsule coatings”, Journal of Material Science, Netherlands, Kluwer Academic Publishers, January 2004, Volume 39, Issue 2, p.495-499
【文献】Hana Choi and two others, “Encapsulation of aliphatic amines into nanoparticles for self-healing corrosion protection of steel sheets”, Progress in Organic Coatings, Netherlands, Elsevier, October 2013, Volume 76, Issue 10, p.1316-1324
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1および特許文献1、2に記載のマイクロカプセルは、酸性から中性領域にかけて内包物質を放出するため、当該pHを有する水溶液に分散させると、内包物質を保持することができない。また、合成方法が煩雑であるため工業的な生産は難しい。
また、非特許文献2、3に記載のマイクロカプセルはPNIPAMとPAAから構成されるが、PAA中のスルファジアジン基やカルボキシル基と内包物質のドキソルビシンとの酸塩基平衡反応を利用するため、酸性領域での放出量が多く、pHが7.4の中性領域でも内包物質が放出されるため、当該pHを有する水溶液に分散させると、内包物質を保持することができない。
【0007】
また、非特許文献4、5に記載のマイクロカプセルは金属用防錆添加剤を内包しているが、pH応答性を有しないため、防錆添加剤を放出するためには、物理的な力によってカプセル壁が崩壊する必要があり、金属の腐食反応のような化学的な環境変化に応答して防錆添加剤を放出することはできない。
また、非特許文献6は、金属の腐食反応によってpHが変化することに着目し、アミン誘導体の酸解離反応を利用することでpH応答性を有するマイクロカプセルを腐食抑制剤として使用しているが、コアラテックスからのシード重合でカプセル壁を合成しており、製造コストの観点から工業的には不向きである。また、pHが6.5の中性領域でも内包物質が放出されるため、当該pHを有する水溶液に分散させると、内包物質を保持することができない。
【0008】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、特定のpH領域において内包物質を放出する高いpH応答性を有するとともに、簡便且つ低コストに製造することができるマイクロカプセルを提供することにある。また、本発明の他の目的は、そのようなマイクロカプセルを簡便且つ低コストに安定して製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、壁材にN-置換(メタ)アクリルアミドおよびN-置換(メタ)アクリルアミド誘導体の中から選ばれる1種以上と(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸誘導体の中から選ばれる1種以上のランダム共重合体を用いることにより、特定のpH領域において内包物質を放出する高いpH応答性を有するマイクロカプセルが得られること、特に、このマイクロカプセルは、金属の腐食反応に伴いpH8以上となる領域で内包物質を放出するpH応答性を有することができるため、金属用防錆添加剤を内包物質とするマイクロカプセルに好適なものであることを見出した。また、このマイクロカプセルは、液中乾燥法とコアセルベーション法が並列になされるような製法により簡便且つ低コストに製造できることが判った。
【0010】
本発明は、以上のような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]特定のpH領域において壁材が溶解して内包物質を放出するマイクロカプセルにおいて、
N-置換(メタ)アクリルアミドおよびN-置換(メタ)アクリルアミド誘導体の中から選ばれる1種以上と(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸誘導体の中から選ばれる1種以上のランダム共重合体を主成分とする壁材を備え、
前記ランダム共重合体は、N-置換(メタ)アクリルアミドおよびN-置換(メタ)アクリルアミド誘導体の中から選ばれる1種以上と(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸誘導体の中から選ばれる1種以上の共重合比(モル比)が1.0:0.5~1.0:2.0であることを特徴とするpH応答型マイクロカプセル。
【0011】
[2]上記[1]のマイクロカプセルにおいて、壁材が溶解するpH領域がpH8以上であることを特徴とするpH応答型マイクロカプセル。
[3]上記[1]または[2]のマイクロカプセルにおいて、内包物質が金属用防錆添加剤であることを特徴とするpH応答型マイクロカプセル。
[4]上記[3]のマイクロカプセルにおいて、金属用防錆添加剤が硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩の中から選ばれる1種以上であることを特徴とするpH応答型マイクロカプセル。
【0012】
[5]特定のpH領域において壁材が溶解して内包物質を放出するマイクロカプセルの製造方法において、
マイクロカプセルの壁材となる壁材物質(a)として、N-置換(メタ)アクリルアミドおよびN-置換(メタ)アクリルアミド誘導体の中から選ばれる1種以上と(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸誘導体の中から選ばれる1種以上のランダム共重合体を用い、壁材物質(a)および界面活性剤(c)が極性有機溶媒(d)に溶解した溶液(x)を得る工程(A)と、
該工程(A)で得られた溶液(x)にマイクロカプセルの内包物質となる芯材物質(b)が混合された溶液(y)を得る工程(B)と、
該工程(B)で得られた溶液(y)を極性有機溶媒(d)が蒸発する温度に維持することにより極性有機溶媒(d)を蒸発させつつ、溶液(y)を撹拌しながら貧溶媒を添加する工程(C)を有し、
工程(A)で用いる前記ランダム共重合体は、N-置換(メタ)アクリルアミドおよびN-置換(メタ)アクリルアミド誘導体の中から選ばれる1種以上と(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸誘導体の中から選ばれる1種以上の共重合比(モル比)が1.0:0.5~1.0:2.0であり、
工程(C)では、溶液(y)に対する貧溶媒の添加速度を0.25~3.5mL/分とすることを特徴とするpH応答型マイクロカプセルの製造方法。
【0013】
[6]上記[5]の製造方法において、工程(C)では、溶液(y)中において、壁材物質(a)が析出するとともに、この析出した壁材物質(a)が界面活性剤(c)を介して芯材物質(b)を被覆することでマイクロカプセルが形成されるようにしたことを特徴とするpH応答型マイクロカプセルの製造方法。
[7]上記[5]または[6]の製造方法において、工程(C)では、溶液(y)を30~60℃の温度に維持することを特徴とするpH応答型マイクロカプセルの製造方法。
[8]上記[5]~[7]のいずれかの製造方法において、芯材物質(b)が金属用防錆添加剤であることを特徴とするpH応答型マイクロカプセルの製造方法。
【0014】
[9]上記[8]の製造方法において、金属用防錆添加剤が硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩の中から選ばれる1種以上であることを特徴とするpH応答型マイクロカプセルの製造方法。
[10]特定のpH領域において壁材が溶解して内包物質を放出するマイクロカプセルの壁材用樹脂組成物において、
N-置換(メタ)アクリルアミドおよびN-置換(メタ)アクリルアミド誘導体の中から選ばれる1種以上と(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸誘導体の中から選ばれる1種以上のランダム共重合体を主成分とすることを特徴とするpH応答型マイクロカプセルの壁材用樹脂組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマイクロカプセルは、N-置換(メタ)アクリルアミドおよびN-置換(メタ)アクリルアミド誘導体の中から選ばれる1種以上と(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸誘導体の中から選ばれる1種以上のランダム共重合体を主成分とする壁材を備えることにより、特定のpH領域において内包物質を放出する高いpH応答性を有する。特に、本発明のマイクロカプセルは、金属の腐食反応に伴いpH8以上となる領域(アルカリ性領域)で内包物質を放出するpH応答性を有することができるため、例えば、金属用防錆添加剤を内包物質とし、金属の腐食反応をトリガーとした自己修復性のマイクロカプセルとして利用可能である。また、本発明のマイクロカプセルは、壁材を構成するN-置換(メタ)アクリルアミドおよびN-置換(メタ)アクリルアミド誘導体の中から選ばれる1種以上と(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸誘導体の中から選ばれる1種以上のランダム共重合体の共重合比を調整することにより、マイクロカプセルの使用環境や用途などに応じて、内包物質を放出するpHレベルを変えることができる利点がある。
また、本発明の製造方法によれば、上記のようなマイクロカプセルを、液中乾燥法とコアセルベーション法が並列してなされるような製法により簡便且つ低コストに安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の製造方法の一実施形態における一連の工程を模式的に示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のマイクロカプセルは、特定のpH領域において壁材が溶解して内包物質を放出するpH応答型マイクロカプセルであり、N-置換(メタ)アクリルアミドおよびN-置換(メタ)アクリルアミド誘導体の中から選ばれる1種以上(以下、説明の便宜上「N-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体」という。)と(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸誘導体の中から選ばれる1種以上(以下、説明の便宜上「(メタ)アクリル酸またはその誘導体」という。)のランダム共重合体を主成分とする壁材(カプセル壁)を備えることを特徴とする。
【0018】
従来からpHに応答するマイクロカプセルとしては多糖類を用いたものが知られており、特に医療の分野で用いられているが、生体内でのドラッグデリバリーを目的としているためアルカリ性領域でのpH応答性が乏しかった。これに対して本発明のマイクロカプセルは、上記のようにN-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体のランダム共重合体を主成分とする壁材を備えることにより、特定のpH領域(例えばpH8以上のアルカリ性領域)においてのみ壁材が溶解して内包物質を放出する高いpH応答性を有する。
【0019】
本発明のマイクロカプセルの内包物質としては、マイクロカプセルを製造(合成)する際のコア/シェル構造の安定性を阻害するものでなければ特に制約はなく、マイクロカプセルの用途に応じて内包物質を選択すればよいが、なかでも金属用防錆添加剤が好適である。すなわち、本発明のマイクロカプセルは、金属の腐食反応に伴いpH8以上となる領域(アルカリ性領域)で内包物質を放出するpH応答性を有することができるため、金属用防錆添加剤を内包物質とし、金属の腐食反応をトリガーとした自己修復性のマイクロカプセルとすることができる。
【0020】
内包物質とする金属用防錆添加剤に特別な制限はないが、特に硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩などがコア/シェル構造の安定性を阻害しないため好適であり、それらの1種以上を用いることができる。硝酸塩としては、硝酸セリウム、硝酸アルミニウム、硝酸マグネシウムなどの一般的な防錆添加剤を用いることができる。また、酢酸塩としては、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどの一般的な防錆添加剤を用いることができる。また、硫酸塩としては、硫酸アルミニウム、硫酸コバルトなどの一般的な防錆添加剤を用いることができる。
なお、本発明のマイクロカプセルを後述するような製法で製造する場合、内包物質は、水に可溶であって、有機溶媒に不溶または難溶性である必要があり、有機溶媒に添加しても一部または全部が有機溶媒に溶解しないため、有機溶媒に分散させる分散処理が必要となる。上述した硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩など(金属用防錆添加剤)もこのような物質である。
【0021】
本発明のマイクロカプセルにおいて、壁材の主成分であるN-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体のランダム共重合体を構成するN-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体としては、例えば、N-メチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルメタクリルアミド、N-エトキシメチルアクリルアミド、N-エトキシメチルメタクリルアミド、N-プロポキシメチルアクリルアミド、N-プロポキシメチルメタクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、N-ブトキシメチルメタクリルアミド、N-フェノキシメチルアクリルアミド、N-フェノキシメチルメタクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド等が挙げられ、これらの1種また2種以上を用いることができる。
【0022】
また、本発明のマイクロカプセルにおいて、壁材の主成分であるN-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体のランダム共重合体を構成する(メタ)アクリル酸またはその誘導体としては、カルボキシル基を有し、N-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と共重合可能であるものであれば特に制約はなく、それら(メタ)アクリル酸またはその誘導体の1種以上を用いることができる。アクリル酸誘導体としては、例えば、エトキシトリエチレングリコールアクリレートなどを、メタクリル酸誘導体としては、例えば、2-ジエチルアミノエチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、グリシジルメタクリレートなどを、それぞれ用いることができる。
【0023】
ここで、N-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体のランダム共重合体は、各ポリマー鎖が溶解することで所望のpH応答性が得られるが、ブロック共重合体の場合には、各ポリマー鎖の分子量が高いため、例えば、ポリアクリル酸が溶解するpHであっても、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を溶解することができず、このため十分なpH応答性が得られない。このため本発明では、N-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体のランダム共重合体を壁材に用いるものである。
【0024】
N-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体のランダム共重合体は、N-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体の共重合比(モル比)を1.0:0.5~1.0:2.0とする。N-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体1.0モルに対する(メタ)アクリル酸またはその誘導体の比率が0.5モル未満では、高pH領域でも壁材が溶解せず、pH応答性が得られない。一方、N-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体1.0モルに対する(メタ)アクリル酸またはその誘導体の比率が2.0モル超では、pH8未満の領域でも壁材の溶解が始まるため、中性の水溶液中でも一部溶解が生じてしまう。
【0025】
上述したように本発明のマイクロカプセルは、金属の腐食反応よってpHが上昇し、pH8以上のアルカリ領域になった際に壁材が溶解するpH応答性を有することができるが、例えば、N-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体1.0モルに対する(メタ)アクリル酸またはその誘導体の比率を0.5モル~2.0モルの範囲で調整することにより、壁材が溶解するpH領域を調整する(例えば、pH8以上の領域のなかで高pH側または低pH側にシフトさせる)ことができる。すなわち、N-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体に対する(メタ)アクリル酸またはその誘導体の比率が低い方が、壁材が溶解するpH領域が高くなるので、マイクロカプセルの使用環境や用途に応じて内包物質を放出するpHレベルを選択することができる。
本発明のマイクロカプセルの壁材は、N-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体のランダム共重合体を主成分とし、その他の成分として、マイクロカプセル製造時に使用する界面活性剤成分(マイクロカプセル製造時に芯材物質の外側に吸着した界面活性剤成分)などを含む。
【0026】
マイクロカプセルの壁材物質として用いるN-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体のランダム共重合体は、例えば、以下のようにして合成することができる。
メタノール、エタノール、アセトンなどの溶媒にN-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体を加えて撹拌し、N-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体を完全に溶解する。ここで、N-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体の配合比は、上述したようにN-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体の共重合比(モル比)が1.0:0.5~1.0:2.0となるように調整する。この理由は、さきに述べたとおりである。
【0027】
次いで、上記溶液に適量の重合開始剤(例えば、アゾビスイソブチロニトリルなど)を加え、撹拌して完全に溶解したところで、この溶液を68~74℃程度に加温し、この加熱状態で3~7時間程度撹拌を続けることにより、N-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体を共重合させる。ここで、溶液の温度が68℃未満では重合速度が小さく、一方、74℃を超えると経済的に非効率である。
反応終了後、溶液の温度を下げて反応生成物をろ過回収し、この反応生成物を乾燥させることで、マイクロカプセルの壁材物質として用いる粉末状の「N-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体のランダム共重合体」を得ることができる。
【0028】
次に、本発明のマイクロカプセルの製造方法について説明する。
この製造方法は、マイクロカプセルの壁材となる壁材物質aとして、上述したN-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体のランダム共重合体を用い、壁材物質aおよび界面活性剤cが極性有機溶媒dに溶解した溶液xを得る工程(A)と、この工程(A)で得られた溶液xにマイクロカプセルの内包物質となる芯材物質bが混合された溶液yを得る工程(B)と、この工程(B)で得られた溶液yを極性有機溶媒dが蒸発する温度に維持することにより極性有機溶媒dを蒸発させつつ、溶液yを撹拌しながら貧溶媒を添加する工程(C)を有する。この工程(C)では、溶液y中において、壁材物質aが析出するとともに、この析出した壁材物質aが界面活性剤cを介して芯材物質bを被覆することでマイクロカプセルが形成される。すなわち、溶液y中において、壁材物質aが析出するとともに、界面活性剤cの親水基が芯材物質bに吸着することにより、芯材物質bと界面活性剤cの親水基をコアとし、界面活性剤cの疎水基をシェルとするコア/シェル構造が形成され、析出した壁材物質aが当該コア/シェル構造のシェルに濃化することにより芯材物質bの外側に壁材(カプセル壁)が形成され、芯材物質bを内包物質とするマイクロカプセルが得られる。
【0029】
以下、この製造方法の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の製造方法の一実施形態における一連の工程(A)~(C)を模式的に示したものである。
本発明において、壁材物質aとして用いるN-置換(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体と(メタ)アクリル酸またはその誘導体のランダム共重合体は、水には不溶であるが、メタノールなどの極性有機溶媒dには可溶である。本発明の工程(A)では、例えば、壁材物質aを界面活性剤cとともに極性有機溶媒dに添加するなどして、壁材物質aおよび界面活性剤cが極性有機溶媒dに溶解した溶液xを得る。
【0030】
極性有機溶媒dとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
界面活性剤cの種類に特別な制限はなく、例えば、Span80(ソルビタンモノオレアート)、Span20(ソルビタンモノラウレート)、Tween20(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン)、ジエチレングリコールモノラウレートなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。なかでも、油溶性でHLB値が比較的大きいSpan80やTween20などが特に好ましい。
【0031】
続く工程(B)では、工程(A)で得られた溶液xにマイクロカプセルの内包物質となる芯材物質bが混合された溶液yを得るが、芯材物質bは、水に可溶であって、有機溶媒に不溶または難溶性である(すなわち一部または全部が有機溶媒に溶解しない)ので、溶液x(有機溶媒)に分散させる分散処理を行う。具体例としては、溶液x(以下、極性有機溶媒dがメタノールである場合を例に説明する)にマイクロカプセルの内包物質となる芯材物質bを添加し、例えば超音波を照射することにより芯材物質bを溶液xに分散させ、連続相(乳化粒子が分散している媒質)の溶液yとする。
芯材物質bとしては、さきにマイクロカプセルの内包物質として説明したように、製造工程中でのコア/シェル構造の安定性を阻害するものでなければ特に制約はなく、マイクロカプセルの用途などに応じて選択すればよいが、なかでも金属用防錆添加剤が好適である。この金属用防錆添加剤については、さきに述べた通りである。なお、溶液y中に分散した芯材物質bは、固体、液体のいずれでもよい。
【0032】
続く工程(C)では、溶液y(連続相)を必要に応じて加熱することでメタノールが蒸発する温度に維持し、メタノールを蒸発させつつ、溶液yを撹拌しながら貧溶媒を添加する。貧溶媒の種類は特に制限はないが、一般に水が用いられるので、以下は水を用いる場合を例に説明する。溶液yの温度は、メタノールが蒸発できる比較的低い温度とすることが好ましい。ここで、溶液yの温度が低すぎると反応時間が長くなって生産性が低下するとともに、芯材物質の種類によっては芯材物質が離脱して含有率が低下するおそれがあり、一方、溶液yの温度が高すぎるとエタノールが急速に蒸発することで系が不安定になり、マイクロカプセルの収率が低下するおそれがある。このため溶液yの温度は、通常、30~60℃程度が適当である。
【0033】
この工程では、溶液yを撹拌しながら水を一定速度で加えるのが好ましい。溶液yの撹拌時間は1~3時間程度が適当である。また、溶液yに対する水の添加速度(滴下速度)は、小さすぎるとマイクロカプセルの粗大化や芯材物質の種類によっては含有率の低下が生じやすくなるとともに、反応時間が長くなって生産性が低下するおそれがあり、一方、添加速度が大きすぎるとマイクロカプセルの粒径分布が広くなるなどの問題が生じやすくなるので、0.25~3.5mL/分とするのが適当である。
【0034】
この工程(C)では、メタノールの蒸発が進み、このメタノールの蒸発と水の添加に伴い、水に不溶な壁材物質aが析出するとともに、芯材物質bに界面活性剤cの親水基が吸着し、界面活性剤による吸着層を形成することにより、安定化された芯物質(コア)が生成され、析出した壁材物質aが上記界面活性剤吸着層の疎水基に吸収可溶化されて濃化することにより、芯材物質bを内包物質とするマイクロカプセルeが得られる。すなわち、この工程(C)では、溶液y中の極性有機溶媒d(メタノール)を蒸発させることでシェルの生成を促進する液中乾燥法の要素と、水の添加によって壁材物質aの析出を促進することで、芯材物資bの外側に壁材物質aによる緻密なシェルを形成するコアセルベーション法の要素が組み合わさったようなメカニズムによって、芯材物質bの外側に壁材物質aによる壁材(カプセル壁)が形成され、溶液y中に内包物質と壁材からなるマイクロカプセルが生成する。しかも、上記メカニズムによりカプセルが速やかに生成するため、短時間でマイクロカプセルを得ることができる。
溶液yを室温に戻した後、沈殿物(マイクロカプセル)を回収し、洗浄を行った後に乾燥処理して水分を除去し、粉末状のマイクロカプセルを得る。
【実施例
【0035】
[壁材物質の合成例]
1,4-ジオキサン150gにN-イソプロピルアクリルアミド(和光純薬工業社製)10.4gと(メタ)アクリル酸(和光純薬工業社製)を加えて撹拌し、N-イソプロピルアクリルアミドを完全に溶解した。(メタ)アクリル酸の添加量は、表1に示すモル比(N-イソプロピルアクリルアミド:(メタ)アクリル酸=1.0:0.3~1.0:2.5)となるように調整した。この溶液に重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業社製)1.35gを加えて完全に溶解したところで、撹拌しながら溶液の温度を70℃まで加温し、200rpmの撹拌速度で6時間加熱し、N-イソプロピルアクリルアミドと(メタ)アクリル酸を重合させた。40℃付近まで溶液の温度を下げ、濾過回収を行い、これを38~45℃で5時間乾燥させることで粉末状のN-イソプロピルアクリルアミドと(メタ)アクリル酸のランダム共重合体を得た。
【0036】
[マイクロカプセルの製造例]
・実施例1
硝酸アルミニウムを内包物質とするマイクロカプセルを製造した。
上記のようにして合成された壁材物質(N-イソプロピルアクリルアミドと(メタ)アクリル酸のランダム共重合体)0.55gをメタノール5.0gに加え、さらに、界面活性剤としてソルビタンモノオレアート(Span80,和光純薬工業社製)11.4mgとモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween20,和光純薬工業社製)6.1mgを添加し、壁材物質を完全に溶解させた溶液を得た(工程A)。
【0037】
次いで、この溶液に芯材物質として硝酸アルミニウム九水和物(関東化学社製)0.25gを加え、3分間超音波を照射して溶液中に分散させ、連続相とした(工程B)。
次いで、この溶液の温度を30~60℃に保ち、700rpmで撹拌を行いながら蒸留水40mLを0.25~3.5mL/分の添加速度で添加した後、さらに200rpmで1時間撹拌した(工程C)。
溶液を室温に戻した後、10,000rpm、15分の条件で遠心分離を行い、沈殿物を回収し、洗浄を行った後、38~45℃で5時間乾燥し、水分を完全に除去した。
【0038】
表1に示す発明例1~14では、得られた粉末のSEM分析により球形のカプセルが得られていることが確認され、EDX分析によりAlが検出されたことから、硝酸アルミニウムが内包されていることが確認された。また、比較例3も同様であった。一方、比較例1、2では、粉末の形態が塊状であり、マイクロカプセルが得られなかった。
製造されたマイクロカプセルのpH応答性を以下のようにして評価した。
透明な容器に入れた蒸留水50mLにマイクロカプセルを0.05g加え、超音波を30秒間照射し、マイクロカプセルの乳化分散による溶液(pH=5.6)の白濁を確認した。次いで、10%水酸化ナトリウム溶液を添加してpHを7.0、8.0、9.0、10.0、12.0に調整し、さらに超音波を30秒間照射した後、溶液の状態を確認し、溶液が透明になった場合にマイクロカプセルが溶解したと判断した。その結果を、壁材物質の合成条件およびマイクロカプセルの製造条件とともに表1に示す。
表1によれば、発明例1~14のマイクロカプセルは、pH8以上でのみ溶解するpH応答性を有していることが判る。これに対して比較例3のマイクロカプセルは、pH8未満の領域で溶解していることが判る。
【0039】
【表1】
【0040】
・実施例2
硝酸セリウムを内包物質とするマイクロカプセルを製造した。
上記のように合成された壁材物質(N-イソプロピルアクリルアミドとメタクリル酸のランダム共重合体、N-イソプロピルアクリルアミドとメタクリル酸の共重合比(モル比)=1.0:1.08)0.55gをメタノール5.0gに加え、界面活性剤としてさらに、ソルビタンモノオレアート(span80,和光純薬工業社製)11.4mgとモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween20,和光純薬工業社製)6.1mgを添加し、壁材物質を完全に溶解させた溶液を得た(工程A)。
【0041】
次いで、この溶液に芯材物質として硝酸セリウム六水和物(関東化学社製)0.25gを加え、3分間超音波を照射して溶液中に分散させ、連続相とした(工程B)。
次いで、この溶液の温度を40℃に保ち、700rpmで撹拌を行いながら蒸留水40mLを1.4mL/分の添加速度で添加した後、さらに200rpmで1時間撹拌した(工程C)。
溶液を室温に戻した後、10,000rpm、15分の条件で遠心分離を行い、沈殿物を回収し、洗浄を行った後、38~45℃で5時間乾燥し、水分を完全に除去した。
得られた粉末のSEM分析により球形のカプセルが得られていることが確認され、EDX分析によりCeが検出されたことから、硝酸セリウムが内包されていることが確認された。
【0042】
・実施例3
硝酸マグネシウムを内包物質とするマイクロカプセルを製造した。
上記のように合成された壁材物質(N-イソプロピルアクリルアミドとメタクリル酸のランダム共重合体、N-イソプロピルアクリルアミドとメタクリル酸の共重合比(モル比)=1.0:1.08)0.55gをメタノール5.0gに加え、さらに、界面活性剤としてソルビタンモノオレアート(span80,和光純薬工業社製)11.4mgとモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween20,和光純薬工業社製)6.1mgを添加し、壁材物質を完全に溶解させた溶液を得た(工程A)。
次いで、この溶液に芯材物質として硝酸マグネシウム六水和物(関東化学社製)0.25gを加え、3分間超音波を照射して溶液中に分散させ、連続相とした(工程B)。
【0043】
次いで、この溶液の温度を40℃に保ち、700rpmで撹拌を行いながら蒸留水40mLを1.4mL/分の添加速度で添加した後、さらに200rpmで1時間撹拌した(工程C)。
溶液を室温に戻した後、10,000rpm、15分の条件で遠心分離を行い、沈殿物を回収し、洗浄を行った後、38~45℃で5時間乾燥し、水分を完全に除去した。
得られた粉末のSEM分析により球形のカプセルが得られていることが確認され、EDX分析によりMgが検出されたことから、硝酸マグネシウムが内包されていることが確認された。
【符号の説明】
【0044】
a 壁材物質
b 芯材物質
c 界面活性剤
x 溶液
y 溶液
図1