(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】眼底撮影装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/14 20060101AFI20220624BHJP
【FI】
A61B3/14
(21)【出願番号】P 2019511305
(86)(22)【出願日】2018-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2018014581
(87)【国際公開番号】W WO2018186469
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2017075949
(32)【優先日】2017-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 和典
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 希
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋一
(72)【発明者】
【氏名】井澤 佑介
(72)【発明者】
【氏名】山内 貴紀
【審査官】山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-099032(JP,A)
【文献】特開2012-192095(JP,A)
【文献】特開平02-149246(JP,A)
【文献】特開昭63-226336(JP,A)
【文献】特開平09-253053(JP,A)
【文献】特開2014-094118(JP,A)
【文献】特開2010-259530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも可視光および不可視光に感度を有する撮像素子と、
被験者眼眼底から前記撮像素子へ至る光路の途中に配置されるフォーカスレンズと、
前記被験者眼眼底の観察に用いられる第1の不可視光とはピーク波長の異なる第2の不可視光でフォーカス視標を投影し、前記撮像素子で得られる前記フォーカス視標の像が合焦する位置に前記フォーカスレンズを合わせるフォーカス調整手段と、
前記被験者眼眼底を可視光で撮影する際に挿抜され、前記被験者眼眼底から前記撮像素子へ至る可視光と不可視光との光路差を補正する光路補正部材と、を備え
、
前記フォーカス調整手段は、前記第1の不可視光が1フレーム毎に点滅することにより行われる眼底観察の際に、前記第1の不可視光の消灯時に前記撮像素子で得られる前記フォーカス視標の像が合焦する位置に前記フォーカスレンズを合わせる、眼底撮影装置。
【請求項2】
前記第1の不可視光の点灯時に前記撮像素子で得られる眼底画像がディスプレイに選択的に表示される、
請求項1に記載の眼底撮影装置。
【請求項3】
前記光路補正部材は、不可視光を遮断する機能を有する、
請求項1
または2に記載の眼底撮影装置。
【請求項4】
前記眼底撮影装置は、倍率に応じて交換される複数種のレンズに各々対応する複数の前記光路補正部材を備える、
請求項1から
3の何れか一項に記載の眼底撮影装置。
【請求項5】
前記不可視光とは、赤外光である、
請求項1から
4の何れか一項に記載の眼底撮影装置。
【請求項6】
前記第1の不可視光とは、850nmの波長をピークとする赤外光であり、
前記第2の不可視光とは、805nmの波長をピークとする赤外光である、
請求項1から
5の何れか一項に記載の眼底撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼底撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光による眼底撮影では、眼底に照射する可視光で瞳孔が閉じるのを防ぐため、眼が感知しない赤外光等の不可視光を用いて、被検眼と光学系との事前調整(光軸合わせ、ピントあわせなど)が行われる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5807701号公報
【文献】特許第5215675号公報
【文献】国際公開第2016/136859号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
眼底撮影装置では、眼底撮影に先立ち、フォーカスレンズの位置調整が行われる。しかし、可視光と不可視光との間には色収差があるため、フォーカスレンズの位置調整が不可視光を使って行われる場合には、色収差に起因するフォーカスレンズの位置ずれを考慮する必要がある。しかし、色収差に応じたフォーカスレンズの位置調整は、フォーカスレンズの動作機構の制御を複雑にする。
【0005】
そこで、本願は、可視光による眼底撮影に先立って行われる不可視光を使ったフォーカスレンズの位置調整を、複雑な制御を要することなく実現可能な眼底撮影装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、少なくとも可視光および不可視光に感度を有する撮像素子を用いることとし、可視光を使った眼底の撮影は、不可視光で合焦する位置にフォーカスレンズを合わせた状態で行うことにした。そして、可視光と不可視光との光路差は、光路補正部材を挿抜して補正することにした。
【0007】
詳細には、本発明は、眼底撮影装置であって、少なくとも可視光および不可視光に感度を有する撮像素子と、被験者眼眼底から撮像素子へ至る光路の途中に配置されるフォーカスレンズと、被験者眼眼底の観察に用いられる第1の不可視光とはピーク波長の異なる第2の不可視光でフォーカス視標を投影し、撮像素子で得られるフォーカス視標の像が合焦する位置にフォーカスレンズを合わせるフォーカス調整手段と、被験者眼眼底を可視光で撮影する際に挿抜され、被験者眼眼底から撮像素子へ至る可視光と不可視光との光路差を補正する光路補正部材と、を備える。
【0008】
ここで、不可視光とは、人の眼が感知しない光であり、例えば、赤外光を適用することができる。また、第1の不可視光とは、所定の波長をピークに持つ不可視光であり、例えば、850nmの波長をピークとする赤外光を適用することができる。また、第2の不可視光とは、所定の波長とは異なる波長をピークに持つ不可視光であり、例えば、805nmの波長をピークとする赤外光を適用することができる。
【0009】
上記の眼底撮影装置のフォーカス調整手段は、第2の不可視光で投影されるフォーカス視標の像が合焦する位置にフォーカスレンズを合わせる。そして、可視光を使った眼底の撮影は、不可視光で合焦する位置にフォーカスレンズを合わせた状態のままで行われる。すなわち、フォーカスレンズの動作機構において、可視光と不可視光との間にある色収差を考慮した複雑な制御は行われない。そして、可視光と不可視光との間にある色収差に起因する合焦位置は、可視光を使った眼底撮影の際に挿抜される光路補正部材で調整される。この調整は、光路補正部材の挿抜という簡単な動作で実現されるため、色収差を考慮したフォーカスレンズの位置調整に求められるような複雑な制御を必要としない。
【0010】
なお、上記のフォーカス調整手段は、第1の不可視光が消灯時に撮像素子で得られるフォーカス視標の像が合焦する位置にフォーカスレンズを合わせるものであってもよい。上記の眼底撮影装置がこのようなフォーカス調整手段を備えていれば、フォーカス視標が明確に捉えられる。
【0011】
また、上記のフォーカス調整手段は、第1の不可視光が1フレーム毎に点滅することにより行われる眼底観察の際に、第1の不可視光が消灯時に撮像素子で得られるフォーカス視標の像が合焦する位置にフォーカスレンズを合わせるものであってもよい。上記の眼底撮影装置がこのようなフォーカス調整手段を備えていれば、眼底観察中にフォーカス調整が行われる。
【0012】
また、上記の光路補正部材は、不可視光を遮断する機能を有するものであってもよい。上記の眼底撮影装置がこのような光路補正部材を備えていれば、眼底の撮影画像に不可視光が映り込まないため、鮮明な眼底の撮影画像を得ることができる。
【0013】
また、上記の眼底撮影装置は、倍率に応じて交換される複数種のレンズに各々対応する複数の光路補正部材を備えていてもよい。上記の眼底撮像装置がこのような光路補正部材を備えていれば、より鮮明な眼底の撮影画像を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
上記の眼底撮影装置であれば、可視光による眼底撮影に先立って行われる不可視光を使ったフォーカスレンズの位置調整を、複雑な制御を要することなく実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本実施形態の眼底撮影装置の光学系の概略構成を示した図である。
【
図2】
図2は、眼底撮影装置に備わる電気回路のブロック線図である。
【
図3】
図3は、眼底撮影装置で実現される処理フローを示した図である。
【
図4】
図4は、広角用レンズが選択されている場合に実現される各処理のタイミングチャートを示した図である。
【
図5】
図5は、イメージセンサが取得する映像の一例を示した図である。
【
図6】
図6は、LCDパネルに表示される映像の一例を示した図である。
【
図7】
図7は、フォーカス視標の検知処理に用いられる眼底画像が並ぶ映像の一例を示した図である。
【
図8】
図8は、フォーカスの判定方法を示す第1の図である。
【
図9】
図9は、フォーカスの判定方法を示す第2の図である。
【
図10】
図10は、フォーカスの判定方法を示す第3の図である。
【
図12】
図12は、狭角用レンズが選択されている場合に実現される各処理のタイミングチャートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であり、本発明の技術的範囲を以下の態様に限定するものではない。
【0017】
図1は、本実施形態の眼底撮影装置の光学系の概略構成を示した図である。眼底撮影装置1は、被検眼Eの眼底を撮影する装置であり、対物レンズ2、有孔ミラー3、フォーカスレンズ4、ハーフミラー5、内部固視灯6、リレーレンズ7、フォーカスドットミラー8、フォーカス視標投影系9、黒点板ガラス10、リレーレンズ11、リングスリット12、拡散板13、撮影用照明14、観察用照明15、結像レンズ16、狭角用レンズ17、広角用レンズ18、光路補正ガラス19(本願でいう「光路補正部材」の一例である)、イメージセンサ20を備える。
【0018】
まず、眼底撮影装置1に備わる各部品の位置関係および機能について説明する。対物レンズ2は、被検眼Eの正面に位置するレンズである。そして、対物レンズ2の後方の光軸上には、有孔ミラー3、フォーカスレンズ4、ハーフミラー5、内部固視灯6が順に配置されている。有孔ミラー3は、対物レンズ2の光軸が通過する部位に貫通孔が形成されたミラーであり、対物レンズ2の光軸に対し適当な傾き角で眼底撮影装置1内に固定されている。
【0019】
有効ミラーで反射されて被検眼Eに照射される照明光を導く照明光学系の軸上には有孔ミラー3側から順に、リレーレンズ7、フォーカスドットミラー8、黒点板ガラス10、リレーレンズ11、リングスリット12、拡散板13、撮影用照明14、観察用照明15が配置される。よって、撮影用照明14や観察用照明15から放たれた光は、拡散板13やリングスリット12を通過する過程で環状の照射光となり、リレーレンズ11、黒点板ガラス10、フォーカスドットミラー8、リレーレンズ7を経て有孔ミラー3で反射され、対物レンズ2を経て被検眼Eの眼底を照明する。
【0020】
黒点板ガラス10は対物レンズ2による反射光が撮影像に写りこむのを防ぐもので、板ガラスの中心、すなわち光軸のある位置に、小さい遮光物が配置されているものである。その黒点板ガラス10とリレーレンズ7との間にあるフォーカスドットミラー8には、反射光がリレーレンズ7の光軸に一致することになる角度でフォーカス視標投影系9からの光が入射する。フォーカス視標投影系9は、被検眼Eの眼底にフォーカス視標を投影する。よって、被検眼Eの眼底には、撮影用照明14及び観察用照明15が放つ光の他、フォーカス視標投影系9が放つフォーカス視標の光が入射することになる。フォーカス視標投影系9は、観察用照明15が放つ眼底観察用の赤外光とはピーク波長の異なる赤外光を放つ赤外LED(Light Emitting Diode)を有する。観察用照明15に850nmをピーク波長とする赤外光を放つ赤外LEDが光源として用いられている場合、フォーカス視標投影系9の光源には、例えば、805nmをピーク波長とする赤外光を放つ赤外LEDが用いられる。
【0021】
撮影用照明14や観察用照明15の光で照明された被検眼Eの眼底からの反射光は、対物レンズ2、有孔ミラー3、フォーカスレンズ4を通過してハーフミラー5に入射する。ハーフミラー5は、対物レンズ2の光軸に対し適当な傾き角で眼底撮影装置1内に固定されている。よって、被検眼Eの眼底からの反射光は、ハーフミラー5において、対物レンズ2の光軸に対し適当な角度をもって反射される。フォーカスレンズ4から入射したハーフミラー5の反射光の光軸上には、結像レンズ16、光路補正ガラス19、イメージセンサ20が順に設けられている。そして、結像レンズ16と光路補正ガラス19との間には、観察者が所望する倍率に応じて適宜選択される変倍レンズである狭角用レンズ17または広角用レンズ18が挿入される。よって、被検眼Eの眼底からの反射光は、ハーフミラー5で反射された後に結像レンズ16を通過し、狭角用レンズ17または広角用レンズ18を経た後、イメージセンサ20へ入射する。イメージセンサ20では、マトリクス状に配列された光電変換素子が光のエネルギーを受けて電気信号を発し、被検眼Eの眼底の画像が得られる。
【0022】
イメージセンサ20は、少なくとも可視光および赤外光に感度を有する撮像素子である。よって、イメージセンサ20は、被検眼Eの眼底を照明する光の光源が撮影用照明14と観察用照明15の何れであっても、眼底の画像を得ることができる。また、イメージセンサ20には、隣り合う幾つかの光電変化素子をまとめて1画素として処理するビニング機能が備わっている。よって、イメージセンサ20は、撮影用照明14に比べて照度の低い観察用照明15が照明する被検眼Eの眼底からの反射光においても、眼底像を得るのに支障の無い感度を発揮することが可能である。このようなイメージセンサ20としては、例えば、CMOSが挙げられる。
【0023】
ところで、光路補正ガラス19は、被検眼Eの眼底を可視光で撮影する際に光路へ挿入され、赤外光による観察の際には光路から引き抜かれる。光路補正ガラス19は、被検眼Eの眼底からイメージセンサ20へ至る可視光と赤外光との光路差を補正する部材であり、色収差に起因する可視光と赤外光との眼底像の合焦位置のずれを解消する目的で用意される板状のガラスである。なお、光路補正ガラス19は、赤外光を遮断するフィルター機能を有することが好ましい。光路補正ガラス19が赤外光を遮断するフィルター機能を有していれば、眼底の撮像画像に赤外光が映り込むのを防止することができる。光路補正ガラス19がフィルター機能を有する場合、可視光による撮影前後における赤外光による眼底像が失われる時間を可及的に抑制するため、光路補正ガラス19は、瞬時に挿抜可能であることが好ましい。
【0024】
図2は、眼底撮影装置1に備わる電気回路のブロック線図である。眼底撮影装置1には、CPU基板21、LCDパネル22(Liquid Crystal Display)、LCDバックライト23、操作部24、メイン基板25が備わっている。
図2では、フォーカスレンズ4と光路補正ガラス19を動かすアクチュエータ、撮影用照明14を発光させる高圧回路、フォーカス視標投影系9に備わるLED、観察用照明15を全て電子部品類26として纏めて図示している。
【0025】
CPU基板21は、主にイメージセンサ20で取得された画像の処理を担う回路基板であり、画像を処理するCPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)、画像を記録するSDカード(登録商標)用のドライブ等の各種電子部品が実装されている。イメージセンサ20は、CPU基板21の制御信号に応じて作動し、取得した画像をCPU基板21に提供する。CPU基板21では、イメージセンサ20が取得した画像に対する各種の処理が行われ、処理された画像がLCDパネル22或いはSDカードへ出力される。LCDパネル22では、CPU基板21から出力された画像が表示される。
【0026】
メイン基板25は、眼底撮影装置1全体の制御を司る回路基板であり、FPGAやその他の各種電子部品が実装されている。メイン基板25は、操作部24で受け付けた操作内容に従ってCPU基板21や電子部品類26を作動させる。メイン基板25は、以下の処理フローを実現する。
【0027】
図3は、眼底撮影装置1で実現される処理フローを示した図である。操作部24で撮影開始操作が行われると、イメージセンサ20のビニング機能が有効にされ、イメージセンサ20のビニング処理が開始される(S101)。また、観察用照明15が通電され、観察用照明15の赤外LEDが同期発光を開始する(S102)。また、フォーカス視標投影系9の赤外LEDが発光を開始する(S103)。ここで、同期発光とは、イメージセンサ20が1フレームを走査するタイミングに合わせて発光と消灯を繰り返すことをいう。よって、観察用照明15の同期発光中にイメージセンサ20が取得する被検眼Eの映像は、観察用照明15で照明された眼底画像と観察用照明15で照明されていない眼底画像が時間軸に沿って交互に並ぶ画像の集合となる。観察用照明15の赤外LEDが同期発光している間もフォーカス視標投影系9の赤外LEDは常時発光しているため、観察用照明15の同期発光中にイメージセンサ20が取得する被検眼Eの画像には、眼底が観察用照明15で照明されていると否とに関わりなく、フォーカス視標が映り込む。
【0028】
図4は、広角用レンズ18が選択されている場合に実現される各処理のタイミングチャートを示した図である。広角用レンズ18が選択されている状態で撮影開始操作が行われると、
図4のタイミングチャートに示されるように、イメージセンサ20のビニング処理が開始される他、観察用照明15の赤外LEDによる同期発光が開始され、フォーカス視標投影系9の赤外LEDの発光が開始される。よって、イメージセンサ20は、以下のような映像を取得する。
【0029】
図5は、イメージセンサ20が取得する映像の一例を示した図である。撮影開始操作により、観察用照明15の赤外LEDによる同期発光とフォーカス視標投影系9の赤外LEDの発光が開始されると、イメージセンサ20は、
図5に示すように、観察用照明15で照明された眼底画像(
図5の偶数フレームを参照)と観察用照明15で照明されていない眼底画像(
図5の奇数フレームを参照)が交互に繰り返される映像を取得する。観察用照明15の赤外LEDが同期発光している間もフォーカス視標投影系9の赤外LEDは常時発光しているため、イメージセンサ20が取得する映像には、
図5に示すように、フォーカス視標30が全てのフレームに渡って映り込んでいる。なお、イメージセンサ20が取得する映像には、フォーカス視標30の他に、WD指標31(WD:Working Distance)が映り込んでいる。
【0030】
図6は、LCDパネル22に表示される映像の一例を示した図である。イメージセンサ20が映像の取得を開始すると、CPU基板21では観察用照明15で照明された眼底画像のみをLCDパネル22へ送る処理が行われる。これにより、LCDパネル22には、例えば、
図6に示されるように、観察用照明15で照明された眼底画像が連続する映像が表示される。この場合、
図5に示される2フレーム目、4フレーム目、6フレーム目・・・と1つ間隔で偶数番目のフレームの画像を表示することになるが、必ずしも対象となる全てのフレームの画像を表示する必要はなく、2フレーム目、6フレーム目、10フレーム目、というように間引きして表示しても差し支えない。
【0031】
図3のフローチャートを再参照しつつ、ステップS104以降の処理について説明する。眼底撮影装置1にはオートフォーカス機能およびオートショット機能が備わっており、電子制御によるフォーカスレンズ4の自動調整等が可能である。しかし、本実施形態の眼底撮影装置1では、観察部位に応じて観察者が適宜選択する狭角用レンズ17と広角用レンズ18のうち、狭角用レンズ17が選択されている場合はオートフォーカス機能およびオートショット機能を無効にする。その理由は、狭角用レンズ17を選択して観察される可能性が高い視神経乳頭が、いわゆる眼底部分に比べて反射率が高いため、フォーカス視標が視神経乳頭に投影されるとフォーカス視標の明るさが眼底部分に比べて不安定になり、オートフォーカス機能が正常に動作しない可能性があることに由来する。よって、
図3のフローチャートに示されるように、本実施形態の眼底撮影装置1では、広角用レンズ18が選択されている場合にはオートフォーカス機能およびオートショット機能に係る処理(後述するステップS105からステップS107までの処理)が行われ、狭角用レンズ17が選択されている場合にはマニュアルフォーカス機能に係る処理(後述するステップS108からステップS109までの処理)が行われる。
【0032】
すなわち、眼底撮影装置1では、ステップS103の処理が行われた後、広角用レンズ18が選択されているか否かの判定が行われる(S104)。広角用レンズ18が結像レンズ16と光路補正ガラス19との間に挿入された状態であれば、ステップS104の処理では肯定判定が行われる。また、狭角用レンズ17が結像レンズ16と光路補正ガラス19との間に挿入された状態であれば、ステップS104の処理では否定判定が行われる。広角用レンズ18と狭角用レンズ17の何れが選択されているかは、レンズの切替機構に設けられた接触式スイッチ等により検知される。
【0033】
ステップS104で肯定判定が行われた後は、フォーカスが合致しているか否かの判定が行われ(S105)、フォーカスが合致していなければフォーカスレンズ4のモータが適宜動作する(S106)。ステップS106が行われた後は、ステップS104以降の処理が再び行われる。ステップS105の処理でフォーカスが合致していると判定されれば、次に、WD指標31の位置とサイズが規定範囲内にあるか否かの判定が行われる(S107)。
【0034】
また、ステップS104で否定判定が行われた後は、オートフォーカス機能およびオートショット機能が無効化され(S108)、操作部24でシャッタースイッチが押されたか否かの判定が行われる(S109)。
【0035】
ところで、ステップS105では、次のようにして判定処理が行われる。すなわち、イメージセンサ20が映像の取得を開始すると、CPU基板21では、上述したように観察用照明15で照明された眼底画像のみをLCDパネル22へ送る処理の他、観察用照明15で照明されていない眼底画像を使ったフォーカス視標30の検知処理が行われる。
図7は、フォーカス視標30の検知処理に用いられる眼底画像が並ぶ映像の一例を示した図である。ステップS105で行われるフォーカスが合致しているか否かの判定処理においては、フォーカス視標30の検知を容易にするため、フォーカス視標30の背景に眼底が映り込んでいない眼底画像が用いられる。この場合、
図5に示される1フレーム目、3フレーム目、5フレーム目・・・と1つ間隔で奇数番目のフレームの画像を表示することになるが、必ずしも対象となる全てのフレームの画像を表示する必要はなく、1フレーム目、5フレーム目、9フレーム目、というように間引きして用いても差し支えない。
【0036】
フォーカスが合致しているか否かは、次のようにして判定される。
図8は、フォーカスの判定方法を示す第1の図である。フォーカスが合致しているか否かの判定においては、まず、
図8に示すように、左側の判定範囲32L内におけるフォーカス視標30Lの上下端の位置(y座標)と、右側の判定範囲32R内におけるフォーカス視標30Rの上下端の位置(y座標)とが抽出される。
【0037】
図9は、フォーカスの判定方法を示す第2の図である。判定範囲32L,32R内におけるフォーカス視標30L,30Rの上下端の位置は、例えば、次のようにして取得される。すなわち、x軸方向の隣接する10ピクセルの輝度の和を各y座標毎に算出し、輝度の和が輝度のピークの75%となる部位の座標をフォーカス視標30L,30Rの上端および下端の座標として取得する。
【0038】
図10は、フォーカスの判定方法を示す第3の図である。判定範囲32L,32R内におけるフォーカス視標30L,30Rの上端および下端の座標が取得された後は、フォーカス視標30Lとフォーカス視標30Rのそれぞれについて、上端および下端の中心y座標の算出が行われる。そして、フォーカス視標30Lの中心y座標とフォーカス視標30Rの中心y座標との差が0でなければステップS105で否定判定が行われ、差が0となるようにステップS106でフォーカスレンズ4のモータが適宜動かされる。また、差が0であればステップS105で肯定判定が行われる。
【0039】
なお、本実施形態では、上記したように、広角用レンズ18が選択されている場合にオートフォーカス機能およびオートショット機能が有効となっているが、眼底撮影装置1はこれに限定されない。眼底撮影装置1は、例えば、広角用レンズ18が選択されていると否とに関わり無く上述のステップS105からステップS107までの処理が実現されるようにしてもよいし、或いは、オートフォーカス機能およびオートショット機能を廃して上述のステップS108からステップS109までの処理が広角用レンズ18の選択中も実現されるようにしてもよい。前者のように狭角用レンズ17の選択中もステップS105からステップS107までの処理が実現されるようにする場合、例えば、狭角用レンズ17の選択中はフォーカス視標投影系9の赤外LEDの輝度を低下させることで、視神経乳頭に投影されるフォーカス視標の輝度を変化させ、オートフォーカス機能が正常に動作しない可能性を抑制することが考えられる。
【0040】
図3のフローチャートを再参照しつつ、ステップS110以降の処理について説明する。上記のステップS107またはステップS109の処理で肯定判定が行われた後は、十分な輝度を有する撮影用照明14で照明された眼底の鮮明な高解像度の画像を得るため、眼底撮影の準備が行われる。すなわち、イメージセンサ20のビニング処理が停止され(S110)、観察用照明15が消灯され(S111)、フォーカス視標投影系9の赤外LEDが消灯される(S112)。そして、光路補正ガラス19が広角用レンズ18とイメージセンサ20との間に挿入され(S113)、撮影用照明14の発光と同時にイメージセンサ20が眼底の撮影を行う(S114)。
【0041】
光路補正ガラス19の挿入は、以下の理由で行われる。
図11は、合焦位置を比較した第1の図である。眼底撮影装置1が擁する光学系において、色収差は、眼底を鮮明に撮影する上で無視できない要素である。例えば、
図11(A)で示されるように赤外光でフォーカスレンズ4の位置が調整された状態において、光路補正ガラス19が広角用レンズ18とイメージセンサ20との間に挿入されない場合、可視光は、
図11(B)で示されるようにイメージセンサ20から離れた位置で合焦する。一方、赤外光と可視光との色収差を考慮して厚みや素材が選定された光路補正ガラス19が広角用レンズ18とイメージセンサ20との間に挿入される場合、可視光は、
図11(C)で示されるようにイメージセンサ20の表面で合焦する。したがって、イメージセンサ20は、可視光を放つ撮影用照明14で照明された眼底の鮮明な像を撮影することができる。
【0042】
広角用レンズ18が選択されている場合に眼底撮影装置1で実現される処理の内容は以上の通りである。次に、狭角用レンズ17が選択されている場合に眼底撮影装置1で実現される処理の内容を説明する。
【0043】
図12は、狭角用レンズ17が選択されている場合に実現される各処理のタイミングチャートを示した図である。狭角用レンズ17が選択されている状態で撮影開始操作が行われると、
図12のタイミングチャートに示されるように、イメージセンサ20のビニング処理や観察用照明15の同期発光、フォーカス視標投影系9の発光が開始され、観察用照明15で照明された眼底画像が連続する映像がLCDパネル22に表示される。そして、
図3のフローチャートに示したように、ステップS104の処理で否定判定が行われ、オートフォーカス機能およびオートショット機能が無効化される(S108)。そして、操作部24でシャッタースイッチが押されたか否かの判定が行われ(S109)、ステップS109で肯定判定が行われると上記ステップS110からステップS114までの一連の処理が実行されて眼底の撮影が完了する。
【0044】
図13は、合焦位置を比較した第2の図である。狭角用レンズ17が選択されている場合、広角用レンズ18が選択されている場合に比べて、眼底撮影装置1が擁する光学系における色収差が顕著になる。すなわち、
図11に示した合焦位置と
図13に示す合焦位置とを見比べると判るように、狭角用レンズ17が選択されている場合、赤外光でフォーカスレンズ4の位置が調整された状態において(
図13(A)を参照)、可視光は、
図13(B)で示されるようにイメージセンサ20から大きく離れた位置で合焦する。そこで、狭角用レンズ17が選択されている場合に広角用レンズ18とイメージセンサ20との間に挿入される光路補正ガラス19は、広角用レンズ18が選択されている場合に広角用レンズ18とイメージセンサ20との間に挿入される光路補正ガラス19とは厚さ若しくは屈折度の異なるものであってもよい。結像レンズ16と光路補正ガラス19との間に配置されるレンズの特性に応じて光路補正ガラス19の切り替えが行われれば、
図13(C)で示されるように可視光をイメージセンサ20の表面に合焦させることができる。
【0045】
眼底撮影装置1の説明は以上の通りであるが、眼底撮影装置1は、上記形態に限定されるものではない。眼底撮影装置1は、例えば、上記した波長以外の赤外光を放つ赤外LEDをフォーカス視標投影系9や観察用照明15に備えたものであってもよい。また、眼底撮影装置1は、例えば、有孔ミラー3やハーフミラー5が
図1に示される光軸とは異なる角度に光軸を傾けるものであってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1・・眼底撮影装置:2・・対物レンズ:3・・有孔ミラー:4・・フォーカスレンズ:5・・ハーフミラー:6・・内部固視灯:7・・リレーレンズ:8・・フォーカスドットミラー:9・・フォーカス視標投影系:10・・黒点板ガラス:11・・リレーレンズ:12・・リングスリット:13・・拡散板:14・・撮影用照明:15・・観察用照明:16・・結像レンズ:17・・狭角用レンズ:18・・広角用レンズ:19・・光路補正ガラス:20・・イメージセンサ:21・・CPU基板:22・・LCDパネル:23・・LCDバックライト:24・・操作部:25・・メイン基板:26・・電子部品類:30,30L,30R・・フォーカス視標:31・・WD指標:32L,32R・・判定範囲:E・・被検眼