(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】3D印刷による電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/28 20210101AFI20220624BHJP
B22F 10/34 20210101ALI20220624BHJP
B22F 3/11 20060101ALI20220624BHJP
C22C 1/08 20060101ALI20220624BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20220624BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220624BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220624BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220624BHJP
【FI】
B22F10/28
B22F10/34
B22F3/11 Z
C22C1/08 F
B33Y80/00
B33Y10/00
B33Y70/00
B22F1/00 N
B22F1/00 P
B22F1/00 R
(21)【出願番号】P 2019514292
(86)(22)【出願日】2017-09-04
(86)【国際出願番号】 EP2017072113
(87)【国際公開番号】W WO2018050473
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】102016011098.8
(32)【優先日】2016-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518241791
【氏名又は名称】タニオビス ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】TANIOBIS GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78-91, 38642 Goslar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムート ハース
(72)【発明者】
【氏名】マルツェル ハギマーシ
(72)【発明者】
【氏名】カミル パウル ラタイ
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ シュニッター
(72)【発明者】
【氏名】マークス ヴァインマン
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0058605(US,A1)
【文献】特開2011-137236(JP,A)
【文献】特開昭59-143316(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136236(WO,A1)
【文献】特開2015-161031(JP,A)
【文献】特開2014-065940(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104959600(CN,A)
【文献】特開2017-133055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
C22C 1/04-1/05
C22C 33/02
H01G 9/04
B29C 64/00-64/40、
67/00-67/08、
69/00-69/02、73/00-73/34
B29D 1/00-7/01、
11/00-29/10、
33/00、99/00
B33Y 10/00、70/00、80/00
C22C 1/10、47/00-49/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
a)バルブ金属粉末を含む第1の層を準備する工程;
b)前記第1の層の前記バルブ金属粉末の少なくとも一部を選択的レーザー照射によって凝固させる工程;
c)バルブ金属粉末を含む第2の層を適用する工程;
d)前記第2の層の前記バルブ金属粉末の少なくとも一部を選択的レーザー照射によって凝固させて、前記第1と第2の層の複合体を形成する工程;ならびに
e)前記工程c)およびd)を繰り返して、完成した部品を得る工程
を含む、3D印刷による陽極または多孔質部品の製造方法であって、前記バルブ金属粉末が、アルミニウム、ビスマス、ハフニウム、ニオブ、アンチモン、タンタル、タングステン、モリブデンおよびジルコニウム、ならびにそれらの混合物および合金からなる群から選択され、前記バルブ金属粉末は、600ppm未満の水素含有量を有
し、かつ前記バルブ金属粉末は、50ppm未満の炭素含有量を有することを特徴とする、陽極または多孔質部品の製造方法。
【請求項2】
前記レーザー照射によって前記バルブ金属粉末の焼結が起こり、かつ/または前記レーザー照射によって前記バルブ金属粉末の溶融が起こることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
結合剤および/または溶媒などの更なる添加剤の使用を省くことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記バルブ金属粉末は、5000ppm以下の窒素含有量を有することを特徴とする、請求項1から
3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記バルブ金属粉末は、バルブ金属粉末の質量を基準として、以下の組成:
50ppm未満の量の炭素、
600ppm未満の量の水素、
5000ppm未満の量の窒素、
1m
2当たり4000ppm未満の量の酸素、
10ppm未満の量の鉄、
20ppm未満の量のカリウム、
10ppm未満の量のナトリウム、
20ppm未満の量のニッケル、
10ppm未満の量のクロム、
150ppm未満の量のマグネシウム、
300ppm未満の量のリン、および
20ppm未満の量のケイ素
を有することを特徴とする、請求項1から
4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記バルブ金属粉末は、少なくとも0.5g/sの流速で0.38cmの漏斗を通して25gの粉末に対して60秒未満の流動性と共に、少なくとも1.5g/cm
3の嵩密度を有することを特徴とする、請求項1から
5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記バルブ金属粉末が、5~120μmの範囲の粒径を有することを特徴とする、請求項1から
6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記バルブ金属粉末が、金属含有量に関して99.9%以上の純度を有することを特徴とする、請求項1から
7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記バルブ金属粉末が、0.001~10m
2/gのBET表面積を有することを特徴とする、請求項1から
8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記陽極または多孔質部品が、DIN66139に従って測定して、20~80%の開放気孔率を有することを特徴とする、請求項1から
8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から
10までのいずれか1項に記載の方法に従って得られる陽極または多孔質部品。
【請求項12】
前記陽極または多孔質部品が、x方向および/またはy方向に密度勾配を有することを特徴とする、請求項
11記載の陽極または多孔質部品。
【請求項13】
前記陽極または多孔質部品が、5~500μmの厚さを有することを特徴とする、請求項
11または
12記載の陽極または多孔質部品。
【請求項14】
陽極または多孔質部品の接続ワイヤの接続点における前記陽極または多孔質部品の密度が、前記陽極または多孔質部品の残りの部分における密度よりも高いことを特徴とする、請求項
11から
13までのいずれか1項に記載の陽極または多孔質部品。
【請求項15】
請求項
11から
14までのいずれか1項に記載の陽極または多孔質部品を含む電気部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3D印刷によりバルブ金属粉末から電子部品および/または多孔質部品、特に陽極を製造する方法、ならびに3D印刷により電子部品および/または多孔質部品を製造するためのバルブ金属粉末の使用に関する。本発明はさらに、本発明による方法に従って得られる陽極、および本発明による陽極を含む電気部品、特にコンデンサに関する。
【0002】
情報および通信電子機器における装置の小型化が一段と進むにつれて、ますます高性能で小型の設計を有する電子部品が必要になってくる。これは特に、スマートフォン、ラップトップ、タブレット、ウェアラブルなどの電子部品に電気エネルギーを蓄えるための受動素子として用いられるコンデンサに関する。従って、高いエネルギー貯蔵密度だけでなく、小さいサイズ、特に厚さが薄いことを特徴とするコンデンサが必要である。
【0003】
コンデンサの製造には一般にバルブ金属が使用され、その酸化物は電位が増加すると一方向に電流を通過させるが、電位が低下すると電流を別方向に閉じ込めることを特徴とする。バルブ金属の他の特性は、更なる酸化ひいては金属の自然発火を防ぐ自然酸化物層を有することである。
【0004】
バルブ金属の陽極は、通常、微細に分割された一次構造または既にスポンジ状の二次構造を有する適切な金属粉末を加圧および焼結することによって製造される。固化は、通常、1000℃~1500℃の範囲の温度で固相焼結によって行われる。加圧成形体を電気的に接触させるために、接続ワイヤの周囲で粉末が加圧成形される。その際、陽極の最小厚さは、接続ワイヤの直径によって著しく制限される。この製造方法における問題は、製造プロセス中に酸素を取り込むことであり、これは特に、その後の陽極の硬度または延性に悪影響を及ぼす。陽極中の酸素含有量が高いと、その後のコンデンサの電気的特性が明らかに悪化することが確認された。
【0005】
この問題に取り組むために、還元性条件によって陽極中の酸素含有量を減らすことができる方法が開発されてきた。
【0006】
米国特許第4,722,756号(US 4,722,756)は、タンタルまたはニオブ焼結体中の酸素含有量を減らす方法を記載しており、この方法では、焼結は還元性物質の存在下に水素雰囲気中で行われる。還元性物質として、ベリリウム、カルシウム、セリウム、ハフニウム、ランタン、リチウム、プラセオジム、スカンジウム、トリウム、チタン、ウラン、バナジウム、イットリウムおよびジルコニウム、ならびにそれらの混合物および合金が提案されている。
【0007】
独国特許出願公開第3309891号明細書(DE3309891)には、電解コンデンサ用のバルブ金属焼結陽極を二段階で製造する方法が記載されており、この方法では、既に焼結されたタンタル焼結体がマグネシウムなどの還元性金属の存在下に脱酸される。この目的のために、金属は焼結体と一緒に反応室に導入され、同時にこの焼結体と共に650℃~1150℃の間の温度に加熱される。
【0008】
しかしながら、記載された方法は、その処理によって接続ワイヤが陽極に接続し難くなるという欠点を有する。ところが、ワイヤおよび陽極に関連する強度、いわゆるワイヤ引張強度は重要なパラメータであり、接続が不十分であったり、ワイヤ引張強度が低かったりすると、コンデンサの更なる加工において重大な弱点が生まれ、それがコンデンサの機械的故障をもたらす可能性がある。
【0009】
コンデンサの代替的な製造方法は、金属含有ペーストを基材に適用することによってバルブ金属の陽極を印刷することである。例えばタンタル箔に薄層を適用することによって、従来の方法で製造された部品の厚さを明らかに下回る陽極が入手可能である。
【0010】
独国特許出願公開第102011116939号明細書(DE102011116939)には、薄いタンタル箔またはニオブ箔上へのスクリーン印刷またはシルクスクリーン印刷による歪みのない陽極の製造方法が記載されている。そのようにして製造された陽極は、25~250μmの垂直寸法を有する。
【0011】
使用されるペーストは、通常、金属、結合剤、溶媒および場合により更なる添加剤などを含む多成分系である。しかしながら、陽極の電気的特性に悪影響が及ぶことを回避するために、これらの添加剤は印刷後に除去されなければならない。これはたいてい熱的に行われるため、方法工程が追加されることを意味する。使用される結合剤および/または溶媒次第では、これらは熱処理を通じて分解されるが、完全に除去することはできない。この結果、金属粉末は高い炭素含有量を有するため、その後の陽極の電気的特性に悪影響が及ぼされる。追加の工程の後に初めて、従来の方法と同じように金属粉末の焼結が行われ得る。この製造方法では有利なことに、基材自体が接点として機能するので、陽極との接触に必要なワイヤを省くことができる。しかしながら、基材はコンデンサの容量に寄与しないため、部品のエネルギー密度が低下する。従って、この場合、バルブ金属の本来の利点、すなわち、その高いエネルギー密度を十分に利用することができない。
【0012】
記載された方法はいずれも、方法効率および製造される陽極の品質に関して満足のいく結果を提供するものではない。従って、本発明の課題は、溶媒、結合剤または他の助剤を用いず、かつ焼結せずに、薄い陽極を製造することができる方法を提供することである。
【0013】
米国特許第2016/0008886号明細書(US2016/0008886)は、一般に金属、プラスチック、樹脂および他の物質を用いることができる3D印刷方法を提案している。
【0014】
本発明は、上記課題の解決策として、3D印刷による電子部品、特に陽極の製造方法を提案している。このようにして、従来の製造方法の欠点を克服することができることが見出された。
【0015】
本発明の意味における3D印刷とは、所定の寸法および形状に従ってコンピュータ制御により三次元加工品を層状に構成することを説明するものである。
【0016】
本発明の対象は、以下の工程:
a)バルブ金属粉末を含む第1の層を準備する工程;
b)第1の層のバルブ金属粉末の少なくとも一部を選択的レーザー照射によって凝固させる工程;
c)バルブ金属粉末を含む第2の層を適用する工程;
d)第2の層のバルブ金属粉末の少なくとも一部を選択的レーザー照射によって凝固させて、前記第1の層と前記第2の層の複合体を形成する工程;
e)工程c)およびd)を繰り返して電子部品を得る工程
を含む、3D印刷による電子部品の製造方法である。
【0017】
本出願の意味における「凝固させる」とは、物理的結合を形成するための溶融もしくは焼結プロセスまたは両方のプロセス変形の組合せによる粉末粒子の固化を意味すると理解される。
【0018】
本発明による方法により、規定された構造を有する、厚さの薄い電子部品の製造が可能になる。部品の形状は有利には自由に選択することができるため、例えば電流の供給および除去のための任意の接続部は最初から部品に組み込むことができるので、例えば溶接によって後から取り付ける必要がなくなる。これは、陽極の製造において特に有利であることが判明した。というのも陽極の場合、一般にその電気的接触は陽極接続ワイヤを介して行われ、陽極本体へ組み込む場合にはたいてい、陽極の機械的安定性の損失を伴うからである。従って、本発明による方法の好ましい実施形態では電子部品は陽極である。
【0019】
バルブ金属粉末は、その高い貯蔵密度を特徴としており、かつ電子部品における電力貯蔵体としての使用に特に適している。本発明による方法において使用されるバルブ金属は、有利にはアルミニウム、ビスマス、ハフニウム、ニオブ、アンチモン、タンタル、タングステン、モリブデンおよびジルコニウム、ならびにそれらの混合物および合金からなる群から選択される。特に好ましくは、使用されるバルブ金属は、タンタルまたはニオブ、特にタンタルである。驚くべきことに、タンタルまたはニオブの陽極を使用した場合、その後のコンデンサの容量を明らかに増大できることが見出された。
【0020】
電子部品、特に陽極の電気的特性および機械的安定性は、バルブ金属に更なる金属を添加することによって改善できることが判明した。従って、バルブ金属が更なる金属1種以上と一緒に存在する方法の実施形態が好ましい。更なる金属は有利には、ゲルマニウム、マグネシウム、ケイ素、クロム、スズ、チタンおよびバナジウム、ならびにそれらの混合物および合金からなる群から選択される。
【0021】
本発明による方法によれば、バルブ金属粉末の凝固は選択的レーザー照射によって行われる。電子部品の密度は適切な方法管理によって制御できることが判明した。このようにして、多孔質の、つまりスポンジ状の構造体と、多孔度の低いコンパクトな構造体の両方が入手可能である。その際、特にレーザーを注意深く調整することは、望ましい最終結果にとって非常に重要である。それに応じて、レーザーのエネルギー入力を介した粉末の凝固度の調整が行われる実施形態が好ましい。
【0022】
本発明による方法の好ましい実施形態では、レーザー照射によって粉末が焼結される。このようにして、特定の多孔度を有する構造体が入手可能である。多孔質構造の存在は、大表面積が有利である陽極において特に重要である。
【0023】
更なる好ましい実施形態では、レーザー照射によって粉末の溶融が起こる。これは特に、電子部品の機械的安定性が最優先される場合に有利であることが判明した。
【0024】
有利には、レーザーのエネルギー入力の調整は局所的に変更可能である。驚くべきことに、このようにして、局所的に異なる密度を有する電子部品、特に陽極の製造が可能であることが判明した。有利には、レーザーのエネルギー入力の調整は、電子部品のx方向および/またはy方向に密度勾配を形成することを可能にするように行われる。あるいは調整は、有利には、部品の密度が局所的に増加するように行われる。例えば、電気接点の接続点における部品の密度は、部品の残りの部分における密度よりも高くなり得る。このようにして、本発明による方法は、例えば、高いエネルギー密度と、高いワイヤ引張強度の両方を有する陽極の電子部品の製造を可能にする。
【0025】
このようにして、本発明による方法によれば、印刷プロセス中に既に接触点が導入される、密度の異なる下部構造を有する焼結体を製造することが可能になる。そのため、任意の密度の、または多孔質の構造体を製造することができる。さらに、本発明による方法によって、陽極対電流流れの体積比を適宜調整することができる。
【0026】
驚くべきことに、レーザーの出力が2~200Wの範囲にある場合に最良の結果が得られることが見出された。従って、レーザーの出力が2~200Wの範囲、有利には5~100Wの範囲にある実施形態が好ましい。その際、局所解像度を決定するレーザーの焦点は、有利には1~200μmの範囲、特に好ましくは5~100μmの範囲にある。焦点を記載の範囲に限定することで、部品の電気的および機械的特性に悪影響を及ぼすことなく複雑な構造体を製造することが可能になる。さらに、レーザーの速度は、有利には20~4000mm/s、特に好ましくは50~2000mm/sである。このようにして、高品質の製品を維持しながら経済的に効率的な方法管理を達成することができる。
【0027】
電子部品、特に陽極の製造においては、方法管理に加えて、使用される粉末の主要な特性、特に粒径が電気的特性にとって決定的に重要である。好ましい実施形態では、用いられるバルブ金属粉末は、5~120μmの範囲、有利には10~50μm、特に好ましくは25~45μmの範囲の粒径を有する。驚くべきことに、この必要される範囲の粒径を有する粉末により、優れた電気的特性と高い機械的安定性の両方を特徴とする陽極を製造できることが見出された。
【0028】
本発明による方法は、造成が層状に行われる、薄い陽極の製造に特に適している。従って、第一の層の厚さが5~100μm、有利には10~50μmである実施形態が好ましい。個々の層の厚さは変化しうるものの、第二層の厚さが第一層の厚さとほぼ等しく、かつ5~100μm、有利には5~50μmである実施形態が好ましい。このようにして陽極の均一な造成が保証されるため、他方で均一なエネルギー密度分布がもたらされる。
【0029】
本発明による方法は、粉末層から選択的レーザー照射により任意形状の複雑な三次元構造体を取得することを特徴としている。そのため、複雑な構造にもかかわらず、粉末層は単純な幾何学的形状、例えば長方形を有することができ、その結果、手間のかかる元型を省くことができる。この方法はバルブ金属粉末全体を凝固させるわけではないので、本発明による方法の実施形態は、非凝固粉末の完成部品を取り除く更なる工程を含むのが好ましい。これは、例えば機械的にまたは空気流によって行うことができる。非凝固粉末はリサイクルしてプロセスに返送することができる。
【0030】
既に述べたように、従来の製造方法は、結合剤および/または溶媒の使用に依存しており、次いでコストをかけてこれらの結合剤および/または溶媒を除去するという欠点を有している。それとは対照的に、本発明による方法は、更なる添加剤を必要としない。従って、結合剤、溶媒、焼結助剤などの更なる添加剤の使用が省かれる実施形態が好ましい。
【0031】
本発明の更なる対象は、3D印刷により電子部品を製造するためのバルブ金属粉末の使用である。有利には電子部品は陽極である。本発明の更なる対象は、3D印刷により多孔質部品を製造するためのバルブ金属粉末の使用である。さらに好ましくは、バルブ金属粉末は、本発明による方法において使用される。
【0032】
特に多孔質部品の製造においては、3D印刷法、特に本発明による方法が有利である。多孔質部品は、DIN66139に従って測定して、20~80%、好ましくは40~60%の開放気孔率を有することができる。その際、平均孔径は、5nm~5μmの範囲、好ましくは30nm~4μmの範囲、特に好ましくは50nm~2μmの範囲にある。これに関して、例えば水銀圧入法により測定された部品の細孔径分布は、平均孔径が上記の範囲内で1つ以上のピークを有することができる。
【0033】
好ましい実施形態では、バルブ金属は、アルミニウム、ビスマス、ハフニウム、ニオブ、アンチモン、タンタル、タングステン、モリブデンおよびジルコニウム、ならびにそれらの混合物および合金からなる群から選択される。特に好ましくは、バルブ金属は、タンタルまたはニオブ、特にタンタルである。
【0034】
電子部品の電気的および機械的特性を向上させるために、バルブ金属は更なる金属1種以上と一緒に存在してもよい。更なる金属は有利には、ベリリウム、ゲルマニウム、マグネシウム、ケイ素、スズ、クロムおよびバナジウム、ならびにそれらの混合物および合金からなる群から選択される。
【0035】
本発明による使用のためのバルブ金属粉末は、有利には5~120μm、特に好ましくは10~50μm、非常に好ましくは25~45μmの範囲の粒径を有する。驚くべきことに、要求されるこの範囲の粒径を有する粉末が3D印刷法における使用に特に適しており、かつ良好な取扱性および加工性を有することが見出された。
【0036】
電子部品の製造に使用されるバルブ金属粉末中の不純物は、しばしば電気的特性に悪影響を及ぼす。例えば炭素が存在すると、陽極と陰極との間の絶縁性に欠けるために、その後のコンデンサの漏れ電流を増加させる可能性がある。従って、本発明により使用されるバルブ金属粉末は、有利には炭素含有量が50ppm未満である。特に好ましくは、炭素含有量は0.1~20ppmの範囲にある。
【0037】
有利には、本発明による使用のためのバルブ金属粉末は、600ppm未満、有利には50~400ppmの水素含有量を有する。驚くべきことに、水素含有量を記載の値に限定することによって、部品の機械的安定性を高めることができることが見出された。
【0038】
用いられる粉末の窒素含有量は、有利には5000ppm以下、特に好ましくは10~2000ppmの範囲、非常に好ましくは10~1000ppmの範囲にある。記載の範囲外の窒素含有量は、その後のコンデンサの電気的特性に悪影響を及ぼし、さらに3D印刷中の粉末の加工性も損ねる可能性がある。
【0039】
バルブ金属は、これらの粉末の自然発火を防ぐ自然酸化物層を有する。本発明による使用のためのバルブ金属粉末は、有利には粉末のBET比表面積1m2当たり4000ppm以下の酸素含有量を有し、特に好ましくはBET比表面積1m2当たり2000~3200ppmの範囲の酸素含有量を有する。驚くべきことに、酸素含有量を本発明による範囲に限定することによって、陰極と陽極との間の電荷分離を改善することができ、それによりコンデンサの蓄積容量の増大がもたらされることが見出された。
【0040】
本発明により使用されるバルブ金属粉末は、有利には10ppm以下、特に好ましくは0.1~8ppmの鉄含有量を有する。要求されるこの範囲内の鉄含有量によって、後にコンデンサの電気的特性が鉄本来の導電率によって損なわれることがなくなる。粉末の自然酸化物層内またはその直下にある鉄粒子は、電解質中でのその後の陽極酸化において酸化物層を介した電気的破壊をもたらし、部品はコンデンサとして使用できなくなる。
【0041】
カリウムおよびナトリウムの存在も、コンデンサの電気的特性に対して同様に悪影響を及ぼす。従って、本発明により使用される粉末のカリウム含有量は、有利には20ppm未満、特に好ましくは0.1~10ppmの範囲にある。さらに好ましくは、バルブ金属粉末のナトリウム含有量は、10ppm以下、特に好ましくは0.1~8ppmである。粉末の自然酸化物層内またはその直下のカリウムおよびナトリウム化合物は、後に電解質中での陽極酸化において酸化物層を介した電気的破壊をもたらし、部品はコンデンサとして使用できなくなる。
【0042】
有利には、バルブ金属粉末中のニッケルの含有量は、20ppm以下であり、特に好ましくは0.1~10ppmである。粉末の自然酸化物層内またはその直下のニッケル粒子は、後に電解質中での陽極酸化において酸化物層を介した電気的破壊をもたらし、部品はコンデンサとして使用できなくなる。
【0043】
好ましい実施形態では、本発明により使用されるバルブ金属粉末はリンを含んでいる場合がある。この場合、リン含有量は、有利には300ppm以下、特に好ましくは10~250ppmである。驚くべきことに、このリン含有量によってバルブ金属粉末の焼結活性を調整することができ、その際、要求されるこの範囲を超えるリン含有量は、後にコンデンサ貯蔵容量の望ましくない損失をもたらすことが見出された。
【0044】
有利には、本発明では、純度99%、好ましくは99.9%、非常に好ましくは99.99%以上のバルブ金属粉末が使用される。特に好ましい実施形態では、バルブ金属粉末は以下の組成を有し、その際、ppmデータは質量分率に関する:
50ppm未満、有利には0.1~20ppmの量の炭素、
600ppm未満、有利には50~400ppmの量の水素、
5000ppm未満、有利には500~2000ppmの量の窒素、
1m2当たり4000ppm未満、有利には2000~3800ppmの量の酸素、
10ppm未満、有利には0.1~8ppmの量の鉄、
20ppm未満、有利には0.1~10ppmの量のカリウム、
10ppm未満、有利には0.1~8ppmの量のナトリウム、
20ppm未満、有利には0.1~10ppmの量のニッケル、
10ppm未満、有利には0.1~8ppmの量のクロム、
150ppm未満、有利には0.1~120ppmの量のマグネシウム、
300ppm未満、有利には50~200ppmの量のリン、および
20ppm未満、有利には0.1~8ppmの量のケイ素。
【0045】
驚くべきことに、そのような粉末は3D印刷により電子部品を製造するための使用に特に適していることが見出された。
【0046】
好ましい実施形態では、バルブ金属粉末は、少なくとも0.5g/sの流速で0.38cm(0.15インチ)の漏斗を通して25gの粉末に対して60秒未満、好ましくは30秒、非常に好ましくは10秒の流動性と共に、少なくとも1.5g/cm3の嵩密度を有する。驚くべきことに、対応する流速を有する粉末が3D印刷法において特に良好な加工性を有することが見出された。
【0047】
コンデンサに蓄えることができる電気エネルギーの量は、とりわけ、用いられる粉末の表面によって決まる。表面積が大きいほど、コンデンサの容量は大きくなる。粉末の特に高い表面積はたいてい、高度の開放気孔率と結び付いた、粒子の小さい直径に起因する。粒径が小さすぎると、陽極酸化において金属粒子は完全に酸化物に変換され、もはや容量に寄与しない(全体が化成)。従って、バルブ金属粉末が0.001~10m2/g、有利には0.001~5m2/g、特に好ましくは0.001~3m2/g、非常に好ましくは0.01~1m2/gのBET表面積を有する実施形態が好ましい。
【0048】
本発明による方法は、陽極の製造に特に適している。従って、本発明の更なる対象は、本発明による方法に従って得られる陽極である。有利には、本発明による陽極は、陽極接続ワイヤを有する。特に好ましくは、この陽極接続ワイヤは陽極の印刷中に、陽極と共に同時に形成され、陽極に組み込まれる。特に好ましい実施形態では、陽極接続ワイヤは、バルブ金属粉末層の対応する領域を溶融することによって実現される。有利には、陽極接続ワイヤの接続点における陽極の密度は、陽極の残りの部分における密度よりも高い。このようにして、エネルギー貯蔵密度に悪影響を及ぼすことなく信頼性のある電力接続が保証される。
【0049】
本発明による方法によれば、対応する方法管理によって陽極の密度を適宜制御することができる。従って、本発明による陽極は有利にはx方向および/またはy方向に密度勾配を有する。このようにして、陽極は高いエネルギー貯蔵密度および高いワイヤ強度を有する。有利には、本発明による陽極は、印刷体の総体積を基準として少なくとも20%の気孔率を有する。気孔率は、例えば水銀圧入法によって決定することができる。
【0050】
本発明による方法は、薄い陽極の製造に特に適している。従って、陽極の厚さが5~500μm、有利には10~300μm、非常に好ましくは20~100μmである実施形態が好ましい。この厚さの陽極は、高い性能が求められるモバイル機器での使用に特に適している。
【0051】
本発明の更なる対象は、本発明による陽極を含むコンデンサである。このコンデンサは、例えば本発明による陽極の表面を電解により酸化して、例えばTa2O5またはNb2O5などの非晶質金属酸化物とすることによって得ることができる。その際、誘電体として作用する酸化物層の厚さは、電解酸化において印加される最大電圧、いわゆる化成電圧によって決定される。対電極、すなわち陰極は、スポンジ状の陽極を、例えば熱により二酸化マンガンに変換される硝酸マンガンで含浸することによって適用される。あるいは陰極は、陽極をポリマー電解質の液体前駆体に浸漬し、場合によっては引き続きそれを重合することによって形成され得る。電極の接触は、集電体上のグラファイトおよび導電性銀の層構造を介して陰極側で行うことができる。
【0052】
以下の実施例を参照しながら本発明をより詳細に説明するが、これは本発明の概念を限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】本発明による方法に従って製造されたタンタル金属粉末の陽極を示す図である。
【0054】
製造のために、金属含有量に関して少なくとも99.9%の純度を有するタンタルおよびニオブ粉末を用いた。不純物の含有量を表1にまとめている。
【0055】
【0056】
適切な粉末は、H.C.Starck Tantalum and Niobium GmbH(ドイツ国)から様々な品質で入手可能である。
【0057】
金属粉末を固化させるために、Trumpf社(ドイツ国)から市販されているTruPrint 1000レーザーシステムを使用した。
【0058】
バルブ金属粉末を初めにリザーバーに装入し、造形用プラットフォームに少量ずつ供給する。粉末をドクターブレードまたはローラーによって造形用プラットフォーム上に均一に広げ、レーザーで選択的に照射する。高レーザー出力およびより長い暴露時間で、粉末は溶融し、その結果、緻密で、実質的に気孔のない構造体が形成される。より低いエネルギー入力では、粉末の焼結が起こり、その際、レーザーのエネルギー入力は、粉末床の温度が金属の溶融温度よりもわずかに低くなるように選択される。これらの条件下で、固体中での素早い拡散と粒子の結合がそれらの表面に沿って可能であり、その結果、粒子の多孔質内部構造が保持される。第一層の照射後、第二の層を適用し、同様にレーザーを選択的に照射し、その結果、焼結プロセスによって第一の層と第二の層とが結合する。このプロセスは、所望の厚さに達するまで繰り返される。完成した陽極は造形用プラットフォームから取り出され、過剰な粉末は取り除かれる。
【0059】
図1は、本発明による方法に従って製造されたタンタル金属粉末の陽極を示す。陽極内の密度差がはっきりと見て取れる。陽極の下部には、非常に高い多孔度を有する3つの領域がある。これらは非照射粉末の粉末床からの残留物である。下部の残りの領域は、密度の異なるより大きな溶融粒子を示している。4つの下向きの構造体はコンデンサ用の接点端子として働く。陽極の上部には広がった面積(ボディ全体の約60%)が見て取られ、これは大きな多孔質部分を有する。