(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】経鼻流体投与装置アセンブリ
(51)【国際特許分類】
A61M 15/08 20060101AFI20220624BHJP
A61M 11/00 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
A61M15/08
A61M11/00 A
(21)【出願番号】P 2019532011
(86)(22)【出願日】2017-12-14
(86)【国際出願番号】 FR2017053588
(87)【国際公開番号】W WO2018109409
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-11-17
(32)【優先日】2016-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502343252
【氏名又は名称】アプター フランス エスアーエス
【氏名又は名称原語表記】APTAR FRANCE SAS
【住所又は居所原語表記】Lieu-dit Le Prieure,27110 Le Neubourg,France
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】グレーヌ リラ
(72)【発明者】
【氏名】ピアッツォーニ エリック
(72)【発明者】
【氏名】ボアヴァン ピエール
【審査官】今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0159081(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0172936(US,A1)
【文献】特開平10-033678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 11/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経鼻流体投与装置を備える投与装置アセンブリであって、
前記投与装置は、
流体が入れられた容器を構成する、または当該容器を据え付けた状態で支持する本体(10)と、
前記本体(10)に対して軸方向移動が可能であるように前記本体(10)に装着される、投与口(21)を有する投与ヘッド(20)と
を備え、
前記投与口(21)は、前記投与ヘッド(20)における前記軸方向の端部に設けられ
ており、
前記アセンブリは、
前記投与装置と協働する位置決め部材(40)をさらに備え、
前記位置決め部材(40)は、
作動中にユーザの前額部または鼻梁に支えられる第1顔面被支持部(42)を少なくとも1つと、
前記投与ヘッド(20)がクランプ
状態になるよう挿入される中空のスリーブ(41)を少なくとも1つと、
作動中に前記ユーザの上唇に支えられ
る第2顔面被支持部(46)と
を含む
ことを特徴とする投与装置アセンブリ。
【請求項2】
経鼻流体投与装置を備える投与装置アセンブリであって、
前記投与装置は、
流体が入れられた容器を構成する、または当該容器を据え付けた状態で支持する本体(
10)と、
前記本体(10)に対して軸方向移動が可能であるように前記本体(10)に装着され
る、投与口(21)を有する投与ヘッド(20)と
を備え、
前記アセンブリは、
前記投与装置と協働する位置決め部材(40)をさらに備え、
前記位置決め部材(40)は、
作動中にユーザの前額部または鼻梁に支えられる第1顔面被支持部(42)を少なくと
も1つと、
前記投与ヘッド(20)がクランプ状態になるよう挿入される中空のスリーブ(41)
を少なくとも1つと、
作動中に前記ユーザの上唇に支えられる第2顔面被支持部(46)と
を含み、
前記スリーブ(41)は、両鼻孔用に2つ設けられている
ことを特徴とす
る投与装置アセンブリ。
【請求項3】
前記位置決め部材(40)は、
取り外し可能である、
作動中に前記ユーザの顔面の両側および/または両耳に支えられ
る第3被支持部(47)をさらに含む
ことを特徴とする請求項1または2に記載の投与装置アセンブリ。
【請求項4】
前記位置決め部材(40)は、
作動中に前記ユーザの指を、1本以
上受け止め
る基端側指受け面(45)を有する支持体(44)をさらに含
み、
前記投与ヘッド(20)において前記投与口(21)に対して軸方向に近い側を基端側
とし、当該基端側よりも遠い側を先端側としたとき、前記基端側指受け面(45)は、前
記支持体(44)に設けられた、前記先端側から前記基端側に向かう方向に向いている面
である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の投与装置アセンブリ。
【請求項8】
前記投与ヘッド(20)が前記ユーザの鼻孔に挿入する鉛直角は、30°~60°の範囲であ
る
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の投与装置アセンブリ。
【請求項9】
前記投与ヘッド(20)が前記ユーザの鼻孔に挿入する鉛直角は、40°~50°の範
囲である
ことを特徴とする請求項8に記載の投与装置アセンブリ。
【請求項10】
前記投与ヘッド(20)が前記ユーザの鼻孔に挿入する鉛直角は、約45°である
ことを特徴とする請求項9に記載の投与装置アセンブリ。
【請求項11】
前記投与ヘッド(20)が前記ユーザの鼻孔に挿入する水平角は、0°~10°の範囲であ
る
ことを特徴とする請求項1~
10のいずれか1項に記載の投与装置アセンブリ。
【請求項12】
前記投与ヘッド(20)が前記ユーザの鼻孔に挿入する水平角は、約5°である
ことを特徴とする請求項11に記載の投与装置アセンブリ。
【請求項13】
前記投与ヘッド(20)が前記ユーザの鼻孔に挿入する挿入深さ(P)は、5mm~15mmの範囲であ
る
ことを特徴とする請求項1~
12のいずれか1項に記載の投与装置アセンブリ。
【請求項14】
前記投与ヘッド(20)が前記ユーザの鼻孔に挿入する挿入深さ(P)は、約10mm
である
ことを特徴とする請求項13に記載の投与装置アセンブリ。
【請求項16】
前記容器に入れられた流体は、複数回分である
ことを特徴とする請求項1~
14のいずれか1項に記載の投与装置アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経鼻流体投与装置を含む投与装置アセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
経鼻流体投与装置は公知技術であり、流体が1回分以上入れられた容器と、容器内の流体を投与する投与ヘッドとを含むのが一般的である。投与ヘッドは具体的には、ポンプまたは計量弁あるいは容器の内部を摺動するピストンによって、容器に対して移動して流体を投与する。ユーザが経鼻流体投与装置を使用するには、投与ヘッドを鼻孔に挿入して装置を作動させる。そうすると、1回分の流体が通常は噴霧状で投与される。
【0003】
このような従来の投与装置では、脳に対する作用を目的とする場合は特に、鼻孔に投与される流体の有効性が問題になる。すなわち、脳疾患治療の目標領域である篩骨洞を含む嗅覚器領域には、投与流体のうちのわずかな量しか送達されない。その要因は、鼻孔の内部での投与装置の向きが患者によって異なることである。残念ながら、薬剤を付着させる目標領域に狙いが定まるかは投与装置の向きに依存するようである。これは、薬剤を目標領域に最大限に付着させるための小型スプレーに特に当てはまる。
【0004】
特許文献1には鼻吸入器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、上述した問題がない経鼻流体投与装置アセンブリを提供することである。
【0007】
本発明の目的は具体的には、鼻孔の内部での投与装置の向きを患者それぞれの組織に合わせて制御可能である経鼻流体投与装置アセンブリを提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、嗅覚器領域および/または篩骨洞に付着する流体の有効率が改善された経鼻流体投与装置アセンブリを提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、製造および組立が容易で安価な経鼻流体投与装置アセンブリを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって本発明は、経鼻流体投与装置を備える投与装置アセンブリを提供する。投与装置は、流体が入れられた容器を構成する、または容器を据え付けた状態で支持する本体と、本体に対して軸方向移動が可能であるように本体に装着される、投与口を有する投与ヘッドとを備える。アセンブリは、投与装置と協働する位置決め部材をさらに備える。位置決め部材は、作動中にユーザの前額部または鼻梁に支えられる第1顔面被支持部を少なくとも1つと、投与ヘッドがクランプにより挿入される中空のスリーブを少なくとも1つと、ユーザの上唇に支えられるのに適した第2顔面被支持部とを含む。。
【0011】
好適には、スリーブは、両鼻孔用に2つ設けられている。
【0012】
好適には、位置決め部材は、好ましくは取り外し可能である、ユーザの顔面の両側および/または両耳に支えられるのに適した第3被支持部をさらに含む。
【0013】
好適には、位置決め部材は、作動中にユーザの指を、1本以上、好ましくは2本受け止めるのに適した基端側指受け面を有する支持体をさらに含む。
【0014】
好適には、支持体には、スリーブおよび第2顔面被支持部が組み込まれる。
【0015】
好適には、位置決め部材は、支持体を第1顔面被支持部に接続する接続部をさらに含む。
【0016】
好適には、接続部は、支持体に対して3次元的に調整可能である。
【0017】
好適には、投与ヘッドがユーザの鼻孔に挿入する鉛直角は、30°~60°の範囲であり、好ましくは40°~50°の範囲であり、より好ましくは約45°である。
【0018】
好適には、投与ヘッドがユーザの鼻孔に挿入する水平角は、0°~10°の範囲であり、好ましくは約5°である。
【0019】
好適には、投与ヘッドがユーザの鼻孔に挿入する挿入深さ(P)は、5mm~15mmの範囲であり、好ましくは約10mmである。
【0020】
好適な変形例として、容器に入れられた流体は、1回分のみまたは2回分のみである。
【0021】
別の好適な変形例として、容器に入れられた流体は、複数回分である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
以下に示す詳細な説明および添付図面は、非限定的な例に基づいて本発明の特徴や利点を明確にするものである。
【
図1】本発明の第1実施形態を構成する経鼻流体投与装置が作動位置にある状態を示す側面斜視図である。
【
図2】
図1の投与装置が作動位置にある状態を示す正面斜視図である。
【
図3】
図1および
図2の投与装置の使用方法を示す斜視図である。
【
図4】本発明の第2実施形態を構成する経鼻流体投与装置が作動位置にある状態を示す、
図1と同様な側面図である。
【
図5】
図4の投与装置が作動位置にある状態を示す正面斜視図である。
【
図6】支持体に対する接続部の調整を詳細に示す図である。
【
図7】支持体に対する接続部の調整を詳細に示す図である。
【
図8】支持体に対する接続部の調整を詳細に示す図である。
【
図9】支持体に対する接続部の調整を詳細に示す図である。
【
図10】鼻の各部位に対する流体の付着について、鼻孔への挿入角度を変えながら行った比較試験の結果を示す棒グラフである。
【
図11】鼻の各部位に対する流体の付着について、
図10とは異なる鼻孔への挿入深さで、挿入角度を変えながら行った比較試験の結果を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の説明では、用語「軸方向」および「径方向」は、
図1および
図4に示すように経鼻流体投与装置の縦軸Xに対する方向を表す。用語「基端」および「先端」は、投与装置の投与口に対する位置を表す。用語「水平」および「鉛直」は、
図1および
図4に示すように投与装置が起立した状態でのユーザに対する位置を表す。
【0024】
図1~
図5に示す経鼻流体投与装置は、従来の投与装置と同様に、流体が入れられた容器(図示せず)を据え付けた状態で支持する本体10を含む。本体10には、投与口21を有する投与ヘッド20が、本体10に対して軸方向移動可能に装着されている。変形例としては、本体10自体が容器を構成してもよいし、投与ヘッド20が容器に直接的に装着されてもよい。
【0025】
従来の投与装置と同様に、投与ヘッド20には、ユーザの通常は親指以外の2本である1本以上の指を、作動中に受け止めるのに適した基端側指受け面がある。同様に本体10には、ユーザの通常は親指である1本の指を、作動中に受け止めるのに適した先端側指受け面15がある。ただし、横方向に移動すると投与装置が作動するような他のアクチュエータを用いてもよい。
【0026】
投与装置が複数回投与型の場合、ポンプまたは計量弁(図示せず)が本体10に装着されている。投与装置の作動のたびに、1回分の流体が投与される。
【0027】
投与装置が1回投与型(容器内の流体は1回分のみである)または2回投与型(容器内の流体は2回分であり、通常は両鼻孔用である)の場合、容器の内部に装着されたピストン(図示せず)が摺動する。作動中は、本体10に対する投与ヘッド20の軸方向移動にともなってピストンも移動する。
【0028】
本発明に係る投与装置は、投与ヘッド20と協働する、好ましくは取り外し可能な位置決め部材40を含む。
【0029】
位置決め部材40は、投与ヘッド20がクランプにより挿入される中空のスリーブ41を少なくとも1つ含む。
【0030】
好ましくは、
図2および
図5から分かるように、位置決め部材40は中空のスリーブ41を両鼻孔用に2つ含む。
【0031】
位置決め部材40は、作動中にユーザの顔面に支えられる第1顔面被支持部42を少なくとも1つ含む。
【0032】
第1顔面被支持部42は、前額部または鼻梁に支えられるのに適しており、好ましくは図から分かるように丸みを帯びた形状である。
【0033】
図1~
図3に示す実施形態の第1顔面被支持部42は、円筒形状であり、両目の間で鼻梁に支えられる。
【0034】
図4および
図5に示す実施形態の第1顔面被支持部42は、ユーザの鼻の両側に延伸する横棒状であり、ユーザの前額部に支えられる。変形例としては、2つ以上の被支持部を鼻の両側に互いにずらして設けることにより、使用中のアセンブリの安定性を高めることができる。
【0035】
当然ながら、第1顔面被支持部42は他の適切な形状でもよい。
【0036】
第1顔面被支持部42は、以下に詳述する接続部43に固定される。
【0037】
また、ユーザの上唇に支えられるのに適した第2顔面被支持部46も設けられる。
【0038】
さらに、ユーザの顔面の両側および/または両耳に支えられるのに適した、例えば枝状や棒状の第3被支持部47も設けられることが好ましい。第3被支持部47が枝状である場合を
図6、7および9に示す。このような枝状の第3被支持部47は、位置決め部材40による正確な位置決めの調整に用いられてもよく、その場合は調整後に取り外し可能であってもよい。このようにすれば、使用中の投与装置の作動が妨げられることがない。
【0039】
好ましくは、
図3から分かるように位置決め部材40は支持体44を含む。支持体44の基端側指受け面45は、ユーザの1本以上の、好ましくは2本の指を、作動中に受け止めるのに適している。このようにして、基端側指受け面45は投与ヘッド20の対応する指受け面を覆うので、作動中の投与装置の動きは位置決め部材40にかかわらず同じである。変形例として、ユーザが投与ヘッド20の両側で両手の指を1本ずつ基端側指受け面45に載せて投与装置を作動させることもできる。
【0040】
支持体44には、中空のスリーブ41および第2顔面被支持部46が組み込まれることが好ましい。
【0041】
第2顔面被支持部46は、基端側指受け面45から傾斜した面であることが好ましい。
【0042】
また、第2顔面被支持部46は他の適切な形状でもよい。
【0043】
接続部43は、支持体44を第1顔面被支持部42に接続する。
図6~
図9に例示するように、摺動部分および/または旋回部分などを設けることによって、接続部43を支持体44に対して3次元的に調整可能にしてもよい。このようにすれば、支持体44の位置決めの調整が正確にできるので、接続部43ひいては第1顔面被支持部42に対する投与ヘッド20の位置決めの調整も正確にできる。
図2のX軸とB軸がなす、投与ヘッド20が鼻孔に挿入した状態での水平角を一定にして、作動中の投与装置を確実に正確な向きにすることが好ましい。
【0044】
同様に、第1顔面被支持部の特に高さおよび幅の調整を可能にして各ユーザの組織に適応させることもできる。
【0045】
接続部43は、図示する実施形態では湾曲した棒状であるが、他の適切な形状でもよい。
【0046】
位置決め部材40は、鼻孔の内部での投与ヘッド20の向きを所定の方法で合わせる。
【0047】
そうすると、
図1のX軸とA軸がなす、投与ヘッド20が鼻孔に挿入する鉛直角は、30°~60°の範囲であり、好ましくは40°~50°の範囲であり、より好ましくは約45°である。
【0048】
同様に、
図2のX軸とB軸がなす、投与ヘッド20が鼻孔に挿入する水平角は、0°~10°の範囲であり、好ましくは約5°である。
【0049】
さらに、投与ヘッド20が鼻孔に挿入する挿入深さPは、5ミリメートル(mm)~15mmの範囲であり、好ましくは約10mmである。
【0050】
図10および
図11に、鼻の各部位に対する流体の付着について行った比較試験の結果を示す。具体的には、本明細書で言うところの鼻である鼻入口部、鼻弁、上・中・下鼻甲介および篩骨洞を、好ましい付着目標部位とした。
【0051】
30°、45°および60°の鉛直角と0°および5°の水平角をそれぞれ組み合わせて、挿入深さPが5mmのときと10mmのときの結果を
図10および
図11にそれぞれ示す。
【0052】
特筆すべき点は、篩骨洞に対する付着率は、鉛直角が45°のときに最も良い結果が得られることである。この場合、挿入深さP5mmに対して水平角は0°が最適であり、挿入深さP10mmに対して水平角は5°が最適である。
【0053】
また、鉛直角が45°の場合、水平角が0°のときと5°のときとでは、挿入深さにかかわらず、大きくはないものの差が生じることも特筆すべき点である。これに対して鉛直角が60°の場合、水平角が0°のときと5°のときとでは大きな差が生じる。
【0054】
以上により、挿入深さP約10mm、鉛直角約45°および水平角約5°の組み合わせが理想的であることが推測できる。
【0055】
本発明は、鼻から脳への関門を介した薬剤投与が必要なパーキンソン型やアルツハイマー型の神経変性疾患の治療には、特に適している。薬剤を鼻腔から目標領域である篩骨洞に送達させることは、容易で侵襲性がない脳疾患治療法である。
【0056】
本発明について、各種の有利な実施形態に基づいて説明したが、添付の特許請求の範囲において定義した本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者による変形は当然ながら可能である。