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特許7094322カプリル酸を用いてタンパク質を精製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】カプリル酸を用いてタンパク質を精製する方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/16 20060101AFI20220624BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20220624BHJP
   C12N 7/06 20060101ALN20220624BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20220624BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220624BHJP
【FI】
C07K1/16
C07K1/22
C12N7/06
C07K16/00
C12N15/13
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020079525
(22)【出願日】2020-04-28
(62)【分割の表示】P 2016565165の分割
【原出願日】2015-04-30
(65)【公開番号】P2020114879
(43)【公開日】2020-07-30
【審査請求日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】14166535.6
(32)【優先日】2014-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509091848
【氏名又は名称】ノヴォ ノルディスク アー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オーレ・エルヴァング・イェンセン
(72)【発明者】
【氏名】ペア・ケアスゴー
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-273175(JP,A)
【文献】特開2014-034575(JP,A)
【文献】国際公開第2013/007740(WO,A1)
【文献】特表2008-500959(JP,A)
【文献】特表2007-533660(JP,A)
【文献】特開平11-029494(JP,A)
【文献】Journal of Chromatography B,2005年,Vol.814,p.209-215
【文献】Journal of Chromatography B,2007年,Vol.860,p.209-217
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i. 固定相にタンパク質含有サンプルをロードして、該固定相に標的タンパク質を結合させる工程;
ii. 結合された前記標的タンパク質を有する固相をカプリル酸溶液に曝露する工程であって、前記カプリル酸溶液が、遊離カプリル酸を生成するpHであり、遊離カプリル酸に関して測定される濃度が1~10 mMであるカプリル酸緩衝液である、工程;
iii. 前記標的タンパク質を溶出する工程
を含む、前記標的タンパク質及びエンベロープウイルスを含むサンプルから前記標的タンパク質を精製するための方法であって、
前記標的タンパク質の精製が、前記サンプル中での、前記カプリル酸処置による、エンベロープウイルスの不活性化を含み、
前記カプリル酸溶液のpHが、4<pH≦6の範囲であり、
前記標的タンパク質が、抗体又はその断片であり、
前記固定相が、クロマトグラフィーカラムである、
方法
【請求項2】
前記サンプルが、発酵培養液、細胞培養、細胞株培地、腹水、組織培養培地、血漿画分を含むヒト又は動物の血漿から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記サンプルが、イオン交換クロマトグラフィーカラム、アフィニティークロマトグラフィー、ミックスモードクロマトグラフィー、高速タンパク質液体クロマトグラフィー、及び吸着流動床(EBA)クロマトグラフィーカラムから選択されるクロマトグラフィーカラムにロードされる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記カプリル酸溶液が、4.5<pH≦6、例えば4.6≦pH<6、例えば約pH 4.6、約pH 4.7、約pH 4.8、約pH 4.9、約pH 5.0、約pH 5.1、約pH 5.2、約pH 5.3、約pH 5.4、約pH 5.5、約pH 5.6、約pH 5.7、約pH 5.8、及び約pH 5.9、例えば4.9<pH<6のpHを有する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記カプリル酸溶液が、遊離カプリル酸に関して測定される濃度が2~10 mM、例えば2~8 mM、例えば2~6 mMの濃度のカプリル酸緩衝液である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
自動化されているか、又は自動化されたタンパク質精製プロセスの一部である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
さらにマイコプラズマを不活性化する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ウイルスの不活性化又は除去を伴うタンパク質精製を、カプリル酸を用いて行う。
【背景技術】
【0002】
バイオ医薬品又は疾患、障害、若しくは状態を治療するための治療的タンパク質を含む医薬組成物の使用は、多数の製薬企業及びバイオテクノロジー企業の戦略的要素である。バイオ医薬品組成物に用いられる多くのタンパク質は、哺乳類細胞株を用いた組換え生産により、又は体液の精製により得られる。しかし、そのような方法により製造された治療的タンパク質はウイルス、表面上は伝染性の病原性ウイルスによりコンタミネートされている可能性があり、個体の健康に有害である可能性がある。あらゆる潜在的なウイルス活性を除去するために、治療的タンパク質を含む媒質を処理することが必要である。
【0003】
伝染性の病原性ウイルスの不活性化は、熱不活性化、溶媒/界面活性剤(S/D)不活性化、pH不活性化、化学的不活性化、及び/又は放射線照射不活性化によって行うことができ、S/D不活性化がおそらく最も広く許容される現実の方法である。
【0004】
大部分のヒトの病原体はエンベロープウイルスである。これらは、溶媒及び界面活性剤による膜破壊に対して感受性である。熱、酸性pH、化学物質、及び放射線照射を用いる不活性化方法は、過酷及び/又は侵襲的であり、精製される治療的タンパク質を変性させるか又はそうでなければ不活性化させる傾向があるため、これらの手段には問題がある。
【0005】
ウイルスの不活性化のために、医薬製品の精製中のウイルスクリアランスの一部として、エンベロープウイルスは、通常、界面活性剤又は低pH処理工程により不活性化され、それらの工程において、医薬製品の溶液に界面活性剤が加えられるか、最大6時間又はそれ以上の間、pHがおよそ3.7 (3.5~3.9)に調整される。しかし、界面活性剤は常に全ての種類のエンベロープウイルスに対し効果的であるわけではなく、環境的問題がある可能性があり、また、低pH不活性化に関しては、3.8より高いpHでは、不活性化効果が薄れるため、作業のウインドウ(window of operation)が非常に狭い。逆に、3.5未満のpH値では、多くのタンパク質に関して凝集形成又は変性のリスクが劇的に増加する。
【0006】
EP 0 374 625は、カプリル酸が大部分のエンベロープウイルスに対し短時間で効果があることを示している。US 4,939,176は、生物学的に活性なタンパク質の溶液をカプリル酸と接触させることにより、該溶液中でウイルスを不活性化するための方法を報告する。その方法のための記述された好ましい条件は、pH 4~pH 8、かつ0.07 (%w/w)~0.001 (%w/w)の非イオン化形態のカプリル酸であった。
【0007】
化学物質の使用によるウイルス不活性化の他の方法が公知である。US 4,540,573は、抗ウイルス剤としてのジアルキルホスフェート又はトリアルキルホスフェートの使用を教示する。US 4,534,972は、治療的又は免疫的に活性なタンパク質の溶液を、実質的に感染性物質を含まないものにする方法を記述する。US 4,534,972では、タンパク質の溶液を遷移金属錯体、例えば銅フェナントロリン、及び還元剤と接触させて、タンパク質の活性に実質的に影響を及ぼすことなくウイルスの不活性化をもたらす。
【0008】
US 5,164,487は、凝集、血管作動性物質、及びタンパク質分解酵素を含まないIgG製剤の製造のためのカプリル酸の使用に関する。この方法は、IgGを含む出発物質を0.4%~1.5%カプリル酸と接触させ、その後イオン交換又は疎水性マトリックスを用いてクロマトグラフィー精製する工程を含む。
【0009】
Steinbuchらは、コーンエタノールフラクションIIIに存在する(免疫グロブリン以外の)大部分のタンパク質及びリポタンパク質を沈殿させるためのカプリル酸の使用を示した(Steinbuchら、1973)。哺乳類の血清及び腹水からの免疫グロブリンの2段階精製が記述されている(McKinneyら、1987)。まず、カプリル酸を用いてアルブミン及び他の非IgGタンパク質を沈殿させ、その後、硫酸アンモニウムを上清に加えてIgGを沈殿させた。
【0010】
ヒト免疫グロブリンの調製中、カプリル酸は、温度及びイオン強度等のパラメーターが最適化される限りは、一般的にpH 4.8においてほとんどの血漿タンパク質に対する効果的な沈殿剤として認識される。Steinbuchら(1969)は、IgG、セルロプラスミン、及びIgAに影響のない、カプリル酸を用いた大部分の血漿タンパク質の沈殿を記述している。Steinbuchらは、カプリル酸を用いて哺乳類の血清からIgGを単離し、広範囲な非免疫グロブリン沈殿は、わずかに酸性だがpH 4.5未満でないpHにおいて最も良く達成されることを報告した。0.06 M酢酸緩衝液(pH 4.8)、を用いて血漿を2:1に希釈し、その後2.5 質量%のカプリレートで処理して沈殿を開始させた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】EP 0 374 625
【文献】US 4,939,176
【文献】US 4,540,573
【文献】US 4,534,972
【文献】US 5,164,487
【非特許文献】
【0012】
【文献】Steinbuchら、1973
【文献】McKinneyら、1987
【文献】Steinbuchら、1969
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、特に、緩衝液中に溶出することにより溶出液のpH調整を自動的に行う場合、不連続プロセス無しに、また作業者の注意の必要無しに、ウイルスの不活性化を行うために、クロマトグラフィー工程の一部としてカプリル酸処理を組み込むことをついに成し遂げた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、
i. 固定相にタンパク質含有サンプルをロードし、前記固定相に標的タンパク質が結合されるようにする工程;
ii. 結合された標的タンパク質を有する固相をカプリル酸溶液に曝露する工程であって、前記カプリル酸溶液が遊離カプリル酸を生成するようなpHであり、前記カプリル酸溶液が、遊離カプリル酸に関して測定される濃度が1~50 mMであるカプリル酸緩衝液である、工程;
iii. 前記標的タンパク質を溶出する工程
を含む、サンプルから標的タンパク質を精製するための方法を提供する。
【0015】
本発明は、特に、緩衝液中に溶出することにより溶出液のpH調整を自動的に行う場合、不連続プロセス無しに、また作業者の注意の必要無しに、ウイルスの不活性化を行うために、クロマトグラフィー工程の一部としてカプリル酸処理を組み込むことをついに成し遂げた。
【0016】
本発明の一態様は、
i. 固定相にタンパク質含有サンプルをロードし、前記固定相に標的タンパク質が結合されるようにする工程;
ii. 固相をカプリル酸溶液に曝露する工程;及び
iii. 前記標的タンパク質を溶出する工程
を含む、サンプルから標的タンパク質を精製するための方法を対象とする。
【0017】
本発明のさらなる態様は、i. サンプルを固定相にロードし、前記固定相に標的タンパク質が結合されるようにする工程;ii. 固相をカプリル酸溶液に曝露し、ウイルスが不活性化され、洗い流されるようにする工程;及びiii. 前記標的タンパク質を溶出する工程を含む、タンパク質含有混合物中のウイルスの不活性化のための方法を対象とする。
【0018】
本発明の別の態様は、i. サンプルを固定相にロードし、前記固定相に標的タンパク質が結合されるようにする工程;ii. 固相をカプリル酸溶液洗浄に供し、ウイルスが不活性化され、洗い流されるようにする工程;及びiii. 前記標的タンパク質を溶出する工程を含む、ウイルスを含まないタンパク質溶液を調製するための方法を対象とする。
【0019】
本発明の代替的な態様は、a) 標的タンパク質及びb) 1種以上のウイルス型を含むサンプルを固定相にロードし、カプリル酸溶液を用いて洗浄する、ウイルス不活性化方法を対象とする。
【0020】
i. サンプルを固定相にロードし、固相に標的タンパク質が結合されるようにする工程;ii. 前記固相をカプリル酸溶液洗浄に供し、ウイルスが不活性化され、洗い流されるようにする工程;及びiii. 前記標的タンパク質を溶出する工程を含む、脂質コーティングを含むウイルスを不活性化する方法。
【0021】
さらに、本発明は、i. サンプルを固定相にロードし、固相に標的タンパク質が結合されるようにする工程;ii. 前記固相をカプリル酸溶液洗浄に供し、ウイルスが不活性化され、洗い流されるようにする工程;及びiii. 前記標的タンパク質を溶出する工程を含む方法により得られる、脂質コーティングを含むウイルスを本質的に含まないタンパク質サンプルを対象とする。
【0022】
本発明のさらなる態様は、i. サンプルを固定相にロードし、固相に標的タンパク質が結合されるようにする工程;ii. 前記固相をカプリル酸溶液に曝露し、マイコプラズマが不活性化され、洗い流されるようにする工程;及びiii. 前記標的タンパク質を溶出する工程を含む、タンパク質含有混合物中のマイコプラズマを不活性化するための方法を対象とする。
【0023】
また、本発明は、例示的な実施態様の開示から明らかな、さらなる課題を解決することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一態様は、クロマトグラフィー工程中に同時に起こるウイルス不活性化及びタンパク質精製を対象とする。本発明の方法により、不活性化工程及び別途のカラムへのロードのための技術者の介入の必要性が取り除かれる。単一の不活性化及び捕捉工程を、技術者の介入無しに行うことができる。
【0025】
典型的には、標的タンパク質の精製には、サンプル中の潜在的ウイルスの不活性化が含まれる。したがって、本発明の一態様は、ウイルスを含まないタンパク質溶液の調製、及び本発明の方法に従って調製された、ウイルスを含まないタンパク質溶液を対象とする。本発明の方法には、タンパク質含有溶液のロードの後、該タンパク質の溶出の前に、カプリル酸含有洗浄溶媒を用いてクロマトグラフィーカラム又は膜を洗浄することによる、ウイルスの不活性化が関与する。また、本発明の方法は、マイコプラズマを不活性化し、宿主細胞由来タンパク質(Host Cell Protein)(HCP)の高度な減少をもたらす。
【0026】
本発明のタンパク質精製及びウイルス不活性化のために、カプリル酸溶液は、遊離酸又は非イオン化酸で、すなわち実質的に遊離カプリル酸又は非イオン化カプリル酸として、カプリル酸を含んでいなければならない。用語「遊離カプリル酸」及び「非イオン化カプリル酸」は、非解離形態、すなわちプロトン化形態、すなわちCH3(CH2)6CO2Hとしてのカプリル酸を意味することが意図される。
【0027】
本発明は、1つ以上の標的タンパク質、典型的には1つの標的タンパク質の、そのタンパク質を含む任意の培地又はサンプルであって、1種以上のウイルスをさらに含む可能性があるか、潜在的に含むか、又は含んでいる培地又はサンプルからの分離又は精製を対象とする。サンプルは、粗(クルード)培地であってもよく、又は部分的に洗浄され、濾過され、透析濾過され、若しくは任意の方法で部分的に精製されていてもよい。好適には、サンプルは発酵培養液、細胞培養、細胞株培地、腹水、組織培養培地、トランスジェニック細胞培地、ヒト又は動物の血液、血漿画分を含むヒト又は動物の血漿から成る群から選択される。典型的には、サンプルは、トランスジェニック細胞培地等の細胞株培地及びヒト又は動物の血漿から選択される。
【0028】
サンプル又はタンパク質含有混合物は、タンパク質、典型的には生物活性又は治療活性を有するタンパク質を含む流体である。流体は、ウイルスによりコンタミネートされる可能性がある任意の流体であってよい。流体の非限定的な例には、細胞溶解物(ライセート)、細胞上清、胎盤抽出物、若しくは腹水等の組織及び細胞の培養抽出物;血液、血漿、血清、乳、唾液、精液等の体液;又は活性を有するタンパク質を含む任意の他の流体、若しくは直前の精製工程由来の溶出液を含む、任意のその精製されたもの、部分的に精製されたもの、若しくは未精製(クルード)の流体若しくはコロイドが含まれる。
【0029】
述べたように、本発明において用いられるサンプルは、トランスジェニック細胞培地等の細胞株培地及びヒト又は動物の血漿をその供給源として有する。
【0030】
本発明のタンパク質を有する本発明のサンプルは、そのタンパク質を天然に発現する生物から、そのタンパク質を発現するように遺伝子操作されたトランスジェニック生物から、又は遺伝子組換え的にそのタンパク質を生産する細胞株から得ることができる。トランスジェニック生物の非限定的な例には、目的のタンパク質を発現するように遺伝子操作された、本願明細書に開示する生物が含まれる。タンパク質を含む本発明のサンプルは、生物若しくはトランスジェニック生物由来であってもよく、当業者に周知の通常の方法を用いて、体液、組織若しくは器官の抽出物、又は生物由来の他の供給源から得てもよい。さらに、本願明細書に開示するタンパク質を組換え的に発現させる等のための、様々な原核生物及び/又は真核生物の発現系も、本発明のサンプルの供給源とすることができる。本発明のタンパク質の供給源としての発現系には、誘導性発現、非誘導性発現、恒常的発現、組織特異的発現、細胞特異的発現、ウイルス媒介性発現、安定的組込み(stably-integrated)発現、及び一過性発現が限定されることなく含まれる。
【0031】
本発明のタンパク質は、発現ベクターにクローニングされたポリヌクレオチドにコードされていてもよい。原核生物発現ベクター、真核生物発現ベクター、酵母ベクター、昆虫ベクター、哺乳類ベクター、及び他の適切な発現ベクターが、当業者に周知であり、また市販されている。
【0032】
最初の生物、トランスジェニック生物、又は細胞培養系からの回収の後、本発明のタンパク質を含むサンプルは、透析濾過プロセスを含む、精製又は濾過プロセスを経てもよい。この最初の又は予備的なサンプルの精製には、サンプル中のタンパク質の濃縮、不純物を取り除くための中間精製工程、並びにさらなる不純物及びタンパク質バリアントを取り除くための最終精製(ポリッシング)を1つ以上含んでもよい。
【0033】
本発明の目的は、タンパク質含有サンプル中のウイルスの不活性化である。語句「ウイルスの不活性化」は、特定のサンプル中のウイルス粒子の数の減少(「低減」)並びに/又は、特定のサンプル中のウイルス粒子の、感染力及び/若しくは複製する能力等であるがこれに限定されない、活性の減少を意味することが意図される。用語「ウイルスの不活性化」は、通常は複製する能力があるビリオンを、複製が不可能な状態にすることを意味する。この用語は、サンプルからのウイルスの少なくとも部分的な除去、又はその数の減少若しくは低減をさらに包含する。この用語は、ウイルスの有無が不明である場合に方法を実行することを包含する。例えば、ウイルスの有無が特徴付けられておらず、その血漿及び細胞上清由来のタンパク質を個体に投与しても安全であるという保証が無い、全血若しくは血漿又は細胞上清由来のタンパク質に対して方法を適用してもよい。本発明の実施態様により、6 log10よりも大きいウイルス負荷の低減がもたらされるが、これに限定されない。すなわち、本方法により、現在の検出限界に基づき、対照と比較して1,000,000のウイルス複製の低減がもたらされる。
【0034】
前記ウイルス粒子の数及び/又は活性の減少は、約1%~約100%、好ましくは約20%~約100%、より好ましくは約30%~約100%、より好ましくは約40%~約100%、さらにより好ましくは約50%~約100%、さらにより好ましくは約60%~約100%、さらにより好ましくはおよそ少なくとも約70%、例えば少なくとも約80%、より典型的には少なくとも約90%、例えば約95%~100%、好ましくは約95%~約100%、典型的には約99~約100%のオーダーであり得る。
【0035】
ある非限定的な実施態様において、精製された抗体製品中のウイルスの総量は、もし存在したとしても、そのウイルスについてのID50(標的集団の50%に感染するウイルスの量)又はPFU(プラーク形成単位)より少ない、好ましくはそのウイルスについてのID50/PFUの少なくとも100倍少ない、より好ましくはそのウイルスについてのID50/PFUの少なくとも10,000倍少ない、及びさらにより好ましくはそのウイルスについてのID50/PFUの少なくとも1,000,000倍少ないである。
【0036】
当業者に認識されるとおり、本発明の方法は、サンプル中のウイルスを不活性化させ、その後でサンプルから除去することができ、又は本方法は、ウイルスの不活性化及びサンプルからの除去の両方をすることができる。
【0037】
本願明細書の態様は、一部分において、脂質コーティングを含むウイルスを開示する。完全なウイルス粒子は、ビリオンとして知られるが、核酸、すなわちDNA又はRNAのいずれかから成り、カプシドと呼ばれるタンパク質の保護被覆に包囲されている。ウイルスは、非エンベロープ及びエンベロープウイルスに分類することができる。本願明細書で用いられる用語「脂質コーティングを含むウイルス」は、脂質を含む膜又はエンベロープを含む任意のウイルス、例えば、エンベロープウイルスを指す。エンベロープウイルスは、カプシドがリポタンパク質膜又はエンベロープに包まれている。ウイルスは宿主細胞の表面から「出芽」するので、このエンベロープは宿主細胞に由来するものであり、大部分がウイルスゲノムにコードされていない脂質から成る。エンベロープウイルスは、大きさが約45-55 nm~約120-200 nmにわたる。哺乳類細胞に感染することができる脂質コーティングを含むウイルスには、ヘルペスウイルス科のウイルス、ポックスウイルス科のウイルス、又はヘパドナウイルス科のウイルス等のDNAウイルス;フラビウイルス科のウイルス、トガウイルス科のウイルス、コロナウイルス科のウイルス、デルタウイルス属のウイルス、オルトミクソウイルス科のウイルス、パラミクソウイルス科のウイルス、ラブドウイルス科のウイルス、ブニヤウイルス科のウイルス、又はフィロウイルス科のウイルス等のRNAウイルス;及びレトロウイルス科のウイルス又はヘパドナウイルス科のウイルス等の逆転写ウイルスが含まれる。脂質コーティングを含むウイルスの非限定的な例には、ヒト免疫不全ウイルス、シンドビスウイルス、単純ヘルペスウイルス、仮性狂犬病ウイルス、センダイウイルス、水疱性口内炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、牛ウイルス性下痢ウイルス、コロナウイルス、ウマ動脈炎ウイルス(equine arthritis virus)、重症急性呼吸器症候群ウイルス、マウス白血病ウイルス(MuLV)、伝染性ウシ鼻気管炎ウイルス(IBRV)、又はワクシニアウイルスが含まれる。
【0038】
非エンベロープウイルスは、そのカプシドにリポタンパク質膜又はエンベロープがないウイルスを指す。非エンベロープウイルスにおいて、カプシドは宿主細胞への付着及び内部への侵入を媒介する。カプシドは、一般的にはらせん型か正二十面体のいずれかである。非エンベロープウイルスは、大きさが約18-26 nm~約70-90 nmにわたる。哺乳類細胞に感染することができる非エンベロープウイルスには、例えばパルボウイルス科のウイルス、アデノウイルス科のウイルス、ビルナウイルス科のウイルス、パピローマウイルス科のウイルス、ポリオーマウイルス科のウイルス、ピコルナウイルス科のウイルス、レオウイルス科のウイルス、及びカリシウイルス科のウイルスが含まれる。
【0039】
ウイルスは、MuLV、IBRV、HIV、B型肝炎、C型肝炎、エボラ、ウエストナイル、及びハンタウイルスであってよいがこれに限定されるものではなく、輸血用血液及び血液を原料とする製品をコンタミネートする能力を有している。タンパク質の品質及び/又は機能性を大きく犠牲にすることなく、血液製剤中に潜在的に存在するウイルス性因子を除去又は不活性化することは難しい。産業上関連のあるウイルスの非限定的な例は、パルボウイルス科、パラミクソウイルス科(paramyoxyiradae)、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、レオウイルス科、トガウイルス科、カリシウイルス科、レオウイルス科、及びピコルナウイルス科である。
【0040】
ウイルスには、一本鎖DNAウイルス、二本鎖DNAウイルス、二本鎖RNAウイルス、及び一本鎖RNAウイルスが含まれるが、これに限定されない。さらなる態様において、ウイルスは、エンベロープウイルスである。エンベロープウイルスには、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、又はヘパドナウイルスが含まれるが、これに限定されない。本発明のあらゆる変化形において、ウイルスは、アデノウイルス、アフリカ豚コレラ株ウイルス、アレナウイルス、アルテリウイルス、アストロウイルス、バキュロウイルス、バドナウイルス、バルナウイルス、ビルナウイルス、ブロモウイルス、ブニヤウイルス、カリシウイルス、カピロウイルス、カーラウイルス、カリモウイルス、サーコウイルス、クロステロウイルス、コモウイルス、コロナウイルス、コトリコウイルス(cotricovirus)、シストウイルス、デルタウイルス、ダイアンソウイルス(dianthovirus)、エナモウイルス、フィロウイルス、フラビウイルス、フロウイルス、フセロウイルス、ジェミニウイルス、ヘパドナウイルス、ヘルペスウイルス、ホルデイウイルス、ハイポウイルス、イデアオウイルス(ideaovirus)、イノウイルス、イリドウイルス、レビウイルス、リポスリックスウイルス、ルテオウイルス、マクロモウイルス、マラフィボウイルス(marafivovirus)、ミクロウイルス、マイオ(ミオ)ウイルス、ネクロウイルス、ノダウイルス、オルトミクソウイルス、パポーバウイルス、パラミクソウイルス、パーティティウイルス、パルボウイルス、フィコドナウイルス、ピコルナウイルス、プラマウイルス(plamavirus)、ポドウイルス、ポリドナウイルス、ポテクスウイルス、ポティウイルス、ポックスウイルス、レオウイルス、レトロウイルス、ラブドウイルス、リジディオウイルス、シクエウイルス(sequevirus)、シホウイルス、ソベモウイルス、テクティウイルス、テヌイウイルス、テトラウイルス、トバマウイルス、トブラウイルス、トガウイルス、トンブスウイルス、トティウイルス、トリコウイルス、チモウイルス、及びアンブラウイルスから成る群から選択されてもよい。いくつかの態様において、ウイルスには、シカ流行性出血熱ウイルス(epizootic hemorrhagic disease virus)(EHDV)、マウス微小ウイルス(MMV)、マウスパルボウイルス-1 (MPV)、カシェ渓谷ウイルス(cache valley virus)、ベシウイルス2117、ブタサーコウイルス(PCV 1)、ブタサーコウイルス2(PCV 2)、イヌパルボウイルス(CPV)、ウシパルボウイルス(BPV)、又はブルータングウイルス(BTV)が含まれるが、これに限定されない。
【0041】
本発明のタンパク質は、典型的には活性;好ましくは生物活性を有するタンパク質である。タンパク質は、コンタミネートしているあらゆるウイルス活性の排除が望まれている、任意の目的のタンパク質であってよい。
【0042】
本発明の方法は、全てのタンパク質に制限なく適用可能である。当業者に周知のとおり、タンパク質含有サンプル中のタンパク質は、典型的には固定相の選択における決定要因であり、そのため本発明の方法における制限要因ではない。タンパク質という用語は、二次構造及び場合により三次構造を有するオリゴぺプチド鎖又はポリペプチド鎖を意味することが意図される。タンパク質という用語には、オリゴペプチド、ポリペプチド、及び糖タンパク質を含むグリコシル化(糖鎖付加)されたタンパク質又は核酸配列に連結されたタンパク質が含まれる。タンパク質は、当業者に周知の任意の翻訳後修飾を含んでいてもよい。タンパク質は、非タンパク質性の要素、結合、又は修飾を含んでいてもよい。限定するものではないが、特にトランスジェニック細胞由来のタンパク質に関しては、本発明の方法のタンパク質は1つ以上の非天然アミノ酸及び/又は非天然の異性体を含んでいてもよい。
【0043】
本発明の方法は、全ての供給源由来のタンパク質に制限なく適用可能である。タンパク質含有サンプル中のタンパク質は、血液タンパク質、乳タンパク質、細胞性タンパク質又は細胞抽出物タンパク質から選択されてもよい。タンパク質含有物中のタンパク質は、典型的には血液タンパク質若しくは細胞抽出物由来のタンパク質、又はホルモンである。より典型的には、抗体、若しくはFab若しくは一本鎖抗体等のその断片、可溶性受容体等の受容体、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、及び第VIII因子等の凝固因子、又は成長ホルモンから成る群から選択される。
【0044】
用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、任意の長さのアミノ酸の重合体を指すのに互換的に使用してもよい。重合体は、直線でも分岐していてもよく、修飾されたアミノ酸を含んでいてもよく、非アミノ酸により中断されていてもよい。また、これらの用語は、自然に又は介入により修飾されたアミノ酸重合体;例えば、ジスルフィド結合の形成、グリコシル化、脂質修飾(脂質付加)、アセチル化、リン酸化、又は標識成分とのコンジュゲーション等の任意の他の操作若しくは修飾も包含する。また、例えば、(例えば、非天然アミノ酸等を含む)1つ以上のアミノ酸のアナログ、及び当業者に周知の他の修飾を含むポリペプチドも、この定義に含まれる。
【0045】
用語「抗体」は、最も広い意味で用いられ、例えば、単一モノクローナル抗体(アゴニスト抗体、アンタゴニスト抗体、及び中和抗体を含む)、ポリエピトープ特異性を有する抗体組成物、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、イムノアドヘシン、及び所望の生物活性又は免疫活性を示す抗体の断片を特に包含する。用語「免疫グロブリン」(Ig)は、本願明細書において抗体と互換的に用いられる。
【0046】
用語「抗体断片」は、全長の抗体の一部分、一般的にはその抗原結合領域又は可変領域を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片;一本鎖抗体分子;ダイアボディ;直鎖状抗体;及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。
【0047】
本願明細書で用いられる用語「モノクローナル抗体」は、実質的に同質な抗体の集団から得られる、すなわち、集団を構成する個々の抗体が、少量存在する可能性がある自然に生じる変異を除き同一である、抗体を指す。本願明細書において、モノクローナル抗体には、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種に由来するか又は特定の抗体のクラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一又は相同性であるが、一方でその鎖の残りの部分は別の種に由来するか又は別の抗体のクラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一又は相同性である、「キメラ」抗体、及び生物活性を示すそのような抗体の断片が含まれる。
【0048】
述べたように、精製の正確なテイラー化(tailoring)は、精製するタンパク質の検討に依存する。ある実施態様において、本発明の分離工程により、抗体が1種以上のHCPから分離される。本願明細書に記述する方法を用いてうまく精製することができる抗体には、ヒトIgA1、IgA2、IgD、IgE、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、及びIgM抗体が含まれるが、これに限定されない。
【0049】
ある実施態様において、本発明の精製ストラテジーは、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーの使用を排除し、例えばIgG3抗体の精製があるが、これはIgG3抗体がプロテインAに非効率的に結合するためである。精製スキームの特定のテイラー化を考慮する他の要素には、Fc領域の有無(例えばFab断片と比較した全長抗体との関連において)、これはプロテインAがFc領域に結合するためである;目的の抗体を作製するために利用した特定の生殖細胞系列配列(germline sequence);及び抗体のアミノ酸組成(例えば抗体の一次配列及び分子の全体の電荷/疎水性)が含まれるが、これらに限定されない。1つ以上の特徴を共有する抗体は、その特徴をうまく利用するようにテイラー化された精製ストラテジーを用いて精製することができる。
【0050】
本発明のタンパク質は、血液凝固タンパク質、アルブミン、及び/又は免疫グロブリン等の血液タンパク質であってよい。血液タンパク質の非限定的な例には、ADAMTS-13、a1-抗プラスミン、a2-抗プラスミン、アンチトロンビン、アンチトロンビンIII、癌凝固促進物質(癌プロコアグラント)、エリスロポエチン、第II因子、第V因子、第VI因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、第XII因子、第XIII因子、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ヘパリン補因子II、高分子量キニノーゲン、筋肉内免疫グロブリン、静脈内免疫グロブリン、プラスミノーゲン、プラスミノーゲン活性化抑制因子-1、プラスミノーゲン活性化抑制因子-2、プレカリクレイン、プロテインC、プロテインS、プロテインZ、プロテインZ関連プロテアーゼインヒビター、組織因子、組織プラスミノーゲン活性化因子、ウロキナーゼ、又はフォン・ヴィレブランド因子が含まれる。
【0051】
本発明は、サンプルからの抗体の単離及び精製に好適である。典型的には、サンプルは、細胞株回収物であって、その細胞株が特定のタンパク質、例えば本発明の抗体を生産するために利用される、細胞株回収物を含む。
【0052】
実施例2及び3は、総合すると、2つの異なるタンパク質の種類、すなわち、一例として組換えヒト抗体(IgG1)及び別の例としてFabの同時精製によって、eMuLV等のウイルスの完全なクリアランスが達成されたという点において、本発明の方法によって異なる種類のタンパク質のタンパク質精製が可能になることを実証する。さらに、実施例は、ウイルスの不活性化による抗体の同時精製を実証する。
【0053】
好ましい実施態様において、サンプルは、抗体、又はその断片、凝固因子、及びホルモンから選択されるタンパク質を含む。抗体は、抗-TNF抗体、抗-IL-6抗体、抗-IL-8抗体、抗-IL-12抗体、抗-IL-16抗体、抗-IL-20抗体、抗-IL-21抗体、抗-IL-23抗体、抗-DR3抗体、抗-CD27抗体、抗-C5aR-215抗体、抗-CD30抗体、抗-TREM-1抗体、抗-TREM-2抗体、抗-uPA抗体、抗-uPAR抗体、抗-OX40抗体、抗-BTLA抗体、抗-GLP-1抗体、抗-LAIR1抗体、抗-LAIR2抗体、抗-LILRA1抗体、抗-Ly9抗体、抗-PD1抗体、抗-Siglec-9抗体、抗-MMP2抗体、抗-MMP6抗体、抗-MMP8抗体、抗-MMP9抗体、及び抗-TIM3抗体から成る群から好ましくは選択される。
【0054】
タンパク質は、hGH、グルカゴン、キスぺプチン、及びインスリンから選択されるホルモン等のホルモンであってもよい。
【0055】
典型的な実施態様において、樹脂を充填したカラムに、標的タンパク質を含む清澄化した培養液をロードする。カラムには、典型的には樹脂1L当たりおよそ1~50 gのタンパク質、例えば樹脂1L当たり5~50 gのタンパク質、典型的には樹脂1l当たり5~25 gのタンパク質、より典型的には樹脂1L当たり10~20 gのタンパク質をロードする。約20~40 mmol/kgのカプリル酸ナトリウムを含む水性溶媒を用いて、約5~6の間のpHで、pHが安定した後約30分間、カラムを洗浄する。カラムを、異なる溶媒を用いて場合によりさらに洗浄して不純物を取り除き、その後ギ酸含有溶媒を用いて溶出する。
【0056】
固定相へのサンプルのロードには、以下のクロマトグラフィー手法:イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ミックスモードクロマトグラフィー、及び疎水性相互作用クロマトグラフィーを1つ以上含んでもよい。
【0057】
したがって、固定相は、タンパク質結合リガンド、タンパク質、陰イオン交換体、陽イオン交換体が固定された不活性マトリックスを含む、当業者に周知の任意のクロマトグラフィー媒体(メディア)を含んでもよい。好ましくは、固定相はアフィニティークロマトグラフィー用の媒体である。
【0058】
ウイルス性の内容物からのタンパク質の精製又はウイルスの不活性化が、本発明の目的である。実施例1から、混入されたeMuLVの除去により判定されるとおり、Capto L媒体を有するカラムでのカプリル酸洗浄を伴うクロマトグラフィー工程により、ウイルス性の内容物が完全に除去されることが示される。実施例1で見られたeMuLVの完全なクリアランスは、プロテインA媒体を有するカラムでの実施例2においても見られる。したがって、ウイルス負荷のクリアランスにより判定される、ウイルス性の内容物からのタンパク質の精製又はウイルスの不活性化は、カラムの媒体に依存しない。
【0059】
組換え技術を用いる場合、タンパク質は、細胞内、ペリプラズムで生産されてもよく、又はサンプル培地中に直接分泌されてもよい。タンパク質が細胞内で生産される場合等の一態様において、サンプルを固相にロードする前に、(例えばホモジナイゼーションに起因する)宿主細胞又は溶解細胞のいずれかの微粒子状のデブリを、例えば遠心分離又は限外濾過により、場合により取り除いてもよい。しかし、本方法の利点は、そのような予備的工程が必須ではないということである。抗体が培地中に分泌される場合は、まず市販のタンパク質濃縮フィルターを用いてそのような発現系由来の上清を濃縮してもよい。
【0060】
また、タンパク質が培地中に分泌される場合は、例えばタンジェンシャルフロー濾過により、細胞培養培地から組換え宿主細胞を分離することもできる。本発明のタンパク質は、本発明の方法を用いて、培養培地から精製することができる。
【0061】
一実施態様において、アフィニティークロマトグラフィー工程には、適切なアフィニティークロマトグラフィー担体を含むカラムにサンプルを供する工程が含まれる。そのようなクロマトグラフィー担体の非限定的な例には、プロテインA樹脂、プロテインL樹脂、プロテインG樹脂、目的の抗体を得たときに用いた抗原を含むアフィニティー担体、及びFc結合タンパク質を含むアフィニティー担体が含まれるが、これに限定されない。プロテインA樹脂は、IgG等の抗体のアフィニティー精製及び単離に有用である。
【0062】
カラムのロードに続いて、例えば平衡緩衝液を用いて、カラムを1回又は複数回、洗浄してもよい。カラムを溶出する前に、異なる緩衝液を用いた洗浄を含む他の洗浄を用いることができる。当業者に周知の技術を用いて、溶出液をモニタリングすることができる。
【0063】
適切な陽イオン交換カラムは、固定相が陰イオン基を含むカラムである。そのようなカラムの例は、SP Sepharose(商標)カラムである。
【0064】
適切なミックスモードカラムは、固定相がミックスモード基を含むカラムである。そのようなカラムの例は、Capto MMC(商標)カラムである。
【0065】
別の実施態様において、サンプルを、疎水性相互作用クロマトグラフィー(「HIC」)に供する。適切なカラムは、固定相が疎水性基を含むものである。そのようなカラムの例は、phenyl Sepharose(商標)カラムである。単離/精製プロセス中に抗体が凝集体を形成してしまっている可能性がある。この疎水性クロマトグラフィー工程により、これらの凝集の排除が容易になる。また、不純物の除去も助ける。
【0066】
本発明の方法によれば、細胞株培地又は血漿等のタンパク質含有サンプルを固定相にロードし、前記固定相に標的タンパク質が結合されるようにする。本発明の方法は、いかなる固定相にも限定されない。実施例によって、本発明の方法において種々の固定相を用いることができることが実証される。クロマトグラフィー工程は、以下のクロマトグラフィー手法:イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、及び疎水性相互作用クロマトグラフィー、を含むことができる。固定相は、典型的にはクロマトグラフィーカラムの一部である。固定相は、典型的にはアフィニティークロマトグラフィー用の媒体である。固定相は、イオン交換クロマトグラフィーカラム、高速タンパク質液体クロマトグラフィー、及び吸着流動床(EBA)クロマトグラフィーカラム、好ましくはイオン交換クロマトグラフィーカラムから選択されてもよい。
【0067】
一実施態様において、固定相は、組換えタンパク質又は抗体κ軽鎖の可変領域に対する強力な親和性を有する任意のタンパク質等の免疫グロブリン結合性タンパク質リガンドが固定されたアガロースマトリックスを含む。そのような固定相の例は、Capto L媒体(GE-Healthcare)を充填したカラムである。したがって、一実施態様において、固定相は、典型的には樹脂に固定されたプロテインLを含む。さらなる実施態様において、固定相は、プロテインAに由来するアフィニティー媒体を含む。そのような固定相の例は、Mab Select SuRe媒体を充填したカラムである。さらなる実施態様において、固定相は、強力な陽イオン及び/又は強力な陰イオン交換体を有するアガロースマトリックスを含む。そのような固定相の例には、Capto SP ImpRes及びCapto Q ImpResが含まれる。
【0068】
サンプルのカプリル酸溶液への曝露の持続時間は、多数の因子によって変動する可能性があり、因子には、遊離カプリル酸の濃度、pH、ウイルスの種類、及び温度が含まれるが、これに限定されない。表Aは、様々な濃度のカプリレートにおいてサンプルのカプリル酸溶液への好ましい曝露時間を得るために必要なpHを示す。極めて実用的な目的のために、ii. 固相をカプリル酸溶液に曝露する工程、又はサンプルをカプリル酸溶液に曝露する工程は、2時間未満、典型的には1時間未満、例えば0.05分間~50分間、より典型的には0.10分間~30分間、好ましくは0.25分間~15分間、行われる。
【0069】
表6及び表7からわかるとおり、ウイルスの不活性化は、5分間未満で達成される場合が多い。しかし、条件(例えば遊離カプリル酸の濃度、pH、ウイルスの種類、及び温度)により、実用的には、最大1時間、例えば最大45分間、例えば30分間、必要となる。
【0070】
本発明の典型的な実施態様において、樹脂が充填され標的タンパク質がロードされたカラムを、カプリル酸を含む水性溶媒を用いて、約30分間洗浄する。標的タンパク質を取り除く溶媒を用いてタンパク質を溶出する前に、異なる溶媒を用いてカラムを場合によりさらに洗浄し、不純物を除去する。
【0071】
カプリル酸溶液は、ウイルスを不活性化し、かつ標的タンパク質を変性させないようなpHを有する。カプリル酸溶液は、非イオン性又は遊離のカプリル酸を生成するpHを有する。したがって、カプリル酸溶液のpHは典型的には酸性である。
【0072】
したがって、カプリル酸溶液は、7.0以下のpH、例えば2~7の間のpH、例えば6.5未満、例えば6.1未満、例えばpH 2~6のpH、例えば2<pH≦6、好ましくは3<pH≦6、より好ましくは4<pH≦6、例えば4.5<pH≦6、最も好ましくは2<pH<6、好ましくは3<pH<6、より好ましくは4<pH<6、例えば4.5<pH<6、例えば4.6≦pH<6、例えば約pH 4.6、約pH 4.7、約pH 4.8、約pH 4.9、約pH 5.0、約pH 5.1、約pH 5.2、約pH 5.3、約pH 5.4、約pH 5.5、約pH 5.6、約pH 5.7、約pH 5.8、及び約pH 5.9、例えば4.9<pH<6のpHである。
【0073】
実施例2からわかるとおり、低濃度の遊離カプリル酸であっても、eMuLV等のウイルスの完全な不活性化に効果的である。本発明の好ましい実施態様において、カプリル酸それ自体が緩衝液(pKa = 4.9)である。典型的には、カプリル酸溶液は、1~100 mM、典型的には1~50 mMであって、10~80 mMを含む、例えば30~70 mM又は30~50 mMの濃度のカプリル酸緩衝液である。好ましくは、非イオン化カプリル酸の濃度は1~10 mM、例えば2~10 mM、例えば2~8 mM、例えば2~6 mMである。典型的な実施態様において、用いられる緩衝液は、35 mmol/kg カプリル酸Naを4.1 mmol/kg HClと混合することによって作られ、約pH 5.6~6.7のpHになる。非イオン化カプリル酸の濃度は、ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式:pH = pKa + log([カプリレート]/[カプリル酸])により決定することができる。
【0074】
【表1】
【0075】
表Aは、本発明のタンパク質精製のために必要な最小濃度である1 mMの遊離カプリル酸を達成するために、様々なカプリレートの濃度において必要なpH、又は逆に様々なpHレベルにおいて必要な濃度を示す。網掛け部分は、本発明によって許容可能な量のウイルスを不活性化するためには、ウイルスの不活性化に必要な曝露時間が長すぎるという点で、実用的には遊離カプリル酸の濃度が低すぎるという実施態様を表現している。
【0076】
典型的には、カプリル酸溶液は、遊離カプリル酸に関して測定される濃度が、1~500 mM、典型的には1~50 mMであって、1~20 mMを含む、例えば2~20 mM又は1~10 mM、より好ましくは2~10 mM、例えば2~8 mM、例えば2~6 mMのカプリル酸緩衝液である。
【0077】
典型的には、カプリル酸溶液は、i) カプリル酸塩及びii) 7.0未満、例えば6.5以下のpH、例えばpH 1~6.2であり、かつ遊離カプリル酸に関して測定される濃度が、少なくとも1 mM、例えば少なくとも2 mM、例えば2~100 mM、例えば2.5~100 mMのカプリル酸の溶液を与えるような割合の無機酸又は有機酸の組み合わせを含む。
【0078】
タンパク質含有サンプルのロード及び/又はカプリル酸緩衝液を用いた洗浄は、多様な温度において行うことができ、典型的には1~40℃、例えば1~30℃、例えば2~25℃である。実施例4において用いられた低温は、実施例3において用いられた温度と比較して、ウイルスの不活性化工程が低温(2~8℃)及び比較的高い温度(15~25℃)のどちらでも達成されることを示す。
【0079】
タンパク質の溶出は、溶出緩衝液、例えば典型的には有機酸を用いた酸性溶出緩衝液等の従来技術により行ってもよい。好ましい実施態様において、溶出緩衝液はギ酸である。好適な実施態様において、溶出緩衝液は、ギ酸 10 mmol/kgとNaOH 3.4 mmol/kgとの混合によって調製され、およそpH 3.5になる。また、溶出工程は、高塩濃度の緩衝液によって行うこともできる。
【0080】
本発明の典型的な実施態様において、樹脂を充填したカラムに、標的タンパク質を含む清澄化した培養液をロードする;カラムには、典型的には樹脂1L当たりおよそ10~40 gのタンパク質、例えば樹脂1L当たり20~40gのタンパク質をロードし、約20~40 mmol/kgのカプリル酸ナトリウムを含む水性溶媒を用いて、2~25℃、約5~6の間のpHで、pHが安定した後約30分間、カラムを洗浄する。カラムを、異なる溶媒を用いて場合によりさらに洗浄して不純物を取り除き、その後ギ酸含有溶媒を用いてタンパク質を溶出する。
【0081】
さらに、本発明は、本発明の方法によって得られる、固体又は溶液のいずれかの形態のタンパク質を対象とする。さらに別の態様において、本発明は、本発明の方法によって得られる単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合部分等のタンパクと、許容される担体とを含む、1つ以上の医薬組成物を対象とする。
【0082】
以下の非限定的な実施例は、現在検討される代表的な実施態様のより完全な理解を容易にするために、例示的目的でのみ提供される。これらの実施例は、本願明細書に開示する、脂質コーティングを含むウイルスを不活性化する方法、及びこれらの方法を用いて加工された製品に関するものを含む、本願明細書に記述する一切の実施態様を限定するものと解釈されるべきではない。
【0083】
限定するものではないが、以下の実施態様は、本発明の好ましい様式である。
【0084】
1. i. 固定相にタンパク質含有サンプルをロードして、前記固定相に標的タンパク質を結合させる工程;
ii. 結合された標的タンパク質を有する固相をカプリル酸溶液に曝露する工程であって、前記カプリル酸溶液が、遊離カプリル酸を生成するpHであり、遊離カプリル酸に関して測定される濃度が1~50 mMであるカプリル酸緩衝液である、工程;及び
iii. 前記標的タンパク質を溶出する工程
を含む、サンプルから標的タンパク質を精製するための方法。
【0085】
2. 標的タンパク質の精製が、前記サンプル中のウイルスの不活性化を含む、実施態様1による方法。
【0086】
3. ウイルスを含まないタンパク質溶液を調製するための、実施態様1又は2による方法。
【0087】
4. カプリル酸溶液が、i) カプリル酸塩と、ii) 酸性溶液をもたらし、かつ遊離カプリル酸に関して測定される濃度が1 mMよりも高い、例えば少なくとも2 mM、例えば少なくとも2.2 mM、典型的には少なくとも2.5 mMのカプリル酸をもたらす割合の無機酸又は有機酸との組み合わせを含む、実施態様1~3による方法。
【0088】
4. カプリル酸溶液が、i) カプリル酸塩と、ii) pHが7.0未満、例えばpH 6.5以下で、遊離カプリル酸に関して測定される濃度が少なくとも1 mM、例えば少なくとも2 mM、例えば2~10 mMのカプリル酸の濃度の溶液をもたらす割合の無機酸又は有機酸との組み合わせを含む、実施態様1~3による方法。
【0089】
5. タンパク質が、抗体、若しくはその断片、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、及び第VIII因子等の凝固因子、並びに成長ホルモンから成る群から選択される、実施態様1~4による方法。
【0090】
6. サンプルが、発酵培養液、細胞培養、細胞株培地、腹水、組織培養培地、トランスジェニック細胞培地、血漿画分を含むヒト又は動物の血漿から成る群から選択される、実施態様1~5のいずれか一つによる方法。
【0091】
7. 固定相がクロマトグラフィーカラムである、実施態様1~6のいずれか一つによる方法。
【0092】
8. サンプルが、イオン交換クロマトグラフィーカラム、アフィニティークロマトグラフィー、ミックスモードクロマトグラフィー、高速タンパク質液体クロマトグラフィー、及び吸着流動床(EBA)クロマトグラフィーカラムから選択される固定相にロードされる、実施態様7による方法。
【0093】
9. カプリル酸溶液が、ウイルスを不活性化し、かつ標的タンパク質を変性させないようなpHを有する、実施態様1~8のいずれか一つによる方法。
【0094】
10. カプリル酸溶液が、6.1未満のpH、例えばpH 2~6、例えば2<pH≦6、好ましくは3<pH≦6、より好ましくは4<pH≦6、例えば4.5<pH≦6、例えば4.6≦pH<6、例えば約pH 4.6、約pH 4.7、約pH 4.8、約pH 4.9、約pH 5.0、約pH 5.1、約pH 5.2、約pH 5.3、約pH 5.4、約pH 5.5、約pH 5.6、約pH 5.7、約pH 5.8、及び約pH 5.9、例えば4.9<pH<6のpHを有する、実施態様1~9のいずれか一つによる方法。
【0095】
11. カプリル酸溶液が、遊離カプリル酸に関して測定される濃度が1~20 mm、例えば2~20 mm又は1~10 mm、より好ましくは2~10 mm、例えば2~8 mm、例えば2~6 mmの濃度のカプリル酸緩衝液である、実施態様1~10のいずれか一つによる方法。
【0096】
12. サンプルが、エンベロープウイルス、非エンベロープウイルス、又は非エンベロープウイルスとエンベロープウイルスの両方を含む、実施態様1~11のいずれか一つによる方法。
【0097】
13. 自動化されているか、又は自動化されたタンパク質精製プロセスの一部である、実施態様1~12のいずれか一つによる方法。
【0098】
14. マイコプラズマをさらに不活性化する、実施態様1~13のいずれか一つによる方法。
【0099】
15. 凝固因子、抗体、又はそのFabから選択されるタンパク質の精製のための方法であって、
i. アフィニティークロマトグラフィー用の固定相に1つ以上の前記タンパク質を含むサンプルをロードする工程;
ii. 遊離カプリル酸に関して測定される濃度が2~10 mM、例えば2~8 mM、例えば2~6 mMで、4.9<pH<6.2のpHのカプリル酸溶液に、固相を曝露し、ウイルスを不活性化し洗い流す工程;
iii. 標的タンパク質を溶出する工程
を含む、方法。
【0100】
本発明の方法のさらなる利点は、ウイルス不活性化サンプル、又はウイルスを含まないサンプル、そしてさらにマイコプラズマが不活性化されたサンプルを提供するということである。さらに、本発明の方法は宿主細胞由来タンパク質(HCP)等の不純物の量が減少したサンプルを提供する。
【実施例
【0101】
[実施例1]
組換えヒトFab断片を含む細胞株培地を、0.22 μmで濾過し、その後eMuLVウイルスを混入させた。Capto L媒体(GE-Healthcare)を充填したカラムに混入培地をアプライした。ロード後、カラムをまず平衡緩衝液(20 mM ホスフェート、150 mM NaCl、pH 7.2)を用いて洗浄し、その後pH 5.5の35 mM カプリル酸緩衝液(5.8 mM 遊離カプリル酸)を用いて洗浄した。カプリル酸緩衝液を用いた30分間の洗浄の後、pH 3.5の20 mM ギ酸を用いてFab断片をカラムから溶出させた。プロセス温度は15~25℃であった。Fab断片の収率は97%であり、Fab断片を含む溶出画分中にeMuLVは検出されなかった(表1)。
【0102】
【表2】
【0103】
Capto L媒体を用いたカラムでの、カプリル酸洗浄を伴うクロマトグラフィー工程により、6.0 log10より大きいLRVを伴って、混入されたeMuLVが完全に除去されることが示される。
【0104】
[実施例2]
組換えヒト抗体(IgG1)を含む細胞株培地を、0.22 μmフィルターで濾過し、eMuLVウイルスを混入させた。プロテインA(Mab Select SuRe、Ge Healthcare)を充填したカラムに混入培地をロードした。ロード後、カラムをまず平衡緩衝液(50 mmol/kg ホスフェート、300 mmol/kg NaCl、pH 7.0)を用いて洗浄し、その後pH 5.8の32 mmol/kg カプリレート緩衝液(2.9 mM 遊離カプリル酸)を用いて洗浄した。最悪条件(低カプリル酸濃度)におけるこの工程の有効性を示すために、低濃度のカプリレート及び高pHを用いた。pHが安定化された後、洗浄を30分間続けた。さらなる3回の洗浄(平衡緩衝液、50 mmol/kg ホスフェート、1 mol/kg NaCl、そしてその後平衡緩衝液)後、ギ酸緩衝液、pH 3.5を用いてカラムからmAbを溶出させた。mAbの収率は100%であり、mAbを含む溶出画分中にeMuLVは検出されなかった(表2)。プロセス温度は15~25℃であった。
【0105】
【表3】
【0106】
実施例1において見られたeMuLVの完全なクリアランスは、プロテインA媒体を用いたカラムにおいても見られる。したがって、混入されたロード(負荷)のクリアランスは、カラム中の媒体に依存しない。また、低濃度の遊離カプリル酸であっても、eMuLVの完全なクリアランスに有効である。
【0107】
[実施例3]
組換えヒト抗体(IgG4)を含む細胞株培地を、0.22 μmフィルターを通して濾過し、eMuLVウイルスを混入させた。プロテインA(Mab Select SuRe、Ge Healthcare)を充填したカラムに混入培地をロードした。ロード後、カラムをまず平衡緩衝液(50 mmol/kg ホスフェート、300 mmol/kg NaCl、pH 7.0)を用いて洗浄し、その後pH 5.8の32 mmol/kg カプリレート緩衝液(2.9 mM 遊離カプリル酸)を用いて洗浄した。pHが安定化された後、洗浄を30分間続けた。さらなる3回の洗浄(平衡緩衝液、50 mmol/kg ホスフェート、1 mol/kg NaCl)、そしてその後平衡緩衝液)後、ギ酸緩衝液、pH 3.5を用いてカラムからmAbを溶出させた。mAbの収率は90%であり、mAbを含む溶出画分中にeMuLVは検出されなかった(表3)。プロセス温度は15~25℃であった。
【0108】
【表4】
【0109】
実施例2とは別のヒト抗体を用いたこの実施例により、eMuLVの完全なクリアランスは、細胞株培地中のモノクローナル抗体と無関係であることが示される。
【0110】
[実施例4]
組換えヒト抗体(IgG1)を含む細胞株培地を、0.22 μmフィルターを通して濾過し、eMuLVウイルスを混入させた。プロテインA(Mab Select SuRe、Ge Healthcare)を充填したカラムに混入培地をロードした。ロード後、カラムをまず平衡緩衝液(50 mmol/kg ホスフェート、300 mmol/kg NaCl、pH 7.0)を用いて洗浄し、その後pH 5.7の35 mmol/kg カプリレート緩衝液(3.9 mM 遊離カプリル酸)を用いて洗浄した。pHが安定化された後、洗浄を30分間続けた。さらなる3回の洗浄(平衡緩衝液、50 mmol/kg ホスフェート、1 mol/kg NaCl、そしてその後平衡緩衝液)後、ギ酸緩衝液、pH 3.5を用いてカラムからmAbを溶出させた。
【0111】
mAbの収率は90%であり、mAbを含む溶出画分中にeMuLVは検出されなかった(表4)。プロセス温度は2~8℃であった。
【0112】
【表5】
【0113】
実施例3で用いられた温度と比較した、この実施例で用いられた低い温度により、eMuLVの完全なクリアランスが低温(2~8℃)及びこれより高い温度の両方で達成されることが示される。
【0114】
[実施例5]
組換えヒト抗体(IgG1)を含む170リットルの細胞株培地を、パイロットプラントにおいて二等分し、その後、別個に、自動クロマトグラフィーシステム(AKTA pilot、GE Healthcare)のプロテインA(Mab Select SuRe、Ge Healthcare)を含むカラムに通した。
【0115】
一方をプロテインAカラム(7.1リットルのMab Select SuRe、Ge Healthcare)にロードし、その後カラムを3つの緩衝液(平衡緩衝液、(50 mmol/kg ホスフェート、1 mol/kg NaCl)、そしてその後平衡緩衝液)で洗浄した。ギ酸緩衝液、pH 3.5を用いてカラムからmAbを溶出させた。溶出液を低pH(3.7)で60分間、手動で処理した。
【0116】
他方は実施例4のように扱ったが、プロテインAクロマトグラフィー(7.1リットルのMab Select SuRe、Ge Healthcare)中にプログラム化されたカプリル酸洗浄工程を有し、溶出液の低pHでの処理を含まなかった。
【0117】
その後、溶出液を別個に陽イオン交換カラム(2.2リットルのPoros 50 HS、Life Technologies)にロードした。平衡緩衝液(37.4 mM 酢酸緩衝液、pH 5)を用いたカラムの洗浄後、酢酸緩衝液、pH 5中、0~300 mM NaClのリニアグラジエントでカラムを溶出させた。
【0118】
HMWPの濃度は両溶出液において約2 %であったが、低pH処理後、3 %まで上昇した(表を参照)。陽イオン交換後、HMWPの濃度は、低pHで処理した方と、プロテインAクロマトグラフィー中にカプリル酸洗浄で処理した方の両方において約2 %であった。CHO-HCPの濃度は、カプリル酸で洗浄したプロテインAカラムからの溶出液中には、低pHで処理した溶出液中の濃度と比較して約半分しかなかった(表を参照)。陽イオン交換後も、プロテインAクロマトグラフィー中にカプリル酸洗浄で処理した方におけるCHO-HCPの濃度は、低pHで処理した方におけるCHO-HCPの量の半分のままであった。
【0119】
プロテインAクロマトグラフィー中にカプリル酸洗浄を伴う方法は、プロテインAからの溶出液の低pH処理を伴う方法よりも約45分間速かった。モノクローナル抗体の収率は、陽イオン交換後、2つの部分においてほとんど同じであった(表5)。
【0120】
【表6】
【0121】
実施例により、プロテインAを有するカラムでのクロマトグラフィー中にカプリル酸洗浄工程を用いることにより、より低濃度のCHO-HCPが達成されることが示される。より低濃度のCHO-HCPは、次のクロマトグラフィー工程(陽イオン交換)の後においてもなお見られる。また、低pH工程後のHMWPの増加も回避される。カプリル酸洗浄を伴う方法を用いることにより、低pH工程を伴う方法と比較して、プロセス時間が45分間節約された。
【0122】
[実施例6]
種々のカプリル酸濃度及び種々のpHにおけるMuLVの不活性化を調査した(表6)。5.0~6.0の範囲のpHにおいて、遊離カプリル酸濃度が少なくとも約4 mMに維持されるように、pHを上昇させるとともにカプリル酸濃度を高めた場合、5分間後にMuLVの完全な不活性化が達成された。約2 mMのカプリル酸濃度では、反応時間を増加させ、これらの最も困難なウイルスについて30分間後に部分的な不活性化が得られた。1mM未満では、不活性化は観察されなかった。
【0123】
【表7】
【0124】
カプリル酸の濃度はpHに依存し、またエンベロープウイルスを不活性化するのは遊離カプリル酸のみである。したがって、pH 5.9~6.3の範囲のpHにおいて、60 mM カプリル酸の効率をさらに調査した。このpHの範囲全体にわたって、5分間以内で5.4 log10を超えるMuLVの完全な不活性化が見られた(表7)。pH 6.3では、カプリル酸濃度は2.2 mMであり、この濃度も本試験において有効である。
【0125】
60 mMのカプリル酸の総濃度では、pH 5.9~6.2の範囲のpHにおいてMuLVの不活性化は非常に効果的であった。最良の結果は、60 mMのカプリル酸でpHが6.1以下に維持された場合に得られた。
【0126】
【表8】
【0127】
有効であるためには、遊離カプリル酸の濃度を少なくとも1 mM、好ましくは少なくとも約2 mM、例えば約2.2 mM、例えば少なくとも約2.5 mM、又は少なくとも2.8 mMにするべきであることが示される。
【0128】
当業者が容易に認識するように、高濃度の他の塩、例えばCaCl2又はNaClはカプリル酸の溶解度を低減させる傾向がある。当業者が容易に認識するように、500 mMよりも高い、例えば100 mMよりも高い、又は50 mMよりも高い非カプリル酸塩の濃度は、遊離カプリル酸が生成される能力に影響を及ぼす可能性があるので、避けるべきである。しかし、当業者は、カプリル酸の濃度をその溶解度よりも高くするべきではないことを容易に認識する。
【0129】
カプリル酸を用いたウイルスの不活性化を含むタンパク質精製方法は、1 mMより高い遊離カプリル酸濃度において、MuLVウイルスを含むエンベロープウイルス一般の不活性化に非常に効果的かつ迅速であることが示された。本願明細書では本発明の特定の特徴を例示し記述してきたが、当業者であれば多数の改変、置換、変化、及び等価物に想到するであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、全てのそのような改変及び変化を、本発明の真の精神の範囲内のものとして包含することが意図されると理解されるべきである。