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▶ デイナ ファーバー キャンサー インスティチュート,インコーポレイテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】低悪性度漿液性癌におけるHER3阻害
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220624BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220624BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20220624BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220624BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P35/00
A61P15/00
A61P43/00 121
A61K45/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020140568
(22)【出願日】2020-08-24
(62)【分割の表示】P 2017502620の分割
【原出願日】2015-07-15
(65)【公開番号】P2020193221
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】62/025,321
(32)【優先日】2014-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】399052796
【氏名又は名称】デイナ ファーバー キャンサー インスティチュート,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【弁理士】
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】リビングストン,デヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ジョイス
(72)【発明者】
【氏名】ドラプキン,ロニー
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特許第6755235(JP,B2)
【文献】Lancet Oncol., (2013), 14, [2], p.134-140
【文献】Int. J. Gynecol. Cancer, (2014.07.01), 24, [6], p.1010-1014
【文献】Adv. Anat. Pathol., (2009), 16, [5], p.267-282
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 49/00-51/12
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮増殖因子受容体(EGFR)ファミリーメンバーに特異的に結合する抗体またはその断片を含有する、低悪性度漿液性卵巣癌の治療剤であって、
前記抗体またはその断片が、配列番号145の重鎖(HC)配列および配列番号144の軽鎖(LC)配列を含む、前記治療剤。
【請求項2】
EGFRファミリーメンバーがHER3を含む、請求項1に記載の治療剤であって、さらにセツキシマブもしくはトラスツズマブまたはセツキシマブおよびトラスツズマブから選択される追加の薬剤を含有する、前記治療剤。
【請求項3】
抗体またはその断片が、経口、皮下、腹腔内、筋内、脳室内、実質内、クモ膜下腔内、頭蓋内、頬側、粘膜、鼻、および直腸投与からなる群より選択される経路によって投与される、請求項1または2に記載の治療剤。
【請求項4】
抗体または断片を、生理学的に許容されうるキャリアー、賦形剤、または希釈剤を含む薬学的組成物に配合する、請求項1~のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項5】
さらなる療法剤をさらに含む、請求項に記載の治療剤。
【請求項6】
さらなる療法剤が、HER1阻害剤、HER2阻害剤、HER3阻害剤、HER4阻害剤、mTOR阻害剤およびPI3キナーゼ阻害剤からなる群より選択される、請求項に記載の治療剤。
【請求項7】
さらなる療法剤が、マツズマブ(EMD72000)、セツキシマブ、パニツムマブ、mAb806、ニモツズマブ、ゲフィチニブ、CI-1033(PD183805)、ラパチニブ(GW-572016)、トシル酸ラパチニブ、エルロチニブHCL(OSI-774)、PKI-166、およびN-[4-[(3-クロロ-4-フルオロフェニル)アミノ]-7-[[(3”S”)-テトラヒドロ-3-フラニル]オキシ]-6-キナゾリニル]-4(ジメチルアミノ)-2-ブテナミドからなる群より選択されるHER1阻害剤;ペルツズマブ、トラスツズマブ、MM-111、ネラチニブ、ラパチニブまたはトシル酸ラパチニブからなる群より選択されるHER2阻害剤;MM-121、MM-111、IB4C3、2DID12(U3 Pharma AG)、AMG888(Amgen)、AV-203(Aveo)、MEHD7945A(Genentech)、MOR10703(Novartis)およびHER3を阻害する小分子からなる群より選択されるHER3阻害剤;および/またはHER4阻害剤である、請求項に記載の治療剤。
【請求項8】
さらなる療法剤が、テムシロリムス、リダホロリムス、AP23573、MK8669、エベロリムスからなる群より選択されるmTOR阻害剤である、請求項に記載の治療剤。
【請求項9】
さらなる療法剤が、GDC0941、BEZ235、BMK120およびBYL719からなる群より選択されるPI3キナーゼ阻害剤である、請求項に記載の治療剤。
【請求項10】
さらなる療法剤が、ゲムシタビン、パクリタキセル、メシル酸イマチニブ、リンゴ酸スニチニブ、アドリアマイシン、ダウノマイシン、シスプラチン、エトポシド、ビンブラスチン、ビンクリスチン、およびメトトレキセートからなる群より選択される、請求項に記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
[0001]本出願は、本明細書にその全体が援用される、2014年7月16日出願の米国仮出願第60/025,321号の利益を主張する。
政府の資金援助を受けた研究または開発
[0002]本発明は、米国癌研究所によって付与された連邦助成金番号5K12CA087723-09のもとに、政府支援を受けた。政府は、本発明に特定の権利を有する。
【0002】
EFS-WEBを通じて提出された配列表に関する言及
[0003]本出願は、EFS-WEBを通じて電子出願されており、そして.txtフォーマットの電子提出された配列表が含まれる。.txtファイルは、2015年7月15日に生成された配列表を含有し、そしてサイズは228kbである。.txtファイルに含有される配列表は本明細書の一部であり、そしてその全体が本明細書に援用される。
【技術分野】
【0003】
1.技術分野
[0004]本発明は、癌の治療に、そして特にEGFRファミリーメンバーのシグナル伝達を阻害することによる、低悪性度漿液性卵巣癌の治療に関する。
【背景技術】
【0004】
2.背景情報
[0005]卵巣癌は、米国において、女性の癌での死亡の5番目に多い原因であり、2014年には、22,000の症例および14,000の死亡例があったと概算される(Siegelら Cancer Statistics, 2014. CA Cancer J Clin. 2014 Jan-Feb; 64(1):9-29. Doi:10.3322/caac.21208. Epub 2014 Jan 7)。手術および白金に基づく化学療法での一次治療は有効でありうるが、該疾患はしばしば再発し、そしてますます療法に耐性になっていく(Modesitt, 2007, Expert Opin Pharmacother, 2293)。今日まで、卵巣癌において、成功したターゲティング化療法の同定は限定されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Siegelら Cancer Statistics, 2014. CA Cancer J Clin. 2014 Jan-Feb; 64(1):9-29.
【文献】Modesitt, 2007, Expert Opin Pharmacother, 2293
【発明の概要】
【0006】
[0006]本発明は、低悪性度漿液性卵巣癌の治療に関する。いくつかの側面において、癌を治療する方法を提供する。該方法には、上皮増殖因子受容体(EGFR)ファミリーメンバーに特異的に結合する抗体またはその断片の療法的有効量を被験体に投与する工程が含まれることも可能であり、ここで癌は低悪性度漿液性卵巣癌である。1つの態様において、EGFRファミリーメンバーはHER3であり、そして抗体またはその断片はHer3抗体またはその断片である。1つの態様において、Her3抗体またはその断片は、HER3のドメイン2およびドメイン4内のアミノ酸残基を含むコンホメーションエピトープに結合し、そしてリガンド依存性およびリガンド非依存性シグナル伝達の両方を遮断す
る。
【0007】
[0007]いくつかの側面において、癌を治療する方法には、癌において、EGFRファミリーメンバーのシグナル伝達を阻害する剤の療法的有効量を被験体に投与する工程が含まれ、ここで癌は低悪性度漿液性卵巣癌である。剤には、小分子、ポリペプチド、抗体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、またはsiRNA分子が含まれることも可能である。
【0008】
[0008]いくつかの側面において、本発明は、低悪性度漿液性卵巣癌の治療において使用するための薬剤製造における、EGFRファミリーメンバーのシグナル伝達を阻害する剤の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】[0009]図1は、21の異なる初代卵巣培養物に対する抗Her3モノクローナル抗体MOR10703の効果を例示する。4つの初代細胞パック(DF76、DF141、DF192、およびDF225)は、1:1000の濃度で、MOR10703に対して6日間連続曝露した後、増殖の有意な減少を有した。
図2-1】[0010]図2A~2Bは、(2A)DF76および(2B)DF141細胞におけるHer3およびNRG1に対して向けられたRNAi(siRNA)の効果を例示する。(2A)最初のトランスフェクションの6日後、siHer3は、Her3タンパク質発現の有意な減少およびHer3リン酸化の減少を生じる一方、siNRGは、NRG1タンパク質発現を有意に減少させ、そしてHer3リン酸化には中程度の効果を有した。Her3またはNRG1のいずれかに対するsiRNAは、DF76細胞において、有意な増殖減少を生じた。
図2-2】図2B。(2B)最初のトランスフェクションの3日後、siHer3は、DF141細胞において、Her3タンパク質発現の減少およびHer3リン酸化のわずかな減少を生じた。最初のトランスフェクションの6日後、siHer3は、DF141細胞において、Her3タンパク質発現の有意な減少およびHer3リン酸化の有意な減少を生じた。siRNAはまた、第3日に、NRG1発現の有意な減少を生じた。第3日および第6日でのsiNRG1によるHer3リン酸化に対する効果は、この時点では、毒性により溶解物が不十分であったために観察不能であった。
図3】[0011]図3A~3Bは、MOR10703による、低悪性度漿液性細胞株におけるHer3発現およびリン酸化に対する効果を例示する。(3A)MOR10703は、MPSC1およびHOC-7細胞の両方において、Her3発現およびリン酸化を減少させた。HEY細胞は非常に少量のHer3発現を有し、そしてHer3リン酸化の証拠はなかった。(3B)MOR10703は、HEY、MPSC1、またはHOC-7細胞の増殖に対して影響を示さなかった。
図4-1】[0012]図4A~4Dは、初代DF低悪性度漿液性細胞パックにおいて、EGFR、Her-2およびHer3に対して向けられるモノクローナル抗体の効果を例示する。ばらつきが存在するが、低悪性度DF細胞パックの各々は、セツキシマブ、トラスツズマブ、およびMOR10703に対してある程度の感度を示す。単離した任意の所定の抗体を用いるよりも、抗体を組み合わせた方が、より大きい効果が見られた。
図4-2】図4C、D。
図5-1】[0013]図5A~5Dは、2つの高悪性度初代卵巣癌細胞(DF09、DF14)および低悪性度漿液性卵巣癌細胞株(HEY、MPSC1)において、EGFR、Her-2およびHer3に対して向けられるモノクローナル抗体の効果を例示する。
図5-2】図5B
図5-3】図5C
図5-4】図5D
【発明を実施するための形態】
【0010】
[0014]本発明は、卵巣癌の特定のサブセットである低悪性度漿液性卵巣癌が、EGFRファミリーメンバーのシグナル伝達を阻害する剤で治療可能であるという知見に関する。特に、HER3シグナル伝達の干渉を用いて、低悪性度漿液性卵巣癌を治療可能であることが見出された。
【0011】
[0015]卵巣癌の最も一般的なタイプは、卵巣表面を裏打ちする上皮細胞から生じる。上皮卵巣腫瘍のおよそ50%が、漿液性、または腺性の特徴を持つ腫瘍と分類され、そしてすべての卵巣腫瘍のおよそ80%を占める。他のタイプの卵巣癌は生殖細胞(例えば卵巣の卵作製細胞の癌)および肉腫から生じうる。高悪性度漿液性腫瘍は、低悪性度(LMP)腫瘍に比較した際、非常に侵襲性、浸潤性の腫瘍を示す。浸潤性漿液性腫瘍が高悪性度または低悪性度のいずれに分類されるかは、疾患の臨床経過に基づく。例えば、高悪性度漿液性腫瘍は、癌細胞と関連する多様な細胞機能を制御する遺伝子、例えば細胞増殖、DNA安定性(またはその欠如)を制御する遺伝子、および他の遺伝子をサイレンシングする遺伝子を過剰発現することが見出された。逆に、LMP腫瘍はこれらのタイプの遺伝子を過剰発現することが見出されず、そしてLMP腫瘍は、あるいは、増殖制御系、例えば腫瘍タンパク質53(TP53またはp53)経路の発現によって特徴付けられた。
【0012】
[0016]さらに最近、ジョンズ・ホプキンス病院およびM.D.アンダーソン癌センターで行われた研究に基づいて、漿液性卵巣腫瘍を特徴付ける2層の系が記載されてきている(Vangら, 2009, Adv Anat Pathol 16:267-282)。簡潔には、低悪性度漿液性卵巣腫瘍は、いくつかの基準に基づいて特徴付けられ、例えば低悪性度漿液性腫瘍は低い染色体不安定性を有するかまたは不安定性を持たず、典型的には突然変異KRAS、BRAFおよびHER2遺伝子を有し、緩慢な腫瘍発展を示し、典型的には均一で小さく、そして丸い細胞核を有し、そして一般的に低い有糸分裂指数を有する。逆に、高悪性度漿液性腫瘍は、高い度合いの染色体不安定性を有し、突然変異TP53遺伝子を有し、非常に迅速な腫瘍発展を示し、典型的には不均一で、肥大し、そして不規則な形状の核を有し、そして高い有糸分裂指数を有する。
【0013】
[0017]ヒト上皮増殖因子受容体3(ErbB3、HER3としても知られる)は、受容体プロテインチロシンキナーゼであり、そして受容体プロテインチロシンキナーゼの上皮増殖因子受容体(EGFR)サブファミリーに属し、このサブファミリーにはまた、EGFR(HER1、ErbB1)、HER2(ErbB2、Neu)、およびHER4(ErbB4)(Plowmanら, (1990) Proc. Natl. Acad.
Sci. U.S.A. 87:4905-4909; Krausら, (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:9193-9197;およびKrausら, (1993) Proc. Natl. Acad.
Sci. U.S.A. 90:2900-2904)もまた含まれる。原型上皮増殖因子受容体同様、膜貫通受容体HER3は、細胞外リガンド結合ドメイン(ECD)、ECD内の二量体化ドメイン、細胞内プロテインチロシンキナーゼ様ドメイン(TKD)およびC末端リン酸化ドメインからなる。他のEGFRファミリーメンバーとは異なり、HER3のキナーゼドメインは、非常に低い生得的キナーゼ活性を示す。
【0014】
[0018]リガンド、ニューレグリン1(NRG)またはニューレグリン2は、HER3の細胞外ドメインに結合し、そしてHER2などの他の二量体化パートナーとの二量体化を促進することによって、受容体仲介性シグナル伝達経路を活性化する。ヘテロ二量体化はHER3細胞内ドメインの活性化およびトランスリン酸化を生じ、そしてシグナル多様化だけでなく、シグナル増幅の手段でもある。さらに、HER3ヘテロ二量体化はまた、活性化リガンドの非存在下でも生じる可能性があり、そして一般的に、リガンド非依存性HER3活性化と称される。例えば、HER2が遺伝子増幅の結果として(例えば乳癌、肺癌、卵巣癌または胃癌において)高レベルで発現される場合、自発的なHER2/HER
3二量体が形成されうる。この状況において、HER2/HER3は、最も活性であるErbBシグナル伝達二量体と見なされ、そしてしたがって非常に形質転換性である。
【0015】
[0019]用語「EGFRファミリーメンバー」は、上皮増殖因子受容体(EGFR)ファミリーメンバーのサブファミリーを指し、これには、ヒト上皮増殖因子受容体3(ErbB3、HER3としても知られる)、EGFR(HER1、ErbB1)、HER2(ErbB2、Neu)、およびHER4(ErbB4)が含まれる。
【0016】
[0020]用語「HER1」、「ErbB1」、「上皮増殖因子受容体」および「EGFR」は、本明細書において交換可能に用いられ、そして例えば、Carpenterら Ann. Rev. Biochem. 56:881-914(1987)に開示されるようなEGFRを指し、その天然存在突然変異型(例えば、Humphreyら, (1990) PNAS(USA) 87:4207-4211におけるような欠失突然変異体EGFR)が含まれる。egfrは、EGFRタンパク質産物をコードする遺伝子を指す。
【0017】
[0021]用語「HER2」および「ErbB2」は本明細書において交換可能に用いられ、そして例えばSembaら, (1985) PNAS(USA) 82:6497-6501およびYamamotoら(1986) Nature 319:230-234に記載されるヒトHER2タンパク質(Genebank寄託番号X03363)を指す。用語「her2」はヒトHER2をコードする遺伝子を指し、そして「neu」はラットpl85neuをコードする遺伝子を指す。
【0018】
[0022]用語「HER4」および「ErbB4」は、本明細書において、例えば、EP特許出願第599,274号; Plowmanら, (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:1746-1750;およびPlowmanら, (1993) Nature, 366:473-475に開示されるような受容体ポリペプチドを指し、例えば1999年4月22日公開のWO99/19488に開示されるようなそのアイソフォームを含む。
【0019】
[0023]用語「HER3」または「HER3受容体」はまた「ErbB3」としても知られ、本明細書において、哺乳動物HER3タンパク質を指し、そして「her3」または「erbB3」は哺乳動物her3遺伝子を指す。好ましいHER3タンパク質は、細胞の細胞膜中に存在するヒトHER3タンパク質である。ヒトher3遺伝子は、米国特許第5,480,968号およびPlowmanら, (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:4905-4909に記載される。ヒトHER3は、寄託番号NP 001973(ヒト)に定義されるとおりであり、そして配列番号1として以下に示される。すべての命名は全長未成熟HER3(アミノ酸1~1342)に関するものである。未成熟HER3は、19位および20位の間で切断され、成熟HER3タンパク質(20~1342アミノ酸)を生じる。
【0020】
[0024]
【0021】
【化1】
【0022】
[0025]用語「HERリガンド」または「ErbBリガンド」は、本明細書において、HER受容体に結合し、そして活性化するポリペプチド、例えばHER1、HER2、HER3およびHER4を指す。HERリガンドの例には、限定されるわけではないが、ニューレグリン1(NRG)、ニューレグリン2、ニューレグリン3、ニューレグリン4、ベータセルリン、ヘパリン結合性上皮増殖因子、エピレグリン、上皮増殖因子、アンフィレグリン、およびトランスフォーミング増殖因子アルファが含まれる。該用語には、天然存在ポリペプチドの生物学的活性断片および/または変異体が含まれる。
【0023】
[0026]用語「HER3リガンド」は、本明細書において、HER3に結合し、そしてこれを活性化するポリペプチドを指す。HER3リガンドの例には、限定されるわけではないが、ニューレグリン1(NRG)およびニューレグリン2、ベータセルリン、ヘパリン結合性上皮増殖因子、およびエピレグリンが含まれる。該用語には、天然存在ポリペプチドの生物学的活性断片および/または変異体が含まれる。
【0024】
[0027]「HER-HERタンパク質複合体」は、任意の組み合わせでHER共受容体を含有する、非共有的に会合したオリゴマーである(例えばHER1-HER2、HER1-HER3、HER1-HER4、HER2-HER3、HER3-HER4等)。この複合体は、これらの受容体の両方を発現している細胞がHERリガンド、例えばNRGに曝露された際、あるいはHER受容体が活性であるかまたは過剰発現されている際に形成されうる。
【0025】
[0028]「HER2-HER3タンパク質複合体」は、HER2受容体およびHER3受容体を含有する、非共有的に会合したオリゴマーである。この複合体は、これらの受容体の両方を発現している細胞がHER3リガンド、例えばNRGに曝露された際、あるいはHER2が活性である/過剰発現されている際に形成されうる。句「HER3活性」または「HER3活性化」は、本明細書において、オリゴマー化の増加(例えばHER3含有複合体の増加)、HER3リン酸化、コンホメーション再編成(例えばリガンドによって誘導されるもの)、およびHER3仲介下流シグナル伝達を指す。
【0026】
[0029]用語「安定化」または「安定化された」は、HER3の背景において、HER3へのリガンド結合を遮断することなく、Her3の不活性状態またはコンホメーションを直接維持して(ロックし、係留し、保持し、優先的に結合し、好み)、リガンド結合がもはやHER3を活性化しえないようにする、抗体またはその断片を指す。アッセイ、例えばBiacoreアッセイを用いて、安定化されたHER3受容体へのリガンド結合を測定することも可能である。
【0027】
[0030]用語「リガンド依存性シグナル伝達」は、本明細書において、リガンドを通じた、ErbB(例えばHER3)の活性化を指す。HER3活性化は、オリゴマー化(例えばヘテロ二量体化)および/またはHER3リン酸化が増加して、下流シグナル伝達経路(例えばPI3K)が活性化されることによって証明される。抗体またはその断片は、実施例に記載するアッセイを用いて測定した際、未処理(対照)細胞に比較して、抗原結合タンパク質(例えば抗体)に曝露され、刺激された細胞において、リン酸化HER3の量を統計的に有意に減少させることも可能である。HER3を発現する細胞は、天然存在細胞株(例えばMCF7)であってもよいし、または宿主細胞内にHER3タンパク質をコードする核酸を導入することによって、組換え的に産生されてもよい。細胞刺激は、活性化HER3リガンドの外因性添加を通じて、または活性化リガンドの内因性発現によってのいずれかで起こることも可能である。「細胞において、ネレグリン(neregulin)誘導性HER3活性化を減少させる」抗体またはその断片は、未処理(対照)細胞に比較して、HER3チロシンリン酸化を統計的に有意に減少させるものである。これは、HER3をNRGおよび関心対象の抗体に曝露した後のHER3ホスホチロシンレベルに基づいて決定可能である。HER3タンパク質を発現する細胞は、天然存在細胞または細胞株(例えばMCF7)であってもよいし、あるいは組換え的に産生されてもよい。
【0028】
[0031]用語「リガンド非依存性シグナル伝達」は、本明細書において、リガンド結合の必要性を伴わない、細胞HER3活性(例えばリン酸化)を指す。例えば、リガンド非依存性HER3活性化は、HER2過剰発現、またはHER3ヘテロ二量体パートナー、例えばEGFRおよびHER2における活性化突然変異の結果であることも可能である。抗体またはその断片は、未処理(対照)細胞に比較して、抗原結合タンパク質(例えば抗体)に曝露された細胞において、リン酸化HER3の量を統計的に有意に減少させることも可能である。HER3を発現する細胞は、天然存在細胞株(例えばSK-Br-3)であることも可能であるし、または宿主細胞内に、HER3タンパク質をコードする核酸を導入することによって、組換え的に産生可能である。
【0029】
[0032]用語「遮断する」は、本明細書において,相互作用またはプロセスを停止するか
または防止する、例えばリガンド依存性またはリガンド非依存性シグナル伝達を停止することを指す。
【0030】
[0033]用語「認識する」は、本明細書において、コンホメーションエピトープを見つけ出し、そしてこれと相互作用する(例えば結合する)抗体またはその断片を指す。
[0034]句「同時結合する」は、本明細書において、ErbB抗体とともに、ErbB受容体上のリガンド結合部位に結合可能なErbBリガンドを指す。これは、抗体と抗体がどちらも一緒にHER受容体に結合可能であることを意味する。例示のみのため、HER3リガンドNRGは、HER3抗体と一緒にHER3受容体に結合可能である。
【0031】
[0035]用語「できない(fail)」は、本明細書において、特定の事象を行わない抗体またはその断片を指す。例えば、「シグナル伝達を活性化できない」抗体またはその断片は、シグナル伝達を誘発しないものであり;「コンホメーション変化を誘導できない」抗体またはその断片は、ErbB受容体の構造改変を引き起こさないものであり;ErbB受容体を不活性状態に安定化させて、ErbB受容体が「二量体化できない」抗体またはその断片は、タンパク質-タンパク質複合体を形成しないものである。
【0032】
[0036]用語「抗体」は、本明細書において、HER3エピトープと相互作用し(例えば結合、立体障害、安定化/脱安定化、空間分布によって)、そしてシグナル伝達を阻害する全抗体を指す。天然存在「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互連結される少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてVHと略称する)および重鎖定常領域で構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3で構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてVLと略称する)および軽鎖定常領域で構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLで構成される。VHおよびV領域は、さらに、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性領域に分けられうる。各VHおよびVLは、以下の順でアミノ末端からカルボキシ末端に配置される3つのCDRおよび4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の多様な細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的補体系の第一の構成要素(C1q)を含む、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を仲介しうる。用語「抗体」には、例えば、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、ラクダ化(camelised)抗体、キメラ抗体、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、Fab断片、F(ab’)断片、および抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば本発明の抗体に対する抗Id抗体を含む)、および上記いずれかのエピトープ結合性断片が含まれる。抗体は、任意のアイソタイプ(例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスのものであることも可能である。軽鎖および重鎖の両方が、構造および機能相同性の領域に分けられうる。用語「定常」および「可変」領域は、機能的に用いられる。これに関連して、軽鎖(VL)および重鎖(VH)部分両方の可変ドメインは、抗原認識および特異性を決定すると認識される。その逆に、軽鎖(CL)および重鎖(CH1、CH2またはCH3)の定常ドメインは、重要な生物学的特性、例えば分泌、経胎盤移動、Fc受容体結合、補体結合等を与える。慣例により、定常領域ドメインの番号は、抗体の抗原結合部位またはアミノ末端からより遠くなるにつれて増加する。N末端は可変領域であり、そしてC末端が定常領域である;CH3およびCLドメインは、実際に、それぞれ重鎖および軽鎖のカルボキシ末端を含む。
【0033】
[0037]句「抗体断片」は、本明細書において、HER3エピトープと相互作用し(例えば結合、立体障害、安定化/脱安定化、空間分布によって)、そしてシグナル伝達を阻害
する能力を保持する抗体の1またはそれより多い部分を指す。結合性断片の例には、限定されるわけではないが、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片、Fab断片;ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片、F(ab)断片;VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片;VHドメインからなるdAb断片(Wardら, (1989) Nature 341:544-546);および単離相補性決定領域(CDR)が含まれる。
【0034】
[0038]さらに、Fv断片の2つのドメイン、VLおよびVHは別個の遺伝子によってコードされているが、VLおよびVH領域が対形成して一価分子を形成する単一タンパク質鎖となることを可能にする合成リンカーによって、組換え法を用いて、これらを連結可能である(単一鎖Fv(scFv)として知られる;例えばBirdら, (1988) Science 242:423;およびHustonら, (1988) Proc.
Natl. Acad. Sci. 85:5879-5883を参照されたい)。こうした一本鎖抗体はまた、用語「抗体断片」内に含まれるよう意図される。これらの抗体断片は、当業者に知られる慣用的技術を用いて得られ、そして断片は、損なわれていない抗体と同じ方式で有用性に関してスクリーニングされる。抗体断片は、また、単一ドメイン抗体、マキシボディ、ミニボディ、イントラボディ、ディアボディ、トリアボディ、テトラボディ、v-NARおよびビス-scFv内に取り込まれることも可能である(例えばHollingerおよびHudson, (2005) Nature Biotechnology 23:1126-1136を参照されたい)。抗体断片を、例えばフィブロネクチンIII型(Fn3)などのポリペプチドに基づく足場内に移植することも可能である(フィブロネクチン・ポリペプチド・モノボディを記載する、米国特許第6,703,199号を参照されたい)。
【0035】
[0039]相補軽鎖ポリペプチドとともに、抗原結合領域の対を形成する1対のタンデムFvセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む単一鎖分子内に、抗体断片を取り込むことも可能である(Zapataら, (1995) Protein Eng. 8: 1057-1062;および米国特許第5,641,870号)。
【0036】
[0040]用語「エピトープ」には、免疫グロブリンに特異的に結合するか、または別の方式で分子と相互作用することが可能な、任意のタンパク質決定基が含まれる。エピトープ決定基は、一般的に、アミノ酸または炭水化物または糖側鎖などの分子の化学的活性表面基からなり、そして特定の三次元構造特性、ならびに特定の電荷特性を有することも可能である。エピトープは「直鎖」または「コンホメーション性」であることも可能である。
【0037】
[0041]用語「直鎖エピトープ」は、タンパク質および相互作用分子(例えば抗体)の間の相互作用のすべての点がタンパク質の一次アミノ酸配列に沿って直線で(連続して)存在するエピトープを指す。抗原上の望ましいエピトープが決定されたならば、そのエピトープに対する抗体を、例えば本発明記載の技術を用いて生成することが可能である。あるいは、発見プロセス中に、抗体の生成および特徴付けによって、望ましいエピトープに関する情報を解明することも可能である。この情報から、次いで、同じエピトープに対する結合に関して抗体を競合的にスクリーニングすることが可能である。これを達成するアプローチは、互いに競合的に結合する抗体、例えば抗原への結合に関して競合する抗体を発見する交差競合研究を実行することである。この交差競合に基づき、抗体を「ビニング」するためのハイスループットプロセスが、国際特許出願第WO 2003/48731号に記載される。当業者に認識されるであろうように、実質的に、抗体が特異的に結合可能ないかなるものもエピトープでありうる。エピトープは、抗体が結合する残基を含むことも可能である。
【0038】
[0042]用語「コンホメーションエピトープ」は、三次元コンホメーションで一緒になる、不連続のアミノ酸中のエピトープを指す。コンホメーションエピトープにおいて、相互作用点は、互いに分離したタンパク質上のアミノ酸残基に渡って存在する。1つの態様において、コンホメーションエピトープは、配列番号1の(i)HER3アミノ酸残基265~277および315(ドメイン2のもの)および(ii)HER3アミノ酸残基571、582~584、596~597、600~602、609~615(ドメイン4のもの)、またはそのサブセットによって定義される。当業者によって認識されるであろうように、分子の形状を生成する残基または側鎖によって占められる空間が、エピトープが何であるかを決定することを補助する。
【0039】
[0043]一般的に、特定のターゲット抗原に特異的な抗体は、タンパク質および/または巨大分子の複雑な混合物において、ターゲット抗原上のエピトープを優先的に認識するであろう。
【0040】
[0044]当該技術分野に周知の任意の数のエピトープマッピング技術を用いて、所定のポリペプチドのエピトープを含む領域を同定することも可能である。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66(Glenn E.Morris監修, 1996) Humana Press, ニュージャージー州トトワを参照されたい。例えば、タンパク質分子の部分に対応する多数のペプチドを固体支持体上で同時に合成し、そしてペプチドが支持体に付着したままで、抗体とペプチドを反応させることによって、直鎖エピトープを決定することも可能である。こうした技術は当該技術分野に知られ、そして例えば、米国特許第4,708,871号;Geysenら, (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 8:3998-4002;Geysenら, (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:78-182;Geysenら, (1986) Mol. Immunol. 23:709-715に記載される。同様に、コンホメーションエピトープは、例えば水素/重水素交換、X線結晶学および二次元核磁気共鳴によるなどで、アミノ酸の空間コンホメーションを決定することによって、容易に同定される。例えば、Epitope Mapping Protocols、上記を参照されたい。また、標準的抗原性およびヒドロパシープロット、例えばOxford Molecular Groupから入手可能なOmiga、バージョン1.0ソフトウェアプログラムを用いて計算されるものを用いて、タンパク質の抗原性領域を同定することも可能である。このコンピュータプログラムは、抗原性プロファイルを決定するため;Hopp/Woods法、Hoppら, (1981) Proc. Natl. Acad. Sci USA 78:3824-3828を使用し、そしてヒドロパシープロットのため;Kyte-Doolittle技術、Kyteら, (1982) J.MoI. Biol. 157: 105-132を使用する。
【0041】
[0045]用語「パラトープ」は、本明細書において、エピトープへの結合を決定する結合領域の一般的な構造を指す。この構造は、結合領域がエピトープに結合するかどうか、そしてどのような方式で結合するかに影響を及ぼす。パラトープは、抗体またはその断片が、抗原決定基に結合する原因である、抗体の抗原性部位を指すことも可能である。パラトープはまた、抗体のイディオトープ、およびエピトープに結合する相補性決定領域(CDR)も指す。1つの態様において、パラトープは、配列番号1の(i)HER3アミノ酸残基265~277および315(ドメイン2のもの)、および(ii)HER3アミノ酸残基571、582~584、596~597、600~602、609~615(ドメイン4のもの)、またはそのサブセットを含むコンホメーションエピトープに結合する抗体の領域である。1つの態様において、パラトープは、CDR配列を含む抗体の領域である。1つの態様において、パラトープは、HER3残基と結合する少なくとも1つのア
ミノ酸残基:Asn266、Lys267、Leu268、Thr269、Gln271、Glu273、Pro274、Asn275、Pro276、His277、Asn315、Asp571、Pro583、His584、Ala596、Lys597を含む。1つの態様において、パラトープは、HER3残基と結合する少なくとも1つのアミノ酸残基:Tyr265、Lys267、Leu268、Phe270、Gly582、Pro583、Lys597、Ile600、Lys602、Glu609、Arg611、Pro612、Cys613、His614、Glu615を含む。当業者に認識されるであろうように、任意の抗体のパラトープ、またはその変異体は、本出願に示す方式で決定可能である。
【0042】
[0046]句「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」は、本明細書において、アミノ酸配列に実質的に同一であるか、または同じ遺伝的供給源から得られる、抗体、抗体断片、二重特異性抗体等を含むポリペプチドを指す。この用語にはまた、単一分子組成の抗体分子の調製物も含まれる。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対して、単一の結合特異性およびアフィニティを示す。
【0043】
[0047]句「ヒト抗体」には、本明細書において、フレームワークおよびCDR領域の両方がヒト起源の配列に由来する可変領域を有する抗体が含まれる。さらに、抗体が定常領域を含有する場合、定常領域はまた、こうしたヒト配列、例えばヒト生殖系列配列、またはヒト生殖系列配列の突然変異型、またはヒトフレームワーク配列分析に由来するコンセンサスフレームワーク配列を含有する抗体、例えばKnappikら, (2000) J Mol Biol 296:57-86)に記載されるようなものに由来する。免疫グロブリン可変ドメイン、例えばCDRの構造および位置は、周知の番号付けスキーム、例えばKabat番号付けスキーム、Chothia番号付けスキーム、またはKabatおよびChothiaの組み合わせを用いて定義可能である(例えば、Sequences of Proteins of Immunological Interest, 米国保険福祉省(1991), Kabatら監修;Lazikaniら, (1997) J. Mol. Bio. 273:927-948);Kabatら, (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, NIH Publication no. 91-3242 米国保険福祉省;Chothiaら, (1987) J. Mol.
Biol. 196:901-917;Chothiaら, (1989) Nature 342:877-883;およびAl-Lazikaniら, (1997) J. Mol. Biol. 273:927-948を参照されたい)。本発明のヒト抗体には、ヒト配列にコードされないアミノ酸残基が含まれることも可能である(例えばin vitroのランダムもしくは部位特異的突然変異誘発によって、またはin vivoの体細胞突然変異によって導入される突然変異、あるいは安定性または製造を促進する保存的置換)。句「ヒトモノクローナル抗体」は、本明細書において、フレームワークおよびCDR領域の両方がヒト配列に由来する可変領域を有する、単一結合特異性を示す抗体を指す。1つの態様において、ヒトモノクローナル抗体は、不死化細胞に融合された、ヒト重鎖導入遺伝子および軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物、例えばトランスジェニックマウスから得られるB細胞を含むハイブリドーマによって産生される。
【0044】
[0048]句「組換えヒト抗体」には、本明細書において、組換え手段によって調製されるか、発現されるか、生成されるかまたは単離されたすべてのヒト抗体、例えばヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックまたはトランス染色体性である動物(例えばマウス)またはそれから調製されたハイブリドーマから単離された抗体、ヒト抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から、例えばトランスフェクトーマから単離された抗体、組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体、およびヒト免疫
グロブリン遺伝子配列のすべてのまたは一部を他のDNA配列にスプライシングすることを伴う任意の他の手段によって調製されるか、発現されるか、生成されるかまたは単離された抗体が含まれる。こうした組換えヒト抗体は、フレームワークおよびCDR領域がヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する。しかし、特定の態様において、こうした組換えヒト抗体をin vitro突然変異誘発(またはヒトIg配列に関する動物トランスジェニックを用いる場合、in vivo体細胞突然変異誘発)に供することも可能であり、そしてしたがって、組換え抗体のVおよびV領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VおよびV配列に由来し、そして関連する一方で、in vivoでヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然には存在しない可能性もある配列である。
【0045】
[0049]2つの実体の間の特異的結合は、少なくとも10-1、少なくとも5xl0-1、少なくとも10-1、少なくとも5xl0-1、少なくとも10-1、少なくとも5xl0-1、少なくとも10-1、少なくとも5xl0-1、少なくとも10-1、少なくとも5xl0-1、少なくとも10-1、少なくとも5xl0-1、少なくとも10-1、少なくとも5xl0-1、少なくとも10-1、少なくとも5xl0-1、少なくとも1010-1、少なくとも5xl010-1、少なくとも10-1、少なくとも5xl0-1、少なくとも1012-1、少なくとも5xl012-1、少なくとも1013-1、少なくとも5xl013-1、少なくとも1014-1、少なくとも5xl014-1、少なくとも1015-1、または少なくとも5xl015-1の平衡定数(KA)(kon/koff)での結合を意味する。句、抗体(例えばHER3結合抗体)に「特異的に(または選択的に)結合する」は、タンパク質の不均一集団および他の生物学的剤(biologics)において、同族(cognate)抗原(例えばヒトHER3)の存在の決定要因である結合反応を指す。上記の平衡定数(KA)に加えて、本発明のHER3結合抗体は、典型的にはまた、5x10-2M未満、10-2M未満、5x10-3M未満、10-3M未満、5x10-4M未満、10-4M未満、5x10-5M未満、10-5M未満、5x10-6M未満、10-6M未満、5x10-7M未満、10-7M未満、5x10-8M未満、10-8M未満、5x10-9M未満、10-9M未満、5x10-10M未満、10-10M未満、5x10-11M未満、10-11M未満、5x10-12M未満、10-12M未満、5x10-13M未満、10-13M未満、5x10-14M未満、10-14M未満、5x10-15M、あるいは10-15M未満またはそれより低い解離速度定数(KD)(k0ff/kon)も有し、そして非特異的抗原(例えばHSA)に対する結合に関するそのアフィニティよりも少なくとも2倍大きいアフィニティでHER3に結合する。
【0046】
[0050]1つの態様において、抗体またはその断片は、本明細書に記載するまたは当業者に知られる方法(例えば、BIAcoreアッセイ、ELISA、FACS、SET)(Biacore International AB、スウェーデン・ウプサラ)を用いて評価した際、3000pM未満、2500pM未満、2000pM未満、1500pM未満、1000pM未満、750pM未満、500pM未満、250pM未満、200pM未満、150pM未満、100pM未満、75pM未満、10pM未満、1pM未満の解離定数(Ka)を有する。用語「KaSS0C」または「K」は、本明細書において、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度を指し、一方、用語「Κue」または「K」は、本明細書において、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を指す。用語「KD」は、本明細書において、解離定数を指し、これはKj対Kの比(すなわちKj/K)から得られ、そしてモル濃度(M)として表される。抗体に関するKD値は、当該技術分野でよく確立された方法を用いて決定可能である。抗体のKDを決定するための方法は、表面プラズモン共鳴を用いるか、またはBiacore(登録商標)系などのバイオセンサー系を用いることによる。
【0047】
[0051]用語「アフィニティ」は、本明細書において、単一の抗原性部位での抗体および抗原の間の相互作用の強度を指す。各抗原性部位内で、抗体「アーム」の可変領域は、多数の部位で、抗原と、弱い非共有力を通じて相互作用し;相互作用が多ければ、アフィニティは強くなる。用語「アビディティ」は、本明細書において、抗体-抗原複合体の全体の安定性または強度の有益な測定値を指す。これは、3つの大きな要因:抗体エピトープアフィニティ;抗原および抗体両方の価数;ならびに相互作用部分の構造配置によって調節される。最終的には、これらの要因は、抗体の特異性、すなわち特定の抗体が正確な抗原エピトープに結合する尤度を定義する。
【0048】
[0052]用語「価数」は、本明細書において、ポリペプチド中の潜在的なターゲット結合部位の数を指す。各ターゲット結合部位は、1つのターゲット分子またはターゲット分子上の特異的部位(すなわちエピトープ)に特異的に結合する。ポリペプチドが1より多いターゲット結合部位を含む場合、各ターゲット結合部位は、同じまたは異なる分子に特異的に結合することも可能である(例えば異なる分子、例えば異なる抗原、または同じ分子上の異なるエピトープに結合することも可能である)。
【0049】
[0053]句「アンタゴニスト抗体」は、本明細書において、HER3と結合し、そしてHER3シグナル伝達の生物学的活性を中和する、例えばホスホ-HER3またはホスホ-Aktアッセイにおいて、HER3誘導性シグナル伝達活性を減少させ、減じ、そして/または阻害する抗体を指す。したがって、当該技術分野に知られ、そして本明細書に記載する方法論にしたがって決定されるような、これらのHER3機能特性(例えば生化学的、免疫化学的、細胞性、生理学的または他の生物学的活性等)の1またはそれより多くを「阻害する」抗体は、抗体の非存在下で(例えば、または無関係の特異性を持つ対照抗体が存在した際に)見られるものに比較して、特定の活性の統計的に有意な減少と関連すると理解されるであろう。HER3活性を阻害する抗体は、こうした統計的に有意な減少を、測定されるパラメータの少なくとも10%、少なくとも50%>、80%>、または90%>達成し、そして特定の態様において、本発明の抗体は、細胞HER3リン酸化のレベルの減少によって立証されるように、HER3機能活性の95%、98%または99%より多くを阻害可能である。
【0050】
[0054]句「単離抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指す(例えばHER3に特異的に結合する単離抗体は、HER3以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。HER3に特異的に結合する単離抗体は、しかし、他の抗原に対して交差反応性を有することも可能である。さらに、単離抗体は、他の細胞物質および/または化学薬品を実質的に含まないことも可能である。
【0051】
[0055]句「保存的に修飾された変異体」は、アミノ酸および核酸配列の両方に当てはまる。特定の核酸配列に関して,保存的に修飾された変異体は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸、あるいは核酸がアミノ酸配列をコードしない場合、本質的に同一の配列を指す。遺伝暗号の縮重のため、多数の機能的に同一の核酸が、任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは、すべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンによって特定されるすべての位で、コードされるポリペプチドを改変することなく、コドンを、記載した対応するコドンのいずれに改変することも可能である。こうした核酸変異は、「サイレント変異」であり、これは保存的修飾変異の一種である。本明細書において、ポリペプチドをコードするすべての核酸配列はまた、核酸のすべてのありうるサイレント変異も記載する。当業者は、核酸中の各コドン(通常、メチオニンに対する唯一のコドンであるAUG、および通常、トリプトファンに対する唯一のコドンであるTGGを除く)を修飾して、機能的に同一の分子を生じることが可能であることを認識するであろう。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載する各配列に潜在している。
【0052】
[0056]ポリペプチド配列に関して、「保存的に修飾された変異体」には、アミノ酸の化学的に類似のアミノ酸での置換を生じるポリペプチド配列への個々の置換、欠失または付加が含まれる。機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換表が当該技術分野に周知である。こうした保存的修飾変異体は、付加的であり、そして多型変異体、種間相同体、および本発明の対立遺伝子を排除しない。以下の8つの群は、互いに保存的置換性であるアミノ酸を含有する:1)アラニン(A)、グリシン(G);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);7)セリン(S)、スレオニン(T);および8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Protein(1984)を参照されたい)。いくつかの態様において、用語「保存的配列修飾」は、該アミノ酸配列を含有する抗体の結合特性に有意に影響を及ぼさないかまたは改変しないアミノ酸修飾を指すよう用いられる。
【0053】
[0057]用語「交差競合する」および「交差競合性」は、本明細書において交換可能に用いられ、標準的競合結合アッセイにおいて、HER3への他の抗体または結合剤の結合と干渉する、抗体または他の結合剤の能力を意味する。
【0054】
[0058]抗体または他の結合剤がHER3への別の抗体または結合分子の結合と干渉することが可能な能力または度合い、そしてしたがって本発明にしたがって交差競合すると言えるかどうかは、標準的競合結合アッセイを用いて決定可能である。1つの適切なアッセイは、Biacore技術(例えばBIAcore 3000装置(Biacore、スウェーデン・ウプサラ)を用いることによって)の使用を伴い、これは表面プラズモン共鳴技術を用いて、相互作用の度合いを測定可能である。交差競合を測定するための別のアッセイは、ELISAに基づくアプローチを用いる。
【0055】
[0059]用語「最適化」は、本明細書において、産生細胞または生物、一般的には真核細胞、例えばピキア属(Pichia)の細胞、トリコデルマ属(Trichoderma)の細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)またはヒト細胞において好ましいコドンを用いてアミノ酸配列をコードするように、ヌクレオチド配列が改変されていることを指す。最適化ヌクレオチド配列は、「親」配列としても知られる出発ヌクレオチド配列によって元来コードされたアミノ酸配列を、完全にまたは可能な限り多く保持するように操作される。
【0056】
[0060]多様な種のHER3に対する抗体の結合能を評価する標準アッセイが当該技術分野に知られ、これには例えばELISA、ウェスタンブロットおよびRIAが含まれる。適切なアッセイを、実施例に詳細に記載する。抗体の結合動力学(例えば結合アフィニティ)はまた、当該技術分野に知られる標準アッセイによって、例えばBiacore分析、またはFACS相対アフィニティ(スキャッチャード)によっても評価可能である。当該技術分野で知られるHER3の機能特性に対する抗体の影響を評価するアッセイ(例えばHer経路を調節する、受容体結合アッセイ)を用いることも可能である。
【0057】
[0061]句「パーセント同一」または「パーセント同一性」は、2またはそれより多い核酸またはポリペプチド配列の背景において、同じである2またはそれより多い配列または下位配列を指す。2つの配列は、以下の配列比較アルゴリズムの1つを用いて測定されるように、比較ウィンドウまたは示される領域に渡って最大に対応するように比較し、そして整列させた場合、あるいは手動整列および視覚的検査によって、同じであるアミノ酸残基またはヌクレオチドの明記される割合(すなわち明記される領域に渡って、または明記されない場合、全配列に渡って、60%同一性、場合によって65%、70%、75%、
80%、85%、90%、95%または99%同一性)を有する場合、「実質的に同一」である。場合によって、同一性は、少なくとも長さ約50ヌクレオチド(または10アミノ酸)である領域に渡って、あるいはより好ましくは、長さ100~500または1000またはそれより多いヌクレオチド(あるいは20、50、200またはそれより多いアミノ酸)である領域に渡って存在する。
【0058】
[0062]配列比較のため、典型的には、1つの配列が参照配列として働き、これに対して試験配列を比較する。配列比較アルゴリズムを用いる場合、試験および参照配列をコンピュータに入力し、必要であれば下位配列座標を指定し、そして配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。デフォルトプログラムパラメータを用いてもよいし、または別のパラメータを設定してもよい。次いで、配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメータに基づいて、参照配列に比較して、試験配列に関してパーセント配列同一性を計算する。
【0059】
[0063]「比較ウィンドウ」には、本明細書において、20~600、通常約50~約200、より一般的には約100~約150からなる群より選択される連続位の数のいずれか1つのセグメントに対する参照が含まれ、このウィンドウにおいて、2つの配列を最適に整列させた後、連続位の同じ数の参照配列に、配列を比較することも可能である。比較のための配列整列法は当該技術分野に周知である。比較のための配列の最適整列を、例えばSmithおよびWaterman, (1970) Adv. Appl. Math. 2:482cの局所相同性アルゴリズムによって、NeedlemanおよびWunsch, (1970) J. Mol. Biol. 48:443の相同性整列アルゴリズムによって、PearsonおよびLipman, (1988) Proc.
Nat’l. Acad. Sci. USA 85:2444の類似性検索法によって、これらのアルゴリズムのコンピュータ化実装によって(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WIのGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)、または手動整列および視覚的検査によって(例えば、Brentら, (2003) Current Protocols in Molecular Biologyを参照されたい)、実行可能である。
【0060】
[0064]配列同一性および配列類似性パーセントを決定するために適したアルゴリズムの2例は、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらは、Altschulら, (1977) Nuc. Acids Res. 25:3389-3402;およびAltschulら, (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410にそれぞれ記載される。BLAST分析を実行するためのソフトウェアは、米国バイオテクノロジー情報センターを通じて公的に入手可能である。このアルゴリズムは、まず、データベース配列において、同じ長さのワードと整列させた際、何らかの陽性の値の閾値スコアTとマッチするかまたはこれを満たすかいずれかの、クエリー配列中の長さWの短いワードを同定することによって、高スコアリング配列対(HSP)を同定することを伴う。Tは、隣接ワードスコア閾値と称される(Altschulら、上記)。これらの最初の隣接ワードヒットは、これらを含有するより長いHSPを発見するための検索を開始するシードとして作用する。ワードヒットを各配列に沿って、両方向に、累積整列スコアが増加しうる限り、延長する。ヌクレオチド配列に関して、パラメーターM(マッチする残基対に関する報酬スコア;常に>0)およびN(ミスマッチする残基に関するペナルティスコア;常に<0)を用いて、累積スコアを計算する。アミノ酸配列に関しては、スコアリングマトリックスを用いて、累積スコアを計算する。各方向へのワード延長を:累積整列スコアが最大達成値から量X低下した際;累積スコアが、1またはそれより多い負のスコアの残基整列の集積によってゼロまたはそれ未満に低下した際;ま
たはどちらかの配列端に到達した際に停止する。BLASTアルゴリズムパラメータ、W、T、およびXは、整列の感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は、11のワード長(W)、10の期待値(E)、M=5、N=-4および両鎖の比較をデフォルトとして用いる。アミノ酸配列に関しては、BLASTPプログラムは、3のワード長、および10の期待値(E)、および50のBLOSUM62スコアリングマトリックス(HenikoffおよびHenikoff, (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915を参照されたい)整列(B)、10の期待値(E)、M=5、N=-4、および両鎖の比較をデフォルトとして用いる。
【0061】
[0065]BLASTアルゴリズムはまた、2つの配列間の類似性の統計分析も実行する(例えばKarlinおよびAltschul, (1993) Proc. Natl.
Acad. Sci. USA 90:5873-5787を参照されたい)。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの測定値は、最小合計確率(smallest sum probability)(P(N))であり、これは2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間のマッチが、偶然起こる確率の指標を提供する。例えば、試験核酸を参照核酸に比較する際の最小合計確率が約0.2未満、より好ましくは約0.01未満、そして最も好ましくは約0.001未満である場合、核酸は、参照配列に類似であると見なされる。
【0062】
[0066]2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に取り込まれているE. MeyersおよびW. Miller, (1988) Comput. Appl. Biosci. 4: 11-17のアルゴリズムを用い、PAM120加重表、12のギャップ長ペナルティおよび4のギャップペナルティを用いてもまた決定可能である。さらに、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、GCGソフトウェアパッケージ(www.gcg.comで入手可能)中、GAPプログラムに取り込まれているNeedlemanおよびWunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:444-453)アルゴリズムを用い、Blossom 62 matrixまたは
[0067]PAM250マトリックスのいずれか、および16、14、12、10、8、6、または4のギャップ加重および1、2、3、4、5、または6の長さ加重を用いて、決定可能である。上記の配列同一性パーセント以外に、2つの核酸配列またはポリペプチドが実質的に同一であることの別の指標は、第一の核酸にコードされるポリペプチドが、以下に記載するように、第二の核酸にコードされるポリペプチドに対して作製された抗体と免疫学的に交差反応性であることである。したがって、例えば2つのペプチドが保存置換でのみ異なる場合、ポリペプチドは、典型的には、第二のポリペプチドに実質的に同一である。2つの核酸配列が実質的に同一であることの別の指標は、以下に記載するように、ストリンジェントな条件下で、2つの分子またはその相補体が互いにハイブリダイズすることである。2つの核酸配列が実質的に同一であることのさらに別の指標は、同じプライマーを用いて、配列を増幅可能であることである。
【0063】
[0068]句「核酸」は、本明細書において、用語「ポリヌクレオチド」と交換可能に用いられ、そして一本鎖または二本鎖いずれかの型の、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、およびそのポリマーを指す。該用語は、合成、天然存在、および非天然存在であり、参照核酸と類似の結合特性を有し、そして参照ヌクレオチドと類似の方式で代謝される、既知のヌクレオチド類似体または修飾主鎖残基または連結を含有するヌクレオチドを含む。こうした類似体の例には、限定なしに、ホスホロチオエート、ホスホラミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)が含まれる。
【0064】
[0069]別に示さない限り、特定の核酸配列はまた、その保存的修飾変異体(例えば縮重コドン置換)および相補配列、ならびに明確に示される配列を含む。特に、以下に詳述するように、縮重コドン置換は、1またはそれより多い選択される(またはすべての)コドンの第三の位が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を生成することによって達成可能である(Batzerら, (1991) Nucleic Acid Res. 19:5081;Ohtsukaら, (1985) J. Biol. Chem. 260:2605-2608;およびRossoliniら, (1994) Mol. Cell. Probes 8:91-98)。
【0065】
[0070]句「機能可能であるように連結された」は、2またはそれより多いポリヌクレオチド(例えばDNA)セグメント間の機能的関連を指す。典型的には、転写される配列に対する転写制御配列の機能的関係を指す。例えば、プロモーターまたはエンハンサー配列は、適切な宿主細胞または他の発現系において、コード配列の転写を刺激するかまたは調節する場合、コード配列に機能可能であるように連結されている。一般的に、転写される配列に機能可能であるように連結されたプロモーター転写制御配列は、転写される配列と物理的に近接しており、すなわちこれらはシス作用性である。しかし、いくつかの転写制御配列、例えばエンハンサーは、転写を増進するコード配列に物理的に近接していなくとも、ごく近傍に位置しなくてもよい。
【0066】
[0071]用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、本明細書において、交換可能に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。該用語は、1またはそれより多いアミノ酸残基が、対応する天然存在アミノ酸の人工的化学的模倣であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然存在アミノ酸ポリマーおよび非天然存在アミノ酸ポリマーを指す。別に示されない限り、特定のポリペプチド配列はまた、その保存的修飾変異体も明確に含む。
【0067】
[0072]句「シグナル伝達」または「シグナル伝達活性」は、本明細書において、タンパク質-タンパク質相互作用によって一般的に開始される生化学的原因関係、例えば増殖因子が受容体に結合して細胞の1つの部分から細胞の別の部分へのシグナルの伝達を生じる関係を指す。HER3に関しては、伝達は、1またはそれより多いタンパク質上の1またはそれより多いチロシン、セリンまたはスレオニン残基の特異的リン酸化を伴う。最後から二番目のプロセスは、典型的には核事象を含み、遺伝子発現変化を生じる。
【0068】
[0073]用語「被験体」には、ヒトおよび非ヒト動物が含まれる。非ヒト動物には、すべての脊椎動物、例えば哺乳動物および非哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、および爬虫類が含まれる。明記する場合を除き、用語「患者」または「被験体」は、本明細書において、交換可能に用いられる。
【0069】
[0074]用語「抗癌剤」は、癌などの細胞増殖性障害を治療するために使用可能な任意の剤を意味し、細胞傷害性剤、化学療法剤、放射療法および放射療法剤、ターゲティング化抗癌剤、および免疫療法剤が含まれる。「腫瘍」は、悪性または良性いずれか、ならびにすべての前癌性および癌性細胞および組織の、新生物細胞成長および増殖を指す。
【0070】
[0075]用語「抗腫瘍活性」は、腫瘍細胞増殖速度、生存率、または転移活性の減少を意味する。抗腫瘍活性を示すありうる方法は、療法中に生じる異常な細胞の増殖速度の減少、あるいは腫瘍サイズ安定性または減少を示す。限定されるわけではないが、異種移植片モデル、同種移植片モデル、MMTVモデル、および抗腫瘍活性を調べる当該技術分野に知られる他の既知のモデルを含む、認められるin vitroまたはin vivo腫瘍モデルを用いて、こうした活性を評価することも可能である。
【0071】
[0076]用語「悪性腫瘍」は、非良性腫瘍または癌を指す。本明細書において、用語「癌
」には、制御解除されたまたは制御されない細胞増殖によって特徴付けられる悪性腫瘍が含まれる。用語「癌」には、原発性悪性腫瘍(例えばその細胞が、元来の腫瘍部位以外の被験体体内の部位に遊走していないもの)および続発性悪性腫瘍(例えば転移、元来の腫瘍の部位とは異なる続発性部位への腫瘍細胞の遊走から生じるもの)が含まれる。
【0072】
[0077]「治療すること」、「治療する」、または「治療」は、本発明の背景内で、障害または疾患に関連する症状の軽減、あるいはこれらの症状のさらなる進行または悪化の停止、あるいは疾患または障害の防止または予防を意味する。例えば、本発明の背景内で、治療成功には、低悪性度漿液性卵巣癌に関連する症状の軽減、あるいは低悪性度漿液性卵巣癌などの疾患の進行の停止が含まれることも可能である。
【0073】
[0078]本発明の背景内で「低悪性度漿液性卵巣腫瘍」は、いくつかの基準に基づいて特徴付けられ、例えば、低悪性度漿液性腫瘍は、染色体不安定性が低いかまたはなく、典型的には突然変異KRAS、BRAFおよびHER2遺伝子を有し、緩慢な腫瘍発展を示し、典型的には均一で小さくそして丸い細胞核を有し、そして一般的に低い有糸分裂指数を有する。
【0074】
[0079]HER3抗体
[0080]いくつかの態様において、本発明の方法は、HER3に特異的に結合する抗体またはその断片を、低悪性度漿液性卵巣癌の治療のために投与することに関する。いくつかの態様において、抗体またはその断片は、リガンド依存性およびリガンド非依存性シグナル伝達の両方を遮断する。別の態様において、抗体はHER3に結合し、そしてリガンド結合部位へのErbBリガンド結合を遮断しない(すなわちリガンドおよび抗体の両方がHER3に同時に結合可能である)。本発明にしたがった抗体またはその断片は、HER3のドメイン2およびドメイン4内のアミノ酸残基を含むコンホメーションエピトープに結合する。他の態様において、抗体またはその断片は、HER3のドメイン2内のアミノ酸残基208~328を含むエピトープに結合する。さらに他の態様において、抗体またはその断片は、HER3のドメイン3内のアミノ酸残基を含むHER3の非直鎖エピトープを認識し、そして結合表面Bより選択される少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する。
【0075】
[0081]HER3抗体の特定の例が当該技術分野に知られる。1つの態様において、抗体またはその断片のVHは、以下のHER3残基の少なくとも1つに結合する:Asn266、Lys267、Leu268、Thr269、Gln271、Glu273、Pro274、Asn275、Pro276、His277、Asn315、Asp571、Pro583、His584、Ala596、Lys597。別の態様において、抗体またはその断片のVLは、以下のHER3残基の少なくとも1つに結合する:Tyr265、Lys267、Leu268、Phe270、Gly582、Pro583、Lys597、Ile600、Lys602、Glu609、Arg611、Pro612、Cys613、His614、Glu615。
【0076】
[0082]いくつかの態様において、抗体またはその断片は、配列番号1の(i)HER3アミノ酸残基265~277および315(ドメイン2のもの)ならびに(ii)HER3アミノ酸残基571、582~584、596~597、600~602、609~615(ドメイン4のもの)、またはそのサブセットを含むコンホメーションエピトープを有するヒトHER3タンパク質に結合する。いくつかの態様において、抗体またはその断片は、配列番号1のアミノ酸残基265~277および315(ドメイン2のもの)ならびに(ii)HER3アミノ酸残基571、582~584、596~597、600~602、609~615(ドメイン4のもの)内のまたはこれらに重複するアミノ酸に結合する。いくつかの態様において、抗体またはその断片は、配列番号1のアミノ酸265
~277および315(ドメイン2のもの)ならびに(ii)HER3アミノ酸残基571、582~584、596~597、600~602、609~615(ドメイン4のもの)、またはそのサブセット内のアミノ酸(および/またはこれらからなるアミノ酸配列)に結合する。いくつかの態様において、抗体またはその断片は、ドメイン2およびドメイン4の移動度を制限し、これを不活性または閉鎖されたコンホメーションで安定化するように、コンホメーションエピトープに結合する。活性コンホメーションが形成できないと、その結果、シグナル伝達を活性化できない。いくつかの態様において、抗体またはその断片は、ドメイン2内の二量体化ループを妨害し、それによってこれが受容体-受容体相互作用に利用不能になるように、コンホメーションエピトープに結合する。ホモまたはヘテロ二量体が形成できないと、その結果、シグナル伝達が活性化できない。本発明は、HER3のコンホメーションエピトープを認識するHER3抗体を利用して、これらがリガンド依存性にそしてリガンド非依存性にHER3シグナル伝達経路を遮断するようにすることも可能である。こうした抗体クラスを表1に開示する。
【0077】
[0083]単離抗体またはその断片は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、および合成抗体であることも可能である。
[0084]別の例において、単離抗体またはその断片は、表1に記載するような抗体と同じコンホメーションエピトープに結合することも可能である。
【0078】
[0085]表1:本発明の方法において有用なHER3抗体の例
【0079】
【表1-1】
【0080】
【表1-2】
【0081】
【表1-3】
【0082】
【表1-4】
【0083】
【表1-5】
【0084】
【表1-6】
【0085】
【表1-7】
【0086】
【表1-8】
【0087】
【表1-9】
【0088】
【表1-10】
【0089】
【表1-11】
【0090】
【表1-12】
【0091】
【表1-13】
【0092】
【表1-14】
【0093】
【表1-15】
【0094】
【表1-16】
【0095】
【表1-17】
【0096】
【表1-18】
【0097】
【表1-19】
【0098】
【表1-20】
【0099】
【表1-21】
【0100】
【表1-22】
【0101】
【表1-23】
【0102】
【表1-24】
【0103】
【表1-25】
【0104】
【表1-26】
【0105】
【表1-27】
【0106】
【表1-28】
【0107】
【表1-29】
【0108】
【表1-30】
【0109】
【表1-31】
【0110】
【表1-32】
【0111】
[0086]本発明は、HER3タンパク質(例えばヒトおよび/またはカニクイザル(cynomologus)HER3)に特異的に結合する抗体を提供し、前記抗体は、配列番号15、33、51、69、87、105、123、141、159、177、195、213、231、249、267、285、303、321、339、357、および375のアミノ酸配列を有するVHドメインを含む。本発明は、HER3タンパク質(例えばヒトおよび/またはカニクイザルHER3)に特異的に結合する抗体を提供し、前記抗体は、配列番号14、32、50、68、86、104、122、140、158、176、194、212、230、248、266、284、302、320、338、356、および374のアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。本発明は、HER3タンパク質(例えばヒトおよび/またはカニクイザルHER3)に特異的に結合する抗体もまた提供し、前記抗体は、以下の表1に列挙するVH CDRの任意の1つのアミノ酸配列を有するVH CDRを含む。特に、本発明は、HER3タンパク質(例えばヒトおよび/またはカニクイザルHER3)に特異的に結合する抗体を提供し、前記抗体は、以下の表1に列挙する任意のVH CDRのアミノ酸配列を有する1、2、3、4、5またはそれより多いVH CDRを含む(かまたはこれらからなる)。
【0112】
[0087]本発明の他の抗体には、突然変異しているが、なお、表1に記載する配列に示すCDR領域と、CDR領域において、少なくとも60、70、80、90、95、または98パーセントの同一性を有するアミノ酸が含まれる。いくつかの態様において、これには、表1に記載する配列に示すCDR領域と比較した際、CDR領域において、1、2、
3、4または5アミノ酸以下が突然変異する一方、なお、元来の抗体エピトープに対する特異性を維持している、突然変異体アミノ酸配列が含まれる。
【0113】
[0088]本発明の他の抗体には、突然変異しているが、なお、表1に記載する配列に示すフレームワーク領域と、フレームワーク領域において、少なくとも60、70、80、90、95、または98パーセントの同一性を有するアミノ酸が含まれる。いくつかの態様において、これには、表1に記載する配列に示すフレームワーク領域と比較した際、フレームワーク領域において、1、2、3、4、5、6、または7アミノ酸以下が突然変異する一方、なお、元来の抗体エピトープに対する特異性を維持している、突然変異体アミノ酸配列が含まれる。本発明はまた、HER3タンパク質(例えばヒトおよび/またはカニクイザルHER3)に特異的に結合する抗体のVH、VL、全長重鎖、および全長軽鎖をコードする核酸配列も提供する。
【0114】
[0089]本発明の方法において有用な本発明のHER3抗体は、HER3のドメイン2およびドメイン4由来のアミノ酸残基を含むHER3のコンホメーションエピトープに結合可能である。
【0115】
[0090]別の側面において、本発明は、表1に記載するような重鎖および軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3、またはその組み合わせを含むHER3結合抗体を提供する。抗体のVH CDR1のアミノ酸配列を、配列番号2、8、20、26、38、44、56、62、74、80、92、98、110、116、128、134、146、152、164、170、182、188、200、206、218、224、236、242、254、260、272、278、290、296、308、314、326、332、344、350、362、および368に示す。抗体のVH CDR2のアミノ酸配列を、配列番号3、9、21、27、39、45、57、63、75、81、93、99、111、117、129、135、147、153、165、171、183、189、201、207、219、225、237、243、255、261、273、279、291、297、309、315、327、333、345、351、363、および369に示す。抗体のVH CDR3のアミノ酸配列を、配列番号4、10、22、28、40、46、58、64、76、82、94、100、112、118、130、136、148、154、166、172、184、190、202、208、220、226、238、244、256、262、274、280、292、298、310、316、328、334、346、352、364、および370に示す。抗体のVL CDR1のアミノ酸配列を、配列番号5、11、23、29、41、47、59、65、77、83、95、101、113、119、131、137、149、155、167、173、185、191、203、209、221、227、239、245、257、263、275、281、293、299、311、317、329、335、347、353、365、および371に示す。抗体のVL CDR2のアミノ酸配列を、配列番号6、12、24、30、42、48、60、66、78、84、96、102、114、120、132、138、150、156、168、174、186、192、204、210、222、228、240、246、258、264、276、282、294、300、312、318、330、336、348、354、366、および372に示す。抗体のVL CDR3のアミノ酸配列を、配列番号7、13、25、31、43、49、61、67、79、85、97、103、115、121、133、139、151、157、169、175、187、193、205、211、223、229、241、247、259、265、277、283、295、301、313、319、331、337、349、355、367、および373に示す。CDR領域は、Kabatシステムを用いて記述される(Kabatら, (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, 米国保険福祉省, NIH Publication No. 91-3242;Cho
thiaら, (1987) J. Mol. Biol. 196:901-917;Chothiaら, (1989) Nature 342: 877-883;およびAl-Lazikaniら, (1997) J. Mol. Biol. 273, 927-948)。
【0116】
[0091]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号2の重鎖可変領域CDR1;配列番号3のCDR2;配列番号4のCDR3;配列番号5の軽鎖可変領域CDR1;配列番号6のCDR2;および配列番号7のCDR3を含む。
【0117】
[0092]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号20の重鎖可変領域CDR1;配列番号21のCDR2;配列番号22のCDR3;配列番号23の軽鎖可変領域CDR1;配列番号24のCDR2;および配列番号25のCDR3を含む。
【0118】
[0093]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号38の重鎖可変領域CDR1;配列番号39のCDR2;配列番号40のCDR3;配列番号41の軽鎖可変領域CDR1;配列番号42のCDR2;および配列番号43のCDR3を含む。
【0119】
[0094]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号56の重鎖可変領域CDR1;配列番号57のCDR2;配列番号58のCDR3;配列番号59の軽鎖可変領域CDR1;配列番号60のCDR2;および配列番号61のCDR3を含む。
【0120】
[0095]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号74の重鎖可変領域CDR1;配列番号75のCDR2;配列番号76のCDR3;配列番号77の軽鎖可変領域CDR1;配列番号78のCDR2;および配列番号79のCDR3を含む。
【0121】
[0096]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号92の重鎖可変領域CDR1;配列番号93のCDR2;配列番号94のCDR3;配列番号95の軽鎖可変領域CDR1;配列番号96のCDR2;および配列番号97のCDR3を含む。
【0122】
[0097]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号110の重鎖可変領域CDR1;配列番号111のCDR2;配列番号112のCDR3;配列番号113の軽鎖可変領域CDR1;配列番号114のCDR2;および配列番号115のCDR3を含む。
【0123】
[0098]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号128の重鎖可変領域CDR1;配列番号129のCDR2;配列番号130のCDR3;配列番号131の軽鎖可変領域CDR1;配列番号132のCDR2;および配列番号133のCDR3を含む。
【0124】
[0099]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号146の重鎖可変領域CDR1;配列番号147のCDR2;配列番号148のCDR3;配列番号149の軽鎖可変領域CDR1;配列番号150のCDR2;および配列番号151のCDR3を含む。
【0125】
[00100]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号164の重鎖可変
領域CDR1;配列番号165のCDR2;配列番号166のCDR3;配列番号167の軽鎖可変領域CDR1;配列番号168のCDR2;および配列番号169のCDR3を含む。
【0126】
[00101]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号182の重鎖可変
領域CDR1;配列番号183のCDR2;配列番号184のCDR3;配列番号185の軽鎖可変領域CDR1;配列番号186のCDR2;および配列番号187のCDR3を含む。
【0127】
[00102]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号200の重鎖可変
領域CDR1;配列番号201のCDR2;配列番号202のCDR3;配列番号203の軽鎖可変領域CDR1;配列番号204のCDR2;および配列番号205のCDR3を含む。
【0128】
[00103]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号218の重鎖可変
領域CDR1;配列番号219のCDR2;配列番号220のCDR3;配列番号221の軽鎖可変領域CDR1;配列番号222のCDR2;および配列番号223のCDR3を含む。
【0129】
[00104]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号236の重鎖可変
領域CDR1;配列番号237のCDR2;配列番号238のCDR3;配列番号239の軽鎖可変領域CDR1;配列番号240のCDR2;および配列番号241のCDR3を含む。
【0130】
[00105]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号254の重鎖可変
領域CDR1;配列番号255のCDR2;配列番号256のCDR3;配列番号257の軽鎖可変領域CDR1;配列番号258のCDR2;および配列番号259のCDR3を含む。
【0131】
[00106]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号272の重鎖可変
領域CDR1;配列番号273のCDR2;配列番号274のCDR3;配列番号275の軽鎖可変領域CDR1;配列番号276のCDR2;および配列番号277のCDR3を含む。
【0132】
[00107]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号290の重鎖可変
領域CDR1;配列番号291のCDR2;配列番号292のCDR3;配列番号293の軽鎖可変領域CDR1;配列番号294のCDR2;および配列番号295のCDR3を含む。
【0133】
[00108]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号308の重鎖可変
領域CDR1;配列番号309のCDR2;配列番号310のCDR3;配列番号311の軽鎖可変領域CDR1;配列番号312のCDR2;および配列番号313のCDR3を含む。
【0134】
[00109]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号326の重鎖可変
領域CDR1;配列番号327のCDR2;配列番号328のCDR3;配列番号329の軽鎖可変領域CDR1;配列番号330のCDR2;および配列番号331のCDR3を含む。
【0135】
[00110]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号344の重鎖可変
領域CDR1;配列番号345のCDR2;配列番号346のCDR3;配列番号347の軽鎖可変領域CDR1;配列番号348のCDR2;および配列番号349のCDR3を含む。
【0136】
[00111]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号362の重鎖可変
領域CDR1;配列番号363のCDR2;配列番号364のCDR3;配列番号365の軽鎖可変領域CDR1;配列番号366のCDR2;および配列番号367のCDR3を含む。
【0137】
[00112]特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号15のVHおよび
配列番号14のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号33のVHおよび配列番号32のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号51のVHおよび配列番号50のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号69および配列番号68のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号87のVHおよび配列番号86のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号105のVHおよび配列番号104のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号123のVHおよび配列番号122のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号141のVHおよび配列番号140のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号159のVHおよび配列番号158のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号177のVHおよび配列番号176のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号195のVHおよび配列番号194のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号213のVHおよび配列番号212のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号231のVHおよび配列番号230のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号249のVHおよび配列番号248のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号267のVHおよび配列番号266のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号285のVHおよび配列番号284のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号303のVHおよび配列番号302のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号321のVHおよび配列番号320のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号339のVHおよび配列番号338のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号357のVHおよび配列番号356のVLを含む。特定の態様において、HER3に結合する抗体は、配列番号375のVHおよび配列番号374のVLを含む。
【0138】
[00113]本明細書に開示する抗体は、一本鎖抗体、ディアボディ、ドメイン抗体、ナノ
ボディ、およびユニボディの誘導体であることも可能である。さらに別の態様において、本発明は、表1に記載する配列に相同であるアミノ酸配列を含む抗体またはその断片を提供し、そして前記抗体は、HER3タンパク質(例えばヒトおよび/またはカニクイザルHER3)に結合し、そして表1に記載する抗体の望ましい機能特性を保持する。
【0139】
[00114]例えば、本発明は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む単離モノクローナ
ル抗体(またはその機能的断片)であって、重鎖可変領域が、配列番号15、33、51、69、87、105、123、141、159、177、195、213、231、249、267、285、303、321、339、357、および375からなる群より選択されるアミノ酸配列に、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含み;軽鎖可変領域が、配列番号14、32、50、68、86、104、122、140、158、176、194、212、230、248、266、284、302、320、338、356、および374からなる群より選択されるアミノ酸配列に、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含み;抗体はHER3(例えばヒトおよび/またはカニクイザルHER3)に結合し、そしてリン酸化アッセイまたはHERシグナル伝達の他の測定値(例えばホスホ-HER3アッセイ、ホスホ-Aktアッセイ、細胞増殖、およびWO20
12022814に記載されるようなリガンド遮断アッセイ)で測定可能な、HER3のシグナル伝達活性を中和する。やはり本発明の範囲内に含まれるのは、可変重鎖および軽鎖親ヌクレオチド配列;ならびに哺乳動物細胞における発現のために最適化された全長重鎖および軽鎖配列である。本発明の他の抗体には、突然変異しているが、なお、上記配列に、少なくとも60、70、80、90、95、または98%同一性を有するアミノ酸または核酸が含まれる。いくつかの態様において、これには、上記配列に示す可変領域と比較した際、可変領域において、アミノ酸欠失、挿入または置換により、1、2、3、4または5以下のアミノ酸が突然変異している突然変異体アミノ酸配列が含まれる。
【0140】
[00115]他の態様において、VHおよび/またはVLアミノ酸配列は、表1に示す配列
に、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であることも可能である。他の態様において、VHおよび/またはVLアミノ酸配列は、1、2、3、4または5アミノ酸位以下でのアミノ酸置換を除いて、同一であることも可能である。表1に記載する抗体のVHおよびVL領域に対して、高い(すなわち80%またはそれより高い)同一性を有する、VHおよびVL領域を有する抗体は、突然変異誘発(例えば部位特異的またはPCR仲介性突然変異誘発)し、その後、本明細書に記載する機能アッセイを用いて、保持される機能に関して、コードされる改変抗体を試験することによって、得られうる。
【0141】
[00116]他の態様において、重鎖および/または軽鎖ヌクレオチド配列の可変領域は、
上記配列に、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であることも可能である。
【0142】
[00117]特定の態様において、本発明の抗体は、CDR1、CDR2、およびCDR3
配列を含む重鎖可変領域、ならびにCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む軽鎖可変領域を有し、ここで、これらのCDR配列の1またはそれより多くは、本明細書に記載する抗体またはその保存的修飾に基づいて、明記される配列を有し、そして抗体は、本発明のHER3結合抗体の望ましい機能特性を保持する。
【0143】
[00118]したがって、本発明は、CDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む重鎖
可変領域、ならびにCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む軽鎖可変領域からなる単離HER3モノクローナル抗体、またはその断片を提供し、ここで:重鎖可変領域CDR1アミノ酸配列は、配列番号2、8、20、26、38、44、56、62、74、80、92、98、110、116、128、134、146、152、164、170、182、188、200、206、218、224、236、242、254、260、272、278、290、296、308、314、326、332、344、350、362、および368、ならびにその保存的修飾からなる群より選択され;重鎖可変領域CDR2アミノ酸配列は、配列番号3、9、21、27、39、45、57、63、75、81、93、99、111、117、129、135、147、153、165、171、183、189、201、207、219、225、237、243、255、261、273、279、291、297、309、315、327、333、345、351、363、および369、ならびにその保存的修飾からなる群より選択され;重鎖可変領域CDR3アミノ酸配列は、配列番号4、10、22、28、40、46、58、64、76、82、94、100、112、118、130、136、148、154、166、172、184、190、202、208、220、226、238、244、256、262、274、280、292、298、310、316、328、334、346、352、364、および370、ならびにその保存的修飾からなる群より選択され;軽鎖可変領域CDR1アミノ酸配列は、配列番号5、11、23、29、41、47、59、65、77、83、95、101、113、119、131、137、149、155、167、173、185、191、203、209、221、227、239、2
45、257、263、275、281、293、299、311、317、329、335、347、353、365、および371、ならびにその保存的修飾からなる群より選択され;軽鎖可変領域CDR2アミノ酸配列は、配列番号6、12、24、30、42、48、60、66、78、84、96、102、114、120、132、138、150、156、168、174、186、192、204、210、222、228、240、246、258、264、276、282、294、300、312、318、330、336、348、354、366、および372、ならびにその保存的修飾からなる群より選択され;軽鎖可変領域CDR3アミノ酸配列は、配列番号7、13、25、31、43、49、61、67、79、85、97、103、115、121、133、139、151、157、169、175、187、193、205、211、223、229、241、247、259、265、277、283、295、301、313、319、331、337、349、355、367、および373、ならびにその保存的修飾からなる群より選択され;抗体またはその断片は、HER3に特異的に結合し、そしてリン酸化アッセイまたはHERシグナル伝達の他の測定値(例えばホスホ-HER3アッセイ、ホスホ-Aktアッセイ、細胞増殖、およびWO2012022814に記載されるようなリガンド遮断アッセイ)で測定可能な、HERシグナル伝達経路を阻害することによって、HER活性を中和する。
【0144】
[00119]別の例において、表1に記載する抗体と交差競合する、単離抗体またはその断
片。抗体は、配列番号15、配列番号33、配列番号51、配列番号69、配列番号87、配列番号105、配列番号123、配列番号141、配列番号159、配列番号177、配列番号195、配列番号213、配列番号231、配列番号249、配列番号267、配列番号285、配列番号303、配列番号321、配列番号339、配列番号357、および配列番号375からなる群より選択されるVH;ならびに配列番号14、配列番号32、配列番号50、配列番号68、配列番号86、配列番号104、配列番号122、配列番号140、配列番号158、配列番号176、配列番号194、配列番号212、配列番号230、配列番号248、配列番号266、配列番号284、配列番号302、配列番号320、配列番号338、配列番号356、および配列番号374からなる群より選択されるVL、またはこれに97~99パーセント同一性を有するアミノ酸配列を含むことも可能である。
【0145】
[00120]別の例において、単離抗体またはその断片は、配列番号2、20、38、56
、74、92、110、128、146、164、182、200、218、236、254、272、290、308、326、344、および362からなる群より選択される重鎖可変領域CDR1;配列番号3、21、39、57、75、93、111、129、147、165、183、201、219、237、255、273、291、309、327、345、および363からなる群より選択されるCDR2;配列番号4、22、40、58、76、94、112、130、148、166、184、202、220、238、256、274、292、310、328、346、および364からなる群より選択されるCDR3;配列番号5、23、41、59、77、95、113、131、149、167、185、203、221、239、257、275、293、311、329、347、および365からなる群より選択される軽鎖可変領域CDR1;配列番号6、24、42、60、78、96、114、132、150、166、186、204、222、240、258、276、294、312、330、348、および366からなる群より選択されるCDR2;ならびに配列番号7、25、43、61、79、97、115、133、151、169、187、205、223、241、259、277、295、313、331、349、および367からなる群より選択されるCDR3を含む。
【0146】
[00121]特定の例において、単離抗体またはその断片は、配列番号128の重鎖可変領
域CDR1;配列番号129のCDR2;配列番号130のCDR3;配列番号131の軽鎖可変領域CDR1;配列番号132のCDR2;および配列番号133のCDR3を含む。
【0147】
[00122]本発明で用いる抗体は;Fab、F(ab)’、F(ab)’、scFv
、VHH、VH、VL、dAbからなる群より選択されるHER3に結合する抗体の断片であることも可能である。
【0148】
[00123]本発明にはまた、表1に記載するHER3結合抗体が相互作用するのと同じエ
ピトープと相互作用する(例えば結合、立体障害、安定化/脱安定化、空間分布によって)抗体も含まれる。
【0149】
[00124]本発明は、HER3タンパク質(例えばヒトおよび/またはカニクイザル/マ
ウス/ラットHER3)に特異的に結合する完全ヒト抗体を提供する。キメラまたはヒト化抗体に比較して、本発明のヒトHER3結合抗体は、ヒト被験体に投与した際、さらに減少した抗原性を有する。
【0150】
[00125]当該技術分野に知られる方法を用いて、ヒトHER3結合抗体を生成すること
も可能である。例えば、ヒューマニアリング(humaneering)技術が、非ヒト抗体を操作ヒト抗体に変換するために用いられる。米国特許公報第20050008625は、非ヒト抗体のものに比較して、同じ結合特性を維持するか、またはより優れた結合特性を提供しながら、抗体において、非ヒト抗体可変領域をヒト可変領域で置き換えるためのin vivo法を記載する。
【0151】
[00126]別の側面において、本発明は、本発明のHER3結合抗体またはその断片を含
む、二重パラトープ、二重特異性または多重特異性分子を特徴とする。本発明の抗体またはその断片は、別の機能分子、例えば別のペプチドまたはタンパク質(例えば別の抗体または受容体に対するリガンド)に誘導体化されるかまたは連結されて、少なくとも2つの異なる結合部位またはターゲット分子に結合する二重特異性分子を生成することも可能である。本発明の抗体を実際、1より多い他の機能分子に誘導体化するかまたは連結して、2より多い異なる結合部位および/またはターゲット分子に結合する二重パラトープまたは多重特異性分子を生成することも可能である。本発明の二重特異性分子を生成するため、本発明の抗体を、1またはそれより多い他の結合分子、例えば別の抗体、抗体断片、ペプチドまたは結合擬似体に、機能的に連結させて(例えば化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合等によって)、二重特異性分子が生じるようにすることも可能である。
【0152】
[00127]いくつかの態様において、低悪性度漿液性卵巣癌の治療に使用可能な抗体また
はその断片は、本明細書にその全体が援用される、WO 2012/022814;WO
2013/084147;WO 2013/084148;およびWO 2013/084151に記載される任意の抗体およびその断片であることも可能である。
【0153】
[00128]抗体の組み合わせ
[00129]別の側面において、本発明は、別の抗体、小分子阻害剤、mTOR阻害剤また
はPI3キナーゼ阻害剤などの他の療法剤とともに用いる、本発明のHER3抗体またはその断片に関する。さらに他の側面において、HER2および/またはEGFR抗体をHER3抗体または他の療法剤と組み合わせて用いることも可能である。例には、限定されるわけではないが、以下が含まれる:
[00130]HER1阻害剤:HER3抗体またはその断片を、限定されるわけではないが
、マツズマブ(EMD72000)、
[00131]エルビタックス(登録商標)/セツキシマブ(Imclone)、ベクティビ
ックス(登録商標)/パニツムマブ(Amgen)、mAb806、およびニモツズマブ(TheraCIM)、イレッサ(登録商標)/ゲフィチニブ(Astrazeneca);CI-1033(PD183805)(Pfizer)、ラパチニブ(GW-572016)(Glaxo SmithKline)、タイケルブ(登録商標)/トシル酸ラパチニブ(SmithKlineBeecham)、タルセバ(登録商標)/エルロチニブHCL(OSI-774)(OSI Pharma)、およびPKI-166(Novartis)、およびBoehringer Ingelheimによって商標トボク(登録商標)で販売されているN-[4-[(3-シクロ-4-フルオロフェニル)アミノ]-7-[[(3”S”)-テトラヒドロ-3-フラニル]オキシ]-6-キナゾリニル]-4(ジメチルアミノ)-2-ブテナミドを含むHER1阻害剤とともに用いることも可能である。
【0154】
[00132]HER2阻害剤:HER3抗体またはその断片を、限定されるわけではないが
、ペルツズマブ(Genentechによって商標オムニターグ(登録商標)で販売されている)、トラスツズマブ(Genetech/Pvocheによって商標ハーセプチン(登録商標)で販売されている)、MM-111、ネラチニブ(HKI-272、(2E)-N-[4-[[3-クロロ-4-[(ピリジン-2-イル)メトキシ]フェニル]アミノ]-3-シアノ-7-エトキシキノリン-6-イル]-4-(ジメチルアミノ)ブト-2-エナミドとしても知られ、そしてPCT公報第WO 05/028443に記載される)、ラパチニブまたはトシル酸ラパチニブ(Glaxo SmithKlineによって、商標タイケルブ(登録商標)で販売されている)を含むHER2阻害剤とともに用いることも可能である。
【0155】
[00133]HER3阻害剤:HER3抗体またはその断片を、限定されるわけではないが
、MM-121、MM-111、IB4C3、2DID12(U3 Pharma AG)、AMG888(Amgen)、AV-203(Aveo)、MEHD7945A(Genentech)、およびHER3を阻害する小分子を含むHER3阻害剤とともに用いることも可能である。
【0156】
[00134]HER4阻害剤:HER3抗体またはその断片を、HER4阻害剤とともに用
いることも可能である。
[00135]PI3K阻害剤:HER3抗体またはその断片を、限定されるわけではないが
、4-[2-(1H-インダゾル-4-イル)-6-[[4-(メチルスルホニル)ピペラジン-1-イル]メチル]チエノ[3,2-d]ピリミジン-4-イル]モルホリン(GDC0941としてもまた知られ、そしてPCT公報第WO 09/036082およびWO 09/055730に記載される)、2-メチルー2-[4-[3-メチル-2-オキソ-8-(キノリン-3-イル)-2,3-ジヒドロイミダゾ[4,5-c]キノリン-1-イル]フェニル]プロピオニトリル(BEZ 235またはNVP-BEZ 235としてもまた知られ、そしてPCT公報第WO 06/122806に記載される)、BMK120およびBYL719を含むPI3キナーゼ阻害剤とともに用いることも可能である。1つの例において、PI3K阻害剤は(S)-ピロリジン-1,2-ジカルボン酸2-アミド1-({4-メチル-5-[2-(2,2,2-トリフルオロ-1,1-ジメチル-エチル)-ピリジン-4-イル]-チアゾル-2-イル}アミド)である。
【0157】
[00136]mTOR阻害剤:HER3抗体またはその断片を、限定されるわけではないが
、テムシロリムス(Pfizerによって商標トリセル(登録商標)で販売されている)、リダホロリムス(以前はデフェロリムスとして知られた、(1R,2R,4S)-4-[(2R)-2[(1R,9S,12S,15R,16E,18R,19R,21R,23S,24E,26E,28Z,30S,32S,35R)-1,18-ジヒドロキシ-19,30-ジメトキシ-15,17,21,23,29,35-ヘキサメチル-2,3
,10,14,20-ペンタオキソ-11,36-ジオキサ-4-アザトリシクロ[30.3.1.04,9]ヘキサトリアコンタ-16,24,26,28-テトラエン-12-イル]プロピル]-2-メトキシシクロヘキシルジメチルホスフィネート、デホロリムス、AP23573およびMK8669(Ariad Parm.)としてもまた知られ、PCT公報第WO 03/064383に記載される)、エベロリムス(RADOOI)(Novartisによって商標アフィニトール(登録商標)で販売されている)を含むmTOR阻害剤とともに用いることも可能である。1またはそれより多い療法剤を同時に、あるいは本発明のHER3抗体またはその断片の投与の前または後のいずれかで投与することも可能である。
【0158】
[00137]予防的および療法的使用
[00138]本発明は、HER3に特異的に結合する抗体またはその断片の療法的有効量(
例えば低悪性度漿液性卵巣癌増殖を阻害する抗体の用量)を投与することによって、疾患または障害を治療する方法を提供する。特定の態様において、本発明は、低悪性度漿液性卵巣癌を治療する方法を提供する。いくつかの態様において、HER2に特異的に結合する抗体またはその断片の療法的有効量を投与することも可能である。いくつかの態様において、EGFRに特異的に結合する抗体またはその断片の療法的有効量を投与することも可能である。さらに他の態様において、さらなる療法剤を投与することも可能である。いくつかの態様において、さらなる療法剤は、1またはそれより多いHER1阻害剤ならびに/あるいは1またはそれより多いHER2阻害剤ならびに/あるいは1またはそれより多いHER3阻害剤ならびに/あるいは1またはそれより多いHER4阻害剤、ならびに/あるいは1またはそれより多いmTOR阻害剤ならびに/あるいは1またはそれより多いPI3キナーゼ阻害剤より選択される。いくつかの態様において、さらなる療法剤は:ゲムシタビン、パクリタキセル、メシル酸イマチニブ、リンゴ酸スニチニブ、アドリアマイシン、ダウノマイシン、シスプラチン、エトポシド、ビンブラスチン、ビンクリスチン、およびメトトレキセートより選択される。
【0159】
[00139]薬学的組成物
[00140]HER3結合抗体(損なわれていないまたは結合性断片)を含む薬学的または
無菌組成物を調製するため、HER3結合抗体(損なわれていないまたは結合性断片)を、薬学的に許容されうるキャリアーまたは賦形剤と混合する。組成物は、さらに、低悪性度漿液性卵巣癌を治療するかまたは防止するために適した1またはそれより多い他の療法剤を含有することも可能である。
【0160】
[00141]生理学的に許容されうるキャリアー、賦形剤、または安定化剤と混合すること
によって、例えば凍結乾燥粉末、スラリー、水溶液、ローション、または懸濁物の形で、療法剤および診断剤の配合物を調製することも可能である(例えば、Hardmanら,
(2001) Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics, McGraw-Hill, ニューヨーク州ニューヨーク;Gennaro(2000) Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Lippincott, Williams, and Wilkins, ニューヨーク州ニューヨーク;Avisら(監修)(1993) Pharmaceutical Dosage Forms: Parenteral Medications, Marcel Dekker, ニューヨーク州;Liebermanら(監修)(1990) Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets, Marcel Dekker, ニューヨーク州;Liebermanら(監修)(1990) Pharmaceutical Dosage Forms: Disperse Systems, Marcel Dekker, ニューヨーク州;WeinerおよびKotkoskie(2000) Excipient Toxicity
and Safety, Marcel Dekker, Inc., ニューヨーク州ニューヨークを参照されたい)。
【0161】
[00142]療法剤の投与措置の選択は、実体の血清または組織代謝回転速度、症状のレベ
ル、実体の免疫原性、および生物学的マトリックス中のターゲット細胞のアクセス可能性を含む、いくつかの要因に応じる。特定の態様において、投与措置は、副作用の許容されうるレベルと調和して、患者に送達される療法剤の量を最大限にする。したがって、送達される生物学的剤の量は、部分的に、特定の実体および治療中の状態の重症度に応じる。抗体、サイトカイン、および小分子の適切な用量を選択する際の指針が利用可能である(例えば、Wawrzynczak(1996) Antibody Therapy, Bios Scientific Pub. Ltd, Oxfordshire, UK;Kresina(監修)(1991) Monoclonal Antibodies, Cytokines and Arthritis, Marcel Dekker, ニューヨーク州ニューヨーク;Bach(監修)(1993) Monoclonal Antibodies and Peptide Therapy in Autoimmune Diseases, Marcel Dekker, ニューヨーク州ニューヨーク;Baertら, (2003) New Engl. J. Med. 348:601-608;Milgromら, (1999) New Engl. J. Med. 341: 1966-1973;Slamonら, (2001) New Engl. J. Med. 344:783-792;Beniaminovitzら, (2000) New Engl. J. Med. 342:613-619;Ghoshら, (2003) New Engl. J. Med. 348:24-32;Lipskyら, (2000) New Engl. J. Med. 343: 1594-1602を参照されたい)。
【0162】
[00143]適切な用量の決定は、臨床医によって、例えば治療に影響を及ぼすことが当該
技術分野に知られるかまたは推測される、あるいは治療に影響を及ぼすことが予測される、パラメータまたは要因を用いて、行われる。一般的に、用量は、最適用量より幾分低い量で開始され、そしてその後、任意の負の副作用に比較して、望ましいまたは最適な効果が達成されるまで、小さい増分で増加される。重要な診断測定値には、例えば炎症の症状の測定値または産生される炎症性サイトカインのレベルが含まれる。
【0163】
[00144]本発明の薬学的組成物中の活性成分の実際の投薬レベルは、患者に対して毒性
であることなく、特定の患者、組成物、および投与様式に関して、望ましい療法反応を達成するために有効な活性成分の量を得るように、多様でありうる。選択される投薬量レベルは、使用する本発明の特定の組成物、あるいはそのエステル、塩またはアミドの活性、投与経路、投与時期、使用する特定の化合物の排出速度、治療期間、使用する特定の組成物と組み合わせて用いる他の薬剤、化合物および/または物質、治療中の患者の年齢、性別、体重、状態、全身健康状態、および以前の病歴、ならびに医学業で知られる同様の要因を含む、多様な薬物動態学的要因に応じるであろう。本発明の抗体またはその断片を含む組成物を、連続注入によって、あるいは例えば1日、1週間、または週に1~7回の間隔を開けた用量によって、提供することも可能である。用量を静脈内、皮下、局所、経口、鼻、直腸、筋内、脳内、または吸入によって提供することも可能である。特定の投薬プロトコルは、重大な望ましくない副作用を回避する最大用量または投薬頻度を伴うものである。週あたりの総用量は、少なくとも0.05μg/kg体重、少なくとも0.2μg/kg、少なくとも0.5μg/kg、少なくとも1μg/kg、少なくとも10μg/kg、少なくとも100μg/kg、少なくとも0.2mg/kg、少なくとも1.0mg/kg、少なくとも2.0mg/kg、少なくとも10mg/kg、少なくとも25mg/kg、少なくとも30mg/kg、少なくとも40mg/kgまたは少なくとも50mg/kgであることも可能である(例えば、Yangら, (2003) New E
ngl. J. Med. 349:427-434;Heroldら, (2002)
New Engl. J. Med. 346:1692-1698;Liuら, (1999) J. Neurol. Neurosurg. Psych. 67:451-456;Portieljiら, (2003) Cancer Immunol.
Immunother. 52: 133-144を参照されたい)。抗体またはその断片の望ましい用量は、モル/kg体重に基づく抗体またはポリペプチドに関するものとほぼ同じである。抗体またはその断片の望ましい血漿濃度は、モル/kg体重に基づくものとほぼ同じである。用量は、少なくとも15μg、少なくとも20μg、少なくとも25μg、少なくとも30μg、少なくとも35μg、少なくとも40μg、少なくとも45μg、少なくとも50μg、少なくとも55μg、少なくとも60μg、少なくとも65μg、少なくとも70μg、少なくとも75μg、少なくとも80μg、少なくとも85μg、少なくとも90μg、少なくとも95μg、または少なくとも100μgであることも可能である。被験体に投与される用量は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12回あるいはそれより多いことも可能である。本発明の抗体またはその断片に関しては、患者に投与される投薬量は、0.0001mg/kg~100mg/kg患者体重であることも可能である。投薬量は、0.0001mg/kg~20mg/kg、0.0001mg/kg~10mg/kg、0.0001mg/kg~5mg/kg、0.0001~2mg/kg、0.0001~1mg/kg、0.0001mg/kg~0.75mg/kg、0.0001mg/kg~0.5mg/kg、0.0001mg/kg~0.25mg/kg、0.0001~0.15mg/kg、0.0001~0.10mg/kg、0.001~0.5mg/kg、0.01~0.25mg/kg、または0.01~0.10mg/kg患者体重であることも可能である。
【0164】
[00145]mg/kgで示す投与しようとする用量をキログラム(kg)の患者体重に乗
じた値を用いて、本発明の抗体またはその断片の投薬量を計算することも可能である。本発明の抗体またはその断片の投薬量は、150μg/kgまたはそれ未満、125μg/kgまたはそれ未満、100μg/kgまたはそれ未満、95μg/kgまたはそれ未満、90μg/kgまたはそれ未満、85μg/kgまたはそれ未満、80μg/kgまたはそれ未満、75μg/kgまたはそれ未満、70μg/kgまたはそれ未満、65μg/kgまたはそれ未満、60μg/kgまたはそれ未満、55μg/kgまたはそれ未満、50μg/kgまたはそれ未満、45μg/kgまたはそれ未満、40μg/kgまたはそれ未満、35μg/kgまたはそれ未満、30μg/kgまたはそれ未満、25μg/kgまたはそれ未満、20μg/kgまたはそれ未満、15μg/kgまたはそれ未満、10μg/kgまたはそれ未満、5μg/kgまたはそれ未満、2.5μg/kgまたはそれ未満、2μg/kgまたはそれ未満、1.5μg/kgまたはそれ未満、1μg/kgまたはそれ未満、0.5μg/kgまたはそれ未満、あるいは0.5μg/kg患者体重またはそれ未満であることも可能である。
【0165】
[00146]本発明の抗体またはその断片の単位用量は、0.1mg~20mg、0.1m
g~15mg、0.1mg~12mg、0.1mg~10mg、0.1mg~8mg、0.1mg~7mg、0.1mg~5mg、0.1~2.5mg、、0.25mg~60mg、、0.25mg~40mg、0.25mg~20mg、0.25~15mg、0.25~12mg、0.25~10mg、0.25~8mg、0.25mg~7mg、0.25mg~5mg、0.5mg~2.5mg、1mg~20mg、1mg~15mg、1mg~12mg、1mg~10mg、1mg~8mg、1mg~7mg、1mg~5mg、または1mg~2.5mgであることも可能である。
【0166】
[00147]本発明の抗体またはその断片の投薬量は、被験体において、少なくとも0.1
μg/ml、少なくとも0.5μg/ml、少なくとも1μg/ml、少なくとも2μg/ml、少なくとも5μg/ml、少なくとも6μg/ml、少なくとも10μg/ml
、少なくとも15μg/ml、少なくとも20μg/ml、少なくとも25μg/ml、少なくとも50μg/ml、少なくとも100μg/ml、少なくとも125μg/ml、少なくとも150μg/ml、少なくとも175μg/ml、少なくとも200μg/ml、少なくとも225μg/ml、少なくとも250μg/ml、少なくとも275μg/ml、少なくとも300μg/ml、少なくとも325μg/ml、少なくとも350μg/ml、少なくとも375μg/ml、または少なくとも400μg/mlの血清力価を達成することも可能である。あるいは、本発明の抗体またはその断片は、被験体において、少なくとも0.1μg/ml、少なくとも0.5μg/ml、少なくとも1μg/ml、少なくとも2μg/ml、少なくとも5μg/ml、少なくとも6μg/ml、少なくとも10μg/ml、少なくとも15μg/ml、少なくとも20μg/ml、少なくとも25μg/ml、少なくとも50μg/ml、少なくとも100μg/ml、少なくとも125μg/ml、少なくとも150μg/ml、少なくとも175μg/ml、少なくとも200μg/ml、少なくとも225μg/ml、少なくとも250μg/ml、少なくとも275μg/ml、少なくとも300μg/ml、少なくとも325μg/ml、少なくとも350μg/ml、少なくとも375μg/ml、または少なくとも400μg/mlの血清力価を達成することも可能である。
【0167】
[00148]本発明の抗体またはその断片の用量を反復することも可能であり、そして投与
は、少なくとも1日、2日、3日、5日、7日、10日、15日、30日、45日、2ヶ月、75日、3ヶ月、または少なくとも6ヶ月、離れていることも可能である。
【0168】
[00149]特定の患者に関する有効量は、治療中の状態、患者の全体の健康状態、投与法
、経路および用量、ならびに副作用の重症度などの要因に応じて多様でありうる(例えば、Maynardら, (1996) A Handbook of SOPs for
Good Clinical Practice, Interpharm Press, フロリダ州ボカラトン;Dent(2001) Good Laboratory
and Good Clinical Practice, Urch PubL, 英国ロンドンなどを参照されたい)。
【0169】
[00150]投与経路は、例えば局所または皮膚適用によるか、静脈内、腹腔内、脳内、筋
内、眼内、動脈内、脳脊髄内、病変内による注射または注入、あるいは持続放出系または移植物によることも可能である(例えば、Sidmanら, (1983) Biopolymers 22:547-556;Langerら, (1981) J. Biomed. Mater. Res. 15:167-277;Langer(1982)
Chem. Tech. 12:98-105;Epsteinら, (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:3688-3692;Hwangら, (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4030-4034;米国特許第6,350,466号および第6,316,024号を参照されたい)。必要な場合、組成物にはまた、可溶化剤および注射部位の疼痛を和らげるための局所麻酔剤、例えばリドカインが含まれることも可能である。さらにまた、例えば吸入器またはネブライザーの使用およびエアロゾル化剤を用いた配合によって、肺投与を使用することも可能である。例えば、各々、その全体が本明細書に援用される、米国特許第6,019,968号、第5,985,320号、第5,985,309号、第5,934,272号、第5,874,064号、第5,855,913号、第5,290,540号、および第4,880,078号;ならびにPCT公報第WO 92/19244号、第WO 97/32572号、第WO 97/44013号、第WO 98/31346号、および第WO 99/66903号を参照されたい。
【0170】
[00151]また、本発明の組成物を、当該技術分野に知られる多様な方法の1またはそれ
より多くを用いて、1またはそれより多い投与経路を通じて、投与することも可能である
。当業者に認識されるであろうように、投与経路および/または投与様式は、望ましい結果に応じて多様であろう。本発明の抗体またはその断片のために選択される投与経路には、静脈内、筋内、皮内、腹腔内、皮下、脊髄または他の非経口投与経路が含まれ、例えば注射または注入によるものがある。非経口投与は、腸内および局所投与以外の投与様式に相当しうるものであり、通常、注射により、そしてこれには限定なしに、静脈内、筋内、動脈内、クモ膜下腔内、嚢内、眼窩内、心内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、クモ膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内注射および注入が含まれる。あるいは、本発明の組成物を、非・非経口経路、例えば局所、表皮または粘膜投与経路、例えば鼻内、経口、膣、直腸、舌下または局所を通じて投与することも可能である。1つの態様において、本発明の抗体またはその断片を注入によって投与する。別の態様において、本発明の多重特異性エピトープ結合タンパク質を皮下投与する。本発明の抗体またはその断片を、徐放または持続放出系で投与する場合、ポンプを用いて、徐放または持続放出を達成することも可能である(Langer、上記;Sefton, (1987) CRC
Crit. Ref Biomed. Eng. 14:20;Buchwaldら,
(1980), Surgery 88:507;Saudekら, (1989) N. Engl. J. Med. 321:574を参照されたい)。ポリマー物質を用いて、本発明の療法の徐放または持続放出を達成することも可能である(例えば、Medical Applications of Controlled Release, LangerおよびWise(監修), CRC Pres., フロリダ州ボカラトン(1974);Controlled Drug Bioavailability, Drug Product Design and Performance, SmolenおよびBall(監修), Wiley, ニューヨーク(1984);RangerおよびPeppas, (1983) J. Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23:61を参照されたい;また、Levyら, (1985) Science 228:190;Duringら, (1989) Ann. Neurol. 25:351;Howardら, (1989) J. Neurosurg. 7 1:105):米国特許第5,679,377号:米国特許第5,916,597号:米国特許第5,912,015号:米国特許第5,989,463号:米国特許第5,128,326号;PCT公報第WO 99/15154号;およびPCT公報第WO 99/20253号もまた参照されたい。持続放出配合物中で用いられるポリマーの例には、限定されるわけではないが、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)、ポリ(メタクリル酸)、ポリグリコリド(PLG)、ポリ無水物、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)、ポリラクチド(PLA)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、およびポリオルトエステルが含まれる。1つの態様において、持続放出配合物中で用いられるポリマーは、不活性であり、浸出しうる不純物を含まず、保存中に安定であり、無菌で、そして生物分解性である。徐放または持続放出系を、予防または療法ターゲットの近傍に配置し、こうして全身用量の一部のみがあればよいようにすることも可能である(例えば、Goodson, Medical Applications of Controlled Release, 上記中, vol.2, pp.115-138(1984)を参照されたい)。
【0171】
[00152]徐放系は、Langer, (1990), Science 249: 1
527-1533による総説で論じられる。当業者に知られる任意の技術を用いて、本発明の1またはそれより多い抗体またはその断片を含む持続放出配合物を産生することも可能である。例えば、各々、その全体が本明細書に援用される、米国特許第4,526,938号、PCT公報WO 91/05548、PCT公報WO 96/20698、Ningら, (1996), Radiotherapy & Oncology 39:179-189、Songら, (1995) PDA Journal of Pha
rmaceutical Science & Technology 50:372-397、Cleekら, (1997) Pro. Int’l. Symp. Control. Rel. Bioact. Mater. 24:853-854、およびLamら, (1997) Proc. Int’l. Symp. Control Rel. Bioact. Mater. 24:759-760を参照されたい。
【0172】
[00153]本発明の抗体またはその断片を局所投与する場合、これらを軟膏、クリーム、
経皮パッチ、ローション、ジェル、シャンプー、スプレー、エアロゾル、溶液、エマルジョン、または当業者に周知の他の型で配合することも可能である。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences and Introduction to Pharmaceutical Dosage Forms, 第19版, Mack Pub. Co., ペンシルバニア州イーストン(1995)を参照されたい。スプレー不能局所投薬型に関しては、典型的には、局所適用に適合し、そしていくつかの場合、水よりも大きい動粘性を有するキャリアー、あるいは1またはそれより多い賦形剤を含む、粘性から半固形または固形型を使用する。適切な配合物には、限定なしに、望ましい場合、無菌であるか、または多様な特性、例えば浸透圧などに影響を及ぼすため、補助剤(例えば保存剤、安定化剤、湿潤剤、緩衝剤または塩)と混合された、溶液、懸濁物、エマルジョン、クリーム、軟膏、粉末、リニメント、膏薬等が含まれる。他の適切な局所投薬型には、スプレー可能エアロゾル調製物が含まれ、ここで活性剤は、いくつかの場合、固形または液体不活性キャリアーと合わされて、加圧揮発性物質(例えばガス状噴霧剤、例えばフロン)との混合物中に、または圧搾ボトル中にパッケージングされる。望ましい場合、湿潤剤または保水剤もまた、薬学的組成物および投薬型に添加することも可能である。こうしたさらなる成分の例が当該技術分野に周知である。
【0173】
[00154]抗体またはその断片を含む組成物を鼻内投与する場合、エアロゾル型、スプレ
ー、ミストまたはドロップの形で配合することも可能である。特に、本発明にしたがって使用するための予防剤または療法剤は、適切な噴霧剤(例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガス)を使用して、加圧パックまたはネブライザーから、エアロゾルスプレー提示の型で好適に送達可能である。加圧エアロゾルの場合、測定された量を送達するバルブを提供することによって、投薬単位を決定することも可能である。化合物および適切な粉末基剤、例えばラクトースまたはデンプンの粉末混合物を含有する、吸入器または吸入装置で使用するためのカプセルおよびカートリッジ(例えばゼラチンで構成される)を配合することも可能である。
【0174】
[00155]第二の療法剤、例えばサイトカイン、ステロイド、化学療法剤、抗生物質、ま
たは放射線を用いた同時投与または治療のための方法が当該技術分野に知られる(例えばHardmanら, (監修)(2001) Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics, 第10版, McGraw-Hill, ニューヨーク州ニューヨーク;PooleおよびPeterson(監修)(2001) Pharmacotherapeutics for Advanced Practice: A Practical
Approach, Lippincott, Williams & Wilkins, ペンシルバニア州フィラデルフィア;ChabnerおよびLongo(監修)(2001) Cancer Chemotherapy and Biotherapy, Lippincott, Williams & Wilkins, ペンシルバニア州フィラデルフィアを参照されたい)。療法剤の有効量は、症状を、少なくとも10%;少なくとも20%;少なくとも約30%>;少なくとも約40%>;または少なくとも50%減少させることも可能である。
【0175】
[00156]本発明の抗体またはその断片と組み合わせて投与可能なさらなる療法(例えば
予防剤または療法剤)は、本発明の抗体またはその断片とは、5分未満空けて、30分未満空けて、1時間空けて、約1時間空けて、約1~約2時間空けて、約2時間~約3時間空けて、約3時間~約4時間空けて、約4時間~約5時間空けて、約5時間~約6時間空けて、約6時間~約7時間空けて、約7時間~約8時間空けて、約8時間~約9時間空けて、約9時間~約10時間空けて、約10時間~約11時間空けて、約11時間~約12時間空けて、約12時間~18時間空けて、18時間~24時間空けて、24時間~36時間空けて、36時間~48時間空けて、48時間~52時間空けて、52時間~60時間空けて、60時間~72時間空けて、72時間~84時間空けて、84時間~96時間空けて、または96時間~120時間空けて、投与することも可能である。1回の同じ診察時に2またはそれより多い療法を投与することも可能である。
【0176】
[00157]本発明の抗体またはその断片および他の療法を周期的に投与することも可能で
ある。周期療法は、ある期間に渡る第一の療法の投与(例えば第一の予防剤または療法剤)、その後、ある期間に渡る第二の療法の投与(例えば第二の予防剤または療法剤)、場合によって、その後、ある期間に渡る第三の療法の投与(例えば予防剤または療法剤)等を伴い、そして療法の1つに対する耐性の発展を減少させ、療法の1つの副作用を回避するかまたは減少させ、そして/または療法の有効性を改善するために、この連続投与、すなわち周期を反復することを伴う。
【0177】
[00158]特定の態様において、本発明の抗体またはその断片を配合して、in viv
oでの適切な分布を確実にすることも可能である。例えば、血液脳関門(BBB)は、多くの非常に親水性の化合物を排除する。本発明の療法化合物がBBBを横断することを確実にするため(望ましい場合)、これらを、例えばリポソーム中で配合することも可能である。リポソームを製造する方法に関しては、例えば、米国特許第4,522,811号;第5,374,548号;および第5,399,331号を参照されたい。リポソームは、特定の細胞または臓器内に選択的に輸送され、したがってターゲティング化薬剤送達を増進する、1またはそれより多い部分を含むことも可能である(例えば、Ranade, (1989) J. Clin. Pharmacol. 29:685を参照されたい)。例示的なターゲティング部分には、葉酸またはビオチン(例えば、Lowらに対する米国特許第5,416,016号を参照されたい);マンノシド(Umezawaら, (1988) Biochem. Biophys. Res. Commun. 153:1038);抗体(Bloemanら, (1995) FEBS Lett.
357:140;Owaisら, (1995) Antimicrob. Agents Chemother. 39:180);界面活性剤プロテインA受容体(Briscoeら, (1995) Am. J. Physiol. 1233:134);p 120(Schreierら, (1994) J. Biol. Chem. 269:9090)が含まれる;K. Keinanen;M. L. Laukkanen(1994) FEBS Lett. 346:123; J. J. Killion;I. J. Fidler(1994) Immunomethods 4:273もまた参照されたい。
【0178】
[00159]本発明は、投与の必要がある被験体への、本発明の抗体またはその断片を単独
で、あるいは他の療法剤と組み合わせて含む薬学的組成物の投与のためのプロトコルを提供する。本発明の組み合わせ療法の療法(例えば予防剤または療法剤)を被験体に同時にまたは連続して投与することも可能である。また、本発明の組み合わせ療法の療法(例えば予防剤または療法剤)を周期投与することも可能である。周期療法は、ある期間に渡る第一の療法の投与(例えば第一の予防剤または療法剤)、その後、ある期間に渡る第二の療法の投与(例えば第二の予防剤または療法剤)を伴い、そして療法(例えば剤)の1つに対する耐性の発展を減少させ、療法(例えば剤)の1つの副作用を回避するかまたは減
少させ、そして/または療法の有効性を改善するために、この連続投与、すなわち周期を反復することを伴う。
【0179】
[00160]本発明の組み合わせ療法の療法(例えば予防剤または療法剤)を被験体に同時
に投与することも可能である。用語「同時に」は、正確に同じ時点での療法(例えば予防剤または療法剤)の投与に限定されず、むしろ、本発明の抗体またはその断片を含む薬学的組成物を、連続して、そして本発明の抗体が、他の療法(単数または複数)とともに作用して、これらをそうでなく投与した場合よりも、増加した利益を提供するような時間間隔内に、被験体に投与することを意味する。例えば、各療法を、同時に、または任意の順序で、異なる時点で連続して、被験体に投与することも可能である;が、同じ時点で投与されない場合、これらは、望ましい療法的または予防的効果を提供するように十分に近い時点で投与されなければならない。各療法を、任意の適切な型で、そして適切な経路によって、別個に被験体に投与することも可能である。多様な態様において、療法(例えば予防剤または療法剤)を、15分未満、30分未満、1時間未満空けて、約1時間空けて、約1時間~約2時間空けて、約2時間~約3時間空けて、約3時間~約4時間空けて、約4時間~約5時間空けて、約5時間~約6時間空けて、約6時間~約7時間空けて、約7時間~約8時間空けて、約8時間~約9時間空けて、約9時間~約10時間空けて、約10時間~約11時間空けて、約11時間~約12時間空けて、24時間空けて、48時間空けて、72時間空けて、または1週間空けて、投与する。他の態様において、同じ診察時に2またはそれより多い療法(例えば予防剤または療法剤)を投与する。
【0180】
[00161]組み合わせ療法の予防剤または療法剤を、同じ薬学的組成物中で、被験体に投
与することも可能である。あるいは、組み合わせ療法の予防剤または療法剤を、別個の薬学的組成物中で、被験体に同時投与することも可能である。予防剤または療法剤を、同じまたは異なる投与経路によって、被験体に投与することも可能である。本発明は完全に記載されているが、例示であり、そしてさらなる限定を意味しない、以下の実施例および請求項によってさらに例示される。
【0181】
[00162]1つの例において、本発明には、被験体において低悪性度漿液性卵巣癌を治療
する方法であって、例えば表1に示すような、HER3に特異的に結合する抗体またはその断片の療法的有効量を、被験体に投与する工程を含む、前記方法が含まれる。1つの例において、方法には、低悪性度漿液性卵巣癌を有する患者に、MOR10703のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含む抗体を投与する工程が含まれる。さらに別の例において、方法には、低悪性度漿液性卵巣癌を有する患者に、10~50mg/kgの間の用量で、MOR10703のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含む抗体を投与する工程が含まれる。なおさらに別の例において、方法には、低悪性度漿液性卵巣癌を有する患者に、10~50mg/kgの間の用量で(例えば週1回、2週に1回、3週に1回、または1ヶ月1回)、MOR10703のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含む抗体を投与する工程が含まれる。なおさらに別の例において、方法には、低悪性度漿液性卵巣癌を有する患者に、毎週40mg/kgの用量で、MOR10703のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含む抗体を投与する工程が含まれる。
【実施例
【0182】
[00163]実施例
[00164]MOR10703またはRNAiを用いたHER3の遮断は、初代卵巣癌細胞
のサブセットにおいて、増殖を阻害することも可能である。
【0183】
[00165]モノクローナル抗外部ドメインHER3抗体であるMOR10703を、各々
、単一の卵巣癌所持患者に由来する腹水から得た、初代卵巣癌細胞系統のパネルに添加した。続く細胞増殖および生存度を、6日間の連続抗体曝露後に行ったATPに基づくCe
llTiter-Gloアッセイで評価した(図1)。試験した21の初代卵巣癌細胞パックの大部分は、ウェスタンブロッティングによって決定した際、Y1289位でリン酸化されたHER3を含有することが見出されたが、4つのみは、MOR10703曝露に対して感受性の証拠を示した。
【0184】
[00166]MOR10703で観察された効果がNRG1/HER3シグナル伝達回路の
干渉によって仲介されるかどうかを決定するため、本発明者らは、2つの感受性細胞パック、DF76およびDF141に対して、NRG1およびHER3をターゲティングする、よく検証された(Shengら)小分子干渉RNA(siRNA)を用いて、RNA干渉(RNAi)を行った(図2)。siNRG1およびsiHER3の両方を独立に試験し、これらは、偽トランスフェクションまたは対照siRNAに比較した際、細胞増殖/生存度に影響を及ぼした。これらの結果は、これらの細胞におけるMOR10703の観察される効果が、活性化されたHER3機能との干渉の結果であることを示唆する。
【0185】
[00167]HER3遮断に対する感受性は、初代低悪性度漿液性卵巣癌細胞には存在する
が、低悪性度漿液性卵巣癌細胞株には存在しない。
[00168]HER3抗体に対する感受性が観察される初代細胞パックが、HER3特異的
療法が最も有効である卵巣癌サブセットをさらに定義することを補助しうる、何らかの共通の特性を共有するかどうかを調べた。DF76およびDF141は、どちらも、活性化されたHER3を含有したが、この特性はまた、MOR10703に感受性でない細胞パックにも存在した(表1)。しかし、これらの感受性細胞パック両方、ならびに2つの他の感受性細胞パック、DF192およびDF225の組織病理学的特性は、グレード1またはグレード2漿液性卵巣癌のものであり、低悪性度漿液性卵巣癌の診断と一致した。他の細胞パックのいずれの間でもMOR10703感受性は観察されず、これらの細胞パックの大部分は、高悪性度漿液性卵巣癌と特徴付けられた。
【0186】
[00169]表2 DF初代の特徴付けおよびMOR10703の効果
【0187】
【表2】
【0188】
[00170]これらの知見を考慮して、低悪性度漿液性卵巣癌細胞株がまた、HER3経路
干渉に感受性であるかどうかを調べた。文献から、3つの低悪性度漿液性卵巣癌細胞株を同定した。そのうちの1つ、HEYは、HER3の低い発現を示すかまたは発現を示さず、検出可能な活性化されたHER3を欠き、そしてMOR10703に非感受性であった(図3)。他の2つの細胞株、MPSC1およびHOC-7は、活性化されたHER3を発現した(MPSC1よりもHOC-7においてより低いレベルで)が、これらもまた、MOR10703に非感受性であった(図3)。
【0189】
[00171]腫瘍ゲノム配列の相違を調べて、配列相違が、試験した初代低悪性度漿液性卵
巣癌細胞および低悪性度漿液性卵巣癌細胞株の間のMOR10703感受性の相違を説明可能であるかどうかを決定した。腫瘍関連突然変異が検出されているおよそ700遺伝子の次世代配列決定を行った。HEY、MPSC1、およびHOC-7はすべて、BRAFまたはKRASにおいて突然変異を明らかにした(HEY:BRAF G464E、KRAS G12D;MPSC1:V600L;HOC-7:KRAS G12A)が、これらの遺伝子のいずれの突然変異も初代低悪性度試料では検出されなかった。非反応性低悪性度漿液性卵巣癌細胞株から初代低悪性度漿液性卵巣癌反応性系統を明らかに区別するさらなる突然変異はなかった。
【0190】
[00172]初代低悪性度漿液性卵巣癌細胞に対する組み合わせたEGFRファミリー経路
遮断の影響
[00173]特定のEGFRファミリーメンバーのシグナル伝達増加が、他のファミリーメ
ンバーによるシグナル伝達喪失を相殺しうるという報告(Serginaら, 2007;Engelmanら, 2007)を考慮して、HER3以外のEGFRファミリーメンバーの機能の阻害を調べて、阻害がMOR10703感受性細胞において細胞増殖を損ないうるかどうかを決定した。したがって、初代低悪性度漿液性卵巣癌反応性系統を、抗
EGFRモノクローナル抗体セツキシマブおよび抗Her2モノクローナル抗体トラスツズマブに、単独で、互いに組み合わせて、またはMOR10703と組み合わせて、曝露した(図4)。4つの初代低悪性度漿液性細胞系統すべて(DF76、DF141、DF192、およびDF225)は、抗EGFR抗体単独で、抗HER2抗体単独で、または抗HER3抗体単独のいずれかで、抗EGFRファミリー阻害に有意な感受性を示し、そしてまた抗体を組み合わせた際には、増加した効果が見られた。対照的に、EGFRファミリー抗体に対する感受性は、2つの高悪性度初代卵巣癌細胞(DF09、DF14)において、そして上記の低悪性度漿液性卵巣癌細胞株において、存在しなかった(図5)。
【0191】
[00174]結果は、ヒト卵巣癌の特定のサブタイプ、低悪性度漿液性サブタイプが、抗H
ER3モノクローナル抗体によるHER3経路干渉に対してより感受性であることを示す。21の初代卵巣癌細胞系統のコレクションにおいて、4つが抗HER3モノクローナル抗体MOR10703に感受性を示した。これらの初代細胞系統の4つすべてが、低悪性度漿液性卵巣癌細胞タイプと一致する、グレード1またはグレード2卵巣癌由来であった。これらの初代細胞系統の2つにおいて、NRG1およびHER3に向けられるsiRNAの形質導入もまた、細胞増殖の阻害を生じ、これらの細胞において、MOR10703で観察される効果が、NRG1/HER3シグナル伝達回路への干渉によって仲介されるという仮説を裏付けた。低悪性度漿液性卵巣癌細胞はまた、EGFRファミリーの他のメンバーに対して向けられるモノクローナル抗体に増大した感受性を有し、そして多様な抗EGFRファミリーモノクローナル抗体の効果が、付加的でありうることも示されてきている。
【0192】
[00175]低悪性度漿液性卵巣癌は、卵巣癌の困難な型である。より標準的な高悪性度漿
液性卵巣癌よりは一般的ではないが、低悪性度漿液性腫瘍は、にもかかわらず致死性である可能性もあり、そして標準的な卵巣癌化学療法により反応性でないことが示されてきている(Gershenson, Sun, Lu, Obstet Gynecol, 2006, 361)。したがって、ターゲティング化療法が、これらの腫瘍において活発に関心が持たれる領域である。
【0193】
[00176]以前の研究によって、低悪性度漿液性癌のかなりの割合が、KRASまたはB
RAF突然変異を宿することが示唆されてきており(Singer, Oldtら, JNCI, 2003, 484)、そして再発性低悪性度漿液性卵巣癌の女性において、MEK1/2阻害剤セルメチニブの第2相試験は低レベルの活性を示しており、反応率は15%で、そして無進行生存(PFS)中央値は11ヶ月であった(Farley, Bradyら, Lancet Oncol 2013, p134)。さらに、63%の患者は、6ヶ月よりも長いPFSを経験した。こうしたターゲティング化療法のさらなる試験が現在進行中であり、これには、MEK阻害剤MEK162を標準化学療法に比較する試験(NCT01849874、clinicaltrials.gov)、およびPI3K阻害剤SAR245409とMEK阻害剤ピマセルチブの組み合わせをピマセルチブのみに比較する試験(NCT01936363、clinicaltrials.gov)が含まれる。
【0194】
[00177]HER3経路は低悪性度漿液性卵巣癌において、関心対象の別の潜在的ターゲ
ットであることも可能である。本発明者らの結果において1つの矛盾は、本発明者らが獲得可能であった3つの低悪性度漿液性卵巣癌細胞株のいずれも、MOR10703またはEGFRファミリーをターゲティングする他の抗体にいかなる感受性も示さない一方、初代卵巣癌細胞系統の4つすべてが感受性を示したことであった。
【0195】
[00178]興味深いことに、分子プロファイリングに際して、本発明者らは、低悪性度細
胞株の各々が、KRAS、BRAF、または両方に突然変異を含有することに気付いたが
、これは先に公表された文献(Estep, PLOSOne, 2007, e1279;Pohlle-Ming Shih, Cancer Research, 2005, 1994)と一致しており、一方、本発明者らの初代細胞パックにおいては、BRAFまたはKRAS突然変異はまったく検出されなかった。BRAFおよびKRAS突然変異は、低悪性度漿液性腫瘍の最大30~50%で示されてきている(Farley, Lancet Oncol 2013, p134)。BRAF/KRAS突然変異低悪性度腫瘍の生存および増殖は、下流で働く別の経路によって駆動され、そしてそれによっていかなる独立のHER3シグナル伝達効果も無効にし、BRAF/KRAS突然変異腫瘍をよりHER3経路干渉に反応しにくくしている可能性がある。
【0196】
[00179]EGFRファミリーは、4つの緊密に関連するファミリーメンバー:EGFR
、Her2、HER3、およびErbB4からなり、そしてこれらのキナーゼを通じたシグナル伝達は、ファミリーメンバー間のリガンド活性化ホモおよびヘテロ二量体を通じて、古典的に記載されてきている(Yarden, 2001)。さらに、特定のファミリーメンバーを通じたシグナル伝達が遮断された際(例えば小分子阻害剤または遮断抗体を通じて)、他のファミリーメンバーの活性の上方制御が潜在的な耐性機構として記載されてきている(Sergina;Engelman;Garrett, PNAS 2011, 5021)。任意の所定のファミリーメンバーの遮断を相殺する、異なるEGFRファミリーメンバーを通じたシグナル伝達のこの潜在能力は、初代低悪性度漿液性細胞系統が、EGFRファミリーメンバーの組み合わせた遮断に対してより感受性であるという観察の根底にあるものである可能性もある。臨床的観点から、これは、すべてのEGFRファミリーメンバーを含む、選択された多重キナーゼ阻害が、HER3指向性療法単独よりも、これらの腫瘍に対してより大きい効果を有しうることを示唆する可能性もある。汎ErbBファミリー阻害剤、CI-1033の第2相試験は、白金難治性患者において、最小限の活性しか示さなかった(Camposら、2005);が、この試験は、すべての卵巣癌サブタイプを含み、そして低悪性度漿液性卵巣癌に対するこうした分子の活性は未知のままである。
【0197】
[00180]試薬および抗体。pHer3(Y1289)、pAKT(T308)、および
総AKTに向けられるウェスタンブロッティング用の抗体を、Cell Signaling Technologyから得た。ウェスタンブロッティング用の抗HER3 C末端領域Ab(クローン2F12)を、Lab Visionから得た。ウェスタンブロッティング用の抗NRG1 Abを、Santa Curzから得た(sc-348)。抗HER3モノクローナル抗体MOR10703をNovartis, Incから得た。臨床等級セツキシマブ(ImClone LLC、ニューヨーク州ニューヨーク)およびトラスツズマブ(Genentech, Inc.、カリフォルニア州サウスサンフランシスコ)を、in vitro実験のために購入した。
【0198】
[00181]細胞株。低悪性度漿液性卵巣癌細胞株を、文献検索によって同定した。HEY
細胞は、最初に、卵巣の中程度に分化した乳頭状嚢胞腺癌から得られたと報告された(Buick, Pullano, Trent, Cancer Res, 1985,3668)。MPSC1細胞は、低悪性度漿液性癌(Pohl)から樹立され、そしてジョンズ・ホプキンス大学のIe-Ming Shih博士の厚意により提供された。HOC-7細胞は、卵巣のよく分化した漿液性腺癌を有する患者から得られ(Buick)、そしてMDアンダーソン癌センターのKwong-Kwok Wong博士およびサザンカリフォルニア大学のLouis Dubeau博士の厚意により提供された。HEY細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS、Invitrogen)および1xL-グルタミン(Gibco)を補充したRPMI 1640(Gibco)中で培養した。MPSC1細胞を、5%FBSおよび1xL-グルタミンを含むRPMI 1640中で培養した。HOC7細胞を、10%FBSおよび1xL-グルタミンを含むDMEM(Gibco)中
で培養した。細胞を、5%CO2含有大気中、37℃でインキュベーションした。
【0199】
[00182]初代細胞。初代細胞を、ダナ-ファーバー/ハーバード癌センター施設審査委
員会(DFHCC IRB)およびPartners Human Research Committeeによって認可されたプロトコルのもとで、悪性腹水穿刺術または減量手術を経た、ダナ-ファーバー癌研究所(DFCI)の進行した卵巣癌を有する患者から、初代細胞を得た。患者からの同意書を、IRB指針にしたがって得た。腹水をプロセシングして、そして先に記載されるプロトコル(Claussら、2009)にしたがって、腫瘍細胞を精製した。in vitro実験に用いる初代細胞系統を、10%FBSおよび1x抗生物質・抗菌剤(Invitrogen)を含むRPMI 1640中で増殖させた。細胞を、5%CO2含有大気中、37℃でインキュベーションした。
【0200】
[00183]細胞増殖の評価。初代細胞をおよそ30%の密度でプレーティングし、そして
細胞株を、96ウェルプレート中、ウェルあたりおよそ3000~5000細胞でプレーティングした。MORI0703、セツキシマブ、およびトラスツズマブを、出発濃度から1:1000の濃度で添加した(それぞれ10mg/ml、2mg/ml、および21mg/ml)。プレーティング後、3日ごとに培地および抗体を交換した。CellTiter-Glo(Promega、ウィスコンシン州マディソン)を用いて、細胞増殖および成長を評価し、そして相対増殖を、プレーティングの日に行ったベースライン測定値に比較した。
【0201】
[00184]RNA干渉。NRG1に対するsiRNAを、Qiagenから購入したNR
G1-9で行った。HER3に対するsiRNAを、siRNA配列AAGAGGATGTCAACGGTTA(配列番号2)で行った。対照siRNAをDharmaconから得た。LipofectamineTM RNAi Max(Invitrogen)を用いた一連のRNAiで、RNAiを行った。細胞株を、96ウェルおよび6ウェルプレート中、ウェルあたり1000~3000細胞でプレーティングした。細胞を、第0日(プレーティングの日)、第2日、および第4日に、6ウェルプレートに関して、5μL
LipofectamineTM RNAi Maxおよび100pmolのsiRNAで、連続トランスフェクションした。96ウェルプレートでは、トランスフェクション体積をプレーティングの日には1:10、そして第2日および第4日には1:25にスケールダウンした。各トランスフェクション後に培地を交換した。
【0202】
[00185]細胞抽出物およびウェスタンブロッティング。新鮮に添加した50mM Na
F、0.4mMオルトバナジウム酸ナトリウム、および完全プロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤(Roche)を含有するSDS不含RIPA緩衝液(Boston Bioproducts、マサチューセッツ州アッシュランド)を、抽出物調製のために用いた。ウェスタンブロッティングのため、免疫沈殿物を溶解緩衝液で3回洗浄し、SDSゲル電気泳動によって分離し、そして分離されたタンパク質をニトロセルロース膜上にブロッティングし、これを適切な抗体で発色させた。
【0203】
[00186]次世代配列決定。OncoPanelバージョン2(OPv2)を用いて、癌
ゲノム発見センターによって、次世代配列決定を行った。Qiagen DNeasyキット(Qiagen)を用いて、卵巣癌細胞株およびDF細胞系統からDNAを単離した。
【0204】
[00187]同等物
[00188]前述の書面の明細は、当業者が本発明を実施することを可能にするために十分
であると見なされる。前述の説明および例は、本発明の特定の好ましい態様を詳述し、そして本発明者らによって意図される最適の様式を記載する。しかし、前述の説明が本文中
でいかに詳細であるように見えるかに関わらず、本発明は、多くの方式で実行可能であり、そして本発明は、付随する請求項およびそのあらゆる均等物にしたがって解釈されなければならない。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
【配列表】
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