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特許7094341二次電池の劣化判定システム及び劣化判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】二次電池の劣化判定システム及び劣化判定方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20220624BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20220624BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20220624BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20220624BHJP
【FI】
H01M10/48 301
H01M10/44 Q
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
H02J7/00 X
G01R31/392
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020177201
(22)【出願日】2020-10-22
(62)【分割の表示】P 2018147713の分割
【原出願日】2018-08-06
(65)【公開番号】P2021015800
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】増田 重巳
(72)【発明者】
【氏名】辻 直樹
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-020826(JP,A)
【文献】特開2011-078180(JP,A)
【文献】特開2016-134259(JP,A)
【文献】特開2017-085735(JP,A)
【文献】特開2011-215125(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0153292(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0064780(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/42-10/48
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
G01R31/36-31/396
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の体積変化を検出する体積変化検出部と、
前記二次電池の容量変化を検出する容量変化検出部と、
前記二次電池の充電を制御する充電制御部と、
を備え、
前記充電制御部は、前記体積変化検出部により前記二次電池の体積膨張が検出された状態、かつ、前記容量変化検出部により前記二次電池の容量低減が検出されない状態のとき、第1充電抑制制御を行うとともに、
前記体積変化検出部により前記二次電池の体積膨張が検出された状態、かつ、前記容量変化検出部により前記二次電池の容量低減が検出された状態のとき、第2充電抑制制御を行う、
二次電池の劣化判定システム。
【請求項2】
前記体積変化検出部は、前記二次電池の表面圧力の変化に基づき前記二次電池の体積変化を検出する、
請求項1に記載の二次電池の劣化判定システム。
【請求項3】
前記二次電池の表面に設置されるひずみゲージを備え、
前記体積変化検出部は、前記ひずみゲージの計測値の変化に基づき前記二次電池の表面圧力の変化を検出する、
請求項2に記載の二次電池の劣化判定システム。
【請求項4】
前記容量変化検出部は、同一条件下における前記二次電池の充電特性を比較することにより、前記二次電池の容量変化を検出する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池の劣化判定システム。
【請求項5】
前記二次電池はリチウムイオン電池である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の二次電池の劣化判定システム。
【請求項6】
二次電池の体積変化を検出する体積変化検出ステップと、
前記二次電池の容量変化を検出する容量変化検出ステップと、
前記体積変化検出ステップにて前記二次電池の体積膨張が検出された状態、かつ、前記容量変化検出ステップにて前記二次電池の容量低減が検出されない状態のとき、第1充電抑制制御を行うステップと、
前記体積変化検出ステップにて前記二次電池の体積膨張が検出された状態、かつ、前記容量変化検出ステップにて前記二次電池の容量低減が検出された状態のとき、第2充電抑制制御を行うステップと、
を含む二次電池の劣化判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池の劣化判定システム及び劣化判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池などの二次電池は、エネルギー密度が高く、コンパクトで軽量であるため、電気自動車やスマートフォンといった蓄電システムへ多く活用されている。
【0003】
リチウムイオン電池は充放電を繰り返すことで劣化を生じる。そこで従来より、電極端子間の電圧、電流、温度などを測定し監視することによって、リチウムイオン電池の劣化状態を推定し、劣化度合いを考慮した充電制御が行われている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-215125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、劣化度合いを考慮した充電制御では、過充電を回避して安全性を十分に担保できるように、二次電池の使用領域に大きなマージンが設けられる。このため、実際の充電できる二次電池の容量と、充電制御で設定される充電容量の上限値(充電許容上限値)との偏差が大きくなり、充電効率が低いという問題があった。充電効率を向上させるためには、二次電池の劣化判定の精度を改善して、二次電池の充電容量のマージンを少なくできるのが望ましい。
【0006】
本開示は、劣化度合いを考慮しつつ、充電効率を向上できる二次電池の劣化判定システム及び劣化判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態の一観点に係る二次電池の劣化判定システムは、二次電池の体積変化を検出する体積変化検出部と、前記二次電池の容量変化を検出する容量変化検出部と、前記二次電池の充電を制御する充電制御部と、を備え、前記充電制御部は、前記体積変化検出部により前記二次電池の体積膨張が検出された状態、かつ、前記容量変化検出部により前記二次電池の容量低減が検出されない状態のとき、第1充電抑制制御を行うとともに、前記体積変化検出部により前記二次電池の体積膨張が検出された状態、かつ、前記容量変化検出部により前記二次電池の容量低減が検出された状態のとき、第2充電抑制制御を行う。
【0008】
同様に、本発明の実施形態の一観点に係る二次電池の劣化判定方法は、二次電池の体積変化を検出する体積変化検出ステップと、前記二次電池の容量変化を検出する容量変化検出ステップと、前記体積変化検出ステップにて前記二次電池の体積膨張が検出された状態、かつ、前記容量変化検出ステップにて前記二次電池の容量低減が検出されない状態のとき、第1充電抑制制御を行うステップと、前記二次電池が劣化状態であると判定する劣化判定ステップと、前記体積変化検出ステップにて前記二次電池の体積膨張が検出された状態、かつ、前記容量変化検出ステップにて前記二次電池の容量低減が検出された状態のとき、第2充電抑制制御を行うステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、劣化度合いを考慮しつつ、充電効率を向上できる二次電池の劣化判定システム及び劣化判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る劣化判定システムの概略構成を示すブロック図である。
図2】充放電試験におけるひずみゲージ測定値と充放電時間との関係を示す図である。
図3】リチウムイオン電池の劣化判定処理の手順を示すフローチャートである。
図4】リチウムイオン電池の使用時間経過に伴う安全率の調整の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、実施形態に係る劣化判定システム1の概略構成を示すブロック図である。劣化判定システム1は、二次電池の一例としてのリチウムイオン電池2の劣化を判定する。図1に示すように、劣化判定システム1は、充電装置3と、制御装置4と、ひずみゲージ5とを備える。
【0013】
リチウムイオン電池2は、例えば図1に示す構成をとり、一対の主面24を有する薄型の略直方体形状の筐体21で被覆されている。図1では、図の奥行き方向に沿って対向するよう筐体21の一対の主面24が配置される。主面は略矩形状であり、主面24と直交する筐体21の4つの側面のうちの1つ(図1では上方の面)には正極端子22及び負極端子23が設けられる。正極端子22及び負極端子23のそれぞれの一端は筐体21から外部に突出しており、充電装置3に接続されている。リチウムイオン電池2は、図1に示す単セルでもよいし、図1に示す単セルを複数個接続する組電池でもよい。
【0014】
充電装置3は、リチウムイオン電池2の正極端子22及び負極端子23と接続して、正極端子22及び負極端子23を介してリチウムイオン電池2の充電を行う。充電装置3は、例えば電池の劣化度合いに応じた充電許容上限値の設定値をもっており、電池の残量をみて上限値まで充電することができる。また、充電装置3は、満充電までの所要時間などのデータを制御装置4に出力する。
【0015】
制御装置4は、充電装置3の充電を制御する。また、制御装置4は、ひずみゲージ5から入力される情報に基づいてリチウムイオン電池2の劣化度合いを判定する。制御装置4は、これらに関する機能として、充電制御部41と、容量変化検出部42と、体積変化検出部43とを有する。
【0016】
充電制御部41は、充電装置3によるリチウムイオン電池2の充電処理を制御する。充電制御部41は、充電時間や電圧値の制御を行う。また、充電制御部41は、リチウムイオン電池2の劣化度合いに応じて充電許容上限値の設定値を変更して、充電装置3に出力する。例えば劣化が大きくなるほど充電許容上限値を小さくして、過充電を防止して、電池がより安定的な動作となるようにする。
【0017】
容量変化検出部42は、リチウムイオン電池2の満充電時の容量の変化を検出する。容量変化検出部42は、例えば出荷時にさまざまな条件下(気温、充電残量など)での満充電までの所要時間(充電時間)の情報をテーブルとして保持しており、同一条件下で充電をおこなったときの充電時間と比較することで、電池の劣化を判定できる。
【0018】
体積変化検出部43は、ひずみゲージ5の測定値に基づき、リチウムイオン電池2の体積変化を検出する。例えば、ひずみゲージの測定値が基準値より大きい場合には、電池の体積が膨張していると判定できる。
【0019】
制御装置4は、任意のハードウェア、ソフトウェア、或いはそれらの組み合わせにより実現されてよい。制御装置4は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、補助記憶装置、I/O(Input-Output interface)等を含むマイクロコンピュータを中心に構成されてよく、ROMや補助記憶装置等に格納される各種プログラムをCPU上で実行することにより上記の各種機能が実現される。
【0020】
ひずみゲージ5は、リチウムイオン電池2の表面に設置され、設置部分のひずみに応じた電気信号を出力する。ひずみゲージ5は、例えば図1に示すように直方体形状のリチウムイオン電池2の主面24の略中央位置に設置される。ひずみゲージ5により検出されるひずみは、設置部分に加えられた力(荷重)に応じて発生する機械的な微小変化である。リチウムイオン電池2の体積が膨張したときに、リチウムイオン電池2の筐体21には内側から外側へ荷重がかかり、筐体21の表面の圧力が増加する。リチウムイオン電池2の表面圧力が増加すればひずみゲージ5により検出されるひずみも増加する。そこで本実施形態では、ひずみゲージ5により検出されるひずみに基づきリチウムイオン電池2の体積変化を検出している。
【0021】
なお、ひずみゲージ5は、リチウムイオン電池2の劣化に伴い発生する電池表面の膨張を検知できればよく、設置位置は主面24以外でもよい。例えばリチウムイオン電池2の主面24と直交する側面に設置してもよい。また、ひずみゲージ5としては、例えば金属ひずみゲージや半導体ひずみゲージなど任意の種類のものを適用してよい。
【0022】
ここで図2を参照して、本実施形態の劣化判定システム1において特に電池劣化を検出したいタイミングについて説明する。図2は、充放電を繰り返す充放電試験におけるひずみゲージ測定値と、満充電・満放電までの充放電時間との関係を示す図である。この充放電試験では、所定の充放電許容量までの充電と放電を繰り返して行い、その最中のひずみゲージの測定値と、充放電時間とを記録した。図中のグラフAは充放電試験の時間経過に伴うひずみゲージ測定値の特性を示す。図中のグラフBは、充放電試験の時間経過に伴う充放電時間の特性を示す。図中の横軸が充放電試験の経過時間を示し、縦軸がそれぞれひずみゲージ測定値(μV)、充放電時間(s)を示す。
【0023】
まずグラフBの充放電時間をみると、時刻t2までは充放電時間はほぼ一定を維持し、時刻t2を過ぎると減少している。充放電時間が低減するということは、リチウムイオン電池2が充電可能な許容量が徐々に減少している状態であり、電池の劣化が進行していることを意味する。つまり、充放電時間を観測した場合には、試験開始から時刻t2経過以降になって初めて電池の劣化を検出できることになる。
【0024】
次にグラフAのひずみゲージ測定値をみると、時刻t2より早い時刻t1においてステップ状に増大し、時刻t1からt2までの区間では、時刻t2以降の推移に対して相対的に緩やかに増大する。そして時刻t2を過ぎると、時刻t1~t2の推移に対して相対的に大きく増大する。ひずみゲージ測定値が増大することは、リチウムイオン電池2の表面が膨張しており、電池の体積が膨張している状態であり、電池の劣化が進行していることを意味する。つまり、ひずみゲージ5の測定値を観測した場合には、充放電時間を観測した場合よりも早い時刻t1から電池の劣化を検出できる。
【0025】
そして、充放電時間とひずみゲージ測定値の両方の特性をみると、まず時刻t1以前では両方に劣化の兆候はない。次に、時刻t1~t2の区間では、充放電時間は略一定である一方で、ひずみゲージ測定値は緩やかな増加傾向となるので、第1の劣化の兆候を観測できる。さらに時刻t2以降の区間では、充放電時間は減少する一方で、ひずみゲージ測定値は時刻t1~t2の区間より大きな増加傾向となるので、第2の劣化の兆候を観測できる。言い換えると、ひずみゲージ測定値の特性と充放電時間の特性との間には、時刻t2以前には相関関係がほとんど無いが、時刻t2以降では相関関係が生じるようになっている。
【0026】
従来のリチウムイオン電池2の劣化判定手法では、正極端子22と負極端子23との間の電圧、電流、温度などを測定し監視することによって、リチウムイオン電池2の劣化状態を推定していた。つまり電池の電気的挙動に基づいていた。これは、体積膨張などの物理的挙動よりも、電気的挙動のほうが先に表出しやすいという考え方に基づく。電気的挙動は図2に示す充放電時間と相関がある。
【0027】
ところが、図2に示したリチウムイオン電池2の充放電試験の結果からは、リチウムイオン電池2では、充放電時間の変化を含む電気的挙動よりも、体積変化などの物理的挙動のほうが先に表出することが見出された。本実施形態の劣化判定システム1は、この点を電池劣化判定のポイントとして着目している。すなわち劣化判定システム1は、ひずみゲージ測定値に基づき体積変化を検出し、かつ、充放電時間から容量変化を検出し、体積変化と容量変化の2つの特性を考慮して電池劣化を判定する。これにより、充放電時間の情報だけでは検出できない時刻t1~t2の区間でも電池劣化を検出できる。
【0028】
なお、図2に示した時刻t1、t2は、例えば外気温や電池容量、電池の種類など、充放電試験の実施条件に応じて適宜変動するものである。
【0029】
図3を参照して実施形態に係るリチウムイオン電池2の劣化判定方法を説明する。図3は、実施形態に係る劣化判定システム1により実施されるリチウムイオン電池2の劣化判定処理の手順を示すフローチャートである。図3のフローチャートの処理は制御装置4により実施される。
【0030】
ステップS01では、体積変化検出部43により、ひずみゲージ5の測定値に基づいてリチウムイオン電池2の体積変化(膨張量)が算出される。例えば、体積変化検出部43はひずみゲージ5の初期状態の測定値のデータをもっておき、現在の測定値と初期状態の測定値との偏差の大小に応じて膨張量の大小を算出できる。
【0031】
ステップS02では、容量変化検出部42により、リチウムイオン電池2の容量変化が算出される。容量変化検出部42は、例えば、充電装置3から現在のリチウムイオン電池2の満充電までの充電時間の情報と、気温や充電残量などの測定条件の情報を取得して、テーブルとして保持している出荷時の同一条件下の充電時間とを比較することで容量変化を算出する。例えば、現在の充電時間と初期状態の充電時間との偏差が大きいほど、容量が低減しているように容量変化を算出できる。
【0032】
ステップS03(容量変化検出ステップ)では、容量変化検出部42により、ステップS02で算出されたリチウムイオン電池2の容量変化量に基づき、リチウムイオン電池2の容量が低減しているか否かが判定される。容量変化検出部42は、例えば容量変化量が所定値以上低減しているときに容量の低減を検知できる。ステップS03の判定の結果、容量低減が生じている場合(ステップS03のYes)にはステップS06に進む。容量低減が生じていない場合(ステップS03のNo)にはステップS04に進む。
【0033】
なお、ステップS03において容量低減が生じておらず容量変化が無いと判定される状態とは、ステップS02で算出されたリチウムイオン電池2の容量変化量が0であり現在の容量値と初期状態の容量値とが同一である状態だけでなく、容量変化量が所定範囲内に収まっている状態まで含めることができる。
【0034】
ステップS04(体積変化検出ステップ)では、体積変化検出部43により、ステップS01で算出されたリチウムイオン電池2の体積の膨張量が閾値V1以上か否かが判定される。なお、この閾値V1は、図2に示す時刻t1におけるひずみゲージ計測値の立ち上がり量より小さいのが望ましい。これにより、時刻t1~t2の区間での体積膨張を検出できる。ステップS04の判定の結果、体積膨張がV1以上の場合(ステップS04のYes)にはステップS05に進む。体積膨張がV1以下の場合(ステップS04のNo)にはステップS01に戻る。
【0035】
なお、ステップS04の膨張検出は、上記の体積の変化量をみる構成の他にも体積の増加率(図2のグラフAの傾き)をみる構成を含んでもよい。これにより、例えばグラフAの時刻t1のステップ状の変化を迅速に検出でき、体積膨張を検出しやすくできる。また、ステップS01にて体積に変換せずにひずみゲージ5の測定値をそのまま判定に用いてもよい。
【0036】
ステップS05(劣化判定ステップ)では、ステップS03にて容量が低減していない状態と判定され、かつ、ステップS04にて体積膨張が所定量V1以上の状態と判定されたので、充電制御部41は、図2に示した時刻t1~t2のいずれかのタイミングであり、リチウムイオン電池2に第1の劣化が生じているものと判断できる。このため、第1の劣化状態による影響を抑える第1充電抑制制御が実施される。
【0037】
第1充電抑制制御では、リチウムイオン電池2の劣化度合いに応じて1回または複数回で充電許容上限値を低減させる。なお、第1充電抑制制御では、例えばひずみゲージ計測値の変化量(体積膨張量)に基づき、電池の劣化度合いを反映した値(SOH:States of Health)を推定し、推定したSOHに応じて充電許容上限値の低減量を調整することができる。なお、抑制制御にて調整するパラメータは、充電許容上限値の低減以外にも、充電時間の短縮や充電電圧の低減、或いは放電下限値の増高でもよい。ステップS05の処理が完了すると本制御フローは終了する。
【0038】
ステップS06(体積変化検出ステップ)では、体積変化検出部43により、ステップS01で算出されたリチウムイオン電池2の体積の膨張量が閾値V2以上か否かが判定される。なお、この閾値V2は、図2に示す時刻t2以降におけるひずみゲージ計測値の任意の値であるのが好ましい。これにより、時刻t2以降での体積膨張を検出できる。ステップS06の判定の結果、体積膨張がV2以上の場合(ステップS06のYes)にはステップS07に進む。一方、体積膨張がV2以下の場合(ステップS06のNo)には、図2に示した時刻t2以降のいずれかのタイミングであるが、まだ第2充電抑制制御を実施せずにステップS01に戻る。
【0039】
ステップS07では、ステップS03にて容量が低減している状態と判定され、かつ、ステップS06にて体積膨張が所定量V2以上の状態と判定されたので、充電制御部41は、図2に示した時刻t2以降のいずれかのタイミングであり、リチウムイオン電池2に第2の劣化が生じているものと判断できる。このため、第2の劣化状態による影響を抑える第2充電抑制制御が実施される。
【0040】
第2充電抑制制御では、リチウムイオン電池2の劣化度合いに応じて1回または複数回で充電許容上限値を低減させる。なお、第2充電抑制制御では、例えばひずみゲージ計測値の変化量(体積膨張量)、または、電池容量の変化量、或いは、それら両方に基づきSOHを推定し、推定したSOHに応じて充電許容上限値の低減量を調整することができる。第2充電抑制制御の充電許容上限値の低減量は、第1充電抑制制御のものと異なってもよい。また、第2充電抑制制御は、第1充電抑制制御と同様の内容でもよい。ステップS07の処理が完了すると本制御フローは終了する。
【0041】
図4を参照して、実施形態に係る劣化判定システム1の効果を説明する。図4は、リチウムイオン電池2の使用時間経過に伴う充電許容上限値の調整の一例を示す図である。図4のグラフCは実施形態に係る劣化判定システム1での充電許容上限値の推移を示す。図4のグラフDは比較例としての従来の電気的挙動しかみない場合の充電許容上限値の推移を示す。図中の横軸が使用時間を示し、縦軸がリチウムイオン電池2の容量を示す。縦軸では、リチウムイオン電池2の初期状態(例えば製造時)の充電可能な容量(初期容量)を100%として示す。
【0042】
比較例では、図2を参照して説明したとおり時刻t2以前では電気的挙動に変化が出ないためリチウムイオン電池2の劣化を検出できない。このため、図4のグラフDに示すように、充電許容上限値の初期値(初期安全率)を低く設定し、リチウムイオン電池2の初期容量100%からの下げ幅M2(マージン)を大きくとり、時刻t2までの区間で初期安全率の一定値で過充電を防止できるようにしている。ここで「マージン」とは、実際の充電できるリチウムイオン電池2の容量と、過充電防止などの安全性を考慮した充電を許容できる容量の上限値(充電許容上限値)との差分とも表現できる。
【0043】
これに対して本実施形態の劣化判定システム1では、体積変化検出部43によりリチウムイオン電池2の体積膨張が検出された状態、かつ、容量変化検出部42によりリチウムイオン電池2の容量低減が検出されない状態のとき、リチウムイオン電池2が劣化状態であると判定する。つまり、リチウムイオン電池2の電気的挙動に加えて物理的挙動に基づいて劣化判定を行う。この構成により、図4のグラフCに示すように、時刻t2より早いタイミングとなる時刻t1~t2の区間でもリチウムイオン電池2の劣化を検出できる。つまり、従来の電気的挙動に基づく劣化判定では検出できなかった早いタイミングの区間でも電池の劣化を検出できる。これにより、図4に矢印Yで示すように、劣化検出タイミングを前倒しでき、劣化判定の分解能を高くできるので、劣化判定の精度が向上する。したがって、劣化判定システム1は、より高精度に電池内部の劣化状態を推定できる。
【0044】
また、本実施形態の劣化判定システム1では、制御装置4は、リチウムイオン電池2が劣化状態であると判定したとき、リチウムイオン電池2の充電を抑制する充電抑制制御を実施する。具体的には、充電許容上限値を劣化度合いに応じて低減させて満充電時の電池容量を低く抑える。
【0045】
上述のとおり、本実施形態の劣化判定システム1ではリチウムイオン電池2の劣化判定の精度を向上できるので、最初の劣化検出タイミングを従来より前倒しできる。劣化検出タイミングが早くできると、充電抑制制御も従来より早く実施して充電許容上限値を下げる処理を行うことができる。このため、充電許容上限値の初期値(初期安全率)は時刻t1以降を考慮しなくて済むので、従来より電池の使用領域に設けるマージンを少なくでき、充電許容上限値の初期値を従来より高く設定し、リチウムイオン電池2の初期容量100%からの下げ幅M1(マージン)を小さくできる。つまり、高精度な劣化判定によって、従来の制御方式に対して、充電許容上限値を低減させる制御をより細かく行うことが可能となる。これにより、図4に矢印Xで示すように本実施形態のグラフCでは、初期のマージンM1を従来のマージンM2よりX分だけ小さくでき、その後のマージンも時間経過の全体に亘って従来より小さく設定できる。つまり、従来よりも電池の使用領域の限界間際まで電池を使用することが可能になる。この結果、本実施形態の劣化判定システム1は、従来に比べてリチウムイオン電池2の本来の容量(100%)により近い容量で充電を行うことが可能となるので、充電効率を向上できる。
【0046】
また、本実施形態の劣化判定システム1では、充電制御部41は、体積変化検出部43によりリチウムイオン電池2の体積膨張が最初に検出されたとき、すなわち図2図4に示す時刻t1のとき、リチウムイオン電池2が劣化状態であると判定する。これにより、図2に示すリチウムイオン電池2の劣化に関する物理的挙動が最初に発生した瞬間に、リチウムイオン電池2の劣化を検出できるので、劣化判定の精度をより一層向上できる。
【0047】
また、本実施形態の劣化判定システム1では、体積変化検出部43は、リチウムイオン電池2の表面圧力の変化に基づきリチウムイオン電池2の体積変化を検出する。電池2が劣化して膨張する際には、電池2の内部側から外部側に荷重がかかって表面の圧力が増加するので、リチウムイオン電池2の表面圧力の変化は体積変化との相関が強いといえる。したがって、表面圧力の変化を監視することで、リチウムイオン電池2の体積変化を精度良く検出できる。
【0048】
また、本実施形態の劣化判定システム1では、リチウムイオン電池2の表面に設置されるひずみゲージ5の計測値の変化に基づき電池表面の圧力変化を検出するので、比較的安価なひずみゲージ5を用いて低コスト化を図れる。
【0049】
また、本実施形態の劣化判定システム1では、容量変化検出部42は、同一条件下におけるリチウムイオン電池2の充電特性(例えば充電時間)を比較することにより、リチウムイオン電池2の容量変化を検出する。充電特性の変化は容量変化との相関が強いので、充電特性の変化を監視することで、リチウムイオン電池2の容量変化を精度良く検出できる。
【0050】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0051】
上記実施形態では、体積変化検出部43が、電池表面に設置されたひずみゲージ5の測定値に基づき電池の体積膨張を検出する構成を例示したが、電池の表面圧力の変動を計測できればよく、ひずみゲージ以外の圧力センサを用いてもよい。また、電池表面以外で計測した情報でもよい。例えばリチウムイオン電池2が劣化すると電池内部にガスが発生する傾向があるので、電池内部にガスセンサを設置してガス発生を検知する手法でもよい。
【0052】
上記実施形態では、容量変化検出部42が、気温や充電残量などの条件が同一のときの出荷時の充電時間と、現在の充電時間とを比較することで、リチウムイオン電池2の容量の変化を検出する手法を例示したが、容量変化の検出手法はこれに限られない。例えば、充放電を行うたびに実施時の条件に対応する充放電時間の情報を出荷時のものから更新し、更新した情報を基準として充放電時間の変化を検出してもよい。また、充電時間以外の充電特性(充電可能容量など)を用いて容量変化を検出する構成でもよい。
【0053】
上記実施形態では、劣化判定の対象としてリチウムイオン電池2を例示したが、ニッケル水素電池や鉛電池など他の二次電池にも適用可能である。
【0054】
上記実施形態では、劣化判別時に充電抑制制御を実施する構成を例示したが、劣化判別後に他の制御や処理を実施してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 劣化判定システム、2 リチウムイオン電池(二次電池)、3 充電装置、4 制御装置、5 ひずみゲージ、21 筐体、22 正極端子、23 負極端子、24 主面、41 充電制御部、42 容量変化検出部、43 体積変化検出部、ステップS03 容量変化検出ステップ、ステップS04,S06 体積変化検出ステップ、ステップS05劣化判定ステップ
図1
図2
図3
図4