(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】立軸ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/66 20060101AFI20220624BHJP
F04D 13/00 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
F04D29/66 F
F04D13/00 F
F04D13/00 L
(21)【出願番号】P 2020504830
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2019001233
(87)【国際公開番号】W WO2019171774
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2018042086
(32)【優先日】2018-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000152170
【氏名又は名称】株式会社酉島製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】兼森 祐治
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-203806(JP,A)
【文献】実開平4-76998(JP,U)
【文献】特開2004-239215(JP,A)
【文献】特開2013-217217(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102094742(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/66
F04D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水槽に上下方向へ延びるように配置されたポンプケーシングと、
前記吸水槽の排水開始水位に位置するように、前記ポンプケーシング内に回転可能に配置された羽根車と、
前記吸水槽内での空気吸込渦の発生を抑制するための渦防止配管と、
前記吸水槽内の水位が前記排水開始水位よりも低くなると、前記吸水槽内の空気を前記ポンプケーシング内に供給するための給気配管と
を備え、
前記渦防止配管は、
前記ポンプケーシングの前記排水開始水位よりも下側を取り囲む環状の横パイプと、
前記ポンプケーシングの外側に上下方向へ延びるように配置され、下端が前記横パイプに接続され、上端が塞がれた第1縦パイプと
を備え、
前記給気配管は、
一端が前記吸水槽内の前記排水開始水位に配置され、他端が前記第1縦パイプ内に配置された第1吸気パイプと、
一端が前記横パイプに接続され、他端が前記ポンプケーシングの前記羽根車よりも下側に接続された給気パイプと
を備える、立軸ポンプ。
【請求項2】
前記渦防止配管は、前記第1縦パイプに対して前記ポンプケーシングを中心として周方向に間隔をあけて位置し、前記ポンプケーシングの外側に上下方向へ延びるように配置され、下端が前記横パイプに接続され、上端が塞がれた第2縦パイプを更に備え、
前記給気配管は、一端が前記排水開始水位よりも低い前記吸水槽の排水遮断水位に配置され、他端が前記第2縦パイプ内に配置された第2吸気パイプを更に備える、請求項1に記載の立軸ポンプ。
【請求項3】
前記第1縦パイプの前記上端と前記第2縦パイプの前記上端、及び前記第1吸気パイプの前記他端と前記第2吸気パイプの前記他端は、前記排水開始水位よりも高い前記吸水槽の最高水位よりも高い位置にそれぞれ配置されている、請求項2に記載の立軸ポンプ。
【請求項4】
前記第1吸気パイプを含む前記第1縦パイプは、前記ポンプケーシングを中心として周方向に間隔をあけて2組配置されており、
前記2組の第1吸気パイプのうちの一方の前記一端と他方の前記一端の間隔L1は、以下を満たす、請求項1から3のいずれか1項に記載の立軸ポンプ。
【請求項5】
前記第1吸気パイプの前記一端は、前記吸水槽内の水面と交差する向きに開口している、請求項1から4のいずれか1項に記載の立軸ポンプ。
【請求項6】
前記第1縦パイプ及び前記第1吸気パイプの関係は、以下の式(1)を満たし、
前記横パイプ、前記第1吸気パイプ及び前記給気パイプの関係は、以下の式(2)を満たし、
前記給気パイプ及び前記第1吸気パイプの関係は、以下の式(3),(4)を満たす、請求項1から5のいずれか1項に記載の立軸ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立軸ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
吸水槽に鉛直方向に延びるように配置されたポンプケーシングと、ポンプケーシング内に回転可能に配置された羽根車とを備える立軸ポンプが知られている。
【0003】
特許文献1には、吸気口の位置が異なる2種の吸気パイプを配置し、水が吸水槽内に流入する前に予め運転を可能とした先行待機形の立軸ポンプが開示されている。しかし、このポンプでは、水面から吸込口に向けた水流に吸水槽内の空気が含まれる空気吸込渦の発生を抑制できない。
【0004】
特許文献2には、ポンプケーシングの外側に、環状の横パイプと、鉛直方向へ延びる縦パイプとを配置し、吸水槽の水面での空気吸込渦の発生を抑制するようにした立軸ポンプが開示されている。しかし、このポンプでは、水が吸水槽に流入する前に運転を開始すること(先行待機)ができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-203806号公報
【文献】特開2013-217217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、空気吸込渦の発生抑制と先行待機の両機能を併せ持ち、より低水位での排水を効果的に実現可能な立軸ポンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、吸水槽に上下方向へ延びるように配置されたポンプケーシングと、前記吸水槽の排水開始水位に位置するように、前記ポンプケーシング内に回転可能に配置された羽根車と、前記吸水槽内での空気吸込渦の発生を抑制するための渦防止配管と、前記吸水槽内の水位が前記排水開始水位よりも低くなると、前記吸水槽内の空気を前記ポンプケーシング内に供給するための給気配管と
を備え、前記渦防止配管は、前記ポンプケーシングの前記排水開始水位よりも下側を取り囲む環状の横パイプと、前記ポンプケーシングの外側に上下方向へ延びるように配置され、下端が前記横パイプに接続され、上端が塞がれた第1縦パイプとを備え、前記給気配管は、一端が前記吸水槽内の前記排水開始水位に配置され、他端が前記第1縦パイプ内に配置された第1吸気パイプと、一端が前記横パイプに接続され、他端が前記ポンプケーシングの前記羽根車よりも下側に接続された給気パイプとを備える、立軸ポンプを提供する。
【0008】
排水開始水位は、近隣の河川又は海の水位と、周囲の建造物の状況とに基づいて、要求仕様として定められる。この立軸ポンプは、吸水槽内の水位によって、吸水槽内の空気を取り込みつつ排水を行う気水混合運転、水のみを排水する排水(全水)運転、及び排水することなくポンプケーシング内に水柱を保持したエアロック(排水遮断)運転に切り替わる。また、オペレータが始動させた当初は、水柱の保持も排水も行わない気中運転になる。
【0009】
気水混合運転では、第1吸気パイプが空気を吸い込むことで、吸込口からの吸水量は減るが、吸水槽内の水面の流速が遅くなるため、排水可能な水位を下げることができる。但し、水位が排水開始水位よりも低くなるに従って、やがて水面は空気吸込渦が生じる流速になるが、この空気吸込渦の発生は、ポンプケーシングの外側に配置した渦防止配管によって抑制できる。よって、渦防止配管又は給気配管が無いポンプよりも、吸水槽を深くすることなく、より低水位での排水を効果的に実現できる。しかも、給気配管を構成する第1吸気パイプと給気パイプは、渦防止配管を構成する第1縦パイプと横パイプに接続され、これらを給気用流路として兼用している。よって、渦発生抑制と先行待機の両機能を併せ持つにも拘わらず、ポンプ全体として簡素な構成を実現できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の立軸ポンプでは、渦防止配管と給気配管を備えるため、これらのうちの一方が無いポンプよりも、より低水位での排水を効果的に実現できる。しかも、給気配管は、渦防止配管を構成するパイプを給気用流路として兼用しているため、渦発生抑制と先行待機の両機能を併せ持つにも拘わらず、ポンプ全体として簡素な構成を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る立軸ポンプを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る立軸ポンプ10(以下「ポンプ」と言う。)を示す。このポンプ10は、吸水槽1に流入した水を下流側へ排水する。本実施形態のポンプ10は、ポンプケーシング12の外側に渦防止配管30と給気配管38を備え、吸水槽1の水位によって、排水(全水)運転、気水混合運転、及びエアロック(排水遮断)運転に切り換わる先行待機形である。
【0014】
(立軸ポンプの概要)
図1に示すように、ポンプ10は、ポンプケーシング12、回転軸22、及び羽根車25を備える。
【0015】
ポンプケーシング12は、吸水槽1内で上下方向に延びるように、吸水槽1の上部を覆う据付床2に固定されている。ポンプケーシング12は、吸水槽1内に配置された揚水管13と、据付床2上に配置された吐出し管19とを備える。揚水管13は、直管14、ベーンケーシング15、及びベルマウス17を備え、この順で上側から下側へ接続されている。吐出し管19は、中心軸が90度湾曲した吐出エルボ20を備え、直管14の上端に接続されている。吐出エルボ20の出口には、下流側へ排水するための送水管(図示せず)が接続されている。
【0016】
回転軸22は、吐出エルボ20を貫通し、揚水管13の軸線に沿って配置されている。回転軸22は、直管14及びベーンケーシング15内の軸受ケーシング16に配置された水中軸受(摺動部品)23に、回転可能に支持されている。回転軸22の上端は吐出エルボ20から外側へ突出されており、その貫通する部分は軸封装置によって水密にシールされている。
【0017】
羽根車25は、軸受ケーシング16の下側に配置され、回転軸22の下端に固定されている。羽根車25の上端26は、排水開始水位LWLと同一高さに配置されている。この排水開始水位LWLについては、後で詳述する。
【0018】
ポンプケーシング12から突出した回転軸22の上端には、駆動手段(図示せず)が接続されている。駆動手段には、電動モータ又は内燃機関の1つであるディーゼル機関が用いられる。駆動手段を駆動すると、回転軸22と一体に羽根車25が回転されることで、吸水槽1内の水がポンプケーシング12内を通って下流側へ排出される。
【0019】
図2に一点鎖線で示すように、排水によって吸水槽1内の水位が渦発生水位VWLまで下がると、水面からポンプケーシング12の吸込口18に向けた水流(空気吸込渦Sv)が生じる。この空気吸込渦Svは吸水槽1内の水面の流速が一定レベルに達することで発生し、その流速には吸水槽1の断面積が影響している。よって、渦発生水位VWLは、個々の吸水槽1の断面形状によって異なる。空気吸込渦Svの水流には吸水槽1内の空気が連続的又は断続的に吸い込まれるため、据付床2の劣化の原因になる振動がポンプ10に生じる。
【0020】
渦防止配管30は、空気吸込渦Svの発生を抑制するために設けられている。渦防止配管30は、ポンプケーシング12の排水開始水位LWLよりも下側を取り囲む環状の横パイプ32と、ポンプケーシング12の外側に上下方向へ延びるように配置された直管状の縦パイプ35とを備える。横パイプ32の内径はポンプケーシング12(ベルマウス17の上部)の外径よりも大きく、これらの間には定められた隙間(流路)が確保されている。縦パイプ35は、実測又は演算によって想定される空気吸込渦Svの発生位置に配置されている。水面から吸込口18に向けた水流が縦パイプ35に干渉することで、空気吸込渦Svの発生を効果的に抑制できる。
【0021】
一方、集中豪雨等によって吸水槽1内に水が急激に流れ込んだ場合、排水(ポンプ10の始動)が遅れると、吸水槽1から水が溢れる可能性がある。この問題は、吸水槽1に水が無い状態でもポンプ10の運転を継続させれば解消できるが、この場合には水中軸受23が過熱され、回転軸22に焼き付くという問題がある。
【0022】
給気配管38は、
図2に示すように、ポンプケーシング12内に水柱WCを保持したエアロック運転を可能とすることで、水中軸受23の過熱を防ぎ、ポンプ10を継続運転可能とするために設けられている。給気配管38は、第1吸気パイプ40、第2吸気パイプ45、及び給気パイプ50を備え、ポンプ10の吸引力によって吸水槽1内の空気をポンプケーシング12内に供給する。第1吸気パイプ40の吸気口(一端)41は排水開始水位LWLに配置され、第2吸気パイプ45の吸気口(一端)46は排水遮断水位LLWLに配置されている。給気パイプ50は、第1吸気パイプ40と第2吸気パイプ45に連通しており、その給気口51(他端)は、羽根車25よりも下側に位置するようにベルマウス17に接続されている。
【0023】
給気配管38を備える先行待機形のポンプ10は、例えば地域気象観測システムの情報に基づいて、オペレータによって始動される。吸水槽1内の水位が羽根車25の下端よりも低い当初では、羽根車25が気中にあるため、ポンプ10は、排水を行うことのない気中運転になる。水位が羽根車25の下端よりも上がると、吸水槽1内の水が羽根車25によって吸い上げられるとともに、第1吸気パイプ40を通して空気が取り込まれるため、ポンプ10は、水と空気を混合状態で排出する気水混合運転に切り替わる。水位が排水開始水位LWL(羽根車25の上端26)よりも上がると、第1吸気パイプ40を通した空気の取り込みが遮断されるため、ポンプ10は、水のみを排出する排水運転に切り替わる。
【0024】
排水により、吸水槽1内の水位が排水開始水位LWLよりも下がると、第1吸気パイプ40を通して再び空気が取り込まれるため、ポンプ10は、気水混合運転に切り替わる。水位が排水遮断水位LLWLよりも下がると、第2吸気パイプ45からも空気が取り込まれるため、ポンプ10は、排水することなく水柱WCを保持したエアロック運転に切り替わる。その後、水位が排水遮断水位LLWLよりも上がると、ポンプ10は、再び気水混合運転に切り替わる。つまり、ポンプ10の運転状態は、オペレータが停止するまで、エアロック運転、気水混合運転、排水運転、気水混合運転、エアロック運転の順で切り替わる。
【0025】
(吸水槽の水位設定の概要)
図1に示すように、吸水槽1には、前述した排水開始水位LWL、排水遮断水位LLWL、及び最高水位HWLが定められている。これらは、底壁3からの高さとして定義されており、排水遮断水位LLWL、排水開始水位LWL、及び最高水位HWLの順で高くなるように設定されている。排水開始水位LWL以上の高水位では、空気を混入することなく、水だけを排出する必要がある。排水開始水位LWL未満の低水位では、空気の混入が許容される。排水遮断水位LLWL未満の超低水位では、排水を行わないエアロック運転に移行する必要がある。
【0026】
排水開始水位LWLと排水遮断水位LLWLは、近隣の河川又は海の水位と、周囲の建造物の状況とに基づいて、要求仕様として定められる。最高水位HWLは、吸水槽1の深さと要求仕様によって定められる。つまり、これらの水位LWL,LLWL,HWLは、
図2に示す渦発生水位VWLとは無関係で定められている。近年では排水開始水位LWLの低位要求が多いため、渦発生水位VWLは、排水開始水位LWLよりも高くなる傾向にある。
【0027】
そこで、本実施形態では、渦防止配管30と給気配管38を設け、空気吸込渦Svの発生を抑えつつ、先行待機運転を実現可能とし、より低水位での排水を効果的に実現可能とする。しかも、機能が異なる配管30,38の配置によって、ポンプ10の構成が複雑になることを防止している。
【0028】
(渦防止配管の詳細)
図3及び
図4に示すように、渦防止配管30は、1本の横パイプ32と、複数の縦パイプ35を備える。
【0029】
横パイプ32は、中空であり、
図1を参照すると、排水遮断水位LLWLに位置するように、ポンプケーシング12の外周に配置されている。横パイプ32は、ポンプケーシング12と同軸に位置するように、ポンプケーシング12に対してリブ33によって固定されている。
【0030】
縦パイプ35は、中空であり、下端が横パイプ32に接続され、上端がカバー36によって液密かつ気密に塞がれている。縦パイプ35の上端は、ポンプ10の定格流量の130%揚水での渦発生水位VWL以上の高さに配置されており、本実施形態では、最高水位HWLよりも高い位置に配置されている。
【0031】
複数の縦パイプ35は、ポンプケーシング12を中心として周方向に所定間隔をあけて配置されている。より詳しくは、吸水槽1は、据付床2と底壁3の間の3方が側壁4によって塞がれており、水は、
図4において側壁4が無い左側から流入する。本実施形態では4本の縦パイプ35が90度間隔をあけて設けられており、そのうちの2本が水流入方向Fの上流側に配置され、他の2本が水流入方向Fの下流側に配置されている。以下では、必要に応じて上流側の2本を第1縦パイプ35Aといい、下流側の2本を第2縦パイプ35Bという。
【0032】
(給気配管の詳細)
引き続いて
図3及び
図4を参照すると、給気配管38は、第1縦パイプ35Aと同数の第1吸気パイプ40、第2縦パイプ35Bと同数の第2吸気パイプ45、及び複数の給気パイプ50を備える。つまり、本実施形態では、第1縦パイプ35Aと第1吸気パイプ40、及び第2縦パイプ35Bと第2吸気パイプ45が、それぞれ2組設けられている。
【0033】
第1吸気パイプ40の吸気口41は排水開始水位LWLに配置され、第1吸気パイプ40の排気口(他端)42は第1縦パイプ35A内に配置されている。第2吸気パイプ45の吸気口46は排水遮断水位LLWLに配置され、第2吸気パイプ45の排気口47は第2縦パイプ35B内に配置されている。これらの吸気口41,46は、吸水槽1の水面の波の影響を受け難くするために、空気吸込渦Svが発生した場合の水面の窪みに位置するように開口され、安定して空気を吸気(供給)できるように構成されている。
【0034】
より詳しくは、第1吸気パイプ40は第1縦パイプ35A内に同軸に配置され、第2吸気パイプ45は第2縦パイプ35B内に同軸に配置されている。吸気口41,46が位置する吸気パイプ40,45の下側には、湾曲部43,48が形成されている。第1吸気パイプ40の吸気口41は、湾曲部43によって第1縦パイプ35Aから外部に突出している。第2吸気パイプ45の吸気口46は、湾曲部48によって横パイプ32から外部に突出している。第1縦パイプ35Aにおける第1吸気パイプ40の貫通部分と、横パイプ32における第2吸気パイプ45の貫通部分は、シール材又は溶接によって液密かつ気密にシールされている。
【0035】
吸気パイプ40,45の排気口42,47は、最高水位HWLよりも高い位置に配置されている。より詳しくは、
図1に示すように、吸気パイプ40,45の高さTは、最高水位HWLに、揚水によってベルマウス17内で発生する最大負圧による吸込揚程ΔHを加えた値に設定されている。吸込揚程ΔHは、以下の式によって設定される。
【0036】
【0037】
給気パイプ50の給気口51は、排水遮断水位LLWLに位置するようにベルマウス17に接続され、給気パイプ50の接続口(一端)52は、横パイプ32の内周に接続されている。つまり、給気パイプ50は、縦パイプ35と横パイプ32を介して吸気パイプ40,45に連通しており、給気配管38は、渦防止配管30を流路として兼用している。
【0038】
図4に最も明瞭に示すように、本実施形態では4本の給気パイプ50を備え、これらがポンプケーシング12を中心として周方向に等間隔で配置されている。また、4本の給気パイプ50と4本の縦パイプ35とは、周方向に間隔をあけて配置され、平面視での角度位置が一致しないように構成されている。これにより、縦パイプ35から流入した空気は、給気パイプ50に直接流れることなく、必ず横パイプ32内を通って給気パイプ50に流れ、給気パイプ50からベルマウス17内に均等に供給される。その結果、給気が局部に偏ることによるポンプ10の振動を抑制できる。
【0039】
このポンプ10は、空気吸込渦Svの発生抑制と先行待機の両機能を併せ持っているため、渦防止配管30又は給気配管38が無いポンプよりも、低水位での排水を効果的に実現できる。
【0040】
詳しくは、排水運転では、吸水槽1内の水位が渦発生水位VWLになっても、縦パイプ35によって空気吸込渦Svの発生を抑制できる。よって、吸い込んだ空気吸込渦Svが羽根車25に衝突することによるポンプケーシング12の振動を防止できる。
【0041】
気水混合運転では、ポンプ10の吸引力によって、吸水槽1内の空気を第1吸気パイプ40からポンプケーシング12内へ供給できる。よって、吸込口18からの吸水量は減るが、吸水槽1内の水面での流速が遅くなるため、空気吸込渦Svの発生を抑制し、排水可能な水位を下げることができる。但し、この場合でも、水位が低くなるに従って、やがて水面は空気吸込渦Svが生じる流速になるが、この時の空気吸込渦Svの発生も渦防止配管30によって抑制できる。
【0042】
エアロック運転では、ポンプ10の吸引力によって、吸水槽1内の空気を第2吸気パイプ45から吸い込むことで、吸込口18からの吸水量が更に減る。よって、ポンプケーシング12から下流側への排水を確実に停止し、ポンプケーシング12内では水柱WCを保持した状態を維持できる。この水柱WCによってポンプケーシング12内の摺動部品である水中軸受23が冷却され、過熱が防止されるため、ポンプ10の駆動を継続した待機運転を実現できる。
【0043】
このように、渦防止配管30によって空気吸込渦Svの発生を抑制しつつ、吸水槽1内の水位によって運転状態が切り替わるため、渦防止配管30又は給気配管38が無いポンプよりも、吸水槽1を深くすることなく、より低水位での排水を効果的に実現できる。
【0044】
しかも、給気配管38を構成する第1吸気パイプ40と給気パイプ50は、渦防止配管30を構成する第1縦パイプ35Aと横パイプ32に接続され、これらを給気用流路として兼用している。よって、渦発生抑制と先行待機の両機能を併せ持つにも拘わらず、ポンプ10全体としては簡素な構成を実現できる。
【0045】
また、縦パイプ35A,35Bの上端と吸気パイプ40,45の上端とは、吸水槽1の最高水位HWLよりも高い位置に配置されている。よって、ポンプ10がいずれの運転状態であっても、吸気パイプ40,45の排気口42,47を越えて水が吸い上げられることはない。そのため、吸水槽1内の水に含まれるゴミが、吸気パイプ40,45を通して縦パイプ35内に入り込むことを防止できる。その結果、渦防止配管30を含む給気流路の目詰まりを効果的に防止できる。
【0046】
(第1吸気パイプの詳細)
水面が排水開始水位LWLに位置している状態で、水面に生じた波によって第1吸気パイプ40の第1吸込口41が塞がれると、ポンプケーシング12内への給気が遮断される。波によってポンプケーシング12への空気の供給と遮断が短時間で繰り返されると、ポンプ10に振動が生じる。
【0047】
本実施形態では第1吸気パイプ40を2本配置しているため、これらの吸気口41が波によって同時に塞がれることを抑制できる。しかも、本実施形態では、吸水槽1内で生じる波の波長λ(
図5参照)を実測し、その波長λに基づいて2個の吸気口41の間隔L1(
図4参照)を、以下のように設定している。なお、間隔L1は、2個の吸気口41のうち、一方の中心から他方の中心までの距離として定義される。
【0048】
【0049】
このように、2個の吸気口41の間隔L1は、吸水槽1内で生じる波の波長λの整数倍にならないように設定されている。言い換えれば、この式を満たすように2個の吸気口41の間隔L1を設定すれば、2本の第1吸気パイプ40のうちの一方と他方が同時に波で塞がれることを防止できる。よって、ポンプ10の振動の原因になる短時間での空気の供給と遮断の繰り返しを防止できる。
【0050】
図5に示すように、第1吸気パイプ40の吸気口41は、湾曲部43によって吸水槽1内の水面に対して交差する向きに開口している。水面に対して交差するとは、水平面に対して交差することを意味する。しかも、本実施形態では、吸水槽1内で生じる波の波高hを実測し、その波高hよりも、第1吸気パイプ40の吸気口41の下端(下頂部)から上端(上頂部)までの寸法D1が高くなるように設定している(h<D1)。なお、本実施形態の吸気口41は水平面に対して直交する向きに開口させているため、上記寸法D1は吸気口41の内径である。
【0051】
このように、波高hよりも吸気口41の高さ(寸法D1)が高くなるように設定されているため、吸気口41が波で塞がれることを防止できる。しかも、本実施形態では2本の第1吸気パイプ40を備えるため、これらの吸気口41が波で同時に塞がれることを防止できる。また、2個の吸気口41の間隔L1が相俟って、これらが波で塞がれることを効果的に防止できる。よって、ポンプ10の振動の原因になる短時間での空気の供給と遮断の繰り返しを効果的に防止できる。
【0052】
なお、他の2本の第2吸気パイプ45の吸気口46の間隔L2と、個々の吸気口46の下端から上端までの寸法D2も、第1吸気パイプ40と同様に設定することが好ましい。また、第2吸気パイプ45を横パイプ32の外周部に配置する場合、横パイプ32の管内直径も第1吸気パイプ40と同様に設定することが好ましい。但し、水面が排水遮断水位LLWLに位置している状態では、2本の第1吸気パイプ40が必ず開放されるため、第2吸気パイプ45の間隔L2と寸法D2は、必ずしも上記範囲に設定しなくてもよい。
【0053】
(各パイプの管内断面積(内径)設定の詳細)
吸水槽1内の空気の吸い込みとポンプケーシング12への給気とを安定させるために、第1吸気パイプ40の吸気口41からポンプケーシング12(給気口51)までの流路の断面積が、小さくならないように設定されている。より詳しくは、縦パイプ35の管内断面積をAv、第1吸気パイプ40の管内断面積をAp、横パイプ32の管内断面積をAr、給気パイプ50の管内断面積をAi、給気パイプ50の本数をNi、第1吸気パイプ40の本数をNpとすると、以下の式(1)から(4)を満たすように構成されている。
【0054】
【0055】
上記式(1)のように、縦パイプ35の管内断面積Avは、第1吸気パイプ40の管内断面積Apの2倍よりも大きく設定されている(Av-Ap>Ap)。
【0056】
また、上記式(2)のように、給気パイプ50の管内断面積Aiは、横パイプ32の管内断面積Arから、2本の第1吸気パイプ40の管内断面積Apの合計を減算した値よりも小さく設定されている。詳しくは、横パイプ32の管内断面積Arは、全ての第1吸気パイプ40の管内断面積(Np×Ap)よりも大きく、全ての第1吸気パイプ40に給気パイプ50を加算した面積(Np×Ap+Ai)よりも大きく設定される。これにより、第1吸気パイプ40(第2吸気パイプ45)を横パイプ32内に貫通させた場合の影響を小さくする。
【0057】
さらに、上記式(3)のように、給気パイプ50の管内断面積Aiは、第1吸気パイプ40の管内断面積Ap以上に設定され、上記式(4)のように、給気パイプ50の本数Niは、第1吸気パイプ40の本数Np以上に設定されている。
【0058】
このように、空気を供給する流路を小さくすることなく、上記式(1)~(4)のように設定することで、空気の安定した吸い込みと供給を実現できる。つまり、吸水槽1内の水位が排水開始水位LWLまで低下すると、速やかに安定して空気を吸い込むことができる。
【0059】
以上のように、本実施形態のポンプ10では、渦防止配管30と給気配管38を備えるため、これらの一方が無いポンプよりも、より低水位での排水を効果的に実現できる。しかも、給気配管38は、渦防止配管30を給気用流路として兼用しているため、渦発生抑制と先行待機の両機能を併せ持つにも拘わらず、ポンプ10全体として簡素な構成を実現できる。
【0060】
なお、本発明の立軸ポンプ10は、前記実施形態の構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0061】
例えば、2本の第1吸気パイプ40は、水流入方向Fにおける吸水槽1の下流側に配置してもよいし、上流側と下流側に1本ずつ配置してもよい。また、第1吸気パイプ40と第2吸気パイプ45は、ポンプケーシング12の周方向に交互に配置されてもよい。また、第1吸気パイプ40と第2吸気パイプ45は、それぞれ1本ずつ配置されてもよいし、それぞれ3本以上配置されてもよい。つまり、第1吸気パイプ40及び第2吸気パイプ45の数と配置は、必要に応じて変更が可能である。
【0062】
第1吸気パイプ40の数を増やせば、吸気口41の間隔L1は、上記範囲に設定する必要はない。第2吸気パイプ45の数を増やせば、吸気口46の間隔L2は、上記範囲に設定する必要はない。これらの場合、吸気パイプ40,45の吸気口41,46は、吸水槽1の水面(水平面)に対して平行に配置してもよいし、寸法D1,D2も上記範囲に設定する必要はない。
【0063】
第1吸気パイプ40の上端は、最高水位HWLよりも以下に配置されてもよい。第2吸気パイプ45の上端は、最高水位HWLよりも以下に配置されてもよい。また、縦パイプ35、横パイプ32、吸気パイプ40,45、及び給気パイプ50の管内断面積(内径)は、必要に応じて変更が可能である。
【0064】
第1吸気パイプ40を配置する第1縦パイプ35Aには、コンプレッサ等の給気手段を接続し、吸水槽1内の水位が排水開始水位LWLまで低下していない段階で、ポンプケーシング12内に空気を供給可能(気水混合運転を実行可能)としてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 吸水槽
2 据付床
3 底壁
4 側壁
10 立軸ポンプ
12 ポンプケーシング
13 揚水管
14 直管
15 ベーンケーシング
16 軸受ケーシング
17 ベルマウス
18 吸込口
19 吐出し管
20 吐出エルボ
22 回転軸
23 水中軸受(摺動部材)
25 羽根車
26 上端
30 渦防止配管
32 横パイプ
33 リブ
35 縦パイプ
35A 第1縦パイプ
35B 第2縦パイプ
36 カバー
38 給気配管
40 第1吸気パイプ
41 吸気口(一端、開口)
42 排気口(他端)
43 湾曲部
45 第2吸気パイプ
46 吸気口(一端、開口)
47 排気口(他端)
48 湾曲部
50 給気パイプ
51 給気口(他端)
52 接続口(一端)
LWL 排水開始水位
LLWL 排水遮断水位
HWL 最高水位
VWL 渦発生水位
WC 水柱
Sv 空気吸込渦