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特許7094360バインダー、これを含む電極及びリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】バインダー、これを含む電極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20220624BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220624BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20220624BHJP
   C08F 220/26 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
C08F220/06
C08F220/26
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020514205
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 KR2018011392
(87)【国際公開番号】W WO2019078505
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-03-09
(31)【優先権主張番号】10-2017-0133771
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】テク・ギョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジュ・ヒョン・イ
(72)【発明者】
【氏名】キュン・オ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ・キュン・ヤン
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-268053(JP,A)
【文献】特開2006-210208(JP,A)
【文献】特表2010-525124(JP,A)
【文献】特開2015-115109(JP,A)
【文献】特開2010-182548(JP,A)
【文献】特開2014-110234(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0005875(KR,A)
【文献】特開2012-064574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
C08F 220/06
C08F 220/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、バインダーと、導電材とを含む活性層を有する、リチウム-硫黄電池用正極において、
前記バインダーは、リチウム-硫黄電池用水系バインダーであり、
前記バインダーは、アクリル酸ブロックとポリエチレンオキシドがブランチされているブロックがランダムに構成されたランダム共重合体を含み、アクリル酸ブロック50~90重量%及びポリエチレンオキシドがブランチされているブロック10~50重量%を含み、
前記アクリル酸ブロックは、重合時にカルボン酸基の水素がリチウムイオンで置換された高分子であり、
重量平均分子量が、400,000~2,000,000である、リチウム-硫黄電池用正極
【請求項2】
前記活性層は、バインダー0.1~10重量%、正極活物質30~95重量%及び導電材2~60重量%を含む、請求項に記載のリチウム-硫黄電池用正極
【請求項3】
請求項に記載のリチウム-硫黄電池用正極を含む、リチウム-硫黄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年10月16日付け韓国特許出願第10-2017-0133771号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含む。
【0002】
本発明は、リチウム二次電池の電極用として用いられることができるバインダー、これを含む電極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
二次電池の応用分野が電気自動車(EV)やエネルギー貯蔵装置(ESS)などに拡大されることにより、リチウム-イオン二次電池は相対的に低い重量比エネルギー貯蔵密度(~250wh/kg)で限界状況を迎えている。
【0004】
高いエネルギー密度を具現することができる次世代二次電池技術のうち、リチウム-硫黄二次電池は他の技術に比べて高い常用化の可能性のため脚光を浴びている。
【0005】
リチウム-硫黄二次電池は、正極活物質として硫黄を用い、負極活物質としてリチウム金属を用いる電池システムを意味する。
【0006】
リチウム-硫黄二次電池は放電時、正極の硫黄が電子を受け入れて還元され、負極のリチウムは酸化されてイオン化する。硫黄の還元反応は硫黄-硫黄(S-S)結合が電子二つを受け入れて硫黄アニオンの形態に変換する過程であるが、このとき、酸化されて形成されたリチウムイオンが電解質を介して正極に伝達され、イオン化された硫黄と塩を形成する。
【0007】
放電前の硫黄は、環状のS構造を有しており、還元反応によりリチウムポリスルフィド(LiS)に変換されるが、前記リチウムポリスルフィド(LiS)は段階的に還元され、最終的にリチウムスルフィド(LiS)となる。
【0008】
このような電気化学的な反応を経た理論的なエネルギー密度は、2,500Wh/kgでリチウムイオン電池に比べて10倍に達する。
【0009】
このような、リチウム-硫黄二次電池の利点にもかかわらず、リチウムポリスルフィドの高い溶解性、低い寿命特性と出力特性、硫黄の低い電気伝導度及びリチウム金属の使用による安定性の低下など、多くの問題が存在する。
【0010】
一つの例として、前記リチウムポリスルフィド(LiS)が電解液に容易に溶け、反復的な充放電による活性硫黄の損失及びそれによるサイクル特性の低下は、リチウム-硫黄二次電池において解決しなければならない最大の難題として挙げられる。
【0011】
前記問題を解決するために、電極を多孔体で製造した後、多孔体の間に硫黄を担持させ、電解質への溶解可能性を阻害する技術、ポリスルフィドを吸着することができる物質を電極に投入する技術またはポリスルフィドの親水性特性を利用した技術などが提案されている。
【0012】
例えば、Li-S電池において、ポリアクリル酸(polyacrylic acid、PAA)を水系バインダーに適用することにより、充放電の寿命特性が改善されたものが報告されてきた。
【0013】
PAAのガラス転移温度(Tg)が約106℃で堅い基質を有するだけでなく、アクリル酸同士の強い水素結合が存在して電極の可撓性(flexibility)が非常に低いという欠点がある。これは、電極の接着力の低下にも一部影響を与えることもある。
【0014】
そこで、電極の可撓性と接着性を改善するために、ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide;以下、PEO)を混用して適用することができる。しかし、PAAとPEO間の相分離が激しく発生し、加工性が非常に脆弱であるという欠点がある。
【0015】
このような従来技術の問題を解決し、リチウムスルフィド(LiS)の溶出を効果的に防止しつつ、同時に電気化学的性能に優れたリチウム-硫黄二次電池に関する継続的な研究が必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2010-525124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明者らは、前記問題点を解決するために多角的に研究を行った結果、バインダーとしてポリアクリル酸(PAA、polyacrylic acid)とポリエチレンオキシド(PEO、polyethylene oxide)を単純混合(blending)ではなくランダム共重合体(random copolymer)の形態で製造して電極に適用した結果、バインダーの相分離現象が発生しないため、スラリー凝集現象を防止することができ、これにより、電極の表面粗さとクラック(crack)が減少し、電極の接着力が向上するということを確認した。
【0018】
したがって、本発明の目的は、電極に適用することができるバインダーを提供することにある。
本発明の他の目的は、前記バインダーを含む電極を提供することにある。
本発明のまた他の目的は、前記電極を含むリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するために、本発明は、第1のブロック及び第2のブロックを含むランダム共重合体であって、前記第1のブロックは、リチウムイオンにより置換可能な機能基を含む高分子を含む、バインダーに関する。
【0020】
前記第1のブロックに含まれた、リチウムイオンにより置換可能な官能基を含む高分子は、ポリアクリル酸(PAA、polyacrylic acid)、ポリビニルスルホン酸(Poly(vinyl sulfonic acid))、ポリスチレンスルホネート(Poly(styrene sulfonate))及びポリビニルホスホン酸(Poly(vinyl phosphonic acid))からなる群より選ばれる1種以上であってもよい。
【0021】
前記第1のブロックに含まれた、リチウムイオンにより置換可能な機能基はカルボン酸、スルホン酸、及びホスホン酸からなる群より選ばれる1種以上であってもよい。
【0022】
前記第1のブロックは、前記機能基がリチウムイオンで置換された高分子であってもよい。
【0023】
前記第2のブロックに含まれた、酸素原子を含む高分子は、ポリエチレンオキシド(PEO、polyethylene oxide)、ポリプロピレンオキシド(PPO、polypropylene oxide)、及びポリペルフルオロプロピレンオキシド(PPFPO、polyperfluoropropylene oxide)からなる群より選ばれる1種以上であってもよい。
【0024】
前記バインダーは、第1のブロックとしてポリアクリル酸(PAA、polyacrylic acid)と第2のブロックとしてポリエチレンオキシド(PEO、polyethylene oxide)を含むランダム共重合体(random copolymer)を含むことができる。
【0025】
前記バインダーの重量平均分子量は、5,000~4.000,000であってもよい。
【0026】
前記ランダム共重合体は、第1のブロック50~90重量%及び第2のブロック10~50重量%を含むことができる。
【0027】
本発明はさらに、バインダー、電極活物質及び導電材を含む活性層を含む電極に関する。
【0028】
前記活性層は、バインダー0.1~10重量%、電極活物質30~95重量%及び導電材2~60重量%を含むことができる。
【0029】
本発明はさらに、前記電極を含むリチウム二次電池に関する。
前記電極は、正極であってもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係るバインダーによれば、PAAとPEOがランダム共重合体の形態で含まれることにより、電極の活性層を形成するためのスラリー内で、前記ランダム共重合体形態のバインダーは、単純混合形態のバインダーに比べて均等に分散されることができ、これにより、活物質と導電材が前記スラリー内で十分に濡れるので、スラリーの製造のために用いられる水の量が少なくとも流れ性が良好なスラリーを具現することができる。すなわち、PAAとPEOがランダム共重合体の形態、具体的には、アクリル酸(AA、acrylic acid)ブロックとPEOがブランチされているブロックがランダムに構成された共重合体の形態であって、バインダーの相分離現象が発生することを防止することができ、これにより、電極の活性層を形成するためのスラリーの固形分が増加することができる。
【0031】
また、前記バインダーの形態的な特徴によってスラリーの固形分が増加することにより、電極の表面粗さとクラックが減少し、電極の接着力が向上することができる。
【0032】
このような前記バインダーの特性により、リチウム二次電池、特にリチウム-硫黄電池に適用時、電池の充放電特性と寿命特性が向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施例1、2及び比較例1でそれぞれ製造された、正極表面の光学顕微鏡写真を示した図面である。
図2】実施例1、2及び比較例1のバインダーを用いて製造されたリチウム-硫黄電池の充放電の実験結果を示したグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の理解を助けるために、本発明をさらに詳細に説明する。
本明細書及び請求の範囲において使用される用語や単語は通常的であるか、又は辞典的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者はその自身の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に立脚して、本発明の技術的思想に符合する意味と概念として解釈されるべきである。
【0035】
バインダー
本発明は、電極製造用として用いることができるバインダーに関し、リチウム二次電池、特に、リチウム-硫黄電池の正極に適用して充放電及び寿命特性を向上させることができるバインダーに関する。
【0036】
本発明は、第1のブロック及び第2のブロックを含むランダム共重合体形態のバインダーであって、前記第1のブロックは、リチウムイオンにより置換可能な機能基を含む高分子を含み、前記第2のブロックは、酸素原子を含む高分子を含むことができる。具体的に、前記ランダム共重合体形態のバインダーは、アクリル酸(AA、acrylic acid)ブロックとPEOがブランチされているブロックがランダムに構成された共重合体であってもよい。
【0037】
本発明において、前記第1のブロックは、リチウムイオンの移動を可能にして電池の充放電性能を向上させることができ、具体的には、リチウムイオンにより置換可能な官能基を含む高分子を含むことができる。
【0038】
このとき、前記リチウムイオンにより置換可能な機能基を含む高分子は、ポリアクリル酸(PAA、polyacrylic acid)、ポリビニルスルホン酸(PVS、Poly(vinyl sulfonic acid))、ポリスチレンスルホネート(PSS、Poly(styrene sulfonate))及びポリビニルホスホン酸(PVH、Poly(vinyl phosphonic acid))からなる群より選ばれる1種以上を含むことができ、電池の充放電特性の向上に効果的な側面を考慮して、前記第1のブロックはPAAを含むことが好ましい。
【0039】
前記リチウムイオンにより置換可能な機能基はカルボン酸、スルホン酸、及びホスホン酸からなる群より選ばれる1種以上であってもよく、リチウムイオンとの置換性を考慮して、前記機能基はカルボン酸であってもよい。
【0040】
また、前記第1のブロックは、前記機能基がリチウムイオンで置換された高分子を含むことができる。例えば、前記機能基がリチウムイオンで置換された高分子は、Liイオンで置換されたPAAであってもよい。
【0041】
本発明において、前記第2のブロックはやはりリチウムイオンの移動を可能にし、電極に可撓性(flixibility)を付与することができ、堅くない、すなわち、ソフトでゆるい特性を有し、第1のブロックとランダム共重合体をよく行って前記ランダム共重合体の凝集現象を防止することができる。
【0042】
本発明に係るバインダーは、ポリアクリル酸(PAA、polyacrylic acid)とポリエチレンオキシド(PEO、polyethylene oxide)のランダム共重合体(random copolymer)を含む。
【0043】
前記バインダーの重量平均分子量は、5,000~4,000,000、好ましくは100,000~4,000,000、より好ましくは400,000~2,000,000であってもよく、前記バインダーの重量平均分子量が前記範囲未満であれば、電極の接着力が低下し、又は弾力性が減少して容易に曲がってしまうという問題があり、前記範囲を超える場合、粘度が非常に高く、電極の活性層を形成するためのスラリーの製造工程が不可能になる問題があり得る。
【0044】
ランダム共重合体は、互いに異なる高分子を結合させて得ることができ、二つの単量体が無秩序に連結された共重合体を意味する。前記ランダム共重合体は、それぞれの機能を持っているブロックが無秩序に存在していることにより、利点は最大化し、欠点は相殺させる効果を得ることができる。例えば、2重~3重のブロック共重合体は、電気化学的に抵抗成分がある単量体が一ブロックを形成して集まっている場合、抵抗が局部的に大きく作用し、セルの性能に悪影響を及ぼすことがある。反面、前記単量体がランダム共重合体の形態で無秩序に存在する場合、その欠点を相殺させることができる。それだけではなく、2重~3重のブロック共重合体はまた、ブロック間の相分離現象が生じることが一般的であるが、本発明のような形態のランダム共重合体は、相分離現象を防止して電極形成用スラリーを製造するのに好適である。
【0045】
本発明の一実施例によれば、PAAとPEOがランダム共重合体の形態で含まれていることにより相分離現象の発生を最小化し、電極製造用スラリーの凝集現象を防止することができ、スラリーの固形分を増加させることができる。
【0046】
PAAとPEOは基本的に水溶性であるが、PAAの主鎖は疎水性であるアルキル基で構成されている。したがって、PAAとPEOが直接的に十分に混合されるには無理があり、単純混合によるスラリーの凝集現象が激しく発生し、スラリーの分散が難しくなる。
【0047】
本発明において、第1のブロック、例えば、PAAはリチウムイオンが移動できるようにし、電極内部をしっかりとホールドすることで、充放電時に体積膨張を抑制する役割を果たすもので、前記ランダム共重合体に含まれた第1のブロック、例えば、PAAの重量は50~90重量%であってもよい。前記範囲未満であれば、第2のブロック、例えば、PEO単量体が相対的に多くなり、電極内部をしっかりとホールドする能力が低下してセルの性能を低下させることがあり、前記範囲を超える場合、電極の柔軟性が低くなる問題があり得る。
【0048】
また、前記PAAは、水素イオンがリチウムイオンで置換されたものであってもよく、リチウムイオンで置換されたPAAはPAAに比べてスラリーの粘性が増加し、電極の密着性を向上させることができ、電池内のガス発生を抑制することができ、電池の寿命を向上させることができるという点で、さらに有利である。前記リチウムイオンで置換されたPAAの重量平均分子量は、好ましく400,000~2,000,000であってもよく、重量平均分子量が前記範囲未満であれば、電極の接着力が低下し、又は弾力性が減少して容易に曲がってしまうという問題があり、前記範囲を超える場合、粘性が非常に高く、スラリーの工程が不可能になる問題があり得る。
【0049】
本発明において、前記第2のブロック、例えば、PEOは電極の柔軟性を付与する役割を果たすもので、前記ランダム共重合体に含まれたPEOの重量は10~50重量%であってもよい。前記PEOの重量が前記範囲未満であれば、電極に柔軟性の付与効果が微々たる問題があり、前記範囲を超える場合、Li-PAAによる電極の内部をしっかりとホールドする能力が低下する問題があり得る。
【0050】
電極
本発明は、前記ポリアクリル酸(PAA、polyacrylic acid)とポリエチレンオキシド(PEO、polyethylene oxide)のランダム共重合体(random copolymer)を含むバインダー、電極活物質及び導電材を含む電極活性層を有する電極に関する。
【0051】
本発明において、前記活性層内で前記バインダーの含有量は3~10重量%であってもよく、前記バインダーの含有量が前記範囲未満であれば、前記活性層を構成する物質間の接着力が低下し、電極の耐久性が低下することがあるので、電池の性能が良くないこともあり、前記範囲を超える場合、電極活物質と導電材の含有量が相対的に低下して電池の充放電特性及び寿命特性が低下することがある。
【0052】
本発明において、前記活性層内で前記電極活物質の含有量は60~95重量%であってもよく、前記電極活物質の含有量が前記範囲未満であれば、電池の性能が低下することがあり、前記範囲を超える場合、電池の充放電特性が低下することがある。
【0053】
前記活性層内で前記導電材の含有量は2~10重量%であってもよく、前記導電材の含有量が前記範囲未満であれば伝導度が低下することがあり、前記範囲を超える場合、電極活物質の含有量が相対的に低下して電池の充放電特性及び寿命特性が低下することがある。
【0054】
具体的には、本発明において、前記電極は正極又は負極であってもよく、前記電極活物質は正極活物質又は負極活物質であってもよく、前記電極活性層は正極活性層又は負極活性層であってもよい。好ましくは、リチウム-二次電池の正極又は負極であってもよく、前記リチウム-二次電池はリチウム-硫黄電池であってもよい。
【0055】
前記正極は、正極集電体上に形成された正極活性層を含むことができ、前記負極は、負極集電体上に形成された負極活性層を含むことができる。
【0056】
前記正極集電体は、正極の製造において一般的に用いられるものであれば特に限定されるものではない。本発明の一具体例によれば、前記正極集電体の種類は、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素及びアルミニウムから選ばれた一つ以上の素材であってもよく、必要な場合、前記材料の表面にカーボン、ニッケル、チタン又は銀を処理して用いることができる。本発明の一具体例によれば、前記正極集電体の形態は、フィルム、シート、箔(foil)、ネット(net)、多孔質体、発泡体及び不織布体から選ばれてもよい。正極集電体の厚さは特に限定されず、正極の機械的強度、生産性や電池の容量などを考慮して、適切な範囲に設定することができる。
【0057】
前記集電体上に正極活性層を形成する方法は、公知の塗布方法により、特に限定されるものではない。例えば、塗布方法としてバーコーティング法、スクリーンコーティング法、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法又は押出法が適用されることができる。前記集電体上に正極活性層を塗布する量は特に限定されるものではなく、最終的に目的とする正極活性層の厚さを考慮して調節する。また、前記正極活性層の形成工程の前又は後に正極の製造のために要求される公知の工程、例えば、圧延や乾燥工程を行うことができる。
【0058】
前記正極活性層に含まれる正極活物質は、リチウム-硫黄電池の正極活物質として用いられる硫黄元素(Elemental sulfur,S8)、硫黄系化合物又はこれらの混合物であってもよいが、これに限定されるものではない。前記硫黄系化合物は具体的に、LiSn(n≧1)、有機硫黄化合物又は炭素-硫黄ポリマー((C:x=2.5~50、n≧2)などであってもよい。これらは硫黄物質単独では電気伝導性がないため、導電材と複合して適用することができる。
【0059】
前記正極活性層に含まれた導電材は天然黒鉛又は人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック又はサマーブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維又は金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム又はニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛又はチタン酸カリウムなどの導電性ウイスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;又はポリフェニレン誘導体から選ばれてもよいが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0060】
前記正極活性層は、正極活物質及び導電材以外の成分をさらに含むことができる。前記活性層に追加可能な成分としては、架橋剤又は導電材分散剤がある。前記架橋剤は、バインダーが架橋ネットワークを形成するようにするために、アクリル系高分子の架橋性官能基と反応することができる2以上の官能基を有する架橋剤が用いられてもよい。前記架橋剤は特に限定されるものではないが、イソシアネート架橋剤、エポキシ架橋剤、アジリジン架橋剤又は金属キレート架橋剤から選択されてもよい。本発明の一具体例によれば、前記架橋剤は、イソシアネート架橋剤が好ましい。前記架橋剤は、活性層全体100重量部を基準にして0.0001~1重量部が含まれてもよい。
【0061】
前記導電材分散剤は、非極性の炭素系導電材を分散してペースト化するのに役立つ。前記導電材分散剤は特に限定されるものではないが、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロースを含むセルロース系化合物から選択されてもよい。本発明の一具体例によれば、前記導電材分散剤は、カルボキシメチルセルロース(CNC)が好ましい。前記導電材分散剤は、活性層全体100重量部に対して0.1~20重量部がさらに含まれてもよい。
【0062】
前記集電体上に正極活性層を形成する方法は公知の塗布方法により、特に限定されるものではない。例えば、塗布方法としてバーコーティング法、スクリーンコーティング法、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法又は押出法が適用されることができる。前記集電体上に正極活性層を塗布する量は特に限定されるものではなく、最終的に目的とする正極活性層の厚さを考慮して調節する。また、前記正極活性層の形成工程の前又は後の正極の製造のために要求される公知の工程、例えば、圧延や乾燥工程を行うことができる。
【0063】
前記負極は、負極集電体上に形成された負極活性層を含むことができ、前記負極は、負極集電体上に形成された負極活性層を含むことができる。
【0064】
前記負極活物質としては、リチウムイオン(Li)を可逆的に吸蔵(Intercalation)又は放出(Deintercalation)することができる物質、リチウムイオンと反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成することができる物質、リチウム金属又はリチウム合金を用いることができる。前記リチウムイオン(Li)を可逆的に吸蔵又は放出することができる物質は、例えば、結晶炭素、非晶質炭素又はこれらの混合物であってもよい。前記リチウムイオン(Li)と反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成することができる物質は、例えば、酸化錫、チタンナイトレート又はシリコンであってもよい。前記リチウム合金は、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、アルミニウム(Al)及び錫(Sn)からなる群より選ばれる金属の合金であってもよい。
【0065】
前記負極活物質を除いたバインダー、集電体などの構成は上述した正極で用いられた物質及び方法等を用いることができる。
【0066】
リチウム-硫黄電池
本発明は、上述した電極と分離膜、電解液の構成を追加して、寿命特性が改善されたリチウム-硫黄電池を提供する。
本発明に係るリチウム-硫黄電池は、上述のような正極又は負極を含むことができる。
【0067】
本発明のリチウム-硫黄電池において、電解液は、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動することができる媒質の役割をする非水性溶媒であれば、特に限定されない。本発明の一具体例によれば、前記溶媒はカーボネート系、エステル系、エーテル系、ケトン系、アルコール系又は非プロトン性溶媒を用いることができる。前記カーボネート系溶媒としては、具体的に、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、又はブチレンカーボネート(BC)などを用いることができる。前記エステル系溶媒としては、具体的に、メチルアセテート、エチルアセテート、n-プロピルアセテート、1,1-ジメチルエチルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、γ-ブチロラクトン、デカノライド(decanolide)、バレロラクトン、メバロノラクトン(mevalonolactone)、カプロラクトン(carprolactone)などを用いることができる。前記エーテル系溶媒としては、具体的に、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、又はポリエチレングリコールジメチルエーテルなどを用いることができる。前記ケトン系溶媒としては、具体的に、シクロヘキサノンなどを用いることができる。前記アルコール系溶媒としては、具体的に、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどを用いることができる。前記非プロトン性溶媒としては、具体的に、アセトニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、1,3-ジオキソラン(DOL)などのジオキソラン類、又はスルホラン(sulfolane)などを用いることができる。前記非水性有機溶媒は単独で又は一つ以上混合して用いることができ、一つ以上混合して用いられる場合の混合割合は、目的とする電池性能により適切に調節することができ、特に、1,3-ジオキソランとジメトキシエタンの1:1の体積比の混合液が好ましい。
【0068】
本発明に係るリチウム-硫黄電池において、分離膜は電極を物理的に分離する機能を有する物理的な分離膜であって、通常の分離膜として用いられるものであれば特に制限なく使用可能であり、特に電解液のイオン移動に対して低抵抗であり、かつ電解液の含湿能力に優れるものが好ましい。
【0069】
また、前記分離膜は、正極と負極を互いに分離又は絶縁させながら正極と負極との間にリチウムイオンの輸送を可能にする。このような分離膜は気孔度30~50%の多孔性であり、非伝導性又は絶縁性である物質からなることができる。
【0070】
具体的には、多孔性高分子フィルム、例えばエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体及びエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムを用いることができ、高融点のガラス繊維などからなる不織布を用いることができる。このうち、好ましくは多孔性高分子フィルムを用いる。
【0071】
もし、バッファ層及び分離膜として全て高分子フィルムを用いるのであれば、電解液の含浸量及びイオン伝導特性が減少し、過電圧の減少及び容量特性の改善効果が微々になる。逆に、全て不織布素材を用いる場合は、機械的剛性が確保されず、電池短絡の問題が発生する。しかし、フィルム型の分離膜と高分子不織布バッファ層を共に用いると、バッファ層の採用による電池性能の改善効果と共に機械的強度も確保することができる。
【0072】
本発明の好ましい一具体例によれば、エチレン単独重合体(ポリエチレン)高分子フィルムを分離膜として、ポリイミド不織布をバッファ層として用いる。このとき、前記ポリエチレン高分子フィルムは厚さが10~25μm、気孔度が40~50%であることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されることであるだけで、本発明がこれに限定されるものではない。
【0074】
実施例1:バインダー(PAA-r-PEO)及びリチウム-硫黄電池の製造
(1)バインダーの製造
2種の単量体(アクリル酸(acrylic acid)、モノメチルポリエチレングリコールアクリレート(mono-methyl polyethylene glycol acrylate))を80:20の重量比で蒸留水に添加し、開始剤(VA057)を添加して、60℃で20時間攪拌した。アルコール及びジメチルエーテルで洗浄した後、常温及び真空下で24時間乾燥して、PAAとPEOがランダム共重合体をなすバインダー(PAA-r-PEO)を製造した。
【0075】
(2)正極の製造
カーボンパウダーと硫黄の重量比が30:70である混合物を湿式粉砕(wet ball milling)工程によりカーボン及び硫黄の複合体を得た。正極合剤(85重量%のカーボン及び硫黄の複合体、5重量%気相成長炭素繊維(VGCF、Vapor Grown Carbon Fiber、導電材)、10重量%のバインダー)を溶媒である水に添加して正極スラリーを製造した後、アルミニウム集電体上にコーティングし、50℃で12時間乾燥して、硫黄ロード量が5.5mAh/cmである正極を製造した。
【0076】
(3)リチウム-硫黄電池の製造
リチウム-硫黄電池の構成として上述した正極、負極として40μm厚さのリチウム箔、分離膜としてポリオレフィン膜を用いた。また、電解液としては、0.38MのLiN(CFSO及び0.31MのLiNOが1,3-ジオキソラン及びジメトキシエタンの混合液に溶解した電解液を用いて電池の製造を完成した。
【0077】
実施例2:バインダー(Li置換されたPAA-r-PEO)及びリチウム-硫黄電池の製造
実施例1と同様に実施するが、重合時LiOH水溶液を添加してLiイオンで置換されたPAA及びPEOを含むランダム共重合体からなるバインダー、正極及びリチウム-硫黄電池を製造した。
【0078】
比較例1:バインダー(PAAとPEOの混合物を含む)及びリチウム-硫黄電池の製造
PAAとPEOが混在するバインダーの場合、常用化されているPAA(平均分子量:4,000,000)とPEO(平均分子量:4,000,000)を混合して製造した。
【0079】
前記PAA及びPEOの混合バインダーを用いて、実施例1と同様の方法で正極及びリチウム-硫黄電池を製造した。
【0080】
実験例1:電極表面の観察
実施例1、2及び比較例1でそれぞれ製造された、正極の表面を観察した。
図1は、実施例1、2及び比較例1でそれぞれ製造された、正極表面の光学顕微鏡写真を示したものである。
【0081】
図1を参照すれば、実施例2で電極表面の凝集やクラックの現象を観察することはできないが、実施例1ではクラックが一部観察された。比較例1の場合、クラックが明確に発生していないが、表面は非常に凸凹しており、これはバインダーの凝集現象のためである。実施例1の場合、クラック発生の原因は分子量が比較的に低いためであり、分子量を実施例2と同等に合わせる場合、クラックが一部解消されると考えられ、これに加えて、リチウム置換がクラックの改善にも大きな助けを与えたと判断される。
【0082】
また、製造過程においてスラリーを肉眼で観察しても、実施例1、2のスラリーは凝集現象がないが、比較例1のスラリーは凝集現象が一部観察された。
【0083】
実験例2:バインダーの分子量の測定
実施例1、2及び比較例1でそれぞれ製造されたバインダーの重量平均分子量を測定するが、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(PDI)は、GPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて下記の測定条件で測定し、検量線の作製にはAgilent systemの標準ポリエチレングリコールを用いて測定結果を換算した。
【0084】
<測定条件>
測定器:Agilent GPC(Agilent 1200 series,U.S.)
カラム:Polar gel
カラム温度:35℃
溶離液:水(pH 7のバッファ溶液)
流速:1.0mL/min
濃度:~1mg/mLの(100μL注入)
【0085】
下表1は、実施例1、2及び比較例1でそれぞれ製造されたバインダーの重量平均分子量を測定した結果である。
【0086】
【表1】
【0087】
上表1を参照すれば、実施例1、2のバインダーは比較例1のバインダーに比べて重量平均分子量が小さいことが分かる。
特に、実施例2の場合、実施例1に比べて5倍程度の分子量を有することが分かる。
【0088】
実験例3:スラリーの固形分の測定
実施例1、2及び比較例1でそれぞれ正極を製造するために製造されたスラリーの製造時に用いられた固形分と水の量から固形分を計算した。
【0089】
下表2は、実施例1、2及び比較例1でそれぞれ正極を製造するために製造されたスラリーの固形分(%)を示したもので、前記スラリーの固形分は、全スラリーのうち固形分の重量を百分率で示したものである。
【0090】
【表2】
【0091】
上表2を参照すれば、ランダム共重合体形態の実施例1及び2は、単純混合形態の比較例2に比べてスラリーの固形分が高いことが分かる。また、実施例2の場合、リチウムで置換されたバインダーであって、実施例1のバインダーに比べて小幅スラリーの粘性が増加することが分かる。
【0092】
実験例4:電極物性の測定
実施例1、2及び比較例1でそれぞれ製造された電極であるリチウム-硫黄電池の正極に対して電極表面粗さ及び電極の密着性を測定した。
【0093】
電極表面粗さ(Sa、μm)はKEYENC社のVK-X100K/200K装置を利用して測定し、その結果を下表3に記載した。Sa値は、表面の平均面に対して各点間の高さの差の絶対値の平均を示したもので、数値が高いほど表面粗さが高いことを意味する。
【0094】
【表3】
【0095】
上表3を参照すれば、比較例1の電極の表面がより粗いことを分かる。
電極の密着性は、90°ピール試験(peel test)の方法で測定し、その結果を下表4に記載した。
【0096】
【表4】
【0097】
上表4を参照すれば、実施例2の接着力が最も優れることが分かった。
実施例1に比べて実施例2の接着力が高い理由は、バインダーの分子量が比較的に高いこととリチウムで置換してバインダー粘性が増加したことが同時に肯定的な効果をもたらしたことによるものであることを類推することができる。
【0098】
実験例5:サイクル特性の実験
実施例1、2及び比較例1のリチウム-硫黄電池について、以下のような方法で充放電を実施した。
【0099】
<充放電特性の評価方法>
サイクル温度:25℃
C-rate:0.1C(2.5回)→0.2C(3回)→0.3C充電/0.5C放電(定電流モード)
V cut-off:1.8~2.5V
【0100】
図2は、本発明の実施例1、2及び比較例1のバインダーを用いて製造されたリチウム-硫黄電池に関する充放電の実験結果を示したグラフである。
【0101】
図2を参照すれば、実施例1、2と比較例1との間のセル性能では大きな差がないが、実験例1~4で説明したように、電極製造の工程上に大きな利点がある。
【0102】
以上、本発明は、たとえ限定された実施例と図面によって説明されたが、本発明はこれにより限定されず、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者により本発明の技術思想と下記に記載される特許請求の範囲の均等範囲内で多様な修正及び変形が可能であることはもちろんである。
図1
図2