(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】複合電解質膜及び該複合電解質膜を含む全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20220624BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220624BHJP
H01M 10/056 20100101ALI20220624BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20220624BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20220624BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20220624BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20220624BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20220624BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01M10/056
H01M10/0569
H01M10/058
H01M10/0585
H01M50/417
H01M50/46
(21)【出願番号】P 2021503819
(86)(22)【出願日】2019-10-10
(86)【国際出願番号】 KR2019013300
(87)【国際公開番号】W WO2020076099
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】10-2018-0121266
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ジ-フン・リュ
(72)【発明者】
【氏名】ウン-ビ・キム
(72)【発明者】
【氏名】スク-ウ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン-ピル・イ
【審査官】菊地 リチャード平八郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-088478(JP,A)
【文献】国際公開第2018/183771(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0141498(KR,A)
【文献】特開2008-016550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池用複合電解質膜であって、
前記複合電解質膜は、電解質層及び相変換層が順次に積層され、
前記相変換層は、複数の気孔を有する多孔性シートと、前記多孔性シートの気孔を充填する充填物質とを含み、
前記多孔性シートは、高分子樹脂を含み、
前記充填物質は、
電池の内部温度の上昇により前記充填物質が液化してリチウム塩がそれに溶解される前は、26℃以下で固体状態で存在し、35℃以上の温度で液体状態で存在し、
前記電解質層が、
高分子樹脂を含む高分子樹脂層、及び前記高分子樹脂層の両面のうち相変換層と対面する一面の全部または少なくとも一部にリチウム塩がコーティングされたリチウム塩層が形成されているものであるか、または
高分子樹脂及びリチウム塩を含み、前記高分子樹脂がポリエーテル系高分子、ポリカーボネート系高分子、アクリレート系高分子、ポリシロキサン系高分子、ホスファゼン系高分子、ポリエチレン誘導体、アルキレンオキシド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリアジテーションリシン、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール及びポリフッ化ビニリデンのうち選択された1以上を含み、リチウム塩と高分子樹脂とがモル比で1:5~1:30の比率で混合されるものである、
全固体電池用複合電解質膜。
【請求項2】
前記充填物質が、エチレンカーボネート(EC)、重量平均分子量1,000以上のポリエチレングリコール(PEG)、スクシノニトリル(SN)及び環状ホスフェート(CP)からなる群より選択されるいずれか1種またはこれらのうち2種以上の混合物を含む、請求項1に記載の全固体電池用複合電解質膜。
【請求項3】
前記電解質層が、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質及び高分子系固体電解質のうち1つ以上を含み、前記高分子系固体電解質が、高分子樹脂及びリチウム塩を含む、請求項1または2に記載の全固体電池用複合電解質膜。
【請求項4】
前記多孔性シートがポリオレフィン系高分子樹脂を含み、気孔度が30vol%~80vol%であるフィルムまたは不織布である、請求項1から
3の何れか一項に記載の全固体電池用複合電解質膜。
【請求項5】
負極、正極及び前記負極と正極との間に介在される複合電解質膜を含み、前記複合電解質膜の電解質層は負極と対面し、相変換層は正極と対面するように配置され、前記複合電解質膜は請求項1から
4の何れか一項に記載のものである全固体電池。
【請求項6】
前記相変換層の充填物質がリチウム塩と反応して液化した後、液化した状態が維持され、液化した充填物質が相変換層と電解質層との間及び相変換層と正極との間の界面を充填するように維持される、請求項
5に記載の全固体電池。
【請求項7】
全固体電池の製造方法であって、
(S1)負極を用意する段階と、
(S2)負極の表面に固体電解質層を形成する段階と、
(S3)多孔性シートを用意し、液状の充填物質で含浸させる段階と、
(S4)(S3)の結果物を冷却して充填物質を固化させて相変換層を形成する段階と、
(S5)前記相変換層を電解質層上に積層させる段階と、
(S6)正極を用意して前記相変換層上に積層させる段階とを含む全固体電池の製造方法。
【請求項8】
(S7)前記(S5)段階前に電解質層上にリチウム塩を塗布してリチウム塩層を形成する段階をさらに行う、請求項
7に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項9】
(S8)前記(S6)段階後に製造された電池を加熱し、所定時間静置して充填物質を液化させる段階をさらに行う、請求項
7または
8に記載の全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質層及び相変換層を含む複合固体電解質膜及びそれを含む全固体電池に関する。
【0002】
本出願は、2018年10月11日出願の韓国特許出願第10-2018-0121266号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
近年、エネルギー貯蔵技術に対する関心が益々高くなっている。携帯電話、カムコーダ及びノートパソコン、さらには電気自動車のエネルギーまで適用分野が拡がるにつれて、電気化学素子の研究と開発に対する努力が益々具体化している。電気化学素子は、このような面で最も注目されている分野であり、中でも充放電可能な二次電池の開発は関心を集めている。近年、このような電池の開発において、容量密度及び比エネルギーを向上させるため、新たな電極と電池の設計に関する研究開発が行われている。
【0004】
現在適用されている二次電池のうち、1990年代初めに開発されたリチウム二次電池は、水溶液電解液を使用するNi-MH、Ni-Cd、硫酸-鉛電池などの従来の電池に比べ、作動電圧が高くてエネルギー密度が格段に高いという長所から脚光を浴びている。
【0005】
従来、このようなリチウム二次電池には、可燃性有機溶媒などの液体電解質(電解液)が使用された。しかし、液体電解質を用いた電池では、電解液の漏液や発火、爆発などが生じ得るという問題がある。このような問題を解消して本質的な安全性を確保するため、液体電解質の代りに固体電解質を使用した研究が活発に行われている。電解質を含むその他の構成要素全てを固体で構成した電池を全固体二次電池(all-solid-state secondary battery)と称する。全固体電池は、安全性、高エネルギー密度、高出力、製造工程の単純化などの面で次世代リチウム二次電池として注目されている。
【0006】
しかし、このような全固体電池は、電極及び固体電解質膜が全て固体であり、液体電解質がないため、電極と固体電解質膜との間の界面にデッドスペース(dead space)、すなわち、イオン伝導性のない空隙が発生する問題がある。
【0007】
特に、電極活物質の形態、導電材の凝集、またはバインダー高分子の間隙などによって電極の表面が均一でない場合、デッドスペースがさらに多く発生して、電極と固体電解質膜との間の抵抗が大きくなって電池の寿命性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0008】
このような問題を解決するため、全固体電池に液体電解質を添加しようとする試みがあった。しかし、液体電解質の注入は電極組立体の組み立て以後に行われるため、過量注入しなければならず、注入された液体電解質が固体電解質膜を軟化させる問題がある。
【0009】
また、負極活物質としてリチウム金属を使用する場合、充放電が繰り返されるにつれて負極の表面にデンドライト(dendrite)が形成され、電極が厚くなってサイクル特性が低下するなどの問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような問題を解決するため、相変換層を含む複合電解質膜を提供することを目的とする。また、前記複合電解質膜を含む全固体電池を提供することを本発明のさらに他の目的とする。
【0011】
本発明の他の目的及び長所は、下記の説明によって理解できるであろう。一方、本発明の目的及び長所は、特許請求の範囲に示される手段または方法、及びその組合せによって実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためのものであって、全固体電池用複合電解質膜を提供する。本発明の第1態様は、前記複合電解質膜に関し、前記複合電解質膜は、電解質層及び相変換層が順次に積層され、前記相変換層は、複数の気孔を有する多孔性シートと、前記多孔性シートの気孔を充填する充填物質とを含み、前記多孔性シートは高分子樹脂を含み、前記充填物質は26℃以下で固体状態で存在し、35℃以上の温度で液体状態で存在するものである。
【0013】
本発明の第2態様は、第1態様において、前記充填物質が、エチレンカーボネート(EC)、重量平均分子量1,000以上のポリエチレングリコール(PEG)、スクシノニトリル(SN)及び環状ホスフェート(CP)からなる群より選択されるいずれか1種またはこれらのうち2種以上の混合物を含むものである。
【0014】
本発明の第3態様は、第1または第2態様において、前記電解質層が、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質及び高分子系固体電解質を含み、前記高分子系固体電解質が高分子樹脂及びリチウム塩を含むものである。
【0015】
本発明の第4態様は、第1~第3態様のうちいずれか1つにおいて、前記電解質層が、高分子樹脂を含む高分子樹脂層、及び前記高分子樹脂層の両面のうち相変換層と対面する一面の全部または少なくとも一部にリチウム塩がコーティングされたリチウム塩層が形成されているものである。
【0016】
本発明の第5態様は、第1~第4態様のうちいずれか1つにおいて、前記電解質層が高分子樹脂及びリチウム塩を含み、前記高分子樹脂がポリエーテル系高分子、ポリカーボネート系高分子、アクリレート系高分子、ポリシロキサン系高分子、ホスファゼン系高分子、ポリエチレン誘導体、アルキレンオキサイド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリアジテーションリシン(agitation lysine)、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール及びポリフッ化ビニリデンのうち選択された1以上を含み、ここでリチウム塩と高分子樹脂とはモル比で1:5~1:30の比率で混合されるものである。
【0017】
本発明の第6態様は、第1~第5態様のうちいずれか1つにおいて、前記多孔性シートがポリオレフィン系高分子樹脂を含み、気孔度が30vol%~80vol%であるフィルムまたは不織布であるものである。
【0018】
本発明の第7態様は、全固体電池に関し、前記全固体電池は、負極、正極及び前記負極と正極との間に介在される複合電解質膜を含み、前記複合電解質膜の電解質層は負極と対面し、相変換層は正極と対面するように配置され、前記複合電解質膜は上述した第1~第6態様のうちいずれか1つによるものである。
【0019】
本発明の第8態様は、第7態様において、前記相変換層の充填物質がリチウム塩と反応して液化した後、液化した状態が維持され、液化した充填物質が相変換層と電解質層との間及び相変換層と正極との間の界面を充填するように維持されるものである。
【0020】
また、本発明は、全固体電池の製造方法を提供する。本発明の第9態様は、前記電池の製造方法に関し、前記方法は、(S1)負極を用意する段階、(S2)負極の表面に固体電解質層を形成する段階、(S3)多孔性シートを用意し、液状の充填物質で含浸させる段階、(S4)(S3)の結果物を冷却して充填物質を固化させて相変換層を形成する段階、(S5)前記相変換層を電解質層上に積層させる段階、及び(S6)正極を用意して前記相変換層上に積層させる段階を含むものである。
【0021】
本発明の第10態様は、第9態様において、(S7)前記(S5)段階前に電解質層上にリチウム塩を塗布してリチウム塩層を形成する段階をさらに行うものである。
【0022】
本発明の第11態様は、第9または第10態様において、(S8)前記(S6)段階後に製造された電池を加熱し、所定時間静置して充填物質を液化させる段階をさらに行うものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明による複合電解質膜は、電極、例えば正極と対面する表面に相変換層が配置されている。前記相変換層は、電池の内部温度上昇などの加熱によって充填物質が液化することで、正極と複合電解質膜との間で物理的に接触が断絶されている、すなわち、離隔している部分(デッドスペース)を充填して電解質膜と電極との界面抵抗を低下させることができる。
【0024】
また、前記相変換層の充填物質が液化して複合電解質膜と電極との界面のデッドスペースを減らすことで、複合電解質膜と電極表面との接触不均一性を低減させることができる。これによって、電極と多孔性高分子シート層との間の密着力を高め、多孔性高分子シート層と電解質層との間の界面抵抗を低めることができる。
【0025】
前記相変換層は、充填された充填物質が液化して電極内のデッドスペースを埋めることができる。これによって、リチウムイオンのイオン伝導性を高め、抵抗を低めることができ、電池の寿命性能を改善することができる。
【0026】
前記相変換層は、充填された充填物質が液化して負極内の負極活物質層と反応し、負極の表面にSEI被膜を形成することで、電池の寿命性能を高めることができる。
【0027】
前記相変換層は、それを充填している充填物質が液化して液体電解質として機能するため、電池のイオン伝導性を高めて電池の出力を向上させることができる。
【0028】
本発明による全固体電池は、多孔性シート層を含むため、液化した液体電解質が電解質層と接触して発生する高分子電解質の軟化、及びそれによる機械的物性低下を防止することができる。また、前記多孔性シート層を含むことで、リチウムデンドライトの成長を減少させることができる。
【0029】
本発明は、安全性が改善された全固体電池を提供することができる。
【0030】
本明細書に添付される図面は、本発明の望ましい実施形態を例示するものであり、発明の内容とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするものであるため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。一方、本明細書に添付される図面における要素の形状、大きさ、縮尺または比率などはより明確な説明を強調するため誇張されることもある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1a】本発明の一実施形態による全固体電池の断面を概略的に示した図である。
【
図1b】本発明の一実施形態による全固体電池の断面であって、相変換層の充填物質が液化した状態を概略的に示した図である。
【
図2a】本発明の一実施形態による全固体電池の断面を概略的に示した図である。
【
図2b】本発明の一実施形態による全固体電池の断面であって、相変換層の充填物質が液化した状態を概略的に示した図である。
【
図3】本発明の実施例及び比較例による電池の容量維持率の評価実験の結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明する。本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。したがって、本明細書に記載された実施形態及び図面に示された構成は、本発明のもっとも望ましい一実施形態に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを代弁するものではないため、本出願の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0033】
本明細書の全体において、ある部分が他の部分と「連結」されるとは、「直接的に連結されている場合」だけでなく、その間に他の素子を介在して「電気的に連結」されている場合も含む。
【0034】
本明細書の全体で使われる用語「約」、「実質的に」などは、言及された意味に固有の製造及び物質許容誤差が提示されるとき、その数値でまたはその数値に近接した意味として使われ、本願の理解を助けるために正確又は絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使われる。
【0035】
本明細書の全体において、マーカッシュ形式の表現に含まれた「これらの組合せ」の用語は、マーカッシュ形式の表現に記載された構成要素からなる群より選択される1つ以上の混合または組合せを意味し、構成要素からなる群より選択される1つ以上を含むことを意味する。
【0036】
本明細書の全体において、「A及び/またはB」との記載は「A、Bまたはこれら全て」を意味する。
【0037】
また、本明細書で使用される「含む(comprise、comprising)」は、言及した形状、数字、段階、動作、部材、要素及び/またはこれら群の存在を特定するものであり、1つ以上の他の形状、数字、動作、部材、要素及び/または群の存在または付加を排除するものではない。
【0038】
液体電解質ではなく固体タイプの電解質を使用する全固体電池は、正極と負極との間に固体電解質を含む電解質膜が配置されている。該電解質膜は、正極と負極とを電気的に絶縁させる分離膜の役割、及び電池の過熱を防止する安全装置としての役割を果たす。また、このような電解質膜は、イオン伝導性層であって、リチウムイオンが移動できるため、電池の充電及び放電を可能にする。
【0039】
しかし、電解質膜は固体であるため、電解質膜と対面する電池要素、例えば固体電解質膜と電極との間が離隔し、それによってイオン伝導性のない空隙、すなわち、デッドスペースが生じ得る。このような場合、電流がデッドスペースではない部分に集中し、それによってリチウムデンドライトの生成が加速化し得る。また、デンドライトの成長によって内部短絡が発生することもある。
【0040】
本発明は、このような問題点を解決するため、電解質膜の表面に相変換層が配置された複合電解質膜を提案する。
【0041】
以下、本明細書に添付された図面を参照して本発明を詳しく説明する。
【0042】
本発明の一実施形態において、前記複合電解質膜は、電解質層及び相変換層が順次に積層された構造を有する。前記複合電解質膜は、全固体電池用電解質膜として使用されるものであって、前記電解質層は固体電解質材料を含む。ここで、前記相変換層は、多孔性シート及び前記多孔性シートの気孔を充填する充填物質を含む。前記充填物質は、常温またはその以下では固体状態で存在し、30℃以上の温度では流動性のある液体状態に相が変化する物質を意味する。本明細書において、常温とは23℃~26℃を意味し、該範囲内で24℃以上であり得る。前記複合電解質膜は、正極と負極との間に配置されて全固体電池用電解質膜として適用され得る。前記相変換層は、電極と対面するように配置され、例えば正極と対面するように配置され得る。
図1aは、本発明の一実施形態による複合電解質膜及びそれを含む電池100の断面を概略的に示した図である。これを参照すると、正極110と負極120との間に相変換層130及び電解質層140が介在され、前記相変換層は正極と対面するように配置されている。
【0043】
前記電解質層は、固体電解質材料を含む。前記固体電解質材料は、高分子系固体電解質、酸化物系固体電解質及び硫化物系固体電解質のうち1つ以上を含むことができる。本発明の固体高分子電解質は、電極内でリチウムイオンを伝達する役割を果たすため、イオン伝導度の高い素材、例えば、10-6s/cm以上、10-5s/cm以上、または10-4s/cm以上のものであれば制限なく使用可能である。
【0044】
本発明において、前記固体電解質材料は、高分子系固体電解質材料を含むことが望ましい。本発明の一実施形態において、前記高分子系固体電解質は、溶媒化したリチウム塩に高分子樹脂が添加されて形成された高分子固体電解質であるか、または、有機溶媒とリチウム塩とを含む有機電解液、イオン性液体、モノマーまたはオリゴマーなどを高分子樹脂に含有させた高分子ゲル電解質であり得る。本発明の具体的な一実施形態において、前記高分子系固体電解質は、高分子樹脂として、例えば、ポリエーテル系高分子、ポリカーボネート系高分子、アクリレート系高分子、ポリシロキサン系高分子、ホスファゼン系高分子、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)などのアルキレンオキシド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリアジテーションリシン(agitation lysine)、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、イオン性解離基を含む重合体などを含むことができる。そして、前記高分子固体電解質は、高分子樹脂としてPEO主鎖に、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリシロキサン(pdms)及び/またはホスファゼンのような無定形高分子を共単量体で共重合させた枝状共重合体、櫛状高分子樹脂(comb-like polymer)及び架橋高分子樹脂などを含むことができ、これら高分子の混合物を含んでもよい。
【0045】
また、前記高分子ゲル電解質は、リチウム塩を含む有機電解液及び高分子樹脂を含むものであって、前記有機電解液は高分子樹脂の重量に対して60~400重量部で含まれる。ゲル電解質に適用される高分子樹脂は、特定の成分に限定されないが、例えば、ポリエーテル系、ポリ塩化ビニル(PVC)系、PMMA系、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF-HFP)などであり得、これら高分子の混合物であってもよい。
【0046】
本発明の一実施形態において、前記リチウム塩は、Li+X-で表すことができる。本発明の具体的な一実施形態において、前記リチウム塩は、陽イオンとしてLi+を含み、陰イオンとしてF-、Cl-、Br-、I-、NO3
-、N(CN)2
-、BF4
-、ClO4
-、AlO4
-、AlCl4
-、PF6
-、SbF6
-、AsF6
-、F2C2O4
-、BC4O8
-、(CF3)2PF4
-、(CF3)3PF3
-、(CF3)4PF2
-、(CF3)5PF-、(CF3)6P-、CF3SO3
-、C4F9SO3
-、CF3CF2SO3
-、(CF3SO2)2N-、(F2SO2)2N-、CF3CF2(CF3)2CO-、(CF3SO2)2CH-、CF3(CF2)7SO3
-、CF3CO2
-、CH3CO2
-、SCN-及び(CF3CF2SO2)2N-からなる群より選択された少なくともいずれか1つを含むことができる。
【0047】
本発明の一実施形態において、前記電解質層が高分子樹脂及びリチウム塩を含む場合、リチウム塩と高分子樹脂とをモル比で1:5~1:30の比率で含むことができる。例えば、高分子樹脂がポリエチレンオキシドである場合、[EO]:[Li+]がモル比で5:1~30:1の範囲を有し得る。
【0048】
前記相変換層は、多孔性シート、及び前記多孔性シートの気孔を充填している充填物質を含む。
【0049】
前記多孔性シートは、高分子材料を含み、複数の気孔を有する多孔性のフィルムまたは不織布材料である。特に、電気化学素子用分離膜の素材として使用可能なものであれば、特に制限なく使用できる。前記気孔は、相互に連結された構造になっているため、基材の一面から他面へと気体または液体が通過可能なものである。
【0050】
本発明の一実施形態において、前記多孔性シートは、5μm~50μmの厚さを有し得る。多孔性シートの厚さが上記の数値範囲を満足する場合、液相化した充填物質が十分に含浸でき、リチウムイオンが移動する距離が短くて複合電解質膜のイオン伝導度を所望の水準に維持することができる。
【0051】
前記多孔性シートの気孔度は、30vol%~80vol%の範囲を有し得る。前記気孔度は、上記の範囲内で60vol%以下、50vol%以下、40vol%以下、または30vol%以下の値を有し得る。また、前記気孔度は、上記の範囲内で20vol%以上、30vol%以上、40vol%以上、または60vol%以上の値を有し得る。例えば、前記気孔度は30vol%~60vol%の値を有し得る。本発明で用いられる充填物質は、高分子材料を軟化させる可塑剤としての機能を果たすことができる。したがって、気孔度が高過ぎる場合は、多孔性シートの気孔を通って液化した充填物質が電解質層に多量流れ込んで、もし電解質層が高分子系固体電解質を含んでいる場合は、充填物質によって固体電解質が軟化して物理的な特性が低下するおそれがある。一方、気孔度が低過ぎる場合は、リチウムイオンの移動が低下し得る。したがって、前記気孔度の範囲を満足する場合、液化した充填物質が多孔性シートの気孔を通過して電解質層が軟化することを防止すると同時に、電池のイオン伝導度を望ましい水準で維持することができる。本発明において、気孔度は次のような方法で測定し得る。本発明の一実施形態において、前記気孔度の測定方法は、ASTM D 4284-92基準に準じて、一定圧力で水銀によって満たされる細孔の直径を測定した。0.5~60,000psiの範囲で連続的に圧力を印加しながらそれぞれの一定圧力での細孔を測定し、このとき、多孔性シートに充填される水銀の体積を測定することで気孔度を測定した。気孔度は自動的に測定されて計算された値が出力されるようになっている。使用した装置はマイクロメリティックス(Micrometrics)社製のAutopore IV 9500であり、測定可能な気孔の大きさは0.003μm~360μmである。
【0052】
本発明の具体的な一実施形態において、前記多孔性シートは、ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリブチレン;ポリペンテン;ポリヘキセン;ポリオクテン;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、4-メチルペンテン、ヘキセン及びオクテンのうち2種以上の共重合体;のうちいずれか1種、または、これらのうち2種以上の混合物を含むことができる。しかし、これらに限定されることはない。
【0053】
また、前記多孔性シートは、リチウムデンドライトの成長を減少でき、複合電解質膜の機械的強度を増加させることができる。これは、前記多孔性高分子シート自体が支持層の役割を果たすと同時に、前記多孔性高分子シートに液相化した可塑剤及びリチウム塩が含浸して前記多孔性高分子シート内の気孔を充填しているからであると言える。
【0054】
前記充填物質は、本技術分野において液体電解質用有機溶媒として使用でき、常温で固体状態であって、昇温によって、例えば約30℃以上の条件で溶融して液相化するものである。
【0055】
本発明の具体的な一実施形態において、前記充填物質は、常温以下の温度では固体状態を維持するが、電池のエイジング段階や電池駆動中、内部温度が上昇して特定温度条件以上になれば、溶融して液状に変化する。例えば、電池の組み立て後、約60℃で約10秒間エイジングが行われる場合、前記充填物質が液化し得る。このとき、液化した充填物質は、リチウム塩の溶媒として作用し得る。すなわち、液化した充填物質と接触したリチウム塩がそれに溶解されて液体電解質化する。一方、前記充填物質は、温度が低くなる場合と再び固化する特性があるが、液相化した後リチウム塩と混合された場合は、温度が融点以下に低下しても固化せずに液体状態が維持される。これは充填物質がリチウム塩と混合されながら融点が低くなるためである。
【0056】
本発明の具体的な一実施形態において、前記充填物質が一旦液体状態に変わったなら、電池駆動時の電池の温度が必ずしも充填物質の融点以上である必要はない。
【0057】
本発明の具体的な一実施形態において、前記充填物質は、エチレンカーボネート、重量平均分子量1,000以上のポリエチレングリコール、スクシノニトリル、または環状ホスフェートなどであり得、これらのうち1つ以上の混合物を含むことができる。本発明において、エチレンカーボネートは約37℃、ポリエチレングリコール(Mw 1000以上)は約35℃、スクシノニトリルは約57℃、環状ホスフェートは約65℃の融点を有する。
【0058】
一方、プロピレンカーボネート(PC)、重量平均分子量1,000未満、特に600以下のポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDME)及びジエチルフタレート(DEP)などは、液体電解質用有機溶媒として使用される物質であるが、常温で液体状態で存在するため、本発明の充填物質として適用されない。
【0059】
本発明の具体的な一実施形態において、前記充填物質は、エチレンカーボネートであり得る。前記エチレンカーボネートは融点が約37℃であって、常温で固体状態で存在する。エチレンカーボネートは融点以上の温度条件で液相化し、液化したエチレンカーボネートは周辺の固体リチウム塩を溶解させて液体電解質として機能することができ、不純物の混入が少ない長所がある。特に、このようなエチレンカーボネートは、非水電解液のうちイオン伝導性及び酸化反応性(6.2V)が高く、SEI被膜を形成した後、電池の性能を向上させるのに役立つ。
【0060】
一方、本発明の一実施形態において、液化した充填物質中のリチウム塩の濃度は、約0.05モル%~5.0モル%であり得、上記の範囲内で0.1モル%以上、0.5モル%以上、1.0モル%以上または2.0モル%以上、4.0モル%以下、3.0モル%以下、または2.0モル%以下であり得る。例えば、前記リチウム塩の濃度は、0.1%~2.5モル%、1.5モル%~2.5モル%または1.0モル%~2.0モル%であり得る。
【0061】
前記リチウム塩の濃度が上記の数値範囲を満足する場合、以降温度が下がっても液相化した充填物質が再び固相化しないようになり得る。また、リチウム塩の濃度が上記の数値範囲を満足することで、液相化した混合物内のリチウム塩の粘度が適切に維持されて低温出力が低くなって、経済性の面で有利であり得る。また、上記の数値範囲内であると、液体電解質としての使用に適したイオン伝導度を有し、電極との界面抵抗を低下させるのに適した濃度を有し得る。
図1bは、相変換層の充填物質が液化した状態を概略的に示した図である。これを参照すると、正極110と負極120との間に相変換層130及び電解質層140が介在され、前記相変換層は正極と対面するように配置されている。ここで、前記相変換層130は、充填物質が電池の内部温度の上昇によって液化した状態130aを有する。
【0062】
一方、本発明の一実施形態において、前記電解質層は、両面のうち相変換層と対面する一面の全部または少なくとも一部をリチウム塩でコーティングすることができる。上述したように、前記充填物質は、液化した後、リチウム塩と混合されれば、温度が低くなっても液化状態が維持される。そこで、電解質層の表面にリチウム塩をコーティングすることで、溶融した充填物質がリチウム塩と容易に混合できる。また、本発明の他の実施形態において、特に、固体電解質材料として高分子系固体電解質を使用する場合は、高分子樹脂及びリチウム塩を混合せずに高分子樹脂層を形成した後、その表面にリチウム塩をコーティングしてリチウム塩層を形成する方法で、電解質層を形成することができる。前記リチウム塩は、液化した充填物質と混合されてイオン化した状態で存在可能なものであれば制限なく使用でき、上述した内容を参照し得る。
【0063】
図2aは、正極210と負極220との間に電解質層及び相変換層230が介在されたものであって、電解質層が高分子樹脂層240及びリチウム塩層250が順次に積層された積層構造を有し、リチウム塩層250が相変換層230と対面するように配置された複合電解質膜、及びこれを含む電池200の構成を示した図である。ここで、前記高分子樹脂層は、リチウム塩を含んでもよく、含まなくてもよい。前記リチウム塩層は、リチウム塩で高分子樹脂層の表面を全部または少なくとも一部被覆するように形成されている。
【0064】
上述したように、本発明による複合電解質膜は、電池の充放電時に内部温度の上昇などによって前記充填物質が溶融して液相化する。
図2bを参照すると、充填物質が液化し(230a、250a)、液化した充填物質が相変換層230を充填する。
【0065】
その後、周辺のリチウム塩を溶解し、液化した充填物質とリチウム塩とが混合されることで、温度が低下しても充填物質が再び固化することなく、液体状態を維持することができる。液化した充填物質は、リチウム塩の混合によって液体電解質としての役割を果たすことで、電極と複合電解質膜との界面抵抗を減少させることができる。また、このように生成された液体電解質は、多孔性シートの気孔だけでなく、複合電解質膜と電極との間のデッドスペースを充填することで、イオン伝導性のないデッドスペースが除去されてイオン伝導度が向上し、電極と複合電解質膜との接着力を改善することができる。
【0066】
一方、本明細書において、液化、液相化、液化した状態、及び液相化した状態とは、固体状態の充填物質が溶融して流動性を有する状態を意味し得る。
【0067】
また、本発明は、前記複合電解質膜を含む全固体電池を提供する。前記全固体電池は、正極、負極、及び前記正極と負極との間に介在された前記複合電解質膜を含むものであり、望ましくは前記相変換層が前記正極と対面するように配置される。
【0068】
本発明において、前記正極は、正極集電体、及び前記集電体の少なくとも一面に正極活物質、導電材及び固体電解質を含む正極活物質層を備える。前記正極活物質層は、必要に応じてバインダー樹脂をさらに含むことができる。前記正極活物質は、リチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4、LiMnO2など)、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)などの層状化合物、または、1つまたはそれ以上の遷移金属で置換された化合物;化学式Li1+xMn2-xO4(xは0~0.33)、LiMnO3、LiMn2O3、LiMnO2などのリチウムマンガン酸化物;リチウム銅酸化物(Li2CuO2);LiV3O8、LiV3O4、V2O5、Cu2V2O7などのバナジウム酸化物;化学式LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1、0<x<1、0<y<1、0<z<1)、化学式LiNi1-xMxO2(M=Co、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、BまたはGa、x=0.01~0.3)で表されるNiサイト型リチウムニッケル酸化物;化学式LiMn2-xMxO2(M=Co、Ni、Fe、Cr、ZnまたはTa、x=0.01~0.1)、Li2Mn3MO8(M=Fe、Co、Ni、CuまたはZn)、LiaNixMnyCo1-x-yO2(0.5<a<1.5、x+y<1、0<[x、y]<1)で表されるリチウムマンガン複合酸化物;化学式のLiの一部がアルカリ土類金属イオンで置換されたLiMn2O4;ジスルフィド化合物;Fe2(MoO4)3のうち1種または2種以上の混合物を含むことができる。
【0069】
本発明において、前記負極は、負極集電体、及び前記集電体の少なくとも一面に負極活物質、導電材及び固体電解質を含む負極活物質層を備える。前記負極活物質層は、必要に応じてバインダー樹脂をさらに含むことができる。前記負極は、負極活物質としてリチウム金属酸化物、難黒鉛化炭素、黒鉛系炭素などの炭素;LixFe2O3(0≦x≦1)、LixWO2(0≦x≦1)、SnxMe1-xMe’yOz(Me:Mn、Fe、Pb、Ge;Me’:Al、B、P、Si、周期表の1族、2族、3族元素、ハロゲン;0<x≦1;1≦y≦3;1≦z≦8)などの金属複合酸化物;リチウム金属;リチウム合金;ケイ素系合金;スズ系合金;SnO、SnO2、PbO、PbO2、Pb2O3、Pb3O4、Sb2O3、Sb2O4、Sb2O5、GeO、GeO2、Bi2O3、Bi2O4及びBi2O5などの金属酸化物;ポリアセチレンなどの導電性高分子;Li-Co-Ni系材料;チタン酸化物のうち選択されたいずれか1種または2種以上の混合物を含むことができる。
【0070】
本発明の具体的な一実施形態において、前記導電材は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維または金属繊維、金属粉末、導電性ウィスカー、導電性金属酸化物、活性カーボン及びポリフェニレン誘導体からなる群より選択されたいずれか1種またはこれらのうち2種以上の導電性材料の混合物であり得る。より具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛、スーパーP、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、デンカブラック、アルミニウム粉末、ニッケル粉末、酸化亜鉛、チタン酸カリウム及び酸化チタンからなる群より選択された1種またはこれらのうち2種以上の導電性材料の混合物であり得る。
【0071】
前記集電体は、当該電池に化学的変化を誘発せず高い導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、ステンレススチール、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、若しくは、アルミニウム又はステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどを使用することができる。
【0072】
前記バインダー樹脂としては、当業界で電極に通常使用される高分子を使用することができる。このようなバインダー樹脂の非制限的な例としては、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン-トリクロロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルヘキシルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキシド、ポリアリレート、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン、及びカルボキシメチルセルロースなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0073】
前記正極または負極に含まれる固体電解質は、高分子系固体電解質、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質のうち選択された1種以上を含むことができ、電解質層についての上述した内容を参照し得る。
【0074】
一方、全固体電池は、例えば次のような方法で製造することができる。まず、負極を用意した後、前記負極の表面に電解質層を形成する。次いで、前記電解質層の表面に相変換層を形成する。前記相変換層は、まず、充填物質を溶融させて液体状態にし、そこに多孔性シートを浸漬して多孔性シートを液状の充填物質で充填させる。その後、前記充填物質で充填された多孔性シートを冷却して充填物質を再度固化させる。このようにして用意した相変換層を前記電解質層の表面に積層して複合電解質膜を形成する。次いで、正極を用意して前記相変換層の表面に積層させる。このような方法で全固体電池用電極組立体が得られると、これを適切なケースに入れて密封し、全固体電池を製造することができる。その後、製造された電池を活性化工程に投入してエイジング及び初回充放電段階を行う。このような活性化工程で電池の内部温度が充填物質の溶融温度以上に上昇し、それによって多孔性シートの充填物質が液相化してリチウム塩と混合されることで、永久に液相化した状態を維持することができる。
【0075】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形され得、本発明の範囲が後述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0076】
実施例1
1)負極の製造
負極活物質(人造黒鉛)、ポリエチレンオキシド(PEO)、電解質塩としてLiTFSI、導電材(Super C65)、バインダー高分子としてスチレンブタジエンゴム(SBR)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を重量比で80:9:3.5:3:3:1.5の比率で混合した後、粘度を考慮して溶媒としてのアセトニトリル(AN)をさらに追加して負極活物質スラリーを製造した。製造した負極活物質スラリーを厚さ20μmの銅集電体に塗布した後、100℃で24時間真空乾燥して負極を製造した。
【0077】
2)複合電解質膜の製造
ポリエチレンオキシド(PEO)をアセトニトリル(AN)に溶解させて固形分40wt%濃度の高分子溶液を製造した。前記高分子溶液をドクターブレードを用いて前記負極の表面に厚さ約40μmにコーティングし乾燥して高分子樹脂層を形成した。次いで、LiTFSIをアセトニトリルと50wt%の濃度で混合してコーティング溶液を用意し、前記コーティング溶液を前記高分子樹脂層の表面に塗布し乾燥して電解質層を形成した。このとき、前記電解質層において、PEOとリチウム塩とはモル濃度で[EO]:[Li+]=20:1の含量比を有するようにした。
【0078】
60℃の恒温槽を用意し、そこにエチレンカーボネートルを投入して溶融させた。このようにして液状で用意したエチレンカーボネートに多孔性シート(ポリエチレン素材、気孔度40vol%)を浸漬した後、真空条件で約12時間静置し、その間の温度は60℃に維持した。次いで、これを常温に置き、多孔性シートに充填されたエチレンカーボネートを再度固化させた。前記多孔性シートは、内部の気孔がECで充填されただけでなく、両面がECでコーティングされた。使用された多孔性シートは気孔度45%、厚さ約10μm、直径約15mmの円形で用意し、前記シートに充填及び表面にコーティングされたエチレンカーボネートの総量は約10mgであった。得られた前記多孔性シートを前記電解質層に積層させて複合電解質膜を製造した。
【0079】
3)正極の形成
正極活物質としてNCM811(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)、固体電解質としてポリエチレンオキシド(PEO)、電解質塩としてLiTFSI、導電材(VGCF)、バインダー高分子(PVdF)を80:11:3:3:3(重量比)で混合した後、溶媒としてのアセトニトリル(AN)をさらに追加して粘度を調節した後、正極活物質スラリーを製造した。
【0080】
製造された正極活物質スラリーを厚さ20μmのアルミニウム集電体に塗布した後、120℃で24時間真空乾燥させて正極を製造した。前記正極を前記複合電解質膜の表面に積層して電極組立体を製造し、前記電極組立体を用いてコインセルを製造した。
【0081】
4)電池の活性化
上記の3)を通じて得られたコインセルを約1時間60℃の温度でエイジングした。
【0082】
実施例2
1)負極の製造
実施例1と同じ方法で負極を用意した。
【0083】
2)複合電解質膜の製造
ポリエチレンオキシド(PEO)とLiTFSIとの混合物([EO]:[Li+]=20:1、モル比)を用意し、ドクターブレードを用いてこれを前記負極の表面に厚さ約40μmにコーティングし乾燥して電解質層を形成した。
【0084】
60℃の恒温槽を用意し、そこにエチレンカーボネート(EC)を投入して溶融させた。このようにして液状で用意したエチレンカーボネートに多孔性シート(ポリエチレン、気孔度40vol%)を浸漬した後、真空条件で約12時間静置し、その間の温度は60℃に維持した。次いで、これを常温に置き、多孔性シートに充填されたエチレンカーボネートを再度固化させた。前記多孔性シートは、内部の気孔がECで充填されただけでなく、両面がECでコーティングされた。使用された多孔性シートは気孔度45vol%、厚さ約10μm、直径約15mmの円形で用意し、前記シートに充填及び表面にコーティングされたエチレンカーボネートの総量は約10mgであった。得られた前記多孔性シートを前記電解質層に積層させて複合電解質膜を製造した。
【0085】
3)正極の形成
実施例1と同じ方法で正極を形成し、前記複合電解質膜の表面に積層して電池を製造した。
【0086】
4)電池の活性化
上記の3)を通じて得られたコインセルを約1時間60℃の温度でエイジングした。
【0087】
実施例3
充填物質としてエチレンカーボネートではなく、スクシノニトリル(SN)を使用することを除き、実施例2と同じ方法で電池を製造した。
【0088】
比較例
相変換層を形成しない点を除き、実施例2と同じ方法で電池を製造した。
【0089】
実験例
(1)容量維持率の測定
実施例及び比較例のリチウム電池に対し、常温条件で0.1Cで4.25VまでCC(一定電流(Constant Current))-CV(一定電圧(Constant Voltage))充電し、0.1Cで3Vまで定電流で放電することを10サイクル繰り返して容量維持率を確認した。その結果を
図3に示した。
【0090】
実施例1~3の場合、比較例に比べて容量維持率が優れた。特に、リチウムコーティング層が形成された実施例1の場合、実施例2及び実施例3に比べてさらに優れた容量維持率が確認された。
【0091】
(2)気孔度の測定
気孔度の測定方法は、ASTM D 4284-92基準に準じて、一定圧力で水銀によって満たされる細孔の直径を測定した。0.5~60,000psiで連続的に圧力を印加しながらそれぞれの一定圧力での細孔を測定し、このとき、分離膜に充填される水銀の体積を測定することで気孔度を測定した。気孔度は自動的に測定されて計算された値が出力されるようになっている。使用した装置はマイクロメリティックス社製のAutopore IV 9500であり、測定可能な気孔の大きさは0.003μm~360μmである。
【0092】
(3)気孔径の測定
平均気孔径(mean flow pore size:MFPS)及び最大気孔径は、自動化キャピラリーフローポロメーター(automated capillary flow porometer)[PMI(Porous Materials Inc.)社製、Model CFP-1200AEL(CFP-34RTF8A-X-6-L4)]を使用して測定した。測定に使用された湿潤液(wetting fluid)はGalwick液(表面張力15.9dynes/cm)]であった。アダプタプレートの直径は21mmであり、ウェットアップ/ドライアップ(wet-up/dry-up)方法で測定した。
【符号の説明】
【0093】
100:電池
110、210:正極
111、211:正極集電体
112、212:正極活物質層
140:電解質層
120、220:負極
121、221:負極集電体
122、222:負極活物質層
230、130:相変換層
230a、130a:充填物質が液化した状態
250:リチウム塩層
250a:充填物質が液化した状態
240:高分子樹脂層