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特許7094494キョウチクトウ科ニチニチソウ属の形質転換植物体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】キョウチクトウ科ニチニチソウ属の形質転換植物体
(51)【国際特許分類】
   A01H 5/00 20180101AFI20220627BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20220627BHJP
   C12P 33/00 20060101ALI20220627BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20220627BHJP
   C07G 5/00 20060101ALN20220627BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20220627BHJP
【FI】
A01H5/00 A ZNA
A01H1/00 A
C12P33/00
C12N15/29
C07G5/00
C12Q1/6876 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2018168132
(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2020039277
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100168631
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 康匡
(72)【発明者】
【氏名】木坂 広明
(72)【発明者】
【氏名】三輪 哲也
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0195175(US,A1)
【文献】国際公開第2017/151860(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0111631(US,A1)
【文献】特開2013-141421(JP,A)
【文献】特表平07-507693(JP,A)
【文献】国際公開第2019/194309(WO,A1)
【文献】PAN Q. et al.,PLOS ONE,2012年,Vol.7, Issue 8,e43038
【文献】CHOI P. S. et al.,Plant Cell Rep,2004年,22,pp.828-831
【文献】OGAWA Y. et al.,Plant Science,172,2007年,pp.564-572
【文献】PEEBLES C. A. M. et al.,Metabolic Engineering,2011年,13,pp.234-240
【文献】PEEBLE C. A. M. et al.,Biotechnology and Bioengineering,2006年,93(3),pp.534-540
【文献】PEEBLE C. A. M. et al.,Biotechnology and Bioengineering,2009年,102(5),p.1521-1525
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00-17/00
C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が外来遺伝子としてキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物のゲノムに組み込まれている形質転換植物体であって、
前記トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が、少なくとも、
(1)aroG、或いは
(2)trpD及びtrpEの組み合わせ
を含み、
但し、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子は、ORCA3をコードする遺伝子を含まないことを条件とする、
前記形質転換植物体
【請求項2】
前記トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が安定発現している、請求項1に記載の形質転換植物体。
【請求項3】
前記トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が、アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)及び/又はメロペネムを用いて、前記植物のゲノムに組み込ませた遺伝子である、請求項1又は2に記載の形質転換植物体。
【請求項4】
前記アグロバクテリウム・リゾゲネスが、アグロバクテリウム・リゾゲネスA13株(MAFF210266)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
【請求項5】
前記トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が、大腸菌由来のトリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子である、請求項1~4のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
【請求項6】
前記トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が、キョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物由来のアルドラーゼのクロロプラストへの移行シグナルをコードするDNA配列と連結されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
【請求項7】
前記形質転換植物体の単位質量あたりの少なくとも1種のアルカロイドの合成量が、キョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物野生株の単位質量あたりの少なくとも1種のアルカロイドの合成量よりも増大している、請求項1~6のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
【請求項8】
前記形質転換植物体の単位質量あたりの少なくとも1種のアルカロイドの合成量が、キョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物野生株の単位質量あたりの少なくとも1種のアルカロイドの合成量よりも1.1倍以上多い、請求項1~7のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
【請求項9】
前記アルカロイドが、カタランチン、ビンドリン、アジマリシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、タベルソニン、セルペンチン、ステンマデニン、ストリクトシジンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7又は8に記載の形質転換植物体。
【請求項10】
前記アルカロイドが、カタランチン、ビンドリン、アジマリシンから成る群から選択される少なくとも1種である、請求項7~9のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
【請求項11】
前記アルカロイドが、カタランチンである、請求項7~10のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
【請求項12】
前記トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が、aroG、trpD及びtrpEを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
【請求項13】
前記aroGは、フェニルアラニンによる3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸合成酵素のフィードバック制御を抑えるように改変された遺伝子であり、及び/又は、
前記trpEは、トリプトファンによるアントラニル酸合成酵素のフィードバック制御を抑えるように改変された遺伝子である、請求項1~12に記載の形質転換植物体。
【請求項14】
前記aroGは、配列番号21のDNA配列を有する遺伝子であり、及び/又は
前記trpDは、配列番号22のDNA配列を有する遺伝子であり、及び/又は
前記trpEは、配列番号24のDNA配列を有する遺伝子である、請求項1~13のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
【請求項15】
前記キョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物が、ニチニチソウである、請求項1~14のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の形質転換植物体から得られる植物片。
【請求項17】
アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を用いて、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子を外来遺伝子としてキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に導入する工程、
前記トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子を導入したキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物がカルスでない場合には、前記遺伝子を導入した植物からカルスを形成させる工程、及び
メロペネムを含む培地を用いてカルスから根及びシュートを分化させて、形質転換植物体を得る工程を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の形質転換植物体の製造方法。
【請求項18】
アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を用いてトリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子をキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に導入する工程、
前記トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子を導入したキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物がカルスでない場合には、前記遺伝子を導入した植物からカルスを形成させる工程、及び
メロペネムを含む培地を用いてカルスから根及びシュートを分化させて、形質転換植物体を得る工程
を含む、アルカロイドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キョウチクトウ科ニチニチソウ属の形質転換植物体に関する。特には、野生株に比べてアルカロイドの含有量又は生成量が増大しているキョウチクトウ科ニチニチソウ属の形質転換植物体に関する。
【背景技術】
【0002】
ビンブラスチン、ビンクリスチンなどのビンカアルカロイドは、キョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物から抽出されるモノテルペンインドールアルカロイド(MIA)であり、強力な微小管重合阻害活性を奏することが知られている。また、ホジキン病、悪性リンパ腫等への抗がん剤としても上市されている。
【0003】
キョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物は、樹木に比べて生育が早く、環境負荷の問題も小さいため、MIA類の生成のための原料として優れているといえる。しかしながら、キョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物の抽出によって得られるアルカロイドの量は微量(ビンカアルカロイドの場合100μg/gFW程度)であるため、当該植物を大量に栽培しなければ今後見込まれる需要の増大に対応することが出来ない。
【0004】
キョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物におけるアルカロイドの生成量を増大させる方法として、非特許文献1には、アラビドプシス由来のトリプトファンによるフィードバック阻害に抵抗性を有するアントラニレート合成酵素αサブユニットをグルココルチコイド誘導性プロモーターにより、ニチニチソウの毛状根中で発現させることにより、トリプトファン及びトリプタミンの収量を増大させ、これによりモノテルペンインドールアルカロイド(MIA)の一種であるロクネリシン(lochnericine)の量を増大させることが記載されている。
また、非特許文献2には、ORCA4の過剰発現により、ニチニチソウ毛状根のビンカアルカロイド生合成中間体の蓄積量を増大させることが記載されている(1108頁右欄6~7行)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Hughes et al., Expression of a Feedback-Resistant Anthranilate Synthase in Catharanthus roseus Hairy Roots Provides Evidence for Tight Regulation of Terpenoid Indole Alkaloid Levels, Biotechnology and Bioengineering, Vol. 86, No. 6, June 20, 2004, pp. 718-727
【文献】Paul et al., A differentially regulated AP2/ERF transcription factor gene cluster acts downstream of a MAP kinase cascade to modulate terpenoid indole alkanoid biosynthesis in Catharanthus roseus, New Phytologist (2017) 213: pp. 1107-1123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1及び2のいずれの方法も、導入した遺伝子の発現は1世代限りであり、後代の種子を得て、大量に増殖させることができないという大きな問題がある。また、非特許文献1の方法は、毛状根に限定された発現であり、無菌的な環境でしか増殖できず、さらにはロクネリシン以外のインドールアルカロイド量が有意に増大しないという問題がある(非特許文献1のAbstract)。また、非特許文献2の方法についても、非特許文献1と同様に毛状根に限定された知見であり、ORCA4過剰発現によりアルカロイドの生産効率がある程度向上するものの、今後想定される需要の増大を考えると、その生産効率は未だ十分なものとはいえない。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、外来遺伝子がキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物のゲノムに組みこまれている、形質転換植物体(トランスジェニック植物)を得ることを目的するものである。
また、本発明は、高効率でアルカロイドを生成させることができる形質転換植物体(トランスジェニック植物)を提供することを他の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意努力の結果、外来遺伝子がキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物のゲノムに組み込まれている形質転換植物体を得ることに成功した。
また、本発明者らは、鋭意努力の結果、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子がキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物のゲノムに組み込まれた形質転換植物体を用いることにより、高効率でアルカロイドを生成させることができることを見出した。
本発明は、以下の構成を含む。
〔1〕 外来遺伝子がキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物のゲノムに組み込まれている形質転換植物体。
〔2〕 前記外来遺伝子が安定発現している、〔1〕に記載の形質転換植物体。
〔3〕 前記外来遺伝子が、アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)及び/又はメロペネムを用いて、前記植物のゲノムに組み込ませた外来遺伝子である、〔1〕又は〔2〕に記載の形質転換植物体。
〔4〕 前記アグロバクテリウム・リゾゲネスが、アグロバクテリウム・リゾゲネスA13株(MAFF210266)である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
〔5〕 前記外来性の遺伝子が、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
〔6〕 前記外来遺伝子が、大腸菌由来のトリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子である、〔5〕に記載の形質転換植物体。
〔7〕 前記形質転換植物体の単位質量あたりの少なくとも1種のアルカロイドの含有量が、キョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物野生株の単位質量あたりの少なくとも1種のアルカロイドの含有量よりも1.1倍以上多い、〔5〕又は〔6〕に記載の形質転換植物体。
〔8〕 前記アルカロイドが、カタランチン、ビンドリン、アジマリシンから成る群から選択される少なくとも1種である、〔7〕に記載の形質転換植物体。
〔9〕 前記アルカロイドが、カタランチンである、〔7〕に記載の形質転換植物体。
〔10〕 前記トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が、aroG、trpD及びtrpEからなる群から選択される少なくとも1種を含む、〔5〕~〔9〕のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
〔11〕 前記トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が、少なくとも、
(1)aroG、或いは
(2)trpD及びtrpEの組み合わせ
を含む、〔5〕~〔10〕のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
〔12〕 前記トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が、aroG、trpD及びtrpEを含む、〔5〕~〔11〕のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
〔13〕 前記aroGは、フェニルアラニンによる3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸合成酵素のフィードバック制御を抑えるように改変された遺伝子であり、及び/又は、
前記trpEは、トリプトファンによるアントラニル酸合成酵素のフィードバック制御を抑えるように改変された遺伝子である、〔10〕~〔12〕に記載の形質転換植物体。
〔14〕 前記aroGは、配列番号21のDNA配列を有する遺伝子であり、及び/又は
前記trpDは、配列番号22のDNA配列を有する遺伝子であり、及び/又は
前記trpEは、配列番号24のDNA配列を有する遺伝子である、〔10〕~〔13〕のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
〔15〕 前記キョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物が、ニチニチソウである、〔1〕~〔14〕のいずれか1項に記載の形質転換植物体。
〔16〕 〔1〕~〔15〕のいずれか1項に記載の形質転換植物体から得られる植物片。
〔17〕 外来遺伝子をキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に導入する工程、
前記外来遺伝子を導入したキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物がカルスでない場合には、前記遺伝子を導入した植物からカルスを形成させる工程、及び
カルスから根及びシュートを分化させて、形質転換植物体を得る工程を含む、〔1〕~〔15〕のいずれか1項に記載の形質転換植物体の製造方法。
〔18〕 前記外来遺伝子が、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子である、〔17〕に記載の製造方法。
〔19〕 トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子をキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に導入する工程、
前記外来遺伝子を導入したキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物がカルスでない場合には、前記遺伝子を導入した植物からカルスを形成させる工程、及び
カルスから根及びシュートを分化させて、形質転換植物体を得る工程
を含む、アルカロイドの製造方法。
〔20〕 アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を用いて前記外来遺伝子をキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に導入し、且つ
メロペネムを含む培地を用いてカルスから根及びシュートを分化させる、〔17〕~〔19〕のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、外来遺伝子がキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物のゲノムに組み込まれている形質転換植物体を提供することができる。また、本発明によれば、高効率でアルカロイドを生産することができる形質転換植物体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、ニチニチソウにおけるアルカロイド合成経路を説明する図である。
図2図2(a)は、本発明の実施例で用いた各ベクターの設計図であり、図2(b)は、図2(a)に示すベクターを複数のニチニチソウの子葉(TG.1~33)に導入した後、当該ベクターに存在するNPTII遺伝子がニチニチソウのゲノム内に取り込まれたかどうかを、NPTII遺伝子特異的プライマーを用いたゲノムPCR解析により確認した結果を示す図である。バンドが確認できた植物は、少なくともNPTII遺伝子がニチニチソウのゲノムに取り込まれたことを意味する。なお、実施例1~10はそれぞれTG.1、TG.8、TG.10、TG.17、TG.25、TG.7、TG.13、TG.2、TG.6、TG.33である。
図3図3は、コントロール及び実施例1~5のニチニチソウの葉に含まれる遊離トリプトファン含量(単位質量あたりのトリプトファン含量(μmol))を示す図である(n=3,t-test。*は、P<0.05を意味し,**はP<0.01を意味する)。
図4図4は、コントロール及び実施例6~10のニチニチソウの葉に含まれる遊離トリプトファン含量(単位質量あたりのトリプトファン含量(μmol))を示す図である(n=3,t-test。*は、P<0.05を意味し,**はP<0.01を意味する)。
図5図5は、コントロール及び実施例1~5のニチニチソウの葉に含まれるアルカロイド(カタランチン、ビンドリン、アジマリシン)含量(単位質量あたりの含量(μg))を示す図である(n=3,t-test。*は、P<0.05を意味し,**はP<0.01を意味する)。
図6図6は、コントロール及び実施例6~10のニチニチソウの葉に含まれるアルカロイド(カタランチン、ビンドリン、アジマリシン)含量(単位質量あたりの含量(μg))を示す図である(n=3,t-test。*は、P<0.05を意味し,**はP<0.01を意味する)。
図7図7は、大腸菌由来のaroG遺伝子のDNA配列である。
図8図8は、大腸菌由来のaroG遺伝子を改変したaroG4遺伝子のDNA配列である。
図9図9は、大腸菌由来のtrpD遺伝子のDNA配列である。
図10図10は、大腸菌由来のtrpE遺伝子のDNA配列である。
図11図11は、大腸菌由来のtrpE遺伝子を改変したtrpE8遺伝子のDNA配列である。
図12図12は、ニチニチソウ由来のアルドラーゼのクロロプラスト(葉緑体)移行シグナルのDNA配列である。
図13図13は、タバコ由来のNt-JAT2遺伝子のDNA配列である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<<I.第1の態様>>
本発明の第1の態様は、外来遺伝子がキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物のゲノムに組み込まれている形質転換植物体である。好ましくは、外来遺伝子がキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に遺伝子導入され、当該外来遺伝子が植物のゲノムに組み込まれている形質転換植物体である。
本明細書及び特許請求の範囲において、「形質転換植物体」とは、植物ゲノムに組み込まれた外来遺伝子の発現により、遺伝的形質が変化した植物個体をいう。従って、導入された外来遺伝子が植物ゲノムには組み込まれていない植物個体は、本発明の形質転換植物体に含まれない。また、外来遺伝子が単に葉、茎、根などに導入されただけの植物片も、植物個体ではないため、本発明の形質転換植物体に含まれない。
本発明の形質転換植物体は植物個体であるため、生殖能力(有性生殖能力)を有し、植物ゲノムに組み込まれた外来遺伝子が次世代にも受け継がれるという優れた利点を有する。
他方、外来遺伝子が植物ゲノムには組み込まれていない植物個体は、外来遺伝子が次世代に受け継がれない。また、外来遺伝子が葉、茎又は根などに導入された植物片についても、生殖能力を有さないため、外来遺伝子が次世代に受け継がれない。
本明細書及び特許請求の範囲において、植物ゲノムに組み込まれる「外来遺伝子」とは、当該植物に内在する遺伝子とは異なる遺伝子、或いは当該植物に内在する遺伝子と同一の遺伝子であるが当該植物外から導入される遺伝子をいう。外来遺伝子としては、当該植物に内在する遺伝子とは異なる遺伝子であることが好ましく、当該植物とは異なる生物(植物、動物、微生物など)由来の遺伝子であることがより好ましい。ここで、外来遺伝子が植物に内在する遺伝子と同一であるとは、外来遺伝子の発現により得られるタンパク質のアミノ酸配列が、組み込まれる植物に内在する遺伝子の発現により得られるタンパク質のアミノ酸配列と同一であるものを指す。外来遺伝子が植物に内在する遺伝子と異なるとは、外来遺伝子の発現により得られるタンパク質のアミノ酸配列が、組み込まれる植物に内在する遺伝子の発現により得られるタンパク質のアミノ酸配列と異なるものを指す。
【0011】
本発明の形質転換植物体は、外来遺伝子が、アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)及び/又はメロペネムを用いて当該植物のゲノムに組み込まれていることが好ましい。アグロバクテリウム・リゾゲネスは、アグロバクテリウム属(リゾビウム属)に属する細菌(グラム陰性菌)の一種である。本発明の形質転換植物体は、例えば、外来遺伝子を含むベクターを有する細菌をキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に感染させることにより得ることができるが、当該細菌としてアグロバクテリウム・リゾゲネスを用いることにより、外来遺伝子が安定的に発現する形質転換植物体が得やすくなる。アグロバクテリウム・リゾゲネス細菌としては、アグロバクテリウム・リゾゲネスA13株(農業生物資源ジーンバンクに登録番号MAFF210266として寄託されている株(野生株))であることが好ましい。
メロペネムは、抗細菌作用を有するカルバペネム系抗生物質製剤の一種である。メロペネムを用いることにより、外来遺伝子が安定的に発現する形質転換植物体が得やすくなる。その理由は定かではないが、メロペネムを用いると、外来性遺伝子を含む細菌をキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に感染させた後の細菌の増殖を適度に抑えることができ、さらに、植物の生育に対する影響も少ないため、植物の生育が旺盛となり、細菌増殖による植物の死滅率を低減させることが、影響しているのではないかと推察される。
【0012】
外来遺伝子としては、特に制限はなく、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子、イソプレノイド生合成系に関与するタンパク質をコードする遺伝子、ビンカアルカロイド生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子、さらに、これらの代謝系を調節する転写因子などが挙げられる。これらの中でも、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子であることが好ましい。すなわち、本発明の第1の態様は、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子がキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物のゲノムに組み込まれた形質転換植物体であることが好ましい。
【0013】
植物体内におけるトリプトファン(L-トリプトファン)の生合成経路について説明する。L-トリプトファンは、芳香族アミノ酸の共通中間物質であるコリスミ酸から生合成される。ホスホエノールピルビン酸及びD-エリトロース-4-リン酸から始まる共同のシキミ酸経路を経て生成されたコリスミ酸にトリプトファンオペロンであるtrpEDCBAが合成する5種類の酵素が作用してL-トリプトファンが生合成される。まず、アントラニル酸合成酵素(TrpE-TrpD重合体)がコリスミ酸に作用してアントラニル酸を合成し、その後、アントラニル酸ホスホリボシル転移酵素(TrpD)が作用してホスホリボシルアントラニル酸を合成する。次いで、ホスホリボシルアントラニル酸異性化酵素(TrpC)およびインドール-3-グリセロールリン酸合成酵素(TrpC)が作用してインドール-3-グリセロールリン酸を合成し、ここにトリプトファン合成酵素(TrpB-TrpA重合体)が作用してL-トリプトファン合成が完成する(Bonggaerts et al.,MetabEng,3,289-300,2001)。
このように、トリプトファンの生合成には、種々のタンパク質(酵素)が関与しており、生体内におけるこれらの酵素の量を増やすことにより、トリプトファンの合成量を増大させることができる。
また、トリプトファンは、その合成量が増大すると、アントラニル酸合成酵素のαサブユニット(TrpE)にトリプトファンが結合することによって負のフィードバック制御を行うことが知られている。従って、アントラニル酸合成酵素のαサブユニット(trpE)を、トリプトファンと結合できないよう改変することによって、トリプトファンの合成量を更に増大させることができる。
【0014】
<1.トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子>
トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子としては、アントラニル酸合成酵素(trpE)、ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(serA)、3-デオキシ-D-アラビノヘプツロン酸-7-リン酸合成酵素(aroG)、3-デヒドロカイネート合成酵素(aroB)、シキミ酸デヒドロゲナーゼ(aroE)、シキミ酸キナーゼ(aroL)、5-エノイルピルビニルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(aroA)、コリスミ酸合成酵素(aroC)、プレフェン酸デヒドラターゼ、コリスミ酸ムターゼ(pheA)及びトリプトファン合成酵素(trpA,trpB)、ホスホリボシルアントラニル酸異性化酵素(TrpC)、インドール-3-グリセロールリン酸合成酵素(TrpC)アントラニル酸ホスホリボシル転移酵素(TrpD)をコードする遺伝子が挙げられる。なお、これらの遺伝子は、当該遺伝子がコードするタンパク質(酵素)の酵素活性が大きくなるように改変されていてもよい。また、トリプトファンとの結合により負のフィードバック制御を受けることが知られているアントラニル酸合成酵素のαサブユニット(trpE)やフェニルアラニンとの結合により負のフィードバック制御を受けることが知られている3-デオキシ-D-アラビノヘプツロン酸-7-リン酸合成酵素(aroG)をコードする遺伝子は、当該負のフィードバック制御が低減される改変や当該制御が解除されるように改変が施されていてもよい。トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子は、1種類の遺伝子であってもよく、2種類以上の遺伝子であってもよい。
【0015】
これらの中でも、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子としては、aroG、trpD及びtrpE遺伝子から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、trpD遺伝子及びtrpE遺伝子の組み合わせ及び/又はaroG遺伝子を含むことがより好ましく、aroG、trpD及びtrpE遺伝子を含むことがさらにより好ましい。また、trpE遺伝子は、トリプトファンによるアントラニル酸合成酵素のフィードバック制御を抑えるように改変されたtrpE遺伝子であってもよい。aroG遺伝子は、フェニルアラニンによる3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸合成酵素のフィードバック制御を抑えるように改変されたaroG遺伝子であってもよい。
また、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子は、大腸菌由来の当該遺伝子であることが好ましい。
以下、aroG、trpD及びtrpE遺伝子について説明する。
【0016】
(aroG遺伝子)
aroGは、トリプトファン生合成時の芳香族アミノ酸の第一前駆体3-デオキシ―D-アラビノヘプツロン酸7リン酸(NAHP)の合成に関与する酵素、すなわち、3-デオキシ-7-ホスホヘプツロン酸合成酵素(AroG)をコードする遺伝子である。当該酵素の作用により、ホスホエノールピルビン酸とD-エリトロース4-リン酸からNAHPが合成され、さらにNAHPはいくつかの代謝過程を経てコリスミン酸に代謝されることにより、最終的にトリプトファンの生合成量が増大する。当該酵素をコードする遺伝子(aroG)を有する生物としては、大多数の植物、微生物が該当し、例えば、E.coli ,Corynebacterium glutamicum, Bacilus subtils, Arabidopsis thaliana, Oryza sativa等が挙げられる。本発明において、aroG遺伝子は、植物由来及び/又は微生物由来のaroG遺伝子であってよい。好ましくは、aroG遺伝子は、大腸菌(E.coli)由来の遺伝子である。
本明細書及び特許請求の範囲において、aroG遺伝子は、当該遺伝子を発現して得られるタンパク質が3-デオキシ-7-ホスホヘプツロン酸合成酵素として機能する限りにおいて、変異を有していてもよい。aroG遺伝子は、上記植物又は微生物のいずれか(好ましくはE.coli)が有するaroG遺伝子と90%以上の相同性を有することが好ましく、当該配列と95%以上の相同性を有することがより好ましく、当該配列と98%以上の相同性を有することが好ましく、当該配列と99%以上の相同性を有することがさらにより好ましく、当該配列と100%の相同性を有していてもよい。
上記aroGの変異遺伝子としては、フェニルアラニンによるフィードバック制御が解除されるように改変されていても改変されていなくてもよいが、改変されているものが好ましい。当該変異遺伝子を用いることにより、トリプトファンの生合成量が増えても負のフィードバック制御が起こらないため、トリプトファンの生合成量を更に増大させることができる。このようなaroG遺伝子としては、aroG4遺伝子、aroG15遺伝子などが知られている。aroG4遺伝子については、APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGYFeb.1997,p.761-762を参照することが出来る。aroG15遺伝子についても、同様に参照することが出来る。
aroG遺伝子としては、大腸菌由来の配列番号20又は21に示すDNA配列と90%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることが好ましく、当該配列と95%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがより好ましく、当該配列と98%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、当該配列と99%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、当該配列と99.5%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、当該配列と99.9%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、配列番号20又は21に示すDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、配列番号21(aroG4)に示すDNA配列を有する遺伝子であることが最も好ましい。
【0017】
(trpD遺伝子)
trpDは、アントラニル酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(TrpD)をコードする遺伝子である。当該酵素の作用により、アントラニル酸と5-ホスホリボシル二リン酸からピロリン酸とアントラニル酸が合成され、合成されたアントラニル酸がいくつかの代謝過程を経て代謝され、最終的にトリプトファンの生合成量が増大する。当該遺伝子を有する生物としては、大多数の植物、微生物が該当し、例えば、E.coli ,Corynebacterium glutamicum, Bacilus subtils, Arabidopsis thaliana, Oryza sativa等が挙げられる。本発明において、trpD遺伝子は、植物及び/又は微生物由来のtrpD遺伝子であってよい。好ましくは、trpD遺伝子は、大腸菌(E.coli)由来の遺伝子である。
本明細書及び特許請求の範囲において、trpD遺伝子は、当該遺伝子を発現して得られるタンパク質がアントラニル酸ホスホリボシルトランスフェラーゼとして機能する限りにおいて、変異を有していてもよい。trpD遺伝子は、上記植物又は微生物のいずれか(好ましくはE.coli)が有するtrpD遺伝子と90%以上の相同性を有することが好ましく、当該配列と95%以上の相同性を有することがより好ましく、当該配列と98%以上の相同性を有することが好ましく、当該配列と99%以上の相同性を有することがさらにより好ましく、当該配列と100%の相同性を有していてもよい。
trpD遺伝子としては、大腸菌由来の配列番号22に示すDNA配列と90%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることが好ましく、当該配列と95%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがより好ましく、当該配列と98%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、当該配列と99%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、当該配列と99.5%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、当該配列と99.9%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、配列番号22に示すDNA配列を有する遺伝子であることが最も好ましい。
【0018】
(trpE遺伝子)
trpE遺伝子は、アントラニル酸シンターゼのαサブユニット(TrpE)をコードする遺伝子である。当該酵素の作用により、コリスミン酸とグルタミンからアントラニル酸とグルタミン酸、ピルビン酸が合成され、合成されたアントラニル酸がいくつかの代謝過程を経て代謝されることにより、最終的にトリプトファンの生合成量が増大する。当該遺伝子を有する生物としては、大多数の植物、微生物が該当し、例えば、E.coli ,Corynebacterium glutamicum, Bacilus subtils, Arabidopsis thaliana, Oryza sativa等が挙げられる。本発明において、trpE遺伝子は、植物及び/又は微生物由来のtrpE遺伝子であってよい。好ましくは、trpE遺伝子は、大腸菌(E.coli)由来の遺伝子である。
本明細書及び特許請求の範囲において、trpE遺伝子は、当該遺伝子を発現して得られるタンパク質がアントラニル酸シンターゼのαサブユニットとして機能し、βサブユニットとともにアントラニル酸シンターゼとしての作用を奏する限りにおいて、変異を有していてもよい。trpE遺伝子は、上記植物又は微生物のいずれか(好ましくはE.coli)が有するtrpE遺伝子と90%以上の相同性を有することが好ましく、当該配列と95%以上の相同性を有することがより好ましく、当該配列と98%以上の相同性を有することが好ましく、当該配列と99%以上の相同性を有することがさらにより好ましく、当該配列と100%の相同性を有していてもよい。
上記trpEの変異遺伝子は、トリプトファンによるアントラニル酸合成酵素のフィードバック制御を抑えるように改変されていても改変されていなくてもよいが、改変されているものが好ましい。このようなtrpE遺伝子としては、trpE8遺伝子、TRP4などが知られている。trpE8遺伝子については、WO94/08031、特表平7-507693号を参照することが出来る。TRP4遺伝子については、THE PLANT CELL1993 VOL5、p1011-1027を参照することが出来る。
trpE遺伝子としては、大腸菌由来の配列番号23又は24に示すDNA配列と90%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることが好ましく、当該配列と95%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがより好ましく、当該配列と98%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、当該配列と99%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、当該配列と99.5%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、当該配列と99.9%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、配列番号23又は24に示すDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、配列番号24に示すDNA配列を有する遺伝子(trpE8)であることが最も好ましい。
【0019】
<2.アルドラーゼのクロロプラストへの移行シグナル配列をコードするDNA配列>
本発明の形質転換植物体は、ゲノムに組み込まれているトリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が、ニチニチソウ由来のアルドラーゼのクロロプラスト(葉緑体)への移行シグナル配列をコードするDNA配列と連結されていてもよい。当該シグナル配列をコードするDNA配列は、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする各遺伝子の5’末端側に連結されていることが好ましい。当該シグナル配列を有することにより、発現したタンパク質がクロロプラスト内に輸送されやすくなる。トリプトファンはクロロプラスト内で合成されるため、当該シグナル配列を有することにより、トリプトファンの合成量を増大させることができる。アルドラーゼのクロロプラストへの移行シグナル配列をコードするDNA配列は、配列番号25に示すDNA配列と90%以上の相同性を有するDNA配列を含むことが好ましく、当該配列と95%以上の相同性を有するDNA配列を含むことがより好ましく、当該配列と98%以上の相同性を有するDNA配列を含むことがさらにより好ましく、当該配列と99%以上の相同性を有するDNA配列を含むことがさらにより好ましく、当該配列と99.5%以上の相同性を有するDNA配列を含むことがさらにより好ましく、当該配列と99.9%以上の相同性を有するDNA配列を含むことがさらにより好ましく、配列番号25に示すDNA配列を含むことがさらにより好ましく、配列番号25に示すDNA配列であることが最も好ましい。
また、シグナル配列をコードするDNA配列は、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする各遺伝子の5’末端側に連結されており且つ終止コドンを有さないことが好ましい。終止コドンを有さないことにより、シグナル配列とトリプトファンの生合成に関与するタンパク質が1つのタンパク質として発現されるため、N末端のシグナル配列を通じてトリプトファンの生合成に関与するタンパク質がクロロプラストに移行されることになる。
【0020】
<3.Nt-JAT2遺伝子>
Nt-JAT2(Nicotiana tabacum jasmonate-inducible alkaloid transporter 2)遺伝子は、タバコの培養細胞より単離された、ニコチンアルカロイドを液胞に輸送する働きを有する液胞局在型アルカロイドトランスポーターである。
本発明の形質転換植物体は、Nt-JAT2遺伝子が植物ゲノムに組み込まれていてもよい。また、本発明の形質転換植物体は、Nt-JAT2遺伝子が安定発現していてもよい。Nt-JAT2遺伝子は、タバコ(ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum))由来の遺伝子であることが好ましい。タバコ由来のNt-JAT2遺伝子としては、配列番号26に示すDNA配列と90%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることが好ましく、当該配列と95%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがより好ましく、当該配列と98%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、当該配列と99%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、当該配列と99.5%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、当該配列と99.9%以上の相同性を有するDNA配列を有する遺伝子であることがさらにより好ましく、配列番号26に示すDNA配列を有する遺伝子であることが最も好ましい。
Nt-JAT2遺伝子が安定発現していることにより、本発明の形質転換植物体内で生成されたアルカロイドが液胞内に蓄積され、隔離されるため、細胞内でのアルカロイドの分解を防ぐことができる。
【0021】
<4.安定発現>
本明細書及び特許請求の範囲において、「安定発現」又は「安定的に発現する」とは、導入された外来遺伝子が恒常的に発現していることを指す。当該表現は、一過性発現や誘導型発現ベクター系を用いた場合と区別するために用いられる。一過性発現系又は誘導型発現ベクター系では、一時的に導入された遺伝子が植物内で発現されるが、その発現は短期間であるため、外来遺伝子の効果は限定的にしか確認することができない。他方、本発明の形質転換植物体は、外来遺伝子が植物ゲノムに組み込まれているため、全ての生育期間を通して、外来遺伝子を安定的に発現させることができる。
本発明の形質転換植物体は、外来遺伝子が安定発現していることが好ましく、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が安定発現していることがより好ましい。トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が安定発現していることにより、植物から得られるアルカロイドの生成量を長期に渡って安定的に増大させることができる。
<5.トリプトファン含有量>
本発明の形質転換植物体は、トリプトファンの含有量(或いは発現量又は合成量)が増大していることが好ましい。
また、本発明の形質転換植物体は、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が導入されていないキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物野生株と比較して、単位質量当たりのトリプトファン含有量(或いは発現量又は合成量)が1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましく、2.5倍以上であることがさらにより好ましく、3倍以上であることがさらにより好ましく、4倍以上であることがさらにより好ましい。トリプトファンの含有量が上記範囲内であることにより、植物から得られるアルカロイドの生成量が増大しやすい。
トリプトファン含有量の程度は、植物又は植物部位に含まれるトリプトファンの量を確認することによって直接評価することが出来る。
なお、「トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が導入されていないキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物野生株」とは、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が当該植物外から導入されていない植物株をいう。
【0022】
<6.植物>
本発明の形質転換植物体は、キョウチクトウ科ニチニチソウ属(Catharanthus)の植物である。これらの中でも、ニチニチソウ(Catharanthus roseus)であることがより好ましい。
【0023】
<7.アルカロイド>
本発明の形質転換植物体は、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が導入されていないキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物野生株と比較して、単位質量あたりの少なくとも1種のアルカロイドの合成量が増大していることが好ましく、野生株よりも少なくとも1種のアルカロイドの合成量が1.1倍以上増大していることがより好ましく、1.2倍以上増大していることがより好ましく、1.3倍以上増大していることがさらにより好ましく、1.4倍以上増大していることがさらにより好ましく、1.5倍以上増大していることが特に好ましい。
アルカロイドとしては、ビンカアルカロイド(特にビンブラスチン(Vinblastine)及びビンクリスチン(Vincristine))や、その生合成中間体から選択される少なくとも1種のアルカロイドであることが好ましく、カタランチン(Catharanthine)、ビンドリン(Vindoline)、アジマリシン(Ajmalicine)、ビンブラスチン(Vinblastine)、ビンクリスチン(Vincristine)、タベルソニン(Tabersonine)、セルペンチン(Serpentine)、ステンマデニン(Stemmadenine)、ストリクトシジン(Strictosidine)からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、カタランチン(Catharanthine)、ビンドリン(Vindoline)、ビンブラスチン(Vinblastine)、ビンクリスチン(Vincristine)、アジマリシン(Ajmalicine)からなる群から選択される少なくとも1種であることがさらにより好ましく、カタランチン(Catharanthine)、ビンドリン(Vindoline)、アジマリシン(Ajmalicine)からなる群から選択される少なくとも1種であることがさらにより好ましく、カタランチン(Catharanthine)、アジマリシン(Ajmalicine)からなる群から選択される少なくとも1種であることがさらにより好ましく、カタランチン(Catharanthine)であることが特に好ましい。
タベルソニン(Tabersonine)、ビンドリン(Vindoline)、カタランチン(Catharanthine)、ビンブラスチン(Vinblastine)、ビンクリスチン(Vincristine)、アジマリシン(Ajmalicine)、セルペンチン(Serpentine)、ステンマデニン(Stemmadenine)、ストリクトシジン(Strictosidine)の構造は下記のとおりである。
【0024】
【0025】
ビンカアルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデジン、ビノレルビン)は、強力な微小管重合阻害活性を奏することが知られている。ホジキン病、悪性リンパ腫等に対する抗がん剤作用を奏することも知られている。
従って、本発明の形質転換植物体は、これらの用途に用いるためのアルカロイド又はアルカロイド含有組成物を製造するためにも有用である。
【0026】
本発明の形質転換植物体は、カタランチンやビンドリンなどのアルカロイドの生成量を長期に渡って安定的に増大させることができる。非特許文献1において、トリプトファンによるフィードバック阻害の程度を弱化させたアントラニル酸合成酵素をコードする変異trpE遺伝子を、デキサメタゾン誘導系ベクターを利用して、一時的に発現させても、ロクネリシン量以外のアルカロイド量は有意に増大しなかったことからすると、本発明の効果は予想外且つ驚くべきものである。本発明の形質転換植物体が、カタランチンなどのアルカロイドの生成量を増大できる理由は明らかではないが、以下のように推測される。カタランチンは、葉の表皮で合成され、一部は、ビンドリンと結合し、ビンブラスチンの生合成に利用されると考えられている。また、利用されなかった過剰なカタランチンは、葉の一番外側のクチクラ層に放出され、蓄積されると考えられている。非特許文献1の毛状根と異なり、本発明の形質転換植物体は葉や茎を有し且つ成長が可能であるため、成長する過程で利用されなかった過剰なカタランチンが、常に少しずつ長期間蓄積され、その結果として、カタランチン含量が増加したのではないかと推測される。
また、本発明の形質転換植物体は、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子が組み込まれているため、アルカロイドを長期に渡って安定的に増大させることができ、後代種子を利用することで、容易に大量に増殖させることができるため、産業上においても非常に有利である。
<<II.第2の態様>>
本発明の第2の態様は、第1の態様の形質転換植物体から得られる植物片である。植物片は、第1の態様の形質転換植物体の一部である。植物片としては、葉、茎、根のいずれであってもよいが、葉及び/又は茎が好ましく、葉がより好ましい。
【0027】
<<III.第3の態様及び第4の態様>>
本発明の第3の態様は、外来遺伝子をキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に導入する工程、前記外来遺伝子を導入したキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物がカルスでない場合には、前記遺伝子を導入した植物からカルスを形成させる工程、及びカルスから根及びシュート(すなわち、葉及び茎)を分化させて、形質転換植物体を得る工程を含む、形質転換植物体の製造方法である。
好ましくは、本発明の第3の態様は、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子をキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に導入する工程、前記遺伝子を導入したキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物がカルスでない場合には、前記遺伝子を導入した植物からカルスを形成させる工程、及びカルスから根及びシュートを分化させて、形質転換植物体を得る工程を含む、形質転換植物体の製造方法である。
本発明の第4の態様は、外来遺伝子をキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に導入する工程、前記外来遺伝子を導入したキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物がカルスでない場合には、前記遺伝子を導入した植物からカルスを形成させる工程、及びカルスから根及びシュートを分化させて、形質転換植物体を得る工程を含む、アルカロイドの製造方法である。
好ましくは本発明の第4の態様は、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子をキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に導入する工程、前記遺伝子を導入したキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物がカルスでない場合には、前記遺伝子を導入した植物からカルスを形成させる工程、及びカルスから根及びシュートを分化させて、形質転換植物体を得る工程を含む、アルカロイドの製造方法である。
外来遺伝子、トリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子、植物などは、それぞれ上記のものが挙げられる。
外来遺伝子を導入する植物は、植物体そのものであってもよく、植物体の一部であってもよく、カルスであってもよいが、植物体の一部又はカルスであることが好ましく、植物体の一部としては、葉及び/又は茎であることが好ましく、葉であることがより好ましい。外来遺伝子を導入する植物は、葉又はカルスであることが特に好ましく、葉であることが最も好ましい。
【0028】
<1.遺伝子の導入>
本発明の方法は、外来遺伝子(好ましくはトリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子)をキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に導入する工程を有する。
外来遺伝子の導入は、当該遺伝子が植物に導入される限り特に制限はないが、外来遺伝子を含むベクターを用いて、外来遺伝子をキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に導入することが好ましい。
【0029】
外来遺伝子の導入方法としては、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法などが挙げられる。
アグロバクテリウム法は、土壌細菌であるリゾビウム属のアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)(現在の正式学名:リゾビウム・ラジオバクター(Rizobium radiobacter))やアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)(現在の正式学名:リゾビウム・リゾゲネス(Rizobium rhizogenes))を用いる方法で、この菌が有するTi又はRiプラスミドのT-DNA領域が、相同組換えにより、植物ゲノム内に挿入されることを利用したものである。すなわち、目的遺伝子をT-DNA領域内に挿入しておけば、アグロバクテリウムが植物に感染した際に、目的遺伝子を植物ゲノム内に導入することができるというものである。
パーティクルガン法は、金やタングステンなどの金属の微粒子にDNAをコーティングしたものを、弾丸として高速で射出し、植物細胞内にDNAを導入する方法である。金属粒子の射出には、ヘリウムなどの高圧ガスが主に用いられる。
これらの中でも、本発明の方法はアグロバクテリウム法により、外来遺伝子(特にトリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子)をキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に導入することが好ましい。
【0030】
アグロバクテリウム法では、例えば、外来遺伝子(特にトリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子)を含むベクターを含むアグロバクテリウムを、ニチニチソウの子葉又はカルスに感染させ、アグロバクテリウムを除菌するための抗生物質及び、遺伝子導入細胞の選抜のための抗生物質を培地に添加し、除菌及び選抜を繰り返して行うことで、前記遺伝子を当該植物に導入させることができる。
これらの中でも、本発明の方法は、アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を用いて前記外来遺伝子をキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に導入することが好ましく、アグロバクテリウム・リゾゲネス細菌としては、アグロバクテリウム・リゾゲネスA13株(農業生物資源ジーンバンクに登録番号MAFF210266として寄託されている株(野生株))を用いることがより好ましい。アグロバクテリウム・リゾゲネスを用いることにより、外来遺伝子の導入後の植物からカルスが形成される確率や、カルスから根やシュート(shoot)が形成される確率が高まり、形質転換植物体が得られやすくなる。
【0031】
ベクターとしては、植物体内で上記遺伝子を発現させることが出来る限り特に制限はなく、種々のプラスミドベクターを用いることができ、例えば、pRI201-ANベクター(タカラバイオ社)、pBIベクター(タカラバイオ社)、pRIベクター(タカラバイオ社)、pFASTベクター(Thermo Fisher Scientific社)、pSuperAgroベクター(インプランタイノベーションズ社)を用いることが出来る。これらの中でも、pRI201-ANベクターが好ましい。
ベクターにトリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子を組み込む方法としては、例えば、制限酵素で切断し、ライゲーション反応でつなげることで組み込む方法や、In-fusion法やギブソン・アッセンブリー法など相同組換えによって組み込む方法が挙げられる。
【0032】
<2.形質転換植物体の生成>
本発明の方法は、前記外来遺伝子を導入したキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物がカルスでない場合には、前記遺伝子を導入した植物からカルスを形成させる工程、及びカルスから根及びシュート分化させて、形質転換植物体を得る工程を有する。形質転換植物体は、カルスから根とシュート(shoot)を分化させることにより得ることができる。
本発明の方法は、前記外来遺伝子を導入したキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物がカルスの形態にある場合には、カルスを形成させる工程は不要である。他方、前記外来遺伝子を導入したキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物がカルスでない場合、例えば、葉、茎及び/又は根或いは植物体そのものである場合には、前記遺伝子を導入した植物からカルスを形成させる工程を有する。
【0033】
遺伝子が導入された植物からカルスを形成させる方法及び/又はカルスから根とシュート(shoot)を分化させる方法としては、カルスから根とシュートを分化させる工程において、又は植物からカルスを形成する工程及びカルスから根とシュートを分化させる工程の両方において、外来遺伝子が導入された植物又はカルス(特に外来遺伝子を含むベクターを有するアグロバクテリウムに感染させた植物又はカルス)を、メロペネムを含む培地、好ましくは固体培地で培養することが好ましい。培地中のメロペネムの濃度は、10-50mg/l程度が好ましく、10-30mg/l程度がより好ましく、20mg/l程度がさらにより好ましい。メロペネムを含む培地でアグロバクテリウムに感染させた植物又はカルスを培養すると、カルスから根とシュート(shoot)を分化させることができ、形質転換植物体が得られやすくなる。
培地としては、例えば、ガンボーグB5培地(和光純薬工業株式会社)を半分に希釈した1/2B5培地を基本培地とし、メロペネム、30%ショ糖、MSビタミンを添加し、pHを5.8に調整した後、5%ゲルライト(和光純薬工業株式会社)を加えて固めた固形培地が挙げられる。アグロバクテリウムに感染させた植物片を、この固形培地に置床し、24℃、16時間日長で10日から2週間程度培養すると、植物片の切り口にカルスが形成される。カルスが確認できた葉片は、新しい同じ組成の培地に移植し、培養を継続すると移植後2週間から1か月後に、カルスから根の再生が確認できる。さらに、この根の再生が認められた葉片を2週間ごとに、新しい同条件の培地に移植を繰り返しながら培養を継続すると、1~2か月程度で、カルス付近からシュート(shoot)が再生される。得られたシュートは、茎で切り出し、新しい同じ組成の培地に移植すると、2週間から1か月程度で根を再生し、完全な植物体が得られる。
このようにして得られた形質転換植物体は、後の世代まで導入した遺伝子を安定的に発現させることができる。
【0034】
本発明の方法は、アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)(好ましくはアグロバクテリウム・リゾゲネス細菌としては、アグロバクテリウム・リゾゲネスA13株(農業生物資源ジーンバンクに登録番号MAFF210266として寄託されている株(野生株)))を用いて前記外来遺伝子をキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物に導入し、且つメロペネムを含む培地、好ましくは固体培地を用いてカルスから根及びシュートを分化させる(好ましくはメロペネムを含む培地を用いて植物からカルスを形成させ且つカルスから根及びシュートを分化させる)ことが好ましい。これにより、形質転換植物体が得られやすくなる。
【0035】
<3.遺伝子が導入された植物の選別>
本発明の方法は、外来遺伝子(特にトリプトファンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子)を植物に導入後、外来遺伝子が導入された植物を選別する工程を有していてもよい。この工程は、形質転換植物体の生成工程前であってもよく、形質転換植物体の生成工程と同時であってもよく、形質転換植物体の生成工程後であってもよいが、形質転換植物体の生成工程前及び/又は形質転換植物体の生成工程と同時であることが好ましい。
当該植物の選抜方法としては、外来遺伝子とともに任意の薬剤耐性遺伝子を含むベクターを植物に導入後、当該任意の薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤を含む培地で植物を培養する方法が挙げられる。薬剤耐性遺伝子としては、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ビアラフォス耐性遺伝子などが挙げられる。また、これらの耐性遺伝子に対応する薬剤としては、カナマイシン、ハイグロマイシン、ビアラフォスが挙げられる。例えば、ベクターのT-DNA領域にネオマイシン・ホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neomycine phosphotransferase (NPT) gene)を挿入した場合は、抗生物質のカナマイシンを50-100 mg/l程度含む培地で選抜を行い、ハイグロマイシン(hygromaycin)耐性遺伝子(HPT)やビアラフォス耐性遺伝子(bar)遺伝子を挿入した場合は、それぞれ25-50 mg/l ハイグロマイシン(Hygromycin) B, 10-25 mg/l ビアラフォス(Bialaphos)を培地に添加し、アグロバクテリウムを感染させた植物を、これらの薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤を添加した培地で培養することにより、当該遺伝子が導入された植物を選抜することができる。
これらの中でも、本発明の方法は50-100 mg/l カナマイシンを含む培地で選抜を行い、当該遺伝子が導入された植物を選抜することが好ましい。
<4.外来遺伝子が発現している形質転換植物体の選別>
本発明の方法は、形質転換植物体の生成工程後(シュート及び根を分化させた後)、外来遺伝子が発現している形質転換植物体を選別する工程を有していてもよい。外来遺伝子を発現している形質転換植物体の選別は、例えば、外来遺伝子由来のmRNA量を測定することにより確認することができる。また、外来遺伝子由来のタンパク質量を測定することによっても確認することができる。これらの中でも、外来遺伝子由来のタンパク質量を測定することにより確認することが好ましい。
【0036】
<5.抽出>
本発明の方法は、形質転換植物体を得た後、或いは、外来遺伝子が発現している形質転換植物体を選別した後、当該形質転換植物体からアルカロイドを抽出する工程を含んでいてもよい。形質転換植物体からアルカロイドを抽出する方法としては、生の形質転換植物体の葉を粉砕しメタノール等の溶媒で抽出する方法や、乾燥させた形質転換植物体の葉を粉砕しメタノール等の溶媒で抽出する方法などが挙げられる。
生葉からの抽出法では、例えば、液体窒素などで凍らせた後、粉砕し、99%メタノールを加えて、30℃で2時間程度振とうさせることで、形質転換植物体からアルカロイドを抽出することができる。
乾燥葉からの抽出法では、例えば、凍結乾燥させた葉をミキサー等で粉砕し、99%メタノールを加えて、30℃で2時間程度振とうさせることで形質転換植物体からアルカロイドを抽出することができる。
【実施例
【0037】
以下、実施例を挙げて、本発明の有用性を具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0038】
<<1.材料と方法>>
(1)ニチニチソウの種子の無菌播種と子葉の前培養
ニチニチソウ(品種:Pacifica タキイ種苗株式会社)の種子を用い、70%エタノールに1分間浸漬し、その後、2%次亜塩素酸ナトリウム(5倍希釈)に15分間浸漬した。クリーンベンチ内で、滅菌水で3回洗浄したのち、1/2 B5寒天培地(ガンボーグB5培地)に播種した。16時間日長、25℃で培養を行った。播種後20日目の幼植物の子葉を生長点が入らないように切り出し、同じ1/2 B5寒天培地に置床し、24時間前培養を行った。
【0039】
(2)目的タンパク質をコードする遺伝子の取得とシグナル配列の付加
aroG遺伝子、trpE遺伝子、trpD遺伝子のそれぞれを、それぞれの遺伝子配列情報を元にプライマー(配列番号1~6)を用いて、E.coliのDNAからPCR法により取得した(aroG:配列番号20、trpE:配列番号23、trpD:配列番号22)。TAクローニングキットを用いてクローニングし、得られた遺伝子は、全てシークエンス解析を行い、塩基配列情報と相違が無いことを確認した。PrimeSTARMutagenesis Basal Kit(タカラバイオ社)を用いて、PCR法により、aroG遺伝子のアミノ酸配列の150番目のアミノ酸をプロリン(コドン配列:cca)からリジン(コドン配列:cta)に変異させ、aroG4遺伝子を得た(配列番号21)。同様に、PrimeSTARMutagenesis Basal Kit(タカラバイオ社)を用いて、PCR法により、trpE遺伝子のアミノ酸配列の21番目のアミノ酸をプロリン(コドン配列:ccc)からセリン(コドン配列:tcc)に変異させ且つ50番目のアミノ酸をリジン(コドン配列:aaa)からグルタミン酸(コドン配列:gaa)に変異させ、trpE8遺伝子を得た(配列番号24)。変異後の遺伝子もシークエンス解析を行い、塩基の置換が起こっていることを確認した。
植物において、トリプトファンは、クロロプラストで合成されることから、植物内で合成されたタンパク質がクロロプラストに輸送させるために、ニチニチソウ由来のアルドラーゼ(Aldolase)のクロロプラストへの移行シグナル配列(GenBank:GU723954,N末から174bp、配列番号25)を合成によって取得し、PCR法によりaroG4,trpE8及びtrpDの各遺伝子のN末端側に連結した(それぞれ、Ald-aroG4、Ald-trpE8、Ald-trpDと呼ぶ)。上記シグナル配列とaroG4との連結には、Aldlaseの5’側に作成したプライマー(配列番号7)と、AldraseとaroG4の連結領域に作成したreverse配列のプライマー(配列番号9)、及びAldraseとaroG4の連結領域に作成したforward配列のプライマー(配列番号8)と、aroG4の3’側に作成したreverse配列のプライマー(配列番号2)のそれぞれのプライマーのペアーで、Aldolaseのクロロプラストへの移行シグナル遺伝子(配列番号25)及びaroG4遺伝子(配列番号21)をテンプレートに用いてPCRを行い、次に、それぞれ増幅した遺伝子断片を、電気泳動により目的サイズであることを確認した後、ゲルからDNAを切り出し、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega社)を用いて精製し、それぞれの遺伝子を混合したものをテンプレートとし、Aldlaseの5’側に作成したプライマー(配列番号7)とaroG4の3’側に作成したreverse配列のプライマー(配列番号2)を用いてPCRを行うことで、それぞれの遺伝子を連結させた。同様の方法により、配列番号4、7、10、11のプライマーを用いて、上記シグナル配列とtrpE8とを連結させた。配列番号6、7、12、13のプライマーを用いて、上記シグナル配列とtrpD遺伝子とを連結させた。
Nt-JAT2遺伝子は、ゲノム情報(GenBank: AB922128)を元にプライマー(配列番号14,15)を作成し、タバコの葉より作成したcDNAをテンプレートに用いてPCRで増幅させた。得られた遺伝子は、シークエンス解析を行い、塩基配列が同じであることを確認した(配列番号26)。
【0040】
【表1】
【0041】
(3)発現用binary vectorの作成
得られた4種の遺伝子(Ald-aroG4、Ald-trpE8、Ald-trpD、Nt-JAT2)は、それぞれバイナリーベクター,pRI201-AN(TAKARA BIO.)のプロモーターとターミネーターの間に挿入し、これら4つの遺伝子セットを、配列番号16、17のプライマーを用いて、プロモータの上流からターミネータの下流までPCR法で増幅し、ギブッソンアッセンブリーシステム(NEW ENGLAND BioLabs)を利用して、1つの遺伝子セットごとに連結し、発現ベクター(JAED遺伝子群発現ベクター)を完成させた。連結したバイナリーベクターは、2種類のアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens,LBA4404 及びAgrobacterium rhizogenes, A13)に形質転換し、ニチニチソウへの形質転換実験に使用した。連結したベクターの構成は図2の通りである。
図2中、NPTIIはネオマイシン・ホスホトランスフェラーゼII(neomycin phosphotransferase II)遺伝子(カナマイシン耐性遺伝子)を意味し、35Sproは、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターを意味し、NOSProはノパリン合成酵素遺伝子プロモーターを意味する。
【0042】
(4)アグロバクテリウムの感染と除菌処理、選抜処理
2 ml のYEP液体培地(バクトベプトン10g/l, 酵母抽出物10g/l, NaCl 5 g/l, pH7.0)に、前述のアグロバクテリウムを植菌し、28℃で24時間培養した。増殖したアグロバクテリウムは、滅菌水で100倍程度に希釈し、よく混合した後、前培養しておいた子葉を10分間浸漬させた。滅菌ろ紙に子葉を取り出し、余分な水分を除いた後、1/2 B5寒天培地に移植し、25℃、16時間日長で24時間培養を行った。20 mg/l メロペネム(和光純薬株式会社)又は、300mg/l セフォタキシム(和光純薬株式会社)を含む1/2B5培地に移植し、除菌処理を行った。さらに、1週間後に50 mg/l カナマイシン(ナカライテスク株式会社)、20 mg/l メロペネム又は、300mg/l セフォタキシムを含む1/2B5培地に移植し選抜を開始した。選抜は、同じ組成の培地で、2週間毎に行った。アグロバクテリウムの感染から2週間程度でカルスの形成が認められるようになり、さらに1-2週間程度でメロペネムを含む培地で培養したカルスからは発根が認められるようになった。発根が認められた子葉の培養をさらに継続したところ、カルスからシュートの再分化が生じた。得られたシュートを100mg/lカナマイシンを含む1/2 B5寒天培地に移植したところ、発根が確認された。発根したシュートは土に馴化し、遺伝子解析の材料とした。
【0043】
(5)遺伝子解析
土壌に馴化した再分化植物の葉より、DNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社)を用いてDNAを抽出し、NPTII遺伝子特異的プライマー(配列番号18、19)を用いてゲノムPCRを行った。再分化植物でNPTII遺伝子が導入されたことが確認できた株は、さらに導入した遺伝子の発現を確認するため、RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社)を用いてRNAを抽出し、Prome Script RT reagent Kit(TAKARA Bio Inc.)を用いてcDNAを作成した。導入したaroG4, trpE8, trpD,Nt-JAT2遺伝子特異的プライマー(配列番号1~6、14~15)を用いて、RT-PCR解析を行い、導入した遺伝子の転写発現を確認した。
【0044】
(6)アミノ酸分析
200 mgの葉組織を液体窒素で凍結させ、MM300を用いて破砕し、その後80%エタノールを500μl添加した。室温で30分間、振とうさせた後、室温で12,000 rpmで20分間遠心し、上澄みを新しいチューブに移した。残った沈殿に80%エタノールを500μl添加し、室温で30分間、振とうさせた後、室温で12,000 rpmで20分間遠心し、上澄みを先のチューブに移した。この作業をもう一度繰り返し、3回の抽出を行った。抽出液を1.5 mlに調整した後、よく混合し、600μlを別のチューブに移した。これらは真空エバポレーターを用いて乾燥させ、600μlの滅菌水を添加し、溶解させた。さらに、タンパク質を除去するため、クロロホルム200μlを加え、よく混合した後、室温で12,000 rpmで10分間遠心し、上清液を別の新しいチューブに移した。180μlの精製液に0.2N 塩酸を20μl加え、よく混合した後、Ultra-free-MC 0.45μmフィルターを用いて濾過した。濾液は、HITACHI高速アミノ酸分析装置L8800を用いてアミノ酸分析を行った。
【0045】
(7)アルカロイド分析
200mgの葉組織を液体窒素で凍結させ、MM300を用いて破砕し、その後100%メタノールを500μl添加した。30℃で2時間振とうした後、室温、12,000rpm 20分間遠心し、上澄み液をUltra-free-MC 0.45μmフィルターを用いて濾過し、濾液をサンプルとした。
HPLCはCapcellpacC18 UG120(4.6 × 250 mm,5 μm,資生堂)カラムを使用し、30%(v/v)メタノールと0.1M リン酸(pH2)混合液を用いて、1ml/分の流速で80分間展開した。カラムの温度は40℃とし、UV及び蛍光にて検出を行った。
【0046】
<<2.結果>>
(1)アグロバクテリウム感染条件の検討
(a)アグロバクテリウムの選定
pRI-201-ANバイナリーベクターを含む2種類のアグロバクテリウム(アグロバクテリウム・ツメファシエンス,LBA4404(TAKARA Bio Inc.)及びアグロバクテリウム・リゾゲネス,A13(農業生物資源ジーンバンクに登録番号MAFF210266として寄託されている株,野生株))のいずれかをニチニチソウの子葉に感染させ、50 mg/l カナマイシン、20 mg/l メロペネムを含む培地で選抜及び除菌を行った結果、いずれのアグロバクテリウムを子葉に感染させてもカルスの形成までは確認できたが、アグロバクテリウム・ツメファシエンスでは毛状根やシュートが得られなかった。他方、アグロバクテリウム・リゾゲネスを感染させた子葉は、カルスの形成後、毛状根やシュートへの分化が認められた(表2)。
なお、各アグロバクテリウム感染試験1回あたり約300枚の子葉を使用した。2反復で試験を行っているため、各アグロバクテリウム感染試験で計600枚の子葉を使用した。
【0047】
【表2】
*20mg/l メロペネム、50 mg/l カナマイシンを含む培地で選抜した場合。
+:選抜可能、-:選抜不可能
【0048】
(b)除菌剤の選定
次にpRI-201-ANバイナリーベクターを含むアグロバクテリウム・リゾゲネス,A13を感染させた後、300mg/l セフォタキシム、又は20mg/l メロペネムを用いて感染させたアグロバクテリウムの除菌を行い、シュートの形成が見られるかどうか試験した。
試験の結果、セフォタキシムを用いた場合には、シュートの分化は観察されなかった。
他方、メロペネムを用いた場合には、シュートを形成させることができることが分かった。
また、300mg/l セフォタキシムを含む培地では、子葉が変色し、その後アグロバクテリウムの増殖が認められ、除菌効果が弱いのに対し、20mg/l メロペネムを含む培地では、子葉の生育抑制が認められず、また、アグロバクテリウムの増殖抑制も2週間~3週間程度持続することが分かった(表3)。
メロペネムを用いた場合にシュートが形成される理由は不明であるが、メロペネムを用いた場合には、セフォタキシムを用いた場合と異なり、アグロバクテリウムの増殖を十分抑えることができていたこと、および子葉の生育を抑制させないことから、植物に遺伝子を導入した後のアグロバクテリウムの増殖を抑え、かつ植物が旺盛に生育することにより、最終的にシュートの形成に至ったのではないかと推察された。
【0049】
【表3】
(a)+:除菌良好、 -:アグロバクテリウムの増殖あり
(b)+:子葉の生育良好、 -:子葉が黒く変色
【0050】
(2)形質転換体の作出
上記試験の結果から、形質転換に用いるアグロバクテリウムとしてアグロバクテリウム・リゾゲネス,A13を選定し、20mg/lメロペネム及び50mg/lカナマイシンを含む培地で除菌と選抜を行い、2週間毎に新しい培地に移植を繰り返すこととした。その結果、約4,200枚の葉片にアグロバクテリウムを感染させ、選抜と除菌を繰り返したところ、68個のシュートが再生した。これらのシュートを100 mg/lカナマイシンを含む培地で生育させたところ、根の形成が確認できたのは 33個体であった(表4)これらの株を馴化させた後、NPTII遺伝子特異的プライマーを用いてゲノムPCR解析を行ったところ、24株にNPTII遺伝子の導入が確認でき、形質転換率は0.6%であった(図2)。
【0051】
【表4】
【0052】
(3)RT-PCR解析
得られた24株の形質転換体の葉よりcDNAを作成し、RT-PCR解析により、導入したそれぞれの遺伝子の転写発現を解析した。その結果、aroG4, trpE8, trpDの3個の遺伝子発現が確認できた5個体を得た(実施例1~5)。また、aroG4或いはtrpE8とtrpDの遺伝子発現が確認できた5個体を得た(実施例6~10)。これらについて、形質転換の解析を行った。
【0053】
【表5】
+:発現している、-:発現していない
【0054】
(4)トリプトファン含量測定
5系統の形質転換の葉及び非形質転換体の葉(対照)を用いて、遊離トリプトファン酸含量の測定を行った結果、形質転換体は、全ての系統で、対照に比べて有意にトリプトファン含量の増加が認められ、3.6~6.5倍、トリプトファン含量が高いことが分かった(図3)。
また、RT-PCR解析で、aroG4遺伝子のみの発現が確認された実施例6~7、並びに、trpE8とtrpDのみの発現が確認された実施例8~10についても、各々の発現遺伝子の効果を確認するためにアミノ酸分析を行った。その結果、これらにおいてもトリプトファン含量が4.2倍~6.2倍に増加していることが分かった(図4)。
【0055】
(5)アルカロイド含量測定
前述で得られた実施例1~5の形質転換の葉及び非形質転換体の葉(対照)を用いて、アルカロイド含量の測定を行った結果、形質転換体は、非形質転換体(対照:コントロール)に比べて、カタランチン(Catharanthine)含量が1.3~1.9倍も高いことが分かった。一部の形質転換体でビンドリン(Vindoline)やアジマリシン(Ajimalicine)含量が高くなる傾向も認められた(図5)。また、RT-PCR解析で、aroG4遺伝子のみの発現が確認された実施例6~7、並びに、trpE8とtrpDのみの発現が確認された実施例8~10についても、各々の発現遺伝子の効果を確認するためにアルカロイド分析を行った。その結果、これらの系統においても、カタランチン(Catharanthine)含量が増加していることが分かった(図6)。
また、アルカロイドの合成経路において、カタランチンは、ビンブラスチンやビンクリスチンの上流に位置しているため、カタランチン含量の増大により、ビンブラスチンやビンクリスチンの含量も増大していると考えられる。
同様に、アジマリシンの含量が増大している形質転換体は、セルペンチンの含量も増大しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、外来遺伝子がキョウチクトウ科ニチニチソウ属の植物のゲノムに組み込まれている形質転換植物体であって、生殖能力を有する、前記形質転換植物体を提供することができる。また、本発明によれば、高効率でアルカロイドを生産することができる形質転換植物体を提供することができる。したがって、本発明は、産業上極めて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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