IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ライフサイエンスコンピューティング株式会社の特許一覧

特許7094511人工知能を用いた病変の検知方法、及び、そのシステム
<>
  • 特許-人工知能を用いた病変の検知方法、及び、そのシステム 図1
  • 特許-人工知能を用いた病変の検知方法、及び、そのシステム 図2
  • 特許-人工知能を用いた病変の検知方法、及び、そのシステム 図3
  • 特許-人工知能を用いた病変の検知方法、及び、そのシステム 図4
  • 特許-人工知能を用いた病変の検知方法、及び、そのシステム 図5
  • 特許-人工知能を用いた病変の検知方法、及び、そのシステム 図6
  • 特許-人工知能を用いた病変の検知方法、及び、そのシステム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】人工知能を用いた病変の検知方法、及び、そのシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20220627BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20220627BHJP
   G06N 3/04 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
A61B6/00 350D
G06T7/00 612
G06T7/00 350B
G06N3/04 154
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018048631
(22)【出願日】2018-03-15
(65)【公開番号】P2019154943
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】510182629
【氏名又は名称】ライフサイエンスコンピューティング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119585
【弁理士】
【氏名又は名称】東田 潔
(72)【発明者】
【氏名】黒木 開
(72)【発明者】
【氏名】谷川 正臣
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 賢二
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-200565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
G06T 7/00-7/90
G06N 3/00-3/12、7/08-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の胸部の肺野の病変に関する学習モデルを作成し、
診断要求された被検体のX線レントゲン画像を受け付け、
前記X線レントゲン画像において前記胸部の肺野の全体をカバーするように複数の所定サイズの矩形状の領域に区切って複数の矩形状画像を生成し、
前記複数の矩形状画像それぞれを矩形単位で前記学習モデルに拠る機械学習及び深層学習に基づく人工知能(AI)エンジンによる病変の検知処理に付し、
前記人工知能の病変の検知結果を受ける、
人工知能を用いた病変の検知方法において、
前記人工知能エンジンが、前記矩形状画像の病変の有無を検出する第1の人工知能エンジンと、前記矩形状画像の病変の位置を検出する第2の人工知能エンジンとを備えるときに、
最初に前記第1の人工知能エンジンによる前記病変の有無を判定し、その後に、前記病変の有無の判定結果を受けて前記第2の人工知能エンジンによる前記病変の位置を検出させる、
ことを特徴とする病変の検知方法。
【請求項2】
前記複数の矩形状画像は、指定された初期位置に基づく前記矩形状の領域に沿った前記矩形状画像を生成し、
その後、前記矩形状画像を当該矩形状画像のサイズよりも小さい所定サイズを以って所定方向に移動させることを繰り返しながら、その繰り返し毎に、前記矩形状の領域に沿った前記矩形状画像を生成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の検知方法。
【請求項3】
前記第1の人工知能エンジンは、予め設定した前記病変の種類の数だけ設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の検知方法。
【請求項4】
前記複数の第1の人工知能エンジンは、当該複数の第1の人工知能エンジンの判定情報にそれぞれバイアス係数を乗じ、
前記バイアス係数が乗じられた前記判定情報を総合し、
前記総合された判定情報と所定の閾値とに基づいて前記病変の有無を判定させる、
ことを特徴とする請求項3に記載の検知方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の方法を実施するように構成されたことを特徴とするゲートウェイ装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の方法を実施するアルゴリズムを表すプログラムであって、かつ、コンピュータにより読出し可能なプログラムを記録した記録媒体。
【請求項7】
被検体の胸部の病変に関する学習モデルを作成し、
診断要求された被検体の胸部のレントゲン画像を受け付け、前記レントゲン画像において肺野をカバーするように複数の所定サイズの矩形状の領域に区切って生成した複数の矩形状画像を受信し、
前記複数の矩形状画像それぞれを矩形単位で前記学習モデルに拠る機械学習及び深層学習に基づく人工知能(AI)エンジンによる病変の検知処理に付し、
前記人工知能の検知結果を要求元に返送する、
前記人工知能エンジンが、前記矩形状画像の病変の有無を検出する第1の人工知能エンジンと、前記矩形状画像の病変の位置を検出する第2の人工知能エンジンとを備え、
最初に前記第1の人工知能エンジンによる前記病変の有無を判定し、その後に、前記病変の有無の判定結果を受けて前記第2の人工知能エンジンによる前記病変の位置を検出させるように構成した、ことを特徴とする、人工知能を用いた病変を検知するためのサーバシステム。
【請求項8】
前記人工知能エンジンが、前記矩形状画像の病変の有無を検出する第1の人工知能エンジンと、前記矩形状画像の病変の位置を検出する第2の人工知能エンジンとを備え、
最初に前記第1の人工知能エンジンによる前記病変の有無を判定し、その後に、前記病変の有無の判定結果を受けて前記第2の人工知能エンジンによる前記病変の位置を検出させるように構成した、
ことを特徴とする請求項7に記載のサーバシステム。
【請求項9】
前記第1の人工知能エンジンは、前記病変の、設定した種類の数だけ個別に設けられている、
ことを特徴とする請求項8に記載のサーバシステム。
【請求項10】
前記複数の第1の人工知能エンジンは、当該複数の第1の人工知能エンジンの判定情報にそれぞれバイアス係数を乗じ、
前記バイアス係数が乗じられた前記判定情報を総合し、
前記総合された判定情報と所定の閾値とに基づいて前記病変の有無を判定させる、ように構成した、
ことを特徴とする請求項9に記載のサーバシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工知能(AI)を用いて被検体(患者など)の身体の一部のX線画像から病変を検知したり、その病変の進み具合等を検知するための方法及びそのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、患者から収集した医用画像を読影して発病していないか否かなど、所謂、医用診断を行うに際し、AI(人工知能)を活用する研究が盛んになっている。そのような診断スキームが実際に既に臨床の場で使われ始めている。例えば、X線CTスキャナで収集した画像にAI処理を適用する例として、下記の非特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
このような中で、X線レントゲン検査で収集された例えば胸部画像から肺炎や肺がん等の病変を発見したり、その病変部の重度を検出したりする試みも行われている。この試みとして、例えば下記の非特許文献2に記載のものが知られている。この非特許文献2に記載の診断技術は、病変の有無の判定、及び、病変を矩形で囲んで示すという2段階の処理を踏んでいます。さらに、1つの胸部画像をそのままAIに取り込み、そのAIで病変を判断させている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「CT検査におけるAIを活用した類似症例検索技術を開発(広島大学様の評価によって高精度な検索技術を実証)」(2017年6月23日、株式会社富士通研究所発行)
【文献】Xiaosong Wang et:“ChestX-ray8: Hospital-scale Chest X-ray Database and Benchmarks on Weakly-Supervised Classification and Localization of Common Thorax Diseases” (米国のNational Institutes of Health によってarXivに2017年12月14日に投稿された論文。投稿番号:arXiv:1705.02315v5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した非特許文献2に記載のものは、レントゲン画像をAI処理する上で、1枚のレントゲン画像をそのままAI処理に付していたため、
1回のAIエンジンの処理の負荷が重くなるので、より高い処理能力のAIエンジンが必要であった。また、1枚のレントゲン画像をそのまま処理することで、個人情報の保護の観点からの懸念もあった。
【0006】
そこで、本発明は、AIエンジンの1回あたりの処理の演算負荷がより少なくて済み、また、より簡素な仕組みでありながら、X線画像としてのレントゲン画像をAI処理するときの個人情報の保護をより強固にし得る、AIを活用した病変検知のための方法、及び、そのシステムを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る人工知能を用いた病変の検知方法によれば、被検体(患者)の肺野の病変に関する学習モデルを作成しておき、診断要求された被検体の胸部のX線レントゲン画像を受け付け、前記X線画像において前記所望領域の全体をカバーするように複数の所定サイズの矩形状の領域に区切って複数の矩形状画像を生成し、前記複数の矩形状画像それぞれを矩形単位で前記学習モデルを用いて機械学習及び深層学習に基づく人工知能(AI)エンジンによる病変の検知処理に付し、前記人工知能の病変の検知結果を受ける、ことを基本的な構成とする。この構成おいて、前記人工知能エンジンが、前記矩形状画像の病変の有無を検出する第1の人工知能エンジンと、前記矩形状画像の病変の位置を検出する第2の人工知能エンジンとを備えるときに、最初に前記第1の人工知能エンジンによる前記病変の有無を判定し、その後に、前記病変の有無の判定結果を受けて前記第2の人工知能エンジンによる前記病変の位置を検出させる、ことを特徴とする。

【0008】
この検知方法によれば、1枚のX線画像としてのレントゲン画像をそのままAI処理をすることなく、例えば、その所望領域(肺野など)の全体を複数の所定サイズの矩形状の領域に区切って、その矩形状の領域毎にAI処理に付している。このため、1回のAI処理の負荷がより軽くて済む。また、矩形状の領域毎のAI処理及びその処理結果の送信であるため、1枚のX線画像をそのまま処理する場合に比べても、個人情報の保護に関する懸念を払拭することができる。
【0009】
好適には、前記検知方法において、前記複数の矩形状画像は、指定された初期位置に基づく前記矩形状の領域に沿った前記矩形状画像を生成し、その後、前記矩形状画像を当該矩形状画像のサイズよりも小さい所定サイズを以って所定方向に移動させることを繰り返しながら、その繰り返し毎に、前記矩形状の領域に沿った前記矩形状画像を生成する、ようにしてもよい。これにより、矩形状の領域が少しずつ移動されながらAI処理に付されるので、例えば肺野の同一部位が何度も、寸動される矩形状の領域で捕捉されことになり、病変部の検知漏れの可能性を低下させることができる。
【0010】
さらに、好適には前記人工知能エンジンが、前記矩形状画像の病変の有無を検出する第1の人工知能エンジンと、前記矩形状画像の病変の位置を検出する第2の人工知能エンジンとを備えるときに、最初に前記第1の人工知能エンジンによる前記病変の有無を判定し、その後に、前記病変の有無の判定結果を受けて前記第2の人工知能エンジンによる前記病変の位置を検出させる、ことである。これにより、AI処理を担う人工知能エンジンの役割が分担させるので、それぞれの人工知能エンジンの負荷が軽減され、全体としても、その病変の検知速度を向上させることができる。
【0011】
なお、本発明では、前述した基本的な構成を持つ検知方法を被検体の胸部(肺野)に適用して検知システムも同様に提供される。さらに、その検知方法をコンピュータに実施させるときのプログラムを記録可能な記録媒体も提供される。
【0012】
これらの構成の作用効果は、以下の図面と共に説明される様々な実施形態及びその変形例によって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
添付図面において、
図1図1は、本発明の検知システムを実施した、第1の実施形態にかかる検診補助システムの構成の概要を説明するブロック図である。
図2】検診補助システムに搭載されるゲートウェイ(ゲートウェイ装置)の構成の概要と、その機能ブロック図とを説明する図である。
図3】人工知能エンジンによる処理(AI処理)に対する入力情報と出力情報を説明する画像例を用いた説明図である。
図4】肺野に設定する小分割の矩形状の領域(ROI)の縦方向及び横方向への微小移動を説明する図である。
図5】検診補助システムにおいて実行される学習モデルの作成処理の概要を説明するフローチャートである。
図6】AI処理を含む画像診断支援の処理の概要を説明するフローチャートである。
図7】本発明の第2の実施形態にかかる、人工知能エンジンを役割分担させて構成例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に従って、本発明に係る実施形態の画像診断システムを説明する。
【0015】
この画像診断システムは、人工知能を用いた病変の検知方法及びそのシステムとして実施される。本実施形態に係る方法及びシステムは、特に、被検体(患者)の身体の一部のX線画像として、胸部のX線レントゲン画像を対象としている。つまり、本実施形態では、患者の胸部の肺炎や肺がんを検知するためにAI(人工知能)を用いて、医師によるX線レントゲンの画像の読影を支援するシステムを例示する。このシステムを、本出願人は、「AIを用いた胸部レントゲン画像検診補助システム」と呼んでいるので、以下、単に、「検診補助システム」と呼ぶことにする。
【0016】
<第1の実施形態>
図1に、第1の実施形態に係る検診補助システム1の構成を模式的に示す。この検診補助システム1は、インターネット10を介して繋がるクラウドシステムとして提供されており、インターネット10に通信回線12を介して接続されたAIサービスサーバ(クラウドサービスのサーバ)14と、そのインターネット10に通信回線16を介して接続されたクライアント側システム18とを有する。
【0017】
このクライアント側システム18として、インターネット10に通信回線16を介してHTTPS(hypertext transfer protocol over transport layer security)で通信可能に接続されたゲートウェイ20と、このゲートウェイ20に専用の通信回線22又は上記インターネット10を介して接続された1つ又は複数のPACS(画像保管・電送システム(picture archiving and communication system))24とを有する。このPACS24には、一般的にDICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)サーバと呼ばれる画像サーバが組み込まれている。
【0018】
このクライアント側システム18は医療機関A,B,C,…毎に設置されている。
【0019】
PACS24は、各医療機関A(B,C,…)に設置されており、各種検査機器(モダリティ)から画像データを受信、データベースへ保存し、端末に表示するシステムを構成している。医師又は技師は、その端末を操作して、図示しないX線レントゲン装置で撮影した、患者のレントゲン写真(胸部画像)をDICOMサーバにアップロードすることができるように構成されている。これにより、レントゲン写真(胸部画像)IMcはゲートウェイ20に送信される。
【0020】
ゲートウェイ20は、例えば、この検診補助システム1を運営する業者の管理下に置かれたコンピュータシステムとして構築されている。このコンピュータシステムは演算装置と記憶装置とを有し、その記憶装置に所定のアプリケーションプログラムを保存している。このため、起動した演算装置が行う処理の一環として、上記アプリケーションプログラムが実行される。
【0021】
具体的には、図2に示すように、汎用コンピュータの構成を成す、CPU(中央演算装置)201、ROM(read-only memory)202、RAM(random access memory)203、操作用の入力器204、及び表示用の表示器205がバス206を介して相互に通信可能に接続されている。さらに、バス206には入出力インターフェース207が接続されている。このため、CPU201は、ROM202に予め格納されているアプリケーションプログラムを実行することができ、また、必要に応じて入出力インターフェース207を介して外部と通信できるように構成されている。ここで、ROM202は、非遷移的コンピュータ読出し可能な記録媒体(non-transient computer readable recoding medium)を成す。
【0022】
本実施形態においては、ゲートウェイ20、即ち、そのCPU201は、様々なアプリケーションプログラムのうち、人工知能(AI)による診断を担うプログラム(図5、6参照)を実行することによって、機能手段として、図2に模式的に示す如く、以下の2つの機能部を持つことできる。
(1) 学習モデル作成部20A
(2) 画像診断支援部20B
【0023】
<学習モデル作成部20Aについて>
学習モデルは、AIサービスサーバ14において実行される機械学習及び深層学習で使用される、所謂、ビッグデータ(サンプルデータ)である。このビッグデータは随時又は定期的に各医療機関からアップロードされる。人工知能(AI)は自主的に学習するため、このビッグデータとしてアップロードされるサンプルデータが増えるほど、胸部疾患の診断の種類が増えるとともに、学習の精度は上がることになる。
【0024】
本実施形態では、ゲートウェイ20の学習モデル作成部20Aは、その機能として、PACS24から胸部画像IMcをその疾患名と共にを取得し(図5、ステップS11)、その胸部画像IMcに矩形単位で種々の補正処理(距離補正、階調補正、コントラスト補正など)を掛ける(ステップS12)。次いで、学習モデル作成部20Aは、胸部画像IMc上で矩形状の画像のデータを作成する(ステップS13)。このため、ゲートウェイ20は、1つ又は複数の疾患のある矩形状の画像領域(ROI部分)を、医師から教示された疾患名(肺炎、肺癌など)と共に、インターネット10を介してAIサービスサーバ14へアップロードすることができるように構成されている(ステップS14)。勿論、ゲートウェイ20が取得する画像及び情報に患者の個人名などの個人情報は含まれていない。さらに、胸部画像IMcの全体をAIサービスサーバ14へアップロードするのではなく、その胸部画像IMcの一部のみをアップロードするなどで、個人情報の漏洩に配慮されている。
【0025】
AIサービスサーバ14は、アップロードされてくる情報及びデータをサンプルデータ(ビッグデータ)として分類して保管するように構成されている。
【0026】
<画像診断支援>
一方で、医師が画像診断支援を要求する場合には(診断時)、ゲートウェイ20の画像診断支援部20B(つまり、CPU201)は、医師はPACS24を介して診断支援を仰ぐ、患者の胸部の画像データIMc´が送信されてくるので、その画像IMc´を受信し(図3参照)、内部メモリに一時保管する(図6:ステップS21,S22)。勿論、これらの受信情報に患者名等の個人情報は含まれていない。
【0027】
次いで、画像診断支援部20Bは、受信した胸部画像IMc´を保管メモリから読出し、その胸部画像IMc´に矩形状の関心領域:ROIを設定する(ステップS23)。この関心領域:ROIの設定は、ゲートウェイ20がROM22に予め記憶させているアプリケーションプログラムの一部のアルゴリズムにより自動的に実行される。このアルゴリズムによれば、胸部画像IMc´から左右の肺野を自動認識し、その各初期位置Piniから順に矩形領域を関心領域:ROIとして切り出す。この初期位置Piniは、アルゴリズムとして予め保有していてもよいし、医師がPACS24を介して、その都度指定してもよい。この矩形領域のサイズは、本実施形態では予め設定されている。
【0028】
このとき、好ましくは、画像診断支援部20Bは関心領域:ROIを、予め定めた規則に従って、図4に模式的に示す如く、縦方向及び横方向に少しずつずらしながら設定する(ステップS24,S25)。これにより、1つの関心領域:ROIによって捕捉しきれなかった病変が別の関心領域:ROIによって捕捉される可能性が高くなり、病変の取りこぼしを大幅に軽減できる。なお、図3(A)には、関心領域:ROIが左右の肺野を整列して(オーバーラップ無し)網羅している状態を示すが、実際には、上述のように少しずつオーバーラップさせて関心領域:ROIを設定していくことが望ましい。
【0029】
次いで、画像診断支援部20Bは、設定した矩形状の関心領域:ROIを順次、インターネット10を介してAIサービスサーバ14にアップロードする(ステップS26)。
【0030】
AIサービスサーバ14には、例えば畳み込みニューラルネットワーク等に拠る、公知のAIエンジン(つまり、AI処理を担うアルゴリズムのコンピュータプログラム)がコンピュータシステムとして搭載されており、これにより、機械学習及び深層学習を行うように構成されている。これは、例えば、この畳み込みニューラルネットワークの関数である人工知能(AI)を関数yと表すと、関心ROIの画像をxとする場合、その人工知能の結果yは、y=f(x)で概括される。
【0031】
このため、AIサービスサーバ14は、このアップロードを応じて、既に保有してサンプルデータ(ビッグデータ)を用いて人工知能機能(機械学習及び深層学習)を行い(ステップS27:図3(B)参照)、アップロードした矩形状の関心領域:ROIの画像に病変があるか否か、また病変があるとすれば、その病変の種類は何かを学習し、その病変名及びその病変である確率をインターネット10を介してゲートウェイ20に返送してくる(ステップS28)。
【0032】
このため、ゲートウェイ20の画像診断支援部20Bは、その返送情報を例えば図3(C)に示すように表示器205に表示する。表示器の画面には、一例として、人工知能サービスに掛けた胸部画像IMc´と、同サービスの判断結果(病変(病状)の種類と、それが病変であるの確率とを含む)とを分割表示する。胸部画像IMc´には、病変が在る部位を示すROIspecが重畳表示される。
【0033】
ゲートウェイ20は、この診断結果をPACS24に返送する。このため、医師は、図3(C)と同様の画像を診ることができ、診断支援情報をえることができる。
【0034】
以上のことから、本実施形態に係る、AIクラウドサービスを提供する検診補助システム1によれば、図3に示すように、X線画像としての1枚のレントゲン画像をそのままAI処理をすることなく、例えば、その所望領域(肺野など)の全体を複数の所定サイズの矩形状の領域に区切って、その矩形状の領域毎にAI処理に付している。このため、1回のAI処理の負荷がより軽くて済む。また、矩形状の領域毎のAI処理及びその処理結果の送信であるため、1枚のX線画像をそのまま処理する場合に比べても、個人情報の保護に関する懸念を払拭することができる。
【0035】
また、図4に示すように、矩形状の領域である関心領域:ROIが少しずつ縦方向及び横方向に移動されながら、その領域毎にAI処理に付される。このため、肺野の同一部位が何度も、寸動される矩形状の関心領域:ROIで捕捉されことになり、病変部の検知漏れの可能性を大幅に低減させることができる。
【0036】
<第2の実施形態>
次いで、図7を参照して、本発明の第2の実施形態に係る検診補助システムを説明する。
【0037】
この第2の実施形態では、検診補助システムのAIサービスサーバ14Aに搭載する人工知能エンジンを、図7に模式的に示すように構成している点が第1の実施形態で説明した検診補助システム1とは異なる点である。このため、この相違点を中心に説明する。これ以外の構成及び作用は、第1の実施形態のものと同様であるので、その説明を省略する。
【0038】
図7に示すように、人工知能エンジンの31は大きく2段階のAIモジュール32,34によって構成されている。
【0039】
このうち、初段のAIモジュール32は、ある病気、例えば肺炎の発症の有無のみを検知するための複数のAIモジュール321、322,…32であり、これらのAIモジュール321、322,…32は入力する画像に対して並列に構築されている。1段目のAIモジュール321、322,…32は、例えばCNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)により構成されている。第2段目のAIモジュール33は、第1段目のAIモジュール32の検知結果を受け、その結果に病変があるという前提のもとに、病変の位置を検知する。この第2段目のAIモジュール33はFaster R-CNN(Regions with Convolutional Neural Networks)により構成されている。なお、第1段目及び第2段目の間に、確率判定専用のAIモジュール34が搭載されている。
【0040】
このため、これらのAIモジュール321、322,…32には、前述したと同様に、肺野の小領域である矩形状の画像(関心領域:ROIの画像)が入力される。これらのAIモジュール321、322,…32は、それぞれ、違う構造(関数)及びハイパーパラメータの元で学習する。したがって、それぞれのAIモジュール321,322,…32は、それぞれ、その画像に病変があるか否かをCNNのアルゴリズムの元で独自に確率として判定し、その判定結果にバイアスW,W,…,Wをそれぞれ掛ける。このバイアスW,W,…,Wは、医師の経験値を反映した重み付け係数の機能を果たす。つまり、このバイアスW,W,…,Wを掛けることによって、複数の医師が読影したと同様の状況が生まれる。
【0041】
このため、第1段目のAIモジュール321、322,…32はバイアス反映済の出力値は、次段の確率判定専用のAIモジュール34により総合出力値Pに統合された上で、所定の閾値(例えば0.35)と比較される。この閾値を超えた場合、病変が在ると判定され、その出力値Pを示すデータは、更に、次段のAIモジュール33に送られ、Faster R-CNNのアルゴリズムにより、矩形状の画像内の病変の位置が特定検知される。この検知結果は、病名と共に前述したゲートウェイ20にインターネット10を介して返送される。
【0042】
なお、図7に記載のAIサービスサーバ14Aには、1種類の病気(例えば肺炎)を検知するモジュール構成を示しているが、複数種類の病気(例えば肺炎、肺癌など)に応じて、その種類数分、上述と同様の構成を並置してもよい。
【0043】
上記W,W,…,Wの設定法として、様々な手法を提供できる。
【0044】
<バイアスの設定法>
病気の有無を判断するAIの出力値Pは、各AIが出力する、病気である確率p(AIモジュール数:i=1,2,…,n)とバイアスW(i=1,2,…,n)を用いて、以下のように定める。
テストデータを利用して各AIに以下のように定義する。
【0045】
(i=1,2,…,n):正確性(accuracy)
(i=1,2,…,n):F値(F-measure(適合率(Precision)と再現性(Recall)の調和平均))
AUC(i=1,2,…,n):AUC(Area Under the Curve)
この定義を用いて、バイアスWを例えば以下のように設定することができる。
【0046】
・設定法1: W=a
・設定法2: W=a
・設定法3: W=exp(a
・設定法4: W=F
・設定法5: W=F-min(F)×C(C:定数で0<C≦1)
・設定法6: W=AUC
これらのバイアスは、AIモジュールの更新と連動して、テストデータを用いて更新される。
【0047】
このように、本実施形態によれば、1つのAIモジュールのみで病変の位置及び確率を判断される構成に比べて、複数のAIモジュールに役割分担させることで、各AIモジュールの演算負荷も減少して処理速度が上げることできるとともに、複数の例えば経験値の違う医師の意見を集約して読影したと同様の状況を創り上げることができ、その判定結果により高い信頼性を持たせることができる。
【0048】
なお、前述した実施形態及び変形例によれば、被検体の身体の一部としての胸部をX線撮影したレントゲン画像を対象とした診断方法及びシステムを開示したが、本発明はさらに、別の部位、例えば腹部のレントゲン画像や、他のモダリティから得られて2次元画像(例えばX線CTによって再構成された断層面画像)を同様にAI処理の態様するように変形、展開することもできる。
【0049】
また、ゲートウェイ20とAIサービスサーバとの間で通信される画像データや情報は符号化して、情報の機密性をより強固に担保してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 検診補助システム
10 インターネット
14、14A AIサービスサーバ
18 医療機関
20 ゲートウェイ
24 PACS
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7