IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 千葉大学の特許一覧

<>
  • 特許-原虫感染症の検査装置および検査方法 図1
  • 特許-原虫感染症の検査装置および検査方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】原虫感染症の検査装置および検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/02 20060101AFI20220627BHJP
   G01N 33/49 20060101ALI20220627BHJP
   G01N 27/22 20060101ALI20220627BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20220627BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
G01N27/02 D
G01N33/49 Z
G01N27/22 B
C12Q1/04
C12M1/42
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018171213
(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公開番号】P2020041965
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-07-30
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】武居 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 健児
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-508506(JP,A)
【文献】特表2007-525674(JP,A)
【文献】特開2012-052944(JP,A)
【文献】特開2008-076143(JP,A)
【文献】特開2017-071648(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0183243(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-G01N 27/49
G01N 33/48-G01N 33/98
C12Q 1/04
C12M 1/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間に所定の周波数の交流電圧を印加して寄生性原虫が感染した被検全血および/または赤血球および/または白血球および/または血漿自体のインピーダンス、インダクタンス、キャパシタンスの少なくともいずれかの電気的特性を測定する原虫感染症の検査装置。
【請求項2】
印加される前記交流電圧の周波数を順次切り替えながら前記電気的特性を測定する請求項記載の原虫感染症の検査装置。
【請求項3】
前記周波数を0.1MHzから300MHzの範囲で順次切り替える請求項記載の原虫感染症の検査装置。
【請求項4】
印加される前記交流電圧の周波数を順次切り替えながら前記電気的特性を測定し、1回の採血および検査により重複感染症を検査する請求項記載の原虫感染症の検査装置。
【請求項5】
哺乳類において、赤血球中のマラリア原虫および/またはバベシア、赤血球および/または白血球中のタイレリア、白血球中のトキソプラズマ、全血中のトリパノソーマを検知する請求項1から請求項のいずれかに記載の原虫感染症の検査装置。
【請求項6】
鳥類において、赤血球中のマラリア原虫および/またはバベシアおよび/またはロイコチトゾーンを検知する請求項1から請求項のいずれかに記載の原虫感染症の検査装置。
【請求項7】
電極間に所定の周波数の交流電圧を印加して寄生性原虫が感染した被検全血および/または赤血球および/または白血球および/または血漿自体のインピーダンス、インダクタンス、キャパシタンスの少なくともいずれかの電気的特性を測定する原虫感染症の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原虫感染症の検査装置および検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マラリアはマラリア原虫が赤血球に、トキソプラズマ症はトキソプラズマが白血球を含む有核細胞に寄生することで引き起こされ、トリパノソーマ症はトリパノソーマが血流中で増殖することによって引き起こされる感染症である。
【0003】
また、ピロプラズマ症はバベシアが動物の赤血球に、もしくは、タイレリアが動物の赤血球および/または白血球に寄生することによって引き起こされる感染症である。
【0004】
また、ロイコチトゾーン症はロイコチトゾーンが主に鳥類の赤血球に寄生することによって引き起こされる感染症である。
【0005】
2016年時点で、全世界では年間2.16億人がマラリアに感染し、うち44.5万人が死亡している(非特許文献1)。
【0006】
また、世界人口の1/3がトキソプラズマに感染しているといわれており、健康な成人の場合には感染しても無徴候に留まるか、軽い風邪のような症状が出る程度である(日和見感染症)。しかし胎児・幼児や臓器移植やエイズの患者など、免疫抑制状態にある場合には重症化して死に至ることもある(非特許文献2)。
【0007】
また、トリパノソーマ症は病状が進行すると髄膜脳炎を起こし、最終的には昏睡状態に陥って死に至ることから「アフリカ睡眠病」とも呼ばれており、感染リスクを抱える人々はサハラ以南のアフリカ36カ国で6000から7000万人と推定されている(非特許文献3)。
【0008】
また、ピロプラズマ症は、トリパノソーマ症とともに家畜等に大きな被害をもたらしている(非特許文献4)。
【0009】
ロイコチトゾーン症は、養鶏業に被害をもたらす感染症である(非特許文献5)。
【0010】
例えば、従来から広く用いられているマラリアの検査方法としては血液塗沫検査法があり、血液をスライドガラスに塗りつけギムザ染色を行い顕微鏡観察している。
【0011】
また、蛍光染色により蛍光透過光の強度を測定する等、顕微鏡観察に相当する工程を機械的に行う方法も提案されている(特許文献1)。
【0012】
また近年、血液中のマラリア原虫が持つ特異的な物質を感知し、感染したことを試験紙の上に赤い線として現す簡易検査キットが用いられるようになっている(非特許文献6)。
【0013】
他の原虫感染症については、従来からの血液塗沫検査法が用いられており、トリパノソーマ症においては、感度を高めるために血液を遠心分離して白血球部分を観察する等の検査法が取られている。
【0014】
さらに近年、マラリア感染の初期段階の新たな検査法として、感染した赤血球中でマラリア原虫がヘモグロビンから産生する代謝副産物であるヘモゾインの磁気特性変化を検出する技術が発表されている(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開平6-300753号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】a b c d FORTH最新ニュースマラリアについて (ファクトシート)(2018)
【文献】“Toxoplasmosis”、Montoya J, Liesenfeld O Lancet 363 (2004)
【文献】モダンメディア 57巻6号(2011)
【文献】日獣会誌 68 245~252(2015)
【文献】家畜の監視伝染病、農研機構
【文献】マラリアのABC、国際協力機構国際協力人材部
【文献】NATURE MEDICINE Volume 20 Number 9 (Sep.2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
背景技術で示した検査方法には、以下のように課題がある。
(1)血液塗沫検査法は、顕微鏡観察の前に標本の作成、固定、染色の各工程を要し、手間がかかるとともに感染初期の低原虫濃度の場合は検出が困難である。
(2)顕微鏡観察に相当する工程を機械的に行う方法も提案されているが、装置が極めて高価であり、発展途上国内の多数の感染症発生現地・現場にこのような装置を導入することは現実的ではない。
(3)簡易検査キットを用いた検査方法は、上述の血液塗沫検査法より感度・精度が悪い。また、検査キットを温度が高いところに保管すると精度がさらに悪化する。さらに、アフリカ等の感染地帯ではマラリア以外の感染症、例えば後述するトリパノソーマ症と重複感染している場合もあるが、マラリア用検査キットではマラリアしか検査できないため、感染症の特定には複数の検査を行うこととなり、結果として採血量が増えて浸潤性が高まるとともに時間もかかる。このため、現地・現場での迅速かつ正確な診断法としては十分ではない。
(4)磁気特性変化を検出する技術では、ヘモゾイン等代謝副産物を産生しない原虫感染症を検知できず、また、磁気特性変化の検出装置は高価格になるとともに取り扱いが難しいという問題もある。
【0018】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、原虫感染症を簡単・高精度にしかも安価に検査できるとともに、1回の採血および検査により重複感染を検査でき、代謝副産物を産生しない原虫感染症も検査できる検査装置および検査方法を提供することを目的とする。
【0019】
また、特に感染初期でも高感度かつ高精度かつ迅速に検査する方法が見当たらないことに鑑みてなされたものであり、原虫感染による被検全血および/または赤血球および/または白血球および/または血漿の物理的特性変化を電気的特性変化として高感度で検知するという全く新規な原虫感染症の検査装置および検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一つの観点によれば、上記課題を解決するために、本発明は、寄生性原虫が感染した被検全血および/または赤血球および/または白血球および/または血漿の物理的特性の変化を電気的特性の変化として検知する原虫感染症の検査装置に関する。
【0021】
さらに、本発明は、電気的特性として、電極間に所定の周波数の交流電圧を印加して被検全血または赤血球または白血球または血漿のインピーダンスを測定する原虫感染症の検査装置に関する。
【0022】
さらに、本発明は、印加される交流電圧の周波数を順次切り替えながらインピーダンスを測定する原虫感染症の検査装置に関する。
【0023】
さらに、本発明は、周波数を0.1MHzから300MHzの範囲で順次切り替える原虫感染症の検査装置に関する。
【0024】
さらに、本発明は、印加される交流電圧の周波数を順次切り替えながらインピーダンスを測定し、1回の採血および検査により重複感染症を検査する原虫感染症の検査装置に関する。
【0025】
さらに、本発明は、哺乳類において、赤血球中のマラリア原虫および/またはバベシア、赤血球および/または白血球中のタイレリア、白血球中のトキソプラズマ、全血中のトリパノソーマを検知する原虫感染症の検査装置に関する。
【0026】
さらに、本発明は、鳥類において、赤血球中のマラリア原虫および/またはバベシアおよび/またはロイコチトゾーンを検知する原虫感染症の検査装置に関する。
【0027】
また、本発明の他の観点によれば、上記課題を解決するために、本発明は、寄生性原虫が感染した被検全血および/または赤血球および/または白血球および/または血漿の物理的特性の変化を電気的特性の変化として検知する原虫感染症の検査方法に関する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、原虫感染症を簡単・高精度にしかも安価に検査できるとともに、1回の採血および検査により重複感染を検査でき、代謝副産物を産生しない原虫感染症も検査できる検査装置および検査方法を提供することができる。
【0029】
また、特に感染初期でも高感度かつ高精度かつ迅速に検査する方法が見当たらないことに鑑みてなされたものであり、原虫感染による被検全血および/または赤血球および/または白血球および/または血漿の物理的特性変化を電気的特性変化として高感度で検知するという全く新規な原虫感染症の検査装置および検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施例において、検体のインピーダンスを測定するための対向電極付き容器を示したものである。
図2】本発明の実施例において、周波数を0.1MHzから300MHzまで変化させながら赤血球のマラリア感染率が0.5%、0.1%、0.01%の検体のレジスタンスおよびリアクタンスを測定した結果示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態例及び実施例を説明するが、本発明の実施形態は以下に説明する実施形態例及び実施例に限定されない。
【0032】
寄生性原虫に感染すると、被検全血、赤血球、白血球または血漿の物理的特性が変化する。
【0033】
例えば、マラリア原虫のライフサイクルにおいて原虫に感染したハマダラカが吸血する際に唾液腺感染型虫体である「スポロゾイト」が宿主の体内に注入される。スポロゾイトは数分で肝臓に達し、肝細胞に侵入する。数週間で数万の「メロゾイト」に分裂し、血液中に放出される。メロゾイトは、ただちに赤血球に侵入し、輪状体、栄養体、分裂体などを経て「メロゾイト」を形成する。新しいメロゾイトは、感染した赤血球を破壊し、次の赤血球に感染し、増殖する。このサイクルがくり返され、発熱や貧血が起こる。メロゾイトの一部は雄雌の生殖母体(ガメトサイト)に分化し、これが吸血により蚊の体内に入ると、蚊の中腸内で雌雄の生殖体に成熟した後、接合する。接合体は運動性のオーキネトとなり、中腸基底膜でオーシストに分化する。オーシスト内でつくられた数千の「スポロゾイト」は唾液腺に移行し、感染型の「成熟スポロゾイト」になる。以上のサイクルが知られており、赤血球の物理的特性に変化が生じる。
【0034】
この物理的特性の変化が、電気的特性の変化として検知できることを見出した。
【0035】
また、上記において、マラリアはマラリア原虫が赤血球に寄生することで引き起こされる点を説明したが、原虫感染症の種類に応じて感染形態がことなる点が知られている。例えば、トキソプラズマ症はトキソプラズマが白血球を含む有核細胞に寄生することで引き起こされ、トリパノソーマ症はトリパノソーマが血流中で増殖することによって引き起こされ、ピロプラズマ症はバベシアが動物の赤血球に、もしくは、タイレリアが動物の赤血球および/または白血球に寄生することによって引き起こされ、ロイコチトゾーン症はロイコチトゾーンが主に鳥類の赤血球に寄生することによって引き起こされる感染症である。
【0036】
したがって、寄生性原虫が感染した被検全血および/または赤血球および/または白血球および/または血漿の物理的特性の変化を電気的特性の変化として検知できるが、検知する電気的特性の変化は、必ずしも原虫そのものの存在による被検全血および/または赤血球および/または白血球および/または血漿の変化である必要はなく、マラリアにおけるヘモゾインのように、代謝副産物によりもたらされる電気的特性の変化からも検知できる。
【実施例1】
【0037】
(検体の作製)
マラリア原虫感染マウスの血液をin vitro培養することによって原虫発育ステージを分裂期に同期化し、検体作製用マウスの尾静脈から分裂期マラリア原虫を感染させ、3から6時間後に心臓穿刺により感染血液を採集して1.4%のヘパリンを加え、95%以上の感染赤血球中の原虫が感染初期のリングステージであることを確認した。
【0038】
健常マウスの血漿を添加することでヘマトクリット値を40%に調整し、非感染赤血球を用いた希釈によって感染赤血球/全赤血球の割合が0.5%、0.1%、0.01%の検体を作製した。
【0039】
(電気的特性の測定)
図1の電極付き小容器に感染赤血球濃度を調整した検体約500マイクロリットルを注入し、周波数を0.1MHzから300MHzまで変化させながら健常(非感染)マウス血液ならびに0.5%、0.1%、0.01%の検体のレジスタンスおよびリアクタンスを各検体につき20秒程度で測定した。
【0040】
図2に非感染血液、感染初期のリングステージ赤血球濃度が0.5%、0.1%、0.01%のレジスタンスおよびリアクタンスの周波数依存性をプロットした結果を示す。
【0041】
非感染血液と比較して、感染初期のリングステージ赤血球は、レジスタンスおよびリアクタンスが変化することを確認した。
【0042】
また、赤血球感染率に応じて、レジスタンスおよびリアクタンスが変化することも確認した。
【0043】
本発明による検査装置および検査方法により、マラリア感染初期リングステージの赤血球数10000分の1(図2の赤血球感染率0.01%)でも、レジスタンスおよびリアクタンス特性から高感度でかつ短時間でマラリア感染を検知できることが明らかになった。
【0044】
また、レジスタンスおよびリアクタンス特性から、感染率も推定できることが明らかになった。
【0045】
なお、本発明による原虫感染症の検査に供する検体は、測定に数十秒程度と時間を要しないため採血した全血そのままでも良いが、ヘパリン等耐凝固剤の添加や成分分離のためにクエン酸等を加えて遠心分離する等、特に血液の処理方法について制限はないが、例えば、遠心分離で成分分離をすることで、赤血球、白血球、血漿等、特定の成分の電気的特性の変化を測定できるので、より高精度に原虫感染症を検知できる。
【0046】
また、原虫感染症の種類に応じて、電気的特性の変化が異なることは明らかである。したがって、1回の採血および検査により測定した電気的特性の変化から各種の原虫感染症の検知が可能であり、重複感染症も検査することができる。
【0047】
また、電気的特性として、インピーダンス(レジスタンスおよびリアクタンス)を測定したが、他の電気的特性であるインダクタンス、キャパシタンスなどでもよく、原虫感染症の検査が可能な範囲ならば、如何なる電気的特性でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、原虫感染症の検査装置および検査方法として産業上利用可能である。
図1
図2