(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】小型動物用埋植デバイス
(51)【国際特許分類】
A01K 29/00 20060101AFI20220627BHJP
A61D 99/00 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
A01K29/00 C
A61D99/00
(21)【出願番号】P 2018170119
(22)【出願日】2018-09-11
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【氏名又は名称】松永 裕吉
(72)【発明者】
【氏名】春田 牧人
(72)【発明者】
【氏名】太田 淳
(72)【発明者】
【氏名】徳田 崇
(72)【発明者】
【氏名】笹川 清隆
(72)【発明者】
【氏名】野田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】水本 旭洋
(72)【発明者】
【氏名】安本 慶一
(72)【発明者】
【氏名】荒川 豊
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-68401(JP,A)
【文献】登録実用新案第3174242(JP,U)
【文献】橋本光広,オプトジェネティクスを用いた覚醒マウス用無線小型光刺激装置の開発,レーザー研究,日本,一般社団法人レーザー学会,2016年04月,Vol. 44, No. 4,pp. 240 - 243
【文献】Kate L Montgomery, Alexander J Yeh, John S Ho, Vivien Tsao, Shrivats Mohan Iyer, Logan Grosenick, Emily A Ferenczi, Yuji Tanabe, Karl Deisseroth, Scott L Delp & Ada S Y Poon,Wirelessly powered, fully internal optogenetics for brain, spinal and peripheral circuits in mice,nature methods,2015年08月17日,Vol. 12, No. 10,pp. 969 - 974
【文献】Matthieu O. Pasquet, Matthieu Tihy, Aurelie Gourgeon, Marco N. Pompili, Bill P. Godsil, Clement Lena & Guillaume P. Dugue,Wireless inertial measurement of head kinematics in freely-moving rats,scientific reports,2016年10月21日,vol. 6,pp. 35689.1 - 35689.13
【文献】Sung Il Park, Daniel S Brenner, Gunchul Shin, Clinton D Morgan, Bryan A Copits, Ha Uk Chung, Melanie Y Pullen, Kyung Nim Noh, Steve Davidson, Soong Ju Oh, Jangyeol Yoon, Kyung-In Jang, Vijay K Samineni, Megan Norman, Jose G Grajales-Reyes, Sherri K Vogt, Saranya S Sundaram, Kellie M Wilson, Jeong Sook Ha, Renxiao Xu, Taisong Pan, Tae-il Kim, Yonggang Huang, Michael C Montana, Judith P Golden, Michael R Bruchas, Robert W Gereau IV & John A Rogers,Soft, stretchable, fully implantable miniaturized optoelectronic systems for wireless optogenetics,nature biotechnology letters,2015年11月09日,Vol. 33, No. 12,pp. 1280 - 1286
【文献】長沼京介、太田安美、木村文香、春田牧人、野田俊彦、笹川清隆、徳田崇、太田淳,げっ歯類・霊長類脳の光学特性の測定と脳表光刺激デバイスの試作,電気学会研究会資料,日本,一般社団法人電気学会,2018年07月12日,pp. 3 - 4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 29/00
A61D 99/00
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウスやラットなどの小型動物の頭部に埋植して使用する小型動物用埋植デバイスであって、
平面視で前記小型動物の頭骨の頭頂部領域に収まる大きさの基板を備え、
前記基板に、
前記小型動物の脳に光刺激を与える光刺激部、
前記小型動物の生体情報および行動を計測するセンシング部、
前記光刺激部および前記センシング部と外部装置との間の無線通信を行う無線通信部、および
前記各部に電力を供給する電源部が実装されており、
前記基板が前記小型動物の頭骨のブレグマおよびラムダの少なくとも一つに位置合わせするためのアライメントマークを有する
ことを特徴とする小型動物用埋植デバイス。
【請求項2】
前記アライメントマークが前記基板を貫通する穴である、請求項1に記載の小型動物用埋植デバイス。
【請求項3】
前記基板において少なくとも前記アライメントマークの部分が透明素材で形成されており、
前記アライメントマークが前記基板上に印刷または刻印されている、請求項1に記載の小型動物用埋植デバイス。
【請求項4】
前記基板の平面視形状がテーパー状である、請求項1ないし3のいずれかに記載の小型動物用埋植デバイス。
【請求項5】
前記基板が前記小型動物の頭骨の頭頂部領域の形状に適合する曲面形状の基板である、請求項1ないし4のいずれかに記載の小型動物用埋植デバイス。
【請求項6】
前記電源部が、前記各部に電力を供給する二次電池と、外部から無線給電されて前記二次電池を充電する無線受電デバイスとを有する、請求項1ないし5のいずれかに記載の小型動物用埋植デバイス。
【請求項7】
前記電源部が、前記各部に電力を供給する二次電池と、発電して前記二次電池を充電する発電デバイスとを有する、請求項1ないし5のいずれかに記載の小型動物用埋植デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウスやラットなどの小型動物の頭部に埋植されるデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
新薬開発における薬の安全性や薬効評価を行うためにマウスやラットといった小型動物を用いた動物実験が行われる。近年、小型動物実験においてモニタリングデバイスを個体に装着して個体の生体活動をモニターするケースがある。そのようなモニタリングデバイスとして、例えば、ブルートゥース(登録商標)と加速度センサーを搭載したデバイスがある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、動物実験では薬効評価の条件作成の目的で個体に特定の生体活動を誘発・抑制するために試薬を投与したり、物理的な刺激を与えたりすることがあるが、定量評価を繰り返し行うことが難しいといった問題がある。この問題を解決する技術として、近年、オプトジェネティクスと呼ばれる、光刺激を用いて生体活動を誘発・抑制する手法が開発されている。例えば、マウスの頭部に埋植して使用する小型の無線オプトジェネティクスデバイスが開発されている(例えば、非特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Pasquet MO et al., “Wireless inertial measurement of head kinematics in freely-moving rats,” SCIENTIFIC REPORTS, 6:35689, DOI: 10.1038/srep35689, SPRINGER NATURE, 21 October 2016, pp.1-13
【文献】Park SI et al., “Soft, stretchable, fully implantable miniaturized optoelectronic systems for wireless optogenetics,” NATURE BIOTECHNOLOGY, Vol. 33, No. 12, Nature America, December 2015, pp. 1280-1286
【文献】Montgomery KL et al., “Wirelessly powered, fully internal optogenetics for brain, spinal and peripheral circuits in mice,” NATURE METHODS, Vol. 12, No. 10, Nature America, October 2015, pp. 969-974
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のモニタリングデバイスはサイズが大きいため個体、特に小型のマウスの頭部に埋め込むことが困難である。そのため、デバイスを皮膚に接着したり、完全に埋め込むことができずにデバイスの一部が体外に露出したりするが、それが炎症や感染症の原因となって生体へ与えるストレスが大きくなってしまう。また、複数の個体を一箇所で飼育して実験する場合において、喧嘩や毛繕いの際にデバイスが異物と認識されて他の個体や自身によってデバイスが破壊されるおそれがある。このように、従来のモニタリングデバイスは複数個体の同時モニタリングには適していないという問題がある。
【0006】
さらに、個体に特定の生体活動を誘発・抑制するための手段としてオプトジェネティクスの技術を採用することが望ましい。
【0007】
上記問題に鑑み、本発明は、光刺激により特定の生体活動を誘発・抑制することができ、個体に完全埋植して同時に複数の個体の生体活動をモニター可能な小型動物用埋植デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に従うと、マウスやラットなどの小型動物の頭部に埋植して使用する小型動物用埋植デバイスであって、平面視で小型動物の頭骨の頭頂部領域に収まる大きさの基板を備え、基板に、小型動物の脳に光刺激を与える光刺激部、小型動物の生体情報および行動を計測するセンシング部、光刺激部およびセンシング部と外部装置との間の無線通信を行う無線通信部、および各部に電力を供給する電源部が実装されており、基板が小型動物の頭骨のブレグマおよびラムダの少なくとも一つに位置合わせするためのアライメントマークを有することを特徴とする小型動物用埋植デバイスが提供される。
【0009】
アライメントマークは、例えば、基板を貫通する穴である。あるいは、基板において少なくともアライメントマークの部分が透明素材で形成されており、アライメントマークが基板上に印刷または刻印されていてもよい。
【0010】
基板の平面視形状がテーパー状であってもよい。また、基板が小型動物の頭骨の頭頂部領域の形状に適合する曲面形状の基板であってもよい。
【0011】
電源部が、各部に電力を供給する二次電池と、外部から無線給電されて二次電池を充電する無線受電デバイスとを有していてもよい。あるいは、電源部が、各部に電力を供給する二次電池と、発電して二次電池を充電する発電デバイスとを有していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、光刺激により特定の生体活動を誘発・抑制することができ、個体に完全埋植して同時に複数の個体の生体活動をモニターすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る小型動物用埋植デバイスの平面図
【
図2】本発明の一実施形態に係る小型動物用埋植デバイスの機能構成の一例を表すブロック図
【
図3】本発明の一実施形態に係る小型動物用埋植デバイスの機能構成の別例を表すブロック図
【
図5】マウスの頭部に小型動物用埋植デバイスの埋植した例を示す図
【
図6】小型動物用埋植デバイスを埋植したマウスの頭部の矢状面図
【
図7】小型動物用埋植デバイスを埋植した個体を用いた薬効評価試験(光刺激による疾患誘発時)の模式図
【
図8】小型動物用埋植デバイスを埋植した個体を用いた薬効評価試験(モニタリング時)の模式図
【
図9】変形例に係る小型動物用埋植デバイスの平面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0015】
なお、発明者は、当業者が本発明を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。また、図面に描かれた各部材の寸法、厚み、細部の詳細形状などは実際のものとは異なることがある。
【0016】
本発明の一実施形態に係る小型動物用埋植デバイスは、マウスやラットなどの小型動物の頭部に完全埋植できるように小型化、薄型化、軽量化したデバイスである。以下、便宜のため、マウス用の埋植デバイスの例について説明する。
【0017】
≪構造≫
まず、本発明の一実施形態に係る小型動物用埋植デバイスの構造について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る小型動物用埋植デバイス100の平面図である。小型動物用埋植デバイス100は、基板10に電子部品、バッテリー、各種センサが実装されて構成される。なお、生体に完全埋植することを考慮して、小型動物用埋植デバイス100を、高生体適合性を有する薄膜、例えば、パラキシリレン系ポリマーを主成分とする厚さおよそ1~2ミクロンの保護被膜で全体的に被覆している。完全埋植とは、小型動物用埋植デバイス100の一部がマウスの体外に露出することなく、小型動物用埋植デバイス100全体がマウスの体内に埋め込まれることをいう。
【0018】
基板10は、テーパー状あるいは略卵型の平面視形状をしており、その大きさは、テーパー底部からテーパー先端部までの長さ(
図1において左右方向)がおよそ1cm、テーパー底部における幅(
図1において上下方向)がおよそ1cmであり、厚みはおよそ100ミクロンである。後述するように、小型動物用埋植デバイス100をマウスの頭部に埋植する際には、テーパー先端部がマウスの前頭部を向き、テーパー底部がマウスの後頭部を向くように、小型動物用埋植デバイス100がマウスの頭骨に接触した状態で固定(接着)される。このように、基板10は、平面視でマウスの頭骨の頭頂部領域に収まる大きさである。さらに、基板10は、マウスの頭骨の頭頂部領域の形状に適合する曲面形状をしている。なお、ここで言う頭頂部領域とは、後頭骨から前頭骨に亘る領域のことを差す。詳しくは後述する。
【0019】
基板10において、テーパー先端部とテーパー底部とを結ぶ中心線上において、基板10の略中央とテーパー底部近傍とにそれぞれアライメントマーク11、12が設けられている。具体的には、アライメントマーク11、12は基板10を貫通するように開けられた直径1mm~数mmの穴である。アライメントマーク11は、基板10をマウスの頭骨のブレグマに位置合わせするためのマークである。アライメントマーク12は、基板10をマウスの頭骨のラムダに位置合わせするためのマークである。
図1ではアライメントマーク11、12は加工のし易さを考慮して円形にしているが、これに限られずアライメントマーク11、12を他の形状、例えば、十字形状にしてもよい。なお、アライメントマーク11、12を用いた小型動物用埋植デバイス100の位置合わせについては後述する。
【0020】
基板10は、一般的なプリント基板で実現することができる。上述した基板10の曲面形状については、例えば、3Dスキャナでマウスの頭骨サンプルの頭頂部領域をスキャンし、3Dプリンタを用いて当該頭頂部領域の形状を再現することで実現可能である。
【0021】
基板10の表面にはIC(Integrated Circuit)チップ13、ブルートゥース(登録商標)モジュール(BTモジュール)14、電源モジュール15および各種センサー16が実装されている。また、基板10の裏面には後述する図略のLED(Light Emitting Diode)が実装されている。電源モジュール15は薄型のバッテリー151を有する。電源モジュール15からICチップ13およびBTモジュール14にそれぞれ電源線が配線されている。ICチップ13とBTモジュール14間には通信線が配線されている。各種センサー16はICチップ13に配線接続されている。
【0022】
なお、これら構成部材のサイズ、配置位置、さらにセンサー16の個数はあくまでも一例である。特に、後述するように、センサー16にマウスの神経活動を計測する侵襲タイプのセンサーを用いる場合には、当該センサー16の配置位置は計測対象の脳内目的部位に応じて変わり得る。また、侵襲タイプのセンサーの場合、基板10の裏面から図略の電極(プローブ)が突出している。
【0023】
以上のように、小型動物用埋植デバイス100は、マウスの頭部に完全埋植可能なように小型化、薄型化、軽量化されている。特に重量は、標準的なマウスの体重20gに対してその1/20の1g以下であり、マウスに与えるストレスが極力小さくなるようにしている。
【0024】
≪機能構成≫
次に、上記構造の小型動物用埋植デバイス100の機能構成について説明する。
図2は、小型動物用埋植デバイス100の機能構成の一例を表すブロック図である。小型動物用埋植デバイス10は、機能ブロックとして、光刺激部101と、センシング部102、無線通信部103と、電源部104とを有する。
【0025】
光刺激部101は、マウスの脳に光刺激を与える機能要素である。小型動物用埋植デバイス100が埋植されるマウスの脳内の特定部位の神経細胞(目的細胞)は、あらかじめ遺伝子操作が行われて光感受性タンパクを発現させて光感受性が付与され、光刺激を受けると神経発火するようにされている。具体的には、光刺激部101は、上述のLED17と、LED17を駆動するLED駆動回路131とを有している。LED17の発光色として青のほか、緑や赤を使用することができる。LED17の発光色は目的に応じて適当なものを採用すればよい。LED駆動回路131は、ICチップ13にCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)技術で集積化されている。光刺激部101は、LED17を発光させることでマウスの脳に光刺激を与える。このように、光刺激部101は、オプトジェネティクスの技術を用いて、光によりマウスに特定の生体活動の誘発または抑制を自在に制御できるようになっている。
【0026】
センシング部102は、マウスの生体情報および行動を計測する機能要素である。具体的には、センシング部102は、各種センサー16と、各種センサー16が計測した電気信号をデジタル値に変換するA/D変換回路132とを有している。より詳細には、センシング部102は、生体情報を計測するセンサーとして心拍センサーや体温センサーなどを有している。センシング部102は、マウスの脳内の運動野や視覚野などの目的部位にプローブを挿入して脳の特定領域の神経活動を計測する侵襲タイプのセンサーを有することもある。さらに、センシング部102は、マウスの行動を計測するセンサーとして加速度センサーやジャイロセンサーなどを有している。A/D変換回路132は、ICチップ13にCMOS技術で集積化されている。
【0027】
無線通信部103は、光刺激部101およびセンシング部102と図略の外部装置(後述のデータ収集・解析装置としてのパソコン)との間の無線通信を行う機能要素である。具体的には、無線通信部103は、BTモジュール14で構成される。より詳細には、無線通信部103は、図略のマイクロコントローラおよびタイマーを有している。当該マイクロコントローラは、外部装置からの指示またはタイマーからのトリガーにより光刺激部101に信号を送ってLED17の点灯/消灯を切り替える。また、当該マイクロコントローラは、外部装置からの指示またはタイマーからのトリガーによりセンシング部102に信号を送って上記の各センサに計測動作を行わせ、その計測データをセンシング部102から受けて外部装置へ転送する。
【0028】
なお、無線通信規格としてブルートゥース(登録商標)以外に、WiFi(登録商標)、ZigBee(登録商標)、赤外線通信などを用いることができる。さまざまな無線通信規格の中でもブルートゥース(登録商標)は、スリープモードに対応しており、外部から信号を与えることによりスリープモードから復帰して各種センサー16の計測データを外部装置へ転送したのち再びスリープモードに遷移するといったように低消費電力化の点で優れている。また、ブルートゥース(登録商標)は、複数のデバイスで同時通信可能であり、複数のマウスの生体情報や行動を同時にリアルタイム観測できる点で小型動物用埋植デバイス100に好適である。
【0029】
電源部104は、上記各部に電力を供給する機能要素である。具体的には、電源部104は、二次電池としてのバッテリー151と、外部から無線給電されてバッテリー151を充電する無線受電デバイス152とを有する。利用可能な無線給電方式は、小型動物用埋植デバイス100を埋植したマウスを用いた実験環境を考慮して、近距離で無線給電できる小型のものであればよい。例えば、Qi(登録商標)やAirFuel(登録商標)などを用いることができる。
【0030】
電源部104は、無線受電デバイス152に代えて、発電してバッテリー151を充電する発電デバイスを有していてもよい。
図3は、本発明の一実施形態に係る小型動物用埋植デバイス100の機能構成の別例を表すブロック図である。
図3のブロック図が
図2のブロック図と異なる点は、電源部104が無線受電デバイス152に代えて発電デバイス153を有している点である。小型動物用埋植デバイス100がマウスの頭部に完全埋植された状態でも発電可能なデバイスとして色素増感型太陽電池を使用することができる。当該太陽電池は赤外線で発電可能であり、赤外線はマウスの頭皮を透過するため小型動物用埋植デバイス100用の発電デバイスとして好適である。また、発電デバイス153として温度差発電デバイスを使用することも可能である。
【0031】
なお、バッテリー151として二次電池ではなく一次電池を使用することも可能である。この場合、小型動物用埋植デバイス100は再利用できずに使い捨てになるが、無線受電デバイス152や発電デバイス153が不要になることで基板10上に容量の大きな一次電池を配置することができ、小型動物用埋植デバイス100の動作可能時間を極力長く確保することができる。
【0032】
以上のように、小型動物用埋植デバイス100では、光刺激機能とセンシング機能を実現する回路をCMOS技術によりICチップ13にワンチップ化することで小型化、軽量化、低消費電力化を可能にしている。なお、無線通信機能もICチップ13に追加してもよいが、すでに小型、軽量、低消費電力のさまざまなBTモジュール13が比較的安価で市販されているので、市販品の中から適当なものを選択すればよい。
【0033】
≪マウスの頭部への埋植例≫
次に、小型動物用埋植デバイス100をマウスの頭部に埋植する例について説明する。
図4は、マウスの頭骨の平面図である。マウス20の頭骨200において、左右の前頭骨201、左右の頭頂骨202および後頭骨203に亘る頭頂部領域は、わずかに凸曲面となっているが概ね平坦である。頭頂部領域の平面視形状は、後頭骨203から前頭骨201に向かってテーパー状の形状である。そして、頭頂部領域の大きさは、矢状方向がおよそ1cm、冠状方向がおよそ1cmである。
【0034】
マウス20の頭骨200の頭頂部領域には、左右の前頭骨201の境界をなす前頭縫合204、前頭骨201と頭頂骨202との境界をなす冠状縫合205、左右の頭頂骨202の境界をなす矢状縫合206および頭頂骨206と後頭骨203との境界をなすラムダ縫合207があり、前頭縫合204、冠状縫合205および矢状縫合206の交点がブレグマ208であり、矢状縫合とラムダ縫合207との交点がラムダ209である。マウス20の頭頂部の頭皮を切開すると上記の頭頂部領域を構成する各種骨および縫合が露出する。
【0035】
図5は、マウス20の頭部に小型動物用埋植デバイス100の埋植した例を示す図である。
図6は、小型動物用埋植デバイス100を埋植したマウス20の頭部の矢状面図である。マウス20の頭部に小型動物用埋植デバイス100を埋植するにあたって、マウス20の頭皮を切開して頭骨200の頭頂部領域を露出させ、マニピュレータなどを用いて頭骨200の所定箇所に孔を開ける。当該所定箇所は、侵襲タイプのセンサー16のプローブが差し込まれる箇所およびLED17を埋め込む箇所である。
【0036】
上述したように、小型動物用埋植デバイス100には、基板10をマウス20の頭骨200のブレグマ208に位置合わせするための穴(アライメントマーク11)およびラムダ209に位置合わせするための穴(アライメントマーク12)が開けられている。それら穴からブレグマ208およびラムダ209が覗くように基板10を位置決めしてマウス20の頭骨200に基板10を接着剤で固定する。これにより、侵襲タイプのセンサー16のプローブおよびLED17をマウス20の頭骨200の所定位置に正確に配置することができる。マウス20の頭骨200に小型動物用埋植デバイス100を固定したら頭皮を縫合する。これにより、小型動物用埋植デバイス100がマウス20の頭部に完全埋植される。
【0037】
≪埋植デバイスを使用した動物実験例≫
次に、本実施形態に係る小型動物用埋植デバイス100を使用した動物実験例について説明する。
図7および
図8は、小型動物用埋植デバイス10を埋植したマウスを用いた薬効評価試験の模式図であり、
図7は、特定の個体に光刺激を与えて疾患を誘発させる様子を表し、
図8は、各個体の生体情報および行動をモニタリングする様子を表す。
【0038】
実験で使用する複数の個体(
図7および
図8の例ではマウスA~Fの6匹)の脳内の特定部位の神経細胞に対して遺伝子操作を行って光感受性タンパクを発現させて光感受性を付与しておく。そして、そのような遺伝子操作をした各個体の頭部に小型動物用埋植デバイス100を埋植しておく。小型動物用埋植デバイス100が埋植されたマウスA~Fは、図略のケージ内で同じ飼育環境で飼育される。当該ケージの側にデータ収集・解析装置としてのパソコン30が設置されている。パソコン30は、ブルートゥース(登録商標)のマスター機器として動作して、スレーブ機器としての小型動物用埋植デバイス100と個別に無線通信して各個体の生体情報や行動のセンシングデータを取得することができる。このように、小型動物用埋植デバイス100を使用した動物実験において、自由に活動することができるように集団飼育される各個体の生体活動をリアルタイムにモニターすることができるようになっている。
【0039】
図7を参照して、特定の個体(例えば、マウスB、C、E)に特定の疾患を誘発させる場合、実験者は、パソコン30を操作して対象となる個体を特定する。パソコン30は、特定された個体に埋植されている小型動物用埋植デバイス100に対して、ブルートゥース(登録商標)の無線通信により光刺激のコマンドを送信する。当該コマンドを受信した小型動物用埋植デバイス100は、LED17を発光させる。これにより、目的の個体がケージ内のどこにいても当該個体に光刺激を与えて疾患を誘発させることができる。
【0040】
図8を参照して、特定の疾患を誘発させた個体(例えば、マウスB、C、E)に対して薬効評価対象の薬が投与される。薬の投与前および後において、パソコン30は、各個体に埋植された小型動物用埋植デバイス100から各個体の生体情報や行動のセンシングデータを継続的に取得している。そして、当該データを解析することで、投与した薬の効果を評価することができる。
【0041】
≪効果≫
本実施形態によると次のような効果が奏される。
1)基板10の大きさおよび形状をマウス20の頭骨200の頭頂部領域に合わせていることから、小型動物用埋植デバイス100をマウス20の頭部に完全埋植することができる。これにより、個体に炎症や感染症を引き起こす原因を除去し、個体にストレスを与えることなく、また、個体の行動に制限を与えることなく、各個体の生体活動を正確にモニターすることができる。
2)アライメントマーク11、12により、小型動物用埋植デバイス100の取り付け位置を正確かつ容易に決めることができる。
3)外部装置(パソコン30)との間で無線通信により特定の個体に対して光刺激を与えて特定の生体活動を誘発または抑制することができ、また、複数の個体の生体活動を同時にモニターすることができる。これにより、複数個体を自然な状態で飼育しながら集団試験を行うことができる。
【0042】
≪変形例≫
本実施形態に係る小型動物用埋植デバイス100は次のように変形することができる。
図9は、変形例に係る小型動物用埋植デバイスの平面図である。当該変形例に係る小型動物用埋植デバイス100は、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PI(透明ポリイミド)などの透明素材で形成された基板10を備えている。そして、アライメントマーク11、12は、基板10を貫通する穴ではなく、基板10上に印刷または刻印されている。小型動物用埋植デバイス100にこのような変形を加えても上記効果に何ら変わりはない。なお、
図9の例ではアライメントマーク11、12は十字であるが、三角、四角、星、円などにしてもよい。また、基板10の全体を透明素材で形成する必要はなく、少なくともアライメントマーク11、12の部分が透明素材で形成されていればよい。
【0043】
また、
図1および
図9において基板10に2つのアライメントマーク11、12を設けているが、いずれか一方を省略してもよい。すなわち、アライメントマークを一つにしてもよい。アライメントマークが少なくとも一つあれば、基板10のテーパー形状をマウス20の頭骨200の矢状方向に合わせて配置して、あとは矢状方向のオフセット位置をブレグマ208かラムダ209で決めることで、小型動物用埋植デバイス100を正確な位置に配置することができる。
【0044】
以上のように、本発明における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。
【0045】
したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0046】
また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【符号の説明】
【0047】
100…小型動物用埋植デバイス、10…基板、11…アライメントマーク、12…アライメントマーク、101…光刺激部、102…センシング部、103…無線通信部、104…電源部、151…バッテリー(二次電池の一例)、152…無線受電デバイス、153…発電デバイス、20…マウス(小型動物の一例)、200…頭骨、208…ブレグマ、209…ラムダ、30…パソコン(外部装置の一例)