(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】製パン用油脂組成物および製パン用穀粉生地
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20220627BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20220627BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/16
A21D2/26
(21)【出願番号】P 2016072114
(22)【出願日】2016-03-31
【審査請求日】2019-02-25
【審判番号】
【審判請求日】2020-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 彩希
(72)【発明者】
【氏名】難波 真紀子
【合議体】
【審判長】森井 隆信
【審判官】冨永 みどり
【審判官】岡崎 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-272357(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02910128(EP,A1)
【文献】特表平05-500907(JP,A)
【文献】特開2010-273598(JP,A)
【文献】月刊フードケミカル,2010,Vol.26,No.9,p.35-38
【文献】月刊フードケミカル,2015,Vol.31,No.12,p.78-81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00- 9/06
A21D 2/00-17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂、至適温度が45℃以上60℃以下であるヘミセルラーゼ(H)、および至適温度が65℃以上85℃以下であるマルトース生成α-アミラーゼ(mA)を含有し、100g中に、ヘミセルラーゼ(H)を1~100u、かつマルトース生成α-アミラーゼ(mA)を50~5000u含有
し、
穀粉100gに対し、ヘミセルラーゼ(H)の含有量を0.05~8u、マルトース生成α-アミラーゼ(mA)の含有量を5~500uとするために用いる製パン用油脂組成物。
【請求項2】
マルトース生成α-アミラーゼ(mA)が、至適温度が65℃以上75℃未満のマルトース生成α-アミラーゼ(mA1)と至適温度が75℃以上85℃以下のマルトース生成α-アミラーゼ(mA2)とからなる、請求項1に記載の製パン用油脂組成物。
【請求項3】
穀粉、食用油脂、至適温度が45℃以上60℃以下であるヘミセルラーゼ(H)、および至適温度が65℃以上85℃以下であるマルトース生成α-アミラーゼ(mA)を含有し、穀粉100
gに対して、ヘミセルラーゼ(H)が
0.05~8u、かつマルトース生成α-アミラーゼ(mA)が
5~500uである製パン用穀粉生地。
【請求項4】
マルトース生成α-アミラーゼ(mA)が、至適温度が65℃以上75℃未満のマルトース生成α-アミラーゼ(mA1)と至適温度が75℃以上85℃以下のマルトース生成α-アミラーゼ(mA2)とからなる、請求項3に記載の製パン用穀粉生地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糊化温度付近で作用するヘミセルラーゼと澱粉の糊化温度以上で作用するマルトース生成α-アミラーゼを配合することで、良好な食感および優れた老化抑制効果を有するパン類を製造することができる製パン用穀粉生地用改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
でんぷん質を主成分とするパン類は、焼成後時間とともに経時的に老化し、乾燥やソフトさの低下などが生じる。例えば、特許文献1~4ではグリセリン脂肪酸エステルやプロピレングリコール脂肪酸エステルなどの乳化剤の利用によって、パンにソフトさを向上させているが、焼成3、4日後のしっとりさやソフトさを保つには不十分であり、乳化剤の使用が焼成1日目のくちゃつきや風味を損なう要因となることなども知られている。また、本手法は近年の顧客の無添加品を好む嗜好に応えられるものではない。
【0003】
一方、リパーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、グルコースオキシダーゼなどを含む種々の酵素類を組み合わせることによってパンの老化抑制を行なう手法も知られている。たとえば、特許文献5ではリパーゼ、ヘミセルラーゼ、アミラーゼの併用によって乳化剤を使用しなくてもパンをソフトにすることが可能となっている。しかしながら、リパーゼは油脂を分解し、異臭を生じるなどの問題がある。また、特許文献6ではリパーゼ、グルコースオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ等を併用しているが、上記と同様の課題がある。
【0004】
特許文献7では、冷凍パン生地の改良剤としてヘミセルラーゼおよびAspergillus oryzae起源のアミラーゼを用いているが、Aspergillus oryzae起源のアミラーゼは50~60℃と比較的低温度帯に至適温度を有しているため、冷凍生地ではなく通常のパン生地の改良剤として用いた場合にはパン生地のべたつきなどの作業性の面での問題が生じる。また、アミラーゼはでんぷんの骨格を切断するものであるため、焼成後のソフトさを飛躍的に向上させることができるが、焼成1日後のパンを過剰にソフトにしてしまい、結果として腰持ちの悪いパンとなってしまう。これらの問題が起こらないよう改良剤を添加すると、焼成3日後でのソフトさを保つには不十分である。
【0005】
特許文献8はα-アミラーゼとマルトース生成α-アミラーゼを併用することによって、パンの長期保管を可能とする技術であるが、マルトース生成α-アミラーゼのみでは効果は不十分であり、α-アミラーゼとの併用が必須であるとされている。しかし、α-アミラーゼの併用によって上記と同様の課題が生じる。
【0006】
このように、乳化剤を用いずに3日目でも十分ソフトなパンを得るためにはα-アミラーゼの使用、またはα-アミラーゼと他の酵素との併用が不可欠であったが、この場合、焼成1日後のパンがソフトになりすぎてしまい、腰持ちが悪くなったり、くちゃついた口溶けの悪い食感になったりするといった課題があった。また、水分移行の激しい具材入りのパンやビスケット生地の掛かったパンにおいては、特にでんぷんの老化が激しく、焼成3、4日後でもパンのソフトさを保つためには既存の技術では不十分であった。
【0007】
以上のように、焼成前の製パン用穀粉生地の作業性を良好に保ったまま、乳化剤を併用せずとも、腰持ちや口溶けの良さを損なわずにパンを焼成でき、パンの老化を効果的に遅延してソフトさやしっとりさを長期間維持することができる製パン用油脂組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平03-119948号公報
【文献】特開平03-292846号公報
【文献】特開平04-207143号公報
【文献】特開2015-181434号公報
【文献】特開平06-169681号公報
【文献】特開2002-272357号公報
【文献】特開2000-083573号公報
【文献】特開2010-148487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明においては、焼成前の製パン用穀粉生地の作業性を良好に保ったまま腰持ちや口溶けの良さを損なわずにパンを焼成でき、パンの老化を効果的に遅延してソフトさやしっとりさを長期間維持することができる製パン用穀粉生地用改良剤の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
種々の酵素の併用効果について鋭意検討を重ねた結果、澱粉の糊化温度に対して特定の温度帯に至適温度を有するヘミセルラーゼとマルトース生成α-アミラーゼを併用することによって上記課題を解決することの知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の〔1〕~〔4〕である。
【0011】
〔1〕食用油脂、至適温度が45℃以上60℃以下であるヘミセルラーゼ(H)、および至適温度が65℃以上85℃以下であるマルトース生成α-アミラーゼ(mA)を含有し、100g中に、ヘミセルラーゼ(H)を1~100u、かつマルトース生成α-アミラーゼ(mA)を50~5000u含有する製パン用油脂組成物。
〔2〕マルトース生成α-アミラーゼ(mA)が、至適温度が65℃以上75℃未満のマルトース生成α-アミラーゼ(mA1)と至適温度が75℃以上85℃以下のマルトース生成α-アミラーゼ(mA2)とからなる、前記の〔1〕に記載の製パン用油脂組成物。
【0012】
〔3〕穀粉、食用油脂、至適温度が45℃以上60℃以下であるヘミセルラーゼ(H)、および至適温度が65℃以上85℃以下であるマルトース生成α-アミラーゼ(mA)を含有し、穀粉100質量部に対して、ヘミセルラーゼ(H)が0.000005~0.0005質量部、かつマルトース生成α-アミラーゼ(mA)が0.0005~0.05質量部である製パン用穀粉生地。
〔4〕マルトース生成α-アミラーゼ(mA)が、至適温度が65℃以上75℃未満のマルトース生成α-アミラーゼ(mA1)と至適温度が75℃以上85℃以下のマルトース生成α-アミラーゼ(mA2)とからなる、前記の〔3〕に記載の製パン用穀粉生地。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、焼成前の作業性が良好で、焼成後の風味や腰持ち、食感を低下させずに長期間ソフトさを維持できる製パン用穀粉生地を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の製パン用油脂組成物は、食用油脂、至適温度が45℃以上60℃以下であるヘミセルラーゼ(H)、および至適温度が65℃以上85℃以下であるマルトース生成α-アミラーゼ(mA)を含有する。
【0015】
(ヘミセルラーゼ(H))
本発明において使用されるヘミセルラーゼ(H)は、至適温度が45~60℃、好ましくは50~60℃であることを特徴とする。ヘミセルラーゼは植物組織に含まれる多糖類を加水分解する酵素であり、キシランを加水分解するキシラナーゼ、アラバンを加水分解するアラバナーゼ、マンナンを加水分解するマンナーゼ等が含まれる。これらの中より、いずれを選択しても良いが、特に好ましくはキシラナーゼを選択して添加する。ヘミセルラーゼ(H)は真菌由来(例えば、トリコデルマ、メリピルス、ヒューミコラ、アスペルギルス、フザリウム)または細菌由来(例えば、バチルス)である。これらのヘミセルラーゼを1種類または2種類以上選択して使用してもよい。
【0016】
本発明において、ヘミセルラーゼ(H)は、澱粉の糊化温度付近に至適温度を有するので、澱粉の糊化が進行すると同時にヘミセルラーゼ(H)が多糖類を分解することで、多糖類が包含する水がパン生地中に放出され、澱粉の糊化に効率的に使用されることが可能となる。澱粉の糊化が十分進行することによって、マルトース生成α-アミラーゼ(mA)が澱粉に作用できるようになるため、マルトース生成α-アミラーゼ(mA)の効果を効率的に高めることができる。
【0017】
本発明の製パン用油脂組成物において、ヘミセルラーゼ(H)の含有量は、製パン用油脂組成物100g中に、1~100uであり、好ましくは10~50uである。1u未満であると十分な老化抑制効果が得られず、100uを超えると作業性の低下や得られるパンの品質の低下などの原因となる。
【0018】
(マルトース生成α-アミラーゼ(mA))
本発明において使用されるマルトース生成α-アミラーゼ(mA)は、至適温度が65~85℃、失活温度が80~100℃であることを特徴とする。マルトース生成α-アミラーゼとは、α-1,4-グルコシド結合を加水分解することによって主にマルトースを生成する酵素であり、Bacillus等の細菌由来、Malt等の穀物由来、及びAspergillus等のカビ由来のいずれも用いることができる。また、好ましくは至適温度が65℃以上75℃未満のマルトース生成α-アミラーゼ(mA1)と至適温度が75℃以上85℃以下のマルトース生成α-アミラーゼ(mA2)を組み合わせて用いることができる。至適温度が異なる2種を組み合わせて用いることで、低温から高温までの広い温度域において連続的に、パン生地中の澱粉に対して分解作用が得られ、澱粉に対して十分に作用することで、焼成したパンの老化抑制効果がさらに向上する。
【0019】
本発明の製パン用油脂組成物において、マルトース生成α-アミラーゼ(mA)の含有量は、マルトース生成α-アミラーゼ(mA1)とマルトース生成α-アミラーゼ(mA2)の合計として、製パン用油脂組成物100g中に、50~5000uであり、好ましくは500~2000uである。50u未満であると十分な老化防止効果が得られず、5000uを超えると作業性の低下や得られるパンの品質の低下などの原因となる。
また、本発明の製パン用油脂組成物において、マルトース生成α-アミラーゼ(mA1)の含有量は、油脂組成物100g中に対して30~2000uであることが好ましく、250~1000uであることがより好ましい。マルトース生成α-アミラーゼ(mA2)の含有量は、油脂組成物100g中に対して、30~4000uであることが好ましく、500~2000uであることがより好ましい。
【0020】
(活性単位)
本発明において用いるヘミセルラーゼ(H)およびマルトース生成α-アミラーゼの活性単位は、1分間にそれぞれ1μmolのキシロース、マルトースに相当する還元糖を生成する酵素量を1uとして定義する。ヘミセルラーゼ(H)については、ヘミセルロースを基質として至適条件下(至適温度、至適pH)で10分間反応させ、生じた還元糖を定量することで酵素活性を求めることが出来る。また、マルトース生成α-アミラーゼについては、マルトトリオースを基質として至適条件下(至適温度、至適pH)で10分間反応させ、生じた還元糖を定量することで酵素活性を求めることが出来る。各還元糖については、「還元糖の定量法(第2版)」(福井作蔵著、学会出版センター)を参照して定量することができる。
【0021】
(酵素の至適温度)
本発明において酵素の至適温度とは、酵素を水に溶解し、5℃ずつ温度を変えて活性を測定した結果、最も活性の高い温度のことをいう。また、本発明において失活温度とは、酵素を水に溶解し、温度を変え活性を測定した結果、至適温度に対して相対活性が10%以下となる温度をいう。
【0022】
(食用油脂)
本発明で使用する食用油脂としては、一般にマーガリン、ショートニングの原料として用いられている食用油脂を使用することができる。例えば牛脂、豚脂、魚油等の動物性油脂、パーム油、菜種油、大豆油等の植物性油脂や、これら動物性油脂、植物性油脂の硬化油、分別油、エステル交換油等の加工油脂が挙げられ、これらは適宜混合して用いることができる。本発明において食用油脂としては、製パンのミキシング工程の生地温度における固体脂含量(SFC)が10~30%であることが好ましい。
【0023】
本発明における製パン用油脂組成物には、乳化剤、加工澱粉、保存料、pH調整剤、色素、香料、その他の酵素等を適宜使用してもよい。
乳化剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、ポリグリセリン縮合脂肪酸エステル等が用いられる。乳化剤は1種又は2種以上を混合して用いることができるが、グリセリン脂肪酸エステルが好ましく、特に食感改良効果、デンプンの老化防止効果を有する飽和、不飽和の脂肪酸がついた脂肪酸モノグリセリド単独、又は飽和、不飽和脂肪酸モノグリセリドと他の乳化剤とを混合して用いると、食感改良効果、老化防止効果がさらに向上するため好ましい。
乳化剤の添加量は食用油脂100質量部に対して、通常0.1~10質量部、好ましくは0.3~3質量部である。
【0024】
本発明における油脂組成物の製法は、まず油脂および油溶成分を融点温度以上の温度で加熱し、均一溶解後、50~55℃まで降温する。次に、加温した水を添加し、均一に混合攪拌後、酵素を添加し、試作機を用いて急冷可塑化し、30℃以下まで冷却することにより、目的の油脂組成物を得る。上記製造において、高温状態にある均一混合物を冷却する際には均一混合物を入れている容器自身を外部から冷却しても良いが、一般的にショートニング、マーガリン製造に用いられるチラー、ボテーター、コンビネーター等を用いて急冷する方が性能上好ましい。
本発明における油脂組成物を製造するにあたって、酵素は粉末や液体などいずれの形態でもよい。
【0025】
本発明の製パン用穀粉生地は、穀粉、食用油脂、至適温度が45℃以上60℃以下であるヘミセルラーゼ(H)、および至適温度が65℃以上85℃以下であるマルトース生成α-アミラーゼ(mA)を含有する。含有量はそれぞれ、穀粉100質量部に対して、ヘミセルラーゼ(H)が0.000005~0.0005質量部であり、マルトース生成α-アミラーゼ(mA)が0.0005~0.05質量部である。添加量が少なすぎると、十分な老化抑制効果が得られず、多すぎると、得られたベーカリー製品の食感が低下する。
【0026】
また、本発明の製パン用穀粉生地における各酵素の含有量をユニットで表すと、ヘミセルラーゼ(H)の含有量は、穀粉100gに対し、好ましくは0.05~5uであり、より好ましくは0.5~2uである。
マルトース生成α-アミラーゼ(mA)の含有量は、マルトース生成α-アミラーゼ(mA1)とマルトース生成α-アミラーゼ(mA2)の合計として、穀粉100gに対し、好ましくは5~500uであり、より好ましくは50~200uである。
更には、マルトース生成α-アミラーゼ(mA1)の含有量は、穀粉100gに対し、好ましくは1~300uであり、より好ましくは25~100uである。また、マルトース生成α-アミラーゼ(mA2)の含有量は、穀粉100gに対し、好ましくは1~400であり、より好ましくは50~200uである。
【0027】
ヘミセルラーゼ(H)とマルトース生成α-アミラーゼ(mA)は、本発明の製パン用油脂組成物に含有させて添加することができる。本発明において、ベーカリー製品調整時に添加する本発明の油脂組成物の量は、ベーカリー製品に使用する穀粉100質量部に対して、通常1~35質量部、好ましくは5~15質量部である。油脂組成物の量をこの範囲とすることによって、十分な老化抑制効果と、良好なベーカリー製品の食感が得られる。
【0028】
本発明におけるベーカリー製品の原料としては、主原料としての穀粉の他に、イースト、イーストフード、乳化剤、油脂類(ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等)、水、加工澱粉、乳製品、食塩、糖類、調味料(グルタミン酸ソーダ類や核酸類)、保存料、ビタミン、カルシウム等の強化剤、蛋白質、アミノ酸、化学膨張剤、フレーバー等が挙げられる。さらに、一般に原料として用いると老化しやすくなる、レーズン等の乾燥果実、小麦ふすま、全粒粉等を使用できる。
【0029】
本発明の油脂組成物を使用して製造するパン類としては、フィリングなどの詰め物をしたパンも含まれ、食パン、特殊パン、調理パン、菓子パンなどが挙げられる。具体的には、食パンとしては白パン、黒パン、フランスパン、バラエティーブレッド、ロール(テーブルロール、バンズ、バターロールなど)が挙げられる。特殊パンとしてはマフィンなど、調理パンとしてはホットドック、ハンバーガーなど、菓子パンとしてはジャムパン、あんパン、クリームパン、レーズンパン、メロンパンなどが挙げられる。
【実施例】
【0030】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
[製パン用油脂組成物の調製]
表1に示す配合組成の製パン用油脂組成物ベースに、表2、3に示す酵素原料を添加して、製パン用油脂組成物を得た。製パン用油脂組成物の製造方法は、以下のとおりである。
パーム硬化油(融点42℃)5kg、パーム油30kg、菜種硬化油(融点36℃)35kg、および菜種油30kg、大豆レシチン100gを配合し加熱溶解した油相部に、加温した水20kgを添加し乳化液を製造した。乳化液の温度を50~55℃に降温し、酵素原料を添加後、十分に撹拌を行い、ついで、マーガリン試作機を用いて30℃以下に急冷し、製パン用油脂組成物を試作した。
表2、3に、得られた各々の製パン用油脂組成物中の各酵素の含有量を示す。表中の上段の数値は、製パン用油脂組成物100g中に含まれる原料酵素の質量(g)であり、下段のカッコ内の数値は、製パン用油脂組成物100g中に含まれる酵素の活性量(/u)である。得られた各々の製パン用油脂組成物について、記号を付し、表2、3の下端に示す。
【0031】
(酵素原料)
<ヘミセルラーゼ>
1)商品名:GrindamylH460、ダニスコジャパン(株)製、至適温度45℃
2)商品名:Bakezyme BXPJ、DSM(株)製、至適温度50℃
3)商品名:スミチームX、新日本化学(株)製、至適温度55℃
4)商品名:スクラーゼX、三菱化学フーズ(株)製、至適温度60℃
<α-アミラーゼ>
5)商品名:Fungamyl、ノボザイムジャパン(株)製、至適温度55℃
<マルトース生成α-アミラーゼ>
6)商品名:Novamyl、ノボザイムジャパン(株)製、至適温度70℃
7)商品名:Novamyl 3D、ノボザイムジャパン(株)製、至適温度75℃
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
[製パン評価]
上記製パン用油脂組成物を用いてパンを製造し、製パン性を評価した。製パン性の評価に際しては、生地の作業性、耐老化性、腰持ち、口溶け、しっとりさの5つを評価項目として設けた。それぞれの評価項目について、評価方法を下記に記す。
なお、製パン性の試験は、食パン、レーズン食パン、メロンパン、レーズンロールにて行なった。
【0036】
(生地の作業性の評価方法)
酵素や乳化剤の使用によって、パン生地がゆるんでべたついたり、逆にしまってしまったりという問題が生じることがある。通常の良好な生地状態を「3」として、生地がかなりべたついた場合を「5」、生地がややべたついた場合を「4」、生地がややしまる場合を「2」、生地がかなりしまる場合を「1」として評価を行なった。評点の「2」、「3」、「4」を合格とした。
【0037】
(耐老化性の評価方法)
焼成後1日目(D+1)と4日目(D+4)において、パンクラムのソフトさの経時変化を測定し、ソフトさの変化量がコントロールに比較して小さいものを耐老化性が強いと評価した。食パン、レーズン食パン、メロンパンについては、焼成後1日目および4日目のパンのクラムを底面より3cmのところでスライスし、中心部を4cm×4cmの正方形に切り取ってサンプルとした。スライス面からクラムを1.5cm圧縮する際に必要な応力(N)を山電社製レオメーターで測定し、ソフトさの指標とした。また、レーズンロールについては、焼成後1日目および4日目のパンの中心を3cm分スライスしてサンプルとした。パンクラム上面からクラムを1.5cm圧縮する際に必要な応力(N)を山電社製レオメーターで測定し、ソフトさの指標とした。酵素を配合しないコントロールとして油脂組成物Cを使用した場合と比較して、ソフトさの変化量が1倍以上となった場合を「1」、0.9倍以上1倍未満となった場合を「2」、0.8倍以上0.9倍未満となった場合を「3」、0.7倍以上0.8倍未満となった場合を「4」、0.7倍未満となった場合を「5」として5段階評価で評価を行なった。評点の「4」以上を合格とした。
【0038】
(腰持ちの評価方法)
パンの腰持ちは焼成後1日目のパンの比容積を測定し、コントロールと比較してボリュームの低下が無いものを腰持ちが良いと評価した。パンの比容積は、アステックス社製3Dレーザー体積計を用いて測定した。コントロールと比較して比容積が1.05倍より大きい場合を「5」、1倍より大きく1.05倍以下の場合を「4」、0.95倍より大きく1倍以下の場合を「3」、0.9倍より大きく0.95倍以下の場合を「2」、0.9倍以下の場合を「1」として、5段階評価で評価を行なった。評点の「3」以上を合格とした。
【0039】
(口溶け、しっとりさの評価方法)
焼成後1日目のパンの口溶け感を15人のパネラーにて評価した。口溶けが非常に良好(5)、良好(4)、普通(3)、若干ダマになる(2)、ダマになる(1)、の評価項目を設け、最も人数の多かった項目を口溶け感とした。また、焼成後3日目のパンのしっとりさを15人のパネラーにて評価した。パンクラムに、非常にしっとり感がある(5)、少ししっとり感がある(4)、普通(3)、少しパサつく(2)、パサつく(1)の評価項目を設け、最も人数の多かった項目をしっとり感とした。どちらも評点の3以上を合格とした。
【0040】
<食パン評価>
下記配合(表4)にて食パンを焼成し、上記の評価方法に従って評価を行なった。表5には、製パン用穀粉生地に配合した製パン用油脂組成物の記号を示し、製パン用穀粉生地中の酵素量および評価結果をまとめた。
【表4】
【0041】
【0042】
表5より、油脂組成物P1または油脂組成物P2を用いた際には、製パン性を損なうことなく十分な老化抑制効果やしっとりさが得られることが分かる。一方、マルトース生成α-アミラーゼを含まない油脂組成物R1では、製パン性に影響は無いが、耐老化性やしっとりさにおいてコントロールとほぼ同等の結果となってしまった。
【0043】
<レーズン食パン評価>
下記配合(表6)にてレーズン食パンを焼成し、上記の評価方法に従って評価を行なった。表7には、製パン用穀粉生地に配合した製パン用油脂組成物の記号を示し、製パン用穀粉生地中の酵素量および評価結果をまとめた。
【表6】
【0044】
【0045】
表7より、油脂組成物P3を用いた際には、パン生地のべたつきが多少見られたが、強い耐老化性としっとりさが付与された。また、油脂組成物P4では製パン性を損なうことなく非常に強い耐老化性やしっとりした食感が得られた。一方、至適温度の低いα-アミラーゼを使用した油脂組成物R2では生地のべたつきがみられ、焼成後のパンもくちゃついた食感となった。また、ヘミセルラーゼ(キシラナーゼ)を含有しない油脂組成物R3を用いた際には、十分な老化抑制効果が得られなかった。
【0046】
<メロンパン評価>
下記配合(表8)にてメロンパンを焼成し、上記の評価方法に従って評価を行なった。表9には、製パン用穀粉生地に配合した製パン用油脂組成物の記号を示し、製パン用穀粉生地中の酵素量および評価結果をまとめた。
【表8】
【0047】
【0048】
表9より、油脂組成物P5、P6を用いた際には、多少の生地のべたつきが見られたが、十分な老化抑制効果としっとりさが付与された。一方、ヘミセルラーゼを多量に含有する油脂組成物R4やマルトース生成α-アミラーゼを多量に含有する油脂組成物R5では、生地の過剰なべたつきが見られた。また、腰持ちが悪く、くちゃついた食感のパンとなった。
【0049】
<レーズンロール評価>
下記配合(表10)にてレーズンロールを焼成し、上記の評価方法に従って評価を行なった。表11には、製パン用穀粉生地に配合した製パン用油脂組成物の記号を示し、製パン用穀粉生地中の酵素量および評価結果をまとめた。
【表10】
【0050】
【0051】
表11より、油脂組成物P3、P4、P7では多少の生地のべたつきが見られるものあるが、十分な耐老化性と強いしっとりさが得られた。一方、油脂組成物R2ではレーズン食パン等と同様に、製パン性の低下やパンの品質の低下が見られた。
以上より、本発明の製パン用油脂組成物によって、パンの種類によらず、焼成前の作業性が良好で、焼成後の風味や腰持ち、食感を低下させずに長期間ソフトさを維持できる製パン用穀粉生地を得ることができることが明らかであり、本発明以外の製パン用油脂組成物では、所期の効果を得られるべくもない。