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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】プローブ針
(51)【国際特許分類】
   G01R 1/067 20060101AFI20220627BHJP
【FI】
G01R1/067 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018038050
(22)【出願日】2018-03-02
(65)【公開番号】P2019152541
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003414
【氏名又は名称】東京特殊電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 貴志
(72)【発明者】
【氏名】深澤 雅章
(72)【発明者】
【氏名】小澤 卓弥
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-091494(JP,A)
【文献】特開2006-017455(JP,A)
【文献】特開2007-017219(JP,A)
【文献】特開2006-284221(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0122470(US,A1)
【文献】米国特許第05521519(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 1/06-1/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピン形状の金属導体の外周に絶縁被膜を有する胴体部と、前記金属導体の両端に該絶縁被膜を有しない端部とを有するプローブ針において、前記絶縁被膜が、前記金属導体上に設けられて被膜強度及び耐電圧を有するベース被膜と、該ベース被膜の表面に設けられて該ベース被膜と同じ樹脂又は該ベース樹脂と相溶性のある樹脂に微粒子状のフッ素系樹脂が分散した最外層とを有し、
前記最外層の厚さが、0.5~1.5μmの範囲内であり、
前記微粒子状のフッ素系樹脂の分散量が、前記最外層を構成する合計樹脂量に対し、0.5~10質量%の範囲内である、ことを特徴とするプローブ針。
【請求項2】
前記ベース被膜の厚さが、2~25μmの範囲内である、請求項1に記載のプローブ針。
【請求項3】
前記ベース被膜が、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及びポリイミド樹脂から選ばれる1又は2以上の樹脂を含む、請求項1又は2に記載のプローブ針。
【請求項4】
前記金属導体の外径が、10~110μmの範囲内である、請求項1~のいずれか1項に記載のプローブ針。
【請求項5】
前記最外層の摩擦係数が、0.25以下である、請求項1~のいずれか1項のプローブ針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り性に優れるとともに皮膜強度に優れたプローブ針に関し、更に詳しくは、主に電子部品及び基板等の導通検査に用いる検査用のプローブユニットへの組み付け時やプローブユニットの使用時において、プローブユニットに設けられたプローブ針装着穴に対する滑り性に優れるとともに皮膜強度に優れたプローブ針に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等に使用される高密度実装基板、又は、パソコン等に組み込まれるBGA(Ball Grid Array)やCSP(Chip Size Package)等のICパッケージ基板等、様々な回路基板が多く用いられている。このような回路基板は、実装の前後の工程において、例えば直流抵抗値の測定や導通検査等が行われ、その電気特性の良否が検査されている。電気特性の良否の検査は、電気特性を測定する検査装置に接続された検査装置用治具(以下、「プローブユニット」という。)を用いて行われ、例えば、プローブユニットに装着されたピン形状のプローブ針の先端を、その回路基板の電極(以下「被測定体」ともいう。)に接触させることにより行われている(例えば特許文献1を参照。)。
【0003】
上記特許文献1の図6図7及び図9には、各種形態のプローブ針を装着しプローブユニットが記載されているが、こうしたプローブユニットへのプローブ針の組み付けは、ガイド板(特許文献1中の符号20,30,120,130)に設けられた複数から数千のプローブ針装着穴(以下、単に「穴」という。)それぞれにプローブ針を一本ずつ挿入して行われる。そのため、穴への挿入を容易に行うためには、プローブ針の表面の絶縁被膜は滑り性に優れることが望ましい。
【0004】
プローブ針の表面の絶縁被膜は滑り性を向上させる手段として、特許文献2には、プローブ針の表面の絶縁被膜を、被膜強度及び耐電圧を有するベース被膜と、該ベース被膜上に設けられて滑り性を有するフッ素系被膜とで構成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-322369号公報
【文献】特開2010-091494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の電子部品電極間の狭ピッチ化に伴い、プローブ針の細径化が進み、絶縁被膜の厚さも薄く設計される。そのため、特許文献2においてもフッ素系被膜の厚さも薄く設計されるため、強度が低下するという問題があるとともに、ベース被膜上に設けられて滑り性を有するフッ素系被膜の剥離強度が弱くなって、プローブユニットのプローブ針装着穴に引っかかったフッ素系被膜が容易に剥がれてしまいやすい。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、主に電子部品及び基板等の導通検査に用いる検査用のプローブユニットへの組み付け時やプローブユニットの使用時において、プローブユニットに設けられたプローブ針装着穴に対する滑り性に優れるとともに皮膜強度に優れたプローブ針を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るプローブ針は、ピン形状の金属導体の外周に絶縁被膜を有する胴体部と、前記金属導体の両端に該絶縁被膜を有しない端部とを有するプローブ針において、前記絶縁被膜が、前記金属導体上に設けられて被膜強度及び耐電圧を有するベース被膜と、該ベース被膜の表面に設けられて該ベース被膜と同じ又は同種の樹脂に微粒子状のフッ素系樹脂が分散した最外層とを有することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、絶縁被膜が、上記ベース被膜と該ベース被膜と同じ又は同種の樹脂からなる最外層とで構成されているので、プローブ針全体としての被膜強度と耐電圧を確保できるとともに、ベース被膜と最外層との密着性が優れたものとなって剥離し難くなる。さらに、最外層には微粒子状のフッ素系樹脂が分散しているので、分散したフッ素系樹脂粒の良好な滑り性により、プローブユニットへの装着時や使用時に生じ得る上記課題(穴への挿入の容易化、摺動不良・検査不良の低減、プローブ針・プローブユニットの寿命向上)を解決することができる。
【0010】
本発明に係るプローブ針において、前記最外層の厚さが、0.5~1.5μmの範囲内であることが好ましい。
【0011】
本発明に係るプローブ針において、前記微粒子状のフッ素系樹脂の分散量が、前記最外層を構成する合計樹脂量に対し、0.5~10質量%の範囲内であることが好ましい。
【0012】
本発明に係るプローブ針において、前記ベース被膜が、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及びポリイミド樹脂から選ばれる1又は2以上の樹脂を含むことが好ましい。
【0013】
本発明に係るプローブ針において、前記金属導体の外径が、10~110μmの範囲内であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るプローブ針において、前記最外層の摩擦係数が、0.25以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、主に電子部品及び基板等の導通検査に用いる検査用のプローブユニットへの組み付け時やプローブユニットの使用時において、プローブユニットに設けられたプローブ針装着穴に対する滑り性に優れるとともに皮膜強度に優れたプローブ針を提供することができた。特に、プローブ針全体としての被膜強度と耐電圧を確保できるとともに、最外層中に分散している微粒子状のフッ素系樹脂の良好な滑り性により、プローブユニットへの装着時や使用時に生じ得る課題(穴への挿入の容易化、摺動不良・検査不良の低減、プローブ針・プローブユニットの寿命向上)を解決することができた。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のプローブ針の一例を示す模式断面図である。
図2】本発明のプローブ針の全体形状の一例を示す模式平面図である。
図3】本発明のプローブ針を装着したプローブユニットの一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のプローブ針について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
[プローブ針]
本発明に係るプローブ針1は、図1及び図2に示すように、ピン形状の金属導体2の外周に絶縁被膜3を有する胴体部と、金属導体2の両端に絶縁被膜3を有しない端部とを有し、その両端に加重を与えてたわませることにより被測定体に対する接触圧力を得て電気特性を測定する方式のプローブ針である。そして、このプローブ針1の特徴は、その絶縁被膜3が、金属導体2上に設けられて被膜強度及び耐電圧を有するベース被膜4と、そのベース被膜4の表面に設けられて該ベース被膜4と同じ又は同種の樹脂に微粒子状のフッ素系樹脂5aが分散した最外層5とを有することにある。
【0019】
なお、図2において、端部2aは、被測定体側に配置されて図3に示す被測定体11の電極12に接触する「先端」側の金属導体2の端部であり、端部2bは、検査装置側に配置されて検査装置(図示しない)のリード線50に接触する「後端」側の金属導体2の端部である。また、被膜端部3aは、上記先端側の絶縁被膜3の加工端部であり、被膜端部3bは、上記後端側の絶縁被膜3の加工端部である。また、本願において、片端部とは、本願発明のプローブ針1の特定の端部を指し、両端部とは、本願発明のプローブ針1の両側の端部を指す。また、図2の例では、プローブ針1の先端側(端部2a側)の金属導体2は、絶縁被膜3が設けられていない露出部を所定の長さ有し、後端側(端部2b側)の金属導体2は、絶縁被膜3が設けられていない露出部をあまり有していない態様であるが、その後端側(端部2b側)を先端側と同様にして金属導体2の露出部を所定の長さ有するようにしてもよい。
【0020】
以下、各構成要素について説明する。
【0021】
<金属導体>
金属導体2は、所定の長さに加工されてなるピン形状の導体であり、高い導電性と高い弾性率を有する金属線(「金属ばね線」ともいう。)を切断加工されている。金属導体2に用いられる金属としては、広い弾性域を持つ金属を挙げることができ、例えばベリリウム銅等の銅合金、タングステン、レニウムタングステン、鋼(例えば高速度鋼:SKH)等を好ましく用いることができる。
【0022】
金属導体2は、通常、上記の金属が所定の径の線状導体となるまで冷間又は熱間伸線等の塑性加工が施される。金属導体2の外径は、近年の狭ピッチ化の要請から、プローブユニット10(図3を参照。)において隣り合う各プローブ針1の間隔に応じて、10~110μmの範囲内、好ましくは20~90μmの範囲内から任意に選択することができる。
【0023】
プローブ針1をプローブユニット10に装着し易くし、且つ、プローブユニット10の使用時においてプローブ針1の先端2aがガイド板20の案内穴に引っかかることによりプローブ針1の動きが妨げられるのを防止する観点からは、金属導体2の真直度が高いことが好ましく、具体的には真直度が曲率半径Rで1000mm以上であることが好ましい。真直度の高い金属導体2は、通常、絶縁被膜3が設けられる前の長尺の金属線を予め直線矯正処理することにより行われる。ここでの直線矯正処理は、例えば回転ダイス式直線矯正装置等によって行われる。
【0024】
金属導体2の先端側の端部2a及び/又は後端側の端部2bの形状は、図示しないが、半球形状、円錐形状、先端に半球形状を有する円錐形状、先端に平坦形状を有する円錐形状、等から選ばれるいずれかとすることができる。ここでいう「半球形状」、「円錐形状」は、正確な半球や円錐を含むが、略円錐や略半球も含む。
【0025】
金属導体2の端部2a,2bにおいては、金属導体2と、被測定体11の電極12又は検査装置のリード線50との接触抵抗値の上昇を抑制するために、めっき層が端部2a,2bに設けられていてもよい。めっき層を形成する金属としては、ニッケル、金、ロジウム等の金属や金合金等の合金を挙げることができる。めっき層は、単層であってもよいし複層であってもよい。複層のめっき層としては、ニッケルめっき層上に金めっき層が形成されたものを好ましく挙げることができる。めっき層は、通常、絶縁被膜3を形成した金属導体2を切断した後、絶縁被膜3の剥離加工と金属導体2の端部加工を行った後に形成される。
【0026】
<絶縁被膜>
絶縁被膜3は、図1に示すように、金属導体2上に設けられて被膜強度及び耐電圧を有するベース被膜4と、そのベース被膜4の表面に設けられて該ベース被膜4と同じ又は同種の樹脂に微粒子状のフッ素系樹脂5aが分散した最外層5とを有するように構成されている。ここで、絶縁被膜3の構成を「有する」としているのは、絶縁被膜3を構成するベース被膜4と最外層5以外に、他の被膜を有していてもよいことを意味するが、その場合における他の被膜は、最外層5上には設けられず、金属導体2とベース被膜4との間に設けられていてもよいという意味である。
【0027】
こうした絶縁被膜3は、基本的には、金属導体2上に設けられて被測定体11の電気特性を検査する際のプローブ針同士の接触を防いで短絡を防止するように作用するものである。さらに、ベース被膜4とそのベース被膜4と同じ又は同種の樹脂からなる最外層5とによりプローブ針全体としての被膜強度と耐電圧を確保しているとともに、ベース被膜4と最外層5との密着性が優れたものとなって剥離し難くなっている。さらに、最外層5には微粒子状のフッ素系樹脂5aが分散しているので、分散した微粒子状のフッ素系樹脂の良好な滑り性により、プローブユニットへの装着時や使用時に生じ得る課題解決(穴への挿入の容易化、摺動不良・検査不良の低減、プローブ針・プローブユニットの寿命向上)を実現することができる。
【0028】
(ベース被膜)
ベース被膜4は、金属導体2上に設けられて被膜強度及び耐電圧を有する。ベース被膜4としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂から選ばれる1又は2以上の樹脂を含むように構成される。なお、より耐熱性が要求される場合には、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等で形成されることが好ましい。
【0029】
ベース被膜4の厚さは、金属導体2の種類と外径、最外層5を含めた最終的なプローブ針1にどの程度の被膜強度と耐電圧を持たせるか等によって任意に設定されるが、近年のプローブ針の細径化と狭ピッチ化の要請から、2~25μmの範囲内、好ましくは3~20μmの範囲内を例示できる。金属導体2上へのベース被膜4の形成は、通常、長尺の金属導体2上に連続エナメル焼き付け方法によって行うことが好ましいが、もちろん他の方法で形成したものであってもよい。
【0030】
(最外層)
最外層5は、ベース被膜4の表面に設けられて該ベース被膜4と同じ又は同種の樹脂に微粒子状のフッ素系樹脂5aが分散した層である。最外層5を構成する樹脂は、上記ベース被膜4と同じ又は同種の樹脂であるので、ベース被膜4と最外層5とは相溶性に優れ、優れた密着性を示すことができ、剥離し難くなっている。「同種」とは、完全に同じ樹脂でなくてもよいことを意味し、優れた密着性を阻害しない相溶性を担保できる樹脂(変成樹脂も含む。)であってもよいし、最外層5中へのフッ素系樹脂5aを分散させる観点から分散剤やその他添加剤を含む樹脂であってもよいことを意味する。
【0031】
最外層5の厚さは、金属導体2の外径、ベース被膜4の種類と厚さ等によって任意に設定されるが、近年のプローブ針の細径化と狭ピッチ化の要請から、0.5~1.5μmの範囲内であることが好ましい。最外層5は、連続エナメル焼き付け方法により、所定厚さになるように、ベース被膜4と同じ又は同種の塗料に微粒子状のフッ素系樹脂5aをを分散させた塗料を用いて成膜することができるが、もちろん他の方法で形成したものであってもよい。
【0032】
微粒子状のフッ素系樹脂5aは、最外層5を構成する樹脂(ベース被膜4と同じ又は同種の樹脂)に分散されており、絶縁被膜3に優れた滑り性を担保する役割を有する。このフッ素系樹脂5aとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びクロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)から選ばれるいずれか1又は2以上を含むように構成された微粒子であればよい。市販品としては、PTFE微粒子(BYK社製、商品名:CERAFLOUR 998)、PTFE微粒子(三井・デュポン・フロロケミカル株式会社製、商品名:テフロン(登録商標)PTFE TLP10F-1)、PFA微粒子(三井・デュポン・フロロケミカル株式会社製、商品名:テフロン(登録商標)PFE 9738-JN)、FEP微粒子(三井・デュポン・フロロケミカル株式会社製、商品名:テフロン(登録商標)FEP 120-JRB)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0033】
フッ素系樹脂5aの平均粒径は、分散する最外層5の厚さとも関係するが、0.2~3.0μmの範囲内であることが好ましい。フッ素系樹脂5aの平均粒径が最外層5の厚さ未満であれば、分散量を容易に調製できて好ましい。フッ素系樹脂5aの平均粒径が最外層5の厚さ以上であれば、フッ素系樹脂5aが最外層5の表面に露出しやすいので、表面に出ているフッ素系樹脂5aの微粒子が摩擦力を低減させ、滑り性の観点から好ましい。なお、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される。
【0034】
フッ素系樹脂5aの分散量は、フッ素系樹脂5aの平均粒径によっても異なるが、例えば平均粒径が0.2~3.0μmの範囲内の場合は、最外層5を構成する合計樹脂量(ベース被膜4と同じ又は同種の最外層構成樹脂とフッ素系樹脂との合計)に対し、0.5~10質量%の範囲内であることが好ましい。この範囲内とすることにより、最外層の摩擦係数を0.25以下、好ましくは0.15以下にすることができ、良好な滑り性を示すことができる。分散量が0.5質量%未満では、フッ素系樹脂5aの機能が十分発揮されず、十分な摩擦係数の範囲内にならないことがある。分散量が10質量%を超えると、フッ素系樹脂5aが多くなりすぎて、最外層5が崩れ易く、欠けたり剥離してしまうことがある。
【0035】
上記した摩擦係数は、ベース被膜4と最外層5とからなる絶縁被膜3を形成したプローブ針1を2本垂直に交差させて所定の荷重を負荷し、一方のプローブ針1を引抜いたときの摩擦係数を測定して評価して得られる。
【0036】
以上、ベース被膜4とフッ素系樹脂5aとを有する絶縁被膜3が構成される。その絶縁被膜3の総厚さは、金属導体2の外径、最終的なプローブ針1にどの程度の被膜強度と耐電圧を持たせるか、滑り性を持たせるか等によって任意に設定される。近年のプローブ針の細径化と狭ピッチ化の要請から、最外層5は0.5~1.5μmと薄いことからも、ベース被膜4とほぼ同じ厚さの2~25μmの範囲内、好ましくは3~20μmの範囲内であることが好ましい。
【0037】
絶縁被膜3(ベース被膜4と最外層5とで構成)が担保する被膜強度は、本願では後述の実施例で説明するピール試験で測定した絶縁被膜3と金属導体2との密着力(密着性)で評価した。被膜強度(密着力)は0.3N以上程度であればよく、0.4N以上程度であればより好ましい。また、絶縁被膜3が担保する耐電圧についても、「JIS C 3003 エナメル線試験方法の絶縁破壊試験」によって測定した値で評価し、0.5kV以上であればよく、0.8kV以上であればより好ましい。なお、被膜強度と耐電圧の好ましい値は、絶縁被膜3を構成するベース被膜4と最外層5との合計膜厚を厚くすることにより実現することができる。
【0038】
(プローブ針を用いた電気特性の検査方法)
次に、上述した本発明のプローブ針を用いた電気特性の検査方法について説明する。図3は本発明のプローブ針を備えたプローブユニットを用いて被測定体の電気特性を検査する方法を説明するための模式断面図である。なお、ここでの検査方法は一例であり、図示の装置構成に限定されないことは言うまでもない。
【0039】
本発明のプローブ針1は、プローブユニット10に装着されて回路基板等の被測定体11の電気特性の良否の検査に利用される。プローブユニット10は、図3に示すように、複数本から数千本のプローブ針1と、プローブ針1を被測定体11の電極12にガイドするガイド板20と、プローブ針1を検査装置のリード線50にガイドするガイド板30とを備えている。検査装置側のガイド板30は、プローブ針1の外径よりも若干大きい案内穴を有し、その案内穴は一本一本のプローブ針1の金属導体2をリード線50にガイドする。被測定体側のガイド板20は、図3に示す形態のプローブユニット10においては、金属導体2の直径よりも若干大きい案内穴を有し、その案内穴は一本一本のプローブ針1の金属導体2を電極21にガイドする。
【0040】
プローブユニット10と被測定体11は、被測定体11の電気特性を検査する際、プローブ針1と電極12とが対応するように位置制御される。電気特性の検査は、プローブユニット10を上下させ、プローブ針1の弾性力を利用して被測定体11の電極12にプローブ針1の先端2aを所定の圧力で押し当てることにより行われる。このとき、プローブ針1の後端2bはリード線50に接触し、被測定体11からの電気信号がそのリード線50を通って検査装置(図示しない。)に送られる。なお、図3中、符号40はリード線用の保持板を示している。
【実施例
【0041】
以下、本発明を実施例と比較例に基づいて説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
金属導体2として、長尺のレニウムタングステン線(外径0.030mm)を用いた。絶縁被膜3については、ベース被膜用塗料及び最外層用塗料として、ポリエステル樹脂系のエナメル塗料(東特塗料株式会社製、商品名:L3330KF-N)を用いた。最外層5に分散させる微粒子状のフッ素系樹脂5aとして、PTFE微粒子(BYK社製、商品名:CERAFLOUR 998、平均粒径:0.3μm)を用い、これを最外層用塗料に成膜後の総固形分に対する含有量が3.0質量%になるように含有させた。
【0043】
まず、ボビン等の線材供線装置から繰出された上記レニウムタングステン線からなる線材に、塗料槽にて上記ベース被膜用塗料を塗布・焼き付けし、厚さ5μmのベース被膜4を形成した。引き続いて、そのベース被膜4上に、微粒子状のフッ素系樹脂5aを含有させた最外層用塗料を塗布・焼き付けし、厚さ0.7μmの最外層5を形成した。本願でのベース被膜4と最外層5の厚さは、LASER SCAN MICROMETER(Mitutoyo社製、測定部型番:LSM-500S、表示部型番:LSM-6200)を用いて、インラインで連続測定した外径測定結果に基づいて、平均膜厚で評価した。
【0044】
次に、絶縁被膜3(総厚約11.4μm)が形成された長尺のプローブ針素線を定尺切断機で切断して長さ25mmの絶縁被膜付きプローブ針を切り出し、その絶縁被膜付きプローブ針の両端部を研削加工装置により半球形状に加工した。その後、先端側の絶縁被膜3を所定長さレーザー剥離し、図2に示す態様からなる実施例1のプローブ針1を作製した。
【0045】
[実施例2]
PTFE微粒子5aの含有量を、最外層5の総固形分に対して0.5質量%とした他は、実施例1と同様にして、実施例2のプローブ針を作製した。
【0046】
[実施例3]
PTFE微粒子5aの含有量を、最外層5の総固形分に対して10質量%とした他は、実施例1と同様にして、実施例3のプローブ針を作製した。
【0047】
[比較例1]
PTFE微粒子5aの含有量を、最外層5の総固形分に対して13質量%とした他は、実施例1と同様にして、比較例1のプローブ針を作製した。
【0048】
[比較例2]
ベース被膜4の厚さを3μmとした。最外層は、PTFE微粒子を含有させた上記最外層用塗料に代えて、フッ素樹脂エナメル被膜形成用塗料(フッ素樹脂として、デュポン社製、商品名:954-103)を用い、厚さ3μmのフッ素樹脂層を形成した。それ以外は、実施例1と同様にして、比較例2のプローブ針を作製した。
【0049】
[比較例3]
ベース被膜4の厚さを6μmとし、最外層は形成しなかった。それ以外は、実施例1と同様にして、比較例3のプローブ針を作製した。
【0050】
[各特性の測定、評価]
被膜強度(密着力)は、精密万能試験機(島津製作所社製、型番:AG-I)を用いたピール試験(密着性試験)で評価した。具体的には、金属導体の導体径と全体の総外径の中間値の穴径37μm(ユニットのストッパー部と同じ径)のダイスに各プローブ針1の先端2aを通し、後端2bから荷重を与えたときの試験荷重を上記装置で検知し、得られた値を相互に比較して密着性を評価した。その値が大きいほど密着性に優れ、小さいほど密着性に劣ることになる。
【0051】
耐電圧は、自動交流耐圧試験機(東京精電社製、型番:ITS-20005T.SP)を用い、「JIS C 3003 エナメル線試験方法の絶縁破壊試験」の条件で測定した結果で評価した。
【0052】
滑り性は、精密万能試験機(島津製作所社製、型番:AG-I)を用い、被膜のついたプローブ針を2本垂直に交差させて所定の荷重(40g)を負荷し、一方のプローブ針を引抜いたときの摩擦係数を測定した結果で評価した。
【0053】
[結果]
実施例1~3及び比較例1~3について、被膜強度(密着性)、耐電圧、摩擦係数(滑り性)の評価結果を表1に示す。実施例1~3のプローブ針はいずれの特性とも良好な結果であった。特に、微粒子状のフッ素系樹脂5aを含有しない場合は摩擦係数が大きいが、少なくとも0.5質量%分散含有させることで、摩擦係数が下がって滑り性を確保することができた。
【0054】
【表1】
【符号の説明】
【0055】
1 プローブ針
2 金属導体
2a,2b 端部(先端)
3 絶縁被膜
3a,3b 端部
4 ベース被膜
5 最外層
5a 微粒子状のフッ素系樹脂
10 プローブユニット
11 被測定体
12 電極
20 被測定体側のガイド板
30 検査装置側のガイド板
40 リード線用の保持板
50 リード線

図1
図2
図3