(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】調味料組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 27/10 20160101AFI20220627BHJP
A23L 13/30 20160101ALI20220627BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20220627BHJP
A23L 23/00 20160101ALN20220627BHJP
【FI】
A23L27/10 B
A23L13/30
A23L27/00 D
A23L23/00
(21)【出願番号】P 2018043264
(22)【出願日】2018-03-09
【審査請求日】2021-01-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトへの掲載日:平成29年9月12日、掲載アドレス:https://www.fuji-foods.co.jp/pro/info/info1709_tonpi.html 発行者名:富士食品工業株式会社、刊行物名:★汎用メニューのご紹介★ だし+α豚皮、発行日:平成29年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】714004734
【氏名又は名称】テーブルマーク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】大塚 麻美
(72)【発明者】
【氏名】清水 健一
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-258498(JP,A)
【文献】特開平09-075031(JP,A)
【文献】特開平09-173007(JP,A)
【文献】特開昭57-141255(JP,A)
【文献】特開2004-059568(JP,A)
【文献】特開2017-205101(JP,A)
【文献】だし+α豚皮,新栄商行.NET, 2017年1月30日,p.1,www2.infomart.co.jp/buyer/search/prod_detail_oroshi.page;JSESSIONID_TRADE=2cb005d34762dbb15fa0ccb232e7?0&oroshi_smcd=SsPZ6F7…, 検索日:2021年12月7日
【文献】富士食品工業試食会,萬味商事株式会社ブログ, 2017年7月10日,p.2-6,https://manmi.co.jp/kashiwa/blog/富士食品工業試食会, 検索日:2021年12月7日
【文献】ラーメン,ラブラボ!中京テレビ, 2008年,p.1-7,https://www.ctv.co.jp/hapiene/lovelabo/2008/0106/index.html, 検索日:2021年12月7日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00-27/40
A23L 13/00-17/00
A23L 23/00-25/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
豚皮1に対して水0.3~10重量部を含む原料を、80℃以上100℃未満で4~8時間、加熱する工程1;および
工程1の後に行われる、65℃以上95℃未満で、6~24時間、加熱する工程2
を含み、
工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物が、原料の1/5~4/5重量部である、
豚皮抽出物を含有する調味料組成物の製造方法。
【請求項2】
工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物が、乳化状態または懸濁状態である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物が、粗脂肪分を8~21%含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物が、コラーゲンまたはゼラチンを8~11%含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
工程1が、92~98℃で4~6時間行われる、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
工程2が、70~85℃で8~16時間行われる、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
調味料組成物が乳化剤を含まない、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
豚皮1に対して水0.3~10重量部を含む原料を、80℃以上100℃未満で4~8時間、加熱する工程1;および
工程1の後に行われる、65℃以上95℃未満で、6~24時間、加熱する工程2
を含み、
工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物を、原料の1/5~4/5重量部とする、
豚皮抽出物の改良方法。
【請求項9】
炊き出し感またはコクの増強能の向上のための、請求項8に記載の改良方法。
【請求項10】
豚皮1に対して水0.3~10重量部を含む原料を、80℃以上100℃未満で4~8時間、加熱する工程1;
工程1の後に行われる、65℃以上95℃未満で、6~24時間、加熱する工程2;および
工程1および工程2を経て得られた豚皮抽出物を含む調味料組成物を原材料として用いて食品を製造する工程
を含む、食品の製造方法。
【請求項11】
調味料組成物が乳化剤を含まない、請求項10に記載の
製造方法。
【請求項12】
炊き出し感またはコクの向上
した食品を製造するための、請求項10または11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚皮抽出物の製造方法、および豚皮抽出物を含む調味料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
豚皮から加熱抽出処理や加水分解処理を経て得られる豚皮抽出物は、旨みやコク等を与える食品素材として利用されてきている。
【0003】
例えば、特許文献1は、醤油風の香味良好なものを得る方法を提供すると共に、豚皮の利用価値を高めることを課題としてなされたものであり、豚皮を熱水抽出または蛋白質分解酵素により加水分解して水溶性蛋白質を製造し、これを濃縮した後、食塩および醤油麹を添加して醗酵・熟成させることからなる醗酵調味料の製造方法を提案する。また特許文献2は、加熱抽出(煮沸加熱抽出)されたエキス成分と油分を加圧加熱(高温高圧加熱)すると、いままでより一層濃厚で且つ独特な呈味を生ずると同時に、高圧高温下では好ましくない酸化反応も速度が早まるので、これを、できるだけ避けるようにして、好ましい旨味成分だけを得ることを課題として為されたものであり、魚介類、畜肉類またはそれらを組合わせた食材から加熱抽出した抽出溶液を油分とエキス成分に分別した後、当該油分とエキス成分をそれぞれ別個に加圧加熱処理し、得た加圧加熱処理済の油分とエキス成分を配合するようにしたことを特徴とする呈味性を改良したエキス系調味料の製造方法を提案する。さらに特許文献3は、含まれている大量のゼラチンのために煮込んだ際の粘着性が高く、長時間煮出すことができなかった豚皮を、長時間加熱することを可能にし、豚皮から直接こく味素材及びこく味増強材を得るためのものとして、豚皮を真空包装して加熱することを特徴とするこく味素材の製造方法を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-75031号公報(特許第2716953号)
【文献】特開平9-173007号公報(特許第3520313号)
【文献】特開2001-258498号公報(特許第3942791号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の製造方法では、目的とする好ましい旨味と香味を得るため、まずは豚皮を熱水抽出または酵素分解処理し、次いで8~10倍程度の濃縮度まで濃縮した上で、発酵・熟成させることが必要である。また、特許文献2の方法では、処理時の酸化を極力防止するため、また以後の配合工程を効率よく行うために、食材から加熱抽出した抽出溶液について、油分とエキス成分を一旦分離して加圧加熱処理に供する必要がある。そして、加圧加熱処理済の油分と加圧加熱処理済のエキス成分とを配合するに際しては、単に混ぜ合わせるだけでは分離しやすいうえ、脂肪が酸化されやすいことから、ゼラチンと抗酸化剤を加えて、油分の分散性を高めるとともに、抗酸化剤により油脂の酸化を抑えることとしている。さらに特許文献3の方法では、豚皮を真空包装する必要があり、大量の豚皮を処理するのには不向きであると考えられる。
【0006】
また従来技術の多くにおいては、畜産物原料から、旨味やコク等を得るためにコラーゲン(またはゼラチン)を抽出することを主眼としている。そして抽出物中にコラーゲンとともに動物脂が含まれるとその後の加工や品質管理が難しくなるため、脂分は遠心分離等の手段により抽出物からは除去されてきた。
【0007】
本発明者らは、種々の原料を加工し、調味料を製造することを検討してきた。その中で、豚皮を原料とする調味料の製造に際し、従来とは異なる工程によりこれまでにない調味料組成物が得られることを見出した。具体的には、豚皮を特定の条件による抽出工程に供した後、得られた抽出物において脂分を除去せずに共存させ、かつ特別な乳化処理を施さないことにより、従来の畜産物原料からのエキス類と比較してコラーゲンが少なく、かつ脂分を多く含む抽出物が得られることを見出した。そしてこのような脂分を活かした抽出物は、脂肪酸由来の香気を多く有し、かつ脂分に由来すると考えられるコクや粘性を有するものであり、従来の畜産物原料からのエキス類とは異なる特性を食品に付与しうるものであることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下を提供する。
[1] 豚皮1に対して水0.3~10重量部を含む原料を、80℃以上100℃未満で4~8時間、加熱する工程1;および
工程1の後に行われる、65℃以上95℃未満で、6~24時間、加熱する工程2
を含み、
工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物が、原料の1/5~4/5 重量部である、
豚皮抽出物を含有する調味料組成物の製造方法。
[2] 工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物が、乳化状態または懸濁状態である、1に記載の製造方法。
[3] 工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物が、粗脂肪分を8~21%含む、1または2に記載の製造方法。
[4] 工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物が、コラーゲンまたはゼラチンを8~11%含む、1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
[5] 工程1が、92~98℃で4~6時間行われる、1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
[6] 工程2が、70~85℃で8~16時間行われる、1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
[7] 調味料組成物が乳化剤を含まない、1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
[8] 豚皮1に対して水0.3~10重量部を含む原料を、80℃以上100℃未満で4~8時間、加熱する工程1;および
工程1の後に行われる、65℃以上95℃未満で、6~24時間、加熱する工程2
を含み、
工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物を、原料の1/5~4/5重量部とする、
豚皮抽出物の改良方法。
[9] 炊き出し感またはコクの増強能の向上のための、8に記載の改良方法。
[10] 豚皮を原料とし、粗脂肪分を8~21%、およびコラーゲンまたはゼラチンを8~11%含む、脂分と溶液分とが混合された状態である、調味料組成物。
[11] 乳化剤を含まない、10に記載の調味料組成物。
[12] 10または11に記載の調味料組成物を用いる、食品における炊き出し感またはコクの向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、実施容易な、豚皮抽出物を含む調味料組成物の製造方法を提供することができる。
本発明は、従来の畜産物原料からのエキス類と比較してコラーゲンが少なく、かつ脂分を多く含む豚皮抽出物、およびそれを含む調味料組成物を提供することができる。これらにおいては、従来の多くのエキス類では除かれていた脂分が活かされている。そのため、これらは脂肪酸由来の香気を多く有しうるものであり、脂分に由来すると考えられるコクや粘性を有しうるものである。
本発明により提供される豚皮抽出物、またはそれを含む調味料組成物を用いたスープ類は、従来の加工食品にはない炊き出し感を有しうる。
本発明により提供される豚皮抽出物、またはそれを含む調味料組成物は、用いる食品において、コクを増強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願により提供される豚皮抽出物を含む調味料組成物の製造方法は、下記の工程を含む。 豚皮1に対して水0.5~2重量部を含む原料を、80℃以上100℃未満で2~10時間、加熱する工程1;および
工程1の後に行われる、65℃以上95℃未満で、6~24時間、加熱する工程2。
【0011】
工程1:
本発明においては、原料として、食品原料として許容される豚皮を用いる。豚皮は、必要に応じて豚毛や異物を除去し、バンドソー等を用いて切断、細断等の前処理を行うことができる。豚皮は、凍結した状態であってもよい。
【0012】
工程1においては、原料として、豚皮1重量部に対し、0.3~10重量部、好ましくは0.4~5重量部、さらに好ましくは0.5~2重量部の溶媒としての水が用いられる。溶媒は、食品として許容可能な各種の添加物を含んでいてもよい。
【0013】
工程1の抽出温度は、沸騰しない温度である。すなわち、100℃未満である。100℃未満であれば、比較的長時間加熱しても、豚皮から抽出されたゼラチンが変質する恐れが少なく、また焦げ付く恐れも少ないからである。工程1の抽出温度は、好ましくは98℃以下であり、より好ましくは96℃以下である。工程1はまた、80℃以上で行うことが好ましい。粘度や、炊き出し感につながる匂い、およびコクの素となるゼラチンが十分に溶出でき、豚皮の固形分がある程度軟化・溶解し、原料全体を撹拌することができるようになるからである。より好ましくは、92℃以上であり、さらに好ましくは94℃以上において行われる。工程1は、加圧を行うことも可能であるが、炊き出し感が失われるために、常圧が好ましい。
【0014】
抽出時間は、いずれの温度の場合であっても、原料豚皮の大部分が軟化・溶解し、系全体が撹拌ができるようになり、かつ焦げが発生しない時間とすることが好ましい。このような時間は、例えば2~10時間であり、4~8時間とすることが好ましく、4~6時間とすることがより好ましい。
【0015】
好ましい温度および時間条件の例として、92~98℃で3~7時間を挙げることができる。より好ましい条件の例として、93℃以上97℃未満で4~6時間を挙げることができる。
【0016】
工程1の抽出のための手段としては、豚皮に加水し、加温することができれば特に限定されず、食品分野で原料からの熱水抽出のために用いられてきた従来の方法を用いることができる。例えば、浸漬抽出法、原料籠浸漬抽出法、原料混合撹拌ろ過抽出法、多機能抽出器を用いた浸漬法、ドリップ法等を用いることができる。なお工程1は、大量の豚皮に対して、比較的少ない量の水を加えて抽出する工程であるので、工程の初期の段階では固形物が多く、全体を撹拌することは困難である。時間が経過し、固形物の少なくとも一部が軟化・溶解すると、全体を撹拌することができる。
【0017】
工程1の主たる目的は、豚皮のコラーゲンを一定程度分解することにより、原料全体を撹拌することができる程度にまで豚皮を軟化・溶解し、その後の溶解工程(工程2)に供することができるようにすることである。また、工程1は、長時間行わないことで、焦げやゼラチンの変成を防止し、得られる豚皮抽出物を、異味や焦げ臭が少ないものとすることができる。
【0018】
工程2:
工程2は、工程1に続いて行われる。 工程2の温度は、95未満である。95℃未満であれば、長時間加熱した場合であっても、豚皮から抽出されたゼラチンが変質する恐れが少ないからである。温度は、好ましくは90℃以下であり、より好ましくは85℃以下である。工程2はまた、63℃以上で行うことが好ましい。固形分を完全に軟化・溶解することができ、成分の十分な溶出が達成できるからである。より好ましくは、65℃以上であり、さらに好ましくは70℃以上において行われる。工程2においても加圧することは可能ではあるが、炊き出し感を失うことになるので、常圧で行うことが好ましい。
【0019】
抽出時間は、いずれの温度の場合であっても、6~24時間とすることができる。8~16時間であることが好ましく、10~14時間であることがより好ましい。
【0020】
好ましい温度および時間条件の例として、70~85℃で8~16時間を挙げることができ、より好ましい条件の例として70~85℃で10~14時間を挙げることができる。
【0021】
抽出のための手段としては、軟化したゼラチン質を加熱しながら撹拌、溶解できれば特に限定されるものではなく、食品分野で原料からの熱水抽出のために用いられてきた従来の方法、例えば、浸漬抽出法、原料籠浸漬抽出法、原料混合撹拌ろ過抽出法、多機能抽出器を用いた浸漬法、ドリップ法等を用いることができる。
【0022】
工程2の主たる目的は、豚皮をほぼ完全に軟化・溶解し、成分の十分な溶出を達成し、また歩留まりを良くすることである。また、工程2では、比較的長い時間の加熱を、高い温度で行わないこと、および過度の圧力をかけないことで、得られる豚皮抽出物において、ゼラチンに由来する粘度や炊き出し感につながる匂い、コク、粘性を維持しうる。
【0023】
本発明において、工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物は、原料の1/5~4/5重量部、好ましくは2/10~7/10重量部、より好ましくは2/5~3/5重量部に濃縮されたものである。濃縮は、工程1および工程2のうちの少なくとも一方を、開放系または半開放系で行うことにより、実施することができる。工程1および工程2は、好ましくは双方を同じ装置で行い、双方を半開放系で行うことができる。濃縮により、豚皮抽出物のBrixは10~30、好ましくは13~29、より好ましくは17~28となり得る。
【0024】
本発明においては、上記の工程1、および工程2のほかに、他の工程を含んでいてもよい。例えば、工程2について、得られた抽出物から残った固形分を除く、固液分離工程を行ってもよい。この分離工程を実施する場合は、遠心分離によると豚皮抽出物中の脂分も分離されてしまうので、ろ過により行うことが好ましい。
【0025】
豚皮抽出物の特徴:
工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物は、常温において、溶液分(水溶性の成分が溶解した水性の液の相。水相、エキス分と称されることもある。)と脂分(脂溶性の成分が溶解した非水性の液状の相。油脂相、油相、脂相と称されることもある。)とが混ざり合っており、全体が白濁しており、粘度が比較的高い状態である。特に乳化剤を加えなくても、また乳化処理を行わなくても、混合状態は比較的安定である。また、脂分と溶液分とは分離できるが、撹拌することにより容易に安定な混合状態にすることができる。例えば、このような豚皮抽出物は、凍結することができ、凍結した際には脂分と溶液分とが分離しうるが、凍結物を融解し、撹拌すれば、再度安定な混合状態とすることができる。
【0026】
工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物はまた、脂分を多く含む。従来、畜産物(動物のうち、家畜および家禽を指す。)を原料とする抽出物は、動物脂が含まれるとその後の加工や品質管理が難しくなるため、脂分は遠心分離等の手段により除去されてきた。そのため、従来の畜産物エキスに含まれる脂肪分は少なく、典型的には水分量約90%のエキスにおいて、2%にも満たない程度である。これに対し、工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物における脂分は、粗脂肪分として8~21%であり、好ましくは10~21%である。なお、本発明に関し、豚皮抽出物等の食品における各成分の含量を示すときは、特に示した場合を除き、常圧乾燥減量法による水分が70~85%である場合、より特定すると75~80%である場合の値である。%は、特に示した場合を除き、重量に基づいて計算された値である。
【0027】
粗脂肪の含量は、ソックスレー抽出法により、求めることができる。ソックスレー抽出法は、脂肪が水には溶けず、有機溶媒によく溶ける性質を利用したもので、試料をエーテルで処理して試料中の脂肪をエーテル内に溶出させ、ろ過回収した溶液からエーテルを蒸発させることにより、残留する脂肪分を秤量する方法である。
【0028】
工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物は、脂分を除去せずに共存させ、かつ特別な乳化処理を施さないことにより、脂肪酸由来の香気を多く有し、かつ脂分に由来すると考えられるコクや粘度を有する。
【0029】
工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物はまた、コラーゲンまたはゼラチンの含量が比較的少ない。畜産物の骨や皮中に含まれるコラーゲンは、難溶性の物質であるが、コラーゲンを熱変性し、可溶化したものをゼラチンという。本発明に関し、コラーゲンというときは、特に記載した場合を除き、その変成物であるゼラチンも包含している。
【0030】
従来の畜産物を原料とする抽出物は、旨味やコクの素としてのコラーゲンを多く含むように抽出されており、豚皮を原料とするものは通常、16~25%のコラーゲンを含んでいる。これに対し、工程1および工程2を経て得られる豚皮抽出物におけるコラーゲンの含量は、15%以下であり、好ましくは8~11%である。
【0031】
コラーゲン(またはその変性物であるゼラチン)の含量は、コラーゲンを加水分解処理後に,ヒドロキシプロリンを測定することにより算出できる。コラーゲン中のヒドロキシプロリンの含量はコラーゲンの由来により異なる場合があるが、本発明に関し豚皮抽出物等の食品におけるコラーゲンの含量を示すときは、特に記載した場合を除き、ヒドロキシプロリンからのコラーゲンへの換算係数を7.38として計算した値である。
【0032】
調味料組成物:
豚皮抽出物はそのままで、又は食品として許容される種々の呈味性添加物、例えば、食塩、砂糖、各種うまみ調味料(例えば、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸及びそれらの水溶性の塩)を添加して、調味料として用いるのに適した組成物(調味料組成物)とすることができる。このような調味料組成物における豚皮抽出物の含量は、0.1%以上であり、好ましくは1%以上であり、典型的には3.0~100%である。
【0033】
調味料組成物は、乳化剤を含まないように構成することができる。すなわち、乳化剤不含とすることができる。ここでいう乳化剤からは、豚皮抽出物に元来含まれる乳化作用がある成分は除かれる。食品添加物として用いられている乳化剤には、アラビアガム、ガティーガム、グァーガム、カラヤガム、カロブビーンガム(ローカストビ-ンガム)、キサンタンガム、ジェランガム、トラガンドガム、サイリウムシードガム、カラギナン、微小繊維状セルロース(微結晶セルロース)、ファーセレラン、ペクチン、寒天、シクロデキストリン、ゼラチン、ポリデキストロース、アラビノガラクタン、カードラン、加工ユーケマ藻類、精製カラギナンユーケマ藻末、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸アンモニウム、カゼインNa、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等がある。
【0034】
調味料組成物は、酸化防止剤を含んでいてもよい。酸化防止剤の例は、L-アスコルビン酸、エリソルビン酸(イソアスコルビン酸)、カテキン、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、トコフェロール(ビタミンE、V.E)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)である。
【0035】
豚皮抽出物を含む調味料組成物は、食品において、炊き出し感を増強するために用いることができる。炊き出し感とは、実際に原料からスープを調理した際に得られる原料特有の調理感をいい、香り、コク、テクスチャ(こってり感、濃厚感)等の要素を含む。炊き出し感は、加工調味料から調製されたスープから得られるものとは異なる。炊き出し感は、豚皮を原料とする場合のみならず、豚骨、牛骨、野菜等を用いる場合にも感得されることが知られている。豚皮を原料とする場合の炊き出し感は、具体的には、豚特有の匂い、豚脂、コラーゲン(またはゼラチン)に由来するこってり感や嚥下後に口の残る濃厚感、コク等として感じることができる。。
【0036】
豚皮抽出物を含む調味料組成物は、食品において、コクを増強するために用いることができる。コクとは、味の厚みや広がりをいう。味の厚みとは、単純な基本味ではだせない、複数の呈味成分からなる統一感であり、味の広がりは、口中での持続性である。例えば、食品が本来有している味(風味)の強度や持続性を増し、濃厚感を付与することにより、食品のコクを増強することができる。また、呈味物質を経口摂取した場合に、経口摂取直後に感じられる味を先味といい、その後に感じられる味を中味といい、時間が経っても残る味を後味という。一般に、食品の中味と後味の厚みと広がりを改善することにより、コクを増強することができる。
【0037】
適用される食品の例:
本発明の製造方法により得られた調味料組成物は、種々の食品に対して用いることができる。食品への添加量は、効果を発揮しうる限り様々とすることができるが、典型的な例は、本発明の調味料組成物(液状)相当として、0.01~5.0%であり、好ましくは0.05~4.0%であり、より好ましくは0.1~3.0%である。
【0038】
本発明の調味料組成物を用いることのできる食品の例としては、スープまたはスープの素(例えば、ラーメンスープ、うどんスープ、ちゃんぽんスープ、ビーフコンソメスープ、チキンコンソメスープ、ミネストローネ、クラムチャウダー、各種ポタージュ、コーンスープ、オニオンスープ、トマトスープ、味噌汁、吸い物)、チャーハン、ピラフ、たこ焼き、焼きそば、焼うどん、お好み焼き、ピザ、肉まん、春巻、餃子、焼売、小龍包、八宝菜、回鍋肉、青椒肉絲、野菜炒め、きんぴら、筑前煮、コロッケ、メンチカツ、エビカツ、ハンバーグ、あんかけうどん、長崎ちゃんぽん、スパゲッティナポリタン、マカロニグラタン、ラザニア、ソース類(例えば、ホワイトソース、デミグラスソース、ミートソース、トマトソース、カレールウ)、トマトケチャツプ、ウスターソース、とんかつソース、たれ、ドレッシング、ハーブ塩、味噌、醤油、めんつゆ、畜肉製品(例えば、ハム類:ボンレスハム、ロースハム、生ハム、骨付きハム、プレスハム、等;ソーセージ類:ウィンナー、ドライ、フランクフルト、ボロニア、リオナ、等;ベーコン類、コンビーフ、焼き豚)、レトルトパウチ惣菜、チルド惣菜、冷凍惣菜が挙げられる。
【0039】
特にラーメン等のスープに用いる場合には、スープにおいて3~15%で用いることができ、6~10%で用いることが好ましい。この範囲であれば、コクが増強されることに加え、甘味を感じ、塩味をまろやかにする効果があり、かつ豚特有の香りがあり、好ましいからである。
【0040】
特にチャーハンやピラフ等の米飯食品に用いる場合には、食品において3~8%で用いることができ、4~7%で用いることが好ましい。この範囲であれば、コクが増強されることに加え、米飯がほぐれやすく、べたつかずにパラパラの状態となり、そのため調理しやすく、また喫食時の食感としても好ましいからである。
【0041】
特にお好み焼き等の小麦粉生地を使用した食品に用いる場合には、小麦粉生地において15~25%で用いることができ、17~23%で用いることが好ましい。この範囲であれば、コクが増強されることに加え、生地がふんわりとなり、好ましいからである。
【0042】
特に焼きそば等の炒め食品に用いる場合には、食品において0.5~5%で用いることができ、1~3%で用いることが好ましい。この範囲であれば、コクが増強されることに加え、油っぽくないのに、照りが見られ、好ましいからである。
【実施例】
【0043】
[実施例1:加熱条件の検討1]
豚皮抽出物の製造に際し、加熱条件の検討を行った。
【0044】
豚皮20kgに対して、水20kgを加え、下記の温度に達した後、5時間保温した。その結果を以下にまとめる。
なお、豚皮が溶解し、全体が撹拌可能になった時点から、撹拌を行った。
また、5時間後の抽出液を採取し、その外観、状況を観察した。
【0045】
【0046】
1-1では豚皮の溶解は見られるが、固形分がかなり残存しており、全体が撹拌できず、抽出が不十分であった。それに対し、1-2では、豚皮の固形分はかなりの量は残っているが、軟化しており、強く撹拌すると軟化することができる。1-3でも、まだかなりの固形分が残存しているが、ある程度溶解しており、比較的容易に撹拌できるようにはなっていた。さらに、1-4においては若干の固形分が残るのみで十分に撹拌できるものの、それだけでは抽出できず、完全には溶解していなかった。すなわち、加熱温度が80℃以上で5時間程度の加熱を行うことにより、豚皮が溶解し、撹拌できるようになるものの、100℃においてもそれだけでは完全には抽出できず、更なる加熱が必要であることが示唆された。
【0047】
また、1-1においては比較的クリアな抽出液が得られ、1-2、1-3においては白く濁った抽出液が得られた。それに対して、1-4においては、白いもののさらっとした抽出液が得られた。また、1-4においては、焦げ付きが原因と思われる異臭、苦みが感じられた。まとめると、80℃未満では豚皮のゼラチン様の成分が溶出せず、粘度や炊き出し感につながる匂い、コクなどが得られず、80℃以上、100℃未満とすることによって、粘度や炊き出し感を感じ、かつ脂分と溶液分が混在して白濁し、静置しても脂分と溶液分が分離しにくい状態が得られた。さらに100℃を超えて、沸騰状態で抽出を行った場合は、抽出量は多く得られものの、粘度や炊き出し感は少なく、さらっとして落ち着いた状態であり、かつ、焦げ付いたような異臭や苦みを感じた。
【0048】
以上の結果から、80以上100℃未満の沸騰させない状態において、5時間加熱することにより、豚皮がある程度溶解、軟化して撹拌可能な状態にまでなることは明らかになった。しかし、それだけでは固形分量が多く残存し、歩留まりが悪いことから、その後さらに過熱することが必要であること、100℃程度の強い加熱を行うと、粘度や炊き出し感を失うことが明らかになった。そこで、本発明においては95℃、5時間の抽出工程を第1段階で実施し、ある程度豚皮の固形分を溶解、軟化させたのちに、更なる抽出が可能であり、かつ豚皮からの抽出液の特性を失わない条件の検討を行うこととした。
【0049】
一方で、豚皮に上記と同様の比で水を加え、95℃で下表の時間保温し、軟化のために必要な時間を確認した。その結果、4~8時間で好ましい軟化状態が得られることが分かった。
【0050】
【0051】
[実施例2:加熱条件の検討2]
実施例1と同様の比の豚皮と水を、95℃で5時間加熱し、抽出を行った。その後、さらに加熱して抽出することについて検討した。各温度で12時間加熱した際の抽出液を採取し、特性の変化を観察した。
【0052】
【0053】
2-1は、原料固形分からエキス分(溶液分)や脂分が十分に抽出されず、大きな固形分が残ってしまった。2-2では固形分がわずかに残ってはいるが、抽出できていた。2-3、2-4では、固形分が残らず、完全に抽出することができた。2-4においては、他の条件と比較すると抽出液がさらさらとしていた。これは、抽出されたゼラチンが長時間加熱されることにより、改質してしまっていることが原因であると考えられた。実施例1および2より、80℃以上100℃未満の沸騰させない状態で加熱した後、さらに70℃~85℃で加熱を行うことで、豚皮特有の炊き出し感や粘度を保持したまま、エキス分や脂分が抽出できることが明らかとなった。
【0054】
[実施例3:豚皮抽出物の製造]
実施例の結果から、製造工程を以下のように決定した。
凍結されている豚皮1250kgおよび水1250kgを加熱ニーダーに投入し、常圧で90℃で5時間加熱し、さらに85℃で12時間、加熱した。この加熱処理された抽出液に、酸化防止剤(ミックストコフェロール)を0.5質量%となるように添加し、ストレーナで抽出液中の残存した固形物を除去した。加水などによりBrixを20に調整した後、加熱殺菌したものを豚皮抽出物とした。ここから、1440kgの豚皮抽出物を得ることができた。
【0055】
[試験1:成分分析]
実施例2の試験区2-3で製造された豚皮抽出物(以下、実施例2で製造された豚皮抽出物というときは、これを指す。)について、下記の方法で成分を分析した。
【0056】
分析方法:
タンパク質;ケルダール法
粗脂肪;ソックスレー抽出法
灰分:直接灰化法
塩分:電位差滴定法
水分;常圧乾燥減量法
【0057】
また、比較として市販の畜産物由来のエキス類(1)~(4)を分析した。いずれも塩分無添加の濃縮品であり、脂分を除去した状態で販売されている。
【0058】
(1)豚皮エキスFK、(日本ピュアフード):豚皮から抽出したエキス
(2)チキンブロスCS-201(富士食品工業):鶏肉から抽出したエキス
(3)ポークエキスJP(ジャパンエコロジーシンキング):豚骨から抽出したエキス
(4)豚コクだしNo.1(あみ印):豚皮から抽出したエキス
【0059】
【0060】
上記結果より、他の比較例と比べ、実施例2で製造された豚皮抽出物中には、粗脂肪量が多いことが明らかとなった。
【0061】
[試験2:タンパク質量とコラーゲン量の測定]
上記実施例2で製造された豚皮抽出物の窒素量、およびヒドロキシプロリン量を測定した。2-a~2-dは、実施例2で製造された豚皮抽出物の製造バッチ違いである。
【0062】
【0063】
実施例2で製造された豚皮抽出物は、市販のエキス類に比べ粗脂肪分が多く、ゼラチン量が低いことが確認できた。
【0064】
(コラーゲンの測定方法)
コラーゲンタンパク質のみに含まれるヒドロキシプロリン(以下Hypと略記)を測定することにより、コラーゲン量を求めた。豚コラーゲンのアミノ酸1000残基中のHypは93.6残基であることから、含有率は13.56%であり、Hypからのコラーゲンへの換算係数を7.38として計算した。なお、鶏由来のエキスについても同様に換算した。(服部他;FRAGRANCE JOURNAL 11月、52-57、2001)
【0065】
なお、Hypの測定は、以下の方法で行った。
試料0.5gに6N塩酸10mlを加え、減圧封管、110℃、24時間、加水分解し、塩酸を除去した後に25mlにメスアップし、さらに4倍希釈した後、その0.05mlを用い、ジメチルアミノベンズアルデヒド比色法で定量した。(Kivrikko,K.I.(1967) Anal.Biochem.19,249 Inayama,S. (1978) Keio J. Med, 27, 43)
[実施例4:ラーメンスープ]
ラーメンスープ(拉麺だれ極み汐 富士食品工業(株))に実施例3の豚皮抽出物を下表の量で添加した。熟練されたパネラー10名で、豚皮抽出物を添加しない対照区と比較して、甘味、塩味、匂い(香ばしさ)について官能評価を行った。評価結果を下表に示した。
【0066】
【0067】
官能評価の結果より、4-2~4-4では、甘味、塩味、および匂いにおいて、ラーメンスープとして好ましい結果となった。
【0068】
[実施例5:ラーメン]
ラーメンスープ(鉄人とんこつ醤油、富士食品工業(株))と中華麺(NEW 中華麺 200g、テーブルマーク(株))を用いて製造したラーメンの官能評価を行った。熟練されたパネラー6名で、塩味、うま味、香ばしさについて評価を行った。
【0069】
ラーメンスープは、鉄人とんこつ醤油原液50ccに対し、お湯を360cc添加したものを比較例として用い、また実施例としては下記の配合の混合液60ccに対し、お湯を240cc添加したものを用いた。
【0070】
【0071】
また下表に示したように、試験区5-2では豚皮を95℃で3時間加熱処理する以外は実施例2と同様の方法で調製したものを、5-3では実施例2で製造された豚皮抽出物と同様の方法で調製したものを使用した。また、5-4では、豚皮を90℃、5時間加熱した後に、その豚皮残渣を含んだ状態で、全体の容量にたいして、プロテアーゼ(アマノP-3G)0.15%、パパイン0.15% を添加後、55℃で60分反応させたのちに、90℃、20分間加熱処理することにより酵素を失活させ、ろ過した液(酵素分解エキス)を豚皮抽出物に代えて用いた。
【0072】
【0073】
[試験3:乳化試験]
元になるスープ(豚骨から12時間抽出したもの、95℃)に、実施例2で製造された豚皮抽出物等を以下のように添加し、効果を検証した
【0074】
【0075】
実施例2で製造された豚皮抽出物は、ゼラチン量が多いチキンブロスCS-201よりも優れた効果を有していることが示唆された。
【0076】
[実施例6:チャーハン]
下記の配合のチャーハンを作製し、5名のパネラーが試食し、評価した。
【0077】
【0078】
実施例6は、比較例1に比べ、コクがあり、ご飯がパラパラの状態であった。
【0079】
[実施例7:お好み焼き]
下記の配合のお好み焼きを作製し、5名のパネラーが試食し、評価した。
【0080】
【0081】
【0082】
実施例7は、比較例2に比べ、お好み焼きのコクが上がり、また生地のふわふわ感が向上した。また実施例7は、牛脂を加えた比較例3とほぼ同等のふわふわ感とコクを有した上に、豚特有の炊き出し感が強く感じられ、評価が高かった。
【0083】
[実施例8:焼きそば]
下記配合の豚皮抽出物を添加したものと無添加の焼きそばを作成し、5名のパネラーが試食し、評価した。
【0084】
【0085】
実施例8の焼きそばは、比較例4より、コクがあり、油っぽさは少ないが、照りがみられた。また麺同士がくっつきにくく感じた。