(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】歯科補助具及び歯科補助システム
(51)【国際特許分類】
A61C 5/90 20170101AFI20220627BHJP
A61B 1/24 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
A61C5/90
A61B1/24
(21)【出願番号】P 2018062041
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】591117413
【氏名又は名称】株式会社菊池製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100180080
【氏名又は名称】坂本 幸男
(72)【発明者】
【氏名】張 博
(72)【発明者】
【氏名】一柳 健
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-500929(JP,A)
【文献】特開2013-248331(JP,A)
【文献】登録実用新案第3033529(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第107440809(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0013829(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/90
A61C 17/10
A61C 19/00
A61B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科診療のため患者の口腔を広く開けた状態に保持するための開口手段を備えた歯科補助具であって、当該歯科補助具がセットされた口内位置で、所定の力で口腔を広く押し広げた状態及び前記力が開放された状態に前記開口手段が制御可能とされて
おり、
前記開口手段が、患者の治療部位側の口角部分を押し広げるリトラクター部と、患者の舌を前記治療部位とは反対側に押し留めるブレード部とを備えており、
前記開口手段が当該歯科補助具の口腔内への挿入方向Zに対して直交する横軸X方向に延びる第一腕部と、前記第一腕部の端に連結し前記挿入方向Zと平行な縦軸Z1方向に延びる第二腕部とを備え、前記ブレード部が前記第二腕部の先端部に設けられており、
前記第一腕部を前記横軸X方向に駆動することで、患者の舌への前記ブレード部の押し位置を定めるアクチュエータを備えている、歯科補助具。
【請求項2】
前記第二腕部が、前記第一腕部に対し、前記横軸Xを中心に若干の遊びを有して回動可能に取り付けられている、請求項
1に記載の歯科補助具。
【請求項3】
前記ブレード部が、前記第二腕部に対し、前記縦軸Z1周りに若干の遊びを有して回動可能に取り付けられている、請求項
1又は
2に記載の歯科補助具。
【請求項4】
歯科診療のため患者の口腔を広く開けた状態に保持するための開口手段を備えた歯科補助具であって、当該歯科補助具がセットされた口内位置で、所定の力で口腔を広く押し広げた状態及び前記力が開放された状態に前記開口手段が制御可能とされており、
前記開口手段が、患者の治療部位側の口角部分を押し広げるリトラクター部と、患者の舌を前記治療部位とは反対側に押し留めるブレード部とを備えており、
前記開口手段が当該歯科補助具の口腔内への挿入方向Zに対して直交する横軸X方向に延びる第一腕部と、前記第一腕部の端に連結し前記挿入方向Zと平行な縦軸Z1方向に延びる第二腕部とを備え、前記ブレード部が前記第二腕部の先端部に設けられており、
前記挿入方向Zに延びるチューブ体を有する吸液ノズルであって、前記チューブ体が前記挿入方向Zの軸周りに回動制御可能とされるとともに、前記チューブ体が少なくとも一方向に屈曲制御可能とされている吸液ノズルを更に備える、歯科補助具。
【請求項5】
請求項1~
4の何れか1項に記載の歯科補助具と、前記歯科補助具に電気的に接続し少なくとも前記開口手段を制御する制御装置とを備える歯科補助システム。
【請求項6】
請求項
4に記載の歯科補助具と、前記歯科補助具に電気的に接続し少なくとも前記吸液ノズルを制御す
る制御装置とを備える歯科補助システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科又は口腔外科における診察、治療及び施術などを補助するための歯科補助具、及び歯科補助具を制御する制御手段を備えたシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科医師が行う虫歯の治療やインプラント施術などにおいては、専門の歯科助手(歯科衛生士)が、治療器具の洗浄やセッティング、排唾器(いわゆるバキューム)の操作、施術個所へのライトの照射、印象材セメントの練和など様々な補助業務を行っている。従来、このような歯科治療施術をサポートするための様々な補助器具が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
近年、歯科衛生士の求人倍率が増加傾向にあり、慢性的な人材不足状態が続いていることから、歯科診療の現場からは、歯科助手が行っている補助業務の一部だけでも無人化したいとのニーズが寄せられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-505149号公報
【文献】特表2016-523571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、歯科医師は、直接患者の口の中を触診するため、施術中は洗浄・滅菌された治療器具以外のものに直接触れることは衛生上望ましくない。そのために、歯科補助業務を担うシステムは、医師の操作が不要な完全に自動化されたロボットか、又は高度に機能がインテグレートされた操作性の高い補助器具であることが好ましい。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、歯科又は口腔外科の診療・施術において、歯科助手に代わり、医師の診療を効率的に補助又は支援することができるシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明は、歯科診療のため患者の口腔を広く開けた状態に保持するための開口手段を備えた歯科補助具であって、当該歯科補助具がセットされた口内位置で、所定の力で口腔を広く押し広げた状態及び前記力が開放された状態に前記開口手段が制御可能とされている歯科補助具である。
【0007】
上記構成の歯科補助具において、前記開口手段が、患者の治療部位側の口角部分を押し広げるリトラクター部と、患者の舌を前記治療部位とは反対側に押し留めるブレード部とを備えていることが好ましい。
【0008】
また、上記構成の歯科補助具において、前記開口手段が当該歯科補助具の口腔内への挿入方向Zに対して直交する横軸X方向に延びる第一腕部と、前記第一腕部の端に連結し前記挿入方向Zと平行な縦軸Z1方向に延びる第二腕部とを備え、前記ブレード部が前記第二腕部の先端部に設けられていることが好ましい。
【0009】
また、上記構成の歯科補助具において、前記第一腕部を前記横軸X方向に駆動することで、患者の舌への前記ブレード部の押し位置を定めるアクチュエータを備えていることが好ましい。
【0010】
また、上記構成の歯科補助具において、前記第二腕部が、前記第一腕部に対し、前記横軸Xを中心に若干の遊びを有して回動可能に取り付けられていることが好ましい。
【0011】
また、上記構成の歯科補助具において、前記ブレード部が、前記第二腕部に対し、前記縦軸Z1周りに若干の遊びを有して回動可能に取り付けられていることが好ましい。
【0012】
また、上記構成の歯科補助具において、前記挿入方向Zに延びるチューブ体を有する吸液ノズルであって、前記チューブ体が前記挿入方向Zの軸周りに回動制御可能とされるとともに、前記チューブ体が少なくとも一方向に屈曲制御可能とされている吸液ノズルを更に備えることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、上記構成の歯科補助具と、前記歯科補助具に電気的に接続し少なくとも前記開口手段を制御する制御装置とを備える歯科補助システムである。また、上記構成の歯科補助具と、前記歯科補助具に電気的に接続し少なくとも前記吸液ノズルを制御する制御する制御装置とを備える歯科補助システムであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歯科又は口腔外科の診療・施術において、歯科助手に代わり、医師の診療を効率的に補助又は支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】歯科補助システムの構成を例示する図である。
【
図3】歯科補助具の構成を説明するための平面図である。
【
図4】歯科補助具の開口手段の動作を説明するための平面図である。
【
図5】歯科補助具の吸液ノズルの構成を説明するための平面図である。
【
図6】歯科補助具の吸液ノズルの動作を説明するための平面図である。
【
図7】歯科補助具の吸液ノズルの動作を更に説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態による歯科補助システム1を説明する。
図1に示すように、歯科補助システム1は、多関節のアームマニピュレータ2を有する腕型ロボット3と、アームマニピュレータ2にフレキシブルワイヤ4を介して吊り下げられる歯科補助具10を備えている。初めに本実施形態による歯科補助具10の構成を詳細に説明する。
【0017】
図2は歯科補助具10の外観斜視図であり、
図3は歯科補助具10の平面図である。歯科補助具10は、患者の歯科診療のため、患者の口腔を広く開けた状態に保持することが可能な開口手段を備えている。より詳細には、開口手段は、患者の治療部位側の口角部分(上唇と下唇が繋がる部位)Cを押し広げるリトラクター部20と、患者の舌Tを治療部位とは反対側に押し留めて治療の邪魔にならないようにするためのブレード部30とを備えてなる。
【0018】
リトラクター部20は、
図2に示すように、二股に分岐した上肢部21及び下肢部22を備えた形態を有している。ただし、患者の口角部分Cを効果的に外方に押し広げることができるものであれば、リトラクター部は、
図2に示す形態に限定されない。
【0019】
ブレード部30は、
図2に示すように平板形状を有することが好ましいが、患者の舌を効果的に押し留めるものであれば、例えばスプーン状等の形態であってもよい。
【0020】
リトラクター部20及びブレード部30は、互いに接近(拘束解除時)及び離間(開口状態保持時)するよう移動制御可能に基体12に取り付けられている。この開口手段について、
図3を参照し、より詳細に説明する。基体12の左右には、当該歯科補助具10の口腔内への挿入方向Zに対して直交する横軸X(+)方向に延びる腕部14a及び反対の横軸X(-)方向に延びる腕部15aが設けられている。腕部14aの端には、腕部14aから前方に折れ曲がり、挿入方向Zと平行な縦軸Z1方向に延びる腕部14bが連結しており、その腕部14bの先端部にブレード部30が設けられている。他方、腕部15aの端には、腕部15aから前方に折れ曲がり、挿入方向Zと平行な縦軸Z2方向に延びる腕部15bが連結しており、その腕部15bの先端部にリトラクター部20が設けられている。
【0021】
リトラクター部20及びブレード部30は、患者ごとに交換可能なように、腕部15b及び腕部14bにそれぞれ着脱可能に取り付けられることが好ましい。
【0022】
図4に示すように、基体12内には、腕部14aを横軸X方向に往復駆動することで、患者の舌Tへのブレード部30の押し位置を定めるアクチュエータ16が備えられている。また、基体12内には、腕部15aを横軸X方向に往復駆動することで、患者の口角部分Cへのリトラクター部20の押し位置を定めるアクチュエータ17が備えられている。なお、アクチュエータ16、17は、リトラクター部20及びブレード部30を互いに接近及び離間する方向に移動させるものであれば、1つのアクチュエータに機能を共通化したものでもよい。基体12内には、また、腕部14aの位置(つまりブレード部30の位置)を検出する位置センサ16a、腕部15aの位置(つまりリトラクター部20の位置)を検出する位置センサ17a、ブレード部30に作用し腕部14aに伝達される反力を検出する力センサ16b、リトラクター部20に作用し腕部15aに伝達される反力を検出する力センサ17bが内蔵されている。
【0023】
ブレード部30が連結される腕部14bは、腕部14aに対し、横軸Xを中心に若干の遊びを有して回動可能に取り付けられることが好ましい。更に、ブレード部30が、腕部14bに対し、縦軸Z1周りに若干の遊びを有して回動可能に取り付けられることが好ましい。
【0024】
同様に、リトラクター部20が連結される腕部15bは、腕部15aに対し、横軸Xを中心に若干の遊びを有して回動可能に取り付けられることが好ましく、更に、リトラクター部20が、腕部15bに対し、縦軸Z2周りに若干の遊びを有して回動可能に取り付けられることが好ましい。
【0025】
次に、
図5に示すように、基体12の中央には、患者の口の中に溜まる唾液を吸引して排除する吸液ノズル40がZ方向に延びて設けられる。吸液ノズル40の本体であるチューブ体41は、把持操作部13に内蔵されるアクチュエータ18により、方向Zの軸周りに回動制御可能とされるとともに、少なくとも一方向(吸液口42がある側)に屈曲制御可能とされている。また、吸液ノズル40(チューブ体41)は、Z方向においても伸縮制御可能とされている(
図6及び7参照)。
【0026】
このような構成のチューブ体41により、吸液ノズル40は、患者の口腔内に唾液が溜まる任意の位置にノズル先端を屈曲させ、そこに溜まった唾液を排除することができる。なお、吸液ノズル40は、患者ごとに交換可能なように、基体12に着脱可能に取り付けられることが好ましい。
【0027】
図1に示したように、歯科補助具10は、腕型ロボット3のアームマニピュレータ2の先端部に取り付けられる。また、
図8の機能ブロック図に示すように、腕型ロボット3には、マニピュレータ制御部51、歯科補助具制御部52及びAI画像認識部53などからなる制御装置50が内蔵されている。歯科補助具10は、アームマニピュレータ2内のケーブル(通信制御ケーブル及び電源ケーブル)5を介して電気的に接続された制御装置50の歯科補助具制御部52により動作制御される。また、アームマニピュレータ2の先端部などにはカメラ60が搭載されている。なお、カメラ60は、例えば歯科診療椅子に固定してもよいし、歯科補助具10に設けてもよいし、医師の視線を追うように医師の頭部に装着してもよい。
【0028】
次に、上記構成の歯科補助システム1の動作を説明する。先ず、カメラ60により撮影された画像は、制御装置50に取り込まれ、AI画像認識部53が画像を解析して、患者の口の位置や処置の状況を認識する。例えばマニピュレータ制御部51は、アームマニピュレータ2を制御して、AI画像認識部53が認識する患者の口の位置に近いところに歯科補助具10を移動させることができる。
【0029】
歯科医師は、歯科補助具10をアームマニピュレータ2の先端部から引き下ろして、患者の口にセットする。歯科医師が把持操作部13に設けたスイッチ(図示略)をオン操作するとアクチュエータ16、17が作動し、リトラクター部20及びブレード部30が互いに離間する方向に移動する。力センサ16b又は17bが所定以上の反力を検知すると、アクチュエータ16、17は自動的にその位置に停止する。これにより、患者の治療部位側の口角部分Cがリトラクター部20によって押し広げられ、その反対側の舌Tの側部がブレード部30によって押し留められる(
図9参照)。なお、AI画像認識部53がカメラ60の画像から患者の口の状況を認識し、歯科補助具制御部52が自動的に開口手段を作動させてもよい。
【0030】
また、歯科医師が把持操作部13に設けたスイッチ(図示略)をオフ操作することで、アクチュエータ16、17の出力を開放し、歯科補助具10による患者の拘束を解除させることができる。なお、AI画像認識部53が、カメラ60が撮影する画像の状況から、診療が中断していることを認識した場合や、歯科補助具10による拘束状態に苦痛を感じていると判断した場合に、歯科補助具制御部52がアクチュエータ16、17の出力を自動的に開放してもよい。
【0031】
また、歯科補助具制御部52は、カメラ60の画像に基づいてAI画像認識部53が認識する唾液の溜まった位置に吸液ノズル40を制御して、自動的に唾液を排除してもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 歯科補助システム
2 アームマニピュレータ
3 腕型ロボット
4 フレキシブルワイヤ
5 ケーブル
10 歯科補助具
11 開口手段
12 基体
13 把持操作部
14a、14b 腕部
15a、15b 腕部
16、17 アクチュエータ
16a、17a 位置センサ
16b、17b 力センサ
18 アクチュエータ
20 リトラクター部
21 上肢部
22 下肢部
30 ブレード部
40 吸液ノズル
41 チューブ体
42 吸液口
50 制御装置
51 マニピュレータ制御部
52 歯科補助具制御部
53 AI画像認識部
60 カメラ