(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】レンズモデルの作成方法、及び、眼鏡レンズの作成方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20220627BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
G06F30/10
G02C7/02
(21)【出願番号】P 2018064697
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】上岡 健太
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-518625(JP,A)
【文献】特開2016-090682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/398
G02C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズ設計装置により、第1面及び第2面を有するレンズモデルの作成方法であって、
前記眼鏡レンズ設計装置が、処方情報に基づき決定された前記第1面の形状を示すノンパラメトリック型のデータを、パラメトリック型の第1面データに変換して、第1面データを定義する第1定義ステップと、
前記眼鏡レンズ設計装置が、前記処方情報に基づき前記第2面の形状を示すノンパラメトリック型のデータを決定し、当該決定されたノンパラメタリック型のデータを、パラメトリック型の第2面データに変換して、第2面データを定義する第2定義ステップと、
前記眼鏡レンズ設計装置が、前記処方情報に基づき、前記第1面と前記第2面との位置関係を定義する位置関係定義ステップと、を備
える、レンズモデルの作成方法。
【請求項2】
前記眼鏡レンズ設計装置が、前記第1面と前記第2面を通る環状の曲面により前記レンズモデルの側面を定義する側面定義ステップをさらに備える、請求項1に記載のレンズモデルの作成方法。
【請求項3】
前記眼鏡レンズ設計装置が、前記第1面及び前記第2面の前記環状の曲面により囲まれた各領域を示す新たなパラメトリック型のデータを定義する閉領域定義ステップをさらに備える、請求項2に記載のレンズモデルの作成方法。
【請求項4】
前記位置関係定義ステップは、レンズの肉厚及びプリズム量に基づき、前記第1面と前記第2面との位置関係を定義する、請求項1から3の何れか1項に記載のレンズモデルの作成方法。
【請求項5】
前記位置関係定義ステップは、前記プリズム量に応じた角度だけ前記第1面又は前記第2面を傾斜させる、請求項4に記載のレンズモデルの作成方法。
【請求項6】
前記第1面データ及び前記第2面データは、パラメトリック型のB-spline曲面として定義される、請求項1から5の何れか1項に記載のレンズモデルの作成方法。
【請求項7】
前記眼鏡レンズ設計装置が、前記作成されたレンズモデルを加工装置に出力する出力ステップをさらに備える、請求項1から6の何れか1項に記載のレンズモデルの作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、第1面及び第2面を有するレンズモデルの作成方法及びこのレンズモデルを用いた眼鏡レンズの作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、眼鏡レンズを設計する際には、設計用の処方データに基づき眼鏡レンズの形状を算出し、眼鏡レンズの表面形状を、
図8に示すような、z=f(x,y)で表されるノンパラメトリック型のデータにより記録していた。ノンパラメトリック型のデータは、x、y座標のそれぞれの格子点におけるz軸の値の集合により、離散的に眼鏡レンズの表面形状を特定するものである。ノンパラメトリック型の表面形状のデータはz=f(x,
y)との形式になっているので、面の位置同定およびその位置での微分計算が簡単であるという長所がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ノンパラメトリック型のデータを用いる場合には、移動や回転操作を行う場合には、最小二乗法などにより格子点間の面を再生成して、眼鏡レンズの表面形状を推定する。
図9は、ノンパラメトリック型のデータにより表現された眼鏡レンズの表面形状を45度回転させた場合の非点収差を示す分布図であり、(A)は回転前の非点収差を示し、(B)は回転後の非点収差を示す。
図9に示すように、ノンパラメトリック型のデータを用いた場合には、回転操作を行うと設計面が変形してしまうという問題がある。
【0004】
また、ノンパラメトリック型のデータでは矩形状の領域として表面形状を扱う必要がある。このため、曲率の大きな眼鏡レンズの表面形状を取り扱う場合には、
図10に示すように眼鏡レンズの外部の領域(円で囲んだ領域)において反り立った形状となってしまい、計算上の扱いが煩雑になるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、回転操作等を行っても設計面が変形することなく、計算上の扱いが煩雑にならないような眼鏡レンズモデルの作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施例によるレンズモデルの作成方法は、第1面及び第2面を有するレンズモデルの作成方法であって、処方情報に基づき第1面の形状を示すパラメトリック型の第1面データを定義する第1定義Sと、処方情報に基づき第2面の形状を示すパラメトリック型のデータからなる第2面データを定義する第2定義Sと、処方情報に基づき、第1面と第2面との位置関係を定義する位置関係定義Sと、を備える。
上記の実施例によれば、第1面及び第2面がパラメトリック型のデータで定義されているため、回転操作等を行っても設計面が変形することがなく、また、眼鏡レンズの外部の領域においても反り立った形状とならず、計算上の扱いが煩雑にならない。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転操作等を行っても設計面が変形することなく、計算上の扱いが煩雑にならないような眼鏡レンズモデルの作成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態による眼鏡レンズモデルの作成方法を示すフローチャートである。
【
図2】凸面及び凹面の形状を定義するパラメトリック型の凸面データ及び凹面データを作成する様子を示す図である。
【
図3】ノンパラメトリック型の曲線データをパラメトリック型の曲線データに変換する方法を説明するための図である。同図には二次の曲線の例を示す。
【
図4】ノンパラメトリック型の曲面データをパラメトリック型の曲面データに変換する方法を説明するための図である。
【
図5】レンズの肉厚d及びプリズム量(角度D)に基づき、凸面と凹面との位置関係を定義する様子を示す図である。
【
図6】凸面及び凹面を配置する様子を示す図であり、(A)は凸面を正面から見た図であり、(B)はプリズム方向の断面図である。
【
図7】凸面より側面を定義する線分を凹面に貫通させて、それぞれの面と線分との交点の物理座標及びパラメータ座標を算出する様子を示す図である。
【
図8】眼鏡レンズの表面形状を示すノンパラメトリック型のデータを示す図である。
【
図9】ノンパラメトリック型のデータにより表現された眼鏡レンズの表面形状を45度回転させた場合の非点収差を示す分布図であり、(A)は回転前の非点収差を示し、(B)は回転後の非点収差を示す。
【
図10】ノンパラメトリック型のデータにおいて眼鏡レンズの外部の領域(円で囲んだ領域)において反り立った形状が生じた様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の眼鏡レンズモデルの作成方法の一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態による眼鏡レンズモデルの作成方法を示すフローチャートである。まず、眼科等において患者の眼の検診を行い、眼鏡レンズの処方情報が作成される。眼鏡レンズの処方情報には、凹面及び凸面の形状情報(設計値)、眼鏡レンズの肉厚、並びに、眼鏡レンズのプリズム方向及び量等が含まれる。
図2に示すように、眼鏡レンズモデルを作成するためには、まず、凸面及び凹面の処方情報に基づき凸面10及び凹面20の形状を定義するパラメトリック型の凸面データ及び凹面データを作成する(S101、第1及び第2定義ステップに相当)。パラメトリック面は、実際の眼鏡レンズの径よりも大きければよく、形状は問わない。
【0010】
パラメトリック面は、例えば、以下のB-spline曲面
により定義される。
m+1:u方向のコントロールポイントの数
n+1:v方向のコントロールポイントの数
k:u方向の曲線のオーダー
l:v方向の曲線のオーダー
knot vector {u
0,u
1,u
2,・・・,u
m+k}:u
0≦u
1≦u
2≦・・・≦u
m+kとなるm+k+1個の節点で定義されるパラメータ座標を定義するベクトル列である。
knot vector {v
0,v
1,v
2,・・・,v
n+l}:v
0≦v
1≦v
2≦・・・≦v
n+lとなるn+l+1個の節点で定義されるパラメータ座標を定義するベクトル列である。
【0011】
なお、処方情報により決定される凸面及び凹面がノンパラメトリック型のデータである場合には、以下のようにしてパラメトリック型のデータに変換すればよい。
まず、ノンパラメトリック型の曲線データをパラメトリック型の曲線データに変換することを考える。
図3は、ノンパラメトリック型の曲線データをパラメトリック型の曲線データに変換する方法を説明するための図である。なお、同図には二次の曲線の例を示す。
【0012】
例えば、パラメトリック型のB-Spline曲線は以下のように表現することができる。
ここで、
n+1:De Boorコントロールポイントの総数
k:Order
knot vector {u
0,u
1,u
2,・・・,u
n+k}:u
0≦u
1≦u
2≦・・・≦u
n+kとなるn+k+1個の節点で定義されるパラメータ座標を定義するベクトル列である。
【0013】
ここで、ノンパラメトリック型のデータにより与えられた曲線を補間するB-spline曲線は以下のように定義できる。
上記式(1)において、
n+1:De Boorコントロールポイントの総数
knot vector:{x
0,x
1,x
2,x
3,・・・,x
n+k}
である。
【0014】
とすると、(1)式のd
iは、
であり、de Boorのコントロールポイントのy座標である。
【0015】
【0016】
また、de boorのコントロールポイントのx座標はGreville abscissae(W.J.Gordon and R.F.Riesenfeld, B-Spline curves and surfaces, Computer Aided Geometric Design, pages 95-126, Academic Press, Inc. 1974)の関係により、下記の式が近似的に成立する。
【0017】
したがって、ノンパラメトリック型曲線
及びknot vectorが与えられれば、(2)、(3)式によりde boorのコントロールポイントの座標を計算できる。
【0018】
次に、ノンパラメトリック型の曲面をパラメトリック型の曲面に変換することを考える。
図4は、ノンパラメトリック型の曲面データをパラメトリック型の曲面データに変換する方法を説明するための図である。ノンパラメトリック型のデータにより与えられた曲面を補間するB-spline曲面は以下のように定義できる。
m+1:x方向のde Boorコントロールポイントの総数
n+1:y方向のde Boorコントロールポイントの総数
k:x方向の曲線のOrder
l:y方向の曲線のOrder
knot vector:{x
0,x
1,x
2,x
3,・・・,x
m+k}
knot vector:{y
0,y
1,y
2,y
3,・・・,y
n+l}
【0019】
ここで、u,vのパラメトリック座標系が、x,y座標系に一致するとする。
とすると、Greville abscissaeの関係により、下記の式が近似的に成立する。
これにより、de Boorのコントロールポイントを算出することができ、ノンパラメトリック型の曲面をパラメトリック型の曲面に変換することができる。
【0020】
次に、実形状の条件、すなわち、レンズの肉厚d及びプリズム量(角度D)に基づき、
図5に示すように、凸面と凹面との位置関係を定義する(S103、位置関係定義ステップに相当))。
【0021】
図6は、凸面及び凹面を配置する様子を示す図であり、(A)は凸面を正面から見た図であり、(B)はプリズム方向の断面図である。プリズム方向PはプリズムリファレンスポイントRを中心として角度θで指定されている。このプリズム方向の断面内において、
図6(B)に示すように、凸面10のプリズムリファレンスポイントRにおける法線方向nからプリズム量に応じた角度Dだけ傾斜した軸Aを考える。そして、この軸A上に凹面設計中心Oの法線が一致し、凹面20の設計中心Oと凸面10のプリズムリファレンスポイントRとの距離が指定された肉厚dとなるように凸面10に対して凹面20を配置する。すなわち、凹面20を示すパラメトリック型の曲面データに対して移動及び回転処理を行う。
【0022】
次に、レンズ形状を決定するために、
図7に示すように、凸面10より側面を定義する線分を凹面20に貫通させて、それぞれの面と線分との交点の物理座標及びパラメータ座標を算出する(S105)。
【0023】
次に、凸面及び凹面のそれぞれにおいて算出した交点を滑らかにつなぐパラメトリック曲線を定義する。この際、凸面及び凹面で作成するパラメトリック曲線は次数及びknotベクトルが同じようになるように決定する(S107)。
【0024】
次に、凸面及び凹面で作成したパラメトリック曲線からレンズモデルの側面をruled surfaceとして、環状の曲面により定義する(S109、側面定義ステップに相当)。
【0025】
次に、必要に応じて凸面及び凹面と、環状の曲面とが交わり規定される閉曲線内の領域を示す新たなパラメトリック面をそれぞれ作成する。具体的には、凸面(又は凹面)の閉曲線内のレンズ面を多数の三角形面に分割する。次に、Barycentric Transform などの方法を用いてパラメトリック化して新たなパラメトリック面を示すパラメトリック型データを作成する(S111、閉領域定義ステップに相当)。
【0026】
以上のようにして作成された眼鏡レンズモデルのデータは、例えば、眼鏡レンズブランクを研削するための研削装置等の加工装置に入力される。そして、加工装置により眼鏡レンズブランクに研削、研磨等の加工が施されて眼鏡レンズが作成される。
【0027】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
凸面及び凹面の形状を示すデータをパラメトリック型のデータとしているため、移動や回転を行っても形状の精度が劣化することがない。また、パラメトリック型のデータは、CADや3Dプリンターのデータ形式にも用いられているため、CADや3Dプリンター等との間でデータの出入力が可能になる。
【0028】
また、凸面及び凹面の形状を示すデータをパラメトリック型のデータとしているため、曲率の大きな形状の眼鏡レンズであっても、レンズモデルに反り立った部分が生じることがない。
【0029】
また、S111で凸面及び凹面における閉曲線内の領域の形状を示す新たなパラメトリック型データを作成するため、眼鏡レンズの領域のみのデータのみを扱うことができる。これにより、眼鏡レンズ以外の領域に反り立った部分が生じるといった不都合が生じることがなくなる。
【0030】
以下、本開示の眼鏡レンズの成形型の製造方法を総括する。
本開示の一実施例は、凸面10及び凹面20を有するレンズモデルの作成方法であって、処方情報に基づき凸面10の形状を示すパラメトリック型の凸面データを定義するステップと、処方情報に基づき凹面20の形状を示すパラメトリック型のデータからなる凹面データを定義するステップと、処方情報に基づき、凸面10と凹面20との位置関係を定義する位置関係定義ステップと、を備える。
【符号の説明】
【0031】
10 凸面
20 凹面