(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】マスダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20220627BHJP
F16F 15/03 20060101ALI20220627BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20220627BHJP
F16H 25/20 20060101ALI20220627BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20220627BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
F16F15/02 A
F16F15/03 G
F16F15/03 J
F16H25/22 Z
F16H25/20 E
F16H25/24 B
E04H9/02 341D
(21)【出願番号】P 2018072930
(22)【出願日】2018-04-05
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100105119
【氏名又は名称】新井 孝治
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
(72)【発明者】
【氏名】今西 憲治
(72)【発明者】
【氏名】増井 亮介
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-511867(JP,A)
【文献】特開平10-089406(JP,A)
【文献】特開昭62-004937(JP,A)
【文献】特開2000-320607(JP,A)
【文献】特開2014-202234(JP,A)
【文献】特開2012-184816(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199836(WO,A1)
【文献】特開2019-157947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16F 15/03
F16H 25/20-25/24
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を含む系内の相対変位する第1部位と第2部位の間に設けられ、振動エネルギを減衰するマスダンパであって、
一端部が前記第1部位に連結されるねじ軸、及び当該ねじ軸にボールを介して螺合するナットを有するボールねじと、
一端部が前記第2部位に連結され、前記ねじ軸と同軸状に延びる回転不能の筒体と、
当該筒体に対向し、前記ナットによって回転駆動される筒状の回転マスと、を備え、
前記筒体及び前記回転マスの一方は強磁性体で構成され、前記筒体及び前記回転マスの他方は導電材料で構成されており、
前記筒体と前記回転マスの間に周方向に沿って配置され、磁界内を回転する前記回転マスに、当該回転マスの回転と反対方向の、渦電流によるローレンツ力を発生させるように構成された複数の永久磁石と、
前記複数の永久磁石の磁界が前記回転マスに作用するのを阻止する阻止位置と許容する許容位置とを含む所定範囲内で移動可能な可動部材と、
当該
マスダンパの作動中、前記可動部材を前記所定範囲内の位置に駆動することによって、前記ローレンツ力を制御する制御装置と、をさらに備えることを特徴とするマスダンパ。
【請求項2】
前記筒体は強磁性体で構成され、前記回転マスは導電材料で構成され、前記可動部材は、強磁性体で構成されるとともに前記筒体に周方向に沿って配置された複数のポールピースで構成されており、
前記可動部材の前記許容位置は、前記複数のポールピースが前記複数の永久磁石に対向する位置であり、前記可動部材の前記阻止位置は、前記複数のポールピースが前記複数の永久磁石から退避した位置であることを特徴とする、請求項1に記載のマスダンパ。
【請求項3】
前記第1部位と前記第2部位の間の相対変位を取得する相対変位取得手段をさらに備え、
前記制御装置は、前記可動部材を、前記取得された相対変位に応じた位置に駆動することを特徴とする、請求項1又は2に記載のマスダンパ。
【請求項4】
前記制御装置は、前記相対変位が所定変位を超えたときに、前記可動部材を前記阻止位置に駆動することを特徴とする、請求項3に記載のマスダンパ。
【請求項5】
前記ナット及び前記回転マスの一方は強磁性体で構成され、前記ナット及び前記回転マスの他方は導電材料で構成されており、
前記ナットと前記回転マスの間に周方向に沿って配置され、磁界内を回転する前記ナットに、当該第ナットの回転と反対方向の、渦電流によるローレンツ力を発生させるように構成された複数の第2永久磁石をさらに備えることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のマスダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物などの振動を抑制するのに用いられるマスダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のマスダンパとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このマスダンパは、構造物を含む系内の相対変位する第1部位と第2部位の間に設けられるものであり、一端部が第1部位に連結されるねじ軸、及びねじ軸にボールを介して螺合する回転自在のナットを有するボールねじと、一端部が第2部位に連結され、ナットを回転自在に支持する内筒と、内筒に回転自在に支持された回転マスを備えている。また、マスダンパは、ナットと回転マスの間の流体室に充填された粘性体と、流体室を第1室と第2室に仕切るとともに、ナットと回転マスとの相対回転に伴って流体室内を軸線方向に移動する可動体と、可動体に設けられた調整弁及びリリーフ弁を備える。
【0003】
このマスダンパでは、地震時などに第1及び第2部位の間に相対変位が発生すると、ねじ軸の直線運動がナットの回転運動に変換され、回転マスが回転することによって、回転慣性効果が発揮され、構造物の振動が抑制される。また、ナットと回転マスとの相対回転が生じると、可動体が流体室内を移動することによって、粘性体が調整弁を介して第1室と第2室の間を流れる。これにより、調整弁に設定された減衰係数に基づき、粘性体の移動速度に応じた粘性減衰効果が発揮される。
【0004】
さらに、可動体の移動に伴い、第1室及び第2室の一方の圧力が上昇し、それに伴い、回転マスの回転慣性力及び粘性体の粘性抵抗(減衰力)も増大する。そして、上昇した圧力が所定圧力に達したときに、リリーフ弁が開弁する。これにより、圧力が低下することによって、回転マスの回転慣性力及び粘性体の粘性抵抗のそれ以上の増大が抑制され、マスダンパの軸力(マスダンパに作用する軸方向の荷重)が制限される。
【0005】
また、マスダンパの軸力を制限する従来の軸力制限機構として、例えば特許文献2に開示されたものが知られている。この軸力制限機構は、機械式のものであり、ボールねじのナットの外周面に当接する摩擦材と、回転マスにねじ込まれた締め付けボルトと、摩擦材と締め付けボルトの間に配置され、摩擦材をナット側に付勢する皿ばねなどを備えている。この構成では、マスダンパの軸力が、皿ばねのばね定数や締め付けボルトの締め付け度合などによって定まる上限値に達すると、摩擦材とナットの間に滑りが発生することによって、回転マスの回転が抑制され、マスダンパの軸力が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-124820号公報
【文献】特許第5189213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のマスダンパにおいて粘性減衰要素として用いられる粘性体の粘性抵抗は、温度の上昇に伴って低下する温度依存性や、振動が繰り返し作用するのに伴って低下する繰り返し依存性を有する。このため、近年、特に懸念されている長周期地震動が発生したような場合には、大きな振動エネルギがマスダンパに繰り返し入力され、粘性体で吸収される結果、粘性体の温度が大きく上昇し、粘性抵抗が著しく低下するおそれがある。また、粘性体の粘性抵抗は、圧力に応じて変化する圧力依存性を有する。このため、粘性抵抗を調整するための調整弁などが必要になるとともに、その設定を詳細に行うことが必要になる。また、大きな粘性抵抗を確保するためには、粘性体のせん断面積を大きくすることが必要であり、粘性体の実装部分が大型化するという問題もある。
【0008】
また、特許文献2に開示された軸力制限機構は、摩擦材を用いるため、マスダンパに大きな振動エネルギが繰り返し入力された場合には、摩擦材の発熱によって摩擦抵抗が低下する結果、マスダンパの軸力制限を良好に行えないおそれがある。
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、温度依存性や繰り返し依存性が小さく且つ速度に依存する減衰効果を発揮させるとともに、その減衰力を精度良く可変制御し、マスダンパの軸力を適切に制限することができるマスダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物を含む系内の相対変位する第1部位と第2部位の間に設けられ、振動エネルギを減衰するマスダンパであって、一端部が前記第1部位に連結されるねじ軸、及び当該ねじ軸にボールを介して螺合するナットを有するボールねじと、一端部が第2部位に連結され、ねじ軸と同軸状に延びる回転不能の筒体と、筒体に対向し、ナットによって回転駆動される筒状の回転マスと、を備え、筒体及び回転マスの一方は強磁性体で構成され、筒体及び回転マスの他方は導電材料で構成されており、筒体と回転マスの間に周方向に沿って配置され、磁界内を回転する回転マスに、回転マスの回転と反対方向の、渦電流によるローレンツ力を発生させるように構成された複数の永久磁石と、複数の永久磁石の磁界が回転マスに作用するのを阻止する阻止位置と許容する許容位置とを含む所定範囲内で移動可能な可動部材と、当該マスダンパの作動中、可動部材を前記所定範囲内の位置に駆動することによって、ローレンツ力を制御する制御装置と、をさらに備えることを特徴とする。
【0011】
このマスダンパによれば、地震時などに振動エネルギが構造物に入力され、第1及び第2部位の間に相対変位が発生すると、第1部位に連結されたねじ軸の相対的な直線運動が、ねじ軸に螺合するナットの回転運動に変換され、ナットによって回転マスが回転駆動される。これにより、回転マスの等価質量が実質量に対して増幅され、大きな反力(回転慣性力)として作用する回転慣性効果が発揮され、構造物の振動が抑制される。
【0012】
また、マスダンパは、許容位置と阻止位置を含む所定範囲内で移動可能な可動部材を備えている。可動部材が許容位置に位置する場合には、複数の永久磁石の磁界が回転マスに作用し、回転マスは永久磁石の磁界内を回転する。これにより、回転マスに渦電流(誘導電流)が発生すると同時に、この渦電流と永久磁石の磁界との相互作用によってローレンツ力が発生する。
【0013】
この渦電流によるローレンツ力は、回転マスには、その回転方向と反対方向の抵抗力(制動力)として作用し、それにより、減衰効果が発揮される。このローレンツ力は、構造物におけるマスダンパの使用環境では、粘性体の粘性抵抗と異なり、温度依存性や繰り返し依存性が小さい。したがって、長周期地震動の発生時のように大きな振動エネルギが構造物に繰り返し入力される場合においても、温度や振動エネルギの入力の繰り返しの影響を抑制しながら、安定した減衰力を得ることができる。さらに、ローレンツ力は、粘性体の粘性抵抗と同様、速度に依存する減衰特性を示すので、粘性抵抗と同等の、速度に依存する減衰効果を発揮させることができる。
【0014】
一方、可動部材が阻止位置に位置する場合には、複数の永久磁石の磁界は回転マスに作用せず、ローレンツ力が発生しないため、減衰効果は発揮されず、その減衰力の分、マスダンパの軸力が減少する。したがって、マスダンパの作動中、例えばマスダンパの軸力が過大になると推定される状況において、可動部材を阻止位置に制御し、ローレンツ力の発生を阻止することによって、マスダンパの軸力を適切に制限することができる。
【0015】
また、可動部材が許容位置と阻止位置の間に位置する場合には、その位置に応じた大きさのローレンツ力が発生する。すなわち、ローレンツ力は、可動部材が許容位置に近いほど、より大きくなり、可動部材が阻止位置に近いほど、より小さくなる。したがって、マスダンパの作動中、可動部材の位置を所定範囲内で制御することによって、永久磁石による減衰力を精度良く可変制御することができる。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のマスダンパにおいて、筒体は強磁性体で構成され、回転マスは導電材料で構成され、可動部材は、強磁性体で構成されるとともに筒体に周方向に沿って配置された複数のポールピースで構成されており、可動部材の許容位置は、複数のポールピースが複数の永久磁石に対向する位置であり、可動部材の阻止位置は、複数のポールピースが複数の永久磁石から退避した位置であることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、強磁性体から成る筒体の周方向に沿って、強磁性体から成る複数のポールピースが配置されており、複数のポールピースを複数の永久磁石に対向する許容位置に駆動することによって、導電材料で構成された回転マスにローレンツ力を発生させることができる。一方、複数のポールピースを複数の永久磁石から退避した阻止位置に駆動することによって、ローレンツ力の発生を阻止することができる。また、ポールピースが回転しない筒体側に配置されているので、ポールピースと制御装置との間の配線などの組立てを容易に行えるとともに、ポールピースが回転することによる不具合を確実に回避することができる。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のマスダンパにおいて、第1部位と第2部位の間の相対変位を取得する相対変位取得手段をさらに備え、制御装置は、可動部材を、取得された相対変位に応じた位置に駆動することを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、構造物の第1及び第2部位の間の相対変位を取得するとともに、取得された相対変位に応じた位置に可動部材が駆動されることによって、可動部材の位置に応じたローレンツ力が発生する。これにより、構造物の実際の相対変位の大きさに応じて、永久磁石による減衰力を適切に可変制御することができる。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載のマスダンパにおいて、制御装置は、相対変位が所定変位を超えたときに、可動部材を阻止位置に駆動することを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、取得された構造物の第1及び第2部位の間の相対変位が所定変位を超えたときに、可動部材が阻止位置に駆動される。これにより、構造物の実際の相対変位が大きく増大したときに、ローレンツ力の発生を阻止することによって、マスダンパの軸力が過大になると推定されるタイミングで、軸力制限を適切に行うことができる。
【0022】
請求項5に係る発明は、請求項1から4のいずれかに記載のマスダンパにおいて、ナット及び回転マスの一方は強磁性体で構成され、ナット及び回転マスの他方は導電材料で構成されており、ナットと回転マスの間に周方向に沿って配置され、磁界内を回転するナットに、ナットの回転と反対方向の、渦電流によるローレンツ力を発生させるように構成された複数の第2永久磁石をさらに備えることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、第1及び第2部位の間に相対変位が発生するのに伴い、ボールねじの作用によってナットが回転する際、ナットは第2永久磁石の磁界内を回転する。これにより、ナットに渦電流が発生すると同時に、この渦電流と第2永久磁石の磁界との相互作用によってローレンツ力が発生する。
【0024】
このローレンツ力は、ナットには、その回転方向と反対方向の抵抗力として作用する。これにより、第2永久磁石による減衰効果が発揮され、永久磁石による減衰効果に付加されることによって、マスダンパの減衰効果を高めることができる。一方、このローレンツ力は、回転マスには、ナットの回転方向と同じ方向の駆動力として作用する。これにより、回転マスが駆動され、回転することによって、回転マスの回転慣性効果を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態によるマスダンパを示す縦断面図である。
【
図2】
図1のX-X線に沿う、一部を省略した断面図である。
【
図3】
図1のマスダンパの動作を説明するための図である。
【
図4】
図1のマスダンパを制震装置として構造物に設置した例を概略的に示す図である。
【
図5】
図1のマスダンパをモデル化して示す図である。
【
図6】速度に対するローレンツ力の特性を示す図である。
【
図7】マスダンパを制御する制御系を示すブロック図である。
【
図8】
図4のように設置されたマスダンパに対し、制御装置によって実行される減衰力制御処理を示すフローチャートである。
【
図9】
図8の減衰力制御処理において用いられるマップである。
【
図10】
図1のマスダンパを免震装置として構造物に設置した例を概略的に示す図である。
【
図11】
図10のように設置されたマスダンパに対し、制御装置によって実行される減衰力制御処理を示すフローチャートである。
【
図12】
図11の減衰力制御処理において用いられるマップである。
【
図13】第1実施形態の変形例によるマスダンパを示す縦断面図である。
【
図14】第2実施形態によるマスダンパを示す縦断面図である。
【
図16】第3実施形態によるマスダンパを示す縦断面図である。
【
図17】
図16のマスダンパに対し、制御装置によって実行される軸力制限制御処理を示すフローチャートである。
【
図19】第4実施形態によるマスダンパを示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1に示すように、本発明の第1実施形態によるマスダンパ1Aは、外筒10、ボールねじ11、回転マス13A、複数の永久磁石15及びボールピース31(
図2参照)を備えている。
【0027】
ボールねじ11は、ねじ軸11aと、ねじ軸11aに多数のボール11bを介して螺合するナット11cを有する。ねじ軸11aは、ナット11cの両側に延び、外端部において、自在継手17aを介して、第1フランジ17に連結され、内端部は、回転マス13Aの内部に延びている。
【0028】
外筒10は、強磁性体(例えば鋼材)で構成され、肉厚の円筒状に形成されている。また、外筒10は、ねじ軸11a及びナット11cと同軸状に配置されており、外端部において、自在継手18aを介して、第2フランジ18に回転不能に連結されている。
【0029】
回転マス13Aは、比重が比較的大きな導電材料(例えば鋼材)で構成され、肉厚の円筒状に形成されており、一端部がナット11cと同軸状に一体に連結されている。また、回転マス13Aは、外筒10の内周側に、これに対向するように配置されており、両端部において軸受け22、22を介して、外筒10に回転自在に支持されている。
【0030】
永久磁石15は、例えばフェライト磁石で構成され、
図2に示すように、外筒10と回転マス13Aの間、例えば外筒10の内周面に複数個(この例では18個)、周方向に等間隔に配置されており、回転マス13Aに対向している。また、複数の永久磁石15の極性は、隣り合う各2つの間で互いに異なるように設定されている(
図3参照)。
【0031】
ポールピース31は、強磁性体(例えば鋼材)で構成されており、外筒10に永久磁石15と同数、設けられ、周方向に等間隔に配置されている。これらのポールピース31は、軸線方向に移動自在のリング状の保持部材34に一体に取り付けられており、保持部材34を介してアクチュエータ32に連結されている(
図7参照)。
【0032】
アクチュエータ32は、例えば直動式のものであり、アクチュエータ32に通電される電流値IAを後述する制御装置33で制御することによって、ポールピース31が軸線方向に駆動されるとともに、ポールピース31の位置が制御される。具体的には、ポールピース31は、アクチュエータ32の電流値IAが0(オフ状態)のときには、
図1及び
図3(b)に示す、永久磁石15から退避した位置(以下「阻止位置」という)に制御され、電流値IAが所定の最大値IMAXのときには、
図3(a)に示す、永久磁石15に対向する位置(以下「許容位置」という)に制御される。さらに、電流値IAが値0と最大値IMAXの間のときには、ポールピース31は、電流値IAに応じた阻止位置と許容位置との間の位置に制御される。
【0033】
以上の構成のマスダンパ1Aは、例えば
図4に示すように、建物などの構造物3の下梁BL及び上梁BUからそれぞれ鉛直に突設された支持部材5a、5bに、第1及び第2フランジ17、18を介して連結され、水平に設けられており、制震装置として設置される。この状態で、地震時などに構造物3の下梁BLと上梁BUの間に水平方向の相対変位が発生すると、それらに連結された外筒10に対するねじ軸11aの直線運動がナット11cの回転運動に変換されることにより、回転マス13Aはナット11cと一体に回転する。これにより、回転マス13Aの等価質量が実質量に対して増幅され、大きな反力(回転慣性力)として作用する回転慣性効果が発揮されることによって、構造物3の振動が抑制される。
【0034】
また、ポールピース31が永久磁石15に対向する許容位置に位置する場合には、
図3(a)に示すように、永久磁石15とポールピース31によって大きな磁力線の閉回路が形成され、永久磁石15の磁界が回転マス13Aに作用する。このため、回転マス13Aに渦電流(誘導電流)が発生するとともに、この渦電流と永久磁石15の磁界との相互作用によって、ローレンツ力が発生し、回転マス13Aに抵抗力として作用することによって、最大の減衰効果が発揮され、回転マス13Aの回転慣性効果に付加される。
【0035】
一方、ポールピース31が永久磁石15から退避した阻止位置に位置する場合には、
図3(b)に示すように、ポールピース31の影響が及ばず、隣り合う2つの永久磁石15、15によって、小さな磁力線の閉回路が形成されるため、永久磁石15の磁界は回転マス13Aには作用しない。このため、回転マス13Aにはローレンツ力は発生せず、減衰効果は発揮されない。
【0036】
また、ポールピース31が許容位置と阻止位置の間に位置する場合には、図示しないが、ポールピース31の位置に応じた大きさのローレンツ力が発生することで、ポールピース31の位置に応じた中間の大きさの減衰効果が発揮される。
【0037】
以上の構成及び動作から、マスダンパ1Aは、
図5のようにモデル化される。すなわち、支持部材5a、5bやマスダンパ1Aの内部剛性などから成るばね要素に、互いに並列関係にある(a)回転マス13Aから成る慣性質量要素、及び(b)永久磁石15及びポールピース31から成る可変減衰要素が接続されたモデルになる。
【0038】
前述したように、渦電流によるローレンツ力は、構造物におけるマスダンパの地震時を含む使用環境(例えば最高温度:100~150℃、累積変位:50m程度)では、粘性抵抗と異なり、温度依存性や繰り返し依存性が小さい。したがって、長周期地震動の発生時のように大きな振動エネルギが構造物に繰り返し入力される場合においても、温度や振動エネルギの入力の繰り返しの影響を抑制しながら、回転マス13Aの回転慣性効果と永久磁石15による減衰効果を安定して発揮させることができる。
【0039】
また、
図6は、速度Vに対するローレンツ力FLの特性を示す。同図に示すように、ローレンツ力FLは、一般に、粘性体による粘性抵抗と同様、速度Vに依存する減衰特性を示す。したがって、粘性抵抗と同等の、速度に依存する減衰効果を発揮させることができる。
【0040】
図8は、制御装置33によって実行される永久磁石15による減衰力(ローレンツ力FL)の制御処理の一例を示す。この減衰力制御を実行するために、制御装置33には、第1及び第2加速度センサ41、42が接続されている(
図7参照)。第1及び第2加速度センサ41、42は、例えば半導体式のものであり、
図4の下梁BL及び上梁BUの支持部材5a、5b付近に設けられ、それらの水平方向の加速度である第1及び第2加速度AC1、AC2を表す検出信号を、制御装置33に出力する。
【0041】
制御装置33は、CPU、RAM、ROM及びI/Oインターフェースなどを有するマイクロコンピュータで構成されている。制御装置33は、第1及び第2加速度センサ41、42の検出信号に応じ、ROMに記憶されたプログラムに従って、
図8の減衰力制御処理を実行する。本処理は、所定時間ごとに繰り返し実行される。
【0042】
本処理では、まずステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、支持部材5a、5bの間の水平方向の相対変位RDを算出する。この相対変位RDの算出は、例えば次のように行われる。まず、検出された第1加速度AC1を積分することによって、第1速度V1(絶対速度)を算出し、第1速度V1をさらに積分することによって、第1変位DS1(絶対変位)を算出する。同様に、検出された第2加速度AC2を積分することによって、第2速度V2(絶対速度)を算出し、第2速度V2をさらに積分することによって、第2変位DS2(絶対変位)を算出する。そして、第1及び第2変位DS1、DS2の差の絶対値|DS1-DS2|を、支持部材5a、5b間の相対変位RDとして算出する。
【0043】
次に、ステップ2において、算出された相対変位RDが第1所定変位DREF1よりも小さいか否かを判別する。この答えがYESのときには、相対変位RDが小さく、永久磁石15による減衰効果を発揮させる必要性が低いとして、アクチュエータ32の電流値IAを値0に設定し(ステップ3)、本処理を終了する。この設定により、ポールピース31は
図1及び
図3(b)に示す阻止位置に維持され、ローレンツ力FLはほぼ0に制御される。
【0044】
上記ステップ2の答えがNOのときには、相対変位RDが第1所定変位DREF1よりも大きな第2所定変位DREF2以下であるか否かを判別する(ステップ4)。この答えがYESで、DREF1≦RD≦DREF2のときには、相対変位RDに応じ、
図9のマップを検索することによって、電流値IAを算出し(ステップ5)、本処理を終了する。
【0045】
このマップでは、電流値IAは、相対変位RDの上記の範囲内では、相対変位RDが大きいほど、より大きな値になるようにリニアに設定され、相対変位RD=第2所定値DREF2のときに、所定の最大値IMAXに設定されている。このような設定により、ポールピース31は、相対変位RDが増大するのに伴い、阻止位置から許容位置までの相対変位RDに応じた位置に駆動され、それにより、ローレンツ力FLは値0から最大値まで増大するように制御される。
【0046】
前記ステップ4の答えがNOのときには、相対変位RDが第2所定変位DREF2よりも大きな第3所定変位DREF3(例えば40mm:階高4mの場合の層間変形角1/100radに相当)以下であるか否かを判別する(ステップ6)。この答えがYESで、DREF2<RD≦DREF3のときには、電流値IAを最大値IMAXに設定し(ステップ7)、本処理を終了する。これにより、ローレンツ力FLは最大値に維持される。
【0047】
一方、上記ステップ6の答えがNOで、相対変位RDが第3所定値DREF3を超えたときには、ローレンツ力FLが最大値に制御された状態で、相対変位RDがさらに増大しているため、マスダンパ1Aの軸力が過大になるおそれがあるとして、電流値IAを値0に設定し(ステップ8)、本処理を終了する。これにより、ポールピース31が許容位置から阻止位置に駆動され、ローレンツ力FLがほぼ0に制御され、永久磁石15による減衰力が減少することによって、マスダンパ1Aの軸力を適切に制限することができる。
【0048】
図10は、本実施形態の複数のマスダンパ1A(1つのみ図示)を、複数の積層ゴム支承2(2つのみ図示)とともに、構造物3に免震装置として設置した例を示す。積層ゴム支承2は、構造物3と基礎4の間に固定され、構造物3を支持している。マスダンパ1Aは、その両端部において、構造物3及び基礎4からそれぞれ鉛直に突設された支持部材5a、5bの間に設置されている。
【0049】
図示しないが、第1及び第2加速度センサ41、42は、支持部材5a、5bの付近にそれぞれ設けられている。また、上述の場合とは逆に、アクチュエータ32の電流値IAが0(オフ状態)のときに、ポールピース31が永久磁石15に対向する許容位置(
図3(a))に位置し、電流値IAが最大値IMAXのときに、ポールピース31が永久磁石15から退避した阻止位置(
図3(b))に駆動されるように設定されている。
【0050】
図11は、以上のように免震装置として設置されたマスダンパ1Aに対し、制御装置33によって実行される減衰力制御処理を示す。本処理は、所定時間ごとに繰り返し実行される。
【0051】
本処理では、まずステップ11において、
図8のステップ1と同様の処理によって、支持部材5a、5bの間の水平方向の相対変位RDを算出する。次に、ステップ12において、相対変位RDが第4所定変位DREF4よりも小さいか否かを判別する。この答えがYESで、相対変位RDが小さいときには、アクチュエータ32の電流値IAを値0に設定し(ステップ13)、本処理を終了する。この設定により、ポールピース31は許容位置に制御され、ローレンツ力FLは最大値に制御される。
【0052】
上記ステップ12の答えがNOのときには、相対変位RDが第4所定変位DREF4よりも大きな第5所定変位DREF5以下であるか否かを判別する(ステップ14)。この答えがYESで、DREF4≦RD≦DREF5のときには、相対変位RDに応じ、
図12のマップを検索することによって、電流値IAを算出し(ステップ15)、本処理を終了する。
【0053】
このマップでは、電流値IAは、相対変位RDが大きいほど、より大きな値になるようにリニアに設定され、相対変位RD=第5所定値DREF5のときに、所定の最大値IMAXに設定されている。このような設定により、ポールピース31は、相対変位RDが増大するのに伴い、許容位置から阻止位置までの相対変位RDに応じた位置に駆動され、それにより、ローレンツ力FLはその最大値から値0まで減少するように制御される。
【0054】
一方、前記ステップ14の答えがNOで、相対変位RDが第5所定値DREF5を超えたときには、電流値IAを最大値IMAXに設定し(ステップ16)、本処理を終了する。これにより、相対変位RDが大きくなった後に、ローレンツ力FLがほぼ0に維持され、構造物3と基礎4との相対変位が生じやすくなることで、免震性能を高めることができる。
【0055】
次に、
図13を参照しながら、第1実施形態の変形例について説明する。このマスダンパ1Bは、回転不能の筒体として、回転マス13Aの外周側に配置されたマスダンパ1Aの外筒10に代えて、回転マス13Bの内周側に内筒12を配置したものである。
【0056】
この内筒12は、外筒10と同様、強磁性体(例えば鋼材)で構成され、肉厚の円筒状に形成されるとともに、ねじ軸11a及びナット11cと同軸状に配置され、外端部において、自在継手18aを介して第2フランジ18に回転不能に連結されている。また、内筒12は、外筒10よりも径が小さく、ナット11cとほぼ同じ外径及び内径を有しており、ナット11cは、クロスローラベアリング23を介して内筒12に回転自在に支持されている。
【0057】
回転マス13Bは、比重が比較的大きな導電材料(例えば鋼材)で構成され、肉厚の円筒状に形成されている。また、回転マス13Bは、一端部においてナット11cに一体に連結され、ナット11c及び内筒12の外側にこれらを覆うように同軸状に配置されており、他端部において、軸受け22を介して内筒12に回転自在に支持されている。
【0058】
また、複数の永久磁石15は、内筒12と回転マス13Bの間、例えば内筒12の外周面に配置され、複数のポールピース31は、永久磁石15と同数、内筒12に配置されている。これらの永久磁石15及びポールピース31の構成は、ポールピース31を駆動するアクチュエータ32の構成を含めて、マスダンパ1Aと同じである。
【0059】
以上のように、マスダンパ1Bは、マスダンパ1Aに対し、回転不能の筒体(内筒12、外筒10)と回転マス(回転マス13B、回転マス13A)との配置を内外逆にした関係にあるので、マスダンパ1Aと同様、
図5のようにモデル化される。
【0060】
したがって、マスダンパ1Bを、マスダンパ1Aと同様、
図4や
図10のように制震装置や免震装置として構造物3に設置するとともに、それに応じて
図8や
図11の減衰力制御処理を実行することによって、前述した第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
【0061】
図14は、本発明の第2実施形態によるマスダンパ1Cを示す。
図13との比較から明らかなように、上記の変形例によるマスダンパ1Bでは、回転マス13Bがナット11cに一体に連結されているのに対し、マスダンパ1Cは、回転マス13Bをナット11cに対して回転自在に構成し、両者の間に複数の第2永久磁石15Aを配置した点が異なる。したがって、マスダンパ1Bと同じ又は同等の構成要素について同じ符号を付し、以下、マスダンパ1Bと異なる部分を中心として、マスダンパ1Cについて説明する。
【0062】
第2永久磁石15Aは、例えばフェライト磁石で構成され、回転マス13Bの内周面に複数個、設けられ、周方向に等間隔に配置されており、ナット11cに対向している。また、図示しないが、これらの第2永久磁石15Aの極性は、隣り合う各2つの間で互いに異なるように設定されている。
【0063】
このマスダンパ1Cは、第1実施形態のマスダンパ1Aと同様、例えば
図4のように構造物3に制震装置として設置される。地震時などに構造物3の下梁BLと上梁BUの間に相対変位が発生すると、ねじ軸11aの相対的な直線運動がナット11cの回転運動に変換され、ナット11cが回転する。また、回転するナット11cに第2永久磁石15Aの磁界が作用することによって、ナット11cに渦電流が発生すると同時に、この渦電流と第2永久磁石15Aの磁界との相互作用によってローレンツ力が発生する。
【0064】
このローレンツ力は、ナット11cには、その回転方向と反対方向の抵抗力として作用する。これにより、第2永久磁石15Aによる減衰効果が発揮され、永久磁石15による減衰効果に付加されることによって、マスダンパ1Cの減衰効果が高められる。一方、上記のローレンツ力は、回転マス13Bには、ナット11cの回転方向と同じ方向の駆動力として作用する。これにより、回転マス13Bが回転駆動され、その回転慣性効果が発揮される。また、回転マス13Bが回転すると、マスダンパ1Bの場合と同様、ポールピース31の位置に応じた永久磁石15による減衰効果が発揮され、その減衰力が可変制御される。
【0065】
以上の構成及び動作から、マスダンパ1Cは、
図15のようにモデル化される。すなわち、支持部材5a、5bやマスダンパ1Aの内部剛性などから成るばね要素に、第2永久磁石15Aから成る減衰要素が接続されるとともに、この減衰要素に、互いに並列関係にある(a)回転マス13Bから成る慣性質量要素、及び(b)永久磁石15及びポールピース31から成る可変減衰要素が接続されたモデルになる。
【0066】
図16は、本発明の第3実施形態によるマスダンパ1Dを示す。このマスダンパ1Dは、
図14に示す第2実施形態のマスダンパ1Cと比較し、回転マス13Bに加えて第2回転マス13Cが設けられていることや、粘性体14が付加されていることなどが異なる。したがって、マスダンパ1Cと同じ又は同等の構成要素について同じ符号を付し、以下、マスダンパ1Cと異なる部分を中心として、マスダンパ1Dについて説明する。
【0067】
第2回転マス13Cは、比重が比較的大きな強磁性体(例えば鋼材)で構成され、肉厚の円筒状に形成されるとともに、ナット11cと回転マス13Bの間に、ナット11cと内筒12の約半部を覆うように同軸状に配置されており、両端部において軸受け22、22を介して、ナット11c及び内筒12に回転自在に支持されている。
【0068】
複数の第2永久磁石15Aは、ナット11cと第2回転マス13Cの間、例えば第2回転マス13Cの内周面に配置されている。また、粘性体14は、内筒12と第2回転マス13Cの間の間隙Gに、シール24、24を介して液密状態で充填されている。粘性体14は、所定の粘度を有する粘性材、例えばシリコンオイルで構成されている。
【0069】
また、複数の永久磁石15及びポールピース31は、第2回転マス13Cと回転マス13Bの間、例えば回転マス13Bに配置されている。
【0070】
以上の構成のマスダンパ1Dは、例えば
図4のように構造物3に制震装置として設置される。地震時などに下梁BLと上梁BUの間に相対変位が発生すると、ねじ軸11aの相対的な直線運動がナット11cの回転運動に変換され、ナット11cが回転する。その際、回転するナット11cに第2永久磁石15Aの磁界が作用することによって、ナット11cにローレンツ力が発生する。このローレンツ力が、ナット11cに抵抗力として作用することで、減衰効果が発揮されるとともに、第2回転マス13Cに駆動力として作用することで、第2回転マス13Cが回転し、その回転慣性効果が発揮される。
【0071】
また、第2回転マス13Cが回転すると、ポールピース31の位置に応じた永久磁石15によるローレンツ力が発生することによって、回転マス13Bが回転駆動され、回転慣性効果が発揮されるとともに、減衰効果が発揮され、その減衰力が可変制御される。
【0072】
また、第2回転マス13Cの回転に伴い、第2回転マス13Cと回転しない内筒12との間に充填された粘性体14の粘性抵抗(せん断抵抗)によって、振動エネルギが吸収され、熱変換されることによって、回転マス13の回転速度に応じた粘性減衰効果が発揮される。
【0073】
図17は、上述したマスダンパ1Dに対し、制御装置33によって実行される軸力制限制御処理を示す。本処理は、所定時間ごとに繰り返し実行される。なお、この制御の前提として、アクチュエータ32の電流値IAが0(オフ状態)のときに、ポールピース31が永久磁石15に対向する許容位置に位置し、電流値IAが最大値IMAXのときに、ポールピース31が永久磁石15から退避した阻止位置に駆動されるように設定されている。
【0074】
本処理では、まずステップ21において、
図8のステップ1と同様の処理によって、支持部材5a、5bの間の水平方向の相対変位RDを算出する。次に、ステップ22において、算出された相対変位RDが所定変位RDREF(例えば40mm:階高4mの場合の層間変形角1/100radに相当)よりも大きいか否かを判別する。
【0075】
この答えがNOのときには、マスダンパ1Dに過大な軸力が発生するおそれがないとして、アクチュエータ32の電流値IAを値0に設定する。これにより、ポールピース31が許容位置に制御され、永久磁石15によるローレンツ力が発生することによって、永久磁石15による減衰効果と回転マス13Bの回転慣性効果が発揮され、それにより、回転マスダンパ1Dの高い振動抑制性能を得ることができる。
【0076】
一方、前記ステップ22の答えがYESで、相対変位RDが所定変位RDREFを超えたときには、マスダンパ1Dに過大な軸力が発生するおそれがあるとして、ステップ24に進み、アクチュエータ32の電流値IAを最大値IMAXに設定する。これにより、ポールピース31が阻止位置に移動し、永久磁石15によるローレンツ力の発生が阻止されることによって、永久磁石15による減衰効果と回転マス13Bの回転慣性効果はいずれも発揮されず、それにより、マスダンパ1Dの軸力を適切に制限することができる。
【0077】
以上の構成及び動作から、マスダンパ1Dは、
図18のようにモデル化される。すなわち、支持部材5a、5bやマスダンパ1Aの内部剛性などから成るばね要素に、第2永久磁石15Aから成る減衰要素が接続されるとともに、この減衰要素に、互いに並列関係にある(a)第2回転マス1Cから成る慣性質量要素、(b)粘性体14から成る粘性要素、及び(c)第2永久磁石15Bから成る減衰要素(軸力制限要素)が接続され、さらに、この第2永久磁石15Bから成る減衰要素に回転マス13Bから成る可変の慣性質量要素が接続されたモデルになる。
【0078】
図19は、第4実施形態によるマスダンパ1Eを示す。
図16との比較から明らかなように、このマスダンパ1Eは、第3実施形態によるマスダンパ1Dに対し、回転マス13Bの構成及び配置と粘性体14の配置が異なるものである。
【0079】
具体的には、回転マス13Bは、第2フランジ18側の端部を覆う端壁部13B1と、端壁部13B1から内方に同軸状に延びる筒状の延出部13B2を有しており、この延出部13B2を介して、内筒12に嵌合するとともに、軸受け22、22により回転自在に支持されている。粘性体14は、内筒12と延出部13B2の間の間隙Gに、シール24、24を介して液密状態で充填されている。
【0080】
以上の構成から、マスダンパ1Eは、
図20のようにモデル化される。すなわち、支持部材5a、5bやマスダンパ1Aの内部剛性などから成るばね要素に、第2永久磁石15Aから成る減衰要素が接続されるとともに、この減衰要素に、互いに並列関係にある(a)第2回転マス1Cから成る慣性質量要素、及び(b)第2永久磁石15Bから成る減衰要素(軸力制限要素)が接続され、さらに、この第2永久磁石15Bから成る減衰要素に、互いに並列関係にある(c)粘性体14から成る粘性要素、及び(d)回転マス13Bから成る可変の慣性質量要素が接続されたモデルになる。
【0081】
以上のように、第4実施形態によるマスダンパ1Eは、粘性体14が回転マス13Bと並列関係にあること以外は、第3実施形態のマスダンパ1Dと同様の構成を有しており、したがって、前述した第3実施形態と同様の動作及び効果を得ることができる。
【0082】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、永久磁石15の減衰力やマスダンパの軸力制限を制御するためのアクチュエータ32の電流値IAの設定を、
図9や
図12に示したマップを用いて行っている。このマップはあくまで例示であり、電流値IAは、マスダンパの用途(制震装置と免震装置の別)や、要求される減衰力の特性及び大きさ、軸力制限の必要度合などに応じて適宜、変更して設定される。
【0083】
また、電流値IAを設定するためのパラメータとして、構造物3の支持部材5a、5b間の相対変位RDを用いているが、これに代えて、構造物3に入力される振動エネルギやマスダンパの軸力の大きさなどを表す他の適当なパラメータ、例えば支持部材5a、5bの加速度や速度を用いてもよい。
【0084】
また、第1及び第2実施形態では、永久磁石15及びポールピース31を回転不能の外筒10や内筒12の側に配置し、回転マス13A、13Bを相手部材(永久磁石が設けられず、ローレンツ力が発生する部材)としており、それにより、ポールピース31と制御装置33との間の配線などの組立てが容易になり、ポールピース31が回転することによる不具合が回避されるなどの利点が得られる。本発明はこれに限らず、上記の関係を逆にし、永久磁石15及びポールピース31を回転マス13A、13B側に配置し、外筒10や内筒12を相手部材としてもよい。
【0085】
また、実施形態では、ポールピース31が軸線方向に移動可能に構成されているが、ポールピース31を周方向に移動可能とし、永久磁石15に対向する許容位置と、永久磁石15に対して周方向にずれた阻止位置を含む所定範囲に移動させるようにしてもよい。あるいは、ポールピース31を固定とし、永久磁石15を移動させてもよい。
【0086】
また、第1及び第2実施形態では、回転マス13A、13Bを構成する導電材料として、鋼材を例示しているが、比重が比較的大きな他の導電材料、例えばフェライト系ステンレス鋼などの弱磁性体や、アルミニウム合金、オーステナイト系ステンレス又は銅合金などの非磁性体を用いることが可能である。
【0087】
また、実施形態では、永久磁石として、フェライト磁石を用いているが、他の永久磁石、例えばネオジム磁石やアルニコ磁石を用いてもよい。さらに、実施形態に示した永久磁石15やポールピース31の数はあくまで例示であり、適宜、増減される。例えば、ポールピース31の数は、永久磁石15と同数である必要はなく、例えば1/2や1/3に設定することが可能である。その他、細部の構成を、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0088】
1A 第1実施形態のマスダンパ
3 構造物
5a 支持部材(第1部位)
5b 支持部材(第2部位)
12 外筒(筒体)
11 ボールねじ
11a ねじ軸
11b ボール
11c ナット
12 内筒(筒体)
13A 回転マス
15 永久磁石
31 ポールピース(可動部材)
32 アクチュエータ(制御装置)
33 制御装置
1B 第1実施形態の変形例によるマスダンパ
13B 回転マス
1C 第2実施形態のマスダンパ
13C 第2回転マス
15A 第2永久磁石
42 第1加速度センサ(相対変位取得手段)
43 第2加速度センサ(相対変位取得手段)
1D 第3実施形態のマスダンパ
1E 第4実施形態のマスダンパ
RD 相対変位(第1部位と第2部位の間の相対変位)
DREF3 第3所定変位(所定変位)
DREF 所定変位