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特許7094760流動層反応装置及びアクリロニトリルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】流動層反応装置及びアクリロニトリルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 253/24 20060101AFI20220627BHJP
   C07C 253/26 20060101ALI20220627BHJP
   B01J 8/24 20060101ALI20220627BHJP
   C07C 255/08 20060101ALI20220627BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220627BHJP
【FI】
C07C253/24
C07C253/26
B01J8/24 311
C07C255/08
C07B61/00 300
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018076676
(22)【出願日】2018-04-12
(65)【公開番号】P2019182795
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐野 和彦
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-211768(JP,A)
【文献】特表2003-504180(JP,A)
【文献】国際公開第2012/035881(WO,A1)
【文献】特開2007-016032(JP,A)
【文献】特開平08-337806(JP,A)
【文献】実開昭57-140697(JP,U)
【文献】特開2015-139736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 253/24
C07C 253/26
B01J 8/24
C07C 255/08
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒層を含む流動層反応器と、前記流動層反応器内に原料ガスを供給する原料ガス供給器と、を備え、アクリロニトリルを製造するために用いられる流動層反応装置であって、
前記原料ガス供給器の近傍に配設された断熱材を更に備えており、
前記流動層反応器が、前記触媒層の下方に配設され、前記原料ガス供給器により供給された原料ガスを前記触媒層内に分散させる原料ガス分散管と、前記原料ガス分散管と所定距離をおいて、前記原料ガス分散管の下方に配設され、前記流動層反応器内に供給された酸素含有ガスを前記触媒層内に分散させる酸素含有ガス分散板と、を備え、
前記断熱材の配設箇所が下記(A)を含む、
(A)前記酸素含有ガス分散板上
流動層反応装置。
【請求項2】
前記酸素含有ガス分散板が、前記酸素含有ガスを前記触媒層内に均一に分散させるように、複数の孔を有し、
前記断熱材が、前記複数の孔を覆わないように配設された、請求項1に記載の流動層反応装置。
【請求項3】
前記断熱材が、前記流動層反応器の側壁の内壁面に配設された、請求項1又は2に記載の流動層反応装置。
【請求項4】
触媒層を含む流動層反応器に、プロピレン及び/又はプロパン、並びにアンモニアを含む原料ガスと、酸素含有ガスとを供給する工程(1)と、
前記原料ガスを前記触媒層に通過させてアクリロニトリルを得る工程(2)と、
を含み、
前記流動層反応器は、前記原料ガスを供給する部位の近傍に断熱材が配設され、前記断熱材の配設箇所が前記酸素含有ガスを前記触媒層内に分散させる酸素含有ガス分散板上であることを含む、アクリロニトリルの製造方法。
【請求項5】
前記断熱材を用いて、前記原料ガスを供給する部位の近傍の異常発熱による影響を緩和する工程(3)を更に含む、請求項4に記載のアクリロニトリルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動層反応装置及びアクリロニトリルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流動層技術は19世紀後半に開発されて以来、各種の製造技術に応用がなされている。流動層の主たる工業的応用としては、石炭ガス化炉、FCCプラント、プロピレンのアンモ酸化によるアクリロニトリル製造プラント、ポリエチレン気相重合プラント、無水マレイン酸製造プラント等が挙げられる。流動層反応器は、反応熱の除去又は付加が容易であるため、層内を均一温度に維持できること、生産性が高いこと等の特徴を有している。このため、流動層反応器は、今後も各方面での応用、改良が期待されている。
【0003】
一般的な流動層反応装置の内部構造については、例えば、非特許文献1に記載されている。このような通常の流動層反応装置の概略図を図3に示す。図3に示す流動層反応装置では、流動層反応器1の酸素含有ガス導入管2から酸素含有ガスを導入し、導入した酸素含有ガスを酸素含有ガス分散板3の吹出し孔を通して触媒層6に導入する。一方、原料導入管4より原料ガスを導入し、導入した原料ガスを原料分散管5の吹出し管を通して触媒層6に導入する。これにより、触媒層6にて、酸素含有ガスと原料とで触媒を流動させる。
【0004】
触媒層6を出る生成ガスに同伴するように触媒層6から触媒粒子の一部が飛び出す。その一部は、生成ガスに同伴するように流動層反応装置外に排出される。そこで、流動層反応器1では、触媒粒子の外部への排出を防止するためのサイクロン8a、8b、8cが流動層反応器1の上部に配設されている。生成ガスと、この生成ガスと同伴する触媒粒子は、サイクロン入口7からサイクロンに導入される。このようなサイクロンは、通常、触媒粒子の捕集効率を上げるために3段のサイクロンが直列につながれた形態で用いられる。なお、生成ガスがサイクロン内で流通する順序に対応して、3段のサイクロンをそれぞれ、「No.1サイクロン」、「No.2サイクロン」、「No.3サイクロン」という。図3の流動層反応装置は、3段のサイクロンを1系列有するが、流動層反応装置は、生成ガス量に応じて、3段のサイクロンを2系列以上有することもある。そして、生成ガスは、生成ガス流出管10を通して流動層反応器1外部へ排出され、触媒粒子は、ディプレッグ9a、9b、9cを通して、触媒層6に戻される。
【0005】
特許文献1には、エアー及びプロピレンのノズルピッチを90mm以上250mm以下、かつノズル密度を16個/m2以上120個/m2以下とするα,β-不飽和ニトリルの製造装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-123767号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】橋本健治、工業反応装置、培風館、(1984)、170頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に記載の流動層反応装置に設置されている酸素含有ガス分散板は、酸素含有ガスの均一分散及び良好な触媒流動を達成する観点から使用される。アクリロニトリルを製造する流動層反応装置においても、同様な観点で酸素含有ガス分散板が設置されている。このようなアクリロニトリルを製造する流動層反応装置に関して、本発明者は、運転経過に伴い又は緊急停止後の運転再開時に流動層反応器下部に局所的な高温部が発現する場合があることを見出した。
【0009】
特許文献1に記載の酸素含有ガス分散板及び原料ガス分散管の構造では、目的生成物の収率を高位に維持するため、良好なガス分散及び触媒流動を達成できるものの、局所的な高温部の発現が流動層反応装置へ及ぼす熱的影響に対応することはできない。
【0010】
従って、本発明が解決しようとする課題は、アクリロニトリルを製造するための流動層反応器の下部における異常発熱が流動層反応装置に及ぼす熱的影響を緩和することが可能であり、その結果、安定かつ安全にアクリロニトリルを製造可能な流動層反応装置及びアクリロニトリルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、従来の流動層反応器下部における異常発熱を生じさせる原因が、流動層反応器下部における触媒等の堆積及びガスの滞留にあると推定した。そして、本発明者は、さらに鋭意検討した結果、原料ガスを供給するための原料ガス供給器の近傍に断熱材を配設すると、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)
触媒層を含む流動層反応器と、前記流動層反応器内に原料ガスを供給する原料ガス供給器と、を備え、アクリロニトリルを製造するために用いられる流動層反応装置であって、
前記原料ガス供給器の近傍に配設された断熱材を更に備えている流動層反応装置。
(2)
前記流動層反応器が、前記触媒層の下方に配設され、前記原料ガス供給器により供給された原料ガスを前記触媒層内に分散させる原料ガス分散管と、前記原料ガス分散管と所定距離をおいて、前記原料ガス分散管の下方に配設され、前記流動層反応器内に供給された酸素含有ガスを前記触媒層内に分散させる酸素含有ガス分散板と、を備え、
前記断熱材の配設箇所が下記(A)及び/又は(B)を含む、(1)の流動層反応装置。
(A)前記酸素含有ガス分散板上
(B)前記酸素ガス含有ガス分散板から、前記原料ガス分散管から上方向に1m離れた高さ位置までの間の前記流動層反応器の内壁
(3)
前記酸素含有ガス分散板が、前記酸素含有ガスを前記触媒層内に均一に分散させるように、複数の孔を有し、
前記断熱材が、前記複数の孔を覆わないように配設された、(1)又は(2)の流動層反応装置。
(4)
前記断熱材が、前記流動層反応器の側壁の内壁面に配設された、(1)~(3)のいずれかの流動層反応装置。
(5)
触媒層を含む流動層反応器に、プロピレン及び/又はプロパン、並びにアンモニアを含む原料ガスと、酸素含有ガスとを供給する工程(1)と、
前記原料ガスを前記触媒層に通過させてアクリロニトリルを得る工程(2)と、
を含み、
前記流動層反応器は、前記原料ガスを供給する部位の近傍に断熱材が配設されている、アクリロニトリルの製造方法。
(6)
前記断熱材を用いて、前記原料ガスを供給する部位の近傍の異常発熱による影響を緩和する工程(3)を更に含む、(5)のアクリロニトリルの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アクリロニトリルを製造するための流動層反応器の下部における異常発熱による熱的影響を緩和可能であり、その結果、安定かつ安全にアクリロニトリルを製造可能な流動層反応装置及びアクリロニトリルの製造方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の流動層反応装置の一例を示す概略断面図である。
図2図2は、本発明の流動層反応装置の下部の拡大図である。
図3図3は、一般的な流動層反応装置の一例を示す概略断面図である。
図4図4は、一般的な流動層反応装置の下部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0016】
本実施形態の流動層反応装置は、触媒層を含む流動層反応器と、流動層反応器内に原料ガスを供給する原料ガス供給器と、を備え、アクリロニトリルを製造するために用いられる流動層反応装置である。流動層反応装置は、原料ガス供給器の近傍(例えば、原料ガス供給器の流動層反応器内への排出口)に配設された断熱材を更に備えている。流動層反応装置が断熱材を備えることにより、流動層反応装置は、流動層反応器の下部における異常発熱による熱的影響を緩和可能であり、その結果、安定かつ安全にアクリロニトリルを製造できる。
【0017】
[流動層反応装置]
図1は、本実施形態の流動層反応装置の一例を示す概略断面図である。図1に示す流動層反応装置は、流動層反応器1と、流動層反応器1内に原料ガスを供給する原料ガス供給器4とを備える。図1に示す流動層反応器1は、気相反応の反応系と外部とを分画する気相反応装置の本体部分に相当する。流動層反応器1の形状としては、特に限定されず、公知の形状であってもよい。原料ガス供給器4としては、原料ガスを流動層反応器1内に原料ガスを供給可能であれば特に限定されない。原料ガス供給器4の形状としては、特に限定されず、例えば、管状の形態を有するものであってもよい。原料ガスとしては、アクリロニトリルを製造するために通常用いられる原料ガスが挙げられ、より詳細にはプロピレン及び/又はプロパン、並びにアンモニアが挙げられる。
【0018】
(流動層反応器1)
流動層反応器1は、例えば、その内部の下部に形成された触媒層6と、触媒層6の下方に配設され、原料ガス供給器4により供給された原料ガスを触媒層6内に分散させる原料ガス分散管5と、流動層反応器1の底部に配設され、流動層反応器1内部に酸素含有ガスを導入する酸素含有ガス導入管2と、原料ガス分散管5と所定距離をおいて、原料ガス分散管の下方に配設され、酸素ガス導入管2により流動層反応器1内に供給された酸素含有ガスを触媒層6内に分散させる酸素含有ガス分散板3と、流動層反応器1内の上方に配設された3段のサイクロン8a、8b、及び8cと、サイクロン8aの入り口に相当するサイクロン入口7と、各サイクロン8a、8b、及び8cと接続した3段のディプレッグ9a、9b、及び9cと、流動層反応器1の塔頂部に配設された生成ガス流出管10と、冷却コイル11と、空気(酸素含有ガス)分散板3と、原料ガス分散管5との間に施工により配設された断熱材12とを備えている。
【0019】
(触媒層6)
触媒層6は、流動層反応器1の内部の下部に形成されている。触媒層6には、反応の種類に応じた流動層触媒が充填されている。流動層触媒としては、特に限定されず、例えば、シリカ等に担持された金属酸化物触媒が挙げられる。反応が、プロピレン及び/又はプロパンのアンモ酸化反応である場合、流動層触媒としては、Mo-V-(Sb及び/又はTi)系、Mo-V-Fe系、及びMo-Bi-Fe系の酸化物が挙げられ、90質量%以上の触媒粒子の粒子径が10~197μmであり、圧壊強度が10MPa以上であるものが好適に用いられる。
【0020】
(原料ガス分散管5)
原料ガス分散管5は、触媒層6の下方に配設され、原料ガス供給器4により供給された原料ガスを触媒層6内に分散させる。原料ガス分散管5としては、原料ガスを触媒層6内に分散可能であり、管状の形態を有するのであれば特に限定されない。
【0021】
(酸素含有ガス導入管2)
酸素含有ガス導入管2は、流動層反応器1の底部に配設され、流動層反応器1内に酸素含有ガスを導入する。酸素含有ガス導入管2としては、酸素含有ガスを流動層反応器1内部に導入可能であり、管状の形態を有するのであれば特に限定されない。酸素含有ガスとしては、例えば、酸素及び空気が挙げられる。
【0022】
(酸素含有ガス分散板3)
酸素含有ガス分散板3は、原料ガス分散管5と所定距離をおいて、原料ガス分散管5の下方に配設され、酸素ガス導入管2により流動層反応器1内に供給された酸素含有ガスを触媒層6内に分散させる。酸素含有ガス分散板3としては、酸素含有ガスを触媒層6内に分散可能であり、板状の形態を有するものであれば特に限定されない。酸素含有ガス分散板3の具体例を図2に示す。図2は、図1の酸素含有ガス分散板3及び原料ガス分散管5近傍一例を示す部分概略図である。図2に示す酸素含有ガス分散板3は、酸素含有ガスを触媒層内に均一に分散させるように、複数の孔を有している。図2に示す複数の孔は、所定間隔をおいて均等に配置されている。ただし、本実施形態において、複数の孔の配置形態はこれに限定されない。
【0023】
(サイクロン8a~8c)
サイクロン8a~8cは、流動層反応器1内の上方に配設される。図1に示す流動層反応器1は、1系列のサイクロンを有するが、本実施形態の流動層反応器のサイクロンの系列数は、1であってもよく、複数であってもよい。
【0024】
(ディプレッグ9a~9c)
各ディプレッグ9a~9cは、各サイクロン8a~8cと接続している。図1に示す流動層反応器1は、1系列のディプレッグを有するが、本実施形態の流動層反応器のディプレッグの系列数は、1であってもよく、複数であってもよい。
【0025】
(生成ガス流出管10)
生成ガス流出管10は、流動層反応器1の塔頂部に配設されており、生成ガスを外部に流出する。生成ガス流出管10としては、生成ガスを外部に流出可能であり、管状の形態を有するものであれば特に限定されない。
【0026】
(冷却コイル11)
冷却コイル11としては、コイル状の形態を有し、流動層反応器内の温度を制御可能であれば特に限定されない。この例では、冷却コイルは、複数の除熱管等からなる。気相反応が発熱反応である場合は、流動層反応器1内に設けられた冷却コイル11を用いて反応熱が除熱されて反応温度が制御される。反応温度は反応温度を計測するための反応温度計測用温度計で測定されるが、ケミカルプラントにおいて通常用いられるものでよく、特に形式等は限定されない。流動層反応装置は、反応温度計測用温度計を触媒層の温度分布を把握できる箇所に複数個設置することが好ましい。
【0027】
(断熱材12)
断熱材12は、酸素含有ガス分散板3と原料ガス分散管5との間に施工により配設されている。断熱材12は、図1及び図2に示すように、断面図において、複数の孔を覆わないように施工されている。流動層反応装置は、これにより、酸素ガス分散板3から原料ガス分散管5間で異常発熱があった場合、流動層反応装置に及ぼす熱的影響を緩和することができるとともに、酸素含有ガス及び原料ガスの触媒層6内への分散を阻害することがない。断熱材12は、図2に示すように、酸素含有ガス分散板3の上部に配設されてもよいし、図1に示すように酸素含有ガス分散板3上に配設され、かつ酸素含有ガス分散板3と原料ガス分散管5との間であって、流動層反応器1の内壁面に配設されてもよい。これにより、流動層反応器1の底面及び側壁における異常発熱時の熱的影響を緩和できる。なお、図2では、断熱材12を金属13で断熱材12表面をカバー(被覆)しているが、金属13は、流動層触媒による断熱材12の摩耗を防止する目的でカバーされているものであり、カバーは断熱材12に設置されることが好ましい。
【0028】
図1及び図2に示す断熱材12は、酸素含有ガス分散板3と、原料ガス分散管5との間に施工により配設されているが、本実施形態の流動層反応装置において、断熱材は、原料ガス供給器の近傍に配設されていれば特に限定されない。ここでいう「原料ガス供給器の近傍」とは、例えば、流動層反応器下部における異常発熱による熱的影響を適切に緩和できる箇所をいい、安定性及び安全性を向上させる観点から、(A)酸素含有ガス分散板上、及び/又は(B)酸素含有ガス分散板上から、原料ガス分散管から上方向に1m離れた高さ位置までの流動層反応器の内壁に施工により配設されていることが好ましい。同様の観点から、「原料ガス供給器の近傍」は、(A)酸素含有ガス分散板上、及び/又は(B)酸素含有ガス分散板上から、原料ガス分散管から上方向に0.5m離れた高さ位置までの流動層反応器の内壁に施工により配設されていることがより好ましく、(A)酸素含有ガス分散板上、及び/又は(B)酸素含有ガス分散板と原料ガス分散管との間の反応器壁に施工により配設されていることが更に好ましい。また、断熱材は、Mo片(モリブデン片)が堆積し、触媒流動を阻害する懸念のある金属面上に箇所に施工されることが特に好ましい。
【0029】
断熱材12としては、耐火性のあるセメント状のものが断熱性及び施工のし易さの観点から好ましい。耐火性キャスタブルがより好ましく、主要成分はアルミナ及び二酸化ケイ素で、最高使用温度は1500℃以上のものが好ましい。
【0030】
[アクリロニトリルの製造方法]
本実施形態のアクリロニトリルの製造方法は、触媒層を含む流動層反応器に、プロピレン及び/又はプロパン、並びにアンモニアを含む原料ガスと、空気又は酸素とを供給する工程(1)と、原料ガスを触媒層に通過させてアクリロニトリルを得る工程(2)と、を含み、流動層反応器は、原料ガスを供給する部位の近傍に断熱材が施工により配設されている。
【0031】
以下、図1に示す流動層反応装置を用いた場合を例に挙げて、本実施形態のアクリロニトリル生成方法について説明する。
【0032】
[工程(1)]
工程(1)は、触媒層を含む流動層反応器に、プロピレン及び/又はプロパン、アンモニアを含む原料ガスと、酸素含有ガスを供給する工程である。原料ガスは、例えば、原料ガス供給器4により流動層反応器1に供給される。酸素含有ガスは、例えば、酸素含有ガス導入管2により流動層反応器1に供給される。酸素含有ガスは、安全性の観点から、原料ガスとは配管内で予め混合せず、酸素含有ガス導入管2を通じ、流動層反応器1の下部に設けられた酸素含有ガス分散板3から反応器に導入される。
【0033】
供給された原料ガスは、流動層反応器1の下側に接続された原料ガス供給器4及び原料ガス供給器4と接続した原料ガス分散管5を通じて、必要量の流動層触媒が充填されている流動層反応器内に供給される。酸素含有ガスは、流動層反応器1の底部(下側)に接続された酸素含有ガス導入管2及び酸素含有ガス分散板3を通じて、必要量の流動層触媒が充填されている流動層反応器内に導入される。反応原料及び反応生成物は、概して反応器内を下から上へと流通する。
【0034】
原料ガスが触媒層に導入されることで、流動層触媒は流動化する。尚、図1には流動触媒層6の界面が記載されている。該界面は、原料ガス未導入時は静止している。原料ガス導入後は、触媒層の空隙率の増加及び大小のあわだちによって界面の突出が起こるため、層高は均一ではなくなる。従って、界面の位置はあくまで近似的・平均的に図示されたものにすぎない。
【0035】
[工程(2)]
工程(2)は、原料ガスを触媒層に通過させてアクリロニトリルを得る工程である。原料ガスは触媒層を通過しながら反応して、アクリロニトリル、アセトニトリル、シアン化水素等を含む生成ガスが得られる。
【0036】
[工程(3)]
本実施形態におけるアクリロニトリルの製造方法は、断熱材12を用いて、原料ガスを供給する部位の近傍(例えば、原料供給器の近傍)の異常発熱による影響(例えば、熱的損傷)を緩和(又は抑制)する工程(3)を更に含むことが好ましい。緩和工程(3)は、工程(2)の前に行ってもよく、工程(2)の後に行ってもよい。
【0037】
本実施形態におけるアクリロニトリルの製造方法は、生成ガスを触媒層から排出してサイクロンに導入したのち、生成ガスを流動層反応器から排出する工程(4)、及び/又は、生成ガスがサイクロンに導入される際に同伴される触媒を回収して前記触媒層へ戻す工程(5)を、さらに含んでいてもよい。
【0038】
[工程(4)]
工程(4)は、生成ガスを触媒層から排出してサイクロンに導入したのち、前記生成ガスを流動層反応器1から排出する工程である。例えば、工程(2)で得られた生成ガスは触媒層から排出されてサイクロン入り口7からサイクロン8a、8b及び8cに導入されたのち、流動層反応器1から排出される。
【0039】
[工程(5)]
工程(5)は、生成ガスがサイクロンに導入される際に同伴される触媒を回収して前記触媒層へ戻す工程である。生成ガスが触媒層から排出される際に、生成ガスに触媒が同伴されるため、触媒が飛散される。生成ガスと同伴して飛散された触媒を捕集して生成ガスと分離するために、例えば、図1に示すような第1段サイクロン8a、第2段サイクロン8b及び第3段サイクロン8cを用いる。触媒を同伴している生成ガスは図1のサイクロン入り口7に流入され、第1段サイクロン8a、第2段サイクロン8b、第3段サイクロン8cの順に通過して、生成ガスと触媒は分離される。分離された触媒は、それぞれのサイクロンに取り付けられた第1段ディプレッグ9a、第2段ディプレッグ9b及び第3段ディプレッグ9c中に回収され、触媒層6へ戻される。
【0040】
流動層反応器内において、空気(酸素)分散板3から原料分散管5の間の距離は、通常50~450mmと比較的狭い上、同空間には原料ガスや空気(酸素)を流動層触媒内に噴出する多数のノズルが存在する。加えて、前記原料分散管のサポート、温度計、各種ノズル等も存在している。アクリロニトリル製造中、流動層反応器内の流動層触媒に含まれるモリブデン(Mo)は、その一部が流動層触媒から昇華して、反応ガス中に出る。昇華したMo化合物は、冷却コイル、反応器の器壁、ノズル、サイクロン等の低温部表面に、多くがMo酸化物として蒸着する。これらMo酸化物は、流動層触媒を巻き込んだりして前記表面で固体化する。発明者は、運転が経過するに従って、Mo酸化物の層は増加し、驚くべきことに厚さが5~20mmに達することもあることを見出している。Mo酸化物層は、運転中の冷却コイルの切替によるヒートショック等や通常停止、緊急停止時の温度履歴等により剥がれ落ち、反応器下部に落ちる。落下によりMo酸化物は砕かれ、表面積が数平方cm~数十平方cmの板状のMo片となる。前記Mo片の多くは、流動層触媒とともに流動し、細分化を繰り返して、サイズが数mm~ミクロンオーダーの小片となる。一方、流動しない質量を持つ大型のMo片や反応器下部の外周部とか流動を阻害する機器、例えば温度計、ノズル、サポートの近傍等流動性が悪い場所に落下したMo片等は、前述のように細分化されず、Mo片が堆積する場合がある。この堆積したMo片は、良好な触媒流動を阻害するので、当該部位の触媒は不良触媒となったり、異常発熱を起こしやすかったりする。本発明者は、上述した課題を解決するために、原料ガスを供給する部位の近傍における異常発熱に対処する装置を備えることが有効であることを見出している。
【実施例
【0041】
次に、本実施形態を実施例及び比較例により更に詳細に説明する。ただし、本実施形態はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【0042】
なお、実施例で用いた流動層反応装置は、図1に示す流動層反応装置と同様である。計測器及び付属設備は通常使用されるものであり、通常の誤差範囲内のものであった。
【0043】
反応生成物の収率及び未反応率は、生成ガスをサンプリングし、ガスクロマトグラフィー(GC)で測定した分析データから下式により計算した。
(反応生成物の収率(%))=(生成物中の炭素質量(g))/(供給した反応原料である有機化合物中の炭素質量(g))×100
(未反応率(%))=(未反応の反応原料である有機化合物中の炭素質量(g))/(供給した反応原料である有機化合物中の炭素質量(g))×100
なお、GCの測定機器及び測定条件は以下のとおりとした。
ガスクロマトグラフィー:島津GC-14B
カラム:Porapack-QS(50~80Mesh)
検出器:FID
キャリヤーガス:窒素
【0044】
[実施例1]
反応の原料ガスであるプロピレン、アンモニア及び空気を図1に示す流動層反応器1に供給し、プロピレンのアンモ酸化反応を下記のとおりに行った。
【0045】
流動層反応器1は、内径8m、長さ20mの縦型円筒型で、下から2mの位置に酸素含有ガス分散板3、その上に原料ガス分散管5を有するものであった。触媒層の温度を測定するための温度計が、酸素含有ガス分散板3から上方1.5~4.5mの間に20点取り付けられていた。反応器上部温度を測定するための温度計が、サイクロン8a~8c上部の空間に2点取り付けられていた。酸素含有ガス分散板3上には、図2に示すように断熱材12が設置されていた。断熱材12は、最高使用温度1800℃、主要化学成分としてAlが96%、SiOが0.5%、カサ比重2.7-2.8、熱伝導率は400℃で1.13kcal/mh℃、800℃で1.27kcal/mh℃である耐火キャスタブルを使用した。触媒には、粒径10~100μm、平均粒径55μm、粒径24μm以下の含有率が1.4wt.%であるモリブデン-ビスマス-鉄系担持触媒を用い、静止層高2.7mとなるよう充填した。酸素含有ガス分散板3から空気を56000Nm3/h供給し、原料ガス供給器4からプロピレンを6200Nm3/h及びアンモニアを6600Nm3/h供給した。反応温度は440℃、反応器上部の圧力は0.70kg/cm2G、流動層反応器1の下部(原料ガス分散管5付近)の圧力は0.73kg/cm2Gであった。
【0046】
反応器運転開始し、安定後、反応成績を分析したところ、アクリロニトリルの収率は81.5%、プロピレンの未反応率は1.1%であった。開始から1年1ヶ月後間の運転期間中、アクリロニトリルの収率は、80.9~81.7%、プロピレンの未反応率は、0.80~1.3%で変動した。その後、生産調整のため、反応器を2週間停止した。2週間の停止期間、反応器内の触媒はそのまま保持していた。再開のため、原料ガス及び空気を反応器に導入した。安定後、及び反応成績を分析したところ、アクリロニトリルの収率は81.4%、プロピレンの未反応率は1.0%であった。再開翌日のアクリロニトリルの収率は79.9%、プロピレンの未反応率は2.3%であった。アクリロニトリル収率の低下及びプロピレンの未反応率が高いため、同日夕方、反応器を停止させた。反応器の内部点検を行ったところ、図2において左から1本目のノズルと同2本目のノズルの間に触媒の塊(約10cm四方)が発見された。近傍のノズルは溶損していたが、断熱材12及び酸素含有ガス分散板3は健全であった。前期触媒の塊をサンプリングして触媒性能を見たが、失活していた。その他の触媒は性能上の問題はなく、再使用が可能であった。
【0047】
[実施例2]
実施例1と同様の装置を用いて、原料ガスのうちプロピレンをプロパンに変えて原料ガスを流動層反応器に供給し、プロパンのアンモ酸化反応を下記のとおりに行った。
【0048】
触媒には、粒径10~100μm、平均粒径55μm、粒子径24μm以下の含有率が1.3wt.%であるモリブデン-バナジウム系担持触媒を用い、静止層高2.2mとなるよう充填した。酸素ガス分散板3から空気を64500Nm3/h供給し、原料ガス分散管からプロパンを4300Nm3/h及びアンモニアを4300Nm3/h供給した。反応温度は440℃、流動層反応器1上部の圧力は0.75kg/cm2G、流動層反応器1下部(原料ガス分散管5付近)の圧力は0.77kg/cm2Gであった。
【0049】
反応器運転開始直後、反応成績を分析したところ、アクリロニトリルの収率は52.1%、プロパンの未反応率は10.8%であった。2年間の運転期間中、アクリロニトリルの収率は、51.7~52.5%、プロパンの未反応率は、9.9~11.3%で変動した。2年を経過後、定修を迎え、反応器を停止させた。流動層反応器1の内部点検を行ったところ、図2において一番左側のノズル近傍にMo片が堆積しており、断熱材12のカバーが溶損していた。触媒、酸素含有ガス分散板に異常はなかった。
【0050】
[比較例1]
断熱材12を施工しなかったこと以外は実施例1と同様の流動層反応装置で、実施例1と同様の触媒及び同流量のプロピレン、アンモニア及び空気で流動層反応装置を運転した。
【0051】
反応器運転開始直後、反応成績を分析したところ、アクリロニトリルの収率は81.5%、プロピレンの未反応率は1.1%であった。1年間の運転期間中、アクリロニトリルの収率は、79.9~81.7%、プロピレンの未反応率は、0.75~2.0%で変動した。反応開始から1年後、反応器を停止した。反応器の内部点検を実施したところ、外周付近に触媒の塊があり、前記触媒の塊付近に位置する原料ガス分散管ノズル3本及び酸素含有ガス分散板が溶損していた。酸素含有ガス分散板の補修のため、停止期間が通常より3週間伸びた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、流動層反応装置を用いて気相反応を実施する際に、有効に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 流動層反応器
2 酸素含有ガス導入管
3 酸素含有ガス分散板
4 原料ガス導入管
5 原料ガス分散管
6 触媒層
7 サイクロン入口
8c 第1段サイクロン
8b 第2段サイクロン
8a 第3段サイクロン
9c 第1段ディプレッグ
9b 第2段ディプレッグ
9a 第3段ディプレッグ
10 生成ガス流出管
11 冷却コイル
12 断熱材
13 金属
図1
図2
図3
図4