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特許7094784複数プログラムの連携解析システム及び連携解析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】複数プログラムの連携解析システム及び連携解析方法
(51)【国際特許分類】
   G16Z 99/00 20190101AFI20220627BHJP
【FI】
G16Z99/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018112163
(22)【出願日】2018-06-12
(65)【公開番号】P2019215678
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝脇 賢也
(72)【発明者】
【氏名】上都 礼智
【審査官】山内 裕史
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-115520(JP,A)
【文献】特開平11-231089(JP,A)
【文献】特開2003-034200(JP,A)
【文献】特開2000-338854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の解析プログラムを備えた一の解析部と、前記一の解析プログラムとは異なる他の解析プログラムを備えた他の解析部とを有し、前記一の解析プログラムから前記他の解析プログラムへ切り替えて解析を行う複数プログラムの連携解析システムにおいて、
前記他の解析プログラムへの切替以前から前両解析プログラムを用いて解析が行われた状態で、予め設定された注目パラメータについて前記一の解析プログラムと前記他の解析プログラムのそれぞれにおける解析結果の偏差を求め、前記他の解析プログラムの入力条件である境界条件の操作パラメータを、前記偏差に基づいて定期的に修正する境界条件修正機能部を有して構成されたことを特徴とする複数プログラムの連携解析システム。
【請求項2】
前記境界条件修正機能部は、注目パラメータについての一の解析プログラムと他の解析プログラムのそれぞれにおける解析結果の偏差に基づいて、前記他の解析プログラムの境界条件における操作パラメータを複数選択し、これら複数の前記操作パラメータを前記偏差に基づいて定期的に修正するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の複数プログラムの連携解析システム。
【請求項3】
前記境界条件修正機能部は、注目パラメータが複数存在する場合であって、各注目パラメータについての一の解析プログラムと他の解析プログラムのそれぞれにおける解析結果の偏差が許容範囲を超える場合には、前記偏差が前記許容範囲内になるように前記他の解析プログラムの境界条件の操作パラメータを定期的に修正し、
前記偏差が前記許容範囲内にある場合には、前記偏差に基づいて各注目パラメータの全体一致度を求め、この各注目パラメータの全体一致度に基づいて前記他の解析プログラムの前記境界条件の前記操作パラメータを定期的に修正するよう構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の複数プログラムの連携解析システム。
【請求項4】
前記境界条件修正機能部のほかに、プラント状態の非連続な時系列データを備えた計算断面を選択する計算断面選択機能部を有し、
前記計算断面選択機能部は、一の解析プログラムと他の解析プログラムのそれぞれの解析結果に最も近い前記計算断面を選択し、または選択した前記計算断面を変更し、変更した場合には、その変更した計算断面が備える境界条件データを用いて前記他の解析プログラムの境界条件の操作パラメータを修正し、
前記境界条件修正機能部は、選択された前記計算断面における各注目パラメータについての前記解析結果の偏差から算出された各注目パラメータの全体一致度に基づいて、前記他の解析プログラムの前記境界条件の前記操作パラメータを定期的に修正するよう構成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の複数プログラムの連携解析システム。
【請求項5】
前記境界条件修正機能部のほかに、プラント状態の非連続な時系列データを備えた計算断面毎に一の解析プログラムと他の解析プログラムとが解析を行うことで求められた前記両解析プログラムにおける境界条件の操作パラメータの差分をバイアスデータとして格納するバイアスデータ格納部を有し、
前記境界条件修正機能部は、前記他の解析プログラムの前記境界条件の前記操作パラメータに前記バイアスデータを加算することで、前記他の解析プログラムの前記境界条件の前記操作パラメータを定期的に修正するよう構成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の複数プログラムの連携解析システム。
【請求項6】
一の解析プログラムから、この一の解析プログラムとは異なる他の解析プログラムへ切り替えて解析を行う複数プログラムの連携解析方法において、
前記他の解析プログラムの境界条件の操作パラメータを修正する境界条件修正機能部が、前記他の解析プログラムへの切替以前から前記両解析プログラムを用いて解析を行い、
予め設定された注目パラメータについて前記一の解析プログラムと前記他の解析プログラムのそれぞれにおける解析結果の偏差を求め、前記他の解析プログラムの入力条件である前記境界条件の前記操作パラメータを、前記偏差に基づいて定期的に修正することを特徴とする複数プログラムの連携解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、異なる種類の解析プログラムを切り替えて解析を行なう複数プログラムの連携解析システム及び複数プログラムの連携解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントでは安全評価等のためにシミュレーションによる解析評価が実施されている。その際に解析評価の対象事象(過渡事象・事故事象等)によって、異なる解析プログラムが用いられている。これは、事象毎にプラントの挙動に影響を与える物理事象が異なることや、評価上注目するプラントパラメータが異なること等が理由として挙げられる。
【0003】
そのため、複数の異なる事象を連続して模擬する場合や、途中で他の事象に進展するような場合などでは、異なる解析プログラムでの評価が必要になり、シミュレーションによる解析評価の途中の時点で解析プログラムを切り替えていた。つまり、解析中の一の解析プラグラムの解析結果から、他の解析プログラムの入力データを作成して、この他の解析プラグラムで続きの解析を行うものである。
【0004】
これまでに、これらの解析プログラムの処理を自動で行う技術がある。この技術は、非常に短時間で速い変化が起きる原子力プラントの圧力容器の損傷等を模擬する解析プログラム(一の解析プログラム)と、解析時間が長期に及ぶ炉心損傷の解析を行う解析プログラム(他の解析プログラム)を自動で切り替えて連続して解析を行うものである。この技術によれば、一の解析プログラムの解析限界を検知して、この一の解析プログラムの解析結果から他の解析プログラムの入力データを作成して他の解析プログラムを起動するという解析プログラムの切替操作を自動で行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-338854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の技術によれば、一の解析プログラムの解析結果から他の解析プログラムの入力データを作成するが、一の解析プログラムと他の解析プログラムとは解析モデルが異なるため、切替時点で解析結果の不連続が生じる課題がある。
【0007】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、異なる解析プログラムの切替時点における両解析プログラムの解析結果の不連続を防止できる複数プログラムの連携解析システム及び連携解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態における複数プログラムの連携解析システムは、一の解析プログラムを備えた一の解析部と、前記一の解析プログラムとは異なる他の解析プログラムを備えた他の解析部とを有し、前記一の解析プログラムから前記他の解析プログラムへ切り替えて解析を行う複数プログラムの連携解析システムにおいて、前記他の解析プログラムへの切替以前から前記両解析プログラムを用いて解析が行われた状態で、予め設定された注目パラメータについて前記一の解析プログラムと前記他の解析プログラムのそれぞれにおける解析結果の偏差を求め、前記他の解析プログラムの入力条件である境界条件の操作パラメータを、前記偏差に基づいて定期的に修正する境界条件修正機能部を有して構成されたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の実施形態における複数プログラムの連携解析方法は、一の解析プログラムから、この一の解析プログラムとは異なる他の解析プログラムへ切り替えて解析を行う複数プログラムの連携解析方法において、前記他の解析プログラムの境界条件の操作パラメータを修正する境界条件修正機能部が、前記他の解析プログラムへの切替以前から前記両解析プログラムを用いて解析を行い、予め設定された注目パラメータについて前記一の解析プログラムと前記他の解析プログラムのそれぞれにおける解析結果の偏差を求め、前記他の解析プログラムの入力条件である前記境界条件の前記操作パラメータを、前記偏差に基づいて定期的に修正することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、異なる解析プログラムの切替時点における両解析プログラムの解析結果の不連続を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る複数プログラムの連携解析システムの構成を示すブロック図。
図2図1における境界条件修正機能部の処理動作を示すフローチャート。
図3】第2実施形態に係る複数プログラムの連携解析システムにおける境界条件修正機能部の処理動作を示すフローチャート。
図4】第3実施形態に係る複数プログラムの連携解析システムにおける境界条件修正機能部の処理動作を示すフローチャート。
図5】第4実施形態に係る複数プログラムの連携解析システムの構成を示すブロック図。
図6図5における計算断面選択機能部の処理動作を示すフローチャート。
図7】第5実施形態に係る複数プログラムの連携解析システムの構成を示すブロック図。
図8】第6実施形態に係る複数プログラムの連携解析システムの構成を示すブロック図。
図9図8の補完機能部の処理動作を示すフローチャート。
図10】比較技術における複数プログラムの連携解析システムの構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(図1図2
図1は、第1実施形態に係る複数プログラムの連携解析システムの構成を示すブロック図である。この図1及び図2に示す複数プログラムの連携解析システム10の特徴を明確にするため、まず、図10に示す比較技術における複数プログラムの連携解析システム100について述べる。尚、これらの複数プログラムの連携解析システム10、100において、同一内容については同一の符号を付している。
【0013】
図10に示す複数プログラムの連携解析システム100は、一の解析部101と他の解析部102を有し、一の解析部101の計算モデル103が解析プログラムAを備え、他の解析部102の計算モデル104が解析モデルBを備える。
【0014】
解析プログラムAと解析プログラムBは、例えば同一のプラントを解析し評価するプログラムではあるが、対象事象が異なるため、運転員などによる操作データや周辺環境などの外部データ(操作・外部データC)は同一でも、別々の解析プログラムになっている。複数プログラムの連携解析システム100は、異なる対象事象を連続して解析し評価することを可能としたシステムである。
【0015】
つまり、この複数プログラムの連携解析システム100によれば、例えば対象事象が軽度の事故事象(事象α)から過酷事故事象(事象β)へ進展するような場合に、軽度の事故事象までを詳細に解析可能な解析プログラムAにより解析を行い、解析プログラムAから解析プログラムBに切り替えを行う切替条件が成立すると、過酷事故事象(事象β)へ進展する際に、そのときのプラント状態(解析結果A1)から解析プログラムBの初期条件(境界条件B0)を作成して解析プログラムBにより解析を行う。なお、切替条件は、解析プログラムAによる解析が困難になることを判断する条件として設定されている。
【0016】
これにより、複数プログラムの連携解析システム100では、事象αにおいて運転員が操作を行った影響及び効果を含んだ境界条件B0を用いて、解析プログラムBにより解析評価を連続して行うことができる。特に、複数プログラムの連携解析システム100が運転員の訓練を行う運転訓練シミュレータなどに適用される場合には、運転員ごと、訓練ごとに対応操作が異なり、これらを反映した事象進展が模擬されるため、有効な訓練を行うことができる。
【0017】
しかしながら、ある時点において、解析プログラムAから解析プログラムBへと異なる解析プログラムに切り替えを行うため、解析プログラムAの解析結果A1から解析プログラムBの境界条件B0を作成したとしても、解析プログラムAの解析結果A1と解析プログラムBの解析結果B1とが全て一致する訳ではないので、切替時点において解析プログラムAの解析結果A1と解析プログラムBの解析結果B1とに不連続が発生せざるを得ない。
【0018】
次に、図1及び図2を用いて第1実施形態の複数プログラムの連携解析システム10について述べる。この複数プログラムの連携解析システム10は、一の解析プログラムとしての解析プログラムAを備えた計算モデル13を有する一の解析部11と、他の解析プログラムとしての解析プログラムBを備えた計算モデル14を有する他の解析部12と、解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータ(後述)を修正する境界条件修正機能部15と、を有して構成される。
【0019】
ここで、解析プログラムAは、前述の如く事象α(例えばプラントの軽度の事故事象)を解析可能なプログラムである。また、解析プログラムBは、前述の如く事象β(例えばプラントの過酷事故事象)を解析可能なプログラムであって、解析プログラムAとは異なるプログラムである。
【0020】
一の解析部11の計算モデル13は、操作・外部データCに基づいて作成された境界条件A0を入力し、解析プログラムAにより事象αを解析して解析結果A1を出力すると共に、この解析結果A1を更新する。また、他の解析部12の計算モデル14は、操作・外部データCに基づいて作成され且つ境界条件修正機能部15により後述の如く修正された境界条件B0を入力し、解析プログラムBにより事象βを解析して解析結果B1を出力すると共に、この解析結果B1を更新する。
【0021】
上述の解析プログラムAと解析プログラムBとは、切り替えて解析が行われるが、ある時点で解析プログラムAから解析プログラムBへと切り替えが行われるものではない。つまり、一の解析部11及び他の解析部12は、解析プログラムBへの切替以前(例えば解析プログラムAの解析開始当初)から、解析プログラムA及びBにより解析を同時に実施させて、操作・外部データCを解析プログラムAの境界条件A0と解析プログラムBの境界条件B0とに同時に取り込まれる。その後、解析プログラムAから解析プログラムBへの切替時点で、他の解析部12は、解析プログラムBのみにより解析を実施させる。
【0022】
境界条件修正機能部15は、解析プログラムAから解析プログラムBへの切替以前から解析プログラムA及びBを用いて解析が行われた状態で、予め設定された注目パラメータについて解析プログラムAとBのそれぞれにおける解析結果A1、B1の偏差を求め、解析プログラムBの入力条件である境界条件B0の操作パラメータを、前記偏差に基づいて定期的に修正する。ここで、注目パラメータは、圧力や温度、流体の流量などのようなプラントの状態量である。また、操作パラメータは、プラントにおける操作可能なパラメータ、例えばポンプや弁などである。
【0023】
上述の境界条件修正機能部15の処理動作を、図2を参照して詳説する。解析プログラムAとBとが異なるプログラムであるため、解析プログラムAの解析結果A1と解析プログラムBの解析結果B1とは異なるデータ及びデータ構造で構成されている。また、異なる解析プログラム間で解析結果A1とB1とを完全に一致させることは困難である。そこで、境界条件修正機能部15は、解析結果A1/B1の対応付けデータを参照しつつ、ユーザーにより予め設定された注目パラメータについて、解析結果A1とB1とを比較し評価する(S11)。
【0024】
次に、境界条件修正機能部15は、解析結果A1とB1との偏差を算出する(S12)。次に、境界条件修正機能部15は、境界条件B0の操作パラメータの感度係数を参照して、解析結果A1とB1との偏差に基づき、境界条件B0の操作パラメータの修正量を、例えば次のように算出する(S13)。
操作パラメータの修正量=解析結果A1とB1との偏差×操作パラメータの感度係数
【0025】
尚、操作パラメータの感度係数は、解析結果A1とB1との偏差を解消するために必要な境界条件B0の操作パラメータの動作量の程度である。その後、境界条件修正機能部15は、ステップS13にて算出された修正量を用いて、境界条件B0の操作パラメータを修正する(S14)。
【0026】
以上ように構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の効果(1)を奏する。
(1)解析プログラムAから解析プログラムBへ切替を行なう以前から両解析プログラムA及びBを用いて解析を行い、この状態で、境界条件修正機能部15が、予め設定された注目パラメータについて解析プログラムAと解析プログラムBのそれぞれにおける解析結果A1、B1の偏差を求め、解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータを前記偏差に基づいて定期的に修正する。この結果、異なる解析プログラムA、Bの切替時点を含めたそれ以前の時点から、注目パラメータについての解析プログラムAの解析結果A1と解析プログラムBの解析結果B1との不連続を防止できる。
【0027】
[B]第2実施形態(図3
図3は、第2実施形態に係る複数プログラムの連携解析システムにおける境界条件修正機能部の処理動作を示すフローチャートである。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0028】
本第2実施形態の複数プログラムの連携解析システム20が第1実施形態と異なる点は、境界条件修正機能部15に代えて、注目パラメータについての解析結果A1とB1の偏差に対して修正可能な境界条件B0の操作パラメータが複数存在する場合に、これら複数の操作パラメータを修正する境界条件修正機能部25を有する点である。
【0029】
つまり、この境界条件修正機能部25は、解析プログラムAから解析プログラムBへの切替以前から解析プログラムA及びBを用いて解析が行われた状態で、注目パラメータについての解析プログラムAの解析結果A1と解析プログラムBの解析結果B1との偏差に基づいて、解析プログラムBの境界条件B0における操作パラメータを複数選択し、これら複数の操作パラメータを前述の解析結果A1とB1との偏差に基づいて定期的に修正するものである。
【0030】
この境界条件修正機能部25の処理動作を更に詳説する。このうちのステップS21、S22のそれぞれは、第1実施形態のステップS11、S12のそれぞれと同一である。境界条件修正機能部25は、ステップS22の後に、解析結果A1とB1との偏差と、境界条件B0における操作パラメータの感度係数とから、解析結果A1とB1との偏差に対して感度がある(即ち影響度が大きな)操作パラメータを複数個を選択する(S23)。このとき、感度のある操作パラメータを全て選択するのではなく、例えば感度の高い順に複数個の操作パラメータを選択してもよい。
【0031】
次に、境界条件修正機能部25は、操作パラメータ間の相互相関係数を参照して、境界条件B0における操作パラメータの修正量を算出する(S24)。上記相互相関係数は、複数の操作パラメータを同時に操作させたときに影響を及ぼし合う程度である。この相互相関係数を参照するのは、選択された操作パラメータのそれぞれについて修正量を算出すると、操作パラメータ間に相互相関がある場合には、目的とした修正結果が得られないからである。
【0032】
境界条件B0の操作パラメータの修正量は、具体的には次のようにして算出される。例えば、2個の操作パラメータが選択された場合、第1操作パラメータと第2パラメータについて以下のようにして修正量を求める。
第1操作パラメータの修正量=解析結果A1とB1との偏差×第1操作パラメータの感度係数
第2操作パラメータの修正量=(解析結果A1とB1との偏差×第2操作パラメータの感度係数)-(第1操作パラメータの修正量×相互相関係数)
【0033】
その後、境界条件修正機能部25は、ステップS24にて算出した修正量を用いて、解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータを修正する(S25)。
【0034】
以上ように構成されたことから、本第2実施形態によれば、次の効果(2)を奏する。
(2)解析プログラムAから解析プログラムBへの切替以前から解析プログラムA及びBを用いて解析を行い、この状態で、境界条件修正機能部25は、予め設定された注目パラメータについて解析プログラムAの解析結果A1と解析プログラムBの解析結果B1との偏差を求め、解析プログラムBの境界条件B0における複数の操作パラメータを、上記解析結果A1とB1との偏差に基づいて修正する。このため、解析プログラムAから解析プログラムBへの切替時点を含めたそれ以前の時点から、注目パラメータについての解析プログラムAの解析結果A1と解析プログラムBの解析結果B1との不連続を防止できると共に、特定の操作パラメータを大きく修正してプラントの挙動を不安定にする事態を回避できる。
【0035】
[C]第3実施形態(図4
図4は、第3実施形態に係る複数プログラムの連携解析システムにおける境界条件修正機能部の処理動作を示すフローチャートである。この第3実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0036】
本第3実施形態の複数プログラムの連携解析システム30が第1実施形態と異なる点は、境界条件修正機能部15に代えて、解析プログラムAの解析結果A1と解析プログラムBの解析結果B1との偏差を低減させたい注目パラメータが複数存在する場合に解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータを修正する境界条件修正機能部35を有する点である。
【0037】
つまり、境界条件修正機能部35は、解析プログラムAから解析プログラムBへの切替以前から解析プログラムA及びBを用いて解析が行われた状態で、複数の各注目パラメータについての解析プログラムAの解析結果A1と解析プログラムBの解析結果B1との偏差が許容範囲を超える場合に、上記解析結果A1とB1との偏差が許容範囲内になるように、第1または第2実施形態と同様にして、解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータを定期的に修正する。また、境界条件修正機能部35は、解析結果A1とB1との偏差が上記許容範囲内にある場合には、解析結果A1とB1との偏差に基づいて各注目パラメータの全体一致度を求め、この全体一致度に基づいて解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータを定期的に修正する。
【0038】
ここで、各注目パラメータの全体一致とは、例えば各注目パラメータについての解析結果A1とB1との偏差にそれぞれの注目パラメータの重み係数を乗じ、これらの絶対値を加算したものである。この各注目パラメータの全体一致度は低くなることが好ましい。
【0039】
上述の境界条件修正機能部35の処理動作を更に詳説する。このうちのステップS31、S32のそれぞれは、複数の各注目パラメータについて第1実施形態のステップS11、S12のそれぞれと同様な処理を実施している。
【0040】
境界条件修正機能部35は、ステップS32において、注目パラメータについての解析結果A1とB1との偏差が大きく、許容範囲を逸脱している場合には、この解析結果A1とB1との偏差が許容範囲を逸脱している各注目パラメータについて、第1実施形態のステップS13または第2実施形態のステップS23及びS24により、解析プログラムBの境界条件B0における操作パラメータの修正量を算出し(S33)、その操作パラメータを修正して(S34)、解析結果A1とB1との偏差を許容範囲内に収める。
【0041】
境界条件修正機能部35は、ステップS32において、解析プログラムAの解析結果A1と解析プログラムBの解析結果B1との偏差が許容範囲内にある場合には、例えば、各注目パラメータについての解析結果A1とB1との偏差にそれぞれの注目パラメータの重み係数を乗じて加算し、各注目パラメータの全体一致度を評価する(S35)。
【0042】
次に、境界条件修正機能部35は、各注目パラメータについての全体一致度が最も低くなることを目指して、解析プログラムBの境界条件B0における操作パラメータの修正量を算出する(S36)。例えば、境界条件B0における操作パラメータが2個選択されている場合、第1操作パラメータと第2操作パラメータについて以下のようにして修正量を求める。
第1操作パラメータの修正量=各注目パラメータの全体一致度×第1操作パラメータの感度係数
第2操作パラメータの修正量=(各注目パラメータの全体一致度×第2操作パラメータの感度係数)-(第1操作パラメータの修正量×相互相関係数)
【0043】
その後、境界条件修正機能部35は、ステップS36にて算出した修正量を用いて、解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータを修正する(S37)。
【0044】
以上のように構成されたことから、本第3実施形態によれば、次の効果(3)を奏する。
(3)解析プログラムAから解析プログラムBへの切替以前から解析プログラムA及びBを用いて解析を行い、この状態で、境界条件修正機能部35は、まず、複数の各注目パラメータについての解析結果A1とB1との偏差が許容範囲内に収まるように解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータを修正し、次に、各注目パラメータについての解析結果A1とB1との偏差が許容範囲内にあるときに、各注目パラメータの全体一致度の低下を目指して、この各注目パラメータの全体一致度に基づき解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータを修正する。
【0045】
このため、解析プログラムAから解析プログラムBへの切替時点を含めたそれ以前の時点から、各注目パラメータについての解析プログラムAの解析結果A1と解析プログラムBの解析結果B1との不連続を防止できると共に、特定の注目パラメータのみについて解析部結果A1とB1とを一致させてしまう不具合を回避できる。
【0046】
[D]第4実施形態(図5図6
図5は、第4実施形態に係る複数プログラムの連携解析システムの構成を示すブロック図である。この第4実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0047】
第4実施形態の複数プログラムの連携解析システム40が第1~第3実施形態と異なる点は、第1~第3実施形態の境界条件修正機能部15、25または35と略同様に機能する境界条件修正機能部45を有するほか、プラント状態の非連続な時系列データを備えた計算断面を選択する計算断面選択機能部46を有する点である。
【0048】
つまり、解析プログラムを用いてプラント事象を解析し評価する場合、代表的なプラント状態が想定されている場合があり、この想定されているプラント状態がデータとして上記計算断面毎に事前に保存されている。本第4実施形態では、計算断面選択機能部46は、現在実行している解析プログラムAと解析プログラムBのそれぞれの解析結果のA1、B1に最も近い計算断面を選択し、または選択した計算断面を変更し、変更した場合には、その変更した計算断面が備える境界条件データを用いて解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータを修正する。
【0049】
この計算断面選択機能部46の処理動作を、図6を参照して更に詳説する。計算断面選択機能部46は、現在解析を実施している解析プログラムA及びBのそれぞれの解析結果A1、B1を、解析結果A1/B1の対応付けデータを参照して、計算断面毎の各注目パラメータについて評価する(S41)。
【0050】
次に、計算断面選択機能部46は、計算断面毎の各注目パラメータについての解析結果A1とB1との偏差から、計算断面毎の各注目パラメータの全体一致度を評価する(S42)。このステップS42の後に、計算断面選択機能部46は、各注目パラメータについての解析結果A1とB1との偏差が全て許容範囲内にあり、且つ各注目パラメータの全体一致度が最も低い計算断面を選択する(S43)。
【0051】
また、プラント事象の変化によって各注目パラメータの全体一致度が変化した場合には、計算断面選択機能部46は計算断面を変更する(S44)。計算断面選択機能部46は、計算断面を変更した場合には、計算断面毎に用意された想定される境界条件データから、変更した計算断面に対応する境界条件データを選び、この境界条件データを用いて、解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータを修正する(S45)。
【0052】
ステップS43で計算断面選択機能部46により計算断面が選択されたとき、境界条件修正機能部45(図5)は、選択された計算断面における注目パラメータについて、解析プログラムAの解析結果A1及び解析プログラムBの解析結果B1を求め、これらの解析結果A1とB1との偏差から算出される各注目パラメータの全体一致度に基づいて、解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータを定期的に修正する。この境界条件B0の操作パラメータの定期的修正は、図6のステップS42で求めた選択された計算断面における各注目パラメータの全体一致度に基づいて、第3実施形態のステップS36及びS37(図4)を実施することでなされる。
【0053】
以上のように構成されたことから、本第4実施形態によれば、次の効果(4)及び(5)を奏する。
(4)図6に示すように、計算断面選択機能部46は、選択した計算断面を変更した場合に、計算断面における想定されるプラント状態の境界条件データを、解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータに与えている。このため、この境界条件B0の操作パラメータを、想定されるプラント状態に近い状態とすることができる。
【0054】
(5)計算断面選択機能部46により計算断面が選択された際には(ステップS43)、境界条件修正機能部45は、この選択された計算断面における各注目パラメータについての解析結果A1とB1との偏差から算出された各注目パラメータの全体一致度に基づいて、解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータを定期的に修正している。この結果、解析プログラムAから解析プログラムBへの切替時点を含めたそれ以前の時点から、各注目パラメータについて解析プログラムAの解析結果A1と解析プログラムBの解析結果B1との不連続を防止できる。
【0055】
[E]第5実施形態(図7
図7は、第5実施形態に係る複数プログラムの連携解析システムの構成を示すブロック図である。この第5実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0056】
本第5実施形態の複数プログラムの連携解析システム50が第1実施形態と異なる点は、第1~第3実施形態の境界条件修正機能部15、25、35と略同様に機能する境界条件修正機能部55を有するほか、バイアスデータ格納部56を有して構成された点である。このバイアスデータ格納部56は、プラント状態の非連続な時系列データを備えた計算断面毎に解析プログラムAと解析プログラムBとが解析を行なうことで予め求められた解析プログラムAの境界条件A0と解析プログラムBの境界条件B0とのそれぞれの操作パラメータの差分を、バイアスデータとして格納したものである。
【0057】
境界条件修正機能部55は、解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータに、バイアスデータ格納部56のバイアスデータを加算することで、解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータを定期的に修正する。
【0058】
従って、本第5実施形態によれば、次の効果(6)を奏する。
(6)境界条件修正機能部55は、計算断面毎に、解析プログラムAと解析プログラムBとを予め実施させることで求められた解析プログラムAの境界条件A0と解析プログラムBの境界条件B0とのそれぞれの操作パラメータの差分を、バイアスデータとして解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータに加算して、この境界条件B0の操作パラメータを修正している。このため、解析プログラムAの解析結果A1と解析プログラムBの解析結果B1との偏差に基づいて解析プログラムBの境界条件B0の操作パラメータを修正する場合に比べて、その修正量や修正回数を低減しつつ、解析プログラムAから解析プログラムBへの切替時点を含めたそれ以前の時点から、注目パラメータについての解析プログラムAの解析結果A1と解析プログラムBの解析結果B1との不連続を防止できる。
【0059】
[A]第6実施形態(図8図9
図8は、第6実施形態に係る複数プログラムの連携解析システムの構成を示すブロック図である。この第6実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0060】
本第6実施形態の複数プログラムの連携解析システム60が第1実施形態と異なる点は、第1実施形態の境界条件修正機能部15に代えて、後述の補完データを用いて解析プログラムBの解析結果B1を修正する補完機能部61を有した点である。
【0061】
つまり、補完機能部61は、解析プログラムAから解析プログラムBへの切替以前から解析プログラムA及びBを用いて解析が行われた状態で、解析プログラムBにおける解析結果B1(他の解析結果)にとって解析プログラムAにおける解析結果A1(一の解析結果)で不足しているパラメータのデータについて、この不足しているパラメータのデータを、解析結果A1における不足しているパラメータのデータに隣接するパラメータのデータから補完して算出し、この算出した補完データを用いて解析結果B1を修正する。
【0062】
補完機能部61について更に詳説する。解析プログラムAと解析プログラムBとでは解析対象の事象が異なるため、評価されるパラメータが一致していない。そこで、補完機能部61は、解析プログラムBでは評価されるが、解析プログラムAでは評価されないパラメータについて、解析プログラムBの解析結果B1にとって解析プログラムAの解析結果A1では不足しているデータを、この解析結果A1から補完して作成し、この作成した補完データを解析プログラムBの解析結果B1に反映するものである。
【0063】
ここで、解析プログラムBを備えた計算モデル14は、境界条件B0の値を入力データとして解析結果B1の保存量を計算すると共に、この解析結果B1の保存量を更新している。解析結果B1は保存量と非保存量に分類される。解析結果B1の非保存量が、次の周期の解析において入力値として用いられないため、補完機能部61は、次の周期の解析において入力値として用いられる解析結果B1の保存量に対して補完を行う。
【0064】
補完機能部61の処理動作を、図9を参照して具体的に述べる。補完機能部61は、解析結果B1にとって解析結果A1で不足しているパラメータのデータと、解析結果B1の保存量のパラメータリストとから、補完対象となる保存量を抽出する(S61、S62)。
【0065】
次に、補完機能部61は、抽出された補完対象の保存量と解析結果A1と解析結果B1とから、解析結果A1/B1の対応付けデータを参照して、解析結果B1にとって不足している解析結果A1のパラメータのデータを、この不足しているパラメータのデータに隣接する解析結果A1のパラメータのデータを用いて、補完データとして算出する(S63)。その後、補完機能部61は、ステップS63で算出した補完データを用いて、解析結果B1の保存量を修正する(S64)。
【0066】
以上のように構成されたことから、本第6実施形態によれば、次の効果(7)を奏する。
(7)解析プログラムAと解析プログラムBの詳細度が異なる場合であっても、補完機能部61は、解析プログラムBの解析結果B1にとって不足している解析結果A1のパラメータのデータを、解析結果A1における上述の不足しているパラメータのデータに隣接するパラメータのデータから補完して、補完データとして作成している。このため、解析プログラムAから解析プログラムBへの切替時点を含めたそれ以前の時点から、解析プログラムAの解析結果A1と解析プログラムBの解析結果B1との不連続を防止できる。
【0067】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
10…複数プログラムの連携解析システム、11…一の解析部、12…他の解析部、15…境界条件修正機能部、20…複数プログラムの連携解析システム、25…境界条件修正機能部、30…複数プログラムの連携解析システム、35…境界条件修正機能部、40…複数プログラムの連携解析システム、45…境界条件修正機能部、46…計算断面選択機能部、50…複数プログラムの連携解析システム、55…境界条件修正機能部、56…バイアスデータ格納部、60…複数プログラムの連携解析システム、61…補完機能部、A…解析プログラム(一の解析プログラム)、B…解析プログラム(他の解析プログラム)、A0、B0…境界条件、A1、B1…解析結果。
図1
図2
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図4
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図6
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図8
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図10