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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】高反射水解紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 17/67 20060101AFI20220627BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20220627BHJP
   G01C 15/06 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
D21H17/67
D21H27/00 Z
G01C15/06 T
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018114543
(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公開番号】P2019218637
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000176637
【氏名又は名称】日本製紙パピリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】岸本 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】石野 良明
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-049198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 17/67
D21H 27/00
G01C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長500nm以上1000nm以下における反射率が85%以上、
フロック状水分散時間が60秒以上600秒以下、
坪量55g/m 以上200g/m 以下、
であることを特徴とする高反射水解紙。
【請求項2】
製紙用繊維と白色填料を含み、全質量に対して前記白色填料を40質量%以上含むことを特徴とする請求項に記載の高反射水解紙。
【請求項3】
前記白色填料が、炭酸カルシウムを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の高反射水解紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高反射水解紙に関する。
【背景技術】
【0002】
土地の権利に関する記録は、登記所において管理されているが、登記所に備え付けられている地図や図面は、その半分ほどが明治時代の地租改正時に作られた地図を元にしている。そのため、登記所に備え付けられている地図や図面は、境界や形状などが現実とは異なっている場合が多くあり、また、登記簿に記載された土地の面積も、正確ではない場合がある。
【0003】
土地の境界、面積、所有者等について正確な情報が記録されていないと、境界をめぐる紛争が起こる、正確な固定資産税額を算出できない、災害時の復旧作業の妨げとなる等の問題が生じる。そのため、地方自治体が、一筆ごとに土地の所有者、地番、地目を調査し、さらに、土地境界の位置と面積を測量する地籍調査が行われている。地籍調査は、全ての土地を対象とするものであるが、山間部は、目的の場所への到達が困難、傾斜がきつい等の問題があり、都市部と比較して測量が困難である。そのため、山間部における地籍調査を効率的に行うことが求められており、衛星写真、航空画像、ドローン等の活用が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、反射率が高く、水解性を有する高反射水解紙を提供すること、特に、ドローン等を利用した上空からの測量に利用できる高反射水解紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.波長500nm以上1000nm以下における反射率が85%以上、
フロック状水分散時間が60秒以上600秒以下、
であることを特徴とする高反射水解紙。
2.坪量55g/m以上200g/m以下であることを特徴とする1.に記載の高反射水解紙。
3.製紙用繊維と白色填料を含み、全質量に対して前記白色填料を40質量%以上含むことを特徴とする1.または2.に記載の高反射水解紙。
4.前記白色填料が、炭酸カルシウムを含むことを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の高反射水解紙。
【発明の効果】
【0006】
本発明の高反射水解紙は、反射率が高いため、150m以下の上空から識別することができる。本発明の高反射水解紙は水解性であり、経時でバラバラに崩壊するため、回収する必要がない。本発明の高反射水解紙は、特に、山間部での測量に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の高反射水解紙は、波長500nm以上1000nm以下における反射率が85%以上、かつ、フロック状水分散時間が60秒以上600秒以下、であることを特徴とする。
【0008】
本発明の高反射水解紙の用途は特に制限されないが、例えば、ドローン等を利用した上空からの測量が挙げられる。上空からの測量では、本発明の高反射水解紙を基準となる場所に置き、または、本発明の高反射水解紙で測量する土地を取り囲み、上空のドローン等から高反射水解紙の位置をレーザースキャン等して、高反射水解紙の位置、形状、模様等を識別することにより、効率的に測量を行うことができる。
【0009】
本発明の高反射水解紙は、波長500nm以上1000nm以下における反射率が85%以上である。日本国では、ドローンの飛行高さは150m以下に制限されているが、この反射率が85%以上であると、150m以下の高さから、地上に置いた本発明の高反射水解紙を識別することができる。この反射率が高いほど識別性が向上し、例えば曇天等の自然光が足りない場合でもより正確な測量が可能となるため、この反射率は86%以上であることがより好ましく、88%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが最も好ましい。なお、波長500nm以上1000nm以下における反射率とは、分光光度計を用いて、波長500nm以上1000nm以下の範囲でサンプリングピッチ1nmで測定し、得られる値を硫酸バリウム白板の反射率を基準(100%)とした反射率の平均値をいう。
【0010】
本発明の高反射水解紙は、フロック状水分散時間が60秒以上600秒以下であり、適度な水解性を有している。なお、フロック状水分散時間とは、脱イオン水300mlを300mlビーカーに入れ、スターラーで650rpmに攪拌しながら、3cm角の試験片を投入し、試験片が2つ以上に千切れる時間である。フロック状水分散時間は、70秒以上450秒以下が好ましく、80秒以上300秒以下がより好ましく、90秒以上200秒以下が最も好ましい。
【0011】
本発明の高反射水解紙は、フロック状水分散時間が60秒以上であるため、地上に置いた状態で数日間は形状を維持することができる。そのため、本発明の高反射水解紙は、例えば、山間部の急峻な斜面等の高反射水解紙の設置に時間がかかる場所、湿地帯等の水気の多い場所等に設置しても、測量が完了するまでは形状を維持することができる。また、本発明の高反射水解紙は、フロック状水分散時間が600秒以下であるため、自然環境において雨水などにより短期間で崩壊する。そのため、本発明の高反射水解紙は、測量終了後に回収する必要がなく、特に、立ち入りが困難な場所等での回収作業に伴う事故のリスクを無くすことができる。
【0012】
本発明の高反射水解紙は、上記した反射率とフロック状水分散時間を満足するものであれば特に制限されないが、製紙用繊維と白色填料を含み、全質量に対して白色填料を40質量%以上含むことが好ましい。
【0013】
<製紙用繊維>
本発明で使用する製紙用繊維は特に制限されず、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなどの木材パルプ、亜麻、ケナフ、楮、三椏などの靭皮繊維、バガス、竹、エスパルトなどの硬質繊維、コットンリンターなどの種子毛繊維、マニラ麻、サイザル麻などの葉脈繊維といった非木材パルプ、生分解性を有する合成繊維(レーヨン繊維、精製セルロース繊維、ポリ乳酸繊維、ポリビニルアルコール繊維、生分解性ポリエステル繊維など)などを用いることができる。また、パルプとしては、クラフト蒸解法、酸性・中性・アルカリ亜硫酸塩蒸解法、ソーダ塩蒸解法等による化学パルプ、グランドパルプ、ケミグランドパルプ、サーモメカニカルパルプ等を使用できる。
【0014】
製紙用繊維は、水中で分散させた状態もしくは叩解を施してから使用する。叩解を進めると繊維間結合が増して、得られる基材の水分散性が悪くなるので、叩解の程度が高すぎると、基材の水解性(水分散性)が不十分となり、叩解の程度が低すぎると、強度が低くなったりする。水解性は、基材への添加物や叩解処理の有無および程度によって調節することができる。
製紙用繊維の叩解度は、粉体などの添加物によって水分散性が向上する場合には、叩解の程度を高くすることができるので、JIS P8121-1:2012に規定のショッパーリグラーろ水度で17°SR以上72°SR以下となるように調節するのが好ましい。
【0015】
製紙用繊維原料に、水不溶性または水難溶性の粉体を混抄することにより、繊維相互の接触が阻害されて繊維間の結合状態が不安定となるため、これらの粉体無添加の場合に比べて水中で分散し易くなり、基材の水解性を高めることができる。また、これらの粉体の添加により、反射率を高くすることができる。
【0016】
水不溶性粉体としては、非金属無機物、金属、水不溶性無機塩などが用いられ、水難溶性粉体としては、水難溶性無機塩が用いられる。これらの粉体を、本発明の反射率が得られるように内添することが好ましい。
【0017】
水不溶性粉体の具体例は、次の通りであり、単独で使用しても水難溶性粉体を含め2種以上を併用しても良い。酸化アルミニウム、二酸化チタン等の金属酸化物。炭化ケイ素、炭化ホウ素等の炭化物。四窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物。雲母、長石族、シリカ鉱物族、粘度鉱物、合成ゼオライト、天然ゼオライト等の珪酸塩鉱物。チタン酸カリウム、チタン酸バリウム等のチタン酸塩化合物。珪酸マグネシウム等の珪酸塩化合物。リン酸亜鉛等のリン酸塩化合物。
【0018】
水難溶性粉体の具体例は、次の通りであり、単独で使用しても水不溶性粉体を含めて2種以上を併用しても良い。水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物。炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛等の炭酸塩化合物。硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム等の硫酸塩化合物。
【0019】
<白色填料>
本発明で使用する白色填料は特に制限されず、炭酸カルシウム、二酸化チタン、カオリン、クレー、タルク、ホワイトカーボン等、一般的に製紙用途に用いられている白色填料を使用することができる。これらの中で、反射性(白色性)、コスト、環境中での崩壊性等の点から、炭酸カルシウムが好ましい。
炭酸カルシウムは、粒子の形態で添加され、コスト、抄紙のしやすさの観点から適宜選ぶことができるが、加重平均粒子径0.02μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0020】
白色填料の量は、高反射水解紙の全質量に対して40質量%以上であることが好ましい。白色填料の量は42質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることがさらに好ましい。白色填料の量が高反射水解紙の全質量に対して40質量%未満だと、本発明の反射率を達成することが困難となる。白色填料の量の上限は特に制限されないが、白色填料の量が多くなると、紙の強度が低下して破れやすくなるため、通常、65質量%以下程度である。
【0021】
<抄紙>
高反射水解紙を製造する抄紙機としては、長網式抄紙機、丸網式抄紙機、短網式抄紙機、ツインワイヤー式抄紙機等のいずれも用いることができる。また、抄紙は中性抄紙、アルカリ性抄紙のいずれかの方式で行われる。また、必要に応じて、硫酸バンドや、各種のアニオン性、カチオン性、ノ二オン性或いは、両性の歩留まり向上剤、濾水性向上剤、紙力増強剤等の抄紙用内添助剤を添加することができる。さらに、必要に応じて、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の製紙用添加剤を添加することができる。
【0022】
高反射水解紙の坪量は、55g/m以上200g/m以下であることが好ましい。坪量が55g/m未満だと、本発明の反射率を達成することが困難となる。坪量が200g/mを超えると、紙が厚く重くなるため、山間部での測量作業時の負担が大きくなるため好ましくない。
【0023】
高反射水解紙は、JAPAN TAPPI No.71に準じて測定した縦方向の乾燥引張強さが、10N/15mm以上であることが好ましい。縦方向の引張強度が上記した値未満であると、紙が破れやすくなり、測量作業時等に取扱いにくくなる。
【実施例
【0024】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
木材パルプ(針葉樹パルプ:74質量%、広葉樹パルプ:26質量%)を、ろ水度:70°SRに叩解し、炭酸カルシウム(白石工業社製PCX-850)を木材パルプの全質量に対し80~100質量%添加して原料スラリーを調成した。
この原料スラリーを長網式抄紙機で抄紙して、坪量:104.7g/m、灰分:51.3%、炭酸カルシウム含有量:53.7g/mの基紙を得た。
【0025】
(実施例2)
木材パルプ(針葉樹パルプ:74質量%、広葉樹パルプ:26質量%)を、ろ水度:70°SRに叩解し、炭酸カルシウム(白石工業社製PCX-850)を木材パルプの全質量に対し60~80質量%添加して原料スラリーを調成した。
この原料スラリーを長網式抄紙機で抄紙して、坪量:104.6g/m、灰分:40.8%、炭酸カルシウム含有量:42.7g/mの基紙を得た。
【0026】
(実施例3)
木材パルプ(針葉樹パルプ:74質量%、広葉樹パルプ:26質量%)を、ろ水度:70°SRに叩解し、炭酸カルシウム(白石工業社製PCX-850)を木材パルプの全質量に対し100~120質量%添加して原料スラリーを調成した。
この原料スラリーを長網式抄紙機で抄紙して、坪量:104.7g/m、灰分:60.5%、炭酸カルシウム含有量:63.3g/mの基紙を得た。
【0027】
(実施例4)
木材パルプ(針葉樹パルプ:74質量%、広葉樹パルプ:26質量%)を、ろ水度:70°SRに叩解し、炭酸カルシウム(白石工業社製PCX-850)を木材パルプの全質量に対し80~100質量%添加して原料スラリーを調成した。
この原料スラリーを長網式抄紙機で抄紙して、坪量:59.4g/m、灰分:40.2%、炭酸カルシウム含有量:23.9g/mの基紙を得た。
【0028】
(比較例1)
木材パルプ(針葉樹パルプ:74質量%、広葉樹パルプ:26質量%)を、ろ水度:70°SRに叩解し、炭酸カルシウム(白石工業社製PCX-850)を木材パルプの全質量に対し10~20質量%添加して原料スラリーを調成した。
この原料スラリーを長網式抄紙機で抄紙して、坪量:103.9g/m、灰分:9.4%、炭酸カルシウム含有量:9.8g/mの基紙を得た。
【0029】
(比較例2)
木材パルプ(針葉樹パルプ:74質量%、広葉樹パルプ:26質量%)を、ろ水度:70°SRに叩解し、炭酸カルシウム(白石工業社製PCX-850)を木材パルプの全質量に対し160~180質量%添加して原料スラリーを調成した。
この原料スラリーを長網式抄紙機で抄紙して、坪量:104.2g/m、灰分:69.2%、炭酸カルシウム含有量:72.1g/mの基紙を得た。
【0030】
(比較例3)
木材パルプ(針葉樹パルプ:74質量%、広葉樹パルプ:26質量%)を、ろ水度:70°SRに叩解し、炭酸カルシウム(白石工業社製PCX-850)を木材パルプの全質量に対し60~80質量%添加して原料スラリーを調成した。
この原料スラリーを長網式抄紙機で抄紙して、坪量:59.7g/m、灰分:30.3%、炭酸カルシウム含有量:18.1g/mの基紙を得た。
【0031】
得られた各基紙について、下記に示す測定を行った。結果を表1に示す。
・坪量、厚さ
坪量はJIS P8124に、厚さはJIS P8118に準拠して測定した。
・灰分(525℃)
灰分は、燃焼温度を525℃とした以外はJIS P8252により準拠して測定した。これは、白色填料である炭酸カルシウムが、JIS P8252で規定する燃焼温度(900℃)では、酸化カルシウムと二酸化炭素に分解するためである。
・炭酸カルシウム含有量
炭酸カルシウム含有量は、坪量と灰分の積により求めた。
【0032】
・反射率
分光光度計(島津製作所 solidspec-3700DUV)を用いて、波長500nm以上1000nm以下の範囲でサンプリングピッチ1nmで反射率を測定し、硫酸バリウム白板の反射率を基準(100%)として平均値を求めた。
【0033】
・フロック状水分散時間
3cm角の試験片5枚を用意した。次に300mlビーカーに脱イオン水300mlを入れてスターラーで650rpmに攪拌しながら上記試験片1枚を投入した。試験片が2つ以上に千切れる時間をストップウオッチで測定し、5回の測定の平均値をフロック状水分散時間とした。
・引張強さ
引張強さは、JAPAN TAPPI NO.71に準拠して測定した。
【0034】
【表1】
【0035】
上記で製造した基紙から8cm×1mのサンプルを切り出した。
富士山スカイグラウンド(静岡県富士宮市)の芝生に水を撒き、濡れた芝生上にサンプルを固定し測量用ドローンにて150mの上空からレーザースキャンした。その後、サンプルの上に水を撒き、水解性を調査した。
実施例1~4で製造した基紙は、反射率が85%以上と高く、上空150mから識別することができた。また、実施例1~4で製造した基紙は、フロック状水分散時間が所定の範囲内であり、水をかけるとバラバラとなった。
【0036】
比較例1、3で製造した基紙は、反射率が低く、上空150mから識別できなかった。また、比較例1で製造した基紙は、フロック状水分散時間が長く、水をかけてもバラバラとならなかった。
比較例2で製造した基紙は、上空150mから識別することができた。ただし、フロック状水分散時間が短く、濡れた芝生の上に固定しただけで破れが生じた。