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特許7094831人工シーグラスの製造方法及びその製造方法で得られる人工シーグラス
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  • 特許-人工シーグラスの製造方法及びその製造方法で得られる人工シーグラス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】人工シーグラスの製造方法及びその製造方法で得られる人工シーグラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 19/00 20060101AFI20220627BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
C03C19/00 Z
B09B5/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018155996
(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公開番号】P2020029387
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000222222
【氏名又は名称】東洋ガラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 亮介
(72)【発明者】
【氏名】服部 勇紀
(72)【発明者】
【氏名】青木 美結
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-208242(JP,A)
【文献】特開2001-314743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 19/00
B09B 1/00 - 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径850μm以下のガラス粉と、人工シーグラスとを製造する製造方法であって
円筒容器を回転させることによりガラスを研磨する研磨装置を用いて、リサイクルを目的としたガラスから構成されるガラスカレットを物理的に研磨する、予備研磨工程と、
前記予備研磨工程後のガラスカレットから、直径850μm以下のガラス粉を分離することにより、前記ガラス粉を取得する工程と、
前記予備研磨工程で用いた研磨装置と同一の研磨装置を用いて、前記ガラス粉を取り除いた予備研磨済カレットを、水の存在下で物理的に研磨する水介在研磨工程とを含み、
前記予備研磨工程は、ガラスカレットのみで実施し、
前記水介在研磨工程は、予備研磨済カレット及び水のみで実施する、製造方法。
【請求項2】
前記水介在研磨工程に用いる水のpHは、5.8以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記人工シーグラスは、ソーダ石灰ガラスである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記水介在研磨工程において、予備研磨済カレットと、水との重量割合(予備研磨済カレット:水)は、3:1~1:3の範囲内である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスカレットを用いた人工シーグラスの製造方法及びその製造方法で得られる人工シーグラスに関する。
【背景技術】
【0002】
海岸や大きな湖の湖畔に、ガラスの小さな破片が落ちていることがある。これは、漂流したガラスびんなどが波で砕かれ、角がとれた状態になったものであり、シーグラスと呼ばれる。シーグラスは、貝殻などと同様に収集の対象となったり、アクセサリーの材料として使われたりする。
【0003】
ところで、このようなガラス片は人工的に製造することができる。例えば、特許文献1では、ガラスの角を研磨してボール状のガラス体を製造する方法が開示されており、円筒容器内にフッ酸および/または水の溶液中にガラス成形体を投入し、該円筒容器を回転させる方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、ガラスビーズの製造方法として、カレットにフッ酸またはフッ化アルカリの水溶液を添加し、その混合物を攪拌する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-227832号公報
【文献】特開平11-262739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの文献の技術は、フッ酸等を用いてガラスを溶解させることを目的として使用しており、必要以上に溶解させてしまう恐れがある。また、フッ酸等の危険物を用いなければならないという問題もある。
【0007】
さらに、研磨による砕けたガラスのガラス粉が大量に出てしまい、それがフッ酸等の水溶液と混ざり合うことでガラスビーズとガラス粉との分離が容易にできないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、フッ酸等の危険物を用いなくとも、天然シーグラスに近い質感の人工シーグラスを効率的に製造できる方法を見出した。すなわち、本発明は、以下を包含する。
[1]リサイクルを目的としたガラスから構成されるガラスカレットを物理的に研磨する、予備研磨工程と、前記予備研磨工程で得られた予備研磨済カレットを、水の存在下で物理的に研磨する水介在研磨工程とを含む、人工シーグラスの製造方法。
[2]前記予備研磨工程及び前記水介在研磨工程は、回転装置によって実施される、[1]に記載の製造方法。
[3]前記水介在研磨工程に用いる水のpHは、5.8以上である、[1]乃至[2]のいずれかに記載の製造方法。
[4]前記人工シーグラスは、ソーダ石灰ガラスである、[1]乃至[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記水介在研磨工程は、フッ酸を用いずに実施する、[1]乃至[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記水介在研磨工程において、予備研磨済カレットと、水との重量割合(予備研磨済カレット:水)は、3:1~1:3の範囲内である、[1]乃至[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7][1]乃至[6]のいずれか一項に記載の製造方法により得られる人工シーグラス。
【発明の効果】
【0009】
リサイクルを目的としたガラスから構成されるガラスカレットを物理的に研磨する、予備研磨工程と、前記予備研磨工程で得られた予備研磨済カレットを、水の存在下で物理的に研磨する水介在研磨工程とを含む、人工シーグラスの製造方法は、フッ酸等の危険物を使わなくとも、天然シーグラスに近い質感の人工シーグラスを効率よく製造できる。また、予備研磨工程によって生成されるガラス粉は、水分と混合していない状態なため、ガラス粉単体での取り出しが可能であり、様々な用途に利用可能である。
前記予備研磨工程及び前記水介在研磨工程を、回転装置によって実施する場合は、効率良くカレットを研磨することができる。
水介在研磨工程に用いる水のpHが5.8以上の場合は、水に酸性成分を使用しないため、耐酸性のある特殊な装置を使わずに人工シーグラスを製造することができる。
前記人工シーグラスがソーダ石灰ガラスである場合は、原材料に自然材料を使用しおり、耐水性が良好であるため、得られる人工シーグラスを海辺に配置しても、環境負荷を与えることがない。また、不要になった人工シーグラスは、資源ゴミに捨てることができるため、再度カレットにすれば、ガラスびん等のガラス製品に生まれ変わることができる。
前記水介在研磨工程からフッ酸の使用を排除することにより、人体に極めて危険なフッ酸を本工程から除外することができる。
前記水介在研磨工程において、予備研磨済カレットと、水との重量割合(予備研磨済カレット:水)は、3:1~1:3の範囲内であれば、効率的に人工シーグラスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、カレットを研磨するための回転装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について説明するが、本発明は、発明を実施するための形態に限定されるものではない。
【0012】
[人工シーグラスについて]
本明細書において、天然シーグラスとは、ガラス片が波に揉まれ、角の取れた石のような形状の小片となり、全体がすりガラスのような風合いを表したガラス片のことである。それに対し、人工シーグラスとは、天然シーグラスと同じような形状であるが、ガラスびん等のカレットから人工的に作られるガラス片のことである。
本発明で得られる人工シーグラスは、角が取れた、石のような形状で、大きさは限定されるものではないが、最大の直径が0.5cm~10cmが好ましく、1cm~8cmがより好ましく、2cm~6cmがさらに好ましい。
【0013】
[カレットについて]
本明細書において、カレット又はガラスカレットとは、ガラス製品を破砕した小片のことである。カレットの原料には、リサイクルを目的として回収されたガラスびんや製造時に製品に至らなかったガラスびんなどを用いることができる。
【0014】
人工シーグラスの材料として用いるカレットの色は特に限定しないが、主にアンバー色、フリント色 、緑、黄緑、水色、青色、灰色、紫、赤、ピンク、黒などのカレットを用いることができる。
【0015】
人工シーグラスの材料として用いるカレットガラスの種類は特に限定されず、ソーダ石灰ガラス、ホウ珪酸ガラス、リン酸塩ガラスなどを使用することができるが、リサイクル性の高いガラスびん、窓ガラス、食器類などに用いられるソーダ石灰ガラスを使用することが好ましく、特に、ガラスびんなどを構成するソーダ石灰ガラスを用いることがさらに好ましい。
【0016】
人工シーグラスに用いるカレットの大きさは、例えば、ガラスびんを破砕したものを用いるため、サイズを限定することができないが、扱いやすさの観点から、直径1~15cm程度のカレットが好ましい。
【0017】
本発明の製造方法で得られる人工シーグラスは、シーグラスとしての利用のほかに、アクセサリーや建築用資材(建築物の外壁や舗装された道などにも利用)に利用できることから、本発明の製造方法で得られる人工シーグラスは、本製造方法で得られるアクセサリー用のガラスや、建築用資材に用い得られる装飾ガラスも包含するものとする。
【0018】
[人工シーグラスの製造方法について]
本発明の人工シーグラスの製造方法は、カレットを物理的に研磨する、予備研磨工程と、前記予備研磨工程で得られた予備研磨済カレットを、水の存在下で物理的に研磨する水介在研磨工程とを含む。
【0019】
[予備研磨工程]
本明細書において、予備研磨工程とは、水やその他の液体を用いずにカレットを物理的に研磨する工程であり、後述する水介在研磨工程よりも通常、前に行う工程である。
【0020】
ここで、物理的に研磨とは、カレット同士の衝突や、カレットを研磨装置の容器壁に衝突させることによって、ガラス片の角をなだらかにすることである。しかし、衝突することによって、カレットが破砕する(砕ける)ことがあるため、本明細書における研磨は、ガラスの破砕も含まれるものとする。予備研磨工程における温度は特に限定されないが、室温下で行うことが好ましい。
【0021】
予備研磨工程は、回転装置を使った研磨方法が好ましい。回転装置とは、例えば、回転軸が地面と水平に設置された円筒容器を備えた研磨装置などが挙げられる。この研磨装置では、円筒容器の中にカレットを投入して、円筒容器を、回転軸を中心に回転させることにより、研磨を実施する。回転数は、特に限定されないが、50~150rpmで回転させることが好ましい。回転装置の例については、後述する。
【0022】
予備研磨工程が終了したら、中にある小さなガラス片(ガラス粉)を取り除くことが好ましい。ガラス粉はふるいにかけるなどして、より大きなガラス片と分離する。例えば、850μm以下のガラス粉を分離し、それ以上の大きさのガラスは次の工程に用いる。
なお、所定の大きさよりも小さいガラス片(例えば、直径850μm以下のガラス粉)は、予備研磨工程は、水やその他の溶液を使わないため、そのような溶液と混合されていない。したがって、ガラス粉自体も、別の用途に利用することができる。
【0023】
ガラス粉は、ガラスフリットとして、例えば、人工軽石、電子部品の接合、密着、被覆に広く用いることができる。また、ガラス粉を樹脂、溶媒などと混練し、ペースト状にしたものはガラスペーストとよばれ、印刷法などで基材に塗布することができる。シート状にしてエレクトロニクス用の低温焼成基板にも使うことができる。さらには、金属の錆落とし、塗料に混ぜて道路標識、ロードマーク、その他、建材等に利用することができる。
【0024】
[水介在研磨工程]
次に、水介在研磨工程について説明する。本明細書において、水介在研磨工程は、通常、前記予備研磨工程で得られた予備研磨済カレットを、水の存在下で物理的に研磨する工程である。
【0025】
水の存在下で物理的に研磨できるものであれば、研磨装置は特に限定されるものではないが、予備研磨工程で用いることができる回転装置を用いることが好ましい。回転装置は、予備研磨工程に用いる装置と同一の装置でも異なる装置でもよいが、効率性の観点から同一の回転装置を用いることが好ましい。予備研磨工程と同様の回転装置を用いる場合は、円筒容器の中に予備研磨済カレットに加えて、水を投入し、円筒容器を、回転軸を中心に回転させることにより、研磨を実施する。回転数は特に限定されるものではないが、50~150rpmで回転させて用いることが好ましい。
【0026】
水介在研磨工程に用いる水は、純水、工業用水、水道水(上水)、地下水、及び水以外の成分を含む水(水含有率90%以上)を用いることができる。水存在下で研磨を行うことにより、所定の形状にするための研磨時間を短縮することができる。すなわち、水を存在させることにより、効率よく研磨することができる。また、経済性の観点、及び安全性の観点から他の成分を混合させず、純水、工業用水、水道水(上水)、地下水などをそのまま用いることが好ましい。
【0027】
なお、水にフッ酸やフッ化アルカリなどを加えてもよいが、安全性の観点から、入れないほうが好ましい。また、使用される水のpHは特に限定されるものではないが、例えばpHが5.8以上の水を使用することができる。
【0028】
水介在研磨工程は、予備研磨済カレットと、水との重量割合(予備研磨済カレット:水)については、特に限定されるものではないが、研磨スピードの観点から重量で3:1~1:3の範囲で実施することが好ましい。
【0029】
水介在研磨工程が終了後、ガラス粉を含む水と、ガラス片を研磨装置から取り出す。ガラス片は、そのまま人工シーグラスとして用いることができるが、必要に応じ、ふるいなどを用いて、サイズごとに分離することもできる。また、必要に応じ、水などで洗浄することもできる。
【0030】
なお、予備研磨工程と同様に、水介在研磨工程も、研磨材を用いる必要はない。研磨材を用いなくとも、適切な研磨ができるためである。研磨材を用いない場合は、研磨材を分離する必要もなくなる。
【0031】
[回転装置]
予備研磨工程及び/又は水介在破砕工程に用いることができる回転装置の例を、図1を用いて説明する。
【0032】
図1に示す回転装置1は、円筒容器2を備える。円筒容器2には、開閉窓3が備えられており、カレットを回転容器2に投入するときは、開閉窓3を開けて回転容器2にカレットを投入する。水介在研磨工程のときは、水も開閉窓3から円筒容器2に入れる。
【0033】
回転させるときは、軸支持体6に備えられている回転軸5を、例えば図1(a)の矢印Aの向きに回転させることにより円筒容器2が回転軸5を中心に回転し、内部にあるカレットと円筒容器2の内部壁面とが接触し(あるいはカレット同士が接触し)、物理的に研磨させる。
【0034】
製造できた人工シーグラス7を取り出す場合は、開閉窓3を開けることにより、スライダー4に人工シーグラス7を滑らせ、取り出すことができる。
【0035】
円筒容器2の金属粉がカレットに混じることを防止する目的で、及び/又は、内部の水が円筒容器2から漏れないようにする目的で、セラミック製などの円筒容器やコーティング材などを用いて円筒容器2の内部をコーティングしてもよい。
【0036】
本発明以外の人工シーグラスの製造方法として、
(1)カレットに、水と生地流しカレット(熔解したガラスを直接水に入れることで生成されるガラスの小片)とを混ぜて、研磨する。
(2)カレットに、水と超硬プレート(小片の金属性プレート)とを混ぜて、研磨する。
(3)カレットに、水と砂利とを混ぜて、研磨する。
等についても検討したが、(1)はカレットの研磨速度が低く、効率的でない。(2)はカレットが削れすぎてしまい、人工シーグラスには不向きである。また、(3)は、砂利との分離が難しい。したがって、上記製造方法は、本発明の製造方法ほど、人工シーグラスの製造に適していると言えない。
【実施例
【0037】
(実施例1)
カレット研磨回転装置に、5~15cm程度の大きさのカレット(ソーダ石灰ガラス)23.4kgを投入し、回転装置を室温下、100rpmで8時間回転させ予備研磨工程を実施した。次に、850μmのふるいにより、直径850μm以下のガラス粉を取り除いた後、直径850μmを超える予備研磨済カレットと、上水(水道水)20リットルを予備研磨工程で用いた同一の回転装置に投入し、回転装置を室温下100rpmで8時間回転させ、水介在研磨工程を実施した。回転後、不要なサイズのガラスを取り除くことで、3~6cm程度の大きさの人工シーグラスが14.75kg得られた。
【0038】
(比較例1)
実施例1で用いたカレット研磨回転装置に、5~15cm程度の大きさのカレット(ソーダ石灰ガラス)を23.4kg投入し、室温下、100rpmで17時間回転させた。回転後、不要なサイズのガラスを取り除くことで、3~6cm程度の大きさの人工シーグラスが19.26kg得られた。実施例1と比較して、表面にガラス粉が多く付着し、得られたガラス片の角はなめらかになっておらず、研磨に要する時間が長かった。
【0039】
(比較例2)
実施例1で用いたカレット研磨回転装置に、5~15cm程度の大きさのカレット(ソーダ石灰ガラス)23.4kgと、上水(水道水)20リットルとを投入し、室温下100rpmで17時間回転させた。回転後、3~6cm程度の大きさの人工シーグラスが13.5kg得られた。しかし、小さなガラス粉が大量に水に含まれてしまい、事実上、小さなガラス粉を分離することは不可能であった。
図1