IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヒタチ ゾウセン イノバ アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧

特許7094834有機廃棄物の嫌気性発酵のためのプラグフロー発酵槽の動作を最適化する方法
<>
  • 特許-有機廃棄物の嫌気性発酵のためのプラグフロー発酵槽の動作を最適化する方法 図1
  • 特許-有機廃棄物の嫌気性発酵のためのプラグフロー発酵槽の動作を最適化する方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】有機廃棄物の嫌気性発酵のためのプラグフロー発酵槽の動作を最適化する方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/65 20220101AFI20220627BHJP
   B01F 27/70 20220101ALI20220627BHJP
   B01F 27/00 20220101ALI20220627BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
B09B3/65 ZAB
B01F27/70
B01F27/00
C02F11/04 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018157988
(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公開番号】P2019042733
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】17188374.7
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516042103
【氏名又は名称】ヒタチ ゾウセン イノバ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】アードリアン シャッツ
(72)【発明者】
【氏名】マーク オイグスター
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/079228(WO,A1)
【文献】実開平02-001291(JP,U)
【文献】特開平06-279159(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0155313(US,A1)
【文献】国際公開第2011/121024(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102014116239(DE,A1)
【文献】国際公開第2016/071454(WO,A1)
【文献】特開2015-217364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00-5/00
C02F 11/00-11/20
B01F 27/00-27/96
C12M 1/00、1/02、1/113、1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機廃棄物の嫌気性発酵のためのプラグフロー発酵槽(10)の動作を最適化するための方法であって、
前記プラグフロー発酵槽は、水平に方向配置された発酵槽タンク(12)と攪拌機(14)とを備え、該攪拌機は、軸方向に前記発酵槽タンク(12)の内部を横断する攪拌機シャフト(16)と、前記攪拌機シャフト上に配置されており且つ半径方向に突き出る複数のパドル(18)と、駆動装置(20、200)とを備え、発酵材料は前記攪拌機(14)によって前記発酵槽タンク(12)内を移動させられる方法において、
a)前記駆動装置(20、200)のトルク又は電力を測定し、
b)工程a)で得られた特定の測定値Aactualを予め定義されている公称値Anominalに対して比較し、
c)前記公称値Anominalからの前記測定値Aactualの偏差に応じて、前記攪拌機シャフト(16)の回転速度、前記攪拌機シャフト(16)の回転方向、又は、前記発酵材料の乾燥物質部分を調整し、
前記発酵材料の前記乾燥物質部分の調整は、前記発酵槽タンク(12)の中に送り込まれる湿潤剤の量によって行
工程a)で得られた前記トルク又は電力の測定値A1 actual が、予め定義された最小値A1 min よりも小さい場合に、前記回転速度を減少させ、減少した前記回転速度を前記測定値A1 actual が前記最小値A1 min よりも小さい限り維持する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記攪拌機シャフト(16)の回転速度、前記攪拌機シャフト(16)の回転方向、又は、前記発酵材料の前記乾燥物質部分は、前記公称値Anominalからの前記測定値Aactualの偏差に応じて、工程c)において調整する、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記攪拌機シャフト(16)の前記回転速度がその中で調整される範囲が、毎分0回転~10回転の間である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記発酵材料の前記乾燥物質部分は5%~99%の間の範囲内である、ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程a)で得られる前記トルク又は電力の測定値A1actualが、予め定義された最大値A1maxよりも大きい場合に、前記回転速度を減少させ、
前記トルク又は電力を減少した回転速度で測定し、
減少した回転速度で測定した測定値A1actual,redが、依然としてA1maxよりも大きい場合に、
前記トルク又は電力をさらに減少させ、更に減少した前記回転速度における前記トルク又は電力の測定と、後に続けて実施される前記回転速度の減少とが、必要に応じて、少なくとも1回繰り返し、又は
前記攪拌機シャフト(16)の回転方向を変更する、
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記攪拌機シャフト(16)の前記回転方向の変更に続いて、前記回転方向を時間期間t後に変化させる、ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
有機廃棄物の嫌気性発酵のためのプラグフロー発酵槽(10)であって、
水平に方向配置された発酵槽タンク(12)と攪拌機(14)とを備え、該攪拌機(14)は、前記発酵槽タンク(12)の内部を横断する攪拌機シャフト(16)と、前記攪拌機シャフト(16)上に配置されており且つ半径方向に突き出る複数のパドル(18)と、駆動装置(20、200)とを備え、前記攪拌機は、発酵材料を前記発酵槽タンク(12)内で移動させることに適しているプラグフロー発酵槽(10)において、
前記プラグフロー発酵槽(10)は、前記駆動装置(20、200)のトルク又は電力の測定のための少なくとも1つの測定機構と、得られた測定値A1 actual に基づいて、及び、予め定義された公称値からの前記測定値の偏差に基づいて、前記攪拌機シャフト(16)の回転速度、前記攪拌機シャフト(16)の回転方向、又は、前記発酵材料の乾燥物質部分を調整するように設計されている調整手段(26)とを備え、
前記発酵材料の前記乾燥物質部分の調整は、前記発酵槽タンク(12)の中に送り込まれる湿潤剤の量によって行い、
前記トルク又は電力の測定値A1 actual が、予め定義された最小値A1 min よりも小さい場合に、前記回転速度を減少させ、減少した前記回転速度は前記測定値A1 actual が前記最小値A1 min よりも小さい限り維持される、
ことを特徴とするプラグフロー発酵槽(10)。
【請求項8】
前記調整手段(26)は、得られた測定値に基づいて、又は、前記公称値からの前記測定値の偏差に基づいて、前記攪拌機シャフト(16)の回転速度、前記攪拌機シャフト(16)の回転方向、又は、前記発酵材料の乾燥物質部分を調整するように設計されている調整ユニット(260)の形態又は前記調整ユニットの一部分として存在している、ことを特徴とする請求項に記載のプラグフロー発酵槽(10)。
【請求項9】
前記駆動装置(20)はモーターであり、及び、前記モーターに対して周波数変換器(22)が割り当てられている、ことを特徴とする請求項7又は8に記載のプラグフロー発酵槽(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機廃棄物の嫌気性発酵のためのプラグフロー発酵槽の動作を最適化する方法と、この方法に対応して設計されているプラグフロー発酵槽とに関する。
【背景技術】
【0002】
有機廃棄物の嫌気性発酵のための方法が当業者に公知であり、及び、こうした方法が、第1に環境保護的な廃棄物管理を可能にし、及び、第2に、多量のバイオガスがこの方法によって発生させられることが可能であり、経済的にも重要であるので、こうした方法は特に近年において重要性を増している。
【0003】
すでに知られている嫌気性発酵方法では、液体又は湿式発酵方法といわゆる乾式発酵方法との間で基本的な区別が行われることが可能である。湿式発酵方法は通常は1つ又は複数の垂直に配置された発酵槽の中で行われるが、いわゆる乾式発酵方法の場合には、発酵材料が、一般的に、平行に配置された発酵槽の中で発酵させられる。
【0004】
これに関連して、発酵材料の乾燥物質部分が、湿式発酵方法の場合よりも著しく多い。しかし、発酵材料は、乾式発酵の場合でさえ、多量の液体部分を有する。
【0005】
乾式発酵方法は、特に、例えば特許文献1から知られているように、プラグフロー発酵槽内で行われることが可能である。こうした発酵槽は、一般的に、一方の端部に備えられている発酵槽入口と、反対側の端部に備えられている発酵槽出口とを有する、細長い水平発酵槽タンクを備える。
【0006】
発酵させられるべき有機廃棄物は、粉砕された形で入口側において送り込まれ、さらに、すでに発酵させられた材料、及び/又は、発酵残渣処理段階からのプレスウォーター(press water)を吹き込まれる。この結果として、発酵させられるべき材料は、メタン生成菌を豊富化させられる。その次に、発酵槽タンク内では、廃棄物が、バイオガスを形成するように、制御された混合によって分解され、及び,その次に、引き続いて,即ち、発酵槽出口を通過して外に出た後に、発酵残滓処理段階に送られ、及び,その次に好気性腐敗段階に送られる。
【0007】
こうしたプラグフロー発酵槽の攪拌機は、第1に、可能な限り最適である発酵を目的として、発酵材料がメタン生成菌と十分に混合させられることを確実なものにしなければならない。さらに、この目的は、混合の結果として、又は、生じる連続的な表面更新の結果として、良好な脱ガス処理を確実なものにすることである。
【0008】
さらに、攪拌機は、発酵槽タンクの底部に沈殿する可能性がある、より重たい発酵材料の固体成分が、上部層の中に移動させられることが可能であることと、こうして発酵材料のこれらの成分さえもが発酵槽の中を通過して搬送され、及び、特定の時点に発酵槽の外に出て行くこととを確実なものにしなければならない。
【0009】
発酵槽内の発酵材料の残留時間の減少と、実現可能なスループットをこうして増大させることという目的が、例えば特許文献2によって対処され、この特許文献2では、新鮮な材料又は発酵材料が、複数の入口開口部を通して送り込まれることが可能であり、及び/又は、発酵材料が複数の発酵材料放出開口部を通して取り除かれることが可能である。
【0010】
特にプラグフロー発酵槽の場合には、発酵材料の一部分が攪拌機シャフト上で凝固する可能性があり、及び、この発酵材料の一部分が攪拌機シャフト上に付着するという問題が頻繁に生じる。これに関連した重量増大が、自動的に、攪拌機シャフト上のより大きい荷重と、攪拌機シャフトの撓みとを生じさせる。このことは、攪拌機シャフト上に配置されているパドルと、このパドルの半径方向に外側の端部上に配置されているブレードとが発酵槽タンクの壁の上を擦ることを生じさせる可能性があり、この結果として、攪拌機シャフトにおけるトルクがさらに増大し、さらには発酵槽タンク壁上に摩耗が生じる。さらに、生物源廃棄物の事前の粉砕にも係わらず、ロープ、ワイヤー、又は、ループ形の未加工廃棄物のような細長い固体が、再三にわたって発酵槽の中に入る可能性があり、及び、動作中に攪拌機シャフトの周りに巻き付く可能性がある。これらの効果が、発酵槽動作の障害の原因となる可能性があり、及び、最悪のケースでは、発酵槽の故障の原因となる可能性がある。
【0011】
上述した問題点から進んで、特許文献3が、プラグフロー発酵槽を動作させるための方法を提案しており、この方法では、a)V字形に配置されている鋤べら(share)によって耕起(plowing)作用が生じさせられる方向に攪拌機が回転させられ、b)ブレードが搬送作用を生じさせる反対方向に攪拌機が回転させられ、及び、c)攪拌機が停止する。
【0012】
しかし、特許文献3で説明されている方法は、限られた度合いだけしか発酵材料の不均等性に対処しない。このことは、不十分な混合、又は、過剰に短い残留時間という理由から、発酵槽タンク内の発酵材料の最適以下の発酵及び脱ガス処理という結果をもたらす可能性がある。他方では、攪拌機のエネルギー消費が、効率的な混合と搬送とのために必要とされるエネルギー消費よりも大きく、及び、このことが最適以下のエネルギー収支の形で反映される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】欧州特許出願公開第0476217号明細書
【文献】国際公開第2005/113469号
【文献】欧州特許出願公開第1841853号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
こうした背景に基づいて、有機廃棄物の嫌気性発酵のためのプラグフロー発酵槽の動作を最適化するための方法を提供することが、本発明の目的である。特に、本発明の目的は、可能な限り低いエネルギー消費を伴う形での最適の発酵及び脱ガス処理を確実なものにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的は、請求項1に記載の本発明による方法によって実現される。本発明の好ましい実施態様が、従属請求項に規定されている。
【0016】
請求項1では、動作が最適化されるプラグフロー発酵槽が、水平に方向配置された発酵槽タンクと攪拌機とを備える。攪拌機は、その部分上において、軸方向に発酵槽タンクの内部を横断する攪拌機シャフトと、攪拌機シャフト上に配置されており且つ半径方向に突き出る複数のパドルと、さらに駆動装置とを備える。発酵材料が攪拌機によって発酵槽タンク内を移動させられる。この結果として、発酵材料は、最初に混合され、及び、その次に、この移動が、発酵槽入口から発酵槽出口の方向への発酵材料の搬送も生じさせる。
【0017】
求められている動作の最適化は、以下のようにして、本発明において実現される。すなわち、
a)プラグフロー発酵槽の特定の動作状態の少なくとも1つのパラメーター特性が測定される工程と、
b)a)で得られた特定の測定値Aactualが、予め定義されている公称値Anominalに対して比較される工程と、
c)公称値Anominalからの測定値Aactualの偏差に応じて、攪拌機シャフトの回転速度、攪拌機シャフトの回転方向、及び/又は、発酵材料の乾燥物質部分が調整される工程と、によって実現される。
【0018】
したがって、本発明では、工程a)と工程b)とにおいて生じる特定のパラメーターの測定と、対応する公称値との比較とによって、攪拌機シャフトの現在の回転速度と回転方向の場合において、そのシステムの「オーバーロード」又は「アンダーロード」があるかどうかを検査することが可能である。こうした「オーバーロード」又は「アンダーロード」がある場合には、回転速度及び/又は回転方向の調整によって「オーバーロード」又は「アンダーロード」が明確に抑制されることが可能である。代替策として、又は、追加的に、発酵材料の乾燥物質部分が、さらに、そのスループットを最適化するために、調整されることが可能である。このことが、最終的に、発酵材料の最適な処理を可能にし、及び、この目的のために消費されるエネルギー消費が同時に最小に維持される。
【0019】
本発明の方法又はプラグフロー発酵槽は、乾式発酵のために設計されている。したがって、本発明は、冒頭で説明した湿式発酵方法とこの目的のために意図されている垂直システムとは基本的に異なっており、及び、この湿式発酵方法と垂直システムに関しては、例えば、同一の特許群に属する独国特許出願公開第10 2014 116 239 A1号明細書と国際公開第2011/121024A1号とが参照される。例えば、国際公開第2011/121024A1号で説明されている技術では、プロペラを有する2つの攪拌機が容器内に配置されており、及び、これらのプロペラは回転して、容器内容物の水平方向の流れを概ね生じさせるように作られている。本発明に比較して基本的に異なっている湿式発酵技術にしたがって、及び、異なる目的、即ち、発酵物質の変換量(converted amount)と、そのために必要とされる残留時間とを最小化するという目的と、(多くの死水領域(dead region)を有する傾向がある)容器体積内のより大きな有効混合区域を形成するという目的とにしたがって、国際公開第2011/121024A1号による装置全体と特に攪拌機とが、本発明の設計とは完全に異なる設計でもある。例えば、軸方向に容器の内部を横断する攪拌機シャフトが存在せず、且つ、国際公開第2011/121024A1号による攪拌機は、半径方向に突き出るパドルを備えない。
【0020】
上述したように、本発明による方法の工程c)において、発酵材料の乾燥物質部分を調整することと、したがって、その乾燥物質部分の可搬送性(conveyability)を最終的に適合化させることとが可能である。概して、これは、発酵槽タンクの中に送り込まれて発酵材料に加えられる湿潤剤の量の調整によって行われる。しかし、発酵槽タンクの中に送り込まれる発酵材料の量によって、乾燥材料部分を調整することも想定可能である。
【0021】
具体的に述べると、発酵材料の乾燥物質部分は、好ましくは5%から99%の範囲内、より好ましくは15%から40%の範囲内であり、及び、したがって、湿式発酵システム内に存在する乾燥物質部分を明確に上回る。
【0022】
本発明の文脈において、術語「廃棄物」は、供給原材料中に存在している材料に関して使用され、一方、「発酵材料」は、発酵槽タンク内に存在しており、接種され終わっており、及び、発酵させられている、廃棄物を主成分とする材料を意味する。
【0023】
本発明の文脈においては、廃棄物及び発酵材料は、特に比較的に不均質性の材料であり、及び、これによって意味されることは、乾燥物質部分が、異なるサイズ及び形状の固体粒子又は固体成分を含むということである。特に、比較的に大きい体積の固体成分がその中に存在することがある。典型的には、有機廃棄物は、家庭ゴミ、庭ゴミ、農業ゴミ、工業ゴミ、野菜ゴミ、残飯、及び、固形物質のような動物排泄物のような、廃棄物の混合物である。本発明によって得られる利点は特にこうした不均質性材料の場合に効果を発揮するが、これは、システムのために最適である攪拌機シャフトの回転速度及び回転方向と最適の乾燥物質部分とが、不断の変動を被る可能性があるが、この変動が本発明によって補償されることが可能だからである。
【0024】
術語「公称値」は、本発明の文脈で使用される時に、特に公称値範囲を含む。言い換えると、この場合に、本発明では、測定値Aactualが公称値範囲の上限よりも大きいか、または、公称値範囲の下限よりも小さい時に、公称値Anominalからの測定値Aactualの偏差がある。
【0025】
具体的に述べると、例えば独国特許出願公開第10 2014 116 239 A1号明細書によって教示されているような公称負荷曲線は、本発明によっては設定されない。本発明の方法では、公称負荷曲線の設定は、技術的に特定の度合いだけ、特に発酵材料の不均質性の観点において、意味をなすにすぎない。
【0026】
上述したように、攪拌機シャフトの回転速度、攪拌機シャフトの回転方向、及び/又は、発酵材料の乾燥物質部分は、公称値Anominalからの測定値Aactualの偏差に応じて、工程c)で調整される。好ましい一実施態様では、攪拌機シャフトの回転速度、攪拌機シャフトの回転方向、及び/又は、発酵材料の乾燥物質部分は、これに関連して、1回調整されるだけでなく制御もされる。言い換えると、公称値Anominalからの測定値Aactualの偏差に応じて、攪拌機シャフトの回転速度、攪拌機シャフトの回転方向、及び/又は、発酵材料の乾燥物質部分における変化が連続的に監視され、これに基づいて、攪拌機シャフトの回転速度、攪拌機シャフトの回転方向、及び/又は、発酵材料の乾燥物質部分における変化が、さらに適合化されるか又は保持され、この結果として、閉じた作用シーケンスが存在する。
【0027】
したがって、本発明は、プラグフロー発酵槽を動作させるための国際公開第2006/079228A1号に説明されている方法とは基本的に異なっており、この特許文献では、予め定義された工程a)から工程c)が行われ、及び、攪拌機が、工程a)において耕起作用(plowing action)を実現するために、予め決められた(第1の)方向に回転し、工程b)において搬送作用を実現するために逆の(第2の)方向に回転し、及び、工程c)において静止する。しかし、国際公開第2006/079228A1号は、発酵槽の動作状態のパラメーター特性、又は、公称値からの発酵槽の動作状態の偏差に応じて、攪拌機の回転方向を調整することは開示していない。これとは別に、国際出願第2006/079228A1号は、攪拌機シャフトの回転速度、及び/又は、発酵材料の乾燥物質部分を調整することを教示も開示もしていない。
【0028】
好ましくは、攪拌機シャフトの回転速度がその内で調整される範囲が、毎分0回転から10回転の間であり、好ましくは毎分0回転から1回転の間であり、特に好ましくは毎分0.2回転から0.6回転の間である。したがって、攪拌機シャフトの回転速度は、例えば湿式発酵方法で使用されることが可能であり、且つ、独国特許出願公開第10 2014 116 239 A1号明細書及び国際公開第2011/121024A1号に説明されている事例の場合に示されており、及び、毎分30回転から180回転の速さの回転速度を伴って使用される、プロペラの回転速度とは大きく異なる。
【0029】
攪拌機シャフト上に配置されているパドルと、採用随意にパドルの半径方向外側の端部上に配置されているブレードとが、主として最適な発酵のために発酵材料を混合する役割を果たす。これに関連して、パドルと、特にパドル上に配置されているブレードとを対称的に設計することが想定可能であり、この結果として、発酵槽出口に向かう有効搬送成分がパドルとブレードによって発酵材料に付与されることがない。これに関連して、回転方向に対して非対称的にブレードを設計することが特に想定可能であり、この結果として、第1の回転方向の場合に発酵材料に対する半径方向の搬送作用が生じさせられ、及び、第2の回転方向の場合に耕起作用が生じさせられる。この実施態様では、発酵材料の推進が、第1に、発酵槽入口の中を通過する発酵材料の前進の結果として生じ、この搬送は、攪拌機シャフトによって発生させられる発酵材料移動によって生じさせられる。しかし、発酵槽出口の方向における有効な軸方向搬送成分が発酵材料に付与されるように、ブレードを設計することも想定可能である。
【0030】
動作状態のパラメーター特性として、本発明によって、パラメーターの少なくとも1つを特に選択することが可能である。すなわち、
A1:駆動装置のトルク及び/又は電力、
A2:発酵槽タンク内の少なくとも1つの温度、
A3:発酵槽タンク内の少なくとも1つの箇所における発酵材料の流量及び/又は組成、及び/又は、
A4:嫌気性発酵によって発生させられるガスの組成及び/又は量、
というパラメーターの少なくとも1つを特に選択することが可能である。
【0031】
これに関連して、特に好ましい実施態様では、駆動装置のトルク及び/又は電力、即ち、パラメーターA1が測定される。この点に関して、例えば、駆動装置の電力が電流と電圧の積によって制御側において確認されることが想定可能である。さらに、駆動装置の電力からトルクが求められることが想定可能である。特に好ましい実施態様では、駆動装置は、モーター、特に、周波数変換器が割り当てられている非同期モーターの形で存在しており、この場合には、周波数変換器におけるパーセント単位のトルクが確認されることが好ましい。
【0032】
駆動装置のトルク及び/又は電力の、工程a)で得られた測定値A1actualから進んで、工程a)で得られるトルク又は電力の測定値A1actualが、予め定義された最大値A1maxよりも大きい場合に、本発明による方法の別の好ましい実施態様によって回転速度が減少させられる。
【0033】
この場合には、トルク又は電力が、減少させられた回転速度で測定される。
【0034】
最後に、減少させられた回転速度で測定された値A1actual,redが、依然としてA1maxよりも大きい場合には、
トルク又は電力がさらに減少させられ、即ち、さらに減少させられた回転速度におけるトルク又は電力の測定と、後に続けて行われる回転速度のさらなる減少とが、必要に応じて、少なくとも1回、好ましくは複数回にわたって繰り返され、及び/又は、
攪拌機シャフトの回転方向が変更される。
【0035】
したがって、システムのオーバーロードの発生時には、回転速度を減少させることによって、及び/又は、回転方向を変更するか又は逆にすることによって、このオーバーロードが軽減され、及び、システムのオーバーロードに関して使用される指標が、駆動装置のトルク又は電力が予め定義された公称値を超えるということである。したがって、この好ましい実施態様の着想は、国際公開第2011/121024A1号の着想とは全く正反対であり、この国際公開第2011/121024A1号では、過剰に高い粘性の発生時に、個別の空洞(cavern)の中への共通の混合区域の陥没を防止するために、攪拌機の回転速度が増大させられるか、又は、さらに別の攪拌機のスイッチを入れることによって投入動力(power input)が増大させられる。
【0036】
好ましくは、この特定の段階における回転速度は僅かな度合いだけ減少させられ、この結果として、この回転速度の減少に起因して生じる差異は、毎分0.001回転から0.1回転の範囲内であり、好ましくは概ね毎分0.05回転である。このことは、減少させられた回転速度の場合にさえ、その回転速度が発酵材料の十分な混合を確実なものにするのに十分なだけ高いということを確実なものにすることが可能である。
【0037】
攪拌機シャフトの回転方向が変更される場合には、この変更の後に、時間期間t後に攪拌機シャフトの回転方向を変更することが好ましい可能性があり、この結果として、当初の回転方向が得られるということである。これは、特に、パドル及び/又はおそらくはパドル上に配置されているブレードが、回転方向に対して非対称的に配置されている場合であり、この結果として、第1の回転方向の場合に発酵材料に対する半径方向の搬送作用が生じ、及び、第2の方向の場合に耕起作用が生じ、これによって、蓄積する発酵材料の釈放が生じさせられることが可能であり、これによって、発酵材料が、回転方向の再逆転の後に、より容易に搬送されることが可能である。
【0038】
システムのオーバーロードが確認される上述の方法に対する代替案として、工程a)で得られるトルク又は電力の測定値A1actualが、予め定義された最小値A1minよりも小さいことも想定可能であって、このことは、そのシステムの「アンダーロード」を示す。この場合には、攪拌機シャフトの回転速度が好ましくは減少させられ、及び、したがってシステムがエネルギー節約モードに移行させられるが、しかし、このエネルギー節約モードにおいて、発酵材料の混合と搬送とが十分に高度であることを確実なものにすることが可能である。
【0039】
減少させられた回転速度又はエネルギー節約モードが、測定値A1actualがA1minよりも小さい限り維持される。測定値A1actualが最小値A1minを越えることが確かめられる場合には、回転速度が上昇させられ、この結果として、A1actualは、限界A1min及びA1maxによって画定される範囲内に含まれる。
【0040】
上述の方法に加えて、本発明は、さらに別の側面によって、この方法のために備えられているプラグフロー発酵槽をさらに提供する。
【0041】
したがって、このプラグフロー発酵槽は、上述した発酵槽タンクと攪拌機を備えるだけでなく、さらには、プラグフロー発酵槽の特定の動作状態の少なくとも1つのパラメーター特性の判定のための少なくとも1つの測定機構と、得られた測定値に基づいて、又は、予め定義された公称値からの測定値の偏差に基づいて攪拌機シャフトの回転速度及び/又は回転方向を調整するように設計されている調整手段とを備える。
【0042】
好ましくは、この調整手段は、得られた測定値に基づいて、又は、公称値からの測定値の偏差に基づいて、攪拌機シャフトの回転速度及び/又は回転方向を調整するように設計されている調整ユニットの形態で、又は、この調整ユニットの一部分として存在している。
【0043】
さらに、駆動装置が、モーター、さらに特に非同期式モーターであり、及び、このモーターに対して周波数変換器が割り当てられることが好ましい。
【0044】
本発明は、図面によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の方法による調整システムの説明図である。
図2】各々の場合に存在している駆動電力に対してトルク(周波数変換器における%で示す)がプロットされており、及び、さらに、攪拌機シャフトの様々な回転速度における公称値が定義されているグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1によれば、本発明による方法が、水平方向に方向配置されている発酵槽タンク12と攪拌機14とを備えるプラグフロー発酵槽10を使用することによって行われる。
【0047】
攪拌機14が、軸方向に発酵槽タンク12の内部を横断する攪拌機シャフト16と、攪拌機シャフト上に配置されており且つ半径方向に突き出る複数のパドル18と、さらには、この特定の場合には、周波数変換器22が付加されている非同期式モーター200の形態で存在している駆動装置20とを備える。それとは別に、発酵材料を混合するように、且つ、その結果として発酵槽出口に向かう発酵材料の搬送を促進するように設計されているブレード24が、パドル18の半径方向に外側の端部上に配置されている。
【0048】
図1に示されている例示的な実施形態では、周波数変換器22におけるトルクMactual[%]が、攪拌機シャフト16の現在回転速度nactualにおいて工程a)で測定される。
【0049】
工程b)において、得られた測定値が、公称値Mnominal[%]、特に公称値範囲に対して比較される。
【0050】
この比較の結果が、測定されたトルク又は電力値が公称値範囲の最大値よりも大きい場合(場合A)には、即ち、これは、発酵材料の乾燥物質含量が比較的高い場合である可能性があるが、このシステムは、工程c)において回転速度を値nnomial,newに減少させるように、調整ユニット260の形態である調整手段26を経由して、周波数変換器22に信号を与えることによって対処される。
【0051】
この後に、攪拌機シャフト16の減少させられた回転速度nnominal,newのために加えられるべきトルクが、測定されて、最大値Mmaxと比較される。
【0052】
トルクが依然として高すぎる場合には、このことは発酵材料の密集状態を示す。このことは、トルクが最大値よりも低くなるまで、減少させられた回転速度において加えられるトルクの後続の測定と、最大値に対するこのトルクの比較とを伴って、回転速度の減少を複数回にわたって繰り返すことによって、対処されることが可能である。あるいは、代替策として、攪拌機シャフトの回転方向が変化させられることが可能である。したがって、パドル及びこのパドル上に配置されることが可能なブレードの設計に応じて、耕起作用が、発酵材料の鬱滞を消散させるために得られることが可能である。さらに、過剰に高いトルクが、特にパドル上に密集した発酵材料成分の結果である場合には、回転方向を変化させることが、パドルからの上記成分の釈放と最終的な取り除きとを実現することが可能である。
【0053】
これとは対照的に、工程b)において、トルクが公称値範囲の最小値よりも低いことが確認される場合(場合B)には、このことがシステムの「アンダーロード」を示す。これは、回転速度を最小回転速度に最小化することによって、又は、回転速度を完全にオフにすることと、こうして駆動装置をエネルギー節約モードに切り換えることによって、応答される。
【0054】
代替策として、及び、追加策として、例えば、発酵槽タンク内の少なくとも1つの箇所における、及び/又は、発酵槽タンクからの出口の後における、発酵材料の組成に基づいて、(減少した回転速度における)発酵槽タンク内の混合が十分であるかどうかに関する結論が引き出される。
【0055】
異なるシナリオが図2のグラフに示されており、この図2では、50%から80%の間の公称値範囲と、毎分0.2回転(rpm)の最小回転速度とが、周波数変換器において、トルクに関して事前定義されている。
【0056】
トルクの測定の結果が、そのトルクが、0.6rpmの攪拌機シャフトの回転速度において95%であり、したがって過剰に大きいということである場合には、回転速度が減少させられ、及び、特定の事例の場合には回転速度が0.4rpmに減少させられ、この場合には、トルクが再び測定され、及び、公称値、又は、公称値範囲の最大値に対して比較される。
【0057】
これとは対照的に、0.4rpmの現在回転速度において、予め決められた最小値(この特定の場合には、6kW未満)である駆動電力が確認される場合には、回転速度が最小化され、したがってシステムがエネルギー節約モードに切り換えられる。
【0058】
このグラフに示されている例では、回転速度が、上記0.4rpmから0.2rpmに連続的に減少させられる。
【符号の説明】
【0059】
10 プラグフロー発酵槽
12 発酵槽タンク
14 攪拌機
16 攪拌機シャフト
18 パドル
20、200 駆動装置:非同期式モーター
22 周波数変換器
24 ブレード
26、260 調整手段;調整ユニット
図1
図2