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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】モータ制御装置及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20220627BHJP
   H02P 21/06 20160101ALI20220627BHJP
   H02P 6/16 20160101ALI20220627BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P21/06
H02P6/16
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018214270
(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公開番号】P2020088880
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000253075
【氏名又は名称】澤藤電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092808
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 亘
(74)【代理人】
【識別番号】100140981
【弁理士】
【氏名又は名称】柿原 希望
(72)【発明者】
【氏名】福田 健二
(72)【発明者】
【氏名】高田 敬夢
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-226191(JP,A)
【文献】特開平11-285288(JP,A)
【文献】特開2000-50686(JP,A)
【文献】特開2013-5618(JP,A)
【文献】特開2008-265730(JP,A)
【文献】特開2018-19496(JP,A)
【文献】国際公開第2010/86974(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/70224(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
H02P 21/06
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PMモータに3相交流の駆動電流を流下させるインバータと、
前記駆動電流の値を取得する駆動電流検出部と、
前記PMモータの電気角を取得する角度検出部と、
前記電気角に基づいて前記駆動電流検出部が取得した前記駆動電流をd軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値に変換する3相/dq変換部と、
外部からのトルク指令値に基づいてd軸電流指令値、q軸電流指令値を設定し、これらd軸電流指令値、q軸電流指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいてd軸電圧指令値、q軸電圧指令値を生成する正弦波制御部と、
前記d軸電圧指令値、q軸電圧指令値を線形補正する線形補正部と、
線形補正された前記d軸電圧指令値、q軸電圧指令値を三相電圧指令値に変換するdq/3相変換部と、
所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値とを比較して前記インバータをスイッチングする駆動信号を生成する駆動信号生成部と、を有するモータ制御装置において、
前記正弦波制御部は、
電流積分制御部と電流比例制御部とを備え前記d軸電流指令値、q軸電流指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいてd軸電圧指令値、q軸電圧指令値を生成する電流制御部と、
d軸の電圧指令値とq軸の電圧指令値とを極座標変換し電圧指令値を取得する極座標変換部と、を有し、
前記電流制御部は前記電流比例制御部の出力を含まない積分側d軸電圧指令値、積分側q軸電圧指令値を前記極座標変換部に出力し、
前記極座標変換部は前記積分側d軸電圧指令値、積分側q軸電圧指令値に基づいて電圧指令値を取得し前記線形補正部に出力し、
前記線形補正部は前記積分側d軸電圧指令値、積分側q軸電圧指令値に基づく前記電圧指令値に基づいて前記正弦波制御部が生成した前記d軸電圧指令値、q軸電圧指令値を線形補正することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
PMモータに3相交流の駆動電流を流下させるインバータと、
前記駆動電流の値を取得する駆動電流検出部と、
前記PMモータの電気角を取得する角度検出部と、
前記電気角に基づいて前記駆動電流検出部が取得した前記駆動電流をd軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値に変換する3相/dq変換部と、
外部からのトルク指令値に基づいてd軸電流指令値、q軸電流指令値を設定し、これらd軸電流指令値、q軸電流指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいてd軸電圧指令値、q軸電圧指令値を生成する正弦波制御部と、
前記d軸電圧指令値、q軸電圧指令値を三相電圧指令値に変換するdq/3相変換部と、
キャリア設定情報に基づく所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値とを比較して前記インバータをスイッチングする駆動信号を生成する駆動信号生成部と、を有するモータ制御装置において、
前記正弦波制御部は、
電流積分制御部と電流比例制御部とを備え前記d軸電流指令値、q軸電流指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいてd軸電圧指令値、q軸電圧指令値を生成する電流制御部と、
d軸の電圧指令値とq軸の電圧指令値とを極座標変換し電圧位相を取得する極座標変換部と、
前記電圧位相に基づいて前記キャリア設定情報を生成する正弦波モード同期制御部と、を有し、
前記電流制御部は前記電流比例制御部の出力を含まない積分側d軸電圧指令値、積分側q軸電圧指令値を前記極座標変換部に出力し、
前記極座標変換部は前記積分側d軸電圧指令値、積分側q軸電圧指令値に基づいて電圧位相を取得し前記正弦波モード同期制御部に出力し、
前記正弦波モード同期制御部は前記積分側d軸電圧指令値、積分側q軸電圧指令値に基づく前記電圧位相に基づいて前記キャリア設定情報を生成することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
PMモータに3相交流の駆動電流を流下させるインバータと、
前記駆動電流の値を取得する駆動電流検出部と、
前記PMモータの電気角を取得する角度検出部と、
前記電気角に基づいて前記駆動電流検出部が取得した前記駆動電流をd軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値に変換する3相/dq変換部と、
外部からのトルク指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいて電圧位相を設定し、前記電圧位相に基づいてd軸電圧指令値、q軸電圧指令値を生成する矩形波制御部と、
d軸電圧指令値、q軸電圧指令値を線形補正する線形補正部と、
線形補正されたd軸電圧指令値、q軸電圧指令値を三相電圧指令値に変換するdq/3相変換部と、
所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値とを比較して前記インバータをスイッチングする駆動信号を生成する駆動信号生成部と、を有するモータ制御装置において、
前記矩形波制御部は、
外部からの前記トルク指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいて電圧位相を取得する電圧位相設定部と、
電圧指令値と前記電圧位相設定部が出力した電圧位相に基づいてd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を生成する電圧指令生成部と、
前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値と、前記d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値と、に基づいてd軸電圧指令補正値及びq軸電圧指令補正値を出力する補正部と、を有し、
前記線形補正部は前記電圧指令値に基づいて前記d軸電圧指令補正値、q軸電圧指令補正値を線形補正することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
PMモータに3相交流の駆動電流を流下させるインバータと、
前記駆動電流の値を取得する駆動電流検出部と、
前記PMモータの電気角を取得する角度検出部と、
前記電気角に基づいて前記駆動電流検出部が取得した前記駆動電流をd軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値に変換する3相/dq変換部と、
外部からのトルク指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいて電圧位相を設定し、前記電圧位相に基づいてd軸電圧指令値、q軸電圧指令値を生成する矩形波制御部と、
d軸電圧指令値、q軸電圧指令値を三相電圧指令値に変換するdq/3相変換部と、
キャリア設定情報に基づく所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値とを比較して前記インバータをスイッチングする駆動信号を生成する駆動信号生成部と、を有するモータ制御装置において、
前記矩形波制御部は、
外部からの前記トルク指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいて電圧位相を取得する電圧位相設定部と、
前記電圧位相設定部が出力した電圧位相に基づいてd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を生成する電圧指令生成部と、
前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値と、前記d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値と、に基づいてd軸電圧指令補正値及びq軸電圧指令補正値を出力する補正部と、
前記キャリア設定情報を生成する矩形波モード同期制御部と、を有し、
前記矩形波モード同期制御部は前記電圧位相設定部の出力した電圧位相に基づいて前記キャリア設定情報を生成することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
PMモータに3相交流の駆動電流を流下させるインバータと、
前記駆動電流の値を取得する駆動電流検出部と、
前記PMモータの電気角を取得する角度検出部と、
前記電気角に基づいて前記駆動電流検出部が取得した前記駆動電流をd軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値に変換する3相/dq変換部と、
外部からのトルク指令値に基づいてd軸電流指令値、q軸電流指令値を設定し、これらd軸電流指令値、q軸電流指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいてd軸電圧指令値、q軸電圧指令値を生成する正弦波制御部と、
前記d軸電圧指令値、q軸電圧指令値を線形補正する線形補正部と、
線形補正された前記d軸電圧指令値、q軸電圧指令値を三相電圧指令値に変換するdq/3相変換部と、
所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値とを比較して前記インバータをスイッチングする駆動信号を生成する駆動信号生成部と、を有するモータ制御装置のモータ制御方法であって、
前記正弦波制御部は、
電流積分制御部と電流比例制御部とを備え前記d軸電流指令値、q軸電流指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいてd軸電圧指令値、q軸電圧指令値を生成する電流制御部と、
d軸の電圧指令値とq軸の電圧指令値とを極座標変換し電圧指令値を取得する極座標変換部と、を有し、
前記電流制御部が前記電流比例制御部の出力を含まない積分側d軸電圧指令値、積分側q軸電圧指令値を前記極座標変換部に出力する積分側電圧指令値出力ステップと、
前記極座標変換部が前記積分側d軸電圧指令値、積分側q軸電圧指令値に基づいて電圧指令値を取得し前記線形補正部に出力する電圧指令値出力ステップと、
前記線形補正部が前記積分側d軸電圧指令値、積分側q軸電圧指令値に基づく前記電圧指令値に基づいて前記正弦波制御部が生成した前記d軸電圧指令値、q軸電圧指令値を線形補正する正弦波制御線形補正ステップと、を行うことを特徴とするモータ制御方法。
【請求項6】
PMモータに3相交流の駆動電流を流下させるインバータと、
前記駆動電流の値を取得する駆動電流検出部と、
前記PMモータの電気角を取得する角度検出部と、
前記電気角に基づいて前記駆動電流検出部が取得した前記駆動電流をd軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値に変換する3相/dq変換部と、
外部からのトルク指令値に基づいてd軸電流指令値、q軸電流指令値を設定し、これらd軸電流指令値、q軸電流指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいてd軸電圧指令値、q軸電圧指令値を生成する正弦波制御部と、
前記d軸電圧指令値、q軸電圧指令値を三相電圧指令値に変換するdq/3相変換部と、
キャリア設定情報に基づく所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値とを比較して前記インバータをスイッチングする駆動信号を生成する駆動信号生成部と、を有するモータ制御装置のモータ制御方法であって、
前記正弦波制御部は、
電流積分制御部と電流比例制御部とを備え前記d軸電流指令値、q軸電流指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいてd軸電圧指令値、q軸電圧指令値を生成する電流制御部と、
d軸の電圧指令値とq軸の電圧指令値とを極座標変換し電圧位相を取得する極座標変換部と、
前記電圧位相に基づいて前記キャリア設定情報を生成する正弦波モード同期制御部と、を有し、
前記電流制御部が前記電流比例制御部の出力を含まない積分側d軸電圧指令値、積分側q軸電圧指令値を前記極座標変換部に出力する積分側電圧指令値出力ステップと、
前記極座標変換部が前記積分側d軸電圧指令値、積分側q軸電圧指令値に基づいて電圧位相を取得し前記正弦波モード同期制御部に出力する電圧位相出力ステップと、
前記正弦波モード同期制御部が前記積分側d軸電圧指令値、積分側q軸電圧指令値に基づく前記電圧位相に基づいて前記キャリア設定情報を生成する正弦波制御キャリア情報生成ステップと、を行うことを特徴とするモータ制御方法。
【請求項7】
PMモータに3相交流の駆動電流を流下させるインバータと、
前記駆動電流の値を取得する駆動電流検出部と、
前記PMモータの電気角を取得する角度検出部と、
前記電気角に基づいて前記駆動電流検出部が取得した前記駆動電流をd軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値に変換する3相/dq変換部と、
外部からのトルク指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいて電圧位相を設定し、前記電圧位相に基づいてd軸電圧指令値、q軸電圧指令値を生成する矩形波制御部と、
d軸電圧指令値、q軸電圧指令値を線形補正する線形補正部と、
線形補正されたd軸電圧指令値、q軸電圧指令値を三相電圧指令値に変換するdq/3相変換部と、
所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値とを比較して前記インバータをスイッチングする駆動信号を生成する駆動信号生成部と、を有するモータ制御装置のモータ制御方法であって、
前記矩形波制御部は、
外部からの前記トルク指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいて電圧位相を取得する電圧位相設定部と、
電圧指令値と前記電圧位相設定部が出力した電圧位相に基づいてd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を生成する電圧指令生成部と、
前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値と、前記d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値と、に基づいてd軸電圧指令補正値及びq軸電圧指令補正値を出力する補正部と、を有し、
前記線形補正部が前記電圧指令値に基づいて前記d軸電圧指令補正値、q軸電圧指令補正値を線形補正する矩形波制御線形補正ステップを行うことを特徴とするモータ制御方法。
【請求項8】
PMモータに3相交流の駆動電流を流下させるインバータと、
前記駆動電流の値を取得する駆動電流検出部と、
前記PMモータの電気角を取得する角度検出部と、
前記電気角に基づいて前記駆動電流検出部が取得した前記駆動電流をd軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値に変換する3相/dq変換部と、
外部からのトルク指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいて電圧位相を設定し、前記電圧位相に基づいてd軸電圧指令値、q軸電圧指令値を生成する矩形波制御部と、
d軸電圧指令値、q軸電圧指令値を三相電圧指令値に変換するdq/3相変換部と、
キャリア設定情報に基づく所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値とを比較して前記インバータをスイッチングする駆動信号を生成する駆動信号生成部と、を有するモータ制御装置のモータ制御方法であって、
前記矩形波制御部は、
外部からの前記トルク指令値と前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値とに基づいて電圧位相を取得する電圧位相設定部と、
前記電圧位相設定部が出力した電圧位相に基づいてd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を生成する電圧指令生成部と、
前記d軸フィードバック電流値、q軸フィードバック電流値と、前記d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値と、に基づいてd軸電圧指令補正値及びq軸電圧指令補正値を出力する補正部と、
前記キャリア設定情報を生成する矩形波モード同期制御部と、を有し、
前記矩形波モード同期制御部が前記電圧位相設定部の出力した電圧位相に基づいて前記キャリア設定情報を生成する矩形波制御キャリア情報生成ステップを行うことを特徴とするモータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PMモータの制御に用いる電圧指令値に対して、フィードバック電流値の振動成分の影響を極力排除したモータ制御装置及びモータ制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの家電や機械設備の動力源として電動モータが使用されている。このうち、回転子側に永久磁石を設け、固定子側に電機子巻線を設け、この電機子巻線の磁界を制御することで回転子を回転させるPM(Permanent Magnet)モータ(永久磁石モータ)は、界磁損失が存在しないため低損失、高効率であり、近年の省エネルギー化の流れから大型の機械機器にも多く採用されている。そして、このPMモータの制御方法としては、先ず、外部(システムの上位の制御部等)から指示されるトルク指令値と、PMモータの現在のトルクTとに基づいて三相電圧指令値Vu、Vv、Vwを生成するとともに、この三相電圧指令値Vu、Vv、Vwを三角波比較して駆動信号Su、Sv、Swを生成する。そして、この駆動信号Su、Sv、Swによってインバータをスイッチング動作させることで流下する3相交流の駆動電流Iu、Iv、Iwによって行う事が一般的である。また、この駆動信号Su、Sv、Swの生成は、PMモータの運転状況に応じて正弦波制御と矩形波制御とを切り替えて行うものが多い。この制御方法では、一般的に中・低速回転の動作領域ではモータ効率の高い正弦波パターンを用いた正弦波制御(PWM制御)によって動作制御を行い、高速回転・高トルクの動作領域では出力電圧が高く高出力が可能な矩形波パターンを用いた矩形波制御にて動作制御を行う。
【0003】
ここで、正弦波パターンとは、振幅のピークが三角波の頂点を越えない大きさの三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの三角波比較により生成される駆動信号Su、Sv、Swのパターンである。また、矩形波パターンとは、三相電圧指令値Vu、Vv、Vwのそれぞれが電気角1周期のうちに三角波と2回交差して、Hi期間とLow期間とが電気角1周期のうちに1回ずつ生成される駆動信号Su、Sv、Swのパターンである。さらに、駆動信号Su、Sv、Swのパターンには過変調パターンがあり、この過変調パターンは正弦波パターンを形成する振幅よりも大きく、矩形波パターンを形成する振幅よりも小さい三相電圧指令値Vu、Vv、Vwにより生成される駆動信号Su、Sv、Swのパターンである。
【0004】
しかしながら、正弦波制御と矩形波制御とでは同一の電圧位相であっても正弦波制御よりも矩形波制御の方が出力するトルクが大きく、単純な切り替え動作では切り替え時にトルク変動が生じ好ましいものではない。この問題点に関し本願発明者らは、制御モードの切り替え時に矩形波制御モードによるトルク制御を行いながら、駆動信号を正弦波パターン(過変調パターン)と矩形波パターンとの間で連続的に変化させ、トルク変動の少ないスムーズな制御モードの切り替えを行うことが可能な特願2017-212503号に記載の発明を行った。
【0005】
ここで、例えば下記[特許文献1]に記載の発明では、ACモータの電流制御を行う上で、3相電流センサによりACモータの3相電流Ia、Ib、(Ic)を検出し、この3相検出電流Iafb、Ibfb、Icfbに対し3相/2相座標変換を行って2相検出電流Idfb、Iqfbを取得した後、ACモータへの指令値となる2相指令電流Iq、Idから先の2相検出電流Idfb、Iqfbを差し引いて2相電流誤差ΔId、ΔIqを計算する。そして、電流比例積分構成部においてこの電流誤差ΔIq、ΔIqに第1の比例積分(PI)ゲインを乗じて2相指令電圧Vq、Vdを算出し、この2相指令電圧Vq、Vdに対して電気角θeの情報に基づく2相/3相座標変換を行って3相指令電圧Va、Vb、Vcを取得する。そして、3相指令電圧Va、Vb、Vcと搬送波Vtとを比較・演算したPWMゲートパルスをPWMインバータに入力して直流電圧Vdcを任意の交流電圧Va、Vb、Vcに変換し、この交流電圧Va、Vb、VcによってACモータを動作制御する技術が開示されている。
【0006】
また、下記[特許文献2]に記載の発明では、電圧指令値とインバータ出力電圧の非線形性を補正するために、下記式よりあらかじめ所要の変調率Aを算出し、
E=1/2{Asin-1(1/A)+(1-1/A1/2}Emax
Emax=(2/π)1/2・Ed
Ed:全直流電圧
予め取得された変調率Aとインバータの出力電圧指令Eとの関係に基づいて、この変調率Aをインバータの出力電圧指令Eに対して非直線的に補正することで、出力電圧をインバータの出力電圧指令Eに対して直線的に制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-270599号公報
【文献】特開平7-194130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そして、これら[特許文献1]と[特許文献2]とを組み合わせ、[特許文献1]のフィードバック電流を用いた電流比例制御の電圧指令値Vd、Vqに[特許文献2]のEに相当する電圧の値(Vd+Vq1/2を求めて線形補正を行うとき、フィードバック電流の振動成分が出力電圧指令Eに含まれると、線形補正の補正係数(変調率A)も振動的な値となり、制御が不安定となる虞がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、d軸、q軸電圧指令値Vd、Vqにおけるフィードバック電流中の振動成分による影響を極力排除し、PMモータを安定して制御することが可能なモータ制御装置及びモータ制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は
(1)PMモータ10に3相交流の駆動電流Iu、Iv、Iwを流下させるインバータ20と、前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)の値を取得する駆動電流検出部12u、12vと、前記PMモータ10の電気角θを取得する角度検出部14と、前記電気角θに基づいて前記駆動電流検出部12u、12vが取得した前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)をd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに変換する3相/dq変換部22と、
外部からのトルク指令値Tに基づいてd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqを設定し、これらd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいてd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを生成する正弦波制御部40と、
前記d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを線形補正する線形補正部38と、
線形補正された前記d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを三相電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換するdq/3相変換部32と、
所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値Vu、Vv、Vwとを比較して前記インバータ20をスイッチングする駆動信号Su、Sv、Swを生成する駆動信号生成部36と、を有するモータ制御装置において、
前記正弦波制御部40は、
電流積分制御部410aと電流比例制御部410bとを備え前記d軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいてd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを生成する電流制御部410と、d軸の電圧指令値とq軸の電圧指令値とを極座標変換し電圧指令値|Va|を取得する極座標変換部418と、を有し、
前記電流制御部410は前記電流比例制御部410bの出力を含まない積分側d軸電圧指令値Vd’’、積分側q軸電圧指令値Vq’’を前記極座標変換部418に出力し、
前記極座標変換部418は前記積分側d軸電圧指令値Vd’’、積分側q軸電圧指令値Vq’’に基づいて電圧指令値|Va|を取得し前記線形補正部38に出力し、
前記線形補正部38は前記積分側d軸電圧指令値Vd’’、積分側q軸電圧指令値Vq’’に基づく前記電圧指令値|Va|に基づいて前記正弦波制御部40が生成した前記d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを線形補正することを特徴とするモータ制御装置100を提供することにより、上記課題を解決する。
(2)PMモータ10に3相交流の駆動電流Iu、Iv、Iwを流下させるインバータ20と、前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)の値を取得する駆動電流検出部12u、12vと、前記PMモータ10の電気角θを取得する角度検出部14と、前記電気角θに基づいて前記駆動電流検出部12u、12vが取得した前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)をd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに変換する3相/dq変換部22と、
外部からのトルク指令値Tに基づいてd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqを設定し、これらd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいてd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを生成する正弦波制御部40と、
前記d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを三相電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換するdq/3相変換部32と、
キャリア設定情報Scに基づく所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値Vu、Vv、Vwとを比較して前記インバータ20をスイッチングする駆動信号Su、Sv、Swを生成する駆動信号生成部36と、を有するモータ制御装置において、
前記正弦波制御部40は、
電流積分制御部410aと電流比例制御部410bとを備え前記d軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいてd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを生成する電流制御部410と、d軸の電圧指令値とq軸の電圧指令値とを極座標変換し電圧位相θvを取得する極座標変換部418と、前記電圧位相θvに基づいて前記キャリア設定情報Scを生成する正弦波モード同期制御部420と、を有し、
前記電流制御部410は前記電流比例制御部410bの出力を含まない積分側d軸電圧指令値Vd’’、積分側q軸電圧指令値Vq’’を前記極座標変換部418に出力し、
前記極座標変換部418は前記積分側d軸電圧指令値Vd’’、積分側q軸電圧指令値Vq’’に基づいて電圧位相θvを取得し前記正弦波モード同期制御部420に出力し、
前記正弦波モード同期制御部420は前記積分側d軸電圧指令値Vd’’、積分側q軸電圧指令値Vq’’に基づく前記電圧位相θvに基づいて前記キャリア設定情報Scを生成することを特徴とするモータ制御装置100を提供することにより、上記課題を解決する。
(3)PMモータ10に3相交流の駆動電流Iu、Iv、Iwを流下させるインバータ20と、前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)の値を取得する駆動電流検出部12u、12vと、前記PMモータ10の電気角θを取得する角度検出部14と、前記電気角θに基づいて前記駆動電流検出部12u、12vが取得した前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)をd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに変換する3相/dq変換部22と、
外部からのトルク指令値Tと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいて電圧位相θvを設定し、前記電圧位相θvに基づいてd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを生成する矩形波制御部50と、
d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを線形補正する線形補正部38と、
線形補正されたd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを三相電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換するdq/3相変換部32と、
所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値Vu、Vv、Vwとを比較して前記インバータ20をスイッチングする駆動信号Su、Sv、Swを生成する駆動信号生成部36と、を有するモータ制御装置において、
前記矩形波制御部50は、
外部からの前記トルク指令値Tと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいて電圧位相θvを取得する電圧位相設定部502と、
電圧指令値|Va|と前記電圧位相設定部502が出力した電圧位相θvに基づいてd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを生成する電圧指令生成部516と、
前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqと、前記d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqと、に基づいてd軸電圧指令補正値Vd及びq軸電圧指令補正値Vqを出力する補正部70と、を有し、
前記線形補正部38は前記電圧指令値|Va|に基づいて前記d軸電圧指令補正値Vd、q軸電圧指令補正値Vqを線形補正することを特徴とするモータ制御装置100を提供することにより、上記課題を解決する。
(4)PMモータ10に3相交流の駆動電流Iu、Iv、Iwを流下させるインバータ20と、前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)の値を取得する駆動電流検出部12u、12vと、前記PMモータ10の電気角θを取得する角度検出部14と、前記電気角θに基づいて前記駆動電流検出部12u、12vが取得した前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)をd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに変換する3相/dq変換部22と、
外部からのトルク指令値Tと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいて電圧位相θvを設定し、前記電圧位相θvに基づいてd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを生成する矩形波制御部50と、
d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを三相電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換するdq/3相変換部32と、
キャリア設定情報Scに基づく所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値Vu、Vv、Vwとを比較して前記インバータ20をスイッチングする駆動信号Su、Sv、Swを生成する駆動信号生成部36と、を有するモータ制御装置において、
前記矩形波制御部50は、
外部からの前記トルク指令値Tと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいて電圧位相θvを取得する電圧位相設定部502と、
前記電圧位相設定部502が出力した電圧位相θvに基づいてd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを生成する電圧指令生成部516と、
前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqと、前記d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqと、に基づいてd軸電圧指令補正値Vd及びq軸電圧指令補正値Vqを出力する補正部70と、
前記キャリア設定情報Scを生成する矩形波モード同期制御部520と、を有し、
前記矩形波モード同期制御部520は前記電圧位相設定部502の出力した電圧位相θvに基づいて前記キャリア設定情報Scを生成することを特徴とするモータ制御装置100を提供することにより、上記課題を解決する。
(5)PMモータ10に3相交流の駆動電流Iu、Iv、Iwを流下させるインバータ20と、前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)の値を取得する駆動電流検出部12u、12vと、前記PMモータ10の電気角θを取得する角度検出部14と、前記電気角θに基づいて前記駆動電流検出部12u、12vが取得した前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)をd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに変換する3相/dq変換部22と、
外部からのトルク指令値Tに基づいてd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqを設定し、これらd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいてd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを生成する正弦波制御部40と、
前記d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを線形補正する線形補正部38と、
線形補正された前記d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを三相電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換するdq/3相変換部32と、
所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値Vu、Vv、Vwとを比較して前記インバータ20をスイッチングする駆動信号Su、Sv、Swを生成する駆動信号生成部36と、を有するモータ制御装置のモータ制御方法であって、
前記正弦波制御部40は、
電流積分制御部410aと電流比例制御部410bとを備え前記d軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいてd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを生成する電流制御部410と、d軸の電圧指令値とq軸の電圧指令値とを極座標変換し電圧指令値|Va|を取得する極座標変換部418と、を有し、
前記電流制御部410が前記電流比例制御部410bの出力を含まない積分側d軸電圧指令値Vd’’、積分側q軸電圧指令値Vq’’を前記極座標変換部418に出力する積分側電圧指令値出力ステップと、
前記極座標変換部418が前記積分側d軸電圧指令値Vd’’、積分側q軸電圧指令値Vq’’に基づいて電圧指令値|Va|を取得し前記線形補正部38に出力する電圧指令値出力ステップと、
前記線形補正部38が前記積分側d軸電圧指令値Vd’’、積分側q軸電圧指令値Vq’’に基づく前記電圧指令値|Va|に基づいて前記正弦波制御部40が生成した前記d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを線形補正する正弦波制御線形補正ステップと、を行うことを特徴とするモータ制御方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(6)PMモータ10に3相交流の駆動電流Iu、Iv、Iwを流下させるインバータ20と、前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)の値を取得する駆動電流検出部12u、12vと、前記PMモータ10の電気角θを取得する角度検出部14と、前記電気角θに基づいて前記駆動電流検出部12u、12vが取得した前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)をd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに変換する3相/dq変換部22と、
外部からのトルク指令値Tに基づいてd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqを設定し、これらd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいてd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを生成する正弦波制御部40と、
前記d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを三相電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換するdq/3相変換部32と、
キャリア設定情報Scに基づく所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値Vu、Vv、Vwとを比較して前記インバータ20をスイッチングする駆動信号Su、Sv、Swを生成する駆動信号生成部36と、を有するモータ制御装置のモータ制御方法であって、
前記正弦波制御部40は、
電流積分制御部410aと電流比例制御部410bとを備え前記d軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいてd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを生成する電流制御部410と、d軸の電圧指令値とq軸の電圧指令値とを極座標変換し電圧位相θvを取得する極座標変換部418と、前記電圧位相θvに基づいて前記キャリア設定情報Scを生成する正弦波モード同期制御部420と、を有し、
前記電流制御部410が前記電流比例制御部410bの出力を含まない積分側d軸電圧指令値Vd’’、積分側q軸電圧指令値Vq’’を前記極座標変換部418に出力する積分側電圧指令値出力ステップと、
前記極座標変換部418が前記積分側d軸電圧指令値Vd’’、積分側q軸電圧指令値Vq’’に基づいて電圧位相θvを取得し前記正弦波モード同期制御部420に出力する電圧位相出力ステップと、
前記正弦波モード同期制御部420が前記積分側d軸電圧指令値Vd’’、積分側q軸電圧指令値Vq’’に基づく前記電圧位相θvに基づいて前記キャリア設定情報Scを生成する正弦波制御キャリア情報生成ステップと、を行うことを特徴とするモータ制御方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(7)PMモータ10に3相交流の駆動電流Iu、Iv、Iwを流下させるインバータ20と、前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)の値を取得する駆動電流検出部12u、12vと、前記PMモータ10の電気角θを取得する角度検出部14と、前記電気角θに基づいて前記駆動電流検出部12u、12vが取得した前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)をd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに変換する3相/dq変換部22と、
外部からのトルク指令値Tと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいて電圧位相θvを設定し、前記電圧位相θvに基づいてd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを生成する矩形波制御部50と、
d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを線形補正する線形補正部38と、
線形補正されたd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを三相電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換するdq/3相変換部32と、
所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値Vu、Vv、Vwとを比較して前記インバータ20をスイッチングする駆動信号Su、Sv、Swを生成する駆動信号生成部36と、を有するモータ制御装置のモータ制御方法であって、
前記矩形波制御部50は、
外部からの前記トルク指令値Tと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいて電圧位相θvを取得する電圧位相設定部502と、
電圧指令値|Va|と前記電圧位相設定部502が出力した電圧位相θvに基づいてd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを生成する電圧指令生成部516と、
前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqと、前記d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqと、に基づいてd軸電圧指令補正値Vd及びq軸電圧指令補正値Vqを出力する補正部70と、を有し、
前記線形補正部38が前記電圧指令値|Va|に基づいて前記d軸電圧指令補正値Vd、q軸電圧指令補正値Vqを線形補正する矩形波制御線形補正ステップを行うことを特徴とするモータ制御方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(8)PMモータ10に3相交流の駆動電流Iu、Iv、Iwを流下させるインバータ20と、前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)の値を取得する駆動電流検出部12u、12vと、前記PMモータ10の電気角θを取得する角度検出部14と、前記電気角θに基づいて前記駆動電流検出部12u、12vが取得した前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)をd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに変換する3相/dq変換部22と、
外部からのトルク指令値Tと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいて電圧位相θvを設定し、前記電圧位相θvに基づいてd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを生成する矩形波制御部50と、
前記d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを三相電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換するdq/3相変換部32と、
キャリア設定情報Scに基づく所定の周期の三角波と前記三相電圧指令値Vu、Vv、Vwとを比較して前記インバータ20をスイッチングする駆動信号Su、Sv、Swを生成する駆動信号生成部36と、を有するモータ制御装置のモータ制御方法であって、
前記矩形波制御部50は、
外部からの前記トルク指令値Tと前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとに基づいて電圧位相θvを取得する電圧位相設定部502と、
前記電圧位相設定部502が出力した電圧位相θvに基づいてd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを生成する電圧指令生成部516と、
前記d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqと、前記d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqと、に基づいてd軸電圧指令補正値Vd及びq軸電圧指令補正値Vqを出力する補正部70と、
前記キャリア設定情報Scを生成する矩形波モード同期制御部520と、を有し、
前記矩形波モード同期制御部520が前記電圧位相設定部502の出力した電圧位相θvに基づいて前記キャリア設定情報Scを生成する矩形波制御キャリア情報生成ステップを行うことを特徴とするモータ制御方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るモータ制御装置及びモータ制御方法は、電流比例制御の成分を含まない電圧指令値|Va|に基づいてd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqに対する線形補正を行う。また、電流比例制御の成分を含まない電圧位相θvに基づいてキャリア設定情報Scの生成を行う。これにより、振動成分の影響の少ない安定した三相電圧指令値Vu、Vv、Vw、駆動信号Su、Sv、Swを生成でき、出力電圧、電流、トルクの安定化を図ることができる。また、比例制御成分を含まない電圧指令値|Va|を用いることで、電流比例制御部、補正電圧生成部等のゲインを大きくとることが可能となり、これらの応答性の向上を図ることができる。また、比例制御成分を含まない電圧位相θvを用いることで、正弦波モード同期制御部、矩形波モード同期制御部、電圧位相設定部等の制御ゲインを大きくとることが可能となり、これらの応答性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るモータ制御装置のブロック図である。
図2】モータの運転状況と制御モードの切り替えを説明する図である。
図3】本発明に係るモータ制御装置の三角波と三相電圧指令値Vuの位置関係を説明する図である。
図4】矩形波制御モードへの移行時の動作を示すフローチャートである。
図5】正弦波制御モードへの移行時の動作を示すフローチャートである。
図6】本発明に係るモータ制御装置及びモータ制御方法の三角波を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るモータ制御装置100及びモータ制御方法の実施の形態について図面に基づいて説明する。尚、ここでは電圧位相θv、電圧指令値|Va|ともに電流比例制御の成分を含まない構成の例を用いて説明を行うが、本発明は電圧位相θv、電圧指令値|Va|のいずれか一方が電流比例制御の成分を含まない構成としても良い。
【0014】
ここで、図1は本発明に係るモータ制御装置100のブロック図である。先ず、本発明に係るモータ制御装置100は、PMモータ(永久磁石モータ)10の動作を制御するものであり、このPMモータ10に3相交流の駆動電流Iu、Iv、Iwを流下させるインバータ20と、この駆動電流Iu、Iv、(Iw)の値を取得する駆動電流検出部12u、12vと、PMモータ10の電気角θを取得する角度検出部14と、駆動電流検出部12u、12vが取得した駆動電流Iu、Iv、(Iw)をd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに変換する3相/dq変換部22と、外部(システムの上位の制御部等)から指示されるトルク指令値Tに基づいてd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqを設定し正弦波制御モードにおけるd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを生成する正弦波制御部40と、同じく外部から指示されるトルク指令値Tに基づいて電圧位相θvを設定し矩形波制御モードにおけるd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vq(d軸電圧指令補正値Vd、q軸電圧指令補正値Vq)を生成する矩形波制御部50と、PMモータ10の制御を正弦波制御部40と矩形波制御部50とで切り替える切替部24と、正弦波制御部40もしくは矩形波制御部50から出力されたd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値VqをU相、V相、W相の三相電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換するdq/3相変換部32と、この三相電圧指令値Vu、Vv、Vwと所定の周期の三角波とを比較してインバータ20をスイッチングする駆動信号Su、Sv、Swを生成する駆動信号生成部36と、を有している。また、本発明に係るモータ制御装置100は、上記の構成に加え、切替部24による制御モードの切り替え時に所定の動作を行うモード移行部80を備えていても良い。
【0015】
本発明に係るモータ制御装置100を構成するインバータ20は駆動信号生成部36から出力されるHi-Lowの駆動信号Su、Sv、Swによってスイッチング動作して、バッテリ等の周知の直流電源部18からの直流電力を駆動信号Su、Sv、Swに基づく3相の交流電圧に変換して出力する。これにより、PMモータ10の電機子巻線には位相が1/3周期(2/3π(rad))づつずれた3相の駆動電流Iu、Iv、Iwがそれぞれ流下する。
【0016】
また、PMモータ10は、前述のように回転子側に永久磁石を設けるとともに、固定子側に3相の電機子巻線を設け、この3相の電機子巻線に前述の駆動電流Iu、Iv、Iwをそれぞれ流下させることで各電機子巻線の磁極及び磁束を連続的に変化させ、回転子を回転させるものである。尚、PMモータ10としては永久磁石を回転子に埋め込んだIPM(Interior Permanent Magnet)モータを用いることが好ましい。
【0017】
また、駆動電流検出部12u、12vはインバータ20のスイッチング動作によって流下する駆動電流Iu、Iv、Iwを非接触で取得可能な周知の電流センサを用いることができる。尚、本例では駆動電流Iu、Iv、Iwのうちの2つの駆動電流Iu、Ivを取得し、d軸、q軸フィードバック電流値Id、Iqに変換する例を示している。
【0018】
また、角度検出部14としては、回転子の角度を取得可能な周知の角度センサを用いることができる。中でもレゾルバ回転角センサを用いて、PMモータ10の電気角θを取得することが特に好ましい。尚、上記の電気角θと駆動電流Iu、Ivの取得は、三角波の頂点と谷の両方のタイミングで行い、三角波の半周期毎にモータ制御装置100の各部にて使用することが好ましい。そして、角度検出部14が取得した電気角θは角速度演算部16にも出力され、この角速度演算部16は入力した電気角θから電気角速度ω(rad/s)を算出し、モータ制御装置100の各部に出力する。
【0019】
また、3相/dq変換部22は、角度検出部14が取得したPMモータ10の電気角θ(rad)に基づいて駆動電流検出部12u、12vが取得した駆動電流Iu、Iv、(Iw)の値に対する3相2相変換及び回転座標変換を行い、駆動電流Iu、Iv、(Iw)をd軸電流値(磁束分電流値)Idとq軸電流値(トルク分電流値)Iqとに変換する。そして、これらをd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqとして切替部24に出力する。
【0020】
切替部24はPMモータ10の運転状況(トルク、回転数)に応じてd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqの生成方法を切り替える切り替え回路であり、PMモータ10が中・低速回転の図2の領域A(正弦波制御領域A)で動作する場合には正弦波制御部40による正弦波制御モードによってPMモータ10を動作させる。また、PMモータ10が高回転速度、高トルクの図2の領域B(矩形波制御領域B)で動作する場合にはPMモータ10の制御を矩形波制御部50に切り替えて矩形波制御モードによって動作させる。尚、正弦波制御領域Aと矩形波制御領域Bとの切替値(切替ラインC)は直流電源部18の電圧値により変化する。この直流電源部18の電圧値ごとの切替値は図示しないメモリ部等に予め設定しておき、切替部24が直流電源部18の電圧値に応じた切替値を適宜取得して用いることが好ましい。また、一致する電圧値が無い場合、前後の電圧の切替値から適切な切替値を演算等により取得して用いることが好ましい。そして、PMモータ10の運転状況(トルク、回転数)が切替値を越える場合には後述する各ステップを行い制御モードの切り替えを行う。尚、正弦波制御モードから矩形波制御モードへの切り替え時の切替値と、矩形波制御モードから正弦波制御モードへの切り替え時の切替値とにはヒステリシス幅を付与し、切替値の境界での頻繁な切り替え動作を防止することが好ましい。
【0021】
次に、正弦波制御部40の構成及び動作を説明する。尚、以下で説明する正弦波制御部40の構成は本発明に好適な一例であるから、下記の構成に限定されるわけではなく、本発明に必須の構成を備えていれば、他の如何なる正弦波制御機構を用いても良い。
【0022】
先ず、上位システムの制御部等からトルク指令値Tが出力される。このトルク指令値TはPMモータ10の動作目標となるトルクである。そして、このトルク指令値Tは切替部24が正弦波制御部40を選択している場合、正弦波制御部40の電流指令値設定部402に入力する。また、電流指令値設定部402にはトルク計算部404からPMモータ10の現在のトルクTが入力する。
【0023】
ここで、トルク計算部404はPMモータ10のモータパラメータとしての誘起電圧定数φa、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq等を有している。尚、誘起電圧定数φa、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLqは予め設定された固定値としても良いし、PMモータ10の温度や動作状況に応じて予め設定された適切な値を例えばデータテーブル等から適宜取得するようにしても良い。そして、トルク計算部404はこれらの値と、後述するd軸、q軸フィードバック電流値Id、Iqもしくは電流指令値生成部406から出力されるd軸、q軸電流指令値Id、Iqに基づいて、PMモータ10の現在のトルクTを例えば下記式に基づいて算出する。尚、本例ではd軸、q軸電流指令値Id、Iqに基づいてトルクTを算出する例を示している。
T=P(φaIq+(Ld-Lq)IdIq) [N・m]
P:PMモータの永久磁石の極対数
φa:誘起電圧定数
Ld:d軸インダクタンス
Lq:q軸インダクタンス
【0024】
そして、電流指令値設定部402はトルク指令値Tと現在のトルクTとに基づいてトルクTがトルク指令値Tをとるような電流指令値Iaを設定し、電流指令値生成部406に出力する。尚、電流指令値Iaは積分制御、比例制御などの演算により算出しても良い。また、電流指令値Iaにはリミッタ値を設定しても良く、このリミッタ値は電気角速度ωと電源電圧Vdcとに対応した値をテーブルデータから読み出すようにしても良い。また、リミッタの最大値のみを設定して、これを用いても良い。
【0025】
電流指令値生成部406は、例えば電流指令値設定部402から入力した電流指令値Iaの電流位相角θiをテーブルデータ等から取得して、これら電流指令値Iaと電流位相角θiとに基づいてd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqを算出し、正弦波制御部40の電圧指令値生成部416に出力する。このとき、モータ電圧を周知の演算式と前述のモータパラメータ(φa、Ld、Lq)及び電気角速度ω、d軸、q軸電流指令値Id、Iqより求め、このモータ電圧の大きさがK×Vdc(K:電圧利用率設定値)の値を超えないようにd軸、q軸電流指令値Id、Iqを調整することで、正弦波制御領域と矩形波制御領域との間に過変調制御や弱め磁束制御領域を設けることが可能となり、中高速動作領域での出力向上を図ることができる。また、電圧利用率Kを変更することで任意の電圧利用率でd軸、q軸電流指令値Id、Iqを設定することができる。尚、電圧利用率Kを用いたd軸、q軸電流指令値Id、Iqの調整は、前述のモータパラメータ(φa、Ld、Lq)と、角速度演算部16からの電気角速度ω、直流電源部18からの電源電圧Vdc等に基づいた周知の電圧制御、比例制御、積分制御等により行う事が好ましい。また、電流位相角θiに対する積分制御、比例制御などの演算により算出しても良い。さらに、d軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqには必要に応じて電流リミッタを設けても良い。
【0026】
ここで、電圧指令値生成部416の好適な一例を説明する。先ず、電圧指令値生成部416に入力したd軸、q軸電流指令値Id、Iqは2分岐して、一方は非干渉制御部414に入力する。そして、非干渉制御部414にてd軸、q軸電流指令値Id、Iq間で干渉する速度起電力成分が算出され、d軸、q軸電圧指令値Vd’、Vq’として電流制御部410に出力される。また、d軸、q軸電流指令値Id、Iqの他方は、減算部412においてd軸、q軸フィードバック電流値Id、Iqが減算されて変動成分ΔId、ΔIqとされた後、電流制御部410に入力する。
【0027】
また、電流制御部410は、電流積分制御部410aと電流比例制御部410bを有しており、電流制御部410に入力した変動成分ΔId、ΔIqは2分岐して、電流積分制御部410aと電流比例制御部410bのそれぞれに入力する。そして、電流積分制御部410aにおいて周知の電流積分制御が施される。また、電流比例制御部410bにおいて周知の電流比例制御が施される。そして、電流積分制御部410aの出力に非干渉制御部414からのd軸、q軸電圧指令値Vd’、Vq’が加算され積分側d軸電圧指令値Vd’’、積分側q軸電圧指令値Vq’’とされた後、電流比例制御部410bからの出力が加算されd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqが生成される。このd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqは切替部24を介して制御信号生成部30に出力される。
【0028】
尚、電流制御部410には、このd軸、q軸電圧指令値Vd、Vqに基づく三相電圧指令値Vu、Vv、Vwがインバータ20の出力限界となる最大電圧(1パルスの矩形波電圧となる電圧)の近傍とならないように制限するリミッタ部を設けることが好ましい。そして、このリミッタ部は電流比例制御部410bからの出力が加算される前段に設けることが好ましい。また、リミッタ部の制限電圧は後述の正弦波モード同期制御部420が設定する三角波の同期数に準じて設定することが好ましい。
【0029】
ここで、本発明の特徴的な構成として、電流比例制御部410bの出力が加算される前段の積分側d軸電圧指令値Vd’’、積分側q軸電圧指令値Vq’’を正弦波制御部40の極座標変換部418に出力する(積分側電圧指令値出力ステップ)。そして、この極座標変換部418において極座標変換が施され電圧位相θvと、電圧指令値|Va|とが取得される。即ち、本発明では電流比例制御部410bの出力を含まない積分側d軸電圧指令値Vd’’、積分側q軸電圧指令値Vq’’に基づいて電圧位相θvと、電圧指令値|Va|とが取得される。このため、これら電圧位相θv、電圧指令値|Va|は振動成分(短期的な変動成分)の影響を受けないものとなる。そして、極座標変換部418はこの電圧位相θvを正弦波モード同期制御部420に出力する(電圧位相出力ステップ)。また、電圧指令値|Va|を線形補正部38に出力する(電圧指令値出力ステップ)。尚、本例ではこれら電圧位相θv及び電圧指令値|Va|をモード移行部80にも出力する。
【0030】
また、正弦波制御部40の正弦波モード同期制御部420は、極座標変換部418で得られた電圧位相θvと電気角速度ωと電気角θとから後述する三角波のキャリア設定情報Scを生成し三角波生成部34に出力する(正弦波制御キャリア情報生成ステップ)。このとき用いられる電圧位相θvは前述のように電流比例制御部410bの出力を含まない(振動成分を含まない)ものであるから、これにより生成されるキャリア設定情報Scは振動成分の影響を受けないものとなる。尚、キャリア設定情報Scに関しては後述する。
【0031】
次に、矩形波制御部50の構成及び動作を説明する。尚、以下で説明する矩形波制御部50の構成は本発明に好適な一例であるから、下記の構成に限定されるわけではなく、本発明に必須の構成を備えていれば、他の如何なる矩形波制御機構を用いても良い。
【0032】
先ず、切替部24はPMモータ10が図2の切替値(切替ラインC)を越えて高回転速度、高トルクの動作領域Bでの動作状態となると、PMモータ10の制御を正弦波制御部40から矩形波制御部50に切り替える。尚、このときの切り替え動作に関しては後述する。これにより、トルク指令値Tは矩形波制御部50の電圧位相設定部502に入力する。また、矩形波制御部50のトルク計算部504にはd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqが入力する。尚、トルク計算部504は正弦波制御部40のトルク計算部404と同様にモータパラメータを有しており、これらモータパラメータとd軸、q軸フィードバック電流値Id、IqとからPMモータ10の現在のトルクTを算出して、電圧位相設定部502に出力する。そして、電圧位相設定部502は、トルク指令値TとトルクTとから、PMモータ10が目標のトルクで動作するような電圧位相θvを積分制御、比例制御などにより生成する。そして、矩形波制御部50の電圧指令値生成部516に出力する。また、本発明の特徴的な構成として、この電圧位相設定部502で生成された電圧位相θvを矩形波モード同期制御部520に出力する。
【0033】
矩形波モード同期制御部520は電圧位相θvと電気角速度ωと電気角θとから三角波を設定するためのキャリア設定情報Scを生成する(矩形波制御キャリア情報生成ステップ)。ここで、本発明では電圧位相設定部502で生成された電圧位相θv、即ち後述の補正部70で比例制御が行われる前の振動成分を含まない電圧位相θvを用いてキャリア設定情報Scを求める。このためキャリア設定情報Scは振動成分の影響を受けないものとなる。尚、キャリア設定情報Scに関しては後述する。また、矩形波モード同期制御部520は電圧指令取得部としても機能して、三角波と三相電圧指令値Vu、Vv、Vwとが、三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの1周期の間で2回交差する、即ち、三角波比較により生成される駆動信号Su、Sv、Swが1パルスの矩形波となるような電圧指令値|Va|を取得し電圧指令値生成部516に出力する。尚、矩形波モード同期制御部520(電圧指令取得部)による電圧指令値|Va|の設定は、電圧指令値|Va|の値を予め三角波の同期数毎にデータテーブルに設定しておき、矩形波モード同期制御部520が三角波の同期数を決定すると同時に、この同期数と対応した電圧指令値|Va|を選択して設定することが好ましい。よって、このときの電圧指令値|Va|も振動成分の影響を受けないものとなる。そして、矩形波モード同期制御部520(電圧指令取得部)はこの電圧指令値|Va|を電圧指令値生成部516と線形補正部38に出力する。尚、この矩形波を形成する電圧指令値|Va|は後述の矩形波形成電圧値|Va1|としても利用することが好ましい。
【0034】
また、電圧指令値生成部516は、電圧位相設定部502から入力した電圧位相θvと、矩形波モード同期制御部520(電圧指令取得部)から入力した電圧指令値|Va|とから、d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを生成する。
【0035】
また、矩形波制御部50はオフセット等による変動成分を補正する補正部70を有する。ここで、補正部70の一例を以下に示す。尚、以下で説明する補正部70の構成は本発明に好適な一例であるから、下記の構成に限定されるわけではい。
【0036】
本例に示す補正部70は、平滑部72と、補正電流生成部74と、補正電圧生成部76と、電圧指令値補正部78と、を有している。そして、補正部70の平滑部72は、切替部24を介して入力したd軸、q軸フィードバック電流値Id、Iqを例えば移動平均処理もしくはなまし処理を行ってそれぞれ平滑化する。尚、ここでのなまし処理とは、入力信号(d軸、q軸フィードバック電流値Id、Iq)に対し、任意の周期ごとに下記(1)式の処理を行う事で平滑化する処理を意味する。
C=B(1-K)+K×A・・・・(1)
ここで、Aは入力値(d軸、q軸フィードバック電流値Id、Iq)であり、Bは直前の周期のなまし処理後の出力値であり、Kはなまし定数であり、Cが出力値(推定d軸、q軸電流指令値Id、Iq)である。
【0037】
この平滑化処理により、駆動電流Iu、Iv、Iwのオフセットや振幅アンバランスに起因する変動成分が平滑化された疑似的な推定d軸電流指令値Id、推定q軸電流指令値Iqが生成される。そして、これら推定d軸、q軸電流指令値Id、Iqは補正電流生成部74に出力される。
【0038】
また、補正電流生成部74にはd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqがそれぞれ入力しており、補正電流生成部74は平滑部72で生成された推定d軸電流指令値Id、推定q軸電流指令値Iqからd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqをそれぞれ減算する。これにより、変動成分としてのd軸補正電流ΔId、q軸補正電流ΔIqが生成される。そして、これらd軸補正電流ΔId、q軸補正電流ΔIqを補正電圧生成部76に出力する。尚、このd軸補正電流ΔId、q軸補正電流ΔIqは、オフセットや振幅アンバランスの成分(変動成分)が平滑化した推定d軸、q軸電流指令値Id、Iqからオフセットや振幅アンバランスの成分(変動成分)を含むd軸、q軸フィードバック電流値Id、Iqをそれぞれ減算したものであるから、基本的に変動成分の逆相をとる。
【0039】
また、補正電圧生成部76は、補正電流生成部74から入力したd軸補正電流ΔId、q軸補正電流ΔIqから、例えば所定の補正ゲイン(Kd、Kq)による比例制御等によりd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqを生成し、電圧指令値補正部78に出力する。
【0040】
電圧指令値補正部78は、補正電圧生成部76から入力したd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqを電圧指令値生成部516から出力したd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqにそれぞれ加算する。よってこれにより生成されたd軸、q軸電圧指令補正値Vd、Vqには駆動電流Iu、Iv、Iwに生じるオフセットや振幅アンバランス成分の逆の電圧(d軸、q軸補正電圧ΔVd、ΔVq)が加味されたものとなる。そして、これらd軸電圧指令補正値Vd、q軸電圧指令補正値Vqは切替部24を介して制御信号生成部30に入力する。尚、上記の補正部70により補正されたd軸電圧指令補正値Vd、q軸電圧指令補正値Vqは上記のようにオフセットや振幅アンバランス成分の逆の電圧が加味されているから、これにより駆動するPMモータ10のオフセット等は補正され解消される。
【0041】
次に、正弦波モード同期制御部420、矩形波モード同期制御部520が出力するキャリア設定情報Scに関して説明を行う。先ず、このキャリア設定情報Scは三角波生成部34で生成される三角波の周波数を適切な状態に維持するものである。ここで、キャリア設定情報Scが設定する三角波は、図3中の点Aに示すように、三角波の立ち下がりの中央位置が三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの立ち上がりのゼロ位置と交差し、さらに三角波の周波数が三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの周波数の奇数の3の整数倍、即ち、9、15、21、27倍等(以後、この倍数を同期数とする)となるものである。尚、三角波の同期数は電気角速度ωに応じて設定される。また、三角波の周波数を三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの周波数の奇数の3の整数倍とする理由に関しては後述する。
【0042】
尚、本発明ではキャリア設定情報Scの生成に使用する電圧位相θvとして、(電流比例制御部410bの出力加算前の)積分側d軸、q軸電圧指令値Vd’’、Vq’’から求めた電圧位相θv、もしくは、(比例制御が行われる)補正部70の前で分岐した電圧位相θvを用いる。ここで、電圧位相θvが短期的な振動成分である比例制御成分を含む場合、三角波の周期(キャリア設定情報Sc)もこの比例制御成分に応じて短期的に振動する。これは、三角波比較で生成される駆動信号Su、Sv、Swを変動させ、出力電圧、電流、トルクの変動要因となる。しかしながら、本発明では上記のように比例制御成分(短期的な振動成分)を含まない電圧位相θvを用いてキャリア設定情報Scを設定するため、三角波及び駆動信号Su、Sv、Swが安定し、これにより出力電圧、電流、トルクを安定化することができる。また、比例制御成分を含まない電圧位相θvを用いることで、正弦波モード同期制御部420、矩形波モード同期制御部520、電圧位相設定部502等の制御ゲインを大きくとることが可能となり、これらの応答性の向上を図ることができる。
【0043】
そして、正弦波モード同期制御部420、矩形波モード同期制御部520は電圧位相θvと電気角θとに基づいて三角波の中央位置と三相電圧指令値Vu(Vv、Vw)のゼロ位置とが交差し、さらに三角波の周波数が設定された同期数(三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの周波数の奇数の3の整数倍)となるような三角波の周期を設定する。また、正弦波モード同期制御部420、矩形波モード同期制御部520は電気角速度ωの変化に連動して周期の設定情報を変化させ、三角波を上記の状態に追従、維持させる。さらに、正弦波モード同期制御部420、矩形波モード同期制御部520は電気角速度ωが予め設定された所定の値を超えた場合、同期数を1段階下げてキャリア設定情報Scを設定し出力する。また、電気角速度ωが予め設定された所定の値を下回った場合、同期数を1段階上げてキャリア設定情報Scを設定し出力する。尚、同期数を変化させる電気角速度ωの値は同期数毎にデータテーブル等に予め記憶しておき、正弦波モード同期制御部420、矩形波モード同期制御部520は入力した電気角速度ωに応じて対応する同期数をデータテーブルから取得し設定を行う事が好ましい。このとき、同期数を上下する電気角速度ωにはヒステリシス幅を持たせることが好ましい。尚、これらの三角波の周期の変化と連動して、前述の補正電圧生成部76の補正ゲイン(Kd、Kq)、平滑部72の時定数、各制御のゲイン等は調整され再設定される。
【0044】
次に、制御信号生成部30の好適な一例を説明する。尚、以下で説明する制御信号生成部30の構成は本発明に好適な一例であるから、下記の構成に限定されるわけではなく、他の如何なる制御信号生成機構を用いても良い。
【0045】
先ず、正弦波制御部40もしくは矩形波制御部50から出力したd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vq(d軸電圧指令補正値Vd、q軸電圧指令補正値Vq)は制御信号生成部30のdq/3相変換部32に入力する。尚、制御信号生成部30は、dq/3相変換部32の前段に主に過変調制御時におけるd軸、q軸電圧指令値Vd、Vq及び電圧指令値|Va|と、インバータ出力電圧の基本波成分との非線形性を補正するための線形補正部38を有している。尚、この線形補正部38で用いる補正値は例えば変調率や電圧指令値|Va|等と対応して設定することが好ましい。
【0046】
そして、本発明では線形補正部38に入力する電圧指令値|Va|として、(電流比例制御部410bの出力加算前の)積分側d軸、q軸電圧指令値Vd’’、Vq’’から求めた電圧指令値|Va|、もしくは(比例制御が行われる)補正部70よりも前段の(補正部70のd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqの短期的な振動成分を含まない)矩形波モード同期制御部520(電圧指令取得部)が出力する電圧指令値|Va|を用いる(正弦波制御線形補正ステップ、矩形波制御線形補正ステップ)。ここで、電圧指令値|Va|が短期的な振動成分である比例制御成分を含む場合、補正値がこの振動成分の影響によって変動する。これにより、後段の三相電圧指令値Vu、Vv、Vw、駆動信号Su、Sv、Swも変動し出力電圧、電流、トルクの変動要因となる。しかしながら、本発明では上記のように比例制御成分を含まない比較的安定した電圧指令値|Va|を基に補正値を設定するため、安定した三相電圧指令値Vu、Vv、Vw、駆動信号Su、Sv、Swを生成でき、出力電圧、電流、トルクの安定化を図ることができる。また、比例制御成分を含まない電圧指令値|Va|を基に補正値を設定することで、電流比例制御部410b、補正電圧生成部76のゲインを大きくとることが可能となり、これらの応答性の向上を図ることができる。
【0047】
また、dq/3相変換部32には角度検出部14からの電気角θと角速度演算部16からの電気角速度ωが入力し、この電気角θと電気角速度ωとに基づいてインバータ20がスイッチング動作を行う新たなタイミングの予測電気角θ’を算出し、この予測電気角θ’に基づいてd軸、q軸電圧指令値Vd、Vqを三相電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換し、駆動信号生成部36に出力する。
【0048】
駆動信号生成部36は三角波生成部34を有しており、この三角波生成部34には前述のキャリア設定情報Scが入力して、このキャリア設定情報Scに基づいた周期の三角波を生成する。尚、このときの三角波は正弦波モード同期制御部420、矩形波モード同期制御部520からのキャリア設定情報Scによって、三角波の立ち下がりの中央位置が三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの立ち上がりのゼロ位置と交差し、さらに周波数が三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの奇数の3の整数倍の三角波となる。
【0049】
そして、駆動信号生成部36はこの三角波と三相電圧指令値Vu、Vv、Vwとをそれぞれ三角波比較する。このとき、三角波の振幅は上記のキャリア設定情報Scによって増減する。よって、三相電圧指令値Vu、Vv、Vwを三角波の振幅と比例する換算係数によって調整し、この調整後の三相電圧指令値Vu、Vv、Vwを用いて三角波比較を行う。これにより、Hi-Lowの駆動信号Su、Sv、Swが生成される。
【0050】
インバータ20は駆動信号生成部36から出力される駆動信号Su、Sv、Swにより内部のスイッチング素子がオン・オフし、直流電源部18からの直流電力を駆動信号Su、Sv、Swに基づく交流電圧に変換して出力する。これにより、PMモータ10の電機子巻線には位相が1/3周期(2/3π(rad))づつずれた交流の駆動電流Iu、Iv、Iwがそれぞれ流下する。これにより、PMモータ10がトルク指令値Tに応じたトルクで回転動作する。
【0051】
次に、本発明に係るモータ制御装置100及びモータ制御方法のモード移行部80の動作の一例を説明する。ここで、図4は正弦波制御モードから矩形波パターン制御モードへの切り替え時の動作フローチャートである。また、図5は矩形波制御モードから正弦波制御モードへの切り替え時の動作フローチャートである。
【0052】
初めに、本例におけるモータ制御装置100及びモータ制御方法の正弦波制御モードから矩形波制御モードへの切り替え時の動作を説明する。先ず、正弦波制御モードにおいては、正弦波制御部40がトルク指令値Tに基づくd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを生成し、このd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqに基づいて駆動信号Su、Sv、Swが生成される。このときの駆動信号Su、Sv、Swは、正弦波制御部40が過変調制御や弱め磁束制御を可能とする場合には、正弦波パターンもしくは過変調パターンとなる。また、正弦波制御部40が過変調制御機能もしくは弱め磁束制御機能を備えない場合には正弦波パターンとなる。そして、PMモータ10はこれら正弦波パターンもしくは過変調パターンの駆動信号Su、Sv、Swによって動作制御される(ステップS102)。
【0053】
また、このとき正弦波制御部40の極座標変換部418は、前述のように電流制御部410における電流比例制御成分が加算される前の積分側d軸、q軸電圧指令値Vd’’、Vq’’を極座標変換して電圧位相θvと電圧指令値|Va|とを算出する。そして、モード移行部80はこの電圧位相θvと電圧指令値|Va|とをそれぞれ取得し(ステップS104)、これを初期電圧位相θv1及び移行電圧指令値|Va’|の初期値とする(ステップS105)。尚、電圧位相θvと電圧指令値|Va|は随時変動し、これに伴って初期電圧位相θv1、移行電圧指令値|Va’|の初期値も変化する。尚、上記のように初期電圧位相θv1及び移行電圧指令値|Va’|の初期値は比例制御成分を含まない積分側d軸、q軸電圧指令値Vd’’、Vq’’から求めたものであるから短期的な変動が少なく後述の移行期間中の出力を安定化することができる。
【0054】
次に、外部からのトルク指令値Tが増大するなどしてPMモータ10の運転状況(トルク、回転数)が切替値(切替ラインC)を越えて矩形波制御領域Bとなった場合(ステップS106:Yes)、切替部24は直ちにd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqの生成部を正弦波制御部40から矩形波制御部50に切り替える(ステップS108)。尚、モータ制御装置100が後述の第2の形態を備えている場合には、制御部が矩形波制御部50に切り替わることで、後述のステップS203、S204が行われ、矩形波制御部50の出力するd軸、q軸電圧指令値Vd、Vq(d軸電圧指令補正値Vd、q軸電圧指令補正値Vq)がd軸、q軸電圧指令値の初期値Vd1、Vq1として正弦波制御部40に出力されるとともに、d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに基づいて移行データIfbが算出される。
【0055】
また、このときモード移行部80は初期電圧位相θv1を矩形波制御部50の電圧位相設定部502に出力するとともに、移行電圧指令値|Va’|の初期値(=|Va|)を矩形波モード同期制御部520に出力する(ステップS110)。
【0056】
次に、モード移行部80は矩形波モード同期制御部520から駆動信号Su、Sv、Swが1パルスの矩形波パターンとなるような矩形波形成電圧値|Va1|を取得する(ステップS112)。
【0057】
次に、モード移行部80は移行電圧指令値|Va’|を初期値(=|Va|)から矩形波形成電圧値|Va1|まで例えば予め設定された所定の時定数に基づいて連続的に増大させ矩形波モード同期制御部520に出力する(ステップS114~ステップS116)。
【0058】
尚、矩形波モード同期制御部520はモード移行部80から移行電圧指令値|Va’|が入力している場合には、トルク指令値Tによらず、この移行電圧指令値|Va’|を電圧指令値生成部516と切替部24とに出力する。ただし、初期電圧位相θv1は矩形波制御部50への制御部切り替え時に出力されるのみで、その後はトルク指令値Tに応じた電圧位相θvとなる。従って、ステップS114~ステップS116の移行期間におけるd軸、q軸電圧指令値Vd、Vqは、電圧位相θvと移行電圧指令値|Va’|とに基づいて生成されるものとなる。尚、移行電圧指令値|Va’|の初期値は正弦波制御部40で使用されていた正弦波パターン(もしくは過変調パターン)を形成する電圧指令値|Va|であり、また移行電圧指令値|Va’|の最終値である矩形波形成電圧値|Va1|は矩形波パターンを形成する電圧指令値であるから、この移行期間において駆動信号Su、Sv、Swは電圧位相θvによるトルク制御が行われながら正弦波パターンもしくは過変調パターンから矩形波パターンへと連続的に変化する。
【0059】
そして、移行電圧指令値|Va’|が矩形波形成電圧値|Va1|以上となった場合(ステップS116:Yes)、モード移行部80は移行電圧指令値|Va’|の出力を停止して、矩形波制御部50による矩形波制御モードに完全に移行する(ステップS118)。これにより、矩形波制御部50はトルク指令値Tに応じた電圧位相θvと矩形波形成電圧値|Va1|によってd軸、q軸電圧指令値Vd、Vq(d軸電圧指令補正値Vd、q軸電圧指令補正値Vq)を生成し、制御信号生成部30側に出力する。これにより、PMモータ10は矩形波パターンの駆動信号Su、Sv、Swにより動作制御される。
【0060】
このように、本例に示すモータ制御装置100及びモータ制御方法では、正弦波制御モードから矩形波制御モードへ切り替える際に、電圧位相θvによるトルク制御を行いながら駆動信号Su、Sv、Swを正弦波パターン(もしくは過変調パターン)から矩形波パターンに連続的に変化させる。このため、トルク変動の少ないスムーズな制御モードの切り替えを行うことができる。
【0061】
次に、本例におけるモータ制御装置100及びモータ制御方法の矩形波制御モードから正弦波制御モードへの切り替え時の動作を説明する。先ず、矩形波制御モードにおいては、矩形波制御部50がトルク指令値Tに基づくd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vq(d軸電圧指令補正値Vd、q軸電圧指令補正値Vq)を生成し、このd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vq(d軸電圧指令補正値Vd、q軸電圧指令補正値Vq)に基づいて駆動信号Su、Sv、Swが生成される。このときの駆動信号Su、Sv、Swは前述のように基本的に1パルスの矩形波パターンとなる。そして、PMモータ10はこの矩形波パターンの駆動信号Su、Sv、Swによって動作制御される(ステップS202)。
【0062】
この矩形波制御部50による制御時には、矩形波制御部50が出力するd軸、q軸電圧指令補正値Vd、Vqが正弦波制御部40の電圧指令値生成部416にd軸、q軸電圧指令値の初期値Vd1、Vq1として直接もしくはモード移行部80を介して出力される(ステップS203)。そして、入力したd軸、q軸電圧指令値の初期値Vd1、Vq1には非干渉制御部414のd軸、q軸間の干渉成分(d軸、q軸電圧指令値Vd’、Vq’)がそれぞれ減算された後、電流積分制御部410aに入力して電流制御部410の積分値となる。ただし、矩形波制御モード時にはこの電流制御部410の積分値等はPMモータ10の制御には関与しない。尚、この初期値Vd1、Vq1は矩形波制御部50が出力するd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqの変動に応じて随時変化する。
【0063】
また、このときモード移行部80は3相/dq変換部22からのd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqを取得する。そして、d軸電流指令値の初期値Id1、q軸電流指令値の初期値Iq1を算出するための移行データIfbを算出する(ステップS204)。尚、この移行データIfbは例えば、d軸、q軸フィードバック電流値Id、Iqを用いて演算により求められる電流指令値設定部402内部、電流指令値生成部406内部の積分制御部の積分値等であり、矩形波制御部50から正弦波制御部40への切り替え直後において電流指令値設定部402、電流指令値生成部406が取得できないデータを補完するものである。尚、この移行データIfbの取得は後述の移行期間にも同様に行われる。
【0064】
次に、外部からのトルク指令値Tが減少するなどしてPMモータ10の運転状況(トルク、回転数)が切替値(切替ラインC)を越えて正弦波制御領域Aとなった場合(ステップS206:Yes)、モード移行部80はこの時に矩形波モード同期制御部520が出力した電圧指令値|Va|を取得する。そして、この電圧指令値|Va|を移行電圧指令値|Va’|の初期値とする(ステップS208)。また、モード移行部80は駆動信号Su、Sv、Swが正弦波パターン(もしくは過変調パターン)をとるような正弦波モード移行電圧値|Va2|を取得する(ステップS210)。尚、正弦波モード移行電圧値|Va2|は例えば正弦波制御モードにおける電圧指令値|Va|の上限値(電流制御部410のリミッタ部のリミッタ値)等の予め設定された固定値を用いることが好ましい。
【0065】
次に、モード移行部80は移行電圧指令値|Va’|を初期値(=|Va|)から正弦波モード移行電圧値|Va2|まで例えば予め設定された所定の時定数に基づいて連続的に減少させ矩形波モード同期制御部520に出力する(ステップS212~ステップS216)。尚、この移行期間中においても矩形波制御部50が出力する初期値Vd1、Vq1は正弦波制御部40に継続して出力され(ステップS214)、また移行データIfbは随時更新される(ステップS215)。
【0066】
尚、矩形波モード同期制御部520は前述と同様にモード移行部80から移行電圧指令値|Va’|が入力している場合には、トルク指令値Tによらず、この移行電圧指令値|Va’|を電圧指令値生成部516と切替部24とに出力する。従って、ステップS212~ステップS216の移行期間におけるd軸、q軸電圧指令値Vd、Vqは、前述と同様に電圧位相θvと移行電圧指令値|Va’|とに基づいて生成されるものとなる。そして、移行電圧指令値|Va’|の初期値(=|Va|)は矩形波制御時の電圧指令値であり、また移行電圧指令値|Va’|の最終値である正弦波モード移行電圧値|Va2|は正弦波パターンもしくは過変調パターンを形成する電圧指令値であるから、この移行期間において駆動信号Su、Sv、Swは電圧位相θvによるトルク制御が行われながら矩形波パターンから過変調パターンもしくは正弦波パターンへと連続的に変化する。また、この移行期間においてトルク指令値Tや電源電圧Vdc、電気角速度ωに変化があった場合でも、これらの変化はトルク制御及び移行データIfbに随時反映される。
【0067】
そして、移行電圧指令値|Va’|が正弦波モード移行電圧値|Va2|以下となった場合(ステップS216:Yes)、モード移行部80は移行電圧指令値|Va’|の出力を停止するとともに、切替部24はd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqの生成部を矩形波制御部50から正弦波制御部40に切り替える(ステップS218)。また、このときモード移行部80は移行データIfbを正弦波制御部40の電流指令値設定部402、電流指令値生成部406に出力する(ステップS220)。これにより、電流指令値設定部402、電流指令値生成部406は移行データIfbに基づいてd軸電流指令値の初期値Id1、q軸電流指令値の初期値Iq1を算出し、電圧指令値生成部416に出力する。
【0068】
また、電圧指令値生成部416にはd軸、q軸電圧指令値の初期値Vd1、Vq1が入力しd軸、q軸の電流積分制御の積分値となっているから、よって正弦波制御部40への切り替え直後においては、これらd軸、q軸電圧指令値の初期値Vd1、Vq1、d軸電流指令値の初期値Id1、q軸電流指令値の初期値Iq1に基づいて切替時d軸電圧指令値Vd、切替時q軸電圧指令値Vqが生成され制御信号生成部30側に出力される(ステップS222)。これにより、正弦波制御部40への切り替え直後は、切替時d軸電圧指令値Vd、切替時q軸電圧指令値Vqに基づく駆動信号Su、Sv、SwによりPMモータ10の制御が行われる。
【0069】
その後、モータ制御装置100は正弦波制御部40による正弦波制御モードに完全に移行する(ステップS224)。これにより、正弦波制御部40はトルク指令値Tに応じたd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqによってd軸、q軸電圧指令値Vd、Vqを生成し、制御信号生成部30側に出力する。これにより、PMモータ10は正弦波パターンもしくは過変調パターンの駆動信号Su、Sv、Swにより動作制御される。
【0070】
このように、本例に示すモータ制御装置100及びモータ制御方法では、矩形波制御モードから正弦波制御モードへ切り替える際に、電圧位相θvによるトルク制御を行いながら駆動信号Su、Sv、Swを矩形波パターンから正弦波パターン(もしくは過変調パターン)に連続的に変化させ、正弦波パターン(もしくは過変調パターン)となったところで正弦波制御モードへの切り替えを行う。また、正弦波制御モードへの切り替え直後にはモード移行時の最後の値(d軸電圧指令値の初期値Vd1、q軸電圧指令値の初期値Vq1、d軸電流指令値の初期値Id1、q軸電流指令値の初期値Iq1)に基づいて切替時d軸、q軸電圧指令値Vd、Vqが生成され、PMモータ10の動作制御が行われる。このため、制御部の切り替えの前後で制御値が連続しトルク変動の少ないスムーズな制御モードの切り替えを行うことができる。
【0071】
また、本例に示すモータ制御装置100及びモータ制御方法では、モード切り替え時の移行期間中は移行電圧指令値|Va’|に基づいた矩形波制御部50による制御が行われる。従って、移行期間中にPMモータ10の運転状況が変化し再切り換えが必要となった場合でも、そのまま再切り換え動作に移行することができる。例えば、正弦波制御モードから矩形波制御モードへの切り替え動作中に正弦波制御モードへ再切り替えが生じた場合、そのままステップS208~ステップS216に移行し、矩形波制御部50による移行動作を経た後、ステップS218~ステップS224により正弦波制御モードへの切り替えを行うことができる。また、矩形波制御モードから正弦波制御モードへの切り替え動作中に矩形波制御モードへ再切り替えが生じた場合、そのままステップS110~ステップS116に移行した後、矩形波制御部50による矩形波制御モードでの制御を継続することができる。このように、本例に示すモータ制御装置100及びモータ制御方法では、移行期間中においても制御モードの再切り替えに対応することができる他、移行期間中もトルク指令値Tに基づいた電圧位相θvによってトルク制御が行われるため、応答性に優れた動作制御を行うことができる。
【0072】
尚、モータ制御装置100の正弦波制御部40が過変調制御や弱め磁束制御に対応し、且つ、過変調パターンの制御領域で矩形波制御部50と同等の矩形波形成電圧値|Va1|の電圧出力が可能な場合、即ち正弦波モード移行電圧値|Va2|と矩形波形成電圧値|Va1|とが略同等な場合には上記のステップS208~ステップS216の制御は省略しても良い。この場合でも、矩形波制御モードから正弦波制御モードへ切り替え直後には切替時d軸、q軸電圧指令値Vd、Vqが生成され、トルク変動の少ないスムーズな制御モードの切り替えを行うことができる。
【0073】
次に、本発明に係るモータ制御装置100及びモータ制御方法の三角波に関して説明を行う。本発明に用いる三角波は前述のように三角波の立ち下がりの中央位置が三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの立ち上がりのゼロ位置と交差し、さらに三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの周波数の奇数の3の整数倍の周波数のものとする。先ず、三角波の周波数が三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの周波数の3の整数倍ではない場合、駆動信号Su、Sv、Swの波形がU相、V相、W相でそれぞれ異なるものとなり、PMモータ10を円滑に制御することができない。よって、三角波の周波数は三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの周波数の3の整数倍とする。
【0074】
次に、奇数の3の整数倍とする理由を説明する。ここで、図6(a1)に三角波の周波数を三相電圧指令値Vu(Vv、Vw)の6倍(偶数の3の整数倍)としたときの三相電圧指令値Vu、Vvとの三角波比較の模式図を示す。また、図6(a2)、(a3)にこの三角波比較により生成される駆動信号Su、Svを示す。さらに、図6(a4)にこのときのU相―V相間の出力線間電圧Vuvを示す。また、図6(b1)に三角波の周波数を三相電圧指令値Vu(Vv、Vw)の9倍(奇数の3の整数倍)としたときの三相電圧指令値Vu、Vvとの三角波比較の模式図を示す。また、図6(b2)、(b3)にこの三角波比較により生成される駆動信号Su、Svを示す。さらに、図6(b4)にこのときのU相―V相間の出力線間電圧Vuvを示す。
【0075】
先ず、三角波の周波数を三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの偶数の3の整数倍とした場合、図6(a1)の一点鎖線で示す部位では三相電圧指令値Vuのゼロ位置と三角波の中央位置とが双方とも立ち下がりの領域で交差する。このような場合、三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの振幅によっては、三相電圧指令値Vu、Vv、Vwと三角波との傾きが部分的に近似する(両者が重なる)可能性が有る。そしてこのような場合には、駆動信号Su、Sv、Swが正弦波パターン(過変調パターン)から矩形波パターンに変化する際に不連続もしくは急激な変化が生じる可能性が有り、トルク変動の原因となる。
【0076】
しかしながら、三角波の周波数を三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの奇数の3の整数倍とした場合、図6(b1)の一点鎖線で示すように、三相電圧指令値Vuの立ち下り領域でのゼロ位置は三角波の立ち上がりの中央位置で交差する。即ち、奇数の3の整数倍の場合には、基本的に三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの立ち下り領域でのゼロ位置は三角波の立ち上がり領域で交差し、三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの立ち上がり領域でのゼロ位置は三角波の立ち下がり領域で交差する。このため、駆動信号Su、Sv、Swの連続性は良好に維持され、安定した駆動信号Su、Sv、Swを生成することができる。
【0077】
また、三角波の周波数を三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの偶数の3の整数倍とした場合、例えば図6(a4)では、出力線間電圧Vuvの波形が上下で非対称となる。このように、出力線間電圧の波形の対称性が確保されない場合、駆動電流Iu、Iv、Iwにオフセット成分や歪みを発生させる虞がありPMモータ10の制御信号として好ましいものではない。
【0078】
しかしながら、三角波の周波数を三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの奇数の3の整数倍とした場合には、図6(b4)に示すように、出力線間電圧Vuvの波形は上下及び左右で対称となる。同様に出力線間電圧Vvw、Vwuも対称性を備え、PMモータ10の安定した制御が可能となる。
【0079】
以上のように、本発明に係るモータ制御装置100及びモータ制御方法は、(電流比例制御部410bの出力加算前の)積分側d軸、q軸電圧指令値Vd’’、Vq’’から求めた電圧指令値|Va|、もしくは矩形波モード同期制御部520(電圧指令取得部)が出力する電流比例制御の成分を含まない電圧指令値|Va|に基づいて線形補正が行われる。これにより、線形補正後のd軸、q軸電圧指令値Vd、Vqは短期的な振動成分の影響を受けず、安定した三相電圧指令値Vu、Vv、Vw、駆動信号Su、Sv、Swを生成でき、出力電圧、電流、トルクの安定化を図ることができる。また、比例制御成分を含まない電圧指令値|Va|を基に線形補正の補正値を設定することで、電流比例制御部410b、補正電圧生成部76のゲインを大きくとることが可能となり、これらの応答性の向上を図ることができる。
【0080】
また、本発明に係るモータ制御装置100及びモータ制御方法は、(電流比例制御部410bの出力加算前の)積分側d軸、q軸電圧指令値Vd’’、Vq’’から求めた電圧位相θv、もしくは、(比例制御が行われる)補正部70の前で分岐した電流比例制御の成分を含まない電圧位相θvに基づいてキャリア設定情報Scを生成する。これにより、キャリア設定情報Sc及び三角波は短期的な振動成分の影響を受けず、安定した駆動信号Su、Sv、Swを生成でき、出力電圧、電流、トルクの安定化を図ることができる。また、比例制御成分を含まない電圧位相θvを用いることで、正弦波モード同期制御部420、矩形波モード同期制御部520、電圧位相設定部502等の制御ゲインを大きくとることが可能となり、これらの応答性の向上を図ることができる。
【0081】
尚、本例で示したモータ制御装置100及びモータ制御方法は一例であり、制御信号生成部30、正弦波制御部40、矩形波制御部50等の各部の構成、動作、各ステップの構成等は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。たとえば、三角波については搬送波と置き換えが可能である。
【0082】
ところで、線形補正部38で用いる補正値は、変調率や電圧指令値|Va|とインバータ出力電圧の基本波成分との非線形性の関係を予め実験などにより求めて、この非線形性を補正するように補正値のテーブルデータを作成し、このテーブルデータを読み出して設定しても良い。
なお、本例では電圧指令値|Va|を引数とした補正値(倍率)のテーブルデータが予め設定されており、線形補正部38は入力した電圧指令値|Va|に応じた補正値(倍率)を読み出しd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqに掛けることで線形補正を行う構成としている。
【0083】
なお、線形補正の適用箇所としては、“駆動信号生成部36の比較動作よりも前の電圧指令値の大きさ”に線形補正を適用すると良い。例えば、dq/3相変換部32の前段のd軸、q軸電圧指令値Vd、Vqに線形補正を行うようにしても良い。また、dq/3相変換部32の出力する三相電圧指令値Vu、Vv、Vwに線形補正を行うようにしても良い。
【0084】
また、dq/3相変換部32の前段のd軸、q軸電圧指令値Vd、Vqと下式(2)から|Va|を求めてこの|Va|に線形補正を行い、式(3)(4)(5)から改めてVdとVqを構成してdq/3相変換部32に受け渡すようにしても良い。
【0085】
また、電圧指令値生成部516に入力する(または入力した)|Va|を用いて線形補正の補正値を取得し、さらにこの|Va|に線形補正を行いVd、Vqを生成し、さらに補正電圧生成部76から出力するd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqにも線形補正を行い、これを電圧指令値補正部78で合算た後にdq/3相変換部32に受け渡すようにしても良い。
【0086】
また、駆動信号生成部36の三角波の振幅の変化に比例するように三相電圧指令値Vu、Vv、Vwを対応させる換算係数に線形補正の補正値を乗算し、この乗算後の換算係数とdq/3相変換部32が出力した三相電圧指令値Vu、Vv、Vwを乗算して、比較動作に使用する調整後の三相電圧指令値Vu、Vv、Vwが線形補正されるようにしても良い。
式(2):|Va|=(Vd^2 + Vq^2)1/2
式(3):θv = tan-1(-Vd/Vq)
式(4):Vd = |Va|・sinθv (ただしVdの符号は、元のVdの符号と同じ)
式(5):Vq = |Va|・cosθv (ただしVqの符号は、元のVqの符号と同じ)
【0087】
また、矩形波制御部50を用いる場合の線形補正の補正値を求める際に用いる電圧指令値|Va|は、以下のように設定しても良い。
例えば、矩形波制御部50が線形補正部38に出力する電圧指令値|Va|は、d軸電流とq軸電流が成すベクトルの電流位相θiが、電流の大きさに基づいて予め設定した電流位相θi(base)に対して、q軸側にずれている場合に電圧指令値|Va|を小さくし、また、d軸側にずれている場合に電圧指令値|Va|を大きくするように電圧指令値|Va|を大きさを積分制御や比例制御などにより制御して、d軸電流やq軸電流に基づいて目標電流位相θi(base)と同等な電流位相θiをとるように制御された電圧指令値|Va|でも良い。この電圧指令値|Va|を用いて線形補正を行う場合には、補正電圧生成部76から出力するd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqの振動成分に比べて、d軸q軸電流の変動による電圧指令値|Va|への影響が十分小さくなるように電圧指令値|Va|を増減する制御部の積分制御や比例制御などの制御ゲインを選定することで、補正部70を利用しつつ、d軸q軸電流の変動による影響を十分小さくた電圧指令値|Va|に基づいて安定した線形補正を行うことができる。
【0088】
また、モード移行部80は移行電圧指令値|Va’|を初期値(=|Va|)から矩形波形成電圧値|Va1|まで例えば予め設定された所定の時定数に基づいて連続的に増大させ矩形波モード同期制御部520に出力して同期制御部520が取得した|Va’|を電圧指令値|Va|として、線形補正部38に出力して線形補正に使用するようにしても良く、
また、モード移行部80は移行電圧指令値|Va’|を初期値(=|Va|)から正弦波モード移行電圧値|Va2|まで例えば予め設定された所定の時定数に基づいて連続的に減少させ矩形波モード同期制御部520に出力して同期制御部520が取得した|Va’|を電圧指令値|Va|として、線形補正部38に出力して線形補正に使用するようにしても良い。
【0089】
また、移行期間において駆動信号Su、Sv、Swは電圧位相θvによるトルク制御が行われながら正弦波パターンもしくは過変調パターンから矩形波パターンへと連続的に変化するとき、または、移行期間において駆動信号Su、Sv、Swは電圧位相θvによるトルク制御が行われながら矩形波パターンから過変調パターンもしくは正弦波パターンへと連続的に変化するときには、駆動信号Su、Sv、Swが正弦波パターンや過変調パターン、矩形波パターンとなる電圧指令値|Va|に基づいて線形補正がおこなわれる。
【0090】
また、モード移行部80が出力する移行電圧指令値|Va’|は、所定の時定数に基づいて連続的に増大もしくは減少される動作を行うので、補正電圧生成部76から出力するd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqのような振動成分が含まれておらず、安定して線形補正を行うことができる。
【0091】
ここで、正弦波制御部の比例制御と積分制御について補足する。
電流積分制御部410aと電流比例制御部410bの違いは、まず、電流比例制御部410bの動作は、電流指令値(IdとIq)とフィードバック電流Id,Iqとの差分であるΔIdとΔIqに対して、電流比例制御部410bに予め設定される比例ゲインを乗算し、電流比例制御部410bの出力値が生成される。このように周知の比例制御である電流比例制御部410bは、ΔIdとΔIqの変化を比例ゲイン倍した出力が得られる。そのため、電流指令値に対してフィードバック電流が変化するとΔId、ΔIqが変化するので、このΔIdとΔIqの変化に応じて出力が変化することがわかる。
【0092】
また、本願0018段落に記載したように、「電気角θと駆動電流Iu、Iv、(Iw)の取得は、三角波の頂点と谷の両方のタイミングで行い、三角波の半周期毎にモータ制御装置100の各部にて使用する」と記載したように、三角波の半周期毎に取得した駆動電流Iu、Ivと電気角θに基づいて、3相/dq変換部22にてd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqが変換され、さらにこれを用いてΔId、ΔIqが更新されて、三角波の半周期毎に電流比例制御部410bが電流比例制御の演算を行う。このように、毎制御周期の度にフィードバック電流の変化に基づいて一連の電流比例制御が行われて、電流比例制御部410bの出力が変化する。
【0093】
ところで、交流電動機の制御装置では、駆動電流Iu、Iv、Iwに高次成分が重畳したり、駆動電流Iu、Iv、Iwがオフセットしたりする場合がある。三相の電流情報に基本波である正弦波に対するオフセットや高次成分が重畳していると、3相/dq変換にて駆動電流Iu、Ivを変換して生成するd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqには、三相電流に重畳した成分の1次高い成分が重畳する。例えば、三相電流にオフセットが有る場合にはd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqには1次の成分が重畳する。
【0094】
このような三相電流に重畳したオフセットや高次成分により、d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに振動成分が重畳する。次に、減算部412においてd軸、q軸電流指令値Id、Iqから、振動成分が重畳したd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqが減算されてΔId、ΔIqが生成されるので、振動成分が重畳しているΔId、ΔIqが生成される。
【0095】
このように、振動成分が重畳しているΔId、ΔIqが電流比例制御部410bに入力すると、電流比例制御部410bでは、振動成分が重畳しているΔId、ΔIqに比例ゲインを乗算し電流比例制御部410bによるd軸電圧指令値、q軸電圧指令値として出力される。このように電流比例制御部410bでは、ΔId、ΔIqに比例ゲインを乗算するので、ΔId、ΔIqに振動成分が重畳していると、振動成分にも比例ゲインが乗算され、振動成分が重畳したd軸電圧指令値、q軸電圧指令値が電流比例制御部410bから出力される。
以上のように、比例制御では毎制御サイクルの度にΔId、ΔIqに重畳する振動成分をd軸電圧指令値、q軸電圧指令値に出力する。
【0096】
一方、電流積分制御部410aの動作は、電流指令値(IdとIq)とフィードバック電流Id,Iqとの差分であるΔIdとΔIqに対して、電流積分制御部410aに予め設定される積分ゲインを乗算し、電流積分制御部410aの積分値に加算し、この積分値を出力値として出力する。このように周知の電流積分制御は、ΔIdとΔIqの変化を積分ゲイン倍した値をそのまま出力せずに、積分値に加算し、積分値を出力する。そのため、電流指令値に対してフィードバック電流が変化してΔId、ΔIqが変化すると、このΔIdとΔIqの変化に応じて積分値に加算する値が変化するが、元の積分値に対する加算値の割合に応じて出力となる積分値の変化の割合が決まるので、1制御周期毎の出力値の変化の割合は、前述のΔIdとΔIqの変化の割合と同じ割合で出力値が変化する比例制御に比べて、積分制御はΔIdとΔIqの変化の割合に比べて出力値の変化の割合が小さい。
【0097】
このように、積分制御と比例制御を比べると、振動成分を含む入力値の変化による各制御の出力値の変化は、比例制御が入力値の変化の割合に比例して出力値が変化することに対して、積分制御は入力値の変化の割合よりも出力値の変化の割合は小さい。
【0098】
次に正弦波制御部の比例制御と積分制御による正弦波制御部の線形補正とキャリア設定情報Scへの影響について補足する。
本例では、極座標変換部418においてd軸電圧指令値とq軸電圧指令値に基づいて極座標変換が施され電圧位相θvと、電圧指令値|Va|とが取得される。そして、極座標変換部418はこの電圧位相θvを正弦波モード同期制御部420に出力する。また、電圧指令値|Va|を線形補正部38に出力する。
【0099】
このため、線形補正の補正値の生成を比例制御の出力を含むd軸電圧指令値、q軸電圧指令値に基づいて行うと、線形補正の補正値も振動的になり、線形補正を適用した電圧指令値(d軸電圧指令値、q軸電圧指令値や三相電圧指令値)および、駆動信号Su、Sv、Swが振動的になり、その結果、駆動電流Iu、Iv、Iwおよびモータが出力するトルクが不安定となる虞がある。
【0100】
また、このような不安定な状態を低減するためには、電流比例制御のゲインを低く設定する必要があり、電流比例制御の応答が低くなる虞がある。
このため、線形補正の補正値を求めるために使用する電圧値としては、振動成分の割合が小さい積分制御の出力値は使用し、振動成分の割合が大きい比例制御の出力値を含まないようにすることで、線形補正の補正値が安定する。
【0101】
また、同様にキャリア設定情報Scを生成する際に使用する電圧位相θvの生成についても、比例制御の出力を含むd軸電圧指令値、q軸電圧指令値に基づいて行うと、キャリア設定情報Scが振動的になり、キャリア設定情報Scに基づいて生成される三角波の周期が振動的になり、三角波を使用して生成する駆動信号Su、Sv、Swが振動的になり、その結果、駆動電流Iu、Iv、Iwおよびモータが出力するトルクが不安定となる虞がある。
このため、キャリア設定情報Scを求めるために使用する電圧値としては、振動成分の割合が小さい積分制御の出力値は使用し、振動成分の割合が大きい比例制御の出力値を含まないようにすることで、キャリア設定情報Scが安定する。
【0102】
また、正弦波制御部の使用時に非干渉制御を使用する場合には、非干渉制御部414の出力値も積分制御の出力値に加算して用いる。その際、非干渉制御部414で使用するd軸電流値とq軸電流値は、フィードバック値ではなく、d軸電流指令値およびq軸電流指令値とすることで、フィードバック電流に含まれる振動成分の影響を受けずに非干渉制御の出力値であるd軸、q軸電圧指令値Vd’、Vq’が得られるので、この出力値を使用する極座標変換部418の出力である電圧位相θvと電圧指令値|Va|が安定し、この電圧位相θvと電圧指令値|Va|を使用する、線形補正部38の補正値や同期制御部420の出力であるキャリア設定情報Scがより安定する。
【0103】
次に、矩形波制御時の補正部70の変動成分を補足する。
矩形波制御部50では切替部24に入力するd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqは、電圧指令値補正部78において、補正電圧生成部76から入力したd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqを電圧指令値生成部516から出力したd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqにそれぞれ加算して設定している。
【0104】
補正電圧生成部76が出力するd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqは、本願0038段落~0040段落のように、駆動電流Iu、Iv、Iwに生じるオフセットや振幅アンバランス成分などによるd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに重畳する変動成分の逆相の変動成分を含む電圧である。
詳しくは、駆動電流Iu、Iv、Iwに生じるオフセットや振幅アンバランス成分などによる変動成分が重畳したd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqを、オフセットや振幅アンバランスの成分(変動成分)が平滑化した推定d軸、q軸電流指令値Id、Iqからそれぞれ減算して、d軸補正電流ΔId、q軸補正電流ΔIqを生成し、このd軸補正電流ΔId、q軸補正電流ΔIqに所定の補正ゲイン(Kd、Kq)を乗算する比例制御によりd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqを生成している。
このように補正電圧生成部76が出力するd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqが加算された切替部24に入力するd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqは、変動成分を含むものである。
【0105】
次に、矩形波制御時の本例の電圧指令値|Va|の生成について補足する。
一方、矩形波制御部50においてキャリア設定情報Scと線形補正部へ出力する電圧指令値|Va|は、矩形波モード同期制御部520が出力する。この電圧指令値|Va|は、矩形波制御部50の動作状態に応じた所定の大きさの電圧指令値|Va|が設定され、矩形波モード同期制御部520が出力する。
【0106】
例えば、駆動信号Su、Sv、Swを矩形波パターンとする際には、電圧指令値|Va|を本願0033段落に記載した矩形波形成電圧値|Va1|とすることで、駆動信号生成部36において三角波と三相電圧指令値Vu、Vv、Vwとが、三相電圧指令値Vu、Vv、Vwの1周期の間で2回交差する、即ち、三角波比較により生成される駆動信号Su、Sv、Swが1パルスの矩形波となる大きさの電圧指令値|Va|を矩形波モード同期制御部520が出力する。
【0107】
また例えば、本願0058段落に記載したように、本例におけるモード移行部80が出力する移行電圧指令値|Va’|が矩形波モード同期制御部520に入力し、矩形波モード同期制御部520が移行電圧指令値|Va’|を電圧指令値生成部516と切替部24とに出力するように、矩形波モード同期制御部520の外部から入力される任意の大きさの電圧指令値|Va|に基づいて矩形波モード同期制御部520が電圧指令値|Va|を出力する場合には、矩形波モード同期制御部520の外部から入力される任意の大きさの電圧指令値|Va|に基づいて、駆動信号Su、Sv、Swが正弦波パターンや過変調パターンや矩形波パターンの波形となる電圧指令値|Va|を矩形波モード同期制御部520が電圧指令値生成部516と切替部24とに出力する。
【0108】
このように、矩形波モード同期制御部520は、矩形波形成電圧値|Va1|や、矩形波モード同期制御部520の外部から入力される任意の大きさの電圧指令値|Va|(|Va’|)に基づいて、電圧指令値生成部516と切替部24とに電圧指令値|Va|を出力するので、切替部24から線形補正部38に出力される電圧指令値|Va|は、d軸フィードバック電流値Idおよびq軸フィードバック電流値Iqの影響を受けずに設定される為、補正電圧生成部76が出力するd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqが加算された切替部24に入力するd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqに含まれるような変動成分が重畳されていない。
【0109】
一方、例えば、切替部24が出力するd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqに基づいて、極座標変換を行って得られる電圧指令値の大きさを用いて線形補正部38の補正値の生成を行うような制御構成を検討してみると、切替部24が出力するd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqには、補正電圧生成部76が出力するd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqが加算されているので、d軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqに含まれる変動成分の影響を受けて線形補正部38の補正値が変動し、線形補正を適用した三相電圧指令値Vu、Vv、Vw、駆動信号Su、Sv、Swも線形補正部38の補正値の変動に応じて変動し出力電圧、電流、トルクの変動要因となる虞がある。
【0110】
しかしながら、本例では矩形波モード同期制御部520が出力する電圧指令値|Va|に基づいて、線形補正部38の補正値の生成を行うので、補正電圧生成部76が出力するd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqが加算された切替部24が出力するd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqに含まれるような変動成分が重畳されていないので、補正値が安定し、安定した三相電圧指令値Vu、Vv、Vw、駆動信号Su、Sv、Swを生成でき、出力電圧、電流、トルクの安定化を図ることができる。
【0111】
また、補正電圧生成部76が出力するd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqの変動成分を含む電圧指令値に基づいて線形補正部38の補正値を生成すると、前述のようにd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqに含まれる変動成分の影響を受けて補正値が変動し、線形補正を適用した三相電圧指令値Vu、Vv、Vw、駆動信号Su、Sv、Swも変動し出力電圧、電流、トルクの変動要因となるため、例えば、補正電圧生成部76のゲインを大きくすると、さらに出力電圧、電流、トルクの変動が大きくなってしまうため、補正電圧生成部76のゲインを大きくすることで補正電圧生成部76の応答性を向上させることが困難となる。
【0112】
しかしながら、本例では補正電圧生成部76が出力するd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqの影響を受けない電圧指令値に基づいて線形補正部38の補正値の設定をすることで、補正電圧生成部76のゲインを大きくとることが可能となり、補正電圧生成部76の応答性の向上を図ることができる。
【0113】
次に、矩形波制御時の本例のキャリア設定情報Scの生成に用いる電圧位相θvについて補足する。
また、矩形波モード同期制御部520は電圧位相θvと電気角速度ωと電気角θとから三角波を設定するためのキャリア設定情報Scを生成する。ここで、本例では電圧位相設定部502で生成された電圧位相θvを用いてキャリア設定情報Scを求めている。
電圧位相設定部502では、トルク計算部504にて算出された現在のトルクTとトルク指令値Tに基づいて電圧位相θvを積分制御、比例制御などにより生成する。
【0114】
トルク計算部504は、d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに基づいて現在のトルクTを算出する。
このため、トルク計算部504が算出する現在のトルクTは、d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに重畳した変動成分が含まれる値となる。
このため、トルク計算部504が算出する現在のトルクTに基づいて電圧位相設定部502にて生成される電圧位相θvにも変動成分が含まれる虞がある。
【0115】
しかしながら、電圧位相設定部502にて生成される電圧位相θvと、矩形波制御部50が動作する際の切替部24が出力するd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqに基づいて、極座標変換を行って得られる電圧位相とを比べると、いずれの電圧位相にもd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに重畳した変動成分が含まれているものの、電圧位相設定部502にて生成される電圧位相θvの方がd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに重畳した変動成分の影響が小さくなる。
【0116】
この理由はまず、切替部24が出力するd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqに基づいて、極座標変換を行って得られる電圧位相では、補正電圧生成部76が出力するd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqの変動成分を含むが、このd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqは、前述のように、駆動電流Iu、Iv、Iwに生じるオフセットや振幅アンバランス成分などによる変動成分が重畳したd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqを、オフセットや振幅アンバランスの成分(変動成分)が平滑化した推定d軸、q軸電流指令値Id、Iqからそれぞれ減算して、d軸補正電流ΔId、q軸補正電流ΔIqを生成し、このd軸補正電流ΔId、q軸補正電流ΔIqに所定の補正ゲイン(Kd、Kq)を乗算する比例制御によりd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqを生成している。
【0117】
このため、d軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqは、d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに重畳した変動成分といえるd軸補正電流ΔId、q軸補正電流ΔIqに補正ゲイン(Kd、Kq)を乗じた変動成分であるので、d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに重畳した変動成分の変化に比例して変動する。
【0118】
つまり、d軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqが加算された切替部24が出力するd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqに基づいて、極座標変換を行って得られる電圧位相は、d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに重畳した変動成分の変化に即応して変動する変動成分を含んでいる。
【0119】
一方、電圧位相設定部502にて生成される電圧位相θvでは、d軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに基づいて算出された現在のトルクTに基づいた電圧位相設定部502の比例制御による変動成分が含まれるものの、電圧位相設定部502の出力値である電圧位相θvに対する割合は、電圧位相設定部502の積分制御による積分値の割合を考慮すると、前記比例制御および積分制御の1制御サイクルあたりの変化の割合が低減する。
このため、電圧位相設定部502にて生成される電圧位相θvは、前述の切替部24が出力するd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqに基づいて、極座標変換を行って得られる電圧位相のようなd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに重畳した変動成分の変化に即応した変化はせず、電圧位相設定部502の積分制御の積分値により電圧位相設定部502にて生成される電圧位相θvの1制御サイクルあたりの前記変動成分の影響は抑制される。
【0120】
また、矩形波モード同期制御部520の積分制御や比例制御の制御ゲインの設定は、システムが必要とするトルクの応答性に応じて設定されるものであり、システムが必要とする応答性を満足しつつ、三相電流に重畳したオフセットや高次成分に起因するd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqに重畳した基本波周波数以上の変動成分に対する応答が抑制されるように前記積分制御や比例制御の制御ゲインを設定することで、さらに電圧位相設定部502にて生成される電圧位相θvに含まれる変動成分を低減することが出来る。
【0121】
また、トルク計算部504において、現在のトルクTを算出する際に使用するd軸フィードバック電流値Id、q軸フィードバック電流値Iqをローパスフィルタなどで平滑処理を行ったうえで現在のトルクTを算出するようにしても良く、この場合においても電圧位相設定部502にて生成される電圧位相θvに含まれる変動成分を低減することが出来る。
【符号の説明】
【0122】
10 PMモータ
12u、12v 駆動電流検出部
14 角度検出部
20 インバータ
22 3相/dq変換部
32 dq/3相変換部
36 駆動信号生成部
38 線形補正部
40 正弦波制御部
50 矩形波制御部
100 モータ制御装置
410 電流制御部
410a 電流積分制御部
410b 電流比例制御部
418 極座標変換部
420 正弦波モード同期制御部
502 電圧位相設定部
520 矩形波モード同期制御部(電圧指令取得部)
θ 電気角
θv 電圧位相
Id d軸フィードバック電流値
Iq q軸フィードバック電流値
Id d軸電流指令値
Iq q軸電流指令値
Iu、Iv、Iw 駆動電流
|Va| 電圧指令値
Vd d軸電圧指令値
Vq q軸電圧指令値
Vd’’ 積分側d軸電圧指令値
Vq’’ 積分側q軸電圧指令値
Vu、Vv、Vw 電圧指令値(3相)
トルク指令値
Sc キャリア設定情報
Su、Sv、Sw 駆動信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6