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特許7094874ホウ素吸着カートリッジフィルタ及びこれを用いたホウ素処理方法
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  • 特許-ホウ素吸着カートリッジフィルタ及びこれを用いたホウ素処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】ホウ素吸着カートリッジフィルタ及びこれを用いたホウ素処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20060101AFI20220627BHJP
   C02F 9/14 20060101ALI20220627BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20220627BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
C02F1/28 A
C02F9/14
B01J20/28 Z
B01J20/22 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018244200
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020104050
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 靖
(72)【発明者】
【氏名】槙田 則夫
(72)【発明者】
【氏名】安永 利幸
(72)【発明者】
【氏名】西村 隆司
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-167223(JP,A)
【文献】特開2013-063414(JP,A)
【文献】特開2011-088053(JP,A)
【文献】特開2014-018743(JP,A)
【文献】特開2002-126543(JP,A)
【文献】特開2004-066153(JP,A)
【文献】特開2009-090259(JP,A)
【文献】特開2000-042382(JP,A)
【文献】特開平09-094442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28, 1/44
C02F 9/14
B01D 53/22,61/00-71/82
B01J 20/28
B01J 20/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素を吸着するためのグルカミン固定化布が、処理水を通水する集水管にロール状に巻きつけられて形成された円筒状カートリッジフィルタと、
前記円筒状カートリッジフィルタを収容するためのカートリッジ収納容器と、
を有し、
前記円筒状カートリッジフィルタは、前記カートリッジ収納容器内に直列に複数収容され、該カートリッジ収納容器の両端から交互に前記被処理水を前記カートリッジ収納容器内部に供給し、前記円筒状カートリッジフィルタに通水させ、
前記カートリッジ収納容器にホウ素を含む被処理水を通水することにより、前記グルカミン固定化布に前記ホウ素を吸着させることを特徴とするホウ素吸着カートリッジフィルタ。
【請求項2】
前記カートリッジ収納容器内における前記グルカミン固定化布の充填密度が、0.4kg/L以上であることを特徴とする、請求項1に記載のホウ素吸着カートリッジフィルタ。
【請求項3】
前記グルカミン固定化布は、N-メチル-D-グルカミンで固定された布であることを特徴とする請求項1又は2に記載のホウ素吸着カートリッジフィルタ。
【請求項4】
前記N-メチル-D-グルカミンが、1.0~1.9meq/gの量で固定された布であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のホウ素吸着カートリッジフィルタ。
【請求項5】
前記ホウ素吸着カートリッジフィルタによって吸着除去するホウ素処理方法であって、
前記被処理水を生物処理し、
前記生物処理後の生物処理水を凝集沈澱処理し、
前記凝集沈澱処理後の凝集沈澱処理水をろ過処理し、
前記ろ過処理後のろ過処理水から前記ホウ素吸着カートリッジフィルタを使用してホウ素を吸着除去した処理水を得ることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のホウ素吸着カートリッジフィルタを用いたホウ素処理方法。
【請求項6】
前記ホウ素を吸着除去した処理水を、更に消毒処理することを特徴とする請求項に記載のホウ素吸着カートリッジフィルタを用いたホウ素処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素を含有する排水を処理する、ホウ素吸着カートリッジフィルタおよびホウ素処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウムなどのホウ素化合物は、医薬品、防腐剤、化粧品、熱処理剤、写真、顔料、乾燥剤、ガラス、メッキなど多種の分野で用いられており、これらの製造工程やホウ素化合物を用いた製品の製造工程から排出される排水中にはホウ素が含まれている。
【0003】
また、原子力発電所から発生する放射性廃液や地熱発電水、石炭火力発電所の排煙脱硫廃水、ごみ焼却洗煙廃水等にもホウ素化合物が含まれている。
【0004】
ホウ素は大量に摂取すると人の中枢および末梢神経障害、消化器異常などの毒性が認められていることから、10ppm以下の排出基準が設定されており、低コストで効率よく排水中のホウ素を除去する技術が求められている。
【0005】
一般的なホウ素除去方法としては、ホウ素含有水にアルミニウム化合物、カルシウム化合物等の凝集剤を用いてホウ素を取り込んだ凝集沈殿物を生成させて分離除去する凝集沈殿法(特許文献1)、逆浸透膜により処理する逆浸透膜法(特許文献2)、ホウ素吸着樹脂を用いたイオン交換法(特許文献3)等がある。
【0006】
また、吸着材から溶離したホウ素を含む溶離液のホウ素濃度を高めることができ、溶離液を濃縮せずとも効率良くホウ素含有水からホウ素を除去してホウ酸結晶の形態で回収することを可能にする方法(特許文献4)が提案されている。
【0007】
高分子材料の不織布に官能基としてホウ素を吸着するグルカミン基を導入して作成され帯状に形成された吸着材素材を巻いて柱形状に形成した吸着材モジュールが、当該吸着材モジュールの軸心が前記容器の前記軸心と同軸になるように、容器内に1つ以上嵌入されて構成された吸着材モジュールにホウ素含有水を通水する方法である。
【0008】
一方、エレクトロニクス分野における純水のろ過や、有機溶剤のろ過においては、不織布をロール状に形成したカートリッジフィルタが知られているが、前述した様なホウ素含有排水の処理には使用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-346574号公報
【文献】特開平9-290275号公報
【文献】特公平2-32952号公報
【文献】特開2013-63414号公報
【文献】特許第4297751号公報
【文献】特開2007-321252号公報
【文献】特開2004-298738号公報
【文献】特開2004-337749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した従来のホウ素除去方法は、ホウ素除去能は十分とは言えず、以下のような課題があった。
【0011】
まず、凝集沈殿法では、ホウ素を不溶化させるために多量の薬剤を使用する必要があり、発生する汚泥も多くその処理が困難である。また、凝集沈殿物にはアルミニウム化合物、カルシウム化合物等が大量に含まれているため、ホウ素を回収して再利用することができない。逆浸透膜法では、ホウ素を分離して高濃度に濃縮することが困難である。
【0012】
更に、ホウ素選択吸着樹脂法では、ホウ素の回収・再利用を考慮した場合には、ホウ素含有水をホウ素選択吸着樹脂に通液させて吸着処理した後に、当該ホウ素選択吸着樹脂からホウ素を溶離させてホウ素選択吸着樹脂を再生するために酸溶液が使用される。このため、溶離液の酸根を処理する必要がある。また、溶離液のホウ素濃度が低いため、冷却晶析法によりホウ酸結晶を得るには濃縮工程が必要となる。
【0013】
以上のことから、ホウ素を含有する被処理水の処理においては、ホウ素吸着カートリッジフィルタを適用して、簡単な構成、システムで、ホウ素を吸着除去することが望まれていた。
【0014】
本発明は、上記従来の課題に鑑み成されたものであり、その目的は、多量の薬剤を使用することなく、ホウ素を分離でき、簡単な構成で効率的にホウ素を吸着除去可能とするホウ素吸着カートリッジフィルタおよびホウ素処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成とすることができる。
(1)ホウ素を吸着するためのグルカミン固定化布が、処理水を通水する集水管にロール状に巻きつけられて形成された円筒状カートリッジフィルタと、前記円筒状カートリッジフィルタを収容するためのカートリッジ収納容器と、を有し、前記カートリッジ収納容器にホウ素を含む被処理水を通水することにより、前記グルカミン固定化布に前記ホウ素を吸着させることを特徴とするホウ素吸着カートリッジフィルタ。
(2)前記カートリッジ収納容器内における前記グルカミン固定化布の充填密度が、0.4kg/L以上である。
(3)前記円筒状カートリッジフィルタは、前記カートリッジ収納容器内に直列に複数収容され、該カートリッジ収納容器の両端から交互に前記被処理水を前記カートリッジ収納容器内部に供給し、前記円筒状通水させる。
(4)前記グルカミン固定化布は、N-メチル-D-グルカミンで固定された布である。
(5)前記N-メチル-D-グルカミンが、1.0~1.9meq/gの量で固定された布である。
(6)前記ホウ素吸着カートリッジフィルタによって吸着除去するホウ素処理方法であって、前記被処理水を生物処理し、前記生物処理後の生物処理水を凝集沈澱処理し、前記凝集沈澱処理後の凝集沈澱処理水をろ過処理し、前記ろ過処理後のろ過処理水から前記ホウ素吸着カートリッジフィルタを使用してホウ素を吸着除去した処理水を得ることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のホウ素吸着カートリッジフィルタを用いたホウ素処理方法。
(7)(6)において前記ホウ素を吸着除去した処理水を、更に消毒処理する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ホウ素含有する排水を処理する場合において、上記のホウ素吸着カートリッジフィルタを使用することにより、多量の薬剤を使用することなくホウ素を分離できるとともに、従来よりもホウ素吸着能が向上し、低コストで効率よく排水中のホウ素を低減又は除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)は本発明のホウ素吸着カートリッジフィルタの実施形態を示す断面図、同図(b)は、他の例のホウ素吸着カートリッジフィルタの実施形態を示す断面図、同図(c)は、他の例の円筒状カートリッジフィルタの実施形態を示す断面図である。
図2】円筒状カートリッジフィルタの内部構造を示した一部を切り欠いた図である。
図3】放射線グラフと重合を説明するための模式図である。
図4】被処理水の処理順序の一例を示すフローである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明を説明する。図1(a)は、本発明のホウ素吸着カートリッジフィルタの実施形態を示す断面図、図1(b)は他の例の断面図、図1(c)は他の例の1つの円筒状カートリッジフィルタの断面図である。図示されているように、ホウ素吸着カートリッジフィルタ10は、被処理水中のホウ素を吸着するための2つ円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2が筒状のカートリッジ収納容器14に収容されていることを主な構成としている。図2は、円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2の内部構造を示した一部を切り欠いた図である。
【0019】
円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2は、グルカミン固定化布20が集水管16を中心としてロール状に巻きつけられて形成されている。集水管16の管壁は透水性を有し、処理水が集水管16の外部から集水管16の内部に流入できるように例えば有孔管のようなもので構成されている。そして、この円筒状カートリッジフィルタ12-1の最外側部は、保護用として網目状樹脂シート23が巻回されており、更にその両端にエンドキャップ21で固定されている。これにより、円筒状カートリッジフィルタ12-1の網目状樹脂シート23の最外側部から被処理水がグルカミン固定化布20に浸透して行き、中心にある有孔管の集水管16から外部へ排出される。
【0020】
カートリッジ収納容器14の長さ方向両端部14a、14bには、それぞれ、被処理水供給管18-1、18-2が設けられている。図示矢印100又は200の被処理水供給管18-1または18-2を通ってカートリッジ収納容器14内部に供給された被処理水は、円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2を通過して集水管16の内部に流入し、集水管16内を流れてカートリッジ収納容器14の外部へ図示矢印300または400方向に流出する。
【0021】
集水管16は、その軸がカートリッジ収納容器14の軸と同軸となるように配置されており、集水管16の各端部16a、16bはいずれともカートリッジ収納容器14の外部に位置している。上述したように、集水管16は透水性を有するものであり、例えば、管の壁部が格子状として形成された管や、管の壁部に複数の孔部が形成された管を使用することができる。
【0022】
集水管は図1(b)に示される構成としてもよい。すなわち、円筒状カートリッジフィルタ12-1の内部には有孔管19を配置し、それ以外の部分には無孔管17を配置する構成としてもよい。厳密には、有孔管19の長さは円筒状カートリッジフィルタ12-1の幅より若干短い長さを有している。有孔管19と無孔管17との接続は特に限定されず、有孔管19内に無孔管17を差し込む手法などが挙げられる。このように構成することにより、円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2を介して有孔管19に流入した処理水は、円筒状カートリッジフィルタ12-1と12-2との間等で外部に漏れ出すことがないため、ホウ素処理の効率化が図られる。
【0023】
また、図1(c)に示されるように、円筒状カートリッジフィルタ12-1の両端には、図2も示されているように、取外し可能なエンドキャップ21が設けられる。エンドキャップ21は非透水性の材質のものであり、これを配置することにより、円筒状カートリッジフィルタ12-1に流入した被処理水が有孔管19に流入するまでに外部に漏れ出ることを阻止することができる。
【0024】
図1(a)に示される実施の形態では、2つの円筒状カートリッジフィルタ12がカートリッジ収納容器14内に設けられている例を示しているが、円筒状カートリッジフィルタの数は2つに限られず、1つであってもよいし、3つ以上、例えば、3~10個であってもよく、複数個直列接続して、所望とする処理性能や設置箇所の広さなどに応じて適宜設定される。
【0025】
ホウ素吸着カートリッジフィルタ10とこれを構成する部材例えば、円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2、カートリッジ収納容器14、集水管16などのサイズは、特に限定されないが、交換作業を効率的に進めるために、人が持ち運びすることができるサイズとすることが好ましい。例えば、カートリッジ収納容器14の軸方向長さは、400~800mmであり、直径は、100~300mmである。カートリッジ収納容器14の大きさに応じて円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2のサイズも適宜決定される。
【0026】
また、本発明では、円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2を構成するグルカミン固定化布のカートリッジ収納容器14内における充填密度が0.4kg/L以上であることが好ましい。充填密度が0.4kg/L以上であれば、より効率的に被処理水を通水させてホウ素を吸着することが可能である。
【0027】
このように構成されたホウ素吸着カートリッジフィルタ10では、まず、図示矢印100の方向の一方の被処理水供給管、例えば、18-1からカートリッジ収納容器14内に被処理水を供給する。この際、図示矢印200の方向の他方の被処理水供給管18-2からの被処理水の供給は行われていない状態である。被処理水供給管18-1を介して供給された被処理水は円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2を通って集水管16内部に流入する。被処理水に含まれるホウ素は、円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2を通過する際に円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2のグルカミンと結合することによって捕捉される。集水管16内部に流入した処理水は、集水管16の一方の端部16bに向かって矢印300方向に流れ、ホウ素吸着カートリッジフィルタ10の外部へ流出する。
【0028】
上記の処理を所定時間行った後、今度は他方の被処理水供給管18-2からカートリッジ収納容器14内に被処理水を供給する。この際には、被処理水供給管18-1からの被処理水の供給は行われていない状態である。供給された被処理水は円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2を通って集水管16内部に流入する。円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2を通過する際に被処理水に含まれるホウ素が円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2によって捕捉される。集水管16内部に流入した処理水は、集水管16の他方の端部16aに向かって流れ、ホウ素吸着カートリッジフィルタ10の外部へ流出する。
【0029】
上記のように、各被処理水供給管18-1、18-2から交互に被処理水を供給してホウ素処理を行うことで、円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2のホウ素除去性能を無駄なく可能な限り利用することが可能となる。すなわち、被処理水の流れの方向を変えることで、被処理水が円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2の一部分にのみ集中して流れることなく、円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2の全体にわたって通水されることで、円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2のホウ素除去性能をより高い程度で利用することが可能となる。
【0030】
そして、上記のように、被処理水を反対方向に交互に供給して処理する構成を有することから、ホウ素吸着カートリッジフィルタ10は、その長さ方向が水平方向と一致するように水平に設置して使用されることが被処理水を効率的に通水させることができる点で有利である。
【0031】
次に、円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2について詳細に説明する。図2に示す様に円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2は、ホウ素を吸着するためのグルカミン固定化布を巻回することにより形成される。なお、上述したように、図1に示したカートリッジ収納容器14内におけるグルカミン固定化布の充填密度が0.4kg/L以上となるように、グルカミン固定布を巻き付けて円筒状カートリッジフィルタ12-1、12-2を構成することが好ましい。
【0032】
グルカミン固定化布としては、グルカミン、特にN-メチル-D-グルカミンを有する不織布や織布を使用することが好ましい。グルカミン固定化布は、例えば、放射線(電子線)照射によりメタクリル酸グリシジルを布にグラフト重合した後、更にN-メチル-D-グルカミンを反応させることにより形成することができる。N-メチル-D-グルカミンが1.0~1.9meq/gの量で固定化されているグルカミン固定化布が好ましい。この範囲であればホウ素吸着効率が更に向上する。
【0033】
グルカミン固定化布の基材となる不織布や織布としては、有機高分子から形成された不織布や織布を使用することが好ましい。有機高分子から形成された不織布や織布としては、有機高分子複合基材を使用することが好ましい。上記の有機高分子複合基材としては、芯成分としてポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、鞘成分としてポリエチレンなどのポリオレフィンを用いた芯鞘複合繊維材料を用いることができる。
【0034】
芯鞘複合材料としては、単芯/単鞘のもののみならず、多芯構造の材料も使用することができる。更に、本発明は、芯鞘複合繊維材料の形態以外の、複数種の材料で形成される任意の形態、例えば複数の異なる単繊維から構成される複合繊維の有機高分子複合材料に適用することができる。
【0035】
基材の引っ張り強度や伸度などの物理的特性を維持するための材料としては、上述のポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリスチレンなどの芳香族ポリマーなどのようなラジカル生成密度が小さく、保存性が小さい高分子材料を挙げることができ、一方、グラフトによって機能性官能基を導入するための材料としては、上述のポリエチレンなどのポリオレフィンなどのようなラジカル生成密度が大きく、保存性が高い高分子材料を挙げることができる。
【0036】
本発明において用いることのできるこのような複数の繊維材料の組合せとしては、例えば、ポリエチレン(PE)/ポリエチレンテレフタレート(PET)、PE/ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン(PP)/PET、PP/PBT、PE/ポリスチレン(PSt)、PP/PStなどの組合せを挙げることができる。
【0037】
例えば、ポリエチレン(PE)鞘/ポリエチレンテレフタレート(PET)芯の芯鞘複合繊維からなる不織布を基材として用いた場合、PETのラジカル生成密度及び保存性が小さいため、放射線照射後に酸素のようなラジカル消失剤と接触させるとラジカルの消失が速やかに起こり、後段のグラフト反応でのグラフト率を小さく抑えることができる。これにより、PET本来の引っ張り強度と伸度を維持することができる。
【0038】
一方、ポリエチレン(PE)鞘は、放射線照射後に酸素のようなラジカル消失剤と接触させると、非晶質の部分のラジカルは瞬時に消失するが、結晶部に生成したラジカルは徐々に結晶内を移動して結晶-非結晶の界面に移動し、ここでラジカル消失剤と接触して消失する。
【0039】
このため、PE鞘部では、照射後、グラフト重合前に数十分間空気に曝露しても高いグラフト率が得られる。
【0040】
このようにして、基材全体のグラフト率(重量増加率)が150%という大きなグラフト率を目標とする場合には、鞘のPE部分においては300%以上という非常に高いグラフト率を得ると同時に、芯材のPETについてはほとんどグラフト重合させないように、グラフト反応を行うことができる。このため、グラフト処理材料の物理的強度が維持される。
【0041】
放射線グラフト重合は、有機高分子基材に放射線を照射してラジカルを生成させ、それにグラフトモノマーを反応させることによって、所望のグラフト重合体側鎖を基材に導入することのできる方法である。
【0042】
図3は、放射線グラフト重合の模式図である。まず、(a)に示すように放射線を基材30に照射する。基材30に放射線が照射されると、(b)に示すように基材30の表面にラジカル31が発生する。ラジカル31が発生した後、(c)に示すようにラジカル31に反応するモノマー32を基材に添加すると、基材30とモノマー32が結合する。さらに、(d)に示すように、そのモノマー32と反応する化合物33を添加すると、モノマー32に化合物33が結合し、重合してグラフト鎖34を形成する。本発明ではその化合物33としてホウ素を吸着する化合物を使用する。放射線グラフト重合についての詳細はIsotope News 2016年 3月号 NO.743に記載されている。以下、放射線グラフト重合について詳細を説明する。
【0043】
放射線グラフト重合法において用いることのできる放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線などを挙げることができる。
【0044】
γ線は、線量率が10kGy/h程度であるため、放射線グラフト重合に利用するには数時間の照射を行う必要があり、後段のグラフト重合部との連続化には適していないと共に、特別な管理が必要であり、放射線管理区域内で使用することが義務づけられているので適用が制限される。
【0045】
これに対して、電子線は、10kGy/sec程度の線量率のため、放射線グラフト重合には5~30秒程度の照射でよく、更に放射線遮蔽が容易であるので、容易に利用することができる。よって、本発明において用いるのには電子線が適している。
【0046】
放射線グラフト重合法には、モノマーと基材との接触方法により、モノマー溶液に基材を浸漬させたまま重合を行う液相グラフト重合法、モノマーの蒸気に基材を接触させて重合を行う気相グラフト重合法、基材をモノマー溶液に浸漬した後、モノマー溶液から取り出して気相中で反応を行わせる含浸気相グラフト重合法が挙げられるが、いずれの方法も本発明において用いることができる。
【0047】
上述したように、織布/不織布などの繊維材料は本発明方法において有機高分子複合基材として用いるのに適した形態であるが、これはモノマー溶液を保持し易いので、含浸気相グラフト重合法において用いるのに適している。
【0048】
本発明において、放射線グラフト重合法として液相グラフト重合を用いる場合には、有機高分子複合基材に不活性雰囲気中で放射線照射と、不活性雰囲気中で照射済みの基材をグラフトモノマー液中に配置してグラフト重合反応を行わせるグラフト重合との間に、照射済みの基材をラジカル消去剤に接触させるか及び/又は加温するラジカル調整工程を設ければよい。
【0049】
ここで、ラジカル消去剤への接触は、例えば、照射済みの基材を、不活性ガス雰囲気に空気を導入した雰囲気又は空気雰囲気に曝露することによって行うことができる。
【0050】
また、本発明において、放射線グラフト重合法として含浸気相グラフト重合を用いる場合には、有機高分子基材に不活性雰囲気中で放射線を照射し、不活性ガス雰囲気中に空気を導入した雰囲気又は空気雰囲気中で加温しながら照射済みの基材に所定量のグラフトモノマー液を含浸させ、グラフトモノマー液を含浸させた基材を不活性雰囲気中でグラフト重合反応させることができる。
【0051】
特に、含浸気相グラフト重合を用いる場合には、モノマー含浸槽において、前段の放射線照射を行った不活性ガス雰囲気に空気を吹き込み、この雰囲気中でモノマー含浸槽内に基材を浸漬させるだけでよい。
【0052】
更に、この際にモノマー含浸槽での雰囲気中の酸素濃度が低いと、基材の高分子からモノマー液中にラジカルが移動し、これがモノマー同士の重合を促進するため、長尺材料のグラフト重合開始時点と終了時点でモノマー液の粘度が変化して、モノマー液の付与量が制御しづらくなる。
【0053】
一方、モノマー含浸槽での雰囲気中に十分な酸素が存在すると、モノマー浸漬槽内でのモノマーの重合、即ち、ホモポリマーの生成を抑えることができるので、好ましい。
【0054】
本発明においては、放射線グラフト重合法として、放射線照射工程とグラフト重合工程を分離する所謂前照射グラフト重合法を採用する。本発明方法においては、放射線照射工程において、放射線と空気との反応による窒素酸化物(NO等)の発生を抑制すること、及び発生するラジカル種をアルキルラジカル種に維持するために、雰囲気中の酸素濃度を1000ppm以下に維持することが好ましい。放射線照射工程においてこの濃度以上の酸素が存在すると、得られるグラフト重合物の化学的安定性の点で問題が生じる場合がある。
【0055】
また、グラフト重合工程においても、雰囲気中の酸素濃度は重要なファクターであり、酸素濃度が高い雰囲気中では、グラフト鎖の成長鎖末端に移動したラジカルが酸素と反応して消失しやすくなり、十分なグラフト率が得られなくなる。よって、グラフト重合工程においても、酸素濃度を1000ppm以下、より好ましくは100ppm以下にすることが好ましい。
【0056】
酸素濃度を調整するには、放射線照射工程、ラジカル調整工程又は空気曝露工程、グラフト重合工程を、それぞれ装置上で分離し、放射線照射工程及びグラフト重合工程では、窒素や希ガス等の不活性ガスによるパージを行うか、或いは低気圧雰囲気にすれば、上述の酸素濃度1000ppm以下を達成することができる。本発明においては、このような雰囲気を「不活性雰囲気」と言う。
【0057】
本発明によって基材にグラフト重合することのできるグラフトモノマーとしては、放射線グラフト重合法において通常用いられている任意のモノマーを用いることができる。
例えば、イオン交換基や親水基などの官能基を有する重合性モノマーをグラフトモノマーとして用いて本発明の放射線グラフト重合を行うことにより、有機高分子複合基材の主鎖上に、これらの官能基を有するグラフト重合体側鎖を有する有機高分子材料を形成することができる。
【0058】
この目的で用いることのできるグラフトモノマーとしては、本発明の場合、例えば、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基及びエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を好ましく使用することができる。エチレン性不飽和二重結合は上記の基材となる布の繊維と反応して結合し、エポキシ基は、次の反応で用いられるホウ素吸着のための化合物、例えば、N-メチル-D-グルカミンと反応して結合する。これにより、N-メチル-D-グルカミンが布に固定されたグルカミン固定化布が形成される。このように形成されたグルカミン固定化布が巻かれて形成された円筒状カートリッジフィルタは、従来使用されていた粒子形態のホウ素吸着剤等と比較して、ホウ素吸着性能に優れている。
【0059】
次に、ホウ素を含む排水の処理において、本発明のホウ素吸着カートリッジフィルタを使用してホウ素処理行うタイミングについて説明する。図4は、被処理水の処理順序の一例を示すフローである。
【0060】
図4(a)のフローでは、まず調整槽に貯留された被処理水を、生物処理、凝集沈殿処理及びろ過処理の順で処理した後、ろ過処理水を本発明のホウ素除去処理に供する。ホウ素が除去された処理水は、必要に応じて消毒処理を経て、放流される。ホウ素除去処理以外の処理、すなわち、生物処理、凝集沈殿処理及びろ過処理は、従来から行われている方法で行うことができ、特に限定されない。
【0061】
図4(b)のフローでは、図4(a)のフローのろ過処理とホウ素除去処理との間に活性炭処理を行う例を示している。活性炭処理は従来から行われている方法で行うことができ、特に限定されない。
【0062】
図4(c)のフローでは、図4(b)のフローの生物処理と凝集沈殿処理との間に更に凝集沈殿処理(第1凝集沈殿処理)を行う例を示している。第1凝集沈殿処理は従来から行われている方法で行うことができ、特に限定されない。
【0063】
図4(d)のフローでは、図4(c)のフローの活性炭処理とホウ素除去処理との間に更に脱塩処理を行う例を示している。脱塩処理は従来から行われている方法で行うことができ、特に限定されない。
【0064】
上述した処理フローは例示であり、説明した処理の1つ以上が存在しなくてもよいし、更に別の1つ以上の処理を加えてもよい。
【0065】
以上説明した本発明によれば、ホウ素含有する排水を処理する場合において、上記のホウ素吸着カートリッジフィルタを使用することにより、従来よりもホウ素吸着能が向上し、低コストで効率よく排水中のホウ素を低減又は除去することが可能である。
【実施例
【0066】
1.本発明のグルカミン固定化不織布の作製
通常の方法に従って、不織布(ポリプロピレン)に電子線を照射し、メタクリル酸グリシジルを反応させてグラフト重合させた後、N-メチル-D-グルカミンと反応させることによりグルカミン固定化布を得た。比較用としてホウ素吸着用キレート樹脂(ミヨシ油脂株式会社製製)を使用した。
【0067】
2.総吸着量及び通水吸着量の測定
上記で作製したグルカミン固定化不織布及び比較用として市販のキレート樹脂ミヨシ油脂株式会社製にホウ素を含む被処理水を通し、総吸着量及び通水吸着量を測定した。総吸着量はシート状不織布またはキレート樹脂が本来有するホウ素吸着量の性能を有し、ホウ素を含む被処理水を実際に通水した場合のホウ素吸着量である。総吸着量及び通水吸着量は、ICP(発光分光分析法)によって測定した。
【0068】
3.結果
本発明のグルカミン固定化不織布の総吸着量は7.326g-B/mであり、通水吸着量は3.22g-B/mであり、吸着剤使用率(通水吸着量/総吸着量)は44%であった一方で、キレート樹脂の総吸着量は9.36g-B/mであり、通水吸着量は3.28g-B/mであり、吸着剤使用率は35%であった。したがって、本発明に使用されるグルカミン固定化不織布は、従来のキレート樹脂を使用したホウ素処理と比較して、効率よくホウ素吸着処理を行うことができることが認められた。
【符号の説明】
【0069】
10 ホウ素吸着カートリッジフィルタ
12-1、12-2 円筒状カートリッジフィルタ
14 カートリッジ収納容器
16 集水管(有孔管、無孔管)
18-1、18-2 被処理水供給管
20 グルカミン固定化布
図1
図2
図3
図4