(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】大腸癌発症可能性の判定方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/26 20060101AFI20220627BHJP
A61B 10/02 20060101ALI20220627BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220627BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20220627BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20220627BHJP
【FI】
C12M1/26
A61B10/02 500
G01N33/50 P
C12N15/11 Z
C12Q1/686 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2018526453
(86)(22)【出願日】2017-07-07
(86)【国際出願番号】 JP2017024956
(87)【国際公開番号】W WO2018008740
(87)【国際公開日】2018-01-11
【審査請求日】2020-07-06
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/070330
(32)【優先日】2016-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017007725
(32)【優先日】2017-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510058069
【氏名又は名称】有限会社ハヌマット
(73)【特許権者】
【識別番号】513001606
【氏名又は名称】EAファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100106574
【氏名又は名称】岩橋 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】楠 正人
(72)【発明者】
【氏名】問山 裕二
(72)【発明者】
【氏名】田中 光司
(72)【発明者】
【氏名】荒木 俊光
(72)【発明者】
【氏名】三井 彰
(72)【発明者】
【氏名】竹鼻 健司
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 努
【審査官】原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-235799(JP,A)
【文献】国際公開第2015/153283(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/026768(WO,A1)
【文献】特開2015-006164(JP,A)
【文献】特開2014-140377(JP,A)
【文献】Codmanマイクロピンセット,医療機器添付文書[オンライン],2009年06月19日,届出番号: 13B1X00204MC009, [検索日 2017.08.04], インターネット: <URL: https://www.pmda.go.jp/PmdaSea
【文献】CHEN, Wei,Screening for differentially methylated genes among human colorectal cancer tissues and normal mucos,Mol. Biol. Rep.,2013年,Vol.40,pp.3457-3464
【文献】KIBRIYA, MG. et al.,A genome-wide DNA methylation study in colorectal carcinoma,BMC Medical Genomics, 2011, 4:50, p.1-16,Abstract,DOI: 10.1186/1755-8794-4-50
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N
C12Q
A61B
G01N
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/CAplus(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取具と、採取補助具とを備える大腸粘膜採取用キットであり、
前記採取具は、
一方の端部に大腸粘膜を挟持する第1の挟持面が形成されている板状の第1の挟持片と、
一方の端部に大腸粘膜を挟持する第2の挟持面が形成されている板状の第2の挟持片と、
前記第1の挟持片と前記第2の挟持片を、互いに対向した状態で、前記第1の挟持面及び前記第2の挟持面が形成されていない端部において連結する連結部と、
を有し、
前記第1の挟持片は、中心部よりも前記第1の挟持面が形成されている端部側に、一回屈曲する第1の屈曲部を有し、
前記第2の挟持片は、中心部よりも前記第2の挟持面が形成されている端部側に、一回屈曲する第2の屈曲部を有し、
前記屈曲の角度は、前記挟持片の中心部から前記連結部を載せた仮想平面に対して25~35°であり、
前記第1の挟持面及び前記第2の挟持面の
両方がカップ形状であり、
前記第1の挟持面の辺縁部と前記第2の挟持面の辺縁部の内径が、1~5mmであり、
前記第1の挟持片と前記第2の挟持片の長さが、50~250mmであり、
前記第1の屈曲部から前記第1の挟持面の先端部までの長さ、及び前記第2の屈曲部から前記第2の挟持面の先端部までの長さが、30~50mmであり、
前記第1の挟持片と前記第2の挟持片のいずれか一方の内側に突起部を、他方に筒部を有しており、前記突起部と前記筒部は、前記屈曲部近傍に、互いに対向して嵌合するように設けられており、
前記採取補助具は、
回転軸方向に貫通孔を有し、かつ側壁にスリットを有する円錐台形状の採取具導入部と、
棒状の把持部と、
を有し、
前記スリットは、前記採取具導入部の外径が小さい
先端辺縁部から外径が大きい
手元辺縁部に向かって
、前記側壁の回転軸方向の一部分に設けられており、
前記スリットの幅が、前記第1の挟持
面と前記第2の挟持
面が接した状態における幅よりも広く、
かつ前記先端辺縁部において7~15mmであり、
前記把持部の一端が、前記採取具導入部の
前記手元辺縁部近傍
のうちの前記スリットと円周方向において近い側に連結しており、
前記手元辺縁部の外径が30~70mmであり、
前記採取具導入部の回転軸方向の長さが50~150mmである、大腸粘膜採取用キット。
【請求項2】
前記カップ形状の辺縁部の内径が2~3mmである、請求項1
に記載の大腸粘膜採取用キット。
【請求項3】
一方の端部に大腸粘膜を挟持する第1の挟持面が形成されている板状の第1の挟持片と、
一方の端部に大腸粘膜を挟持する第2の挟持面が形成されている板状の第2の挟持片と、
前記第1の挟持片と前記第2の挟持片を、互いに対向した状態で、前記第1の挟持面及び前記第2の挟持面が形成されていない端部において連結する連結部と、
を有し、
前記第1の挟持片は、中心部よりも前記第1の挟持面が形成されている端部側に、一回屈曲する第1の屈曲部を有し、
前記第2の挟持片は、中心部よりも前記第2の挟持面が形成されている端部側に、一回屈曲する第2の屈曲部を有し、
前記屈曲の角度は、前記挟持片の中心部から前記連結部を載せた仮想平面に対して25~35°であり、
前記第1の挟持面及び前記第2の挟持面の
両方がカップ形状であり、
前記第1の挟持面の辺縁部と前記第2の挟持面の辺縁部の内径が、1~5mmであり、
前記第1の挟持片と前記第2の挟持片の長さが、50~250mmであり、
前記第1の屈曲部から前記第1の挟持面の先端部までの長さ、及び前記第2の屈曲部から前記第2の挟持面の先端部までの長さが、30~50mmであり、
前記第1の挟持片と前記第2の挟持片のいずれか一方の内側に突起部を、他方に筒部を有しており、前記突起部と前記筒部は、前記屈曲部近傍に、互いに対向して嵌合するように設けられており、
請求項1又は2に記載の大腸粘膜採取
用キットに用いられる、採取具。
【請求項4】
回転軸方向に貫通孔を有し、かつ側壁にスリットを有する円錐台形状の採取具導入部と、
棒状の把持部と、
を有し、
前記スリットは、前記採取具導入部の外径が小さい
先端辺縁部
の端部から
前記手元辺縁部に向かって
、前記側壁の回転軸方向の一部分に設けられており、
前記スリットの幅が、前記先端辺縁部において7~15mmであり、
前記把持部の一端が、前記採取具導入部の
前記手元辺縁部近傍
のうちの前記スリットと円周方向において近い側に連結しており、
前記手元辺縁部の外径が30~70mmであり、
前記採取具導入部の回転軸方向の長さが50~150mmである、
請求項1又は2に記載の大腸粘膜採取
用キットに用いられる、採取補助具。
【請求項5】
前記スリットの前記
手元辺縁部側の幅が10~20mmである、請求項
4に記載の採取補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の可能性を判定する方法、及び当該方法に供される直腸粘膜検体を採取するためのキットに関する。
本願は、2016年7月8日に出願されたPCT/JP2016/70330および2017年1月19日に日本に出願された特願2017-007725号に基づく優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
潰瘍性大腸炎は、主に大腸粘膜に潰瘍やびらんができる、原因不明の炎症性腸疾患である。完治は非常に困難であり、緩解・再燃を繰り返す。症状としては、下痢や腹痛、粘血便等の大腸の局所症状や、発熱、嘔吐、頻脈、貧血などの全身症状がある。潰瘍性大腸炎患者では大腸癌を発症しやすい。このため、潰瘍性大腸炎患者では、大腸癌の早期発見及び治療が重要である。
【0003】
一般的に大腸癌の早期発見のための検査は、通常、内視鏡検査により行われる。しかしながら、早期の大腸癌を視認により検出することは、手技者の技量によるところが大きく、一般的に困難である。特に潰瘍性大腸炎患者では、元々腸粘膜の炎症が酷いため、早期大腸癌の検出は非常に難しい。また、内視鏡検査は侵襲性が高く、患者の負担も大きいという問題もある。
【0004】
一方で、特許文献1には、潰瘍性大腸炎患者において、腫瘍性組織におけるmiR-1、miR-9、miR-124、miR-137、及びmiR-34b/cの5種のmiRNA遺伝子のメチル化率は、非腫瘍性潰瘍性大腸炎組織に比べて有意に高いこと、よって、非癌部である結腸粘膜から採取された生体試料中の前記5種のmiRNA遺伝子のメチル化率は、潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症のマーカーとし得ることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の可能性を、内視鏡検査よりも侵襲性が低く、より患者の負担が小さい方法で判定する方法、及び当該方法に供される直腸粘膜検体を採取するためのキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、潰瘍性大腸炎患者のゲノムDNA中のCpGサイト(シトシン-ホスホジエステル結合-グアニン)のメチル化率を網羅的に調べたところ、大腸癌を発症した患者と大腸癌を発症していない患者においてメチル化率に顕著な差がある、80種のCpGサイトを見出し、また、別に112のメチル化可変領域(differentially methylated region、「DMR」ということがある。)を見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[34]の大腸癌発症可能性の判定方法、DNAメチル化率分析用マーカー、及び大腸粘膜採取用キットを提供する。
[1]ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症可能性を判定する方法であって、
ヒト潰瘍性大腸炎患者から採取された生体試料から回収されたDNA中の、表1~4に記載のメチル化可変領域番号1~112で表される各メチル化可変領域中に存在する1個以上のCpGサイトのメチル化率を測定する測定工程と、
前記測定工程において測定されたメチル化率に基づいて算出されたメチル化可変領域の平均メチル化率と、予め設定された基準値又は予め設定された多変量判別式に基づいて、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の可能性を判定する判定工程
を有し、
前記メチル化可変領域の平均メチル化率が、当該メチル化可変領域中のCpGサイトのうち、前記測定工程においてメチル化率が測定された全てのCpGサイトのメチル化率の平均値であり、
前記基準値が、各メチル化可変領域の平均メチル化率に対してそれぞれ設定された、発癌潰瘍性大腸炎患者と非癌潰瘍性大腸炎患者を識別するための値であり、
前記多変量判別式が、前記メチル化可変領域番号1~112で表されるメチル化可変領域のうちの1か所以上のメチル化可変領域の平均メチル化率を変数として含む、
大腸癌発症可能性の判定方法。
【0009】
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
[2] 前記判定工程において、メチル化可変領域番号1、3~20、23~28、31~46、49~60、62、65~69、71、73、74、79、81、82、84、86、87、90~92、95、101、103、109、110、及び112で表されるメチル化可変領域のうち1か所以上が、平均メチル化率が予め設定された基準値以下である、又は、メチル化可変領域番号2、21、22、29、30、47、48、61,63、64、70、72、75~78、80、83、85、88、89、93、94、96~100、102、104~108、及び111で表されるメチル化可変領域のうち1か所以上が、平均メチル化率が予め設定された基準値以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[1]の大腸癌発症可能性の判定方法。
[3] 前記測定工程において、前記多変量判別式がその平均メチル化率を変数として含むメチル化可変領域中に存在する1個以上のCpGサイトのメチル化率を測定し、
前記判定工程において、前記測定工程において測定されたメチル化率に基づいて算出されたメチル化可変領域の平均メチル化率と前記多変量判別式に基づいて当該多変量判別式の値である判別値を算出し、当該判別値が予め設定された基準判別値以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[1]の大腸癌発症可能性の判定方法。
[4] 前記多変量判別式が、メチル化可変領域番号1~112で表されるメチル化可変領域から選択される2か所以上のメチル化可変領域の平均メチル化率を変数として含む、前記[3]の大腸癌発症可能性の判定方法。
[5] 前記多変量判別式が、メチル化可変領域番号1~112で表されるメチル化可変領域から選択される3か所以上のメチル化可変領域の平均メチル化率を変数として含む、前記[3]の大腸癌発症可能性の判定方法。
[6] 前記多変量判別式が、メチル化可変領域番号1~58で表されるメチル化可変領域からなる群より選択される1か所以上のメチル化可変領域の平均メチル化率を変数として含む、前記[3]の大腸癌発症可能性の判定方法。
[7] 前記多変量判別式が、メチル化可変領域番号1~11で表されるメチル化可変領域からなる群より選択される1か所以上のメチル化可変領域の平均メチル化率を変数として含む、前記[3]の大腸癌発症可能性の判定方法。
【0014】
[8] ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症可能性を判定する方法であって、
ヒト潰瘍性大腸炎患者から採取された生体試料から回収されたDNA中の、配列番号1~80で表される塩基配列中のCpGサイトからなる群より選択される1か所以上のCpGサイトのメチル化率を測定する測定工程と、
前記測定工程において測定されたメチル化率と、予め設定された基準値又は予め設定された多変量判別式に基づいて、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の可能性を判定する判定工程
を有し、
前記基準値が、各CpGサイトのメチル化率に対してそれぞれ設定された、発癌潰瘍性大腸炎患者と非癌潰瘍性大腸炎患者を識別するための値であり、
前記多変量判別式が、前記配列番号1~80で表される塩基配列中のCpGサイトのうち少なくとも1か所のCpGサイトのメチル化率を変数として含む、
大腸癌発症可能性の判定方法。
[9]前記測定工程において、2~10個のCpGサイトのメチル化率を測定する、前記[8]の大腸癌発症可能性の判定方法。
[10] 前記判定工程において、配列番号1、2、11、12、14~18、21~24、26、27、29、31、45、64、65、67、77、79、及び80で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以下である、又は、配列番号3~10、13、19、20、25、28、30、32~44、46~63、66、68~76、及び78で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[8]又は[9]の大腸癌発症可能性の判定方法。
[11] 前記測定工程において、配列番号1~32で表される塩基配列中のCpGサイトのメチル化率を測定し、
前記判定工程において、配列番号1、2、11、12、14~18、21~24、26、27、29、及び31で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以下である、又は、配列番号3~10、13、19、20、25、28、30、及び32で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[8]~[10]のいずれかの大腸癌発症可能性の判定方法。
[12] 前記判定工程において、配列番号1、2、11、12、14~18、21~24、26、27、29、及び31で表される塩基配列中のCpGサイトのうち、メチル化率が予め設定された基準値以下であるCpGサイトの数と、配列番号3~10、13、19、20、25、28、30、及び32で表される塩基配列中のCpGサイトのうちメチル化率が予め設定された基準値以上であるCpGサイトの数との和が3以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[8]~[11]のいずれかの大腸癌発症可能性の判定方法。
[13] 前記測定工程において、配列番号1~16で表される塩基配列中のCpGサイトのメチル化率を測定し、
前記判定工程において、配列番号1、2、11、12、14~16で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以下である、又は、配列番号3~10、13で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[8]~[10]のいずれかの大腸癌発症可能性の判定方法。
[14] 前記判定工程において、配列番号1、2、11、12、14~16で表される塩基配列中のCpGサイトのうち、メチル化率が予め設定された基準値以下であるCpGサイトの数と、配列番号3~10、13で表される塩基配列中のCpGサイトのうちメチル化率が予め設定された基準値以上であるCpGサイトの数との和が3以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[8]~[10]及び[13]のいずれかの大腸癌発症可能性の判定方法。
[15] 前記測定工程において、配列番号1~9で表される塩基配列中のCpGサイトのメチル化率を測定し、
前記判定工程において、配列番号1及び2で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以下である、又は、配列番号3~9で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[8]~[10]のいずれかの大腸癌発症可能性の判定方法。
[16] 前記判定工程において、配列番号1及び2で表される塩基配列中のCpGサイトのうち、メチル化率が予め設定された基準値以下であるCpGサイトの数と、配列番号3~9で表される塩基配列中のCpGサイトのうちメチル化率が予め設定された基準値以上であるCpGサイトの数との和が3以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[8]~[10]及び[15]のいずれかの大腸癌発症可能性の判定方法。
[17] 前記測定工程において、配列番号33~66で表される塩基配列中のCpGサイトからなる群より選択される1か所以上のCpGサイトのメチル化率を測定し、
前記判定工程において、配列番号45、64、及び65で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以下である、又は、配列番号33~44、46~63、及び66で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[8]~[10]のいずれかの大腸癌発症可能性の判定方法。
[18] 前記判定工程において、配列番号45、64、及び65で表される塩基配列中のCpGサイトのうち、メチル化率が予め設定された基準値以下であるCpGサイトの数と、配列番号33~44、46~63、及び66で表される塩基配列中のCpGサイトのうちメチル化率が予め設定された基準値以上であるCpGサイトの数との和が2以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[8]~[10]及び[17]のいずれかの大腸癌発症可能性の判定方法。
[19] 前記測定工程において、配列番号33、35、36、43、67~80で表される塩基配列中のCpGサイトからなる群より選択される1か所以上のCpGサイトのメチル化率を測定し、
前記判定工程において、配列番号67、77、79、及び80で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以下である、又は、配列番号33、35、36、43、68~76、及び78で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[8]~[10]のいずれかの大腸癌発症可能性の判定方法。
[20] 前記判定工程において、配列番号67、77、79、及び80で表される塩基配列中のCpGサイトのうち、メチル化率が予め設定された基準値以下であるCpGサイトの数と、配列番号33、35、36、43、68~76、及び78で表される塩基配列中のCpGサイトのうちメチル化率が予め設定された基準値以上であるCpGサイトの数との和が2以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[8]~[10]及び[19]のいずれかの大腸癌発症可能性の判定方法。
[21] 前記和が5以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[12]、[14]、[16]、[18]、又は[20]の大腸癌発症可能性の判定方法。
[22] 前記多変量判別式が、配列番号33~66で表される塩基配列中のCpGサイトからなる群より選択される1か所以上のCpGサイトのメチル化率を変数として含み、 前記測定工程において、前記多変量判別式がそのメチル化率を変数として含むCpGサイトのメチル化率を測定し、
前記判定工程において、前記測定工程において測定されたメチル化率と前記多変量判別式に基づいて当該多変量判別式の値である判別値を算出し、当該判別値が予め設定された基準判別値以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[8]又は[9]の大腸癌発症可能性の判定方法。
[23] 前記多変量判別式が、配列番号33、35、36、43、67~80で表される塩基配列中のCpGサイトからなる群より選択される1か所以上のCpGサイトのメチル化率を変数として含み、
前記測定工程において、前記多変量判別式がそのメチル化率を変数として含むCpGサイトのメチル化率を測定し、
前記判定工程において、前記測定工程において測定されたメチル化率と前記多変量判別式に基づいて当該多変量判別式の値である判別値を算出し、当該判別値が予め設定された基準判別値以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する、前記[8]又は[9]の大腸癌発症可能性の判定方法。
[24] 前記多変量判別式が、ロジスティック回帰式、線形判別式、ナイーブベイズ分類器で作成された式、又はサポートベクターマシンで作成された式である、前記[1]~[23]のいずれかの大腸癌発症可能性の判定方法。
[25] 前記生体試料が、腸管組織である、前記[1]~[24]のいずれかの大腸癌発症可能性の判定方法。
[26] 前記生体試料が、直腸粘膜組織である、前記[1]~[25]のいずれかの大腸癌発症可能性の判定方法。
【0015】
[27] 前記直腸粘膜組織が、
採取具と、採取補助具とを備え、
前記採取具は、
一方の端部に大腸粘膜を挟持する第1の挟持面が形成されている板状の第1の挟持片と、
一方の端部に大腸粘膜を挟持する第2の挟持面が形成されている板状の第2の挟持片と、
前記第1の挟持片と前記第2の挟持片を、互いに対向した状態で、前記第1の挟持面及び前記第2の挟持面が形成されていない端部において連結する連結部と、
を有し、
前記第1の挟持面及び前記第2の挟持面の少なくとも一方がカップ形状であり、
前記採取補助具は、
側壁にスリットを有する円錐台形状の採取具導入部と、
棒状の把持部と、
を有し、
前記把持部の一端が、前記採取具導入部の外径が大きい方の辺縁部近傍に連結しており、
前記スリットは、前記採取具導入部の外径が小さい方の辺縁部から外径が大きい方の辺縁部に向かって設けられており、
前記スリットの幅が、前記第1の挟持片の一方の端部と前記第2の挟持片の一方の端部の幅よりも広く、
前記採取具導入部の大きい方の外径が30~70mmであり、回転軸方向の長さが50~150mmである、大腸粘膜採取用キットによって採取されたものである、前記[26]の大腸癌発症可能性の判定方法。
[28] 前記採取具が、
前記第1の挟持片の中心部よりも前記第1の挟持面が形成されている端部側に、第1の屈曲部を有し、
前記第2の挟持片の中心部よりも前記第2の挟持面が形成されている端部側に、第2の屈曲部を有する、前記[27]の大腸癌発症可能性の判定方法。
[29] 採取具と、採取補助具とを備える大腸粘膜採取用キットであり、
前記採取具は、
一方の端部に大腸粘膜を挟持する第1の挟持面が形成されている板状の第1の挟持片と、
一方の端部に大腸粘膜を挟持する第2の挟持面が形成されている板状の第2の挟持片と、
前記第1の挟持片と前記第2の挟持片を、互いに対向した状態で、前記第1の挟持面及び前記第2の挟持面が形成されていない端部において連結する連結部と、
を有し、
前記第1の挟持面及び前記第2の挟持面の少なくとも一方がカップ形状であり、
前記採取補助具は、
側壁にスリットを有する円錐台形状の採取具導入部と、
棒状の把持部と、
を有し、
前記把持部の一端が、前記採取具導入部の外径が大きい方の辺縁部近傍に連結しており、
前記スリットは、前記採取具導入部の外径が小さい方の辺縁部から外径が大きい方の辺縁部に向かって設けられており、
前記スリットの幅が、前記第1の挟持片の一方の端部と前記第2の挟持片の一方の端部の幅よりも広く、
前記採取具導入部の大きい方の外径が30~70mmであり、回転軸方向の長さが50~150mmである、大腸粘膜採取用キット。
[30] 前記採取具が、
前記第1の挟持片の中心部よりも前記第1の挟持面が形成されている端部側に、第1の屈曲部を有し、
前記第2の挟持片の中心部よりも前記第2の挟持面が形成されている端部側に、第2の屈曲部を有する、前記[29]の大腸粘膜採取用キット。
[31] 前記第1の挟持面と前記第2の挟持面の両方がカップ形状である、前記[29]又は[30]の大腸粘膜採取用キット。
[32] 前記採取補助具が、回転軸方向に貫通孔を有し、前記採取具導入部の大きい方の外径が30~70mm、回転軸方向の長さが50~150mmであり、
前記カップ形状の辺縁部の内径が2~3mmである、前記[29]~[31]のいずれかの大腸粘膜採取用キット。
[33] 前記第1の挟持面と前記第2の挟持面の辺縁部が鋸歯状である、前記[29]~[32]のいずれかの大腸粘膜採取用キット。
[34] 配列番号1~80で表される塩基配列中のCpGサイトからなる群より選択される1か所以上のCpGサイトを含む部分塩基配列を有するDNA断片からなり、潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症可能性を判定するために用いられる、DNAメチル化率分析用マーカー。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る大腸癌発症可能性の判定方法により、潰瘍性大腸炎患者から採取された生体試料について、ゲノムDNA中の特定のCpGサイトのメチル化率又は特定のDMRの平均メチル化率を調べることによって、大腸癌発症の可能性を判定することができる。 また、本発明に係る直腸粘膜採取用キットにより、患者の肛門から比較的安全かつ簡便に直腸粘膜を採取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、採取具の一実施態様である採取具2A及びその変形例である採取具2Bの説明図である。
【
図2】
図2は、採取具2Aの変形例である採取具2Cの説明図である。
【
図3】
図3は、採取補助具11の一実施態様である採取補助具11Aの説明図である。
【
図4】
図4は、採取補助具11Aの変形例である採取補助具11Bの説明図である。
【
図5】
図5は直腸粘膜採取用キットの使用態様の説明図である。
【
図6A】
図6Aは、実施例1において、網羅的DNAメチル化解析の結果選抜された32CpGセットのCpGサイトのメチル化レベルに基づくクラスター解析の結果である。
【
図6B】
図6Bは、実施例1において、網羅的DNAメチル化解析の結果選抜された32CpGセットのCpGサイトのメチル化レベルに基づく主成分分析の結果である。
【
図6C】
図6Cは、実施例1において、網羅的DNAメチル化解析の結果選抜された16CpGセットのCpGサイトのメチル化レベルに基づくクラスター解析の結果である。
【
図6D】
図6Dは、実施例1において、網羅的DNAメチル化解析の結果選抜された16CpGセットのCpGサイトのメチル化レベルに基づく主成分分析の結果である。
【
図6E】
図6Eは、実施例1において、網羅的DNAメチル化解析の結果選抜された9CpGセットのCpGサイトのメチル化レベルに基づくクラスター解析の結果である。
【
図6F】
図6Fは、実施例1において、網羅的DNAメチル化解析の結果選抜された9CpGセットのCpGサイトのメチル化レベルに基づく主成分分析の結果である。
【
図7A】
図7Aは、実施例1において、miR-1、miR-9、miR-124、miR-137、及びmiR-34b/cの5種のmiRNA遺伝子にあるCpGサイトのうち、DiffScoreの絶対値が30超であった27個のCpGサイトのメチル化レベルに基づくクラスター解析の結果である。
【
図7B】
図7Bは、実施例1において、miR-1、miR-9、miR-124、miR-137、及びmiR-34b/cの5種のmiRNA遺伝子にあるCpGサイトのうち、DiffScoreの絶対値が30超であった27個のCpGサイトのメチル化レベルに基づく主成分分析の結果である。
【
図8A】
図8Aは、実施例2において、網羅的DNAメチル化解析の結果選抜された34CpGセットのCpGサイトのメチル化レベルに基づくクラスター解析の結果である。
【
図8B】
図8Bは、実施例2において、網羅的DNAメチル化解析の結果選抜された34CpGセットのCpGサイトのメチル化レベルに基づく主成分分析の結果である。
【
図9】
図9は、実施例2において、配列番号34で表される塩基配列中のCpGサイト(cg10931190)、配列番号37で表される塩基配列中のCpGサイト(cg13677149)、及び配列番号56で表される塩基配列中のCpGサイト(cg14516100)の3個のCpGサイトのメチル化率をマーカーとした場合の、潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の有無の検査のROC曲線である。
【
図10A】
図10Aは、実施例3において、網羅的DNAメチル化解析の結果選抜された18CpGセットのCpGサイトのメチル化レベルに基づくクラスター解析の結果である。
【
図10B】
図10Bは、実施例3において、網羅的DNAメチル化解析の結果選抜された18CpGセットのCpGサイトのメチル化レベルに基づく主成分分析の結果である。
【
図11】
図11は、実施例4において、網羅的DNAメチル化解析の結果選抜されたDMR112か所(112DMRセット)のメチル化率に基づくクラスター解析の結果である。
【
図12】
図12は、実施例4において、網羅的DNAメチル化解析の結果選抜された112DMRセットのメチル化率に基づく主成分分析の結果である。
【
図13】
図13は、実施例4において、DMR番号2で表されるDMR、DMR番号10で表されるDMR、及びDMR番号55で表されるDMRの3個のDMRの平均メチル化率をマーカーとした場合の、潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の有無の検査のROC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<大腸癌発症可能性の判定方法>
ゲノムDNA中のCpGサイトのシトシン塩基は、5位の炭素がメチル化修飾を受け得る。本発明及び本願明細書において、CpGサイトのメチル化率とは、一の生物個体から採取された生体試料中のCpGサイトのうち、メチル化されているシトシン塩基(メチル化シトシン)量とメチル化されていないシトシン塩基(非メチル化シトシン)量とを測定し、両者の和に対するメチル化シトシン量の割合(%)を意味する。また、本発明及び本願明細書において、DMRの平均メチル化率とは、DMRに存在する複数のCpGサイトのメチル化率の相加平均値(算術平均値)又は相乗平均値(幾何平均値)を意味するが、これ以外の平均値でもよい。
【0019】
本発明に係る大腸癌発症可能性の判定方法(以下、「本発明に係る判定方法」ということがある。)は、ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症可能性を判定する方法であって、ゲノムDNA中のCpGサイト又はDMRのうち、メチル化率が、大腸癌を発症していない潰瘍性大腸炎患者(非癌潰瘍性大腸炎患者)群と大腸癌を発症した潰瘍性大腸炎患者(発癌潰瘍性大腸炎患者)群とで差があるものをマーカーとすることを特徴とする。これらのマーカーとなるCpGサイトのメチル化率又はDMRの平均メチル化率を指標として、ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性の高低を判定する。特定のCpGサイトのメチル化率又は特定のDMRの平均メチル化率を潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症可能性を判定するために用いられるマーカーとすることにより、視認判別が非常に困難である潰瘍性大腸炎患者における早期大腸癌をより客観的かつ感度よく検出することができ、早期発見が期待できる。
【0020】
マーカーとするCpGサイトのメチル化率に基づくヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症可能性の判定は、測定されたCpGサイトのメチル化率の値自体に基づいて行ってもよく、マーカーとするCpGサイトのメチル化率を変数として含む多変量判別式を用い、この多変量判別式から求められる判別値に基づいて行ってもよい。
【0021】
マーカーとするDMRの平均メチル化率に基づくヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症可能性の判定は、DMR中の2以上のCpGサイトのメチル化率から算出されたDMRの平均メチル化率の値自体に基づいて行ってもよく、マーカーとするDMRの平均メチル化率を変数として含む多変量判別式を用い、この多変量判別式から求められる判別値に基づいて行ってもよい。
【0022】
本発明においてマーカーとされるCpGサイト及びDMRとしては、メチル化率が非癌潰瘍性大腸炎患者群と発癌潰瘍性大腸炎患者群とで大きく相違するものが好ましい。両群の差が大きいほど、大腸癌の発症の有無をより確実に検出することができる。本発明においてマーカーとされるCpGサイト及びDMRは、発癌潰瘍性大腸炎患者のメチル化率が非癌潰瘍性大腸炎患者よりも有意に高い、すなわち、大腸癌の発症によりメチル化率が高くなるものであってもよく、発癌潰瘍性大腸炎患者のメチル化率が非癌潰瘍性大腸炎患者よりも有意に低い、すなわち、大腸癌の発症によりメチル化率が低くなるものであってもよい。
【0023】
本発明においてマーカーとされるCpGサイト及びDMRとしては、同一の発癌潰瘍性大腸炎患者において、大腸の非癌部位と癌部位とのメチル化率の差が小さいものがより好ましい。このようなCpGサイトのメチル化率又はDMRの平均メチル化率を指標とすることにより、発癌潰瘍性大腸炎患者の非癌部位から採取された生体試料が用いられた場合であっても、癌部位から採取された生体試料を用いた場合と同様に、高感度に大腸癌の発症の有無を判定することができる。例えば、大腸深部の粘膜は内視鏡等を用いて採取する必要があり、患者の負担が大きいが、肛門付近の直腸粘膜は比較的容易に採取できる。大腸の非癌部位と癌部位とのメチル化率の差が小さいCpGサイト又はDMRをマーカーとすることにより、癌部位が形成される位置にかかわらず、肛門付近の直腸粘膜を生体試料として大腸癌を発症した患者を漏れなく検出することができる。
【0024】
本発明に係る判定方法のうち、測定されたCpGサイトのメチル化率の値自体に基づいて判定を行う方法は、具体的には、ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症可能性を判定する方法であって、ヒト潰瘍性大腸炎患者から採取された生体試料から回収されたDNA中の、本発明においてマーカーとする特定の複数のCpGサイトのメチル化率を測定する測定工程と、前記測定工程において測定されたメチル化率と、各CpGサイトに対して予めそれぞれ設定された基準値に基づいて、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の可能性を判定する判定工程を有する。
【0025】
本発明においてマーカーとされるCpGサイトは、具体的には、配列番号1~80で表される塩基配列中のCpGサイトからなる群より選択される1か所以上のCpGサイトである。各塩基配列を表5~12に示す。表の塩基配列中、括弧内のCGは、実施例1~3で示す網羅的DNAメチル化解析で検出されるCpGサイトである。これらのCpGサイトを含む塩基配列を有するDNA断片は、潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症可能性を判定するためのDNAメチル化率分析用マーカーとして用いることができる。
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
配列番号1~32で表される塩基配列中の括弧内の32個のCpGサイト(以下、まとめて「32CpGセット」ということがある。)は、後記実施例1における網羅的DNAメチル化解析において、メチル化率が非癌潰瘍性大腸炎患者群と発癌潰瘍性大腸炎患者群とで大きく相違するものである。このうち、発癌潰瘍性大腸炎患者のメチル化率が非癌潰瘍性大腸炎患者よりもかなり低いものが、配列番号1、2、11、12、14~18、21~24、26、27、29、及び31で表される塩基配列中のCpGサイトであり(表中、「-」)、発癌潰瘍性大腸炎患者のメチル化率が非癌潰瘍性大腸炎患者よりもかなり高いものが、配列番号3~10、13、19、20、25、28、30、及び32で表される塩基配列中のCpGサイトである(表中、「+」)。マーカーとされるCpGサイトは、これら32個のCpGサイトに限定されるものではなく、配列番号1~32で表される塩基配列中の他のCpGサイトも含まれる。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
配列番号33~66で表される塩基配列中の括弧内の34個のCpGサイト(以下、まとめて「34CpGセット」ということがある。)は、後記実施例2における網羅的DNAメチル化解析において、メチル化率が非癌潰瘍性大腸炎患者群と発癌潰瘍性大腸炎患者群とで大きく相違するものである。このうち、発癌潰瘍性大腸炎患者のメチル化率が非癌潰瘍性大腸炎患者よりもかなり低いものが、配列番号45、64、及び65で表される塩基配列中のCpGサイトであり(表中、「-」)、発癌潰瘍性大腸炎患者のメチル化率が非癌潰瘍性大腸炎患者よりもかなり高いものが、配列番号33~44、46~63、及び66で表される塩基配列中のCpGサイトである(表中、「+」)。マーカーとされるCpGサイトは、これら34個のCpGサイトに限定されるものではなく、配列番号33~66で表される塩基配列中の他のCpGサイトも含まれる。
【0034】
【0035】
【0036】
配列番号33、35、36、43、67~80で表される塩基配列中の括弧内の18個のCpGサイト(以下、まとめて「18CpGセット」ということがある。)は、後記実施例3における網羅的DNAメチル化解析において、メチル化率が非癌潰瘍性大腸炎患者群と発癌潰瘍性大腸炎患者群とで大きく相違するものである。このうち、発癌潰瘍性大腸炎患者のメチル化率が非癌潰瘍性大腸炎患者よりもかなり低いものが、配列番号67、77、79、及び80で表される塩基配列中のCpGサイトであり(表中、「-」)、発癌潰瘍性大腸炎患者のメチル化率が非癌潰瘍性大腸炎患者よりもかなり高いものが、配列番号33、35、36、43、68~76、及び78で表される塩基配列中のCpGサイトである(表中、「+」)。マーカーとされるCpGサイトは、これら18個のCpGサイトに限定されるものではなく、配列番号33、35、36、43、67~80で表される塩基配列中の他のCpGサイトも含まれる。
【0037】
各CpGサイトについては、予め、発癌潰瘍性大腸炎患者と非癌潰瘍性大腸炎患者を識別するための基準値を設定しておく。32CpGセットのうち表5~7で「+」と記されているCpGサイトと34CpGセット及び18CpGセットのうち表8~12で「+」と記されているCpGサイトとの場合には、測定されたメチル化率が予め設定された基準値以上である場合に、ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高い、と判定する。32CpGセットのうち表5~7で「-」と記されているCpGサイトと34CpGセット及び18CpGセットのうち表8~12で「-」と記されているCpGサイトとの場合には、測定されたメチル化率が予め設定された基準値以下である場合に、ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高い、と判定する。
【0038】
各CpGサイトの基準値は、発癌潰瘍性大腸炎患者群と非癌潰瘍性大腸炎患者群の当該CpGサイトのメチル化率を測定し、両群を区別することができる閾値として実験的に求めることができる。具体的には、任意のCpGサイトのメチル化の基準値は、一般的な統計学的手法によって求められる。下記にその例を示すが、本発明における基準値の決め方はこれらに限定されるものではない。
【0039】
基準値の求め方の一例としては、例えば、まず、任意のCpGサイトについて、潰瘍性大腸炎患者のうち内視鏡検査での生検組織による病理検査により大腸癌と診断されなかった患者(非癌潰瘍性大腸炎患者)の直腸粘膜のDNAメチル化を測定する。複数の患者について測定した後に、その平均値又は中央値などによりこれらの患者群のメチル化を代表する数値を算出し、これを基準値とすることができる。
【0040】
その他、複数の非癌潰瘍性大腸炎患者と複数の発癌潰瘍性大腸炎患者に対して、それぞれ直腸粘膜のDNAメチル化を測定し、平均値又は中央値などにより発癌潰瘍性大腸炎患者群と非癌潰瘍性大腸炎患者群のメチル化を代表する数値とばらつきをそれぞれ算出した後、ばらつきも考慮して両数値が区別されるような閾値を求め、これを基準値とすることができる。
【0041】
本発明においてマーカーとされるCpGサイトとしては、配列番号1~16で表される塩基配列中のCpGサイトのみを用いてもよい。これらの16個のCpGサイト(以下、まとめて「16CpGセット」ということがある。)は、32CpGセットのうち、発癌潰瘍性大腸炎患者の大腸の非癌部位と癌部位とのメチル化率の差が小さいものである。本発明においてマーカーとされるCpGサイトとしては、配列番号1~9で表される塩基配列中のCpGサイトのみを用いることも好ましい。これらの9個のCpGサイト(以下、まとめて「9CpGセット」ということがある。)は、16CpGセットのうち、発癌潰瘍性大腸炎患者の大腸の非癌部位と癌部位とのメチル化率の差がより小さいものである。
【0042】
前記判定工程においては、配列番号1、2、11、12、14~18、21~24、26、27、29、31、45、64、65、67、77、79、及び80で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以下である、又は、配列番号3~10、13、19、20、25、28、30、32~44、46~63、66、68~76、及び78で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する。本発明に係る判定方法においては、配列番号1、2、11、12、14~18、21~24、26、27、29、31、45、64、65、67、77、79、及び80で表される塩基配列中のCpGサイトのうち、メチル化率が予め設定された基準値以下であるCpGサイトの数と、配列番号3~10、13、19、20、25、28、30、32~44、46~63、66、68~76、及び78で表される塩基配列中のCpGサイトのうちメチル化率が予め設定された基準値以上であるCpGサイトの数との和が2以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定することにより、より精度よく判定を行うことができる。
【0043】
前記32CpGセットを本発明においてマーカーとする場合、すなわち、前記測定工程において前記32CpGセットのメチル化率を測定する場合には、前記判定工程においては、配列番号1、2、11、12、14~18、21~24、26、27、29、及び31で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以下である、又は、配列番号3~10、13、19、20、25、28、30、及び32で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する。本発明に係る判定方法においては、配列番号1、2、11、12、14~18、21~24、26、27、29、及び31で表される塩基配列中のCpGサイトのうち、メチル化率が予め設定された基準値以下であるCpGサイトの数と、配列番号3~10、13、19、20、25、28、30、及び32で表される塩基配列中のCpGサイトのうちメチル化率が予め設定された基準値以上であるCpGサイトの数との和が3以上、好ましくは5以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定することにより、より精度よく判定を行うことができる。
【0044】
前記34CpGセットを本発明においてマーカーとする場合には、前記判定工程においては、配列番号45、64、及び65で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以下である、又は、配列番号33~44、46~63、及び66で表される塩基配列中のCpGサイトのうち少1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する。本発明に係る判定方法においては、配列番号45、64、及び65で表される塩基配列中のCpGサイトのうち、メチル化率が予め設定された基準値以下であるCpGサイトの数と、配列番号33~44、46~63、及び66で表される塩基配列中のCpGサイトのうちメチル化率が予め設定された基準値以上であるCpGサイトの数との和が2以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定することにより、より精度よく判定を行うことができる。
【0045】
前記18CpGセットを本発明においてマーカーとする場合には、前記判定工程においては、配列番号67、77、79、及び80で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以下である、又は、配列番号33、35、36、43、68~76、及び78で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上が、メチル化率が予め設定された基準値以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定する。本発明に係る判定方法においては、配列番号67、77、79、及び80で表される塩基配列中のCpGサイトのうち、メチル化率が予め設定された基準値以下であるCpGサイトの数と、配列番号33、35、36、43、68~76、及び78で表される塩基配列中のCpGサイトのうちメチル化率が予め設定された基準値以上であるCpGサイトの数との和が2以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上である場合に、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高いと判定することにより、より精度よく判定を行うことができる。
【0046】
本発明においては、配列番号1~80で表される塩基配列中のCpGサイトからなる群より選択される1か所以上のCpGサイトをマーカーとして用いることができる。本発明においてマーカーとするCpGサイトとしては、配列番号1~80で表される塩基配列中の括弧内の80個のCpGサイトの全て(以下、まとめて「80CpGセット」ということがある。)であってもよく、前記32CpGセットであってもよく、前記16CpGセットであってもよく、前記9CpGセットであってもよく、前記34CpGセットであってもよく、前記18CpGセットであってもよい。前記32CpGセットのCpGサイト、前記16CpGセットのCpGサイト、及び前記9CpGセットのCpGサイトは、いずれも、非癌潰瘍性大腸炎患者群と発癌潰瘍性大腸炎患者群のメチル化率の分散が小さく、非癌潰瘍性大腸炎患者群と発癌潰瘍性大腸炎患者群の識別能が高い点で優れている。一方で、前記34CpGセット及び前記18CpGセットは、前記32CpGセット、前記16CpGセットのCpGサイト、及び前記9CpGセットのCpGサイトに比べて特異度はやや低くなるものの、感度が非常に高く、例えば、発癌潰瘍性大腸炎の一次スクリーニング検査には非常に好適である。
【0047】
本発明に係る判定方法のうち、特定のDMRの平均メチル化率の値自体に基づいて判定を行う方法は、具体的には、ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症可能性を判定する方法であって、ヒト潰瘍性大腸炎患者から採取された生体試料から回収されたDNA中の、本発明においてマーカーとする特定のDMR中に存在する1個以上のCpGサイトのメチル化率を測定する測定工程と、前記測定工程において測定されたメチル化率に基づいて算出されたDMRの平均メチル化率と、各DMRの平均メチル化率に対して予めそれぞれ設定された基準値に基づいて、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の可能性を判定する判定工程を有する。なお、各DMRの平均メチル化率は、当該DMR中のCpGサイトのうち、前記測定工程においてメチル化率が測定された全てのCpGサイトのメチル化率の平均値として算出する。
【0048】
本発明においてマーカーとされるDMRは、具体的には、DMR番号1~112で表されるDMRからなる群より選択される1か所以上のDMRである。各DMRの染色体上の位置及び対応する遺伝子を表13~16に示す。表中のDMRの開始点と終点の塩基位置は、ヒトゲノム配列のデータセット「GRCh37/hg19」に基づく。これらのDMR中に存在するCpGサイトを含む塩基配列を有するDNA断片は、潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症可能性を判定するためのDNAメチル化率分析用マーカーとして用いることができる。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
DMR番号1~112で表されるDMR(以下、まとめて「112DMRセット」ということがある。)は、各領域中に含まれる複数のCpGサイトのメチル化率が、非癌潰瘍性大腸炎患者群と発癌潰瘍性大腸炎患者群とで大きく相違するものである。このうち、発癌潰瘍性大腸炎患者のDMRの平均メチル化率(DMR中に存在している複数のCpGサイトのメチル化率の平均値)が非癌潰瘍性大腸炎患者よりもかなり低いものが、DMR番号1、3~20、23~28、31~46、49~60、62、65~69、71、73、74、79、81、82、84、86、87、90~92、95、101、103、109、110、及び112で表されるDMRであり(表中、「-」)、発癌潰瘍性大腸炎患者のDMRの平均メチル化率が非癌潰瘍性大腸炎患者よりもかなり高いものが、DMR番号2、21、22、29、30、47、48、61,63、64、70、72、75~78、80、83、85、88、89、93、94、96~100、102、104~108、及び111で表されるDMRである(表中、「+」)。
【0054】
本発明において、DMRの平均メチル化率をマーカーとする場合には、DMR番号1~112で表されるDMRのうちの1か所をマーカーとしてもよく、DMR番号1~112で表されるDMRからなる群より選択される任意の2か所以上をマーカーとしてもよく、DMR番号1~112で表されるDMRの全てをマーカーとしてもよい。本発明においては、判定精度をより高められることから、DMR番号1~112で表されるDMRからなる群のうちマーカーとして用いるDMRは、2か所以上であることが好ましく、3か所以上であることがより好ましく、4か所以上であることがさらに好ましく、5か所以上であることがよりさらに好ましい。
【0055】
より高い判定精度が得られることから、本発明においてそのメチル化率がマーカーとして用いられるDMRは、DMR番号1~58で表されるDMR(以下、まとめて「58DMRセット」ということがある。)からなる群より選択される1か所以上であることが好ましく、58DMRセットから選択される2か所以上であることがより好ましく、58DMRセットから選択される3か所以上であることがさらに好ましく、58DMRセットから選択される4か所以上であることがよりさらに好ましく、58DMRセットから選択される5か所以上であることが特に好ましい。なかでも、DMR番号1~11で表されるDMR(以下、まとめて「11DMRセット」ということがある。)からなる群より選択される1か所以上であることが好ましく、11DMRセットから選択される2か所以上であることがより好ましく、11DMRセットから選択される3か所以上であることがさらに好ましく、11DMRセットから選択される4か所以上であることがよりさらに好ましく、11DMRセットから選択される5か所以上であることが特に好ましい。
【0056】
各DMRの平均メチル化率は、それぞれのDMR中に含まれる全てのCpGサイトのメチル化率の平均値としてもよく、それぞれのDMR中に含まれる全てのCpGサイトから少なくとも1個のCpGサイトを任意に選出し、この選出されたCpGサイトのメチル化率の平均値としてもよい。各CpGサイトのメチル化率は、配列番号1等で表される塩基配列中のCpGサイトのメチル化率の測定と同様にして測定することができる。
【0057】
各DMRの平均メチル化率については、予め、発癌潰瘍性大腸炎患者と非癌潰瘍性大腸炎患者を識別するための基準値を設定しておく。前記112DMRセットのうち表13~16で「+」と記されているDMRの場合には、測定されたDMRの平均メチル化率が予め設定された基準値以上である場合に、ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高い、と判定する。112DMRセットのうち表13~16で「-」と記されているDMRの場合には、測定されたDMRの平均メチル化率が予め設定された基準値以下である場合に、ヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性が高い、と判定する。
【0058】
各DMRの平均メチル化率の基準値は、発癌潰瘍性大腸炎患者群と非癌潰瘍性大腸炎患者群の当該DMRの平均メチル化率を測定し、両群を区別することができる閾値として実験的に求めることができる。具体的には、DMRの平均メチル化率の基準値は、一般的な統計学的手法によって求められる。
【0059】
前記80CpGセット等のCpGサイトのメチル化率をマーカーとする場合には、本発明に係る判定方法は、前記判定工程を、前記測定工程において測定されたメチル化率と、予め設定された多変量判別式に基づいて、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の可能性を判定することができる。当該多変量判別式は、前記配列番号1~80で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所以上のCpGサイトのメチル化率を変数として含む。
【0060】
前記112DMRセットからなる群より選択される1か所以上のDMRの平均メチル化率をマーカーとする場合には、本発明に係る判定方法は、前記判定工程を、前記測定工程において測定されたメチル化率に基づいて算出されたDMRの平均メチル化率と、予め設定された多変量判別式に基づいて、前記ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の可能性を判定することができる。当該多変量判別式は、前記112DMRセット中のCpGサイトのうち1か所以上のCpGサイトのメチル化率を変数として含む。
【0061】
本発明において用いられる多変量判別式は、2群を判別するために用いられる一般的な手法により求めることができる。当該多変量判別式としては、例えば、ロジスティック回帰式、線形判別式、ナイーブベイズ分類器で作成された式、又はサポートベクターマシンで作成された式が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの多変量判別式は、例えば、発癌潰瘍性大腸炎患者群と非癌潰瘍性大腸炎患者群について、前記配列番号1~80で表される塩基配列中のCpGサイトのうち1か所又は2か所以上のCpGサイトのメチル化率を測定し、得られたメチル化率を変数として、常法により作成することができる。また、発癌潰瘍性大腸炎患者群と非癌潰瘍性大腸炎患者群について、前記112DMRセット中のDMRのうち1か所又は2か所以上のDMRの平均メチル化率を測定し、得られたメチル化率を変数として、常法により作成することができる。
【0062】
本発明において用いられる多変量判別式には、予め、発癌潰瘍性大腸炎患者と非癌潰瘍性大腸炎患者を識別するための基準判別値を設定しておく。基準判別値は、発癌潰瘍性大腸炎患者群と非癌潰瘍性大腸炎患者群について、使用する多変量判別式の値である判別値を求め、発癌潰瘍性大腸炎患者群の判別値と非癌潰瘍性大腸炎患者群の判別値とを比較し、両群を区別することができる閾値として実験的に求めることができる。
【0063】
多変量判別式を用いて判定を行う場合、具体的には、前記測定工程において、使用する多変量判別式がそのメチル化率を変数として含むCpGサイトのメチル化率又はDMRの平均メチル化率を測定し、前記判定工程において、前記測定工程において測定されたメチル化率と前記多変量判別式に基づいて当該多変量判別式の値である判別値を算出し、この判別値と予め設定した基準判別値とに基づいて、CpGサイトのメチル化率又はDMRの平均メチル化率が測定されたヒト潰瘍性大腸炎患者が大腸癌を発症している可能性の高低を判定する。当該判別値が予め設定された基準判別値以上である場合に、当該ヒト潰瘍性大腸炎患者が、大腸癌を発症している可能性が高いと判定する。
【0064】
本発明において用いられる多変量判別式としては、前記34CpGサイトからなる群より選択される1か所以上のCpGサイトのメチル化率を変数として含む式が好ましく、前記34CpGサイトからなる群より選択される1か所以上のCpGサイトのメチル化率のみを変数として含む式がより好ましく、前記34CpGサイトからなる群より任意に選択される2~10か所のCpGサイトのメチル化率のみを変数として含む式がさらに好ましく、前記34CpGサイトからなる群より任意に選択される2~5か所のCpGサイトのメチル化率のみを変数として含む式がよりさらに好ましい。
【0065】
本発明において用いられる多変量判別式としては、前記18CpGサイトからなる群より選択される1か所以上のCpGサイトのメチル化率を変数として含む式が好ましく、前記18CpGサイトからなる群より選択される1か所以上のCpGサイトのメチル化率のみを変数として含む式がより好ましく、前記18CpGサイトからなる群より任意に選択される2~10か所のCpGサイトのメチル化率のみを変数として含む式がさらに好ましく、前記18CpGサイトからなる群より任意に選択される2~5か所のCpGサイトのメチル化率のみを変数として含む式がよりさらに好ましい。
【0066】
前記34CpGセット及び前記18CpGセットを構成するCpGサイトは、これらのセットから任意で2~10個、好ましくは2~5個のCpGサイトを選択し、この選択されたCpGサイトのみを用いた場合でも、充分な感度及び特異度で、ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症可能性を判定することができる。例えば、後記実施例2に示す通り、前記34CpGセットのうち、配列番号34で表される塩基配列中のCpGサイト、配列番号37で表される塩基配列中のCpGサイト、及び配列番号56で表される塩基配列中のCpGサイトの3個のCpGサイトをマーカーとして用い、これらの3個のCpGサイトのメチル化率を変数としてロジスティック回帰により作成された多変量判別式を用いた場合には、ヒト潰瘍性大腸炎患者について、感度約96%、特異度約92%で大腸癌の発症可能性を判定することができる。臨床検査等において、メチル化率を測定するCpGサイトの数が多いと、労力とコストが過大となるおそれがある。マーカーとするCpGサイトを前記34CpGセット及び前記18CpGセットを構成するCpGサイトから選抜することにより、2~10個という、臨床検査において測定可能な妥当な数のCpGサイトで、精度よくヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症可能性を判定することができる。
【0067】
本発明において用いられる多変量判別式としては、前記112DMRセットからなる群より選択される1か所以上のDMRの平均メチル化率を変数として含む式が好ましく、前記112DMRセットからなる群より選択される2か所以上のDMRの平均メチル化率のみを変数として含む式がより好ましく、前記112DMRセットからなる群より任意に選択される3か所以上のDMRの平均メチル化率のみを変数として含む式がさらに好ましく、前記112DMRセットからなる群より任意に選択される4か所以上のDMRの平均メチル化率のみを変数として含む式がよりさらに好ましく、前記112DMRセットからなる群より任意に選択される5か所以上のDMRの平均メチル化率のみを変数として含む式が特に好ましい。中でも、前記58DMRセットからなる群より選択される1か所以上のDMRの平均メチル化率を変数として含む式が好ましく、前記58DMRセットからなる群より選択される2か所以上のDMRの平均メチル化率のみを変数として含む式がより好ましく、前記58DMRセットからなる群より任意に選択される2~10か所のDMRの平均メチル化率のみを変数として含む式がさらに好ましく、前記58DMRセットからなる群より任意に選択される3~10か所のDMRの平均メチル化率のみを変数として含む式がよりさらに好ましく、前記58DMRセットからなる群より任意に選択される5~10か所のDMRの平均メチル化率のみを変数として含む式が特に好ましい。より好ましくは、前記11DMRセットからなる群より選択される1か所以上のDMRの平均メチル化率を変数として含む式が好ましく、前記11DMRセットからなる群より選択される2か所以上のDMRの平均メチル化率のみを変数として含む式がより好ましく、前記11DMRセットからなる群より任意に選択される2~10か所のDMRの平均メチル化率のみを変数として含む式がさらに好ましく、前記11DMRセットからなる群より任意に選択される3~10か所のDMRの平均メチル化率のみを変数として含む式がよりさらに好ましく、前記11DMRセットからなる群より任意に選択される5~10か所のDMRの平均メチル化率のみを変数として含む式が特に好ましい。
【0068】
本発明に係る判定方法に供される生体試料は、ヒト潰瘍性大腸炎患者から採取された生体試料であって、当該患者のゲノムDNAが含まれているものであれば特に限定されるものではなく、血液、血漿、血清、涙液、唾液等であってもよく、消化管粘膜や、肝臓等のその他の組織から採取された組織片であってもよい。本発明に係る判定方法に供される生体試料としては、大腸の状態をより強く反映していることから、大腸粘膜であることが好ましく、比較的低侵襲に採取可能であることから直腸粘膜であることがより好ましい。大腸の直腸粘膜は、例えば、後記の大腸粘膜採取用キットを用いて簡便に採取することができる。
【0069】
また、当該生体試料は、DNAが抽出可能な状態であればよく、各種前処理が施されているものであってもよい。例えば、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織であってもよい。生体試料からのDNAの抽出は常法により行うことができ、各種市販のDNA抽出・精製キットを使用することもできる。
【0070】
CpGサイトのメチル化率を測定する方法としては、特定のCpGサイトについてメチル化シトシン塩基とメチル化されていないシトシン塩基を区別して定量可能な方法であれば、特に限定されるものではない。当該技術分野において公知の方法をそのまま又は必要に応じて適宜改変することによりCpGサイトのメチル化率を測定できる。CpGサイトのメチル化率の測定方法としては、例えば、バイサルファイトシーケンス法、COBRA(Combined Bisulfite Restriction Analysis)法、qAMP(quantitative analysis of DNA methylation using real-time PCR)法等が挙げられる。その他、MIAM(Microarray-based Integrated Analysis of Methylation by Isoschizomers)法を用いて行ってもよい。
【0071】
<大腸粘膜採取用キット>
本発明に係る大腸粘膜採取用キットは、直腸粘膜を挟んで採取するための採取具と、肛門を拡張し、当該採取具を肛門から大腸粘膜表面へ到達させるための採取補助具とを備える。以下、
図1~5を参照しながら、本発明に係る大腸粘膜採取用キットについて説明する。
【0072】
図1(A)~
図1(C)は大腸粘膜採取用キット1の採取具2の一実施態様である採取具2Aの説明図である。
図1(A)は採取具2Aの第1の挟持片3aと第2の挟持片3bが加力されていない状態の斜視図であり、
図1(B)は加力された状態の斜視図である。また、
図1(C)は採取具2Aの挟持面を有する先端部の一部拡大図である。
図1(A)に示すように、採取具2Aは、第1の挟持片3aと、第2の挟持片3bと、連結部4と、第1の挟持面5aと、第2の挟持面5bと、を有する。
【0073】
第1の挟持片3aは、一方の端部に大腸粘膜を挟持する第1の挟持面5aが形成されている板状の部材であり、第2の挟持片3bは、一方の端部に大腸粘膜を挟持する第2の挟持面5bが形成されている板状の部材である。第1の挟持片3aと第2の挟持片3bは、連結部4において、互いに対向した状態で、第1の挟持面5a及び第2の挟持面5bが形成されていない端部において連結されている。第1の挟持片3a及び第2の挟持片3bの形状は、板状の他、棒状であってもよく、直腸粘膜を挟んで採取するための一定の長さを有するように形成されていれば形状にこだわらない。
【0074】
第1の挟持片3aと第2の挟持片3bへの加力により、両者は互いに近接する。このため、採取具2Aの第1の挟持面5aと第2の挟持面5bを大腸粘膜に接触させた状態で、第1の挟持片3aと第2の挟持片3bに加力することによって、第1の挟持面5aと第2の挟持面5bにより大腸粘膜を挟持することができる。より詳細には、第1の挟持面5aの辺縁部6aと第2の挟持面5bの辺縁部6bが大腸粘膜を挟んだ状態で接する。この状態で採取具2Aを大腸粘膜から離すことにより、第1の挟持面5aと第2の挟持面5bに挟持された大腸粘膜が引きちぎられて採取される。
【0075】
第1の挟持片3aと第2の挟持片3bの長さは、50~250mmが好ましく、100~200mmがより好ましく、70~200mmがさらに好ましく、70~150mmがよりさらに好ましい。第1の挟持片3aと第2の挟持片3bが前記範囲の長さであることにより、肛門から大腸粘膜を直接挟持して採取しやすい。
【0076】
大腸粘膜を比較的組織の破損が少ない状態で採取するために、第1の挟持面5aと第2の挟持面5bの少なくとも一方はカップ形状であることが好ましい。両者の少なくとも一方がカップ形状の場合であるため、第1の挟持面5aの辺縁部6aと第2の挟持面5bの辺縁部6bが接した場合に、内部に空間が形成される。第1の挟持面5aと第2の挟持面5bに挟持された大腸粘膜のうち、当該空間内に収容された部分は、大腸粘膜を引きちぎる際に負荷があまりかからず、よって組織の破壊を抑制できる。
図1に示すように、両方がカップ形状であることにより、大腸粘膜の採取がより容易であり、かつ組織の破壊を抑制できる。
【0077】
第1の挟持面5aと第2の挟持面5bがカップ形状の場合、辺縁部6aと辺縁部6bの内径は、必要な量の大腸粘膜が採取できる大きさに設定すればよい。本発明に係る判定方法に供される大腸粘膜の場合、少量の粘膜が採取できれば十分である。例えば、辺縁部6aと辺縁部6bの内径を、1~5mm、好ましくは2~3mmとすることにより、大腸粘膜を過度に傷つけることなく、充分量の大腸粘膜を採取することができる。
【0078】
辺縁部6aと辺縁部6bは、互いに密接することが可能であればよく、平坦であってもよいが、
図1(C)に示すように、鋸歯状であることが好ましい。鋸歯状の場合には、辺縁部6a’と辺縁部6b’により挟持することによって比較的弱い力で大腸粘膜を切断し採取することができる。
【0079】
第1の挟持片3aと第2の挟持片3bのいずれか一方の内側に突起部8aを、他方に筒部9aを、互いに対向するように形成していてもよい。第1の挟持片3aと第2の挟持片3bへ加力し、辺縁部6aと辺縁部6bが互いに接する状態において、突起部8aの先端は筒部9aに嵌る。突起部8aの先端が筒部9aに嵌っていることにより、採取具2を大腸粘膜から離す際に辺縁部6aと辺縁部6bがずれることなく、安定して大腸粘膜を採取することができる。
【0080】
図1(D)は採取具2Aの変形例である採取具2Bの説明図であり、より詳細には、採取具2Bの第1の挟持片3aと第2の挟持片3bが加力されていない状態の斜視図である。第1の挟持片3aは、中心部よりも第1の挟持面5aが形成されている端部側に、第1の屈曲部7aを有していてもよい。第2の挟持片3bは、中心部よりも第2の挟持面5bが形成されている端部側に、第2の屈曲部7bを有していてもよい。第1の挟持片3aと第2の挟持片3bが、中心部よりも挟持面が形成されている先端側において、互いに対向している状態を維持したまま、傾斜していることにより、採取補助具11のスリット13を貫通して大腸粘膜に接することが容易になる。具体的には、
図1(D)に示すように、第1の挟持片3aの中心部から連結部4側と第2の挟持片3bの中心部から連結部4側とを載せた仮想平面Pに交差するように屈曲している。屈曲の角度θ
1は、10~50°が好ましく、20~40°がより好ましく、25~35°がさらに好ましい。また、第1の屈曲部7aから第1の挟持面5aの先端部までの長さ、及び第2の屈曲部7bから第2の挟持面5bの先端部までの長さは、20~60mmが好ましく、30~50mmがより好ましい。屈曲部から挟持面の先端部までの長さが前記範囲内であることにより、採取補助具11のスリット13を貫通した状態での粘膜採取がより容易になる。
【0081】
図2(A)~
図2(E)は、採取具2Aの別の変形例である採取具2Cの説明図である。
図2(A)は、採取具2の第1の挟持片3aと第2の挟持片3bが加力されていない状態の正面図であり、
図2(B)は、採取具2Cの平面図である。
図2(C)は、採取具2Cの突起部8bの拡大図であり、
図2(D)は、採取具2Cの先端部分の、突起部8bの係止爪が筒部9bの開口縁部の張り出し部に係止されている状態の平面図であり、
図2(E)は、採取具2Cの先端部分の、第1の挟持面5aと第2の挟持面5bが接着した状態の平面図である。
【0082】
被検者の直腸から粘膜組織を採取する際に、採取具2は、第1の挟持片3aと第2の挟持片3bの距離が開いた状態よりも閉じた状態のほうが、採取補助具11のスリット13を貫通させやすい。そこで、
図2の突起部8bが示すように、採取具2の突起部は、係止爪であってもよい。突起部8bの係止爪は、1つ又は2つ以上であってもよく、筒部9bの開口縁部の張り出し部に係止できれば幾つであってもよい。この場合には、突起部8bを篏合させる筒部9bは、開口縁部に径方向内側に張り出し部を設けたものとし、突起部8bの係止爪が筒部9bの開口縁部の張り出し部に係止させることができる(
図2(D))。突起部8bの係止爪の高さは、筒部9bの張り出し部に係止させた状態のときに、第1の挟持面5aと第2の挟持面5bの先端部が近接しているが、第1の挟持面5aと第2の挟持面5bが接着していない状態となり、かつ第1の挟持片3aと第2の挟持片3bをさらに加力することによって、突起部8bの先端部が筒部9bの底部を突き抜けることなく第1の挟持面5aと第2の挟持面5bを接着させることが可能となるように調整することが好ましい。これにより、採取具2の第1の挟持片3aと第2の挟持片3bを加力することなく、第1の挟持面5aと第2の挟持面5bの先端部を近接した状態で安定させることができる。採取具2は、
図2(D)の状態で採取補助具11のスリット13を貫通させ、先端部が直腸粘膜組織に接触したら、第1の挟持片3aと第2の挟持片3bを加力し、粘膜組織の一部を挟み込むようにして
図2(E)の状態にし、粘膜組織を採取する。
【0083】
採取具2は、第1の挟持片3aと第2の挟持片3bに、それぞれ、連結部と屈曲部の間に対応する緩衝部10aを設けてもよい。緩衝部10aは、その先端に弾性部10bを備えており、突起部8bの係止爪が筒部9bの開口縁部の張り出し部に係止させた状態では、互いに弾性部10bで接着する(
図2(D))。この緩衝部により、採取具2はより安定的に、突起部8bの係止爪が筒部9bの開口縁部の張り出し部に係止した状態を維持できる。第1の挟持片3aと第2の挟持片3bをさらに加力した場合にも、先端の弾性部10bが押圧により変形するため、第1の挟持面5aと第2の挟持面5bを接着させることができる(
図2(E))。
【0084】
図3(A)及び
図3(B)は採取補助具11の一実施態様である採取補助具11Aの説明図である。
図3(A)は採取補助具11Aの下側からみた斜視図であり、
図3(B)は採取補助具11Aのスリット側からみた底面図である。
図3(A)に示すように、採取補助具11Aは、採取具導入部12と、スリット13と、把持部14と、を有する。
【0085】
採取具導入部12は、側壁にスリット13を有する円錐台形状の部材である。採取具導入部12は、外径が小さい先端辺縁部15から肛門に挿入し、外径が大きい手元辺縁部16から採取具2を挿入する。採取具導入部12は、回転軸方向に貫通孔を有していてもよい。肛門への挿入のしやすさの点から、手元辺縁部16の外径は30~70mmが好ましく、40~50mmがより好ましい。また、採取具2の大腸粘膜表面への導入しやすさの点から、先端辺縁部15の外径は10~30mmが好ましく、15~25mmがより好ましい。同様に、採取具導入部12の回転軸方向の長さは50~150mmが好ましく、70~130mmがより好ましく、80~120mmがさらに好ましい。
【0086】
スリット13は、採取具導入部12の先端辺縁部15から手元辺縁部16に向かって設けられている。採取具導入部12の側壁の一部分に先端辺縁部15に達するスリット13があることにより、腸管内における採取具2の先端部の動きの自由度が高まり、内部構造が複雑な直腸内において、大腸粘膜をより容易に採取することができる。スリット13は、採取具導入部12のいずれの位置に設定されていてもよい。例えば、スリット13は、
図3(A)に示すように、把持部14に近い側にあることが好ましい。また、採取具導入部12に設けられるスリット13の数は、1つであってもよく、2以上であってもよい。
【0087】
スリット13を貫通して採取具2は大腸粘膜表面に達するため、スリット13の幅は、辺縁部6aと辺縁部6bとが接した状態における、採取具2の第1の挟持面5aと第2の挟持面5bの幅よりも広く設計される。また、スリット13の幅は、一定であってもよいが、
図3(B)に示すように、先端辺縁部15から手元辺縁部16側にいくにつれて広くなっているほうが好ましい。例えば、辺縁部6aと辺縁部6bとが接した状態における、採取具2の第1の挟持面5aと第2の挟持面5bの幅L
1(
図1(B)参照。)が3~8mmの場合、スリット13の先端辺縁部15側の幅L
2(
図3(B)参照。)は7~15mmが好ましく、スリット13の手元辺縁部16側の幅L
3(
図3(B)参照。)は10~20mmが好ましい。なお、スリット13は、採取具導入部12の壁面に2以上形成されていてもよい。
【0088】
把持部14は、その一端が、採取具導入部12の手元辺縁部16近傍に、採取具導入部12から遠ざかる方向に連結している。把持部14の長さは、手による握りやすさ等から、50~150mmが好ましく、70~130mmがより好ましい。把持部14の形状は、握りやすい形状であればどのような形状であってもよく、例えば、板状であってもよく、棒状であってもよく、その他の形状であってもよい。
【0089】
図4は、採取補助具11Aの変形例である採取補助具11Bの説明図である。
図4(A)は採取補助具11Bの上側からみた斜視図であり、
図4(B)は下側からみた斜視図である。また、
図4(C)~
図4(G)は、それぞれ、採取補助具11Bの正面図、平面図、底面図、左側面図、及び右側面図である。採取補助具の把持部は、把持部14に示すように、下方が開口した中空の棒状であって、リブで補強されているものであってもよい。
【0090】
図5は、本発明に係る大腸粘膜採取用キット1の使用の態様を示す説明図である。まず、大腸粘膜を採取される被検者の肛門に、採取補助具11を先端辺縁部15から挿入する。把持部14を片手で持ち安定させた状態で、手元辺縁部16側の開口部から採取具2を導入する。導入された採取具2は、先端部からスリット13を貫通して大腸粘膜表面に達する。採取具2の挟持面5aと挟持面5bとで大腸粘膜を挟持した状態(挟持面5)で、採取具2をスリット13から引き出すことにより、大腸粘膜が採取できる。
【実施例】
【0091】
次に実施例等を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0092】
[実施例1]
潰瘍性大腸炎患者のうち、内視鏡検査での生検組織による病理診断により大腸癌と診断され、外科手術を施行した患者(UC癌患者)8名(男性7名、女性1名)と、内科的治療不応潰瘍性大腸炎患者であり、癌以外で外科手術を施行した患者(非癌UC患者)8名(男性7名、女性1名)とから採取された大腸粘膜中のDNAに対して、CpGサイトのメチル化率を網羅的に解析した。なお、UC癌患者8名の平均年齢は47.1±12.4歳であり、罹病期間の平均は11.4±7.3年であった。非癌UC患者8名の平均年齢は44.3±16.4歳であり、罹病期間の平均は6.5±5.2年であった。
【0093】
<CpGサイトのメチル化レベルの網羅的解析>
(1)生検及びDNA抽出
同一患者の大腸3か所から粘膜組織を採取し、常法に従いホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプルを作製した。採取部位は、UC癌患者は盲腸、直腸、及び癌部とし、非癌UC患者は盲腸、横行結腸、直腸とした。FFPEサンプルから切片を切り出し、QIAmp DNA FFPE tissue kit(Qiagen社製)を使用してDNAを抽出した。
【0094】
(2)DNAサンプルの品質評価
得られたDNAの濃度は次のようにして求めた。すなわち、Quant-iT PicoGreen dsDNA Assay Kit(Life Technologies社製)を用いて各サンプルの蛍光強度を測定し、キット付属のλ-DNAの検量線を用いて濃度を算出した。
次に、各サンプルをTE(pH8.0)にて1ng/μLに希釈し、Illumina FFPE QC Kit(Illumina社製)及びFast SYBR Green Master Mix(Life Technologies社製)を用いてリアルタイムPCRを行い、Ct値を求めた。サンプルとポジティブコントロールとのCt値の差(以下、ΔCt値)をサンプルごとに算出し、品質を評価した。ΔCt値が5未満のサンプルは品質良好と判断し、以降のステップに進めた。
【0095】
(3)バイサルファイト処理
EZ DNA Methylation Kit(ZYMO RESEARCH社製)を使用して、DNAサンプルに対してバイサルファイト処理を実施した。
【0096】
(4)分解DNAの修復及び全ゲノム増幅
バイサルファイト処理後のDNAに対して、Infinium HD FFPE Restore Kit(Illumina社製)を使用し、分解DNAを修復した。修復されたDNAをアルカリ変性した後、中和させ、HumanMethylation450 DNA Analysis Kit(Illumina社製)の全ゲノム増幅用の酵素とプライマーを添加し、37℃のIncubation Oven(Illumina社製)で20時間以上、等温で反応させることによって、全ゲノムを増幅させた。
【0097】
(5)全ゲノム増幅したDNAの断片化と精製
全ゲノム増幅したDNAに、HumanMethylation450 DNA Analysis Kit(Illumina社製)の断片化用の酵素を添加し、Microsample Incubator(SciGene)で37℃、1時間反応させた。断片化したDNAに、共沈剤と2-プロパノールを加えて遠心分離処理し、DNAを沈澱させた。
【0098】
(6)ハイブリダイゼーション
沈澱させたDNAに、Hybridization bufferを加え、48℃のHybridization Oven(Illumina社製)で1時間反応させ、DNAを溶解させた。溶解させたDNAを95℃のMicrosample Incubator(SciGene社製)で20分間インキュベートして1本鎖に変性させた後、HumanMethylation450 DNA Analysis Kit(Illumina社製)のBeadChip上に分注した。48℃のHybridization Ovenで16時間以上反応させ、BeadChip上のプローブと1本鎖DNAをハイブリダイズした。
【0099】
(7)標識反応及びスキャニング
ハイブリダイゼーション後のBeadChip上のプローブを伸長反応させ、蛍光色素を結合させた。次いで、当該BeadChipをiSCANシステム(Illumina社製)でスキャンし、メチル化蛍光強度及び非メチル化蛍光強度を測定した。実験終了時に、スキャンデータが全て揃っていること、及びスキャンが正常に行われたことを確認した。
【0100】
(8)DNAメチル化レベルの定量及び比較解析
DNAメチル化解析ソフトウェアGenomeStudio(Version:V2011.1)を用いてスキャンデータを解析した。DNAメチル化レベル(β値)は、次の式により算出した。
【0101】
[β値]=
[メチル化蛍光強度]÷ ([メチル化蛍光強度]+[非メチル化蛍光強度]+100)
【0102】
メチル化レベルが高い場合、β値は1に近づき、メチル化レベルが低い場合、β値は0に近づく。非癌UC患者直腸サンプル群(n=8)に対するUC癌患者直腸サンプル群(n=8)のDNAメチル化レベルの比較解析には、GenomeStudioにより算出されるDiffScoreを用いた。両者のDNAメチル化レベルが近い場合、DiffScoreは0に近づき、UC癌患者でのレベルが高い場合は正の値を示し、低い場合は負の値を示す。両群のメチル化レベルの差異が大きいほど、DiffScoreの絶対値は大きくなる。また、UC癌患者直腸サンプル群(n=8)の平均β値から非癌UC患者直腸サンプル群(n=8)の平均β値を差し引いた値(Δβ値)も比較解析に用いた。
【0103】
なお、DNAメチル化定量とDNAメチル化レベル比較解析には、GenomeStudioとソフトウェアMethylation Module(Version:1.9.0)を用いた。GenomeStudioの設定条件は、下記の通りである。
【0104】
DNAメチル化定量;
Normalization: 有り(Controls)
Subtract Background: 有り
Content Descriptor: HumanMethylation450_15017482_v.1.2.bpm
【0105】
DNAメチル化レベル比較解析;
Normalization: 有り(Controls)
Subtract Background: 有り
Content Descriptor: HumanMethylation450_15017482_v.1.2.bpm
Ref Group: 比較解析4. Group-3
Error Model: Illumina custom
Compute False Discovery Rate: 無し
【0106】
(9)多変量解析
DNAメチル化レベルの定量及び比較解析の結果を用いて、統計解析ソフトウェアR(Version: 3.0.1、64bit、Windows(登録商標))を用いて、DiffScoreの算出、クラスター解析及び主成分分析を実施した。
【0107】
クラスター解析のRスクリプト:
> data.dist<-as.dist(1-cor(data.frame,use="pairwise.complete.obs",method="p"))> hclust(data.dist,method="complete")
# data.frame: CpG(行)x サンプル(列)から成るデータフレーム
# 1-ピアソン相関係数を距離として定義し、complete linkage法により実施
【0108】
主成分分析のRスクリプト:
> prcomp(t(data.frame),scale=T)
# data.frame: CpG(行)x サンプル(列)から成るデータフレーム
【0109】
<CpGバイオマーカーの選択>
(1)CpGバイオマーカー候補の抽出
網羅的DNAメチル化解析データからGpGバイオマーカー候補を選定する手段として、DiffScore及びΔβ値に基づいた絞り込みが報告されている(BMC Med genomics vol.4, p.50, 2011; Sex Dev vol.5, p.70, 2011)。前者はDiffScoreの絶対値が30超、及びΔβ値の絶対値が0.2超に設定し、後者はDiffScoreの絶対値が30超、及びΔβ値の絶対値が0.3超に設定して、バイオマーカー候補を抽出している。これらの方法に準じて、BeadChipに搭載されている485,577個のCpGサイトからバイオマーカー候補を抽出した。
【0110】
具体的には、まず、485,577個のCpGサイトから、DiffScoreの絶対値が30超である72,905個のCpGサイトを選択した。BeadChipには、特許文献1に記載されているmiR-1、miR-9、miR-124、miR-137、miR-34b/cの各遺伝子領域に位置する86個のCpGサイトも搭載されていたが、このうち、DiffScoreの絶対値が30超であったのは27個であった。
次に、この72,905個のCpGサイトの中から、Δβ値の絶対値が0.3超である32個のCpGサイトを抽出した。以下、この32個のCpGサイトをまとめて「32CpGセット」という。この時点で、特許文献1に記載されている各遺伝子領域に位置するCpGサイトは、全て除外されてしまった。
さらに、癌患者を取りこぼしなく判別することを目的に、癌患者サンプル内でDNAメチル化レベルの変動が少ないものを絞り込んだ。すなわち、UC癌患者24サンプル(3部位×各部位8サンプル)のβ値の不偏分散varを求め、不偏分散varの値が0.05より小さい16個のCpGサイトを選抜した。以下、この16個のCpGサイトをまとめて「16CpGセット」という。16CpGセットからさらに、不偏分散varの値が0.03より小さい9個のCpGサイトを絞り込んだ。以下、この9個のCpGサイトをまとめて「9CpGセット」という。
【0111】
32CpGセットの各CpGサイトの結果を表17に示す。表中、「16CpG」欄に#があるCpGサイトは16CpGセットに含まれるものを、「9CpG」欄に#があるCpGサイトは9CpGセットに含まれるものを、それぞれ示す。
【0112】
【0113】
(2)CpGバイオマーカー候補を用いた臨床サンプルの多変量解析
前記32CpGセット、16CpGセット、9CpGセットを用いて、全48サンプルのクラスター解析及び主成分分析を行ったところ、
図6A、6C、及び6Eに示すように、いずれのCpGセットでも、クラスター解析では、全てのUC癌患者サンプルが同一クラスター(図中、枠内)に集積した。また、
図6B、6D、及び6Fに示すように、主成分分析(縦軸は第2主成分)では、UC癌患者サンプル(●)と非癌UC患者サンプル(▲)が第1主成分(横軸)方向にそれぞれ独立のクラスターを形成した。すなわち、いずれのCpGセットでも、UC癌患者24サンプルと非癌UC患者24サンプルを明確に区別することができた。一方、特許文献1に記載されている各遺伝子領域に位置するCpGサイトから選抜された27個のCpGサイトを用いて、同様にクラスター解析及び主成分分析を行ったところ、
図7A及び7Bに示すように、UC癌患者サンプルと非癌UC患者サンプルを明確に区別することは出来なかった。これらの結果から、表17に記載の32CpGは、潰瘍性大腸炎患者における大腸癌の発症のバイオマーカーとして極めて有用であり、これらを用いることにより、潰瘍性大腸炎患者の大腸癌の発症の有無を高い感度と特異度によって判定できることが明らかである。
【0114】
[実施例2]
実施例1の潰瘍性大腸炎患者とは別に、内視鏡検査での生検組織による病理診断により大腸癌と診断され、外科手術を施行した患者(UC癌患者)24名と、内科的治療不応潰瘍性大腸炎患者であり、癌以外で外科手術を施行した患者(非癌UC患者)24名とから採取された大腸粘膜中のDNAに対して、CpGサイトのメチル化率を網羅的に解析した。
【0115】
CpGサイトのメチル化率の解析に供したDNAは、潰瘍性大腸炎患者の直腸の粘膜組織から採取したFFPEサンプルから、実施例1と同様にしてDNAを抽出し、全ゲノム増幅し、CpGサイトのDNAメチル化レベルの定量及び比較解析を行い、その結果を用いてDiffScoreの算出、クラスター解析及び主成分分析を実施した。
【0116】
(1)CpGバイオマーカー候補の抽出
次いで、網羅的DNAメチル化解析データからCpGバイオマーカー候補を抽出した。 具体的には、まず、485,577個のCpGサイトから、Δβ値の絶対値が0.2超である324個のCpGサイトを抽出した。
【0117】
次に、下記の2種類のロジスティック回帰モデルを作成した。
(1)324個のCpGサイトから2群のt-test検定で上位100個のCpGサイトを選択し、100個のCpGから選んだ3個のCpG全ての組み合わせに基づく161,700個のロジスティック回帰モデル。(2)324個のCpGサイトから選んだ2個のCpGの全ての組み合わせに基づく、52,326個のロジスティック回帰モデル。
【0118】
両ロジスティック回帰モデルの判別式について、下記の4つの基準について、それぞれ充足するCpGサイトを選定し、出現するCpGサイトの頻度を算出した。
[基準1]感度が90%超、特異度が90%超、かつ判別式の係数p値が0.05未満。[基準2]感度が90%超、特異度が90%超、判別式の係数p値が0.05未満、かつAIC(赤池の情報量基準)が30未満。
[基準3]感度が95%超、特異度が85%超、かつ判別式の係数p値が0.05未満。[基準4]感度が95%超、特異度が85%超、判別式の係数p値が0.05未満、かつAICが30未満。
【0119】
4つの基準のそれぞれについて、上位10CpGサイトを選択したところ、表8~10に記載の34個のCpGサイト(34CpGセット)が選抜された。各CpGサイトの結果を表18に示す。
【0120】
【0121】
(2)CpGバイオマーカー候補を用いた臨床サンプルの多変量解析
前記34CpGセットのメチル化レベルに基づき、全48サンプルのクラスター解析及び主成分分析を行った。この結果、クラスター解析(
図8A)では、大多数のUC癌患者サンプルが同一クラスター(図中、枠内)に集積した。また、主成分分析(
図8B、縦軸は第2主成分)では、UC癌患者サンプル(●)と非癌UC患者サンプル(▲)が第1主成分(横軸)方向にそれぞれ独立のクラスターを形成した。すなわち、いずれのCpGセットでも、UC癌患者24サンプルと非癌UC患者24サンプルを明確に区別することができた。
【0122】
(3)CpGバイオマーカー候補を用いた臨床サンプルの大腸癌発症可能性の評価
前記34CpGセットのうち、配列番号34で表される塩基配列中のCpGサイト(cg10931190)、配列番号37で表される塩基配列中のCpGサイト(cg13677149)、及び配列番号56で表される塩基配列中のCpGサイト(cg14516100)の3個のCpGサイトのメチル化率をマーカーとした場合の、潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の有無の判定の精度を調べた。
【0123】
具体的には、24名のUC癌患者及び24名の非癌UC患者の直腸から採取された検体の前記3つのCpGサイトのメチル化レベルの数値(β値)を用いてロジスティック回帰モデルに基づく判別式を作成してUC癌患者と非癌UC患者の判別を行った。この結果、感度(UC癌患者のうち、陽性と評価された患者の割合)が95.8%、特異度(非癌UC患者のうち、陰性と評価された患者の割合)が91.7%、陽性的中率(陽性と評価された患者のうち、UC癌患者の割合)が92%、陰性的中率(陰性と評価された患者のうち、非癌UC患者の割合)が95.6%であり、いずれも90%以上と高かった。また、
図9にROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を示す。AUC(ROC曲線下面積)は0.98であった。これらの結果から、前記34CpGセットから選択された数個のCpGサイトのメチル化率に基づいて、高感度かつ高特異度で、潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の可能性を評価できることが確認された。
【0124】
[実施例3]
実施例1において求めた潰瘍性大腸炎患者の直腸から採取した検体の各CpGサイトのDNAメチル化レベル(β値)と、実施例2において求めた潰瘍性大腸炎患者の各CpGサイトのDNAメチル化レベル(β値)から、CpGバイオマーカー候補を抽出した。
【0125】
(1)CpGバイオマーカー候補の抽出
具体的には、まず、485,577個のCpGサイトから、Δβ値の絶対値が0.2超である172個のCpGサイトを抽出した。次いで、この172個のCpGサイトから、実施例2と同様にして、2種類のロジスティック回帰モデルを作成し、前記4つの基準のそれぞれについて、上位10CpGサイトを選択した。この結果、表11及び表12に記載の18個のCpGサイト(18CpGセット)が選抜された。各CpGサイトの結果を表19に示す。
【0126】
【0127】
(2)CpGバイオマーカー候補を用いた臨床サンプルの多変量解析
前記18CpGセットのメチル化レベルに基づき、全64サンプルのクラスター解析及び主成分分析を行った。この結果、クラスター解析(
図10A)では、大多数のUC癌患者サンプルが同一クラスター(図中、枠内)に集積した。また、主成分分析(
図10B、縦軸は第2主成分)では、UC癌患者サンプル(●)と非癌UC患者サンプル(▲)が第1主成分(横軸)方向にそれぞれ独立のクラスターを形成した。すなわち、いずれのCpGセットでも、UC癌患者32サンプルと非癌UC患者32サンプルを明確に区別することができた。
【0128】
[実施例4]
実施例2において取得したUC癌患者24名及び非癌UC患者24名の直腸から採取した検体の各DMRの平均メチル化率(平均β値;各DMR中に存在するCpGサイトのメチル化レベル(β値)の相加平均値)から、DMRバイオマーカー候補を抽出した。
【0129】
(1)DMRバイオマーカー候補の抽出
具体的には、まず、485,577個のCpGサイトのメチル化データ(IDAT形式)を、ChAMPパイプライン(Bioinformatics、30、428、2014;http://bioconductor.org/packages/release/bioc/html/ChAMP.html)に入力し、UC癌患者と非癌UC患者の2群間で有意と判定されたDMR2,549か所を抽出した。この中でΔβ値([平均β値(UC癌)]-[平均β値(非癌UC)])の絶対値を0.15超に設定したところ、39か所に絞り込まれた。さらにΔβ値の絶対値が0.1超である484か所のうち、実施例1で取得したUC癌患者と非癌UC患者とのΔβ値が0.15超である80か所を追加し、総数112か所(DMR番号1~112)をDMRバイオマーカー候補とした。この112か所のDMR(112DMRセット)の結果を表20~22に示す。
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
次に、前記112DMRセットから選んだ3か所のDMR全ての組み合わせに基づく227,920個のロジスティック回帰モデルを作成した。得られた判別式について、感度が95%である判別式79個を選択したところ、この中に出現するDMRは58か所であった(表中、58DMR)。さらに、判別式79個に出現するDMRの頻度を求めたところ、4回以上出現するものは11か所であった(表中、11DMR)。
【0134】
(2)DMRバイオマーカー候補を用いた臨床サンプルの多変量解析
前記112DMRセットのメチル化率に基づき、実施例2の全48サンプルのクラスター解析及び主成分分析を行った。この結果、クラスター解析では、大多数のUC癌患者サンプルが同一クラスター(
図11中、枠内)に集積した。また、主成分分析(
図12)では、UC癌患者サンプル(●)と非癌UC患者サンプル(▲)が第1主成分方向にそれぞれ独立のクラスターを形成した。
【0135】
(3)DMRバイオマーカー候補を用いて臨床サンプルの大腸癌発症可能性の評価
前記112DMRセットのうち、DMR番号2(SIX10)、10(CEP112)、55(HNF4A)の領域のメチル化率をマーカーとした場合の、潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の有無の判定の精度を調べた。
【0136】
具体的には、24名のUC癌患者及び24名の非癌UC患者の直腸から採取された検体の前記3か所のDMRのメチル化レベルの数値(β値)を用いてロジスティック回帰モデルに基づく判別式を作成してUC癌患者と非癌UC患者の判別を行った。この結果、感度(UC癌患者のうち、陽性と評価された患者の割合)が95.8%、特異度(非癌UC患者のうち、陰性と評価された患者の割合)が95.8%、陽性的中率(陽性と評価された患者のうち、UC癌患者の割合)が95.8%、陰性的中率(陰性と評価された患者のうち、非癌UC患者の割合)が95.8%であり、いずれも95%以上と高かった。また、
図13にROC曲線を示す。この結果、AUC(ROC曲線下面積)は0.974であった。これらの結果から、前記112DMRセットから選択された数か所のDMRの平均メチル化率に基づいて、高感度かつ高特異度で、潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の可能性を評価できることが確認された。
【符号の説明】
【0137】
1…大腸粘膜採取用キット、2、2A、2B、2C…採取具、3a…第1の挟持片、3b…第2の挟持片、4…連結部、5…挟持面、5a…第1の挟持面、5b…第2の挟持面、6a、6a’…第1の挟持面5aの辺縁部、6b、6b’…第2の挟持面5bの辺縁部、7a…第1の屈曲部、7b…第2の屈曲部、8a、8b…突起部、9a、9b…筒部、10a…緩衝部、10b…弾性部、11、11A、11B…採取補助具、12…採取具導入部、13…スリット、14…把持部、15…先端辺縁部、16…手元辺縁部。
【配列表】