(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】ステッピングモータの制御装置、ステッピングモータの制御方法およびステッピングモータ駆動制御システム
(51)【国際特許分類】
H02P 8/38 20060101AFI20220627BHJP
H02P 8/12 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
H02P8/38
H02P8/12
(21)【出願番号】P 2019038978
(22)【出願日】2019-03-04
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 秀樹
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-168326(JP,A)
【文献】特開2014-128070(JP,A)
【文献】特開2011-67061(JP,A)
【文献】特開2016-220469(JP,A)
【文献】特許第5556709(JP,B2)
【文献】特開昭60-216793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 8/38
H02P 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動電流の設定値を変更する切替信号の第1の周波数において生じる第1の誘起電圧と第2の周波数において生じる第2の誘起電圧の値を用いて、前記切替信号の周波数が所定の周波数よりも低い動作領域において前記切替信号の周波数に比例する閾値のデータテーブルを生成するテーブル生成部と、
前記閾値と検出した誘起電圧とを比較し、その比較結果に応じて前記駆動電流の値を制御する電流制御部と、
を具備することを特徴とするステッピングモータの制御装置。
【請求項2】
前記第1の周波数は前記誘起電圧が飽和する下限の周波数であることを特徴とする請求項1に記載のステッピングモータの制御装置。
【請求項3】
前記駆動電流がゼロになった時点から次の切替信号が出力されるまでの時間が所定の時間よりも短くなった時に、前記切替信号の周期を長くする励磁モードに変更するモード設定部を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のステッピングモータの制御装置。
【請求項4】
前記テーブル生成部は、前記駆動電流がゼロの時の前記第1の誘起電圧と前記第2の誘起電圧の値を用いて前記閾値のデータテーブルを生成することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のステッピングモータの制御装置。
【請求項5】
駆動電流の設定値を変更する切替信号の第1の周波数において生じる第1の誘起電圧と第2の周波数において生じる第2の誘起電圧の値を用いて、前記切替信号の周波数が所定の周波数よりも低い動作領域において前記切替信号の周波数に比例する閾値のデータテーブルを生成し、
前記切替信号の周波数が前記所定の周波数よりも低い動作領域において前記閾値と検出した誘起電圧とを比較し、その比較結果に応じて前記駆動電流の値を制御することを特徴とするステッピングモータの制御方法。
【請求項6】
前記駆動電流がゼロになった時点から次の切替信号が出力されるまでの時間が所定の時間よりも短くなった時に、前記切替信号の周期を長くする励磁モードに変更することを特徴とする請求項5に記載のステッピングモータの制御方法。
【請求項7】
駆動電流によって磁界を発生する励磁コイルを有するステッピングモータと、
前記駆動電流を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記駆動電流の設定値を変更する切替信号の第1の周波数において生じる第1の誘起電圧と第2の周波数において生じる第2の誘起電圧の値を用いて、前記切替信号の周波数が所定の周波数よりも低い動作領域において前記切替信号の周波数に比例する閾値のデータテーブルを生成するテーブル生成部と、
前記閾値と検出した誘起電圧とを比較し、その比較結果に応じて前記駆動電流の値を制御する電流制御部と、
を具備することを特徴とするステッピングモータ駆動制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、ステッピングモータの制御装置、ステッピングモータの制御方法およびステッピングモータ駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステッピングモータの効率を改善する為、トルクに応じて駆動電流を制御する技術が開示されている。必要とするトルクが低下した状態では駆動電流を減らし、効率を高める試みである。ステッピングモータは、低速回転から高速回転まで広範囲に亘って動作する。脱調を回避する為、必要とするトルクに対してマージンを持たせた駆動電流を供給することが一般的に行われている。しかしながら、余剰の駆動電流の供給は消費電力を増大させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一つの実施形態は、低速回転から高速回転まで広範囲な動作状態においてステッピングモータの効率を改善することができる制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一つの実施形態によれば、ステッピングモータの制御装置は、駆動電流の設定値を変更する切替信号の第1の周波数において生じる第1の誘起電圧と第2の周波数において生じる第2の誘起電圧の値を用いて、前記切替信号の周波数が所定の周波数よりも低い動作領域において前記切替信号の周波数に比例する閾値のデータテーブルを生成するテーブル生成部と、前記閾値と検出した誘起電圧とを比較し、その比較結果に応じて前記駆動電流の値を制御する電流制御部と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、ステッピングモータの制御装置の一つの実施形態を示す図。
【
図2】
図2は、駆動電流と切替信号の関係を示す図。
【
図3】
図3は、低速側における制御方法の一つの例を示す図。
【
図4】
図4は、低速側における制御方法の他の例を示す図。
【
図5】
図5は、低速側における制御方法のフローチャート。
【
図6】
図6は、高速側における制御方法の例を示す図。
【
図8】
図8は、高速側における制御方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に添付図面を参照して、実施形態にかかるステッピングモータの制御装置、ステッピングモータの制御方法およびステッピングモータ駆動システムを詳細に説明する。なお、これらの実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、ステッピングモータの制御装置の一つの実施形態を示す図である。1相分の構成を示す。本実施形態は、励磁コイル10に駆動電流を供給するHスイッチを構成するPMOSトランジスタ11、13、NMOSトランジスタ12、14を有する。
【0009】
PMOSトランジスタ11とNMOSトランジスタ12のソース・ドレイン路が、電源端子110と接地端子111間に直列に接続される。同様に、PMOSトランジスタ13とNMOSトランジスタ14のソース・ドレイン路が電源端子110と接地端子111間に直列に接続される。PMOSトランジスタ11とNMOSトランジスタ12のドレインは、出力端子112に接続される。PMOSトランジスタ13とNMOSトランジスタ14のドレインは出力端子113に接続される。出力端子112と113間に励磁コイル10が接続される。駆動電流を励磁コイル10に供給して磁界を発生させて、ステッピングモータのロータ(図示せず)を回転させる。励磁コイル10とロータは、ステッピングモータを構成する。ステッピングモータは制御装置と共に、ステッピングモータ駆動制御システムを構成する。
【0010】
各MOSトランジスタ11~14は、寄生ダイオード11D~14Dを有する。各寄生ダイオード11D~14Dは、逆方向のドレイン電流が流れる各々のMOSトランジスタのソース・ドレイン路に対して並列に接続される電流路を形成する。
【0011】
NMOSトランジスタ12のドレインを基準にしてソース・ドレイン間の電圧を検出する電圧検出回路20を備える。電圧検出回路20は、逆方向のドレイン電流が流れるNMOSトランジスタ12のドレイン・ソース間電圧を検出する。電圧検出回路20の検出値は、セレクト回路23に供給される。
【0012】
接地電位を基準にしてNMOSトランジスタ12のドレイン・ソース間電圧を検出する電圧検出回路21を備える。電圧検出回路21は、順方向のドレイン電流が流れるNMOSトランジスタ12のドレイン・ソース間電圧を検出する。電圧検出回路21の検出値は、セレクト回路23に供給される。セレクト回路23は、タイミング制御回路24によって電圧検出回路20、21のいずれか一方の出力を選択して駆動制御回路41に供給する。
【0013】
NMOSトランジスタ14には、電圧検出回路30、31、セレクト回路33、及びタイミング制御回路34が設けられる。
【0014】
電圧検出回路30は、ドレインを基準にして、逆方向のドレイン電流が流れるNMOSトランジスタ14のドレイン・ソース間電圧を検出する。電圧検出回路30の検出値は、セレクト回路33に供給される電圧検出回路31は、接地電位を基準として、順方向のドレイン電流が流れるNMOSトランジスタ14のソース・ドレイン電圧を検出する。電圧検出回路31の検出値は、セレクト回路33に供給される。
【0015】
セレクト回路33は、タイミング制御回路34によって電圧検出回路30、31のいずれか一方の出力を選択して駆動制御回路41に供給する。
【0016】
タイミング制御回路24、34は、各MOSトランジスタ11~14をオン/オフさせるタイミングを制御する。例えば、PMOSトランジスタ11とNMOSトランジスタ14がオンするチャージモード、NMOSトランジスタ12とPMOSトランジスタ13がオンするディスチャージモード、NMOSトランジスタ12と14がオンする低速ディスチャージモード等に切替える。
【0017】
また、タイミング制御回路24、34は、各マイクロステップの駆動電流の設定値を変更する切替信号をPWM制御回路40、及び駆動制御回路41に供給する。PWM制御回路40は、切替信号に応答して、駆動電流の設定値に応じたデューティ比のPWM信号を生成して、各MOSトランジスタ11~14に供給する。
【0018】
励磁モードが同じ場合、切替信号の周波数に応じてステッピングモータの回転周波数は変化する。従って、駆動制御回路41は、切替信号の周波数によりステッピングモータの回転周波数を検知することができる。この為、便宜的に、切替信号の周波数とステッピングモータの回転周波数の両方を示す用語として回転周波数を用いる場合がある。
【0019】
また、タイミング制御回路24、34は、誘起電圧あるいは駆動電流を検出するタイミングを制御する信号をセレクト回路23、33に供給する。セレクト回路23、33は、タイミング制御信号に応答して選択された電圧検出回路20、21、30、31の出力(誘起電圧情報)を駆動制御回路41に供給する。
【0020】
駆動制御回路41は、セレクト回路23、33からの出力に応じて励磁コイル10に供給する駆動電流を制御する制御信号をPWM制御回路40に供給する。駆動制御回路41には参照電圧Vrefを供給する電源50が接続されている。参照電圧Vrefは、駆動電流を設定する電圧として用いる。例えば、駆動電流の上限値を設定する電圧として用いる。
【0021】
駆動制御回路41は、モード設定部411を有する。モード設定部411は、ステッピングモータの励磁モードを設定する。また、モード設定部411は、誘起電圧情報に基づいて励磁モードを設定する。励磁モードは、2相励磁、1-2相励磁、W1-2相励磁、2W1-2相励磁、4W1-2相励磁等を含む。
【0022】
駆動制御回路41は、テーブル生成部412を有する。テーブル生成部412は、誘起電圧情報に基づいて、誘起電圧を検出する閾値を補正したデータテーブルを作成する。回転周波数が低い為に発生する誘起電圧が小さい低速側の動作領域においては、周波数に比例して小さくなる閾値の補正テーブルを作成する。これにより、回転周波数の小さい動作領域においてもトルクに応じて駆動電流を適切に調整することができる。
【0023】
駆動制御回路41は、記憶部413を有する。記憶部413は、励磁モードに関連した駆動電流の設定値、切替信号の周波数等の各種パラメータや誘起電圧情報等を記憶する。
【0024】
駆動制御回路41は、電流制御部414を有する。電流制御部414は、誘起電圧と閾値との比較結果に応じて駆動電流を制御する。例えば、誘起電圧が閾値よりも大きい場合には、駆動電流を減少させる制御を行う。
【0025】
駆動制御回路41は、演算部415を有する。演算部415は、駆動電流がゼロになった時点から次の切替信号が供給されるまでの判定時間と記憶部413に記憶されている所定の設定時間との時間差を算出する。所定の設定時間は、例えば、演算部415の処理速度を考慮して設定する。例えば、判定時間内に発生するクロック信号(図示せず)をカウントすることで、駆動電流がゼロになった時点から次の切替信号までの判定時間を算出する。尚、切替信号の周期は、励磁モードに応じて予め設定することができる。従って、駆動電流がゼロになった時点と予め設定した切替信号の周期の情報から判定時間を算出してもよい。
【0026】
PWM制御回路40は、オン/オフを制御するPWM信号を各MOSトランジスタ11~14のゲートに供給する。PWM制御回路40は、駆動制御回路41からの制御信号に応じて、各MOSトランジスタ11~14のオン時間を制御して励磁コイル10に供給される駆動電流を増減させ、ステッピングモータの励磁モードを変更する制御を行うPWM信号を生成する。
【0027】
駆動制御回路41は、出力端子112、113において検出される誘起電圧に従って、駆動電流を調整する制御信号をPWM制御回路40に供給する。必要とするトルクに対して駆動電流が余剰な場合には、誘起電圧が発生することが知られている。従って、誘起電圧に応じて駆動電流を調整することで、余剰な駆動電流の供給を回避して消費電力を効率的に削減することができる。
【0028】
誘起電圧は、駆動電流がゼロの時の出力電圧として現れる。従って、駆動電流がゼロの時の出力端子112、あるいは113の電圧を検出することで、誘起電圧を検出する。すなわち、誘起電圧は駆動電流がゼロの時の出力電圧として捉える。
【0029】
例えば、駆動電流がゼロの時にNMOSトランジスタ12をオフにし、その時の出力端子112の電圧、すなわち、NMOSトランジスタ12のソース・ドレイン間電圧により誘起電圧を検出する。また、NMOSトランジスタ12がオンの時のソース・ドレイン間電圧を検出し、その電圧がゼロになった時に駆動電流がゼロになったことを検出する。NMOSトランジスタ14についても同様である。
【0030】
従って、NMOSトランジスタ12、14の導通状態に応じて誘起電圧を検出し、あるいは、駆動電流がゼロになったことを検出する。
【0031】
駆動制御回路41は、判定時間が所定の時間よりも短くなった時に、切替信号の周期を長くする励磁モードに変更する制御を行う信号をPWM制御回路40とタイミング制御回路24、34に供給する。これにより、駆動電流のマイクロステップの幅を広げて誘起電圧の検出を確実に行う期間を確保し、トルクに応じて発生する誘起電圧に基づいて駆動電流を制御する。
【0032】
本実施形態によれば、回転周波数が低い為に誘起電圧が小さい動作領域においては、誘起電圧の閾値を周波数に比例して小さくする。これにより、誘起電圧が検出できる動作範囲を拡大することができる為、トルクに応じた駆動電流の制御範囲を広げることができる。従って、脱調を回避しつつ、消費電力を適切に低減することができる。
【0033】
また、回転周波数が高速の為に誘起電圧の検出が困難になった場合には、マイクロステップの幅を広げる励磁モードに変更することで誘起電圧の検出を可能にする。これにより、検出した誘起電圧に基づいてトルクに応じて駆動電流を調整する。すなわち、トルクに応じた駆動電流の調整を行い、脱調の回避と低消費電力化を図ることができる。
【0034】
また、低速側における閾値の補正も、高速側の切替信号の周期の調整も、実際の動作状態に応じてリアルタイムで行うことができる。すなわち、ステッピングモータの動作状態に応じた適切な制御を、広範囲な動作領域において行うことができる。
【0035】
図2は、駆動電流と切替信号の関係を示す図。上段にマイクロステップの駆動電流波形L1、下段に切替信号を示す。切替信号の立上りタイミングで、ステップが切替わっている。
図2は、16ステップでステッピングモータが1回転する励磁モードの例を示す。例えば、切替信号によりステップ数を変更することで、励磁モードを変更する制御を行う。
【0036】
切替信号の各タイミングS1からS16においてPWM信号のデューティ比を調整することで、各ステップにおける駆動電流の値が調整される。
図2のタイミングS4からS5では、PWM信号のデューティ比によって、駆動電流の上限値を調整している。
【0037】
各ステップにおける駆動電流の値は、各MOSトランジスタ11~14のオン/オフの制御によって維持される。駆動電流がゼロに設定されるステップにおいて、誘起電圧の検出、あるいは、駆動電流がゼロになった時点の検出を行う。すなわち、駆動電流がゼロ(0%)に設定されるステップが、誘起電圧を検出してトルクに応じた制御を行う為の検出期間となる。
図2に示す検出期間は、タイミングS8からS9の間、及び、タイミングS16からS1の間のステップである。
【0038】
ステップ数が同じ励磁モードにおいては、切替信号の周波数によりステッピングモータの回転周波数が変化する。すなわち、切替信号の周波数を上げることによって、ステッピングモータの回転周波数が上昇する。従って、切替信号の周波数は、ステッピングモータの回転周波数を示す指標となる。
【0039】
図3は、低速側における制御方法の例を示す図である。横軸にステッピングモータの回転周波数、縦軸に誘起電圧の閾値を示す。すなわち、横軸の回転周波数は、切替信号の周波数に対応する。以降、同様である。実線L2は、誘起電圧を示す。
【0040】
ステッピングモータを無負荷状態で動作させ、誘起電圧が飽和状態となった時の切替信号の周波数を回転周波数f3とする。このときの回転周波数f3における誘起電圧V3を検出する。誘起電圧が、検出された誘起電圧V3よりも大きい時には必要とするトルクに対して駆動電流が余剰に供給されている状態を示す。従って、誘起電圧V3は、回転周波数f3よりも高い回転周波数における駆動電流の制御の為の閾値とする。
【0041】
次に、例えば、切替信号の周波数を回転周波数f1に下げ、その時の誘起電圧V1を検出する。回転周波数f1は、回転周波数f3の1/2である。
【0042】
回転周波数fにおける閾値の補正データ線L3は、回転周波数f1、f3と誘起電圧V1、V3の値から、式(1)で示される。V0は、回転周波数がゼロ(0)の時の閾値として算出される。式(1)の算出は、演算部415で行う。
V=V0+[(V3-V1)/(f3-f1)]×f ・・・ (1)
【0043】
式(1)により得られる閾値Vと、対応する回転周波数fで検出された誘起電圧の値を比較する。閾値よりも誘起電圧が高い場合には駆動電流を減らす制御を行う。逆に、閾値よりも誘起電圧が低い場合には、駆動電流を増やす制御を行う。かかる制御により、低速動作における脱調の回避と、トルクに応じて駆動電流を適切に調整することができる。
【0044】
図4は、低速側における制御方法の他の例を示す図である。横軸にステッピングモータの回転周波数、縦軸に誘起電圧の閾値を示す。実線L4は、誘起電圧を示す。
図3の場合と同様に、誘起電圧が飽和状態となる時の回転周波数f3における誘起電圧V3を検出し、記録する。
【0045】
切替信号の周波数を、例えば、回転周波数f3の半分の回転周波数f1に下げる。誘起電圧の検出が出来ない場合には、検出できる状態となるまで回転周波数を上昇させる。誘起電圧が検出された下限の回転周波数f2とその時の誘起電圧V2を記録する。
【0046】
閾値の補正データ線L5は、回転周波数f2、f3とその時の誘起電圧V2、V3の値から式(2)で示される。
V=V0+[(V3-V2)/(f3-f2)]×f ・・・ (2)
回転周波数f2からf3における低速動作範囲において、式(2)により得られる閾値と対応する回転周波数fで検出された誘起電圧を比較する。閾値よりも誘起電圧が高い場合には駆動電流を減らす制御を行う。逆に、閾値よりも誘起電圧が低い場合には、駆動電流を増やす制御を行う。かかる制御により、低速動作における脱調の回避と、トルクに応じて駆動電流を適切に調整することができる。
【0047】
上記制御方法の例においては、一つの補正データ線の場合を説明したが、複数の補正データ線を設けても良い。例えば、
図3の例において、回転周波数f1とf3の中間の回転周波数とその時の誘起電圧の値を用いて、式(1)と同様に、回転周波数f3から中間回転周波数までの範囲、及び、中間回転周波数から回転周波数f1までの範囲、における補正データ線を算出してもよい。尚、回転周波数f1は、回転周波数f3の1/2に限らず、1/3等、任意に設定してもよい。
【0048】
図5は、低速側における制御方法のフローチャートである。上記制御方法に対応する。低速側の閾値をセットして、例えば無負荷状態で動作をスタートさせる(S101)。初期値は、記憶部413に記憶される。各マイクロステップに対応した駆動電流の値と誘起電圧、励磁モード等が初期値としてセットされる。次に、切替信号の周波数を上げることにより、回転周波数を上げる(S102)。
【0049】
誘起電圧が最大になったか否かを判断する(S103)。すなわち、誘起電圧が飽和したか否かを検知する。誘起電圧が最大になった場合(S103:Yes)は、その時の回転周波数f3と誘起電圧V3を記録する(S104)。誘起電圧が最大になっていない場合(S103:No)は、更に回転周波数を上昇させる。次に、切替信号の周波数を下げることにより、回転周波数を下げる(S105)。
【0050】
回転周波数がf3/2になった場合(S106:Yes)は、誘起電圧の検出を行う。誘起電圧の発生が検出された場合(S107:Yes)は、その時の回転周波数f1と検出した誘起電圧V1を記録する(S108)。
【0051】
誘起電圧が検出されなかった場合(S107:No)には、回転周波数を上げる(S109)。回転周波数の上昇により誘起電圧が発生した場合(S110:Yes)には、その時の回転周波数f2と検出した誘起電圧V2の値を記録する(S111)。誘起電圧が発生していない場合(S110:No)には、回転周波数を上昇させる。
【0052】
式(1)または式(2)を用いて、夫々の回転周波数に応じて補正された閾値を算出し、補正テーブルを作成する(S112)。誘起電圧が発生している場合は式(1)を用い、発生していない場合は式(2)を用いる。補正テーブルは、記憶部413に記憶される。補正テーブルの閾値と動作中に検出された誘起電圧の比較結果に応じて、駆動電流を制御する(S113)。
【0053】
かかる制御のフローにより、補正した閾値に基づいて、低速側における、トルクに応じた制御の範囲を拡大することができる。従って、必要なトルクに応じて駆動電流をリアルタイムで制御する為、脱調を回避しつつ消費電力を低減することができる。
【0054】
図6は、高速側における制御方法を説明する為の図である。上段の実線L6は駆動電流、一点鎖線L7は出力電圧を示し、下段は切替信号を示す。
図2のタイミングS8からS9の間、すなわち、駆動電流の設定値がゼロ(0%)のステップに対応する。
【0055】
誘起電圧は、駆動電流がゼロになった後の出力電圧として検出される。従って、
図6において、駆動電流がゼロとなった時点t0から次の切替信号が供給されるタイミングS9までの判定時間tの間における出力電圧の上昇分が誘起電圧を示す。
【0056】
切替信号の周波数が上昇し、高速動作となった場合にはステップ間の周期Tが短くなる。駆動電流は、出力電圧の立下りに対して、一定の時間遅れを持って低下する。従って、周期Tが短くなると、判定時間tが短くなり、誘起電圧の検出が困難になる。この為、判定時間tが所定の検出可能時間よりも短くなった場合には、周期Tが長い励磁モードに変更する。例えば、4W1-2相励磁を2W1-2相励磁に変更する。
【0057】
この制御により、誘起電圧の検出を確実に行い、誘起電圧と閾値の比較によって駆動電流を適切に制御することができる。すなわち、高速側における誘起電圧の検出範囲を拡大させ、閾値に対して誘起電圧が高い場合には駆動電流を減らすことで、低消費電力化を図ることができる。
【0058】
図7は、励磁モードを変更する制御方法の例を示す為の図である。左側に励磁モードを変更する前の状態、右側に励磁モードを変更した後の状態を示す。
左側に示す駆動電流波形L8は、切替信号に応じてタイミングS0、S01からS07への移行に応じて駆動電流が小さくなるステップを有する。
【0059】
右側に示す駆動電流波形L9は、周波数が変更された切替信号に応じて、駆動電流波形L8の2段分のステップに相当する、ステップの幅が長い励磁モードに変更されている。例えば、左側に示す4W1-2相励磁のモードを、右側に示す2W1-2相励磁のモードに変更する。
【0060】
励磁モードの変更により、切替信号間の周期が長くなり、誘起電圧の判定期間を長くすることができる。これにより、誘起電圧の検出と検出した誘起電圧に基づく駆動電流の調整を行う為、トルクに応じて駆動電流を適切に制御することができる。
【0061】
なお、励磁モードを変更しても回転周波数は同じにすることができる。例えば、1個の切替信号に対して駆動電流を、ステップ1段分変化させていた励磁モードを、ステップ2段分変化させる励磁モードに変更することにより、切替信号の周波数が1/2になってもステッピングモータの回転周波数を同じにすることができる。従って、判定時間が短くなった場合に自動的に励磁モードを変更してもステッピングモータの回転周波数を同じにする為、ユーザーは励磁モードが変更されたことを意識することなく、ステッピングモータを使用することができる。
【0062】
図8は、高速側における制御方法のフローチャートである。ステッピングモータの回転周波数を上げ、高速側での動作をスタートさせ、駆動電流の設定値がゼロのステップでの検知を行う(S201)。
【0063】
出力電圧がゼロになったか否かを検出する(S202)。出力電圧がゼロになったことを検出した場合(S202:Yes)は、駆動電流がゼロになる時点の検出を行う(S203)。出力電圧がゼロでない場合(S202:No)には、検出を継続する。駆動電流がゼロになったことを検出した場合(S203:Yes)は、ゼロになった時点から次の切替信号が供給されるまでの時間、すなわち判定時間と所定の設定時間を比較する(S204)。駆動電流がゼロにならない場合(S203:No)は、検出を継続する。
【0064】
判定時間が設定時間よりも短い場合(S204:Yes)は、励磁モードの変更が可能となった判定回数としてカウントする(S205)。判定時間が設定時間よりも長い場合(S204:No)は、ステップ数を増やす励磁モードへ変更する(S206)。すなわち、ステップ幅を短くする励磁モードへ変更する。ステップの段数を増やすことにより、回転角度を細かく制御するマイクロステップによる特性を活かすことができる。
【0065】
判定回数のカウント数が所定回数以上になった場合(S207:Yes)は、ステップ数を減らす、すなわち、ステップ幅を長くする励磁モードへ変更する(S208)。これにより、誘起電圧を検知できる時間が長くなる為、誘起電圧を確実に検出することができる。所定回数以上になった場合に励磁モードを変更する制御とすることで、励磁モードの変更の可否判定の信頼性を高めることができる。判定回数のカウント数が所定回数より少ない場合(S207:No)は、判定時間と設定時間を比較する処理を継続する。
【0066】
判定時間と所定の設定時間との比較に応じて励磁モードを変更することにより、高速側において、誘起電圧の検出を確実に行うことができる。これにより、検出した誘起電圧に応じて駆動電流を適切に制御する為、必要とするトルクに対して余剰の駆動電流の供給を回避して低消費電力化を図ることができる。
【0067】
図9は、本実施形態の効果を説明する為の図である。横軸は回転周波数、縦軸は駆動電流の削減効果を相対的に示す。本実施形態のステッピングモータの制御装置、及びステッピングモータの制御方法によれば、低速動作側LAと高速動作側HAにおいて誘起電圧を検出することでトルクに応じて駆動電流を適切に制御している。
【0068】
すなわち、低速側LAにおいて、誘起電圧の閾値を周波数に比例させて低下させることにより、
図3で説明した様にトルクに応じた駆動電流の制御可能領域を破線L10から実線L11まで拡大することができる。また、高速側HAにおいて、切替信号の周期を長くすることにより誘起電圧が検出できる動作領域を、同様に破線L10から実線L11に示す範囲まで拡大させることができる。
【0069】
すなわち、余剰の駆動電流を削減して低消費電力化を図ることができる制御可能領域をDW3からDW1に拡大させることができる。広範囲の動作領域において必要なトルクに応じて駆動電流を適切に調整する為、脱調を回避しつつ、低消費電力化を図ることができる。
【0070】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
10 励磁コイル、11乃至14 MOSトランジスタ、11D乃至14D 寄生ダイオード、40 PWM制御回路、41 駆動制御回路。