(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】車載レーダー装置用レドーム
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/42 20060101AFI20220627BHJP
【FI】
H01Q1/42
(21)【出願番号】P 2019041588
(22)【出願日】2019-03-07
【審査請求日】2022-01-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000175766
【氏名又は名称】三恵技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】古林 宏之
(72)【発明者】
【氏名】山本 真平
(72)【発明者】
【氏名】高草木 誠
(72)【発明者】
【氏名】池増 竜帆
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特許第4813726(JP,B2)
【文献】米国特許第04999639(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00- 1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波透過性の基材の面方向に離間して並列するように配線されるヒーター線を備え、
前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の線ピッチ
が車載レーダー装置のレーダーの電磁波の波長の1.6~2.0倍に設定されていると共に、
前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の面占有率が10%超~25%に設定されていることを特徴とする車載レーダー装置用レドーム。
【請求項2】
前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の面占有率が10%超~20%に設定されていることを特徴とする請求項1記載の車載レーダー装置用レドーム。
【請求項3】
前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の線ピッチが前記車載レーダー装置のレーダーの電磁波の波長の1.7~2.0倍に設定されていることを特徴とする請求項1記載の車載レーダー装置用レドーム。
【請求項4】
電磁波透過性の基材の面方向に離間して並列するように配線されるヒーター線を備え、
前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の線ピッチ
が車載レーダー装置のレーダーの電磁波の波長の1.5~2.3倍に設定されていると共に、
前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の面占有率が10%超~20%に設定されていることを特徴とする車載レーダー装置用レドーム。
【請求項5】
電磁波透過性の基材の面方向に離間して並列するように配線されるヒーター線を備え、
前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の線ピッチが車載レーダー装置のレーダーの電磁波の波長の0.2~2.5倍に設定されていると共に、
前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の面占有率が10%超~15%に設定されていることを特徴とする車載レーダー装置用レドーム。
【請求項6】
隣り合って配線されている前記ヒーター線に流れる電流の方向が互いに略反平行であることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の車載レーダー装置用レドーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載レーダー装置の前側に設けられる車載レーダー装置用レドームに係り、特に融雪機能を有する車載レーダー装置用レドームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載レーダー装置用レドームとして、必要な電磁波の透過性の確保を図りつつ、融雪機能を発揮するレドームが知られており、このようなレドームとして特許文献1、2のレドームがある。特許文献1、2のレドームは、車載レーダー装置の電磁波照射方向と略直交するように設置される基材の表面に、ヒーター線が離間して並列するように配線される構造になっている。
【0003】
そして、特許文献1、2のレドームでは、車載レーダー装置用レドームとして必要な電磁波の透過性の確保を図るため、ヒーター線の直線部のピッチ等を調整してヒーター線の面積比率が10%以下となるように設定し、電磁波の減衰量の許容値2.5dBを実現するようにしている(特許文献1の段落[0052]、[0070]、特許文献2の段落[0048]、[0077]参照。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-66705号公報
【文献】特開2018-66706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1、2は、所望の電磁波の減衰量の許容値を実現するためにヒーター線の面積比率を10%以下に設定することを示しているものの、ヒーター線の線ピッチを具体的にどのように設定するのかは明らかにしていない。また、ヒーター線の面積比率を10%以下と少なく設定した場合には、融雪機能の低下も懸念される。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであり、レドームとして必要なレーダー用電磁波の透過性を得ることができると共に、高いヒーター性能による良好な融雪を行うことができる車載レーダー装置用レドームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車載レーダー装置用レドームは、電磁波透過性の基材の面方向に離間して並列するように配線されるヒーター線を備え、前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の線ピッチが車載レーダー装置のレーダーの電磁波の波長の0.2~2.5倍に設定されていると共に、前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の面占有率が10%超~35%に設定されていることを特徴とする。
これによれば、レドームとして必要な電磁波の透過性を得ることができると共に、面占有率の大きいヒーター線により、高いヒーター性能で良好な融雪を行うことができる。また、所定の線ピッチで並列するヒーター線により、レドームの電磁波透過領域の全体に亘ってバランスよく良好な融雪を行うことができる。また、電磁波透過領域の全体をバランスよく融雪できることから、電磁波透過領域の全体で電磁波の透過性能を安定させ、かかる観点からも優れた電磁波透過性能を得ることができる。
【0008】
本発明の車載レーダー装置用レドームは、前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の線ピッチが前記車載レーダー装置のレーダーの電磁波の波長の1.6~2.0倍に設定されていると共に、前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の面占有率が10%超~25%に設定されていることを特徴とする。
これによれば、高いヒーター性能で良好な融雪を行うことができると共に、より優れた電磁波の透過性能を発揮することができる。
【0009】
本発明の車載レーダー装置用レドームは、前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の面占有率が10%超~20%に設定されていることを特徴とする。
これによれば、高いヒーター性能で良好な融雪を行うことができると共に、電磁波の減衰量の許容値として2.0dB或いはこれに対応する許容値をクリアすることができ、より一層優れた電磁波の透過性能を発揮することができる。
【0010】
本発明の車載レーダー装置用レドームは、前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の線ピッチが前記車載レーダー装置のレーダーの電磁波の波長の1.7~2.0倍に設定されていることを特徴とする。
これによれば、より高いヒーター性能で良好、確実な融雪を行うことができると共に、電磁波の減衰量の許容値として2.0dB或いはこれに対応する許容値をクリアすることができ、より一層優れた電磁波の透過性能を発揮することができる。
【0011】
本発明の車載レーダー装置用レドームは、前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の線ピッチが前記車載レーダー装置のレーダーの電磁波の波長の1.5~2.3倍に設定されていると共に、前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の面占有率が10%超~20%に設定されていることを特徴とする。
これによれば、高いヒーター性能で良好な融雪を行うことができると共に、電磁波の減衰量の許容値として2.5dB或いはこれに対応する許容値をクリアすることができ、優れた電磁波の透過性能を発揮することができる。
【0012】
本発明の車載レーダー装置用レドームは、前記基材の電磁波透過領域で並列する前記ヒーター線の面占有率が10%超~15%に設定されていることを特徴とする。
これによれば、高いヒーター性能で良好な融雪を行うことができると共に、電磁波の減衰量の許容値として2.5dB或いはこれに対応する許容値をクリアすることができ、優れた電磁波の透過性能を発揮することができる。また、利用するレーダーの波長に合わせてヒーター線の線ピッチの設定の自由度、設計の自由度を高めることができる。
【0013】
本発明の車載レーダー装置用レドームは、隣り合って配線されている前記ヒーター線に流れる電流の方向が互いに略反平行であることを特徴とする。
これによれば、隣り合うヒーター線に流れる電流の方向が互いに略反平行のなるようにすることで、隣り合うヒーター線から放射される電磁波を逆位相とし、ヒーター線からの電磁放射を打ち消すことができ、より優れた電磁波透過性能を得ることができる。特に、隣り合って配線されている各々のヒーター線に流れる電流の方向が互いに略反平行にすることにより、全体に亘って非常に優れた電磁波透過性能を発揮することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車載レーダー装置用レドームによれば、レドームとして必要な電磁波の透過性を得ることができると共に、高いヒーター性能による良好な融雪を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による実施形態の車載レーダー装置用レドームの正面図。
【
図2】実施形態の車載レーダー装置用レドームの部分拡大縦断説明図。
【
図3】(a)は車載レーダー装置用レドームを構成する実施例の基材とヒーター線の背面図、(b)はそのA-A断面図。
【
図4】ヒーター線の線ピッチと線幅を説明する説明図。
【
図5】ヒーター線の面占有率とヒーター線の線ピッチと電磁波透過率の関係を測定した測定装置の模式図。
【
図6】76.5GHzにおけるヒーター線の面占有率とヒーター線の線ピッチ(単位:mm)と電磁波透過率の関係を示す実験例のグラフ。
【
図7】ヒーター線の面占有率とヒーター線の線ピッチ(レーダーとして適用する電磁波波長の倍数表示)と電磁波透過率の関係を示す実験例のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔実施形態の車載レーダー装置用レドーム〕
本発明による実施形態の車載レーダー装置用レドーム1は、
図1及び
図2に示すように、電磁波透過性の基体2と、基体2の面方向に離間して並列するように配線されるヒーター線3を備え、ヒーター線3が基体2の背面側に設けられている。図示例の基体2は、正面視で楕円形になっており、ヒーター線3は楕円形の面に沿うようにして配線されている。
図1中の10はエンブレム等のマークの文字等の記号部分であるマーク記号部であり、図示例では文字状のマーク記号部10になっている。
【0017】
基体2は、透明の前基材21と、後基材22とから構成され、前基材21と後基材22は絶縁性で電磁波透過性を有する。前基材21と、後基材22には、例えば同一材料で形成する等、複素誘電率に基づき定義される屈折率nが相互に整合する、又は、屈折率nが略同一或いは近接するものを用いると電磁波の透過性能向上の観点から好適である。前基材21と後基材22の近接する屈折率の数値範囲としては、前基材21と後基材22の屈折率の相違が0~10%の範囲内とすると良好である。
【0018】
ここでの屈折率nは比誘電率実数部εr'と比誘電率虚数部εr"から数式1として定義される量である。 透過性の観点から適用周波数における虚数部と実数部の比から数式2として定義される誘電正接(ロスタンジェント)tanδの大きさは0.1以下とすると好適である。また比誘電率実部の大きさは3以下とすると好適である。誘電正接と非誘電率実部の大きさをこれらの数値以下とすることにより、レドームに必要とされる反射率と内部損失の低減を確実にすることが可能となる。
【0019】
【0020】
【0021】
前基材21と、後基材22は、合成樹脂、ガラス、セラミックス等の本発明の趣旨の範囲内で適宜の材料を用いることが可能であるが、好適には絶縁性の合成樹脂とするとよい。透明の前基材21は、良好な視認性を確保するため可視光線透過率50%以上の無色材料又は有色材料とすることが好ましい。
【0022】
前基材21を絶縁性の透明合成樹脂とする場合の材料は、適用可能な範囲で適宜であり、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、ポリスチレン(PS)、シクロオレフィンポリマー(COP)等の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、又、添加剤を含有させてもよい。
【0023】
後基材22を絶縁性の合成樹脂とする場合の材料は、適用可能な範囲で適宜であり、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合(ASA)、アクリロニトリル-エチレンプロピルラバー-スチレン共重合体(AES)等の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、又、添加剤を含有させてもよい。
【0024】
前基材21の背面211にはマーク記号部10に対応する位置に凹部212が形成され、後基材22の表面221にはマーク記号部10に対応する位置に凸部222が形成され、前基材21と後基材22は、対応する位置に形成されている凹部212と凸部222を嵌合するようにして積層配置されている。後基材22の表面221の凸部222と凸部222の周囲の平面部223には、全面に亘って電磁波透過性金属層23が密着して設けられている。
【0025】
電磁波透過性金属層23は、電磁波透過性で金属光沢を有する不連続金属層で構成され、光輝性で一体的な視認性を有し、後基材22の表面221に無電解めっき、蒸着又はスパッタ等で形成されている。電磁波透過性金属層23を光輝性で一体的な視認性を有する不連続金属層とする場合、例えばニッケル若しくはニッケル合金、クロム若しくはクロム合金、コバルト若しくはコバルト合金、錫若しくは錫合金、銅若しくは銅合金、銀若しくは銀合金、パラジウム若しくはパラジウム合金、白金若しくは白金合金、ロジウム若しくはロジウム合金、金若しくは金合金等から構成することが可能である。
【0026】
尚、電磁波透過性金属層23は、電磁波透過性で金属光沢と一体的な視認性を有する不連続金属層以外にも、本発明の趣旨の範囲内で適宜の電磁波透過性金属層とすることが可能であり、例えば蒸着又はスパッタ等で形成されたシリコンやゲルマニウム等の半導体層、或いはこの半導体と可視光反射率が50%以上の金属(例えば金、銀、銅、アルミニウム、白金、パラジウム、鉄、ニッケル、クロム)等の光輝金属との合金層等とすることが可能である。また、後基材22の表面221と電磁波透過性金属層23との間には、例えば無電解めっき層を形成しやすくする改質表面を形成するための下地層など、必要に応じて透明下地層等の下地層を設けることも可能である。
【0027】
後基材22の凸部222の周囲の平面部223には、電磁波透過性金属層23の表面側に積層されて加飾層である有色層24が密着して設けられており、換言すれば前基材21の背面211の凹部212の周囲の平面部213に対応する領域に有色層24が設けられている。有色層24は、電磁波透過性を有し、印刷、又は塗装マスクを用いた塗装等により、電磁波透過性金属層23の表面に固着して形成されている。
【0028】
前基材21は、電磁波透過性金属層23と有色層24が形成された後基材22の前側に固着して設けられる。前基材21の固着は、例えば前基材21の背面211と、後基材22に形成された電磁波透過性金属層23及び有色層24との間に接着剤の接着層を介して接着する構成、或いは電磁波透過性金属層23と有色層24が形成された後基材22の前側に射出成形で前基材21となる溶融樹脂を流し込み、前基材21の背面211を後基材22に形成された電磁波透過性金属層23及び有色層24に融着する構成等とすることが可能である。
【0029】
また、上記構成に代え、前基材21の背面211の凹部212の周囲の平面部213に、印刷、又は塗装マスクを用いた塗装等により、有色層24を固着して形成し、後基材22に形成された電磁波透過性金属層23と、前基材21の有色層24及び前基材21の凹部212を、接着剤の接着層を介して接着等で固着する構成としてもよい。
【0030】
ヒーター線3は、透明の前基材21と後基材22とから構成される基体2の背面側に設けられていると共に、マーク記号部10の後側に配置されている。更に、ヒーター線3は、電磁波透過性の基材に相当する後基材22の背面224に沿うように配線されていると共に、後基材22の背面224の面方向に離間して並列するように配線されている。ヒーター線3は、例えばITO膜のような透明導電膜、ニクロム線、鉄クロム線、カーボン繊維等の適用可能な適宜の発熱線とすることが可能であり、後基材22の背面224に印刷、蒸着、スパッタ、めっき、ワイヤーボンディング等で形成されて配線される。
【0031】
ヒーター線3は、基体2又は基材に相当する後基材22の電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の線ピッチdが、車載レーダー装置100のレーダーの電磁波の波長(車載レーダー装置100のレーダー機能を発揮するレーダー電磁波の波長で、空気中の波長)或いはミリ波の空気中の波長の0.2~2.5倍になるように設定して設けられていると共に、電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の面占有率が10%超~35%になるように設定して設けられている。ここでヒーター線3の線ピッチdは、隣り合うヒーター線3の幅方向の中心位置間の距離である。また、ヒーター線の面占有率は、(ヒーター線の線幅w/ヒーター線の線ピッチd)×100で算出される値である(
図4参照)。
【0032】
好適には、ヒーター線3は、基体2又は基材に相当する後基材22の電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の線ピッチdが、車載レーダー装置100のレーダーの電磁波の波長(空気中の波長)の1.6~2.0倍になるように設定して設けられると共に、電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の面占有率が10%超~25%になるように設定して設けられる構成とするとよい。更に、この好適な構成において、ヒーター線3は、基体2又は基材に相当する後基材22の電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の面占有率が10%超~20%になるように設定して設けられる構成とするとより好適である。また、この好適な構成において、基体2又は基材に相当する後基材22の電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の線ピッチdが、車載レーダー装置100のレーダーの電磁波の波長(空気中の波長)の1.7~2.0倍になるように設定して設けられる構成とするとより好適である。
【0033】
また、好適には、ヒーター線3は、基体2又は基材に相当する後基材22の電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の線ピッチdが、車載レーダー装置100のレーダーの電磁波の波長(空気中の波長)の1.5~2.3倍になるように設定して設けられると共に、電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の面占有率が10%超~20%になるように設定して設けられる構成とするとよい。
【0034】
また、好適には、ヒーター線3は、基体2又は基材に相当する後基材22の電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の面占有率が10%超~15%になるように設定して設けられる構成とするとよい。
【0035】
本実施形態におけるヒーター線3は、その両端がコネクタ4に電気的に接続され且つ機械的に固定されており、コネクタ4を介してヒーター線3に電力が供給され、ヒーター線3が発熱するようになっている。そして、コネクタ4から延びるヒーター線3は、後基材22の背面224の面方向に蛇行して折り返すように配線されて一連で延びて形成されており、隣り合って配線されているヒーター線3に流れる電流の方向が互いに略反平行或いは反平行となるように設定されている。
【0036】
ヒーター線3の後側の位置には、背面材6が配設され、基体2に固着して設けられている。背面材6は、絶縁性で電磁波透過性を有し、後基材22と同一形状等で形成されている。背面材6は、前基材21及び後基材22と、複素誘電率に基づき定義される屈折率が相互に整合する、又は、屈折率が略同一或いは近接するものを用いると電磁波の透過性能向上の観点から好適であり、例えば後基材22と同一材料で形成すると好適である。
【0037】
本例では、後基材22の背面224のヒーター線3が配線されていない部分に充填されるようにして接着層5設けられており、接着剤による接着層5によって背面材6と後基材22が接着されている。接着層5は、絶縁性で電磁波透過性を有する適用可能な適宜の材料で形成することができ、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等とすることが可能である。尚、ヒーター線3は、背面材6の表面61に印刷等で形成して配線することも可能である。
【0038】
そして、車載レーダー装置用レドーム1は、車載レーダー装置100の前方に配置されて車両に取り付けられる。尚、図示例の車載レーダー装置用レドーム1はエンブレム形状のレドームとしたが、本発明の車載レーダー装置用レドームは、バンパー等の適宜の車両実装部品で構成することが可能である。
【0039】
本実施形態の車載レーダー装置用レドーム1によれば、レドームとして必要な電磁波の透過性を得ることができると共に、面占有率の大きいヒーター線3により、高いヒーター性能で良好な融雪を行うことができる。また、所定の線ピッチdで並列するヒーター線3により、レドームの電磁波透過領域Rの全体に亘ってバランスよく良好な融雪を行うことができる。また、電磁波透過領域Rの全体をバランスよく融雪できることから、電磁波透過領域Rの全体で電磁波の透過性能を安定させ、かかる観点からも優れた電磁波透過性能を得ることができる。
【0040】
また、電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の線ピッチdを、車載レーダー装置100のレーダーの電磁波の波長の1.6~2.0倍になるように設定して設けると共に、電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の面占有率を10%超~25%になるように設定する好適な構成とする場合には、高いヒーター性能で良好な融雪を行うことができると共に、より優れた電磁波の透過性能を発揮することができる。特に、この好適な構成において、電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の面占有率を10%超~20%になるように設定する場合には、高いヒーター性能で良好な融雪を行うことができると共に、電磁波の減衰量の許容値として2.0dB或いはこれに対応する許容値をクリアすることができ、より一層優れた電磁波の透過性能を発揮することができる。また、この好適な構成において、電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の線ピッチdを、車載レーダー装置100のレーダーの電磁波の波長の1.7~2.0倍になるように設定して設ける場合には、より高いヒーター性能で良好、確実な融雪を行うことができると共に、電磁波の減衰量の許容値として2.0dB或いはこれに対応する許容値をクリアすることができ、より一層優れた電磁波の透過性能を発揮することができる。
【0041】
また、電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の線ピッチdを、車載レーダー装置100のレーダーの電磁波の波長の1.5~2.3倍になるように設定して設けると共に、電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の面占有率を10%超~20%になるように設定する好適な構成とする場合には、高いヒーター性能で良好な融雪を行うことができると共に、電磁波の減衰量の許容値として2.5dB或いはこれに対応する許容値をクリアすることができ、優れた電磁波の透過性能を発揮することができる。
【0042】
また、基体2又は基材に相当する後基材22の電磁波透過領域Rで並列するヒーター線3の面占有率を10%超~15%になるように設定して設ける好適な構成とする場合には、高いヒーター性能で良好な融雪を行うことができると共に、電磁波の減衰量の許容値として2.5dB或いはこれに対応する許容値をクリアすることができ、優れた電磁波の透過性能を発揮することができ、更に、ヒーター線3の線ピッチdの設定の自由度、設計の自由度を高めることができる。
【0043】
また、隣り合うヒーター線3に流れる電流の方向が互いに略反平行或いは反平行となるようにすることで、隣り合うヒーター線3・3から放射される電磁波を逆位相とし、ヒーター線3からの電磁放射を打ち消すことができ、より優れた電磁波透過性能を得ることができる。特に、隣り合って配線されている各々のヒーター線3に流れる電流の方向を互いに略反平行或いは反平行とすることにより、全体に亘って非常に優れた電磁波透過性能を発揮することができる。
【0044】
〔ヒーター線の面占有率とヒーター線の線ピッチと電磁波透過率の関係に関する実験例〕
本発明の車載レーダー装置用レドームの電磁波透過性の基材に相当する合成樹脂板として、
図3及び
図5に示す、比誘電率2.665、誘電正接0.01を有するAES(アクリロニトリル-エチレンプロピルラバー-スチレン共重合体)で厚さ5.993mmに形成された合成樹脂板71を用い、この合成樹脂板71に面抵抗0.2Ω/□のヒーター線72を蛇行するように折り返して配線した。ヒーター線72は、電磁波透過領域R’にヒーター線72の直線部が一定間隔を開けて並列するように配線し、ヒーター線72の面占有率とヒーター線72の線ピッチdを変更しながら実験を行った(
図4参照)。
【0045】
実験の測定は、KEYCOM製レーダーアライメントシステム(RAS)型式SM5899を用いて実施した。
図5にこのシステムにおける電磁波発信部73、受信部74、評価装置75を模式的に示す。送信する電磁波は76.5GHzの電磁波であり、EWはその電磁波の伝搬方向である。ここでの合成樹脂板71の厚さ5.993mmは、76.5GHzにおける合成樹脂板71の半波長の丁度5倍に相当する。
【0046】
そして、合成樹脂板71のヒーター線72側から電磁波を照射すると共に、電磁波透過領域R’内のヒーター線72の面占有率5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%の各々についてヒーター線72の線ピッチdを変更するようにし、電磁波の透過率の測定を行った。各測定時にヒーター線72に電流は流していない。この測定結果を
図6、
図7に示す。
【0047】
図6及び
図7により、レドームとして必要な電磁波の透過性の確保と、良好な融雪が可能な高いヒーター性能の確保の観点からは、基材に相当する合成樹脂板71の電磁波透過領域R’で並列するヒーター線72の線ピッチdを、車載レーダー装置のレーダーの電磁波に相当する電磁波発信部73による電磁波の波長(空気中の波長)の0.2~2.5倍、好適には1.6~2.0倍、より好適には1.7~2.0に設定し、電磁波透過領域R’で並列するヒーター線72の面占有率を10%超~35%、好適には10%超~25%、より好適には10%超~20%に設定することが好ましい。これによると例えば、76/77GHz帯レーダーに適用する場合、76.0GHzの空気中の電磁波の波長は3.94mm、76.0GHzの空気中の電磁波の波長は3.89mmであるので、ヒーター線72の線ピッチdを0.78~9.73mm、好適には6.30~7.78mm、より好適には6.69~7.78mmに設定し、電磁波透過領域R’で並列するヒーター線72の面占有率を10%超~35%、好適には10%超~25%、より好適には10%超~20%に設定することが好ましい。尚、
図6は76.5GHz(空気中の電磁波の波長は3.92mm)の場合の例示である。
【0048】
また、基材に相当する合成樹脂板71の電磁波透過領域R’で並列するヒーター線72の線ピッチdを、車載レーダー装置のレーダーの電磁波に相当する電磁波発信部73による電磁波の波長(空気中の波長)の1.5~2.3倍に設定し、電磁波透過領域R’で並列するヒーター線72の面占有率を10%超~20%に設定する構成としても、高いヒーター性能で良好な融雪を行うことができると共に、電磁波の減衰量の許容値として2.5dB或いはこれに対応する許容値をクリアすることができて良好である。
【0049】
また、基材に相当する合成樹脂板71の電磁波透過領域R’で並列するヒーター線72の面占有率を10%超~20%に設定する構成としても、高いヒーター性能で良好な融雪を行うことができると共に、電磁波の減衰量の許容値として2.5dB或いはこれに対応する許容値をクリアすることができ、更に設計の自由度も向上できて良好である。
【0050】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記変形例や追記した内容も含まれる。
【0051】
例えば本発明の車載レーダー装置用レドームは、隣り合って配線されているヒーター線に流れる電流の方向が互いに略反平行或いは反平行である構成とすると好適であるが、隣り合って配線されているヒーター線に流れる電流の方向が互いに略反平行或いは反平行でない構成の場合も包含する。また、本発明の車載レーダー装置用レドームにおける電磁波透過性の基材は、上記実施形態の前基材21と後基材22が設けられる場合の後基材22に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で適宜であり、ヒーター線が面方向に配線される適宜の基材が含まれる。
【0052】
また、本発明の車載レーダー装置用レドームが対象とするレーダーの電磁波は適用可能な範囲で適宜であり、車載レーダーとして実用化されている24/26GHz帯、76/77GHz帯、77/81GHz帯等に加え、これら以外のレーダー用の電磁波にも適用可能であり、適宜の周波数に対応してヒーター線の設置パターンを設定して本発明を適用することが可能である。更に、より短波長のレーダーが実用化された際にも同様にヒーター線の設置パターンを設定して本発明を適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、車載レーダー装置用レドームに利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1…車載レーダー装置用レドーム 2…基体 21…前基材 211…背面 212…凹部 213…平面部 22…後基材 221…表面 222…凸部 223…平面部 224…背面 23…電磁波透過性金属層 24…有色層 3…ヒーター線 4…コネクタ 5…接着層 6…背面材 61…表面 10…マーク記号部 100…車載レーダー装置 R、R’…電磁波透過領域 d…ヒーター線の線ピッチ w…ヒーター線の線幅 71…合成樹脂板 72…ヒーター線 73…電磁波発信部 74…受信部 75…評価装置 EW…電磁波の伝搬方向