(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】熱応答性溶液、及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
B01D 61/00 20060101AFI20220627BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
B01D61/00 500
C02F1/44 K
C02F1/44 D
(21)【出願番号】P 2019539727
(86)(22)【出願日】2017-10-04
(86)【国際出願番号】 NZ2017050127
(87)【国際公開番号】W WO2018067019
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-10-02
(32)【優先日】2016-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519114786
【氏名又は名称】アクアフォータス テクノロジーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】AQUAFORTUS TECHNOLOGIES LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ブリッグス、ダリル ジョセフ
【審査官】小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】特公昭55-17605(JP,B2)
【文献】特開平9-75677(JP,A)
【文献】特開昭61-168686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22,61/00-71/82
C02F 1/44
B01D 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸透での使用に適切な溶媒中で下限臨界溶解温度を有した熱応答性浸透溶液において、
a)少なくとも1つの第3級アミン含有化合物と;
b)式I
【化1】
(式中、
c)R
1及びR
2は独立して、-C
1-C
7アルキル又は-C
3-C
7単環又は-フェニルから選択され;又は
d)R
1又はR
2の一方は、-O-(C
1-C
7アルキル)から選択され、他方は-C
1-C
7アルキルから選択される、又は
e)R
1及びR
2と式Iのカルボニルとを合わせたものが、
a.3~15員単環式ケトンもしくは
b.3~15員単環式複素環式ケトン;もしくは
c.アセトフェノン
を形成する)
の少なくとも1つのエノール化可能なカルボニルとを含み;
前記溶媒は水であり、
使用中、前記第3級アミン含有化合物又は前記少なくとも1つのエノール化可能なカルボニルの少なくとも1つは、20℃以上及び1気圧において水と非混和性である、熱応答性浸透溶液。
【請求項2】
前記溶液が式Iの2つ以上のエノール化可能なカルボニルの組合せを含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
前記溶液が2つ以上の第3級アミン含有化合物の組合せを含む、請求項1又は請求項2に記載の溶液。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第3級アミン含有化合物がルイス塩基である、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項5】
20℃以上及び1気圧において前記少なくとも1つの第3級アミン含有化合物が前記溶媒と非混和性である、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項6】
前記少なくとも1つの第3級アミン含有化合物が、共役、脂肪族、非対称、又は環状の第3級アミンから選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項7】
前記第3級アミンが:
【化2】
の1つ以上から選択される、請求項6に記載の溶液。
【請求項8】
前記少なくとも1つの第3級アミン含有化合物が-N(C
1-C
7アルキル)
3から選択される、請求項6に記載の溶液。
【請求項9】
前記少なくとも1つの第3級アミン含有化合物が-N(C
1-C
4アルキル)
3から選択される、請求項8に記載の溶液。
【請求項10】
前記少なくとも1つの第3級アミン含有化合物が-N(C
2アルキル)
3(トリエチルアミン)である、請求項9に記載の溶液。
【請求項11】
前記ルイス塩基が前記エノール化可能なカルボニルとルイス付加物を形成する、請求項4、又は請求項4に従属する場合の請求項5~10のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項12】
式IのR
1及びR
2が独立して-C
1-C
7アルキルから選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項13】
R
1及びR
2が独立してメチル及びエチルから選択される、請求項12に記載の溶液。
【請求項14】
R
1及びR
2と前記式Iのカルボニルとを合わせたものが、4~8員単環式ケトン又は単環式エステルから選択される環状構造を形成する、請求項1~10のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項15】
前記式Iの1つ以上のエノール化可能なカルボニルが
、アセトフェノン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2-プロパノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、4-メチル-2-ペンタノン、2-オクタノン、及び3-メチル-2-ブタノンから選択される、請求項1又は請求項2に記載の溶液。
【請求項16】
R
1及びR
2のそれぞれが、-ハロ、-OH、-CN、-NO
2、-C≡CH、-SH、-C
1-C
7アルキル、-(C
1-C
7アルキル)-OH、-NH
2、-NH(C
1-C
7アルキル)、-N(C
1-C
7アルキル)
2、-O(C
1-C
7アルキル)、-C(O)-O(-C
1-C
7アルキル)、-C(O)OH、-C(O)-H、又は-C(O)-(C
1-C
7アルキル)から選択される1つ以上の置換基でさらに置換される、請求項1~12及び14のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項17】
前記少なくとも1つの塩基対前記式Iの1つ以上のエノール化可能なカルボニルのモル比
が1:99又は99:1の比で存在する、請求項1~16のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項18】
前記少なくとも1つの塩基対前記式Iの1つ以上のエノール化可能なカルボニルのモル比
が1:50又は50:1の比で存在する、請求項17に記載の溶液。
【請求項19】
前記少なくとも1つの塩基対前記式Iの1つ以上のエノール化可能なカルボニルのモル比
が1:10又は10:1の比で存在する、請求項17又は請求項18に記載の溶液。
【請求項20】
前記少なくとも1つの塩基対前記式Iの1つ以上のエノール化可能なカルボニルのモル比
が1:5又は5:1の比で存在する、請求項17~19のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項21】
前記少なくとも1つの塩基対前記式Iの1つ以上のエノール化可能なカルボニルのモル比
が1:3又は3:1の比で存在する、請求項17~20のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項22】
前記少なくとも1つの塩基対前記式Iの1つ以上のエノール化可能なカルボニルのモル比
が1:2又は2:1の比で存在する、請求項17~21のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項23】
前記少なくとも1つの塩基対前記式Iの1つ以上のエノール化可能なカルボニルのモル比
が1:1の比で存在する、請求項17~22のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項24】
請求項1~
23のいずれか一項に記載の熱応答性溶液を用いて1つ以上の溶媒を含む第1の溶液を分離する方法において、
1)前記第1の溶液を半透膜に接触させるステップと、
2)浸透によって、前記第1の溶液中の1つ以上の溶媒を前記第1の溶液から前記熱応答性溶液中まで前記半透膜を介して流して第2の溶液を形成するステップであって、
前記溶媒は水であり、前記熱応答性溶液は前記第1の溶液よりも高い浸透濃度であるステップと、
3)前記第2の溶液の温度を、前記熱応答性溶液の下限臨界溶解温度以上まで上昇させて、前記半透膜を通過した前記第1の溶液からの前記1つ以上の溶媒に対して、前記熱応答性溶液を非混和性にするステップと、
4)前記半透膜を透過した前記1つ以上の溶媒を前記非混和性の熱応答性溶液から分離するステップとを備える、方法。
【請求項25】
前記第1の溶液が1つ以上の溶解した溶質をさらに含む、請求項
24に記載の方法。
【請求項26】
前記第1の溶液が、海水、汽水、工業廃水流、劣化した水源、下水、廃水液、消化物、食品及び飲料の加工排液、雑排水、果汁、野菜汁、ミルク、生産水、浸出液、
及び煙道ガススクラバー排
液からなる群から選択される、請求項
24~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
請求項1~
23のいずれか一項に記載の熱応答性溶液を用いて1つ以上の溶媒を含む第1の溶液を分離する方法において、
1)前記第1の溶液を半透膜に接触させるステップと、
2)浸透によって、前記第1の溶液中の1つ以上の溶媒を前記第1の溶液から前記熱応答性溶液中まで前記半透膜を介して流して第2の溶液を形成するステップであって、
前記第1の溶液が溶媒として水を含み、前記熱応答性溶液は前記第1の溶液よりも高い浸透濃度であるステップと、
3)前記熱応答性溶液の下限臨界溶解温度を
変化させることで、前記半透膜を透過した前記第1の溶液からの前記1つ以上の溶媒に対して、前記熱応答性溶液を非混和性にするステップと、
4)前記半透膜を透過した前記1つ以上の溶媒を前記非混和性の熱応答性溶液から分離するステップとを備える、方法。
【請求項28】
前記熱応答性溶液の前記下限臨界溶解温度が、請求項1
,3~11のいずれか一項に記載の1つ以上の第3級アミン含有化合物を加えることによって
変化する、請求項
27に記載の方法。
【請求項29】
前記熱応答性溶液の前記下限臨界溶解温度が、請求項1~
2,12~16のいずれか一項に記載の1つ以上のエノール化可能なカルボニルを加えることによって
変化する、請求項
27又は請求項
28に記載の方法。
【請求項30】
前記熱応答性溶液の前記下限臨界溶解温度が、
請求項1,3~11のいずれか一項に記載の1つ以上の第3級アミン含有化合物を加えることによって、及び請求項1~
2,12~16のいずれか一項に記載の1つ以上のエノール化可能なカルボニルを加えることによって、又はそれらの組合せで
変化する、請求項
27~
29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記第1の溶液が1つ以上の溶解した溶質をさらに含む、請求項
27~
30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記第1の溶液が、海水、汽水、工業廃水流、劣化した水源、下水、廃水液、消化物、食品及び飲料の加工排液、雑排水、果汁、野菜汁、ミルク、生産水、浸出液、
及び煙道ガススクラバー排
液からなる群から選択される、請求項
27~
31のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱応答性溶液に関し、特に、大規模でエネルギー効率の良い条件下で、水溶液から溶質及び/又は水を分離又は精製するために適切な浸透方法における使用に適切な溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
ネフ(Neff)に付与された特許文献1は、正浸透脱塩方法を対象としており、半透膜を横断して海水から水を抜き取るために使用される重炭酸アンモニウムの2モル溶液の使用が記載されている。ネフ(Neff)によると、水及び重炭酸アンモニウム混合物を含んで得られた希薄溶液は、次に加熱されて、重炭酸アンモニウムの溶質は、アンモニア及び二酸化炭素のその構成ガスに変換される。次にこれらのガスは溶液から放出されて、精製された水が残る。ガスを蒸発させるためにかなりの量のエネルギーが必要となると認識すべきである。さらに、比較的少量の水のみが大量の海水から精製され、これはこの方法に必要なエネルギー入力と得られる精製水の収量との比が小さいことを意味する。これは、大規模用途にはこの方法が適していないことを意味する。
【0003】
特許文献2に記載されるように、マクギニス(McGinnis)がネフ(Neff)の概念をさらに発展させ洗練させて、規模の変更が可能なよりエネルギー効率が高い脱塩方法が得られた。アンモニア及び二酸化炭素の混合物を加えることで、結果として得られる炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、及びカルバミン酸アンモニウムの水性種の正浸透方法における浸透平衡が調節される原理がマクギニス(McGinnis)において用いられる。さらに、この結果分離された水は、加熱してアンモニア及び二酸化炭素を除去することによって精製された。この方法で分離された水は、依然としてアンモニアによってわずかに汚染され、これが存在することで、においが検出可能となる。
【0004】
ジェソップ(Jessop)らは特許文献3において、切替可能な水もしくは水溶液及びその使用を記載している。少なくとも1つの窒素原子を有するイオン性官能基を含むイオン性添加剤を加えることによって、この切替可能な水又は水溶液が形成される。この添加剤は、モノアミン、ジアミン、トリアミン、テトラミン、又はポリマーもしくはバイオポリマーなどのポリアミンとしてさらに記載されている。切替可能な水又は水溶液は、CO2、CS2、もしくはCOSのバブリング、又はブレンステッド酸による処理などのトリガーを用いることによって、初期イオン強度と増加したイオン強度の間で可逆的に切替可能となる。水又は水溶液が切替可能であることで、水又は水溶液に対する種々の疎水性液体又は溶媒の溶解性及び不溶性を制御することができる。これによって中程度に疎水性の溶媒を切替可能な水から分離する手段が得られる。ジェソップ(Jessop)の研究の問題の1つは、CO2をアミンから分離して切替可能な水を得ることが困難なことである。微量のCO2及びアミンが抜出溶液中に可溶化したままとなる場合があり、加熱及びストリッピング、ならびに回収の反応速度は、数時間から数分程度の遅さとなる。
【0005】
ユング(Jung)らの特許文献4には、抜出溶液として使用するための温度感受性オリゴマーであって、-C(=O)N(R)2(すなわちアミド官能基)(式中、それぞれのRは直鎖又は分岐であってよく、又はそれらが一緒になって窒素含有複素環を形成する)の繰り返し単位を有するオリゴマーの使用が記載されている。このオリゴマーは、水性媒体中の溶質を分離するための浸透抜出溶液中に使用することができる。抜出溶質は、下限臨界溶解温度以上の温度における相分離によって回収可能である。下限臨界溶解温度(LCST)は、それより低温では混合物の成分が混和性となる臨界温度である。下限という単語は、LCSTが、部分的に混和性、又は特定の組成のみが混和性となる温度間隔の下限であることを示している。言い換えると、上記オリゴマーの感温特性によって、小さな温度上昇に応答して水溶性の急激な低下を示し、それによって沈殿が起こる。LCSTよりも低温では、このオリゴマー又はそれより得られるポリマーは、水に容易に溶解することができるが、LCST以上の温度では、このオリゴマー又はそれより得られるポリマーの親水性が低下して、疎水性相互作用が支配的となりうる。オリゴマー及びポリマーに関連する問題の1つは、それらが比較的大きな分子であり、大きな分子によって、拡散濃度の偏りが生じて、抜出溶液の抽出力が低下することで、正浸透システムの有効浸透ポテンシャルが低下することである。また、比較的大きな分子及びポリマーは、抜出溶質を回収するために乳化よりも沈殿機構に依拠しており、システムのコスト及び複雑性が増加する二次的な濾過機構が必要となる。
【0006】
リー(Lee)らの特許文献5にも、少なくとも1つアミド官能基、又はカルボン酸官能基を含む化合物又は材料を主成分とし、正浸透に基づく水の脱塩及び精製に利用可能な、熱応答性抜出溶質が記載されている。前述のユング(Jung)と同様に、リー(Lee)も、熱応答性抜出溶液中でのアミド型官能基の使用及び応用性、ならびに正浸透用途での抜出溶液からの溶質の相分離を引き起こすためのLCSTへの依拠を記載している。オリゴマー及びポリマーに関連する問題の1つは、それらが比較的大きな分子であり、大きな分子によって、拡散濃度の偏りが生じて、抜出溶液の抽出力が低下することで、正浸透システムの有効浸透ポテンシャルが低下することである。また、比較的大きな分子及びポリマーは、抜出溶質を回収するために乳化よりも沈殿機構に依拠しており、システムのコスト及び複雑性が増加する二次的な濾過機構が必要となる。
【0007】
大西らに付与された特許文献6には、下限臨界溶解温度及び上限臨界溶液温度(UCST)の両方を示し、水素イオン濃度に依存して可逆的に溶解及び沈殿が起こる、刺激応答性高分子誘導体が記載されている。特許文献6に記載の高分子も、アミド型官能基に依拠しており、ケト-エノール互変異性を示すと記載されている。高分子に関連する問題の1つは、それらが比較的大きな分子であり、大きな分子によって、拡散濃度の偏りが生じて、抜出溶液の抽出力が低下することで、正浸透システムの有効浸透ポテンシャルが低下することである。
【0008】
池田らの特許文献7には、アニオン源及びカチオン源を利用する抜出溶液が用いられる改善された正浸透装置が記載されている。特に、アニオンは、CO2から誘導され、すなわち水中に溶解したときに炭酸アニオン及び/又は炭酸水素アニオンなどのアニオンを生成する物質から誘導される。カチオン源は、水中に溶解したときにカチオンを生成するアミン化合物である。抜出溶液は、大まかに言えば、カチオン源及びアニオン源を有する溶液として記載される。CO2の物理的分離は、気体分離に依拠しており、これは比較的複雑でエネルギー的に非効率的なプロセスである。これらの好ましいアミンは、完全に混和性であり、74未満の分子量を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第3,130,156号明細書
【文献】米国特許第7,560,029号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0076810号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0240444号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0158621号明細書
【文献】米国特許第6,858,694号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0175777号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のような尽力にもかかわらず、前述の抜出溶液は、依然として非常に不十分であり、これらは、高価な成分に依拠するか、抜出溶液の回収に大きなエネルギー量を必要とするか、抜出溶液の観点からは不十分な大きな分子に依拠するかのいずれかである。本発明の目的の1つは、これらの問題を克服する溶液を提供すること、又は少なくとも有用な代案を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、熱応答性溶液、及び浸透方法におけるその使用を対象とする。
一態様では、本発明は、浸透における使用に適切な溶媒中で下限臨界溶解温度を有する熱応答性浸透溶液であって:
a)少なくとも1つの第3級アミン含有化合物と;
b)少なくとも1つのエノール化可能なカルボニルとを含み;
使用中、塩基又は少なくとも1つのエノール化可能なカルボニルの少なくとも1つは、20℃以上及び1気圧において水と非混和性である、熱応答性浸透溶液を提供する。
【0012】
さらなる一態様では、本発明は、浸透における使用に適切な溶媒中で下限臨界溶解温度を有する熱応答性浸透溶液であって:
a)少なくとも1つの第3級アミン含有化合物と;
b)式I
【0013】
【0014】
(式中、
c)R1及びR2は独立して、-C1-C7アルキル又は-C3-C7単環から選択され;又は
d)R1又はR2の一方は、-O-(C1-C7アルキル)から選択され、他方は-C1-C7アルキルから選択される、又は
e)R1及びR2と式Iのカルボニルとを合わせたものが、
1)3~15員単環式ケトンもしくは
2)3~15員単環式複素環式ケトン;もしくは
3)アセトフェノン
を形成する)
の少なくとも1つのエノール化可能なカルボニルとを含み;
使用中、塩基又は少なくとも1つのエノール化可能なカルボニルの少なくとも1つは、20℃以上及び1気圧において水と非混和性である、熱応答性浸透溶液を提供する。
【0015】
別の一態様では、本発明は、上記定義の熱応答性溶液を用いて1つ以上の溶媒を含む第1の溶液を分離する方法であって:
1)第1の溶液を半透膜に接触させるステップと;
2)浸透によって、第1の溶液中の1つ以上の溶媒を第1の溶液から熱応答性溶液中まで半透膜を介して流して第2の溶液を形成するステップであって、熱応答性溶液は第1の溶液よりも高い浸透濃度であるステップと;
3)第2の溶液の温度を、熱応答性溶液の下限臨界溶解温度以上まで上昇させて、半透膜を通過した第1の溶液からの1つ以上の溶媒に対して、熱応答性溶液を非混和性にするステップと;
4)半透膜を透過した1つ以上の溶媒を非混和性の熱応答性溶液から分離するステップと、
を含む方法を提供する。
【0016】
別の一態様では、本発明は、上記定義の熱応答性溶液を用いて1つ以上の溶媒を含む第1の溶液を分離する方法であって:
1)第1の溶液を半透膜に接触させるステップと;
2)浸透によって、第1の溶液中の1つ以上の溶媒を第1の溶液から熱応答性溶液中まで半透膜を介して流して第2の溶液を形成するステップであって、熱応答性溶液は第1の溶液よりも高い浸透濃度であるステップと;
3)熱応答性溶液の下限臨界溶解温度を調節することで、半透膜を透過した第1の溶液からの1つ以上の溶媒に対して、熱応答性溶液を非混和性にするステップと;
4)半透膜を透過した1つ以上の溶媒を非混和性の熱応答性溶液から分離するステップと、
を含む方法を提供する。
【0017】
一実施形態では、熱応答性溶液の下限臨界溶解温度は、上記定義の1つ以上の第3級アミン含有化合物を加えることによって、又は上記定義の又はよりエノール化可能なカルボニルを加えることによって、又は1つ以上の第3級アミン含有化合物と1つ以上のエノール化可能な化合物との組合せを加えることによって調節される。
【0018】
以上の概要は、本発明の特定の実施形態の特徴及び技術的利点をおおまかに記載している。さらなる技術的利点は、以下の発明の詳細な説明及び実施例に記載される。
本発明の盗聴であると考えられる新規な特徴は、任意の添付の図及び実施例と関連させて考慮すれば、本発明の詳細な説明からより十分に理解されよう。しかし、本明細書に提供される図及び実施例は、本発明の説明を助けること、又は本発明の理解を進めるのに役立つことが意図され、本発明の範囲の限定を意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】水溶液中のトリエチルアミン及びアセトンの示差走査熱量測定(DSC)分析を示しており、32.25℃においてエンタルピーの変化を示し、同時に溶解性/極性のシフトも確認される。
【
図3】水溶液中のトリエチルアミン及び2-ブタノンの示差走査熱量測定(DSC)分析を示しており、24.42℃においてエンタルピーの変化を示し、同時に溶解性/極性のシフトも確認される。
【
図4】水溶液中のトリエチルアミン及び2-ブタノンの観察可能な違いを示す一連の写真4(a)、4(b)、及び4(c)を示しており、ある温度範囲にわたって溶液の物理的性質が変化することが示されている。
図4(a)から、26.65℃において塩基、ケトン、及び水の混合物が混和性であることが分かる。26.89℃において、塩基及びケトンの混合物が水とのエマルジョンとなる結果として、塩基、ケトン及び、水の混合物は濁った外観を示すようになり(
図4(b)参照)、27.05℃において、塩基及びケトンの混合物は水に対して非混和性となる。
【
図5】水溶液中のトリエチルアミン及びシクロヘキサノンの観察可能な違いを示す一連の写真を示しており、ある温度範囲にわたって溶液の物理的性質が変化することが示されている。
図5(a)から、15.21℃において、塩基、ケトン、及び水の混合物が混和性であることが分かる。15.38℃において、塩基及びケトンの混合物が水とのエマルジョンとなる結果として、塩基、ケトン及び水混合物が濁った外観を示すようになり(
図5(b)参照)、18.33℃において、塩基及びケトンの混合物は水に対して非混和性となる。
【
図6】種々の抜出溶液の透過率対温度のプロットを示しており、それぞれの抜出溶液のLCSTにおいて透過率が明確に変化することが示されている。
【
図7(a)】TEA:MEK:水(それぞれ0.5:1.0:5.0)の抜出溶液の透過率%対温度の曲線のプロット。
【
図7(b)】
図7(a)中に示される透過率曲線の一次導関数及び二次導関数のプロット。
【
図7(c)】
図7(a)中に示される透過率曲線の一次導関数及び二次導関数のプロット。
【
図8】TEAのモル比に対する抜出溶液中のTEAの種々のモル比での抜出溶液の視覚的(visual)LCSTのプロットを示している。
【
図9】MEKのモル比(molar ration)に対する抜出溶液中のMEKの種々のモル比での抜出溶液の視覚的LCSTのプロットを示している。
【
図10】実施例で後述される流束実験の構成を概略的に示している。
【
図11】TEA-MEK抜出溶液が関与して膜を通過する平均水流束のプロットを示している。
【
図12】TEA-シクロペンタノン(cycloppentanone)抜出溶液が関与して膜を通過する平均水流束のプロットを示している。
【
図13】TEAのFTIRスペクトルを示している。
【
図14】MEKのFTIRスペクトルを示している。
【
図15】1:1のモル比のTEA/MEKのFTIRスペクトルを示している。
【
図16】1:1:5のモル比のTEA/MEK/水のFTIRスペクトルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の記述は、多数の代表的な構成、パラメータなどを説明するものである。しかし、このような記述は、本発明の範囲の限定として意図されるものではなく、その代わりに代表的な実施形態の記述として提供されることを理解すべきである。
定義
本明細書におけるそれぞれの場合で、本発明の記述、実施形態、及び実施例において、「含むこと」(comprising)、「含むこと」(including)などの用語は、限定するものではなく拡張的に読まれるべきである。したがって、文脈が明確に別の意味を必要とするのでなければ、この記述及び請求項全体にわたって、「含む」(comprise)、「含むこと」(comprising)などの単語は、排他的な意味とは反対の包括的な意味、すなわち、「含むがそれに限定されるものではない」という意味で解釈されるべきである。
【0021】
「浸透」という用語は、溶解した溶質を除去するため、又は溶解した溶質から溶媒の分離を行うために半透膜の半透性に依拠し、分離の推進力が浸透圧である、膜に基づく分離プロセスとして理解すべきである。「浸透溶液」という用語は、半透膜にわたって浸透圧を発生させる溶液を意味する
「約」又は「おおよそ」という用語は、通常は、所与の値又は範囲の20%の範囲内、より好適には10%の範囲内、及び最適にはさらに5%の範囲内であることを意味する。あるいは、「約」という用語は、所与の値の1log(すなわち、1桁の大きさ)の範囲内、好適には2倍の範囲内を意味する。
【0022】
本明細書において使用される場合、「C1-C7アルキル」という用語は、1~7個の炭素の特定の範囲の直鎖又は分岐鎖であってよい完全に飽和した分岐又は非分岐の炭化水素部分を意味する。好適にはアルキルは、1~7個の炭素原子、又は1~4個の炭素原子を含む。C1-C7アルキルの代表例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、3-メチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、2,3-ジメチルペンチル、n-ヘプチルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。たとえば、C1-C4-アルキルという表現は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソプロピル、tert-ブチル、及びイソブチルを含むが、これらに限定されるものではない。一実施形態ではC1-C7アルキル基は、-ハロ、-OH、-CN、-NO2、-C≡CH、-SH、-C1-C7アルキル、-(C1-C7アルキル)-OH、-NH2、-NH(C1-C7アルキル)、-N(C1-C7アルキル)2、-O(C1-C7アルキル)、-C(O)-O(-C1-C7アルキル)、-C(O)OH、-C(O)-H、又は-C(O)-(C1-C7アルキル)の基の1つ以上で置換されてよい。
【0023】
本明細書において使用される場合、用語「C3-C7単環式」という用語は、3、4、5、6、又は7員の飽和又は不飽和単環式環である。代表的なC3-C7単環式基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、及びシクロヘプチルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。一実施形態では、C3-C7単環式シクロアルキル基は、-ハロ、-OH、-CN、-NO2、-C≡CH、-SH、-C1-C7アルキル、-(C1-C7アルキル)-OH、-NH2、-NH(C1-C7アルキル)、-N(C1-C7アルキル)2、-O(C1-C7アルキル)、-C(O)-O(-C1-C7アルキル)、-C(O)OH、-C(O)-H、又は-C(O)-(C1-C7アルキル)の基の1つ以上で置換されてよい。
【0024】
用語「3~15員単環式ケトン」は、ケトン官能基を含む3~15員非芳香族単環式環構造を意味する。3~15員単環式ケトンの代表例としては、シクロプロパノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノン、シクロウンデカノン、シクロドデカノン、シクロトリデカノン、シクロテトラデカノン、及びシクロペンタデカノンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
一実施形態では、3~15員単環式ケトンは、-ハロ、-OH、-CN、-NO2、-C≡CH、-SH、-C1-C7アルキル、-(C1-C7アルキル)-OH、-NH2、-NH(C1-C7アルキル)、-N(C1-C7アルキル)2、-O(C1-C7アルキル)、-C(O)-O(-C1-C7アルキル)、-C(O)OH、-C(O)-H、又は-C(O)-(C1-C7アルキル)の基の1つ以上で置換されてよい。
【0026】
「3~15員単環式複素環式ケトン」という用語は、(i)1個の環炭素原子がN原子、O原子、もしくはS原子で置換されている3又は4員の非芳香族単環式シクロアルキル;又は(ii)1~4個の環炭素原子が独立して、N原子、O原子、もしくはS原子で置換されている5~15員の非芳香族単環式シクロアルキルを意味する。1個のN原子、O原子、又はS原子を有する3~15員単環式複素環式ケトンの代表例としては、オキシラン-2-オン、チイラン-2-オン、オキセタン-2-オン、オキセタン-3-オン、アゼチジン-3-オン、チエタン-2-オン、チエタン-3-オン、ジヒドロフラン-2(3H)-オン、ジヒドロフラン-3(2H)-オン、ピロリジン-3-オン、ジヒドロチオフェン-3(2H)-オン、ジヒドロチオフェン-2(3H)-オン、テトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン、ジヒドロ-2H-ピラン-3(4H)-オン、ジヒドロ-2H-ピラン-4(3H)-オン、ピペリジン-3-オン、ピペリジン-4-オン、テトラヒドロ-2H-チオピラン-2-オン、ジヒドロ-2H-チオピラン-3(4H)-オン、ジヒドロ-2H-チオピラン-4(3H)-オン、オキセパン--2-オン、オキセパン-3-オン、オキセパン-4-オン、チエパン-2-オン、チエパン-3-オン、チエパン-4-オン、アゼパン-3-オン、アゼパン-4-オン、オキソカン-2-オン、オキソカン-3-オン、オキソカン-4-オン、オキソカン-5-オン、チオカン-2-オン、チオカン-3-オン、チオカン-4-オン、チオカン-5-オン、アゾカン-3-オン、アゾカン-3-オン、アゾカン-4-オン、アゾカン-5-オン、アゾナン-3-オン、アゾナン-4-オン、アゾナン-5-オン、オキソナン-2-オン、オキソナン-3-オン、オキソナン-4-オン、オキソナン-5-オン、チオナン-2-オン、チオナン-3-オン、チオナン-4-オン、チオナン-5-オン、オキサシクロウンデンカン-2-オン、オキサシクロウンデンカン-3-オン、オキサシクロウンデンカン-4-オン、オキサシクロウンデンカン-5-オン、オキサシクロウンデンカン-6-オン、アザシクロウンデンカン-3-オン、アザシクロウンデンカン-4-オン、アザシクロウンデンカン-5-オン、アザシクロウンデンカン-6-オン、チアシクロウンデンカン-2-オン、チアシクロウンデンカン-3-オン、チアシクロウンデンカン-4-オン、チアシクロウンデンカン-5-オン、チアシクロウンデンカン-6-オン、オキサシクロドデカン-2-オン、オキサシクロドデカン-3-オン、オキサシクロドデカン-4-オン、オキサシクロドデカン-5-オン、オキサシクロドデカン-6-オン、オキサシクロドデカン-7-オン、アザシクロドデカン-3-オン、アザシクロドデカン-4-オン、アザシクロドデカン-5-オン、アザシクロドデカン-6-オン、アザシクロドデカン-7-オン、チアシクロドデカン-2-オン、チアシクロドデカン-3-オン、チアシクロドデカン-4-オン、チアシクロドデカン-5-オン、チアシクロドデカン-6-オン、チアシクロドデカン-7-オン、オキサシクロトリデカン-2-オン、オキサシクロトリデカン-3-オン、オキサシクロトリデカン-4-オン、オキサシクロトリデカン-5-オン、オキサシクロトリデカン-6-オン、オキサシクロトリデカン-7-オン、アザシクロトリデカン-3-オン、アザシクロトリデカン-4-オン、アザシクロトリデカン-5-オン、アザシクロトリデカン-6-オン、アザシクロトリデカン-7-オン、チアシクロトリデカン-2-オン、チアシクロトリデカン-3-オン、チアシクロトリデカン-4-オン、チアシクロトリデカン-5-オン、チアシクロトリデカン-6-オン、チアシクロトリデカン-7-オン、オキサシクロテトラデカン-2-オン、オキサシクロテトラデカン-3-オン、オキサシクロテトラデカン-4-オン、オキサシクロテトラデカン-5-オン、オキサシクロテトラデカン-6-オン、オキサシクロテトラデカン-7-オン、オキサシクロテトラデカン-8-オン、アザシクロテトラデカン-3-オン、アザシクロテトラデカン-4-オン、アザシクロテトラデカン-5-オン、アザシクロテトラデカン-6-オン、アザシクロテトラデカン-7-オン、アザシクロテトラデカン-8-オン、チアシクロテトラデカン-2-オン、チアシクロテトラデカン-3-オン、チアシクロテトラデカン-4-オン、チアシクロテトラデカン-5-オン、チアシクロテトラデカン-6-オン、チアシクロテトラデカン-7-オン、チアシクロテトラデカン-8-オン、オキサシクロペンタデカン-2-オン、オキサシクロペンタデカン-3-オン、オキサシクロペンタデカン-4-オン、オキサシクロペンタデカン-5-オン、オキサシクロペンタデカン-6-オン、オキサシクロペンタデカン-7-オン、オキサシクロペンタデカン-8-オン、アザシクロペンタデカン-3-オン、アザシクロペンタデカン-4-オン、アザシクロペンタデカン-5-オン、アザシクロペンタデカン-6-オン、アザシクロペンタデカン-7-オン、アザシクロペンタデカン-8-オン、チアシクロペンタデカン-2-オン、チアシクロペンタデカン-3-オン、チアシクロペンタデカン-4-オン、チアシクロペンタデカン-5-オン、チアシクロペンタデカン-6-オン、チアシクロペンタデカン-7-オン、チアシクロペンタデカン-8-オンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。一実施形態では、3~15員単環式複素環式ケトン基は、-ハロ、-OH、-CN、-NO2、-C≡CH、-SH、-C1-C6低級アルキル、-(C1-C7アルキル)-OH、-NH2、-NH(C1-C7アルキル)、-N(C1-C7アルキル)2、-O(C1-C7アルキル)、-C(O)-O(-C1-C7アルキル)、-C(O)OH、-C(O)-H、又は-C(O)-(C1-C7アルキル)の基の1つ以上で置換されてよい。疑念を回避するため、ケトンエノール化可能なカルボニル基が環状構造内のN原子と隣接している場合、3~5員単環式複素環式ケトンはアミド基を全く含まない。
【0027】
本明細書において使用される場合、「ハロ」という用語は、-F、-Cl、-Br、又は-Iを意味する。
本明細書において使用される場合、非混和性という用語は、完全に混和性とはならず、溶媒相と1つの連続相を形成できないことを意味する。
【0028】
「エノール化可能なカルボニル」という用語は、1つ以上のカルボニル官能基を有する化合物であって、少なくとも1つのカルボニル官能基が、以下の反応スキームで示されるように、塩基によって除去されてエノラートを形成し、次にエノールを形成することができるα水素(Hα)を有する化合物を意味する。
【0029】
【0030】
本明細書において使用される場合、エノール化可能なカルボニルという用語は、アルデヒド官能基のみを有する化合物、カルボン酸官能基のみを有する化合物、アミド官能基のみを有する化合物、アシルハライド官能基のみを有する化合物、及びアセチルアセトンを含まないことを理解すべきである。
【0031】
エノール化可能なカルボニルという用語は、アセトフェノン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2-プロパノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、4-メチル-2-ペンタノン、2-オクタノン、及び3-メチル-2-ブタノンの1つ以上を含むが、これらに限定されるものではない。好ましい一実施形態では、エノール化可能なカルボニルという用語は、アセトフェノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2-プロパノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、4-メチル-2-ペンタノン、2-オクタノン、及び3-メチル-2-ブタノンの1つ以上を含む。
【0032】
「第3級アミン含有化合物」という用語は、好適にはルイス塩基であるものである。塩基がルイス塩基である場合、エノール化可能なカルボニルとルイス付加物を形成できることが想定される。一実施形態では、第3級アミン含有化合物は、20℃以上において1標準大気圧下で水と非混和性であることが好ましい。溶液は2つ以上の第3級アミン含有化合物の組合せを含むことができる。第3級アミン含有化合物は、脂肪族、共役、非対称、又は環状であってよい。
【0033】
適切な第3級アミンの例としては以下のものが挙げられる:
【0034】
【0035】
一実施形態では、塩基は-N(C1-C7アルキル)3から選択される。別の一実施形態では、塩基は-N(C1-C4アルキル)3から選択される。さらなる一実施形態では、塩基は-N(C2アルキル)3(トリエチルアミン)である。
【0036】
上記アミンは、工業規模での製造のために十分単純であることを理解されたい。
「熱応答性溶液」という用語は、温度とともにその溶解性が急激で不連続な変化を示す溶液を意味する。
【0037】
「下限臨界溶解温度」(LCST)という用語は、その温度より低温で、溶液の性質(光学的、伝導率、及び/又はpH)が連続的に変化し始めて、溶液の成分が混和性となる臨界温度を意味する。
【0038】
本発明は、熱応答性浸透溶液、及び浸透方法におけるその使用を対象とする。本発明者は、工業規模での規模変更が容易となる可能性があり、コスト及びエネルギーの両方で効率的となる非常に効率的な拡散及び浸透ポテンシャル特性も得られる代替の熱応答性溶液を探求する研究を行ってきた。本発明者は、浸透において使用するための溶媒中で下限臨界溶解温度を有する適切な熱応答性浸透溶液は:
b)少なくとも1つの第3級アミン含有化合物と;
c)式I
【0039】
【0040】
(式中、
d)R1及びR2は独立して、-C1-C7アルキル又は-C3-C7単環又は-フェニルから選択される;又は
e)R1又はR2の一方は、-O-(C1-C7アルキル)から選択され、他方は-C1-C7アルキルから選択される、又は
f)R1及びR2と式Iのカルボニルとを合わせたものが、
1)3~15員単環式ケトンもしくは
2)3~15員単環式複素環式ケトン;もしくは
3)アセトフェノン
を形成する)
の少なくとも1つのエノール化可能なカルボニルとを含み;
使用中、塩基又は少なくとも1つのエノール化可能なカルボニルの少なくとも1つは、20℃及び1気圧において水と非混和性であることを明らかにした。
【0041】
一実施形態では、式IのR1及びR2は独立して-C1-C7アルキルから選択される。別の一実施形態では、R1及びR2は独立してメチル及びエチルから選択される。一実施形態では、エノール化可能なカルボニルは、2-ブタノン、アセトン、イソブチルケトンから選択される。一実施形態では、溶液は、式Iを満たす2つ以上のエノール化可能なカルボニルの組合せを含む。一実施形態では、式Iのエノール化可能なカルボニルの組合せとしては;
A.2-ブタノン及び2-プロパノン;
B.2-プロパノン及びシクロヘキサノン;
C.2-ブタノン及びシクロヘキサノン;
D.2-プロパノン、2-ブタノン、及びシクロヘキサノン;
E.2-プロパノン及び2-ペンタノン;
F.シクロペンタノン及びアセトフェノン;
G.シクロペンタノン及び2-オクタノン;
H.シクロペンタノン及び4-メチル-2-ペンタノン;
I.2-ブタノン、シクロペンタノン、及び2-プロパノン;ならびに
J.2-プロパノン、3-ペンタノン、及び3-メチル-2-ブタノンの組合せが挙げられる。
【0042】
一実施形態では、溶液は、2つ以上の第3級アミン含有化合物の組合せを含む。一実施形態では、第3級アミン含有化合物の組合せとしては;
A.トリエチルアミン及び1-エチルピペリジン;
B.トリエチルアミン及びジエチルメチルアミン;
C.トリエチルアミン、ジエチルメチルアミン、及び1-エチルピペリジン;ならびに
D.トリエチルアミン、ジエチルメチルアミン、及びジメチルベンジルアミンの組合せが挙げられる。
【0043】
一実施形態では、式IのR1は-C1-C7アルキルから選択され、R2は-O-(C1-C7アルキル)から選択される。
【0044】
さらなる一実施形態では、式IのR1及びR2が一緒になって、3~15員単環式ケトン又は単環式エステルから選択される環状構造を形成する。一実施形態では、エノール化可能なカルボニルは、シクロヘキサノン又はテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オンから選択される。
【0045】
R1及びR2が一緒になって環状構造を形成する場合、その環状構造は、-ハロ、-OH、-CN、-NO2、-C≡CH、-SH、-C1-C7アルキル、-(C1-C7アルキル)-OH、-NH2、-NH(C1-C7アルキル)、-N(C1-C7アルキル)2、-O(C1-C7アルキル)、-C(O)-O(-C1-C7アルキル)、-C(O)OH、-C(O)-H、又は-C(O)-(C1-C7アルキル)などから選択される1つ以上の置換基でさらに置換されてよいことを理解されたい。
【0046】
塩基対式Iのエノール化可能なカルボニルのモル比は、広範囲に変動することができ、約1:99もしくは99:1から;又は約1:50もしくは50:1から、又は約1:10もしくは10:1から、又は約1:5もしくは5:1から、又は約1:3から、又は約3:1から、又は約1:2から、又は約2:1からであってよいことを理解されたい。好ましい一実施形態では、このモル比は約1:1である。化学技術者であれば、熱応答性溶液が用いられる目的による最適なモル比を通常通りに求めることができるであろう。種々の熱応答性溶液のモル比の範囲を
図7~9中に示している。
【0047】
一実施形態では、溶媒は水である。
さらなる一態様では、前述の定義の熱応答性溶液を用いて、1つ以上の溶媒を含む第1の溶液を分離する浸透方法又は方法が提供される。この方法は:
1)第1の溶液を半透膜に接触させるステップと;
2)浸透によって、第1の溶液中の1つ以上の溶媒を第1の溶液から熱応答性溶液中まで半透膜を介して流して第2の溶液を形成するステップであって、熱応答性溶液は第1の溶液よりも高い浸透濃度であるステップと;
3)第2の溶液の温度を、熱応答性溶液の下限臨界溶解温度以上まで上昇させて、半透膜を通過した第1の溶液からの1つ以上の溶媒に対して、熱応答性溶液を非混和性にするステップと;
4)半透膜を透過した1つ以上の溶媒を非混和性の熱応答性溶液から分離するステップと、
を含む。
【0048】
別の一態様では、本発明は、上記定義の熱応答性溶液を用いて、1つ以上の溶媒を含む第1の溶液を分離するであって:
1)第1の溶液を半透膜に接触させるステップと;
2)浸透によって、第1の溶液中の1つ以上の溶媒を第1の溶液から熱応答性溶液中まで半透膜を介して流して第2の溶液を形成するステップであって、熱応答性溶液は第1の溶液よりも高い浸透濃度であるステップと;
3)熱応答性溶液の下限臨界溶解温度を調節することで、半透膜を透過した第1の溶液からの1つ以上の溶媒に対して、熱応答性溶液を非混和性にするステップと;
4)半透膜を透過した1つ以上の溶媒を非混和性の熱応答性溶液から分離するステップと、
を含む方法を提供する。
【0049】
一実施形態では、熱応答性溶液の下限臨界溶解温度は、上記定義の1つ以上の第3級アミン含有化合物を加えることによって、又は上記定義の又はよりエノール化可能なカルボニルを加えることによって、又は1つ以上の第3級アミン含有化合物と1つ以上のエノール化可能な化合物との組合せを加えることによって調節される。
【0050】
以上の態様における第1の溶液は、1つ以上の溶解した溶質を含むことができることを理解されたい。さらなる一実施形態では、第1の溶液は、海水、汽水、工業廃水流、劣化した水源、下水、廃水液(wastewater liquor)、消化物、食品及び飲料の加工排液、雑排水、果汁、野菜汁、ミルク、生産水、浸出液、煙道ガススクラバー排液などから選択される。
【実施例】
【0051】
本明細書に記載の実施例は、本発明の特定の実施形態を説明する目的で提供され、本発明の限定を意図するものでは決してない。当業者であれば、過度の実験を行うことなく、本明細書の開示及び教示を利用して、別の実施形態及び変形形態を得ることができる。すべてのこのような実施形態及び変形形態は、本発明の一部であると見なされる。
実施例1:
第1の例では、本発明者は、試験管中のある体積の水中に等モル比のエノール化可能なカルボニルとしてのアセトン及び塩基としてのトリエチルアミンを加えた。この溶液のDSCスキャンによると、32.25℃において下限臨界溶解温度となる熱応答点(thermo-responsive point)の存在が示された(
図2参照)。この点付近で、溶液は、水中のアセトン/第3級アミンの混和性混合物から、エマルジョンを介して、水中のアセトン/第3級アミンの非混和性混合物となることが観察された。
実施例2:
第2の例では、本発明者は、試験管中のある体積の水中に等モル比のエノール化可能なカルボニルとしての2-ブタノン及び塩基としてのトリエチルアミンを加えた。この溶液のDSCスキャンによると、24.42℃において下限臨界溶解温度となる熱応答点の存在が示された(
図3参照)。この点付近で、溶液は、水中の2-ブタノン/第3級アミンの混和性混合物から、水中の2-ブタノン/第3級アミンの非混和性混合物となることが観察された。
図4(a)~4(c)として示される一連の写真は、この溶液混合物の観察可能な変化を示している。
図4(a)から、26.65℃において塩基及び2-ブタノンの混合物が混和性であることが分かる。26.89℃において、塩基及びケトンの混合物が水とのエマルジョンとなる結果として、塩基及びケトンの混合物は濁った外観を示すようになる(
図4(b)参照)。さらに温度を上昇させると、
図4(c)から、27.05℃において塩基及び2-ブタノンが水に対して非混和性となることが分かる。
【0052】
本発明者は、これらの溶液中で観察される効果が再現可能であることを確認した。DSC分析によって、溶解性/極性のシフトは吸熱現象であって、ある形態の融解エンタルピーが生じることを示唆しており、可溶性状態の成分の水との混合は発熱現象であることをさらに確認した。溶解性/極性の切替が確認される別の温度は、熱応答性溶液の組成の性質により変動することを理解されたい。溶解性又は極性の切替が確認される温度を超えると、ケトン塩基混合物は、混和性混合物から、エマルジョンを介して、水に対して非混和性のケトン及び塩基の混合物となることを理解されたい。
実施例3:
第3の例では、本発明者は、試験バイアル中のある体積の水中に等モル比のエノール化可能なカルボニルとしてのシクロヘキサノン及び塩基としてのトリエチルアミンを加え、混合物の温度をゆっくりと上昇させた。
図5(a)~5(c)として示される一連の写真は、この溶液混合物の観察可能な変化を示している。これらの一連の写真は、水溶液中のトリエチルアミン及びシクロヘキサノンの観察可能な相違点を示しており、ある温度範囲にわたる溶液の物理的性質の変化が示されている。
図5(a)から、15.21℃において、塩基及びケトン混合物が水と混和性であることが分かる。15.38℃において、塩基及びケトンの混合物が水とのエマルジョンとなる結果として、塩基及びケトンの混合物は濁った外観を示すようになり(
図5(b)参照)、18.33℃において、塩基及びケトンは水に対して非混和性となる。
実施例4:
実施例1~3において上記のように測定されたLCSTは、非混和性層対混和性層の視認性などに関する視覚的変化によって裏付けられたことを理解されたい。光学的変化が起こる厳密な点は、目視での判断が難しい場合がある。UV-Vis-NIR分光計を用いてLCSTの推移を求めるために、種々の試験溶液の光学的性質を測定することがより容易であることが分かった。190~1110nmの広い波長範囲を有するステラネット(Stellar Net)のシルバー-ノバ(SILVER-Nova)光ファイバー分光計を用いて、種々の温度における試験溶液の透過率を記録した。光源は、SL1タングステン-ハロゲンランプであった。この光源及び分光計に接続したディッププローブを用いて、抜出溶液の特性を測定した。
材料及び方法
25mLのガラスバイアル中で、トリエチルアミン(TEA)、メチルエチルケトン(MEK)、N-エチルピペリジン、ジエチルメチルアミン(diethylymethylamine)、シクロヘキサノン、及びジエチルメチルアミン、ならびに水を種々のモル比及び組合せで使用して、種々の試験抜出溶液を調製した。種々の温度にわたって850nmの波長で2秒ごとに透過率を記録した。2秒ごとに捕捉される現象と同時に温度を記録するため、ディッププローブとともに抵抗温度検出器(RTD)プローブを挿入した。この主な目的は、LCSTよりも低温の透明溶液(100%透過率)から、それより高温で濁るまで溶液が変化するLCSTにおける透過率の推移を記録することであった。2℃/分の速度で温度を変化させるために使用した制御装置は、磁気撹拌が行われるペルチェ型キュベットホルダーを有するQポッド-2e(Qpod-2e)であった。TEA、MEK、及び水を(それぞれ)0.5:1:5のモル比で使用する試験溶液の1つでは、一次導関数及び二次導関数の曲線も求めた。
結果
実験で得たデータを用いて、
図6中に示されるような850nmにおける透過率%対温度の曲線を得た。
図6は、850nmにおいて種々の温度で記録した抜出溶液の透過率曲線を示している。LCSTにおけるすべての抜出溶液で、透過率%の急激な低下が観察された。TEA、MEK、及び水を(それぞれ)0.5:1:5のモル比で使用する試験溶液の1つについて、
図7(a)に示されるような透過率曲線が得られ、次にそれぞれ
図7(b)及び7(c)に示されるような一次導関数曲線及び二次導関数曲線も得た。本発明者らは、二次導関数曲線のちょうど28℃未満で曲線がx軸と交差する点が、その特定の試験溶液のLCSTになると考えている。
実施例5:モル比
第4の例では、種々の温度において水中にトリエチルアミン及びケトンを含む種々の熱応答溶液のモル比を測定し、水中の溶液の混和性を記録した。結果を以下の表1~4に示している。
【0053】
【0054】
表2は、500μLの水中のトリメチルアミン対2-ブタノンのある範囲のモル比と、5℃及び50℃における水相に対して観察された影響との表を示している。
【0055】
【0056】
表3は、500μLの水中のトリメチルアミン対プロパノンのある範囲のモル比と、5℃及び50℃における水相に対して観察された影響との表を示している。
【0057】
【0058】
表4は、500μLの水中のトリメチルアミン対シクロヘキサノンのある範囲のモル比と、5℃及び50℃における水相に対して観察された影響との表を示している。
【0059】
【0060】
実施例6-ケトン及びアミンの組合せ:
第5の例では、種々の温度における水中にトリエチルアミンとケトンの混合物とを含む種々の熱応答性溶液のモル比を測定し、水中の溶液の混和性を記録した。結果を以下の表5に示している。
【0061】
【0062】
表の結果から分かるように、ケトン混合物の組合せは1つのケトンと同様に効果的である。ケトン混合物の成分を選択することによって、非混和性となる温度を制御できることも留意されたい。
アミン、ケトン、及び水の最小比
切替可能な極性抜出溶液として挙動するための抜出溶液中のそれぞれのアミン、ケトン、及び水の最小比を求めるために以下の実験を行った。この実験の主な目的は、最も経済的な方法で溶液成分を管理する方法を知ることであった。この試験に使用したモデル抜出溶液は、トリエチルアミン(TEA)、メチルエチルケトン(MEK)、及び水の組合せであった。
アミンの最小モル比
TEAのモル比を0.1~1で変動させてTEA、MEK、及び水を用いて25mLのガラスバイアル中で抜出溶液を調製した。このモル比に関するTEAの量及びモル数を表にまとめた(表6中に示す)。MEK(4.0061g)及び水(10g)に関しては一定のモル比1:10を全体にわたって維持した。すべての試験試料で、抵抗温度検出器(RTD)を用いて視覚的LCSTを記録した。
【0063】
【0064】
図8から、抜出溶液中で0.1から0.4までTEAのモル比を増加させると、LCSTが上昇したことが分かる。0.4を超えるモル比の場合は、LCSTは同じ値のままであったこれらの結果から、LCSTが変化せずに切替可能な極性溶液として抜出溶液が挙動するために必要なTEAの最小モル比は0.5である。
ケトンの最小モル比
MEKのモル比を0.1~1で変動させてTEA、MEK、及び水を用いて25mLのガラスバイアル中で抜出溶液を調製した。このモル比に関するMEKの量及びモル数を表にまとめた(表7中に示す)。TEA(5.6218g)及び水(10g)に関しては一定のモル比1:10を全体にわたって維持した。すべての試験試料で、抵抗温度検出器(RTD)を用いて視覚的LCSTを記録した。
【0065】
【0066】
図9から、MEKのモル比を増加させると視覚的LCST値が増加し、その値が安定する、又は一定となる点は存在しないことが分かる。そのため、すべての抜出溶液の処方では、ケトンのモル比は1で維持される。
実施例7-体積比:
第6の例では、20℃における水中の熱応答性溶液の種々の成分の体積比について研究を行い、それらのそれぞれの水中の混和性を記録した。結果を以下の表8中に示している。
【0067】
【0068】
実施例8-対照:
第7の例では、20℃、30℃、及び50℃における水中の熱応答性溶液の種々の成分について研究を行い、それらのそれぞれの水中の混和性を記録した。結果を以下の表9及び10に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
表9及び10から分かるように、成分の混和性は、温度及び混合物中の成分に大きく依存して変化しうる。たとえば、表4から分かるように、20℃において、トリエチルアミン及び2-ブタノンの両方は水中で非混和性である。しかし、同じ温度において、トリエチルアミン及び2-ブタノンの両方の水中の混合物は混和性であるが、30℃においてこの混合物は非混和性となる。これは熱応答性溶液の例となっている。
【0072】
同様の結果を表10に見ることができ、例外は、この例において、ケトンであるプロパノンは水中で混和性であることであり、対照的に表9中で、2-ブタノンは水中で非混和性である。
複数のアミン及び1つのケトン
種々の用途のための切替可能な極性抜出溶液の調製に使用される化合物は、塩基及びエノール化可能なカルボニルである。塩基性の性質の第3級アミンがカルボニル基を有する有機化合物であるケトンと組み合わされ、この結果得られる組合せの下限臨界溶解温度(LCST)が調べられる。切替点に対する官能基の共役、置換、及び付加の影響が観察され、得られたデータは今後の用途によってさらに利用される。ケトンは、それらの性質が系列(たとえば、2-プロパノン、2-ブタノンなど)、異性体(たとえば、2-ペンタノン及び3-ペンタノン)、環状(たとえば、シクロペンタノン)、及び共役(たとえば、アセトフェノン)となるように選択される。
【0073】
抜出溶液は、複数のアミン及びケトンからなるが依然として熱応答特性を示すように配合した。ケトンと選択した数種類のアミンとを種々のモル比で組合せ、水を加えてLCSTを記録した。以下の実験で数種類の組合せが記載される。さらに、浸透圧に対する種々のケトン/アミンの組合せの影響を観察した。
機器
一定で撹拌が行われるペルチェ型キュベットホルダーを有するQポッド-2e(Qpod-2e)を用いて、LCSTを求めるために温度を変化させた。抵抗温度検出器(RTD)プローブを用いて視覚的LCST温度を記録した。凝固点方法に基づく浸透圧計のオスモマット3000(Osmomat 3000)によって、水中10重量%の抜出溶液のオスモル濃度を求めた。
方法
指定のモル比のアミン(複数を含む)、ケトン(複数を含む)、及び水を用いて抜出溶液を作製し、その抜出溶液の視覚的LCSTを求めた。視覚的LCSTは、2相に分離する直前の溶液が濁る温度を意味し、抵抗温度検出器(RTD)プローブを用いてこのLCSTを記録した。
【0074】
90%の水(重量基準)中の10%の純抜出液(pure draw)(重量基準)の抜出溶液の場合で、抜出溶液の浸透圧を測定した。50μLの試験試料(単相の冷却された抜出溶液)をピペットで測定容器中に入れ、浸透圧計のサーミスタプローブに取り付けた。試験抜出溶液試料の測定を自動で行い、溶質(純抜出液)のオスモル濃度をスクリーン上に表示した。各試料について少なくとも3回試験を行い、その平均を記録した。
組合せの種類
切替可能な極性抜出溶液として挙動するように異なる種類のアミン及びケトンを異なる組合せで組み合わせた。以下のような数種類の抜出溶液の組合せを選択した:
・1つのアミンをケトン(複数を含む)と組み合わせた
・複数のアミンを1つのケトンと組み合わせた
・複数のアミンを複数のケトンと組み合わせた
以下の略語が表11~14中に使用される
K1=ケトン1、K2=ケトン2、K3=ケトン3;A1=アミン1、A2=アミン2、A3=アミン3、TEA=トリエチルアミン、2-P=2-プロパノン、2-PENT=2-ペンタノン、3-P=3-ペンタノン、2-B=2-ブタノン、CH=シクロヘキサノン、CP=シクロペンタノン、1EP=1-エチルピペリジン、DEMA=ジエチルメチルアミン、ACET=アセトフェノン、2-O=2-オクタノン、4M2P=4-メチル-2-ペンタノン、3M2B=3-メチル-2-ブタノン、DMBA=ジメチルベンジルアミン
以下の表11は、1つのアミンと1つ以上のケトンとを含む抜出溶液の種々の組合せのLCST及び浸透圧をまとめたものである:注:浸透圧は10重量%の純抜出におけるものである。
【0075】
【0076】
複数のアミン及び1つのケトンの組合せ
以下の表12は、複数のアミンと1つのケトンとを含む抜出溶液の組合せのLCST及び浸透圧をまとめたものである:注:浸透圧は10重量%の純抜出において測定される。
【0077】
【0078】
アミン(複数を含む)及び2つのケトンの組合せ
以下の表13は、1つ以上のアミンと2つのケトンとを含む抜出溶液の組合せのLCST及び浸透圧をまとめたものである:注:浸透圧は10重量%の純抜出におけるものである。
【0079】
【0080】
アミン(複数を含む)及び複数のケトンの組合せ
以下の表14は、1つ以上のアミンと複数のケトンとの組合せを含む抜出溶液のLCST及び浸透圧をまとめたものである。
【0081】
【0082】
これらの結果から、種々の組合せ及び比率の多数のアミン及びケトンから、有効なLCSTの抜出溶液を調製できることが分かる。これらの結果は、非常に広範な異なる温度のLCSTの抜出溶液を得ることが可能であり、種々のアミン及びケトンを用いることによって所望の温度のLCSTの抜出溶液を実現できることも示している。特定の抜出溶液のLCSTが高すぎる又は低すぎる場合、ケトン又はアミンを加えることによってLCSTを調整できることも分かる。多数のこれらの抜出溶液を用いて顕著な浸透圧の読取値が得られることも結果から分かる。
実施例9-流束実験
本発明の抜出溶液を用いた半透膜を横断する水の流束(表15中に詳細が示される)について、
図10中に示される試験システムを用いて調べた。この試験システムは、フィードをフィードタンク(3)から膜セル(4)中まで循環させるために用いられるギヤポンプ(1)を含む。フィードタンク(3)中の伝導率を測定するために伝導率プローブ(2)が用いられる。膜の洗浄又は交換の際に膜セルを隔離するために、膜セル(4)のフィード側の三方弁(5)、及び膜セル(4)の抜出側の三方弁6)が用いられる。メンテナンスが必要な場合、抜出側を隔離するために別の弁(7)が用いられる。この弁(7)を使用して、次に膜の洗浄又は交換を行うこともできる。抜出溶液を膜セル中に循環させるために、抜出側のギヤポンプ(8)が用いられる。膜セル(4)に入る前の抜出溶液をコル(coll)するために用いられる熱交換機である冷却機(10)の後で温度を制御するために、抵抗温度検出器(9)が用いられる。作業者が蒸気又は煙霧にさらされることなく大気圧で流束実験を実施可能にするフィルター(11)が示されている。膜セル(4)の後で抜出溶液及び水を収集するためにコアレッサーカートリッジ(12)が用いられる。抜出溶液を水から分離するために、抜出タンク及びコアレッサー(13)が用いられる。抜出タンク及びコアレッサー(13)の底部には、タンク/コアレッサーの排液のために用いられる弁(1)が存在する。抜出タンク及びコアレッサー(coalesce)(13)に戻る前の抜出溶液を加熱するために用いられる熱交換器である加熱器(16)の後で温度を制御するために抵抗温度検出器(15)が用いられる。膜の洗浄又は交換の際に抜出側を隔離するために、二方弁(17)が用いられる。膜の洗浄又は交換の際に膜セルを隔離するために、膜セル(4)の抜出側の三方弁(18)、及び膜セル(4)の抜出側の三方弁(19)が用いられる。膜の洗浄又は交換の際にフィード側を隔離するために二方弁(20)が用いられる。この試験システムの膜セル(4)中の半透膜のそれぞれの側を脱イオン水でフラッシングした(3回)。この半透膜は正浸透膜であった。膜セルのフィード側に脱イオン水を満たし、膜セルの抜出側に試験のために選択された抜出溶液を満たした。次にフィード溶液ポンプ(1)及び抜出溶液ポンプ(8)を同時に作動させ、試験システムを2~3分間平衡化させた。抜出タンク(13)中の水位を記録し、次にシステムを10分間動作させた。次に抜出タンク(13)は、抜出タンク中を最初に記録された水位まで水を除去することによって排出し、その水を秤量して、10分間で膜を通過した水の量を求めた。これらの最後の2ステップを試験中に繰り返した。行った試験の比率、抜出濃度、及び時間を以下の表15に示している。
【0083】
【0084】
表15ならびに
図11及び12から分かるように、平均水流束は、温度及び抜出溶液濃度の影響を受けた。最高水流束速度は、TEA対MEKが1.0:1.0の比の場合に見られた。TEA及びMEKの場合、温度を上昇させると、水流束も増加した。抜出溶液濃度が倍になると、水流束はわずかに減少した。対照的に、TEAシクロペンタノン抜出溶液を用いると、抜出溶液濃度が2倍になると、水流束は増加した。
FTIR実験
FTIR分光計を用いて抜出溶液を分析した。種々の比率のMEK及びTEA及び水について、FTIRを用いて測定した。次に、主成分分析を用いて結果として得られたスペクトルを分析した。調べた試料は、TEA、MEK、TEA:MEK、及びTEA:MEK:H
2Oと名付けた。
【0085】
試料を温度制御ステージ上に試料皿中に入れ、分析を行った。ブルカー・バーテックス(Bruker Vertex)70 FT-IR分光計を用いてFT-IR分光法を行った。試料の分析は、各スペクトルが得られてスペクトル分解能が0.4cm-1となるように16スキャンを行うことを伴った。
【0086】
結果として得られるスペクトルを
図13~16として示している。約1712~1719cm
-1におけるカルボニルピークは、水の存在下でエノールに変換されることが分かる。1712~1719cm
-1における1つのカルボニルピーク(
図14及び15参照)は、1645~1701cm
-1において2重のピークに分割され、これはエノール型を示している。
【0087】
熱応答性を示すこれらの溶液が、浸透方法における抜出溶液として利用可能であることが分かる。
図1及び6に示されるように、本発明の熱応答性溶液を浸透方法における抜出溶液として使用できることが分かる。この抜出溶液は、たとえば、半透膜から抜出溶液中に透過する精製を必要とする水の抜き取りに使用することができる。抜出溶液がその浸透ポテンシャルに到達すると、抜出溶液混合物は、ケトン及びアミンの混合物が非混和性となるその下限臨界溶解温度まで加熱することができ、精製/処理された水溶液は、(非常にエネルギー効率の良い方法で物理的又は機械的分離によって)抜出溶液から容易に分離することができる。抜出溶液は、再循環させて、さらなる浸透サイクルで再利用することができる。下限臨界溶解温度は、ケトン/アミン混合物、ならびに1つ以上のケトン又はアミンが用いられるかどうかに依存して変動しうることを理解されたい。エネルギー効率の目的で、室温よりあまり高くない下限臨界溶解温度を有することが望ましい。
【0088】
本発明及びその実施形態を詳細に記載してきた。しかし、本発明の範囲が、本明細書に記載の任意のプロセス、製品、組成物、化合物、手段、方法、及び/又はステップの特定の実施形態に限定されることを意図するものではない。本発明の意図及び/又は本質的な特徴から逸脱せずに開示される材料に対して種々の修正、置換、及び変形を行うことができる。したがって、当業者であれば、本明細書に記載の実施形態と実質的に同じ機能が実施される、又は実質的に同じ結果が得られるこれらの修正、置換、及び/又は変形を、本発明のこのような関連実施形態により利用できることを本開示から容易に理解されよう。したがって、以下の請求項は、それらの範囲内に、本明細書に開示される組合せ、キット、化合物、手段、方法、及び/またステップの修正、置換、及び変形を含むことが意図される。
【0089】
したがって、当業者であれば、本明細書に記載の実施形態と実質的に同じ機能が実施される、又は実質的に同じ結果が得られるこれらの修正、置換、及び/又は変形を、本発明のこのような関連実施形態により利用できることを本開示から容易に理解されよう。したがって、本発明は、その範囲内に、本明細書に開示されるプロセス、製品、組成物、化合物、手段、方法、及び/又はステップの修正、置換、及び変形を含むことが意図される。