(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】カルボキシレートの存在下におけるトリアルキルインジウム化合物の生成
(51)【国際特許分類】
C07F 5/00 20060101AFI20220627BHJP
C23C 16/18 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
C07F5/00 J
C23C16/18
(21)【出願番号】P 2019561254
(86)(22)【出願日】2018-05-25
(86)【国際出願番号】 EP2018063820
(87)【国際公開番号】W WO2018219823
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-11
(32)【優先日】2017-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D-63457 Hanau,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ・ショルン
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ・カルヒ
(72)【発明者】
【氏名】アニカ・フレイ
(72)【発明者】
【氏名】アンゲリノ・ドッピウ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・リヴァス・ナス
(72)【発明者】
【氏名】アイリーン・ヴェルナー
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-067608(JP,A)
【文献】特開2006-104189(JP,A)
【文献】特開平01-100178(JP,A)
【文献】特開昭62-211385(JP,A)
【文献】特表2002-538082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/00
C23C 16/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアルキルインジウムの製造方法であって、前記製造は、少なくとも1つのアルキルインジウムハライド、トリアルキルアルミニウム、カルボキシレート、及び溶媒を含有する反応混合物中で行われ、前記アルキル基は、C1~C4アルキルから互いに独立して選択される、方法。
【請求項2】
前記アルキルインジウムハライドが、式:
R
aIn
bX
c
[式中、Rが、C1~C4アルキルから選択され、Xが、Cl、Br、及びIから選択され、かつa=1~2、b=1、及びc=1~2である]
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハライドが、クロリドである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルキルが、メチル又はエチルである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アルキルインジウムハライドが、アルキルインジウムセスキクロリド(R
3In
2Cl
3)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記カルボキシレート
に対応するカルボン酸が、式:
R’COOH
[式中、R’は、1~20
個の炭素原子を有する炭化水素基である]
の1つのカルボン酸である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記カルボキシレートが、式:
[R’COO]
xM
[式中、Mは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択され、かつx=1又は2である]
を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記カルボキシレートに対応するカルボン酸が、200℃を超える沸点を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記溶媒が、炭化水素からなる、及び/又は400℃を超える沸点を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記反応混合物中のIn:Alのモル比が、3:2~2:
3である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記反応が、100℃未
満の温度で実施される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記トリアルキルインジウムが、昇華によって前記反応混合物から分離される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記反応が、
(a)前記アルキルインジウムハライド、前記カルボキシレート、及び前記溶媒を含有する混合物を準備するステップと、
(b)前記トリアルキルアルミニウムを添加するステップと、
を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
トリアルキルインジウムの収率が、使用されるインジウムの量に対して80%超である、及び/又は前記トリアルキルインジウムが、2ppm未満の酸素含有量を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記カルボキシレートが、2-エチルヘキサノエート、n-オクタノエート、ナトリウム-2-エチルヘキサノエート、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
インジウムを含有する半導体及び/又はインジウムを含有するコーティングの製造方法であって、
(i)
請求項1に記載の方法によ
ってトリアルキルインジウムを製造するステップと、
(ii)金属有機化学気相蒸着(MOCVD)を実施するステップであって、前記トリアルキルインジウムが、インジウムを含有するコーティングを基材上に堆積させるための前駆体化合物として使用されるステップと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアルキルインジウムの製造方法に関するものであり、本製造は、少なくとも1つのアルキルインジウムハライド、トリアルキルアルミニウム、カルボキシレート、及び溶媒を含有する反応混合物中で行われ、インジウム及びアルミニウム上のアルキル基は、C1~C4アルキルから互いに独立して選択される。具体的には、本発明は、トリアルキルインジウム(InR3)の製造方法に関するものであり、本製造は、少なくとも1つのアルキルインジウムハライド、トリアルキルアルミニウム(AlR3)[式中、インジウム及びアルミニウム上のアルキル基Rは、C1~C4アルキルから互いに独立して選択され、かつアルキルインジウムハライドのハロゲン化物は、Cl、Br、及びIから互いに独立して選択される]、カルボキシレート、及び溶媒を含有する反応混合物中で行われる。
【背景技術】
【0002】
トリアルキルインジウム化合物、特にトリメチルインジウム及びトリエチルインジウムは、インジウムベースの層を生成するための前駆体化合物(前駆体)として金属有機化学気相蒸着(MOCVD)で使用される。この方法は、特に、半導体の製造に役立つ。本方法では、ガス状前駆体化合物が反応チャンバに向けられ、ここで互いに反応するか又は追加の物質と反応し、反応生成物が基材上に堆積する。トリアルキルインジウム化合物は、自然発火性である、結晶性、昇華性、又は液体の蒸留可能な化合物であるため、空気の存在下で自然発火する。
【0003】
MOCVD法における前駆体化合物としてトリメチルインジウムを使用すると、わずかな極性汚染物質、特に酸素だけでなく、窒素又はリンも生成物を不活性化する(「活性を低下させる(poison)」)可能性があるという問題が存在する。半導体用途では、ppm範囲内の酸素汚染さえも許容できない。このことにより、必然的に、酸素及び他の汚染物質がほぼ完全に回避される、トリメチルインジウムの特定の製造方法が提供されなければならない。
【0004】
トリアルキルインジウムの従来の製造方法は、インジウム、マグネシウム、及びハロゲン化アルキルのグリニャール反応、塩化インジウム(III)及びメチルリチウムの脱塩反応、並びにインジウム及び金属アルキル化合物の金属交換反応である。このような方法は、トリアルキルインジウムを必要な純度で提供できないため、MOCVDプロセスのためのトリアルキルインジウム生成には全般的に好適ではない。これは、このような方法では、エーテルなどの極性溶媒が必要とされるためである。これらはインジウムに対して比較的高い親和性を有するため、錯化と、酸素化合物による生成物の汚染とにつながる。
【0005】
このような汚染物質の問題を解決するために、従来技術では、酸素含有溶媒を必要としない様々な方法が提案されてきた。したがって、国際公開第2014/093419号では、前駆体化合物R3M2X3[式中、R=アルキル、及びM=ガリウム、インジウム、又はタリウム]と、還元剤とを反応させることを提案している。特に、炭化水素は溶媒として使用される。これによって、元素ナトリウムを反応剤として使用することは不利である。ナトリウムは極めて反応性が高く、取り扱いが困難であり、かつ定期的に望ましくない二次反応をもたらす。元素ナトリウムの使用は、特に、アルキル金属抽出物及び生成物といった自然発火性有機金属化合物との混合物中で有害であり、工業用途にはあまり好適でない。例示的な実施形態では、ガリウム化合物を用いる方法のみが記載されている。しかしながら、ガリウム及びインジウムの反応性は、かかる反応において非常に変わりやすく、ハロゲン及びアルキル基との錯体を伴う。いずれかが少しでも存在する場合、収率は低い。収率はまた、粗反応混合物のみのため、生成物を分離せずにNMRで調べられる。そのため、どの程度の量及び純度で分離されているのかはもちろんのこと、生成物が少しでも分離されているのかどうかも不明である。
【0006】
米国特許出願公開第2006/0047132(A1)号では、複数の前駆体化合物から、具体的にはガリウム、インジウム、アルミニウム、及び亜鉛に基づく有機金属化合物を製造するための様々な方法を開示している。この方法は、金属を伴う付加物を形成し、それによって所望の生成物の形成を支持する三級アミン又は三級ホスフィンの存在下で実施される。これにより、使用される低分子窒素含有化合物及び低分子リン含有化合物が生成物を汚染し、それによりMOCVDによる半導体製造のための生成物の使用が妨げられることは不利である。昇華による生成物の精製は可能でないか、又は使用される低分子三級アミン若しくはホスフィンの沸点が比較的低いため、不十分な程度でしか精製することができない。実施例12(インジウムアルキル化合物が具体的に生成される唯一の実施例)では、したがって、真空中において生成物を単離する試みが成功しなかったことが明記されている。したがって、トリメチルインジウム、アミン塩基付加物、及び溶媒を含有する粗反応生成物は、NMRによってのみ検査することができた。このような方法は、実際には使用不可能であるか、又は汚染物質を含まない高純度生成物が必要とされる場合、限定された範囲にのみ使用可能である。更に、トリメチルインジウム生成のための2つの理論的実施例7及び8を開示する。良好な結果が期待されると主張されている。これは、実施例12に記載されている粗反応生成物からのトリメチルインジウムの分離の問題が解決されていないため、あり得ない。したがって、推測例7又は8によれば、良好な収率が得られることはもちろん、必要な純度の生成物が得られることも期待できない。むしろ、この高純度トリメチルインジウムの製造方法は、MOCVDプロセスに不適切であることが予想される。
【0007】
国際公開第2014/099171号では、インジウムカルボキシレート及びアルキルアルミニウム化合物からのトリアルキルインジウム化合物の製造方法を記載している。昇華したトリメチルインジウムの反応収率は、およそ50~55%であり、低い。昇華において生成物の汚染をもたらすイソヘキサン又はトリアセテートといった低分子成分が、反応混合物中に存在する点もまた不利である。1つの方法の変形例では、低分子溶媒を反応後に高沸点溶媒で置換することによって、この方法が比較的複雑化される。
【0008】
国際公開第2015/024894号では、式R3In2Cl3[式中、Rは、1~4個の炭素原子を有するアルキル基である]の前駆体化合物からトリアルキルインジウムの製造方法を開示している。この反応は、最初にアルキルリチウムを用いてリチウムテトラアルキルインデートを生成し、続いてこのリチウムテトラアルキルインデートを塩化インジウム成分と反応させる、多段階の方法で行われる。収率は比較的高いが、原則として、より単純な方法を提供することが望ましいであろう。また、ジエチルエーテルが、付加物の形成によって生成物の酸素汚染をもたらし得る方法で使用されている。
【0009】
米国特許第5,756,786号及び米国特許第6,770,769(B2)号は、フッ化カリウムの存在下での、三塩化インジウム及びトリメチルアルミニウムからトリメチルインジウムの製造方法に関する。収率はおよそ56%であるため、改善が必要である。二次生成物であるジメチルアルミニウムフルオリドは比較的低い沸点を有するため、真空中での生成物の精製において、汚染物質を生じる。この方法では、高過剰のフッ化カリウムが使用される。概ね、工業プロセスにおけるフッ化物の取り扱いは、複雑かつ高コストであるために問題がある。また、K[Me2AlF2]といった二次生成物の部分が高い反応性を示すため、反応残渣を高価な方法で失活させなければならない。更なる欠点は、固体抽出物(educt)であるInCl3及びKFがポリマー構造を有する点である。したがって、それらは非極性溶媒であるスクワランに不溶性であるか、又は難溶性である。したがって、反応は、100℃を超える比較的高い温度で実施されなければならず、発熱反応及び使用される自然発火性化合物の点で、安全性の問題につながる。これに加えて、固体として不均一に分布して存在する難溶性抽出物のために、反応は不十分にしかモニターされない。この方法はまた、インジウム化合物に対して高い(3倍)モル過剰のアルミニウム化合物が必要であるため、比較的効率が悪い。前述の理由から、本方法は工業的に適用されるのには好適でない。
【0010】
全体として、高収率及び高純度でトリアルキルインジウムを製造するための、新規で効率的かつ簡単な方法が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記の欠点を克服する方法を提供することである。生成物が高収率かつ高純度で得られる、トリアルキルインジウムを生成する方法が提供されるべきである。具体的には、望ましくない汚染物質がMOCVD用途といった後続のプロセスに不利な効果を有する生成物に混入することを回避するべきである。特に、酸素を有する汚染物質もまた、窒素、リン、又は他の金属を有する汚染物質も回避されるべきである。この方法は、可能な限り簡単に、かつ可能な限り少ない反応ステップで行うことができるべきである。出発物質は、可能な限り単純で、かつ大量に利用可能であるべきであり、可能な限り取り扱いが容易であるべきである。全体的に、この方法は、可能な限り簡単に、効率的に、かつ費用効果的に実施することができるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、本発明が基づく目的は、本特許請求の範囲による方法によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の主題は、トリアルキルインジウムの製造方法である。本生成は、少なくとも1つのアルキルインジウムハライド、トリアルキルアルミニウム、カルボキシレート、及び溶媒を含有する反応混合物中で行われる。
【0014】
アルキル基はC1~C4アルキルから互いに独立して選択される。アルキル基は、直鎖状であっても、又は分枝状であってもよい。これにより、アルキル基がメチル又はエチルから選択されることが特に好ましい。アルキル基は、特に好ましくはメチルである。
【0015】
抽出物(educt)であるアルキルインジウムハライド及びトリアルキルアルミニウムは、アルキル基を有する。これらは互いに独立して選択されてもよく、したがって異なっていてもよい。しかしながら、反応混合物中の全てのアルキル基は、同一であることが特に好ましい。これは、アルキルインジウムハライド及びトリアルキルアルミニウムの両方が同じアルキル基を有することにより、同一のアルキル基を伴うトリアルキルインジウムが得られることを意味する。メチルインジウムハライド及びトリメチルアルミニウムがトリメチルインジウムを生成するために使用される反応が、特に好ましい。エチルインジウムハライド及びトリエチルアルミニウムがトリエチルインジウムを生成するために使用される反応も、同様に好ましい。
【0016】
アルキルインジウムハライドは、好ましくは、フッ化物、塩化物、ヨウ化物、及び臭化物から選択されるハロゲン化物を有する。ハロゲン化物は、特に好ましくは、塩化物である。このような反応では、対応する化合物は比較的単純な方法でかつ費用効果的に利用可能であるため、塩化物が全般的には好ましい。
【0017】
好ましい実施形態では、ハロゲン化物は塩化物であり、及び/又はアルキルはメチルである。ハロゲン化物は塩化物であり、アルキルはメチルであることが特に好ましい。本実施形態では、本発明は、メチルインジウムクロリド及びトリメチルアルミニウムを含有する反応混合物からトリメチルインジウムの製造方法に関する。
【0018】
反応混合物は、少なくとも1つのアルキルインジウムハライドを含有する。「アルキルインジウムハライド」と呼ばれる一般用語は、インジウム、アルキル、及びハロゲンからなる式RaInbXcの化合物の群である。したがってこの用語は、アルキル、インジウム、及びハロゲン化物が、1:1:1の比で存在することを意味しない。アルキルインジウムハライドでは、金属インジウムは、アルキル基及びハロゲン化物基と、有機金属錯体又はこれらの塩を形成する。概ね、このような有機金属インジウムハロゲン化物は、多くの場合、互いに平衡状態にある様々な化合物の混合物として存在する。したがって、アルキル、インジウム、及びハロゲン化物のモル比a:b:cは、全体として整数ではないことが多く、また具体的な製造方法によっても異なり得る。むしろ、化合物は、可変構造を有するポリマーである。これにより、具体的な構造体は、従来技術においてまだ完全に明確化されていないため、部分的に未知である。しかしながら、本発明によれば、アルキル基及びハロゲン基を有する有機金属錯体が使用されることは必須である。モル比は、元素分析又はNMR試験によって、更なる測定なしに決定することができる。
【0019】
好ましい実施形態では、アルキルインジウムハライドは、式RaInbXc[式中、Rは、C1~C4アルキルから選択され、式中、Xは、Cl、Br、及びIから選択され、かつ式中、a=1-2、b=1、及びc=1-2である]を有する。R=メチル又はエチルであり、X=Clであることが好ましい。したがって、R:In:Xのモル物質量比は、1:1:2~2:1:1の間で変動し得る。実際には、このようなアルキルインジウムハライドはまた、式R2InX及びRInX2の化合物の混合物としても記載される。これらの化合物において、特定の組成物は多くの場合また、引用された範囲内で変化し、特定の化学量論は、製造方法に依存する。
【0020】
好ましい実施形態では、アルキルインジウムハライドは、アルキルインジウムセスキクロリド(R3In2Cl3)である。化合物R3In2Cl3はまた、R2InCl及びRInCl2の等モル混合物としても記載され得る。実際には、このような化合物は通常、正確に示された理想モル比では存在しない。例えば、メチルクロリド化合物中のメチルと塩化物とのモル比は、およそ2:3であり得ることが見出されている。これにより、合計式をMe2,4In2Cl3,6と特定することができる。
【0021】
アルキルインジウムハライドを製造する方法は、当先行技術分野において既知である。これらは多くの場合、ハロゲン化インジウムとハロゲン化アルキルとの反応に基づく。アルキルインジウムセスキクロリドの生成は、例えば、国際公開第2015/024894(A1)号に記載されている。更なる方法は、Gynane et al.,J.Organomet.Chem.,40,1972,C9-C10又はGynane et al.,J.Organomet.Chem.,81,1974,329-334に記載されている。米国特許第5,817,847号では、MeClと溶融インジウムとの反応が記載されており、反応時間に応じて、MeInCl2又はMe2InClが得られる(Me=メチル)。
【0022】
反応混合物は、少なくとも1つのトリアルキルアルミニウムを有し、アルキルは、好ましくはメチル又はエチルである。トリアルキルアルミニウム化合物は、一般式AIR3の有機金属化合物である。このような化合物は概ね、各アルミニウム原子が3回以上配位する二量体又はポリマーとして存在する。本発明の方法では、トリアルキルアルミニウムは、インジウム化合物と反応するためのアルキル基を提供する役割を果たす。全体として、反応において、アルキル基は、アルミニウム化合物からインジウム化合物へと移動する。そのような方法はまた、アルキル交換とも称される。
【0023】
反応混合物は、少なくとも1つのカルボキシレートを有する。カルボン酸の塩をカルボキシレートと称する。カルボン酸は、1つ以上のカルボキシル基(-COOH)を保有する有機化合物である。したがって、少なくとも1つの脱プロトン化カルボキシル基を有するイオン性化合物が含有される。カルボン酸塩は、好ましくは反応混合物に添加され。このカルボン酸塩は、反応混合物中で少なくとも部分的に解離する。反応混合物中において、少なくとも部分的に中和されたカルボン酸を使用することもまた考えられる。
【0024】
本発明によれば、驚くべきことに、トリアルキルインジウム生成は、カルボキシレートの存在下においてアルキル交換が実施される場合、著しくより効率的であることが確立されている。高収率は、高純度生成物が同時に得られるカルボキシレートの存在下で達成され得る。生成物は、酸素による検出可能な汚染を示さない。更に、カルボキシレートによる反応はより効率的であり、使用されるトリアルキルアルミニウムの量を低減することができる。理論に束縛されるものではないが、カルボキシレートは、抽出物と共に、全反応に正の影響を及ぼす中間錯体又は反応生成物を形成すると想定される。
【0025】
カルボキシレートは、有機金属インジウム及びアルミニウム化合物に加えて、更なる成分として使用される。したがって、これらは、有機金属インジウム及びアルミニウム化合物の成分として、すなわち、有機金属インジウム及びアルミニウム化合物としては使用されない。したがって、この方法は、インジウムカルボキシレートが抽出物として使用される、国際公開第2014/099171(A1)号のものとは著しく異なる。
【0026】
カルボキシレートは、例えば、1分子当たり1個、2個、又はそれ以上のカルボキシル基を有してもよい。好ましい実施形態では、カルボキシレートはモノカルボキシレートである。モノカルボキシレートとの反応は、著しく効率的であることが判明している。理論に束縛されるものではないが、反応過程に悪影響を及ぼすキレート化は、二価又はそれ以上のカルボキシレートで生じ得ると仮定される。
【0027】
好ましい実施形態では、カルボキシレートは、式R’-COOH[式中、R’は炭化水素基である]の1つのカルボン酸である。炭化水素は、1~20個の炭素原子を有する、アルキル、アリール、又はアラリル(araryl)基から選択され得る。カルボン酸は、直鎖状であっても、又は分枝状であってもよい。このような炭化水素カルボン酸塩は、反応混合物と相溶性であり、有機金属成分の良好な溶解及び反応をもたらすので好ましい。これにより、溶媒は炭化水素が好ましい。反応に悪影響を及ぼす可能性があるか又は生成物を汚染し得る、更なる極性化合物が存在しないこともまた好ましい。
【0028】
本発明によれば、驚くべきことに、反応は高沸点カルボキシレートの存在下において非常に効率的に進行することが見出されている。トリアルキルインジウム生成物が、そのような高沸点カルボン酸塩が生成物に入ることなく昇華によって分離され得るため、これは有利である。好ましい実施形態では、したがって、カルボキシレートは、式R’-COOH[式中、R’は、アルキル、アリール、又はアラリル基であってもよく、かつ少なくとも5個、好ましくは5~20個の炭素原子を有する、炭化水素基である]の1つのカルボン酸である。R’基は、好ましくは5~15個、特に5~12個、特に好ましくは7個の炭素原子を有する。カルボン酸は、それにより、特に好ましくはアルカン酸である。これらは直鎖状又は分枝状であってもよく、分枝状カルボン酸が好ましい。カルボキシレートのベースを形成するカルボン酸は、概ね200℃を超える比較的高い沸点を有し、昇華によって精製された生成物の汚染を引き起こさないか、又はほんのわずかしか引き起こさない。
【0029】
カルボキシレートは、好ましくは金属の塩である。好ましい実施形態では、金属は、酸化数1又は2を有する。特に、金属はアルカリ又はアルカリ土類金属である。アルカリ金属の塩が特に好ましくは使用され、特に、ナトリウム又はカリウムカルボキシレートが使用される。
【0030】
カルボキシレートは、好ましくは、式[R’COO]XM[式中、Mは、一価及び二価のアニオン、好ましくは金属から選択され、かつX=1又は2である]のうちの1つである。ここで、Mが二価金属である場合、X=2である。金属は、好ましくはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であるが、その理由は、そのような金属は、概して容易に可溶性であり、かつ利用可能であるからである。Li、Na、K、Mg、又はCa、特にNa又はKが、特に好ましい。
【0031】
好ましい実施形態では、カルボキシレートは、式R’-COOM[式中、Mは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属から選択され、式中、R’は、6~15個、特に6~12個の炭素原子を有する炭化水素基である]を有する。カルボキシレートは、特に好ましくは、直鎖又は分枝鎖オクタノエート、特に2-エチルヘキサノエート、特にナトリウム-2-エチルヘキサノエート又はn-オクタノエートである。
【0032】
好ましい実施形態では、カルボキシレートのベースを形成するカルボン酸は、200℃超、特に250℃超の沸点を有する。このような高沸点のカルボキシレートは、トリアルキルインジウム、特にトリメチルインジウムの分離時に反応混合物中に残存する。例えば、オクタン酸は、およそ237℃の沸点を有する。
【0033】
反応は溶媒中で起こる。抽出物及びカルボキシレートが可能な限り溶解するか、又は少なくとも懸濁されてもよいようにこれは選択される。これにより、溶媒は非極性であることが好ましい。特に、溶媒は、酸素含有基、窒素含有基、又はリン含有基、及び/又はO、N、若しくはP原子といった極性基を有しないことが好ましい。
【0034】
好ましい実施形態では、溶媒は炭化水素である。特に好ましくは、炭化水素からなる。この反応は、炭化水素で特に効率的に実施することができることが確認された。これにより、炭化水素は脂肪族又は芳香族炭化水素であってもよい。これにより、アルカンを使用することが好ましい。例えば、これらは、ペンタン、シクロヘキサン、デカン、ヘプタン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、ノナン、オクタン、又は10~15個の炭素原子を有する長鎖炭化水素から選択されてもよい。芳香族炭化水素は、例えば、ベンゼン、トルエン、及びキシレンから、又は置換若しくは非置換であり得る他の単環式若しくは多環式芳香族から選択されてもよい。前述の炭化水素の混合物を使用してもよい。
【0035】
好ましい実施形態では、溶媒は、200℃超、特に300℃超、又は400℃超の沸点を有する炭化水素からなる。この実施形態では、昇華による生成物の精製において、溶媒が蒸留されていないか又はわずかに蒸留されているだけであり、生成物が汚染されていない点が、非常に有利である。これにより、溶媒が400℃を超える沸点を有することが特に好ましい。450℃の沸点を有するスクアランが特に好適である。
【0036】
理論に束縛されるものではないが、この方法は、トリメチルジインジウムトリクロリド(メチルインジウムセスキクロリド)、トリメチルアルミニウム、及びナトリウム-2-エチルヘキサノエートを出発物質として用いる場合には、以下の反応式(I)に従って進めることができる:
2Me
3In
2Cl
3+3Me
3Al+6Na(2-EH)→4Me
3In+3MeAl(2-EH)
2+6NaCl(I)
式中、カルボキシレートとして使用されるナトリウム-2-エチルヘキサノエートは、Na(2-EH)に短縮され、ただし、
【化1】
である。
【0037】
式(I)は、理想的かつ理論的な反応を説明する。上述したように、実際には、アルキルインジウムハライドは通常、例えば3:2:3という理想的な比からずれた化学量論を示す。更に、実際には、カルボキシレートといった二次生成物は錯体の形態で得られる。
【0038】
反応を行うために反応混合物を提供する。これは、アルキルインジウムハライド、トリアルキルアルミニウム、カルボキシレート、及び溶媒を含有し、これらの成分の混合物もまた使用され得る。溶媒は、好ましくは、その中に存在する抽出物が、可能な限り均質に、好ましくは溶液として、又は少なくとも可能な限り微細な分散体として分散されるように選択される。これにより、出発物質の混合物は、可能な限り効率的な反応が起こるように行われ、かつ二次反応は、特に反応の開始時に回避される。
【0039】
反応が非常に効率的に進行する点がこの方法の利点である。このことは、比較的少量のトリアルキルアルミニウムのみを使用しなければならない状況をもたらすため、全体として、かなりのコスト削減につながる。例えば、上記の反応式によれば、4モルのインジウムの変換には、3モルのアルミニウムのみが必要とされる。対照的に、比較的高い過剰のアルミニウムが従来の方法で必要とされることが多い。しかしながら、本発明によれば、収率を向上させるために過剰なアルミニウム化合物を使用することが有利であり得る。好ましい実施形態では、反応混合物中のインジウム及びアルミニウムのモル比は、3:2~1:2、特に3:2~2:3である。特に、モル比は、3:2~1:1、特に4:3~1:1が特に好ましい。モル比では、反応混合物は、アルミニウムよりも多くのインジウムを含有することが全般的に好ましい。
【0040】
収率を改善するために、インジウムに対してモル過剰のカルボキシレートを使用することが全般的に好ましい。反応混合物中のカルボキシレートとインジウムとのモル比は、例えば、1:1~5:1、特に2:1~4:1、そして特に好ましくは3:2~3:1であり得る。カルボン酸塩は容易にかつ費用効果的に利用できるので、これは概ね効率上の理由から重要ではない。
【0041】
反応は、例えば25℃~200℃の温度で行うことができる。しかしながら、反応は、100℃未満、特に80℃未満又は70℃未満の温度で実施されることが好ましい。反応は、好ましくは25℃~100℃の範囲、特に30℃~80℃の範囲又は50℃~70℃の範囲の温度で行われる。本発明によれば、およそ60℃の温度でさえも非常に高い収率が達成され得ることが見出されている。
【0042】
本発明によれば、このような比較的低温でも効率的な反応が生じる点が非常に有利である。一方、インジウムに基づいて使用される有機金属化合物は、概ね熱不安定である。したがってトリメチルインジウムは、120℃を超えて、高圧の発生下において発熱を分解する傾向がある。したがって、生成物の収率及び生成物の品質に関して、本方法は比較的低温で実施され得る点が有利である。一方で、使用される有機金属化合物及び生成される有機金属化合物の両方は、全般的には自然発火性である。したがって、具体的には工業規模で適用した場合の危険の可能性は、低い反応温度を設定することによって大幅に低下し得る。
【0043】
反応は、抽出物が完全に又は大部分が反応するまで、ある期間にわたって実施される。例えば、反応は、20分~20時間、特に30分~8時間、又は30分~4時間の期間にわたって実施することができる。反応は比較的効率的に進行するので、5時間未満又は3時間未満の反応時間で充分であり得る。
【0044】
反応は、好ましくは、空気及び水の厳密な排除下で行われる。そうでなければ、生成物であるトリアルキルインジウム及び抽出物であるトリアルキルアルミニウムが極めて自然発火性であるため、望ましくない二次反応が起こるであろう。
【0045】
トリアルキルインジウムへの反応は、好ましくは、全ての出発物質を単一のステップで混合した後に行われ、したがって、中間体を単離する必要がなく、又はリチウム化合物のような更なる反応性化合物が後に加えられることなく行われる。
【0046】
トリアルキルインジウムは、好ましくは、反応の終了後に分離される。好ましい実施形態では、トリアルキルインジウムは昇華によって分離される。昇華は、好ましくは真空及び高温、例えば100℃~200℃で行われる。既知の方法によれば、固体トリアルキルインジウムは、冷却された範囲内の昇華物として得られる。概ね、精製トリアルキルインジウムは、典型的な方法、例えば乾燥又は再昇華によって更に精製することができる。
【0047】
抽出物は、任意の順序で混合されてもよい。好ましい実施形態では、反応は、以下のステップ:
(a)アルキルインジウムハライド、カルボキシレート、及び溶媒を含有する混合物を用意するステップと、続いて、
(b)トリアルキルアルミニウムを添加するステップと、
を含む。
【0048】
トリアルキルアルミニウムが最後に添加される場合、反応は特に効率的に進行することが判明している。それにより、例えば液滴によって、より長い時間にわたって、制御された方法でトリアルキルアルミニウムを添加することが好ましい。添加速度は、反応が全体的に制御された様式で進行するように調整される。トリアルキルアルミニウムは、好ましくは連続的に反応し、かつ反応混合物中に蓄積しない。特に、反応は、トリアルキルアルミニウムの添加中に温度が一定のままであるように調整される。例えば、トリメチルアルミニウムの反応は、30分~5時間、特に30分~3時間の期間にわたって実施してもよい。このような反応過程では二次反応を回避することができ、そして収率は特に高いことが見出されている。
【0049】
更なる実施形態では、反応は、以下のステップ:
(a1)トリアルキルアルミニウム、カルボキシレート、及び溶媒を含有する混合物を用意するステップと、続いて、
(b1)アルキルインジウムハライドを添加するステップと、
を含む。
【0050】
したがって、アルキルインジウムハライドは、ステップ(a)及び(b)を用いて上述した方法と同様に、制御された方法で、より長い時間、例えば液滴によって添加することが好ましい。この方法の制御では、アルキルインジウムハライドが比較的低い融点を有することが多く、したがって液体形態で添加することもできるという事実を利用する。したがって、例示的な実施形態で使用されるメチルインジウムクロリドは、例えばおよそ130℃の融点を有し、液体形態での液滴によって添加することができる。これは、著しく高い融点を有する従来技術によるInCl3の使用と比較して、更なる利点である。
【0051】
ステップ(a)及び(b)、又は(a1)及び(b1)の後、トリアルキルインジウムの精製ステップ(c)は、好ましくは昇華によって行われる。
【0052】
単離された形態のアルキルインジウムハライドを反応に使用してもよい。前述のステップでアルキルインジウムハライドを生成することもまた可能である。アルキルインジウムハライドは、更なる中間ステップで精製されてもよいし、トリアルキルインジウムへの更なる変換が同じ反応容器内で行われてもよい。例えば、アルキルインジウムセスキクロリドといったアルキルインジウムハライドは、高圧圧及び温度150~200℃において、元素インジウムとハロゲン化アルキルとの反応によって生成することができる。このようにして製造された反応生成物は、カルボキシレート、及び適用可能であれば溶媒と直接混合し、次いで、トリアルキルアルミニウムを添加することができ、これにより、トリアルキルインジウムへの反応が始まる。これにより、更なる反応に必要な溶媒中でもアルキルインジウムハライドを生成することが考えられる。
【0053】
好ましい実施形態では、反応混合物は、200℃未満、好ましくは250℃未満又は300℃未満の沸点を有する成分、すなわち、抽出物、カルボキシレート、及び溶媒を含有しない。これは、このような高沸点化合物が担持されていないか、又はトリアルキルインジウムの最終昇華において、非常に小さい程度までのみ行われるため、特に有利である。
【0054】
好ましい実施形態では、アルキルインジウムハライド、トリアルキルアルミニウム、カルボキシレート、及び溶媒から以外には、更なる化合物は反応混合物に含有されない。更なる実施形態では、反応混合物は、添加物を含有し得る。
【0055】
更なる実施形態では、窒素又はリン、特にアミン又はホスフィンを含有する化合物(不活性ガス以外)は、反応混合物へは添加しない。カルボキシレートを除いて、好ましくは、酸素を含有する更なる化合物を添加しない。好ましくは、元素金属及び金属ハロゲン化物、特に三ハロゲン化インジウム又はハロゲン化アルミニウムから選択される化合物を添加しない。
【0056】
好ましい実施形態では、トリアルキルインジウムの収率は、使用されるインジウムの量に対して80%以上である。収率は、特に好ましくは、80%以上、90%以上、又は少なくとも95%以上である。収率は、特に、反応混合物からの昇華後のトリアルキルインジウムの量に関する。トリアルキルインジウムの生成におけるそのような高収率は非典型的であり、かつ概ね、従来の反応では達成されない。
【0057】
本方法で得られるトリアルキルインジウムの純度は、好ましくは少なくとも99.99重量%、特に少なくとも99.999重量%、そして特に好ましくは少なくとも99.9999重量%である。このような通常の純粋な生成物を本方法で得ることができることが判明している。純度は、好ましくは、反応混合物から昇華によって直接得られる生成物に更に関する。
【0058】
トリアルキルインジウムは、好ましくは2ppm未満、好ましくは1ppm未満、そして特に好ましくは0.5ppm未満の酸素含有量を有することが好ましい。このような低酸素画分は、MOCVD用途において許容可能である。したがって、本方法に従って生成されたトリアルキルインジウムは、通常は低い酸素割合を有する。カルボキシレートは原理的には酸素源であり、かつ生成物中にこれら由来の残基はほぼ入らないとは考えられなかったため、これは予想外であった。本発明によれば、酸素汚染は、1H-NMRによって検出することができない程わずかであることが判明している。この方法の検出限界は、およそ2ppmである。
【0059】
本方法に従って得ることができる高純度トリアルキルインジウムは、特に、インジウム含有層の堆積のための金属有機化学気相蒸着(MOCVD)における前駆体化合物として使用するのに好適である。この方法では、特にガス状形態で使用される。ここで、ガス相又は基材上において化学反応が生じ、インジウム及び/又はインジウム化合物が堆積される。これにより、トリアルキルインジウムが検出可能な酸素汚染物質を有しない点が非常に有利である。
【0060】
本発明の主題はまた、インジウムを含有する半導体及び/又はインジウムを含有するコーティングの製造方法であって、
(i)本発明の方法によるトリアルキルインジウムを製造するステップと、
(ii)金属有機化学気相蒸着(MOCVD)を実施するステップであって、トリアルキルインジウムが、インジウムを含有するコーティングを基材上に堆積させるための前駆体化合物として使用されるステップと、
を含む、方法である。
【0061】
本発明の方法は、先行技術とは対照的に、記載された目標を達成する。生成物を90%を優に上回る高収率で得られ得る、トリアルキルインジウムを生成する新規の方法が提供される。したがって、この方法は非常に効率的であり、かつ費用効率が高い。本発明によれば、酸素汚染物質が検出できない、通常高純度の生成物も得られる。したがって、生成物は、インジウムを含有する半導体製造のためのCVDプロセスにおける前駆体化合物として非常に好適である。
【0062】
本方法はまた、方法の制御に関して数多くの利点を有する。これは単一の反応混合物及び単一の反応ステップで実施することができ、したがって、比較的単純である。比較的少量のトリアルキルアルミニウムを、抽出物として使用されるアルキルインジウムハライドに関連して使用することができる。したがって、インジウムとアルミニウムとのモル比は、1未満か又は更にはより低くてもよい。これにより、全体的に、自然発火性であり、かつ取り扱いが困難な有機金属化合物の量を小さく保つことができる。これは、コスト及び危険予防の両方の理由から有利である。これらの利点は、比較的容易に入手可能でありかつ容易に取り扱われるカルボキシレートが使用されるために達成される。全体として、トリアルキルインジウムを生成するための顕著に改良されかつ単純化された方法が提供される。
【0063】
この方法には、200℃を超える比較的高い沸点を有する化合物のみを用いて実施することができるが、二次生成物を用いても実施することができるという、更なる利点がある。これにより、昇華によってトリアルキルインジウムの最終分離で高純度の生成物が得られることが保証される。
【実施例】
【0064】
例示的な実施形態
実施例1
式Me2,4In2Cl3,6のメチルインジウムクロリド(以下でMICと称する、国際公開第2015/024894(A1)号に従って生成、実施例1.4)を、不活性ガスグローブボックス内でトリアルキルインジウムに変換した。反応は、テンパリングジャケットを備えた1Lの三つ口瓶内で行われる。89.9gのMIC(インジウムに対して468mmol)及び135.5gのナトリウム-2-エチルヘキサノエート(815mmol)を、400mLのスクアランに添加し、KPG撹拌機で激しく撹拌する。この混合物を、サーモクライオスタット(thermocryostat)を備えるテンパリングジャケットによって60℃まで加熱する(外部温度制御)。29.9gのトリメチルアルミニウム(415mmol)を、温度が60℃(±2℃)(およそ2時間)で一定になる(そのような)速度で、滴下漏斗によって液滴で加える。添加終了後、滴下漏斗を冷却フィンガー(cool finger)付きクーラーに交換し、水溜めを120℃まで加熱する。クーラーを冷却フィンガーと一緒に-25℃まで冷却し、TMI(トリメチルインジウム)を、真空を適用することで反応混合物から昇華させる。これにより、昇華物として70.8gのTMI(443mmol)を結晶性固体として得る(収率95%)。酸素系汚染は1H-NMRによって同定することができない。v
【0065】
実施例2:
式Me2,4In2Cl3,6のメチルインジウムクロリド(実施例1による)を、不活性ガスグローブボックス内でトリアルキルインジウムに変換した。テンパリングジャケットを備える1Lの三つ口フラスコ中で、112.5gのメチルインジウムクロリド(インジウムに対して587mmol)及び168.7gのナトリウム-2-エチルヘキサノエート(1,015mmol)を、溶媒として500gのジベンジルトルエン(商標名Marlotherm SH、Sasol社、ドイツ)へ加えて、KPG攪拌機で攪拌する。この混合物を、サーモクライオスタットを備えるテンパリングジャケットによって60℃まで加熱する(外部温度制御)。36.9gのトリメチルアルミニウム(512mmol)を、温度が60℃(±2℃)(およそ1時間)で一定になる(そのような)速度で、滴下漏斗によって液滴で加える。添加終了後、滴下漏斗を冷却フィンガー付きクーラーに交換し、水溜めを120℃まで加熱する。クーラーを冷却フィンガーと一緒に-25℃まで冷却し、TMI(トリメチルインジウム)を、真空を適用することで反応混合物から昇華させる。これにより、昇華物として83.0gのTMI(519mmol)を結晶性固体として得る(収率88%)。酸素系汚染は1H-NMRによって同定することができない。