(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】自律型水中航走体及び自律型水中航走体用注排水システム
(51)【国際特許分類】
B63G 8/22 20060101AFI20220627BHJP
B63C 11/00 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
B63G8/22
B63C11/00 B
(21)【出願番号】P 2020190022
(22)【出願日】2020-11-16
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊浦 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】藤本 高志
(72)【発明者】
【氏名】後藤 浩輝
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-077258(JP,A)
【文献】特開2003-135865(JP,A)
【文献】特開2012-030637(JP,A)
【文献】中国実用新案第205780026(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63G 8/22
B63C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の容積を有する内部空間に気体部と体積可変な液体部とが形成されたタンクを搭載した自律型水中航走体に適用され、前記液体部への液体の注水と前記液体部からの前記液体の排水とを制御する注排水システムであって、
ポンプ吸入口及びポンプ吐出口を有する往復ポンプと、
前記往復ポンプを通過する前記液体の流れが常に前記ポンプ吸入口から前記ポンプ吐出口への一方向となるように、前記液体の取水口から前記液体部に開口した液体部出入口への注水流路及び前記液体部出入口から前記液体の放水口への排水流路を形成する注排水配管と、
前記注排水配管を流れる前記液体の流路を切り替える流路切替部とを、備え
、
前記注排水配管は、前記液体部出入口と前記ポンプ吸入口とを接続し排水弁が設けられた一次側排水路、前記ポンプ吐出口と前記放水口とを接続し排水元弁が設けられた二次側排水路、前記取水口と前記ポンプ吸入口とを接続し注水元弁が設けられた一次側注水路、及び、前記ポンプ吐出口と前記液体部出入口とを接続し注水弁が設けられた二次側注水路を有し、
前記流路切替部は、注水時に前記注水弁及び前記注水元弁を開放するとともに前記排水弁及び前記排水元弁を閉止し、排水時に前記排水弁及び前記排水元弁を開放するとともに前記注水弁及び前記注水元弁を閉止する、
自律型水中航走体用注排水システム。
【請求項2】
所定の容積を有する内部空間に気体部と体積可変な液体部とが形成されたタンクを搭載した自律型水中航走体に適用され、前記液体部への液体の注水と前記液体部からの前記液体の排水とを制御する注排水システムであって、
ポンプ吸入口及びポンプ吐出口を有する往復ポンプと、
前記往復ポンプを通過する前記液体の流れが常に前記ポンプ吸入口から前記ポンプ吐出口への一方向となるように、前記液体の取水口から前記液体部に開口した液体部出入口への注水流路及び前記液体部出入口から前記液体の放水口への排水流路を形成する注排水配管と、
前記注排水配管を流れる前記液体の流路を切り替える流路切替部とを、備え、
前記注排水配管は、前記ポンプ吐出口から前記ポンプ吸入口までの間に第1接続路、注水弁、第2接続路、排水弁、及び第3接続路がこの順に連設されてなるループと、前記第1接続路と前記放水口とを接続し排水元弁が設けられた排出ラインと、前記第2接続路と前記液体部出入口とを接続する注排水ラインと、前記第3接続路と前記取水口とを接続し注水元弁が設けられた注水ラインとを有し、
前記流路切替部は、注水時に前記注水弁及び前記注水元弁を開放するとともに前記排水弁及び前記排水元弁を閉止し、排水時に前記排水弁及び前記排水元弁を開放するとともに前記注水弁及び前記注水元弁を閉止する、
自律型水中航走体用注排水システム。
【請求項3】
前記注排水配管は、前記液体部出入口と前記液体の給排水口とを前記往復ポンプを介さずに直接的に接続する給排水流路と、前記給排水流路に設けられた開閉弁とを有し、
前記流路切替部は、前記内部空間の圧力が深度圧より小さい場合の注水時に前記注水流路及び前記排水流路が遮断された状態で前記開閉弁を開放し、前記内部空間の圧力が深度圧より大きい場合の排水時に前記注水流路及び前記排水流路が遮断された状態で前記開閉弁を開放する、
請求項1
又は2に記載の自律型水中航走体用注排水システム。
【請求項4】
前記開閉弁は通電が遮断されると開放されるように構成されている、
請求項
3に記載の自律型水中航走体用注排水システム。
【請求項5】
前記注排水配管は、前記液体部出入口と前記液体の給排水口とを前記往復ポンプを介さずに直接的に接続する給排水流路と、前記給排水流路に設けられた開閉弁とを有し、
前記開閉弁は通電時に閉止され、通電が遮断されると開放されるように構成されている、
請求項1
又は2に記載の自律型水中航走体用注排水システム。
【請求項6】
機体と、
前記機体に搭載され、所定の容積を有する内部空間に気体部と体積可変な液体部とが形成されたタンクと、
前記液体部への液体の注水と前記液体部からの前記液体の排水とを制御する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の自律型水中航走体用注排水システムとを備える、
自律型水中航走体。
【請求項7】
前記機体が水平姿勢にあるときに、前記タンクは鉛直方向への高さが水平方向の幅よりも大きく、前記タンクの底部又は前記タンクの側面下部に前記液体部出入口が位置する、
請求項
6に記載の自律型水中航走体。
【請求項8】
前記タンクが、前記内部空間に収容されて前記液体部を形成するブラダを有する、
請求項
6又は
7に記載の自律型水中航走体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律型水中航走体用注排水システム及びそれを備える自律型水中航走体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自律型潜水機(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)や無人水中航走体(UUV:Unmanned Undersea Vehicle)と称される自律型水中航走体による海洋の無人探査が行われている。今後は自律型水中航走体の更なる長期的な運用が想定されている。自律型水中航走体の長期的な運用にあたっては、自律型水中航走体が収集した情報を遠隔地へ送信したり、自律型水中航走体が遠隔地からの指令を受信したりするために、自律型水中航走体は定期的に水面付近まで浮上する必要がある。
【0003】
従来の自律型水中航走体は、潜航中に浮上用バラストを搭載しておき、浮上時には浮上用バラストを投棄することにより浮力で海面まで浮上する。このようなタイプの従来の自律型水中航走体では、沈降・潜航・浮上を繰り返すことはできない。沈降・潜航・浮上を繰り返すためには、バラストを可逆的に増減可能であることが必要である。
【0004】
特許文献1では、水中浮遊式の水中機器において水中における位置(深度)を維持するために、浮量の増減を繰り返す動作を継続的に実施することが可能な浮量調整装置が提案されている。
【0005】
特許文献1の浮量調整装置は、所定の体積を有する内部空間を形成すると共に、内部空間において気体が充填された気体室を含むタンク部と、内部空間に収容されて、内部空間において気体室とは隔てられた液体室を形成する袋部と、液体室への液体の注水と液体室からの液体の排水とを制御する制御部と、を備える。制御部はポンプ及びバルブを有し、これらを通じて海水を液体室へ注入したり排水したりすることにより、水中機器の浮量を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、一つのポンプが注水方向と排水方向との双方向へ送液を行うように図示されている。しかし、自律型水中航走体が深海まで沈降する際に、気体室の気体を高圧縮するために高圧の液体を液体室へ送り込む必要があり、ロータリポンプなどの双方向ポンプでは圧送能力が不十分となる可能性がある。
【0008】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、沈降・潜航・浮上を繰り返すためにバラストを可逆的に増減可能な自律型水中航走体用注排水システム及びそれを備える自律型水中航走体であって、深海の潜航に好適なものを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る自律型水中航走体用注排水システムは、
所定の容積を有する内部空間に気体部と体積可変な液体部とが形成されたタンクを搭載した自律型水中航走体に適用され、前記液体部への液体の注水と前記液体部からの前記液体の排水とを制御する注排水システムであって、
ポンプ吸入口及びポンプ吐出口を有する往復ポンプと、
前記往復ポンプを通過する前記液体の流れが常に前記ポンプ吸入口から前記ポンプ吐出口への一方向となるように、前記液体の取水口から前記液体部に開口した液体部出入口への注水流路及び前記液体部出入口から前記液体の放水口への排水流路を形成する注排水配管と、
前記注排水配管を流れる前記液体の流路を切り替える流路切替部とを、備え、
前記注排水配管は、前記液体部出入口と前記ポンプ吸入口とを接続し排水弁が設けられた一次側排水路、前記ポンプ吐出口と前記放水口とを接続し排水元弁が設けられた二次側排水路、前記取水口と前記ポンプ吸入口とを接続し注水元弁が設けられた一次側注水路、及び、前記ポンプ吐出口と前記液体部出入口とを接続し注水弁が設けられた二次側注水路を有し、
前記流路切替部は、注水時に前記注水弁及び前記注水元弁を開放するとともに前記排水弁及び前記排水元弁を閉止し、排水時に前記排水弁及び前記排水元弁を開放するとともに前記注水弁及び前記注水元弁を閉止することを特徴としている。
また、本開示の別の一態様に係る自律型水中航走体用注排水システムは、
所定の容積を有する内部空間に気体部と体積可変な液体部とが形成されたタンクを搭載した自律型水中航走体に適用され、前記液体部への液体の注水と前記液体部からの前記液体の排水とを制御する注排水システムであって、
ポンプ吸入口及びポンプ吐出口を有する往復ポンプと、
前記往復ポンプを通過する前記液体の流れが常に前記ポンプ吸入口から前記ポンプ吐出口への一方向となるように、前記液体の取水口から前記液体部に開口した液体部出入口への注水流路及び前記液体部出入口から前記液体の放水口への排水流路を形成する注排水配管と、
前記注排水配管を流れる前記液体の流路を切り替える流路切替部とを、備え、
前記注排水配管は、前記ポンプ吐出口から前記ポンプ吸入口までの間に第1接続路、注水弁、第2接続路、排水弁、及び第3接続路がこの順に連設されてなるループと、前記第1接続路と前記放水口とを接続し排水元弁が設けられた排出ラインと、前記第2接続路と前記液体部出入口とを接続する注排水ラインと、前記第3接続路と前記取水口とを接続し注水元弁が設けられた注水ラインとを有し、
前記流路切替部は、注水時に前記注水弁及び前記注水元弁を開放するとともに前記排水弁及び前記排水元弁を閉止し、排水時に前記排水弁及び前記排水元弁を開放するとともに前記注水弁及び前記注水元弁を閉止することを特徴としている。
【0010】
また、本発明の一態様に係る自律型水中航走体は、機体と、前記機体に搭載され、所定の容積を有する内部空間に気体部と体積可変な液体部とが形成されたタンクと、前記液体部への液体の注水と前記液体部からの前記液体の排水とを制御する前記自律型水中航走体用注排水システムとを備えることを特徴としている。
【0011】
上記構成の自律型水中航走体用注排水システム及びそれを備える自律型水中航走体では、内容物を含むタンクが可逆的に増減可能なバラストとして機能する。タンクの液体部へ注水することにより、内容物を含むタンクの質量(即ち、バラスト)が増加し、タンクを搭載した自律型水中航走体に作用する重力を増加させることができる。また、液体部から排水することにより、内容物を含むタンクの質量が減少し、タンクを搭載した自律型水中航走体に作用する重力を減少させることができる。このようにして自律型水中航走体に作用する重力を増加させることより自律型水中航走体を沈降させ、自律型水中航走体に作用する重力を減少させることにより自律型水中航走体を浮上させることができる。内容物を含むタンクの質量を可逆的に増減させることができるので、自律型水中航走体は沈降・潜航・浮上を繰り返すことが可能である。
【0012】
そして、上記構成の自律型水中航走体用注排水システム及びそれを備える自律型水中航走体によれば、往復ポンプ(例えば、プランジャポンプやピストンポンプ)では通過する液体の流れが常にポンプ吸入口からポンプ吐出口への一方向となることから、回転ポンプと比較して高圧の液体を液体部へ圧送できる。これにより、自律型水中航走体が深海へ沈降して潜航する際に、気体部の気体を高圧縮するために高圧の液体を液体部へ送り込むことが可能であり、上記構成の自律型水中航走体用注排水システムは深海を潜航する自律型水中航走体に好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、沈降・潜航・浮上を繰り返すためにバラストを可逆的に増減可能な自律型水中航走体用注排水システム及びそれを備える自律型水中航走体であって、深海の潜航に好適なものを提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る自律型水中航走体の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、自律型水中航走体のバラスト装置の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、変形例1に係るタンクを備える自律型水中航走体のバラスト装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る自律型水中航走体(以下、単に「水中航走体1」と称する)の概略構成を示す図である。
図1では、水中航走体1の一部を透過して内部が示されている。
【0016】
図1に例示される水中航走体1は、無人による自律航行が可能であって、海洋や湖沼などの水中を潜航しながら情報収集を行うためのものである。水中航走体1は、機体11と、機体11を推進させる動力装置12と、バラスト装置10と、情報収集するためのセンサ13と、収集した情報を伝送したり航走に必要な指令を受信したりするための通信装置14とを備える。バラスト装置10、センサ13、及び通信装置14は機体11に収容されている。
【0017】
バラスト装置10は、水中航走体1が浮上や沈降を行ったり、潜航中の位置や姿勢を制御したりするために、バラストを増減させることによって水中航走体1に作用する重力を調整する。水中航走体1に作用する浮力と、水中航走体1に作用する重力とがバランスしている中正浮力の状態から、水中航走体1に作用する重力が増えると水中航走体1が沈降し、水中航走体1に作用する重力が減ると水中航走体1が浮上する。
【0018】
図2は、バラスト装置10の概略構成を示す図である。バラスト装置10は、所定の容積を有する内部空間2aを形成するタンク2と、タンク2への注排水システム5とを備える。タンク2の内部空間2aには、気体部3と、体積可変な液体部4とが形成されている。注排水システム5は、液体部4への液体の注水と液体部4からの液体の排水とを制御する。バラスト装置10では、タンク2へ注排水して気体部3の容積と液体部4の容積との比率を変更することにより、内容物を含めたタンク2の質量を調整することができる。内容物を含めたタンク2は可逆的に増減可能なバラストとして機能する。
【0019】
タンク2には、水中航走体1の機体11が水平姿勢にある状態で、タンク2の底部に位置する液体部出入口21が設けられている。液体部出入口21は、液体部4に開口しており、液体部4への液体の出入口となる。但し、水中航走体1が一定の深度で潜航するときの水中航走体1の機体11の姿勢を「水平姿勢」とする。本実施形態に係るタンク2は、水中航走体1の機体11が水平姿勢にある状態で、底部と頂部とを繋ぐ上下方向の高さが、上下方向と略直交する水平方向の幅よりも大きい。
【0020】
タンク2には、圧力検出器22と、圧力スイッチ23と、差圧センサ24とが設けられている。圧力検出器22は、タンク2の内部空間2aの圧力を検出する。圧力スイッチ23は、圧力検出器22で検出された圧力が所定の閾値となると、タンク2への注水を強制的に停止させるように注排水システム5へ停止信号を出力する。差圧センサ24は、気体部3と液体部4との圧力差を検出する。気体部3と液体部4との圧力差と、液体部4の液体密度及び気体部3の気体密度とに基づいて、液体部4の液量を演算により求めることができる。
【0021】
注排水システム5は、注排水配管7と、注排水配管7で液体を圧送する往復ポンプ6と、注排水配管7を流れる液体の流路を切り替える流路切替部9とを備える。
【0022】
往復ポンプ6は、ポンプ吸入口61及びポンプ吐出口62を有するポンプ本体と、モータと、モータによって往復駆動されるピストン又はプランジャとを備える(つまり、往復ポンプ6はピストンポンプ又はプランジャポンプである)。往復ポンプ6は、ポンプ吸入口61から液体を吸い込んで、吸い込んだ液体をポンプ吐出口62から吐出する。
【0023】
注排水配管7には、液体の取水口71から液体部出入口21へ液体を送る注水流路F1、及び、液体部出入口21から液体の放水口72へ液体を送る排水流路F2が形成されている。注排水配管7は、一つの往復ポンプ6が注水流路F1と排水流路F2の双方において液体を圧送し、往復ポンプ6を通過する液体の流れが常にポンプ吸入口61からポンプ吐出口62への一方向となるように構成されている。
【0024】
具体的には、注排水配管7は、往復ポンプ6を含むループ80と、ループ80に接続された排出ライン85、注排水ライン86、及び、注水ライン87を有する。
【0025】
ループ80は、ポンプ吐出口62からポンプ吸入口61までの間に、第1接続路81、注水弁74、第2接続路82、排水弁75、及び第3接続路83がこの順で連設されてなる環状流路である。注水弁74及び排水弁75は、ノーマルクローズの電磁開閉弁である。第1接続路81には、安全弁77が設けられている。第3接続路83にはフィルタ70が設けられている。
【0026】
第1接続路81には、方向制御弁76が設けられている。方向制御弁76は、往復ポンプ6を通過する液体の流れが常にポンプ吸入口61からポンプ吐出口62への一方向となるように液体の流れの向きを制御する。本実施形態において、方向制御弁76として圧力バランス弁が採用されている。この圧力バランス弁は、弁の入口ポートの圧力(即ち、往復ポンプ6の吐出側の圧力)をパイロット圧とし、弁の入口ポートから出口ポートへ向かう一方向の流れは自由に流れさせ、逆方向の流れはパイロット圧と対応する背圧(流量制限)を与えることにより、液体の流れの向きを制御する。但し、圧力バランス弁は、往復ポンプ6の吐出圧が深度圧よりも大きいときに作動し、往復ポンプ6の吐出圧が深度圧以下では作動しない(閉止)するように構成されている。
【0027】
排出ライン85は、第1接続路81と放水口72とを接続している。排出ライン85は、第1接続路81において、方向制御弁76と注水弁74との間に接続されることが望ましい。排出ライン85には、排水元弁79が設けられている。排水元弁79は、ノーマルクローズの電磁開閉弁である。排出ライン85では、排水元弁79の開放時に放水口72へ向かう排水方向へ液体が流れる。
【0028】
注水ライン87は、第3接続路83と取水口71とを接続している。注水ライン87には、注水元弁78が設けられている。注水元弁78は、ノーマルクローズの電磁開閉弁である。注水ライン87では、注水元弁78の開放時に取水口71から第3接続路83へ向かう注水方向へ液体が流れる。
【0029】
注排水ライン86は、第2接続路82と液体部出入口21とを接続している。注排水ライン86では、注水方向と排水方向との双方向に液体が流れる。
【0030】
上記構成の注排水配管7には、取水口71とポンプ吸入口61とを接続し注水元弁78が設けられた一次側注水路W1、往復ポンプ6内、及び、ポンプ吐出口62と液体部出入口21とを接続し注水弁74が設けられた二次側注水路W2からなる注水流路F1が形成されている。また、上記構成の注排水配管7には、液体部出入口21とポンプ吸入口61とを接続し排水弁75が設けられた一次側排水路W3、往復ポンプ6内、及び、ポンプ吐出口62と放水口72とを接続し排水元弁79が設けられた二次側排水路W4からなる排水流路F2が形成されている。
【0031】
注排水配管7には、更に、液体部出入口21と液体の給排水口73とを往復ポンプ6を介さずに直接的に接続する給排水流路F3が形成されている。本実施形態では、注排水ライン86に給排水路89が接続されており、給排水路89に均圧弁88が設けられている。均圧弁88は、通電時に閉止され、通電が遮断されると開放される(即ち、ノーマルオープン)の電磁開閉弁である。均圧弁88の開放時に、タンク2の内部空間2aの圧力(以下、タンク内圧)が深度圧よりも大きい場合には、液体部4の液体が給排水流路F3を通じて給排水口73から流出する。また、均圧弁88の開放時に、タンク内圧が深度圧よりも小さい場合には、給排水口73から給排水流路F3を通じて液体部4へ液体が流入する。
【0032】
流路切替部9は、注排水配管7に設けられた注水弁74、排水弁75、注水元弁78、排水元弁79、及び均圧弁88を動作させて、注排水配管7を流れる液体の流路を切り替える。流路切替部9は、プロセッサ、ROM及びRAMなどのメモリ、及び、I/O部を備える(いずれも図示略)。流路切替部9には、I/O部を介して各弁の駆動部や往復ポンプ6が接続されている。流路切替部9は、集中制御を行う単独のプロセッサを備えてもよいし、分散制御を行う複数のプロセッサを備えてもよい。メモリや記憶手段には、プロセッサが実行する基本プログラムやアプリケーションプログラム等が格納されている。アプリケーションプログラムは、プロセッサに各機能部の処理を行わせるように構成されている。プロセッサがプログラムを読み出して実行することによって、流路切替部9としての機能を実現する。
【0033】
ここで、バラスト装置10の動作方法について説明する。
【0034】
水中航走体1の沈降時には、タンク2へ注水することにより、内容物を含むタンク2の質量を増やして、水中航走体1に作用する重力を増加させる。注水時に深度圧がタンク内圧よりも大きい場合には、給排水流路F3を用いて注水が行われる。流路切替部9は、給排水流路F3を用いる注水時には、均圧弁88を開放するとともに、注水弁74、注水元弁78、排水弁75、及び排水元弁79を閉止する。これにより、給排水口73から取り入れた液体が給排水流路F3及び液体部出入口21を通じて液体部4内へ流入する。
【0035】
注水時に深度圧がタンク内圧以下の場合には、注水流路F1を用いて注水が行われる。流路切替部9は、注水流路F1を用いる注水時に、注水弁74及び注水元弁78を開放するとともに均圧弁88、排水弁75及び排水元弁79を閉止する。これにより、注排水配管7は、注水流路F1を液体が流通可能であり、排水流路F2及び給排水流路F3を液体が流通不可能な状態となる。注水流路F1において往復ポンプ6が稼働すると、取水口71から取り入れた液体は一次側注水路W1を通じて往復ポンプ6へ流入し、往復ポンプ6から吐出された液体は二次側注水路W2及び液体部出入口21を通じて液体部4内へ圧送される。
【0036】
また、水中航走体1の浮上時には、タンク2から排水して、内容物を含むタンク2の質量を減らすことにより、水中航走体1に作用する重力を減少させる。排水時に深度圧がタンク内圧よりも小さい場合には、給排水流路F3を用いて排水が行われる。流路切替部9は、給排水流路F3を用いる排水時には、均圧弁88を開放するとともに、注水弁74、注水元弁78、排水弁75、及び排水元弁79を閉止する。これにより、液体部4の液体が液体部出入口21及び給排水流路F3を通じて給排水口73から外部へ放出される。
【0037】
排水時に深度圧がタンク内圧以上である場合には、排水流路F2を用いて排水が行われる。流路切替部9は、排水流路F2を用いる排水時に、排水弁75及び排水元弁79を開放するとともに均圧弁88、注水弁74及び注水元弁78を閉止する。これにより、注排水配管7は、排水流路F2を液体が流通可能であり、注水流路F1及び給排水流路F3を液体が流通不可能な状態となる。排水流路F2において往復ポンプ6が稼働すると、液体部4の液体は液体部出入口21及び一次側排水路W3を通じて往復ポンプ6へ流入し、往復ポンプ6から吐出された液体は二次側排水路W4を通じて放水口72から外部へ放出される。
【0038】
以上に説明したように、本実施形態の水中航走体1は、機体11と、機体11に搭載され、所定の容積を有する内部空間2aに気体部3と体積可変な液体部4とが形成されたタンク2と、液体部4への液体の注水と液体部4からの液体の排水とを制御する注排水システム5(自律型水中航走体用注排水システム)とを備える。
【0039】
本実施形態の注排水システム5は、ポンプ吸入口61及びポンプ吐出口62を有する往復ポンプ6と、往復ポンプ6を通過する液体の流れが常にポンプ吸入口61からポンプ吐出口62への一方向となるように、液体の取水口71から液体部4に開口した液体部出入口21への注水流路F1及び液体部出入口21から液体の放水口72への排水流路F2を形成する注排水配管7と、注排水配管7を流れる液体の流路を切り替える流路切替部9とを備える。
【0040】
上記構成の注排水システム5及びそれを備える水中航走体1によれば、液体部4へ注水することにより、内容物を含めたタンク2の質量が増加し、タンク2を搭載した水中航走体1に作用する重力を増加させることができる。また、液体部4から排水することにより、内容物を含めたタンク2の質量が減少し、タンク2を搭載した水中航走体1に作用する重力を減少させることができる。このようにして水中航走体1に作用する重力を増加させることより水中航走体1を沈降させ、水中航走体1に作用する重力を減少させることにより水中航走体1を浮上させることができる。内容物を含むタンク2の質量は可逆的に増減できるので、水中航走体1は沈降・潜航・浮上を繰り返すことが可能である。
【0041】
タンク2は、沈降時と浮上時に限定されず、潜航時の水中航走体1の浮量の調整にも利用することができる。例えば、海水密度の変化に起因して浮量が増大した場合に、浮量を減少させるために内容物を含むタンク2の質量を増加させることができる。また、例えば、深度圧や海水温度の低下による水中航走体1の収縮に起因して浮量が減少した場合に、浮量を増加させるために内容物を含むタンク2の質量を減少させることができる。
【0042】
そして、上記構成の注排水システム5及びそれを備える水中航走体1によれば、往復ポンプ6(例えば、プランジャポンプやピストンポンプ)を通過する液体の流れが常にポンプ吸入口61からポンプ吐出口62への一方向となることから、回転ポンプが採用される場合と比較して高圧の液体を液体部4へ圧送できる。これにより、水中航走体1が深海へ沈降して潜航する際に、気体部3の気体を高圧縮するために高圧の液体を液体部4へ送り込むことが可能である。よって、本実施形態に係る注排水システム5及びそれを備える自律型水中航走体1は深海を潜航するに好適である。
【0043】
タンク2に高圧の液体が注入されるときに、気体部3の気体は断熱圧縮されて発熱するが、タンク2内の注入される液体により気体が自然冷却されることから、タンクの冷却設備は不要である。
【0044】
上記実施形態に係る注排水システム5において、注排水配管7は、液体部出入口21とポンプ吸入口61とを接続し排水弁75が設けられた一次側排水路W3、ポンプ吐出口62と放水口72とを接続し排水元弁79が設けられた二次側排水路W4、取水口71とポンプ吸入口61とを接続し注水元弁78が設けられた一次側注水路W1、及び、ポンプ吐出口62と液体部出入口21とを接続し注水弁74が設けられた二次側注水路W2を有する。そして、流路切替部9は、注水時に注水弁74及び注水元弁78を開放するとともに排水弁75及び排水元弁79を閉止し、排水時に排水弁75及び排水元弁79を開放するとともに注水弁74及び注水元弁78を閉止するようにこれらの弁を動作させるように構成されている。
【0045】
更に詳細には、上記実施形態に係る注排水システム5において、注排水配管7は、ポンプ吐出口62からポンプ吸入口61までの間に第1接続路81、注水弁74、第2接続路82、排水弁75、及び第3接続路83がこの順序で連設されてなるループ80と、第1接続路81と放水口72とを接続し排水元弁79が設けられた排出ライン85と、第2接続路82と液体部出入口21とを接続する注排水ライン86と、第3接続路83と取水口71とを接続し注水元弁78が設けられた注水ライン87とを有する。そして、流路切替部9は、注水時に注水弁74及び注水元弁78を開放するとともに排水弁75及び排水元弁79を閉止し、排水時に排水弁75及び排水元弁79を開放するとともに注水弁74及び注水元弁78を閉止するようにこれらの弁を動作させるように構成されている。
【0046】
このようにして、1つの往復ポンプ6を用いて注水流路F1及び排水流路F2の双方において液体を圧送可能であり、且つ、往復ポンプ6を通過する液体の流れが常にポンプ吸入口61からポンプ吐出口62への一方向となる注排水配管7を構成することができる。
【0047】
また、上記実施形態に係る注排水システム5において、注排水配管7は、液体部出入口21と液体の給排水口73とを往復ポンプ6を介さずに直接的に接続する給排水流路F3と、給排水流路F3に設けられた均圧弁88(開閉弁)とを有する。そして、流路切替部9は、タンク2の内部空間2aの圧力が深度圧より小さい場合の注水時に注水流路F1及び排水流路F2が遮断された状態で均圧弁88を開放し、内部空間2aの圧力が深度圧より大きい場合の排水時に注水流路F1及び排水流路F2が遮断された状態で均圧弁88を開放するように構成されている。
【0048】
このような給排水流路F3が設けられることによって、タンク内圧が深度圧より大きいときに、これらの差を利用して液体部4から排水することができる。また、タンク内圧が深度圧より小さいときに、これらの差を利用して液体部4へ注水することができる。このように往復ポンプ6を稼働させずに注排水を行うことにより、省エネルギーを実現できる。
【0049】
上記実施形態に係る注排水システム5において、上記の均圧弁88(開閉弁)は通電が遮断されると開放されるように構成されている。即ち、均圧弁88はノーマルオープンの開閉弁である。
【0050】
これにより、何らかの原因により水中航走体1が電源を喪失した場合に、液体部出入口21と給排水口73とが給排水流路F3を通じて連通された状態となる。ここで、気体部3の圧縮された気体の圧力によって液体部4の液体が外部へ排水されることにより、内容物を含むタンク2の質量が減少し、水中航走体1を強制的に浮上させることができる。このようにして、水中航走体1が深海で電源を喪失しても、水中航走体1は深海をさまようことなく自動的に浮上するので、水中航走体1の紛失を回避することができる。
【0051】
また、上記実施形態に係る水中航走体1では、水中航走体1が水平姿勢にあるときに、タンク2は鉛直方向への高さが水平方向の幅よりも大きく、且つ、タンク2の底部に液体部出入口21が位置する。なお、液体部出入口21は、タンク2の側面下部に設けられていてもよい。
【0052】
このように、水中航走体1が動揺したり姿勢が傾斜したりしても、タンク2の液体部出入口21が常に液体部4の液面より低くなるようにタンク2の形状が工夫されている。これにより、水中航走体1が動揺したり姿勢が傾斜したりしても、液体部出入口21から気体部3の気体が漏れることを防止できる。
【0053】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本発明に含まれ得る。上記の構成は、例えば、以下のように変更することができる。
【0054】
例えば、上記実施形態に係る水中航走体1は深海での探査を目的とするものであるが、水中航走体1の目的はこれに限定されない。水中航走体1は、目的に応じた機器を搭載することができる。
【0055】
また、上記実施形態に係る水中航走体1では、タンク2が水中航走体1の機体11の進行方向前後中央部に配置されているが、タンク2が機体11の進行方向の前方と後方とにそれぞれ配置されていてもよい。
【0056】
また、上記実施形態に係る水中航走体1では、タンク2の気体部3と液体部4との間が仕切られていないため、縦長形状のタンク2が採用されたうえ底部(又は、側面下部)に液体部出入口21が設けられている。但し、次に示すように、タンク2に気体部3と液体部4とを仕切る部材が設けられていてもよい。
【0057】
例えば、
図3に示すように、タンク2は内部空間2aに収容されて液体部4を形成するブラダ55を有していてもよい。この場合、ブラダ55によって液体部出入口21が液面下となるようにタンク2内の液体の移動が制限されることから、タンク2は必ずしも縦長形状である必要はない。
【符号の説明】
【0058】
1 :水中航走体
2 :タンク
2a :内部空間
3 :気体部
4 :液体部
5 :注排水システム
6 :往復ポンプ
7 :注排水配管
9 :流路切替部
10 :バラスト装置
21 :液体部出入口
54 :仕切り部材
55 :ブラダ
61 :ポンプ吸入口
62 :ポンプ吐出口
71 :取水口
72 :放水口
73 :給排水口
74 :注水弁
75 :排水弁
78 :注水元弁
79 :排水元弁
80 :ループ
81 :第1接続路
82 :第2接続路
83 :第3接続路
85 :排出ライン
86 :注排水ライン
87 :注水ライン
88 :均圧弁(開閉弁)
F1 :注水流路
F2 :排水流路
F3 :給排水流路
W1 :一次側注水路
W2 :二次側注水路
W3 :一次側排水路
W4 :二次側排水路