IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -多孔質複合体 図1
  • -多孔質複合体 図2
  • -多孔質複合体 図3
  • -多孔質複合体 図4
  • -多孔質複合体 図5
  • -多孔質複合体 図6
  • -多孔質複合体 図7
  • -多孔質複合体 図8
  • -多孔質複合体 図9
  • -多孔質複合体 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】多孔質複合体
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/00 20060101AFI20220627BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20220627BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20220627BHJP
   B01D 46/00 20220101ALI20220627BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
C04B38/00 303Z
C04B41/85 C
C04B41/87 A
C04B41/87 D
B01D46/00 302
B01D39/20 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020525145
(86)(22)【出願日】2018-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2018023445
(87)【国際公開番号】W WO2019244272
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】武野 省吾
(72)【発明者】
【氏名】氏原 浩佑
(72)【発明者】
【氏名】泉 有仁枝
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-175810(JP,A)
【文献】特開2010-082615(JP,A)
【文献】特開2010-095399(JP,A)
【文献】国際公開第2009/133857(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 7/00-7/46
E04G 9/00-9/10
E04G 17/00-17/18
C04B 38/00-38/10
C04B 41/85-41/88
B01D 46/00-46/90
B01D 39/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質複合体であって、
多孔質の基材と、
前記基材上に形成された多孔質の捕集層と、
を備え、
前記捕集層の膜厚は、6μm以上であり、
前記捕集層は、それぞれから前記基材の表面が露出する複数の大孔を備え、
前記複数の大孔の各大孔の直径は、6μm以上かつ50μm以下であり、
前記複数の大孔の各大孔から露出する前記基材の露出領域の面積の合計は、前記捕集層の全面積の1%以上かつ50%以下である。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質複合体であって、
前記各大孔から露出する前記基材の前記露出領域の周囲長は、18μm以上かつ500μm以下である。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多孔質複合体であって、
前記捕集層の粒子状物質との接触可能面積について、前記複数の大孔による増加率は、1%以上かつ75%以下である。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の多孔質複合体であって、
前記捕集層上の複数の任意位置において前記捕集層の表面をSEMにより1000倍に拡大して撮像した複数の拡大画像のうち、90%以上の拡大画像に前記複数の大孔の一部が含まれる。
【請求項5】
請求項4に記載の多孔質複合体であって、
前記90%以上の拡大画像のそれぞれに含まれる大孔の数は、1以上かつ8以下である。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の多孔質複合体であって、
前記捕集層の前記複数の大孔を除いた領域に、直径3μm以上かつ20μm以下の気孔を有する。
【請求項7】
多孔質複合体であって、
多孔質の基材と、
前記基材上に形成された多孔質の捕集層と、
を備え、
前記捕集層の膜厚は、6μm以上であり、
SEMにより500倍に拡大して撮像した前記捕集層および前記基材の断面写真において、前記捕集層と前記基材との界面に垂直な複数の直線を前記界面に沿って等間隔にて配列し、前記捕集層を示す画素と重なる複数の重複直線の数を前記複数の直線の全数により除算した値は、50%以上かつ90%以下である。
【請求項8】
請求項7に記載の多孔質複合体であって、
前記複数の重複直線のうち前記捕集層を示す画素との重なりが前記捕集層の厚さの10%未満である重複直線の数を前記複数の直線の全数により除算した値は、30%以上である。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1つに記載の多孔質複合体であって、
前記基材は、内部が隔壁により複数のセルに仕切られたハニカム構造を有し、
前記複数のセルのうち少なくとも一部のセルの内側面は、前記捕集層により被覆される。
【請求項10】
請求項9に記載の多孔質複合体であって、
ガソリンエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するガソリン・パティキュレート・フィルタとして用いられる
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関や各種燃焼装置等から排出されるガスには、スス等の粒子状物質が含まれている。そこで、ディーゼルエンジンを搭載している車両等では、排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタが設けられている。当該フィルタの1つとして、多孔質のハニカム基材の複数のセルにおいて、一部のセルの流出側の開口部、および、残余のセルの流入側の開口部に目封止部を設けたハニカム構造体が用いられている。
【0003】
当該ハニカム構造体により粒子状物質を捕集する場合、粒子状物質が多孔質のハニカム基材の隔壁内部に浸入すると、隔壁の細孔が閉塞されて圧力損失が増大するおそれがある。そこで、特開2014-57951号公報(文献1)、特許第5597084号公報(文献2)および特許5599747号公報(文献3)では、流出側の開口部に目封止部が設けられたセルの内面に多孔質の捕集層を設け、当該捕集層により粒子状物質を捕集することにより、隔壁内部への粒子状物質の浸入を抑制することが提案されている。
【0004】
ただし、文献1のハニカム構造体では、触媒溶液をスプレー状にしてキャリアガスにてハニカム基材に吹き付けることにより捕集層が形成される。このため、捕集層がケーク状となり、ハニカム構造体の圧力損失が高くなるおそれがある。一方、圧力損失を低減するために捕集層を過剰に薄くすると、粒子状物質の捕集効率が低下するおそれがある。
【0005】
また、車両等に搭載されている上記フィルタでは、粒子状物質の過剰な堆積を防止するために、フィルタにより捕集された粒子状物質を加熱して酸化し、フィルタから除去する再生処理が行われる。文献1~3のハニカム構造体では、捕集層に触媒機能を持たせることにより、捕集層に接触する粒子状物質の酸化が促進される。
【0006】
現在、上記フィルタとして利用されるハニカム構造体では、粒子状物質の好適な捕集効率の実現と、粒子状物質の更なる酸化促進とが求められている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、多孔質複合体に向けられており、粒子状物質の好適な捕集効率を実現しつつ粒子状物質の酸化を促進することを目的としている。
【0008】
本発明の好ましい一の形態に係る多孔質複合体は、多孔質の基材と、前記基材上に形成された多孔質の捕集層と、を備える。前記捕集層の膜厚は、6μm以上である。前記捕集層は、それぞれから前記基材の表面が露出する複数の大孔を備える。前記複数の大孔の各大孔の直径は、6μm以上かつ50μm以下である。前記複数の大孔の各大孔から露出する前記基材の露出領域の面積の合計は、前記捕集層の全面積の1%以上かつ50%以下である。当該多孔質複合体によれば、粒子状物質の好適な捕集効率を実現しつつ粒子状物質の酸化を促進することができる。
【0009】
好ましくは、前記各大孔から露出する前記基材の前記露出領域の周囲長は、18μm以上かつ500μm以下である。
【0010】
好ましくは、前記捕集層の粒子状物質との接触可能面積について、前記複数の大孔による増加率は、1%以上かつ75%以下である。
【0011】
好ましくは、前記捕集層上の複数の任意位置において前記捕集層の表面をSEMにより1000倍に拡大して撮像した複数の拡大画像のうち、90%以上の拡大画像に前記複数の大孔の一部が含まれる。
【0012】
より好ましくは、前記90%以上の拡大画像のそれぞれに含まれる大孔の数は、1以上かつ8以下である。
【0013】
好ましくは、前記捕集層の前記複数の大孔を除いた領域に、直径3μm以上かつ20μm以下の気孔を有する。
【0014】
本発明の好ましい他の形態に係る多孔質複合体は、多孔質の基材と、前記基材上に形成された多孔質の捕集層と、を備える。前記捕集層の膜厚は、6μm以上である。SEMにより500倍に拡大して撮像した前記捕集層および前記基材の断面写真において、前記捕集層と前記基材との界面に垂直な複数の直線を前記界面に沿って等間隔にて配列し、前記捕集層を示す画素と重なる複数の重複直線の数を前記複数の直線の全数により除算した値は、50%以上かつ90%以下である。当該多孔質複合体によれば、粒子状物質の好適な捕集効率を実現しつつ粒子状物質の酸化を促進することができる。
【0015】
好ましくは、前記複数の重複直線のうち前記捕集層を示す画素との重なりが前記捕集層の厚さの10%未満である重複直線の数を前記複数の直線の全数により除算した値は、30%以上である。
【0016】
好ましくは、前記基材は、内部が隔壁により複数のセルに仕切られたハニカム構造を有する。前記複数のセルのうち少なくとも一部のセルの内側面は、前記捕集層により被覆される。
【0017】
好ましくは、前記多孔質複合体は、ガソリンエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するガソリン・パティキュレート・フィルタとして用いられる
【0018】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一の実施の形態に係る多孔質複合体の平面図である。
図2】多孔質複合体の断面図である。
図3】切断された多孔質複合体の一部を示す図である。
図4】多孔質複合体の製造の流れを示す図である。
図5】捕集層表面のSEM画像である。
図6】捕集層表面のSEM画像である。
図7】画像処理後の捕集層表面のSEM画像である。
図8】捕集層および基材の断面を模式的に示す図である。
図9】捕集層および基材の断面のSEM画像である。
図10】接触可能面積の増加率と燃焼開始温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る多孔質複合体1を簡略化して示す平面図である。多孔質複合体1は、一方向に長い筒状部材であり、図1では、多孔質複合体1の長手方向における一方側の端面を示している。図2は、多孔質複合体1を示す断面図である。図2では、当該長手方向に沿う断面の一部を示している。多孔質複合体1は、例えば、自動車等のガソリンエンジンから排出される排ガス中のスス等の粒子状物質を捕集するガソリン・パティキュレート・フィルタ(GPF:Gasoline Particulate Filter)として用いられる。
【0021】
多孔質複合体1は、多孔質の基材2と、多孔質の捕集層3とを備える。図1および図2に示す例では、基材2は、ハニカム構造を有する部材である。基材2は、筒状外壁21と、隔壁22とを備える。筒状外壁21は、長手方向(すなわち、図2中の左右方向)に延びる筒状の部位である。長手方向に垂直な筒状外壁21の断面形状は、例えば略円形である。当該断面形状は、多角形等の他の形状であってもよい。
【0022】
隔壁22は、筒状外壁21の内部に設けられ、当該内部を複数のセル23に仕切る格子状の部位である。複数のセル23はそれぞれ、長手方向に延びる空間である。長手方向に垂直な各セル23の断面形状は、例えば略正方形である。当該断面形状は、多角形または円形等の他の形状であってもよい。複数のセル23は、原則として同じ断面形状を有する。複数のセル23には、異なる断面形状のセル23が含まれてもよい。基材2は、内部が隔壁22により複数のセル23に仕切られたセル構造体である。
【0023】
筒状外壁21および隔壁22はそれぞれ、多孔質の部位である。筒状外壁21および隔壁22は、例えば、コージェライト等のセラミックスにより形成される。筒状外壁21および隔壁22の材料は、コージェライト以外のセラミックスであってもよく、セラミックス以外の材料であってもよい。筒状外壁21の長手方向の長さは、例えば、50mm~300mmである。筒状外壁21の外径は、例えば、50mm~300mmである。筒状外壁21の厚さは、例えば30μm(マイクロメートル)以上であり、好ましくは50μm以上である。筒状外壁21の厚さは、例えば1000μm以下であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは350μm以下である。
【0024】
隔壁22の長手方向の長さは、筒状外壁21と略同じである。隔壁22の厚さは、例えば30μm以上であり、好ましくは50μm以上である。隔壁22の厚さは、例えば1000μm以下であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは350μm以下である。隔壁22の気孔率は、例えば20%以上であり、好ましくは30%以上である。隔壁22の気孔率は、例えば80%以下であり、好ましくは70%以下である。隔壁22の平均細孔径は、例えば5μm以上であり、好ましくは8μm以上である。隔壁22の平均細孔径は、例えば30μm以下であり、好ましくは25μm以下である。
【0025】
基材2のセル密度(すなわち、長手方向に垂直な断面における単位面積当たりのセル23の数)は、例えば10セル/cm(平方センチメートル)以上であり、好ましくは20セル/cm以上であり、より好ましくは30セル/cm以上である。セル密度は、例えば200セル/cm以下であり、好ましくは150セル/cm以下である。図1では、セル23の大きさを実際よりも大きく、セル23の数を実際よりも少なく描いている。セル23の大きさおよび数等は、様々に変更されてよい。
【0026】
多孔質複合体1がGPFとして用いられる場合、長手方向における多孔質複合体1の一端側(すなわち、図2中の左側)を入口とし、他端側を出口として、多孔質複合体1の内部を排ガス等のガスが流れる。また、多孔質複合体1の複数のセル23のうち、一部の複数のセル23において、入口側の端部に目封止部24が設けられ、残りの複数のセル23において、出口側の端部に目封止部24が設けられる。
【0027】
図1は、多孔質複合体1の入口側を描いている。また、図1では、図の理解を容易にするために、入口側の目封止部24に平行斜線を付している。図1に示す例では、入口側に目封止部24が設けられたセル23と、入口側に目封止部24が設けられていないセル23(すなわち、出口側に目封止部24が設けられたセル23)とが、図1中の縦方向および横方向において交互に配列される。
【0028】
捕集層3は、基材2の表面上に膜状に形成される。図2に示す例では、捕集層3は、出口側に目封止部24が設けられた複数のセル23内に設けられ、当該複数のセル23の内側面(すなわち、隔壁22の表面)を被覆する。図2では、捕集層3を太線にて示す。捕集層3は、当該複数のセル23内において、出口側の目封止部24の内面も被覆する。一方、入口側に目封止部24が設けられた複数のセル23内には、捕集層3は設けられない。捕集層3は、例えば、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスにより形成される。捕集層3は、SiC以外のセラミックス(例えば、酸化セリウム(CeO))により形成されてもよく、セラミックス以外の材料により形成されてもよい。
【0029】
捕集層3の気孔率は、例えば60%以上であり、好ましくは70%以上である。捕集層3の気孔率は、例えば95%以下であり、好ましくは90%以下である。捕集層3の膜厚は、6μm以上である。捕集層3の膜厚は、好ましくは8μm以上であり、より好ましくは10μm以上である。捕集層3の膜厚は、例えば100μm以下であり、好ましくは70μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。
【0030】
捕集層3の膜厚は、3D形状測定機により測定可能である。具体的には、まず、多孔質複合体1を、複数のセル23を含む長手方向に平行な断面にて切断し、当該断面を3D形状測定機(株式会社キーエンス製のワンショット3D形状測定機VR-3200)により撮像する。図3は、3D形状測定機により得られた画像を模式的に示す図である。当該画像では、7つのセル23が点対称かつ左右線対称となるように含まれている。当該7つのセル23のうち中央のセル23、および、中央のセル23から左右方向において2つ目のセル23には、捕集層3が設けられている。図3では、図の理解を容易にするために、捕集層3に平行斜線を付す。また、図3では、隔壁22上の捕集層3の断面を太線にて示す。
【0031】
続いて、7つのセル23のうち、左右両端のセル23を除く5つのセル23において、各セル23の左右方向の中央部における平均高さが、上述の3D形状測定機により測定される。3D形状計測機により測定される当該中央部の左右方向の幅は、セル23の左右方向の幅の約1/3である。当該5つのセル23には、捕集層3が設けられた3つのセル23と、捕集層3が設けられていない2つのセル23が含まれる。そして、捕集層3が設けられた3つのセル23の平均高さの平均値から、捕集層3が設けられていない2つのセル23の平均高さの平均値が減算されることにより、捕集層3の膜厚が求められる。
【0032】
捕集層3の膜厚は、例えば、セル23の長手方向の中央部において測定される。あるいは、セル23の長手方向の中央部、上部および下部において測定された膜厚の平均値が、捕集層3の膜厚とされてもよい。
【0033】
図2中の矢印A1にて示すように、多孔質複合体1内に流入するガスは、入口側が封止されていないセル23の入口から当該セル23内に流入し、当該セル23から捕集層3および隔壁22を通過して、出口側が封止されていないセル23へと移動する。このとき、捕集層3においてガス中の粒子状物質が効率良く捕集される。
【0034】
次に、多孔質複合体1の製造方法の一例について、図4を参照しつつ説明する。多孔質複合体1が製造される際には、まず、基材2の筒状外壁21の外側面が、不透液性のシート部材により覆われる。例えば、不透液性のフィルムが、筒状外壁21の外側面の略全面に亘って巻き付けられる。
【0035】
続いて、捕集層3を形成するための原料スラリーが準備される(ステップS11)。原料スラリーは、捕集層3の原料である粒子(以下、「捕集層粒子」と呼ぶ。)、造孔剤の粒子、および、凝集剤等を水に加えて混合することにより調製される。捕集層粒子は、例えば、SiCの粒子である。原料スラリーは、捕集層粒子および造孔剤粒子等が凝集した粒子(以下、「凝集粒子」と呼ぶ。)を含む。原料スラリーが調製される際には、凝集粒子の粒径が基材2の平均細孔径よりも大きくなるように、凝集剤の種類や添加量等が決定される。これにより、後述するステップS12において、凝集粒子が基材2の細孔に浸入することが防止または抑制される。原料スラリーの粘度は、例えば、2mPa・s~30mPa・sである。
【0036】
次に、基材2の複数のセル23のうち、捕集層3が形成される予定の複数のセル23に対して、当該複数のセル23の入口(すなわち、目封止部24が設けられていない方の端部)から原料スラリーが供給される(ステップS12)。原料スラリー中の水は、基材2の隔壁22を透過して隣接するセル23へと移動し、当該隣接するセル23の目封止部24が設けられていない方の端部から、基材2の外部へと流出する。原料スラリー中の凝集粒子は、隔壁22を通過することなく、原料スラリーが供給されたセル23の内面に付着する。これにより、基材2の所定のセル23の内面に凝集粒子が略均等に付着した中間体が形成される。
【0037】
所定量の原料スラリーの供給が終了すると、水分が流出した中間体が乾燥される(ステップS13)。例えば、中間体は、室温で22時間乾燥された後、80℃で24時間加熱されることにより、さらに乾燥される。その後、中間体が焼成されることにより、基材2上に付着した多数の凝集粒子中の捕集層粒子が結合して基材2表面上に広がり、多孔質の捕集層3が形成される(ステップS14)。当該焼成工程では、捕集層3に含まれている造孔剤粒子が、燃焼除去されることにより、捕集層3に小孔が形成される。
【0038】
図5は、多孔質複合体1において、捕集層3が形成されたセル23の内側面を示すSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。換言すれば、図5は、捕集層3の表面のSEM画像である。図5のSEM画像は、倍率1000倍にて拡大された画像である。図5中において一部を太線にて囲んで示すように、捕集層3は、複数の小孔32を備える。小孔32は、上述のように、主に造孔剤粒子が燃焼除去されることにより形成された気孔である。SEM画像上にて測定される小孔32の直径は、例えば、3μm以上かつ20μm以下である。
【0039】
捕集層3は、また、図5中において一部に平行斜線を付して示すように、小孔32よりも大きい複数の大孔31を備える。図5のSEM画像に示すように、複数の大孔31のそれぞれからは、基材2の表面が露出している。基材2の表面が露出している状態とは、捕集層3の表面のSEM画像において、基材2を構成する骨材、または、基材2の表面開口が、捕集層3に被覆されておらず視認可能である状態を指す。
【0040】
大孔31は、上述のステップS14の焼成工程において、複数の捕集層粒子が基材2の表面上に広がりつつ(すなわち、基材2の表面を被覆しつつ)互いに結合する際に、捕集層粒子により被覆されずに残った領域である。なお、大孔31は、ステップS12において基材2の表面に付着した粒子の層が、ステップS14の焼成工程よりも前に、何らかの原因により基材2から比較的広範囲に亘って剥離することにより形成された非付着領域とは異なる。
【0041】
SEM画像上にて測定される各大孔31の直径は、例えば、6μm以上かつ50μm以下である。大孔31の直径とは、大孔31から露出する基材2の露出領域26の直径である。各露出領域26の周囲長は、例えば、18μm以上かつ500μm以下である。各露出領域26の面積は、例えば、25μm以上かつ2000μm以下である。露出領域26の面積とは、大孔31から露出している領域において、基材2の表面開口(すなわち、細孔)が埋まっていると仮定した場合の基材2の露出面積である。
【0042】
捕集層3では、基材2の表面上において隣接する複数の大孔31がつながって1つの大孔31と捉えられる場合、当該1つの大孔31における露出領域26の直径、周囲長および面積は、上記範囲よりも大きくなる。また、捕集層3では、大孔31よりも直径等が大きい気孔であっても、当該気孔から基材2が露出していない場合、当該気孔は大孔31とは捉えられない。
【0043】
多孔質複合体1では、捕集層3が形成されている各セル23において、各大孔31から露出する露出領域26の面積の合計(すなわち、複数の露出領域26の合計面積)は、捕集層3の全面積の1%以上かつ50%以下である。各セル23における捕集層3の全面積とは、当該捕集層3に含まれる複数の大孔31が埋まっていると仮定した場合における捕集層3の表面全体の平面視における面積である。各セル23における複数の露出領域26の合計面積は、捕集層3の全面積の10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。また、各セル23における複数の露出領域26の合計面積は、捕集層3の全面積の50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。
【0044】
多孔質複合体1では、捕集層3上の複数の任意位置において、捕集層3の表面をSEMにより1000倍に拡大して撮像した場合、撮像された複数枚の拡大画像のうち90%以上の枚数の拡大画像に、複数の大孔31のうち一部の大孔31が含まれる。当該拡大画像の視野面積は、11000μm~13000μmであり、例えば12048μmである。当該拡大画像は、例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製のSEM「S-3400N」により取得される。
【0045】
上述の90%以上の拡大画像(すなわち、大孔31を含む拡大画像)のそれぞれに含まれる大孔31の数は、例えば、1以上かつ8以下である。なお、拡大画像中の大孔31の数を求める際には、一部のみが拡大画像に含まれている大孔31についても、全体が拡大画像に含まれている大孔31と同様に、1つと数える。
【0046】
次に、捕集層3の小孔32を検出する方法の一例について説明する。図6は、捕集層3の表面のSEM画像である。図6のSEM画像は、倍率1000倍にて拡大された画像である。小孔32を検出する際には、まず、当該SEM画像から、太線の矩形にて囲むように、大孔31を含まない領域を抽出する。続いて、当該領域(以下、「注目領域」と呼ぶ。)に対して画像解析ソフトを用いて画像処理を行う。画像解析ソフトとしては、例えば、株式会社日本ローパー製の画像解析ソフト「Image-Pro ver. 9.3.2」が利用される。
【0047】
上記画像処理では、まず、「処理¥2Dフィルタ」のぼかし100%処理を行い、「処理¥2Dフィルタ¥モフォロジカル」のWatershed16近傍処理を行う。続いて、「処理¥2Dフィルタ¥モフォロジカル」の膨張5×5円処理を5回繰り返す。次に、図7に示すように注目領域を2値化する。その後、図7の注目領域において、所定範囲の大きさの黒色領域をカウントさせることにより、注目領域に含まれる小孔32の数を取得することができる。
【0048】
図8は、多孔質複合体1の捕集層3および基材2の断面を模式的に示す断面図である。図8では、基材2の細孔、および、捕集層3の大孔31および小孔32以外の細孔の図示を省略している。また、図8では、捕集層3により捕集された粒子状物質の層(以下、「粒子状物質層91」と呼ぶ。)も併せて示す。図8に示すように、粒子状物質層91は、捕集層3の上面35(すなわち、基材2とは反対側の表面)に接触する。また、粒子状物質層91は、捕集層3に設けられた大孔31の内部において、大孔31の側面36にも接触する。なお、図8では、小孔32が捕集層3の内部のみに存在し、捕集層3の上面35には存在しない領域の断面を示している。
【0049】
大孔31の側面36とは、捕集層3の上面35における大孔31の周縁と、基材2の露出領域26の周縁との間の略筒状の領域である。換言すれば、大孔31の側面36は、露出領域26の周縁から、捕集層3の表面に沿って基材2から離れる方向に延びる略筒状の仮想面である。図8に示す例では、大孔31の側面36は、捕集層3と基材2との界面25から離れるに従って径が大きくなる(すなわち、露出領域26の周縁から径方向外方へと離れる)傾斜面である。
【0050】
捕集層3では、大孔31が設けられることにより、捕集層3と粒子状物質層91との接触可能面積が増加する。捕集層3では、複数の大孔31による当該接触可能面積の増加率は、例えば1%以上であり、好ましくは4%以上である。また、当該増加率は、例えば75%以下であり、好ましくは73%以下である。
【0051】
捕集層3が形成されている各セル23において、複数の大孔31による接触可能面積の増加率は、複数の大孔31による接触可能面積の増加量を、捕集層3の全面積で除算することにより求められる。各セル23における捕集層3の全面積とは、当該捕集層3に含まれる複数の大孔31が埋まっていると仮定した場合における捕集層3の表面全体の平面視における面積である。大孔31による接触可能面積の増加量は、大孔31の側面36の面積から、当該大孔31により減少した捕集層3の上面35の面積を減算することにより求められる。大孔31の側面36の面積は、捕集層3と基材2との界面25に垂直な法線に対する当該側面36の傾斜角θが30度であると仮定して算出する。
【0052】
捕集層3に大孔31が存在することを確認する場合、必ずしも、捕集層3の表面のSEM画像を目視して、基材2が露出している領域を抽出する必要はなく、他の方法により大孔31の存在が確認されてもよい。例えば、大孔31の有無の確認は、図9に例示する捕集層3および基材2の断面のSEM画像に対する画像解析により行われてもよい。図9のSEM画像は、倍率500倍にて拡大された画像である。図9中では、基材2の上側に捕集層3が位置する。当該画像に対する画像解析は、例えば、上述の画像解析ソフト「Image-Pro ver. 9.3.2」を利用して行うことができる。
【0053】
図9のSEM画像を用いて大孔31の有無を確認する際には、まず、当該SEM画像の捕集層3が存在する領域に、複数の検査領域81が設定される。複数の検査領域81は、捕集層3と基材2との界面25に沿う配列方向(すなわち、図9中の略左右方向)に等間隔にて配列される。各検査領域81は、略矩形の領域である。各検査領域81の左右方向の幅は1μmであり、上下方向の長さは20μmである。複数の検査領域81の配列方向におけるピッチは、10μmである。各検査領域81の下端の上下方向の位置は、捕集層3と基材2との界面25の上下方向の位置と略同じである。
【0054】
続いて、各検査領域81において、検査領域81に含まれる捕集層粒子の面積(すなわち、2値化された図9に示す画像において、検査領域81に含まれる白色画素の合計面積)が求められる。検査領域81に含まれる捕集層粒子の面積が0μmである場合、当該検査領域81が設定された位置において、基材2上に捕集層3は存在しない。そして、捕集層粒子の占有面積が0μmである検査領域81が、上述の配列方向において2つ以上連続する場合、当該2つ以上の検査領域81が設定されている領域に、基材2が露出する大孔31が存在していると判断される。例えば、図9に例示するSEM画像では、左から4番目~6番目の検査領域81が設定される位置に、大孔31が存在すると判断される。
【0055】
また、図9のSEM画像では、検査領域81に含まれる捕集層粒子の面積が、例えば、検査領域81の全面積の0%よりも大きく、かつ、10%未満である場合、当該検査領域81が設定された位置において、捕集層3に小孔32が存在する、と判断してもよい。
【0056】
次に、表1~表2を参照しつつ本発明に係る多孔質複合体1の実施例1~7、および、当該多孔質複合体1と比較するための比較例1の多孔質複合体について説明する。表1に示す実施例1~3の多孔質複合体1では、捕集層3はSiCを材料として形成されている。比較例1の多孔質複合体においても同様に、捕集層はSiCを材料として形成されている。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例1~3の捕集層3、および、比較例1の捕集層の膜厚はそれぞれ、16μm、28μm、30μmおよび45μmであった。当該膜厚は、上述の3D形状測定機を用いる方法により測定した。また、表1中の膜厚は、長さ120mmの多孔質複合体1において、長手方向の中央部(上端から63mmの位置)、上部(上端から25mmの位置)、および、下部(下端から25mmの位置)のそれぞれについて2箇所ずつ測定された膜厚の平均値である。
【0059】
実施例1~3の多孔質複合体1は、上述のステップS11~S14の製造方法により製造した。ステップS11では、水1564.13gに対して、分散剤1.18g、カーボンブラック4.73g、SiC21.17g、グラファイト14.85g、凝集剤1.42g、ポリマー凝集剤1.31g、および、粘度調製用ポリマー525gを加え、計2100mL(ミリリットル)のスラリーを得た。上記SiCの平均粒径は、2.9μmであった。そして、当該スラリーを250μmの篩に通し、凝集粒子の粒径が約13μmである原料スラリーを得た。その後、ステップS12において、上述の膜厚を実現するために必要な量の原料スラリーを基材2に供給して、上記中間体を形成した。基材2の平均細孔径は12μmであり、気孔率は48%である。
【0060】
ステップS13では、当該中間体を室温にて送風しつつ12時間乾燥させ、さらに、80℃の乾燥機内において12時間乾燥させた。ステップS14では、1200℃にて2時間焼成を行うことにより、基材2上に捕集層3を形成した。比較例1の多孔質複合体も同様の方法で形成した。なお、捕集層3の所望の膜厚を実現するための原料スラリーの量が不足する場合、上述の割合と同様の割合にて原料スラリーを生成した。
【0061】
実施例1~3の多孔質複合体1では、捕集層3に大孔31が形成された。表1中の大孔31の数は、捕集層3の表面をSEMにより1000倍に拡大して撮像した画像(視野面積12048μm)中に含まれる大孔31の数である。表1では、長さ127mmの多孔質複合体1において、長手方向の上述の中央部、上部および下部のそれぞれについて2箇所ずつ取得された6つのSEM画像における大孔31の数の平均値を示す。後述する表2においても同様である。実施例1~3の多孔質複合体1では、長手方向の上述の中央部、上部および下部のそれぞれに大孔31が存在する。一方、比較例1の多孔質複合体では、捕集層に大孔は形成されなかった。
【0062】
実施例1~3の露出領域26の直径分布は、上述の6つのSEM画像における分布である。なお、実施例1では、一部のみがSEM画像に含まれている露出領域26が存在したため、実施例1の露出領域26の直径分布の最大値は、表1中の数値よりも大きい可能性がある。また、露出領域26の平均直径、合計周囲長および合計面積は、当該6つのSEM画像において測定された測定値の平均値である。露出領域26の面積割合は、露出領域26の上記合計面積を、捕集層3の上述の全面積(すなわち、視野面積12048μm)により除算して求めた。実施例1~3の接触可能面積は、露出領域26の各特性に基づいて既述の方法により算出した。また、接触可能面積の増加率は、接触可能面積からSEM画像の視野面積12048μmを減算した結果を、当該視野面積により除算して求めた。
【0063】
実施例1~3の燃焼開始温度は、以下の方法により求めた。まず、多孔質複合体1の捕集層3が設けられているセル23に、ススを1g/L(リットル)堆積させる。続いて、当該多孔質複合体1を切断し、ススが堆積している切断片(すなわち、試料)を集めてTPD-MS(加熱発生ガス分析)装置にて測定を行った。TPD-MS装置では、所定の昇温プログラムに従って加熱された試料から発生する気体の濃度変化を測定した。そして、一酸化炭素(CO)の検出ピークにベースラインを設定し、その面積の20%に達した温度を、ススの酸化が生じた温度(以下、「燃焼開始温度」と呼ぶ。)とした。比較例1の燃焼開始温度においても同様である。
【0064】
図10では、接触可能面積の増加率と燃焼開始温度との関係を示す。図10に示すように、捕集層3と粒子状物質層91との接触可能面積の増加率が増大するに従って、燃焼開始温度は低下した。すなわち、捕集層3と粒子状物質層91との接触可能面積が増加するに従って、捕集層3による粒子状物質の酸化が促進されることが分かる。
【0065】
実施例1~3の多孔質複合体1では、多孔質複合体1を通過するガス中の粒子状物質の捕集率は、80%以上であった。比較例1の多孔質複合体においても同様に、多孔質複合体を通過するガス中の粒子状物質の捕集率は、80%以上であった。
【0066】
表2に示す実施例4の多孔質複合体1では、捕集層3はSiCを材料として形成されている。また、実施例5~7の多孔質複合体1では、捕集層3はCeOにより形成されている。実施例5~7では、原料スラリーに含まれるCeOの平均粒子径が異なる。実施例4~7の捕集層3の膜厚はそれぞれ、30μm、26μm、27μmおよび29μmであった。当該膜厚は、上述の表1における膜厚と同様の方法により求めた。実施例4の多孔質複合体1は、上述の実施例1~3と同様の製造方法により製造した。
【0067】
【表2】
【0068】
実施例5~7の多孔質複合体1も、上述のステップS11~S14の製造方法により製造した。ステップS11では、水1564.13gに対して、分散剤1.18g、カーボンブラック4.73g、CeO50.61g、グラファイト14.85g、凝集剤1.42g、ポリマー凝集剤1.31g、および、粘度調製用ポリマー525gを加え、計2100mLのスラリーを得た。そして、当該スラリーを250μmの篩に通し、凝集粒子の粒径が約13μmである原料スラリーを得た。その後、ステップS12において、上述の膜厚を実現するために必要な量の原料スラリーを基材2に供給して、上記中間体を形成した。
【0069】
ステップS13では、当該中間体を室温にて送風しつつ22時間乾燥させ、さらに、80℃の乾燥機内において24時間乾燥させた。ステップS14では、1200℃にて2時間焼成を行うことにより、基材2上に捕集層3を形成した。なお、捕集層3の所望の膜厚を実現するための原料スラリーの量が不足する場合、上述の割合と同様の割合にて原料スラリーを生成した。
【0070】
実施例4~7の多孔質複合体1では、捕集層3に大孔31が形成された。また、実施例4~7の大孔31の数は、4~5個である。大孔31の数の求め方は、実施例1~3と同様である。実施例4~7により、SiC以外の材料により形成された捕集層3にも大孔31を生成可能であることが分かる。また、原料スラリー中のCeOの平均粒子径が異なる場合であっても、大孔31の生成個数にあまり影響は生じないことが分かる。
【0071】
以上に説明したように、多孔質複合体1は、多孔質の基材2と、基材2上に形成された多孔質の捕集層3と、を備える。捕集層3の膜厚は、6μm以上である。捕集層3は、それぞれから基材2の表面が露出する複数の大孔31を備える。複数の大孔31の各大孔31から露出する基材2の露出領域26の面積の合計は、捕集層3の全面積の1%以上かつ50%以下である。これにより、多孔質複合体1による粒子状物質の好適な捕集効率を実現することができるとともに、粒子状物質と捕集層3との接触可能面積を増加させることができる。その結果、多孔質複合体1により捕集された粒子状物質の酸化を促進することができ、当該粒子状物質の燃焼開始温度を低くすることができる。
【0072】
上述のように、各大孔31から露出する基材2の露出領域26の周囲長は、18μm以上かつ500μm以下であることが好ましい。これにより、捕集層3に極端に大きい孔(例えば、捕集層3の形成時等に剥離により形成される孔)が存在する場合と異なり、多孔質複合体1の好適な捕集効率を維持することができる。また、露出領域26による接触可能面積の減少が極端に大きくなることを防止し、粒子状物質と捕集層3との接触可能面積を効率良く増加させることができる。
【0073】
多孔質複合体1では、捕集層3の粒子状物質との接触可能面積について、複数の大孔31による増加率は、1%以上かつ75%以下であることが好ましい。当該増加率を1%以上とすることにより、多孔質複合体1により捕集された粒子状物質の酸化を好適に促進することができる。また、当該増加率を75%以下とすることにより、大孔31の数が多くなって多孔質複合体1の捕集効率が減少することを抑制し、多孔質複合体1の好適な捕集効率を維持することができる。
【0074】
上述のように、捕集層3上の複数の任意位置において捕集層3の表面をSEMにより1000倍に拡大して撮像した複数の拡大画像のうち、90%以上の拡大画像に複数の大孔31の一部が含まれることが好ましい。これにより、多孔質複合体1の捕集効率の維持と、粒子状物質と捕集層3との接触可能面積の増大とを、好適に両立させることができる。より好ましくは、当該90%以上の拡大画像にそれぞれ含まれる大孔31の数は、1以上かつ8以下である。これにより、多孔質複合体1の捕集効率の維持と、粒子状物質と捕集層3との接触可能面積の増大とを、さらに好適に両立させることができる。
【0075】
多孔質複合体1では、捕集層3の複数の大孔31を除いた領域に、直径3μm以上かつ20μm以下の気孔(すなわち、小孔32)を有することが好ましい。これにより、大孔31が存在しない領域においても、捕集層3による圧力損失を抑制することができる。また、捕集層3に小孔32と大孔31とを設けることにより、多孔質複合体1による粒子状物質の好適な捕集効率、粒子状物質と捕集層3との接触可能面積の増大、および、捕集層3による圧力損失の抑制を、同時に実現することができる。
【0076】
上述の多孔質複合体1では、好ましくは、基材2は、内部が隔壁22により複数のセル23に仕切られたハニカム構造を有し、複数のセル23のうち少なくとも一部のセル23の内側面は、捕集層3により被覆される。当該構造を有する多孔質複合体1によれば、粒子状物質の好適な捕集と圧力損失の抑制とを両立させることができる。また、上述のように、多孔質複合体1によれば、粒子状物質の好適な捕集効率を実現することができるとともに、粒子状物質と捕集層3との接触可能面積を増加させて粒子状物質の燃焼開始温度を低くすることができる。したがって、多孔質複合体1は、ガソリンエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するGPFに特に適している。
【0077】
多孔質複合体1において、粒子状物質の好適な捕集効率の実現と、粒子状物質と捕集層3との接触可能面積の増加とを両立させるためには、必ずしも、上述のSEM画像にて大孔31が検出された捕集層3を有する必要はない。例えば、以下の特徴を有する捕集層3が設けられた多孔質複合体1においても、同様の効果を奏する。
【0078】
当該特徴は、次の通りである。捕集層3の膜厚は、6μm以上である。また、SEMにより500倍に拡大して撮像した捕集層3および基材2の断面写真において、捕集層3と基材2との界面25に垂直な複数の直線を界面に沿って等間隔にて配列し、捕集層3を示す画素と重なる複数の重複直線の数を当該複数の直線の全数により除算した値は、50%以上かつ90%以下である。これにより、上記と同様に、多孔質複合体1による粒子状物質の好適な捕集効率を実現することができるとともに、粒子状物質と捕集層3との接触可能面積を増加させることができる。その結果、多孔質複合体1により捕集された粒子状物質の酸化を促進することができ、当該粒子状物質の燃焼開始温度を低くすることができる。
【0079】
具体的には、図9と同様のSEM画像において、複数の検査領域81に代えて、上下方向の長さが検査領域81と同程度の直線を、検査領域81よりも小さいピッチにて、検査領域81の数よりも多く、界面25に沿う配列方向(すなわち、図9中の略左右方向)に配列する。上述の複数の重複直線上には、捕集層3が存在するため、粒子状物質の好適な捕集効率を実現することができる。また、上記複数の直線から、当該複数の重複直線を除いた直線上には、捕集層3を構成する物質が存在しないと考えられるため、捕集層3の上下方向に延びる面と粒子状物質とが接触し、粒子状物質と捕集層3との接触可能面積を増加させることができる。
【0080】
この場合、当該複数の重複直線のうち捕集層3を示す画素との重なりが捕集層3の厚さの10%未満である重複直線の数を、上述の複数の直線の全数により除算した値は、30%以上であることが好ましい。これにより、捕集層3に上述の大孔31および小孔32を設ける場合と同様に、多孔質複合体1による粒子状物質の好適な捕集効率、粒子状物質と捕集層3との接触可能面積の増大、および、捕集層3による圧力損失の抑制を、同時に実現することができる。
【0081】
上述の多孔質複合体1では、様々な変更が可能である。
【0082】
捕集層3の表面のSEM画像における大孔31の数および存在確率、並びに、露出領域26の周囲長および大きさ等は、上述の範囲には限定されず、様々に変更されてよい。また、捕集層3と粒子状物質層91との接触可能面積の増加率も、上述の範囲には限定されず、様々に変更されてよい。
【0083】
多孔質複合体1の構造は、様々に変更されてよい。例えば、基材2から目封止部24が省略されてもよい。また、全てのセル23の内側面に、捕集層3が設けられてもよい。さらには、基材2は、必ずしもハニカム構造を有する必要はなく、内部が隔壁により仕切られていない単なる筒状や平板状等、他の形状であってもよい。
【0084】
多孔質複合体1の用途は、上述のGPFには限定されず、ディーゼル・パティキュレート・フィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)等の他のフィルタとして多孔質複合体1が用いられてもよい。あるいは、多孔質複合体1は、フィルタ以外の用途に用いられてもよい。
【0085】
多孔質複合体1の製造方法は、図4に例示するものには限定されず、様々に変更されてよい。例えば、ステップS12において、基材2への原料スラリーの供給方法は、様々に変更されてよい。また、捕集層3の原料の基材2への供給は、原料スラリーを用いる濾過方式には限定されず、ディップ方式、スプレー方式または乾式等、様々な方法により行われてよい。さらに、ステップS13における中間体の乾燥方法および乾燥時間、並びに、ステップS14における焼成温度および焼成時間等も、様々に変更されてよい。
【0086】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0087】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、粒子状物質を捕集するフィルタ、例えば、ガソリンエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するガソリン・パティキュレート・フィルタに利用可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 多孔質複合体
2 基材
3 捕集層
22 隔壁
23 セル
25 界面
26 露出領域
31 大孔
32 小孔
S11~S14 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10