(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】原子炉格納容器建屋使用済燃料貯蔵水プールフィルタ付きベント
(51)【国際特許分類】
G21C 9/004 20060101AFI20220627BHJP
G21C 19/07 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
G21C9/004
G21C19/07
(21)【出願番号】P 2020545222
(86)(22)【出願日】2018-11-01
(86)【国際出願番号】 US2018058607
(87)【国際公開番号】W WO2019103815
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-10-21
(32)【優先日】2017-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】フェララシオ、フランシス、ピー
(72)【発明者】
【氏名】イエーガー、ティモシー、ピー
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-209389(JP,A)
【文献】特開2005-181238(JP,A)
【文献】特表2009-513926(JP,A)
【文献】特開2014-44118(JP,A)
【文献】特表2014-517304(JP,A)
【文献】特表2015-514975(JP,A)
【文献】特表2015-522161(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0194226(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0103346(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 9/004
G21C 19/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉を収容し当該原子炉から漏出する放射線を閉じ込めるための格納容器(12)を備えた原子力発電施設であって、当該格納容器は、内部の雰囲気排出物の圧力が所定値を超えて上昇した場合に、当該格納容器内の雰囲気の上昇圧力を制御下で当該格納容器の周囲環境へ解放するための換気口(10)を有し、当該原子力発電施設(10)はまた、当該格納容器の外側に関連の使用済燃料貯蔵水プール(14)を有し、当該使用済燃料貯蔵水プールは当該換気口(10)からまたは当該換気口を経由して放出される汚染物質をろ過するためのフィルタシステム(16、26)を含み、当該フィルタシステムは、
当該格納容器(12)の内部から放出される雰囲気排出物が当該使用済燃料貯蔵水プール(14)の水を通過するように、当該格納容器の内部または当該換気口と当該使用済燃料貯蔵水プールとの間をつなぐ専用の配管系と、
当該放出される雰囲気排出物の放出を制御するために、当該専用の配管系に接続された1つ以上の弁(18、20)と、
当該使用済燃料貯蔵水プール(14)の中に化学薬品を放出して、当該放出される雰囲気排出物との反応を促進し、当該放出される雰囲気排出物が環境に及ぼす有害な影響を実質的に打ち消するように構成された化学薬品注入システム(22、24、26)と、
1つ以上の当該化学薬品注入システムおよび/または当該1つ以上の弁(18)に接続された制御システム(24)であって、当該化学薬品の放出および/または当該雰囲気排出物の放出を制御するように構成された制御システム(24)と
を具備することを特徴とする原子力発電施設。
【請求項2】
前記専用の配管系は前記使用済燃料貯蔵水プール(14)の水が前記格納容器(12)の中に吸い込まれるのを防ぐように構成された逆止弁(28)を含む、請求項1の原子力発電施設。
【請求項3】
前記制御システムは前記専用の配管系に設けられた手動で作動される遠隔操作弁(18)を含み、当該弁は作動されない限り通常運転時に前記雰囲気排出物を遮断して前記使用済燃料貯蔵水プール(14)へ流入しないように構成されていることを特徴とする、請求項1の原子力発電施設
【請求項4】
前記手動で作動される遠隔操作弁(18)は、前記専用の配管系において、前記格納容器(12)内の圧力が所与の圧力を超えたことが検知されると前記雰囲気排出物を前記使用済燃料貯蔵水プール(14)へ放出するように構成された受動弁(20)と並列に構成されている、請求項3の原子力発電施設。
【請求項5】
前記専用の配管系は、当該流出口(16)からスパージャ(16)を介して前記雰囲気排出物を前記使用済燃料貯蔵水プールへ放出する流出口(16)を前記使用済燃料水プール(14)の下部に有することを特徴とする、請求項1の原子力発電施設。
【請求項6】
前記化学薬品注入システム(20、24、26)は、前記使用済燃料貯蔵水プール(14)内の前記スパージャ(16)の直上に支持された化学薬品注入ヘッダ(26)を介して、前記化学薬品を前記使用済燃料水プールへ放出する、請求項5の原子力発電施設。
【請求項7】
前記化学薬品注入ヘッダ(26)および前記スパージャ(16)は前記使用済燃料貯蔵水プール(14)内において、前記使用済燃料貯蔵水プールに対する燃料の搬入および搬出に用いる高さ(30)よりも低いレベルに支持されることを特徴とする、請求項6の原子力発電施設。
【請求項8】
原子炉格納容器(12)内の雰囲気排出物を当該原子炉格納容器の周囲の大気中へ放出する方法であって、当該格納容器はその外側に関連の使用済燃料貯蔵水プール(14)を有し、当該方法は、
当該格納容器(12)内の圧力上昇を検知するステップと、
当該原子炉格納容器(12)内の上昇圧力が所定値に達したときに当該雰囲気排出物の一部を当該使用済燃料貯蔵水プール(14)へ差し向けるステップと、
当該放出される排出物が環境に及ぼす有害な影響を実質的に打ち消すように当該放出される排出物との反応を促進する化学薬品(22)を当該使用済燃料貯蔵水プール(14)へ放出するステップと
を含む方法。
【請求項9】
前記差し向けるステップと前記放出するステップをほぼ同時に行うステップを含む、請求項8の方法。
【請求項10】
前記差し向けるステップは、前記雰囲気排出物を使用済燃料貯蔵水プールの底部またはその近辺に支持されたスパージャ(16)を介して前記使用済燃料貯蔵水プール(14)の水中に注入するステップを含む、請求項8の方法。
【請求項11】
前記放出するステップでは、前記使用済燃料貯蔵水プールの前記底部近くの前記スパージャ(16)の直上の高さで、前記化学薬品(22)を前記使用済燃料貯蔵水プール(14)の水中に放出する、請求項10の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して原子炉格納容器システムに関し、具体的には、格納容器内の圧力上昇を、有害な汚染物質を放出することなく安全に低減するための原子炉格納容器換気ろ過システムに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの法域において、原子力発電所は、事故が起きた場合に放射性物質および希ガスの漏出を防ぐかまたは最小限に抑える仕組みが確実に機能することが設計の必要不可欠な条件である。放射能の放散を防ぐために、原子炉システムは一般的に、鋼および鉄筋コンクリート製の一次格納容器構造体に収容される。一次格納容器は、さまざまな想定事故シナリオで生じる高い圧力に耐えられるように設計される。しかし、十分に過酷な想定シナリオの場合、次第に圧力が高まることで格納容器本体が破損する可能性がある。そのような事象が起こる確率は非常に低いと考えられるが、かかる事象に伴う放射性物質の放出に周辺住民が曝される健康リスクが存在するため、格納容器を制御下で換気しガスをろ過して放射能の放散を最小限に抑える仕組みが必要である、と多くの人が考えるようになった。すなわち、格納容器の圧力を解放する装置と、格納容器から放出されるガスを大気への放出前にろ過する仕組みの両方を提供することが望ましい。
【0003】
1986年にウクライナのチェルノブイリで起きた原子力事故、さらには2011年に日本の福島第一原子力発電所で起きた事故は、減衰時間の長い核分裂生成物の放出により何が起きるかを明確に示している。これらの事故を受けて、多くの国の政府は、住民および周辺の土地を放射能汚染の被害から防護するために、原子力発電所にフィルタ付き格納容器換気系を設置する必要があると判断している。
【0004】
これまでに、Leachに付与され、本発明の譲受人に譲渡された米国特許第4,610,840号に記述されたろ過システムなど多数のろ過システムが提案されている。Leachは、原子炉向け核分裂生成物洗浄装置を開示している。詳説すると、格納容器と流体連通関係にある第2のコンパートメントの一部を水で満たし、第2のコンパートメントから延びる換気管内に配置した破裂板が、圧力が大幅に上昇すると破裂して、圧力を解放させるようにする。破裂板が破裂すると、格納容器からの放射性ガスおよび蒸気は、水を満たした第2のコンパートメントを通過したあと、開通した換気管から放出される。また、格納容器の高温ガスおよび蒸気が密閉された第2のコンパートメント内の水中を通過するあいだに、大部分の核分裂生成物が当該ガスから洗い流される。そのようなシステムは効果的かもしれないが、かかるシステムの小型化と、そうした放射性物質放出による被ばくを最小限に抑えるシステムの有効性の向上とにはなお改善の余地がある。本発明の譲受人に譲渡された米国特許第9,502,144号は、そのような改善が施されたフィルタシステムを記述しているが、その実装には依然として有意な投資が必要である。したがって、格納容器雰囲気から外部環境への放出物を効果的にろ過するシステムであって、その実装に要する投資額を実質的に低減できるろ過システムが望まれる。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、原子炉を収容し当該原子炉から漏出する放射線を閉じ込めるための格納容器を有する原子力発電施設用のフィルタ付きベントシステムを提供する。当該格納容器は、内部の雰囲気排出物の圧力が上昇して所定値を超えると、当該格納容器内雰囲気の上昇圧力を当該格納容器の周囲環境へ制御下で解放するための換気口を有する。当該原子力発電施設はまた、当該格納容器の外側に関連の使用済燃料貯蔵水プールを具備するが、当該使用済燃料貯蔵水プールは当該換気口から、または当該換気口を経由して放出される汚染物質をろ過するためのフィルタシステムを含む。当該フィルタシステムは、当該格納容器の内部から放出される雰囲気排出物が当該使用済燃料貯蔵水プールの水を通過するように、当該格納容器の内部または当該換気口と当該使用済燃料貯蔵水プールとの間をつなぐ専用の配管系を含む。当該フィルタシステムはまた、当該放出される雰囲気排出物の放出を制御するために、当該専用の配管系に接続された1つ以上の弁と、当該使用済燃料貯蔵水プールへ化学薬品を放出することにより、当該放出される雰囲気排出物との反応を促進して、当該放出される雰囲気排出物が環境に及ぼす有害な影響を実質的に打ち消すように構成された化学薬品注入システムとを含む。当該化学薬品の放出および/または当該雰囲気排出物の放出を制御するように構成された制御システムが、1つ以上の当該化学薬品注入システムおよび/または当該1つ以上の弁に接続されている。
【0006】
一実施態様において、当該専用の配管系は、使用済燃料貯蔵水プールの水が当該格納容器の中に吸い込まれるのを防ぐように構成された逆止弁を含む。好ましくは、当該制御システムは、当該専用の配管系に設けられた手動で作動される遠隔操作弁を含み、当該弁は、作動されない限り通常運転時に当該専用の換気用配管を遮断するように構成されている。好ましくは、このような構成の遮断弁は当該格納容器建屋の外側に配置され、格納容器建屋を貫通する配管の遮断に関する規制要件を満足する。当該手動で作動される遠隔操作弁は、当該専用の配管系において、当該格納容器内の圧力が所与の圧力を超えることが検知された場合に当該雰囲気排出物を当該使用済燃料貯蔵水プールへ放出するように構成された受動弁と並列につながる構成である。
【0007】
別の実施態様において、当該専用の配管系は、当該流出口からスパージャを介して当該雰囲気排出物を当該使用済燃料貯蔵水プールへ放出する流出口を当該使用済燃料貯蔵水プールの下部に有する。当該化学薬品注入システムは、当該使用済燃料貯蔵水プール内の当該スパージャの直上に支持された化学薬品注入ヘッダを介して、当該化学薬品を当該使用済燃料貯蔵水プールへ放出するのが好ましい。当該化学薬品注入ヘッダおよび当該スパージャは、当該使用済燃料貯蔵水プール内において、当該使用済燃料貯蔵水プールに対する燃料の搬入および搬出に使用される領域より下方に支持されることが望ましく、当該水プールを介して放出される排出物の通過時間が最大になるようにできるだけ低い位置に配置するのが好ましい。
【0008】
本発明はまた、当該原子炉格納容器内の圧力上昇を検知するステップを含む、かかるフィルタシステムの作動方法も企図する。この方法は、当該原子炉格納容器内の上昇圧力が所定値に達したときに当該雰囲気排出物の一部を当該使用済燃料貯蔵水プールへ差し向けるステップと、当該放出される排出物が環境に及ぼす有害な影響を実質的に打ち消すように当該放出される排出物との反応を促進する化学薬品を当該使用済燃料貯蔵水プールへ放出するステップとを含む。当該差し向けるステップおよび当該放出するステップはほぼ同時に行われ、当該雰囲気排出物は、当該使用済燃料貯蔵水プールの底部またはその近辺に支持されたスパージャを介して当該使用済燃料貯蔵水プールの水中に注入されるのが好ましい。当該放出するステップでは、当該使用済燃料貯蔵水プールの当該底部近くの当該スパージャの直上の高さの水中に当該化学薬品を放出するのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明の詳細を、好ましい実施態様を例にとり、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0010】
【
図1】本発明に基づく原子炉格納建屋の使用済燃料貯蔵水プールフィルタ付きベントを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、湿式フィルタ付きベントろ過タンクを増設することなく、米国特許第9,502,144号に記述されているような湿式フィルタ付きベントの発明思想を有効利用するために配管、弁、制御論理および化学薬品注入系を特定用途向けに設計したものである。本発明の一実施態様を示す
図1は、原子炉格納容器および隣接する使用済燃料貯蔵水プールの一部の概略図である。本発明は、格納容器12の内部圧力を、換気管10を使用し、特別設計のスパージャ(または既存の使用済燃料貯蔵水プール冷却系スパージャ)16を介して、プラントの既存の使用済燃料貯蔵水プール14へ差し向けることにより、解放する。換気管の遮断は、プラント運転員による手動操作で開位置への制御が可能な従来型の遠隔操作弁18によってなされる。運転員の操作ミスや遮断弁18の機械的故障が起きた場合には、受動的圧力逃し弁20を有する代替バイパス系がある。格納容器内で所定の圧力が検知された場合に、このバイパス系が受動的圧力逃し装置である弁20を自動的に開く。
【0012】
汚染されたエアロゾルの放出物は、使用済燃料貯蔵水プール貯留液を介してろ過され、この貯留液に、受動的化学薬品注入系22を伴う従来型の湿式ろ過化学制御法による処理を施すことにより、ガス(例えばヨウ素、セシウム、キセノン)および核分裂生成物粒子が除去される。化学薬品のプール貯留液中への放出は、化学薬品注入系の遮断弁24を制御下で開くことにより、格納容器のプールへの換気(すなわち、換気遮断弁18または20を開く)と同時に行われる。化学薬品は、化学薬品注入ヘッダ26を介して、スパージャ流出口16の上方に直接注入される。化学薬品注入ヘッダおよびスパージャは、使用済燃料貯蔵水プール内のできるだけ低い位置に支持するのが好ましく、その位置は、燃料のプールへの搬入およびプールからの搬出に必要な作業位置よりも低いことが好ましい。化学薬品注入ヘッダ26は、スパージャ16の直上にそれを覆うように配置するのが好ましい。
【0013】
その結果プールに放出される核分裂生成物の崩壊熱エネルギーは、既存の使用済燃料貯蔵水プール冷却系によって除去される。使用済燃料貯蔵水プールの水面から放出されるエアロゾルは、通常の、または必要に応じて特別に補充した使用済燃料貯蔵水プール換気系を介して、使用済燃料建屋から排出される。使用済燃料貯蔵水プール内の液体が膨張しても余剰の貯留液がプールから押し出されるほどではなく、このため、換気遮断弁が閉じた後でも、使用済燃料集合体の使用済燃料を冠水状態で遮蔽する受け入れ可能な水位が保たれる。換気管中に逆止弁(受動的ダンパー)28を設けると、格納容器の真空時にプールの貯留液が格納容器内に吸い込まれるのを防ぐことができる。同様に、受動的真空破壊装置32により、格納容器が真空度の上限を超えないようにする。
【0014】
本発明の特定の実施態様について詳しく説明してきたが、当業者は、本開示書全体の教示するところに照らして、これら詳述した実施態様に対する種々の変更および代替への展開が可能である。一例として、固有の格納容器貫通部の設置を避けることができ、実施態様の別案として既存の燃料移送管30に本発明の装置を組み入れることができる。したがって、ここに開示した特定の実施態様は説明目的だけのものであり、本発明の範囲を何ら制約せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載の全範囲およびその全ての均等物を包含する。